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特開2024-82109二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法
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  • 特開-二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法 図1
  • 特開-二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082109
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240612BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240612BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20240612BHJP
   B01D 53/81 20060101ALI20240612BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 100
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
B01D53/81
B01D53/96
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195837
(22)【出願日】2022-12-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/冷熱を利用した大気中二酸化炭素直接回収の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 洋
(72)【発明者】
【氏名】則永 行庸
(72)【発明者】
【氏名】平山 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヴィエット バオ クウィン
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC03
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA03
4D002CA01
4D002CA06
4D002CA07
4D002DA31
4D002DA33
4D002DA41
4D002DA45
4D002DA46
4D002DA53
4D002DA70
4D002EA07
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB03
4D002GB04
4D002GB08
4D002GB11
4D002GB20
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA17
4D020BA19
4D020BA30
4D020BB03
4D020BB07
4D020BC01
4D020BC02
4D020CA01
4D020CB01
4D020CB08
4D020CB25
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB04
4D020DB06
4D020DB07
4D020DB20
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収することができる二酸化炭素吸収剤及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、
40℃において、二酸化炭素吸収量が、0.10mol-CO/mol-N以上であり、
25℃において、二酸化炭素吸収相における水溶解量が、0.50質量%以下であり、且つ、
(1)アミンと、シリコーン及び/又はフルオロエーテルを含有する、又は
(2)アミン変性シリコーンを含有する
のいずれかを満たす、二酸化炭素吸収液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、
40℃において、二酸化炭素吸収量が、0.10mol-CO/mol-N以上であり、
25℃において、二酸化炭素吸収相における水溶解量が、0.50質量%以下であり、且つ、
(1)アミンと、シリコーン及び/又はフルオロエーテルを含有する、又は
(2)アミン変性シリコーンを含有する
のいずれかを満たす、二酸化炭素吸収液。
【請求項2】
前記二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、水相における有機物の含有量が、0.5質量%以下である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項3】
前記(1)におけるアミンが疎水性アミンである、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項4】
前記疎水性アミンの溶解度パラメータSPが10(cal/cm0.5以下である、請求項3に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項5】
前記(1)におけるシリコーンがシリコーンオイルであり、前記(2)におけるアミン変性シリコーンがアミン変性シリコーンオイルである、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項6】
前記二酸化炭素吸収液の前記アミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、前記(1)における前記アミンの含有量が1~50質量%である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項7】
前記二酸化炭素吸収液の前記アミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、前記(1)における前記シリコーンの含有量が50~99質量%である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項8】
請求項1に記載の二酸化炭素吸収液が、担体上に担持又は含浸されている、二酸化炭素吸収剤。
【請求項9】
