(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082102
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】グラファイト分散液、それを用いた正極電極用組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240612BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195821
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 聡
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛史
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA09
5H050AA12
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA20
5H050CA25
5H050CA26
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA11
5H050HA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リチウムイオン二次電池などの正極用の電極に好適に用いられるグラファイト分散液、それを用いたリチウムイオン電池正極用材料を提供する。
【解決手段】グラファイト分散液は、グラファイトと、溶媒と、下記式(I)で表されるポリビニルアセタールとを少なくとも含み、前記ポリビニルアセタールのATR法により得たFT-IRスペクトルにおける1650cm
-1におけるピーク強度に対する2950cm
-1におけるピーク強度の比が50以上で、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した質量平均分子量が100,000以下である。
(式中、l、m及びnは正の数であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトと、溶媒と、下記式(I)で表されるポリビニルアセタールとを少なくとも含み、前記ポリビニルアセタールのATR法により得たFT-IRスペクトルにおける1650cm
-1におけるピーク強度に対する2950cm
-1におけるピーク強度の比が50以上であり、かつ、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した質量平均分子量が100,000以下であることを特徴とするグラファイト分散液。
【化1】
(式中、l、m及びnは正の数であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基である。)
【請求項2】
前記ポリビニルアセタールの10質量%NMP溶液の320nmにおける吸光度が0.50以上であることを特徴とする請求項1記載のグラファイト分散液。
【請求項3】
前記ポリビニルアセタールの10質量%NMP溶液の剪断速度76.6/sにおける粘度が21.0mPa・s以上、31.0mPa・s以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のグラファイト分散液。
【請求項4】
前記ポリビニルアセタールの質量平均分子量Mwが30,000~50,000であることを特徴とする請求項1又は2記載のグラファイト分散液。
【請求項5】
請求項1又は2記載のグラファイト分散液と、正極活物質とを少なくとも含有し、前記正極活物質100質量部に対して前記グラファイトの質量が0.1~6.0質量部であることを特徴とする正極電極用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの正極用の電極に好適に用いられるグラファイト分散液、それを用いた正極電極用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、環境面に配慮したモビリティーなどの普及に伴い、リチウムイオン電
池市場が注目されている。リチウムイオン電池は、リチウムイオンを可逆的に出入りさせ
る活物質を含有する負極、正極と、それらを浸漬する非水系電解質とを備えており、正極
は、活物質、導電材及びバインダーからなる電極スラリーを、アルミ箔などの集電板に塗
工することにより製造されている。
【0003】
従来、リチウムイオン電池を含む非水系二次電池に高表面積炭素材料、特にグラファイト(黒鉛粒子)を用いることが研究されており、特にグラファイトに層間化合物を形成させ、その層間化合物を二次電池電極材料として用いることは既知であり、数多くの技術が開示されている。
例えば、特許文献1には、「正電極、負電極、セパレーター及び非水電解液を有する二次電池であって、正電極の活物質として、非炭素質材料が用いられ、負電極の活物質としてBET法比表面積A(m2/g)が0.1<A<100の範囲で、かつX線回折における結晶厚みLc(Å)と真密度ρ(g/cm3)の値が条件1.80<ρ<2.18、15<Lcかつ120ρ-227<Lc<120ρ-189を満たす範囲にある炭素質材料を用いる二次電池」が記載されている。
