(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082021
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】帯電装置及び集塵装置
(51)【国際特許分類】
B03C 3/41 20060101AFI20240612BHJP
B03C 3/40 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B03C3/41 F
B03C3/40 A
B03C3/41 J
B03C3/41 Z
B03C3/41 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195702
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹之下 一利
(72)【発明者】
【氏名】辻本 かほる
【テーマコード(参考)】
4D054
【Fターム(参考)】
4D054AA11
4D054BA02
4D054BB12
4D054BB14
4D054BB23
4D054BC31
(57)【要約】
【課題】放電電極で発生したイオンを広範囲に輸送して、帯電空間内を均一に帯電できるようにする。
【解決手段】処理気流と略垂直になるように設置され、放電によりイオンを発生させる放電電極と、処理気流と交わるように設置され、接地電位に保たれる接地電極と、処理気流における放電電極及び接地電極の上流側及び下流側に処理気流を通過させるように設置され、その電圧が、放電電極に印加された電圧よりも低い電圧であって、放電電極の側から接地電極の放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、勾配電位電極とを備える、帯電装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理気流と略垂直になるように設置され、放電によりイオンを発生させる放電電極と、
前記処理気流と交わるように設置され、接地電位に保たれる接地電極と、
前記処理気流における前記放電電極及び前記接地電極の上流側及び下流側に当該処理気流を通過させるように設置され、その電圧が、当該放電電極に印加された電圧よりも低い電圧であって、当該放電電極の側から当該接地電極の当該放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、勾配電位電極と
を備える、帯電装置。
【請求項2】
前記勾配電位電極は、複数の棒状電極からなり、
前記複数の棒状電極は、前記放電電極を含み前記処理気流に垂直な面に投影された場合に当該放電電極に略垂直となるように設置された第1の棒状電極を含む、請求項1に記載の帯電装置。
【請求項3】
前記複数の棒状電極は、導電性部材により形成され、
前記勾配電位電極は、前記複数の棒状電極に前記放電電極の側からの棒状電極の数に応じて低下する電圧が印加されることにより、その電圧が、前記放電電極の側から前記接地電極の当該放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、請求項2に記載の帯電装置。
【請求項4】
前記複数の棒状電極は、半導電性部材又は絶縁性部材により形成され、
前記勾配電位電極は、前記複数の棒状電極に前記放電電極の側からの距離に応じて低下する電圧が生成されることにより、その電圧が、前記放電電極の側から前記接地電極の当該放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、請求項2に記載の帯電装置。
【請求項5】
前記複数の棒状電極は、前記第1の棒状電極と交わるように設置された第2の棒状電極を更に含む、請求項4に記載の帯電装置。
【請求項6】
前記接地電極は、
前記放電電極に隣接する位置に配置された第1の電極部と、
前記放電電極に対向する位置に配置された第2の電極部と
を含む、請求項1に記載の帯電装置。
【請求項7】
前記第1の電極部は、棒状の導電性部材により形成され、
前記第2の電極部は、平板状の導電性部材により形成されている、請求項6に記載の帯電装置。
【請求項8】
前記接地電極は、前記第1の電極部と前記第2の電極部とが略垂直に交差するように形成されている、請求項6に記載の帯電装置。
【請求項9】