二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、
(1)請求項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液又は請求項8に記載の二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスと接触させ、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから、二酸化炭素を選択的に吸収した二酸化炭素吸収液を得る工程、及び、
(2)前記工程(1)で得られた、二酸化炭素を選択的に吸収した二酸化炭素吸収液又は二酸化炭素吸収剤から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程
を備える、方法。
【請求項10】
前記工程(1)が、0~60℃で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(1)が、二酸化炭素分圧30~100Paの圧力下に行われる、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類の社会活動に付随する二酸化炭素やメタンといった温室効果ガス排出量の急激な増加が地球温暖化の原因の一つに挙げられている。特に、二酸化炭素は温室効果ガスの中でも最も主要なものであり、2016年に発効されたパリ協定に従い、二酸化炭素排出量削減へ向けての対策が急務となっている。
【0003】
なかでも、火力発電所等の排ガスより二酸化炭素を分離回収する際のエネルギーは大きく、省エネ化が求められている。火力発電所等の排ガスには、通常、二酸化炭素、窒素、酸素の他、多くの水蒸気も含まれている。
【0004】
二酸化炭素吸収剤は、通常、排ガスと接触した際に性能低下、分離回収エネルギーの増加等の悪影響を引き起こすことが多い。このため、近年、開発が続けられている非水系の二酸化炭素吸収液に関しては、事前に水除去が必要となり、二酸化炭素分離回収方法の煩雑化及び高コスト化を招いている。
【0005】
このため、事前の水除去を必要としない二酸化炭素吸収剤、つまり、排ガスから水の吸収量を抑え、二酸化炭素を選択的に吸収することができる二酸化炭素吸収剤が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収することができる二酸化炭素吸収剤及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、(1)アミンと、シリコーン及び/又はフルオロエーテルを含有する、又は(2)アミン変性シリコーンを含有する、のいずれかを満たしつつ、二酸化炭素溶解量及び二酸化炭素吸収相における水溶解量を所定範囲に調整することにより、上記課題を解決し、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収することができることを見出した。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき、更に十分な検討を重ねて完成されたものであり、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、
40℃において、二酸化炭素吸収量が、0.10mol-CO/mol-N以上であり、
25℃において、二酸化炭素吸収相における水溶解量が、0.50質量%以下であり、且つ、
(1)アミンと、シリコーン及び/又はフルオロエーテルを含有する、又は
(2)アミン変性シリコーンを含有する
のいずれかを満たす、二酸化炭素吸収液。
【0010】
項2.前記二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、水相における有機物の含有量が、0.5質量%以下である、項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【0011】
項3.前記(1)におけるアミンが疎水性アミンである、項1又は2に記載の二酸化炭素吸収液。
【0012】
項4.前記疎水性アミンの溶解度パラメータSPが10(cal/cm0.5以下である、項3に記載の二酸化炭素吸収液。
【0013】
項5.前記(1)におけるシリコーンがシリコーンオイルであり、前記(2)におけるアミン変性シリコーンがアミン変性シリコーンオイルである、項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0014】
項6.前記二酸化炭素吸収液の前記アミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、前記(1)における前記アミンの含有量が1~50質量%である、項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0015】
項7.前記二酸化炭素吸収液の前記アミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、前記(1)における前記シリコーンの含有量が50~99質量%である、項1~6のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【0016】
項8.項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液が、担体上に担持又は含浸されている、二酸化炭素吸収剤。
【0017】
項9.二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、
(1)項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液又は項8に記載の二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスと接触させ、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから、二酸化炭素を選択的に吸収した二酸化炭素吸収液を得る工程、及び、
(2)前記工程(1)で得られた、二酸化炭素を選択的に吸収した二酸化炭素吸収液又は二酸化炭素吸収剤から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程
を備える、方法。
【0018】
項10.前記工程(1)が、0~60℃で行われる、項9に記載の方法。
【0019】
