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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082029
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】可変アーム、可変装置および車両
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20240612BHJP
   B60G 7/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195710
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】内田 翼
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA53
3D301CA09
3D301DA08
3D301DA31
3D301DA35
3D301DA51
3D301DA54
3D301DA87
3D301DB02
3D301DB20
3D301EB27
3D301EC01
3D301EC06
(57)【要約】
【課題】車両の乗り心地と操縦安定性とを向上できる可変アーム、可変装置および車両を提供すること。
【解決手段】可変アーム20は、車体3とロアアーム12とを接続するものであり、可変アーム20の伸縮のし易さが可変に構成されるので、上下方向および左右方向の双方におけるサスペンション機構10のばね特性を変化させることができる。これにより、例えば車輪2を突き上げる力Fcが加わった場合に、可変アーム20を短縮させて上下方向におけるサスペンション機構10のばね定数を小さくすることにより、車輪2の上方変位に伴う振動が車体3に伝達されることを抑制できる。よって、車両1の乗り心地が向上する。また、例えば車体3に遠心力Faが加わった場合に、可変アーム20を短縮させて左右方向におけるサスペンション機構10のばね定数を大きくすることにより、車体3の横揺れを低減できる。よって、車両1の操縦安定性を向上できる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転可能に支持する車輪支持部材と、その車輪支持部材および車体を接続するサスペンションアームと、そのサスペンションアーム又は前記車輪支持部材と前記車体とを接続するショックアブソーバと、を備えたサスペンション機構に取り付けられ、前記車輪と前記車体との相対変位に応じて伸縮する可変アームであって、
前記可変アームは、前記サスペンションアーム又は前記車輪支持部材と前記車体とを接続すると共に、伸縮のし易さが可変に構成されることを特徴とする可変アーム。
【請求項2】
前記サスペンションアームは、ロアアームを備え、
前記可変アームは、前記ロアアームの上方側で前記車体と前記ロアアームとを接続することを特徴とする請求項1記載の可変アーム。
【請求項3】
前記可変アームは、コイルと、そのコイルが軸方向一端側に固定される筒状のチューブと、そのチューブの他端側にスライド可能に挿入されるロッドと、そのロッドの一端側に固定される磁性体と、を備え、前記コイルへの通電時に前記磁性体が前記コイルに引き寄せられることによって前記ロッドが短縮することを特徴とする請求項1記載の可変アーム。
【請求項4】
前記チューブは、前記ロッドが挿入される挿入孔を有し、前記チューブの他端側を閉塞する閉塞部を備え、
前記磁性体と前記閉塞部との間には、伸長または短縮した前記ロッドを中立位置に戻す弾性力を付与する弾性体が設けられることを特徴とする請求項3記載の可変アーム。
【請求項5】
前記車輪と、前記車体と、前記サスペンション機構と、備えた車両に取り付けられる可変装置であって、
請求項3記載の可変アームと、前記車両の走行状態を検出するセンサと、そのセンサの検出値に基づいて算出した電流を前記コイルに通電させる制御装置と、を備えることを特徴とする可変装置。
【請求項6】
前記車輪と、前記車体と、前記サスペンション機構と、を備え、
