(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081994
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】発電システムおよび制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/487 20070101AFI20240612BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240612BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20240612BHJP
H02P 101/10 20150101ALN20240612BHJP
H02P 103/10 20150101ALN20240612BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 R
H02M7/48 E
H02P9/04 A
H02P101:10
H02P103:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195649
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】児山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】金田 大成
(72)【発明者】
【氏名】石月 照之
(72)【発明者】
【氏名】森 淳二
【テーマコード(参考)】
5H590
5H770
【Fターム(参考)】
5H590AA01
5H590AB01
5H590CA11
5H590CC08
5H590CD01
5H590CD03
5H590CE01
5H590DD43
5H590EA07
5H590FA08
5H590FC12
5H590FC22
5H590FC25
5H590FC27
5H770BA01
5H770BA11
5H770CA02
5H770CA08
5H770DA03
5H770DA32
5H770EA01
5H770EA27
5H770JA17Z
(57)【要約】
【課題】中性点電位の変動を抑制してより広い運転領域で運転することが可能な発電システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る発電システムは、電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、インバータに接続される誘導発電機と、少なくとも誘導発電機のすべりに応じて、電力変換器の制御モードを、第1制御モードと、電力変換器の変調方式と電力系統への無効電力の出力方法との少なくとも一方が第1制御モードと異なる第2制御モードとの間で切り替える制御装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、
前記インバータに接続される誘導発電機と、
少なくとも前記誘導発電機のすべりに応じて、前記電力変換器の制御モードを、第1制御モードと、前記電力変換器の変調方式と前記電力系統への無効電力の出力方法との少なくとも一方が前記第1制御モードと異なる第2制御モードとの間で切り替える制御装置と、
を備える、発電システム。
【請求項2】
前記誘導発電機が、三相誘導発電機であり、
前記コンバータおよび前記インバータが、前記誘導発電機の相毎に設けられた複数の半導体スイッチング素子を含み、
前記制御装置は、前記第1制御モードでは前記複数の半導体スイッチング素子を1つの電圧指令値で制御し、前記第2制御モードでは前記複数の半導体スイッチング素子のうち前記電力変換器の中性点の上側に配置された上アーム半導体スイッチング素子と前記中性点の下側に配置された下アーム半導体スイッチング素子とを互いに異なる電圧指令値で制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1制御モードでは前記コンバータに前記電力系統から供給された有効電力を前記インバータに供給する直流電力に変換させ、前記第2制御モードでは前記コンバータから無効電力を出力させる、請求項1または2に記載の発電システム。
【請求項4】
前記すべりが許容範囲内であるときに、前記制御装置は前記第1制御モードで前記電力変換器を制御し、前記すべりが許容範囲外であるときに、前記制御装置は前記第2制御モードで前記電力変換器を制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項5】
