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特開2024-82101セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法及びセルロースナノファイバーの分散体の製造方法
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  • 特開-セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法及びセルロースナノファイバーの分散体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082101
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法及びセルロースナノファイバーの分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/04 20060101AFI20240612BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240612BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240612BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20240612BHJP
   C09K 23/22 20220101ALI20240612BHJP
   C09K 23/56 20220101ALI20240612BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 8/11 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B01J13/04
C08L1/00
C08K5/20
C08J3/22 CEP
C09K23/22
C09K23/56
A61K8/73
A61K8/42
A61K8/92
A61K8/39
A61K8/86
A61K8/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195820
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】510214090
【氏名又は名称】株式会社成光プレシジョン
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】秋澤 成久
(72)【発明者】
【氏名】福山 寿秀
(72)【発明者】
【氏名】松尾 光祐
【テーマコード(参考)】
4C083
4D077
4F070
4G005
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC641
4C083AC642
4C083AD221
4C083AD222
4C083AD261
4C083AD262
4C083DD14
4C083FF01
4C083FF05
4D077AC05
4D077AC06
4D077DC34Y
4D077DC48Y
4F070AA02
4F070AC43
4F070AC47
4F070AC94
4F070AE14
4F070AE27
4F070DB03
4F070DC04
4F070DC07
4F070DC13
4F070FB04
4F070FB07
4F070FB10
4F070FC03
4G005AA01
4G005BA20
4G005BB06
4G005BB13
4G005DB01Z
4G005DB13X
4G005DB19Z
4G005DC32W
4G005DC43W
4G005EA06
4J002AE05X
4J002AF02X
4J002EL086
4J002EP017
4J002FA04W
4J002FD316
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバーを疎水性の樹脂に均一に分散させることができるカプセル添加剤を製造する方法を提供すること。
【解決手段】セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法であって、セルロースナノファイバーの粉体と、非イオン性界面活性剤とを混合させる工程A、工程Aで得られた混合物と、炭素数が18~22の脂肪酸アミドと混合させる工程B、工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方とを80℃以上の温度で混合させる工程C、及び工程Cで得られた混合物を冷却させ、セルロースナノファイバーのカプセルを得る工程D、を含む方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法であって、
セルロースナノファイバーの粉体と、非イオン性界面活性剤とを混合させる工程A、
工程Aで得られた混合物と、炭素数が18~22の脂肪酸アミドと混合させる工程B、
工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方とを80℃以上の温度で混合させる工程C、及び
工程Cで得られた混合物を冷却させ、セルロースナノファイバーのカプセルを得る工程D、