請求項5記載の可変装置が取り付けられることを特徴とする車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変アーム、可変装置および車両に関し、特に、車両の乗り心地と操縦安定性とを向上できる可変アーム、可変装置および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンション機構のばね特性を可変にする技術が知られている。例えば特許文献1には、ショックアブソーバ12のアブソーバ下室14bをシリンダ部材24の液室24bに連通する状態と、該アブソーバ下室14bをリザーバ44のリザーバ室44aに連通する状態と、を切り換える技術が記載されている。この技術では、かかる連通状態の切り換えにより、サスペンション装置10の上下方向のばね特性(ばね定数)が変化するように構成されている。これにより、例えば凹凸の多い路面を車両が走行する際に、上下方向におけるサスペンション装置10のばね定数を小さくすることにより、車輪の上下動に伴う振動が車体に伝達されることを抑制できる。よって、車両の乗り心地を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-157435号公報(例えば、段落0015~0027、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、左右方向(横方向)における車両への入力に対して何ら考慮されていない。よって、例えば、車両の旋回時に車体が横揺れ(ロール)が生じると、車両の操縦安定性を十分に向上できないという問題点がある。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両の乗り心地と操縦安定性とを向上できる可変アーム、可変装置および車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の可変アームは、車輪を回転可能に支持する車輪支持部材と、その車輪支持部材および車体を接続するサスペンションアームと、そのサスペンションアーム又は前記車輪支持部材と前記車体とを接続するショックアブソーバと、を備えたサスペンション機構に取り付けられ、前記車輪と前記車体との相対変位に応じて伸縮するものであって、前記可変アームは、前記サスペンションアーム又は前記車輪支持部材と前記車体とを接続すると共に、伸縮のし易さが可変に構成される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の可変アームによれば、次の効果を奏する。サスペンションアーム又は車輪支持部材と車体と接続する可変アームは、伸縮のし易さが可変に構成されるので、上下方向および左右方向の双方におけるサスペンション機構のばね特性を変化させることができる。これにより、例えば車輪を突き上げる力が加わった場合に、上下方向におけるサスペンション機構のばね定数を小さくする方向に可変アームを伸縮させることにより、車輪の上方変位に伴う振動が車体に伝達されることを抑制できる。よって、車両の乗り心地が向上するという効果がある。また、例えば車体に遠心力が加わった場合に、左右方向におけるサスペンション機構のばね定数を大きくする方向に可変アームを伸縮させることにより、車体の横揺れ(ロール)を低減できる。よって、車両の操縦安定性を向上できるという効果がある。
【0008】
請求項2記載の可変アームによれば、請求項1記載の可変アームの奏する効果に加え、次の効果を奏する。可変アームは、ロアアームの上方側で車体とロアアームとを接続するので、ロアアームの下方側に可変アームを配置する場合に比べ、左右方向(水平方向)に対する可変アームの取り付け角を大きく確保し易くできる。これにより、上下方向におけるサスペンション機構のばね定数が低減され易くなるという効果がある。
【0009】
請求項3記載の可変アームによれば、請求項1記載の可変アームの奏する効果に加え、次の効果を奏する。可変アームは、コイルと、そのコイルが軸方向一端側に固定される筒状のチューブと、そのチューブの他端側にスライド可能に挿入されるロッドと、そのロッドの一端側に固定される磁性体と、を備える。コイルへの通電時に磁性体がコイルに引き寄せられることでロッドが短縮するので、例えば可変アームを油圧シリンダなどから構成する場合に比べ、サスペンション機構のばね特性を応答性良く変化させることができる。よって、車両の乗り心地や操縦安定性がより向上するという効果がある。
【0010】
請求項4記載の可変アームによれば、請求項3記載の可変アームの奏する効果に加え、次の効果を奏する。チューブは、ロッドが挿入される挿入孔を有し、チューブの他端側を閉塞する閉塞部を備える。磁性体と閉塞部との間には、伸長または短縮したロッドを中立位置に戻す弾性力を付与する弾性体が設けられるので、例えばコイルへの通電を停止させた際に、弾性体の弾性力によって可変アームを短縮前の長さまで戻すことができる。よって、車両の乗り心地や操縦安定性がより向上するという効果がある。
【0011】
