IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-リチウムイオン二次電池 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池 図2
  • 特開-リチウムイオン二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082009
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240612BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240612BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240612BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195681
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕太
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM07
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を抑制できるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極板21と、負極板25と、LiPF6 を含む電解液30と、を備えるリチウムイオン二次電池100において、電解液30は、フッ化物イオンを捕捉するホウ酸トリエステル化合物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、LiPF6 を含む電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池において、
前記電解液は、フッ化物イオンを捕捉するホウ酸トリエステル化合物を含む
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記ホウ酸トリエステル化合物は、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)である
リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)は、前記電解液中に1.0mol/L以上2.0mol/L以下の範囲内の濃度で含まれている
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スルトン化合物Aとホウ素化合物Bとを含有する非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池が開示されている。このリチウムイオン二次電池では、スルトン化合物Aの作用により、電池の保存時の抵抗上昇を抑制できる。その理由は明らかではないが、電池の保存時に、電極(負極または正極)の表面にスルトン化合物Aに由来する被膜が形成され、電池の保存時に形成される上記被膜の作用により、保存時の電極の劣化を防止して、抵抗の上昇が抑制されるためと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-22525号公報
【0004】
さらに、このリチウムイオン二次電池では、ホウ素化合物Bの作用により、電池の初期抵抗(即ち、保存前の抵抗)を低減できる。その理由は明らかではないが、ホウ素化合物Bが、スルトン化合物Aと比較して、還元反応性が高いことが関係していると考えられる。即ち、ホウ素化合物Bは、還元反応性が高いために、電池の保存前において、負極の表面にスルトン化合物Aよりも速やかに被膜を形成すると考えられる。電池の保存前に形成される上記被膜の作用により、電池の初期抵抗(保存前の抵抗)が低減されると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、LiPF6 を含む電解液では、例えば、電解液中に含まれる微量の水分とLiPF6 とが反応して、HF(フッ化水素)が発生することがある。このHFが電離することによって生じたフッ化物イオン(F)の作用によって、正極板または負極板を構成する集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び、負極活物質の被膜の分解が生じることがあった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を抑制できるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、正極板と、負極板と、LiPF6 を含む電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池において、前記電解液は、フッ化物イオンを捕捉するホウ酸トリエステル化合物を含むリチウムイオン二次電池である。
【0008】
上述のリチウムイオン二次電池では、電解液として、「フッ化物イオン(F)を捕捉するホウ酸トリエステル化合物」を含む電解液を使用する。このようなリチウムイオン二次電池では、電解液に含まれているホウ酸トリエステル化合物によって、HFの電離によって生じたフッ化物イオンを捕捉することができるので、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を抑制することができる。なお、フッ化物イオンは、ホウ酸トリエステル化合物のホウ素原子に配位結合することで、ホウ酸トリエステル化合物に捕捉される。
【0009】
また、ホウ酸トリエステル化合物としては、例えば、ホウ酸トリアルキル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ(アルキル化フェニル)、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を挙げることができる。このうち、ホウ酸トリアルキルとしては、例えば、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、ホウ酸トリオクタデシルを挙げることができる。また、ホウ酸トリ(アルキル化フェニル)としては、例えば、ホウ酸トリ-o-トリル、ホウ酸トリ(2,4,6-トリメチルフェニル)を挙げることができる。また、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)としては、例えば、ホウ酸トリ(4-クロロフェニル)、ホウ酸トリ(2,4,6-トリフルオロフェニル)を挙げることができる。
【0010】
(2)さらに、前記(1)のリチウムイオン二次電池であって、前記ホウ酸トリエステル化合物は、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0011】
ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)は、ホウ酸トリエステル化合物の中でも、特に、フッ化物イオンの捕捉能力が高い化合物である。このため、上述のリチウムイオン二次電池では、HFの電離によって生じたフッ化物イオンを、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)によって効率良く捕捉することができる。従って、上述のリチウムイオン二次電池では、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を十分に抑制することができる。なお、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)としては、例えば、ホウ酸トリ(4-クロロフェニル)、ホウ酸トリ(2,4,6-トリフルオロフェニル)などを用いると良い。
【0012】
(3)さらに、前記(2)のリチウムイオン二次電池であって、前記ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)は、前記電解液中に1.0mol/L以上2.0mol/L以下の範囲内の濃度で含まれているリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0013】
上述のリチウムイオン二次電池では、電解液におけるホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度を、1.0mol/L以上2.0mol/L以下の範囲内の値としている。電解液中にホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を1.0mol/L以上の割合で含有することで、HFの電離によって生じたフッ化物イオンの捕捉効果を高くすることができる。しかしながら、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度を2.0mol/Lよりも高くしても、フッ化物イオンの捕捉効果は変わらない。このため、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度を2.0mol/Lよりも高くしても、必要以上にホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を添加することになり、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の無駄になる。従って、電解液は、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を、1.0~2.0mol/Lの範囲内の割合で含有するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の斜視図である。
図2】同リチウムイオン二次電池の正極板の平面図である。
図3】同リチウムイオン二次電池の負極板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100について、図面を参照して説明する。リチウムイオン二次電池100は、ラミネートフィルム11からなる外装体10と、この外装体10の内部に収容された電極体20及び電解液30と、外装体10の内部から外部に延出する正極端子40及び負極端子50を備える(図1参照)。なお、電解液30の多くは、電極体20の内部に含浸している。
【0016】
外装体10は、一対の矩形状をなすラミネートフィルム11同士を重ね合わせ、これらのラミネートフィルム11の周縁部同士を熱溶着することによって形成されている。このため、外装体10は、電極体20及び電解液30を内部に収容する収容部10cと、この収容部10cの周縁に位置して収容部10cを気密に封止する平面視四角環状のシール部10dとからなる(図1参照)。外装体10をなすラミネートフィルム11は、金属箔12と、この金属箔12の両面に積層された一対の樹脂フィルム13とからなる、3層構造のラミネートフィルムである。
【0017】
電極体20は、矩形状の正極板21と、矩形状の負極板25と、これらの間に介在する矩形状のセパレータ29とを備え、これらが厚み方向CHに積層された電極体20である。
【0018】
正極板21は、アルミニウム箔からなる正極集電箔22と、正極集電箔22の表面に積層された正極活物質層23とを備える(図2参照)。正極活物質層23は、正極活物質粒子と結着剤を備える。本実施形態では、正極活物質粒子として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、具体的には、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を用いている。また、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。なお、正極板21の一方端部(図2において左端部)は、正極集電箔22の表面に正極活物質層23が存在しておらず、正極集電箔22が露出した正極集電部22bとなっている。この正極集電部22bには、後述する正極端子40が電気的に接続される。
【0019】
負極板25は、銅箔からなる負極集電箔26と、負極集電箔26の表面に積層された負極活物質層27とを備える(図3参照)。負極活物質層27は、負極活物質粒と結着剤とを備える。本実施形態では、負極活物質粒子として黒鉛粒子を用いている。なお、負極板25の他方端部(図3において右端部)は、負極集電箔26の表面に負極活物質層27が存在しておらず、負極集電箔26が露出した負極集電部26bとなっている。この負極集電部26bには、後述する負極端子50が電気的に接続される。
【0020】
正極端子40は、アルミニウムからなり、細長形状をなしている。正極端子40の一方端部は、電極体20を構成する正極板21の正極集電部22bに接続しており、外装体10の収容部10c内に配置される(図1及び図2参照)。この正極端子40は、外装体10のシール部10dを通じて外装体10の外部に延出している。
【0021】
また、負極端子50は、銅からなり、細長形状をなしている。負極端子50の一方端部は、電極体20を構成する負極板25の負極集電部26bに接続しており、外装体10の収容部10c内に配置される(図1及び図3参照)。この負極端子50は、外装体10のシール部10dを通じて外装体10の外部に延出している。なお、負極端子50は、正極端子40とは反対側に延出している。
【0022】
電解液30は、有機溶媒とLiPF6とを有する非水電解液である。本実施形態では、有機溶媒として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとを、重量比で3:3:4で混合した有機溶媒を用いている。また、電解液30におけるLiPF6 の濃度は、1.16mol/Lである。
【0023】
ところで、従来、LiPF6 を含む電解液では、電解液中に含まれる微量の水分とLiPF6 とが反応して、HF(フッ化水素)が発生することがあった。このHFが電離することによって生じたフッ化物イオン(F)の作用によって、正極板または負極板を構成する集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び、負極活物質の被膜の分解が生じることがあった。
【0024】
