(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082115
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】針状体、及び針状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
A61M37/00 512
A61M37/00 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195854
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芹川 優芽
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB24
4C267CC01
4C267GG02
4C267GG42
(57)【要約】
【課題】対象物に針状体を穿刺した直後に、針状体の穿刺位置からのずれや脱落が発生しにくい針状体、及び針状体の製造方法を提供する。
【解決手段】針状体は、基材と、基材の一方面に設けられる複数の針状部とを備え、針状部が生体適合性材料で構成され、針状部の表面に、油脂を含有する突起様構造が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の一方面に設けられる複数の針状部とを備え、
前記針状部が生体適合性材料で構成され、
前記針状部の表面に、油脂を含有する突起様構造が形成されている、針状体。
【請求項2】
前記油脂の融点が37℃以上42℃以下である、請求項1に記載の針状体。
【請求項3】
前記針状部の長さと、前記突起様構造の高さとの比が、10000:1~10:1の範囲内である、請求項1または2に記載の針状体。
【請求項4】
前記複数の針状部に対して前記突起様構造が規則的に配置されている、請求項1または2に記載の針状体。
【請求項5】
前記針状部は、前記基材の前記一方面に接触する底面を有しており、
前記針状部の内部に、前記底面に開口を有する第1空隙が形成されている、請求項1または2に記載の針状体。
【請求項6】
前記基材の内部に前記第1空隙と連通する第2空隙が形成されている、請求項5に記載の針状体。
【請求項7】
前記第1空隙に液状体が収容されている、請求項5に記載の針状体。
【請求項8】
前記第1空隙に穿刺対象物に移植される移植物が収容されている、請求項5に記載の針状体。
【請求項9】
請求項1に記載の針状体の製造方法であって、
前記針状部に対応する形状を有する凹版に、生体適合性材料を含有する溶液を充填して硬化させることで前記針状部を形成する工程と、
形成した前記針状部に前記基材を接着する工程と、
前記針状部の表面に前記油脂を含有する前記突起様構造を形成する工程とを備える、針状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解性を有する針状部を備えた針状体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞等の移植物を移植したり、ワクチン等の薬剤を体内に投与したりする方法として、針状体(マイクロニードル)等の経皮投与デバイスを用いる方法が知られている(特許文献1及び2)。針状体は、先端に向かって尖った針形状を有する針状部を基材の表面に備えている。針状体を用いる投与方法は、針状部を皮膚に刺すことによって皮膚に孔を形成し、この孔から薬剤を皮内に送り込むことで薬剤を投与する方法である。針状部の長さは、皮膚における真皮層の神経細胞に達しない長さであるため、針状体を用いる投与方法では、注射針を用いて皮下に薬剤を投与する方法と比べて、皮膚に孔が形成されるときの痛みが抑えられる。
【0003】
こうした経皮投与デバイスの一例として、基材及び針状部が溶解性を有し、針状部に薬剤が含有されるものがある。皮膚に刺さった針状部が、皮膚の表面や内部の水分に起因して溶解することによって、薬剤が体内に入る。これらの特徴を有する経皮投与デバイスは、溶解型マイクロニードルと呼ばれることもある。
【0004】
溶解型マイクロニードルは、薬剤の種類や用途に応じて針状体の溶解速度を調節するために針状体を構成する材料が選定され、針状部に特定の効果を有する油脂や脂肪酸を含む場合もある(特許文献3~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/064653号
【特許文献2】国際公開第2008/020632号
【特許文献3】特開2018-134195号公報
【特許文献4】特開2018-135286号公報
【特許文献5】特開2018-11712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
針状体は微小な構造体であるため、皮膚に穿刺された際に、周囲から加わる圧力によって穿刺位置から移動したり、生体から脱落したりしてしまうことがある。これを防ぐため、特許文献5のように針状部表面に突起様構造を設けることが検討されているが、未だ改良の余地が残されている。
【0007】
本発明は、対象物に針状体を穿刺した直後に、針状体の穿刺位置からのずれや脱落が発生しにくい針状体、及び針状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一局面は、基材と、基材の一方面に設けられる複数の針状部とを備え、針状部が生体適合性材料で構成され、針状部の表面に、油脂を含有する突起様構造が形成されている針状体である。