この特許文献1には、更に、Li+イオン等を取り込ませる場合、炭素質材料はある程度の不規則構造を有している方が優れた特性を有することが記載されており、また、炭素材料の表面積が小さいと、電極表面での円滑な電気化学的反応が進行しにくく好ましくなく、比表面積が大きすぎると、サイクル寿命特性、自己放電特性、更には電流効率特性等の面で特性の低下がみられ、好ましくないことなどが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、導電助剤である、粒子の厚みが0.5nm~30nm、比表面積が50m2/g以上である薄片状黒鉛、該薄片状黒鉛以外の炭素材料、分散剤、バインダーなどを含むことが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、リチウムイオン電池の電極用導電剤であって、(1)アルゴンレーザーを用いたラマン分光分析により測定したラマンスペクトルのバンド強度比が以下の関係を満たす[Gバンド(1580cm-1)の強度/Dバンド(1360cm-1)の強度]≧8を満たすと共に、(2)アルゴンレーザーを用いたラマン分光分析により測定したラマンスペクトルのGバンド(1580cm-1)の半値幅(G-FWHM)が15~22cm-1である特徴を有する薄片化黒鉛を含むことを特徴とする導電剤が開示されており、前記薄片化黒鉛は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)により測定した、前記薄片化黒鉛の粒子のベーサル面の厚みが5~50nmであるものが好ましいことなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4-24831号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2014-182873号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】国際公開2021/107094号(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、何れの炭素質材料や薄片状黒鉛も、依然として粘度が高いため、グラファイト分散液及び電極用組成物(電極用分散体)の製造工程における歩留りが十分ではないこと、液送時の圧力損失が大きいために固形分を上げることができないことがあった。
上記特許文献2の薄片化黒鉛であるグラファイトは、反応性官能基を有さない方が好ましいことが記載されており、この場合、水をはじめ各種溶媒への分散を行う際に分散剤の吸着が困難になり、低粘度化は不可能となってしまうものである。現に、ここでの組成物は「ペースト」であり、極めて高粘度の組成物であると推測される。通常、高粘度の「ペースト」であると、後からカーボンナノチューブ等の導電剤や活物質を加えた場合、元々高い粘度が更に高くなるのは問題にならないが、均一に分散させる、即ち、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質を均一に分布させることができなくなり、サイクル特性、自己放電特性、電極自体の抵抗値等に悪影響が生じるなどの課題があるのが現状であった。
また、塗工機の配管内や塗工部における流動性が依然として十分ではないため、集電箔
へ電極用分散体を塗工する際の不具合により電極に欠陥が発生し、その結果、十分な電極
の歩留りが得られないことがあった。
【0008】
そこで、本発明は、良好な分散性を有する新規なグラファイト分散液を提供すると共に、Li+等のイオンの出し入れや電極の抵抗値低下に悪影響を及ぼすことなく、薄片化したグラファイトを均一に分散させ、かつ、低粘度とした分散液により、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質を均一に分布させることができ、しかも、サイクル特性、自己放電特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響が及ぼすことがなく、高効率のリチウムイオン電池などのリチウムイオン電池正極用材料などに好適な正極電極用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見
出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉
本発明のグラファイト分散液は、グラファイトと、溶媒と、下記式(I)で表されるポリビニルアセタールとを少なくとも含み、前記ポリビニルアセタールのATR法により得たFT-IRスペクトルにおける1650cm
-1におけるピーク強度に対する2950cm
-1におけるピーク強度の比が50以上であることを特徴とする。
【化1】
(式中、l、m及びnは正の数であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基である。)
〈態様2〉
前記ポリビニルアセタールの10質量%NMP溶液の320nmにおける吸光度が0.50以上であることを特徴とする態様1記載のグラファイト分散液。
〈態様3〉
前記ポリビニルアセタールの10質量%NMP溶液の剪断速度76.6/sにおける粘度が21.0mPa・s以上、31.0mPa・s以下であることを特徴とする態様1又は2記載のグラファイト分散液。
〈態様4〉
前記ポリビニルアセタールの質量平均分子量が100,000以下であることを特徴とする態様1又は2記載のグラファイト分散液。
〈態様5〉
本発明の正極電極用組成物は、態様1又は2記載のグラファイト分散液と、正極活物質とを少なくとも含有し、かつ前記正極活物質100質量部に対して前記グラファイトの質量が0.1~6.0質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Li+等のイオンの出し入れや電極の抵抗値低下に悪影響を及ぼすことなく、グラファイトを均一に分散させ、かつ、低粘度とした分散液により、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質を均一に分布させることができ、しかも、サイクル特性、自己放電特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響が及ぼすことがなく、高効率のリチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となるグラファイト分散液、特にリチウムイオン二次電池などの正極用の電極に好適に用いられるグラファイト分散液、それを用いたリチウムイオン電池などに好適に使用することができる正極電極用組成物を提供することができる。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0012】
