IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイセル・エボニック株式会社の特許一覧

特開2024-82048ポリアミド樹脂組成物、繊維、及び、繊維構造体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082048
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、繊維、及び、繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240612BHJP
   C08K 5/3432 20060101ALI20240612BHJP
   D01F 6/90 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/3432
D01F6/90 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195750
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000108982
【氏名又は名称】ポリプラ・エボニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 拓哉
【テーマコード(参考)】
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4J002CL001
4J002CL031
4J002EU036
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD036
4J002FD098
4J002GC00
4J002GK00
4L035EE20
4L035JJ16
4L035JJ19
4L035LC07
(57)【要約】
【課題】本開示は、染色性に優れたポリアミド樹脂組成物などを提供する。
【解決手段】本開示は、ポリアミド樹脂と、ジアミドフェニル構造を有する化合物とを含有し、前記ポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックアミドであり、該ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、60未満であり、前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.10~1.25重量部含有する、ポリアミド樹脂組成物などである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、
ジアミドフェニル構造を有する化合物とを含有し、
前記ポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックアミドであり、
該ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、60未満であり、
前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.10~1.25重量部含有する、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物が、ヒンダードアミン構造を更に有する、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、50未満である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.50~1.00重量部含有する、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルブロックアミドが、ポリアミド12エラストマーを含む、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
末端アミノ基濃度が、10~90mmol/kgである、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物で形成された、繊維。
【請求項8】
請求項7に記載の繊維を含む、繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミド樹脂組成物、繊維、及び、繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂組成物の染色性を高めるべく、ポリアミド樹脂組成物に染色性改良剤を含有させている(例えば、特許文献1)。
そして、該ポリアミド樹脂組成物を染料で染色させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3041819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のポリアミド樹脂組成物は、染料によって十分に染色されないことがある。
【0005】
そこで、本開示は、染色性に優れたポリアミド樹脂組成物、該ポリアミド樹脂組成物で形成された、繊維、及び、該繊維を含む、繊維構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第一は、ポリアミド樹脂と、
ジアミドフェニル構造を有する化合物とを含有し、
前記ポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックアミドであり、
該ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、60未満であり、
前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.10~1.25重量部含有する、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0007】
本開示の第二は、前記ポリアミド樹脂組成物で形成された、繊維に関する。
