(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082110
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】浸水監視ユニット
(51)【国際特許分類】
G01F 23/62 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
G01F23/62 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195839
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 浩之
(72)【発明者】
【氏名】門脇 昌作
【テーマコード(参考)】
2F013
【Fターム(参考)】
2F013AA04
2F013AB04
2F013BC01
2F013CA18
2F013CB10
(57)【要約】
【課題】フロートが支持部材に対して固着し、フロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能なフロート式の浸水監視ユニットを提供する。
【解決手段】浸水監視ユニット10は、災害が発生した際に、住宅Hの周囲を覆う濁水Mによる浸水を監視するために用いられる。浸水監視ユニット10は、濁水Mによる浮力を得て浮上するフロート14と、フロート14の浮上を検知して水位検知信号を出力する水位検知スイッチと、住宅Hの所定の高さに固定され、フロート14及び水位検知スイッチを支持する固定軸13と、を有する浸水センサ12と、フロート14を、支持部材13に対して変位するように振動させる回転体15と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害が発生した際に、建築物の周囲を覆う濁水による浸水を監視するために前記建築物に取り付けられる浸水監視ユニットであって、
前記濁水による浮力を得て浮上するフロートと、
該フロートの浮上を検知して水位検知信号を出力する水位検知スイッチと、
前記建築物の所定の高さに固定され、前記フロート及び前記水位検知スイッチを支持する支持部材と、を有する浸水センサと、
前記フロートを、前記支持部材に対して変位するように振動させる振動付与手段と、を備えることを特徴とする浸水監視ユニット。
【請求項2】
前記振動付与手段は、前記建築物の周囲の雨水又は風によって変位可能な可動体を有し、
前記可動体は前記フロートと当接可能であって、前記フロートを、前記支持部材に対して変位するように振動させることを特徴とする請求項1に記載の浸水監視ユニット。
【請求項3】
前記振動付与手段は、前記建築物の周囲の風を、前記フロートに向けて下方から上方に導く導風路を有することを特徴とする請求項1に記載の浸水監視ユニット。
【請求項4】
前記浸水監視ユニットは、
前記浸水センサを覆う中空のケース体と、
前記濁水に含まれる土粒子が前記ケース体の内部へ流入することを抑制する流入抑制手段と、を備え、
前記フロートより下方に位置する前記ケース体の底部には開口が形成されており、
前記流入抑制手段は、前記開口から前記土粒子が流入することを抑制することを特徴とする請求項1に記載の浸水監視ユニット。
【請求項5】
前記流入抑制手段は、前記土粒子の通過を抑制する濾材を有し、
前記濾材は、前記開口を覆うように前記ケース体に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の浸水監視ユニット。
【請求項6】
前記流入抑制手段は、
精製された流体であって、前記ケース体に収容された精製液と、
該精製液の流出を阻止するとともに前記濁水の浸入を抑制する逆止弁と、を有することを特徴とする請求項4に記載の浸水監視ユニット。
【請求項7】
前記流入抑制手段は、前記濁水が流入する流入口と、前記開口と接続する接続口と、が形成された導水路を有し、
前記導水路は、前記流入口と前記接続口の間に屈曲部を有し、
該屈曲部は、前記接続口における前記濁水の流速を、前記流入口における前記濁水の流速よりも減速させることを特徴とする請求項4に記載の浸水監視ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水監視ユニットに係り、特に建築物に取り付けられる浸水監視ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震及び異常気象を含む自然災害に対する危機意識が高まっている。特に、河川の上流から下流にかけて、広範囲にわたって発生する浸水被害に関する防災対策の必要性が注目されている。
