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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082032
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】巻真連動機構及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 27/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
G04B27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195717
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】島 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大介
(57)【要約】
【課題】つづみ車と小鉄車とが突き当たった場合及び小鉄車と時刻合わせ用の輪列の歯車とが突き当たった場合も巻真を1段位置及び2段位置まで引き出すことができる。
【解決手段】巻真連動機構10は、0段位置から、1段位置及び2段位置まで引き出し可能の巻真10と、巻真10の移動に応じて回転するおしどり20と、おしどり20の回転に対応して、つづみ車18を軸方向に移動させるかんぬき30と、1段位置及び2段位置においてつづみ車18に噛み合う小鉄車50と、おしどり20に係合し、の1段位置と2段位置との間で、おしどり20の回転位置に応じて小鉄車50を移動させる切替リンク40と、を備え、かんぬき30は、つづみ車18に係合した係合部36と支点C2との間に弾性変形し得る弾性片35を有し、切替リンク40は、小鉄車50が支持された部分とおしどり20が係合した溝41との範囲で弾性変形し得る引き側部分42aを有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の最も押し込まれた0段位置から、前記0段位置から前記軸方向に引き出された1段位置、及び前記1段位置から前記軸方向にさらに引き出された2段位置まで引き出し可能の巻真と、
前記巻真に連結されて、前記巻真の前記軸方向への移動に応じて回転するおしどりと、
前記おしどりの回転に応じて回転することにより、前記巻真の軸上に設けられたつづみ車を前記軸方向に移動させるかんぬきと、
前記巻真の前記1段位置及び前記2段位置において前記つづみ車に噛み合う小鉄車と、
前記おしどりに係合し、前記巻真の前記1段位置と前記2段位置との間で、前記おしどりの回転位置に応じて変位することにより前記小鉄車を移動させる切替部材と、を備え、
前記かんぬきは、前記つづみ車に係合した係合部と回転の中心となる支点との間に、弾性変形し得る第1の弾性部を有し、
前記切替部材は、前記おしどりが接する部分を弾性変形し得る第2の弾性部を有する、巻真連動機構。
【請求項2】
前記第1の弾性部は、前記係合部を自由端とするように延びて形成され、前記つづみ車が変位しない状態において、前記かんぬきに接した前記おしどりの回転を許容するように弾性変形する、請求項1に記載の巻真連動機構。
【請求項3】
前記第2の弾性部は、回転中心となる支点を挟んで、前記小鉄車を支持した部分とは反対側の部分に形成されて、前記切替部材が変位しない状態において、前記切替部材に係合した前記おしどりの回転を許容するように弾性変形する、請求項1又は2に記載の巻真連動機構。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の巻真連動機構と、
前記巻真の前記0段位置、前記1段位置及び前記2段位置において、それぞれ前記巻真連動機構と噛み合う複数の輪列の歯車と、を備えた時計。
【請求項5】
請求項3に記載の巻真連動機構と、
前記巻真の前記0段位置、前記1段位置及び前記2段位置において、それぞれ前記巻真連動機構と噛み合う複数の輪列の歯車と、を備えた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻真連動機構及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計の巻真は、時計の本体から外部に突出した部分にりゅうずが設けられていて、りゅうずを巻真の軸回りに回転することで、ぜんまいを巻き上げる操作を行うことができる。
【0003】
また、巻真は軸方向に引き出すことができ、例えば引き出していない位置を0段引き出し位置(以下、0段位置という。)とし、引き出した状態を1段引き出し位置(以下、1段位置という。)としたとき、1段位置では、りゅうずを回転したとき、ぜんまいの巻き上げ操作は行われず、時刻表示の指針を回転させて、時刻合わせの操作を行うことができる。
【0004】
巻真は、1段位置からさらに引き出すことができるものもあり、この場合、1段位置においては、例えばカレンダーの日付を早回しで修正する操作を行うことができ、1段位置からさらに引き出した2段引き出し位置(以下、2段位置という。)においては、時刻合わせ操作を行うように設定されている。
【0005】
上述した巻真の引き出し位置に応じた機能(ぜんまい巻き上げ、カレンダー早修正等、時刻合わせ)は、巻真と、おしどりと、かんぬきと、つづみ車と、きち車と、小鉄車と、小鉄車の位置を変位させる切替部材と、を備えた巻真連動機構によって実現している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-266700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された巻真連動機構は、つづみ車の歯先とつづみ車に噛み合うべき小鉄車の歯先とが突き当たったときに、つづみが本来移動すべき位置まで移動できないため、巻真を、設定されている本来の1段位置まで引き出せないことが起こり得る。この場合、時計の使用者は、巻真を1段位置まで引き出したと勘違いし、その状態でりゅうずを回しても、所望とする作動(例えば、カレンダーの修正)を行うことができない。
【0008】