【0008】
本開示の第三は、前記繊維を含む、繊維構造体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、染色性に優れたポリアミド樹脂組成物、該ポリアミド樹脂組成物で形成された、繊維、及び、該繊維を含む、繊維構造体を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について説明する。
【0011】
なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0012】
<ポリアミド樹脂組成物>
まず、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物について説明する。
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を含有する。
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、ジアミドフェニル構造を有する化合物を更に含有する。
前記ポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックアミドである。
該ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、60未満である。
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.10~1.25重量部含有する。
【0013】
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物は、添加剤であり、染色性改良剤である。
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、染色性改良剤たる前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を含有することにより、染色性に優れたものとなる。
【0014】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物を染色するのに用いる染料としては、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物を十分に染色しやすいという観点から、酸性染料が好ましい。
酸性染料が、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物を十分に染色しやすいのは、酸性染料は、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物と相溶性に優れ、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物によって酸性染料がポリエーテルブロックアミドに十分に分散されやすくなることによるものと考えられる。
【0015】
(ポリエーテルブロックアミド)
前記ポリエーテルブロックアミドは、ポリエーテルとポリアミドとのブロック共重合体である。
該ブロック共重合体において、前記ポリエーテルは、ソフトセグメントであり、前記ポリアミドは、ハードセグメントである。
【0016】
前記ポリエーテルとしては、例えば、ポリオールの重合体、環状エーテルの重合体等が挙げられる。
【0017】
前記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,8-デカンジオール、オクタデカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ヘキサントリオール等が挙げられる。
前記ポリオールの重合体は、単独重合体であってもよく、また、共重合体であってもよい。
【0018】
前記環状エーテルとしては、エポキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
前記エポキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
前記環状エーテルの重合体は、単独重合体であってもよく、また、共重合体であってもよい。
【0019】
前記ポリアミドとしては、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミドなどが挙げられる。
前記ポリアミドは、ホモポリアミドであってもよく、コポリアミドであってもよい。
【0020】
前記脂肪族ポリアミドとしては、脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのポリアミド、ラクタムのポリアミド、アミノカルボン酸のポリアミド、脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とラクタム及び/又はアミノカルボン酸とのポリアミド等が挙げられる。
【0021】
前記脂肪族ジアミン成分としては、例えば、C4-16アルキレンジアミン(例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカンジアミン等)等が挙げられる。前記脂肪族ジアミン成分は、好ましくはC6-14アルキレンジアミン、さらに好ましくはC6-12アルキレンジアミンである。
【0022】
前記脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、C4-20アルカンジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等)等が挙げられる。前記脂肪族ジカルボン酸成分は、好ましくはC5-16アルカンジカルボン酸、さらに好ましくはC6-14アルカンジカルボン酸である。
【0023】
前記ラクタムとしては、例えば、炭素数4~20のラクタム(例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等)等が挙げられる。前記ラクタムは、好ましくは炭素数4~16のラクタムである。
