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特開2024-82088浄化材の製造方法、吸着層の構築方法、及び、浄化材
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082088
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】浄化材の製造方法、吸着層の構築方法、及び、浄化材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20240612BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20240612BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240612BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/08 C
C02F1/28 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195805
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 昌範
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA01
4D624AB11
4D624AB14
4D624AB16
4D624BA12
4D624BA13
4D624BB08
4D624BC01
4G066AA16B
4G066AA20B
4G066AA32A
4G066CA21
4G066CA32
4G066CA46
4G066DA07
4G066EA20
4G066FA01
4G066FA11
4G066FA14
4G066FA38
(57)【要約】
【課題】現場で製造することが可能であって、そのまま使用することができる浄化材の製造方法、吸着層の構築方法、及び、浄化材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る浄化材の製造方法は、ハイドロタルサイトを含む浄化材の製造方法であって、母材に二価金属酸化物粉末を混合する混合工程と、前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材1に対して、アルミニウム化合物溶液3を散布する散布工程と、を含む。また、本発明に係る浄化材の製造方法は、前記母材の透水係数が、管理対象である管理対象地盤の透水係数よりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロタルサイトを含む浄化材の製造方法であって、
母材に二価金属酸化物粉末を混合する混合工程と、
前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材に対して、アルミニウム化合物溶液を散布する散布工程と、
を含むことを特徴とする浄化材の製造方法。
【請求項2】
前記母材の透水係数は、管理対象である管理対象地盤の透水係数よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の浄化材の製造方法。
【請求項3】
前記散布工程で散布したアルミニウム化合物溶液を回収する回収工程と、
前記回収工程で回収した回収液のpHを測定し、前記回収液のpHが所定値以下の場合に前記回収液を前記散布工程でアルミニウム化合物溶液として再利用する再利用工程と、
を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浄化材の製造方法。
【請求項4】
前記浄化材は、吸着層工法用、又は、透過性地下水浄化壁用であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浄化材の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程の後であって前記散布工程の前に、前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材の上に透水層を敷設する透水層形成工程を含み、
前記散布工程では、前記透水層を介して前記アルミニウム化合物溶液を散布することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浄化材の製造方法。
【請求項6】
母材に二価金属酸化物粉末を混合する混合工程と、
