(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082136
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/46 20060101AFI20240612BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240612BHJP
B01J 20/16 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C01B33/46
B01J20/30
B01J20/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195885
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】末益 匠
(72)【発明者】
【氏名】脇田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩康
【テーマコード(参考)】
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4G066AA30B
4G066AA32A
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA33
4G066BA36
4G066CA43
4G066DA03
4G066FA05
4G066FA21
4G066FA34
4G066FA36
4G066FA37
4G073BA04
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA81
4G073BD03
4G073BD21
4G073CE01
4G073CM30
4G073FB19
4G073FB25
4G073FB36
4G073FC05
4G073FC22
4G073FC25
4G073FC30
4G073FD20
4G073FD21
4G073FD23
4G073GA01
4G073GA13
4G073GA14
4G073GA19
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】 本発明は、低湿度帯において優れた水蒸気吸着量を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
微分細孔容積が0.35~0.60ml/g、全細孔容積0.91~1.10ml/gである一般式aNa
2O・bSiO
2・Al
2O
3・nH
2Oで表される非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であり、aは0.07~0.35、bは1.42~2.70であることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oであらわされる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、a=0.07~0.35、b=1.42~2.70、細孔直径1~2nmの全領域におけるlog微分細孔容積が0.35~0.60ml/gであることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末。
【請求項2】
一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oであらわされる非晶質アルミノケイ酸塩粒子であって、a=0.07~0.35、b=1.42~2.70、全細孔容積が0.91~1.10ml/gであることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末。
【請求項3】
水溶性ケイ素原料とアルカリ原料を含む溶液を調整する第一工程、水溶性アルミニウム原料を添加し、添加時の溶液中のアルカリ原料由来のOH基のmol量に対するAlのmol量の比Al/OHが2.0~3.2、Si/Almol量の比が0.7~1.5で、且つpHが5.0~6.8に調整する第二工程、得られたスラリーを水洗と濃縮する第三工程、温度70~140℃で加熱処理を行う第四工程、スラリーをケーキ化した後、気流乾燥設備を用いて入口温度250℃~700℃で乾燥をする第五工程を有することを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対湿度30%以下の低湿度帯において優れた水蒸気吸着性能を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶質アルミノケイ酸塩は古くから非晶質の粘土鉱物と知られており、同時に水分子を吸着する量が多いことが知られている。
【0003】
工業的に合成が可能な非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の中でも水蒸気を始めとした極性ガスを吸着するのに優れた性能を有しているものが既存技術として存在している(特許文献1~3)。
【0004】
これらの非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、相対湿度(RH)に対して応答性の高い特徴的な吸着性能を有することが知られており、住環境などにおいて除湿目的で使用されてきている。
【0005】
一方で、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末に求められる吸着性能は多湿環境下に限られない。
【0006】
近年、ドライルーム製造装置等、相対湿度が10~30%RHのような低湿度帯から低露点空気を作るシステムへ好適な吸着材が求められている。
【0007】
ゼオライトやシリカゲルなどは、低湿度帯でも吸着特性を有する吸着材として従来から知られている。これらと比べて、非晶質アルミノケイ酸塩は、より低エネルギーで吸着した水蒸気を脱離させることができる低温再生性に優れることから再利用性に優れた材料として知られている。
【0008】
しかし、低湿度帯での高い水蒸気吸着性能を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末およびその高効率な製造方法は提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-179533号公報
【特許文献2】国際公開第2009/084632号
【特許文献3】特開2020-55699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3には工業的に合成された非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末に関する技術が開示されている。
【0011】
