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特開2024-8201改質セルロース繊維及び樹脂を含む分離膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008201
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】改質セルロース繊維及び樹脂を含む分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/12 20060101AFI20240112BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20240112BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
B01D71/12
D06M13/325
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109876
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】竹内 黎明
【テーマコード(参考)】
4D006
4L033
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006GA41
4D006MA03
4D006MC16X
4D006MC27
4D006MC37X
4D006MC48
4D006MC50
4D006MC51
4D006MC52
4D006MC53
4D006MC58
4D006MC65X
4D006MC68
4D006MC71
4D006MC73
4D006MC74
4D006MC75X
4D006NA03
4D006PA01
4D006PA05
4D006PB17
4D006PB19
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA45
(57)【要約】
【課題】薄膜化が達成可能な機械的強度に優れた分離膜及び該分離膜を用いた分離方法を提供すること。
【解決手段】(1)修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維、及び(2)樹脂を含む分離膜。並びに、前記分離膜に処理対象物を供給し、前記処理対象物中の透過性が高い物質を、前記分離膜を透過させることにより他の物質から分離する工程を含む分離方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維、及び
樹脂
を含む分離膜。
【請求項2】
前記分離膜における、前記セルロース繊維中のグルコース部分と前記樹脂との質量比(セルロース繊維/樹脂)が0.001/100以上20/100以下である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記分離膜における、前記セルロース繊維中のグルコース部分の含有量が0.01質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜に処理対象物を供給し、前記処理対象物中の透過性が高い物質を、前記分離膜を透過させることにより他の物質から分離する工程を含む分離方法。
【請求項5】
修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維、及び
樹脂
を混合する混合工程を含む分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程によって得られた混合液を成膜する工程を更に含む、請求項5に記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質セルロース繊維及び樹脂を含む分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO回収を目的としたガス分離膜や、水浄化(海水の淡水化)を目的とした逆浸透膜等の分離膜の高性能化が求められている。分離能を維持したまま高い処理量を達成する「膜の高強度化による薄膜化」は高性能化の方向性の一つである。
【0003】
例えば、環境調和性材料であるセルロースナノファイバー(CNF)は強度に優れていることから、少量の添加で樹脂等と複合化させた場合に補強材として作用することが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、既存技術では、膜を構成する樹脂成分中へのCNFの分散性が不十分であり、薄膜化による高性能化は膜均質性の観点から困難である(特許文献2)。さらに、樹脂膜との積層による複合化検討もなされているが、成形加工性に課題がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-241450号公報
【特許文献2】特開2016-145270号公報
【特許文献3】特開2021-159915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、薄膜化が達成可能な機械的強度に優れた分離膜を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、修飾基を有するCNFを用いることにより、得られた膜の均質化が達成できることや、かかる膜を用いて処理対象物を分離すると、分離能を損なうことなく膜の強度の向上が図れたことも見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、下記〔1〕~〔3〕に関する。
〔1〕 修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維、及び
樹脂
を含む分離膜。
〔2〕 前記〔1〕に記載の分離膜に処理対象物を供給し、前記処理対象物中の透過性が高い物質を、前記分離膜を透過させることにより他の物質から分離する工程を含む分離方法。
〔3〕 修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維、及び
樹脂
を混合する混合工程を含む分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薄膜化が達成可能な機械的強度に優れた分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1において製造された膜のレーザーマイクロスコープによる顕微鏡写真(370倍)である。
図2図2は、比較例1において製造された膜のレーザーマイクロスコープによる顕微鏡写真(370倍)である。
図3図3は、実施例2において製造された膜のレーザーマイクロスコープによる顕微鏡写真(370倍)である。
図4図4は、実施例3において製造された膜のレーザーマイクロスコープによる顕微鏡写真(370倍)である。
図5図5は、比較例2において製造された膜のレーザーマイクロスコープによる顕微鏡写真(370倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明の分離膜