を含む方法。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤がショ糖脂肪酸エステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪酸アミドがオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、及びステアリン酸アミドからなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが0.1μm~3.0μmの範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径が0.5nm~10nmの範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーのカプセルは、粒径0.3mm~2.0mmの顆粒状である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
セルロースナノファイバーの分散体の製造方法であって、請求項1又は2に記載の方法により得られるセルロースナノファイバーのカプセルを、疎水性の樹脂と一緒に混錬することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法に関する。また、本発明は、セルロースナノファイバーを含有するカプセルを疎水性の樹脂に分散させることで、セルロースナノファイバーが均一に分散した状態の分散体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(「Cellulose Nano Fiber」としても知られている。以下、単に「CNF」と称することもある。)は、植物由来の次世代素材であり、鋼鉄の5分の1の重量でその5倍の強度が得られると言われている。セルロースナノファイバーを自動車や家電等に活用することで、軽量化の効果が得られ、エネルギー効率が向上し、地球温暖化対策に多大なる貢献が期待できる。セルロースナノファイバーの社会実装にむけて、経済産業省・農林水産省は連携事業として、自動車、家電、住宅・建材等の各分野においてモデル事業を実施し、CO2削減効果の評価・検証、関連する課題の解決策について実証を推進している。
【0003】
セルロースナノファイバーの応用例の1つとして、特許文献1(特開2022-044861)には、70℃から160℃の範囲内で溶融する樹脂と、セルロースナノファイバーの繊維の粉体と、を備えたセルロースナノファイバーの繊維を含有するホットメルト接着剤が開示されている。このようなホットメルト接着剤は、瞬時に接着部分を固化させることができるとともに、低温下でも接着性に優れ、また、接着面を強固に保持できると開示されている。
【0004】
さらに、近年、セルロースナノファイバーは水性塗料などにも多く使われ始めており、また保湿性などの特性を取り入れた化粧品、食品にも利用され始めている。ほかにも、セルロースナノファイバーがガラス、金属、カーボンよりも比重が軽く、ナノサイズの繊維長は樹脂の強度アップ等の機能改善が期待できることから、補強材料として樹脂材料に添加する理想的な素材になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-044861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セルロースナノファイバーは、上述のような機能性メリットがあるが、植物由来の素材であるため、植物から取り出した段階では、通常水に分散している状態にある。そのため、セルロースナノファイバーを疎水性の樹脂に分散させる場合、まず水に分散しているセルロースナノファイバー溶液から水分だけを除去し、セルロースナノファイバー単体を取り出す必要がある。また、粉末化されているセルロースナノファイバーを用いる場合もある。これらの粉体を疎水性の樹脂へ分散させるためには、樹脂に界面活性剤の添加を行いながら混錬する化学的な分散手法、または、樹脂との混錬、せん断を幾度も繰り返す機械的な分散手法が試みられている。
【0007】
ところで、セルロースナノファイバーから水分を除去し、乾燥状態で利用しようとすると、ナノサイズという極めて微細な大きさであるため、乾燥後に大きな分子間引力により再凝集を引き起こし、樹脂の中では凝集体として存在してしまうことがある。再凝集したセルロースナノファイバーを再度、均等に分散させることは、化学的にも機械的にも非常に困難である。
【0008】
セルロースナノファイバーが再凝集してしまうと、均一な分散が得られなくなり、その結果、セルロースナノファイバーを添加した成形体の外観不良、形状不良、強度低下などにつながる。そのため、セルロースナノファイバーを均一に分散させ、再凝集を抑制することが重要である。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、セルロースナノファイバーを疎水性の樹脂に均一に分散させることができるカプセル添加剤を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は別の実施形態において、セルロースナノファイバーが均一に分散した状態の分散体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討の結果、セルロースナノファイバーのカプセル化を行い、これを添加剤として疎水性の樹脂に添加することで、セルロースナノファイバーが均一に分散し、再凝集が抑制されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、セルロースナノファイバーを凝集させないように非イオン性界面活性剤で湿潤させた後、さらに、疎水性の油中で拡散性と相溶性を持たせた油脂でカプセル化させたものである。これにより、外殻のカプセルは疎水性の油中で早い拡散性を示し、カプセルは油中に均等に散らばりながら溶け出すことが可能になる。カプセルが溶け出すと、その中にある湿潤したセルロースナノファイバーが出現し、拡散した部位でさらに分散状態を保持しながらネットワークを作り出すことが可能である。したがって、疎水性の樹脂が固形化しても、セルロースナノファイバーは均一な分散状態を保持できる。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0012】
