(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082045
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】生検針及び生検針に装着される吸引部材
(51)【国際特許分類】
A61B 10/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
A61B10/02 110J
A61B10/02 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195747
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】591065402
【氏名又は名称】株式会社タスク
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 信之
(72)【発明者】
【氏名】半田 幸弘
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多くの検体を採取可能な生検針及び装着する吸引部材を提供する。
【解決手段】先端部T及び長手方向に延びた吸引孔を有する内針本体10と、先端部の近傍において、吸引孔の一部12Bが露出するまで内針本体の外殻が切り欠かれた凹部14と、凹部の軸方向の全長にわたって、露出した吸引孔を覆うように装着され、覆った吸引孔と連通した複数の貫通孔22A~22Cが設けられ、後端部が吸引孔12Aの凹部に開口した領域を覆うように形成された薄板状の吸引部材20と、を備えた内針4と、先端が刃として機能し、内針本体10の外側を摺動可能な状態で覆う外針6と、を備え、外針で覆われていない凹部が被採取体内に位置する状態で、吸引孔の後端側から吸引することにより、被採取体Bの一部を凹部内に吸引し、外針を凹部の全領域を覆うまで前進させることにより、吸引された被採取体の一部を切り取って凹部及び外針で囲まれた領域に採取する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尖った先端部及び長手方向に延びた吸引孔を有する内針本体と、
前記内針本体の前記先端部の近傍において、軸方向に所定の長さにわたって、前記吸引孔の一部が露出するまで前記内針本体の外殻が切り欠かれた凹部と、
前記凹部の軸方向の全長にわたって、露出した前記吸引孔を覆うように装着され、覆った前記吸引孔と連通した複数の貫通孔が設けられ、後端部が前記吸引孔の前記凹部に開口した領域を覆うように形成された薄板状の吸引部材と、
を備えた内針と、
先端が刃として機能し、前記内針本体の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針と、
を備え、
前記外針で覆われていない前記凹部が被採取体内に位置する状態で、前記吸引孔の後端側から吸引することにより、前記貫通孔を介した吸引力で前記被採取体の一部を前記凹部内に吸引し、前記外針を前記凹部の全領域を覆うまで前進させることにより、前記凹部内に吸引された前記被採取体の一部を切り取って前記凹部及び前記外針で囲まれた領域に採取することを特徴とする生検針。
【請求項2】
前記吸引部材の前端部及び後端部が、前記凹部に開口した前記吸引孔の開口部から前記吸引孔内に挿入されるような凸部を有することを特徴とする請求項1に記載の生検針。
【請求項3】
前記貫通孔が軸方向に沿って配置され、前記貫通孔の配置ピッチが後端側から先端側に進むにつれて短くなることを特徴とする請求項1または2に記載の生検針。
【請求項4】
前記吸引部材の厚みが0.02mm以上0.2mm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の生検針。
【請求項5】
前記貫通孔の内径が0.2mm以上1.0mm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の生検針。
【請求項6】
尖った先端部及び長手方向に延びた吸引孔を有し、前記先端部の近傍において、軸方向に所定の長さにわたって、前記吸引孔の一部が露出するまで外殻が切り欠かれた凹部を有する内針本体と、
先端が刃として機能し、前記内針本体の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針と、
を有する生検針において、