本発明の分離膜は、修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維(本明細書において、「改質セルロース繊維」と称する。)及び樹脂を含有する。
本発明の分離膜が上述の効果を発揮する詳細なメカニズムは不明だが、修飾基を有するセルロース繊維を使用することで、樹脂成分中でのセルロース繊維の分散性が向上し、その結果、膜の均質化が達成できたことが推定される。さらに、均質性が高い膜は、膜の強度の向上が達成できることから、修飾基を有するセルロース繊維を使用することによって、膜の薄膜化の達成が期待できる。
【0012】
〔改質セルロース繊維〕
本発明における改質セルロース繊維とは、修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維である。修飾基は、セルロース繊維が有するヒドロキシ基の一部若しくは全てのヒドロキシ基に結合しているか、又はそのヒドロキシ基がカルボキシ基に変換されたそのカルボキシ基に結合していることが好ましく、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に結合していることがより好ましく、グルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)がカルボキシ基(-COOH)に変換されたそのカルボキシ基に結合していることが更に好ましい。修飾基がイオン結合を介してカルボキシ基に結合している場合、例えば、「-COO-修飾基」という結合様式となり、修飾基がアミド結合を介してカルボキシ基に結合している場合、例えば、「-CONH-修飾基」という結合様式となる。本明細書における「グルコース部分」とは、グルコース単位からなる部分を意味し、未修飾セルロース繊維の場合はグルコース単位の全体であり、アニオン変性セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合したアニオン性基を含めたグルコース単位の全体であり、改質セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合した修飾基を除いたグルコース単位の全体である。即ち、本明細書におけるグルコース単位は、ヒドロキシメチル基がカルボキシ基に変換されたグルコース単位も含む。
【0013】
(アニオン変性セルロース繊維)
アニオン変性セルロース繊維とは、アニオン性基、例えばカルボキシ基、(亜)リン酸基及びスルホン酸基からなる群より選択される1種以上の基を分子内に有するセルロース繊維である。入手容易性及び効果の観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース繊維(「酸化セルロース繊維」と称する。)が好ましく、セルロース繊維を構成するグルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換されたアニオン変性セルロース繊維(「TEMPO酸化セルロース繊維」と称する。)がより好ましい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
【0014】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量としては、安定な修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.7mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.9mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するグルコース部分中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0015】
アニオン変性セルロース繊維の平均重合度は、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは80以上であり、樹脂中での改質セルロース繊維の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは700以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは200以下である。
【0016】
アニオン変性セルロース繊維の平均重合度は、例えば、アニオン変性セルロース繊維溶液の粘度、アニオン変性セルロースの分散液の動粘度、光透過度、アニオン変性セルロースの分散液の固液分離により、測定することができる。
【0017】
アニオン変性セルロース繊維溶液の粘度による場合は、以下の操作で測定することができる。
アニオン変性セルロース繊維を0.5M銅エチレンジアミン溶液で溶解させ、アニオン変性セルロース繊維溶液(濃度約0.2質量%)を調製する。
Tappi T230に従い、パルプ粘度(ここではアニオン変性セルロース繊維の粘度)を測定する。また、前記溶媒のみで粘度を測定してブランクテストを行い、ブランク粘度を測定する。パルプ粘度をブランク粘度で割った数値から1を引いて比粘度(ηsp)とし、下記式を用いて、固有粘度([η])を算出する。
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
式中のcは、粘度測定時のアニオン変性セルロース繊維の濃度を示す。
そして、下記式からアニオン変性セルロース繊維の重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
【0018】
アニオン変性セルロース繊維の分散液の動粘度による場合は、以下の操作で測定することができる。
平均重合度が既知のアニオン変性セルロース繊維を複数用意し、それぞれのアニオン変性セルロース繊維を水等の分散媒に分散させ、標準液とする。
このとき、標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度は、約0.1質量%で同一になるようにようにする。
各標準液の動粘度を、例えばキャノンフェンスケ、ウベローデ、オストワルドなどの毛細管粘度計やスタビンガー型動粘度計などで測定し、検量線を作製する。
測定対象のアニオン変性セルロース繊維を、分散液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度が標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度と同一となるように、標準液の調製に使用したのと同種の分散媒に分散させて、試料とする。
試料の動粘度を、標準液の動粘度と同一の条件で測定する。測定された試料の動粘度を検量線に代入し、測定対象のアニオン変性セルロース繊維の重合度(DP)を算出する。
【0019】
アニオン変性セルロース繊維の分散液の光透過度による場合は、以下の操作で測定することができる。
平均重合度が既知のアニオン変性セルロース繊維を複数用意し、それぞれのアニオン変性セルロース繊維を水等の分散媒に分散させ、標準液とする。
このとき、標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度は、約1質量%で同一になるようにする。