[1]
セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法であって、
セルロースナノファイバーの粉体と、非イオン性界面活性剤とを混合させる工程A、
工程Aで得られた混合物と、炭素数が18~22の脂肪酸アミドと混合させる工程B、
工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方とを80℃以上の温度で混合させる工程C、及び
工程Cで得られた混合物を冷却させ、セルロースナノファイバーのカプセルを得る工程D、
を含む方法。
[2]
前記非イオン性界面活性剤がショ糖脂肪酸エステルである、[1]に記載の方法。
[3]
前記脂肪酸アミドがオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、及びステアリン酸アミドからなる群から選択される1種以上である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが0.1μm~3.0μmの範囲内である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]
前記セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径が0.5nm~10nmの範囲内である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]
前記セルロースナノファイバーのカプセルは、粒径0.3mm~2.0mmの顆粒状である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]
セルロースナノファイバーの分散体の製造方法であって、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法により得られるセルロースナノファイバーのカプセルを、疎水性の樹脂と一緒に混錬することを含む、方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、セルロースナノファイバーを疎水性の樹脂に均一に分散させることができるカプセル添加剤を製造する方法を提供することができる。また、本発明は別の実施形態によれば、セルロースナノファイバーが均一に分散した状態の分散体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1のセルロースナノファイバーのカプセルを使用して成形された樹脂フィルムのレーザー顕微鏡像である。
図2】本発明の比較例1で成形された樹脂フィルムのレーザー顕微鏡像である。図2Aは倍率2000倍であり、図2Bは倍率2700倍である。
図3】本発明の比較例2で成形された樹脂フィルムのレーザー顕微鏡像である。図3Aは倍率2000倍であり、図3Bは倍率2700倍である。
図4】本発明の比較例3で成形された樹脂フィルムのレーザー顕微鏡像である。図4Aは倍率2000倍であり、図4Bは倍率2700倍である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0016】
(1.セルロースナノファイバーの粉体)
セルロースナノファイバーは、植物繊維の主成分であるセルロースをナノサイズに細かく粉砕したものであり、主な原材料は木材パルプ(紙の原料)である。樹脂材料を補強するとともに、低温下での樹脂の収縮を防止することを主目的として使用される。本発明において、セルロースナノファイバーの原材料は特に限定されない。
【0017】
セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが0.1μm以上であることが好ましい。これにより、補強の効果が期待できる。この観点から、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらにより好ましく、0.5μm以上であることがさらにより好ましい。セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが0.1μm以上であれば、平均繊維径に対して高いアスペクト比を持つ。
【0018】
また、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが3.0μm以下であることが好ましい。これにより、セルロースナノファイバーが加工で球状に丸まることを抑制できる。この観点から、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さが2.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらにより好ましく、1.0μm以下であることがさらにより好ましい。
【0019】
なお、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維長さとは、セルロースナノファイバーの粉体の繊維について、JIS Z8825:2022のレーザー回折・散乱法に従って測定されるD50(メディアン径)を意味する。
【0020】
セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径が0.5nm以上であることが好ましい。これにより、補強の効果が期待できる。この観点から、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径が0.7nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることがさらにより好ましく、3nm以上であることがさらにより好ましい。
