(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082134
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】熱伝導部材および配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
H05K1/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195883
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】田中 紘秋
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA02
5E338AA18
5E338BB05
5E338BB13
5E338BB14
5E338BB25
5E338BB71
5E338CC08
5E338EE02
(57)【要約】
【課題】温度変化によって発生する熱伝導部材の配線基板への挟み込みの緩み、締め付けを防止する。
【解決手段】錐体の側面の一部を外周面とする形状を有する鍔部11,12等とそれらに接続された胴部13等とからなる熱伝導部材10a等において、各錐体の底面が基準点をもとにして反転した位置関係にある。例えば熱伝導部材10aの鍔部の傾斜側面部11a,12bは配線基板5の傾斜壁9a,9bに当接した状態で配線基板5の貫通孔に固定されるので、温度変化によって発生する熱伝導部材の膨張・収縮による配線基板への挟み込みの緩み、締め付けを防止できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の胴体部の軸方向両端に第1の鍔部と第2の鍔部とを接続してなる熱伝導部材であって、
前記第1の鍔部は、第1の錐体の底面を第1の平面とし、該第1の錐体の側面の一部を第1の外周面とする形状を有し、
前記第2の鍔部は、第2の錐体の底面を第2の平面とし、該第2の錐体の側面の一部を第2の外周面とする形状を有し、
前記第1の平面と前記第2の平面は、互いに合同または相似であって、前記第1の錐体と前記第2の錐体の頂点どうしが接する点を基準点とした場合、該基準点をもとにして反転し、互いに平行となる位置関係にあり、
前記第1の平面の縁部の点と前記第2の平面の縁部の点とを結ぶ線分であって、かつ、前記基準点を通る線分の軌跡が前記第1の外周面および前記第2の外周面を形成することを特徴とする熱伝導部材。
【請求項2】
前記胴体部の軸方向垂直の断面積は前記第1の平面と前記第2の平面それぞれの面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項3】
前記胴体部の中心軸であって前記第1の鍔部と前記第2の鍔部を貫通する軸は、前記第1の平面および前記第2の平面に対して直角、あるいは所定角度傾いていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
絶縁基板において厚さ方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔に挿入された請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導部材とを備える配線基板であって、
前記熱伝導部材は、前記第1の鍔部と前記第2の鍔部を前記絶縁基板に固着せずに、前記第1の外周面および前記第2の外周面を該絶縁基板に当接し、前記第1の鍔部と前記第2の鍔部が該絶縁基板を挟み込むことによって固定され、
前記貫通孔に挿入された前記熱伝導部材の前記胴体部と該貫通孔の内壁との間に空隙を設けたことを特徴とする配線基板。
【請求項5】
前記貫通孔は、一方の開口端の周縁内壁部に前記熱伝導部材の前記第1の外周面と当接する第1の凹部を備え、他方の開口端の周縁内壁部に前記熱伝導部材の前記第2の外周面と当接する第2の凹部を備えていることを特徴とする請求項4に記載の配線基板。
【請求項6】
前記第1の凹部は前記第1の外周面と対向する第1の傾斜面を有し、前記第2の凹部は前記第2の外周面と対向する第2の傾斜面を有し、前記第1の外周面と前記第1の傾斜面とが面接触し、前記第2の外周面と前記第2の傾斜面とが面接触することを特徴とする請求項5に記載の配線基板。
【請求項7】
前記貫通孔は、第1の貫通孔および第2の貫通孔として所定距離離間した2箇所に設けられており、前記第1の貫通孔は平面視において前記第2の貫通孔側に延出する角丸長方形の形状を有し、前記第2の貫通孔は平面視において前記第1の貫通孔側に延出する角丸長方形の形状を有し、
前記熱伝導部材は、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔それぞれにおいて前記第1の外周面および前記第2の外周面を前記絶縁基板に当接し、前記第1の鍔部と前記第2の鍔部が該絶縁基板を挟み込むことによって固定されることを特徴とする請求項4に記載の配線基板。
【請求項8】
前記熱伝導部材は、前記第1の鍔部を有する第1の金属部材と、前記第2の鍔部を有する第2の金属部材とを前記貫通孔内で突き合せて形成されることを特徴とする請求項4に記載の配線基板。
【請求項9】
前記絶縁基板はセラミックグリーンシートの積層体を加圧し焼成して製造されたセラミックス多層基板であり、前記貫通孔は内径の異なる貫通穴が形成された複数のセラミックグリーンシートを順次積層して形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の配線基板。
【請求項10】
