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2024-81999フッ素樹脂組成物、基板用積層体及びプリント配線基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081999
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】フッ素樹脂組成物、基板用積層体及びプリント配線基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20240612BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240612BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20240612BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240612BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240612BHJP
   C08K 5/02 20060101ALI20240612BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K9/04
C08K7/22
C08K3/013
C08K3/36
C08K5/02
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195661
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390005728
【氏名又は名称】AGCエスアイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 和哉
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雄介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD151
4J002DJ016
4J002EB007
4J002FA106
4J002FB096
4J002FD016
4J002FD317
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】成型がし易く、薄膜であっても機械的強度があり、また吸湿性が少なく、誘電正接および誘電率が低い樹脂組成物及びこれを用いた基板を提供すること。
【解決手段】フッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤で処理された表面を有し、シェル厚みが10~50nmであり、かつ平均粒径が50nm以上10μm未満である非晶質の中空シリカ粒子と、フッ素樹脂と、フッ素系界面活性剤とを含むフッ素樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤で処理された表面を有し、シェル厚みが10~50nmであり、かつ平均粒径が50nm以上10μm未満である非晶質の中空シリカ粒子と、フッ素樹脂と、フッ素系界面活性剤とを含むフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記中空シリカ粒子の含有量が10~60体積%である、請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記フッ素系界面活性剤を1~10質量部含む、請求項1または2に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素含有シランカップリング剤が、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリエトキシシランのいずれか一方であり、前記アミノ基含有シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリエトキシシラン及び3-アミノプロピルトリメトキシシランのいずれか一方である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂が、融点が260~400℃の熱可塑性フッ素樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
前記フッ素樹脂が、テトラエチレン基を有し、さらにカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基、フルオロホルミル基及び酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性フッ素樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
プリント配線板用である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物から形成された絶縁膜。
【請求項9】
基板と、前記基板の表面に配された、請求項1~7のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物から形成された厚み10~100μmの薄膜とを備える処理基板。
【請求項10】
金属箔基板と、前記金属箔基板の表面に配された、請求項1~7のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物から形成された薄膜とを備えるプリント配線板。
【請求項11】
前記金属箔基板が銅箔基板である、請求項10に記載のプリント配線板。
【請求項12】
前記薄膜の厚みが10~100μmである、請求項10または11に記載のプリント配線板。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法であって、
金属箔基板の表面に請求項1~7のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物の層を形成し、加熱するプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物、基板用積層体及びプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、信号の高速化および配線の高密度化が求められている。この要求を満たすために、接着フィルム、プリプレグ等の絶縁樹脂シート、並びにプリント配線板に形成される絶縁層に用いられる樹脂組成物を、低比誘電率化、低誘電正接化、低熱膨張化することが求められている。
【0003】
これらの要求を満たすために、充填材として中空粒子を用いた検討が行われており、種々の提案がなされている。例えば特許文献1では、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)中空シリカ、および(D)溶融シリカを含有する樹脂組成物が記載されている。また、特許文献2では、中空粒子と熱硬化性樹脂とを含有する低誘電樹脂組成物において、中空粒子として、シェル全体の98質量%以上がシリカで形成されており、平均空隙率が30~80体積%であり、かつ平均粒径が0.1~20μmである低誘電樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、低比誘電率材料として使用される中空シリカ材料についても種々提案がされており、例えば特許文献3には、シリカを含むシェル層を備え、前記シェル層の内部に空間部を有する中空シリカ粒子であって、赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度が0.60以下であり、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であり、かつ1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05である中空シリカ粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-173841号公報
【特許文献2】特開2008-031409号公報