各標準液の光透過度を、例えば波長が660nmの条件で測定し、検量線を作製する。
測定対象のアニオン変性セルロース繊維を、分散液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度が標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度と同一となるように、標準液の調製に使用したのと同種の分散媒に分散させて、試料とする。
試料の光透過度を、標準液の光透過度と同一の条件で測定する。測定された試料の光透過度を検量線に代入し、測定対象のアニオン変性セルロース繊維の重合度(DP)を算出する。
【0020】
アニオン変性セルロースの分散液の固液分離後のケーク固形分濃度による場合は、以下の操作で測定することができる。
平均重合度が既知のアニオン変性セルロース繊維を複数用意し、それぞれのアニオン変性セルロース繊維を水等の分散媒に分散させ、標準液とする。
このとき、標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度は、約2質量%で同一になるようにようにする。
各標準液を同一条件の遠心分離、沈降分離、濾過分離等の固液分離により、固液を分離し、得られたケーク中の固形分濃度を測定し、検量線を作製する。
測定対象のアニオン変性セルロース繊維を、分散液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度が標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度と同一となるように、標準液の調製に使用したのと同種の分散媒に分散させて、試料とする。
試料に対して、標準液と同一の条件の遠心分離により、固液を分離し、得られたケーク中の固形分濃度を検量線に代入し、測定対象のアニオン変性セルロース繊維の重合度(DP)を算出する。
【0021】
(修飾基)
修飾基としては、(a)炭化水素基及び(b)ポリマー基が好適例として挙げられる。これらの修飾基は1種又は2種以上が組み合わさって、セルロース繊維、好ましくはアニオン変性セルロース繊維に結合してもよい。
【0022】
(a)炭化水素基
炭化水素基としては、一価の炭化水素基、例えば、直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、アリール基、アラルキル基及び複素環式芳香族炭化水素基が挙げられる。
炭化水素基の炭素数は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、1以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、同様の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。炭化水素基は、後述する置換基を有していてもよく、炭化水素基の一部が窒化水素基に置換されていてもよい。
【0023】
直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは直鎖の鎖式飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0024】
鎖式不飽和炭化水素基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
【0025】
環式飽和炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0026】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられる。
【0027】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基等が挙げられる。
複素環式芳香族炭化水素基としては、例えば、イミダゾール基、メチルイミダゾール基、エチルイミダゾール基、プロピルイミダゾール基、2-フェニルイミダゾール基、ベンゾイミダゾール基及びこれらの基が置換基で置換された基等が挙げられる。
【0028】
(b)ポリマー基
本発明におけるポリマー基とは、ポリマー構造を含有する官能基である。
ポリマー基の式量(分子量)は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、更に好ましくは500以上、更に好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,500以上である。同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは10,000以下、更に好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,500以下、更に好ましくは2,500以下である。
【0029】
ポリマー基は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは、酸素原子を有する構造によって連結される繰り返し構造を有する官能基、より好ましくは、ポリオキシアルキレン構造、ポリシロキサン構造等の、酸素原子によって連結される繰り返し構造を有する官能基、より好ましくはポリオキシアルキレン構造を有する官能基、更に好ましくはアルコキシポリオキシアルキレン基である。
【0030】
ポリオキシアルキレン構造は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは炭素数が2以上8以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、より好ましくは炭素数が2以上4以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)から選ばれる1種又は2種のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造(EO/PO共重合体構造)である。
【0031】
エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造としては、例えば、次式で示される構造が挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
(式中、Rは水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は-CHCH(CH)NH基を示す。EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数、bはPOの平均付加モル数を示す正の数である。)
【0034】
は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
【0035】
aは、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは11以上、更に好ましくは15以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、更に好ましくは30以上である。同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