前記第1の凹部の表面は、前記積層体の最上層のセラミックスグリーンシートの一部で覆われて構成され、前記第2の凹部の表面は、前記積層体の最下層のセラミックスグリーンシートの一部で覆われて構成されることを特徴とする請求項9に記載の配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭載された電子部品等から発生する熱を放散させる熱伝導部材およびその熱伝導部材を備えた配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子装置の配線基板(回路基板)に搭載されている、電力制御用のスイッチングトランジスタ等のパワー半導体からなるパワーモジュール、インバーター等は、近年における電子装置の高機能化、高性能化により動作速度も高速化し、それに伴い消費電力が急増することから高い放熱性が要求される。そのため、パワー半導体から発生した熱をヒートシンク等の放熱用部材を通じて放熱して、パワーモジュール、インバーター等の正常な動作を確保する必要がある。
【0003】
セラミックス、樹脂等の絶縁材料からなる配線基板は熱伝導率が低く、良好な放熱性(排熱効率)が得られない。そこで、配線基板に放熱性の良い金属を固定して用いた場合、モジュールの動作時における発熱による高温状態と、待機時の低温状態とを繰り返す温度サイクルによるストレスへの耐性が必要となる。
【0004】
配線基板上に搭載された発熱部品から熱を放熱するために使用されている従来の方法として、セラミックス基板の表面から裏面に貫通する良熱伝導体からなるサーマルビアを設ける技術、樹脂基板であるガラス・エポキシ基板(FR-4)において、発熱部品の直下へ銅ピン(銅インレイ)を圧入して部分的に排熱(放熱)特性を向上する技術がある。銅インレイによる放熱は、熱伝導率の高い銅を発熱部品に直接接触させることで、高い放熱性を実現できるが、柔軟性のある樹脂基板では有効でも、曲げ、ひずみに対する応力の比例定数が高く、柔軟性のないセラミックス基板では、銅ピンを圧入する際に基板の割れや破壊が発生するという問題がある。
【0005】
例えば、特許文献1は、セラミックス配線基板に設けたキャビティ内の棚部に封着用パッドを形成し、その棚部にヒートシンク板(放熱用部材)を封着用パッドで接合した構成を開示している。特許文献1の構成では、温度サイクルによるストレス(膨張・収縮による応力)によって固定部分の周辺に割れ、破壊が発生するという問題がある。
【0006】
そこで、本願と同一出願人は、配線基板と放熱用部材を、はんだ、接着剤等で直接固定せず、熱膨張係数が同じ金属からなり鍔部を有する熱伝導部材により絶縁基板を挟み込んで間接的に固定(当接)する構造により、絶縁基板と熱伝導部材とが固着されずに自由度を持たせることで、温度サイクル時における熱伝導部材と絶縁基板の膨張・収縮の差によるクラックの発生を回避する配線基板を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平6-21250号公報
【特許文献2】特開2017-212305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した鍔部を持つ熱伝導部材で挟み込んで間接的に固定した構成を有する配線基板を精査したところ、温度サイクル時の熱伝導部材の挙動に課題があることが分かった。すなわち、温度が高くなると熱伝導部材が膨張して挟み込みが緩み、熱伝導部材が固定されずに動くことで、実装された発熱部品のワイヤーボンディングが断線する、あるいは温度が低くなると熱伝導部材が収縮し、上下の締め付けが強くなることで、配線基板の熱伝導部材との固定部分が割れたり、発熱部品と熱伝導部材の接合部分が割れて設置面積が狭くなり、放熱効果が弱まったりする等、熱伝導部材の不安定な固定が想定され得ることが判明した。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、温度変化によって発生する熱伝導部材の配線基板への挟み込みの緩み、締め付けを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として、本発明の熱伝導部材は、柱状の胴体部の軸方向両端に第1の鍔部と第2の鍔部とを接続してなる熱伝導部材であって、前記第1の鍔部は、第1の錐体の底面を第1の平面とし、該第1の錐体の側面の一部を第1の外周面とする形状を有し、前記第2の鍔部は、第2の錐体の底面を第2の平面とし、該第2の錐体の側面の一部を第2の外周面とする形状を有し、前記第1の平面と前記第2の平面は、互いに合同または相似であって、前記第1の錐体と前記第2の錐体の頂点どうしが接する点を基準点とした場合、該基準点をもとにして反転し、互いに平行となる位置関係にあり、前記第1の平面の縁部の点と前記第2の平面の縁部の点とを結ぶ線分であって、かつ、前記基準点を通る線分の軌跡が前記第1の外周面および前記第2の外周面を形成することを特徴とする。
【0011】
例えば、前記胴体部の軸方向垂直の断面積は前記第1の平面と前記第2の平面それぞれの面積よりも小さいことを特徴とする。例えば、前記胴体部の中心軸であって前記第1の鍔部と前記第2の鍔部を貫通する軸は、前記第1の平面および前記第2の平面に対して直角、あるいは所定角度傾いていることを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する一手段として、本発明の配線基板は、絶縁基板において厚さ方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔に挿入された上記いずれかに記載の熱伝導部材とを備える配線基板であって、前記熱伝導部材は、前記第1の鍔部と前記第2の鍔部を前記絶縁基板に固着せずに、前記第1の外周面および前記第2の外周面を該絶縁基板に当接し、前記第1の鍔部と前記第2の鍔部が該絶縁基板を挟み込むことによって固定され、前記貫通孔に挿入された前記熱伝導部材の前記胴体部と該貫通孔の内壁との間に空隙を設けたことを特徴とする。
【0013】
