(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008202
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】溶湯供給装置およびダイカストマシン
(51)【国際特許分類】
B22D 17/30 20060101AFI20240112BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B22D17/30 A
B22D17/32 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109877
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 史隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 章弘
(72)【発明者】
【氏名】井尻 崇
(72)【発明者】
【氏名】北川 智浩
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 藍貴
(57)【要約】
【課題】ラドル内の溶湯の温度低下を抑制できる簡易な構成の溶湯供給装置およびダイカストマシンを提供する。
【解決手段】ダイカストマシン1は、溶湯供給機構50と、制御装置100と、を有する。溶湯供給機構50のラドル51が、溶湯Mを貯留する容器52を有する。容器52の底部54に溶湯口56が設けられている。制御装置100が、容器52を溶湯Mに浸漬させて溶湯口56を開く。そして、制御装置100が、容器52内の溶湯Mの湯面高さに基づき、容器52内の溶湯Mが設定量Vsとなる高さ位置に容器52を位置付けて溶湯口56を閉じる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラドルと、ラドル制御装置と、を有する溶湯供給装置であって、
前記ラドルが、溶湯を貯留する容器を有し、
前記容器の底部に溶湯口が設けられ、
前記ラドル制御装置が、
溶融炉の溶湯の湯面高さに基づき、前記容器を前記溶融炉の溶湯に浸漬させて前記溶湯口を開き、
前記容器内の溶湯の湯面高さに基づき、前記容器内の溶湯が設定量となる高さ位置に前記容器を位置付けて前記溶湯口を閉じる、ことを特徴とする溶湯供給装置。
【請求項2】
前記溶湯供給装置が、前記溶湯口を開閉する開閉機構を有し、
前記開閉機構が、前記溶湯口と向かい合う弁体と、前記溶湯口を囲む環状の弁座に前記弁体を接離させるアクチュエータと、を有し、
前記アクチュエータが、前記溶湯口を閉じるときに前記弁体を前記弁座に押し付けつつ回転させる、請求項1に記載の溶湯供給装置。
【請求項3】
前記弁体が、窒化ケイ素、マシナブルセラミックまたはケイ酸カルシウムで構成されている、請求項2に記載の溶湯供給装置。
【請求項4】
前記底部における前記溶湯口が設けられた部分が、窒化ケイ素で構成されている、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の溶湯供給装置。
【請求項5】
前記容器内の空間が、大気と区画された空間であり、
前記溶湯供給装置が、前記溶湯口を開いて前記容器内に溶湯を進入させる際に前記容器内の空間を大気と連通させる大気開放機構を有する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の溶湯供給装置。
【請求項6】
前記溶湯供給装置が、前記容器内の空間に不活性ガスを注入するガス供給装置を有する、請求項5に記載の溶湯供給装置。
【請求項7】
前記容器の表面には、当該容器を構成する材料よりも溶湯の非濡れ性が高い材料が塗布されている、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の溶湯供給装置。
【請求項8】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の溶湯供給装置と、
前記溶湯供給装置によって金型のキャビティに射出される溶湯が供給されるスリーブと、を有することを特徴とするダイカストマシン。
【請求項9】
前記溶湯供給装置が、前記容器内の溶湯の量を計測する溶湯量計測装置を有し、
前記ダイカストマシンが、
前記スリーブに収容されたプランジャと、