【特許文献3】国際公開第2021/172294号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、中空シリカ粒子を樹脂と混錬した際に中空シリカ粒子が破損すると、分散不良を起こしたり、誘電特性が悪化する原因となる。また、粒子表面に親水基が存在すると樹脂が吸水し、誘電特性に影響を及ぼす。また、中空シリカ粒子の機械的強度を保つため膜厚の厚い結晶性の中空シリカ粒子を用いると、粒子の中空部が小さくなるので所望の誘電特性が得られ難くなる。
【0007】
一方、分散媒である樹脂としてフッ素樹脂を用いると、誘電正接、比誘電率等の電気特性は向上するが、単にフッ素樹脂と無機フィラーとを混合しただけでは、絶縁層の機械的強度が低くなる問題や伝送損失が大きくなる問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、成型がし易く、薄膜とした際にも機械的強度があり、また吸湿性が少なく、誘電正接および誘電率が低い樹脂組成物及びこれを用いた基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、粒子表面をフッ素原子を含む有機官能基で修飾した、シェルの膜厚が薄く、粒子径が小さく、非晶質な中空シリカ粒子とすることで、耐久性がある中空粒子を開発した。さらにこの表面改質した中空シリカ粒子をフッ素樹脂中へフッ素系界面活性剤と共に配合したフッ素樹脂組成物が、薄膜化したときにも機械的強度を保ち、かつ低誘電性能を発揮することを見出した。
【0010】
本発明は、下記(1)~(13)に関するものである。
(1)フッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤で処理された表面を有し、シェル厚みが10~50nmであり、かつ平均粒径が50nm以上10μm未満である非晶質の中空シリカ粒子と、フッ素樹脂と、フッ素系界面活性剤とを含むフッ素樹脂組成物。
(2)前記中空シリカ粒子の含有量が10~60体積%である、前記(1)に記載のフッ素樹脂組成物。
(3)前記フッ素樹脂100質量部に対し、前記フッ素系界面活性剤を1~10質量部含む、前記(1)または(2)に記載のフッ素樹脂組成物。
(4)前記フッ素含有シランカップリング剤が、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリエトキシシランのいずれか一方であり、前記アミノ基含有シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリエトキシシラン及び3-アミノプロピルトリメトキシシランのいずれか一方である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物。
(5)前記フッ素樹脂が、融点が260~400℃の熱可塑性フッ素樹脂である、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物。
(6)前記フッ素樹脂が、テトラエチレン基を有し、さらにカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基、フルオロホルミル基及び酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性フッ素樹脂である、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物。
(7)プリント配線板用である、前記(1)~(6)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物。
(8)前記(1)~(7)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物から形成された絶縁膜。
(9)基板と、前記基板の表面に配された、前記(1)~(7)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物から形成された厚み10~100μmの薄膜とを備える処理基板。
(10)金属箔基板と、前記金属箔基板の表面に配された、前記(1)~(7)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物から形成された薄膜とを備えるプリント配線板。
(11)前記金属箔基板が銅箔基板である、前記(10)に記載のプリント配線板。
(12)前記薄膜の厚みが10~100μmである、前記(10)または(11)に記載のプリント配線板。
(13)前記(10)~(12)のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法であって、金属箔基板の表面に前記(1)~(7)のいずれか1つに記載のフッ素樹脂組成物の層を形成し、加熱するプリント配線板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフッ素樹脂組成物は、成型がし易く、薄膜とした際にも機械的強度があり、また吸湿性が少なく、誘電正接および誘電率が低い。よって、本発明のフッ素樹脂組成物から形成された絶縁膜を備える積層体やプリント配線板は、誘電特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明するが、以下の説明における例示によって本発明は限定されない。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
<フッ素樹脂組成物>
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤で処理された表面を有し、シェル厚みが10~50nmであり、かつ平均粒径が50nm以上10μm未満である非晶質の中空シリカ粒子と、フッ素樹脂と、フッ素系界面活性剤とを含むものである。以下、上記シランカップリング剤で粒子の表面が処理された表面改質中空シリカ粒子を単に「中空シリカ粒子」ともいう。
【0014】
(中空シリカ粒子)
本発明で用いられる中空シリカ粒子(上記シランカップリング剤で処理された表面改質中空シリカ粒子)は、シリカを含むシェル層を備え、シェル層の内部に空間部を有する。中空シリカ粒子がシェル層の内部に空間部を持つことは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査型電子顕微鏡(SEM)観察により確認できる。SEM観察の場合は、一部が開口した破損粒子を観察することにより、中空であることが確認できる。
【0015】
本明細書において、シェル層が「シリカを含む」とは、シリカ層にシリカ(SiO)が50質量%以上含まれることを意味する。シェル層の組成は、ICP発光分析法やフレーム原子吸光法などによって測定できる。シェル層が含むシリカは80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限は理論的に100質量%である。シェル層が含むシリカは100質量%未満が好ましく、99.99質量%以下がより好ましい。残分としてはアルカリ金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
また、「シェル層の内部に空間部を有する」とは、1個の一次粒子の断面を観察した際に、1個の空間部の周囲をシェル層が囲んでいる中空状態を意味する。すなわち中空粒子1個は、大きな空間部を1個とそれを取り囲むシェル層とを有する。
【0016】
本発明で用いられる中空シリカ粒子は、原料中空シリカ粒子の表面がフッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤で処理された中空シリカ粒子である。
粒子の表面が上記シランカップリング剤によって処理されていることで、表面シラノール基の残存量が少なくなり、表面が疎水化され、水分吸着を抑えて誘電損失を向上できるとともに、樹脂組成物とする際に、樹脂との親和性が向上し、分散性や、樹脂製膜後の強度が向上する。
【0017】
なお、「中空シリカ粒子の表面がフッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤によって処理されている」とは、物理的結合ではなく化学的結合によってフッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤が中空シリカ粒子の表面に吸着していることを意味する。
