(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082127
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】直動案内ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195872
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】成田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 史子
(72)【発明者】
【氏名】奈良 嗣由
(72)【発明者】
【氏名】浦 卓也
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA25
3J104AA34
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104BA11
3J104BA23
3J104BA33
3J104BA55
3J104CA15
3J104CA24
3J104CA34
3J104DA05
3J104EA01
3J104EA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温環境下においても長距離を安定に走行できる直動案内ユニットを提供すること。
【解決手段】レール10と、前記レールに対して摺動可能であるスライダ20と、前記レールおよび前記スライダの間に形成される軌道路を転走可能である転動体と、を備える直動案内ユニット1である。前記スライダは、前記転動体がその内部を通過する通路孔を有する。前記通路孔には、前記通路孔を通過する前記転動体と接触する潤滑部材が配置されている。前記潤滑部材は、多数の気孔を有するフッ素樹脂の多孔質体から構成される。前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に平行な面における前記気孔は、異方性を有する細長い形態を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールと、
前記レールに対して摺動可能であるスライダと、
前記レールおよび前記スライダの間に形成される軌道路を転走可能である転動体と、
を備え、
前記スライダは、前記転動体がその内部を通過する通路孔を有し、
前記通路孔には、前記通路孔を通過する前記転動体と接触する潤滑部材が配置されており、
前記潤滑部材は、多数の気孔を有するフッ素樹脂の多孔質体から構成され、
前記潤滑部材の前記通路孔が延びる方向に平行な面における前記気孔は、異方性を有する細長い形態を有する、
直動案内ユニット。
【請求項2】
前記潤滑部材の前記気孔は、三次元網目状の連通孔である、請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に直交する面における前記気孔は、異方性を有さない不特定の形態である、請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に平行な面において、前記気孔の長辺と短辺の比であるアスペクト比は1:2~1:6である、請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記潤滑部材は、長手方向に直交する断面が円形である中空円筒状の筒体であり、
前記通路孔は、前記スライダのケーシングに形成された直線状に延びる孔であり、
前記筒体は、前記通路孔内に配置されている、
請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記潤滑部材の気孔率が20~60%である、
請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
レールに沿ってスライダが摺動する直動案内ユニットにおいて、スライダ内部に設けられる転動体の循環路に、潤滑剤が含浸された中空円筒状の潤滑部材を配置することが知られている。例えば特許文献1には、潤滑部材として、四フッ化エチレン重合体(以下、ポリテトラフルオロエチレンあるいはPTFEということがある。)からなる多孔質体であって、気孔率が10~30%であるものが開示されている。この潤滑部材の気孔は、四フッ化エチレン重合体と気孔形成剤とを含む成形用組成物を押出成形して得られることが記載されている。
【0003】
また、軸上を摺動するすべり軸受において、摺動部材である金属多孔質体に隣接して、潤滑剤供給材を備えることが知られている。例えば特許文献2には、潤滑剤供給材が摺動部材を介して摺動面に潤滑剤を供給すること、潤滑剤供給材として樹脂またはゴムの発泡体を用いることが記載されている。特許文献2には、発泡体における気孔の種類は、気泡が連通している連続気泡であることが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-349828号公報