前記電力系統の系統電圧および前記すべりが許容範囲内であるときに、前記制御装置は前記第1制御モードで前記電力変換器を制御し、前記系統電圧および前記すべりが許容範囲外であるときに、前記制御装置は前記第2制御モードで前記電力変換器を制御する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項6】
前記発電システムの運転モードが、無効電力を前記電力系統に出力する調相運転であるときに、前記制御装置は、前記電力変換器の制御モードを前記第1制御モードと前記第2制御モードとの間で切り替える、請求項1に記載の発電システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記第1制御モードの電圧指令値に、前記電力変換器の零相電圧を重畳する、請求項2に記載の発電システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記電力変換器の各相の電圧指令値の最小値に基づいて前記上アーム半導体スイッチング素子の電力指令値を計算するとともに、前記電力変換器の各相の電圧指令値の最大値に基づいて前記下アーム半導体スイッチング素子の電力指令値を計算する、請求項2に記載の発電システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第2制御モードで前記電力系統に出力する無効電力を、前記インバータの制御によって前記誘導発電機から出力される無効電力と、前記コンバータから出力される無効電力との合計として出力するよう制御する、請求項3に記載の発電システム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記コンバータから出力される無効電力を、前記誘導発電機から出力される無効電力よりも優先的に割り振る、請求項9に記載の発電システム。
【請求項11】
電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、前記インバータに接続される誘導発電機と、を備える発電システムに設けられる制御装置であって、
少なくとも前記誘導発電機のすべりに応じて、前記電力変換器の制御モードを、第1制御モードと、前記電力変換器の変調方式と前記電力系統への無効電力の出力方法との少なくとも一方が前記第1制御モードと異なる第2制御モードとの間で切り替える制御モード設定部と、
前記制御モード設定部で設定された前記第1制御モードまたは前記第2制御モードで、前記電力変換器を制御する駆動制御部と、
を備える制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発電システムおよび制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速な出力制御で電力系統の安定化に寄与する可変速揚水発電システムが、世界的に開発されて導入されている。可変速揚水発電システムには、誘導発電機の二次(回転子)巻線に二次励磁変換器を接続する二次励磁変換器方式が知られている。
【0003】
二次励磁変換器には、インバータおよびコンバータ等の電力変換器が設けられている。インバータは、誘導発電機の固定子巻線に励磁電流を供給する。一方、コンバータは、インバータの直流電圧を維持するよう動作する。
【0004】
電力変換器の回路構成として中性点クランプ型(NPC:Neutral Point Clamped)が採用される場合がある。中性点クランプ型では、誘導発電機30の相毎に6つの半導体スイッチング素子が設けられるとともに、電源電圧を分圧する2つのコンデンサが設けられる。中性点クランプ型の電力変換器では、2つのコンデンサ間における中性点の電位が変動する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7068015号公報
【特許文献2】特許第7005417号公報
【特許文献3】特許第7002985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中性点の電位変動が大きいと、電力変換器を構成する半導体スイッチング素子に定格を超える電圧が印加される場合がある。この場合、半導体スイッチング素子が破壊する恐れがある。