上記シランカップリング剤は、中心ケイ素原子にアルコキシ基等の加水分解性基を有しており、加水分解し、原料中空シリカ粒子表面のシラノール基(SiOH基)と脱水縮合反応する。この処理によりシランカップリング反応によってフッ素原子又はアミノ基を有するシランカップリング剤残基が原料中空シリカ粒子の表面に結合する。なお、原料中空シリカ粒子の表面に結合したシランカップリング剤に残った加水分解性基の加水分解によりシランカップリング剤同士も結合することがある。
【0018】
フッ素含有シランカップリング剤としては、例えば、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(TFPTMS)、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロデシルトリメトキシシラン、パーフルオロデシルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロテトラヒドロデシルトリエトキシシラン、パーフルオロヘキシルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロヘキシルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロヘキシルエチルトリクロロシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、人体や地球環境に対する有害性や蓄積性を抑制するという観点から、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(TFPTMS)、トリフルオロプロピルトリエトキシシランが好ましく、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(TFPTMS)がより好ましい。
【0019】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、4-アミノ3,3-ジメチルブチルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N-ジメチル-3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、2-(4-ピリジルエチル)トリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルシラントリオール、3-トリメトキシリルプロピルジエチルジエチレントリアミン、N,N’-BIS[(3-トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、[3-(1-ピぺラジニル)プロピル]メチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、原料中空シリカ粒子表面への反応性に優れる観点から、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)がより好ましい。
【0020】
本発明では、樹脂組成物中での分散性の改善がされやすいという観点から、原料中空シリカ粒子表面を覆うシランカップリング剤全体の30質量%以上がフッ素含有シランカップリング剤であるのが好ましい。フッ素含有シランカップリング剤は表面張力および表面自由エネルギーが極めて低いという特性を有するため、シリカ表面を低吸湿性とし易く、これにより中空シリカ粒子の樹脂組成物中での分散性を向上させやすくなると想定される。
中空シリカ粒子表面のフッ素含有シランカップリング剤の含有量は、シランカップリング剤全体の50質量%以上であるのがより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、フッ素含有シランカップリング剤のみで処理されているのが特に好ましい。
【0021】
上記シランカップリング剤の付着量としては、原料中空シリカ粒子100質量部に対して、0.1~15質量部であるのが好ましい。シランカップリング剤の付着量が原料中空シリカ粒子100質量部に対して0.1質量部以上であると、本発明の効果を得られ、15質量部以下であると、シランカップリング剤の自己縮合が抑制され、選択的に中空シリカ粒子表面と反応した状態となる。シランカップリング剤の付着量は、原料中空シリカ粒子100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましく、また15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0022】
中空シリカ粒子の表面が上記シランカップリング剤で処理されていることはIRによるシランカップリング剤の置換基によるピークの検出により確認できる。また、シランカップリング剤の付着量は、炭素量の測定や、熱重量測定(TG)により測定できる。
【0023】
本発明の中空シリカ粒子は、赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOH(シラノール基)に由来するピーク強度が0.60以下であり、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であり、かつ1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05であるのが好ましい。赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度と、比誘電率、誘電正接が前記の関係を満たすことで、低い誘電損失を有し、高周波回路に十分対応できる基板を提供できる。
【0024】
赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は0.60以下であるのが好ましい。前記SiOHに由来するピーク強度が0.60より大きいと、SiOHに由来した誘電正接の成分が多く発現し、誘電正接が悪化する傾向になる。前記波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は、0.40以下であることがより好ましく、0.30以下がさらに好ましく、0.20以下が特に好ましく、0.10以下が最も好ましい。波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は低いほど誘電正接が下げられるためその下限は低いほどよく、下限は特に限定されない。
【0025】
ここで、「付近」とは、波数3746cm-1付近の場合は、ピーク中心の波数が3746cm-1で、その前後の幅が14cm-1である波数3732cm-1から波数3760cm-1の範囲をいう。他の波数についても同様である。
【0026】
赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は、拡散反射法によりFT-IRスペクトルにおいて、SiOHの吸収(波数3746cm-1付近)強度を、波数1060cm-1付近の各種SiOHに由来するピーク強度を1として規格化することにより求めることができる。
【0027】
本発明の中空シリカ粒子は、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であるのが好ましい。特に粉体の誘電率測定において、10GHz以上ではサンプルスペースが小さくなり測定精度が悪化するので、本発明では1GHzでの測定値を採用する。1GHzでの比誘電率が前記範囲であると、電子機器に求められる低比誘電率を達成できる。なお、1GHzでの比誘電率が1.3未満の中空シリカ粒子を合成することは、実質的に困難である。
1GHzでの比誘電率は、下限が1.4以上であることがより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。また上限は4.5以下であることがより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.5以下が特に好ましく、3.0以下が殊更に好ましく、2.5以下が最も好ましい。
【0028】
また、本発明の中空シリカ粒子は、1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05であるのが好ましい。1GHzでの誘電正接が0.05以下であると、電子機器に求められる低比誘電率を達成できる。また、1GHzでの誘電正接が0.0001未満の中空シリカ粒子を合成することは、実質的に困難である。