前記凹部の軸方向の全長にわたって、露出した前記吸引孔を覆うように装着され、覆った前記吸引孔と連通した複数の貫通孔が設けられ、後端部が前記吸引孔の前記凹部に開口した領域を覆うように形成された薄板状の吸引部材であって、
前記外針で覆われていない前記凹部が被採取体内に位置する状態で、前記吸引孔の後端側から吸引することにより、前記貫通孔を介した吸引力で前記被採取体の一部を前記凹部内に吸引し、前記外針を前記凹部の全領域を覆うまで前進させることにより、前記凹部内に吸引された前記被採取体の一部を切り取って前記凹部及び前記外針で囲まれた領域に採取することを特徴とする吸引部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生検針及び生検針に装着する吸引部材に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍等を検体として採取する生検装置が広く用いられている。その中には、真空吸引を行って、確実に検体を採取できる生検装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の生検装置では、連続して複数の検体を採取する機能を有する。しかし、生検装置に用いられる生検針は、複数の真空吸引孔を整合させる必要があり、複雑な構造を有する。このため、生検針の製造コストが上昇し、真空吸引孔の整合が取れない等の不具合が生じる虞もある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、低い製造コストで、確実により多くの検体を採取可能な生検針及びこの生検針に装着する吸引部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様に係る生検針は、
尖った先端部及び長手方向に延びた吸引孔を有する内針本体と、
前記内針本体の前記先端部の近傍において、軸方向に所定の長さにわたって、前記吸引孔の一部が露出するまで前記内針本体の外殻が切り欠かれた凹部と、
前記凹部の軸方向の全長にわたって、露出した前記吸引孔を覆うように装着され、覆った前記吸引孔と連通した複数の貫通孔が設けられ、後端部が前記吸引孔の前記凹部に開口した領域を覆うように形成された薄板状の吸引部材と、
を備えた内針と、
先端が刃として機能し、前記内針本体の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針と、
を備え、
前記外針で覆われていない前記凹部が被採取体内に位置する状態で、前記吸引孔の後端側から吸引することにより、前記貫通孔を介した吸引力で前記被採取体の一部を前記凹部内に吸引し、前記外針を前記凹部の全領域を覆うまで前進させることにより、前記凹部内に吸引された前記被採取体の一部を切り取って前記凹部及び前記外針で囲まれた領域に採取する。
【0007】
本発明の1つの実施態様に係る吸引部材は、
尖った先端部及び長手方向に延びた吸引孔を有し、前記先端部の近傍において、軸方向に所定の長さにわたって、前記吸引孔の一部が露出するまで外殻が切り欠かれた凹部を有する内針本体と、
先端が刃として機能し、前記内針本体の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針と、
を有する生検針において、
前記凹部の軸方向の全長にわたって、露出した前記吸引孔を覆うように装着され、覆った前記吸引孔と連通した複数の貫通孔が設けられ、後端部が前記吸引孔の前記凹部に開口した領域を覆うように形成された薄板状の吸引部材であって、
前記外針で覆われていない前記凹部が被採取体内に位置する状態で、前記吸引孔の後端側から吸引することにより、前記貫通孔を介した吸引力で前記被採取体の一部を前記凹部内に吸引し、前記外刃を前記凹部の全領域を覆うまで前進させることにより、前記凹部内に吸引された前記被採取体の一部を切り取って前記凹部及び前記外針で囲まれた領域に採取する
【発明の効果】
【0008】
本発明により、低い製造コストで、確実により多くの検体を採取可能な生検針及びこの生検針に装着する吸引部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】吸引孔を有する生検針の内針本体の一例を示す斜視図ある。
【
図3】本発明の1つの実施形態に係る生検針の内針を示す斜視図ある。
【
図4】
図3の断面B-Bを示す側面断面図及び軸方向に直交する断面図である。
【
図5】本発明の1つの実施形態に係る生検針を示す側面断面図である。