前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材に対して、アルミニウム化合物溶液を散布する散布工程と、
前記二価金属酸化物粉末と前記アルミニウム化合物溶液とが反応してハイドロタルサイトが形成された浄化材を、吸着対象である成分を含む液体の経路に吸着層として形成する吸着層形成工程と、
を含むことを特徴とする吸着層の構築方法。
【請求項7】
母材の表面にハイドロタルサイトが形成されていることを特徴とする浄化材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化材の製造方法、吸着層の構築方法、及び、浄化材に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物は、一般式[M2+ (1-x)3+ (OH)x+[An- x/n・yHO]x-(式中、M2+は2価の金属イオンを、M3+は3価の金属イオンを表し、An- x/nは層間陰イオンを表す。また、0<x<1であり、nはAの価数であり、0≦y<1である)で表される化合物である。層状複水酸化物は、2価の金属イオンにOHが6配位した8面体が平面配列した水酸化物層の一部に3価の金属イオンが置換した構造を持つ。そして、置換した3価の金属イオン量に応じた正電荷を相殺(中和)するように、水酸化物層と水酸化物層との層間に陰イオンが存在している。
この層状複水酸化物は、陰イオン交換性を有することから、陰イオン系の有害成分を除去(吸着)する資材として注目を集めている。
【0003】
産業向けの層状複水酸化物は、合成ハイドロタルサイトとして、樹脂安定剤やゴム添加剤など、比較的安全な添加剤として利用されている。また、2003年には地下水環境基準(地下水の水質汚濁に係る環境基準)において、ふっ素、ほう素、硝酸性窒素などが新規規制されることにより、環境浄化の分野でも層状複水酸化物の適用可能性が検討されるようになった。
例えば、特許文献1では、酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩とをアルカリ性下の水溶液中で反応させることにより、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成した浄化材の製造方法が開示されている。
また、特許文献2では、酸化マグネシウムと塩化アルミニウムの両粉体に少量の水を添加して混合した後に養生し、さらに乾燥、粉砕して吸着剤(浄化材)を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5915834号公報
【特許文献2】特開2019-136703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、水溶液中で長時間撹拌を行って浄化材の製造を行うため、合成されるハイドロタルサイトの結晶子が大きくなってしまい、微細なハイドロタルサイトを含む吸着材を得ることはできない。
また、特許文献1、2に記載の方法はいずれも、浄化材を製造する際、固液分離、乾燥、粉砕、水処理などの様々な処理を施す必要があり、多大なエネルギーを要するだけでなく処理工程が煩雑となるとともに、これらの処理を施すプラント(生産設備)などを準備しなければならない。
土木建築分野において、例えば、自然由来汚染対応で重金属を含んだ掘削ずりなどを管理対象とする場合、特許文献1、2に記載の方法によると、プラントで製造した浄化材を現場(施工場所)に運搬し、現場で適した形態(吸着層など)に加工することになるが、処理工程の煩雑さやコストなどの観点から、現実的ではない。
つまり、特許文献1、2に記載の方法などの従来技術は、土木建築分野において、ふさわしい技術(実際の現場に適応できるような技術)であるとは言えなかった。
【0006】
このような観点から、本発明は、現場で製造することが可能であって、そのまま使用することができる浄化材の製造方法、吸着層の構築方法、及び、浄化材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明に係る浄化材の製造方法は、ハイドロタルサイトを含む浄化材の製造方法であって、母材に二価金属酸化物粉末を混合する混合工程と、前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材に対して、アルミニウム化合物溶液を散布する散布工程と、を含む。