これにともない、被災地域における被害状況を迅速に把握することが可能な浸水監視システムの構築が進められている。具体的には、大雨による河川の氾濫の際に発生する浸水被害に関して、センサを用いて状況をデータ化し、遠隔地において集中的に監視し、被災状況の評価を行うためのシステムが提案されている。
【0003】
特許文献1には、住宅の外壁に取り付けられた水位センサと、警報装置と、システム制御手段と、を備えた洪水発生警報システムが記載されている。具体的には、大雨や河川の氾濫によって浸水が発生すると、住宅の所定の高さに取り付けられた水位センサによって浸水の発生が検出されて、洪水発生信号が出力される。また、システム制御手段は、洪水発生信号を集中監視し、洪水レベルを判定し、注意信号を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された洪水発生警報システムによって、被災地における被害状況の監視を効率的に行うことができる。ここで、水位センサは、浸水の発生を的確に検出するという重要な役割を担う。しかしながら、水位センサは、屋外に設置されるため、外界の影響によって経年劣化し、浸水の発生を的確に検出するという本来の役割を果たすことができない虞があった。以下では、フロート式水位センサの劣化問題について具体的に説明する。
【0006】
フロート式水位センサは、外壁の所定の高さ(例えば床面の高さ)に固定された固定軸部材(支持部材)と、固定軸部材によって支持されるとともに、水の浮力によって浮上する環状のフロートと、から構成されている。固定軸部材は、磁界を検知して検知信号を出力するリードスイッチを内蔵している。一方、フロートは、磁界を発生するマグネットを内蔵している。
浸水が発生すると、フロートは、被災地の周辺を覆う濁水の浮力によって浮上する。このとき、リードスイッチは、フロートに内蔵されたマグネットによる磁界の変化を検知する。これによって、フロート式水位センサは、建物が浸水したことを検出し、浸水検知信号を出力することができる。
【0007】
ところが、フロートと固定軸部材の間の空隙にゴミ、塵埃、花粉等が蓄積するとともに、外界の熱又は放射線等の影響によってフロート又は固定軸部材が腐食することで、フロートが固定軸部材に対して固着し、浸水が発生してもフロートが円滑に浮上しない場合があった。このとき、浸水が発生しても浸水検知信号は出力されない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、フロートが支持部材に対して固着し、フロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能なフロート式の浸水監視ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明の浸水監視ユニットによれば、災害が発生した際に、建築物の周囲を覆う濁水の水位を監視するために前記建築物に取り付けられる浸水監視ユニットであって、前記濁水による浮力を得て浮上するフロートと、該フロートの浮上を検知して水位検知信号を出力する水位検知スイッチと、前記建築物の所定の高さに固定され、前記フロート及び前記水位検知スイッチを支持する支持部材と、を有する浸水センサと、前記フロートを、前記支持部材に対して変位するように振動させる振動付与手段と、を備えることにより解決される。
【0010】
上記構成によれば、振動付与手段は、フロートを、支持部材に対して変位するように振動させる。これにより、長期間にわたってフロートと支持部材が一定の位置関係に維持されることが防止される。そのため、フロートが支持部に対して固着し、フロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
【0011】
また、前記振動付与手段は、前記建築物の周囲の雨水又は風によって変位可能な可動体を有し、前記可動体は前記フロートと当接可能であって、前記フロートが前記支持部材に対して変位するように前記フロートを振動させるとよい。
上記構成によれば、建築物の周囲の雨水又は風によってフロートを振動させることができる。そのため、フロートを振動させるための駆動源が必要ないため、簡素な構成で、フロートが支持部に対して固着することを抑制することが可能となる。
【0012】
また、前記振動付与手段は、前記建築物の周囲の風を、前記フロートに向けて下方から上方に導く導風路を有するとよい。
上記構成によれば、建築物の周囲の風をフロートに導くことによってフロートを上方に吹き上げることができる。そのため、フロートを振動させるための駆動源が必要ないため、簡素な構成で、フロートが支持部に対して固着することを抑制することが可能となる。