例えば、前記貫通孔は、一方の開口端の周縁内壁部に前記熱伝導部材の前記第1の外周面と当接する第1の凹部を備え、他方の開口端の周縁内壁部に前記熱伝導部材の前記第2の外周面と当接する第2の凹部を備えていることを特徴とする。例えば、前記第1の凹部は前記第1の外周面と対向する第1の傾斜面を有し、前記第2の凹部は前記第2の外周面と対向する第2の傾斜面を有し、前記第1の外周面と前記第1の傾斜面とが面接触し、前記第2の外周面と前記第2の傾斜面とが面接触することを特徴とする。例えば、前記貫通孔は、第1の貫通孔および第2の貫通孔として所定距離離間した2箇所に設けられており、前記第1の貫通孔は平面視において前記第2の貫通孔側に延出する角丸長方形の形状を有し、前記第2の貫通孔は平面視において前記第1の貫通孔側に延出する角丸長方形の形状を有し、前記熱伝導部材は、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔それぞれにおいて前記第1の外周面および前記第2の外周面を前記絶縁基板に当接し、前記第1の鍔部と前記第2の鍔部が該絶縁基板を挟み込むことによって固定されることを特徴とする。例えば、前記熱伝導部材は、前記第1の鍔部を有する第1の金属部材と、前記第2の鍔部を有する第2の金属部材とを前記貫通孔内で突き合せて形成されることを特徴とする。例えば、前記絶縁基板はセラミックグリーンシートの積層体を加圧し焼成して製造されたセラミックス多層基板であり、前記貫通孔は内径の異なる貫通穴が形成された複数のセラミックグリーンシートを順次積層して形成前記第1の凹部の表面は、前記積層体の最上層のセラミックスグリーンシートの一部で覆われて構成され、前記第2の凹部の表面は、前記積層体の最下層のセラミックスグリーンシートの一部で覆われて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放熱用部材が発熱部品から熱的影響を受けて膨張あるいは収縮(伸縮)しても、配線基板と放熱用部材にストレスを与えず、配線基板へ安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱伝導部材の全体構成を示す外観斜視図である。
【
図2】実施形態に係る熱伝導部材を挿入するための貫通孔が形成された配線基板を部分的に示す図である。
【
図3】
図2に示す配線基板をX-X´矢視線に沿って切断したときの断面図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は温度の上昇あるいは低下に伴う熱伝導部材の膨張・収縮の挙動を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は変形例1に係る熱伝導部材を示す図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は変形例2に係る熱伝導部材の模式的な断面図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は変形例3に係る熱伝導部材の模式的な断面図である。
【
図8】変形例3に係る熱伝導部材の使用例を示す図である。
【
図9】
図9(a)~(e)は変形例4に係る熱伝導部材を説明する図である。
【
図10】
図10(a)~(e)は変形例5に係る熱伝導部材を説明する図である。
【
図11】熱伝導部材を2つの金属部材に分離した状態を示す図である。
【
図12】
図12(a)~(c)は金属部材の突き合せ面の変形例を示す図である。
【
図13】本発明の実施の形態例に係る配線基板の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【
図14】
図13の工程のうちセラミックスグリーンシートの積層工程を示す図である。
【
図15】
図15(a)~(d)は、
図13の工程に対応する配線基板の断面構成を示す図である。
【
図16】
図16(a),(b)は熱伝導部材を配線基板に固定する従来の構成を示す図である。
【
図17】熱伝導部材が形成された本実施の形態例に係る配線基板に部品が実装された状態の一例を示す断面図である。
【
図18】
図18(a),(b)は配線基板と熱伝導部材の変形例1を示す図である。
【
図19】
図19(a)~(c)は配線基板と熱伝導部材の変形例2を示す図である。
【
図20】配線基板の貫通孔における熱伝導部材との当接構造に関する他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
<熱伝導部材について>
図1は、本発明の実施形態に係る熱伝導部材の全体構成を示す外観斜視図である。
図1に示す熱伝導部材10は、後述する配線基板に設けた貫通孔に挿入して使用される放熱用部材であり、円柱状の胴部3と、胴部3の両端部それぞれに連続して形成された鍔部1,2とを有し、熱伝導率の良い金属、例えば銅からなる。
【0017】
鍔部1,2は、平面部1a,2aを底面とする円錐それぞれを、所定の高さで底面と平行に切断して、頂点側の一部を取り除いた形状を有する。よって、鍔部1は、熱伝導部材10の一方端面となる平面部1a、および平面部1aと胴部3との間に位置する傾斜側面部1bを有する。同様に鍔部2は、熱伝導部材10の他方端面となる平面部2a、および平面部2aと胴部3との間に位置する傾斜側面部2bを有する。
【0018】
熱伝導部材10において鍔部1,2は、平面部1aと平面部2aとが平行な状態を維持し、かつ、
図1において一点鎖線で示すように、鍔部1,2が完全な円錐であると仮定したとき、A方向(配線基板の厚さ方向でもある)において、その頂点同士が接する位置関係にある。ここでは、頂点同士の接点を基準点Pとする。
【0019】
すなわち、
図1に示すように平面部1aの縁部(外周)の点と平面部2aの縁部(外周)の点とを結ぶ線分であって基準点Pを通る線分を、平面部1aと平面部2aの縁部のすべての点(a1~an,b1~bnとする)について求めたとき、それらの線分の軌跡が傾斜側面部1b,2bを形成する。換言すれば、熱伝導部材10において、平面部1aの縁部の点と平面部2aの縁部の点とを結ぶ線分は、基準点Pに集約されることになる。
【0020】
ここでは、熱伝導部材10の平面部1aと平面部2aは合同(形状と面積が同一)、あるいは相似(形状が同一で面積が異なる)であって、基準点Pを中心に反転する位置関係にある。なお、平面部1aと平面部2aは合同の場合、基準点Pが対称中心、あるいは反転中心となる。