【0036】
bは、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。同様の観点から、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、更に好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
前記式におけるa+bはEOとPOの合計の平均付加モル数を示し、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上であり、同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。
【0037】
EO/PO共重合体構造におけるPOの含有率(モル%)は、前記aとbに基づいて計算することが可能であり、具体的にはb×100/(a+b)より求めることができる。POの含有率は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上、更に好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上である。同様の観点から、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは85モル%以下、更に好ましくは75モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
【0038】
(c)更なる置換基
なお、修飾基はさらに置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1以上6以下のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1以上6以下のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1以上6以下のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数1以上6以下のジアルキルアミノ基;ヒドロキシ基が挙げられる。
【0039】
〔改質セルロース繊維の製造方法〕
改質セルロース繊維は、例えば、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性セルロース繊維を製造し(工程1)、次いで、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させること(工程2)によって、製造することができる。
【0040】
(工程1)
(a)原料のセルロース繊維
アニオン変性セルロース繊維の原料であるセルロース繊維としては、環境面から天然セルロースが好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0042】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは25μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0043】
(b)アニオン性基の導入方法
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロース繊維のヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロース繊維のヒドロキシ基に、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0044】
セルロース繊維のヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、特開2015-143336号公報又は特開2015-143337号公報に記載の、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を原料のセルロース繊維と反応させる方法が挙げられる。TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース繊維を構成するグルコース単位中のC6位のヒドロキシメチル基が選択的にカルボキシ基に変換され、前述のTEMPO酸化セルロース繊維を得ることができる。
【0045】
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基として(亜)リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液に(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0046】
(工程2)
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基への修飾基の結合は、アニオン性基に修飾基を導入するための化合物(「修飾用化合物」と称する。)とアニオン変性セルロース繊維とを反応させることで達成される。修飾基を結合させる方法としては、(1)イオン結合を介して結合させる場合は特開2015-143336号公報を参考にすることができ、(2)アミド結合を介して結合させる場合は特開2015-143337号公報を参考にすることができる。
工程2の終了後、未反応の化合物等を除去するために、後処理を適宜行ってもよい。後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0047】
(微細化工程)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階(例えば、工程1の前、工程2の前及び工程2の後)においてセルロース繊維を微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、樹脂中での分散性が向上するため、好ましい。
【0048】
微細化処理は公知の微細化処理方法を採用することができる。例えば、平均繊維径がナノメートルサイズの改質セルロース繊維を得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理方法や、媒体中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理方法を実施すればよい。
【0049】
媒体としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数2~4のエステル;炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。媒体の使用量は、微細化対象のセルロース繊維を分散できる量であればよく、対象のセルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下である。
【0050】