【0009】
また、針状体の製造方法であって、針状部に対応する形状を有する凹版に、生体適合性材料を含有する溶液を充填して硬化させることで針状部を形成する工程と、形成した針状部に基材を接着する工程と、針状部の表面に油脂を含有する突起様構造を形成する工程とを備える、針状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象物に針状体を穿刺した直後に、針状体の穿刺位置からのずれや脱落が発生しにくい針状体、及び針状体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】針状体に封入される前の細胞群の状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る針状体の概略図であり、より詳細には、
図1(a)は第1実施形態に係る針状体の正面図であり、
図1(b)は針状体の部分側面図である。また、
図2は、第1実施形態に係る針状体の概略断面図である。
【0013】
(針状体)
針状体100は、針状部1と基材2とを備え、針状部1の表面には突起様構造3が形成されている。針状体100は、生体等の穿刺対象物へ穿刺して使用される。本明細書において、生物の身体や組織だけでなく、身体や組織を模した人工的な生体モデルを含めて「生体」と称する。また、本実施形態においては、
図2に示すように、針状部1の内部に生体への移植物である細胞群101や液状体103を保持する。
【0014】
(基材)
基材2はシート状又は板状を有する部材であり、基材2の一方面(支持面20)には、1本または複数本の針状部1が設けられる。基材2は、溶解性材料で構成されてもよいし、溶解性材料以外の材料で構成されてもよい。基材2が溶解性材料で構成される場合、針状体100が穿刺した状態で基材2を分解させることができるため、基材2を剥離する必要がない。また、穿刺対象物の表面に残された基材2は、溶解して穿刺対象物に吸収されてもよい。一方、基材2が溶解性材料以外の材料で構成された場合は、針状体100の穿刺後に基材2を剥離する必要がある。なお、溶解性材料とは、生体の水分に溶けたり加熱により融解したりする性質を有する材料を指し、例えばFickの拡散式で示されるような拡散する速度を示す特性値が所定値以上である場合に溶解性があるとしてもよい。
【0015】
基材2は、生体への安全性の観点から生体適合性材料で構成されることが好ましい。生体適合性材料を用いることで、針状体100を生体に穿刺した際に異物反応や拒絶反応を起こす可能性を低減できる。生体適合性材料の中でも、生体由来の多糖類や、医薬品用のポリエーテルが好ましい。具体的には、PEG(ポリエチレングリコール)、生分解性ポリウレタン、ポリグリコール酸、アパタイト、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、カルボキシビニルポリマー、デキストラン、デキストリン、でんぷん、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キチン、キトサン、ペクチン酸、ガラクタン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、血清アルブミン、ヘパリン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンチン、ペクチン、アテロコラーゲン、ゼラチン、ヒドロキシアパタイト、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、レオザン、キサンタンガム、ガゼイン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ポリヌクレオチド、チトクロームC、β-リン酸三カルシウム、アルギン酸ナトリウム、及びN-イソプロピルアクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0016】
(針状部)
針状部1は、基材2の一方面(支持面20)から延出する針状の部材であり、先端に向かって尖った針形状を有する。具体的に、針状部1は穿刺対象物を穿刺可能な形状であればよく、
図1のような円錐形状であってもよいし、角錐形状、刃状、及び円柱や角柱の先端に円錐や角錐が付加された形状のように、2つ以上の立体が結合した形状であってもよい(
図3(a))。また、針状部1は、穿刺対象物を穿刺可能であれば、例えば円柱状や角柱状のように、先端が尖っていない形状であってもよいし、表面が曲率を有する形状であってもよい(
図3(b))。さらに、針状部1は、
図1のように支持面20に対して垂直に延出してもよいし、斜めに延出してもよい。また、針状部1は、支持面20から先端に向かう中心軸を挟んで対称な形状であってもよく、中心軸に対して非対称な形状であってもよい。針状部1の先端が鋭利である場合には、穿刺対象物への円滑な穿刺が可能になる。例えば、針状部1の先端部が円錐状の形状であった場合には、穿刺対象物と摩擦を生じる面積が低減して穿刺が容易になる。
【0017】