【0021】
また、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径が10nm以下であることが好ましい。これにより、セルロースナノファイバーが太くなりすぎてアスペクト比が下がり、溶融樹脂の中で拡散する際の配向性を損なうことを抑制できる。この観点から、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径が8nm以下であることがより好ましく、7nm以下であることがさらにより好ましく、5nm以下であることがさらにより好ましい。
【0022】
なお、セルロースナノファイバーの粉体の平均繊維径とは、セルロースナノファイバーの粉体の繊維について、JIS Z8828:2019の動的光散乱法に従って測定される平均粒子径を意味する。
【0023】
セルロースナノファイバーの粉末として、カルボキシメチルセルロースと同じ化学構造を持ち、乾燥処理により粉末化したCM化(カルボキシメチル化)セルロースナノファイバーがある。また、木材繊維にTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)触媒作用を施したTEMPO酸化セルロースナノファイバーもある。木材繊維を1%~6%含有させた水溶液を機械により粉砕・解繊・分散させることで得たTEMPO酸化セルロースナノファイバーの形体は水溶液であり、水分を除去すれば、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの粉末が得られる。
【0024】
(2.セルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法)
本発明のセルロースナノファイバーのカプセル添加剤の製造方法は一実施形態において、
セルロースナノファイバーの粉体と、非イオン性界面活性剤とを混合させる工程A、
工程Aで得られた混合物と、炭素数が18~22の脂肪酸アミドと混合させる工程B、
工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方とを80℃以上の温度で混合させる工程C、及び
工程Cで得られた混合物を冷却させ、セルロースナノファイバーのカプセルを得る工程D、を含む。以下各工程について説明する。
【0025】
(2-1.工程A)
工程Aでは、セルロースナノファイバーの凝集を抑制するために、セルロースナノファイバーの粉体を非イオン性界面活性剤で湿潤させる。
【0026】
疎水性の樹脂におけるセルロースナノファイバーの分散性を向上させるためには、セルロースナノファイバーに油中での立体障害を作り出す必要がある。すなわち、油中でセルロースナノファイバーが撥油する状態が必要になる。そこで、セルロースナノファイバーに親水基を導入することが考えられる。ただし、セルロースナノファイバーに親水基のみを持たせると、今度は親水基同士の凝集が起きてしまうため、まずはセルロースナノファイバーに親水基と疎水基の両方を持つ非イオン性界面活性剤で湿潤させる。
【0027】
非イオン性界面活性剤の種類は特に限定されないが、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。ショ糖内の水酸基が親水基として働き、脂肪酸のカルボキシル基が疎水基として働くため、セルロースナノファイバーの凝集を防止しつつ適度な立体障害を作り出すことができる。特に、融点が70℃~90℃の範囲のショ糖脂肪酸エステルは扱いやすく、好ましい。また、熱分解温度が230℃以上のものが好ましい。
【0028】
セルロースナノファイバーを非イオン性界面活性剤と混合させる方法は特に限定されないが、例えばセルロースナノファイバー及び非イオン性界面活性剤をスリーワンモーター撹拌機、ディゾルバー撹拌機などの撹拌機に入れて、80℃以上に加熱して非イオン性界面活性剤を溶融させた状態で撹拌することができる。
【0029】
セルロースナノファイバーと非イオン性界面活性剤の混合比は特に限定されないが、セルロースナノファイバーと非イオン性界面活性剤との合計に基づいて、セルロースナノファイバーが20質量%~60質量%の範囲、好ましくは30質量%~50質量%の範囲となるように混合することができる。
【0030】
(2-2.工程B)
工程Bでは、工程Aで得られた混合物を、炭素数が18~22の脂肪酸アミドと混合させる。
【0031】
親水基と疎水基の両方を持つ非イオン性界面活性剤で湿潤させたセルロースナノファイバーに対して、さらに疎水基を持つ脂肪酸アミドと混合させることで、さらに立体障害を作り出し、非常に強い分子間引力でも凝集を抑制できる状態を作り出す。この立体障害を作り出す観点から、炭素数が18~22の脂肪酸アミドが好ましい。脂肪酸アミドの脂肪酸部分は、直鎖状、分岐状、又は環状構造を持つことができるが、直鎖状であることが好ましい。
【0032】
脂肪酸アミドの種類は特に限定されないが、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、及びステアリン酸アミドからなる群から選択される1種以上を使用することが好ましい。オレイン酸は疎水性のシリコーンのような性質を持つため好ましい。オレイン酸アミドを含むものとして、椿オイルをアミド化したものを使用することができる。エルカ酸(1価不飽和脂肪酸)の炭素末端をNH基で置き換えられたエルカ酸アミドはショ糖脂肪酸エステルとの親和性がよいため、非イオン性界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステルを使用する場合、エルカ酸アミドとの組み合わせが好ましい。ステアリン酸アミドは、融点は85℃であるが、アミド化された脂肪族の中で耐熱性は260℃と最も高いため、セルロースナノファイバーのカプセルをポリプロピレンなど200℃以上で溶融した疎水性樹脂に拡散する場合、カプセルが溶解した直後の湿潤させたセルロースナノファイバーの焼け防止を補う機能を持つ。