しかし、特許文献1および特許文献3記載の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、いずれも30%RH以下のような低湿度帯における水蒸気吸着量は十分ではない。
【0012】
特許文献2の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、二酸化炭素に対する優れた吸着性能を示している。しかしながら二酸化炭素は水に比べ分子サイズが大きく寄与する細孔サイズは大きいために、細孔サイズの小さい細孔に吸着される低湿度帯の水蒸気の吸着性能は十分でない。
【0013】
また、特許文献1~2に示されている製造方法では、水溶性ケイ素原料と水溶性アルミニウム原料を混合した時点でゲル化を引き起こしてしまい、効率的な製造は困難である。
【0014】
さらに、特許文献3に記載の合成方法は、170℃以上の高温反応を必要としており、生産コストの高い製造方法であるという問題点がある。
【0015】
以上より、30%RH以下の低湿度帯での良好な水蒸気吸着特性を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末に関する技術情報は提供されておらず、製造方法においても、工業的観点から高効率な製造方法が提供されていないという課題がある。
【0016】
本発明者らは、前記諸問題を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oであらわされる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、a=0.07~0.35、b=1.42~2.70、細孔直径1~2nmの全領域におけるlog微分細孔容積が0.35~0.60ml/gである非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を作成することに成功し、前記技術課題を解決したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0018】
本発明は、一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oであらわされる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、a=0.07~0.35、b=1.42~2.70、細孔直径1~2nmの全領域におけるlog微分細孔容積が0.35~0.60ml/gであることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末である。
【0019】
また本発明は、一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oであらわされる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末であって、a=0.07~0.35、b=1.42~2.70、全細孔容積が0.91~1.10ml/gであることを特徴とする非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末である。
【0020】
また本発明は、水溶性ケイ素原料とアルカリ原料を含む溶液を調整する第一工程、水溶性アルミニウム原料を添加し、添加時の溶液中のアルカリ原料由来のOH基のmol量に対するAlのmol量の比Al/OHが2.0~3.2、Si/Almol量の比が0.7~1.5で、且つpHが5.0~6.8に調整する第二工程、得られたスラリーを水洗と濃縮する第三工程、温度70~140℃で加熱処理を行う第四工程、スラリーをケーキ化した後、気流乾燥設備を用いて入口温度250℃~700℃で乾燥をする第五工程を有する非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、有する細孔の中でもマイクロ孔(1~2nm)のlоg微分細孔容積が高いため、低湿度帯の水蒸気吸着量に優れている。
【0022】
該粒子粉末は、低湿度帯における水蒸気吸着量が高いため、低露点空気を製造する設備において特に好適である。
【0023】
また、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法は、気流乾燥を用いることで従来の製造方法よりもプロセスコストを低減し、生産性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1で得られた非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の透過型電子顕微鏡による観察写真である。
【
図2】実施例1で得られた非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末のX線回折(XRD)プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0026】
先ず、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末について述べる。
【0027】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、その名の通り非晶質であり、元素の並びにほとんど周期性はない。化学構造は一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oで表わされる。ここで、一般式のAl2O3を1molとしており、aの値は非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末内に含まれるNa量により変化する値であり、bの値はケイバン比(SiO2/Al2O3のmol比)とも呼ばれており、また、前記一般式中のnは水蒸気吸着に応じて変化する係数でありH2Oは吸着水を表している。Si4+とAl3+は互いにO2-を共有する箇所が存在するため、Si4+周辺は電気的に中性であっても、Al3+周辺はマイナス1価として帯電している。そのため、Al3+周辺は電気的中性になるようM+イオンで補われる。該M+イオンは雰囲気によりイオン交換され、前記粒子の系外へ出されることもある。Mは特に限定はしないがナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の一般式において、aは0.07~0.35molである。0.07mol未満の場合、構造中にOH基の存在量が増え、前記粒子の表面の細孔を塞いでしまい、比表面積が低下する傾向にあるため好ましくない。0.35molを超える場合、吸着性能に大きな影響は及ぼさないが、粉体pHが高くなり、粒子の加工面で問題が生じやすくなるため好ましくない。より好ましくは、0.08~0.33molであり、更により好ましくは、0.09~0.32molである。