〈グラファイト分散液〉
本発明のグラファイト分散液は、グラファイトと、溶媒と、下記式(I)で表されるポリビニルアセタールとを少なくとも含み、前記ポリビニルアセタールの全反射測定法(ATR法)により得たFT-IR(フーリエ変換赤外線分光法)スペクトルにおける1650cm-1におけるピーク強度に対する2950cm-1におけるピーク強度の比が50以上であることを特徴とするものである。
【0013】
【化2】
(式中、l、m及びnは正の数であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基である。)
【0014】
本明細書において、「2950cm-1付近におけるピーク」とは、2950cm-1の前後200cm-1、前後150cm-1、前後100cm-1、前後50cm-1、又は30cm-1の領域のピークのうちの最大のものを意味している。また、「3450cm-1付近におけるピーク」及び「1650cm-1付近におけるピーク」についても、上記「2950cm-1付近におけるピーク」と同様に解釈されるべきである。また、「X~Y(質量%やμm等)」とする場合、「X(質量%やμm等)以上Y(質量%やμm等)以下」を意味する。
また、本発明において、全反射測定法(ATR法)は、クリスタルとしてダイヤモンドを用い、測定前に露点温度マイナス30℃の環境下で3日間乾燥させた試料を用いて行ったものである。
【0015】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
〈グラファイト〉
本発明に用いるグラファイト(黒鉛粒子)の形態・特徴としては、例えば、鱗状のもの、薄片状のもの、球状のもの、膨張化したもの、薄片化したもの、薄片化した鱗状のもの、グラフェン(化学気相成長法、熱分解法、機械的剥離法、化学的処理法などによる)から選ばれる少なくとも1種(各単独又は2種以上の混合物、以下同様)が挙げられる。これらの形態・特徴は、重複することもあり、例えば、薄片化した鱗状のグラファイト等である。
【0016】
用いることができる鱗状のグラファイトとしては、市販品では、例えば、SP-270、J-SP-α、JB-5(何れも日本黒鉛社正)、FT-7J(富士黒鉛社製)、NOCSP等が挙げられる。
用いることができる薄片状のグラファイトとしては、市販品では、例えば、CMX-40、JSP-α、UP-5α、UP-10-α、UP-5N、UP-50N(何れも日本黒鉛社製)等が挙げられる。球状のグラファイトとしては、市販品では、例えば、CGB-6、CGB-6R、CGB-20、CGC-50(何れも日本黒鉛社製)等が挙げられる。
用いることができる膨張化したグラファイトとしては、市販品では、例えば、FS-5(東日本カーボン(株)製)等が挙げられる。
本発明においては、グラファイト分散液を添加した正極用材料のシート抵抗を低下できる点から、特に、鱗状のグラファイト、薄片化した膨張化したグラファイトの使用が好ましい。
【0017】
用いる上記形状のグラファイトの平均粒子径は、最初から2~50μmであれば問題ないが、これより大きくても、例えば、分散工程において粉砕されることにより分散後の平均粒子径2~50μm、更に好ましくは、3~30μm、更に好ましくは、4~20μm、更に好ましくは、5~10μmとなることで電池電極用などの分散液として好ましい性状となる。
【0018】
ここで、本明細書において採用される平均粒子径は、対象となるグラファイトの大きさによって適宜選択され、概ねlum未満のグラファイトの場合は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値であり、1μm以上の粒子の場合は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。動的光散乱法による測定は、例えば、DelsaMax CORE(ベックマン・コールター社)を用いて行うことができる。レーザー回折法による測定は、例えば、粒度分布測定装置MT3300II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて行うことができる。このグラファイトの平均粒子径は、薄片状グラファイト同士が積層、あるいは球状に集合した二次粒子を指し、任意の溶液に懸濁させて測定することができる。
【0019】
これらのグラファイトの含有量は、用途に応じて、好適な含有量を設定することができ、特に限定されるものではない。
例えば、導電用スラリー、二次電池用電極スラリー、二次電池用電極(正極)などの電極用組成物に用いる場合は、本発明の効果を発揮せしめる点、高い安定性と導電性能を両立する点、分散体製造時の粘度の点から、その含有率は、グラファイト分散液の全質量に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.4質量%以上、0.6質量%以上、又は0.8質量%以上であってよく、また、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下であってよい。
【0020】
〈溶媒〉
溶媒としては、随意の有機溶媒を用いることができ、例えば、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0021】
プロトン性極性液体媒体は、概して酸性水素を含む溶媒である。プロトン性極性液体媒体としては、例えば、フェノール系液体媒体、単価アルコール系液体媒体、多価アルコール系液体媒体等を用いることができる。
