(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082124
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】印刷装置、印刷制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A45D 29/18 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
A45D29/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195865
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】入江 保
(57)【要約】
【課題】印刷対象の特徴に合わせた印刷を行う。
【解決手段】印刷装置100は、複数の種別の印刷対象に印刷を行う印刷部160と、複数の種別の印刷対象のそれぞれに対応したインクセットを保持するインク保持部と、制御部110と、を備え、制御部110が、印刷対象の種別の情報である対象種別情報を取得し、取得した対象種別情報に基づいてインク保持部が保持する複数のインクセットからいずれかのインクセットを使用インクセットとして選択し、選択した使用インクセットを用いて印刷対象に印刷を行うように印刷部160を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の種別の印刷対象に印刷を行う印刷部と、
前記複数の種別の印刷対象のそれぞれに対応したインクセットを保持するインク保持部と、
制御部と、を備え、
前記制御部が、
前記印刷対象の種別の情報である対象種別情報を取得し、
前記取得した対象種別情報に基づいて前記インク保持部が保持する複数のインクセットからいずれかのインクセットを使用インクセットとして選択し、
前記選択した使用インクセットを用いて前記印刷対象に印刷を行うように前記印刷部を制御する、
印刷装置。
【請求項2】
複数の色変換テーブルを更に備え、
前記制御部は、
前記複数の色変換テーブルから、前記選択した使用インクセットに対応した色変換テーブルを参照テーブルとして選択し、
前記使用インクセットと前記選択した参照テーブルを用いて前記印刷対象に印刷を行うように前記印刷部を制御する、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記印刷対象に印刷する印刷データを取得し、
前記取得した印刷データに含まれる色データに基づいて、前記インク保持部が保持する複数のインクセットからいずれかのインクセットを使用インクセットとして選択し、
前記複数の色変換テーブルから、前記選択した使用インクセットに対応した色変換テーブルを参照テーブルとして選択し、
前記使用インクセットと前記選択した参照テーブルを用いて前記印刷対象に印刷を行うように前記印刷部を制御する、
請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記色変換テーブルは、RGB値からCMY値への変換テーブルである、
請求項2又は3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記インク保持部は、
CMYの3色のインクから構成されるインクセットを前記印刷対象の種類ごとに保持する、
請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
印刷部とインク保持部と制御部とを備える印刷装置の印刷制御方法であって、
前記制御部が、
印刷対象の種別の情報である対象種別情報を取得し、
前記取得した対象種別情報に基づいて前記インク保持部が保持する複数のインクセットからいずれかのインクセットを使用インクセットとして選択し、
前記選択した使用インクセットを用いて前記印刷対象に印刷を行うように前記印刷部を制御する、
印刷制御方法。
【請求項7】
印刷部とインク保持部と制御部とを備える印刷装置が備える前記制御部に、
印刷対象の種別の情報である対象種別情報を取得し、
前記取得した対象種別情報に基づいて前記インク保持部が保持する複数のインクセットからいずれかのインクセットを使用インクセットとして選択し、
前記選択した使用インクセットを用いて前記印刷対象に印刷を行うように前記印刷部を制御する、
処理を行わせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、印刷制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から指の爪にネイルデザインを印刷する印刷装置が知られている。また、例えば特許文献1には、ネイルデザインを爪に印刷するだけでなく、紙等の記録用媒体にもネイルデザインを印刷可能な装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている装置は撮像装置を備え、撮像装置で撮影した画像に基づいて印刷対象(爪、記録媒体)についての情報を検出し、印刷対象の立体形状を考慮して印刷データを補正する。これにより、印刷対象に応じた印刷を行うことができる。しかし、特許文献1に開示されている装置における「印刷対象に応じた印刷」は、主に印刷対象の立体形状を考慮した印刷であり、より良い印刷結果を得るためにはさらなる改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、印刷対象の特徴に合わせた印刷を行うことができる印刷装置、印刷制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷装置は、