【0029】
本発明における非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末一般式Na2OのNaは、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末合成後にイオン交換で他の元素に置き換えることも可能である。その元素はLi、Mg、K、Ca、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Ag、Cs、Ba等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の一般式において、bは1.42~2.70molである。1.42mol未満の場合、得られる粒子において、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末より寧ろ規則的なギブサイト結晶構造を有するγ-Al(OH)3粒子が主体的になる。そのため、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の非晶質構造に由来していた細孔が少なくなり、全細孔容積が下がってしまう。2.70molを超える場合、得られる粒子において、非晶質シリカが主体的となり、吸着性能が下がってしまう。即ち、非晶質シリカと水蒸気の吸着性能の差がなくなってしまう。より好ましくは、1.50~2.60molであり、更により好ましくは、1.60~2.50molである。
【0031】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末はX線回折プロファイルにおいて結晶由来のピークがほとんど観測されない程度の非晶質性を示し、低結晶性であり、アロフェンに属すると言及できることが好ましい。更に好ましくは、カオリナイト又はハロイサイトの単位胞を1~30個並べた元素配列の周期性を示すことが好ましい。原子レベルな観点から述べると、AlO6八面体はギブサイト構造の八面体シート同様のハニカム状のシートを有し、また、SiO4四面体の3つのOを共有するカオリン鉱物由来のSiO4四面体シートと単量体のSiO4四面体を有している。
【0032】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の一次粒子の形状は、粒状又は板状が好ましい。また、該粒子の平均一次粒子径は1~50nmが好ましい。より好ましくは2~30nmである。
【0033】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の1~2nmの全領域におけるlog微分細孔容積は、0.35~0.60ml/gであり、より好ましくは0.37~0.58ml/g、さらに好ましくは0.38~0.56ml/gである。
【0034】
相対湿度10%~30%の領域において優れた吸着性能を発揮する多孔質吸着材において必要とされる細孔は、直径1~2nmのマイクロ孔である。そのため、マイクロ孔領域における細孔容積の大きい非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、低湿度帯(30%RH程度以下)の水蒸気吸着量が高くなる。本発明の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末はマイクロ孔の細孔容積が前記の通りであるので、低湿度帯における水蒸気吸着特性に優れる。
【0035】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の全細孔容積は、0.91~1.10ml/gが好ましく、より好ましくは0.92~1.08ml/g、さらに好ましくは0.93~1.06ml/gである。
【0036】
全細孔容積の大きさは、該粒子の細孔と極性ガスである水蒸気との接触確率に寄与するため、水蒸気吸着量へ影響を及ぼすと推察している。
【0037】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の全細孔容積が、0.91~1.10ml/gであれば水蒸気と粒子の接触確率が高くなることで高い水蒸気吸着速度と、高~中湿度帯の水蒸気だけに限らず、低湿度帯の水蒸気に対しても高い吸着性能が得られる。
【0038】
次に、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法について述べる。
【0039】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法は、水溶性ケイ素原料とアルカリ原料を含む溶液を調整する第一工程、得られた溶液に水溶性アルミニウム原料を添加によって、添加時の溶液中のAl/OHのmol比が2.0~3.2、Si/Alのmol比が0.7~1.5、且つpHが5.0~6.8に調整する第二工程、得られた混合スラリーを水洗と濃縮する第三工程、第三工程を経たスラリーを温度70~140℃で加熱処理を行う第四工程、スラリーをケーキ化した後、気流乾燥設備を用いて入口温度250℃~700℃で乾燥をする第五工程を有する。
【0040】
製造方法の第一工程で用いる水溶性ケイ素原料は、オルトケイ酸ナトリウム、水ガラス、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等を使用することができる。アルカリ原料は、炭酸アルカリ水溶液としては炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液等であり、水酸化アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。ここで、Siの量やOHの量は原料仕込みで決定している。但し、炭酸アルカリ水溶液の炭酸イオン1molの場合、OHの量は2molと見積もっている。水溶性ケイ素原料とアルカリ原料を含む溶液を混合し、調整する。
【0041】
製造方法の第二工程で用いる水溶性アルミニウム原料は、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等を使用することができる。第一工程で得られた水溶液に前記アルミニウム原料を混合することで、混合溶液を作製できる。該混合により、反応は開始し、混合溶液は混合スラリーとなる。
【0042】
製造方法の第二工程で用いる水溶性アルミニウム原料に対して10mol%以下の金属塩原料を混合して用いることが可能である。その金属元素はMg、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Y、Zr等を使用することができる。それぞれの元素の塩化物、硫酸塩、硝酸塩のどれでも良いが、水溶性の塩であることが好ましい。
【0043】