【0022】
フェノール系液体媒体としては、例えば、クレゾール類等を用いることができる。
単価アルコール系液体媒体としては、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、nーブタノール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、1ーペンタノール、インアミルアルコール、sec-アミルアルコール、3ーペンタノール、tert-アミルアルコール、nーヘキサノール等を用いることができる。
【0023】
多価アルコール系液体媒体としては、例えば、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリム、分子量600以下のポリエチレングリコール等のグリコール系液体媒体、及びグリセリン等を用いることができる。
【0024】
非プロトン性極性液体媒体は、概して酸性水素を含まない溶媒である。非プロトン性極性液体媒体としては、例えば、N,Nージメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等を用いることができ、中でも、N-メチル-2- ピ
ロリドンを用いることが、ポリビニルアセタールとの親和性の観点から好ましい。
【0025】
〈ポリビニルアセタール〉
本発明のグラファイト分散液におけるポリビニルアセタールは、以下の式で構成されている。
【化3】
(式中、l、m及びnは正の数であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基である。)
【0026】
本発明におけるポリビニルアセタールの、FT-IRにより測定した、1650cm-1付近におけるピークの強度に対する2950cm-1におけるピークの強度の比は、50以
上である。この比は、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、又は100以上であってよい。
【0027】
理論に拘束されることを望まないが、この1650cm-1におけるピークの強度は、アセチル基、すなわち、上記の式(1)におけるmの値の割合に起因して大きくなり、2950cm-1におけるピークの強度は、アセタール基及びアセチル基の合計、すなわち上記の式(1)における-及びmの値の合計の割合に起因して大きくなると考えられる。このことから、上記のピークの強度の比は、相対的にアセタール基の割合が大きくなることを示していると考えられる。
このポリビニルアセタールの全反射測定法(ATR法)により得たFT-IR(フーリエ変換赤外線分光法)スペクトルにおける1650cm-1におけるピーク強度に対する2950cm-1におけるピーク強度の比が50未満であると、本発明の効果を発揮することがなく、好ましくない。
【0028】
また、本発明におけるポリビニルアセタールの、FT-IRにより測定した、3400cm-1におけるピークの強度に対する2950cm-1におけるピークの強度の比は、好ましくは、2.0以上、2.5以上、又は3.0以上であってよい。理論に拘束されることを望まないが、この3400cm-1におけるピークの強度は、ヒドロキシル基、すなわち上記の式(1)におけるnの値の割合に起因して大きくなると考えられる。このことから、この強度の比が大きいことは、相対的にアセタール基の割合が大きくなることを示していると考えられる。
【0029】
相対的にアセタール基の割合が大きくなることにより、ポリビニルアセタール全体として疎水性の傾向が更に強くなり、それによって、グラファイトとの高い親和性が得られると考えられる。その結果、グラファイト分散液の低い剪断速度、例えば0.ls-1における粘度を低くすることができる。
【0030】
このようなポリビニルアセタールを有する本発明のグラファイト分散体液、0.ls-1における粘度の、1000s-1における粘度の比は、好ましくは、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、又は550以下であることが望ましい。
【0031】
ここで、上記の粘度の比の測定においては、剪断速度を0.ls-1における粘度0.ls-1から1000s-1まで対数傾斜により20秒で変化させ、その後、剪断速度を1000s-1から0.ls-1sまで対数傾斜により20秒で変化させて、計40秒間における粘度を経時的に測定し、20秒時点の粘度を剪断速度1000s-1粘度の測定値とし、40秒時点の粘度を剪断速度0.1s-1粘度の測定値とした。
【0032】
本発明におけるポリビニルアセタールの、上記のアセタール基の含有率は、ポリビニルアセタールの質量に対して、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、81質量%以上、82質量% 以上、又は83質量%以上であることができる。
【0033】
上記式(1)中のRを構成するアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、1以上、3以上、5以上、7以上、又は9以上であってよく、また20以下、18以下、16以下、14以下、又は12以下であってよい。特に、本発明におけるポリビニルアセタールは
、上記のRを構成するアルキル基の炭素数が4である、ポリビニルブチラールであってよ
い。
【0034】
本発明におけるポリビニルアセタールの10質量%NMP溶液の320nmにおける吸
光度は、分散液の粘度、経時安定性の点から、好ましくは、0.25以上、0.30以上、0.35以上、0.40以上、0.45 以上、0.50以上、0.55以上、0.60以上、又は0.65以上であってよく、中でも0.50以上であることが、分散性を良好にする観点から好ましい。この吸光度は、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下であってよい。また、この吸光度の測定においては、NMPの吸光度をブランクとする。