複数の種別の印刷対象に印刷を行う印刷部と、
前記複数の種別の印刷対象のそれぞれに対応したインクセットを保持するインク保持部と、
制御部と、を備え、
前記制御部が、
前記印刷対象の種別の情報である対象種別情報を取得し、
前記取得した対象種別情報に基づいて前記インク保持部が保持する複数のインクセットからいずれかのインクセットを使用インクセットとして選択し、
前記選択した使用インクセットを用いて前記印刷対象に印刷を行うように前記印刷部を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、印刷対象の特徴に合わせた印刷を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る印刷装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】実施形態1に係る印刷処理のフローチャートの一例である。
【
図5】実施形態1に係る色変換テーブルの一例を説明するための図である。
【
図6】実施形態1に係る印刷装置の色変換テーブル及びインク保持部を説明するための図である。
【
図7】実施形態2に係る色変換テーブルの一例を説明するための図である。
【
図8】実施形態2に係る印刷装置の色変換テーブル及びインク保持部を説明するための図である。
【
図9】実施形態3に係る印刷装置の色変換テーブル及びインク保持部を説明するための図である。
【
図10】実施形態3に係る印刷処理のフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。
【0010】
(実施形態1)
実施形態1に係る印刷装置100は、指の爪、ネイルチップ、紙等にネイルデザインを印刷することができるインクジェット方式のプリンタである。
【0011】
図1に示すように、印刷装置100は機能構成として、制御部110、記憶部120、表示部130、操作入力部140、画像取得部150、印刷部160、固定部170、通信部180を備える。
【0012】
制御部110は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成される。制御部110は、記憶部120に記憶されているプログラムにより、印刷装置100の各機能を実現する処理や後述する印刷処理等を実行する。
【0013】
記憶部120は、制御部110が実行するプログラムや、必要なデータを記憶する。記憶部120は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を含み得るが、これらに限られるものではない。記憶部120は、制御部110が実行するプログラム、印刷部160で印刷対象(爪、ネイルチップ、紙等)に印刷するネイルデザインの画像データ、後述する色変換テーブル等を記憶する。なお、記憶部120は、制御部110の内部に設けられていてもよい。
【0014】
表示部130は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等のディスプレイを備え、印刷するネイルデザインを表示したり、操作や設定のエラー告知等を表示したりする。
【0015】
操作入力部140は、押しボタンスイッチ、キーボード、タッチパネル等のユーザインタフェースであり、ユーザからの操作入力を受け付ける。操作入力部140がタッチパネルを備える場合は、表示部130のディスプレイと一体化したタッチパネルであってもよい。
【0016】
画像取得部150は、カメラやLED(Light Emitting Diode)を備え、印刷対象をLEDで照明してカメラで撮影し、撮影した画像を取得する。
【0017】
印刷部160は、複数の種別の印刷対象のそれぞれに対応したインク(インクセット)を保持するインク保持部、インクを印刷対象に吐出して印刷を行うプリントヘッド、プリントヘッドを移動させる駆動部(X軸駆動部及びY軸駆動部)を備え、印刷対象にネイルデザインを印刷する。インク保持部は少なくとも3色(シアン、マゼンタ、イエロー)分のインクを供給可能なインクカートリッジを備える。また、インクは印刷対象の種別(爪、ネイルチップ、紙等)のそれぞれに適したものが用意されている。つまり、インク保持部は、爪に印刷するための3色分のインクからなるインクセット、ネイルチップに印刷するための3色分のインクからなるインクセット、紙に印刷するための3色分のインクからなるインクセットを保持している。なお、インクセットとは、同時に用いる複数のインクのことであり、本実施形態ではシアン、マゼンタ、イエローの3種類のインクからインクセットが構成される。