1GHzでの誘電正接は、下限が0.0005以上であることがより好ましく、0.0006以上がさらに好ましい。また上限は0.04以下であることがより好ましく、0.03以下がさらに好ましく、0.02以下がよりさらに好ましく、0.01以下が特に好ましく、0.005以下が殊更に好ましく、0.003以下が最も好ましい。
【0029】
比誘電率、誘電正接は、専用の装置(例えば、キーコム株式会社製「ベクトルネットワークアナライザ E5063A」)を用い、摂動方式共振器法にて測定できる。
【0030】
中空シリカ粒子のシェル厚みは、10~50nmである。シェル厚が10nm以上だと、粒子の強度を保つことができ、50nm以下であると空隙部が小さくなり過ぎず、優れた誘電特性が得られる。シェル厚みは、12nm以上であるのが好ましく、15nm以上がより好ましく、また40nm以下であるのが好ましく、30nm以下がより好ましい。
【0031】
中空シリカ粒子のシェル厚みは、一次粒子の直径1に対して、0.01~0.3であることが好ましい。シェル厚みさが一次粒子の直径1に対して0.01より小さいと、中空シリカ粒子の強度が低下することがある。この比が0.3より大きいと、粒子内部の中空部が小さくなってしまい、中空形状であることによる特性が出なくなってしまう。
シェル厚みは、一次粒子の直径1に対して、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、また0.2以下であることがより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
【0032】
ここで、シェル厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって個々の粒子のシェル厚みを測定することによって求められる。
【0033】
中空シリカ粒子の一次粒子の大きさの平均値(平均粒径)は50nm以上10μm未満の範囲である。平均粒径が50nm未満であると、比表面積、吸油量および細孔容積が上昇し、粒子表面のSiOH量と吸着水が増え、誘電正接が上昇しやすくなる。また、平均粒径が10μm未満であると、フィラーとしての取り扱いがしやすい。
平均粒径は、製造再現性の観点から、下限は、70nm以上であることが好ましく、100nm以上がより好ましく、また上限は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0034】
中空シリカ粒子の一次粒子の大きさは、SEM観察によりその粒子径(直径)を直接観察することによって求められる。具体的には、SEM画像より100個の粒子の一次粒子の大きさを測定し、それらを集計して得られた一次粒子の大きさの分布を、全体の一次粒子の大きさの分布と推定する。SEM観察により、解凝集が難しい粒子の一次粒子径を直接測定できる。
【0035】
本組成物に含まれるシリカ粒子の粒度分布は単峰性であることが好ましい。シリカ粒子の粒度分布が単峰性であることは、上述のレーザー回折・散乱法による粒度分布でピークが1つであることから確認できる。
【0036】
中空シリカ粒子の平均粒子径(二次粒子の粒径)はレーザー散乱によって測定することが好ましい。SEMによって凝集径を測定することは、粒子間の境目が不明瞭で、ウエットな状態での分散を反映しないためである。また、コールターカウンターによる測定では、中空粒子と中実粒子での電場変化が異なり、中実粒子に対して対応した数値を出すことが困難であるためである。
【0037】
中空シリカ粒子の二次粒子の粗大粒径(D90)は、1~30μmであることが好ましい。生産効率の観点から、粗大粒径は1μm以上であることが好ましい。また、粗大粒径が大きすぎると、樹脂組成物を膜に成型した際、粒立ちの原因となるため、30μm以下であることが好ましい。粗大粒径は、下限は3μm以上であることがより好ましく、5μm以上が最も好ましく、また上限は30μm以下であることが好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、15μm以下が最も好ましい。
【0038】
なお、粗大粒径も上記したように、レーザー散乱によって二次粒子の粒径を測定することにより求められる。
【0039】
本発明で用いる中空シリカ粒子は、ヘリウムガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定(以下、ヘリウムピクノメーター法ともいう。)により求めた中空シリカ粒子の密度が、2.00~2.30g/cmであることが好ましい。
ヘリウムピクノメーター法により求めた密度により、中空シリカ粒子のシェル層が細孔を有しているか否かが分かる。ヘリウムピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度が2.00g/cm以上であると、ヘリウムガスが粒子内部に侵入し、内部の空間部に留まった状態であることがわかるので、シェル層が細孔を有していることが分かる。
【0040】
ヘリウムピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度が2.00g/cm以上であるとシェル層が緻密なシリカ層となって、中空シリカ粒子が破損し難くなり、2.30g/cm以下であると結晶性が低い非晶質のシリカ質となり、比誘電率が低く抑えられる。ヘリウムピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度は、下限は2.05g/cm以上であることがより好ましく、2.07g/cm以上がさらに好ましく、2.09g/cm以上が特に好ましく、2.10g/cm以上が最も好ましく、また上限は2.25g/cm以下であることがより好ましい。
【0041】
そして、中空シリカ粒子は、アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定(以下、アルゴンピクノメーター法ともいう。)により求めた中空シリカ粒子の密度が、0.35g/cm~2.00g/cmであることが好ましい。
アルゴンピクノメーター法により求めた密度により、中空シリカ粒子が中空であるか否かが分かる。アルゴンガスはヘリウムガスよりも分子サイズが大きいので、シェル層が緻密であると該シェル層を通過することができず、粒子の見かけ密度が測定される。
【0042】
アルゴンピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度が2.00g/cm以下であると、見かけ上の密度がシリカの真密度(約2.20g/cm)よりも小さいので、粒子内部に空間部があると判断できる。また、密度が0.35g/cm以上であると、中空シリカ粒子のシェル強度を保てる。
【0043】
また、アルゴンピクノメーター法で求めた密度が、ヘリウムピクノメーター法で求めた密度より低いことで、中空シリカ粒子の内部を微小な気体分子が行き来できるため、粒子内部が常圧となる。ガラスバルーンのように非常に緻密なシェル(殻)をもつ粒子では、粒子内部と大気との圧力差があるため、樹脂組成物とする際に、攪拌や混練などの操作を行うと破砕しやすいが、本発明の中空シリカ粒子は粒子内部と大気との圧力差が小さいため、前記操作によって破砕されにくい。
【0044】
アルゴンピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度は、粒子のシェルの強度の観点から、下限は0.40g/cm以上であることがより好ましく、0.50g/cm以上がさらに好ましく、0.60g/cm以上がよりさらに好ましく、0.70g/cm以上が特に好ましく、0.80g/cm以上が最も好ましい。また上限は、空気の含有率を保ち、比誘電率の上昇を抑制するという観点から、1.70g/cm以下であることがより好ましく、1.60g/cm以下がさらに好ましく、1.50g/cm以下が特に好ましく、1.40g/cm以下が最も好ましい。
【0045】
中空シリカ粒子の見かけ密度は比重瓶を用いて測定することもできる。比重瓶に試料(中空シリカ粒子)と有機溶媒を入れ、25℃で48時間静置後測定する。中空シリカ粒子のシェルの緻密度によっては有機溶媒の浸透に時間を要することもあるため、上記の時間静置することが好ましい。この方法で測定した結果は、アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定の結果と対応する。