【特許文献2】特開2008-69945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直動案内ユニットは、高温環境下においても長距離を安定に走行できることが好ましい。そこで、本発明は、高温環境下においても長距離を安定に走行できる直動案内ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った直動案内ユニットは、レールと、前記レールに対して摺動可能であるスライダと、前記レールおよび前記スライダの間に形成される軌道路を転走可能である転動体と、を備える。前記スライダは、前記転動体がその内部を通過する通路孔を有する。前記通路孔には、前記通路孔を通過する前記転動体と接触する潤滑部材が配置されている。前記潤滑部材は、多数の気孔を有するフッ素樹脂の多孔質体から構成される。前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に平行な面における前記気孔は、異方性を有する細長い形態を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記直動案内ユニットは、高温環境下においても長距離にわたって安定に走行できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示にかかる直動案内ユニットの構造を示す一部断面斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1と同様の直動案内ユニットの構造を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本開示にかかる直動案内ユニットに配置される潤滑部材の一部を切り開いて示す模式図である。
【
図4】
図4は、本開示にかかる直動案内ユニットに配置される潤滑部材の一部を示すSEM画像である。
【
図5】
図5は、本開示にかかる直動案内ユニットに配置される潤滑部材の一部を示すSEM画像である。
【
図6】
図6は、比較例である潤滑部材の一部を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示にかかる直動案内ユニットは、レールと、前記レールに対して摺動可能であるスライダと、前記レールおよび前記スライダの間に形成される軌道路を転走可能である転動体と、を備える。前記スライダは、前記転動体がその内部を通過する通路孔を有する。前記通路孔には、前記通路孔を通過する前記転動体と接触する潤滑部材が配置されている。前記潤滑部材は、多数の気孔を有するフッ素樹脂の多孔質体から構成される。前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に平行な面における前記気孔は、異方性を有する細長い形態を有する。
【0010】
直動案内ユニットを円滑に動作させるために潤滑剤が用いられる。従来、転動体に対して潤滑剤を供給するために、細孔内に潤滑剤が含浸された多孔質体からなる潤滑部材を、転動体の通路内に配置することが知られている。このような潤滑部材として、PTFEやポリエチレン等の樹脂からなる多孔質体を用いることが知られている(例えば特許文献1,2)。潤滑部材としてポリエチレンの多孔質体を用いる場合、ポリエチレンの耐熱温度に限界があるため、100℃を超えるような高温環境下で直動案内ユニットを使用することは困難であった。一方、PTFEで構成される多孔質体は耐熱性を有するが、潤滑剤として特定のフッ素オイルを用いる場合など、PTFEの多孔質体からなる潤滑部材の使用態様や用途は限定的であった。
【0011】
直動案内ユニットの用途の拡大に伴って、高温環境で、かつ、メンテナンスの負担が少なく長距離を安定に走行できる直動案内ユニットが望まれている。この課題に対して、フッ素樹脂から構成される多孔質体を潤滑部材として用いることが検討された。そして、フッ素樹脂から構成される多孔質体であって、気孔が特定の形態を有するものを潤滑部材として採用した場合、100℃以上の高温環境においても長距離を安定に走行可能であることが見出された。
【0012】
直動案内ユニットに備えられる潤滑部材には、その内部に充分な量の潤滑油を保持し、また、転動体に対して継続して安定的に潤滑油を供給できることが必要と考えられた。この点、フッ素樹脂は油に対する接触角が大きく、撥油性の高い材料であることから、潤滑部材の材料としての適性は必ずしも高くないと考えられていた。これに対して本開示では、フッ素樹脂の多孔質体から構成される潤滑部材であって、スライダの通路孔が延びる方向に平行な面における気孔が異方性を有する細長い形態を有するものを採用する。この潤滑部材は、PTFEの耐熱性を発揮するとともに、充分な量の潤滑油を保持することができる。そして、この潤滑部材を備えた直動案内ユニットは、高温環境下においても長距離にわたって安定に走行可能であることが見出された。