項11.前記工程(1)が、二酸化炭素分圧30~100Paの圧力下に行われる、項9又は10に記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収することができる二酸化炭素吸収剤及びこれを用いた二酸化炭素の分離回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1~4及び比較例1~2で得られた二酸化炭素吸収液において、25℃における二酸化炭素吹き込み時間と二酸化炭素吸収量との関係を示す。
図2】実施例1~3で得られた二酸化炭素吸収液において、水で1000倍に希釈し、二酸化炭素を吸収させた前後における、二酸化炭素吸収相(上相)の水分量、並びに水相(下相)の全有機体炭素(TOC)量、無機体炭素(IC)量、全炭素(TC)量及び全窒素(TN)量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0023】
本明細書において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0024】
1.二酸化炭素吸収液
本発明の二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収するための二酸化炭素吸収液であって、
40℃において、二酸化炭素吸収量が、0.10mol-CO/mol-N以上であり、
25℃において、二酸化炭素吸収相における水溶解量が、0.5質量%以下であり、且つ、
(1)アミンと、シリコーン及び/又はフルオロエーテルを含有する、又は
(2)アミン変性シリコーンを含有する
のいずれかを満たす。
【0025】
(1-1)アミン
本発明で使用されるアミンとしては、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、疎水性アミンが好ましい。
【0026】
本発明で使用されるアミンは、溶解度パラメータSPが、10(cal/cm0.5以下が好ましい。後述するシリコーン(特にシリコーンオイル)が、溶解度パラメータSPが10(cal/cm0.5以下である溶媒と相溶性が高いことからも、アミンの溶解度パラメータSPは、10(cal/cm0.5以下が好ましい。一方、溶解度パラメータSPが、水の値に近い化合物は、水との相溶性が高い。水の溶解度パラメータSPは29.7(cal/cm0.5と推算されるため、水吸収量を極力小さくするためには、使用されるアミンの溶解度パラメータSPは低ければ低いほど好ましい。このため、本発明で使用されるアミンは、溶解度パラメータSPは、10(cal/cm0.5以下が好ましく、5~9(cal/cm0.5がより好ましい。なお、溶解度パラメータSPは、Fedors法により算出する。
【0027】
本発明で使用されるアミンは、上記した溶解度パラメータSPの観点や、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、第二級アミン及び/又は第三級アミンが好ましく、なかでも、炭素数が5以上、好ましくは7~30、より好ましくは9~25である第二級アミン及び/又は第三級アミンがより好ましい。
【0028】
上記のような条件を満たすアミンとしては、具体的には、ジアミルアミン、ジイソアミルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリアミルアミン、トリイソアミルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン等が挙げられる。なかでも、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、ジアミルアミン、トリアミルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン等が好ましい。
【0029】
以上のアミンは、公知又は市販品を用いることができる。また、これらのアミンは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0030】
本発明の二酸化炭素吸収液において、上記(1)を満たす場合、上記したアミンの含有量は、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、二酸化炭素吸収液のアミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。
【0031】
(1-2)シリコーン
シリコーンとしては、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、液体状のシリコーンが好ましく、シリコーンオイルがより好ましい。
【0032】
シリコーンとしては、例えば、国際公開第2011/080838号、特開2015-054279号公報等に記載の化合物を使用することができる。
【0033】
シリコーンとしては、特に制限されず、親水性オイル型、シリコーンに溶剤を加えた溶剤型、エマルジョン型、粉末型、自己乳化型等の様々なシリコーンオイルを使用することができ、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、エマルジョン型、親水性オイル型、自己乳化型のシリコーンオイルが好ましい。
【0034】
本発明の二酸化炭素吸収液はアミンを含んでいるため、シリコーンとしては、アルカリ溶液に添加してもエマルジョン状態を維持できた上で、再生塔で加熱することを考慮し、耐熱性を一定程度有するものが好ましい。
【0035】
このような条件を満たすシリコーンとしては、具体的には、信越化学工業(株)製のKF96、KS604、同KS537、同KS538、ダウ・東レ(株)製のFS544等が挙げられる。
【0036】
以上のシリコーンは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0037】
本発明の二酸化炭素吸収液において、上記(1)を満たす場合、上記したシリコーンの含有量は、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、二酸化炭素吸収液のアミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がさらに好ましい。なお、シリコーンの他、後述のフルオロエーテルも含む場合は、その合計量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0038】