【0013】
また、前記水位監視ユニットは、前記浸水センサを覆う中空のケース体と、前記濁水に含まれる土粒子が前記ケース体の内部へ流入することを抑制する流入抑制手段と、を備え、前記フロートより下方に位置する前記ケース体の底部には開口が形成されており、前記流入抑制手段は、前記開口から前記土粒子が流入することを抑制するとよい。
上記構成によれば、濁水に含まれる土粒子は、フロートよりも下方に位置する開口からケース体の内部に流入する。ここで、濁水に含まれる土粒子は、水よりも比重が大きいため、水中で沈降する性質を有している。これにより、土粒子は、流入抑制手段によってケース体の内部への流入が抑制されるとともに、仮に流入した場合であっても、フロートよりも下方に沈降する。そのため、土粒子がフロートと支持部材の間の空隙に蓄積し、フロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
【0014】
また、前記流入抑制手段は、前記土粒子の通過を抑制する濾材を有し、前記濾材は、前記開口を覆うように前記ケース体に設けられているとよい。
上記構成によれば、濾材によって濁水に含まれる土粒子がケース体の内部に流入することを抑制することができる。そのため、簡素な構成で、フロートの円滑な変位が阻害されることを抑制することが可能となる。
【0015】
また、前記流入抑制手段は、精製された流体であって、前記ケース体に収容された精製液と、該精製液の流出を阻止するとともに前記濁水の浸入を抑制する逆止弁と、を有するとよい。
上記構成によれば、逆止弁は、ケース体の内部に収容された精製液によって閉鎖状態に維持されて、濁水の浸入を抑制する。そして、ケース体の内部へ浸入しようとするの濁水の圧力が、精製液によるケース体の内圧よりも大きくなった際に、逆止弁が開放されて濁水の浸入が可能となる。これにより、水位の上昇(浸水の有無)を検出することができるとともに、精製液によってケース体の内部に流入する土粒子の濃度を低減することができるため、濁水に含まれる土粒子によってフロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
【0016】
また、前記流入抑制手段は、前記濁水が流入する流入口と、前記開口と接続する接続口と、が形成された導水路を有し、前記導水路は、前記流入口と前記接続口の間に屈曲部を有し、該屈曲部は、前記接続口における前記濁水の流速を、前記流入口における前記濁水の流速よりも減速させるとよい。
上記構成によれば、流入口から導水路に浸入した濁水を、屈曲部によって減速させることができる。これにより、濁水に含まれる土粒子は、導水路の途中で沈降し、ケース体の内部に流入することが抑制される。そのため、濁水に含まれる土粒子によってフロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フロートが支持部材に対して固着し、フロートの円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能なフロート式の浸水監視ユニットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る浸水監視ユニットを設置した住宅の斜視図である。
【
図2】浸水監視ユニットの内部を透視した斜視図である。
【
図3】浸水監視ユニットの動作を説明するための模式図である。
【
図4】変形例に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【
図5】第二変形例に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【
図6】第三変形例に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【
図7】第二実施形態に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【
図8】第二実施形態の変形例に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【
図9】第三実施形態に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【
図10】第三実施形態の変形例に係る浸水監視ユニットを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1~