【0013】
前記潤滑部材の前記気孔は、三次元網目状の連通孔であってよい。ここで、三次元網目状とは、潤滑部材における少なくとも一方向の面において、潤滑部材の実体部分(空隙以外の部分)が網目状の形態を有するとともに、空隙部分が深さ方向に連続する形態であることを意味している。網目状とは、特定の方向に細長く延びる複数の部分が互いに連結し、全体として異方性を有する面を形成している形態を意味している。潤滑部材がこのような形態を有する場合、高温環境下においても長距離にわたって安定に走行可能であるという本発明の効果が確実に得られる。
【0014】
前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に直交する面における前記気孔は、異方性を有さない不特定の形態であってよい。このような形態を有するフッ素樹脂の多孔質体は、製造方法が確立されており、所望の物性ないし性能に応じて適切な気孔率や気孔サイズを有するフッ素樹脂多孔質体を選択できる。
【0015】
前記潤滑部材において、前記通路孔が延びる方向に平行な面において、前記気孔の短辺と長辺の比であるアスペクト比は1:2~1:6であってよい。通路孔が延びる方向に平行な面において、気孔は異方性を有する細長い形態を有するところ、アスペクト比がこの範囲であるとき、潤滑剤を充分に保持し、かつ、継続的に転動体に提供するという効果が確実である。
【0016】
前記潤滑部材は、長手方向に直交する断面が円形である中空円筒状の筒体であり、前記通路孔は前記スライダのケーシングに形成された直線状に延びる孔であり、前記筒体は前記通路孔内に配置されていてもよい。潤滑部材を中空円筒の筒体とし、スライダのケーシングに形成された通路孔内に配置することによって、転動体に対して確実に潤滑油を供給し、安定な走行を実現できる。また、従来の直動案内ユニットに配置されている潤滑部材を置き換えることによって、高温耐久性を有する直動案内ユニットを構成することができる。このため、既存の部品や製造方法を利用して、高温耐久性を有する直動案内ユニットを作製可能である。
【0017】
前記潤滑部材の気孔率は20%~60%であってよい。気孔率がこの範囲であるとき、充分な量の潤滑油を含有することが可能であるとともに、強度と柔軟性を有し、取り扱い性に優れた潤滑部材が得られる。
【0018】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の直動案内ユニットの具体的な実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0019】
まず、本開示にかかる直動案内ユニットの全体を説明する。
図1は本開示の一実施形態における直動案内ユニット1の構造を示す斜視図である。
図1では、直動案内ユニット1の一部を切り開き、内部の構造を示している。
図2は
図1に示す直動案内ユニット1のII‐II断面を示す断面図である。
図1、2において、X軸方向は直動案内ユニット1の幅方向、Y軸方向は直動案内ユニット1の長手方向、Z軸方向は直動案内ユニット1の厚み方向である。
【0020】
図1、
図2を参照して、直動案内ユニット1は、レール10と、スライダ20と、転動体であるボール30と、を備える。転動体であるボール30は、直動案内ユニット1に複数挿入されている。スライダ20は、レール10に沿って摺動可能である。
【0021】
レール10には、直動案内ユニット1を取り付ける相手部材を固定するための取付け孔11が形成されている。レール10は、長手方向の両側面に第1軌道溝12が形成されている。第1軌道溝12は、レール10の長手方向の両側面に形成された一対の凹溝である。スライダ20が移動するとき、ボール30は第1軌道溝12の壁面12aに当接しながら転走する。第1軌道溝12の形状は、レール10の全長にわたって同一である。つまり、第1軌道溝12を構成する壁面12aの形状および角度は、第1軌道溝12の全長にわたって一定である。
【0022】
スライダ20は、レール10に跨架されている。スライダ20は、ケーシング21と、ケーシング21の長さ方向両端面に取付られたエンドキャップ22と、ケーシング21とエンドキャップ22の間に挿入されたスペーサ23と、エンドキャップ22の外側の端面に装着されたエンドシール24と、を有する。エンドキャップ22は、スペーサ23およびエンドシール24とともに、ねじ41によってケーシング21に固定されている。
【0023】