(1-3)フルオロエーテル
フルオロエーテルとしては、フッ素原子を有するエーテルであれば特に限定されず、エーテルを構成する炭素原子の結合部位の全てがフッ素原子で置換されていてもよく、部分的にフッ素原子に置換されていてもよい。フッ素原子に置換されていない炭素原子の他の結合部位は、水素原子で占められていることが好ましい。
【0039】
さらに、フルオロエーテルには基本的に水が含まれないため、水吸収量を低くしやすい。
【0040】
フルオロエーテルとしては、フッ素原子を有していてもよいアルキル基が酸素原子を介して結合しているものが好ましい。すなわち、フルオロエーテルとしては、式(1):
2n+1-x-O-C2m+1-y (1)
[式中、n、m、x及びyは0以上の整数を示す。ただし、2n+1-x≧0、2m+1-y≧0を示し、x及びyの少なくとも1つは1以上の整数である。]
で表される化合物が好ましい。
【0041】
フルオロエーテルは、液体としやすく、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、炭素数は2~10が好ましく、3~8がより好ましい。すなわち、フルオロエーテルの酸素原子に結合した2つのアルキル基は、炭素数の合計、つまり、n+mが2~10であることが好ましく、3~8がより好ましい。
【0042】
フルオロエーテルは、液体としやすく、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、沸点は40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。
【0043】
フルオロエーテルは、液体としやすく、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、炭素原子の結合部位(ただし、酸素に結合している部位は除く)の半分以上がフッ素原子に置換されていることが好ましい。すなわち、前記式(1)において、炭素原子の結合部位(ただし、酸素に結合している部位は除く)は(2n+1)+(2m+1)=2(n+m+1)個あるが、そのうちの半分以上、すなわちn+m+1個以上がフッ素原子に置換されていることが好ましく、従って、x+y≧n+m+1であることが好ましい。
【0044】
このようなフルオロエーテルとしては、具体的には、CFCHOCHCF等が挙げられる。
【0045】
以上のフルオロエーテルは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0046】
本発明の二酸化炭素吸収液において、上記(1)を満たす場合、上記したフルオロエーテルの含有量は、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、二酸化炭素吸収液のアミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がさらに好ましい。なお、フルオロエーテルの他、上記したシリコーンも含む場合は、その合計量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0047】
(1-4)アミン変性シリコーン
アミン変性シリコーンは、アミノ基を持つ誘導体で変性されたオルガノポリシロキサンを意味する。
【0048】
アミン変性シリコーンのアミノ当量は、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすく、取扱性にも優れる観点から、100~10000g/molが好ましく、1200~4000g/molがより好ましい。アミノ当量は、アミン変性シリコーンの重量平均分子量を当該アミン変性シリコーンに含まれる窒素原子数で割ることにより求める。窒素原子数は元素分析により求める。
【0049】
市場で入手可能なアミン変性シリコーンの具体例としては、ダウ・東レ(株)製のSS-3551、同FZ-3705、同FZ-319、信越化学工業(株)製のKF857、同KF858、同KF859、同KF862、同KF8001、同KF880、同KF-864等が挙げられる。
【0050】
以上のアミン変性シリコーンは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0051】
本発明の二酸化炭素吸収液において、上記(2)を満たす場合、上記したアミン変性シリコーンの含有量は、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、二酸化炭素吸収液のアミン、シリコーン、フルオロエーテル及びアミン変性シリコーンの総量を100質量%として、50~100質量%が好ましく、80~100質量%がさらに好ましい。
【0052】
(1-5)その他成分
本発明の二酸化炭素吸収液には、上記したアミンや、シリコーン、フルオロエーテル、アミン変性シリコーン等の他にも、酸化防止剤等の副反応抑制剤;腐食防止剤等の劣化防止剤等の各種成分を含ませることも可能である。
【0053】
酸化防止剤等の副反応抑制剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0054】
腐食防止剤等の劣化防止剤としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ホスホノプロパン-2,3-ジカルボン酸、ホスホノスクシン酸、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、マレイン酸系重合体(マレイン酸及びアミレンの共重合体;マレイン酸、アクリル酸及びスチレンの三元共重合体等)等が挙げられる。
【0055】
これらの各種成分は、本発明の効果を損なわない範囲で含ませることができ、例えば、二酸化炭素吸収液の総量を100質量%として、0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%含ませることができる。
【0056】
(1-6)二酸化炭素吸収液及び二酸化炭素吸収剤
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は、そのまま使用することもできる。
【0057】