【0024】
前記アミノカルボン酸としては、例えば、C4-20アミノカルボン酸(例えば、ω-アミノウンデカン酸等)等が挙げられる。前記アミノカルボン酸は、好ましくはC4-16アミノカルボン酸、さらに好ましくはC6-14アミノカルボン酸である。
【0025】
前記脂肪族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド613、ポリアミド1010、ポリアミド66/11、ポリアミド66/12、ポリアミド6/12/612などが挙げられる。
【0026】
前記脂環式ポリアミドとしては、少なくとも脂環式ジアミン成分及び脂環式ジカルボン酸成分から選択された少なくとも一種を構成成分とするポリアミドなどが挙げられる。
前記脂環式ポリアミドとしては、ジアミン成分及びジカルボン酸成分として、脂環式ジアミン成分及び/又は脂環式ジカルボン酸成分と共に、前記例示の脂肪族ジアミン成分及び/又は脂肪族ジカルボン酸成分を含む脂環式ポリアミドが好ましい。このような脂環式ポリアミドは、透明性が高く、いわゆる透明ポリアミドとして知られている。
【0027】
前記脂環式ジアミン成分としては、例えば、ジアミノシクロアルカン、ビス(アミノシクロアルキル)アルカン、水添キシリレンジアミン等が挙げられる。
前記ジアミノシクロアルカンとしては、例えば、ジアミノシクロヘキサン等が挙げられる。前記ジアミノシクロアルカンは、ジアミノC5-10シクロアルカンが好ましい。
前記ビス(アミノシクロアルキル)アルカンとしては、例えば、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4’-アミノシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。前記ビス(アミノシクロアルキル)アルカンは、ビス(アミノC5-8シクロアルキル)C1-3アルカンが好ましい。
前記脂環式ジアミン成分は、例えば、アルキル基などの置換基を有していてもよい。
該アルキル基は、好ましくはC1-6アルキル基、より好ましくはC1-4アルキル基、さらに好ましくはC1-2アルキル基(メチル基、エチル基等)である。
【0028】
前記脂環式ジカルボン酸としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸等)等が挙げられる。
【0029】
代表的な脂環式ポリアミドとしては、例えば、脂環式ジアミン成分[例えば、ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンなど]と脂肪族ジカルボン酸成分[例えば、アルカンジカルボン酸(例えば、C4-20アルカンジカルボン酸成分など)など]との縮合物などが挙げられる。
【0030】
前記芳香族ポリアミドは、構成単位として、芳香族ジアミン成分及び芳香族ジカルボン酸成分の少なくとも何れか一方を含むポリアミドを含む概念である。
前記芳香族ポリアミドとしては、構成単位のジアミン成分及び構成単位のジカルボン酸成分の両方が芳香族成分であるポリアミド(「全芳香族ポリアミド」や「アラミド」等とも呼ばれる。)等が挙げられる。
前記芳香族ポリアミドは、変性ポリアミドであってもよい。変性ポリアミドとしては、分岐鎖構造を有するポリアミド等が挙げられる。
前記芳香族ジアミン成分としては、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
前記芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。また、前記芳香族ジカルボン酸成分は、ダイマー酸等であってもよい。
【0031】
前記ポリエーテルブロックアミドは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0032】
前記ポリエーテルブロックアミドとしては、ポリアミド12エラストマーが好ましい。
【0033】
前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度は、60未満であり、好ましくは50未満、より好ましくは48以下である。
また、前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度は、好ましくは20以上、より好ましくは25以上である。
前記ショアD硬度は、JIS K7215-1986「プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法」のタイプDデュロメータによる硬さを意味する。
【0034】
前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が60未満であることにより、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、染色性に優れたものとなる。
前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が60未満であることにより、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物が染色性に優れたものとなるのは、以下の理由によるものと考えられる。
すなわち、前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が60未満であることにより、前記ポリエーテルブロックアミドが非晶部分を多く含みやすくなり、ジアミドフェニル構造を有する化合物がポリエーテルブロックアミドに均一に分散されやすくなり、その結果、ジアミドフェニル構造を有する化合物と共に、染料が、前記ポリエーテルブロックアミドに均一に分散されやすくなるからと考えられる。
【0035】
前記ポリエーテルブロックアミドの数平均分子量は、例えば5000~200000、好ましくは7000~150000、さらに好ましくは9000~100000である。