請求項5記載の可変装置は、請求項3記載の可変アームと、車両の走行状態を検出するセンサと、そのセンサの検出値に基づいて算出した電流をコイルに通電させる制御装置と、を備えるので、コイルに通電させる電流を車両の走行状態に応じて変化させることができる。これにより、車輪に加わる突き上げ力や、車体に加わる遠心力に対し、可変アームを適切に短縮させることができるので、車両の乗り心地や操縦安定性がより向上するという効果がある。
【0012】
請求項6記載の車両は、請求項5記載の可変装置が取り付けられるので、請求項5と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は、本発明の一実施形態におけるサスペンション機構を背面側から視た車両の部分拡大模式図であり、(b)は、可変アームの断面図である。
図2】車体に遠心力が加わった状態を示す車両の部分拡大模式図である。
図3】車輪に突き上げ力が加わった状態を示す車両の部分拡大模式図である。
図4】可変アームの通電処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態におけるサスペンション機構10を背面側から視た車両1の部分拡大模式図であり、図1(b)は、可変アーム20の断面図である。なお、図1(a)では、車両1の左側の前輪の周囲を図示しているが、車両1の右側の前輪の周囲も図1と同様(図1と左右対称)の構成である。
【0015】
図1に示すように、車両1は、路面100を転動する複数の車輪2と、それら複数の車輪2に支持される車体3と、車輪2および車体3を繋ぐサスペンション機構10と、を備える。サスペンション機構10は、車輪2側からの振動が車体3側に伝達されることを抑制する懸架装置である。
【0016】
サスペンション機構10は、車輪2を回転可能に支持するナックル11を備え、ナックル11の下端部にはロアアーム12(トランスバースリンク)が連結される。ロアアーム12は左右(略水平方向)に延びており、ロアアーム12の左端はボールジョイント13を介してナックル11に回転可能に連結され、ロアアーム12の右端は防振ブッシュ14を介して車体3に揺動可能(前後方向の軸回りに回転可能)に連結される。
【0017】
路面100の凹凸などによって車輪2を突き上げる力が生じると、車輪2と共にロアアーム12が車体3に対して上下に揺動する。この揺動時の衝撃がショックアブソーバ15によって吸収される。
【0018】
ショックアブソーバ15は、ナックル11の上端部に剛結されるダンパー15aと、そのダンパー15aのピストンロッドが挿入されるコイルスプリング15bと、を備えるストラットであり、公知の構成が採用可能であるので詳細な説明を省略する。ショックアブソーバ15の上端(ダンパー15aのピストンロッドの先端)は、ゴム製のストラットマウント(図示せず)などを介して車体3に弾性的に連結されている。
【0019】
上述した通り、車輪2の上下動に伴う衝撃は、主にショックアブソーバ15の伸縮によって減衰されるが、本実施形態では、このショックアブソーバ15の伸縮を補助する可変アーム20がサスペンション機構10に取り付けられる。
【0020】
可変アーム20は、円筒状のチューブ21を備え、チューブ21の軸方向一端側(図1(b)の右側)の内周にはコイル22が固定される。コイル22は、チューブ21の軸回りに導線が巻かれた励磁コイルであり、コイル22の内周側には磁性材料からなる鉄心23が固定される。
【0021】
チューブ21の軸方向他端(図1(b)の左側)は閉塞板24によって閉塞され、閉塞板24には、丸棒状のロッド25を挿入するための挿入孔24aが形成される。ロッド25の一端(コイル22側の端部)には、円柱状の磁性体26が固定され、磁性体26と閉塞板24との間には、ゴム製の弾性体27が設けられる。弾性体27は、ロッド25を取り囲む円筒状に形成され、弾性体27の軸方向両端部は、閉塞板24及び磁性体26に接着されている。
【0022】
磁性体26は、鉄や磁石などの磁性材料を用いて形成されるので、コイル22に電流が通電されると、鉄心23が電磁石となって磁性体26を引き寄せる吸引力が生じる。この吸引力により、磁性体26(ロッド25)が弾性体27の弾性力に抗してコイル22側にスライドし、このスライドによって可変アーム20が短縮する。
【0023】
一方、コイル22への通電が停止されると、弾性体27の弾性力によって磁性体26(ロッド25)が初期位置に戻るようにスライドして可変アーム20が伸長する。このような可変アーム20の伸長時には、チューブ21の内周面に対して磁性体26が摺動し、閉塞板24の挿入孔24aに対してロッド25が摺動するが、この摺動部分については軸受けなどの公知の摺動構造が適用可能である。