【0018】
固定部170は、印刷対象を置く台である第1対象固定部と、印刷対象を上から押さえる第2対象固定部を備える。固定部170は、第1対象固定部と第2対象固定部とで印刷対象を挟むことにより、印刷対象が動かないように固定する。なお、印刷対象がネイルチップや紙の場合には、それらを固定するためのアダプタを用意して、アダプタに印刷対象を取り付けて固定部170で固定するようにしてもよい。
【0019】
通信部180は、印刷装置100が他の装置(サーバ等)と通信を行うためのインタフェースである。印刷装置100は、例えばネイルデザインの画像データを通信部180を介してサーバから取得することができる。
【0020】
次に、印刷装置100の構造について、
図2(正面図)及び
図3(上面図)を参照して説明する。
【0021】
図2及び
図3に示すように、印刷装置100のプリントヘッド161は、プリントヘッド161を左右方向に移動させるX軸駆動部162及びプリントヘッド161を前後方向委移動させるY軸駆動部163により、前後左右に移動可能である。また、爪202に印刷する場合、ユーザは指201を、クッション性のある素材でできている第1対象固定部171の上に載せ、第2対象固定部172で上から押さえる。第1対象固定部171及び第2対象固定部172により、指201の爪202の表面は、一定の高さになるように調整される。第1対象固定部171及び第2対象固定部172は固定部170に含まれる。
【0022】
プリントヘッド161は制御部110による制御にしたがって、駆動部(X軸駆動部162及びY軸駆動部163)で移動し、インク保持部から供給されるインクを印刷対象(爪202等)に吐出することでネイルデザインを印刷対象に印刷する。プリントヘッド161、X軸駆動部162、Y軸駆動部163は印刷部160に含まれる。
【0023】
また、
図2に示すように、印刷装置100の天井にはカメラ151が設置されており、カメラ151の周囲にLED152が設置されている。これらは画像取得部150に含まれる。制御部110による制御にしたがって、印刷対象をLED152で照明し、カメラ151で撮影することにより、制御部110は、印刷対象の種別(爪、ネイルチップ、紙等)、印刷領域の形状、大きさ、位置等を認識することができる。なお、
図3では印刷部160や固定部170と重なって見づらくなることを防ぐため、カメラ151及びLED152の記載が省略されている。
【0024】
次に、印刷装置100の印刷処理について、
図4を参照して説明する。印刷装置100に対してユーザが印刷を指示すると、印刷処理の実行が開始される。
【0025】
まず、制御部110は、ユーザが選択したネイルデザインを取得する(ステップS101)。ステップS101において、制御部110は、ネイルデザインの一覧を表示部130に表示して、その一覧の中からユーザが選択したネイルデザインを取得してもよいし、ユーザが他の装置(PC(Personal Computer)、タブレット、スマートフォン等)を操作して選択したネイルデザインを通信部180を介して取得してもよい。
【0026】
次に、制御部110は、印刷対象が固定部170に固定されているか否かを判定する(ステップS102)。ステップS102において、制御部110は、例えば表示部130に「印刷対象をセットしてください。セットしたらOKボタンを押してください。」等のメッセージを表示し、OKボタンが押されたら印刷対象が固定部170に固定されていると判定してもよい。また、例えば固定部170が圧力センサ等のセンサを備えており、印刷対象が固定されているかを当該センサが検知可能になっていてもよい。この場合制御部110は当該センサによる検出値に基づいて、印刷対象が固定部170に固定されているか否かを判定することができる。また、ステップS102での判定をステップS103の後で行うようにし、制御部110は、ステップS103で取得した画像に基づいて、印刷対象が固定部170に固定されているか否かを判定してもよい。
【0027】
印刷対象が固定部170に固定されていないなら(ステップS102;No)、制御部110はステップS102に戻って印刷対象が固定部170に固定されるまでステップS102での判定を繰り返す。
【0028】
印刷対象が固定部170に固定されているなら(ステップS102;Yes)、制御部110は、画像取得部150で印刷対象を撮影して、印刷対象の画像を取得する(ステップS103)。
【0029】
次に、制御部110は、取得した画像に基づいて(例えば画像認識を行って)、印刷対象の種別の情報(対象種別情報)を取得し、取得した対象種別情報に基づいてインク保持部が保持する複数のインクセットの中から印刷に使用するインクセット(使用インクセット)を選択する(ステップS104)。なお、印刷対象の種別の情報とは、印刷対象が、爪、ネイルチップ、紙等のいずれの種別であるかを示す情報である。