その結果、中性点電位変動が小さくなる条件でしか運転できず、運転領域が限られてしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、中性点の電位変動を抑制してより広い運転領域で運転することが可能な発電システムおよび制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る発電システムは、電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータと、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換するインバータと、を有する中性点クランプ型の電力変換器と、インバータに接続される誘導発電機と、少なくとも誘導発電機のすべりに応じて、電力変換器の制御モードを、第1制御モードと、電力変換器の変調方式と電力系統への無効電力の出力方法との少なくとも一方が第1制御モードと異なる第2制御モードとの間で切り替える制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、中性点電位の変動を抑制してより広い運転領域で運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る発電システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】二次励磁変換器の回路構成の一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る発電システム1の動作手順を示すフローチャートである。
【
図4】中性点NPの電位変動を説明するための図である。
【
図5】系統電圧およびすべりの許容範囲の一例を示す図である。
【
図6】(a)は、第1実施形態の第1制御モードにおける変調方式を示し、(b)は、第1実施形態の第2制御モードにおける変調方式を示す。
【
図7】第2制御モードで二次励磁変換器を変調したときの中性点の電位変動の一例を示す図である。
【
図8】(a)は、第2実施形態の第1制御モードにおける有効電力の供給経路を示し、(b)は、第2実施形態の第2制御モードにおける無効電力の出力経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る発電システムの構成の一例を示すブロック図である。
図1に示す発電システム1は、二次励磁変換器10と、制御装置20と、誘導発電機30と、水車40と、変圧器50と、遮断器60と、を備える。この発電システム1は、水車40の回転で発電する可変速揚水発電システムである。ただし、本発明に係る発電システムは、可変速揚水発電システムを含む水力発電システムだけでなく、例えば風力発電システム等の他の発電システムにも適用できる。発電システム1が、風力発電システムである場合、風車が水車40の代わりに設置される。以下、発電システム1の構成について説明する。
【0013】
二次励磁変換器10は、中性点クランプ型の電力変換器の一例であり、インバータ11、コンバータ12、第1コンデンサ13a、第2コンデンサ13b、および変圧器14を有する。ここで、
図2を参照して二次励磁変換器10の回路構成について説明する。
【0014】
図2は、二次励磁変換器10の回路構成の一例を示す図である。
図12に示すインバータ11およびコンバータ12の回路構成は、中性点クランプ型である。具体的には、インバータ11は、誘導発電機30の各相に対応する3つの交流端子u1、v1、w1ごとに、6つ半導体スイッチング素子S
11~半導体スイッチング素子S
16を有する。各半導体素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。また、各半導体素子には、ダイオードが逆並列に接続されている。
【0015】
半導体スイッチング素子S11~半導体スイッチング素子S14は、高電位点Pと低電位点Nとの間で直列に接続されている。そのため、半導体スイッチング素子S11のコレクタ端子が直流端子として高電位点Pに接続され、半導体スイッチング素子S14のエミッタ端子が直流端子として低電位点Nに接続される。
【0016】
また、半導体スイッチング素子S15および半導体スイッチング素子S16は、直列に接続されている。このとき、半導体スイッチング素子S15と半導体スイッチング素子S16の接続点は、高電位点Pと低電位点Nとの中間に位置する中性点NPに接続される。さらに、半導体スイッチング素子S15および半導体スイッチング素子S16は、半導体スイッチング素子S12および半導体スイッチング素子S13に対して並列に接続されている。
【0017】
半導体スイッチング素子S
11~半導体スイッチング素子S
16の各々は、制御装置20から各素子のゲートに入力される信号に基づいてオンおよびオフする。これにより、直流端子に入力された直流電力が、交流電力に変換される。この交流電力は、交流端子u1、v1、w1から誘導発電機30に供給される。なお、半導体スイッチング素子S
11~S
16は、