図3を参照しながら、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係る浸水監視ユニット10について説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。つまり、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【0020】
本発明の浸水監視ユニット10は、建築物に取り付けられて、災害(大雨や河川の氾濫等)が発生した際に建物等の周囲を覆う濁水Mによる浸水を監視するために用いられる。また、本発明の浸水監視ユニット10を用いることにより、浸水センサ12を構成するフロート14が固定軸13に固着し、フロート14の円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
【0021】
以下の説明中、「濁水」とは、災害(大雨や河川の氾濫等)の発生時において、被災地域の建築物(住宅、商業施設、工場等)の周囲を覆い、土粒子を含有する濁り水である。濁水は、建築物の全周を覆うように建築物を浸水する濁り水に限定されることなく、部分的に建築物の周辺に滞留する濁り水が含まれる。
「土粒子」とは、土壌中に存在し、粒径が1μm以上の無機粒子である。「土粒子」には、礫、粗砂、細砂、及びシルトが含まれる。
「精製液」とは、不純物の除去等、所定の精製処理が施された液体である。また、「精製液」は、液体中に微生物や細菌等が発生することによる腐敗を抑制することが可能な液体である。「精製液」には、純水、及びオイルが含まれる。
【0022】
<<浸水監視ユニット10の概要>>
図1は、住宅Hに対する浸水監視ユニット10の設置例を示している。
図1に示すように、浸水監視ユニット10は、住宅Hの外壁、又は基礎に設置することができる。後述するように、浸水監視ユニット10は、浸水の発生を監視することができる。具体的に説明すると、住宅Hの床面より高い外壁に浸水監視ユニット10を設置することにより、床上浸水の監視が可能となる。また、住宅Hの床面より低い基礎に浸水監視ユニット10を設置することにより、床下浸水の監視が可能となる。
【0023】
また、浸水監視ユニット10は、遠隔において被災状況を集中監視する災害監視サーバ(不図示)に対して、電気通信回線を介して浸水情報を出力することができる。災害監視サーバは、近隣地域の建築物(住宅、商業施設、工場等)に設置された浸水監視ユニット10から浸水情報を取得することにより、大雨、又は河川の氾濫等による浸水が発生した際に、被災地の浸水状況を集中監視する役割を担う。また、浸水監視ユニット10とともに加速度センサ(不図示)が設置されて、地震の被害状況を監視することとしてもよい。
【0024】
<<浸水監視ユニット10>>
図2は、浸水監視ユニット10を住宅Hの外壁に取り付けた状態の斜視図を示している。
図3は、浸水監視ユニット10の動作を説明するための模式図である。
図2及び
図3に示すように浸水監視ユニット10は、ケース体11と、ケース体11に覆われた浸水センサ12と、浸水センサ12のフロート14を振動させる回転体15と、ケース体11の底部に固定されたフィルタ16と、を有している。
【0025】
ケース体11は、前面11aと、左右の側面11bと、上面11cと、を有する中空体であって、浸水センサ12と、回転体15と、を収容している。ケース体11は、固定金具(不図示)を介して住宅Hの外壁又は基礎に対して固定される。
【0026】
ケース体11の前面11aには、回転体15が挿通する回転体開口11dが形成されている。換言すると、回転体開口11dは、回転体15が回転可能な寸法及び形状を有している。
一方、ケース体11の底面は、底部開口11eが形成されている。底部開口11eは、浸水センサ12よりも下方に位置し、フィルタ16によって覆われている。フィルタ16は、濁水Mの浸入を可能としつつ、濁水Mが含有する土粒子Pの流入を抑制している。フィルタ16の詳細については後述する。
【0027】
浸水センサ12は、フロート式の水位センサである。浸水センサ12は、固定軸13と、フロート14と、を含む公知の構成を有している。浸水センサ12は、浮力によってフロート14が浮上すると、フロート14に内蔵されたマグネットの磁界を、固定軸13に内蔵されたリードスイッチが検知することによって浸水の発生を検出する。
【0028】
固定軸13は、上下に延びる長尺の軸体である。固定軸13は、上端部においてねじ切り加工が施されており、締結部材13aと螺合することによってケース体11に固定されている。換言すると、固定軸13は、ケース体11を介して住宅Hの所定の高さに固定されている。