【0046】
中空シリカ粒子は、一次粒子径とシェルの厚みを調整することで粒子の見かけ密度を調整でき、粒子の密度を変えることで、溶媒中に沈降するか、分散し続けるか、上に浮くかを調整できる。溶媒中に分散させたい場合は、溶媒の密度と粒子の見かけ密度が近いことが望ましい。例えば、密度が1.0g/cmの水に分散させたい場合は、粒子の見かけ密度を0.8g/cm以上1.2g/cm以下に調整するのが好ましい。
【0047】
中空シリカ粒子の平均細孔径は、1nm以下であるのが好ましい。平均細孔径が1nm以下であると、樹脂成分や界面活性剤、溶剤などの細孔内への侵入が防げる。平均細孔径は、0.8nm以下であるのがより好ましく、0.4nm以下がさらに好ましく、また、細孔径が小さいほど吸油量は減少し、空隙率を維持し誘電特性の悪化を防げるので、下限は特に限定されない。
【0048】
なお、細孔径は、比表面積・細孔分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル社製「BELSORP-miniII」、マイクロメリティック社製「トライスターII」等)を用いた窒素吸着法に基づくBET法により求められる。平均細孔径は、前記BET法により求めた細孔容量と比表面積から細孔分布を解析して求められる。
【0049】
中空シリカ粒子は、BET比表面積が1~100m/gであることが好ましい。BET比表面積が1m/g以上であると樹脂組成物とした際に樹脂との密着性が確保でき、100m/g以下であると吸油量を抑え、吸着水を減らせる。
緻密なシェルができるほど比表面積は小さくなることから、BET比表面積は、90m/g以下であることがより好ましく、80m/g以下がさらに好ましい。また、2m/g以上であることがより好ましく、3m/g以上がさらに好ましく、5m/g以上が最も好ましい。
【0050】
ここで、BET比表面積の測定は、比表面積測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「トライスターII3020」)を用い、前処理として中空シリカ粒子を230℃で50mTorrとなるまで乾燥させた後、液体窒素を用いた多点法で測定できる。
【0051】
中空シリカ粒子の真球度は、0.75~1.0であることが好ましい。真球度が低くなると、中空シリカ粒子が破損しやすくなり、アルゴンピクノメーター法による密度が低下して、比表面積が大きくなり、誘電正接が上昇する場合がある。
【0052】
真球度は、走査型電子顕微鏡(SEM)により写真撮影して得られる写真投影図における任意の100個の粒子について、それぞれの最大径(DL)と、これと直交する最小径(DS)とを測定し、最大径(DL)に対する最小径(DS)の比(DS/DL)を算出した平均値で表せる。
【0053】
分散性などの観点から、真球度は、0.80以上であることがより好ましく、0.82以上がさらに好ましく、0.83以上がよりさらに好ましく、0.85以上が特に好ましく、0.87以上が殊更に好ましく、0.90以上が最も好ましい。
【0054】
中空シリカ粒子は内部に空間部を有するため、粒子内部に物質を内包できる。本発明で用いる中空シリカ粒子はシェル層が緻密であるため各種溶媒が浸透し難いものであるが、破損粒子が存在すると、内部に溶媒が浸入する。よって、破損粒子の割合で吸油量が変化する。
【0055】
中空シリカ粒子の吸油量は、15~1300mL/100gであることが好ましい。吸油量が15mL/100g以上であると樹脂組成物とした際に樹脂との密着性が確保でき、1300mL/100g以下であると樹脂組成物とした際に樹脂の強度が担保でき、組成物の粘度を低下できる。
吸油量が多いと粘性が高くなることから、中空シリカ粒子の吸油量は、1000mL/100g以下であることがより好ましく、700mL/100g以下がさらに好ましく、500mL/100g以下が特に好ましく、200mL/100g以下が最も好ましい。また、吸油量が低すぎると粉体と樹脂との密着性が悪化する場合があるため、20mL/100g以上であることがより好ましい。
【0056】
中空シリカ粒子の細孔容積は、0.2cm/g以下であることが好ましい。
細孔容積が0.2cm/gより大きいと、水分を吸着しやすくなり、樹脂組成物の誘電損失が悪化することがある。細孔容積は、0.15cm/g以下であることがより好ましく、0.1cm/g以下がさらに好ましく、0.05cm/g以下が特に好ましい。
【0057】
中空シリカ粒子は、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを含有することが好ましい。中空シリカ粒子に金属Mが含まれることで、焼成時にフラックスとして働き、比表面積が低下して誘電正接を低くできる。
【0058】
金属Mは原料中空シリカ粒子の製造において、反応工程から洗浄工程の間に含有される。例えば、反応工程において、シリカのシェルを形成する際の反応溶液中に前記金属Mの金属塩を添加することや、中空シリカ前駆体を焼き締めする前に前記金属Mの金属イオンを含む溶液で洗浄することにより、原料中空シリカ粒子に金属Mを含有できる。
【0059】
原料中空シリカ粒子に含まれる金属Mの濃度は、50質量ppm以上1質量%以下であることが好ましい。金属Mの濃度の総和が50質量ppm以上であると焼成時のフラックス効果により結合シラノール基の縮合が促進され、残存するシラノール基を減らせるので、誘電正接を低下できる。金属Mの濃度が高すぎると、シリカと反応してケイ酸塩となる成分が多くなり、中空シリカ粒子の吸湿性が悪化する場合があるため、1質量%以下で含有することが好ましい。金属Mの濃度は、100質量ppm以上がより好ましく、150ppm以上がより好ましく、また、1質量%以下が好ましく、5000質量ppm以下が好ましく、1000質量ppm以下が最も好ましい。
【0060】
金属Mの測定方法は、中空シリカ粒子に過塩素酸とフッ酸を加えて強熱し主成分のケイ素を除去したのちにICP発光分析で測定できる。
また、シリカ原料としてアルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合は、シリカ原料としてケイ素アルコキシドを用いる場合に比べて、得られる中空シリカ粒子のシェル層に原料由来の炭素(C)成分は少なくなる。
【0061】
中空シリカ粒子は、該中空シリカ粒子を含む下記の混練物を下記測定方法により測定したときの粘度が20000mPa・s以下であるのが好ましい。
(測定方法)
アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定により求めた粒子の密度をA(g/cm)として、煮アマニ油6質量部と中空シリカ粒子(6×A/2.2)質量部を混合し、2000rpmで3分間混練して得た混練物を、回転式レオメータを用いてせん断速度1s-1で30秒測定し、30秒時点での粘度を求める。
【0062】
上記測定方法により求めた混練物のせん断速度1s-1での粘度が20000mPa・s以下であると、中空シリカ粒子を含む樹脂組成物の成形・成膜時に添加する溶剤量を減らせ、乾燥速度を早くでき、生産性を向上できる。また、シリカ粉末の粒径に応じた密度と比表面積の積が大きくなると、樹脂組成物に添加した際に粘度が上昇しやすくなるが、中空シリカ粒子は、密度と比表面積の積が小さいので樹脂組成物の粘度上昇を抑制できる。混練物の粘度は、8000mPa・s以下であるのがより好ましく、5000mPa・s以下がさらに好ましく、4000mPa・s以下が最も好ましい。
前記混練物のせん断速度1s-1での粘度は、低いほど樹脂組成物の塗工性が向上し、生産性が向上するため下限値は特に限定されない。
【0063】
(中空シリカ粒子の製造方法)
本発明で用いる中空シリカ粒子(シランカップリング剤で処理された表面改質中空シリカ粒子)は、原料中空シリカ粒子の表面を上記シランカップリング剤で処理して得られる。
【0064】
原料中空シリカ粒子は製造により得てもよいし、市販の中空シリカ粒子を用いてもよい。原料中空シリカ粒子を製造する場合は、例えば、国際公開第2019/131658号に記載の方法で製造できる。
なお、上記した本発明で用いる中空シリカ粒子の各物性は、原料中空シリカ粒子の物性と概ね一致する。
【0065】