同様に、上記の巻真連動機構は、切替部材によって変位した小鉄車の歯先と小鉄車が噛み合うべき、時刻合わせ用の輪列における歯車(例えば、日の裏中間車)の歯先とが突き当たったときに、小鉄車が本来移動すべき位置まで移動できないため、巻真を、設定されている本来の2段位置まで引き出せないことが起こり得る。この場合、時計の使用者は、巻真を2段位置まで引き出したと勘違いし、その状態でりゅうずを回しても、所望とする作動(例えば、時刻合わせ)を行うことができない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、つづみ車と小鉄車とが突き当たった場合においても巻真を1段位置まで引き出すことができ、かつ小鉄車と時刻合わせ用の輪列における歯車とが突き当たった場合においても巻真を2段位置まで引き出すことができる巻真連動機構及びこの巻真連動機構を備えた時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、軸方向の最も押し込まれた0段位置から、前記0段位置から前記軸方向に引き出された1段位置、及び前記1段位置から前記軸方向にさらに引き出された2段位置まで引き出し可能の巻真と、前記巻真に連結されて、前記巻真の前記軸方向への移動に応じて回転するおしどりと、前記おしどりの回転に応じて回転することにより、前記巻真の軸上に設けられたつづみ車を前記軸方向に移動させるかんぬきと、前記巻真の前記1段位置及び前記2段位置において前記つづみ車に噛み合う小鉄車と、前記おしどりに係合し、前記巻真の前記1段位置と前記2段位置との間で、前記おしどりの回転位置に応じて変位することにより前記小鉄車を移動させる切替部材と、を備え、前記かんぬきは、前記つづみ車に係合した係合部と回転の中心となる支点との間に、弾性変形し得る第1の弾性部を有し、前記切替部材は、前記おしどりが接する部分を弾性変形し得る第2の弾性部を有する、巻真連動機構である。
【0011】
本発明の第2は、本発明に係る巻真連動機構と、前記巻真の前記0段位置、前記1段位置及び前記2段位置において、それぞれ前記巻真連動機構と噛み合う複数の輪列の歯車と、を備えた時計である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る巻真連動機構及び時計によれば、つづみ車と小鉄車とが突き当たった場合においても巻真を1段位置まで引き出すことができ、かつ小鉄車と時刻合わせ用の輪列における歯車とが突き当たった場合においても巻真を2段位置まで引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】時計に備えられた巻真連動機構を示す要部平面図であり、巻真の0段位置における巻真、きち車、つづみ車、おしどり、かんぬき及び小鉄車の配置を示す。
図2図1に示した巻真連動機構の、巻真の1段位置における巻真、きち車、つづみ車、おしどり、かんぬき及び小鉄車の配置を示す。
図3図1に示した巻真連動機構の、巻真の2段位置における巻真、きち車、つづみ車、おしどり、かんぬき及び小鉄車の配置を示す。
図4】時計に備えられた巻真連動機構を示す要部平面図であり、巻真の0段位置における巻真、おしどり、小鉄車及び切替部材の配置を示す巻真連動機構を示す。
図5図4に示した巻真連動機構の、巻真の1段位置における巻真、おしどり、小鉄車及び切替部材の配置を示す巻真連動機構を示す。
図6図4に示した巻真連動機構の、巻真の2段位置における巻真、おしどり、小鉄車及び切替部材の配置を示す巻真連動機構を示す。
図7】変形例1の巻真連動機構及び時計を示す、図1相当の平面図であり、かんぬきが本来の0段位置に配置された状態を示す。
図8】変形例1の巻真連動機構100及び時計200を示す、図3相当の平面図であり、かんぬきが本来の2段位置に配置された状態を示す。
図9】変形例2の巻真連動機構及び時計を示す、図4相当の平面図であり、切替リンクが本来の0段位置に配置された状態を示す。
図10】変形例2の巻真連動機構及び時計を示す、図6相当の平面図であり、切替リンクが本来の2段位置に配置された状態を示す。
図11】変形例3の巻真連動機構及び時計を示す、図4相当の平面図であり、切替リンクが本来の0段位置に配置された状態を示す。
図12】変形例3の巻真連動機構及び時計を示す、図6相当の平面図であり、切替リンクが本来の2段位置に配置された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る巻真連動機構及び時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0015】
図1~6は時計200に備えられた巻真連動機構100を示す要部平面図であり、図1は巻真10の0段位置における巻真10、きち車15、つづみ車18、おしどり20、かんぬき30、切替リンク40、小鉄車50及び裏押さえ80の配置を示し、図2は巻真10の1段位置における巻真10、きち車15、つづみ車18、おしどり20、かんぬき30、切替リンク40、小鉄車50及び裏押さえ80の配置を示し、図3は巻真10の2段位置における巻真10、きち車15、つづみ車18、おしどり20、かんぬき30、切替リンク40、小鉄車50及び裏押さえ80の配置を示す。
【0016】
また、図4は巻真10の0段位置における巻真10、おしどり20、小鉄車50及び切替リンク40の配置を示し、図5は巻真10の1段位置における巻真10、おしどり20、小鉄車50及び切替リンク40の配置を示し、図6は巻真10の2段位置における巻真10、おしどり20、小鉄車50及び切替リンク40の配置を示す。
【0017】
図1~6に示した巻真連動機構100は、本発明に係る巻真連動機構の一実施形態である。また、図1~6に一部を示した時計200は、本発明に係る時計の一実施形態である。
【0018】
図示の巻真連動機構100は、時計200に設けられている。巻真連動機構100は、巻真10と、きち車15と、つづみ車と18と、おしどり20と、かんぬき30と、小鉄車50と、切替リンク40(切替部材の一例)と、裏押さえ80と、を備えている。
【0019】
巻真10は、時計200のムーブメントに対して外部から操作を行うためにムーブメントの外側に露出した外部操作部材であり、軸状に形成されている。巻真10の外部に突出した側の端部には、図示を略したりゅうずが設けられている。巻真10は、りゅうずを指でつまんで、軸方向に沿って、ムーブメントの外側に引き出すことができる。