【
図6】
図5に示す生検針を備えた生検装置の一例を模式的に示す斜視図ある。
【
図7A】
図6に示す生検装置を用いて検体を採取する各過程を模式的に示す側面断面図である。
【
図7B】
図6に示す生検装置を用いて検体を採取する各過程を模式的に示す側面断面図である。
【
図8】
図5に示す生検針を試作して実際に検体の採取量を計測した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の機能を有する対応する部材には、同じ参照番号を付している。
【0011】
(吸引孔を有する生検針)
はじめに、
図1及び
図2を参照しながら、吸引孔を有する生検針の内針本体の説明を行う。
図1は、吸引孔を有する生検針の内針本体の一例を示す斜視図ある。
図2は、
図1の断面A-Aを示す側面断面図である。
【0012】
生検針の内針本体10は、尖った先端部Tを有する中空の管状体である。この内針本体10の内部空間が、長手方向に延びた吸引孔12となっている。内針本体10の先端部Tの近傍において、軸方向に所定の長さにわたって、吸引孔12の一部が露出するまで内針本体10の外殻が切り欠かれた凹部14が形成されている。吸引孔12は、後端側の後端領域12A、凹部14の位置の中央領域12B、及び先端側の先端領域12Cから構成される。
【0013】
後端領域12A及び先端領域12Cは、軸方向に直交する断面視において、周囲を内針本体10の外殻に覆われた円形の断面形状を有する。一方、中央領域12Bは、軸方向に直交する断面視おいて、上側の領域で内針本体10の外殻が切り欠かれている。よって、中央領域12Bは、上側が凹部14に開口した円弧状の内面形状を有する。
図1及び
図2に示す例では、上側半分の領域で内針本体10の外殻が切り欠かれ、軸方向に直交する断面視おいて、上側が凹部14に開口した半円の断面形状を有する。
【0014】
内針本体10の後端側に吸引手段が取り付けられ、吸引手段により、吸引孔12の後端領域12A内を負圧にすることができる。これにより、後端領域12Aの開口部12A1からの吸引力で、凹部14の周囲の弾性を有する物体を凹部14内に引き込むことができる。この内針本体10の外側に、軸方向に摺動可能な状態で中空の外針が装着されて、生検針が構成される。外針の先端は刃として機能するように鋭利な先端形状を有している。
【0015】
内針本体10の凹部14が外針で覆われていない、外針を発射可能な位置にセットされた生検針を、検体を採取する非採取体に穿刺する。この様態で吸引手段を作動せせることにより、吸引孔12の後端領域12Aを負圧にして、開口部12A1から吸引して、内針本体10の凹部14の周囲の非採取体の一部を凹部14内に吸引することができる。この状態で、発射装置で外針を発射して、外針を凹部14の全領域を覆うまで前進させることにより、凹部14内に吸引された非採取体の一部を切り取って、凹部14及び外針で囲まれた領域に採取することができる。
【0016】
このように、吸引孔どうしの整合が不要なシンプルな構成で、吸引をしない場合に比べて、より多くの検体を採取することができる。しかし、吸引孔12の後端領域12Aが負圧になっているので、凹部14内に吸引された非採取体の一部が、凹部14の後端側に開口した開口部12A1から、吸引孔12の後端領域12A内に吸い込まれる虞がある。後端領域12Aに吸い込まれた部分の組織は取り出すことができない。このため、検体の採取量が減少する虞がある。
【0017】
(本発明の1つの実施形態に係る生検針)
これに対処するため、発明者らは本発明の1つの実施形態に係る生検針を考案した。次に、
図3から
図5を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る生検針の説明を行う。
図3は、本発明の1つの実施形態に係る生検針の内針を示す斜視図ある。
図4は、
図3の断面B-Bを示す側面断面図及び軸方向に直交する断面図である。
図5は、本発明の1つの実施形態に係る生検針を示す側面断面図である。
【0018】
<内針>
本実施形態に係る生検針2の内針4は、上記と同様な構造の内針本体10を有する。つまり、内針本体10は、尖った先端部T及び長手方向に延びた吸引孔12を有する。また、先端部Tの近傍において、軸方向に所定の長さLにわたって、吸引孔12の一部が露出するまで外殻が切り欠かれた凹部14を有する。吸引孔12は、全周を内針本体10で覆われた後端領域12A及び先端領域12Cと、外部に露出し、上側が凹部14に開口した中央領域12Bとから構成される。