図2では1つの半導体スイッチング素子として表記されているが、複数の半導体スイッチング素子を直列接続し、同一のゲート信号で駆動することで事実上1つの素子として動作させてもよい。また、インバータ11は、同じ回路が複数並列接続されて構成されていてもよい。
【0018】
一方、コンバータ12は、3つの交流端子u2、v2、w2ごとに、6つ半導体スイッチング素子S
21~半導体スイッチング素子S
26を有する。各半導体素子は、インバータ11と同様に、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。また、半導体スイッチング素子S
21~半導体スイッチング素子S
26の各々にもダイオードが逆並列に接続されている。半導体スイッチング素子S
21~半導体スイッチング素子S
26の接続形態は、インバータ11と同じである。半導体スイッチング素子S
21~半導体スイッチング素子S
26の各々も、制御装置20から各素子のゲートに入力される信号に基づいてオンおよびオフする。これにより、電力系統90から変圧器50を介して交流端子u2、v2、w2に入力された交流電力が、インバータ11の運転に必要な直流電力に変換される。なお、半導体スイッチング素子S
21~S
26は、
図2では1つの半導体スイッチング素子として表記されているが、複数の半導体スイッチング素子を直列接続し、同一のゲート信号で駆動することで事実上1つの素子として動作させてもよい。また、コンバータ12は、同じ回路が複数並列接続されて構成されていてもよい。
【0019】
第1コンデンサ13aは、高電位点Pと中性点NPとの間に接続される。第2コンデンサ13bは、中性点NPと低電位点Nとの間に接続される。第1コンデンサ13aおよび第2コンデンサ13bは、高電位点Pと中性点NPとの間における電源電圧VPNを、電圧Vpと電圧VNとに分圧する。
【0020】
図1に戻って、変圧器14はコンバータ12の入力側に接続される。変圧器14は、入力電圧を所定の電圧に変圧する。変圧された電圧が、コンバータ12に入力される。
【0021】
続いて、制御装置20について説明する。制御装置20は、運転モード判定部21、制御モード設定部22、および駆動制御部23を有する。運転モード判定部21は、二次励磁変換器10の運転モードが、調相運転モードか否かを判定する。制御モード設定部22は、電力系統90の系統電圧および誘導発電機30のすべりに基づいて、インバータ11とコンバータ12のうちの少なくとも1つの制御モードを第1制御モードまたは第2制御モードに設定する。第1制御モードまたは第2制御モードについては後述する。駆動制御部23は、制御モード設定部22で設定された制御モードで、インバータ11の半導体スイッチング素子S11~S16およびコンバータ12の半導体スイッチング素子S21~S26のスイッチング動作をそれぞれ制御する。
【0022】
誘導発電機30は、巻線型の三相誘導発電機である。誘導発電機30の二次励磁巻線は、インバータ11の交流端子u、v、wに接続される。誘導発電機30の固定子巻線は、遮断器60を介して変圧器50に接続される。
【0023】
水車40は、誘導発電機30の回転軸に接続される。水車40は、ダムの放流によって生成される水流で回転する。水車40の回転力は、誘導発電機30に伝達されて電力に変換される。
【0024】
変圧器50は、誘導発電機30の出力電圧を変圧する。変圧された電圧は、遮断器70を介して送電線80で電力系統90に送電される。また、変圧器50は、電力系統90から送電線80を介して供給された交流電圧を変圧する。変圧された交流電圧は、コンバータ12に供給される。
【0025】
遮断器60は、誘導発電機30と変圧器50との間に接続される。遮断器60は、発電システム1内で異常が発生した場合に誘導発電機30と変圧器50との接続を遮断する。
【0026】
遮断器70は、変圧器50と送電線80との間に接続される。遮断器70は、電力系統90で異常が発生した場合に変圧器50と送電線80との接続を遮断する。なお、本実施形態では、変圧器14、変圧器50、遮断器60、および遮断器70は、設置されていなくてもよい。
【0027】
次に、上記のように構成された本実施形態に係る発電システム1の動作について説明する。
【0028】
図3は、第1実施形態に係る発電システム1の動作手順を示すフローチャートである。ここでは、制御装置20の動作を中心に説明する。
【0029】
まず、制御装置20の運転モード判定部21が、発電システム1が調相運転モードであるか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1では、運転モード判定部21によって、発電システム1の運転モードが、調相運転モードまたは調相運転モード以外の運転モードに切り分けられる。調相運転モードは、二次励磁変換器10の制御によって誘導発電機30から無効電力のみを電力系統90に出力する運転モードである。調相運転モード以外の運転モードには、例えば、水車40の回転力を誘導発電機30で電力に変換する発電運転モードがある。