【0021】
熱伝導部材10の外形寸法(サイズ)は、A方向(配線基板の厚さ方向)の高さL1が例えば3mmで、鍔部1,2の直径d1,d2が例えば8mmである。なお、胴部3のA方向の長さL2は、配線基板の厚さに対応可能な長さとする。また、水平断面形状が円形である胴部3の直径d3は、d1,d2より小さいが、熱伝導部材10を固定する配線基板の貫通孔の径(ビア径)に合わせて設定する。
【0022】
次に、本実施形態に係る熱伝導部材の温度変化による膨張あるいは収縮(伸縮挙動)について説明する。
図2は、本実施形態に係る熱伝導部材を挿入するための貫通孔が形成された配線基板を部分的に示している。また、
図3は、
図2に示す配線基板をX-X´矢視線に沿って切断したときの断面図である。なお、配線基板の詳細構成については、後述する。
【0023】
図2および
図3に示すように、配線基板5には、その上面部5aと下面部5b間を貫通する貫通孔7が形成されている。貫通孔7の内壁のうち、上面部5a側の開口端7aには、その縁部を周回する傾斜壁9aが形成されている。同様に、貫通孔7の下面部5b側の開口端7bには、その縁部を周回する傾斜壁9bが形成されている。傾斜壁9a,9bは、貫通孔7の中心に向けて所定角度で傾斜し、垂直壁8に繋る構成となっている。
【0024】
すなわち、
図3に示すように配線基板5を厚さ方向に2分する線eに対して対称となる2つの傾斜線(線分abと線分cd)を設けることで、これらの傾斜線の傾きと同じ傾斜角を有する傾斜壁9a,9bを形成する。ここで、線分abと線分cdの交点fは、
図1を参照して説明した2つの円錐の頂点同士の接点である基準点Pに相当する。
【0025】
傾斜壁9a,9bは、熱伝導部材10を貫通孔7に装着(固定)したとき、熱伝導部材10の鍔部1,2の傾斜側面部1b,2bが当接する部位である。よって、
図3において点線で示すように、傾斜壁9a,9bを含む面を側面とする円錐の頂角θは、
図1において一点鎖線で示す、傾斜側面部1b,2bを側面とする円錐の頂角と等しい。
【0026】
このように配線基板の傾斜壁と、熱伝導部材の鍔部の傾斜側面部とが同一の角度で傾斜しながら当接するので、温度サイクルがあっても熱伝導部材が配線基板に安定して固定される。
【0027】
図4(a)~(c)は、温度の上昇あるいは下降に伴う熱伝導部材の熱膨張・熱収縮挙動を説明するための図である。ここでは、配線基板の熱膨張係数が熱伝導部材の熱膨張係数よりも小さいとし(例えば、熱伝導部材が銅、配線基板がセラミックスの場合)、配線基板の膨張・収縮の挙動は無視して説明する(すなわち、膨張・収縮の挙動が大きい熱伝導部材を主体として説明する)。
【0028】
図4(a)は、基準温度T1(例えば常温25℃)のときの熱伝導部材10aの状態を示している。ここでは、熱伝導部材10aの鍔部11の傾斜側面部11aが配線基板5の傾斜壁9aに当接し、鍔部12の傾斜側面部12bが配線基板5の傾斜壁9bに当接するとともに、胴部13の外周面と配線基板5の垂直壁8との間に隙間g1が設けられている。
【0029】
よって、熱伝導部材10aは、鍔部11,12が配線基板の傾斜壁9a,9bに当接するとともに、胴部と配線基板の垂直壁との間に隙間g1を形成しながら、配線基板の貫通孔に固定される。
【0030】
図4(b)は、熱伝導部材の温度が上昇し、温度T2(例えば175℃)となったときの膨張の挙動を示している。また、
図4(c)は、熱伝導部材の温度が低下し、温度T3(例えば-55℃)となったときの収縮の挙動を示している。
【0031】
温度が上昇あるいは低下した場合、熱伝導部材10bは、膨張あるいは収縮によって全体の体積が一様に増加あるいは減少する。そのため、温度上昇時には、
図4(b)に示すように、胴部23の外周面と配線基板5の垂直壁8との間の隙間g2が狭くなる(g2<g1)。また、温度低下時には、
図4(c)に示すように、胴部33の外周面と配線基板5の垂直壁8との間の隙間g3が広くなる(g1<g3)。
【0032】
このように熱伝導部材10a~10cは、温度上昇・低下によって形状が相似で変化するため、温度が変化しても、円錐を基本形状とする鍔部の傾斜側面部が円錐の頂点となす角度(以降において単に傾斜角度ともいう)である、
図4(a)のθ1、
図4(b)のθ2、および
図4(c)のθ3は変化せず、これらの角度は、
図3に示す配線基板5の傾斜壁9a,9bによる円錐の頂角θと等しい。すなわち、温度が上昇あるいは低下して熱伝導部材の形状が変化しても、円錐の頂点となす角度は維持され、θ=θ1=θ2=θ3が成り立つ。
【0033】
上記のように、膨張した場合でも熱伝導部材の傾斜角度が変化しないことから、
図4(b)に示すように、温度上昇により膨張した熱伝導部材10bは、鍔部21の傾斜側面部21aが配線基板5の傾斜壁9aに当接し、鍔部22の傾斜側面部22bが配線基板5の傾斜壁9bに当接した状態で、胴部23の外周面と配線基板5の垂直壁8との間には隙間g2が形成される。
【0034】
また、収縮による傾斜角度の変化もないことから、
図4(c)に示すように、温度の低下により収縮した熱伝導部材10cにおいても、鍔部31の傾斜側面部31aが配線基板5の傾斜壁9aに当接し、鍔部32の傾斜側面部32bが配線基板5の傾斜壁9bに当接し、胴部33の外周面と配線基板5の垂直壁8との間には隙間g3が形成される。
【0035】
なお、上述した温度上昇・低下による形状の変化は、配線基板の熱膨張係数が熱伝導部材の熱膨張係数よりも大きい場合(例えば、熱伝導部材が銅、配線基板がガラス・エポキシ基板FR-4の場合)でも成り立つ。熱伝導部材の膨張・収縮の挙動は無視し、膨張・収縮挙動が大きい配線基板を主体として説明すると、
図4(b)は温度が低下して配線基板が収縮した時の図となる。また、
図4(c)は温度が上昇して配線基板が膨張した時の図となる。
【0036】
<熱伝導部材の変形例1>
本発明に係る放熱用部材としての熱伝導部材の形態(外観形状等)は、