【0033】
セルロースナノファイバーを脂肪酸アミドと混合させる方法は特に限定されないが、例えばセルロースナノファイバー及び非イオン性界面活性剤をスリーワンモーター撹拌機、ディゾルバー撹拌機などの撹拌機に入れて、80℃以上に加熱して脂肪酸アミドを溶融させた状態で撹拌することができる。
【0034】
工程Aで得られた混合物と脂肪酸アミドの混合比は特に限定されないが、工程Aで得られた混合物と脂肪酸アミドとの合計に基づいて、セルロースナノファイバーが5質量%~20質量%の範囲となるように混合することができる。
【0035】
(2-3.工程C)
工程Cでは、工程Bで得られた混合物を、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方と80℃以上の温度で混合させる。
【0036】
カルナウバロウは疎水性の脂肪族エステルと親水性のヒドロキシカルボン酸を含有するものである。ヒドロキシカルボン酸は工程Aのショ糖脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤の不飽和部分、及び工程Bのエルカ酸アミドのオレイン酸と相溶するので、加熱の油中では外れやすくなり、セルロースナノファイバーの分散体を得やすい。また、90℃以上の疎水性の油中ではロジンエステルと組み合わせることで、疎水性の油中では拡散速度が早く、均一な分散状態を得やすい。
【0037】
ロジンを構成するアビエチン酸は、共役二重結合及びカルボキシル基を有し、カルナウバロウの脂肪族エステルとの相溶性がある。また、ロジン特有の粘着性があり、冷却時に最も早く固形化するため、セルロースナノファイバーの外殻を作ることができる。
【0038】
混合方法は特に限定されないが、例えば、工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方をスリーワンモーター撹拌機、ディゾルバー撹拌機などの撹拌機に入れて、80℃以上、好ましくは90℃に加熱して、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方を溶融させた状態で撹拌することができる。
【0039】
上記混合により、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方はセルロースナノファイバーを包み込み、後述のカプセルの外殻を形成する準備ができる。
【0040】
工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方との混合比は特に限定されないが、工程Bで得られた混合物と、カルナウバロウ及びロジンエステルの一方又は両方との合計に基づいて、セルロースナノファイバーが5質量%~20質量%の範囲となるように混合することができる。
【0041】
(2-4.工程D)
工程Dでは、工程Cで得られた混合物を冷却させ、セルロースナノファイバーのカプセルを得る。冷却方法は特に限定されず、撹拌機にチラー冷却水を通水してもよく、放置して自然冷却させてもよい。通常、混合物を室温まで冷却させれば、粒径0.3mm~2.0mmの範囲の顆粒状のセルロースナノファイバーのカプセルを得ることができる。なお、ここで粒径とはカプセル粒子と同一の体積を持つ球相当径を示す。粒径は、例えば日機装株式会社製マイクロトラックMT3000を用いて測定することができるが、他の装置でも測定可能である。
【0042】
(3.セルロースナノファイバーの分散体の製造方法)
上記方法により得られたセルロースナノファイバーのカプセルを疎水性の樹脂と一緒に混錬することにより、外殻のカプセルは疎水性の樹脂で早い拡散性を示し、カプセルは樹脂に均等に散らばりながら溶け出すことが可能になる。カプセルが溶け出すと、その中にある湿潤したセルロースナノファイバーが出現し、拡散した部位でさらに分散状態を保持しながらネットワークを作り出すことが可能である。その結果、セルロースナノファイバーが均一に分散した状態の分散体を得ることができる。
【0043】
疎水性の樹脂の種類は特に限定されないが、熱可塑性樹脂では300℃以上の融点である高温度のエンジニアプラスチックを除き、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、アクリル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタラートを挙げることができる。熱硬化性樹脂では、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。
【実施例0044】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0045】
(実施例1)
セルロースナノファイバーの粉体(CM化セルロースナノファイバー、日本製紙株式会社製・セレンピアCS-01)30重量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB値が12~16、第一工業製薬株式会社製・ノイゲン)38重量部、オレイン酸アミド(日本精化株式会社製・NEUTRON、純度98以上)20重量部、エルカ酸アミド(日本精化株式会社製・NEUTRON-S)10重量部、ステアリン酸アミド(日本精化株式会社製・NEUTRON-2)2重量部を用意した。
【0046】
上記セルロースナノファイバーの粉体とショ糖脂肪酸エステルを85℃に加熱した状態で、スリーワンモーター撹拌機(新東科学株式会社製・HEIDON・BL3000)を用いて600rpmで20分撹拌を行った(工程A)。