【0020】
巻真10は、引き出していない状態(最も押し込まれた状態)である0段位置、1段階だけ引き出した状態である1段位置、及び1段位置よりもさらに引き出して最も引き出した状態である2段位置まで引き出し可能に設定されている。巻真10の0段位置、1段位置、2段位置の各位置は、後述する裏押さえ80によって設定されている。巻真10の0段位置、1段位置、2段位置の各位置において、りゅうずを巻真10の軸回りに回転することにより、ムーブメントに対して、後述する各操作を行うことができる。
【0021】
きち車15は、巻真10の軸上に設けられている。きち車15は、巻真10の軸方向については巻真10と一体に動くが、軸回り方向については巻真10から独立している。したがって、巻真10の0段位置、1段位置、2段位置の各位置において、きち車15は軸方向に変位するが、巻真10が軸回りに回転しても、きち車15は、そのままでは回転しない。
【0022】
つづみ車18も、巻真10の軸上に設けられている。つづみ車18は、巻真10の軸方向については巻真10から独立しているが、軸回り方向については巻真10と一体的に動く。したがって、巻真10の0段位置、1段位置、2段位置の各位置において、巻真10が軸回りに回転すると、つづみ車18は巻真10とともに回転する。
【0023】
おしどり20は、支点C1回りに回転可能に設けられている。おしどり20は、支点C1から離れた軸支部21が巻真10に回転自在に連結されている。おしどり20の、軸支部21とは別の、支点C1から離れた押圧部24は、後述のかんぬき30が接している。巻真10が軸方向に変位することで軸支部21が移動し、これにより、おしどり20は、支点C1回りに回転し、押圧部24が接触するかんぬき30の位置が変わる。
【0024】
つまり、巻真10の0段位置、1段位置、2段位置の各位置において、支点C1回りのおしどり20の姿勢が変化し、押圧部24が接するかんぬき30の部分(被押圧部)が、被押圧部31aから被押圧部31b、被押圧部31cへと順次変化し、これにより、かんぬき30を変位させる。
【0025】
おしどり20の押圧部24の近くには、裏押さえ80と係合する係合ピン22が形成されている。
【0026】
裏押さえ80には、図1に示した第1凹部81aと、第1凹部81aに隣接する図2に示した第2凹部81bと、第2凹部81bに隣接する図3に示した第3凹部81cとが形成されている。そして、裏押さえ80は、図示の下方に撓むように弾性変形可能に形成されているため、おしどり20の回転により係合ピン22が裏押さえ80を下方に撓ませながら、第1凹部81a、第2凹部81b又は第3凹部81cに係合する。
【0027】
係合ピン22が各凹部81a,81b,81cに係合した状態ではそれぞれ、おしどり20はふらつかずに停止した状態となるため、各係合状態で巻真10は停止した状態とされる。
【0028】
つまり、係合ピン22が第1凹部81aに係合した状態で、巻真10は0段位置に位置決めされ、係合ピン22が第2凹部81bに係合した状態で、巻真10は1段位置に位置決めされ、係合ピン22が第3凹部81cに係合した状態で、巻真10は2段位置に位置決めされる。
【0029】
そして、巻真10を軸方向に沿って押し引きしたとき、係合ピン22が凹部81a,81b,81cのいずれかに係合することにより、巻真10を押し引きする指に、0段位置、1段位置及び2段位置においてそれぞれ節度感が与えられる。
【0030】
かんぬき30は、支点C2回りに回転可能に設けられている。かんぬき30は、おしどり20の押圧部24に接して、おしどり20の回転に対応して支点C2回りに回転する。かんぬき30の、おしどり20の押圧部24が接する被押圧部は、おしどり20の支点C1回りの姿勢に応じて移動する。
【0031】
つまり、巻真10の0段位置では、押圧部24は被押圧部31aに接し、巻真10の1段位置では、押圧部24は被押圧部31bに接し、巻真10の2段位置では、押圧部24は被押圧部31cに接する。押圧部24が接する被押圧部が被押圧部31a,31b,31cと変化することにより、かんぬき30は支点C2回りに回転して支点C2回りの姿勢が変化する。
【0032】
かんぬき30は、支点C2から離れた係合部36がつづみ車18に係合している。係合部36は、かんぬき30に形成された弾性片35(第1の弾性部)の自由端となっている。弾性片35は、係合部36と回転中心である支点C2との間の範囲に形成され、長手方向に対して交差する方向に可撓性を有して、弾性変形し得る。
【0033】
かんぬき30が支点C2回りに回転することにより、巻真10の0段位置、1段位置、2段位置の各位置において、係合部36の位置が変位し、巻真10に対するつづみ車18の位置を変化させる。
【0034】
なお、つづみ車18と巻真10の軸との間の摩擦力は、弾性片35を大きく弾性変形させるほど大きくないため、かんぬき30がつづみ車18を巻真10の軸上できち車15から遠ざける方向に変位させるとき、弾性片35は弾性変形しないか、又は仮に弾性変形したとしても、その弾性変形の変形量はごく僅かである。
【0035】
かんぬき30の、支点C2を挟んで係合部36とは反対側の、図示を省略した部分は、かんぬき30の図示反時計回り方向への変位に抵抗する弾性力を付与する。つまり、支点C2を挟んで係合部36とは反対側の部分は、弾性片35と同様に比較的細く、弾性変形可能に形成されていて、その弾性変形可能に形成された部分の、反時計回り側の側縁が、ムーブメントの地板等に突き当たるように形成されている。
【0036】
したがって、かんぬき30の係合部36が形成された側の部分は、支点C2回りに反時計回りに回転するが、この回転により、係合部36とは反対側の弾性変形可能に形成された部分の側縁が地板等に突き当たって弾性変形し、かんぬき30に、支点C2を中心として時計回りに回転させる付勢力を作用させる。これによりかんぬき30は、反時計回りに回転しつつ、時計回りに戻そうとするトルクが作用する。
【0037】
なお、かんぬき30の図示反時計回り方向への変位に対して、かんぬき30に、時計回りに回転させる付勢力を作用させる、弾性変形可能に形成された部部分は、かんぬき30の一部分として形成されているものに限らず、かんぬき30とは別体で、かんぬき30に接し又は取り付けられたばね部材として形成されたものであってもよい。