前記プランジャを前進するよう動作させるとともに、前記プランジャが動作切換位置に進むと前記プランジャの動作を切り替える射出制御装置と、を有し、
前記ラドル制御装置が、前記スリーブに溶湯を供給する直前に前記溶湯量計測装置によって計測された溶湯の量に基づいて前記動作切換位置を変更する、請求項8に記載のダイカストマシン。
【請求項10】
前記動作切換位置が、高速前進開始位置、減速開始位置または増圧開始位置である、請求項9に記載のダイカストマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯供給装置、および、溶湯供給装置を有するダイカストマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の溶湯供給装置が開示されている。溶湯供給装置は、ラドルと、ラドル内の気体を吸引する真空吸引装置と、を有している。ラドルは、溶湯を貯留する外筒と、外筒の下端から下方に延在する導管と、を有している。導管には給湯口が設けられており、給湯口は開閉手段によって開閉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の溶湯供給装置は、ラドルの気密性を確保し、ラドル内の気体を吸引して溶融炉の溶湯を吸い上げるため、溶湯供給装置の構成が複雑である。また、溶湯供給装置は、導管の下端のみ溶湯に浸漬させ、溶融炉の湯面よりも高い位置まで溶湯を吸い上げるため、溶湯の熱が外筒を介して大気に放出され、ラドル内の溶湯の温度が低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、ラドル内の溶湯の温度低下を抑制できる簡易な構成の溶湯供給装置およびダイカストマシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る溶湯供給装置は、ラドルと、ラドル制御装置と、を有する溶湯供給装置であって、前記ラドルが、溶湯を貯留する容器を有し、前記容器の底部に溶湯口が設けられ、前記ラドル制御装置が、溶融炉の溶湯の湯面高さに基づき、前記容器を前記溶融炉の溶湯に浸漬させて前記溶湯口を開き、前記容器内の溶湯の湯面高さに基づき、前記容器内の溶湯が設定量となる高さ位置に前記容器を位置付けて前記溶湯口を閉じる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶融炉の溶湯の湯面高さに基づき、ラドルの容器を溶融炉の溶湯に浸漬させ、容器の底部に設けられた溶湯口を開く。これにより、容器外の湯面高さと容器内の湯面高さとが同じになるように、溶湯口を通じて溶湯がラドルの容器内に進入する。そして、容器内の溶湯の湯面高さに基づき、容器内の溶湯が設定量となる高さ位置に容器を位置付け、溶湯口を閉じる。このようにしたことから、容器内の気体を吸引することなく溶湯を容器に貯留することができる。また、容器を溶湯から引き上げるまでは容器外の湯面高さと容器内の湯面高さとが同じであるため、溶湯の熱が容器を介して大気に放出されることを抑制できる。そのため、簡易な構成でラドルの容器内の溶湯の温度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るダイカストマシンの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のダイカストマシンが有するダイプレートおよびその近傍の断面図である。
【
図3】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である。
【
図4】
図1のダイカストマシンが有する溶湯供給機構を示す図である。
【
図5】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である(プランジャが高速前進開始位置にある状態)。
【
図6】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である(プランジャが減速開始位置にある状態)。
【
図7】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である(プランジャが増圧開始位置にある状態)。
【
図8】
図1のダイカストマシンが有する制御装置が実行する本発明に係る処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】ラドルが溶融炉の上方の位置にある状態を示す図である。