【0019】
内針本体10の外径としては、ゲージ規格で10Gから22G程度を例示できる。凹部14の前端部と先端部Tとの距離X(
図4の(a)参照)は、3mm以上10mm以下の範囲を例示できる。本実施形態では、凹部14は、内針本体10の中央が底部となるように切り欠かれている。凹部14の深さY(
図4の(a)参照)としては、内針本体10の外径に応じて、0.3mmから1.5mm程度の範囲を例示できる。凹部14の長さL(
図3参照)としては、10mm以上20mm以下の範囲を例示できる。
【0020】
本実施形態では、内針本体10の凹部14の軸方向の全長にわたって、露出した吸引孔12の中央領域12Bを覆うように装着された薄板状の吸引部材20を備える。内針本体10及び吸引部材20により、本実施形態に係る内針4が構成される。吸引部材20は、ステンレス鋼、炭素鋼、アルミ、アルミ合金をはじめとする金属製の薄板を用いることができる。吸引部材20の厚みとして、0.02mm以上0.2mm以下の範囲の寸法を例示できる。
【0021】
吸引部材20は、更に、覆った吸引孔12の中央領域12Bと連通した3つの貫通孔22A、22B及び22Cが設けられている。貫通孔22A、22B、22Cの内径として、0.2mm以上1.0mm以下の範囲を例示できる。
【0022】
長手方向で貫通孔22Bの位置における軸方向に直交する断面図である
図4(b)に示すように、吸引部材20は、凹部14の底面に該当する内針本体10の外殻部分の上に載置されている。中央で、吸引孔12Bと凹部14内の空間とを連通させる貫通孔22Bが形成され、吸引孔12Bの両側の凹部14の底面と吸引部材20の下面とが接している。後述するように、吸引のために吸引孔12Bが負圧になったとき、吸引部材20が凹部14の底面に強く引き付けられて、内針本体10により強く保持される。他の貫通孔22A、22Cの領域においても、同様な構造を有する。
【0023】
吸引部材20は、露出した吸引孔12の中央領域12Bを全て覆うように延びているが、更にその両端に、巾寸法が狭められた凸部20A、20Bが延在している。後端側の凸部20Aは、凹部14に開口した吸引孔12の後端領域12Aの開口部12A1の内径に対応した寸法を有し、側面断面視で凹部14の端部形状に沿って斜めに折り曲げられている。これにより、開口部12A1を塞ぐことができる。更に、凸部20Aが吸引孔12の後端領域12A内に挿入されることにより、吸引部材20を内針本体10に係合させ、位置決めを行うことができる。
【0024】
同様に、前端側の凸部20Bも、凹部14に開口した吸引孔12の前部領域12Cの開口部12C1の内径に対応した寸法を有し、凸部20Bが吸引孔12の前部領域12C内に挿入されることにより、吸引部材20を内針本体10に係合させ、位置決めを行うことができる。
【0025】
このように、吸引孔12の中央領域12Bを吸引部材20で覆った内針4において、吸引孔12の後端領域12Aの後端に吸引手段を接続して稼働させた場合、後端領域12Aが負圧となる。吸引部材20で上側を覆われた吸引孔12の中央領域12Bは後端領域12Aと連通しているので、吸引部材20で覆われた中央領域12Bも負圧となる。よって、貫通孔22A、22B、22Cから、凹部14内の気体を吸い込むので、凹部14内を覆うように弾性を有する物体が存在する場合には、その物体を凹部14内に吸引することができる。
【0026】
特に、後端側の凸部20Aが、凹部14に開口した後端領域12Aの開口部12A1を覆っているので、弾性を有する物体が後端領域12A内に吸引される問題が生じない。開口部12A1からの吸い込みが凸部20Aで大きく抑制されるので、貫通孔22A、22B、22Cから強い吸引力を発生させることができる。
【0027】
本実施形態に係る内針4では、後端側の貫通孔22Aと中央の貫通孔22Bとの間の距離をL1(
図3参照)とし、中央の貫通孔22Bと先端側の貫通孔22Cとの間の距離をL2(
図3参照)とすると、L1>L2の関係を有する。本実施形態では、L1の値がL2の略2倍になっている。後端領域12Aが負圧となった場合、後端領域12Aに近い吸引部材20の後端側の貫通孔の方が強い吸引力を有する。
【0028】
吸引部材20に覆われた中央領域12Bを後端側から先端側に進むにつれて、一番後端側の貫通孔22Aで外気を吸引するので負圧が軽減され、中央の貫通孔22Bで外気を吸引するので負圧が更に軽減されて、先端側の貫通孔22Cに至る。よって、吸引力は、貫通孔22A、貫通孔22B、貫通孔22Cの順に弱くなっている。