本発明によれば、母材を反応場として、二価金属酸化物粉末とアルミニウム化合物溶液とが反応し、母材の表面などにハイドロタルサイトを形成することができる。そして、本発明は、混合工程と散布工程を経ることによって浄化材を製造することができ、従来技術において実施されていた様々な処理(固液分離、乾燥、粉砕、水処理など)が必須とはならず製造工程が煩雑にはならないことから、土木建築分野の現場において浄化材を製造することができる。加えて、本発明によれば、ハイドロタルサイトが形成されているだけでなく母材を含んだ状態の浄化材を製造できることから、吸着層工法用の吸着層や透過性地下水浄化壁用の浄化壁として浄化材をそのまま使用(別途、大幅な加工を施すことなく使用)することができる。
【0008】
本発明において、前記母材の透水係数は、管理対象である地盤(原地盤、盛土層、埋戻し土層、覆土層など)の透水係数よりも大きくすることが好ましい。
本発明によれば、母材を含む浄化材で吸着層や浄化壁を構築した際に、これらが管理対象地盤からの水を透水し難くなるといった問題(透水阻害)の発生を回避することができる。
本発明において、前記散布工程で散布したアルミニウム化合物溶液を回収する回収工程と、前記回収工程で回収した回収液のpHを測定し、前記回収液のpHが所定値以下の場合に前記回収液を前記散布工程でアルミニウム化合物溶液として再利用する再利用工程と、を含むのが好ましい。
本発明によれば、回収工程で得た回収液を再利用工程でアルミニウム化合物溶液として再利用できることから、省コスト化を図ることができる。
本発明において、前記浄化材は、吸着層工法用、又は、透過性地下水浄化壁用であることが好ましい。
本発明によれば、製造した浄化材を適切な用途として使用することができる。
本発明において、前記混合工程の後であって前記散布工程の前に、前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材の上に透水層を敷設する透水層形成工程を含み、前記散布工程では、前記透水層を介して前記アルミニウム化合物溶液を散布するのが好ましい。
本発明によれば、二価金属酸化物粉末を混合した母材の上に透水層を敷設することで、散布工程においてアルミニウム化合物溶液を適切に分散して母材に散布することができる。
【0009】
本発明に係る吸着層の構築方法は、母材に二価金属酸化物粉末を混合する混合工程と、前記二価金属酸化物粉末を混合した前記母材に対して、アルミニウム化合物溶液を散布する散布工程と、前記二価金属酸化物粉末と前記アルミニウム化合物溶液とが反応してハイドロタルサイトが形成された浄化材を、吸着対象である成分を含む液体の経路に吸着層として形成する吸着層形成工程と、を含む。
本発明によれば、混合工程、散布工程という煩雑ではない各工程を経ることによって、土木建築分野の現場において浄化材を製造し、吸着層形成工程において、浄化材をそのまま吸着層の形成に使用することができる。
本発明に係る浄化材は、母材の表面にハイドロタルサイトが形成されている。
本発明によれば、浄化材を煩雑ではない混合工程や散布工程によって製造できることから、現場で製造することが可能であって、そのまま使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る浄化材の製造方法によれば、現場で製造することが可能であって、そのまま使用することができる浄化材を製造することができる。
本発明に係る吸着層の構築方法によれば、浄化材を現場で製造し、そのまま吸着層の形成に使用することができる。
本発明に係る浄化材によれば、現場で製造することが可能であって、そのまま使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る浄化材を吸着工法用として使用する態様の模式図である。
図2】本実施形態に係る浄化材を透過性地下水浄化壁用として使用する態様の模式図である。
図3】アルミニウム化合物溶液を散布する態様を説明するための模式図である。
図4A】実施例1の試験結果であって、所定の累積通液量における通過液中のふっ素の量を示すグラフである。
図4B】実施例1の試験結果であって、所定の累積通液量における通過液中のほう素の量を示すグラフである。
図4C】実施例1の試験結果であって、所定の累積通液量における通過液中のセレンの量を示すグラフである。
図4D】実施例1の試験結果であって、所定の累積通液量における通過液中の砒素の量を示すグラフである。
図5A】実施例2の試験結果であって、コンテナ製造品又はスラリー製造品に対するふっ素の吸着量と、ふっ素の平衡時液相濃度との関係性を示すグラフである。
図5B】実施例2の試験結果であって、コンテナ製造品又はスラリー製造品に対するほう素の吸着量と、ほう素の平衡時液相濃度との関係性を示すグラフである。
図5C】実施例2の試験結果であって、コンテナ製造品又はスラリー製造品に対するセレンの吸着量と、セレンの平衡時液相濃度との関係性を示すグラフである。