前記放電電極は、複数の繊維状導電体から形成される、請求項1に記載の帯電装置。
【請求項10】
前記放電電極と前記接地電極との間に高電圧を印加する高電圧電源を更に備える、請求項1に記載の帯電装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の帯電装置と、
前記帯電装置により帯電された浮遊微粒子を付着させることにより集塵する集塵部と
を備える、集塵装置。
【請求項12】
前記集塵部は、集塵フィルタにより構成されている、請求項11に記載の集塵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電装置及び集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炭素繊維をその保持体から突出する如くに保持体に固定保持してその突出部を放電部とすると共にこれと導通する端子部を設けてコロナ放電極を形成し、コロナ放電極を対向電極に一定の間隙を介して相互に絶縁の上対向配設してコロナ電極系を構成し、コロナ放電極の端子部と対向電極間の端子部との間に高電圧を供給するためのコロナ放電用高圧電源を設け、コロナ放電極の放電部の先端から対向電極に向かってコロナ放電を発生せしめるコロナ放電ユニットが記載されている。
特許文献2には、フレームと、フレーム内に配置され、空気中にイオンを生成するように構成された導電性マイクロファイバーと、フレーム内に配置され、導電性マイクロファイバーとの電位差を生成するように構成された導電性プレートとを含み、導電板は、互いに直交し、電界が発生する帯電空間を画定する第1の導電板と第2の導電板とを含み、帯電空間は角柱状であり、導電性極細繊維を取り囲んでいる、空気中電気集塵用帯電装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-112549号公報
【特許文献2】米国特許第11161395号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処理気流における放電電極及び接地電極の上流側及び下流側に勾配電位電極を設置しない構成を採用した場合、放電電極で発生したイオンを広範囲に輸送することができず、帯電空間内を均一に帯電することができない。
【0005】
本発明の目的は、放電電極で発生したイオンを広範囲に輸送して、帯電空間内を均一に帯電できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、処理気流と略垂直になるように設置され、放電によりイオンを発生させる放電電極と、処理気流と交わるように設置され、接地電位に保たれる接地電極と、処理気流における放電電極及び接地電極の上流側及び下流側に処理気流を通過させるように設置され、その電圧が、放電電極に印加された電圧よりも低い電圧であって、放電電極の側から接地電極の放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、勾配電位電極とを備える、帯電装置を提供する。
勾配電位電極は、複数の棒状電極からなり、複数の棒状電極は、放電電極を含み処理気流に垂直な面に投影された場合に放電電極に略垂直となるように設置された第1の棒状電極を含む、ものであってよい。その場合、複数の棒状電極は、導電性部材により形成され、勾配電位電極は、複数の棒状電極に放電電極の側からの棒状電極の数に応じて低下する電圧が印加されることにより、その電圧が、放電電極の側から接地電極の放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、ものであってよい。また、複数の棒状電極は、半導電性部材又は絶縁性部材により形成され、勾配電位電極は、複数の棒状電極に放電電極の側からの距離に応じて低下する電圧が生成されることにより、その電圧が、放電電極の側から接地電極の放電電極に対向する電極部の側に向けて低下する電圧となっている、ものであってよい。その場合、複数の棒状電極は、第1の棒状電極と交わるように設置された第2の棒状電極を更に含む、ものであってよい。
接地電極は、放電電極に隣接する位置に配置された第1の電極部と、放電電極に対向する位置に配置された第2の電極部とを含む、ものであってよい。その場合、第1の電極部は、棒状の導電性部材により形成され、第2の電極部は、平板状の導電性部材により形成されている、ものであってよい。また、接地電極は、第1の電極部と第2の電極部とが略垂直に交差するように形成されている、ものであってよい。