【0038】
小鉄車50は、巻真10の軸の平面視での延長線上に設けられている。小鉄車50は、切替リンク40の一端に支持されていて、切替リンク40の支点C3(図4~6参照)回りの回転に応じて、歯車2に噛み合う位置と歯車3に噛み合う位置との間で変位可能になっている。
【0039】
具体的には、小鉄車50は、巻真10の0段位置から1段位置の範囲では、変位することなく、歯車2に噛み合う位置にあり、巻真10の1段位置から2段位置の範囲では、歯車2から離れて歯車3に噛み合う位置に変位する。
【0040】
ここで、歯車2は、例えば、時計200のカレンダーの日付を早回しで修正するカレンダー早修正の歯車輪列の歯車(早修正伝え車など)であり、歯車3は、例えば、時計200の時刻修正用の歯車輪列の歯車(日の裏中間車など)である。歯車2,3はそれぞれ上述した歯車に限定されない。
【0041】
切替リンク40は、図4~6に示すように、支点C3回りに回転可能に支持されていて、支点C3から離れた一端に、小鉄車50を回転自在に支持している。切替リンク40は、巻真10の1段位置と2段位置との間で、おしどり20の回転位置に応じて支点C3回りに回転することにより、小鉄車50を移動させる。
【0042】
切替リンク40の、支点C3を挟んで、小鉄車50を支持した部分とは反対側に延びた部分42には、先端部から長手方向に延びた所定の溝41が形成されている。この溝41には、おしどり20に形成された軌道ピン23が係合している。これにより、おしどり20が支点C1回りに回転することにより軌道ピン23が回転すると、軌道ピン23の動きに溝41が従うように切替リンク40が支点C3回りに回転し、この結果、小鉄車50が歯車2と歯車3との間で変位する。つまり、溝41は、軌道ピン23の動きに応じて、支点C3回りの切替リンク40の姿勢を変化させる案内溝である。
【0043】
溝41は、巻真10の0段位置から1段位置の範囲でのおしどり20の軌道ピン23の動きに対して、切替リンク40が変位しないように、軌道ピン23の軌跡と一致する形状に形成されている。この結果、巻真10の0段位置から1段位置の範囲では、小鉄車50は、歯車2に噛み合った位置から変位しない。
【0044】
巻真10の0段位置においては、つづみ車18は小鉄車50に噛み合わない位置にあるが、巻真10の1段位置においては、つづみ車18はかんぬき30によって小鉄車50に噛み合う位置に変位し、巻真10の1段位置と2段位置との範囲では、かんぬき30によって変位されるつづみ車18と切替リンク40によって変位される小鉄車50との噛み合いが維持されつつ、小鉄車50は歯車3に噛み合う位置まで変位する。
【0045】
したがって、溝41は、巻真10の1段位置から2段位置の範囲でのおしどり20の軌道ピン23の動きに従った切替リンク40に支持された小鉄車50の動きを、巻真10の1段位置から2段位置の範囲でのかんぬき30の動きに従ったつづみ車18の動きに同期させる形状に形成されている。
【0046】
なお、切替リンク40の、支点C3を挟んで、小鉄車50が支持された側の部分とは反対側に延びた部分42には、その部分42の先端まで突き抜けた溝41が形成されている。この結果、部分42は、溝41を挟んで、反時計回り側の部分42a(第2の弾性部)と時計回り側の部分42bとに分割された状態となっている。
【0047】
ここで、反時計回り側の部分42aは、巻真10を1段位置から2段位置に引いたときに軌道ピン23が押圧する部分であり、以下、引き側部分42aという。一方、時計回り側の部分42bは、巻真10を2段位置から1段位置に押したときに軌道ピン23が押圧する部分であり、以下、押し側部分42bという。
【0048】
そして、引き側部分42aは、かんぬき30の弾性片35と同様に、長手方向に対して交差する方向に可撓性を有する、弾性変形し得る弾性部である。したがって、切替リンク40が支点C3回りに回転しない状態で維持されていても、溝41に係合した軌道ピン23が、引き側部分42aを反時計回り方向に弾性変形させるように、溝41の幅を広げる動きを許容する。つまり、切替リンク40が支点C3回りに回転しない状態であっても、引き側部分42aの弾性変形可能の範囲で、おしどり20の回転を許容する。
【0049】
(巻真10の0段位置)
図1,4に示すように、巻真10がムーブメントの外側に引かれていない、巻真10の0段位置において、おしどり20の係合ピン22が裏押さえ80の第1凹部81aに係合している。
【0050】
0段位置では、きち車15とつづみ車18は、巻真10の軸上において互いに噛み合うように設定されている。巻真10の0段位置においては、巻真10の軸回りの回転が、つづみ車18を介してきち車15に伝達され、きち車15は巻真10と共に回転する。
【0051】
このとき、きち車15は、ムーブメントの動力源である香箱のぜんまいを巻き上げる歯車輪列の歯車(図示省略)に噛み合っている。したがって、巻真連動機構100は、巻真10の0段位置において、りゅうずを巻真10の軸回りに回転させることで、ぜんまいを巻き上げることができる。
【0052】
また、おしどり20の押圧部24は、かんぬき30の被押圧部31aに接した状態となっている。なお、0段位置では、つづみ車18は、後述の小鉄車50に噛み合っていない。したがって、巻真連動機構100は、巻真10の0段位置において、りゅうずを巻真10の軸回りに回転させても、時計200のカレンダー早修正の歯車輪列の歯車2や、時計200の時刻修正用の歯車輪列の歯車3を回転させない。
【0053】
(巻真10の1段位置)
図2,5に示すように、巻真10の1段位置において、おしどり20が支点C1回りに回転し、おしどり20の係合ピン22が裏押さえ80の第2凹部81bに係合している。また、おしどり20の押圧部24は、かんぬき30の被押圧部31bに接した状態となっている。これにより、かんぬき30が支点C2回りに回転して、係合部36がつづみ車18を、巻真10の軸方向に沿って内側に変位させる。これにより、つづみ車18は、きち車15から離れ、小鉄車50に噛み合った状態となる。
【0054】
したがって、巻真連動機構100は、巻真10の1段位置において、りゅうずを巻真10の軸回りに回転させると、ぜんまいの巻き上げは行われず、時計200のカレンダー早修正の歯車輪列の歯車2を回転させて、カレンダーの早修正を行うことができる。