微細化処理で使用する装置としては、高圧ホモジナイザー以外にも、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における対象のセルロース繊維の固形分含有率は50質量%以下が好ましい。
【0051】
(短繊維化処理)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階において、セルロース繊維を短繊維化処理してもよい。
短繊維化処理は、対象のセルロース繊維を、次の(i)~(iii)に規定される処理方法を単独で又は組み合わせて実施することで達成できる。
(i)アルカリ処理
(ii)酸処理
(iii)熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群から選ばれる1種以上の処理方法
【0052】
〔改質セルロース繊維の性質〕
本発明における改質セルロース繊維の主な性質は以下の通りである。
【0053】
(結晶構造)
改質セルロース繊維は、分離膜の強度発現の観点から、セルロースI型結晶構造を有するものが好ましい。改質セルロース繊維の結晶化度は、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロース繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0054】
(平均繊維径)
改質セルロース繊維は、ナノメートルサイズになるように微細化処理を受けたものが好ましい。従って、改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、取扱い性及び分散性を高める観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
【0055】
(平均繊維長)
改質セルロース繊維の平均繊維長としては、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、一方、吐出性、取り扱い性の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
【0056】
(平均アスペクト比)
改質セルロース繊維の平均アスペクト比としては、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、一方、吐出性及び取り扱い性の観点から、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは100以下である。
改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0057】
(修飾基の結合量及び導入率)
改質セルロース繊維における修飾基の結合量は、分離膜に含まれる樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に改質セルロース繊維に導入されている場合、修飾基の結合量の合計が前記範囲内であることが好ましい。
【0058】
改質セルロース繊維における修飾基の導入率は、分散性の観点から、好ましくは10mol%以上であり、高ければ高いほど好ましく、好ましくは100mol%である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100mol%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
【0059】
修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物の種類や添加量、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、改質セルロース繊維において、アニオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。改質セルロース繊維における修飾基の結合量及び導入率は、例えば、アニオン性基がカルボキシ基の場合には、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0060】
〔樹脂〕
本発明における樹脂は、分離膜として使用する観点から、水に溶解しないか、又は水への溶解性が極めて低い非水溶性樹脂が好ましい。具体的には、25℃の水への溶解度が水100g当たり1mg以下である樹脂のことを、非水溶性樹脂と呼ぶ。
【0061】
前記の溶解度は次のとおりに測定する。
100mL(25℃)の水に100mgの樹脂を添加して、スターラー等の撹拌装置を用いて24時間攪拌した後、その溶液(又は懸濁液)を、25℃で3000×gの条件で、30分間遠心分離し、不溶残渣を集める。この残渣を105℃で3日間乾燥し、乾燥後の質量(乾燥質量)を測定する。そして、乾燥質量が99mg未満の樹脂を水溶性、99mg以上の樹脂を非水溶性と判断する。
【0062】
樹脂の具体例としては、メタクリル酸メチルポリマー等のアクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂及びゴム系樹脂等が挙げられる。かかる樹脂はいずれも前記非水溶性樹脂に該当する。
樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。
【0063】
〔その他の成分〕
本発明の分離膜には、必要に応じて、重合開始剤、可塑剤、安定化剤、滑剤、界面活性剤、無機充填剤等の成分が含まれていてもよい。かかる成分の量は特に制限されず、適切な量を適宜採用すればよい。
【0064】
〔分離膜の特徴〕
本発明の分離膜における、改質セルロース繊維中のグルコース部分と樹脂の質量比は、配合量から算出する。
具体的には、分離膜の強度発現の観点から、樹脂100質量部に対する改質セルロース繊維中のグルコース部分は、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、一方、製造時のハンドリング性の観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0065】
本発明の分離膜における改質セルロース繊維中のグルコース部分の含有量は、配合量から算出する。
具体的には、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、一方、製造時のハンドリング性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0066】
本発明の分離膜における樹脂の量は、配合量で換算して、製造時のハンドリング性の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、同様の観点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99.1質量%以下である。
【0067】
本発明の分離膜の膜厚としては、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、一方、分離効率の観点から、好ましくは1000μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下である。