【0024】
チューブ21の軸方向における端部は、防振ブッシュ16を介して車体3に揺動可能に連結され、ロッド25の先端(磁性体26が固定される側とは反対側の端部)は、防振ブッシュ17を介してロアアーム12に揺動可能に連結される。なお、これらの連結部分にボールジョイントを用いても良い。即ち、可変アーム20の両端の取り付け方法は、ロアアーム12などの公知のサスペンションアームの取付け構造を適用できる。
【0025】
可変アーム20は、車体3に対するロアアーム12の揺動軸(車両1の前後方向)と直交する平面に沿う姿勢であって、鉛直方向に対して傾斜した姿勢で車体3とロアアーム12とを接続する。本実施形態では、この可変アーム20の鉛直方向に対する取り付け角は50°であり、同方向に対するショックアブソーバ15の取り付け角よりも大きく設定されている。
【0026】
このように、車体3とロアアーム12とを可変アーム20によって斜めに繋ぐことにより、車体3の横揺れを支えることや、ショックアブソーバ15の短縮動作(ロアアーム12の上方へのストローク)を補助することができる。この点について、図2及び図3を参照して説明する。まず、図2を参照して、車体3の横揺れを可変アーム20で支える場合について説明する。図2は、車体3に遠心力Faが加わった状態を示す車両1の部分拡大模式図である。
【0027】
図2に示すように、車輪2を左方向(図2の左側)に操舵するハンドル操作が行われると、車体3には右方向への遠心力Faが作用する。車体3に右方向への遠心力Faが作用する場合には、車体3の横揺れ(右方向への変位)を支えるために、図2に示す車体3の左側に接続された可変アーム20のコイル22に通電する。コイル22への通電により、磁性体26が鉄心23に引き寄せられることによってロッド25が短縮し、このロッド25の短縮によって可変アーム20には短縮力Fbが生じる(可変アーム20が伸長し難い状態になる)。
【0028】
可変アーム20は、車体3とロアアーム12とを斜めに繋いでいるので、車体3に遠心力Faが作用する際に可変アーム20を短縮させことにより、車輪2から車体3が離れる変位を可変アーム20の短縮力Fbで支えることができる。つまり、左右方向におけるサスペンション機構10のばね定数を、可変アーム20の短縮力Fbによって大きくできる。これにより、車両1の旋回時に車体3に横揺れが生じることを抑制できるので、車両1の操縦安定性を向上できる。
【0029】
なお、図2では、車両1が左側に旋回する状態を例示しているが、車両1が右側に旋回する場合には、図2に示す遠心力Faとは逆向きの遠心力が車体3に作用する。よって、この場合には、車体3の右側に接続されている可変アーム20に通電すれば、車体3の横揺れを可変アーム20の短縮力で支えることができる。
【0030】
可変アーム20への通電の制御については図4を参照して後述するが、車体3に加わる遠心力Fa(車輪2の操舵角)が所定値以下になると、可変アーム20への通電が停止される。閉塞板24と磁性体26とに弾性体27が接着されているので、可変アーム20への通電が停止された場合には、弾性体27の弾性力によって可変アーム20を短縮前の自然長に戻すことができる。これにより、車体3に遠心力Faが作用していない状態で、無駄な可変アーム20の短縮力Fbがサスペンション機構10に作用することを抑制できる。よって、車両1の操縦安定性を向上できる。
【0031】
次いで、車輪2に突き上げ力Fcが作用した場合について説明する。図3は、車輪2に突き上げ力Fcが加わった状態を示す車両1の部分拡大模式図である。
【0032】
図3に示すように、路面100の突起物101を車輪2が乗り上げると、車輪2を上方に変位させる突き上げ力Fcが作用する。なお、突起物101とは、路面100の凹凸や、路面100に落ちている小石や、路面100と歩道との間の段差などである。
【0033】
車輪2への突き上げ力Fcが作用すると、車体3に対するロアアーム12の上方への揺動に伴い、ショックアブソーバ15が短縮することによって車体3への振動伝達が抑制される。しかし、車輪2への突き上げ力Fcが大きいと、車体3への振動伝達の抑制が不十分になることがある。
【0034】
よって、車輪2への突き上げ力Fcが作用した場合にも、可変アーム20のコイル22に通電する。コイル22への通電により、磁性体26が鉄心23に引き寄せられることによってロッド25が短縮し、このロッド25の短縮によって可変アーム20には短縮力Fbが生じる。
【0035】