【0030】
そして、制御部110は、ステップS103で取得した画像等に基づいて、印刷対象における印刷領域を認識し、ステップS101で取得したネイルデザインを、印刷対象の曲率や傾斜を用いて補正する(ステップS105)。なお、印刷対象の曲率や傾斜については、別途専用のアプリケーションソフト(例えばGUI(Graphical User Interface)によりユーザが簡単に曲率や傾斜を入力可能にするソフト)によりユーザに入力してもらってもよい。制御部110がネイルデザインを補正する方法は特に限定されない。印刷対象の印刷領域における曲率や傾斜が考慮されて、ネイルデザインが印刷対象の印刷領域にきちんとフィットする(マッピングされる)ように補正されるのであれば、任意の方法で補正してよい。
【0031】
次に、制御部110は、ステップS104で選択した使用インクセットに対応した色変換テーブルを参照テーブルとして選択し、参照テーブルを用いてネイルデザインの画像データのRGB(Red Green Blue)値をCMY(Cyan Magenta Yellow)値に変換する(ステップS106)。
【0032】
そして、制御部110は、ステップS104で選択した使用インクセットに含まれる3色(シアン、マゼンタ、イエロー)のインクのそれぞれをステップS106で取得したCMY値の濃さで用いて、ネイルデザインの画像データを印刷対象に印刷するように印刷部160を制御し(ステップS107)、印刷処理を終了する。
【0033】
ステップS106で用いられる色変換テーブル121は、例えば
図5に示すように、RGBの3つの値を、CMYの3つの値に変換するテーブルである。一般的なフルカラー画像データでは、RGBのそれぞれの値は8bit(0から255までの256段階)で表されているため、色数は8bit×3色=24bitとなり、約1677万色となる。しかし、この全てに対してCMYの値を対応付けようとすると色変換テーブルのサイズが膨大になり、作成に要する手間も膨大になってしまう。
【0034】
そこで、本実施形態では、
図5に示すようにRGBの各値を16刻みにすることにより、色変換テーブル121のサイズを4096に抑えている。色変換テーブル121に存在しないRGB値については、制御部110は、その値に近い値であってかつ色変換テーブル121に存在する値を複数用いて補間することによって対応するCMY値を得る。
【0035】
例えば、RGB値(0,0,4)に対応するCMY値を求める場合を説明すると、RGB値(0,0,4)に近いRGB値として色変換テーブル121には、RGB値(0,0,0)とRGB値(0,0,16)が存在する。また、(0,0,4)は、(0,0,0)と(0,0,16)を1:3に内分する値である。したがって、RGB値(0,0,4)に対応するCMY値は、RGB値(0,0,0)に対応するCMY値(255,255,255)と、RGB値(0,0,16)に対応するCMY値(255,255,240)と、を1:3に内分する値として、(255,255,252)と求められる。
【0036】
図5に示されている色変換テーブル121の値は、ネイルデザインの画像データに用いられているRGB値で表される色と印刷装置100で使用されるCMY値で表されるインクの色とがそれぞれ理想的な色だった場合(RとC、GとM、BとYのそれぞれが完全な補色関係にある場合)の値であるが、現実のインクでは様々な制約があり、理想的な色のインクを製造するのは困難である。
【0037】
例えば、印刷対象が爪の場合、爪は紫外線にさらされ、日常生活においてお湯や洗剤などに浸漬される。したがって、爪用のインクは、これらに対する耐候性、耐久性が求められる。またそれ以上に重要なのは安全性である。爪用のインクは人の爪や肌に触れることになるので、アレルギー反応や発がん性を有しないことが最重要に求められる。また火傷のおそれがないように、印刷後の乾燥温度は低い温度に設定する必要がある。さらに、不要になった場合には爪から安全に除去できなければならない。また一般的に、爪に印刷したネイルデザイン(ネイルアート表示)は印刷後数十時間保持されている必要がある。したがって、これらを考慮して、爪用のインクとしては、化粧品並の安全性を備え、常温で乾燥でき、除去が簡単にできる染料系のインクであることが望ましい。
【0038】
また、印刷対象がネイルチップの場合、ネイルチップは指先に取り付けられた後は紫外線にさらされる。また、ネイルチップは数ヶ月前から印刷して準備されることがある。したがって、ネイルチップ用のインクは耐候性が高く、長期保存可能(印刷後数ヶ月間保持可能)であることが重要である。ただし、不要になったらネイルチップそのものを廃棄すれば良いので、ネイルチップ用のインクはネイルチップから除去できなくてもよく、また高温で乾燥させることも可能である。したがって、これらを考慮して、ネイルチップ用のインクとしては、高温(50℃以上)で乾燥してもよく、耐候性が高い顔料系のインクであることが望ましい。
【0039】