【0068】
本発明の分離膜は平滑である方がより好ましい。分離膜の平滑性、即ち、表面粗さは、算術平均粗さ、二乗平均平方根粗さ、山部の実体体積、コア部の実体体積及び谷部の空隙容積といったパラメータで評価することができる。これらのパラメータの数値が小さいほど、膜がより平滑であると評価することができる。
【0069】
本発明の分離膜の膜厚、平滑性、耐圧性や分離性の評価は、後述の実施例に記載された方法で評価することができる。
【0070】
本発明の分離膜は、公知の方法により、中空糸膜、膜モジュール、カートリッジフィルター等に加工することができる。
【0071】
2.本発明の分離膜の製造方法
〔混合工程〕
本発明の分離膜の製造方法は、前記改質セルロース繊維及び前記樹脂を混合する混合工程を含む。
混合工程における改質セルロース繊維と樹脂との配合比としては、上記「〔分離膜の特徴〕」で記載した、分離膜における改質セルロース繊維と樹脂の質量比と同じである。
【0072】
混合工程において均一な混合液を得るために、改質セルロース繊維及び/又は樹脂は媒体を用いて予め溶液又は分散液の状態で準備しておいてもよい。
使用可能な媒体としては、例えば、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン(THF)、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)、酢酸等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
〔成膜工程〕
本発明の分離膜の製造方法は、更に、前記混合工程によって得られた混合液を成膜する成膜工程を更に含む。
成膜工程においては、混合工程で得られた混合液を、例えば平板上に塗布し、次いで塗布層を乾燥させることによって、成膜を行うことができる。得られた膜は適宜平板から剥離すればよい。特定の溶媒に可溶な樹脂膜を犠牲層にして剥離する手法なども適宜用いることが出来る。
【0074】
塗布層の厚さとしては、分離膜の強度発現の観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは10000μm以下、より好ましくは1000μm以下である。
【0075】
3.本発明の分離方法
本発明の分離方法は、前記の本発明の分離膜に処理対象物を供給し、前記処理対象物中の透過性が高い物質を、前記分離膜を透過させることにより他の物質から分離する工程を含む。
【0076】
処理対象物とは、例えば、複数種類のガス又は液体を含む混合物が挙げられる。
混合物としては、例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、硫化水素、メタン、水、有機酸、アルコールの二種以上の物質を含むものが挙げられる。
本発明の分離方法の好ましい態様としては、例えば、空気や各種排気ガスから二酸化炭素やメタン、水素を分離する方法、海水から淡水又は鹹水とナトリウムイオン、リチウムイオンを分離する方法等が挙げられる。
【実施例0077】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0078】
〔セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維及び改質セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維のサイズによって、下記の二通りの測定方法のうちのいずれかを選択して測定した。
(1) 測定対象のセルロース繊維に脱イオン水又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて、その含有率が0.0001質量%の分散液を調製した。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出した。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出した。
【0079】
(2) 測定対象のセルロース繊維に脱イオン水を加えて、その含有率が0.01質量%の分散液を調製した。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定した。そして、セルロース繊維を長方形と近似した際の短軸の長さを繊維径、長軸の長さを繊維長として、それぞれの値をセルロース繊維100本について測定し、平均値を算出した。
【0080】
〔アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維をビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/脱イオン水=2/1(体積比)の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製した。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌した。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定した。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得た。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出した。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム水溶液滴定量(mL)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0081】
〔改質セルロース繊維の修飾基の結合量及び導入率〕
改質セルロース繊維の修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその結合量及び導入率を算出した。IR測定は、具体的には、乾燥させた改質セルロース繊維の赤外吸収スペクトルを赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、式AおよびBにより、修飾基の結合量及び導入率を算出した。以下はアニオン性基がカルボキシ基の場合、即ち、酸化セルロース繊維の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合は波数の値を適宜変更し、修飾基の結合量及び導入率を算出すればよい。
<式A-1(イオン結合の場合)>
修飾基の結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷b
a:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
c:改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
<式A-2(アミド結合の場合)>
修飾基の結合量(mmol/g)=d-e
d:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