図1等に示す例に限定されない。配線基板の貫通孔に固定された熱伝導部材の軸方向両端側にある2つの平面部(上面部および下面部ともいう)を平面視、すなわち軸方向から見たときの形状は、
図1に示す熱伝導部材10の平面部1a,2aのような円形に限定されない。
【0037】
すなわち、一方の平面部(上面部)の平面視形状と他方の平面部(下面部)の平面視形状とが相似または合同であり、上述した基準点(合同の場合は対称中心)に対して反転する関係にあれば、本発明の熱伝導部材としての成立条件を満たす。
【0038】
例えば、
図5(a)に示す熱伝導部材40は、鍔部41,42それぞれの平面部41a,42aの平面視形状が矩形(正方形あるいは長方形)であり、鍔部41,42は、正方形あるいは長方形を底面とする角錐の頂点同士が基準点P1で接する位置関係にある。
【0039】
よって、熱伝導部材40において、平面部41a,42aの外周にある点同士を結ぶ線分であって、基準点P1を通る線分の軌跡が傾斜側面部41b,42bを形成する。なお、熱伝導部材40において、鍔部41,42は角柱状の胴部43の両端部それぞれに連続して形成されているが、胴部43を円柱状にしてもよい。
【0040】
図5(b)に示す熱伝導部材44は、鍔部45,46それぞれの平面部45a,46aの平面視形状が角丸長方形であり、鍔部45,46は、角丸長方形を底面とする錐体の頂点同士が基準点P2で接する位置関係にある。ここでの角丸長方形とは、2本の等しい長さの平行線と半円形とからなる形状を指す。熱伝導部材44においても、平面部45a,46aの外周にある点同士を結ぶ線分であって、基準点P2を通る線分の軌跡が傾斜側面部45b,46bを形成する。
【0041】
なお、熱伝導部材44において、鍔部45,46は、断面形状が角丸長方形の柱状の胴部47の両端部それぞれに連続して形成されているが、胴部47を角柱状にしてもよい。また、平面部45a,46aの平面視形状は楕円でもよい。
【0042】
図5(c)の熱伝導部材48は、鍔部49,50それぞれの平面部49a,50aの平面視形状が三角形(正三角形、2等辺三角形を含む)であり、鍔部49,50は、三角形を底面とする三角錐の頂点同士が基準点P3で接する位置関係にある。ここでも、平面部49a,50aの外周にある点同士を結ぶ線分であって、基準点P3を通る線分の軌跡が傾斜側面部49b,50bを形成し、鍔部49,50が円柱状の胴部51の両端部それぞれに連続して形成されている。
【0043】
<熱伝導部材の変形例2>
熱伝導部材の形態(外観形状)については、上述したように、一方の平面部の平面視形状と他方の平面部の平面視形状が基準点(合同の場合は対称中心)に対して反転する関係にあり、かつ、配線基板に設けた貫通孔に挿入した際、熱伝導部材の胴部と貫通孔の内壁との間に隙間が形成される限り、熱伝導部材としての成立条件を満たす。
【0044】
熱伝導部材としての成立条件を満たす限り、例えば、
図6(a)~(c)の模式的な断面図に示すように、胴部の形状に特徴を有していてもよい。また、
図6(d)に示すように、熱伝導部材としての成立条件を満たせば、一方の鍔部36aと他方の鍔部36bの大きさが異なっていてもよい。
図6(d)に示す例では、鍔部36b側にヒートシンクを接続する場合、そのヒートシンクとの接続面積を大きく取ることができる。
【0045】
<熱伝導部材の変形例3>
例えば、
図7(a)~(c)に示すように、熱伝導部材の胴部の中心軸が垂直方向に対して傾いていてもよい。このように胴部の中心軸が傾いている熱伝導部材は、
図8に示す熱伝導部材39のように、配線基板35の表側と裏側で放熱経路がずれている、つまり、発熱部品37と熱伝導部材38が基板の垂直上下方向にない場合に対応できる。
【0046】
<熱伝導部材の変形例4>
さらには、
図9(a)の外観斜視図に示す熱伝導部材76のように、一方の鍔部77aの平面部77cと他方の鍔部77bの平面部77dが合同(同一形状(この例では円形)、かつ同一面積)で、平面視したとき、
図9(b)に示すように平面部77cと平面部77dが重ならず、ずれていても、以下のように熱伝導部材としての成立条件を満たす。
【0047】
すなわち、熱伝導部材76に対する0°方向の水平視(
図9(c))、45°方向の水平視(
図9(d))、90°方向の水平視(
図9(e))に示すように、いずれの角度から水平視しても、上下の鍔部77a,77bの傾斜壁を結ぶ直線(対角線)が基準点P4~P6を通り、かつ、これら対角線の交点である基準点P4~P6が垂直方向において同一の位置にある。よって、基準点P4~P6は同一の点(合同の場合は対称中心)である。
【0048】
<熱伝導部材の変形例5>
また、
図10(a)の外観斜視図に示す熱伝導部材78のように、一方の鍔部79aの平面部79cと他方の鍔部79bの平面部79dが相似(同一形状(この例では楕円)であって面積が異なる)で、それらの向きが基準点に対して反転する方向にある(楕円の長軸と短軸が同じ方向にある)が、平面視したときに、
図10(b)に示すように平面部79cと平面部79dがずれていても、以下のように熱伝導部材としての成立条件を満たす。
【0049】
すなわち、熱伝導部材78に対する0°方向の水平視(
図10(c))、45°方向の水平視(
図10(d))、90°方向の水平視(
図10(e))に示すように、いずれの角度から水平視しても、上下の鍔部79a,79bの傾斜壁を結ぶ直線(対角線)が基準点P7~P9を通り、かつ、これら対角線の交点である基準点P7~P9が垂直方向において同一の位置にある。よって、基準点P7~P9は同一の点である。
【0050】
<熱伝導部材としての成立条件を満たさない例>
上記の例に対して、熱伝導部材の一方の鍔部の平面部と他方の鍔部の平面部の形状が異なり(例えば一方が円形で、他方が矩形)、上下の鍔部の傾斜壁を結ぶ直線(対角線)の交点の位置が揃わない場合、あるいは、一方の鍔部の平面部と他方の鍔部の平面部が同一形状かつ面積が同一でも、それらの向きが基準点(合同の場合は対称中心)に対して反転する方向になく(楕円の場合、それぞれの平面の長軸と短軸が異なる方向にある)、対角線の交点の位置が揃わない場合、熱伝導部材としての成立条件を満たさない。