図5D】実施例2の試験結果であって、コンテナ製造品又はスラリー製造品に対する砒素の吸着量と、砒素の平衡時液相濃度との関係性を示すグラフである。
図6A】実施例3の試験結果であって、鉱物由来のMgOのXRDスペクトルである。
図6B】実施例3の試験結果であって、スラリー製造品のXRDスペクトルである。
図6C】実施例3の試験結果であって、コンテナ製造品のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る浄化材の製造方法、吸着層の構築方法、及び、浄化材を実施するための形態(実施形態)について、図を参照して説明する。
最初に、本実施形態に係る浄化材について説明する。
[浄化材]
本実施形態に係る浄化材は、母材の表面にハイドロタルサイトが形成されて構成される。
ここで、「ハイドロタルサイト」(層状複水酸化物)とは、前記したとおり、一般式[M2+ (1-x)3+ (OH)x+[An- x/n・yHO]x-(式中、M2+は2価の金属イオンを、M3+は3価の金属イオンを表し、An- x/nは層間陰イオンを表す。また、0<x<1であり、nはAの価数であり、0≦y<1である)で表される化合物である。本実施形態に係る浄化材は、M3+としてAl3+を有するものであり、例えば、M2+としてMg2+を有する場合(二価金属酸化物粉末としてMgOを使用する場合)は、Mg-Al系ハイドロタルサイトが形成されることとなり、M2+としてCa2+を有する場合(二価金属酸化物粉末としてCaOを使用する場合)は、Ca-Al系ハイドロタルサイトが形成されることとなる。
そして、本実施形態に係る浄化材は、このようなハイドロタルサイトを含むことから、層間に各種陰イオンを吸着させることができる。
なお、「母材」とは、浄化材の基体となる材料であって、具体的には、土木建築工事において発生した現場発生土(掘削ずり、掘削土)、土取場から採取した地盤材料、購入土であり、好ましくは粗粒土(砂質土や礫質土など)、岩石質材料(岩ズリなど)、砕石、砕砂、砂利、細砂などである。
【0013】
(浄化材の用途:吸着工法用)
図1は、本実施形態に係る浄化材を吸着工法用として使用する態様の模式図である。
図1に示すように、掘削ずりや掘削土などで構築した盛土層(管理対象地盤20)の下に、浄化材からなる吸着層10を構築することによって、吸着対象である重金属などを含んだ液体(雨水など)が管理対象地盤20から吸着層10を通過して下側の原地盤30に流れることとなる。そして、吸着層10を液体が通過する過程において、液体中の重金属が吸着層10(浄化材)のハイドロタルサイトによって吸着されることとなる。このように、浄化材からなる吸着層10によって、管理対象地盤20から生じる有害物質(各種陰イオン)の拡散を防止することができる。
(浄化材の用途:透過性地下水浄化壁用)
図2は、本実施形態に係る浄化材を透過性地下水浄化壁用として使用する態様の模式図である。
図2に示すように、汚染地下水などを含んだ原地盤(管理対象地盤40)の下流側に、浄化材からなる浄化壁50(吸着層50)を構築することによって、吸着対象である汚染物質などを含んだ液体(地下水など)が管理対象地盤40から浄化壁50を通過して下流側の原地盤60に流れることとなる。そして、浄化壁50を液体が通過する過程において、液体中の汚染物質が浄化壁50(浄化材)のハイドロタルサイトによって吸着されることとなる。このように、浄化材からなる浄化壁50によって、管理対象地盤40に含まれる汚染地下水(各種陰イオン)の拡散を防止することができる。
【0014】
次に、本実施形態に係る浄化材の製造方法を説明する。
[浄化材の製造方法]
本実施形態に係る浄化材の製造方法は、ハイドロタルサイトを含む浄化材の製造方法であって、混合工程と、散布工程とを含む。そして、本実施形態に係る浄化材の製造方法は、散布工程において、回収工程、再利用工程を実施する態様でもよく、さらに、混合工程と散布工程との間に透水層形成工程を含んでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0015】
(混合工程)
混合工程では、母材に二価金属酸化物粉末を混合する。
混合工程における混合処理は、母材と二価金属酸化物粉末との両者がある程度均一となるように(あまり偏りが生じないように)混ぜることができる方法であれば特に限定されず、例えば、土砂ピット等に貯蔵された母材に対して二価金属酸化物粉末を投入し、両者をバックホウなどで混ぜればよい。
なお、混合工程において母材に対する二価金属酸化物粉末の混合割合は特に限定されないが、例えば、二価金属酸化物粉末の量が10~150kg/m、20~100kg/m、30~60kg/mとなるように母材に混合させればよい。
【0016】
(混合工程:母材)