放電電極は、複数の繊維状導電体から形成される、ものであってよい。
帯電装置は、放電電極と接地電極との間に高電圧を印加する高電圧電源を更に備える、ものであってよい。
【0007】
また、本発明は、上記の何れかの帯電装置と、帯電装置により帯電された浮遊微粒子を付着させることにより集塵する集塵部とを備える、集塵装置も提供する。
集塵部は、集塵フィルタにより構成されている、ものであってよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放電電極で発生したイオンを広範囲に輸送して、帯電空間内を均一に帯電できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態における電気集塵機の全体構成例を示す斜視図である。
【
図2】
図1で帯電部を視点Vから見たときの斜視図である。
【
図3】(a)は比較形態における帯電部の勾配電位形成による効果を示す図であり、(b)は本実施の形態における帯電部の勾配電位形成による効果を示す図である。
【
図4】実施例1の帯電部で印加した電圧を、比較例1、2の帯電部で印加した電圧と比べて示すグラフである。
【
図6】勾配電位検証用モックアップの断面図である。
【
図7】勾配電位検証用モックアップで計測された勾配電位マップを示す図である。
【
図8】イオン発生電極の先端からの距離とその距離において計測された電位との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例2の帯電部における帯電部厚みと集塵効率との関係を示したグラフである。
【
図10】実施例2の帯電部における帯電部厚みとオゾン濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
[本実施の形態の背景及び概要]
空気清浄機に用いられている集塵技術は、HEPAフィルタに代表される濾過式フィルタを用いるものが主流である。しかしながら、定期的な交換が必要となるため、環境負荷低減するためにはHEPAフィルタに替わる方式の集塵技術が望まれる。代替技術として、空気中の浮遊微粒子を放電等により帯電させ集塵する電気集塵機がある。電気集塵機は、放電により浮遊微粒子を帯電させる帯電部と、帯電させた浮遊微粒子を集塵する集塵部から構成される。定期的な洗浄により清浄能力が維持されるため交換を必要とせず、更に電気集塵機の圧力損失はHEPAフィルタに比べ低いため、ファンの負荷低減にもなる。
【0012】
電気集塵機の帯電部は、高圧電極(放電電極)と対向する接地電極との間に数kV程度の高電圧を印加して放電を発生させ、放電により発生するイオンにより浮遊微粒子を帯電させる。電気集塵の帯電部で用いられる高圧電極としては、ワイヤーや針等が一般的であるが、帯電効率を向上させるためには接地電極との間における電流値を高める必要がある。この場合、オゾン発生量が増加し、独特の刺激臭を放つので、そのまま室内に放出することができず、後段に設置される脱臭フィルタに含まれる活性炭を用いてオゾンを除去する必要がある。そうなると、脱臭フィルタへの負荷が大きくなるため、そもそもオゾンが発生しにくい構造の帯電部が必要となる。その代替手法の1つとして、高圧電極として炭素等の繊維状導電体を用いた帯電部が挙げられる。放電起点が非常に小さいため、オゾンが発生し難い。しかしながら、荷電方式として電界荷電に加え拡散荷電を用いるため、帯電空間の狭小化が難しいことが課題として挙げられる。この課題を解決する方式としては、帯電部と集塵部との間に離間距離を設ける方式、帯電部と集塵部とを分離して室内空間で拡散帯電させる方式が一般的である。前者の方式では、HEPAフィルタ搭載の空気清浄機に比べて集塵ユニットが厚くなり、空気清浄機自体のサイズが大きくなってしまう。一方、後者の方式ではユニットサイズは抑えることができるが、周辺空間へのチャージアップによる静電気問題が生じる。
【0013】
空気清浄機や空気調和機等の電気製品には、空気中の浮遊微粒子を放電等により帯電させ集塵する電気集塵機が備えられているものがある。このような電気集塵機は、放電により浮遊微粒子を帯電させる帯電部と、帯電させた浮遊微粒子を集塵する集塵部とを備えている。帯電部においては、高圧電極(放電電極)と、対向する接地電極との間に数kVの高電圧を印加して放電を発生させ、放電により発生するイオンにより浮遊微粒子を帯電させる。