【0051】
上述した実施形態および変形例に係る熱伝導部材は、後述する配線基板に設けた貫通孔に挿入するため、その胴部の中央を水平方向に切断して得られる2つの金属部材を組み合わせて構成される。
図11は、
図1に示す熱伝導部材10を金属部材100a,100bの2つに分離した状態を示す。金属部材100a,100bは、配線基板の上面と下面それぞれから、胴部3a,3b側の端部3c,3dを対向させて配線基板の貫通孔に挿入され、それらを白抜き矢印方向に突き合わせて2部構造にすることで配線基板に熱伝導部材10が固定される。
【0052】
なお、
図11に示す熱伝導部材10において、金属部材100a,100bを貫通孔内で突き合わせる端部3c,3d(突き合せ面ともいう)の形状が平面状であるが、これに限定されない。以下、突き合わせ面の変形例を説明する。
【0053】
図12(a)は、突き合わせ面の変形例に係る熱伝導部材の断面を示す。この変形例に係る熱伝導部材53には、一方の金属部材53aの突き合せ面52aの中央部に凹状孔部54が設けられ、他方の金属部材53bの突き合せ面52bの中央部には、上記の凹状孔部54に嵌入可能な凸状突起部55が設けられている。
【0054】
このようにすることで、金属部材53a,53bを配線基板の貫通孔に差し込む際の相互の位置合わせが容易になり、貫通孔内における接合を確実に行うことができる。また、はんだ材などの接合剤を使用しなくても圧入することで貫通孔内における金属部材の接合を可能とすることができる。
【0055】
図12(b)は、突き合わせ面の他の変形例に係る熱伝導部材の断面を示す。この変形例に係る熱伝導部材57は、金属部材57a,57bのそれぞれの突き合せ面56a,56bに、はんだ材あるいはロウ材等の接合剤を収容可能な深さを有する陥没部58,59が形成されている。
【0056】
陥没部58の周縁部58a,58bと、陥没部59の周縁部59a,59bは、金属部材57a,57bが貫通孔内ではんだ接合等されたときに接合剤の漏れ止めとして作用する。金属部材57a,57bの胴部の高さH1,H2は、陥没部58,59に収容したはんだ材あるいはロウ材等の接合剤の表面張力で金属部材間が接着され、両金属部材の周縁部が密着しなくても、所定距離離れて保持された状態で接合、固定される高さとする。こうすることで、接合時において金属部材57a,57bの突き合せ面56a,56bの間に隙間ができるので、貫通孔内での金属部材57a,57b間のクリアランス調整が容易になる。
【0057】
図12(c)は、突き合わせ面のさらなる変形例に係る熱伝導部材の断面図である。この変形例に係る熱伝導部材61は、金属部材61a,61bと、それらの中間に配置される金属部材61cとで構成される。ここでは、金属部材61a,61bを同一形状とし、金属部材61cについては、その高さH3が異なる複数種類の部材を用意する。これにより、配線基板の厚さに応じて高さH3を有する金属部材61cを適宜選択することで、金属部材61a~61cを接合してなる熱伝導部材61を配線基板の厚さに合致させて形成できる。
【0058】
なお、
図12(c)において、金属部材61a,61cそれぞれの突き合せ面63,64の形状、および金属部材61b,61cそれぞれの突き合せ面66,65の形状は、
図12(b)に示す例と同様の形状としたが、これに限定されない。
【0059】
<配線基板について>
次に、上述した熱伝導部材が挿入される配線基板について説明する。
図13は、本発明の実施の形態例に係る配線基板の製造工程を時系列で示すフローチャートである。また、
図14および
図15(a)~(d)は、
図13の工程に対応する配線基板の断面構成を示している。
【0060】
図13のステップS11では、セラミックスグリーンシートに、例えば打抜き型等により、熱伝導部材を挿入するための貫通孔を形成する。ここでは、
図14に示すように、積層後の厚さが熱伝導部材の軸方向の長さとなる枚数(n枚とする)のグリーンシートを用意し、それらのうち最上層のグリーンシートG0と最下層のグリーンシートGn、および熱伝導部材の胴部に対応する部位のグリーンシートG8~Gn―8とを除くグリーンシート、すなわち、熱伝導部材の2つの鍔部それぞれに対応する部位となるおよびグリーンシートG1~G7,Gn-7~Gn-1に対して、配線基板の中心に向かうにしたがって漸次小径となる口径D1~D7,Dn-1~Dn-7の貫通孔を形成する。
【0061】
一方、熱伝導部材の胴部に対応する部位のグリーンシートG8~Gn―8については、
図4(b)を参照して説明したように、最高温度下においても熱伝導部材の胴部の外周面と配線基板の貫通孔の垂直壁との間に隙間が形成されるような直径(ビア径)の貫通孔を形成する。
【0062】
図14に示すように、最上層のグリーンシートG0と最下層のグリーンシートGnは、他層よりも貫通孔側に長く延びている。具体的には、グリーンシートG0,Gnそれぞれに隣接するグリーンシートG1,Gn-1の貫通孔側の端部から長さL1,L2だけ突出させて、口径がD0の貫通孔を形成する。L1,L2(L1=L2)は、グリーンシートG1~G8,Gn-1~Gn-8の先端部で形成される傾斜部分の長さL3,L4と等しい。
【0063】
続くステップS13において、ステップS11で貫通孔が形成された全層のグリーンシートを積層し、プレス等により等方圧を付与して圧着した後、焼成して、配線基板としてのセラミック多層基板を得る。圧着によりグリーンシートは未焼成ブロック体の形態となるが、このとき、最上層のグリーンシートG0と最下層のグリーンシートGnについては、貫通孔の周縁部分が、
図14の太線矢印で示すように陥没する。その結果、
図15(a)に示すように、熱伝導部材の鍔部それぞれに対応する部位のグリーンシートG1~G8,Gn-8~Gn-1の先端部表面に沿ってグリーンシートG0,Gnが積層され、なだらかな傾斜壁60a~60dが形成される。
【0064】