【0029】
本実施形態では、軸方向に沿って配置された貫通孔22A、22B、22Cにおいて、貫通孔22A~22Cの配置ピッチが、後端側から先端側に進むにつれて短くなっている。よって、吸引部材20の長手方向における吸引力を均等にすることができる。これにより、吸引部材20の長手方向において、凹部14の周囲の弾性を有する物体を一様に吸引することができる。
【0030】
本実施形態では、全ての貫通孔22A~22Cの内径が同一になっているが、貫通孔22A~22Cの内径が後端側から先端側に進むにつれて大きくなるように形成することもできる。
【0031】
本実施形態では、軸方向に沿って3つの貫通孔22A~22Cが配置されているが、これに限られるものではない。2つの貫通孔を有する場合もあり得るし、4つ以上の貫通孔を有する場合もあり得る。また、吸引部材20の幅方向に複数の貫通孔を形成する場合もあり得るし、所謂千鳥配置で貫通孔を設けることもできる。
【0032】
上記のように、吸引部材20の両端の凸部20A、20Bが、吸引孔12の後端領域12A及び先端領域12Cの中に位置するので、吸引部材20を内針本体10に係合させることができる。更に、吸引孔12の後端領域12Aを負圧にするときには、吸引力により吸引部材20を凹部14底面に強く引き付けることができる。これにより、吸引部材20を内針本体10に安定して取り付けておくことができる。
【0033】
ただし、これに限られるものではなく、溶接や接着で、吸引部材20の周囲及び凸部20A、20Bの周囲を内針本体10に接合することもできる。その場合にはシール性が高まり、貫通孔22A~22Cによる吸引力を更に強めることができる。
【0034】
<生検針>
本実施形態に係る生検針2は、
図5に示すように、更に、内針本体10の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針6を有する。外針6の先端は刃として機能するように鋭利な先端形状を有している。つまり、本実施形態に係る生検針2は、内針本体10に吸引部材20が装着された内針4と、外針6とで構成されている。
【0035】
(生検装置)
次に、
図6を参照しながら上記の実施形態に係る生検針2を備えた生検装置の説明を行う。
図6は、
図5に示す生検針を備えた生検装置の一例を模式的に示す斜視図ある。
【0036】
生検装置100は、本実施形態に係る生検針2の後端部が取り付けられた発射装置102と、シリンジ及びシリンジに挿入されたプランジャから構成されたシリンダ104と、シリンダ104に取り付けられたバルブ106と、発射装置102及びバルブ106の間を繋ぐチューブ108とを備える。バルブ106が開の場合、生検針2とシリンダ104とが連通した状態となり、閉の場合、生検針2がシリンダ104から遮断された状態となる。
【0037】
バルブ106を開にして、シリンダ104のプランジャを引くことにより、気体の吸引を行う。これにより、シリンダ104と連通した生検針2の吸引孔12の後端領域12Aが負圧となり、吸引部材20の貫通孔22A、22B、22Cから吸引して、凹部14の周囲の弾性を有する物体を凹部14内に吸引することができる。この状態でバルブ106を閉にすることにより、吸引状態を維持することができる。
【0038】
(検体を採取する方法)
次に、
図7A及び
図7Bを参照しながら、
図6に示す生検装置100を用いて検体を採取する方法を説明する。
図7A及び
図7Bは、
図6に示す生検装置を用いて検体を採取する各過程を模式的に示す側面断面図である。検体を採取する対象の被採取体Bとして、人体をはじめとする生体を例示できる。ここでは、生体Bに発生した腫瘍Nを検体として採取する場合を例として説明する。
【0039】
はじめに、
図7Aの(a)に示す様に、発射装置102で内外針4、6を発射可能な位置にセットした生検針2を、被採取体Bの穿刺位置に合わせて配置する。次に、
図7Aの(b)に示すように、腫瘍Nの手前まで内外針4、6を穿刺する。次に、
図7Aの(c)に示すように、凹部14が腫瘍B内に位置するまで内針4だけを更に穿刺する。このとき、外針6の先端は、腫瘍Nの手前の位置に留まっている。
【0040】