ボール30は、レール10とスライダ20とによって形成される環状の経路100内を循環しうる。経路100は、レール10とスライダ20との間に形成される軌道路101と、スライダ20の内部に形成される方向転換路102および循環路103と、を含む。方向転換路102は、軌道路101の両端のそれぞれと連続し、半円弧状に延びる経路である。循環路103は、軌道路101と並行してスライダ20の内部に形成される直線の経路である。
【0024】
軌道路101は負荷領域である。軌道路101は、レール10の壁面12aと、ケーシング21の袖部の内側に長手方向に延びる第2軌道溝13の壁面13aとが対向して形成される。方向転換路102は無負荷領域である。方向転換路102は、エンドキャップ22の方向転換路外周壁22aと、スペーサ23の方向転換路内周壁23aとが対向して形成される。循環路103も無負荷領域である。ケーシング21は、スライダ20の長手方向に延び、長手方向に直交する断面が円形である通路孔231を有する。通路孔231に、潤滑部材としての筒体51が挿入されている。筒体51の内部が、循環路103を構成する。通路孔231内に形成される循環路103の中を、ボール30が通過する。
【0025】
スライダ20が外力を受けて移動するとき、ボール30が転動することによって、スライダ20はレール10上を摺動する。ボール30が筒体51の内部を通過するとき、ボール30が筒体51の表面に接触し、筒体51に含浸された潤滑剤がボール30に供給される。より詳細には、ボール30と筒体51の表面とが接触すると、筒体51の気孔中に保持された潤滑剤が毛細管現象によって浸出し、ボール30の表面に移動する。
【0026】
潤滑部材である筒体51について説明する。
図1、
図2を参照して、筒体51は、通路孔231が延びる方向である長手方向に直交する断面が円形である、中空円筒状の筒体である。筒体51の長手方向は、筒体51の軸方向に等しい。筒体51の内径および外径は長手方向にわたって均一である。すなわち、筒体51の壁面の厚みは長さ方向にわたって均一である。筒体51の壁面の厚みは特に制限されるものではないが、例えば、0.5mm~3mm程度とすることができる。
【0027】
筒体51はフッ素樹脂の多孔質体からなる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられ、好ましくはPTFEである。
【0028】
筒体51は、多数の気孔を有する多孔質体である。筒体51に形成された気孔の形態について説明する。筒体51は、三次元網目状の連通孔を有する。
図3は筒体51の一部を切り開いて示す模式図である。筒体51の長手方向に平行な方向(すなわち筒体51の軸方向)は、通路孔231(
図2)の延びる方向である。
図3を参照して、筒体51の長手方向に平行な面とは、具体的には、筒体51の内周面51a、外周面51b、筒体51を長手方向に平行に切断した切断面51cである。筒体51の長手方向に平行な面における気孔は、異方性を有する細長い形態を有する。ここで、気孔が異方性を有するとは、多数形成された気孔がある程度の配向傾向を示しており、多数の気孔が全体として方向性を持って並んでいる状態を意味している。気孔の形態は、例えばSEMによって観察される。
【0029】
図4は、筒体51の具体例である潤滑部材の軸方向断面(
図3における切断面51c)および径方向断面(
図3における端面51d)のSEM画像を示す。
図4を参照して、筒体51の軸方向断面において、筒体51を構成する樹脂の実体部分(気孔の開口部以外の部分)は、網状になっている。ここで網状であるとは、ある程度の配向をもって細長く延びる部分が多数存在し、その部分の少なくとも一部が互いに連結し、全体として異方性を有する面を形成している形態を意味している。筒体51の長手方向に平行な面において、網状の実体部分の間に、気孔が開口している。筒体51の長手方向に平行な面における気孔は、おおむね特定の方向に並ぶ細長い形状の気孔である。細長さの程度は特定の数値範囲に限定されるものではないが、例えば、気孔の形態をSEMにより観察するとき、気孔の短辺と長辺の比であるアスペクト比は1:2~1:6であってよい。
【0030】
気孔のアスペクト比は、次のとおり算出される。まず、SEM画像上で気孔部分を特定する。次いで、特定された気孔を囲う最小の長方形を規定する。この長方形の短辺を気孔の短辺、この長方形の長辺を気孔の長辺として、「短辺の長さ:長辺の長さ」をアスペクト比とする。アスペクト比は、同一のSEM画像からおおむね5以上の気孔を選択し、選択した気孔それぞれのアスペクト比を計測し、その平均をアスペクト比として採用する。本開示にかかる直動案内ユニットに用いられる潤滑部材では、潤滑部材の軸方向の面に開口する気孔のうち40%以上、好ましくは60%以上のアスペクト比が1:2~1:6の範囲であれば好ましい。