これに対し、本実施形態の電解液30は、フッ化物イオン(F)を捕捉するホウ酸トリエステル化合物を含んでいる。このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池100では、電解液30に含まれているホウ酸トリエステル化合物によって、HFの電離によって生じたフッ化物イオンを捕捉することができる。これにより、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を抑制することができる。なお、フッ化物イオンは、ホウ酸トリエステル化合物のホウ素原子に配位結合することで、ホウ酸トリエステル化合物に捕捉される。
【0025】
ホウ酸トリエステル化合物としては、例えば、ホウ酸トリアルキル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ(アルキル化フェニル)、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を用いることができる。このうち、ホウ酸トリアルキルとしては、例えば、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、ホウ酸トリオクタデシルを用いることができる。また、ホウ酸トリ(アルキル化フェニル)としては、例えば、ホウ酸トリ-o-トリル、ホウ酸トリ(2,4,6-トリメチルフェニル)を用いることができる。また、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)としては、例えば、ホウ酸トリ(4-クロロフェニル)、ホウ酸トリ(2,4,6-トリフルオロフェニル)を用いることができる。
【0026】
このうち、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)は、ホウ酸トリエステル化合物の中でも、特に、フッ化物イオンの捕捉能力が高い化合物である。このため、電解液30として、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を含有する電解液30を用いることで、HFの電離によって生じたフッ化物イオンを、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)によって効率良く捕捉することができる。これにより、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を十分に抑制することができる。なお、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)として、ホウ酸トリ(4-クロロフェニル)、ホウ酸トリ(2,4,6-トリフルオロフェニル)などを用いると良い。
【0027】
<実施例1>
実施例1のリチウムイオン二次電池100では、ホウ酸トリエステル化合物としてホウ酸トリアルキルを含有する電解液30を用いている。より具体的には、ホウ酸トリアルキルとして、下記の化学式1で表されるホウ酸トリエチルを用いている。また、電解液30におけるホウ酸トリエチルの濃度は、1.0mol/Lである。
【0028】
【化1】
【0029】
<実施例2>
実施例2のリチウムイオン二次電池100では、ホウ酸トリエステル化合物としてホウ酸トリフェニルを含有する電解液30を用いている。なお、ホウ酸トリフェニルは、下記の化学式2で表される化合物である。また、電解液30におけるホウ酸トリフェニルの濃度は、1.0mol/Lである。
【0030】
【化2】
【0031】
<実施例3>
実施例3のリチウムイオン二次電池100では、ホウ酸トリエステル化合物としてホウ酸トリ(アルキル化フェニル)を含有する電解液30を用いている。より具体的には、ホウ酸トリ(アルキル化フェニル)として、下記の化学式3で表されるホウ酸トリ-o-トリルを用いている。また、電解液30におけるホウ酸トリ-o-トリルの濃度は、1.0mol/Lである。
【0032】
【化3】
【0033】
<実施例4~7>
実施例4~7のリチウムイオン二次電池100では、ホウ酸トリエステル化合物としてホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を含有する電解液30を用いている。より具体的には、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)として、下記の化学式4で表されるホウ酸トリ(4-クロロフェニル)を用いている。
【0034】
【化4】
【0035】
但し、実施例4~7では、電解液30におけるホウ酸トリ(4-クロロフェニル)の濃度が異なっている。具体的には、実施例4では、電解液30におけるホウ酸トリ(4-クロロフェニル)の濃度を、1.0mol/Lとしている。実施例5では、電解液30におけるホウ酸トリ(4-クロロフェニル)の濃度を、0.1mol/Lとしている。実施例6では、電解液30におけるホウ酸トリ(4-クロロフェニル)の濃度を、2.0mol/Lとしている。実施例7では、電解液30におけるホウ酸トリ(4-クロロフェニル)の濃度を、5.0mol/Lとしている。
【0036】
<比較例1>
比較例1のリチウムイオン二次電池は、実施例1~7のリチウムイオン二次電池1と比較して、電解液中にホウ酸トリエステル化合物が含まれていない点のみが異なり、その他は同等である。
【0037】
<フッ化物イオン捕捉能力の評価試験>
実施例1~7及び比較例1のリチウムイオン二次電池について、フッ化物イオンの捕捉能力の評価を行った。まず、各リチウムイオン二次電池について、以下のサイクル充放電を行った。具体的には、各リチウムイオン二次電池について、電池電圧値を3.0Vにした状態から、1Cの定電流で、電池電圧値が4.3Vに達するまで定電流充電を行う。引き続いて、0.5Cの定電流で、電池電圧値が3.0Vに達するまで、定電流放電を行う。この充放電サイクルを1サイクルとして、各リチウムイオン二次電池について、5サイクルの充放電を行った。
【0038】
その後、各リチウムイオン二次電池を解体して、負極板25に含まれているフッ化物イオンの濃度を、IC(イオンクロマトグラフィー)分析によって測定した。なお、本試験では、以下のようにして、IC分析を行っている。
【0039】
まず、前述のサイクル充放電を行った実施例1のリチウムイオン二次電池100を解体して、負極板25を取り出す。そして、取り出した負極板25から、縦30mm×横30mmの正方形状の試験片を切り出す。次いで、切り出した試験片を、アセトニトリル中に浸漬する。そして、試験片を浸漬させたアセトニトリルに超音波振動を加えて、負極集電箔26から負極活物質層27を剥離すると共に、試験片に含まれているフッ化物イオンを、アセトニトリル中に溶解させて、アセトニトリル溶液を得る。次いで、このアセトニトリル溶液を濾過し、フッ化物イオンを含有する濾液を得る。この濾液をIC分析することで、フッ化物イオン濃度を測定した。
【0040】