固定軸13は、中空の円筒形状を有するフロート14の中心を貫通して上下に延びている。より詳細に説明すると、固定軸13の上方位置には上ストッパ13bが、下方位置には下ストッパ13cが取り付けられている。そして、上ストッパ13bと下ストッパ13cの間にフロート14が介在するように固定軸13がフロート14を貫通している。上ストッパ13bは、フロート14が浮上した際に、その上限位置を規制するとともに、固定軸13を締結部材13aとともにケース体11に固定している。一方、下ストッパ13cは、フロート14が降下した際に、フロート14を下方から支持する。
【0029】
固定軸13には、リードスイッチ(不図示)が内蔵されている。換言すると、固定軸13は、その内部においてリードスイッチを支持している。リードスイッチは、磁界によって作動する磁気スイッチである。
【0030】
フロート14は、住宅Hが浸水した際に、濁水Mによる浮力を得て浮上する浮き体である。フロート14は、その内部に発泡体が形成された発泡性樹脂成形体であるが、これに限定されない。フロート14は、コルク製であってもよいし、木製であってもよい。その場合、フロート14は、防水処理が施されると好適である。また、フロート14は、ヘリウム等の気体が封入された中空の金属成形体であってもよい。
軸体である固定軸13と、円環形状を有するフロート14の間には、空隙Gが形成されている。換言すると、固定軸13の軸径は、フロート14の内径よりも小さい寸法を有している。空隙Gの寸法は、0.5mm以下であるが、これに限定されない。固定軸13とフロート14の間に空隙Gが形成されていることにより、フロート14は、円滑に浮上することが可能となる。
【0031】
フロート14の内部には、マグネット(不図示)が内蔵されている。マグネットは、磁界を生成する永久磁石であって、フェライト磁石であるが、これに限定されない。マグネットは、サマリウムコバルト磁石(サマコバ磁石)であってもよい。
【0032】
次に、浸水センサ12の動作について説明する。
住宅Hの周辺地域において、災害(大雨、又は河川の氾濫等)が発生すると、住宅Hの周囲は濁水Mによって覆われる。住宅Hの外壁に取り付けられた浸水監視ユニット10は、濁水Mの水位が上昇すると、浸水する。そして、下ストッパ13cによって下方から支持されていたフロート14は、濁水Mによる浮力を得て浮上する。このとき、固定軸13に内蔵されたリードスイッチは、フロート14に内蔵されたマグネットの磁界によってフロート14の浮上を検知して、水位検知信号を出力する。水位検知信号は、出力ケーブル17を介して出力される。以上が浸水発生時の浸水センサ12の動作である。
リードスイッチは水位検知スイッチに、固定軸13は支持部材に相当する。
【0033】
次に、浸水センサ12の固着現象について説明する。上述したように、浸水監視ユニット10は、住宅Hの屋外に取り付けられる。そのため、固定軸13とフロート14には、大気中のごみ、塵埃、花粉等が付着するとともに、外界の熱又は放射線等の影響を受ける。これにより、下ストッパ13cの上面とフロート14の下面が接合した状態で固着し、フロート14が浮力を得ても、下ストッパ13cの上面から離隔して浮上することができない場合があった。これを固着現象と称する。固着現象が発生すると、災害によって住宅Hの周囲が濁水Mによって覆われても、水位検知信号は出力されないこととなる。
【0034】
そこで、上述した固着現象を防止し、浸水の発生時に的確に水位検知信号を出力することを可能とするために、浸水監視ユニット10は、フロート14が固定軸13に対して変位するようにフロート14を振動させる回転体15を備えている。ここで、「振動させる」とは、周期性の有無にかかわらず、フロート14が固定軸13に対して揺れ動くように変位させることを含む。また、変位幅、及び変位の周期が一定であるか否かを問わない。
回転体15は、振動付与手段に相当する。
【0035】
回転体15は、住宅Hの周囲の雨水又は風によって回転する可動体である。より詳細には、
図2及び
図3に示すように、回転体15は、ケース体11の回転体開口11dからケース体11の外部に突出する回転羽根15aと、回転軸15bと、を有し、回転軸15bによって回転可能にケース体11に支持されている。
回転羽根15aは、回転軸15bから半径方向に延出する面状体であって、ケース体11の周囲の雨水又は風を受け止め、回転エネルギーを生成する。また、回転羽根15aは、フロート14の下端と当接可能である。これにより、回転体15が回転すると、回転羽根15aの先端がフロート14の下端を固定軸13に対して上方に変位するように振動させる。そのため、固定軸13の下ストッパ13cの上面とフロート14の下面とが互いに接触した状態を維持し、互いに固着することを防止することが可能となる。