【0035】
本発明におけるポリビニルアセタールの10質量%NMP溶液の、剪断速度76.6/sにおける粘度は、10.0mPa・s以上、15.0mPa・s以上、20.0mPa・s以上、21.0mPa・s以上であってよく、また70.0mPa・s以下、65mPa・s以下、60.0mPa・s以下、55.0mPa・s以下、50mPa・s、45.0mPa・s以下、40.0mPa・s以下、35.0mPa・s以下、33.0mPa・s以下、3.0mPa・s以下、又は30.0mPa・s以下であってよい。この粘度は、コーンプレート型粘度計を用い、測定時間60sの条件で測定することができる。
【0036】
本発明におけるポリビニルアセタールの、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した質量平均分子量は、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、100,000以下であることが好ましい。この質量平均分子量は、更に、90,000以下、85,000以下、80,000以下、75,000以下、70,000以下、65,000以下、60,000以下、55,000以下、又は50,000以下であってよい。このような質量平均分子量によれば、ポリビニルアセタールの溶液の粘度を低減し、その結果、得られるグラファイトの凝集を抑制することができる。この質量平均分子量は、10,000以上、15,000以上、20,000以上、25,000以上、30,000以上、35,000以上、又は40,000以上であってよい。このゲル透過クロマトグラフィーにより得た質量平均分子量は、ポリスチレンを標準ポリマーとして得た換算値である。
【0037】
ポリビニルアセタールの含有率は、グラファイト分散液の全質量に対し、0.1質量%以上、0.3質量% 以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、又は0.9質量%以上であってよく、また10.0質量%以下、8.0質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.7質量%以下、2.4質量%以下、2.1質量%以下、1.8質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。
【0038】
〈他のポリマー〉
ポリビニルアセタール以外のポリマーとしては、例えばバインダーとして用いられ得る
ポリマーを用いることができる。かかるポリマーとしては、例えば、種々のエマルション型や溶解型のポリマーを用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系ポリマー、エチレンープロピレンージエン共重合体(EPDM) 、ニトリルーブタジエンゴム(NBR)、スチレンーブタジエンゴム(SBR)等のエラストマー系ポリマー、アクリル系のポリマー等を用いることができる。
【0039】
また、ポリマーとしては、例えば、多糖類等の天然高分子、合成高分子を用いることができる。このようなポリマーは、増粘剤として用いられることがある。
【0040】
多糖類としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩を用いることができる。中でも、カルボキシメチルセルロースを用いることが、分散安定性の観点から好ましい。
【0041】
合成高分子としては、例えば、ポリビニルビロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルーポリビニルビロリドン共重合体、スチレンーアクリル酸共重合体及びその塩、インブチレン無水マレイン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を用いることができる。
【0042】
また、ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等の非イオン性分散剤を用いることができる。これらのポリマーは、分散助剤として用いられることがある。
【0043】
また、ポリマーとしては、分散剤を挙げることができる。具体的には、分散剤であるポ
リマーとしては、例えば、非イオン性又はアニオン性の分散剤、多糖類を用いることができる。非イオン性分散剤としては、上記分散助剤又はポリビニルピロリドンを用いることができ、アニオン性分散剤としては、スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びエポキシ系樹脂等を用いることができる。
【0044】
他のポリマーの合計の含有率は、グラファイト分散液の全質量を基準として、0.5質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は2.2質量%以上であってよく、また15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下、又は2.5質量%以下であってよい。
【0045】
〈プロトン濃度調整剤〉
随意のプロトン濃度調整剤としては、例えば、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルブロパノール、トリポリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の、炭酸又はリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の少なくとも1種を用いることができる。
【0046】
〈防腐剤〉