【0055】
なお、0段位置と1段位置との間では、おしどり20が支点C1回りに回転して軌道ピン23が変位しても、切替リンク40の溝41が、軌道ピン23の変位する軌跡に一致して形成されているため、切替リンク40は変位しない。したがって、小鉄車50は、歯車2に噛み合ったままで維持される。
【0056】
(巻真10の2段位置)
図3,6に示すように、巻真10の2段位置において、おしどり20が支点C1回りに回転し、おしどり20の係合ピン22が裏押さえ80の第3凹部81cに係合している。また、おしどり20の押圧部24は、かんぬき30の被押圧部31cに接した状態となっている。これにより、かんぬき30が支点C2回りに回転して、係合部36がつづみ車18を、巻真10の軸方向に沿って1段位置よりも内側に変位させる。
【0057】
このとき、つづみ車18に噛み合った小鉄車50は、つづみ車18から、巻真10の軸方向に沿って1段位置よりも内側に押圧される。
【0058】
一方、1段位置から2段位置の間では、おしどり20が支点C1回りに回転して軌道ピン23が変位することで、切替リンク40の溝41が、軌道ピン23の軌跡に沿うように切替リンク40が支点C3回りに回転する。これにより、切替リンク40に支持された小鉄車50が、巻真10の軸方向に沿って1段位置よりも内側に変位する。
【0059】
1段位置と2段位置との範囲における切替リンク40による小鉄車50の変位は、1段位置と2段位置との範囲におけるつづみ車18の変位に、同期するように形成されている。これにより、1段位置から2段位置までの範囲で、小鉄車50はつづみ車18に噛み合ったままで、巻真10の軸方向に沿って1段位置よりも内側に変位し、小鉄車50は、歯車2から離れて、2段位置において時計200の時刻修正用の歯車輪列の歯車3に噛み合う。
【0060】
したがって、巻真連動機構100は、巻真10の2段位置において、りゅうずを巻真10の軸回りに回転させると、時計200のぜんまいの巻き上げ及びカレンダーの早修正は行われず、時刻修正を行うことができる。
【0061】
巻真10を、2段位置から1段位置に戻したときや、1段位置から0段位置に戻したときは、上述した動作と反対の動作となる。
【0062】
以上は、本実施形態の時計200及び巻真連動機構100の通常の動作となるが、以下において、巻真10の0段位置から1段位置に至る範囲で、つづみ車18の歯先と小鉄車50の歯先とが突き当たった場合の巻真連動機構100の動作と、巻真10の1段位置から2段位置に至る範囲で、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先とが突き当たった場合の巻真連動機構100の動作について説明する。
【0063】
まず、巻真10の0段位置から1段位置に至る範囲では、つづみ車18が巻真10の軸方向に沿って内側に変位するが、つづみ車18の歯と小鉄車50の歯との相対的な位相関係によっては、つづみ車18の歯の先(歯先)と小鉄車50の歯の先(歯先)とが突き当たってしまう場合がある。
【0064】
この場合、つづみ車18又は小鉄車50が回転することで、歯先同士の位置がずれて突き当たりが解消されれば、つづみ車18と小鉄車50とは正常に噛み合う。しかし、つづみ車18及び小鉄車50が突き当たったままで、両方とも一切回転しないと、つづみ車18と小鉄車50とが噛み合わず、つづみ車18と小鉄車50とが噛み合った状態での本来のつづみ車18と小鉄車50との相対的な位置関係に比べて両者間の距離が長くなる。
【0065】
そして、本発明が適用されない巻真連動機構においては、つづみ車18が本来到達すべき1段位置の手前で停止してしまい、結果的に巻真10を1段位置まで引くことができない。巻真10を本来の1段位置まで引くことができないと、おしどり20の係合ピン22が裏押さえ80の第2凹部81bに係合しないため、巻真10を引いた使用者の指に、1段位置まで引いたときに得られるべき節度感が与えられない。したがって、使用者は、節度感が与えられないことに違和感が生じる。
【0066】
また、本発明が適用されない巻真連動機構においては、つづみ車18と小鉄車50とが噛み合っていないため、巻真連動機構100は、りゅうずを巻真10の軸回りに回転させても、カレンダーの早修正を行うことができない。また、つづみ車18の歯先と小鉄車50の歯先との突き当たりが強い場合は、りゅうずを滑らかに回転させることもできない。
【0067】
これに対して、本実施形態の巻真連動機構100は、巻真10の0段位置から1段位置に至る範囲で、つづみ車18が巻真10の軸方向に沿って内側に変位し、つづみ車18の歯先と小鉄車50の歯先とが突き当たった場合、つづみ車18は、本来の1段位置(図2参照)まで変位しないが、かんぬき30は、弾性片35が弾性変形して撓むことで、本来の1段位置まで回転することができる。
【0068】
これにより、おしどり20も本来の1段位置まで変位することができるため、巻真10を1段位置まで引くことができる。この結果、おしどり20の係合ピン22は裏押さえ80の第2凹部81bに係合し、巻真10を引いた使用者の指に、1段位置まで引いたときに得られる節度感が与えられ、使用者は、1段位置まで引いたと認識することができる。
【0069】
そして、巻真10を1段位置まで引いた状態で、カレンダーの早修正のために使用者がりゅうずを回転させると、巻真10とともにつづみ車18が回転し、これにより、つづみ車18の歯先と小鉄車50の歯先との突き当たりが解除される。つづみ車18には、かんぬき30の弾性片35が撓んでいることによって生じた弾性力が作用しているため、小鉄車50の歯先との突き当たりが解除されたとき、つづみ車18は小鉄車50に向かって変位し、つづみ車18は本来の1段位置まで進んで小鉄車50と噛み合う。
【0070】
これにより、りゅうずを回転させた動きが、つづみ車18を介して小鉄車50に伝達され、小鉄車50の回転が歯車2に伝達されて、カレンダーの早修正を行うことができる。
【0071】
なお、本実施形態の巻真連動機構100は、つづみ車18はかんぬき30の弾性片35に支持されているため、つづみ車18は弾性片35が弾性変形可能の範囲で、軸方向に変位することができる。したがって、つづみ車18の歯先と小鉄車50の歯先との突き当たりが強い場合であっても、弾性片35の弾性変形の範囲で、つづみ車18は軸方向の外側に変位することができ、これにより、つづみ車18の歯先と小鉄車50の歯先との突き当たりは弱められ、りゅうずを滑らかに回転させることができる。