可変アーム20は、車体3とロアアーム12とを斜めに繋いでいるので、車輪2への突き上げ力Fcが作用した時に可変アーム20を短縮させことにより、ショックアブソーバ15の短縮(ロアアーム12の上方へのストローク)を可変アーム20の短縮力Fbで補助できる。つまり、上下方向におけるサスペンション機構10のばね定数を可変アーム20の短縮力Fbによって小さくできる。これにより、車輪2の上方への変位に伴う振動が車体3に伝達されることを抑制できるので、車両1の乗り心地を向上できる。
【0036】
なお、図3では、車両1の左側の車輪2に突き上げ力Fcが作用する状態を例示しているが、車両1の右側の車輪2に突き上げ力Fcが作用する場合には、車体3の右側に接続されている可変アーム20に通電すれば良い。これにより、車輪2の上方への変位に伴う振動が車体3に伝達されることを抑制できるので、車両1の乗り心地を向上できる。
【0037】
車輪2への突き上げ力Fcが所定値以下になると、可変アーム20への通電が停止される。可変アーム20への通電が停止されると、弾性体27の弾性力によって可変アーム20が短縮前の自然長に戻るので、車輪2に突き上げ力Fcが作用していない状態で、無駄な可変アーム20の短縮力Fbがサスペンション機構10に作用することを抑制できる。これにより、車両1の乗り心地を向上できる。
【0038】
このように、本実施形態の可変アーム20は、車体3とロアアーム12とを斜めに接続すると共に、通電の有無によって伸縮のし易さが可変に構成されている。これにより、上下方向および左右方向の双方におけるサスペンション機構10のばね特性を変化させることができる。よって、車両1の乗り心地と操縦安定性とを向上できる。
【0039】
なお、車両1が平坦な路面100を一定の速度で直進する(車輪2の操舵角が0°である)通常の走行状態(図1(a)の状態)においては、可変アーム20への通電が行われることなく、可変アーム20が自然長になるように構成されている。自然長とは、ロッド25(磁性体26)が中立位置にあり、閉塞板24と磁性体26とを繋ぐ弾性体27に荷重が作用しない状態である。これにより、通常の走行状態における車両1の僅かな振動を弾性体27の弾性力で減衰できる。
【0040】
また、閉塞板24と磁性体26とに弾性体27が接着されているので、仮に、想定以上の突き上げ力Fcが車輪2に作用した場合でも、可変アーム20の過剰な短縮を弾性体27の弾性力で規制できる。また、何らかの要因によって可変アーム20が過剰に伸長しようとした場合にも、その過剰な伸長を弾性体27の弾性力で規制できる。可変アーム20の過剰な伸縮を弾性体27で規制することにより、コイル22(鉄心23)や閉塞板24に磁性体26が接触(衝突)することを抑制できるので、可変アーム20の破損を抑制できる。
【0041】
ここで、上記のように上下方向および左右方向の双方におけるサスペンション機構10のばね特性を変化させることを目的とする場合、例えば空圧や油圧のシリンダなどの他の公知のアクチュエータから可変アーム20を構成することも可能である。しかし、そのようなシリンダを用いる構成であると、ポンプや配管などの多数の部品が必要になると共に、サスペンション機構10のばね特性を応答性良く変化させることができない。
【0042】
これに対して本実施形態の可変アーム20は、コイル22への通電によって短縮する電磁アクチュエータである。これにより、車両1に搭載されるバッテリーを可変アーム20の駆動源(電源)として使用できるので、シリンダを用いる場合のようにポンプなどの部品を別途設ける必要がない。また、可変アーム20を電磁アクチュエータとすることにより、サスペンション機構10のばね特性を応答性良く変化させることができるので、車両1の乗り心地や操縦安定性を効果的に向上できる。
【0043】
また、サスペンション機構10のばね特性を変化させることを目的とする場合、例えば、ロアアーム12の下側で、車体3とロアアーム12とを可変アーム(伸長可能なアクチュエータ)で接続することも可能である。このような構成の場合には、例えば車輪2への突き上げ力Fcが作用した場合に、可変アームを伸長させる(ロアアーム12を押し上げる)ことにより、ショックアブソーバ15の短縮動作(ロアアーム12の上方への揺動)を補助できる。
【0044】
しかしながら、可変アームをロアアーム12の下側に配置する構成では、可変アームの取り付け角を水平方向に近い角度にする必要があり、このような角度の可変アームでは、上下方向におけるサスペンション機構10のばね定数を十分に低下させることができない。また、可変アームをロアアーム12の下側に配置する場合、水平方向に対する可変アームの取り付け角を大きく確保するためには、ロアアーム12の配置を嵩上げしたり、ロアアーム12の形状を変更したりする必要があり、サスペンション機構10の設計の自由度が低下する。