【0031】
一方、筒体51の長手方向に直交する面における気孔の形態には、異方性がない。
図3を参照して、筒体51の長手方向に直交する面とは、具体的には例えば、筒体51を長手方向に垂直に切断した場合の切断面51dである。筒体51を長手方向に垂直に切断した場合の切断面51dのことを、径方向の断面ともいう。筒体51の長手方向に直交する面において、筒体51を構成する樹脂の実体部分(気孔以外の部分)は連続相である。
図4を参照して、筒体51の長手方向に直交する面は、連続相の中に不定形の気孔が形成された形態である。連続相および気孔の形状および配向はランダムである。
【0032】
筒体51を構成する多孔質体の気孔率は、本開示の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば20%以上60%以下であってよく、25%以上40%以下であるとより好ましい。気孔率が20%以上であれば潤滑部材に潤滑油を十分に保持でき、長距離(長時間)潤滑切れを起こすことなく直動案内ユニットを動作させることができる。気孔率が60%以下であれば潤滑部材の強度を確保できる。
【0033】
筒体51を構成する多孔質体の気孔の大きさは、本開示の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、気孔を囲う最小の長方形を規定するとき、その短辺の長さが5μm以上100μm以下であってよく、10μm以上50μm以下であると好ましい。また、気孔を囲う最小の長方形を規定するとき、その長辺の長さが10μm以上500μm以下であってよく、20μm以上300μm以下であると好ましい。
【0034】
また、気孔のサイズは、SEM画像上で孔の最小および最大の幅を読み取った場合に、気孔の幅の最小が0.5μm以上であってよく、1μm以上であると好ましい。気孔の幅の最大は、30μm以下であってよく、15μm以下であると好ましい。気孔サイズが30μm以下であると、気孔に保持された潤滑油が転動体に円滑に供給される。気孔サイズが30μm以上であれば、潤滑油の供給が過大となり、早期に潤滑切れを起こす恐れが高い。
【0035】
筒体51は、潤滑油が含浸された状態で直動案内ユニット1に配設される。潤滑油は使用温度や速度等に応じて適宜選択可能であり、特に制限されない。幾つか例を挙げると、例えば、フッ素系潤滑剤、パラフィン系潤滑剤、エーテル系潤滑剤、シリコーン系潤滑剤、金属石けん系や有機アミン石けん系を含む石けん系潤滑剤、ウレア系グリース等を含む非石けん系潤滑剤等が用いられうる。潤滑油は1種、または2種以上を合わせて用いてもよい。筒体51が保持する潤滑油の量は、本開示の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば筒体の重量に対して15~50%とできる。また、筒体51における潤滑油の含浸率は、特に制限されるものではないが、例えば60~100%であってよい。潤滑油の含浸率は、潤滑部材における気孔の体積に対する、潤滑部材に含まれる潤滑油の体積の割合である。潤滑油の含浸率が高いことは、気孔の多くに潤滑油が充填されていることを意味する。本開示の直動案内ユニットにおける潤滑部材は、フッ素樹脂を材料としているが、長手方向に沿う表面が網目状に開口するとともに、径方向に孔が連通するという三次元網目状の連通孔を備えることによって、潤滑油の含浸率が向上し、優れた潤滑耐久性を発揮するものと考えられている。
【0036】
なお、上述の気孔率および含浸率は次のとおり算出される。
潤滑油を含浸する前の潤滑部材の重量と、潤滑油を含浸した後の潤滑部材の重量とを測定し、それらの差分を含浸油量(g)とする。
一方、含浸前の潤滑部材についてその重量(A)を測定する。また、潤滑部材の寸法から体積を算出し、求めた体積と潤滑部材を構成する樹脂の密度とから、計算重量(B)を求める。計算重量(B)に対する重量(A)の割合から、気孔率を算出する。気孔率の算出式は次のとおりである。
気孔率(%)=(1-((A)/(B)))×100
次いで、得られた気孔率と潤滑部材の体積とから、潤滑部材における気孔の体積を算出する。その後、含浸油量(g)から含浸油の体積を計算し、気孔の体積に対する含浸油の体積の割合を含浸率(%)とする。
【0037】
筒体51を構成するフッ素樹脂の多孔質体は、例えば、PTFEをペースト押出によって筒状に形成し、軸方向に延伸して得られた多孔質体であってよい。このように得られる多孔質の筒体は、径方向に連通する連通孔を有し、径方向(筒体の厚み方向)の通気性に優れる。このような細孔構造を有するフッ素樹脂の多孔質体は、従来、透湿性を有する保護チューブ等の用途に用いられていたが、潤滑剤を含浸して用いる潤滑部材として使用されることは想定されていなかった。これに対して本開示では、かかる多孔質体に潤滑油を含浸し、潤滑部材として直動案内ユニットに組み込むことで、高温下で長距離走行が可能な直動案内ユニットが得られることを見出している。