随意の防腐剤としては、例えば、フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2-ペンズイソチアゾリン3ーオン、2,3,5,6-テトラクロロー4(メチルフオニル)ピリジン、安息香酸、ソルビン酸又はデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ペンズイミダゾール系化合物、フェノキシエタノール等のアルコール類、1.3-ペンタンジオール等のグリコール類等の少なくとも1種を用いることができる。
【0047】
本発明のグラファイト分散液の製造は、例えば、少なくとも、上記グラファイトと、溶媒と、必用に応じて添加等される上記任意成分、残部(残りの成分)として式(I)で表される上記特定物性のポリビニルアセタール等を投入し、撹拌・混合後、分散工程を経て得ることができる。
上記分散液の分散処理は、例えば、超音波分散機や、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、(高圧)ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル、薄膜旋回型高速ミキサー等のメディアレス分散機、その他ロールミル等の分散装置を用いて分散処理することができるが、これらに限定されるものではない。
好ましい分散装置としては、安定性や分散効率の点から、(高圧)ホモジナイザー、薄膜旋回型高速ミキサーやビーズミルなどが好ましい。
【0048】
このように構成される本発明のグラファイト分散液は、グラファイトと、溶媒と、上記式(I)で表されるポリビニルアセタールとを少なくとも含み、前記ポリビニルアセタールのATR法により得たFT-IRスペクトルにおける1650cm-1におけるピーク強度に対する2950cm-1におけるピーク強度の比が50以上であるものを用いることにより、Li+等のイオンの出し入れや電極の抵抗値低下に悪影響を及ぼすことなく、グラファイトを均一に分散させ、かつ、低粘度とした分散液により、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質を均一に分布させることができ、しかも、サイクル特性、自己放電特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響が及ぼすことがなく、高効率のリチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となるグラファイト分散液が得られることとなる。
【0049】
《正極用電極組成物》
本発明の正極電極用組成物は、少なくとも、上記のグラファイト分散液、及び正極活物質を含有し、前記正極活物質100質量部に対するグラファイトの質量が、0.1質量部以上、6質量部以下であることを特徴とするものである。
良好な分散性を有する本発明のグラファイト分散液を含有している本発明の正極電極用組成物は、良好なシート抵抗、容量維持率、及びサイクル維持率を得ることができる。
【0050】
本発明の正極電極用組成物では、正極活物質100質量部に対するグラファイトの質量は、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、0.7質量部以上、又は0.9質量部以上であり、かつ6.0質量部以下、5.5質量部以下、5.0質量部以下、4.5質量部以下、4.0質量部以下、3.5質量部以下、3.0質量部以下、2.5質量部以下、2.0質量部以下、又は1.7質量部以下である。
【0051】
正極電極用組成物は、ポリビニルアセタール以外のポリマーを含有していてよい。このようなポリマーとしては、カーボンナノチューブ分散体に関して挙げたものを用いることができる。
【0052】
また、正極電極用組成物は、溶媒を更に含有していてよい。溶媒としては、グラファイト分散液に関して挙げたものを用いることができる。
【0053】
また、正極電極用組成物は、他の導電性物質を含有していてよい。他の導電性物質としては、例えばグラファイト以外の炭素系導電材を用いることができる。
導電材としては、例えば、炭素系導電材を用いることができる。炭素系導電材は、炭素繊維、炭素粒子及び、カーボンナノチューブの中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0054】
炭素繊維としては、これに限られないが、ミルドファイバー、及びチョップドファイバー等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
炭素繊維の平均長は、lμm以上、3μm以上、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上であることができ、また100μm以下、70μm以下、50μm以下、又は30μm以下であることができる。
【0055】
炭素粒子としては、例えば、アセチレンブラック及びケッチェンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
炭素粒子の形状は、特に限定されず、例えば局平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。
【0056】
炭素粒子の平均粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また、20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は7μm以下であることができる。ここで、本明細書において採用される平均粒子径は、対象となる炭素粒子の大きさによって適宜選択され、概ね1μm未満の粒子の場合は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値であり、lμm以上の粒子の場合は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。動的光散乱法による測定は、例えばDelsaMax CORE(ベックマン・コールタ一社)を用いて行うことができる。レーザー回折法による測定は、例えば、粒度分布測定装置MT330011(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行うことができる。