【0045】
これに対して本実施形態では、ロアアーム12の上側で可変アーム20が車体3とロアアーム12とを接続する構成である。このような構成であれば、水平方向に対する可変アーム20の取り付け角を十分に大きく確保できると共に、ロアアーム12の配置を嵩上げしたり、ロアアーム12の形状を変更したりすることを不要にできる。よって、上下方向におけるサスペンション機構10のばね定数を低下させることを可能にしつつ、サスペンション機構10の設計の自由度を向上できる。
【0046】
次いで、可変アーム20の通電(駆動)の制御について説明する。可変アーム20の通電の制御は、車輪2に設けられた加速度センサ2a(図3参照)の検出結果や、図示しないステアリングセンサ及び車速センサの検出結果に基づいて行われる。車両1は、それらの各センサの検出値に基づいて可変アーム20への通電量を算出する車両制御装置(図示せず)を備えている。これらの各センサ、車両制御装置、及び可変アーム20が、サスペンション機構10のばね特性を変化させるための可変装置を構成する。
【0047】
車両制御装置は、CPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータであり、CPUは、ROMに記憶された制御プログラムに従って、可変アーム20の通電処理(図4参照)を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や、各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。
【0048】
図4を参照して、可変アーム20の通電処理について説明する。図4は、可変アーム20の通電処理を示すフローチャートである。この処理は、車両制御装置の電源が投入されている間、CPUによって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される。
【0049】
図4に示すように、可変アーム20の通電処理では先ず、車両1の車輪2の操舵角が所定値(例えば、2°)以上であるか否かを確認する(S1)。上述した通り、この車輪2の操舵角は、車両1に設けられた図示しないステアリングセンサによって検出される。車輪2の操舵角が所定値以上である場合には(S1:Yes)、車輪2の操舵角と、車速センサで検出される現在の車両1の車速とに基づいて、車体3に作用すると推定される遠心力Faを算出する(S2)。
【0050】
S2の処理の後、車体3に作用すると推定される遠心力Faが所定値α以上であるか否かを確認する(S3)。推定される遠心力Faが所定値αを下回っている場合には(S3:No)、車体3の横揺れを規制する必要が無いため、一連の処理を終了する。
【0051】
一方、S3の処理で推定された遠心力Faが所定値α以上である場合には(S3:Yes)、遠心力Faによる車体3の横揺れを支える必要があるため、推定される遠心力Faに応じた(例えば、遠心力Faの大きさに比例した)電流で可変アーム20に通電する(S4)。このS4の処理により、遠心力Faによる車体3の横揺れを可変アーム20の短縮力Fbで支えることができる。
【0052】
このように、車輪2の操舵角と車両1の車速とに基づいて可変アーム20への通電量を算出することにより、車体3に作用する遠心力Faに応じた短縮力Fbで可変アーム20を短縮させることができる。即ち、可変アーム20の短縮力Fbを無段階で調整できるので、車体3の横揺れを適切に規制できる。よって、車両1の操縦安定性を向上できる。
【0053】
S4の処理の後、現在の車輪2の操舵角と車両1の車速とに基づいて、車体3に作用する遠心力Faを再度算出し(S5)、その算出された遠心力Faが所定値β以下であるか否かを確認する(S6)。車体3に作用する遠心力Faが所定値βを超えている場合には(S6:No)、可変アーム20への通電を継続する必要があるので、S4の処理に戻り、遠心力Faに応じた電流で可変アーム20に通電する。これにより、車体3に作用する遠心力Faが所定値βを超えている間は、その遠心力Faの大きさに応じて可変アーム20の短縮力Fbを変化させることができる。よって、可変アーム20の短縮力Fbによって車体3の横揺れを適切に規制できるので、車両1の操縦安定性を向上できる。
【0054】
一方、S6の処理において、車体3に作用する遠心力Faが所定値β以下となった場合には(S6:Yes)、可変アーム20への通電を停止して(S7)、一連の処理を終了する。
【0055】