【0030】
発電システム1の運転モードは、オペレータの操作によって外部の中央制御指令装置(不図示)から出力される運転指令100によって決定される。この運転指令100は、制御装置20に入力される。そのため、ステップS1では、運転モード判定部21は、運転指令100の内容に基づいて、調相運転モードであるか否かを判定する。
【0031】
図4は、中性点NPの電位変動を説明するための図である。
図4には、第1コンデンサ13a両端の電圧V
P、第2コンデンサ13b両端の電圧V
N、電源電圧V
PNの波形が示されている。
図4に示すように、電源電圧V
PNは、一定であるのに対して、電圧V
P、電圧V
Nは各コンデンサの充放電に伴って変動する。これにより、中性点NPの電位も変動する。中性点NPの電位変動は、調相運転モードで大きくなる。そのため、本実施形態では、まず、運転モード判定部21が、発電システム1が調相運転モードであるか否かを判定する。
【0032】
運転モード判定部21が、発電システム1の運転モードを調相運転モードであると判定した場合(ステップS1:YES)、制御装置20の制御モード設定部22が、電力系統90の系統電圧および誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2では、系統電圧およびすべりの値は、運転指令100に示されている。なお、制御モード設定部22は、例えば、電力系統90に設置された電圧センサの計測値から系統電圧の値を取得してもよい。さらに、制御モード設定部22は、例えば、誘導発電機30に設置された速度センサの計測値からすべりの値を取得してもよいし、インバータ11の制御に使用する周波数情報からすべりの値を取得してもよい。
【0033】
図5は、系統電圧およびすべりの許容範囲の一例を示す図である。
図5では、横軸は、誘導発電機30のすべり、換言すると誘導発電機30の回転速度を示す。すべり0は系統との同期速度であることを表す。一方、縦軸は、系統電圧、すなわち、電力系統90の電圧を示す。
図3に示す領域R1が許容範囲に相当する。また、領域R1の外側の領域R2が、許容範囲外になる。
【0034】
本実施形態に係る発電システム1では、誘導発電機30のすべりの絶対値が大きくなるにつれて、中性点NPの電位変動は大きくなってしまう。また、発電システム1では、変圧器50を介して電力系統90と誘導発電機30が接続されている。そのため、電力系統90の系統電圧が高くなるにつれて、誘導発電機30の固定子電圧が高くなる。その結果、中性点NPの電位変動は大きくなってしまう。
【0035】
そこで、ステップS2では、
図5に示す座標系の中で電力系統90の系統電圧の値と、誘導発電機30のすべりの値とで特定される座標点が、領域R1に存在する場合、制御モード設定部22は、系統電圧およびすべりが許容範囲内であると判定する。反対に、この座標点が領域R2に存在する場合、制御モード設定部22は、系統電圧およびすべりが許容範囲外であると判定する。なお、制御モード設定部22は、すべりと系統電圧の値をパラメータとする関数式に基づいて判定してもよい。または、制御モード設定部22は、すべりと系統電圧の許容値を互いに対応付けたデータテーブルを用いて判定してもよい。
【0036】
図3に戻って、ステップS1で発電システム1の運転モードが調相運転モードでない(ステップS1:NO)、すなわち発電運転モードである場合、またはステップS2で系統電圧およびすべりが許容範囲内である場合(ステップS2:YES)、制御モード設定部22は、二次励磁変換器10の変調方式を第1制御モードに設定する(ステップS3)。また、ステップS2で系統電圧およびすべりが許容範囲内でない場合(ステップS2:NO)、制御モード設定部22は、二次励磁変換器10の変調方式を第2制御モードに設定する(ステップS4)。ここで、第1制御モードおよび第2制御モードについて説明する。
【0037】
図6(a)は、第1実施形態の第1制御モードにおける変調方式を示す。
図6(a)では、三相電力変換器であるインバータ11の交流端子u1、v1、w1にそれぞれ対応する各相の電圧指令値が、正弦波信号でそれぞれ表される指令値v
u,v
v,v
wとして1つずつ運転指令100に含まれている。制御装置20の駆動制御部23は、各正弦波信号と三角波状のキャリア波信号とを比較してPWM(Pulse Wide Modulation)信号を生成する。生成されたPWM信号が、インバータ11の各半導体スイッチング素子のゲートに入力される。なお、このPWM信号は、インバータ11の各半導体スイッチング素子だけでなくコンバータ12の各半導体スイッチング素子のゲートについても同様の手法で入力される。