【0057】
正極電極用組成物(電極層形成用非水系分散体)における炭素質導電材の含有率は、組成物(電極層形成用非水系分散体)の全質量を基準として、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は2.5質量%以上であってよく、また15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。
【0058】
カーボンナノチューブとしては、公知のカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブの平均粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また、20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は7μm以下であるとこができる。ここで、本明細書において採用される平均粒子径は、対象となるカーボンナノチューブの大きさによって適宜選択され、概ねlum未満の粒子の場合は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値であり、1nm以上の粒子の場合は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。動的光散乱法による測定は、例えば、DelsaMax CORE(ベックマン・コールター社)を用いて行うことができる。レーザー回折法による測定は、例えば粒度分布測定装置MT300011(マイクロトラック・ベル株式会社) を用いて行うことができる。このカーボンナノチューブの平均粒子径は、カーボンナノチューブの単繊維同士が束や穣状になった二次粒子を指し、任意の溶液に懸濁させて測定することができる。
【0059】
正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V2O5、V6O13、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウム、三元系(NCM)リチウム材料、例えば、LiNiO0.8Co0.1Mn0.1O2等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0060】
正極活物質の含有率は、正極電極用組成物の質量に対して、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、53質量%以上、又は55質量%以上であってよく、また80質量%以下、75質量%以下、又は70質量%以下であってよい。
【0061】
このように構成されるリチウムイオン電池などに好適な正極電極用組成物は、上述のグラファイト分散液を含有し、グラファイトの質量が前記正極活物質100質量部に対して0.1質量部以上6質量部以下とすることにより、活物質を均一に分布させることができ、しかも、サイクル特性、自己放電特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響が及ぼすことがなく、高効率のリチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となるリチウムイオン電池正極用分散体などに好適な正極電極用組成物が得られることとなる。
【実施例0062】
製造例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0063】
《製造例1~9:グラファイト分散液の作製》
(製造例1)
6.0質量部のグラファイト(UP-5N、日本黒鉛社製)、3.0質量部のポリビニルブチラールA(PVB-A)、及び91.0質量部の溶媒としてのNーメチル-2ーピロリドンを、高圧ホモジナイザー(分散圧力10OMPa、10Pass)により分散させることにより、実施例1のグラファイト分散液(全量:100質量%)を作製した。
【0064】
〈製造例2~9〉
製造例2では、グラファイトを別のグラファイト(CGB-6R、日本黒鉛社製)6.0質量部に代えた以外は、製造例1と同様にして、製造例2のグラファイト分散液を作製した。
製造例3~9は、PVB-Aの代わりに、同じ量の下記表1に示す各分散剤を用いたことを除き、製造例1と同様にして、製造例2~9のグラファイト分散液を作製した。
PVB-B、PVB-C、PVB-D、PVB-E、PVB-F、PVB一G:ポリビニルブチラール、VP:ポリビニルビロリドン
【0065】
なお、PVB-B、及びPVB-Fの官能基の推定割合は以下のとおりである:
PVB-B:ブチラール基83質量%、アセチル基3質量%、ビニルアルコール基14質量%のポリビニルブチラール
PVB-F:ブチラール基78質量%、アセチル基3質量%、ビニルアルコール基19質量%のポリビニルブチラール
【0066】
《分散剤の各物性の評価》
〈FT-IR強度〉
各PVBに関し、FT-IRスペクトルを測定し、3400cm-1付近、2950cm-1付近、及び1650cm-1付近のピーク強度の値を得、この値に基づき、所定の強度比を算出した。測定にはATR法を採用し、クリスタルにはダイヤモンドを用いた。
また、各PVBは測定前に露点温度マイナス30℃の環境下で3日間乾燥させた。
【0067】
〈吸光度及び粘度〉
各分散剤のN-メチルピロリドンの10質量%溶液を作製し、この溶液の320nmにおける吸光度を測定した。この際、N-メチルピロリドンの吸光度をブランクとした。
また、この溶液の粘度を、コーンプレート型粘度計を用い、剪断速度76.6/s、測定時間60sの条件で測定した。