なお、本試験では、IC分析装置として、日本ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフィー(ICS-600)を用いている。また、フッ化物イオン濃度は、試験片に含まれる負極活物質に対する質量%濃度としている。実施例2~7及び比較例1のリチウムイオン二次電池についても、同様にして、フッ化物イオン濃度(質量%)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、比較例1のリチウムイオン二次電池では、前述のサイクル充放電を行った後のフッ化物イオン濃度が、0.42質量%であった。これに対し、実施例1~7のリチウムイオン二次電池では、前述のサイクル充放電後のフッ化物イオン濃度が、0.40質量%以下となり、比較例1よりも低い値となった。
【0043】
その理由は、実施例1~7のリチウムイオン二次電池100では、比較例1のリチウムイオン二次電池とは異なり、電解液として、ホウ酸トリエステル化合物を含有する電解液30を用いているからである。実施例1~7のリチウムイオン二次電池100では、電解液30に含まれているホウ酸トリエステル化合物によって、HFの電離によって生じたフッ化物イオンを捕捉することができたといえる。従って、実施例1~7のリチウムイオン二次電池100では、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を抑制できるといえる。
【0044】
さらに、試験結果を詳細に検討する。まず、実施例1~4のリチウムイオン二次電池100の結果を比較する。実施例1~4は、電解液30に添加したホウ酸トリエステル化合物の種類が異なるが、添加量(濃度)はいずれも1.0mol/Lと等しい関係にある。具体的には、ホウ酸トリエステル化合物として、実施例1ではホウ酸トリアルキル、実施例2ではホウ酸トリフェニル、実施例3ではホウ酸トリ(アルキル化フェニル)、実施例4ではホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を用いている。実施例1~4について、サイクル充放電後のフッ化物イオン濃度を比較すると、実施例1~3は、0.30質量%以上であったのに対し、実施例4は、0.23質量%となり、4つの実施例の中で最も低い値を示した(表1参照)。
【0045】
この結果から、ホウ酸トリエステル化合物として、実施例4のホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を用いるのが、より好ましいといえる。ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)は、ホウ酸トリエステル化合物の中でも、特に、フッ化物イオンの捕捉能力が高い化合物であるといえる。リチウムイオン二次電池の電解液として、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を含有する電解液30を用いることで、HFの電離によって生じたフッ化物イオンを、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)によって効率良く捕捉することができるといえる。これにより、「集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解」を十分に抑制することができるといえる。なお、実施例4では、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)として、ホウ酸トリ(4-クロロフェニル)を用いたが、ホウ酸トリ(2,4,6-トリフルオロフェニル)などを用いるようにしても良い。
【0046】
次に、実施例4~7の試験結果を比較する。実施例4~7は、ホウ酸トリエステル化合物としてホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を用いている点で共通しているが、その濃度が異なる関係にある。具体的には、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度は、実施例5では0.1mol/L、実施例4では1.0mol/L、実施例6では2.0mol/L、実施例7では5.0mol/Lとしている。実施例1~4について、サイクル充放電後のフッ化物イオン濃度を比較すると、実施例5は0.40質量%であったのに対し、実施例4,6,7は、0.23質量%以下となり、極めて低い値を示した(表1参照)。
【0047】
この結果から、リチウムイオン二次電池の電解液中に、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を1.0mol/L以上の割合で添加することで、HFの電離によって生じたフッ化物イオンの捕捉効果を高くすることができるといえる。しかしながら、実施例6,7の試験結果からわかるように、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度を2.0mol/Lよりも高くしても、フッ化物イオンの捕捉効果は変わらない。このため、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度を2.0mol/Lよりも高くしても、必要以上にホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を添加することになり、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の無駄になる。従って、電解液中には、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を1.0~2.0mol/Lの範囲内の割合で添加するのが好ましいといえる。すなわち、リチウムイオン二次電池の電解液におけるホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)の濃度は、1.0~2.0mol/Lの範囲内の値にするのが好ましいといえる。
【0048】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0049】
例えば、実施例1では、ホウ酸トリアルキルとして、ホウ酸トリエチルを用いたが、これに限定されることなく、例えば、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)やホウ酸トリオクタデシルなど、他のホウ酸トリアルキルを用いるようにしても良い。また、実施例3では、ホウ酸トリ(アルキル化フェニル)として、ホウ酸トリ-o-トリルを用いたが、これに限定されることなく、ホウ酸トリ(2,4,6-トリメチルフェニル)など、他のホウ酸トリ(アルキル化フェニル)を用いるようにしても良い。また、実施例4~7では、ホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)として、ホウ酸トリ(4-クロロフェニル)を用いたが、これに限定されることなく、ホウ酸トリ(2,4,6-トリフルオロフェニル)など、他のホウ酸トリ(ハロゲン化フェニル)を用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 外装体
20 電極体
21 正極板
25 負極板
30 電解液
40 正極端子
50 負極端子
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3