【
図10】ラドルの容器が溶融炉の溶湯に浸漬した状態を示す図である。
【
図11】ラドルの底部に設けられた溶湯口が開いた状態を示す図である。
【
図12】ラドルの底部に設けられた溶湯口が閉じた状態を示す図である。
【
図13】ラドル内の空間に不活性ガスを注入する状態を示す図である。
【
図14】ラドルがスリーブの上方の位置にある状態を示す図である。
【
図15】ラドル内の溶湯をスリーブに供給した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係るダイカストマシンについて、
図1~
図15を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るダイカストマシンの概略構成を示す図である。
図2は、
図1のダイカストマシンが有するダイプレートおよびその近傍の断面図である。
図3は、金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である。
図4は、
図1のダイカストマシンが有する溶湯供給装置を示す図である。
図5~
図7は、金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である。
図5~
図7は、順に、プランジャが高速前進開始位置、減速開始位置、増圧開始位置にある状態を示す。
図8は、
図1のダイカストマシンが有する制御装置が実行する本発明に係る処理(溶湯供給処理)の一例を示すフローチャートである。
図9~
図15は、溶湯供給処理における溶湯供給機構の各状態を示す図である。
図9~
図15は、順に、ラドルが溶融炉の上方の位置にある状態、ラドルの容器が溶融炉の溶湯に浸漬した状態、ラドルの底部に設けられた溶湯口が開いた状態、ラドルの底部に設けられた溶湯口が閉じた状態、ラドル内の空間に不活性ガスを注入する状態、ラドルがスリーブの上方の位置にある状態、ラドル内の溶湯をスリーブに供給した状態、を示す。本明細書において、
図1~
図3、
図5~
図7の左側を前方とし、右側を後方としている。
【0011】
本実施形態に係るダイカストマシン1は、射出機構10と、型締機構30と、溶湯供給機構50と、制御装置100と、を有している。
【0012】
図1に示すように、射出機構10は、油圧で動作するピストン11と、ピストン11を前後方向に移動可能に収容するシリンダ12と、を有している。シリンダ12は、ピストン11により区画された後方油室13および前方油室14を有している。ピストン11には、プランジャ15が接続されている。プランジャ15は、ピストン11の前面11aから前方に延びるロッド16と、ロッド16の先端に設けられたプランジャチップ17と、を有している。
【0013】
シリンダ12の後方には、駆動伝達プレート18が配置されている。駆動伝達プレート18は、電動サーボモータ19、ならびに、駆動伝達歯車およびボールネジ機構等からなる駆動伝達機構20により前後方向に移動される。駆動伝達プレート18が前方に移動されることにより、シリンダ12が押されて前進する。駆動伝達プレート18、電動サーボモータ19および駆動伝達機構20は、電動増圧機構を構成する。なお、このような電動増圧機構に代えて、油圧によってシリンダ12を押して前進させる油圧増圧機構を有していてもよい。
【0014】
射出機構10は、アキュムレータ21を有している。アキュムレータ21は、シリンダ12の後方油室13に作動油を供給する油圧供給部である。アキュムレータ21と後方油室13とは、油路aにより接続されている。油路aには、供給バルブ22が配置されている。供給バルブ22は、アキュムレータ21と後方油室13とを連通および遮断する。本実施形態において、供給バルブ22は、ソレノイドにより弁体を駆動する電磁弁で構成される。供給バルブ22として、電磁弁以外にも、例えば、モータにより弁体を駆動するものなど、他の種類のバルブを採用してもよい。
【0015】
シリンダ12の前方油室14と作動油を蓄えるタンク23とは、油路bにより接続されている。油路bには、サーボバルブ24が配置されている。サーボバルブ24は、前方油室14からタンク23に流れる作動油の流出量を調整する。本実施形態では、サーボバルブ24によって、当該流出量(すなわち、前方油室14から排出される作動油の量)を調整することにより、プランジャ15が前進する速度を制御する(メータアウト制御)。なお、上述した供給バルブ22をサーボバルブで構成し、アキュムレータ21から後方油室13に供給される作動油の量を調整することにより、プランジャ15が前進する速度を制御してもよい(メータイン制御)。