【0038】
なお、駆動制御部23は、PWM信号を生成する際、特許第7068015号公報に記載されているように、指令値vu,vv,vwの各々にインバータ11またはコンバータ12の零相電圧を重畳してもよい。具体的には、駆動制御部23は、零相電圧の重畳によって符号が変化する電圧指令値がある場合、当該電圧指令値の符号を反転させて零相電圧の再計算を行う。続いて、駆動制御部23は、再計算後の零相電圧を各相の電圧指令値に重畳する。零相電圧の重畳によって符号が変化する電圧指令値がない場合であっても、計算式の分母が0を跨いで符号が変化する場合には、駆動制御部23は、当該電圧指令値の符号を反転させて零相電圧の再計算を行う。これにより、第1制御モードであっても、中性点NPの電位変動を抑制できる。
【0039】
図6(b)は、第1実施形態の第2制御モードにおける変調方式を示す。上述した第1制御モードでは、電圧指令値は、1相ごとに1つである。一方、第2制御モードは、特許第7002985号公報に記載されているように、1相ごとに上アーム用指令値と下アーム用指令値の2つの指令値を用いる。
図6(b)は、u相の上アーム用指令値v
upおよび下アーム用指令値v
unの電圧波形を示している。ここで、インバータ11の上アーム半導体スイッチング素子は、中性点NPの上側に配置された3つの半導体スイッチング素子S
11、S
12、S
15である。一方、インバータ11の下アーム半導体スイッチング素子は、中性点NPの下側に配置された3つの半導体スイッチング素子S
13、S
14、S
16である。また、コンバータ12の上アームは、中性点NPの上側に配置された3つの半導体スイッチング素子S
21、S
22、S
25である。一方、コンバータ12の下アームは、中性点NPの下側に配置された3つの半導体スイッチング素子S
23、S
24、S
26である。
【0040】
駆動制御部23は、上アーム用指令値信号と上キャリア波信号とを比較して、上アームの各半導体スイッチング素子のゲートに入力するゲート信号を生成する。また、駆動制御部23は、下アーム指令値信号と下キャリア波信号とを比較し、下アームの各半導体スイッチング素子のゲートに入力されるゲート信号を生成する。
【0041】
例えば、上アーム用指令値信号と上キャリア波信号は0~1の間で変化し、下アーム用指令値信号と下キャリア波信号は-1~0の間で変化する。駆動制御部23は、三相分の上アーム用指令値v
ip、下アーム用指令値v
in(i=u,v,w)を、下記の式(1)を用いて計算する。
【数1】
ここで、minは、引数の中の最小値を求める関数、maxは最大値を求める関数である。式(1)によれば、駆動制御部23は、二次励磁変換器10の各相の電力指令値の最小値を用いて上アーム用指令値v
ipを計算する。また、駆動制御部23は、二次励磁変換器10の各相の電力指令値の最大値を用いて下アーム用指令値v
inを計算する。
図6(a)に示すように運転指令100が三相分の電圧指令値を含む場合、u相の電圧指令値は、式(1)により、
図6(b)に示す信号波形となる。
【0042】
図7は、第2制御モードで二次励磁変換器10を変調したときの中性点NPの電位変動の一例を示す図である。
図7に示すグラフは、あるNPC変換器の変調率と力率による中性点NPの電位の変動の大きさを計算により表したものである。
図7に示すように、駆動制御部23が第2制御モードで二次励磁変換器10を変調すると、一定の運転領域において、中性点NPの電位変動をほぼゼロに抑制することができる。第2制御モードで変調する変換器は、インバータ11のみ、またはコンバータ12のみ、またはインバータ11とコンバータ12の両方であってもよい。
【0043】
よって、本実施形態によれば、中性点NPの電位変動を抑制して、より広い運転領域で発電システム1を運転することが可能となる。
【0044】
なお、第2制御モードでは、第1制御モードに比べて半導体スイッチング素子のスイッチング回数が増加する。そのため、スイッチング損失の増加が懸念される。しかし、本実施形態では、第2制御モードは、系統電圧とすべりが、許容範囲外である場合、すなわち
図5に示す領域R2に存在する場合に設定される。そのため、第2制御モードの適用範囲が、中性点NPの電位変動が大きくなる領域に限定されている。これにより、各半導体スイッチング素子のスイッチング損失を必要最小限に抑制しつつ、中性点NPの電位変動を抑制することが可能となる。
【0045】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。本実施形態に係る発電システムの構成は、上述した第1実施形態に係る発電システム1(