混合工程で使用する「母材」とは、前記したとおり、浄化材の基体となる材料であって、具体的には、現場発生土などを使用すればよい。
母材の透水係数は、管理対象である管理対象地盤の透水係数よりも大きいことが好ましい。
ここで「管理対象である管理対象地盤」とは、浄化材を吸着層工法用として使用する場合は、重金属などを含んだ掘削ずりや掘削土からなる盛土層、埋戻し土層、覆土層などの地盤(図1の管理対象地盤20)であり、浄化材を透過性地下水浄化壁用として使用する場合は、汚染地下水などを含んだ上流側における原地盤(図2の管理対象地盤40)である。
母材の透水係数が管理対象地盤の透水係数よりも大きいことによって、母材を含む浄化材で形成された層(吸着層や浄化壁)が管理対象地盤からの水を透水し難くなるといった問題(透水阻害)の発生を回避することができる。
そして、母材の透水係数は、透水阻害を防止する観点から、管理対象地盤の透水係数の10倍以上が好ましく、特に、施工後に改修が困難な透過性地下水浄化壁に適用する場合は、管理対象地盤の透水係数の100倍以上がより好ましい。
なお、管理対象地盤の透水係数は、ボーリング採取した試料に対して、JIS1218:2009の「土の透水試験方法」に記載の方法で測定することができる。あるいは、管理対象地盤に観測井戸を設置し、現場透水試験(例えば「改訂版 現場技術者のための地質調査技術マニュアル4章4.5」などに準拠)により測定することができる。
(混合工程:二価金属酸化物粉末)
混合工程で使用する「二価金属酸化物粉末」とは、二価金属酸化物を含む粉末である。そして、二価金属酸化物とは、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化鉄(FeO)、酸化銅(CuO)、酸化マンガン(MnO)などであるが、反応性やコストの観点から、特に、酸化マグネシウムが好ましい。
なお、二価金属酸化物粉末は、粉末状を呈していればよく、公知の合成法で製造してもよいが、市販のものを用いることもできる。
【0017】
(透水層形成工程)
透水層形成工程では、混合工程の後であって、散布工程の前に、二価金属酸化物粉末を混合した母材(適宜「混合後母材」という)の上に透水層を敷設する。
透水層形成工程は必須の工程ではないが、混合後母材の上に透水層を敷設することによって、後記する散布工程で散布するアルミニウム化合物溶液が、当該透水層を通過する際に適切に分散し、混合後母材の隙間に更に均一に浸透することとなる。
透水層は、アルミニウム化合物溶液を分散させるような粒状の材料からなる層であれば特に限定されないが、例えば、砕石、砕砂などで層を形成すればよく、混合後母材の母材と同じ材料を使用することで準備作業が簡易化できる。
また、透水層の厚さは特に限定されないが、例えば、混合後母材の厚さに対して、1/20~1倍、1/10~1/3倍とすればよい。
【0018】
(散布工程)
散布工程では、二価金属酸化物粉末を混合した母材に対して、アルミニウム化合物溶液を散布する。
図3は、アルミニウム化合物溶液を散布する態様を説明するための模式図である。
図3に示すように、散布工程では、透水層2を介して、二価金属酸化物粉末を混合した母材1(混合後母材1)に対してアルミニウム化合物溶液3を上方から散布する。なお、透水層形成工程を実施しない場合は、散布工程では、混合後母材1に対してアルミニウム化合物溶液3を直接散布することとなる。
散布工程でアルミニウム化合物溶液を散布することによって、母材(反応場)の表面や母材の隙間などにおいて、二価金属酸化物粉末とアルミニウム化合物溶液とが反応し、ハイドロタルサイトが形成されることとなる。
散布工程での散布処理は、混合後母材1(透水層2)の上側表面に対して、均一に散布できる方法であれば特に限定されず、例えば、市販の散布機、噴霧器、じょうろなどで実施すればよい。
【0019】
散布工程でのアルミニウム化合物溶液の散布量(散布工程における総散布量)は、特に限定されないが、母材に混合させた二価金属酸化物粉末との反応を考慮して設定すればよい。
散布工程での散布処理は、後記する実施例のように、8週間の期間において一日に一定量を散布するという断続的な実施でもよいし、断続的な場合よりも単位時間当たりの散布量を減らして継続的に実施してもよい。
なお、ハイドロタルサイトを形成させるためには、反応に一定期間が必要となるため、散布工程での散布期間(言い換えると反応期間)は、例えば、4週間以上、6週間以上、8週間以上、とするのが好ましい。
そして、本実施形態に係る散布工程は、長時間を要するものの、この期間中に所望の反応が母材周辺で生じるため、別途、加熱・乾燥などは必要なく、当該工程は常温(5~35℃、好ましくは10~30℃)で実施することができる。
【0020】