【0016】
射出機構10は、シリンダ12の前方油室14の油圧に応じた信号を出力する油圧センサ25と、プランジャ15の位置Lに応じた信号を出力する位置センサ26と、を有している。位置センサ26は、光学式、磁気式、磁歪式など公知の位置センサを用いることができる。
【0017】
図2に示すように、型締機構30は、固定金型K1が取り付けられる固定ダイプレート31と、移動金型K2が取り付けられる可動ダイプレート32と、を有している。固定ダイプレート31は、固定金型K1のランナRに連通された円筒状のスリーブ33を有している。スリーブ33には、プランジャ15が前後進可能に収容される。スリーブ33は、給湯口34が上部に形成されている。スリーブ33には、給湯口34を通じて溶湯供給機構50によって、溶湯Mが注ぎ入れられる。型締機構30は、図示しない型締駆動部によって固定ダイプレート31に対して可動ダイプレート32を進退させて、固定金型K1と移動金型K2とを型開および型閉(型締)する。
【0018】
図3に示すように、型閉された固定金型K1および移動金型K2の内部には、スリーブ33と連通されたランナRと、ランナRと連通されたキャビティCと、キャビティCと連通されたオーバーフロー部Oと、が形成される。ランナRは、キャビティCに開口されたゲートGに通じている。
【0019】
図4に示すように、溶湯供給機構50は、ラドル51と、アーム61と、開閉機構71と、溶湯量計測装置81と、ガス供給装置91と、を有している。
【0020】
ラドル51は、容器52を有している。容器52は、周壁53と、底部54と、上部55と、を有している。周壁53は、上方から下方に向かうにしたがって細くなる中空の四角錐台形状を有している。底部54は、周壁53の下端に連設されている。底部54は、溶湯口56と、溶湯口56を囲む弁座57と、を有している。弁座57は、上方から下方に向かうにしたがって径が小さくなる内向きのテーパー面である。底部54の上面54aは、溶湯口56に向かって下るように傾斜している。底部54における溶湯口56が形成された部分54bが、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、窒化ケイ素(窒化ケイ素を主成分とする材料を含む))で構成されていることが好ましい。上部55は、平板形状を有している。上部55は、周壁53の上端に接合されている。容器52は、全体的に鉄などの金属またはセラミックで構成されている。周壁53の表面(内面、外面)および底部54の表面(内面、外面)には、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、ルミキャスト(登録商標、ニチアス株式会社製))が塗布されていることが好ましい。
【0021】
アーム61は、ラドル51を支持している。アーム61は、ラドル51を図示しない溶融炉とスリーブ33との間で移動させる。アーム61には、湯面高さセンサ62が取り付けられている。湯面高さセンサ62は、例えば熱電対である。湯面高さセンサ62は、アーム61から下方に延びる棒状のセンサ支持体63の下端に配置されている。センサ支持体63の下端(湯面高さセンサ62)はラドル51の底部54(溶湯口56)よりも上方に配置されている。湯面高さセンサ62は、容器52が所定の設定位置(例えば、容器52における高さ方向の中央箇所より下方の部分が溶融炉の溶湯に浸漬する位置)にあるときに当該溶融炉の湯面に接する位置に配置されている。湯面高さセンサ62が出力する信号に基づいて、ラドル51の容器52が設定位置に移動したかを判定できる。
【0022】
開閉機構71は、弁体72と、アクチュエータ73と、を有している。弁体72は、円柱形状を有している。弁体72の外径は、溶湯口56の内径より大きい。弁体72は、ラドル51の上部55を貫通し、上下方向に延在している。弁体72は、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、窒化ケイ素、マシナブルセラミックまたはケイ酸カルシウム(これらのいずれか一つを主成分とする材料を含む))で構成されていることが好ましい。アクチュエータ73は、例えば、エアシリンダや電動シリンダであり、ピストンロッド74を上下方向に移動可能であり、かつ、ピストンロッド74を軸周りに回転可能である。ピストンロッド74はカップリング75によって弁体72と同軸に連結されている。アクチュエータ73は、弁体72を上下方向に移動させつつ軸周りに回転させる。弁体72の下端が弁座57に接すると溶湯口56が閉じ、弁体72の下端が弁座57から離れると溶湯口56が開く。