針状部1は、1つの基材2に対して1本のみ設けられてもよいし、複数本設けられてもよい。針状部1が複数本の場合、針状部1は一列に並べられていてもよいし、正方格子や三角格子の各格子点に針状部1が位置するように並べられていてもよい。また、隣接する針状部1の間隔は等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。
【0018】
針状部1は、
図2に示すように、基材2の一方面(支持面20)に接触する底面を有しており、針状部1の内部には、底面に開口を有する第1空隙4が形成される。この構成によれば、第1空隙4の内部に細胞群101や薬物等の有効成分を含む液状体103を収容することができる。そのため、穿刺によって細胞群101の生体への移植や穿刺対象物へ有効成分の投与が可能になる。また、第1空隙4に加えて基材2の内部に第1空隙4と連通する第2空隙(図示せず)が形成されてもよい。この構成によれば、第2空隙の容積分だけ空隙(第1空隙4及び第2空隙)を大きくすることができるため、空隙に格納される有効成分の量を増加させたり、空隙に格納される細胞を大きくしたりすることが可能となる。
【0019】
針状部1は、生体への安全性の観点から生体適合性材料で構成されることが好ましい。生体適合性材料を用いることで、針状体100を生体に穿刺する用途に適する。生体適合性材料の中でも、生体由来の多糖類や、医薬品用のポリエーテルが好ましい。具体的には、PEG(ポリエチレングリコール)、生分解性ポリウレタン、ポリグリコール酸、アパタイト、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、カルボキシビニルポリマー、デキストラン、デキストリン、でんぷん、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キチン、キトサン、ペクチン酸、ガラクタン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、血清アルブミン、ヘパリン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンチン、ペクチン、アテロコラーゲン、ゼラチン、ヒドロキシアパタイト、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、レオザン、キサンタンガム、ガゼイン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ポリヌクレオチド、チトクロームC、β-リン酸三カルシウム、アルギン酸ナトリウム、及びN-イソプロピルアクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0020】
(突起様構造)
突起様構造3は、針状部1の表面に形成される微小な突起である。針状部1に突起様構造3が設けられることで、針状体100を穿刺した際に針状体100が穿刺位置からずれたり脱落したりしてしまうのを抑制できる。突起様構造3は、先端に向かって尖った形状を有することが好ましく、例えば
図1~2に示すように、針状部1の中心軸を含む断面において、一辺が針状部1の外郭線と直交する直角三角形の断面を有する形状とすることができる。突起様構造3はランダムに配置されてもよいが、
図1~2のように規則的に配置されてもよい。尚、「規則的」とは、複数の針状部1のそれぞれに対して、同じ位置関係となるように突起様構造3を配置することをいう。突起様構造3が規則的に配置されている場合、針状体100を穿刺する際に生じる摩擦力を予測することが容易になるため、穿刺に適した角度の調整がしやすくなる。
【0021】
突起様構造3は、油脂を含有する材料で形成される。突起様構造3は、更に溶解性材料(水溶性材料)を含む材料で形成されても良い。突起様構造3が油脂を含有することで、突起様構造3が溶解性材料のみで構成される場合と比較して、針状部1が生体内に留置された直後に突起様構造3が生体内の水分により急速に溶解してしまうのを抑制できる。そのため、針状体100が対象物に穿刺された直後に、穿刺位置からずれたり、脱落したりしてしまうのを抑制できる。また、突起様構造3に含まれる溶解性材料は、当該溶解性材料のみで構成された針状体を、穿刺対象物を穿刺した状態で24時間静置した場合に、針状部が元の長さ(d3)から50μm以上1.0cm未満の範囲で短くなる材料であることが好ましい。
【0022】
突起様構造3に含まれる油脂の融点は37℃~42℃であってもよい。これにより、突起様構造3を有する針状部1が生体に穿刺された直後に、穿刺箇所の温度に応じて急速に溶解することを防ぐことができる。また、カイロや保温タオルなどの45℃程度の熱を有する物体を穿刺箇所に近づける、あるいは針状体100に直接当てることによって、穿刺箇所付近の温度を融点以上にして突起様構造3に含まれる油脂を溶解させることが可能となる。この方法によって、意図的に針状部1の表面の突起様構造3の表面積を低下させ、生体との間に生じる摩擦力を低減することができる。また、突起様構造3に含まれていた油脂が針状部1の表面に付着するため、針状部1の溶解の進行を遅くすることができる。それにより、生体組織への穿刺時に必要となる強度を一定時間維持することが可能になる。
【0023】
突起様構造3に含まれる油脂は、生体に接触した際に重度の炎症などの影響を与えにくく、臓器などに対する深刻な毒性を持たないものであることが好ましい。油脂は、例えば、ラノリン、ラード、マカダミアナッツバター、パーム硬化油、大豆硬化油、米硬化油、コクムバター、シアバターからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにこれらの混合物であってもよい。