【0036】
回転体15の数及び配置は、
図2及び
図3に図示されるものに限定されない。浸水監視ユニット10は、2以上の回転体15を備え、各回転体15は、ケース体11の前面11a又は左右の側面11bから突出するように配設されることしてもよい。これにより、住宅Hの周囲において様々な風向きを有する風によって回転体15が回転し、フロート14を振動させることが可能となる。
また、回転体15の代わりに、揺動片が採用されてもよい。詳細には、揺動片がケース体11の周囲の風を受けるとともに、風力エネルギーを揺動片の回転エネルギーに変換することで、フロート14を振動させてもよい。これにより、回転体15よりも簡素な構成でフロート14を振動させて、フロート14が下ストッパ13cの上面に固着することを防止することが可能となる。
【0037】
また、
図3に示すように、ケース体11の底部には、底部開口11eを覆うようにシート状のフィルタ16が取り付けられている。フィルタ16は、1μmの直径を有する開口が規則的に配列されたシート状物である。換言すると、フィルタ16は、濁水Mが底部開口11eからケース体11の内部に浸入することを可能としつつ、濁水Mが含有する粒径1μm以上の土粒子Pがケース体11の内部に流入することを抑制することができる。これにより、浸水センサ12は、浸水の発生を検出することができるとともに、固定軸13とフロート14の間に形成された空隙Gに土粒子Pが蓄積することによってフロート14の円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
フィルタ16は、流入抑制手段に相当する。
【0038】
フィルタ16に形成される開口のサイズは、1μmに限定されない。土粒子Pがケース体11に流入することを抑制することができればよく、1μm以上であって2mm以下であってもよい。フィルタ16の開口のサイズを2mmより大きくすると、多量の土粒子Pが開口を通過してしまうため、ケース体11の内部への土粒子Pの流入を抑制することが困難となる。また、フィルタ16の開口のサイズを1μm未満とすると、土粒子Pがフィルタ16の開口を閉塞する「目詰まり現象」が発生し、浸水の発生を検知することができない虞がある。したがって、フィルタ16に形成される開口の直径は、1μm以上であって、2mm以下であると好適である。
【0039】
また、濁水Mに含まれる土粒子Pは、一般的に水よりも比重が大きく、水中において沈降する性質を有している。そのため、土粒子Pは、フィルタ16によってケース体11の内部への流入が抑制されるとともに、仮に流入したとしても、流入口である底部開口11eがフロート14よりも下方に位置するため、土粒子Pはフロート14よりも下方に沈降する。そのため、土粒子Pが固定軸13とフロート14の間に形成された空隙Gに蓄積することによってフロート14の円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
【0040】
<<変形例>>
以上、本発明の一実施形態に係る浸水監視ユニット10について説明したが、上述した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
上述した実施形態では、回転体15によってフロート14が固定軸13に対して変位するようにフロート14を振動させることとして説明したが、これに限定されない。住宅Hの周囲の風をフロート14に導くことによってフロート14が振動することとしてもよい。
【0041】
図4は、変形例に係る浸水監視ユニット110の模式図である。
図4に示すように、ケース体11には、開口111dが形成されている。そして、変形例に係る浸水監視ユニット110は、その内部において、住宅Hの周囲の風を、フロート14に向けて下方から上方に導く導風路115を有している。開口111dから吹き込む風を、導風路115を介してフロート14に導くことにより、簡素の構成によってフロート14が固定軸13に対して変位するように振動させることができる。開口111dには、角度調整が可能で、異物の侵入を抑制することができる羽板を取り付けてもよい。
導風路115は、振動付与手段に相当する。
【0042】
<<第二変形例>>
また、上述した実施形態では、ケース体11の底部開口11eは、シート状のフィルタ16によって覆われていることとして説明したが、これに限定されない。底部開口11eは、底部開口11eに嵌合されるキャップ状のフィルタ216によって覆われることとしてもよい。