原料中空シリカ粒子をシランカップリング剤で処理する方法としては、常法により行うことができ、例えば、原料中空シリカ粒子にシランカップリング剤をスプレーする乾式法や、原料中空シリカ粒子を溶剤に分散させてからシランカップリング剤を加えて反応させる湿式法等が挙げられる。均一な処理を行う観点から、湿式処理法が好ましい。
【0066】
シランカップリング剤で表面処理された中空シリカ粒子は、フッ素樹脂組成物中、10~60体積%の範囲で含むことが好ましく、30~50体積%がより好ましい。中空シリカ粒子の含有量が10体積%以上であると誘電正接を低くすることができ、60体積%以下であると耐久性の低下や誘電率の悪化を防ぐことができる。
【0067】
<フッ素樹脂>
フッ素樹脂は他の樹脂に比べて誘電正接が低いため絶縁材等のメイン樹脂として使用される。
本発明のフッ素樹脂組成物に用いられるフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフルオライド三元共重合体(THV)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、変性ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。フッ素樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、(i)テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)と極微量のCH=CH(CFF又はCF=CFOCFとを共重合したもの、(ii)前記(i)にさらに極微量の接着性官能基含有単量体を共重合したもの、(iii)TFEと極微量の接着性官能基含有単量体とを共重合したもの、(iv)ポリテトラフルオロエチレンにプラズマ処理等で接着性官能基を導入したもの、(v)前記(i)にプラズマ処理等で接着性官能基を導入したもの等が挙げられる。
【0069】
これらの中でも、電気特性、耐熱性がより優れ、シート化後も電気特性、耐熱性がより優れるという理由から融点が260~400℃の熱可塑性フッ素樹脂であることがより好ましい。フッ素樹脂の融点が上記範囲の下限値以上であると、耐熱性に優れ、上記範囲の上限値以下であると、溶融成形性に優れる。溶融成形可能な含フッ素重合体としては、テトラフルオロエチレン-フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、変性ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。また、溶融流動性を示すのであればポリテトラフルオロエチレンも挙げられる。
【0070】
フッ素樹脂の融点は、耐熱性及び溶融成形性の観点から、260~380℃であるのがさらに好ましく、下限は、280℃以上が特に好ましく、295℃以上が最も好ましく、また、上限は、320℃以下が特に好ましく、310℃以下が最も好ましい。
フッ素樹脂の融点は、当該フッ素樹脂を構成する単位の種類や含有割合、分子量等によって調整できる。
【0071】
また、フッ素樹脂は、テトラエチレン基を有し、さらに接着性官能基としてカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基、フルオロホルミル基及び酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性フッ素樹脂であることがさらに好ましい。フッ素樹脂がテトラエチレン基を有することで耐熱性および電気特性に優れる。そしてさらに接着性官能基を有することで中空シリカ粒子との接着性に優れ、樹脂組成物からの中空シリカ粒子の離脱を抑制することが出来る。上記官能基は、フッ素樹脂中の単位に含まれていてもよく、フッ素樹脂の主鎖の末端基に含まれていてもよい。
【0072】
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
【0073】
フッ素樹脂がカルボニル基含有基を有する場合、フッ素樹脂におけるカルボニル基含有基の数は、主鎖炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、50~4000個がより好ましく、100~2000個がさらに好ましい。この場合、得られる薄膜の剥離強度が向上しやすい。また、得られる薄膜の線膨張係数を低減させ、それに皺が発生するのをより確実に防止できる。なお、フッ素樹脂におけるカルボニル基含有基の数は、ポリマーの組成又は国際公開2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0074】
フッ素樹脂において、該フッ素樹脂の融点よりも20℃以上高い温度(通常、372℃が採用される。)における溶融流れ速度(Melt Flow Rate:以下、「MFR」という。)は、0.1~1000g/10分であるのが好ましく、0.5~100g/10分がより好ましく、1~30g/10分がさらに好ましく、5~20g/10分が特に好ましい。
MFRが上記範囲の下限値以上であると、フッ素樹脂は成形加工性に優れるので、本発明のフッ素樹脂組成物から形成された樹脂組成物成形体が表面平滑性、外観に優れる。MFRが上記範囲の上限値以下であると、フッ素樹脂は機械強度に優れるので、本発明のフッ素樹脂組成物から形成された成形体が機械強度に優れる。
【0075】
MFRは、フッ素樹脂の分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が小さく、MFRが小さいと分子量が大きいことを示す。
フッ素樹脂の分子量、ひいてはMFRは、フッ素樹脂の製造条件によって調整できる。例えば、単量体の重合時に重合時間を短縮すると、MFRが大きくなる傾向がある。
【0076】
本発明のフッ素樹脂組成物におけるフッ素樹脂の含有量は、10~50質量%であるのが好ましく、25~40質量%がより好ましい。フッ素樹脂の含有量が10質量%以上であると比誘電率及び誘電正接を低くすることができ、また50質量%以下であると均一に分散しやすく、機械的強度に優れる。
【0077】
<フッ素系界面活性剤>
本発明のフッ素樹脂組成物にはフッ素系界面活性剤を含む。フッ素系界面活性剤を含むことにより、表面自由エネルギー低下により分散性・相溶性が向上し、分散不良を防ぐことができ、成形性が向上する。
【0078】
フッ素系界面活性剤としては、市販で入手できるものとして、例えば、ペルフルオロアルキル基含有のフタージェントMシリーズ、フタージェントF209、フタージェント222F、フタージェント208G、フタージェント218GL、フタージェント710FL、フタージェント710FM、フタージェント710FS、フタージェント730FL、フタージェント730LM(ネオス社製)、メガファックF-553、メガファックF-555、メガファックF-556、メガファックF-557、メガファックF-559、メガファックF-562、メガファックF-565等のメガファックシリーズ(DIC社製)、ユニダインDS-403N等のユニダインシリーズ(ダイキン工業社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、フッ素含有基が分岐構造を有し立体的な嵩高さを有する界面活性剤である、フタージェント710FL、フタージェント710FM及びフタージェント710FSが好ましい。
【0079】
本発明のフッ素樹脂組成物におけるフッ素系界面活性剤の含有量は、フッ素樹脂100質量部に対し、フッ素系界面活性剤が1~10質量部であることが好ましい。フッ素系界面活性剤の含有量がフッ素樹脂100質量部に対し1質量部以上であると、中空シリカ粒子の分散性・相溶性が向上し、成形性を向上できる。また、フッ素系界面活性剤の含有量がフッ素樹脂100質量部に対し10質量部以下であると、誘電率及び誘電正接をさらに低くできる。フッ素系界面活性剤の含有量は、2質量部以上であるのがより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、また9質量部以下であるのがより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。
【0080】
<その他の成分>