【0023】
溶湯量計測装置81は、フロート体82と、レーザー変位計83と、を有している。フロート体82は、棒状の変位部材84と、変位部材84の下端に接続された球形のフロート85と、を有している。変位部材84は、ラドル51の上部55を貫通し、上下方向に延在している。フロート85は、ラドル51内の溶湯Mの湯面に浮く。フロート体82は、ラドル51内の溶湯Mの量に応じて上下方向に移動する。レーザー変位計83は、上部55の上方において変位部材84の上端と上下方向に向かい合って配置されている。レーザー変位計83は、上部55に対して固定されている。レーザー変位計83は、レーザー変位計83と変位部材84との距離Dxに応じた信号を出力する。距離Dxはラドル51の容器52内の溶湯Mの湯面高さ(すなわち、溶湯Mの量)と関係を有しており、レーザー変位計83が出力する信号に基づいて容器52内の溶湯Mの量を計測することができる。
【0024】
ガス供給装置91は、不活性ガス(例えば、アルゴン)を供給する装置である。ガス供給装置91は、流路切換弁92を介して、ラドル51の上部55に設けられた通気部58に接続されている。流路切換弁92は、通気部58をガス供給装置91または大気(大気開放部93)に選択的に接続する。大気開放部93は、例えば、エアフィルタで構成されている。流路切換弁92と大気開放部93とは、ラドル51の容器52内の空間59を大気と連通させる大気開放機構を構成する。
【0025】
ラドル51の空間59は、溶湯口56および通気部58を除いて大気と接続されておらず、大気と区画された空間である。空間59は、上部55と弁体72との隙間および上部55とフロート体82の変位部材84との隙間を通じて大気と接続されているが、概ね大気と区画されており、実質的に大気と区画された空間である。なお、弁体72および変位部材84の移動を妨げるものでなければ、上記隙間に封止部材を配置してもよい。
【0026】
制御装置100は、ダイカストマシン1の全体の動作を司る。制御装置100は、例えば、CPU、ROM、RAM、EEPROM、各種I/Oインタフェースなどを有する組み込み機器用のマイクロコンピュータを有して構成されている。制御装置100は、射出機構10、型締機構30および溶湯供給機構50の動作を制御する。制御装置100は、油圧センサ25が出力した信号に基づいて前方油室14の油圧Pfを計測する。制御装置100は、位置センサ26が出力した信号に基づいてプランジャ15の位置Lおよび速度Vを計測する。制御装置100は、湯面高さセンサ62が出力した信号に基づいて、ラドル51の容器52が設定位置に移動したかを判定する。制御装置100は、レーザー変位計83が出力した信号に基づいて、ラドル51の容器52内の溶湯Mの量を計測する。制御装置100は、射出制御装置およびラドル制御装置である。溶湯供給機構50と制御装置100とが、溶湯供給装置を構成する。制御装置100は、型閉工程、溶湯供給工程、射出工程(低速射出工程および高速射出工程)、増圧工程、型開工程および製品押出工程などの各種工程において、各種駆動部の動作を制御する。
【0027】
ダイカストマシン1は、製品成形における一連の動作として、以下の(1)~(5)の動作を行う。
【0028】
(1)固定金型K1および移動金型K2を型締する(型閉工程)。
【0029】
(2)固定ダイプレート31のスリーブ33に溶湯Mを供給する(溶湯供給工程)。
【0030】
(3)プランジャ15を前進させ、スリーブ33内の溶湯MをキャビティCに射出する(射出工程)。
【0031】
射出工程において、アキュムレータ21内の作動油の油圧を高め、供給バルブ22を開状態としてシリンダ12の後方油室13に作動油を供給し、サーボバルブ24により前方油室14から作動油を流出させて、ピストン11を前進させる。サーボバルブ24の開度によって作動油の流出量を制御し、ピストン11の前進速度を調整する。始めに、ピストン11を低速前進させ、プランジャ15が高速前進開始位置L1(