【0043】
図5は、第二変形例に係る浸水監視ユニット210の模式図である。フィルタ216には、1μmの直径を有する開口が規則的に配列されている。また、フィルタ216は、上述したシート状のフィルタ16よりも大きい厚み寸法を有している。これにより、シート状のフィルタ16と比べて、濁水M中の土粒子Pの流入抑制効果の向上を図ることが可能となる。なお、以降の説明において、回転体15は、上述した実施形態と同一の構成及び効果を有するため、説明とともに図示を省略する。
フィルタ216は、流入抑制手段に相当する。
【0044】
また、
図6に示す第三変形例に係る浸水監視ユニット310ように、ケース体11の底部の下方に濾材収容空間11fを形成し、濾材収容空間11fに収納された固形のフィルタ316によって底部開口11eが覆われることとしてもよい。フィルタ316には、樹脂からなる多孔質物質を採用することができるが、これに限定されない。フィルタ316は、不織布等の繊維素材から構成される積層体や、陶磁器製の濾材であってもよい。これにより、上述した実施形態と同様に、土粒子Pがケース体11の内部に流入することを抑制することができる。
フィルタ316は、流入抑制手段に相当する。
【0045】
<<第二実施形態>>
また、上述した実施形態では、フィルタ16によって土粒子Pがケース体11の内部に流入することを抑制することとして説明したが、これに限定されない。ケース体11の底部に逆止弁416を取り付けるとともに、ケース体11の内部に収容されたオイル417によって土粒子Pの流入を抑制してもよい。
【0046】
図7は、第二実施形態に係る浸水監視ユニット410の模式図である。
図7に示すように、ケース体11の内部には、オイル417が収容されているとともに、ケース体11の底部には、底部開口11eを覆うように逆止弁416が嵌合されている。
オイル417は、高い純度を有している。より詳細には、オイル417は、予め、異物等の不純物を除去するための精製処理が施され、その後、ケース体11の内部に収容されている。ケース体11の内部に収容される流体は、オイル417に限定されない。ケース体11には、予め精製処理を施すことによって不純物が除去されて、液体中に微生物や細菌等の発生を抑制することが可能な流体が収容されていればよく、純水が収容されていてもよい。これにより、流体の腐敗を抑制することが可能となる。
ケース体11に収容されたオイル417は、精製液に相当する。
【0047】
逆止弁416は、オイル417がケース体11から流出することを阻止するとともに、濁水Mがケース体11の内部に浸入することを抑制する可動片416aを有している。
可動片416aは、開閉可能な蓋体として機能する。詳細に説明すると、可動片416aは、下方に変位することによって底部開口11eを閉塞する。これにより、ケース体11の内部に収容されたオイル417が底部開口11eから流出することを阻止するとともに、濁水Mがケース体11の内部に浸入することを抑制する。また、可動片416aは、上方に変位することによって底部開口11eを開放する。これにより、濁水Mがケース体11の内部に浸入することを可能とする。
【0048】
災害が発生していない状態において、オイル417の圧力によって可動片416aは下方に変位して底部開口11eを閉塞する。一方、災害によって濁水Mの水位が上昇し、濁水Mの水圧がオイル417の油圧よりも大きくなると、可動片416aは上方に変位して底部開口11eを開放する。換言すると、オイル417の油圧によって濁水Mに含まれる土粒子Pがケース体11の内部に流入することを抑制することができる。また、オイル417は、水及び土粒子Pよりも比重が小さい。そのため、濁水Mとともに土粒子Pがケース体11の内部に流入した際に、土粒子Pの濃度は、オイル417によって希釈されるとともに、固定軸13とフロート14の間の空隙Gに流入する前に下方に沈降するする。これにより、フロート14の円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
オイル417及び逆止弁416は、流入抑制手段に相当する。
【0049】
上記において、逆止弁416は、蓋体として動作する可動片416aを有していることとして説明したが、これに限定されない。
図8は、変形例に係る浸水監視ユニット510の模式図である。