この状態で、生検装置100のバルブ106を開にして、シリンダ104のプランジャを引いて、生検針2の吸引孔12の後端領域12Aを負圧にする。これにより、吸引部材20の貫通孔22A~22Cから吸引して、腫瘍Nの一部を凹部14内に吸引し、凹部14の底部の吸引部材20に密着させることができる。
【0041】
この状態でバルブ106を閉にすることにより、腫瘍Nの一部が吸引部材20に密着した状態を維持できる。
【0042】
次に、この状態で発射装置102を操作して、外針6を発射する。具体的には、発射装置102に備えられたバネの付勢力により、外針6が高速に前側に移動する。これにより、
図7Bの(a)に示すように、外針6を凹部14の全領域を覆うまで前進させることにより、凹部14内に吸引された腫瘍Nの一部を切り取って、凹部14及び外針6で囲まれた領域に採取することができる。腫瘍Nを凹部14及び外針6で囲まれた領域に採取した後は、任意のタイミングで、バルブ106を開にして、貫通孔22A、22B、22Cからの残吸引力を消失させることができる。
【0043】
次に、
図7Bの(b)に示すように、内針4及び外針6の相対位置を変えずに、生検針2を非採取体Bから引き抜く。そして、
図7Bの(c)に示すように、凹部14を覆っていた外針6をスライドさせて、凹部14を露出させ、凹部14から採取した腫瘍Bからなる検体を取り出すことができる。
【0044】
(実施例)
本願発明の発明者らは、上記の実施形態に係る生検針2を試作し、上記の生検装置100に取り付けて、実際に非採取体からの検体の採取量を測定する試験を行った。試験においては、下記のような寸法の吸引部材20を内針本体10に装着して、4種類の内針4である試料A~Dを試作して、試験を行った。また、吸引部材20が装着されていない内針本体10についても、同様に試験を行った。
【0045】
【0046】
吸引部材20の厚みとして、0.1mm(厚い)及び0.05mm(薄い)の2種類の厚みがあり、吸引部材20に設けられた3つの貫通孔22A~22Cの内径として、0.6mm(大きい)と0.3mm(小さい)の2種類の内径がある。試料Aは、厚い板厚×大きい貫通孔の組み合わせであり、試料Bは、厚い板厚×小さい貫通孔の組み合わせであり、試料Cは、薄い板厚×大きい貫通孔の組み合わせであり、試料Dは、薄い板厚×小さい貫通孔の組み合わせである。
【0047】
これらの試料A~Dに外針6を装着して生検針2を形成し、吸引部材20が装着されていない内針本体10に外針6を装着して生検針を形成した。そして、形成された生検針を
図6に示す生検装置100に取り付けて、
図7A及び
図7Bを用いて説明した検体の採取方法で検体を採取した。本実施例では、検体を採取する弾性を有する物体として、ポリアクリルアミドとグリセリンとを配合した生検模擬材を用いた。
【0048】
各々の生検針について、10回検体の採取を試みて、採取した検体の重量を計測した。計測した重量及びその平均値を下表に示す。
【0049】
【0050】
図8に上記の結果を示したグラフを示す。
図8は、
図5に示す生検針を試作して実際に検体の採取量を計測した試験結果を示すグラフである。
【0051】
この結果から、検体の採取量の1回当たりの平均において、吸引部材20が装着されていない内針本体10に対して、試料Aは9%増加しており、試料Bは10%増加しており、試料Cは22%増加しており、試料Dは18%増加している。何れの場合においても、吸引部材20を装着することにより、検体の採取量を増加させることができることが実証された。
【0052】
特に、吸引部材20の厚みが薄い(0.05mm)場合には、内針本体10に対して、検体の採取量が20%程度増加しており、特に、試料Cのように、貫通孔22A~22Cの内径が大きい場合には、増加量が大きくなる(22%)ことが判明した。吸引部材20の強度を考慮すると、好ましい厚みとして、0.02mm~0.05mmを例示できる。
【0053】
(全般)
以上のように、本発明の第1の態様は、
尖った先端部T及び長手方向に延びた吸引孔12を有する内針本体10と、
内針本体10の先端部Tの近傍において、軸方向に所定の長さLにわたって、吸引孔12の一部12Bが露出するまで内針本体10の外殻が切り欠かれた凹部14と、
凹部14の軸方向の全長にわたって、露出した吸引孔12Bを覆うように装着され、覆った吸引孔12Bと連通した複数の貫通孔22A~22Cが設けられ、後端部が吸引孔12Aの凹部14に開口した領域12A1を覆うように形成された薄板状の吸引部材20と、
を備えた内針4と、
先端が刃として機能し、内針本体10の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針6と、