【0014】
そこで、本実施の形態は、帯電部と集塵部とが一体化した構造で、オゾン極小化、帯電部サイズ狭小化、帯電性能の長期安定化を満たす技術として、勾配電位電極を用いた微粒子帯電装置、及びその装置を用いた電気集塵機を提供する。
【0015】
[本実施の形態における電気集塵機の構成]
図1は、本実施の形態における電気集塵機1の全体構成例を示す斜視図である。
図示するように、電気集塵機1は、帯電部10、集塵部30、ファン40、これらを収納する筐体50、及び、帯電部10と集塵部30とに高電圧を供給する高電圧電源60を備える。ここでは、筐体50を破線で示し、筐体50の内部に設けられた帯電部10及び集塵部30の構成が見えるようにしている。この電気集塵機1は、帯電部10と集塵部30と機能が分離した二段電気集塵方式である。ここで、帯電部10と集塵部30とは、脱着可能なユニットの形態として構成されていても構わない。
【0016】
ここで、処理気流(通風)の方向(通風方向)は、矢印で示すように、帯電部10から集塵部30に向かう方向に設定されている。通風は、集塵部30の通風方向の下流側(風下側)に設けられたファン40により行われる。
【0017】
帯電部10は、空気中の浮遊微粒子を帯電させる。帯電部10は、帯電装置の一例である。帯電部10は、複数のイオン発生電極11と、隔壁接地電極12と、勾配電位電極13a,13bと、供給された高電圧を複数のイオン発生電極11に給電するための給電部材14と、を備える。イオン発生電極11、隔壁接地電極12、及び勾配電位電極13a,13bについては、後で詳細に述べる。
【0018】
集塵部30は、帯電部10により帯電された浮遊微粒子を付着させることにより集塵する。例えば、集塵部30は、集塵フィルタにより構成される。集塵部30は、交互に積層された、表面が絶縁性材料の膜で被覆された板状の高圧電極31と、導電性を有する板状の対向電極32とを備える。尚、対向電極32は、荷電された粒子の電荷を逃がす形態であればよく、導電性を有する樹脂膜等で被覆されたものであっても構わない。高圧電極31と対向電極32の間が通風方向となる。対向電極32は、接地(GND)されることがあるため接地電極と呼ばれることもある。
尚、高圧電極31の表面を覆う絶縁性材料の膜には、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用い得る。
【0019】
筐体50は、通風方向の上流側(風上側)の帯電部10側に入口部51が設けられ、風下側の集塵部30側に出口部52が設けられている。尚、入口部51には、メッシュ(網)、格子等が設けられていてもよい。入口部51に設けられるメッシュ(網)、格子等は、ユーザの帯電部10への接触を防ぎつつ、通風に対する抵抗が小さいように設けられることがよい。また、入口部51には、形状の大きな粒子の侵入を抑制するプレフィルタが設けられてもよい。
尚、筐体50は、例えば、ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体)等の樹脂材料で構成されている。
【0020】
ファン40は、筐体50に設けられた風下側の出口部52に設けられている。空気の流れ(通風)は、筐体50の帯電部10側の入口部51から入り、帯電部10、集塵部30を経由して、筐体50のファン40が設けられた出口部52から出る。
尚、通風が阻害されない限り、電気集塵機1は、どのような向きに置かれても構わない。
【0021】
高電圧電源60は、イオン発生電極11と隔壁接地電極12との間に、直流(DC)の高電圧を印加することで、イオン発生電極11と隔壁接地電極12との間にコロナ放電(放電)を発生させる。そして、発生したコロナ放電により発生したイオンが浮遊微粒子に付着することで、浮遊微粒子を帯電(荷電)させる。尚、このようにイオン発生電極11と隔壁接地電極12との間に高電圧を印加する高電圧電源60は、帯電部10の一部として捉えることもできる。
また、高電圧電源60は、高圧電極31と対向電極32との間にも、直流(DC)の高電圧を印加する。すると、帯電部10で帯電した浮遊微粒子が、静電気力により対向電極32の表面に付着する。これにより、浮遊微粒子が集塵される。尚、このように高圧電極31と対向電極32との間に高電圧を印加する高電圧電源60は、集塵部30の一部として捉えることもできる。