e:改質セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
<式B>
修飾基の導入率(mol%)=100×f/g
f:修飾基の結合量(mmol/g)
g:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0082】
〔各成分の含有量〕
各成分の含有量は各成分の配合量から算出した。
グルコース部分の質量に関しては、改質セルロースの調製時に配合した短繊維化アニオン変性セルロース繊維と修飾用化合物の全てがイオン結合したものと仮定して、配合した改質セルロース繊維に含まれる短繊維化アニオン変性セルロース繊維の質量をグルコース部分の質量とみなして算出した。
【0083】
〔各種セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維や改質セルロース繊維等の各種セルロース繊維の結晶構造は、回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認した。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロース繊維に圧力を印加することで、面積320mm×厚さ1mmの平滑なペレットを調製した。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングした。
【0084】
セルロースI型結晶構造の結晶化度は前述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0085】
〔膜厚の測定方法〕
マイクロメータ(ミツトヨ社製、クーラントプルーフマイクロメータ MDC-25PX)で試料を挟んで、膜厚を測定した。
【0086】
調製例1(短繊維化アニオン変性セルロース繊維の調製)
〔アニオン変性セルロース繊維〕
原料として、表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維を用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
かかるアニオン変性セルロース繊維は、例えば下記のTEMPO酸化処理のようにして調製することができる。
【0089】
[TEMPO酸化処理]
メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分間撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて25℃で120分間反応を行う。次いで、撹拌しながら、それに0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引濾過で、固形分を濾別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μs/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0090】
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維の調製〕
表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維のアルカリ加水分解処理を行い、表2に記載の物性値を有する短繊維化アニオン変性セルロース繊維を調製した。
【0091】
【表2】
【0092】
かかる短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、例えば、下記のアルカリ加水分解処理及び熱水処理により調製することができる。
【0093】
[アルカリ加水分解処理]
固形分量144.5gの、表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維の懸濁液を1000gの脱イオン水で希釈し、これに35%過酸化水素水を1.4g(原料セルロース繊維の固形分量100質量部に対して過酸化水素1質量部)加え、1M水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整する。次いで、2時間、80℃でアルカリ加水分解処理を行う(アニオン変性セルロース繊維の懸濁液の固形分含有率4.3質量%)。懸濁液を常温まで冷却後、0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。吸引濾過で、懸濁液の固形分を濾別する。
【0094】
[熱水処理]
前記アルカリ加水分解処理で得られる固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μS/cm以下になるまで繰り返す。懸濁液中の固形分含有率が5質量%になるように該懸濁液に脱イオン水を添加し、95℃で12時間撹拌し、その後、常温まで冷却することにより、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得ることができる。得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を遠心分離することにより、短繊維化アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0095】
調製例2(改質セルロース繊維の調製)
〔溶媒置換〕
表2に記載の物性値を有する前記短繊維化アニオン変性セルロース繊維の固形分量1.5gに対して、表3に記載のいずれかの溶媒の30gを加えて懸濁し、遠心分離で上清を取り除く操作を3回繰り返すことによって、短繊維化されたアニオン変性セルロース繊維が所定の溶媒で膨潤した状態の懸濁液を得た。
【0096】
〔修飾基を有するセルロース繊維分散液の調製〕
次いで、ビーカーに短繊維化アニオン変性セルロース繊維の懸濁液を入れた。表3に記載された種類の溶媒をこのビーカーに加えて、固形分濃度が1質量%の分散液を調製した。このようにして得られた各分散液50gに対して、表3に記載の種類及び量の修飾用化合物を加えて、常温にて一晩撹拌することにより、修飾基を有するセルロース繊維(改質セルロース繊維)の分散液を調製した。
さらに、アニオン性基に結合した修飾基の程度の指標として、各例の修飾基の導入率を求めて、表3に記載した。
【0097】
実施例1及び比較例1(膜の作製)
前記改質セルロース繊維分散液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150mPaで5回、分散処理を行った。
予め調製した20質量%PMMA/DMF溶液と、分散処理を行った分散液を、100質量部のPMMAに対する改質セルロース繊維中のグルコース部分の量が1質量部になるように混合した。
テフロン(登録商標)シャーレに上記混合液を2.5g量り取り、常圧50℃で一昼夜乾燥させて実施例1の膜を作製した。一方、比較例1の膜に関しては、改質セルロース繊維の代わりに、上記調製例1で得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いて同様の処理を行って得られた膜を、比較例1の膜とした。
実施例1の膜及び比較例1の膜の膜厚を測定した結果、いずれも10μmであった。