また、印刷対象が紙の場合、紙への印刷は、ネイルデザインを確認するための試し印刷であることが多く、紫外線や水にさらされることは少ない。ただし、ネイルデザインを確認するために印刷される場合が多いため、発色が良いことが重要となる。保存期間は用途にもより(試し印刷なら数時間、コレクション用なら数年間)、保管条件次第となる。また不要になったら紙そのものを廃棄すればよいので、紙用のインクは紙から除去できなくてもよく、また高温で乾燥させることも可能である。したがって、これらを考慮して、紙用のインクとしては、高温(50℃以上)で乾燥してもよく、発色の良い染料系インクであることが望ましい。
【0040】
このように、印刷対象の種別によりそれに適したインクの種別や特性が変わるため、それぞれの発色も異なることになる。したがって、印刷される色の再現性を向上させるためには、各インクの発色を考慮した色変換テーブル121を用いることが必要になる。
【0041】
本実施形態1に係る印刷装置100は、
図6に示すように、印刷部160が備えるインク保持部164が、爪用の3色(シアン、マゼンタ、イエロー)のインクからなるインクセット165A、ネイルチップ用の3色のインクからなるインクセット165B、紙用の3色のインクからなるインクセット165Cを保持することにより、印刷対象の特徴に合わせた印刷を行うことができる。
【0042】
また、印刷装置100は、
図6に示すように、記憶部120が、各インクセット用の色変換テーブル121として、ネイルデザインデータのRGB値を爪用インクセット165AのCMY値に変換する色変換テーブル121A、ネイルデザインデータのRGB値をネイルチップ用インクセット165BのCMY値に変換する色変換テーブル121B、ネイルデザインデータのRGB値を紙用インクセット165CのCMY値に変換する色変換テーブル121Cを記憶しており、印刷処理時には、これらの色変換テーブル121を用いることにより、ネイルデザインを印刷する際の色の再現性を高めることができる。
【0043】
(実施形態2)
上述の実施形態1に係る印刷装置100のインク保持部164はCMY(シアン、マゼンタ、イエロー)の3色のインクからなるインクセットを印刷対象の種類分保持しているが、インク保持部164が保持するインクセットはCMYの3色のインクからなるインクセットに限定されない。例えば、実施形態2に係る印刷装置101は、CMYの3色に加えてブラック(K)のインクも用いて印刷を行う。すなわち、印刷装置101のインク保持部164は、印刷対象の種別に応じたCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の4色のインクからなるインクセットを保持する。そして、色変換テーブル121についても
図7に示すように、RGB値からCMYK(Cyan Magenta Yellow blacK)値に変換する色変換テーブル121を備える。
【0044】
実施形態2に係る印刷装置101の機能構成は、
図1に示すように、実施形態1の印刷装置100と同様である。ただし、印刷装置101は、記憶部120が、色変換テーブル121として、
図7に示すように、ネイルデザインの画像データのRGB値を、CMYKの4色のそれぞれの値に変換する色変換テーブル121を記憶している。
【0045】
RGB値をCMYK値に変換する色変換テーブル121として、
図7に示す例では、実施形態1の色変換テーブル121(
図5)と同様に、RGBの各値を16刻みにすることにより、色変換テーブル121のサイズを4096に抑えている。変換テーブルに存在しないRGB値については、制御部110は、その値に近い値であってかつ色変換テーブル121に存在する値を複数用いて補間することによって対応するCMYK値を得る点も、実施形態1と同様である。
【0046】
すなわち、実施形態2に係る印刷装置101は、
図8に示すように、印刷部160が備えるインク保持部164が、爪用の4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のインクからなるインクセット165D、ネイルチップ用の4色のインクからなるインクセット165E、紙用の4色のインクからなるインクセット165Fを保持することにより、印刷対象に適した4色のインクからなるインクセットでの印刷を可能にする。したがって、印刷装置101は、印刷対象の特徴に合わせた印刷を行うことができる。
【0047】
また、印刷装置101は、
図8に示すように、記憶部120が、各インクセット用の色変換テーブルとして、ネイルデザインデータのRGB値を爪用インクセット165DのCMYK値に変換する色変換テーブル121D、ネイルデザインデータのRGB値をネイルチップ用インクセット165EのCMYK値に変換する色変換テーブル121E、ネイルデザインデータのRGB値を紙用インクセット165FのCMYK値に変換する色変換テーブル121Fを記憶しており、印刷処理時には、これらの色変換テーブルを使用することにより、ネイルデザインを印刷する際の色の再現性を高めることができる。
【0048】