なお、配線基板72は、低温で焼成して得られる低温焼結型同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)多層回路基板であり、上述したグリーンシートの積層の際、例えば銀(Ag)からなる配線も同時に形成する。
【0065】
ステップS15において、貫通孔に一対の金属部材を挿入する。例えば
図15(b)に示すように、貫通孔75の上下方向から、
図11に示す金属部材100a,100bそれぞれを差し込む。その際、貫通孔75の上部および下部に形成された傾斜壁60a~60dに金属部材100a,100bの傾斜側面部1b,2bを当接させる。傾斜壁60a~60dの傾斜角と傾斜側面部1b,2bの傾斜角は同一であるため、これらを当接することで、上述したように、熱伝導部材10の側面と貫通孔75の内壁面との間に空隙が形成されるように金属部材100a,100bが位置決めされる。
【0066】
さらに、貫通孔75に金属部材100a,100bを挿入する際、金属部材100a,100bが貫通孔内で突き合う面である端部(突き合せ面)3c,3dの間に適量のはんだ材(リフローはんだ材)、あるいはロウ材を供給する。このとき、熱伝導部材10と貫通孔75の内壁間に空隙を確保し維持するため、供給するはんだ材等は、空隙に溢れ出ない量とする。
【0067】
ステップS17において、貫通孔に挿入した金属部材100a,100bを加熱し、あらかじめ供給したはんだ材、あるいはロウ材を溶融して金属部材100a,100bを相互に接着することで熱伝導部材10を形成する。ここでの加熱温度は、配線基板72に部品を実装する際のリフロー熱で接着が外れない、例えば300℃以上の温度とする。
図15(c)は、金属部材100a,100bがはんだ等の接合剤71により相互に接着された状態を示している。
【0068】
ステップS19ではめっき処理を行う。具体的には、
図15(d)に示すように、銅からなる熱伝導部材10の上面部と下面部それぞれに、例えば無電解ニッケル-金(Ni/Au)めっき73,74を施し、同様に、Ag電極である不図示の配線の表面にめっきを施す。これらの各工程を経て、配線基板72に熱伝導部材等が形成された配線基板を得る。
【0069】
なお、貫通孔内における金属部材の位置決め状態を維持しながら、上記ステップS17における金属部材100a,100bの加熱、接合工程を、配線基板の表面に実装した部品のはんだ付けと同時に行うようにしてもよい。これにより、熱伝導部材の形成工程を簡易化でき、熱伝導部材形成後における搭載部品のはんだ付けのための配線基板の再加熱が不要となる。
【0070】
また、熱伝導部材にめっき処理する必要がない場合には、上記ステップS13の処理後に基板表面電極にめっきを行い、ステップS19のめっき処理を省略してもよい。
【0071】
次に、上述した配線基板に設けた貫通孔に熱伝導部材を挿入することで得られる効果を、従来技術と対比して説明する。熱伝導部材を配線基板に固定する従来の構成では、例えば、
図16(a)に示すように、一方端部に鍔(フランジ)を設けて全体をリベット形状とした、熱伝導性の良好な金属からなる一対の部材81a,81bを、配線基板82に設けた貫通孔87に上下両サイドから差し込み、それらを接着して配線基板82を挟み込んで固定している。
【0072】
この従来の構成は、
図16(a)に示すように、鍔(フランジ)の底面と、それと同一方向に拡がる面からなる、貫通孔87の開口端周縁に形成した凹部88a,88bとが当接することから、鍔(フランジ)が凹部88a,88bに沿ってずれることがある。その結果、
図16(b)に示すように、部材81a,81bを接着してなる熱伝導部材81の固定時において、中心軸(二点鎖線で示す)が、配線基板82の貫通孔87の中心軸(一点鎖線で示す)から矢印方向へずれた状態で貫通孔87に固定される。
【0073】
このように熱伝導部材81が貫通孔87に対して位置ずれして固定されると、
図16(b)に示すように、鍔(フランジ)と凹部88a,88bとの間に隙間85a,85bができる。また、熱伝導部材が高温状態となって膨張した場合、鍔(フランジ)と凹部88a,88bとの当接による挟み込みに緩みが生じ、隙間の範囲で水平方向に動いてしまう可能性がある。
【0074】
これに対して、本実施形態に係る熱伝導部材の場合、例えば、
図4(a)等を参照して説明したように、熱伝導部材を配線基板の貫通孔へ固定するとき、一方の金属部材の鍔部の傾斜側面部が、それと傾斜角が同じ配線基板の傾斜壁に当接し、他方の金属部材の鍔部の傾斜側面部も、それと傾斜角が同じ配線基板の傾斜壁に当接しながら貫通孔へ挿入される。
【0075】
すなわち、これらの傾斜があることで、熱伝導部材の中心軸と配線基板の貫通孔の中心軸との位置合わせが可能となり、貫通孔の中心軸と一致する位置に熱伝導部材が固定され、熱伝導部材が一方に偏った状態で配線基板の貫通孔に固定されることがない。
【0076】
よって、本実施形態において熱伝導部材が位置ずれすることなく配線基板を挟み込んで固定され、温度変化によって熱伝導部材が膨張・収縮しても、傾斜側面部と傾斜壁との間に隙間の発生がなく、配線基板との当接が安定して維持され、熱伝導部材の配線基板への挟み込みの緩み、締め付けが発生しない。
【0077】
図17は、熱伝導部材が形成された本実施の形態例に係る配線基板に部品が実装された状態の一例を示す断面図である。
図17において、熱伝導部材10の上面部には、配線96とワイヤーボンディング95で結線された発熱部品91が搭載されている。また、配線基板86の下面には、金属製の放熱基板(ヒートシンク)97が接着されている。
【0078】
これより熱伝導部材10は、平面部1aの平滑性を保ちながら発熱部品91と広い接触面を確保できるので、発熱部品91から発せられた熱は、直ちに熱伝導部材10を介してヒートシンク97に伝導するため、効率的な放熱が可能となる。特に局所的な放熱を必要とする部品を搭載した配線基板としての用途が考えられる。
【0079】
次に、上述した実施形態に係る配線基板と熱伝導部材の変形例について説明する。
【0080】