【0022】
図2は、
図1で帯電部10を視点Vから見たときの斜視図である。従って、
図2では、通風方向は、矢印で示すように、上から下に向かう方向に設定されている。
図示するように、帯電部10は、イオン発生電極11と、隔壁接地電極12と、勾配電位電極13a,13bとを含む。
【0023】
イオン発生電極11は、PM2.5等の微粒子を含む空気中から放電によりイオンを発生させる。イオン発生電極11は、放電電極の一例である。イオン発生電極11は、代表構成例としては、複数の繊維状導電体により形成されたものがある。繊維状導電体は、例えば、繊維径が約5~7μmの炭素繊維を束としてかしめたものであってよい。
また、イオン発生電極11は、処理気流と垂直をなす方向に向けて配置される。但し、イオン発生電極11は、処理気流と正確に垂直でなくてもよく、略垂直であればよい。
尚、イオン発生電極11は、高電圧を印加される電極であるので、高圧電極と呼ばれることもある。図には、複数のイオン発生電極11として6つのイオン発生電極11a~11fを示したが、イオン発生電極11の数はこれに限られるものではない。
【0024】
隔壁接地電極12は、接地(GND)され、複数のイオン発生電極11を仕切る隔壁をなすように、処理気流と交わる方向に設置される。隔壁接地電極12は、接地電極の一例である。
隔壁接地電極12は、イオン発生電極11に隣接する位置に配置された電極部121と、イオン発生電極11に対向する位置に配置された電極部122とを含む。電極部121は、第1の電極部の一例であり、電極部122は、第2の電極部の一例である。電極部121及び電極部122は、平板状又は棒状(例えば丸棒状)の導電性部材により形成されてよいが、電極部121が棒状の導電性部材により形成され、電極部122が平板状の導電性部材により形成されることが好ましい。ここで、電極部121は、処理気流と垂直をなす方向に向けて配置される。但し、電極部121は、処理気流と正確に垂直でなくてもよく、略垂直であればよい。また、電極部122は、平板状の平面が通風方向に沿う方向に設けられている。
図2では、電極部122の平面は、通風方向と一致させている(電極部122の平面と通風方向とのなす角度が0°)が、必ずしも一致しなくてよい。更に、電極部121と電極部122とは、垂直に交差するように配置されるとよい。但し、電極部121と電極部122とは、正確に垂直でなくてもよく、略垂直であればよい。
尚、隔壁接地電極12は、電極部121がイオン発生電極11に対向するように設けられるため、対向電極と呼ばれることもある。図には、複数の電極部121として4つの電極部121a~121dを示し、電極部122として1つの電極部122を示したが、電極部121及び電極部122の数はこれに限られるものではない。
ここで、電極部121のみを設置した場合、イオン発生電極11と対向する位置に導体設置がないため、集塵効率が低下する。また、電極部122のみを設置した場合、隣り合うイオン発生電極11間での電界干渉により集塵効率が低下する。従って、隔壁接地電極12は、電極部121と電極部122とが直交するように設置することが好ましい。
【0025】
勾配電位電極13a,13bは、処理気流と垂直をなす方向に向けて配置される。但し、勾配電位電極13a,13bは、処理気流と正確に垂直でなくてもよく、略垂直であればよい。勾配電位電極13aは、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の上流側に設置され、勾配電位電極13bは、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の下流側に設置される。また、勾配電位電極13a,13bは、処理気流の通過が可能な形状及び構造を有し、処理気流を通過させるように設置される。図では、勾配電位電極13a,13bとして、それぞれ、イオン発生電極11を含み処理気流に垂直な面に投影された場合にイオン発生電極11に略垂直となるように設置された複数の棒状電極131a,131bを含むものを示している。棒状電極131a,131bは、第1の棒状電極の一例である。
また、勾配電位電極13a,13bには、グラフGで示すように、イオン発生電極11に印加された電圧よりも低い電圧が、イオン発生電極11の側から帯電部10の中央部分に向けて階段状に付与され、中央部分で接地される。図では、見易さのため、隔壁接地電極12と、勾配電位電極13a,13bとを離して示しているが、隔壁接地電極12の電極部122と勾配電位電極13a,13bとを接触させて、勾配電位電極13a,13bの中央部分が接地されるようにするとよい。