【0024】
図4に示すように、針状部1の長さd3と、突起様構造3の高さd4との比は、10000:1~10:1となることが好ましい。この構成によれば、突起様構造3が針状部1を包埋せず、針状体100を生体に穿刺する際に、針状部1が穿刺できなくなるのを防ぐことができる。尚、針状部1の長さd3は、針状部1が接続されている基材2の一方面(針状部1の底面)と直交する方向における基材2の一方面から針状部1の先端までの垂直長さ(最短の長さ)である。また、突起様構造3の高さd4は、針状部1の外面から突起様構造3の先端(頂点)までの最短の長さである。
【0025】
(細胞群)
細胞群101は、生体に移植される細胞群を少なくとも含む。細胞群101が移植される穿刺対象物は、例えば、皮内、及び皮下の少なくとも一方であってもよい。また、穿刺対象物は、臓器等の組織内であってもよい。
【0026】
細胞群101は、凝集した複数の細胞の集合体でもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体でもよいし、分散した複数の細胞から構成されてもよい。細胞群101を構成する細胞は、未分化の細胞でもよいし、分化が完了した細胞でもよいし、未分化の細胞と分化した細胞との両方を含んでもよい。細胞群101は、例えば、スフェロイドである細胞塊、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0027】
細胞群101は、穿刺対象物に配置されることによって生体における組織形成に作用する能力を有する。細胞群101は、原始的な器官原基である。器官原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。器官原基は、肝臓の原基、腎臓原基や膵臓原基、神経系の原基細胞や、血管系の原基細胞等である。
【0028】
図5は、針状体に封入される前の細胞群の状態を示す図である。移植物である細胞群101は、針状体100に封入される前の状態において、例えば培養容器等のトレイ5の凹部50に液状体103と共に収容される。トレイ5は、
図5に例示するものに限定されず、トレイ5が有する平面上に細胞群101と液状体103とが配置されるものであってもよい。トレイ5が培養容器であって、細胞群101がトレイ5にて培養される場合、液状体103は、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。また、液状体103は薬剤等の有効成分等を含んでもよい。
【0029】
このとき、細胞群101の最大幅d1及び最大長d2は、針状部1の第1空隙4に入る大きさであればよいが、第1空隙4の深さ又は幅よりも小さいことが好ましい。細胞群101の最大幅d1及び最大長d2が、針状部1に形成される第1空隙4の深さ又は幅よりも小さい場合、第1空隙4の内面との摩擦等で生じる細胞群101への物理的な刺激が低減されるため、細胞の活性の低下を抑制することができる。
【0030】
(製造方法)
針状体100の製造方法の一例を説明する。
図6は、針状部を形成する方法を示す図であり、
図7は、突起様構造を形成する方法を示す図であり、
図8は、基材を作製する方法を示す図である。
【0031】
まず、針状部1の形状に対応する凹部11が形成された凹版104に、水などの溶媒に溶解性の生体適合性材料を混和した流動性材料を流し込む(
図6)。生体適合性材料は、所定の時間以上放置することで硬化する材料、紫外線照射等により硬化する光硬化性樹脂、又は加熱により硬化する熱硬化性樹脂である。また、針状部1に第1空隙4を形成する場合は、第1空隙4の形状に対応した型104’を更に用いる。硬化した生体適合性材料を凹版104から取り出し、針状部1を得る。
【0032】
次に、針状部1の表面に突起様構造3を形成する(
図7)。針状部1の表面に対して、微粒子状にした油脂を吹き付けて硬化させることを繰り返し、油脂を堆積させることで突起様構造3となる。さらに、突起様構造3が任意の形状になるように、微細メスなどを用いて体積した箇所を切削してもよい。あるいは、加熱した微小な金属棒の先端部分を堆積した油脂に押し当て、融解させてもよい。
【0033】
基材2は、任意の隙間を設けた2枚の支持板106に、基材2を構成する溶解性材料を流し込むことで作製する(
図8)。基材2に用いる溶解性材料は、針状部1を構成する溶解材料と同様に、放置等により硬化する材料である。
【0034】
次に、針状体100に細胞群101を封入する方法について説明する。
図9~11は、針状体に細胞群を封入する方法を示す図である。
【0035】
まず、培養容器等のトレイ5に保持されている細胞群101を、マイクロピペット等の器具7を用いて吸引する(
図9)。
【0036】
次に、器具7に吸引した細胞群101を針状部1の第1空隙4に吐出する(
図10)。このとき、第1空隙4には細胞群101だけでなく、液状体103が入ってもよい。
【0037】
次に、細胞群101及び液状体103を収容した針状部1の第1空隙4をふさぐように、基材2を配置する(