なお、本実施形態において、数平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0036】
前記ポリエーテルブロックアミドの融点は、例えば130℃以上(例えば130~350℃)、好ましくは135℃以上(例えば135~300℃)、さらに好ましくは140℃以上(例えば140~200℃)である。
【0037】
本実施形態において、融点は、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
より具体的には、まず、融点を測定するための試料を約5mg用意するとともに、同じ形状で同じ重量の金属(例えば、アルミニウム)製の容器を2つ用意する。
次に、2つの前記容器のうち一方の容器に試料を入れ、他方の容器を空のままとする。
そして、試料を入れた容器と、リファレンスとしての空の容器とをDSCにセットし、窒素ガスを流しながら10℃/minの昇温速度で前記試料を昇温させた際に得られるDSC曲線から融点を求めることができる。
なお、融点は、同一試料に対して2回の示差走査熱量分析を実施して求めることができ、2回目のDSC曲線のピーク値として求められる。
【0038】
前記ポリエーテルブロックアミドのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは40℃以下、より好ましくは-100℃~10℃である。
【0039】
なお、本実施形態において、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した中間点ガラス転移温度を意味する。
中間点ガラス転移温度は、JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載されている方法に基づいて求めることができる。
すなわち、まず、中間点ガラス転移温度を測定するための試料を約5mg用意するとともに、同じ形状で同じ重量の金属(例えば、アルミニウム)製の容器を2つ用意する。
次に、2つの前記容器のうち一方の容器に試料を入れ、他方の容器を空のままとする。
そして、試料を入れた容器と、リファレンスとしての空の容器とをDSCにセットし、窒素ガスを流しながら10℃/minの昇温速度で前記試料を昇温させた際に得られるDSC曲線から中間点ガラス転移温度を求めることができる。
【0040】
(ジアミドフェニル構造を有する化合物)
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0041】
【化1】
【0042】
前記R及び前記Rは、それぞれ有機基又は水素である。前記Rは、前記Rと同じであってもよく、前記Rと異なっていてもよい。
【0043】
前記有機基の炭素数は、好ましくは5~18、より好ましくは8~10である。
前記有機基は、官能基を有してもよい。
前記有機基は、アミノ基を有することが好ましい。
【0044】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を含有することにより、染色性に優れたものとなる。
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物が、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を含有することにより染色性に優れたものとなるのは、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物、及び、ポリエーテルブロックアミドがそれぞれアミド結合を有することで、ジアミドフェニル構造を有する化合物がポリエーテルブロックアミドに均一に分散されやすくなり、その結果、染料が前記ポリエーテルブロックアミドに均一に分散されやすくなるからと考えられる。
【0045】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物の染色性をより一層向上させるという観点から、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物は、ヒンダードアミン構造を更に有することが好ましい。言い換えれば、前記R及び前記Rの少なくとも一方が、ヒンダードアミン構造を有する官能基を有することが好ましい。ヒンダードアミン構造を有する官能基は、アミノ基を有している。
ヒンダードアミン構造を有する官能基としては、例えば、下記式(2)で表される官能基等が挙げられる。
【0046】
【化2】
【0047】
前記Rは、水素又は有機基である。該Rとしての有機基としては、例えば、炭素数が1~6であるアルキル基、炭素数が1~4であるアルコキシ基、-CO-Rなどが挙げられる。前記Rは、炭素数が1~4であるアルキル基である。
前記Rとしては、水素が好ましい。言い換えれば、前記式(2)で表される官能基としては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル基が好ましい。
【0048】
前記ジアミドフェニル構造、及び、前記ヒンダードアミン構造を有する化合物としては、具体的には、下記式(3)で表される化合物などが挙げられる。
【0049】
【化3】
【0050】
前記ヒンダードアミン構造を有さず、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物としては、例えば、N,N’-ジメチルイソフタルアミド(下記式(4)の化合物)などが挙げられる。
【0051】
【化4】
【0052】
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物の数平均分子量は、例えば、180~4900、より具体的には180~3000である。
【0053】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ポリエーテルブロックアミド、及び、ジアミドフェニル構造を有する化合物を、好ましくは50~100重量%、より好ましくは80~100重量%、更に好ましくは90~100重量%含有する。