このように、可変アーム20の通電処理では、車体3に遠心力Faが作用する場合に、可変アーム20に通電を開始するか否かが所定値α(第1の閾値)に基づいて判断され、可変アーム20への通電を停止するか否かが所定値β(第2の閾値)に基づいて判断される。
【0056】
これらの値α,βは同一の値であっても良いが、通電開始の判定を行うための所定値αは、通電停止の判定を行うための所定値βよりも小さくすることが好ましい。これは、通電開始の閾値(所定値α)を比較的小さい値にすることにより、車両1が旋回し始めた時に可変アーム20を即座に短縮させることができるためである。
【0057】
一方、S1の処理において、車輪2の操舵角が所定値(例えば、2°)未満である場合は(S1:No)、車両1がほぼ直進している状態である。この場合には、車輪2に設けられた加速度センサ2aの値が所定値以上であるか否かを確認する(S8)。加速度センサ2aの値が所定値未満である場合には(S8:No)、車両1が平坦な路面100を走行していると判断できるので、一連の処理を終了する。
【0058】
一方、S8の処理で検出される加速度センサ2aの値が所定値以上である場合(S8:Yes)、車輪2が突起物101を乗り越え始めたと判断できるので、加速度センサ2aの値に応じた(比例した)電流で可変アーム20に通電する(S9)。このS9の処理により、ショックアブソーバ15の短縮(ロアアーム12の上方へのストローク)を可変アーム20の短縮力Fbで補助できる。
【0059】
また、加速度センサ2aの値に基づいて可変アーム20への通電量を算出することにより、車輪2への突き上げ力Fcの大きさに応じた短縮力Fbで可変アーム20を短縮させることができる。即ち、可変アーム20の短縮力Fbを無段階で調整できるので、ショックアブソーバ15の短縮(ロアアーム12の上方へのストローク)を適切に補助できる。よって、車両1の乗り心地を向上できる。
【0060】
S9の処理の後、加速度センサ2aの値が所定値以下であるか否かを確認する(S10)。加速度センサ2aの値が所定値を超えている場合には(S10:No)、可変アーム20への通電を継続する必要があるので、S9の処理に戻り、現在の加速度センサ2aの値に応じた電流で可変アーム20に通電する。これにより、加速度センサ2aの値が所定値を超えている間は、車輪2の突き上げ力Fcの大きさに応じて可変アーム20の短縮力Fbを変化させることができる。よって、可変アーム20の短縮力Fbによってショックアブソーバ15の短縮(ロアアーム12の上方へのストローク)を適切に補助できるので、車両1の乗り心地を向上できる。
【0061】
一方、S10の処理において、加速度センサ2aの値が所定値以下となった場合(S10:Yes)、可変アーム20への通電を停止して(S7)、一連の処理を終了する。
【0062】
以上の通り、本実施形態の車両1によれば、車両1への入力(車体3の遠心力Faや車輪2の突き上げ力Fc)に応じて可変アーム20を短縮させることにより、上下方向や左右方向におけるサスペンション機構10のばね特性を調整できる。よって、車両1の乗り心地と操縦安定性とを向上できる。
【0063】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0064】
上記実施形態では説明を省略したが、例えば車体3の遠心力Faと車輪2の突き上げ力Fcとが同時に作用した場合には、それらの双方の力Fa,Fcに応じた通電量(短縮力Fb)で可変アーム20を短縮させても良い。
【0065】
上記実施形態では、可変アーム20の取り付け対象であるサスペンション機構10が、車両1の前輪を車体3に懸架するフロントサスペンションである場合を説明したが、リヤサスペンションに可変アーム20を取り付けても良い。
【0066】
上記実施形態では、車速と操舵角とに基づいて車体3に加わる遠心力Faを算出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、加速度センサなどの他の公知の検出手段(車両1に搭載される各種のセンサ)に基づいて車体3に加わる遠心力Faを判定し、その判定された遠心力Faに応じた電流を可変アーム20に通電しても良い。
【0067】
上記実施形態では、車輪2に設けられる加速度センサ2aの検出値に基づいて車輪2に加わる突き上げ力Fcを検出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、車載カメラで撮影される路面の凹凸の大きさから車輪2に加わる突き上げ力Fcを推定し、その推定された突き上げ力Fcに応じた電流を可変アーム20に通電しても良い。また、サスペンション機構10を構成する各部材(ロアアーム12等の車輪2の上下動に基づいて変位する部材)の変位をセンサで検出し、その検出された変位量に応じた電流を可変アーム20に通電しても良い。