を備え、
外針で覆われていない凹部14が被採取体B内に位置する状態で、吸引孔12の後端側から吸引することにより、貫通孔22A~22Cを介した吸引力で被採取体Bの一部を凹部14内に吸引し、外針6を凹部14の全領域を覆うまで前進させることにより、凹部14内に吸引された被採取体Bの一部を切り取って凹部14及び外針6で囲まれた領域に採取する生検針2である。
【0054】
第1の態様では、内針本体10に吸引部材20を装着しただけのシンプルな構造で、確実により多くの検体を採取することができる。これにより、低い製造コストで、確実により多くの検体を採取可能な生検針2を提供することができる。
【0055】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
吸引部材20の前端部及び後端部が、凹部14に開口した吸引孔12A、12Cの開口部12A1、12C1から吸引孔12A、12C内に挿入されるような凸部20A、20Bを有する生検針2である。
【0056】
後端側の凸部20Aにより、吸引孔12Aの開口部12A1を確実に塞ぐことができるので、吸引時に被採取体Bの一部が吸引孔12A内に引き込まれるのを防ぐことができ、貫通孔22A~22Cの吸引力を高めることができる。更に、凸部20A、20Bが吸引孔12A、12C内に挿入されるので、吸引部材20を内針本体10に係合させ、位置決めを行うことができる。
【0057】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、
貫通孔22A~22Cが軸方向に沿って配置され、貫通孔22A~22Cの配置ピッチが後端側から先端側に進むにつれて短くなる生検針2である。
【0058】
貫通孔22A~22Cの配置ピッチを後端側から先端側に進むにつれて短くすることにより、吸引部材20の長手方向における吸引力を均等にすることができる。これにより、吸引部材20の長手方向において、被採取体Bの一部を凹部14に一様に吸引することができる。
【0059】
本発明の第4の態様は、第1から第3の何れかの態様において、
吸引部材20の厚みが0.02mm以上0.2mm以下の範囲にある生検針2である。
【0060】
これにより、確実により多くの検体を採取可能な生検針2を提供することができる。
【0061】
本発明の第5の態様は、第1から第4の何れかの態様において、
前記貫通孔の内径が0.2mm以上1.0mm以下の範囲にある生検針2である。
【0062】
これにより、確実により多くの検体を採取可能な生検針2を提供することができる。
【0063】
本発明の第6の態様は、
尖った先端部T及び長手方向に延びた吸引孔12を有し、先端部Tの近傍において、軸方向に所定の長さLにわたって、吸引孔12の一部12Bが露出するまで外殻が切り欠かれた凹部14を有する内針本体10と、
先端が刃として機能し、内針本体10の外側を軸方向に摺動可能な状態で覆う外針6と、
を有する生検針において、
凹部14の軸方向の全長にわたって、露出した吸引孔12Bを覆うように装着され、覆った吸引孔12Bと連通した複数の貫通孔22A~22Cが設けられ、後端部が吸引孔12Aの凹部14に開口した領域12A1を覆うように形成された薄板状の吸引部材20であって、
外針6で覆われていない凹部14が被採取体B内に位置する状態で、吸引孔12の後端側から吸引することにより、貫通孔22A~22Cを介した吸引力で被採取体Bの一部を凹部14内に吸引し、外針6を凹部14の全領域を覆うまで前進させることにより、凹部14内に吸引された被採取体Bの一部を切り取って凹部14及び外針6で囲まれた領域に採取する吸引部材20である。
【0064】
第6の態様によれば、吸引孔12及び凹部14を備えた内針本体10を有する場合に、吸引部材20を装着するだけで、確実により多くの検体を採取可能な生検針2を実現できる。
【0065】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0066】
2 生検針
4 内針
6 外針
10 内針本体
12 吸引孔
12A 後端領域
12B 中央領域
12C 先端領域
12A1、12C1、12C2 開口部
14 凹部
20 吸引部材
20A、20B 凸部
22A、22B、22C 貫通孔
100 生検装置
102 発射装置
104 シリンダ
106 バルブ
108 チューブ
T 先端部
B 被採取体
N 腫瘍