【0026】
[本実施の形態における帯電部の効果]
本実施の形態における帯電部10の勾配電位形成による効果を、比較形態における帯電部20の勾配電位形成による効果と比べて説明する。
【0027】
図3(a)は、比較形態における帯電部20の勾配電位形成による効果を示す図である。この帯電部20では、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の上流側及び下流側に一定電位電極23a,23bが設置されている。この場合、帯電空間に不均一な電界が生じ、図示するように、イオン発生電極11が発生させたイオンIが広範囲に拡散されず、発生するイオンIの量も増加しない。その結果、粉塵DのうちイオンIが付着した粉塵IDの割合は低くなり、集塵効果が低くなる。
【0028】
一方、
図3(b)は、本実施の形態における帯電部10の勾配電位形成による効果を示す図である。この帯電部10では、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の上流側及び下流側に勾配電位電極13a,13bが設置されている。この場合、帯電空間に均一な電界が生じ、図示するように、イオン発生電極11が発生させたイオンIが広範囲に拡散され、発生するイオンIの量も増加する。その結果、粉塵DのうちイオンIが付着した粉塵IDの割合は高くなり、集塵効果が高くなる。
【0029】
ところで、本実施の形態において、勾配電位電極13a,13bに勾配電位を形成する方法には、次の2つがある。
【0030】
第1の方法は、勾配電位電極13a,13bを構成する複数の棒状電極131a,131bが導電性部材により形成されている場合の方法である。この場合、第1の方法では、複数の棒状電極131a,131bにイオン発生電極11の側からの棒状電極131a,131bの数に応じて低下する電圧が印加される。尚、棒状電極131a,131bに電圧を印加するための電源としては、
図1に接続線を示さなかったが、高電圧電源60を用いてもよい。その場合、高電圧電源60とイオン発生電極11との間の接続線の抵抗よりも大きな抵抗を、高電圧電源60と棒状電極131a,131bとの間の接続線に設けるとよい。或いは、棒状電極131a,131bに電圧を印加するための電源としては、
図1に示さなかったが、高電圧電源60が印加する電圧よりも低い電圧を印加する別の電源を用いてもよい。
【0031】
第2の方法は、勾配電位電極13a,13bを構成する複数の棒状電極131a,131bが半導電性部材又は絶縁性部材により形成されている場合の方法である。この場合、第2の方法では、複数の棒状電極131a,131bにイオン発生電極11の側からの距離に応じて低下する電圧が、例えば静電気により生成される。尚、この第2の方法において、勾配電位電極13a,13bは、それぞれ、イオン発生電極11を含み処理気流に垂直な面に投影された場合にイオン発生電極11に略平行となるように設置された棒状電極131a,131bを更に含むものであってよい。つまり、勾配電位電極13a,13bは、メッシュ状を有するものであってよい。よって、この第2の方法では、イオン発生電極11及び隔壁接地電極12を挟み込む電極を、メッシュ電極と呼ぶこともある。但し、この第2の方法で更に含まれることになる棒状電極131a,131bは、イオン発生電極11に略平行となるように設置されたものに限らず、イオン発生電極11に対して0°よりも大きい所定の角度をなすように設置されたものであってもよい。つまり、勾配電位電極13a,13bは、エキスパンドメタル、パンチングメタル等の菱形の格子からなるメッシュ状を有するものであってもよい。換言すれば、勾配電位電極13a,13bは、それぞれ、
図2に示した棒状電極131a,131bと交わる棒状電極131a,131bを更に含むものであってもよい。第2の方法で更に含まれることになる棒状電極131a,131bは、第2の棒状電極の一例である。
【0032】
以下、第1の方法を用いる場合を実施例1とし、第2の方法を用いる場合を実施例2として、各実施例の効果について説明する。
【0033】
(実施例1の帯電部の効果)