実施形態2に係る印刷装置101の印刷処理は、ステップS106において、制御部110が、ネイルデザインの画像データのRGB値をCMYK値に変換する点に留意すれば、実施形態1に係る印刷装置100の印刷処理(
図4)と同様である。
【0049】
実施形態2に係る印刷装置101では、印刷に使用するインクセットにブラックのインクが含まれているため、黒色の発色が良くなり、色再現性が向上するので、ネイルデザインの印刷品質をさらに向上させることができる。
【0050】
(実施形態3)
安全性を考慮した場合に、人体に対する有害物質を除去する必要があるため、例えば爪用のシアンのインクは本来のシアンの色にできない場合がある。そして、代替となる爪用のシアンのインクとして、複数の代替インク(例えば代替シアン1と代替シアン2)が存在する場合が考えられる。これらの代替インクはそれぞれ発色が異なるため、印刷する内容(ネイルデザイン)によって、どちらの代替インクを使えば良いか変わる。そこで、複数の代替インクを使用可能な実施形態3について説明する。
【0051】
実施形態3に係る印刷装置102の機能構成は、
図1に示すように、実施形態1の印刷装置100と同様である。ただし、
図9に示すように、実施形態3に係る印刷装置102は、印刷部160が備えるインク保持部164が、ネイルチップ用インクセット165B及び紙用インクセット165C以外に、爪用の2種類のインクセット(代替インクを含むインクセット)として、爪用第1インクセット(代替シアン1、マゼンタ、イエローの3色のインク)165Gと、爪用第2インクセット(代替シアン2、マゼンタ、イエローの3色のインク)165Hを保持する。
【0052】
また、印刷装置102は、
図9に示すように、記憶部120に、各インクセット用の色変換テーブル121として、ネイルチップ用インクセット165B用の色変換テーブル121B、紙用インクセット165C用の色変換テーブル121C以外に、代替インク用の色変換テーブル121として、爪用第1インクセット165G用の色変換テーブル121G、爪用第2インクセット165H用の色変換テーブル121H、を記憶しており、印刷処理時には、これらの色変換テーブル121を用いることにより、ネイルデザインを印刷する際の色の再現性を高めることができる。
【0053】
実施形態3に係る印刷処理について、
図10を参照して説明する。実施形態1と同様に、印刷装置102に対してユーザが印刷を指示すると、印刷処理の実行が開始される。
【0054】
ステップS201からステップS203までの処理は、実施形態1に係る印刷処理(
図4)のステップS101からステップS103までの処理と同様のため、説明を省略する。
【0055】
ステップS204では、実施形態1と同様に、制御部110は、ステップS203で取得した画像に基づいて、印刷対象の種別の情報(対象種別情報)を取得し、取得した対象種別情報に基づいてインク保持部が保持する複数のインクセットの中から印刷に使用するインクセット(使用インクセット)を選択する。ただし、実施形態3では代替インクが存在するため、使用するインクセットの候補が複数生じる場合があり得る。例えば、印刷対象がネイルチップな、使用インクセットは1つに定まり、制御部110はネイルチップ用インクセット165Bを選択できる。しかし、印刷対象が爪の場合、代替インクが存在するため、使用インクセットとして爪用第1インクセット165Gと爪用第2インクセット165Hの2つの候補が生じる。
【0056】
そこで、制御部110は、使用インクセットの候補(代替インクセット)が複数あるか判定する(ステップS205)。使用インクセットの候補(代替インクセット)が複数あるなら(ステップS205;Yes)、制御部110は、ステップS201で取得したネイルデザインの画像データ(印刷データ)に含まれる色データを分析し、使用インクセットの候補の中から、ネイルデザインを印刷したときの色の再現性が最も高くなる代替インクセットを使用インクセットとして選択し(ステップS206)、ステップS207に進む。
【0057】
使用インクセットの候補(代替インクセット)が1つしかないなら(ステップS205;No)、制御部110は、それをそのまま使用インクセットとしてステップS207へ進む。
【0058】
ステップS207からステップS209までの処理は、実施形態1に係る印刷処理(
図4)のステップS105からステップS107までの処理と同様のため、説明を省略する。
【0059】
以上説明した印刷処理により、印刷装置102は、複数の代替インクセットの中から、ネイルデザインで用いられている色の再現性が高くなるインクセットを選択して印刷するので、ネイルデザインを印刷する際の色の再現性を高めることができる。
【0060】
上述の実施形態3では、爪用のシアンだけに2種類の代替インクが存在する例で説明したが、代替インクは爪用のシアンのインクだけに限らない。安全性の面だけでなく、耐候性、長期保存性等、様々な面から、理想的なシアン、マゼンタ、イエローの色を発色できるインクが使用できない場合に、ネイルチップ用インクや紙用インクについても、複数の代替インクが生じる可能性がある。このような場合にも、上述の実施形態3を適用させることが可能である。