図11)。このとき、針状部1と基材2とは、水溶性の接着剤によって接着してもよいし、溶着等により接合してもよい。また、針状部1または基材2の表面に溶解材料の調液に用いた溶媒を噴霧して針状部1の一部を軟化させた後、針状部1及び基材2を接触させて再度硬化させる方法によって接合してもよい。また、熱等により針状部1を軟化せた後、針状部1及び基材2を接触させて再度硬化させる方法によって接合してもよい。
【0038】
(使用方法)
針状体100の使用方法について説明する。
図12~15は、針状体の使用方法を説明する図である。
【0039】
針状体100の基材2の一方面(支持面20)とは反対側の他方面22側から圧力を加えることにより、針状体100で穿刺対象物102を穿刺する(
図12)。穿刺直後においては、突起様構造3に含まれている油脂は、生体内の水分によって融解せず固形状を維持する、針状体100の穿刺位置からのずれや脱落が発生しにくい。
【0040】
次に、カイロや保温タオルなどの45℃程度の熱を有する温度調整用治具105を針状体100の穿刺箇所に近づける、あるいは針状体100に直接当てることで、穿刺箇所付近の温度を37℃以上にする(
図13)。これによって突起様構造3に含まれる油脂が融点以上となり、突起様構造3が溶解する。
【0041】
針状部1の溶解が進行すると、経時的に針状体100の体積が減少する(
図14)。このとき、突起様構造3に含まれていた油脂が針状部1の表面に付着するため、針状部1の溶解の進行が遅くなる。それにより、生体組織への穿刺時に必要となる強度を一定時間維持することが可能になる。
【0042】
さらに溶解が進行すると、針状部1が完全に溶解し、第1空隙4に収容されていた細胞群101が穿刺対象物102の内部に留置されることで細胞群101の生体への移植が完了する(
図15)。
【0043】
なお、本実施形態においては、針状部1の内部形成された第1空隙4内に細胞群101や液状体103を保持する構成としたが、第1空隙4を成形しない構成で細胞群101や液状体103を保持せず、針状部1に薬剤等を含有する構成であってもよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る針状体100は、針状部1の表面に突起様構造3が形成されている。そのため、針状体100の穿刺位置からのずれや脱落を抑制することができる。
【0045】
また、突起様構造3には油脂が含有される。そのため、針状部1が生体内に留置された直後に突起様構造3が生体内の水分により急速に溶解してしまうのを抑制でき、針状体100が対象物に穿刺された直後に、穿刺位置からずれたりや脱落したりしてしまうのを抑制できる。
【0046】
また、油脂の融点は37℃~42℃であってもよい。これにより、突起様構造3を有する針状部1が生体に穿刺された直後に、穿刺箇所の温度に応じて急速に溶解することを防ぐことができる。また、カイロや保温タオルなどの45℃程度の熱を有する物体を穿刺箇所に近づける、あるいは針状体100に直接当てることによって、穿刺箇所付近の温度を融点以上にして突起様構造3に含まれる油脂を溶解させることが可能となるため、意図的に突起様構造3を溶解させることができる。
【0047】
また、針状部1の長さd3と、突起様構造3の高さd4との比は、10000:1~10:1となることが好ましい(
図4)。この構成によれば、突起様構造3が針状部1を包埋せず、針状体100を生体に穿刺する際に、針状部1が穿刺できなくなるのを防ぐことができる。
【0048】
また、突起様構造3は針状部1に対して規則的に配置されている。そのため、針状体100を穿刺する際に生じる摩擦力を予測することが容易になるため、穿刺に適した角度の調整がしやすい。
【0049】
また、針状部1の内部には、第1空隙4が形成されている。そのため、第1空隙4の内部に細胞群101や薬物等の有効成分を含む液状体103を収容することができる。
【0050】
また、基材2の内部に第1空隙4と連通する第2空隙が形成されている。そのため、第2空隙の容積分だけ空隙を大きくすることができ、空隙に格納される有効成分の量を増加させたり、空隙に格納される細胞を大きくしたりすることが可能となる。
【0051】
<第2実施形態>
図16は、第2実施形態に係る針状体の概略平面図である。第2実施形態は突起様構造3の形状が第1実施形態と異なる。
【0052】
図16に示すように、突起様構造3は基材2方向に向かって曲がった形状を有していてもよく、詳細には、突起様構造3の表面に沿う断面の中心を結んだ線が、基材2方向に向かって曲線を描くような形状を有していてもよい。突起様構造3をこのような形状とすることで、針状体100を生体の表面や生体内に留置した際に、周辺組織に食い込みやすく、任意の位置に留置できる確率が向上する。
【0053】
なお、突起様構造3は、針状体100の穿刺対象物への穿刺を阻害せず、かつ、針状体100が穿刺位置からずれたり脱落したりしてしまうのを抑制できる形状であればよく、例えば、
図17に記載するような形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る針状体は、細胞等の移植やワクチン等の薬剤の投与を行う経皮投与デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 :針状部
2 :基材
3 :突起様構造
4 :第1空隙
100 :針状体
102 :穿刺対象物
103 :液状体
104 :凹版
d3 :針状部の長さ
d4 :突起様構造の高さ