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液をそのまま使用する場合、通常、相分離は起こらず、全体を二酸化炭素吸収相とすることができる。また、アミン変性シリコーンを使用する場合も、通常、相分離は起こらず、全体を二酸化炭素吸収相とすることができる。一方、本発明の二酸化炭素吸収液(アミンと、シリコーン及び/又はフルオロエーテルを使用する場合)を二酸化炭素と接触させた後は、通常、水をほとんど含まず二酸化炭素を吸収しやすい上相(二酸化炭素吸収相)と、水を多く含む下相(水相)とに相分離することが多い。
【0058】
なお、後述する各種物性は、いずれも、本発明の二酸化炭素吸収液と、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスとを接触させる前の物性である。
【0059】
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は40℃において、二酸化炭素吸収量は、0.10mol-CO/mol-N以上、好ましくは0.20mol-CO/mol-N以上、より好ましくは0.23mol-CO/mol-N以上である。二酸化炭素吸収量が0.10mol-CO/mol-N未満では、二酸化炭素吸収量は十分ではなく、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収できるとは言えない。なお、本発明の二酸化炭素吸収液の40℃における二酸化炭素吸収量は、多ければ多いほどよく、上限値は特段設定されないが、通常、1.0mol-CO/mol-N程度である。また、本発明の二酸化炭素吸収液の二酸化炭素吸収量は、40℃において、窒素ガス80体積%及び二酸化炭素ガス20体積%の混合ガスを流量1L/分で吹き込んだ後の二酸化炭素吸収量を、出口ガスの二酸化炭素濃度変化の積算から算出する。
【0060】
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は25℃において、二酸化炭素吸収相における水溶解量は、0.50質量%以下、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下である。水溶解量が0.50質量%をこえると、水の吸収量が多く、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから二酸化炭素を選択的に分離回収できるとは言えない。なお、本発明の二酸化炭素吸収液の25℃における水溶解量は、少なければ少ないほどよく、下限値は特段設定されないが、通常、0.001質量%程度である。なお、水溶解量は、25℃で、1:1の質量比で水と激しく攪拌し、静置した後に、相分離した上相(二酸化炭素吸収相)中の水溶解量を測定する。
【0061】
以上のような各成分を含有する本発明の二酸化炭素吸収液は25℃において、水相における全有機体炭素(TOC;Total Organic Carbon)量は、特に制限されるわけではないが、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、0~7.0mg/Lが好ましく、0.1~5.5mg/Lがより好ましい。なお、本発明の二酸化炭素吸収液が二酸化炭素と接触する前(相分離する前)は、「水相における全有機体炭素(TOC;Total Organic Carbon)量」は、「全体の全有機体炭素(TOC;Total Organic Carbon)量」と読み替えることができる。
【0062】
なお、本発明の二酸化炭素吸収液は、そのまま使用することもできるが、常法で担体に担持又は含浸させ、固体の二酸化炭素吸収剤として使用することも可能である。この場合、使用できる担体としては、特に制限はなく、例えば、活性炭、ゼオライト、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。
【0063】
本発明の二酸化炭素吸収液が、二酸化炭素を選択的に吸収する対象となる「二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガス」としては、大気の他にも、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、セメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鉄転炉、石炭ガス化複合発電設備、タンカー等からの排ガス、採掘時天然ガス、改質ガス等も使用できる。
【0064】
このような被分離ガス中の二酸化炭素濃度は、体積濃度で通常0.01~50体積%程度、特に0.04~20体積%程度とすることができる。また、被分離ガス中の水蒸気濃度は、体積濃度で通常0.01~20体積%程度、特に0.5~10体積%程度とすることができる。このような二酸化炭素濃度及び水蒸気濃度範囲では、本発明の作用効果が特に好適に発揮され得る。
【0065】
なお、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスには、二酸化炭素及び水蒸気以外にも、N、CO、HS、COS、SO、NO、CH、水素等のガスが含まれていてもよい。
【0066】
2.二酸化炭素の分離回収方法
本発明の二酸化炭素吸収液による二酸化炭素の分離回収方法は、特に制限されるわけではないが、
(1)本発明の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスと接触させ、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスから、二酸化炭素を選択的に吸収した二酸化炭素吸収液を得る工程、及び、
(2)前記工程(1)で得られた、二酸化炭素を選択的に吸収した二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程
により行うことができる。
【0067】
(2-1)工程(1)
工程(1)では、本発明の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスと接触させることで、該二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガス中の二酸化炭素を本発明の二酸化炭素吸収液に吸収させて、二酸化炭素を選択的に分離する。
【0068】