図1参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
また、本実施形態に係る発電システムの動作についても、
図3に示すフローチャートと同様の手順で行われる。すなわち、発電システムが調相運転モードで運転している時、制御装置20が、系統電圧および誘導発電機30のすべりに応じて第1制御モードまたは第2制御モードを設定する。ただし、本実施形態では、ステップS3の第1制御モードとステップS4の第2制御モードの内容が第1実施形態と異なる。そこで、
図8(a)および
図8(b)を参照して本実施形態における二次励磁変換器10の2種類の制御モードについて説明する。
【0047】
図8(a)は、第2実施形態の第1制御モードにおける有効電力の供給経路を示す図である。本実施形態の第1制御モードでは、
図8(a)に示すように、コンバータ12が、電力系統90から供給された有効電力Pcを直流電力に変換することによって、インバータ11に供給する直流電圧を維持する。
【0048】
図8(b)は、第2実施形態の第2制御モードにおける無効電力の出力経路を示す図である。本実施形態では、制御装置20の制御モード設定部22が、第2制御モードに設定すると、駆動制御部23は、
図8(b)に示すように、発電システムとしての無効電力指令値Qに示された無効電力の一部を、コンバータ12に負担させる。すなわち、駆動制御部23は、発電システムから出力させる無効電力を、インバータ11の制御によって誘導発電機30から出力させる無効電力と、コンバータ12から出力される無効電力との合計として出力するように制御する。
【0049】
具体的には、駆動制御部23は、無効電力指令値Qsに示された無効電力を誘導発電機30から出力させるようにインバータ11の駆動を制御するとともに、無効電力指令値Qcに示された無効電力を出力させるようにコンバータ12の駆動を制御する。ここで、無効電力指令値Q、Qs、Qcの間には、Q=Qs+Qcの関係が成り立つ。なお、無効電力指令値Qcについては、特許第7005417号公報に記載されているように、コンバータ12の有効電流指令値、有効電圧指令値、無効電流指令値、および無効電圧指令値等を求めてこれらを演算処理することによって算出することができる。
【0050】
一般的に、インバータ11の出力電圧の周波数は、コンバータ12の入力電圧の周波数よりも低い。そのため、インバータ11は、コンバータ12よりも中性点NPの電位変動に与える影響が大きい。また、中性点NPの電位変動は、力率が低いほど大きくなる。本実施形態では、誘導発電機30が無効電力を電力系統90に出力する際にはインバータ11からも無効電力が出力される。
【0051】
しかし、本実施形態では、発電システムから出力する無効電力の一部をコンバータ12に負担させる。これにより、誘導発電機30の無効電力が低下するため、インバータ11の無効電力も低下し、インバータ11の力率が向上する。その結果、中性点NPの電位変動を抑制することが可能となる。
【0052】
上記のように、誘導発電機30(およびインバータ11)の無効電力の出力値を下げると中性点NPの電位変動の低減に効果があるため、駆動制御部23は、無効電力指令値Qのうち、コンバータ12のQcの無効電力指令値を誘導発電機30の無効電力指令値Qsよりも優先的に割り振ることが望ましい。この場合、駆動制御部23は、発電システムから出力する無効電力から、コンバータ12で許容される最大の無効電力を差し引いた無効電力を誘導発電機30(およびインバータ11)から出力するように制御すればよい。なお、コンバータ12が、発電システムから出力する無効電力の全部を賄える場合には、誘導発電機30は無効電力を出力しなくてもよい。この場合、インバータ11の無効電力がゼロになるため、中性点NPの電位変動をさらに抑制することが可能となる。
【0053】
以上説明した本実施形態においても、第1実施形態と同様に、中性点NPの電位変動を抑制し、より広い運転領域で発電システムを運転することが可能となる。
【0054】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。本実施形態に係る発電システムの構成は、上述した第1実施形態に係る発電システム1(
図1参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
また、本実施形態に係る発電システムの動作についても、
図3に示すフローチャートと同様の手順で行われる。すなわち、発電システムが調相運転モードで運転している時、制御装置20が、系統電圧および誘導発電機30のすべりに応じて第1制御モードまたは第2制御モードを設定する。ただし、本実施形態では、ステップS3の第1制御モードとステップS4の第2制御モードの内容が第1実施形態と異なる。