【0047】
次に、工程Aで得られた混合物と、上記オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、及びステアリン酸アミドを85℃に加熱した状態でスリーワンモーター撹拌機(新東科学株式会社製・HEIDON・BL3000)を用いて600rpmで20分撹拌を行った。液化した混合物を50℃まで常温で冷却し、続いて3本ロールミル(株式会社井上製作所製・タイプC-7)に入れ、ロールによるせん断とすり潰しを3パス行い、更に繊維湿潤を高めた。ロールから吐出される形状は常温ではフレーク状となる(工程B)。
【0048】
次に、工程Bで得られたフレーク状の混合物と、カルナウバロウ(株式会社加藤洋行製・精製カルナバワックス)と、ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製・タマノール)とを、50:13:37の質量比で用意した。
【0049】
カルナウバロウ及びロジンエステルを85℃に加熱した状態で液状化させ、スリーワンモーター撹拌機、ディゾルバー撹拌機を用いて1200rpmで5分混合撹拌を行った。次に混合液を回転羽根付のミキサーに移し、85℃に加熱し液化させておいた。
【0050】
次に、この混合液に上記工程Bで得られた混合物を3分程度にわたり少量ずつ添加した。添加後、回転速度を80rpmの低回転にして撹拌し、チラー冷却水を通水し、温度を85℃からゆっくり10℃まで低下させた。この冷却の過程で顆粒状のカプセルが形成されていくことが確認された。
【0051】
最終的に得られた顆粒状のカプセルは粒径1.0mm前後の粉体球状であった。
【0052】
(分散性試験)
上記実施例1で得られたセルロースナノファイバーのカプセルを用いて、疎水性樹脂の樹脂フィルムを成形し、セルロースナノファイバーの凝集発生及び分散性の評価を行った。手順は以下のとおりである。
【0053】
母体樹脂として、株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン樹脂(ホモ)・PC-600A(MFR7.5g/10min)を85重量部、フィルム成形加工時の軟化助材として、三井化学株式会社製コポリマー樹脂・タフマーPN-2070を3重量部、フィルム成形加工時の熱安定剤として、大日化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛・ダイワックスZPを2重量部用意した。また、上記手順により作製したセルロースナノファイバーのカプセルを10重量部(カプセル中のセルロースナノファイバー含有量は15%。よってフィルム中では1.5重量部)用意した。
【0054】
まず、ペレットを作成するため、上記原料を株式会社カワタ製20Lスーパーミキサーに投入し、500rpmで5分間撹拌し均等になるように混合した。混合された原料を東芝機械株式会社製TEM-37SS二軸押出機のホッパーに投入し、混錬を行った。二軸押出機のシリンダー温度条件は溶融ゾーンが200℃でニーディングゾーンは205℃であった。ダイ出口での実温度は185℃で押出しを行い、ストランド水冷成形後、ペレタイザーカット方式で長さ4mm、径2mmのペレットを作製した。続いて、完成したペレットをドイツW&H社製・単層インフレーション式エクストルーダに投入し、ニーディング温度条件210℃で筒状200mm幅、膜厚25μmの樹脂フィルムを成形した。膜厚25μmの樹脂フィルムを100mm×100mmのサイズにカットし、株式会社キーエンス製マイクロスコープVHX8000にて、倍率2000倍3Dで凝集物の有無を確認した。
【0055】
結果として、当該実施例では、フィルムに凝集物を確認することはできなかった(図1)。本発明の手順に従って作製されたセルロースナノファイバーのカプセルは、疎水性の樹脂においても高度な分散性を持つことが分かった。
【0056】
(実施例2)
セルロースナノファイバーの粉体として、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、(日本製紙株式会社製・セレンピアTC-01A)の水溶液から取り出したセルロースナノファイバーの粉体を使用した。TEMPO酸化セルロースナノファイバー水溶液からナノセルロースナノファイバーの繊維を取り出す方法は以下のとおりである。
【0057】
TEMPO酸化セルロースナノファイバーを2重量部含有する水溶液を10kg用意した。この水溶液を、定温乾燥機(株式会社いすゞ製作所製:VTEC40)で6時間から7時間、140℃で乾燥させ減水させた。これにより、水溶液は半分の5kgまで減少し、水溶液は200gのセルロースナノファイバーと4800gの水になった。低温加熱乾燥の工程はここまでとした。次に、真空凍結乾燥機(日本テクノサービス株式会社製:FD-10BU)に移し、フリーズドライで水分を除去する。水分を除去したセルロースナノファイバーの固形物200gに対して、固形物を粉末化するために、気流式粉砕機(株式会社静岡プラント製:サイクロンミルBWT150)を13000rpmに設定し、90℃の熱風をブロアーで入れて粉砕した。結果、粉体は最小0.6μm、最大40μm、D50=10μmのサイズであり、17g(ロス2g)をバグフィルター集塵機から取り出し、解れやすく、油脂に湿潤しやすい粉末が得られた。
【0058】
上記セルロースナノファイバーの粉体を使用した以外、上記実施例1と同様の原材料を使用して、同様の手順で樹脂フィルムを成形し、セルロースナノファイバーの凝集発生及び分散性の評価を行った。結果として、凝集が発生しておらず、実施例1と同程度の分散性が得られた。
【0059】
(比較例1)