【0038】
(変形例)
実施の形態1で説明された直動案内ユニットは、転動体がボールであり、単列の軌道を備えるものであるが、本開示にかかる直動案内ユニットはこれに制限されない。例えば、転動体はころであってもよい。また、レールの両側面にそれぞれ2列の軌道を有してもよい。転動体は、保持器によって保持されていてもよい。また、潤滑部材の配置は、直動案内ユニット1で示されるものに限られない。潤滑部材は転動体の循環路の一部のみに配置されていてもよい。潤滑部材は円筒状に限られない。たとえば、半筒状の潤滑部材と反筒状の実質体(非多孔質体)とが組み合わされていてもよい。
【0039】
[実施例]
1.潤滑部材の評価
表1に示す潤滑部材1~7について、形態観察、物性測定を行うとともに含油特性を評価した。潤滑部材1~7はいずれも外径4mm、内径3mm、全長24.9mmの筒体とした。潤滑部材に対する潤滑油の含浸は、真空含浸によって行った。
【0040】
【0041】
表1に示す潤滑部材の形態観察の手順は次のとおりとした。気孔率および気孔サイズは材料メーカー提供の数値による。気孔サイズは、潤滑部材のSEM像から気孔の最小~最大の幅を読み取ったものである。
(1)断面形態の観察
各潤滑部材の軸方向断面(長手方向に沿う断面)および径方向断面(長手方向に直交する断面)をSEMにて観察した。アスペクト比の算出は、SEM画像上で気孔部分を特定し、特定された気孔を囲う最小の長方形を規定して、「長方形の短辺の長さ:長方形の長辺の長さ」をアスペクト比とした。一画像あたり5箇所の気孔についてアスペクト比を算出し、その平均値をアスペクト比として採用した。
【0042】
2.直動案内ユニットの作製および評価
潤滑部材1~7を転動体の循環路に組み込んだ直動案内ユニットを作製し、潤滑耐久試験および高温耐久試験を実施した。それぞれ次の手順および試験結果は次のとおりとなった。
【0043】
(1)潤滑耐久試験
潤滑油を含浸させた潤滑部材を
図1に示す軸受1に挿入し、スライドユニット20を固定した状態でレール10を連続的に往復移動させる試験を行った。試験中の軸受1の振動値が設定値を超えた場合、もしくは、摩耗粉の異常発生を確認した時点で試験を停止し、その時点の走行距離を測定した。
(試験条件)
荷重:無負荷
ストローク:150mm
最高速度:3m/s
潤滑耐久試験の結果を表2にまとめて示す。
【0044】
【0045】
(2)高温耐久試験
潤滑油を含浸させた潤滑部材を
図1に示す軸受1に挿入し、スライドユニット20を加熱しつつ固定した状態でレール10を連続的に往復移動させる試験を行った。試験中の軸受1の振動値が設定値を超えた場合、もしくは、摩耗粉の異常発生を確認した時点で試験を停止し、その時点の走行距離を測定した。
(試験条件)
荷重:軽負荷
ストローク:300mm
最高速度:1m/s
高温耐久試験の結果を表3にまとめて示す。
【0046】
【0047】
(試験結果のまとめ)
表1に示されるとおり、潤滑部材1~6はいずれもフッ素樹脂の多孔質体からなる潤滑部材であり、軸方向の断面(長手方向に沿う断面)は細長い網目状の形態であり、端面は不定形孔が形成された形態であった。潤滑部材1~6はいずれも、対比例である潤滑部材7と同等の潤滑油を保持することができた。潤滑部材1~6では、気孔のほとんどに潤滑油が充填され、気孔が有効に利用されていると考えられた。
【0048】
また、表2に示されるとおり、潤滑部材1~6を組み込んだ直動案内ユニットI~VIは走行距離が24,000km以上となった。比較例であるポリエチレン製の潤滑部材を組み込んだ直動案内ユニットVIIと同様に、直動案内ユニットI~VIはいずれも優れた潤滑耐久性を備えることが確認された。
【0049】
表3に示されるとおり、潤滑部材3,4,6を組み込んだ直動案内ユニットVIII~XIは、100℃あるいは120℃の条件下での走行距離が8,000kmを超え、高温条件下で長距離を安定に走行可能であることが確認された。一方、ポリエチレン製の潤滑部材を用いた直動案内ユニットXIIは、100℃の条件下で約6,000kmにて試験終了となった。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 直動案内ユニット、10 レール、11 取付け孔、12 第1軌道溝、13 第2軌道溝、12a、13a 壁面、20 スライダ、21 ケーシング、22 エンドキャップ、22a 方向転換路外周壁、23 スペーサ、23a 方向転換路内周壁、24 エンドシール、30 ボール、41 ねじ、51 筒体、100 経路、101 軌道路、102 方向転換路、103 循環路、231 通路孔。