【0054】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を、0.10~1.25重量部、好ましくは0.50~1.00重量部含有する。
【0055】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.10重量部以上含有することにより、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物による染色性の向上効果が十分に発揮される。
また、本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を1.25重量部以下含有することにより、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物がポリエーテルブロックアミド中に偏在するのを抑制することができ、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物による染色性の向上効果が十分に発揮される。
【0056】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物以外の添加剤を更に含んでもよい。
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物以外の添加剤としては、例えば、安定剤、防腐剤、抗酸化剤、消泡剤などが挙げられる。
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物以外の添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物以外の添加剤の含有割合の合計は、前記ポリエーテルブロックアミドと前記ジアミドフェニル構造を有する化合物との合計100重量部に対して、例えば10重量部以下(例えば0.01~10重量部)である。
【0057】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物の末端アミノ基濃度は、好ましくは10~90mmol/kg、より好ましくは10~60mmol/kg、更により好ましくは12~58mmol/kgである。
【0058】
なお、ポリアミド樹脂組成物の末端アミノ基濃度は、以下のようにして求めることができる。
まず、フェノールとエタノールとを体積比9:1の割合で混合することにより、フェノール/エタノール溶媒を用意する。
次に、秤量したポリアミド樹脂組成物をフェノール/エタノール溶媒40mLで溶解して第1の溶液を得る。
そして、該第1の溶液にエタノール10mLを加えて第2の溶液を得る。
次に、該第2の溶液をN/100の塩酸水溶液で滴定し、ポリアミド樹脂組成物の末端アミノ基濃度を求める。
【0059】
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、染色性に優れるため、後調色しやすいものとなる。
そのため、様々な色のポリアミド樹脂組成物の製品を生産するのが容易となる。
【0060】
<繊維>
次に、本実施形態に係る繊維について説明する。
【0061】
本実施形態に係る繊維は、前記ポリアミド樹脂組成物で形成された、繊維である。
【0062】
本実施形態に係る繊維は、モノフィラメントであってもよく、単糸(単繊維)を複数本有するマルチフィラメントであってもよい。
また、本実施形態に係る繊維は、複合繊維(例えば、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維など)であってもよく、非複合繊維であってもよい。
【0063】
本実施形態に係る繊維の断面形状は、公知または慣用の形状であってもよい。本実施形態に係る繊維の断面形状は、中実断面形状、中空断面形状などであってもよい。本実施形態に係る繊維の断面は、円形断面であってもよく、異形断面(例えば、偏平状断面、楕円状断面、多角形状断面(例えば、三角形状断面、四角形状断面等))であってもよい。
【0064】
本実施形態に係る繊維の繊度は、用途に応じて適宜設定すればよい。
本実施形態に係る繊維の単繊維の繊度は、例えば0.1~1000dtex、好ましくは1~100dtex、より好ましくは2~50dtexの範囲であってもよい。また、本実施形態に係る繊維を布帛に用いる場合には、本実施形態に係る繊維の単繊維の繊度は、例えば1~10dtexであってもよく、好ましくは1~5dtexであってもよい。
繊度とは、単位長さあたりの重量である。繊度の単位dtexは、10,000mあたりの重量(g)を意味する。
【0065】
なお、本実施形態に係る繊維がモノフィラメントである場合には、単繊維の繊度は、モノフィラメントの繊度を意味する。
【0066】
また、本実施形態に係る繊維がマルチフィラメントである場合には、単繊維(フィラメント)の繊度は、マルチフィラメントを構成するフィラメントの繊度の平均値を意味する。
フィラメントの繊度の平均値は、以下のようにして求めることができる。
まず、マルチフィラメントの繊度(総繊度)を測定する。また、マルチフィラメントを構成するフィラメントの本数(フィラメント数)を求める。
そして、下記式からフィラメントの繊度の平均値を求める。
フィラメントの繊度の平均値 = 総繊度/フィラメント数
【0067】
本実施形態に係る繊維を染色する方法(染色工程)では、本実施形態に係る繊維を後調色することが好ましい。
本実施形態に係る繊維は、染色性に優れるため、後調色しやすいものとなる。
染色工程としては、用いる染料に応じて、公知の方法を採用することができる。
【0068】
本実施形態に係る繊維の製造方法は、前記ポリアミド樹脂組成物を溶融混錬することにより溶融混錬物を得る工程(A)と、該溶融混錬物を紡糸することにより繊維を得る工程(B)とを有する。
【0069】
工程(A)では、ポリエーテルブロックアミドと、ジアミドフェニル構造を有する化合物と溶融混錬してもよい。