母体樹脂として、株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン樹脂(ホモ)・PC-600A(MFR7.5g/10min)を92.5重量部、フィルム成形加工時の軟化助材として、三井化学株式会社製コポリマー樹脂・タフマーPN-2070を4重量部、フィルム成形加工時の熱安定剤として大日化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛・ダイワックスZPを2重量部用意した。また、実施例1のセルロースナノファイバーのカプセルの代わりに、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(日本製紙株式会社製・セレンピアCS-01A)を使用して、これについてカプセル化処理をせず、そのまま1.5重量部用意した。
【0060】
比較例1について、上記実施例1と同じ手順で樹脂フィルムを成形し、凝集物の有無を確認したところ、100mm×100mmの面に20個以上の凝集物が確認された(図2)。セルロースナノファイバーをそのまま使用した場合、分散させることはできず、セルロースナノファイバーの凝集が発生してしまうことが分かった。
【0061】
(比較例2)
母体樹脂として、株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン樹脂(ホモ)・PC-600A(MFR7.5g/10min)を92.5重量部、フィルム成形加工時の軟化助材として、三井化学株式会社製コポリマー樹脂・タフマーPN-2070を4重量部、フィルム成形加工時の熱安定剤として大日化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛・ダイワックスZPを2重量部用意した。また、実施例1のセルロースナノファイバーのカプセルの代わりに、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(日本製紙株式会社製・セレンピアTC-01A)を使用して、これについてカプセル化処理をせず、そのまま1.5重量部用意した。
【0062】
比較例2について、セルロースナノファイバーのカプセルとして比較例2のセルロースナノファイバーを1.5重量部用意した以外、上記実施例1と同じ手順で樹脂フィルムを成形し、凝集物の有無を確認したところ、100mm×100mmの面に20個以上の凝集物が確認された(図3)。セルロースナノファイバーをそのまま使用した場合、分散させることはできず、セルロースナノファイバーの凝集が発生してしまうことが分かった。
【0063】
(比較例3)
母体樹脂として、株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン樹脂(ホモ)・PC-600A(MFR7.5g/10min)を90重量部、フィルム成形加工時の軟化助材として三井化学株式会社製コポリマー樹脂・タフマーPN-2070を3.5重量部、フィルム成形加工時の熱安定剤に大日化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛・ダイワックスZPを2重量部用意した。また、実施例1のセルロースナノファイバーのカプセルの代わりに、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(日本製紙株式会社製・セレンピアTC-01A)を1.5重量部用意し、これにビッグケミー社の熱可塑性樹脂用アニオン性及び両性界面活性剤を湿潤剤として3重量部添加したものを使用した。
【0064】
比較例3について、上記実施例1と同じ手順で樹脂フィルムを成形し、凝集物の有無を確認したところ、100mm×100mmの面に12個の凝集物が確認された(図4A)。また、凝集したセルロースナノファイバーが成形時に回転してドーナツ状となり、その中心部分の成膜ができないため樹脂フィルムに穴が形成されたことが確認された(図4B)。樹脂フィルムに界面活性剤を添加することで、凝集物の数は比較例1より半減はするものの、カプセル化処理をする場合と比較して、改善は限定的であったといえる。
【0065】
(比較例4)
セルロースナノファイバーのカプセル化処理において、ショ糖脂肪酸エステル等を使用せず、湿潤していない状態でカプセル化した場合の効果を試験した。
【0066】
具体的には、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(日本製紙株式会社製・セレンピアTC-01A)30重量部、カルナウバロウ(株式会社加藤洋行製・精製カルナバワックス)を15重量部、ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製・タマノール)を55重量部用意した。カルナウバロウ及びロジンエステルを85℃に加熱した状態で液状化させ、スリーワンモーター撹拌機、ディゾルバー撹拌機を用いて1200rpmで5分混合撹拌を行った。この時点で白い斑点が確認され、セルロースナノファイバーが混ざりきらない状態である事が確認された。そのまま、回転速度を80rpmの低回転にして撹拌し、チラー冷却水を通水し、温度を85℃からゆっくり10℃まで低下させた。この冷却の過程では、顆粒状の粒径1.0mm前後のカプセルが形成された。
【0067】
比較例4について、セルロースナノファイバーのカプセルとして比較例4のカプセルを10重量部用意した以外、上記実施例1と同じ手順で樹脂フィルムを成形した。凝集物の有無を確認したところ、比較例1と同様、100mm×100mmの面に20個以上の凝集物が確認された。セルロースナノファイバーを湿潤させなければ、カプセル化ができても、疎水性の樹脂の中では分散させることはできず、セルロースナノファイバーの凝集が発生してしまうことが分かった。
図1
図2
図3
図4