図5)に到達するとピストン11を高速前進させて、プランジャ15によりスリーブ33内の溶湯MをキャビティCに射出する。プランジャ15が減速開始位置L2(
図6)に到達するとピストン11を減速させる。減速開始位置L2は、例えば、キャビティCの全体に溶湯Mが充填される位置である。
【0032】
(4)キャビティC内の溶湯Mに圧力を加える(増圧工程)。
【0033】
増圧工程において、プランジャ15が増圧開始位置L3(
図7)に到達すると電動サーボモータ19を動作させ、駆動伝達プレート18を前進させてシリンダ12(すなわちピストン11)を押圧する。増圧開始位置L3は、例えば、キャビティCおよびオーバーフロー部Oの全体に溶湯Mが充填される位置である。高速前進開始位置L1、減速開始位置L2および増圧開始位置L3は、動作切換位置である。
【0034】
(5)固定金型K1および移動金型K2を開き(型開工程)、キャビティCから製品を押し出す(製品押出工程)。
【0035】
次に、制御装置100における本発明に係る溶湯供給処理の一例について、
図8のフローチャートおよび
図9~
図15を参照して説明する。溶湯供給処理は、溶湯供給工程において実行される。
【0036】
制御装置100は、アーム61を駆動して、ラドル51を図示しない溶融炉の上方の位置に移動させる(S110、
図9)。このとき、溶湯口56が閉じており、ラドル51の空間59には不活性ガスが充填されており、流路切換弁92を介して通気部58が大気(大気開放部93)に接続されている。
【0037】
制御装置100は、湯面高さセンサ62が出力する信号に基づいて、ラドル51(容器52)が設定位置に移動するまでラドル51を下方に移動させる(S120、S130でN)。制御装置100は、ラドル51が設定位置に移動すると(S130でY、
図10)、アクチュエータ73によって弁体72を上方に移動させて溶湯口56を開く(S140、
図11)。すなわち、制御装置100は、溶融炉の溶湯Mの湯面高さに基づき、容器52を溶融炉の溶湯Mに浸漬させて溶湯口56を開く。これにより、溶湯口56を通じてラドル51の容器52内に溶湯Mが進入する。
【0038】
制御装置100は、レーザー変位計83が出力する信号に基づいて、ラドル51の容器52内の溶湯Mの量(溶湯量V1)を計測する(S150)。制御装置100は、溶湯量V1がキャビティCの容積に応じて設定された設定量Vsより少ないとき(S160でY)、アーム61を駆動して、ラドル51を下方に移動させ(S170)、溶湯量V1を再度計測する(S150)。制御装置100は、溶湯量V1が設定量Vsより多いとき(S160でN、S180でY)、アーム61を駆動して、ラドル51を上方に移動させ(S190)、溶湯量V1を再度計測する(S150)。すなわち、制御装置100は、ラドル51の容器52内の溶湯Mの湯面高さに基づいて、溶湯量V1が設定量Vsとなる高さ位置にラドル51の容器52を位置付ける。
【0039】
制御装置100は、溶湯量V1が設定量Vsであるとき(S160でN、S180でN)、アクチュエータ73によって弁体72を下方に移動させて溶湯口56を閉じる(S200、
図12)。このとき、アクチュエータ73は、弁体72の下端を弁座57に押し付けつつ軸周りに回転させる。これにより、弁座57に付着した半固形状の溶湯Mを押しつぶして、弁体72を弁座57に密着させ、溶湯口56をより確実に閉じることができる。
【0040】
制御装置100は、溶湯口56を閉じると、流路切換弁92を介して通気部58とガス供給装置91とを接続し、ガス供給装置91によってラドル51内の空間59に不活性ガスを注入する(S210、
図13)。不活性ガスは、溶湯Mの湯面に酸化膜が形成されることを抑制する。制御装置100は、アーム61を駆動して、溶融炉の溶湯Mからラドル51を引き上げ、ラドル51をスリーブ33の上方の位置に移動させる(S220、
図14)。このとき、ラドル51の溶湯口56とスリーブ33の給湯口34とが上下方向に向かい合うようにする。
【0041】
制御装置100は、レーザー変位計83が出力する信号に基づいてラドル51内の溶湯Mの量(溶湯量V2)を計測する(S230)。制御装置100は、溶湯量V2が適正範囲内であるとき(S240でY)、アクチュエータ73によって弁体72を上方に移動させて溶湯口56を開く(S260、