また、工程(A)では、ジアミドフェニル構造を有する化合物とポリエーテルブロックアミドとを含むマスターバッチを作製し、該マスターバッチとポリエーテルブロックアミドと溶融混錬してもよい。
【0070】
本実施形態に係る繊維の製造方法で得られた繊維は、上記染色工程で染色することで、十分に染色された繊維を得ることができる。
【0071】
<繊維構造体>
本実施形態に係る繊維構造体は、本実施形態に係る繊維を含む。
本実施形態に係る繊維構造体は、一次元構造体であってもよく、布帛であってもよい。
前記一次元構造体としては、連続繊維(モノフィラメント、マルチフィラメント)、短繊維(カットファイバー)、糸類、紐類、ロープ類などが挙げられる。
前記布帛としては、織物、編物、不織布などが挙げられる。
本実施形態に係る繊維構造体は、本実施形態に係る繊維と他の繊維とを組み合わせて構成されていてもよい。
【0072】
本実施形態に係る繊維構造体は、例えば、各種衣類(アウターウェア、インナーウェア、ユニフォーム、手術衣、病衣、白衣、作業服、水着、スキーウェア、エプロン、帽子、腹巻、靴下、手袋、マフラーなど)、各種生活用品(フトン、フトンカバー、マクラカバー、ベッド、ベッドカバー、毛布、シーツ、バスマット、タオル、テーブルクロス、カーテン、シャワーカーテン、ネット、ドアノブカバー、おむつカバー、スリッパなど)、建物用資材(カーペット、カーテンなど)、産業用資材(ロープなど)、農林水産業資材(漁網など)を作製するのに用いることができる。
【0073】
〔開示項目〕
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0074】
〔項目1〕
ポリアミド樹脂と、
ジアミドフェニル構造を有する化合物とを含有し、
前記ポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックアミドであり、
該ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、60未満であり、
前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.10~1.25重量部含有する、ポリアミド樹脂組成物。
【0075】
〔項目2〕
前記ジアミドフェニル構造を有する化合物が、ヒンダードアミン構造を更に有する、項目1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【0076】
〔項目3〕
前記ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が、50未満である、項目1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【0077】
〔項目4〕
前記ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、前記ジアミドフェニル構造を有する化合物を0.50~1.00重量部含有する、項目1~3の何れか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【0078】
〔項目5〕
前記ポリエーテルブロックアミドが、ポリアミド12エラストマーを含む、項目1~4の何れか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【0079】
〔項目6〕
末端アミノ基濃度が、10~90mmol/kgである、項目1~5の何れか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【0080】
〔項目7〕
項目1~6の何れか1項に記載のポリアミド樹脂組成物で形成された、繊維。
【0081】
〔項目8〕
項目7に記載の繊維を含む、繊維構造体。
【実施例0082】
次に、実施例および比較例を挙げて本開示についてさらに具体的に説明する。なお、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
実施例及び比較例のポリアミド樹脂組成物を作製するために、下記の材料を用意した。
【0084】
(ポリアミド樹脂)
下記表1に示すポリアミド樹脂を用意した。
【0085】
ポリアミド樹脂のショアD硬度は、上述した方法で測定した。
ポリアミド樹脂のショアD硬度を下記表1に示す。
【0086】
ポリアミド樹脂における末端アミノ基濃度は、以下のようにして求めた。
まず、フェノールとエタノールとを体積比9:1の割合で混合することにより、フェノール/エタノール溶媒を用意した。
次に、秤量したポリアミド樹脂をフェノール/エタノール溶媒40mLで溶解して第1の溶液を得た。
そして、該第1の溶液にエタノール10mLを加えて第2の溶液を得た。
次に、該第2の溶液をN/100の塩酸水溶液で滴定し、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度を求めた。
ポリアミド樹脂における末端アミノ基濃度を下記表1に示す。
【0087】
ポリアミド樹脂における末端カルボキシ基濃度は、以下のようにして求めた。
まず、秤量したポリアミド樹脂を180℃のオイルバス中でベンジルアルコール50mLに溶解させて溶液を得た。
次に、指示薬としてフェノールフタレインを用い、前記溶液をN/100の水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基濃度を求めた。
ポリアミド樹脂における末端カルボキシ基濃度を下記表1に示す。
【0088】
なお、後述する実施例で用いたポリアミド樹脂A、ポリアミド樹脂B、及び、ポリアミド樹脂Cの数平均分子量を上述した方法で測定したところ、ポリアミド樹脂A、ポリアミド樹脂B、及び、ポリアミド樹脂Cの数平均分子量は、何れも5000以上であった。
【0089】
【表1】
【0090】
(添加剤)