(散布工程:アルミニウム化合物溶液)
散布工程で使用する「アルミニウム化合物溶液」とは、アルミニウム化合物が溶解した溶液であって、酸性を呈する溶液(低pH溶液)であるのが好ましい。そして、アルミニウム化合物とは、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC:[Al(OH)nCl6-n(1≦n≦5、m≦10))、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどであるが、セレンの吸着性能などの観点から、特に、ポリ塩化アルミニウムが好ましい。
なお、アルミニウム化合物溶液としてPAC溶液を使用する場合は、例えば、PAC溶液の濃度はAl換算で10~11%含有している市販材料をそのまま使用してもよいし、濃度が1/2程度となるように希釈して使用してもよい。また、母材に含まれる酸化マグネシウム粉末の単位量(1kg)に対して散布工程におけるPAC溶液の総散布量が、酸化アルミニウム換算で0.2~0.3kgとなるように液量を設定し、PAC溶液を循環散布(繰り返して散布)すればよい。
【0021】
(回収工程)
回収工程では、散布工程で散布したアルミニウム化合物溶液を回収する。
図3に示すように、回収工程では、混合後母材1の隙間を流下したアルミニウム化合物溶液を下側で回収する。
回収工程における回収機構については、アルミニウム化合物溶液を回収できる機構であれば特に限定されず、図3に示すように、混合後母材1が収容された容器4(コンテナ4)の下面に回収管5が設置されているという機構であってもよい。なお、アルミニウム化合物溶液をより適切に回収できるように、回収管5(詳細には、回収管5の基端における容器4の孔)の設置場所が低くなるように、容器4の下面が傾斜する構成になっていてもよく、容器4自体を右側(回収管5の設置場所)が低くなるように傾斜させて設置してもよい。
【0022】
(再利用工程)
再利用工程では、回収工程で回収した回収液のpHを測定し、回収液のpHが所定値以下の場合に回収液を散布工程でアルミニウム化合物溶液として再利用する。
再利用工程での処理は、一定容量となるまでアルミニウム化合物溶液を回収し、回収したアルミニウム化合物溶液のpHを測定し、pHが所定値以下(例えば、4以下、好ましくは3以下)となる場合に、当該アルミニウム化合物溶液を散布工程で再度散布する。
再利用工程でのpH測定は、公知のpH測定装置で実施することができる。
なお、回収工程、再利用工程は、いずれも必須の工程ではないが、これら2つの工程を散布工程中に実施することによって、省コスト化を図ることができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る吸着層の構築方法を説明する。
[吸着層の構築方法]
本実施形態に係る吸着層の構築方法は、前記した散布工程で得られた浄化材を使用する方法であって、吸着層形成工程を含む。
(吸着層形成工程)
吸着層形成工程では、二価金属酸化物粉末とアルミニウム化合物溶液とが反応してハイドロタルサイトが形成された浄化材を、吸着対象である成分を含む液体の経路に吸着層として形成する。
具体的には、図1に示すような吸着工法用の吸着層10として浄化材を形成する場合は、掘削ずりや掘削土などからなる管理対象地盤20とその下側の原地盤30との間に、浄化材を吸着層10として形成する。つまり、管理対象地盤20から原地盤30へと流れる液体(重金属などを含んだ雨水)の経路に吸着層10を形成することとなる。
また、図2に示すような透過性地下水浄化壁用の浄化壁50(吸着層50)として浄化材を形成する場合は、汚染地下水などを含んだ管理対象地盤40と下流側の原地盤60との間に、浄化材を浄化壁50として形成する。つまり、管理対象地盤40から原地盤60へと流れる液体(汚染物質などを含んだ地下水)の経路に浄化壁50を形成することとなる。
【実施例0024】
[実施例1:浄化材の評価試験]
(実施例1:浄化材の準備)
まず、乾燥密度が1.6g/cmの7号砕石86.3kgに対して、50kg/mとなるように2.7kgの酸化マグネシウム(MgO)の粉末を混合して混合後母材を準備した。そして、図3に示すように、コンテナ4の内部に混合後母材1を敷き詰め、その上に、透水層2として7号砕石(MgOは混合せず)を敷き詰めた。
なお、コンテナ4の内寸は、高さ(H)36.6cm×幅(W)42.9cm×長さ(L)62.9cmであり、コンテナ4の内部の混合後母材1の高さは約20cm、その上の透水層2の高さは約5cmであった。
その後、常温下において、平日のみ1日あたり1回、1.5Lのポリ塩化アルミニウム溶液(PAC溶液、濃度:Al換算で10~11%)をコンテナ4の上から散水器で散布し、透水層2と混合後母材1とを通過した液を回収管5を介して、ポリタンクに回収液として貯留した。