本発明のフッ素樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の材料を含んでいてもよい。かかる他の材料としては、例えば、分散助剤、チキソ性付与剤、消泡剤、シリカ以外の無機フィラー、反応性アルコキシシラン、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤が挙げられる。
これらの他の材料は、樹脂組成物に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。
【0081】
<フッ素樹脂組成物の製造方法>
本発明におけるフッ素樹脂組成物は、上記した、シランカップリング剤で表面改質された中空シリカ粒子とフッ素樹脂とフッ素系界面活性剤を混合して得られる。フッ素樹脂は通常パウダー状であるため、溶剤中で分散させて作製するのが好ましい。
【0082】
溶剤は、25℃で液状であるものを用いるのが好ましい。
溶剤の沸点は、125~250℃であるのが好ましい。この範囲において、フッ素樹脂組成物から溶剤を揮発させる際に、高度に流動して緻密にパッキングし、その結果、緻密なフッ素樹脂層が形成されやすい。
【0083】
溶剤は、非プロトン性の極性媒体であるのが好ましい。
【0084】
溶剤の具体例としては、水、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、酢酸ブチル、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
本発明のフッ素樹脂組成物は、耐候性、難燃性、耐熱性、防汚性、平滑性、耐薬品性などの諸特性に優れる。このため、フッ素樹脂は、屋外環境に晒される物品の材料、プリント配線板、半導体用のキャリアや、ボトル、薬液配管・配管継ぎ手、自動変速機・パワーステアリング機構の油圧シール用リング・アクセルケーブル・トレンクオープナーのケーブル、摺動部品、耐候性上塗り塗料や保護コーティング材などに用いることができ、特に本発明のフッ素樹脂組成物から形成された絶縁膜はプリント配線板に好適に用いることができる。
【0086】
(処理基板及びプリント配線板)
本発明は、基板と、この基板の表面に上記したフッ素樹脂組成物から形成された薄膜とを備えた処理基板を含む。処理基板における薄膜の厚みは、10~100μmであり、膜厚が10μm以上であると、耐久性、機械的強度が向上し、100μm以下であると、実装性に優れる。薄膜の厚みは、15μm以上であるのが好ましく、20μm以上がより好ましく、また95μm以下であるのが好ましく、90μm以下がより好ましい。
【0087】
基板としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、鉄、ステンレス鋼、黄銅、ニッケル、亜鉛、チタン、又はこれらの金属の合金等の金属箔等が挙げられる。
【0088】
本発明はまた、基板の表面に上記したフッ素樹脂組成物を処理し、薄膜を形成させる処理基板の製造方法を含む。薄膜は、例えば、スラリー状のフッ素樹脂組成物をドクターブレード法によって基板に塗布し形成する。薄膜の厚さは耐久性・機械的強度の観点から10μm以上が好ましく、実装性の観点から100μm以下が好ましい。薄膜の厚みは、15μm以上であるのが好ましく、20μm以上がより好ましく、また95μm以下であるのが好ましく、90μm以下がより好ましい。
【0089】
基板上にフッ素樹脂組成物の層を形成した後には加熱するのが好ましい。加熱温度は、フッ素樹脂の融点以上であり、300~400℃であるのが好ましく、350~370℃がより好ましい。また、加熱時間は、溶融が出来、生産性の観点から、20分~2時間が好ましく、30分~2時間がより好ましい。また、加熱は窒素雰囲気下で行うのが好ましい。
【0090】
また、本発明は、金属箔基板と、この金属箔基板の表面に配された上記フッ素樹脂組成物から形成された薄膜とを備えるプリント配線板を含む。
【0091】
金属箔としては、例えば、銅、アルミニウム、はんだ、錫、ニッケル、パラジウム、金、銀、アルミナ、タングステン、モリブデン等の金属からなる金属箔が挙げられ、銅箔が好ましい。銅箔としては、銅の単金属からなる箔を用いてもよく、銅と他の金属(例えば、スズ、クロム、銀、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、チタン等)との合金からなる箔を用いてもよい。
【0092】
プリント配線板におけるフッ素樹脂組成物から形成される薄膜の厚みは、10~100μmであるのが好ましい。膜厚が10μm以上であると、耐久性、機械的強度が向上し、100μm以下であると、熱膨張時の寸法変化が少なく、本シートや、本シートが他材料と積層された積層体(銅張積層板等)の反りを抑制できる。できる。薄膜の厚みは、15μm以上であるのが好ましく、20μm以上がより好ましく、また95μm以下であるのが好ましく、90μm以下がより好ましい。
【0093】
本発明はまた、上記フッ素樹脂組成物の層を銅箔基板の表面に形成し、加熱することによるプリント配線板の製造方法も含む。加熱は窒素雰囲気下で行うのが好ましい。
【0094】
加熱温度は、フッ素樹脂の融点以上であり、300~400℃であるのが好ましく、350~370℃がより好ましい。また、加熱時間は、溶融が出来、生産性の観点から、20分~2時間が好ましく、30分~2時間がより好ましい。
【0095】
本発明の処理基板及びプリント配線板は、金属箔として銅箔を用いたとき、その比誘電率が、周波数10GHzにおいて2.0~3.5であるのが好ましい。処理基板及びプリント配線板の周波数10GHzでの比誘電率が前記範囲であると、電気特性に優れるので電子機器や通信機器等への利用が期待できる。比誘電率の下限は、2.2以上がより好ましく、2.3以上がさらに好ましく、また上限は、3.2以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
【0096】
比誘電率は、25℃、10GHzにおいて、JISR 1641:2007に規定されている方法に従い、ネットワークアナライザ(例えば、キーサイト社製E8362B)を用いて測定できる。
【0097】
また、金属箔として銅箔を用いたときの処理基板及びプリント配線板の誘電正接は、周波数10GHzにおいて0.01以下であるのが好ましい。処理基板及びプリント配線板の周波数10GHzでの誘電正接が前記範囲であると、電気特性に優れるので電子機器や通信機器等への利用が期待できる。誘電正接は、0.008以下であるのがより好ましく、0.0065以下がさらに好ましい。誘電正接が小さいほど、回路の伝送損失が抑えられるため、下限値は特に限定されない。
【0098】
誘電正接は、25℃、10GHzにおいて、JISR 1641:2007に規定されている方法に従い、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)(例えば、Agilent Technologies社製)を用いて測定できる。
【0099】
また、金属箔として銅箔を用いたときの処理基板及びプリント配線板の平均線膨張率は、10~50ppm/℃であるのが好ましい。平均線膨張率が前記範囲であると、基材として広く使用される銅箔の熱膨張係数に近い範囲であるので、電気特性に優れる。平均線膨張率は、12ppm/℃以上であるのがより好ましく、15ppm/℃以上がさらに好ましく、また40ppm/℃以下であるのがより好ましく、30ppm/℃以下がさらに好ましい。
【0100】
平均線膨張率は、熱機械分析装置(例えば、島津製作所社製、「TMA-60」)を使用して、処理基板を荷重5N、昇温速度2℃/minで加熱し、30℃から150℃までのサンプルの寸法変化を測定し、平均を算出することで求められる。
【0101】
また、金属箔として銅箔を用いたときの処理基板及び銅張積層板の吸水率(水分吸着量)が1.5%以下であるのが好ましい。吸水率が1.5%以下であると、樹脂組成物を処理して薄膜を形成した際の吸湿量が減少し、樹脂組成物の誘電損失を抑えられる。
【0102】
吸水率は、JIC C 6481のプリント配線板用銅張積層板試験方法中の吸水率試験に基づき行う。
処理基板又はプリント配線板の切断面をJIS R 6252に規定のP240以上の研磨紙などで平滑に仕上げて、前処理として50±2℃に保った恒温槽中で24±1時間放置する。処理後の試料をデシケータ中で25℃まで冷却し、その質量を量る。次に、23±0.5℃の蒸留水の入った吸水用容器に24±1時間浸せきしてから取り出し、乾燥した清浄な布などで十分ふき取り、表面のちりを払い、1分間以内にひょう量瓶に入れて密栓し、吸水後の重さを量る。得られた結果より次の式によって吸水率W(%)を算出する。