図15)。制御装置100は、溶湯量V2が適正範囲内でないとき(S240でN)、動作切換位置(高速前進開始位置L1、減速開始位置L2、増圧開始位置L3)を変更し(S250)、溶湯口56を開く(S260)。適正範囲とは、動作切換位置の変更が不要な溶湯量V2の範囲であり、本実施形態では、設定量Vsに対する割合(例えば、設定量Vsの95~100%)として設定される。溶湯量V2が適正範囲内でないとき、スリーブ33の内径およびキャビティCの容積などに基づいて、適切な位置で動作切換が行われるように動作切換位置を変更する。制御装置100は、例えば、溶湯量V2が適正範囲の下限値より少ないとき動作切換位置を前方寄りに変更し、溶湯量V2が適正範囲の上限値より多いとき動作切換位置を後方寄りに変更する。
【0042】
制御装置100は、溶湯口56を開くとともに、ガス供給装置91によってラドル51の空間59に不活性ガスを注入する(S270)。これにより、ラドル51の容器52内の溶湯Mが給湯口34を通じてスリーブ33に供給される。また、空間59に不活性ガスが充填され、不活性ガスは溶湯口56および給湯口34を通じてスリーブ33にも注入される。そして、制御装置100は、アクチュエータ73によって弁体72を下方に移動させて溶湯口56を閉じ(S280)、本処理を終了する。制御装置100は、溶湯供給処理に続いて、射出工程および増圧工程に係る処理を実行する。制御装置100は、溶湯供給処理において動作切換位置の変更があった場合、射出工程および増圧工程において変更後の動作切換位置を用いる。
【0043】
本実施形態に係るダイカストマシン1は、射出機構10と、型締機構30と、溶湯供給装置を構成する溶湯供給機構50および制御装置100と、を有する。型締機構30は、固定金型K1および移動金型K2の内部に形成されたキャビティCに射出される溶湯Mが供給されるスリーブを有する。溶湯供給機構50が、ラドル51を有し、ラドル51が溶湯Mを貯留する容器52を有する。容器52の底部54に溶湯口56が設けられている。制御装置100が、溶融炉の溶湯の湯面高さに基づき、ラドル51の容器52を設定位置まで下方に移動させて溶融炉の溶湯Mに浸漬させて溶湯口56を開く。そして、制御装置100が、容器52内の溶湯Mの湯面高さに基づき、容器52内の溶湯Mが設定量Vsとなる高さ位置に容器52を位置付けて溶湯口56を閉じる。
【0044】
ダイカストマシン1は、ラドル51の容器52を設定位置まで下方に移動させて溶融炉の溶湯Mに浸漬し、底部54に設けられた溶湯口56を開く。これにより、容器52外の溶融炉の湯面高さと容器52内の湯面高さとが同じになるように、溶湯口56を通じて溶湯Mがラドル51の容器52内に進入する。そして、容器52内の溶湯Mの湯面高さに基づき、容器52内の溶湯Mが設定量Vsとなる高さ位置に容器52を位置付け、溶湯口56を閉じる。このようにしたことから、容器52内の気体を吸引することなく溶湯Mを容器52に貯留することができる。また、容器52を溶湯Mから引き上げるまでは容器52外の湯面高さと容器52内の湯面高さとが同じであるため、容器52内の溶湯Mの熱が容器52を介して大気に放出されることを抑制できる。そのため、簡易な構成でラドル51の容器52内の溶湯の温度低下を抑制できる。
【0045】
また、溶湯供給機構50が、溶湯口56を開閉する開閉機構71を有する。開閉機構71が、溶湯口56と向かい合う弁体72と、溶湯口56を囲む環状の弁座57に弁体72を接離させるアクチュエータ73と、を有する。そして、アクチュエータ73が、溶湯口56を閉じるときに弁体72を弁座57に押し付けつつ回転させる。このようにすることで、弁体72によって弁座57に付着した半固形状の溶湯Mを押しつぶして、弁体72を弁座57に密着させ、溶湯口56をより確実に閉じることができる。なお、アクチュエータ73は、溶湯口56を閉じるときに弁体72を回転させずに弁座57に押し付けるものであってもよい。
【0046】
また、弁体72が、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、窒化ケイ素、マシナブルセラミックまたはケイ酸カルシウム(これらのいずれか一つを主成分とする材料を含む))で構成されていることが好ましい。このようにすることで、弁体72への溶湯Mの付着を効果的に抑制できる。
【0047】
また、ラドル51の容器52の底部54における溶湯口56が設けられた部分54bが、窒化ケイ素(窒化ケイ素を主成分とする材料を含む)で構成されていることが好ましい。このようにすることで、溶湯口56の内面および弁座57への溶湯Mの付着を効果的に抑制できる。