<変形例1>
図18(a)は、平面視円形の部材と長尺矩形の部材とを合体した形状の金属部材101a,101bを、配線基板102の上下方向から、これらの金属部材の形状に合わせた貫通孔107に挿入する様子を示している。
【0081】
図18(b)は、金属部材101a,101bが貫通孔107内で突き合わして接着され、上述した熱伝導部材としての成立条件を満たす熱伝導部材103として貫通孔107内に固定された状態において、熱伝導部材103の上面には発熱部品105,106が載置されており、下面にも発熱部品(不図示)が載置された様子を示す。
【0082】
この例においても、熱伝導部材103がその成立条件を満たす形状を有するので、配線基板102に位置ずれすることなく固定できる。それにより、発熱部品105,106で発生した熱を、
図18(b)の矢印方向へ流す放熱モジュールを設計できる。
【0083】
<変形例2>
変形例2として、配線基板を2個の熱伝導部材で固定する例について説明する。
図19(a)は、配線基板202に所定距離離間して形成された2つの角丸長方形の貫通孔(長丸孔)207a,207bに、金属製(例えば、銅)の筐体210に所定距離離間して形成された金属部材201b,202bをそれぞれ挿入し、筐体210上に配線基板202を重ねて載置する様子を示している。
【0084】
筐体210に配線基板202を載置した後、配線基板の上面方向から金属部材201a,202aを貫通孔207a,207bそれぞれに挿入し、これらの貫通孔内で金属部材201aと201b、金属部材202aと202bをそれぞれ突き合わせて接着する。こうすることで、後述する熱伝導部材203,204を形成し、それらを貫通孔207a,207b内に固定する。
【0085】
図19(b)は、低温状態における熱伝導部材等の状態を示している。ここでは、配線基板の熱膨張係数が筐体(熱伝導部材を含む)の熱膨張係数よりも小さいとし(例えば、筐体が銅、配線基板がセラミックスの場合)、配線基板の膨張・収縮の挙動は無視して説明する(すなわち、膨張・収縮の挙動が大きい筐体を主体として説明する)。この場合、筐体210が収縮しても、貫通孔207a,207b内に固定された熱伝導部材203,204は、角丸長方形の貫通孔207a,207bの長軸線上の内側の箇所H1,H2それぞれに寄った位置において、熱伝導部材203,204の傾斜側面部と貫通孔207a,207bの傾斜壁とが線接触あるいは面接触で当接する。
【0086】
一方、高温状態となって筐体210が膨張した場合、
図19(c)に示すように、貫通孔内に固定された熱伝導部材203,204は、角丸長方形の貫通孔207a,207bの長軸線上の外側の箇所J1,J2それぞれに寄った位置において、熱伝導部材203,204の傾斜側面部と貫通孔207a,207bの傾斜壁とが線接触あるいは面接触で当接する。
【0087】
なお、上述した低温または高温状態における筐体と配線基板の挙動は、配線基板の熱膨張係数が筐体の熱膨張係数よりも大きい場合(例えば、筐体が銅、配線基板がガラス・エポキシ基板FR-4の場合)でも成り立つ。
【0088】
このように筐体上に、それとは熱膨張係数の異なる配線基板を2点固定する場合、配線基板に角丸長方形の貫通孔を形成して固定することで、温度が変化しても順応して固定位置が変化し、挟み込みの力が変化することなく安定した固定が可能となる。
【0089】
以上説明したように熱伝導部材の鍔部の傾斜側面部と、配線基板の貫通孔の開口端に形成した傾斜壁とが当接することで、温度変化によって発生する熱伝導部材の膨張・収縮による配線基板への挟み込みの緩み、締め付けが発生しない。また、傾斜側面部と傾斜壁との間に隙間が生じない。その結果、基板と熱伝導部材の熱膨張係数に差があっても、熱伝導部材の配線基板への安定した挿入状態が保持される。
【0090】
なお、配線基板の貫通孔における熱伝導部材との当接構造は、上述した実施形態およびその変形例に示した構造に限定されない。例えば、
図20の断面図に示すように、配線基板302の貫通孔7の上下開口端の周縁部それぞれに設けた溝状の凹部307a,307bと、熱伝導部材10とが当接する構造としてもよい。
【0091】
凹部307a,307bの縁部310a,310bは、貫通孔7の中心軸Cから一定距離離れながら周回する部位であって、貫通孔7に装着した熱伝導部材10の鍔部309a,309bと線接触する部位である。このように、傾斜側面部を有する熱伝導部材の鍔部309a,309bと、配線基板の貫通孔の開口端縁部に設けた凹部の一部を構成する縁部310a,310bとがそれぞれ線接触状態を維持する構成としても、温度変化による熱伝導部材の膨張・収縮による配線基板への挟み込みの緩み、締め付けが発生せず、熱伝導部材の配線基板への安定した挿入状態が保持される。
【符号の説明】
【0092】
1,2,11,12,21,22,31,32,41,42,45,46,49,50,77a,77b,79a,79b,309a,309b 鍔部
1a,2a,41a,42a,45a,46a,49a,50a,77c,77d,79c,79d 平面部
1b,2b,11a,12b 傾斜側面部
3,3a,3b,13,23,33,43,47,51 胴部
3c,3d,52a,52b,56a,56b,63~66 突き合せ面(突き合わせる端部)
5,35,58,72,86,202 配線基板
5a 上面部
5b 下面部
7,75,107,207a,207b 貫通孔
7a,7b 開口端
8 垂直壁
9a,9b 傾斜壁
10,38,39,40,44,48,76,78,203,204 熱伝導部材
100a,100b,101a,101b,201b,202b 金属部材
37,91 発熱部品
54 凹状孔部
55 凸状突起部
58,59 陥没部
58a,58b,59a,59b 周縁部
71 接合剤
73,74 無電解ニッケル-金(Ni/Au)めっき
95 ワイヤーボンディング
96 配線
97 ヒートシンク
210 筐体
307a,307b 凹部
g1~g3 隙間
G0~Gn グリーンシート
P,P1~P9 基準点