=W-W/W×100
:吸水前の試料の質量(g)
:吸水後の試料の質量(g)
【0103】
また、金属箔として銅箔を用いたときの処理基板及びプリント配線板の引張強度は11MPa以上であることが好ましい。引張強度が前記範囲であると機械的強度を担保できる。引張強度は、15MPa以上であることがより好ましく、17MPa以上がさらに好ましく、また、100Mpa以下であるのがより好ましく、50MPa以下がさらに好ましい。
【0104】
引張強度は、JIS K7127プラスチック-引張特性の試験方法を参考にし、株式会社島津製作所製オートグラフ(AGX-V)を用いて求めることができる。
【実施例0105】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の説明において、共通する成分は同じものを用いている。
例1~3は実施例であり、例4~8は比較例である。
【0106】
(製造例1)
モノマーとして5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸(以下、NAH)、日立化成社製)、テトラフルオロエチレン(TFE)及びPPVE(CF=CFO(CFF、AGC社製)を用いて、国際公開第2016/017801号の[0123]に記載の手順でTFE系ポリマーであるポリマーXを製造した。
ポリマーXの共重合組成は、NAH単位/TFE単位/PPVE単位=0.1/97.9/2.0(モル%)であった。ポリマーXの融点は300℃であり、MFRは17.6g/10分であり、比誘電率(10GHz)は2.0であり、260℃における貯蔵弾性率は1.1MPaであった。また、得られたポリマーXは粒状であり、その平均粒子径は1554μmであった。
次いで、ジェットミル(セイシン企業社製、シングルトラックジェットミル FS-4型)を用い、粉砕圧力0.5MPa、処理速度1kg/hrの条件で、ポリマーXを粉砕して樹脂パウダーP-1を得た。
樹脂パウダーP-1の平均粒径D50は2.58μmであり、粗大粒径D90は7.1μmであった。
【0107】
(例1)
1.フッ素樹脂組成物の作製
原料中空シリカ粒子(AGC社製、平均粒径700nm、Ar比重0.61g/cm)をIPA/トルエン中に分散し、トリフルオロプロピルトリメトキシシランとエチレンジアミンを添加し、80℃で4時間加熱撹拌した。得られたシリカを目開き0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過洗浄し、トリフロオロプロピルトリメトキシシラン処理中空シリカ粒子を得た。
次に、30gの樹脂パウダーP-1、3gのノニオン性のフッ素系界面活性剤(ネオス社製、フタージェント710FL)、30gのN-メチル-2-ピロリドン、及び前記で作製したトリフロオロプロピルトリメトキシシラン処理中空シリカ粒子9gをポットに投入し、株式会社シンキー製自転・公転方式ミキサー「あわとり練太郎」で2000rpm、3分間以上混合して均一に分散させ、フッ素樹脂組成物を得た。
【0108】
2.両面銅張積層板の作製
厚さ18μmの銅箔(三井金属鉱業社製、TQ-M4-VSP)の表面に、前記フッ素樹脂組成物をドクターブレード法で200μmの厚さで塗布した。これを80℃で10分間加熱して溶媒を乾燥させ(一次乾燥)、次に窒素雰囲気下にて350℃で2時間加熱乾燥させて、基板を形成した。これにより、基板の一方の表面の銅箔が積層された片面銅張積層体を得た。
さらに、前記片面銅張積層体の基板側の表面に、前記と同じ銅箔を積層し、真空ホットプレス装置にて、330℃の温度で8MPaの圧力をかけながら60分間プレスし、両面銅張積層板を得た。
得られたコンポジットCCLの基板において、ポリマーXとシリカとの合計体積に対するシリカの体積の割合は50体積%であり、基板の全体積に対するポリマーXとシリカとの合計体積の割合は100体積%であり、フッ素樹脂薄膜の厚みは90μmであり、基板の厚みは126μmであった。
【0109】
(例2~5)
シリカ粒子の構成、シランカップリング剤の種類、界面活性剤の種類、樹脂の種類等を表1のとおりに変更した以外は例1と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0110】
(例6~8)
シリカ粒子の構成、シランカップリング剤の種類、界面活性剤の種類、樹脂の種類等を表1のとおりに変更した以外は例1と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0111】
<評価>
(凝集状態)
樹脂組成物を株式会社シンキー製自転・公転方式ミキサー「あわとり練太郎」で2000rpm、3分間再混合し、一日静置した後、分散物の気液界面または底部に凝集物がないか目視観察を行った。
凝集物がない場合を「ブツなし」、凝集物が確認された場合を「ブツあり」と評価した。
【0112】
(成形性)
成形性は、銅箔表面に樹脂組成物を塗布し、80℃で10分間、溶媒乾燥させたとき(一次乾燥)の状態を目視で確認し、ひび割れの有無により評価した。
ひび割れが見られなかったものを「良」、ひび割れが見られたものを「不可」と評価した。
【0113】
(引張試験)
引張強度の測定は、JIS K7127プラスチック-引張特性の試験方法を参考にし、株式会社島津製作所製オートグラフ(AGX-V)を用いて求めた。
両面銅張積層板から、長さ130mm×幅2mmの試験片を切り出した。試験片を、長さ方向の一端から30mmの位置で、オートグラフの空気作動式のつかみ歯を駆動し、試験片を保持させた。試験片つかみ具は5kNを使用し、クロスヘッド移動一定速度100mm/secで負荷をかけ試験片を引っ張り、破断時の引っ張り力を読み取り、それを試験片の断面積(厚み×幅)を除すことで引張強度(MPa)を得た。10枚の試験片を用意し、この試験を10回行い、平均値を引張強度(MPa)とした。
【0114】
(吸水率)
水分吸着量は、JIC C 6481のプリント配線板用銅張積層板試験方法中の吸水率試験を参考にして実施した。
両面銅張積層板から原厚のまま長さ及び幅をそれぞれ50±1mmに切り取り、その切断面をJIS R 6252に規定のP240以上の研磨紙などで平滑に仕上げた。前処理として50±2℃に保った恒温槽中で試験片を24±1時間放置した。処理後の試料をデシケータ中で25℃まで冷却し、その質量を1mgの単位まで正確に量った。次に、23±0.5℃の蒸留水の入った吸水用容器に24±1時間浸せきしてから取り出し、乾燥した清浄な布などで十分ふき取り、表面のちりを羽毛又は毛筆で払い、1分間以内にひょう量瓶に入れて密栓し、吸水後の重さを1mgの単位まで量った。次の式によって吸水率W(%)を算出した。
=W-W/W×100
:吸水前の試料の質量(g)
:吸水後の試料の質量(g)
【0115】
(誘電正接)
両面銅張積層板を塩化鉄(III)六水物の水溶液を用いて終夜浸漬することにより銅箔を除去して試験用基板を得た。
試験用基板について、25℃、10GHzにおいて、JISR 1641:2007に規定されている方法に従い、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)(Agilent Technologies社製)を用いて誘電正接を測定した。
【0116】
(比誘電率)
両面銅張積層板を塩化鉄(III)六水物の水溶液を用いて終夜浸漬することにより銅箔を除去して試験用基板を得た。
試験用基板について、25℃、10GHzにおいて、JISR 1641:2007に規定されている方法に従い、ネットワークアナライザ(キーサイト社製E8362B)を用いて比誘電率を測定した。
【0117】
【表1】
【0118】
表1の結果より、例1~3で作製したフッ素樹脂組成物は、成形性に優れ、薄膜としたときの機械的強度も高く、吸湿性にも優れており、両面銅張積層板における誘電正接及び比誘電率も十分に低いものであった。
これに対し、例4~8で作製した樹脂組成物は、銅箔に塗布、乾燥したときにひび割れが見られ、成形性が悪かった。例4~5については、薄膜にしたときの機械的強度が例1~3に比べて低かった。例6~8については、塗工後に筋が入り、一次乾燥後にひび割れてしまったため膜評価を行わなかった。