【0072】
次に、巻真10の1段位置から2段位置に至る範囲では、つづみ車18と小鉄車50とが一体的に、巻真10の軸方向に沿って内側に変位するが、小鉄車50の歯と歯車3の歯との相対的な位相関係によっては、小鉄車50の歯先と歯車3の歯の先(歯先)とが突き当たってしまう場合がある。
【0073】
この場合、小鉄車50又は歯車3が回転することで、歯先同士の位置がずれて突き当たりが解消されれば、小鉄車50と歯車3とは正常に噛み合う。しかし、小鉄車50及び歯車3が突き当たったままで、両方とも一切回転しないと、小鉄車50と歯車3とが噛み合わず、小鉄車50と歯車3とが噛み合った状態での本来の小鉄車50と歯車3との相対的な位置関係に比べて両者間の距離が長くなる。
【0074】
そして、本発明が適用されない巻真連動機構においては、つづみ車18及び小鉄車50がそれぞれ本来到達すべき2段位置の手前で停止してしまい、結果的に巻真10を2段位置まで引くことができない。巻真10を本来の2段位置まで引くことができないと、おしどり20の係合ピン22が裏押さえ80の第3凹部81cに係合しないため、巻真10を引いた使用者の指に、2段位置まで引いたときに得られるべき節度感が与えられない。したがって、使用者は、節度感が与えられないことに違和感が生じる。
【0075】
また、本発明が適用されない巻真連動機構においては、小鉄車50と歯車3とが噛み合っていないため、巻真連動機構100は、りゅうずを巻真10の軸回りに回転させても、時刻修正を行うことができない。また、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先との突き当たりが強い場合は、りゅうずを滑らかに回転させることもできない。
【0076】
ここで、本実施形態の巻真連動機構100は、巻真10の1段位置から2段位置に至る範囲で、つづみ車18が巻真10の軸方向に沿って内側に変位し、つづみ車18と小鉄車50とが噛み合った状態で一体に、巻真10の軸方向に沿って内側に変位し、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先が突き当たった場合、つづみ車18及び小鉄車50は、本来の2段位置(図3参照)まで変位しない。
【0077】
しかし、巻真連動機構100は、つづみ車18が本来の2段位置まで変位しない状態であっても、かんぬき30の弾性片35が弾性変形して撓むことで、かんぬき30は本来の2段位置まで回転することができ、これにより、おしどり20を本来の2段位置まで回転させることが可能となる。
【0078】
ここで、おしどり20を本来の2段位置まで回転させるためには、切替リンク40の溝41が軌道ピン23の2段位置までの軌跡に従うように、切替リンク40を2段位置まで回転させる必要があるが、切替リンク40は、小鉄車50が歯車3と突き当たっているため、2段位置まで回転しない。
【0079】
しかし、巻真連動機構100は、切替リンク40の引き側部分42aが弾性変形して撓むことで、切替リンク40の溝41が軌道ピン23の変位に沿うように広げられる。これにより、おしどり20を本来の2段位置まで回転させることが可能となる。
【0080】
このように、巻真連動機構100は、かんぬき30の弾性片35と、切替リンク40の弾性変形可能の引き側部分42aと、により、おしどり20が本来の2段位置まで変位することができる、巻真10を2段位置まで引くことができる。
【0081】
この結果、おしどり20の係合ピン22は裏押さえ80の第3凹部81cに係合し、巻真10を引いた使用者の指に、2段位置まで引いたときに得られる節度感が与えられ、使用者は、2段位置まで引いたと認識することができる。
【0082】
そして、巻真10を2段位置まで引いた状態で、時刻修正のために使用者がりゅうずを回転させると、巻真10とともにつづみ車18及び小鉄車50が回転し、これにより、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先との突き当たりが解除される。
【0083】
つづみ車18には、かんぬき30の弾性片35が撓んでいることによって生じた弾性力が作用し、また、小鉄車50には、切替リンク40の引き側部分42aが撓んでいることによって生じた弾性力が作用しているため、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先との突き当たりが解除されたとき、小鉄車50は、つづみ車18と一体に、歯車3に向かって変位し、つづみ車18及び小鉄車50はそれぞれ本来の2段位置まで進んで、小鉄車50と歯車3は噛み合う。
【0084】
これにより、りゅうずを回転させた動きが、つづみ車18及び小鉄車50に伝達され、小鉄車50の回転が歯車3に伝達されて、時刻修正を行うことができる。
【0085】
なお、本実施形態の巻真連動機構100は、つづみ車18はかんぬき30の弾性片35に支持され、小鉄車50は切替リンク40の引き側部分42aに支持されているため、つづみ車18は弾性片35が弾性変形可能の範囲で軸方向に変位することができ、また、小鉄車50は引き側部分42aが弾性変形可能の範囲で軸方向に変位することができる。
【0086】
したがって、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先との突き当たりが強い場合であっても、弾性片35の弾性変形の範囲でつづみ車18は軸方向の外側に変位することができ、引き側部分42aの弾性変形の範囲で小鉄車50は軸方向の外側に変位することができ、これにより、小鉄車50の歯先と歯車3の歯先との突き当たりは弱められ、りゅうずを回転させることができる。
【0087】
以上、詳細に説明した通り、本実施形態の巻真連動機構100及び時計200は、つづみ車15と小鉄車50とが突き当たった場合においても、巻真10を0段位置から1段位置まで引き出すことができ、かつ小鉄車50と時刻合わせ用の輪列における歯車3とが突き当たった場合においても、巻真10を1段位置から2段位置まで引き出すことができる。
【0088】