【0068】
上記実施形態では、可変アーム20の通電量が無段階で調整される場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、車体3に作用する遠心力Faや、車輪2の突き上げ力Fcの大きさ応じて可変アーム20の通電量を段階的に調整しても良い。また、それらの力Fa,Fcの大きさに依らず可変アーム20の通電量を一定(不変)にし、通電のON/OFFのみで可変アーム20を短縮させても良い。
【0069】
上記実施形態では、可変アーム20がロアアーム12の上方側で車体3とロアアーム12とを接続する場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、可変アーム20がロアアーム12の下側で車体3とロアアーム12とを接続する構成でも良い。この構成の場合には、伸長可能なアクチュエータ(ピエゾアクチュエータなど)から可変アーム20を構成し、例えば車輪2への突き上げ力Fcが加わった場合に可変アーム20を伸長させれば良い。
【0070】
また、車体3とナックル11とを可変アーム20で接続しても良いし、サスペンション機構10がアッパーアームなどの他のサスペンションアームを備える場合には、そのサスペンションアームと車体3とを可変アーム20で接続しても良い。即ち、サスペンション機構10の上下方向および左右方向の双方のばね定数を可変にできる構成であれば、可変アーム20の配置は適宜設定できる。
【0071】
上記実施形態では、可変アーム20がコイル22への通電によって短縮する電磁アクチュエータであり、能動的な短縮のみが可能である場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、ピエゾアクチュエータや、空圧または油圧のシリンダなどの他の公知のアクチュエータであって、能動的な伸長のみが可能なアクチュエータや、能動的に伸縮可能(伸長および短縮の双方が可能)なアクチュエータから可変アーム20を構成しても良い。
【0072】
伸縮可能なアクチュエータから可変アーム20を構成する場合、例えば車体3の右方向への遠心力Faが作用した時に、車体3の左側の可変アーム20を短縮させる(車体3を左側に引っ張る)一方、車体3の右側の可変アーム20を伸長させる(車体3を左側に押し込む)ことが好ましい。これにより、車体3の横揺れをより効果的に抑制できる。
【0073】
上記実施形態では、鉛直方向に対する可変アーム20の取り付け角度が50°である場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。鉛直方向に対する可変アーム20の取り付け角は、サスペンション機構10に求められるばね特性に応じて適宜設定できるが、該可変アーム20の取り付け角は、20°以上70°以下であることが好ましく、30°以上60°以下であることがより好ましい。
【0074】
上記実施形態では、コイル22の内周側に鉄心23を設け、この鉄心23の磁力(吸引力)で磁性体26を引き寄せることによって可変アーム20を短縮させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、鉄心23を省略し、コイル22の磁力のみで磁性体26を引き寄せても良い。また、鉄心23をコイル22に固定するのではなく、鉄心23と磁性体26と一体に形成し(又は鉄心23を磁性体26に固定し)、通電によって鉄心23をコイル22の内周側に引き寄せる構成でも良い。
【0075】
上記実施形態では、可変アーム20の閉塞板24と磁性体26との間にゴム製の弾性体27が設けられる場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、弾性体27は、コイルばねなどの他の公知の弾性体であっても良いし、弾性体27を省略しても良い。
【0076】
上記実施形態では、弾性体27が閉塞板24と磁性体26とに接着(固定)される場合を説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、弾性体27をチューブ21の内周面とロッド25の外周面とに接着する構成でも良い。
【符号の説明】
【0077】
2 車輪
3 車体
10 サスペンション機構
11 ナックル(車輪支持部材)
12 ロアアーム(サスペンションアーム)
15 ショックアブソーバ
20 可変アーム
21 チューブ
22 コイル
24 閉塞板(閉塞部)
24a 挿入孔
25 ロッド
26 磁性体
図1
図2
図3
図4