PAC溶液を総量30kg散布したタイミングで、回収したPAC溶液27kgのpHを測定したところ、pHは酸性(2.8で3未満)であったため、その後は、新しいPAC溶液を散布する代わりに回収液を前記の条件(平日のみ、1日1回、1.5L)で散布した。
そして、この散布工程を8週間継続した後、コンテナ4から浄化材(PAC溶液の散布によってハイドロタルサイトが形成された後の混合後母材1)を取り出して、コンテナ製造品(本発明の浄化材)とし、以下の評価試験に供した。
【0025】
(実施例1:試験内容)
φ10cmのアクリルカラム(断面積:78.5cm)内に、まず、出口側緩衝層として7号砕石を5cmの高さ(充填量560g)で設け、その上に、前記の方法で製造したコンテナ製造品を吸着層として20cmの高さ(充填量2355g)で設け、その上に、入口側緩衝層として7号砕石を5cmの高さ(充填量582g)で設けた。つまり、20cmの高さの吸着層を上下の緩衝層(各5cm)で挟むようにアクリルカラムに充填した。
そして、吸着層工法を模擬して、カラム上部(入口側緩衝層)から汚染水を散水した。散水量は500mL/dayで平日のみ散布を1回実施した。
そして、カラムを通過した通過液が所定の累積量(累積通液量)となったタイミングで、カラムの下端から流下する通過液に含まれるふっ素の濃度をオートアナライザ(SWAAT28;ビーエルテック社製)を用いて分析し、ほう素、セレン、及び、砒素の濃度をプラズマ(ICP)発光分光質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製)を用いて分析した。なお、いずれも、JIS K0102に準拠した方法で分析した。
そして、散水した汚染水は、ふっ素の濃度が2mg/L(環境基準の2~3倍)、ほう素の濃度が2mg/L(環境基準の2~3倍)、セレンの濃度が0.1mg/L(環境基準の10倍)、砒素の濃度が0.1mg/L(環境基準の10倍)であって、砒素の濃度のみ、汚染水の総散水量が7.5L以降の時点から、1.0mg/L(環境基準の100倍)に変更した。
【0026】
(実施例1:結果)
図4は、実施例1の試験結果であって、図4Aは、所定の累積通液量における通過液中のふっ素の量を示すグラフであり、図4Bは、所定の累積通液量における通過液中のほう素の量を示すグラフであり、図4Cは、所定の累積通液量における通過液中のセレンの量を示すグラフであり、図4Dは、所定の累積通液量における通過液中の砒素の量を示すグラフである。
そして、図4A~4Dに示す実線は、各成分の環境基準の値である。
図4A~4Dの結果によると、各成分の中でほう素の濃度上昇が相対的に早かったものの、本発明の浄化材によって全ての成分を環境基準値以下まで濃度低下させることが可能であることが確認できた。
【0027】
また、実施例1では小さな容積の浄化材に対して累積30Lの汚染水供給という過酷な条件下による加速試験を実施しているとともに、実際の吸着層工法などに適用する場合は浸透防止措置などが講じられることを考慮すると、本発明の浄化材によって長期的な有害物質(各種陰イオン)の拡散防止効果が発揮されると考える。
詳細には、実施例1で使用したカラムの断面積は78.5cmであり、累積通液量は30L(=30000cm)であることから、単位面積当たりの通液量は約382cm(=30000÷78.5)となる。一方、年間降水量を150cmと仮定し、降雨浸透率を0.1とすると、年間当りの吸着層への浸透液量は15cm/年(=150×0.1)となる。よって、本発明の浄化材を吸着層工法用の吸着層に適用した場合、有害物質(各種陰イオン)の拡散防止効果が得られる年数(耐用年数)は、約25.5年(=382÷15)と非常に長期であることがわかる。
なお、「下水道施設計画・設計指針と解説(前編2001年版)」(日本下水道協会編)によると、道路の流出係数は0.8~0.9であるため、浸透率は0.1~0.2となる。そして、吸着層工法用に適用する場合は、道路表面の舗装や法肩等での排水、法面の表面での植栽等の実施を考慮すると、ほとんどの降雨は流出してしまい浸透しないと考え、前記のとおり、降雨浸透率を0.1とした。
【0028】
[実施例2:浄化材の比較試験]
(実施例2:比較となるスラリー製造品の準備)
酸化マグネシウム粉末50gに対して、PAC溶液を126g(濃度:Al換算で10~11重量%含有)、水を400g添加し、攪拌混合することでスラリー化した。その後、このスラリーを容器に密閉し、常温下で8週間静置していた。なお、この期間において、2~3回/週の頻度で1分程度軽く振とう混合した。その後、60℃雰囲気下で2~3日乾燥させ、乾燥したものを粉砕し、スラリー製造品(比較材)とした。