なお、本実施形態の巻真連動機構100及び時計200は、かんぬき30の弾性片35と切替リンク40の弾性変形可能の引き側部分42aとの2つの特徴的な構成によって、巻真10の1段位置での突き当たり及び2段位置での突き当たりを解決するものであり、いずれか一方の構成が欠けたものでは、1段位置での突き当たり及び2段位置での突き当たりを解消することはできない。
【0089】
本実施形態の巻真連動機構100は、巻真10の0段位置において、つづみ車18がきち車15と噛み合って、巻真10を回転させることで時計200のぜんまいを巻き上げる機能を発揮し、巻真10の1段位置において、つづみ車18が、歯車2と噛み合った小鉄車50と噛み合って、巻真10を回転させることで時計200のカレンダー早修正の機能を発揮し、巻真10の2段位置において、つづみ車18が、歯車3と噛み合った小鉄車50と噛み合って、巻真10を回転させることで時計200の時刻修正の機能を発揮するものである。
【0090】
しかし、本発明に係る巻真連動機構は、巻真の0段位置において巻真を回転させることで発揮される機能は、ぜんまいを巻き上げる機能に限定されるものではなく、巻真の1段位置において巻真を回転させることで発揮される機能は、カレンダー早修正の機能に限定されるものではなく、巻真の2段位置において巻真を回転させることで発揮される機能は、時刻修正の機能に限定されるものではない。
【0091】
上述した実施形態の巻真連動機構100及び時計200は、巻真10を軸方向に沿って2段位置まで引いた際に、歯先同士の突き当たりによって、つづみ車18が本来の2段位置まで到達せず、かつ小鉄車50が本来の2段位置まで到達しない状態であっても、その到達しない長さ分を、かんぬき30の弾性片35の弾性変形と、切替リンク40の引き側部分42aの弾性変形によって吸収することで、巻真10を本来の2段位置まで引けるようにしたものである。
【0092】
しかし、かんぬき30の弾性片35の弾性変形は、本来の2段位置にあるつづみ車18を、つづみ車18の1段位置の方向に変位させ得る要因となる。つまり、巻真10、つづみ車18及び小鉄車50がそれぞれ本来の2段位置にあるとき、小鉄車50は歯車3に噛み合って、歯車3から反作用のトルクを受ける。
【0093】
歯車3から反作用のトルクを受けた小鉄車50は、歯車3から離れる方向に移動しようとする。このとき、切替リンク40がおしどり20と剛体的に組み合わされている場合は、巻真10が2段位置から1段位置の方向に変位しない限り、切替リンク40が回転することはない。
【0094】
しかし、切替リンク40とおしどり20とが係合している部分は、切替リンク40の引き側部分42aが弾性変形することで、弾性的に組み合わされている。したがって、巻真10が2段位置から1段位置の方向に変位しない状態であっても、切替リンク40の引き側部分42aが弾性変形することで、小鉄車50が歯車3から離れる方向に移動しうる。しかも、つづみ車18も、噛み合っている小鉄車50から反作用のトルクを受けて、かんぬき30の弾性片35の弾性変形により、1段位置の方向に変位し得る。
【0095】
そして、小鉄車50が歯車3から離れる方向に変位すると、小鉄車50と歯車3との噛み合いの程度が低下して、これらの間でのトルクの伝達効率が低下するという問題が生じ得る。同様に、つづみ車18が小鉄車50から離れる方向に変位すると、つづみ車18と小鉄車50と歯の噛み合いの程度が低下して、これらの間でのトルクの伝達効率が低下するという問題が生じ得る。
【0096】
なお、小鉄車50やつづみ車18の変位する量が大きい場合は、上述した噛み合いが外れて、小鉄車50のみが空回りしたり、つづみ車18のみが空回りしたりして、回転の伝達が不能になる問題も起こりうる。
【0097】
以下に説明する変形例の巻真連動機構100は、上述した実施形態におけるこれらの問題を解決する好適な例である。
【0098】
(変形例1)
図7は、変形例1の巻真連動機構100及び時計200を示す、図1相当の平面図であり、かんぬき30が本来の0段位置に配置された状態を示す。図8は、変形例1の巻真連動機構100及び時計200を示す、図3相当の平面図であり、かんぬき30が本来の2段位置に配置された状態を示す。
【0099】
変形例1の巻真連動機構100は、図7に示すように、かんぬき50の弾性片35の一部に、2つの突き当て部37,39が形成されている。ここで、突き当て部37は、かんぬき30の本来の0段位置及び1段位置では、地板や輪列受け等に形成された不動の固定部91に当たらず、かんぬき30の本来の2段位置の手前(1段位置の方向)では固定部91に突き当たるように形成されている。
【0100】
また、突き当て部39は、突き当て部37が本来の2段位置の手前において固定部91に突き当たり、かんぬき30が本来の2段位置まで変位することにより、図8に示すように、弾性片35が弾性変形したとき、かんぬき30の、弾性片35ではない剛体の固定部38に突き当たるように形成されている。
【0101】
このように、形成されたかんぬき30を含む変形例1の巻真連動機構100及び時計200によれば、図8に示すように、つづみ車18が本来の2段位置まで変位したとき、弾性片35に形成された突き当て部37が、地板や輪列受け等の不動の固定部91に当たり、弾性片35が、巻真10の外側への引き出し方向に弾性変形する。
【0102】
この弾性片35の弾性変形により、弾性片35の先端の係合部36に係合したつづみ車18は、本来の2段位置から、巻真10の内側への押し込み方向に向かう弾性力が作用する。そして、もう一方の突き当て部39は、弾性片35が弾性変形した状態で、C2回りに回転したかんぬき30の不動の剛体部分(弾性片35を除いた、弾性変形しない部分)である固定部38に突き当たる。
【0103】
ここで、かんぬき30の固定部38は、突き当て部39よりも、巻真10の軸方向の外側に形成されていて、固定部38は、巻真10の軸方向の外側から突き当て部39に接する。この結果、かんぬき30が本来の2段位置にあるときは、弾性片35は、突き当て部39が固定部38に突き当たっている状態よりも巻真10の軸方向の外側に弾性変形するのを阻止されている。
【0104】
したがって、つづみ車18は、噛み合っている小鉄車50から反作用のトルクを受けても、小鉄車50から離れる方向に変位することが無く、つづみ車18と小鉄車50との間で伝達されるトルクの伝達効率が低下するのを防止することができる。