【0061】
(変形例)
以上に本発明の実施形態について説明したが、上述の実施形態は一例であり、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、本発明の実施形態は種々の応用が可能であり、あらゆる実施形態が本発明の範囲に含まれる。
【0062】
例えば、実施形態2と実施形態3とを組合せることが可能である。この場合、ブラックのインクを含む代替インクセットを用いて印刷を行うため、ネイルデザインで用いられている色データに基づいて最も色の再現性が高くなるブラックのインクを含む代替インクセットで印刷を行うことができるので、印刷される色の再現性をさらに高めることができる。
【0063】
また、上述の実施形態ではインク保持部164が使用可能性のあるインクセットを全て保持していることとしたが、インク保持部164は、印刷に用いるインクセットのみを保持してもよい。ユーザが印刷対象を決めているため、ユーザ自身で印刷対象用のインクセットをインク保持部164に予めセットしておくことが可能だからである。この場合、印刷装置の制御部110は、上述の印刷処理(
図4)のステップS104で印刷対象の画像から印刷対象の種別を判別する必要はない。各インクのインクカートリッジに識別情報を埋め込んでおき、制御部110がその識別情報を取得できるようにしておけば、ステップS104ではインクカートリッジから識別情報を取得することにより、使用インクとともに印刷対象の種別も取得できることになるからである。例えば、制御部110は、インクカートリッジの識別情報を取得し、インク保持部164に爪用インクが保持されていることがわかったら、印刷に使用するインクは爪用インクであり、印刷対象は爪であることがわかる。
【0064】
また、上述の実施形態では、印刷対象として、爪、ネイルチップ、紙を例に挙げて説明したが、印刷対象はこれら3種に限られない。シート状の印刷対象としては、紙だけでなく、アクリルシート、金属板等も考えられるし、ネイルチップの素材もプラスティック、セラミック、ウレタン等、様々なものが考えられる。したがって、これらのそれぞれに適したインクを用いてインクセットを構成し、そのインクセットに対応した色変換テーブルを用意することで、印刷装置は、より多くの印刷対象の特徴に合わせた印刷を行うことが可能になる。
【0065】
また、上述の実施形態では、印刷装置100,101,102はインクジェット方式のネイルプリンタだったが、印刷装置はインクジェット方式のネイルプリンタに限らない。印刷対象に応じて適したインクを使い分ける印刷装置においては、同様の考え方で、複数の色変換テーブルを使い分けて色の再現性を高めた印刷を行うことができる。
【0066】
なお、上述の実施形態では、制御部110のCPUが記憶部120に記憶されたプログラムを実行することによって、印刷装置100,101,102の各部を制御した。しかしながら、本発明において、制御部110は、CPUの代わりに、例えばASIC(Application Specifi Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、各種制御回路等の専用のハードウェアを備え、専用のハードウェアが、印刷装置100の各部を制御しても良い。この場合、制御部110の各機能を個別のハードウェアで実現しても良いし、各機能をまとめて単一のハードウェアで実現しても良い。また、各機能のうち、一部を専用のハードウェアによって実現し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実現しても良い。
【0067】
また、印刷装置100,101,102は、1つの装置ではなく、制御する装置(例えばPC、スマートフォン、タブレット等、制御部110、記憶部120、表示部130、操作入力部140、通信部180を備える装置)と、印刷する装置(画像取得部150、印刷部160、固定部170、通信部180を備える装置)と、に分離していてもよい。この場合、上述の印刷処理は制御する装置の制御部110が行い、通信部180を介して、印刷する装置の画像取得部150が取得した印刷対象の画像を取得したり、印刷部160に対して印刷を指示したりすることになる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。
【符号の説明】
【0069】
100,101,102…印刷装置、110…制御部、120…記憶部、121,121A,121B,121C,121D,121E,121F,121G,121H…色変換テーブル、130…表示部、140…操作入力部、150…画像取得部、151…カメラ、152…LED、160…印刷部、161…プリントヘッド、162…X軸駆動部、163…Y軸駆動部、164…インク保持部、165A,165B,165C,165D,165E,165F,165G,165H…インクセット、170…固定部、171…第1対象固定部、172…第2対象固定部、180…通信部、201…指、202…爪