まず、実施例1の帯電部10の勾配電位形成による効果を確認した結果について説明する。
【0034】
図4は、実施例1の帯電部10で印加した電圧を、比較例1、2の帯電部で印加した電圧と比べて示すグラフである。横軸は、イオン発生電極11からのギャップを表す。縦軸は、イオン発生電極11からのギャップが0である場合は、グラフの下に対応付けて示すように、イオン発生電極11に印加された電圧を表す。また、縦軸は、イオン発生電極11からのギャップが0より大きい場合は、グラフの下に対応付けて示すように、勾配電位電極13a,13b又は一定電位電極を構成する各棒状電極に印加された電圧を表す。
【0035】
比較例1では、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の上流側及び下流側に一定電位電極123a,123b(
図3(a)の一定電位電極23a,23bに対応)が設置される。ここでは、一定電位電極123a,123bは接地されており、その電位は0kvであるものとする。従って、一定電位電極123a,123bに付加される電圧は、グラフ中、点線で示すようなものとなる。
【0036】
比較例2では、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の上流側及び下流側に一定電位電極223a,223b(
図3(a)の一定電位電極23a,23bに対応)が設置される。ここでは、一定電位電極223a,223bは帯電されており、その電位はー2kVであるものとする。従って、一定電位電極223a,223bに付加される電圧は、グラフ中、破線で示すようなものとなる。
【0037】
実施例1では、処理気流におけるイオン発生電極11及び隔壁接地電極12の上流側及び下流側に勾配電位電極13a,13bが設置される。ここでは、勾配電位電極13a,13bに、-9kV~-1kVが階段状に付与されるものとする。従って、勾配電位電極13a,13bに付加される電圧は、グラフ中、実線で示すようなものとなる。
【0038】
次に、実施例1の帯電部10で性能を確保できるかどうかを検討した結果について説明する。
【0039】
電界分布については、実施例1の方が、比較例1、2よりも、広範囲となり、均一となることが分かった。
帯電部で荷電された粒子に対する電界荷電により荷電された粒子の割合である電界荷電寄与率については、実施例1の方が、比較例1、2よりも高くなることが分かった。
帯電部の薄型化については、比較例1、2では、隔壁接地電極12まで電界が届かないため、不可能である。一方、実施例1では、帯電部10で荷電された粒子に対する拡散荷電により荷電された粒子の割合である拡散荷電寄与率は薄型化の影響により低下するが、これは電界荷電寄与率でカバーされる。つまり、電界補完ができるため、帯電部10の薄型化は可能である。
【0040】
(実施例2の帯電部の効果)
まず、実施例2の帯電部10の勾配電位形成による効果を確認した結果について説明する。
【0041】
図5は、実施例2の帯電部10の断面図である。この帯電部10は、イオン発生電極11と、隔壁接地電極12と、勾配電位電極13a,13bとを含む。そして、高電圧電源60が、イオン発生電極11と隔壁接地電極12との間に高電圧を印加することで、イオン発生電極11と隔壁接地電極12との間に放電を発生させている。
この帯電部10では、イオン発生電極11が放電を発生させることにより、例えばアルマイトメッシュである勾配電位電極13a,13bの表面に静電気により勾配電位が生成される。しかしながら、
図5の帯電部10では、この勾配電位を計測することが困難なので、本実施例では、勾配電位検証用モックアップを用意した。
【0042】
図6は、勾配電位検証用モックアップ90の断面図である。図示するように、勾配電位検証用モックアップ90は、イオン発生電極11と、アルミニウム板92と、アルマイト93とを含む。つまり、
図6では、
図5のアルマイトメッシュに代えて、接地されたアルミニウム板92をアルマイト93で処理したものを用いている。そして、高電圧電源60が、イオン発生電極11とアルミニウム板92との間に高電圧を印加することで、イオン発生電極11とアルミニウム板92との間に放電を発生させている。
【0043】
図7は、勾配電位検証用モックアップ90で計測された勾配電位マップを示す図である。
図7では、