【0068】
〈質量平均分子量〉
各分散剤の質量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。質量平均分子量は、ポリスチレンを標準ポリマーとして得た換算値により決定した。
【0069】
〈グラファイト分散液の物性の評価:粘度〉
作製した各グラファイト分散液及びこれを用いて下記実施例、比較例で得た正極電極用分散体のそれぞれに関し、レオメーター(Anton paar社 モジュラーコンパクトレオメーターMCR102、直径50mm-2°コーン)を用い、試料温度25℃において剪断速度0.1s-1及び1000s-1における粘度をそれぞれ測定した。
剪断速度0.1s-1から1000s-1まで対数傾斜により20秒で変化させ、その後、剪断速度を1000s-1から0.1s-1まで対数傾斜により20秒で変化させて、計40秒間における粘度を経時的に測定した。20秒時点の粘度を剪断速度1000s-1粘度の測定値とし、40秒時点の粘度を剪断速度0.1s-1における粘度の測定値とした。
また、経時安定性は、作製から25℃7日経過時の0.1s-1粘度、および1000s-1粘度をそれぞれ作製直後の分散体の0.1s-1粘度、および1000s-1粘度で除した数値を経時粘度比と定義し、下記評価基準で経時安定性を評価した。
評価基準:
◎:0.1s-1の経時粘度比と1000s-1の経時粘度比のいずれも0.7ないし1.3。
○:0.1s-1の経時粘度比または1000s-1の経時粘度比のいずれかが0.7未満か1.3より大きい。
△:0.1s-1経時粘度比または1000s-1経時粘度比のいずれも0.7未満か1.3より大きい。
【0070】
【0071】
上記表1中の*1~*2は、下記のとおりである。
*1:UP-5N(平均粒子径:5μm、日本黒鉛社製)
*2:CGB-6R(平均粒子径:6μm、日本黒鉛社製)
【0072】
上記表1の結果から明らかなように、製造例1~4と製造例5~9とを比較検討すると、製造例1~4のグラファイト分散液は、製造例5~9のグラファイト分散液に較べ、0.1s-1粘度/1000s-1粘度比率が低く抑えられていることから、グラファイトが均一に分散されており、かつ、経時粘度比率の上昇、下降が少なく、安定性の優れるグラファイト分散液であることが確認された。
【0073】
(実施例1~4及び比較例1~5:正極電極用組成物)
上記製造例1~9で得た各グラファイト分散液を用いて、下記表2に示す配合組成により、プラネタリーミキサーにより分散させることにより、正極電極用組成物(材料)となる正極電極用分散体を作製した。
得られた各正極電極用組成物となる正極電極用分散体について、上記グラファイト分散液の粘度測定法と同様に、0.1s-1及び1000s-1における各粘度、この粘度比率を測定した。また、下記評価法により、塗工安定性、電極シート抵抗(KΩ/□)、10C放電後容量維持率(%)、100回サイクル維持率を測定した。
これらの評価結果を下記表2に示す。
【0074】
〈塗工安定性の評価法〉
得られた正極電極用分散体を塗工幅200mmのコンマゴーターを用いアルミ箔に湿潤膜厚100μmで10m塗工した。得られた塗膜に生じた筋のうち、長さ10mm以上のものを以下の基準で評価した。筋が複数個発生した場合は、各々の合計の長さを基準とした。
評価基準:
◎:長さ10mm以上の筋が存在しなかった。
○:筋の合計長が10mm以上50mm未満であった。
△:筋の合計長が50mm以上100mm未満であった。
×:筋の合計長が100mm以上であった。
【0075】
〈電極シート抵抗〉
得られた正極電極用分散体を液膜が50μmになるようにPETフィルム(ルミラ-#100-T60、東レ社製)の片面にアプリケーターで塗布した後、室温で3 0分乾燥し、次いで80℃で5分間更に乾燥して、電極層を得た。探針間隔10mmの4探針ブローブとミリオームハイテスタ3227(日置電機社製)とからなる装置を用いて、作製した電極層のシート抵抗を測定した。
【0076】
〈10C充放電後の容量維持率〉
得られた正極電極用分散体を、塗工幅200mmのコンマゴーターを用いアルミ箔に湿潤膜厚100μmで塗工し、100℃の乾燥炉で5分乾燥させた電極を正極として、コイン二次電池を5つ作製した。このコイン二次電池を、1Cにおいて1回充放電した時の放
電容量(A)と、その次に充放電レート10CI回にて充放電したときの放電容量(B)から、式「B/A×100」によりコイン二次電池5つの平均値を求めることにより、10C充放電後の容量維持率を評価した。
【0077】
このコイン二次電池において、電解液としては、カーボネート系溶媒を用いた。セパレーターとしてはポリプロピレン製のものを用いた。対極としては金属リチウムを用いた。
〈100回サイクル維持率〉
上記と同じ条件のコイン二次電池を5つ作製し、初期の放電容量(A)と、充放電し-ト1Cにて100回の充放電を繰り返したときの100回目の放電容量(B) から、式「
B/A×100」によりコイン二次電池5つの平均値を求めることにより、100回サイクル維持率を以下の基準で評価した。
評価基準:
◎:98%以上
○:95%以上~98%未満
△:85%以上~95%未満
×:85%未満
【0078】
【0079】
上記表2の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~4のグラファイト分散液を用いた正極電極用組成物は、本発明範囲外となる比較例1~5のグラファイト分散液を用いた正極電極用組成物に較べ、塗工安定性、電極シート抵抗、容量維持率、及びサイクル維持率が良好であることが確認できた。
グラファイト分散液、それを用いた正極電極用組成物は、安定性と導電性能に優れ、特にリチウムイオン二次電池などの電極の製造に好適な正極電極用分散体(スラリー)、正極電極の製造に好適に用いることができ、長期間の繰り返し充放電に耐えうる優れた電池性能を実現することができる。