・下記式(3)で表される化合物(Clariant社製の「NYLOSTAB(登録商標) S-EED(登録商標)」)(下記表2では、単に「S-EED」と表記。)(分子量:442.65)
・下記式(5)で表される化合物(BASFジャパン社製の「Tinuvin770 DF」)(下記表2では、単に「Tinuvin770」と表記。)
【0091】
【化5】
【0092】
【化6】
【0093】
(実施例及び比較例)
上記材料を下記表2の配合割合で混合することにより、ポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、下記表2の添加剤の量は、ポリアミド樹脂100重量部に対する添加剤の量(重量部)を意味する。
次に、前記ポリアミド樹脂組成物で平板(60mm×60mm×2mm)を作製した。
【0094】
(ポリアミド樹脂組成物における末端アミノ基濃度)
ポリアミド樹脂組成物における末端アミノ基濃度は、上述した方法で測定した。
ポリアミド樹脂組成物における末端アミノ基濃度を下記表2に示す。
【0095】
(ポリアミド樹脂組成物における末端カルボキシ基濃度)
ポリアミド樹脂組成物における末端カルボキシ基濃度は、以下のようにして求めた。
まず、秤量したポリアミド樹脂組成物を180℃のオイルバス中でベンジルアルコール50mLに溶解させて溶液を得た。
次に、指示薬としてフェノールフタレインを用い、前記溶液をN/100の水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、ポリアミド樹脂組成物の末端カルボキシル基濃度を求めた。
ポリアミド樹脂組成物における末端カルボキシ基濃度を下記表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
(染色)
前記平板を以下のようにして染色した。
まず、プラスチック製のバットに水を張り、該バット内に投げ込みヒーターを入れることにより、バット内の水を加熱して、該水を80℃にした。
また、使い捨てのカップに400mLの純水を入れた。
次に、純水を入れた前記カップを前記バット(バット内の水の温度:80℃)内に入れることにより、前記純水を加熱した。
また、約0.03gの黒色酸性染料(Dharma Acid Dye, 413 True Black)を前記カップに入れ、加熱された純水で染料を溶かすことにより、黒色の染色液を得た。
次に、前記カップ内の染色液に前記平板を入れた。
そして、前記染色液に前記平板を入れてから15分後に、約0.08gのクエン酸を前記カップ内の染色液に入れ、染色液中で平板を1時間加熱した。
次に、前記カップをバットから取り出し、該カップを室温で1時間放置した。
そして、平板を染色液から取り出し、該平板を純水で洗浄した。
次に、洗浄後の平板を純水に1時間つけおいた。
そして、純水から平板を取り出し、ペーパータオルで平板から水気をふき取った。
【0098】
なお、平板は、黒色の染料で染色されれば、あらゆる色の染料で染色されることを意味する。
【0099】
(染色前及び染色後の平板の透過率及び明度の測定)
染色前及び染色後の平板の透過率及び明度(L*)を色差測定装置(コニカミノルタ社製のCM-5)で測定した。
なお、透過率の測定では、360~740nmの範囲の光の波長で透過率を測定した。そして、400~600nmの範囲の光の波長で得られた透過率の算術平均値を、下記表3に示す透過率とした。
また、明度(L*)の測定では、CIE標準光源D65を用いた。
測定結果を下記表3に示す。
【0100】
また、下記基準で評価をした。評価結果を下記表3に示す。
【0101】
<染色後の透過率の評価>
〇:染色後の透過率が10%以下である。
×:染色後の透過率が10%を超える。
【0102】
<染色前の透過率から染色後の透過率を引いた値の評価>
〇:染色前の透過率から染色後の透過率を引いた値(以下、「透過率の差」ともいう。)が、60%以上である。
×:透過率の差が、60%未満である。
【0103】
<透過率の総合評価>
〇:染色後の透過率の評価、及び、透過率の差の評価の両方が、〇である。
×:染色後の透過率の評価、及び、透過率の差の評価の少なくとも何れか一方が、×である。
【0104】
<染色後の明度の評価>
〇:明度が20以下である。
×:明度が20を超える。
【0105】
<染色前の明度から染色後の明度を引いた値の評価>
〇:染色前の明度から染色後の明度を引いた値(以下、「明度の差」ともいう。)が、50以上である。
×:明度の差が、50未満である。
【0106】
<明度の総合評価>
〇:染色後の明度の評価、及び、明度の差の評価の両方が、〇である。
×:染色後の明度の評価、及び、明度の差の評価の少なくとも何れか一方が、×である。
【0107】
<全体の評価>
〇:透過率の総合評価、及び、明度の総合評価の両方が、〇である。
×:透過率の総合評価、及び、明度の総合評価の少なくとも何れか一方が、×である。
【0108】
【表3】
【0109】
表3に示すように、本開示の範囲内である実施例1~7では、全体の評価が〇であった。
一方で、表3に示すように、ポリアミド樹脂組成物がジアミドフェニル構造を有する化合物を含有しない比較例1、2、4~6、ポリアミド樹脂組成物が、ポリエーテルブロックアミド100重量部に対して、ジアミドフェニル構造を有する化合物を1.5重量部も含有する比較例3、ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が62以上である比較例7、8、ポリアミド樹脂がポリエーテルブロックアミドではない比較例9~25では、全体の評価が×であった。
従って、本開示によれば、染色性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供し得ることがわかる。
【0110】
表3に示すように、ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が50未満である実施例1~5では、ポリエーテルブロックアミドのショアD硬度が51以上である実施例6、7に比べて、透過率の差が大きかった。