図6の勾配電位検証用モックアップ90のイオン発生電極11、アルミニウム板92、及びアルマイト93を含む部分を上方から見た図に、勾配電位マップが示されている。尚、この勾配電位マップにおける電位は、イオン発生電極11による放電の開始後5~10分の平均電位である。
【0044】
アルマイト93には、イオン発生電極11の先端に対応する位置に点P0を設定し、点P0から図の下方向に距離25、50、75、95の位置にそれぞれ点P1、点P2、点P3、点P4を設定した。また、点P2から図の左方向に距離50の位置に点P5を、点P2から図の右方向に距離50の位置に点P6を、それぞれ設定した。更に、点P4から図の左方向に距離50の位置に点P7を、点P4から図の右方向に距離50の位置に点P8を、それぞれ設定した。そして、これらの点における電位を計測した。
すると、イオン発生電極11に印加された電圧を100として、点P1、点P2、点P3、点P4、点P5、点P6、点P7、点P8の電位は、それぞれ、59.0、23.8、12.1、9.4、10.6、14.5、6.6、7.4となった。
【0045】
図8は、イオン発生電極11の先端からの距離とその距離において計測された電位との関係を示すグラフである。横軸は、イオン発生電極11の先端からの距離を表す。縦軸は、イオン発生電極11の先端からの距離が0である場合は、イオン発生電極11の電位を表す。また、縦軸は、イオン発生電極11からの距離が0より大きい場合は、勾配電位マップにおける電位を表す。更に、各プロットには、距離及び電位が
図7のどの点に対応するかも示している。
このグラフから、イオン発生電極11の先端からの距離が増加すると電位が低下する、つまり、勾配電位が生成されていることが分かる。
【0046】
次に、実施例2の帯電部10の集塵性能を確認した結果について説明する。ここでは、実施例2の帯電部10のメッシュ電極としてアルミニウムメッシュに厚さ5μm及び厚さ10μmのアルマイト処理を施したメッシュに勾配電位を付与したものを用いた。また、比較例3の帯電部320(
図3(a)の帯電部20に対応)のメッシュ電極としてアルミニウムメッシュに勾配電位を付与しないものを用いた。そして、実施例2の帯電部10及び比較例3の帯電部320の帯電部厚み毎の集塵効率及びオゾン濃度を調べた。
【0047】
図9は、実施例2の帯電部10における帯電部厚みと集塵効率との関係を示したグラフである。横軸は、帯電部厚みを表し、縦軸は、集塵効率を表す。また、このグラフは、帯電部10から集塵部30へ風を1回(ワンパス)通過させたときの集塵効率を表している。
このグラフから、帯電部厚みが厚くなるほど集塵効率は高くなることが分かる。また、比較例3の帯電部320、実施例2の帯電部10で厚さ5μmのアルマイト処理が施されたメッシュ電極を用いたもの、実施例2の帯電部10で厚さ10μmのアルマイト処理が施されたメッシュ電極を用いたものの順に、集塵率が高くなっていくことが分かる。
【0048】
図10は、実施例2の帯電部10における帯電部厚みとオゾン濃度との関係を示したグラフである。横軸は、帯電部厚みを表し、縦軸は、オゾン濃度を表す。
このグラフから、帯電部厚みが厚くなるほどオゾン濃度は低くなることが分かる。また、実施例2の帯電部10は、比較例3の帯電部320よりもオゾン濃度は高いが、厚さ5μmのアルマイト処理が施されたメッシュ電極を用いた帯電部10の方が、厚さ10μmのアルマイト処理が施されたメッシュ電極を用いた帯電部10よりも、オゾン濃度が低くなっていることが分かる。
【0049】
(まとめ)
本実施の形態では、勾配電が付与された勾配電位電極13a,13bを設けることとした。これにより、イオン発生電極11で発生したイオンを広範囲に輸送することが可能となり、帯電空間内を均一に帯電することができるようになった。
また、本実施の形態では、勾配電位を勾配電位電極13a,13bに付与し、又は、勾配電位効果を与える材料を勾配電位電極13a,13bの材料として選定することとした。これにより、帯電部材、プレフィルタ、集塵部等の周辺部材への電荷蓄積によるチャージアップを抑制できるようになった。
更に、本実施の形態では、電界集中を緩和するようにした。これにより、オゾン発生量が抑制され、スパーク放電が発生し難くなった。
【符号の説明】
【0050】
1…電気集塵機、10…帯電部、11…イオン発生電極、12…隔壁接地電極、13a,13b…勾配電位電極、14…給電部材、30…集塵部、40…ファン、50…筐体、60…高電圧電源