なお、実施例2で使用するコンテナ製造品(本発明の浄化材)は、実施例1で製造したものから、母材を除いて使用した。
(実施例2:試験内容)
ふっ素、ほう素、セレン、砒素の各成分について所定濃度(5種の濃度)の溶液を準備した。そして、コンテナ製造品(本発明の浄化材:母材除外品)と、スラリー製造品(比較材)とを、それぞれ、液固比(L/S比)100倍となるように、各溶液中に投入した。そして、24時間経過後、平衡状態となった段階で液相中の各成分の濃度について、ふっ素はオートアナライザ(SWAAT28;ビーエルテック社製)によって分析し、ほう素、セレン、及び、砒素の濃度はプラズマ(ICP)発光分光質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製)によって分析した。そして、コンテナ製造品(母材除外品)又はスラリー製造品に対する各成分の吸着量を算出した。
なお、使用した溶液の各成分の所定濃度(5種の濃度)は、以下のとおりであった。
ふっ素を含有した溶液(試験前濃度、mg/L):1、2、5、10、50
ほう素を含有した溶液(試験前濃度、mg/L):1、2、5、10、50
セレンを含有した溶液(試験前濃度、mg/L):0.25、0.5、2、5、10
砒素を含有した溶液(試験前濃度、mg/L):2、5、10、50、100
【0029】
【表1】
【0030】
(実施例2:結果)
図5は、実施例2の試験結果であって、図5Aは、ふっ素の吸着量と、ふっ素の平衡時液相濃度との関係性を示すグラフであり、図5Bは、ほう素の吸着量と、ほう素の平衡時液相濃度との関係性を示すグラフであり、図5Cは、セレンの吸着量と、セレンの平衡時液相濃度との関係性を示すグラフであり、図5Dは、砒素の吸着量と、砒素の平衡時液相濃度との関係性を示すグラフである。
なお、図5中の直線は、スラリー製造品に関する各成分のデータを、Freundlich型の吸着等温線(q=kC1/n;ここで、qは吸着量(mg/g)、Cは液相濃度(mg/L))で近似し、係数のkと1/nを算定し、その算定した係数を使用した式を作図したものである。また、図5A図5Dのコンテナ製造品のプロットは5点ではなく3点しかないが、これは、低濃度の試験条件において、試験後の液相濃度が定量下限未満となってしまったためである。
表1は、環境基準値において、コンテナ製造品とスラリー製造品とが吸着する各成分の吸着量の算出値である。
なお、表1の「環境基準値に対する吸着量」は、まず、図5中の直線の式と同様、コンテナ製造品についてもFreundlich型の吸着等温線の式を成分ごとに算出し、コンテナ製造品に関する各式と、スラリー製造品に関する各式に対して、各成分の環境基準値を代入することによって算出した。
図5A~5D、表1の結果から、ほう素(B)については、コンテナ製造品の吸着量が若干少なかったものの、それ以外の3成分であるふっ素(F)、セレン(Se)、砒素(As)に関しては、コンテナ製造品の方がスラリー製造品よりも吸着量が多いということが確認できた。
【0031】
[実施例3:浄化材のX線回折スペクトル]
(実施例3:試験内容)
実施例1で製造した浄化材(コンテナ製造品)、実施例2で製造した比較材(スラリー製造品)、及び、鉱物由来のMgO(宇部マテリアルズ社製)について、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス(株)社製)を用いてXRDスペクトルを分析した。
【0032】
(実施例3:結果)
図6は、実施例3の試験結果であって、図6Aは、鉱物由来のMgOのXRDスペクトルであり、図6Bは、スラリー製造品のXRDスペクトルであり、図6Cは、コンテナ製造品のXRDスペクトルである。
図6A~6Cの結果によると、スラリー製造品、及び、コンテナ製造品のXRDスペクトルにおいて、MgOのピークは消失し、低角(2θの低い値であって、グラフの左側)に別成分のピークが確認できた。スラリー製造品とコンテナ製造品とではピークの位置が若干異なるものの、粘度鉱物の領域にピークが生じており、何らかの層状複水酸化物が形成されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0033】
1 混合後母材(二価金属酸化物粉末を混合した母材)
2 透水層
3 アルミニウム化合物溶液
4 容器(コンテナ)
5 回収管
10 吸着層
20 管理対象地盤
30 原地盤
40 管理対象地盤
50 浄化壁(吸着層)
60 原地盤
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C