工程(1)における、本発明の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスと接触させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、本発明の二酸化炭素吸収液中に二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスをバブリングさせる方法、二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガス中に本発明の二酸化炭素吸収液を霧状に降らす方法(噴霧乃至スプレー方式)、磁製や金属網製の充填材が入った吸収塔内で高圧の二酸化炭素及び水蒸気を含有する被分離ガスと本発明の二酸化炭素吸収液とを向流接触させる方法等が挙げられる。
【0069】
工程(1)における温度は、0~60℃、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃とすることができる。この範囲であれば、二酸化炭素吸収量を向上させやすい。
【0070】
工程(1)における圧力は、大気中の二酸化炭素分圧と同程度とすることを想定する場合は、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、例えば、30~100Pa、好ましくは32~80Pa、より好ましくは35~60Paとすることができる。工程(1)における圧力は、燃焼排ガス中の二酸化炭素分圧と同程度とすることを想定する場合は、水吸収量を低くしやすく、二酸化炭素吸収量を向上させやすい観点から、例えば、1~100kPa、好ましくは2~50kPa、より好ましくは3~20kPaとすることができる。
【0071】
(2-2)工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた、二酸化炭素を選択的に吸収した本発明の二酸化炭素吸収液から、減圧下に二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する。
【0072】
工程(2)の二酸化炭素を脱離して放散させる方法は、特に限定されるものではない。
【0073】
例えば、分離された二酸化炭素を昇華(固化)させる二酸化炭素昇華器により、分離した二酸化炭素を、冷熱を有する流体を利用した冷媒等による冷却によって昇華(固化)させて回収することもできるし、加熱し、温度差を用いて二酸化炭素を分離回収することも可能である。
【0074】
本発明の二酸化炭素吸収液による二酸化炭素の分離回収方法により分離回収された二酸化炭素は、通常95~100%の体積濃度を持ち、純粋で、あるいは非常に高濃度であり得る。該分離回収された二酸化炭素の利用用途は、特に限定されるものではない。例えば、化成品等の合成原料、或いは食品冷凍用の冷剤等が挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。但し、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0076】
試薬
実施例及び比較例で使用した試薬を以下に示す。
アミン(1):モノエタノールアミン(MEA;SP14.2(cal/cm0.5
アミン(2):ジイソアミルアミン(DIAA;SP8.0(cal/cm0.5
アミン(3):ジアミルアミン(DAA;SP8.3(cal/cm0.5
アミン(4):ジシクロヘキシルアミン(DCHA;SP9.0(cal/cm0.5
シリコーンオイル(1):信越化学工業(株)製のKF96
アミン変性シリコーンオイル(1):信越化学工業(株)製のKF859。
【0077】
比較例1
アミン(1)(MEA)10質量%と、シリコーンオイル(1)(KF96)90質量%とを混合し、比較例1の二酸化炭素吸収液を得た。ただし、比較例1では、各成分は混ざらなかったため、以降の試験は行えなかった。
【0078】
実施例1
アミン(2)(DIAA)10質量%と、シリコーンオイル(1)(KF96)90質量%とを混合し、実施例1の二酸化炭素吸収液を得た。
【0079】
実施例2
アミン(3)(DAA)10質量%と、シリコーンオイル(1)(KF96)90質量%とを混合し、実施例2の二酸化炭素吸収液を得た。
【0080】
実施例3
アミン(4)(DCHA)10質量%と、シリコーンオイル(1)(KF96)90質量%とを混合し、実施例3の二酸化炭素吸収液を得た。
【0081】
実施例4
アミン変性シリコーンオイル(1)(KF859)を、そのまま実施例4の二酸化炭素吸収液とした。
【0082】
試験例1:二酸化炭素吸収量(その1)
実施例1~4及び比較例1~2で得られた二酸化炭素吸収液について、密閉空間において、40℃において、窒素ガス80体積%及び二酸化炭素ガス20体積%の混合ガスを流量1L/分で2000秒間吹き込んだ後の二酸化炭素吸収量を測定した。測定は、出口ガスの二酸化炭素濃度変化の積算から、二酸化炭素吸収液への二酸化炭素吸収量を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
試験例2:水溶解量(その1)
実施例1~4及び比較例1~2で得られた二酸化炭素吸収液(上記試験例1において、二酸化炭素と接触前の吸収液と、二酸化炭素と接触後の吸収液)について、密閉空間において、25℃で、1:1の質量比で水と激しく攪拌し、静置した。その後、相分離した上層(二酸化炭素吸収相)中の水溶解量を測定した。測定は、カールフィッシャ水分計により行った。結果を表1に示す。ただし、比較例2では、二酸化炭素吸収時に析出したので、測定できなかった。また、実施例4では、水と攪拌して懸濁・分離しなかったために測定していないものの、水をほとんど溶解していない。
【0084】
【表1】
【0085】
試験例3:二酸化炭素吸収速度
実施例1~4で得られた二酸化炭素吸収液について、密閉空間において、窒素ガス80体積%及び二酸化炭素ガス20体積%の混合ガス1L/分を40℃で5000秒間吹き込んだ際の二酸化炭素吸収量の経時変化を測定した。出口ガスの二酸化炭素濃度変化から吸収液への二酸化炭素吸収量を算出した。結果を図1に示す。なお、図1において、delta tはデータ収集の間隔、α-MAXは時間を無限に外挿した二酸化炭素溶解量、時定数kは吸収速度のパラメータ(小さいほど吸収速度が速い)を意味する。
【0086】
試験例4:炭素量
実施例1~3で得られた二酸化炭素吸収液について、密閉空間において、1:1の質量比で水と激しく攪拌し、静置した。その後、相分離した上相(二酸化炭素吸収層)の水吸収量をKF水分計で測定し、また、下相(水相)中の炭素量(全有機体炭素TOC、全炭素TC、無機体炭素IC及び全窒素TN)を全有機体炭素(TOC・TN)計で測定した。結果を図2に示す。
図1
図2