【0048】
また、ラドル51の容器52内の空間59が、大気と区画された空間である。溶湯供給機構50が、溶湯口56を開いて容器52内に溶湯Mを進入させる際に容器52内の空間59を大気と連通させる大気開放機構(流路切換弁92および大気開放部93)を有する。このようにすることで、大気開放機構を通じて空間59の気体が排出されるので、溶湯口56を通じて溶湯Mがラドル51の容器52内に速やかに進入する。そのため、ラドル51の容器52内に溶湯Mを比較的短時間で貯留できる。
【0049】
また、溶湯供給機構50が、ラドル51の容器52内の空間59に不活性ガスを注入するガス供給装置91を有する。このようにすることで、容器52内の溶湯Mに酸化膜が形成されることを抑制できる。なお、ガス供給装置91、流路切換弁92および大気開放部93を省略して、空間59が通気部58を通じて大気と連通されていてもよい。
【0050】
また、ラドル51の容器52の表面には、容器52を構成する材料よりも溶湯Mの非濡れ性が高い材料が塗布されていることが好ましい。このようにすることで、容器52の外面および内面に溶湯Mが付着することを抑制できる。そのため、容器52内の溶湯Mの量が変動したり、溶湯Mに固形物(固形化した溶湯M)が含まれたりすることを抑制できる。
【0051】
また、溶湯供給機構50が、ラドル51の容器52内の溶湯Mの量を計測する溶湯量計測装置81を有する。ダイカストマシン1が、スリーブ33に収容されたプランジャ15と、プランジャ15を前進するよう動作させるとともに、プランジャ15が動作切替位置に進むとプランジャ15の動作を切り替える制御装置100と、を有する。そして、制御装置100が、スリーブ33に溶湯Mを供給する直前に溶湯量計測装置81によって溶湯Mの量(溶湯量V2)を計測し、溶湯量V2に基づいて動作切換位置を変更する。このようにしたことから、容器52内の溶湯Mの量にばらつきがあった場合でも、適切な位置でプランジャ15の動作切換を行うことができる。そのため、成形品の品質低下を抑制できる。
【0052】
また、動作切換位置が、高速前進開始位置L1、減速開始位置L2および増圧開始位置L3である。なお、制御装置100によって変更される動作切換位置は、高速前進開始位置L1、減速開始位置L2および増圧開始位置L3のうちの少なくとも1つであればよい。
【0053】
上述した実施形態では、射出動作を油圧で行い、増圧動作を電動で行う構成であったが、これ以外にも、射出動作及び増圧動作を油圧で行う構成、または、射出動作および増圧動作を電動で行う構成に対して本発明を適用してもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、ラドル51の容器52が設定位置まで下方に移動したときに容器52の底部54の溶湯口56を開けているが、底部54が溶融炉の溶湯Mに浸漬したときに溶湯口56を開けるようにしてもよい。
【0055】
上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1…ダイカストマシン、10…射出機構、11…ピストン、11a…前面、12…シリンダ、13…後方油室、14…前方油室、15…プランジャ、16…ロッド、17…プランジャチップ、18…駆動伝達プレート、19…電動サーボモータ、20…駆動伝達機構、21…アキュムレータ、22…供給バルブ、23…タンク、24…サーボバルブ、25…油圧センサ、26…位置センサ、30…型締機構、31…固定ダイプレート、32…可動ダイプレート、33…スリーブ、34…給湯口、50…溶湯供給機構、51…ラドル、52…容器、53…周壁、54…底部、54a…上面、54b…部分、55…上部、56…溶湯口、57…弁座、58…通気部、59…空間、61…アーム、62…湯面高さセンサ、63…センサ支持体、71…開閉機構、72…弁体、73…アクチュエータ、74…ピストンロッド、75…カップリング、81…溶湯量計測装置、82…フロート体、83…レーザー変位計、84…変位部材、85…フロート、91…ガス供給装置、92…流路切換弁、93…大気開放部、100…制御装置、M…溶湯、K1…固定金型、K2…移動金型、L1…高速前進開始位置、L2…減速開始位置、L3…増圧開始位置、V1、V2…溶湯量、Vs…設定量、R…ランナ、C…キャビティ、O…オーバーフロー部、G…ゲート