図8に示すように、浸水監視ユニット510の底部には、底部開口11eを覆うように逆止弁516が嵌合されている。逆止弁516は、上部閉塞板516bと、下部閉塞板516cと、連結軸516dと、から主に構成される可動片516aを有している。上部閉塞板516b及び下部閉塞板516cは、それぞれ底部開口11eの上端部及び下端部を覆うように閉塞することが可能な寸法及び形状を有する板状体である。連結軸516dは、上部閉塞板516bと下部閉塞板516cを連結するとともに、上下に昇降するように変位する。
【0050】
可動片516aは、オイル417の油圧が濁水Mの水圧よりも大きい時に下方に変位して、上部閉塞板516bが底部開口11eを閉塞する。また、濁水Mの水圧がオイル417の油圧より大きい時に、上部閉塞板516bが底部開口11eの上端よりも上方に変位して底部開口11eを開放する。このとき、濁水Mに含まれる土粒子Pはケース体11の内部に流入することができるが、上部閉塞板516bによって進路を遮られ、流入が抑制される。そのため、フロート14の円滑な浮上が阻害されることを抑制することができる。
また、濁水Mの水圧がさらに大きくなると、下部閉塞板516cが底部開口11eを閉塞する。これにより、土粒子Pが大量にケース体11の内部に流入することを抑制することが可能となる。換言すると、可動片516aは、土粒子Pがケース体11に流入することを抑制する邪魔板としての役割を果たす。
オイル417及び逆止弁516は、流入抑制手段に相当する。
【0051】
<<第三実施形態>>
図9は、第三実施形態に係る浸水監視ユニット610の模式図である。浸水監視ユニット610は、底部開口11eの側方に分離水路616を有し、分離水路616において土粒子Pを濁水Mから沈殿分離することによって土粒子Pがケース体11の内部に流入することを抑制する。
分離水路616は、濁水Mが流入する流入口616aと、底部開口11eと接続する接続口616bと、水路616cと、屈曲部616dと、を有している。
【0052】
流入口616aから流入した濁水Mは、水路616cを流れて接続口616bからケース体11に浸入する。水路616cは、流入口616aと接続口616bの間に複数の屈曲部616dを有している。流入口616aから流入した濁水Mの流速は、屈曲部616dにおいて減速される。そのため、接続口616bにおける濁水Mの流速は、流入口616aにおける流速よりも減速される。詳細に説明すると、濁水Mは、屈曲部616dにおいて反対方向に流下する必要があるため、その運動エネルギーが打ち消されることとなり、流速が減速する。これに伴い、濁水M中の土粒子Pは、接続口616bに到達する前に沈殿し、濁水Mから分離される。そのため、土粒子Pがケース体11の内部に流入することを抑制することができ、フロート14の円滑な浮上が阻害されることを抑制することが可能となる。
分離水路616は、導水路及び流入抑制手段に相当する。
【0053】
なお、分離水路616の形状は、
図9に示す形状に限定されない。分離水路616は、流入口616aと、接続口616bの間に水路616cを有し、水路616cは、流入口616aと接続口616bの間に屈曲部616dを有していればよい。
図10に示す変形例に係る浸水監視ユニット710のように、分離水路716は、左右に蛇行しながら屈曲する水路716cを有していてもよい。
分離水路716は、導水路及び流入抑制手段に相当する。
【0054】
また、上述した実施形態において、浸水センサ12は、中空の円筒形状を有するフロート14と、長尺形状の軸体である固定軸13と、から主に構成されていることとして説明したが、これに限定されない。フロート14は、曲面からなる球体であってもよいし、固定軸13は、球体を支持可能な環状体を有していてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10、110、210、310、410、510、610、710 浸水監視ユニット
11 ケース体
11a 前面
11b 側面
11c 上面
11d 回転体開口
11e 底部開口
11f 濾材収容空間
12 浸水センサ
13 固定軸(支持部材)
13a 締結部材
13b 上ストッパ
13c 下ストッパ
14 フロート
15 回転体(振動付与手段、回転部材)
15a 回転羽根
15b 回転軸
16、216、316 フィルタ(流入抑制手段)
17 出力ケーブル
111d 導風路開口
115 導風路(振動付与手段)
416、516 逆止弁(流入抑制手段)
416a、516a 可動片
516b 上部閉塞板
516c 下部閉塞板
516d 連結軸
417 オイル(精製液、流入抑制手段)
616、716 分離水路(導水路、流入抑制手段)
616a 流入口
616b 接続口
616c、716c 水路
616d 屈曲部
H 住宅
G 空隙
M 濁水
P 土粒子