【0105】
なお、突き当て部39と固定部38との間の寸法の公差によっては、かんぬき30が本来の2段位置に到達する以前の段階で、突き当て部39と固定部38とが突き当たってしまう可能性あり、この場合、かんぬき30を本来の2段位置まで到達させることができないか、又はかんぬき30が塑性変形するおそれがある。
【0106】
このような事態を回避するため、かんぬき30を本来の2段位置まで変位させるのを許容するように、突き当て部39と固定部38とが相互に接する面の間で、接触する位置が互いに滑ってずれるように、面を傾斜させて形成するのが好ましい。
【0107】
(変形例2)
図9は、変形例2の巻真連動機構100及び時計200を示す、図4相当の平面図であり、切替リンク40が本来の0段位置に配置された状態を示す。図10は、変形例2の巻真連動機構100及び時計200を示す、図6相当の平面図であり、切替リンク40が本来の2段位置に配置された状態を示す。
【0108】
変形例2の巻真連動機構100は、図10に示すように、切替リンク40の引き側部分42aの一部に、突き当て部42cが形成されている。ここで、突き当て部42cは、切替リンク40の本来の0段位置及び1段位置では、地板や輪列受け等に形成された不動の固定部93に当たらず、切替リンク40の本来の2段位置では固定部93に突き当たるように形成されている。
【0109】
このように、形成された切替リンク40を含む変形例2の巻真連動機構100及び時計200によれば、図10に示すように、切替リンク40が本来の2段位置まで変位したとき、引き側部分42aの弾性片35に形成された突き当て部42cが、地板や輪列受け等の不動の固定部93に当たり、引き側部分42aの、それ以上の弾性変形を阻止し、切替リンク40が本来の2段位置よりも先に移動することがない。
【0110】
したがって、小鉄車50が例えば時計回りに回転することで、噛み合っている歯車3の方へ小鉄車50が引き込まれる力を受けても、小鉄車50は歯車3に近づく方向に変位することがなく、小鉄車50と歯車3との間で伝達されるトルクの伝達効率が低下したり、又は小鉄車50と歯車3とにおける歯先の歯面と歯元の歯面との間の摩擦が大きくなって異常な操作感(操作力の増大や滑らかでない、例えばゴリゴリした操作感など)となったりするのを防止することができる。
【0111】
(変形例3)
図11は、変形例3の巻真連動機構100及び時計200を示す、図4相当の平面図であり、切替リンク40が本来の0段位置に配置された状態を示す。図12は、変形例3の巻真連動機構100及び時計200を示す、図6相当の平面図であり、切替リンク40が本来の2段位置に配置された状態を示す。
【0112】
変形例3の巻真連動機構100は、図11に示すように、切替リンク40の、支点C3を挟んで溝41が形成された部分と反対側の部分である、小鉄車50が支持された部分の近傍に、弾性変形可能の突き当て部44が形成されている。ここで、突き当て部44は、切替リンク40の本来の0段位置及び1段位置では、地板や輪列受け等に形成された不動の固定部92に当たらず、切替リンク40の本来の2段位置よりも手前の位置で固定部92に突き当たるように形成されている。
【0113】
このように、形成された切替リンク40を含む変形例3の巻真連動機構100及び時計200によれば、図12に示すように、切替リンク40が本来の2段位置において、突き当て部44が地板や輪列受け等の不動の固定部92に当たり、切替リンク40が本来の2段位置よりも先まで移動することがない。
【0114】
したがって、小鉄車50が例えば時計回りに回転することで、噛み合っている歯車3の方へ小鉄車50が引き込まれる力を受けても、小鉄車50は歯車3に近づく方向に変位することがなく、小鉄車50と歯車3との間で伝達されるトルクの伝達効率が低下したり、又は小鉄車50と歯車3とにおける歯先の歯面と歯元の歯面との間の摩擦が大きくなって異常な操作感(操作力の増大や滑らかでない、例えばゴリゴリした操作感など)となったりするのを防止することができる。
【0115】
なお、本発明に係る巻真連動機構100は、上述した変形例2(図9,10)と変形例3(図11,12)とを組み合わせた変形例を適用することもできる。この場合、変形例2における切替リンク40の公差(突き当て部42cの突出高さの公差や溝41の溝幅の効果)により、切替リンク40の2段位置において、突き当て部42cと固定部93との間に隙間が形成されると、2段位置において、小鉄車50の位置が不安定となってふらつくことが起こりうる。
【0116】
この場合、変形例3の突き当て部44を、切替リンク40の本来の2段位置の直前で、固定部92に当てるように形成することで、切替リンク40の本来の2段位置においては、突き当て部44が弾性変形した状態で固定部92に当てられた状態となり、これにより、切替リンク40の2段位置において、突き当て部42cと固定部93との間に隙間が形成されても、小鉄車50の位置が不安定となることが無く、小鉄車50のふらつきを防止することができる。
【0117】
なお、上述した変形例1の巻真連動機構100は、かんぬき30が弾性片35を有することにより生じ得る課題を解決する一例であるため、巻真10が0段位置、1段位置及び2段階という3段階の位置を有するものにのみ適用されるものではなく、巻真10が0段位置及び1段位置という2段階の位置を有するものにも適用することができる。
【0118】
また、上述した変形例2,3の巻真連動機構100は、切替リンク40が弾性変形し得る引き側部分42aを有することにより生じ得る課題を解決する一例であるため、巻真10が0段位置、1段位置及び2段階という3段階の位置を有するものにのみ適用されるものではなく、巻真10が0段位置及び1段位置という2段階の位置を有するものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0119】
10 巻真
18 つづみ車
20 おしどり
30 かんぬき
35 弾性片(第1の弾性部)
36 係合部
40 切替リンク(切替部材)
41 溝
42a 引き側部分(第2の弾性部)
50 小鉄車
100 巻真連動機構
200 時計
C1,C2,C3 支点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12