【0098】
実施例2~3及び比較例2(膜の作製)
前記改質セルロース繊維分散液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150mPaで5回、分散処理を行った。
PDMSプレポリマーと、分散処理を行った分散液を、100質量部のPDMSに対する改質セルロース繊維中のグルコース部分の量が1質量部になるように混合して混合液を得た。
ロータリーエバポレータを用いて、前記混合液中の溶媒の2/3を留去した。次いで、No.3バイアルに上記混合液を3g量り取り、SYLGARD硬化剤を、100質量部のPDMSに対して10質量部になるよう添加した。次いで、自公転ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎 ARE-310)を用いて、混合を10分間、続いて脱泡を2分間行って混合液を得た。
テフロン(登録商標)シャーレに上記混合液を2.5g量り取り、常圧、50℃で一昼夜乾燥させて実施例2及び実施例3の膜を作製した。一方、比較例2の膜に関しては、改質セルロース繊維の代わりに、上記調製例1で得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いて同様の処理を行って得られた膜を、比較例2の膜とした。
実施例2~3の膜及び比較例2の膜の膜厚を測定した結果、いずれも10μmであった。
【0099】
試験例1(算術平均粗さ等の膜の表面粗さ解析)
Lasertec社製ハイブリッドレーザーマイクロスコープ OPTELICS HYBRID+を用いて、測定対象の膜の三次元粗さ計測を行い、付属のソフトウェアで計測された数値を使用した。結果を表3に示す。
計測条件は以下の通り。
対物レンズ:LT-20 20x/0.75
計測領域:視野全体(750μm角)
S-フィルタ:None
L-フィルタ:1.00000mm
V-Parameter負荷面積率:10.00%-80.00%
【0100】
なお、表3中、算術平均粗さ(Sa)及び二乗平均平方根粗さ(Sq)は、膜の表面粗さのパラメータであり、数値が小さい方が膜が平滑であることを意味する。また、山部の実体体積(Vmp)、コア部の空間容積(Vvc)、谷部の空間容積(Vvv)はISO 25178(表面性状評価)に規定されており、それぞれ突出山部の体積、Vvcはコア部の空間の容積、Vvvは突出谷部の空間の容積を表し、いずれも数値が小さい方が膜が平滑であることを意味する。
【0101】
試験例2(レーザーマイクロスコープによる膜表面の観察)
試験例1で使用したレーザーマイクロスコープを用いて、測定対象の膜の表面状態を観察した。各例において作製された膜のレーザーマイクロスコープによる顕微鏡写真(370倍)を、図1~5に示す。
【0102】
試験例3(膜の耐圧性評価)
19ゲージの針(翼工業社製)で評価対象の膜に孔を空けた後、空いた孔を指で押して、下記の基準で評価した。結果を表3に示す。孔の個数は1cmあたり1個とした。
1:壊れにくい
2:やや壊れにくい
3:壊れやすい
4:針突刺しのみで膜に割れが発生した
【0103】
試験例4(膜の分離性評価)
19ゲージの針で評価対象の膜に穴を空けた後、1質量%粉末セルロース/水スラリーを膜上に流通させて水のみを分離できるかどうかを、肉眼での観察により下記の基準で評価した。結果を表3に示す。孔の個数は1cmあたり1個とした。なお、ここで用いた粉末セルロースは、日本製紙社製、KCフロックW-50であった。
1:精度よく分離可能
2:精度は悪いが分離可能
3:分離不可
【0104】
【表3】
【0105】
*:短繊維化アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の量である。
**:樹脂100質量部に対する、(改質セルロース繊維の調製に用いられた)短繊維化アニオン変性セルロース繊維のグルコース部分の質量部である。
【0106】
上記の実験結果から、以下のことが分かった。
アニオン性基に修飾基が導入された改質セルロース繊維を使用して得られた膜(実施例1~3)と、修飾基が導入されなかったセルロース繊維、即ちアニオン変性セルロース繊維を使用して得られた膜(比較例1~2)とを対比すると、実施例の膜の方が、表面の粗さが小さく、かつより平滑であったことが分かった。
このことは、各膜のレーザースコープによる観察結果からも裏付けられた。実施例の膜の表面には、凹凸が見られず、平滑であることが分かった(図1図3及び図4)。一方、比較例の膜の表面は、明確な凹凸が観察されたり(図5)、あるいは表面が粗すぎて顕微鏡のフォーカスを合わせることができなかった(図2)。
このような実施例の膜の特徴は、膜を構成する成分の均質性が高かったことによるものと考えられる。改質セルロース繊維は疎水性の高い修飾基を有するため、疎水性の高い樹脂への改質セルロース繊維の分散性が高まったものと考えられる。その結果、両者がより均質に混合し、作製された膜が高い平滑性を示したものと考えられる。
【0107】
さらに、実施例の膜の方が、分離性に優れているだけではなく、機械的強度、即ち耐圧性にも優れていたことも分かった。これは、実施例の膜の表面粗さが小さく、平滑性が高かったことによるものと考えられる。
上記の結果から、本発明の膜は耐圧性に優れていることから、薄膜化の達成が可能となり、分離性により優れた分離膜を提供することができる。
【0108】
[試薬]
なお、上記の実施例等においては、以下の試薬を特別の精製なく用いた。
PMMA:メタクリル酸メチルポリマー、CAS No. 9011-14-7(富士フイルム和光純薬工業社製)
PDMSプレポリマー:ポリジメチルシロキサンプレポリマー、SYLGARD 184 Silicone Elastomer(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社製)
SYLGARD硬化剤:SYLGARD 184 Silicone Elastomer(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社製)
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬工業社製)
アセトン:アセトン(富士フイルム和光純薬工業社製)
酢酸エチル:酢酸エチル(富士フイルム和光純薬工業社製)
イソプロパノール:イソプロパノール(富士フイルム和光純薬工業社製)
PGME:1-メトキシ-2-プロパノール(ダイセル社製)
M2070:メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン(HUNTSMAN社製、ジェファーミンM2070、Mw=2000、EO:PO=31:10)
アミノ変性Si:アミノ変性シリコーン(ダウ・ケミカル日本社製、SS-3551、Mw=数百~千程度)
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の分離膜は、二酸化炭素を回収するガス分離膜や、海水の淡水化を目的とした逆浸透膜の分野で利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5