【0056】
本実施形態の第1制御モードでは、制御装置20の駆動制御部23は、第1実施形態で説明したPWM信号でインバータ11およびコンバータ12の各半導体スイッチング素子のスイッチング動作を制御する。
【0057】
一方、本実施形態の第2制御モードでは、駆動制御部23は、第1実施形態で説明したように、上アーム用指令値vipおよび下アーム用指令値vinを用いてコンバータ12の各半導体スイッチング素子を制御する。さらに、駆動制御部23は、第2実施形態で説明したように、無効電力指令値Qcを用いて無効電力を出力するようにコンバータ12を制御する。
【0058】
なお、本実施形態の第2制御モードでは、駆動制御部23は、上アーム用指令値vipおよび下アーム用指令値vinを用いてインバータ11の各半導体スイッチング素子を制御してもよい。ただし、上アーム用指令値vipおよび下アーム用指令値vinを用いた駆動方法は、半導体スイッチング素子の半導体スイッチング素子の増加を招く。そのため、上アーム用指令値vip、下アーム用指令値vin、および無効電力指令値Qcを用いたコンバータ12の駆動によって、中性点NPの電位変動を十分に抑制できる場合には、上アーム用指令値vipおよび下アーム用指令値vinを用いた駆動方法をコンバータ12のみに適用する方が、望ましい。これにより、上記駆動方法によるスイッチング損失の増加を必要最低限に抑えることができる。
【0059】
以上説明した本実施形態によれば、発電システムの運転モード、系統電圧、および誘導発電機30のすべりに基づいて、インバータ11またはコンバータ12の変調方式と、無効電力の出力方法を第1制御モードと第2制御モードとの間で切り替えている。これにより、上述した他の実施形態と同様に、中性点NPの電位変動を抑制し、より広い運転領域で発電システムを運転することが可能となる。
【0060】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について説明する。本実施形態に係る発電システムの構成は、上述した第1実施形態に係る発電システム1(
図1参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0061】
また、本実施形態に係る発電システムの動作についても、
図3に示すフローチャートと同様の手順で行われる。ただし、本実施形態では、ステップS2の内容が第1実施形態と異なる。
【0062】
上述した第1実施形態では、制御モード設定部22は、系統電圧と誘導発電機30のすべりの両方の値に基づいて、二次励磁変換器10の制御モードの設定を切り替える。しかし、系統電圧とすべりを比較すると、すべりの方が中性点NPの電位変動に与える影響が大きい。そこで、本実施形態のステップS2では、制御モード設定部22は、誘導発電機30のすべりが許容範囲内であるか否かを判定する。
【0063】
図9は、すべりの許容範囲の一例を示す図である。
図6では、横軸は、誘導発電機30のすべり、換言すると誘導発電機30の回転速度を示す。一方、縦軸は、系統電圧、すなわち、電力系統90の出力電圧を示す。
図9に示す領域R1は、許容範囲であり、領域R2が許容範囲外である。すべりが下限値Snから上限値Spまでの範囲内であれば、系統電圧の値に関わらず、許容範囲となる。
【0064】
すべりが許容範囲内であれば、制御モード設定部22は、二次励磁変換器10の制御モードを第1制御モードに設定する。反対に、すべりが許容範囲外であれば、制御モード設定部22は、二次励磁変換器10の制御モードを第2制御モードに設定する。第1制御モードおよび第2制御モードについては、上述した第1実施形態から第3実施形態のいずれかを適用することができる。
【0065】
以上説明した本実施形態によれば、上述した他の実施形態と同様に、中性点NPの電位変動を抑制し、より広い運転領域で発電システムを運転することが可能となる。さらに、本実施形態では、制御モード設定部22が、誘導発電機30のすべりのみに基づいて二次励磁変換器10の制御モードを設定している。そのため、制御モードの設定に必要な制御モード設定部22の処理負荷を軽減することができる。
【0066】
以上、実施形態を幾つか説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0067】
1:発電システム
10:二次励磁変換器(中性点クランプ型の電力変換器)
11:インバータ
12:コンバータ
20:制御装置
22:制御モード設定部
23:駆動制御部
30:誘導発電機
S11~S16、S21~S26:半導体スイッチング素子