製造方法の第二工程の水溶性アルミニウム原料添加時混合溶液におけるAl/OHのmol比は、2.0~3.2であることが好ましい。2.0未満の場合、原料添加時に増粘やゲル化を引き起こし均一な反応をさせることが困難であり好ましくない。3.2を越える場合、後段の工程を経て得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の吸着性能が下がってしまうため好ましくない。より好ましいAl/OHのmol比は2.1~3.1、更に好ましくは2.2~3.0である。
【0044】
製造方法の第二工程の水溶性アルミニウム原料添加時混合溶液において、Si/Alのmol比は0.7~1.5であることが好ましい。0.7未満であると第四工程を経た時点で結晶性のアルミノシリケートが生じて吸着量や全細孔容積が下がるため好ましくない。1.5を超えると、全細孔容積の低い非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が得られるため好ましくない。より好ましくはSi/Alのmol比が0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3である。
【0045】
製造方法の第二工程で行うpH調整は、前述の全原料添加後に行う必要がある。pH調整用の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、酢酸等を使用することができる。pH調整用のアルカリとしては、炭酸アルカリ水溶液の場合、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液等であり、水酸化アルカリ水溶液の場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。調整後のpHの範囲は5.0~6.8であることが好ましい。調整するpHが5.0未満、或いは6.8を超える場合、後段で得られる粒子の全細孔容積は低下し、水蒸気吸着性能も低下する。より好ましいpHは5.1~6.7、更により好ましくは5.2~6.6である。pH調整後の反応時間は10分~3時間が好ましい。反応時間の目安はpHが安定する時間であり、長時間放置しても、得られる粒子の性能に大きな影響は及ぼさない。より好ましくは、15分~2時間30分である。
【0046】
第一工程で言及した通りの原料の添加順や添加量を調整することによって、第二工程で得られる混合スラリーの増粘やゲル化を防ぐことができる。本発明の第二工程において、原料の混合スラリーの固形分濃度は50~110g/Lであることが好ましい。この範囲であれば、混合スラリーの増粘やゲル化を引き起こすことなく、第三工程であるスラリー水洗と濃縮のためのタンク移送等も可能である。該固形分濃度は、スラリーを乾燥し、得られる固形分重量を前記乾燥前のスラリーの体積で割った値である。
【0047】
製造方法の第三工程のスラリー水洗の終点は、濾液の電気伝導度で計測するのが好ましい。該終点時の電気伝導度の値は50μS/cm~800μS/cmが好ましい。50μS/cm未満は到達するまでに時間が長くかかるため好ましくない。800μS/cmより大きい場合は後段の工程を経て得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の吸着性能が下がってしまうため好ましくない。
【0048】
製造方法の第三工程のスラリー水洗によって、混合スラリーのpHを5.5~9.0に調整することが好ましい。pHが5.5未満の場合、または9.0より大きい場合は後段の工程を経て得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の吸着性能が下がってしまうため好ましくない。より好ましくはpH5.6~8.8、さらにより好ましくはpH5.7~8.6である。
【0049】
製造方法の第三工程の濃縮後、スラリーの粘度は1~400mPa・sの範囲であることが好ましい。1mPa・s未満の場合、低濃度のスラリーとなり、1バッチ当り得られる粒子の量は少なく、生産性の観点から好ましくない。400mPa・sを超える場合、ハンドリング性の高いスラリーとは言い難い。より好ましくは10~350mPa・sの範囲である。
【0050】
製造方法の第四工程のスラリー中の固形分濃度は第三工程の水洗と濃縮によって調整することができる。第三工程で得られるスラリー中の固形分濃度は80~300g/Lが好ましい。ここで、スラリー濃度とは、第四工程後のスラリーを乾燥し、得られる固形分重量を前記乾燥前のスラリーの体積で割った値である。80g/L未満では第四工程の反応濃度が低く生産効率が悪くなるため好ましくない。300g/Lより高濃度ではスラリーの流動性が悪くなり、第三から第四工程の設備へスラリーを移送できないため好ましくない。より好ましくは85~280g/L、さらに好ましくは90~260g/Lである。
【0051】
製造方法の第四工程の反応温度は70~140℃であることが好ましい。70℃未満の場合、得られる粒子の特性を満たすために、反応処理の時間が、昇温時間と冷却時間を足し合わせた時間より長くなってしまい、粒子の単位時間当りの生産効率が落ちてしまうため好ましくない。140℃より高い場合、高温反応による微粒子化が進み後段の含水ケーキを作製する際のろ過効率が悪化してしまい生産効率面で好ましくない。より好ましい加熱処理温度は75~135℃、更に好ましい加熱処理温度は80~130℃である。
【0052】
製造方法の第四工程の反応時間は1時間~6時間が好ましい。1時間未満の場合は得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の吸着性能が下がってしまうため好ましくない。6時間より長い場合は第一工程~第四工程での処理が24時間サイクルで回すのが困難となり、生産レート低下につながるため好ましくない。より好ましい加熱処理時間は2~6時間である。第四工程によりスラリーをケーキ化できる。
【0053】
製造方法の第五工程の乾燥工程では、気流乾燥設備を用いることにより、粉末状の非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を得ることができる。気流乾燥を用いることで連続的に粒子に対して高い熱をかけ短時間で水を脱着させることにより、全細孔容積および細孔径が1~2nm程度の小さな細孔(マイクロ孔)を多く形成することができるため、気流乾燥は乾燥方法として好ましい。
【0054】
第五工程の気流乾燥設備は、導入されるケーキを粉砕しつつ、入口温度250℃~700℃の気流を乾燥エリアに導入する装置が好ましい。入口温度は、より好ましくは270℃~650℃、さらにより好ましくは300℃~600℃である。
気流導入温度は250℃未満であると乾燥レートが悪化することに加え、得られる非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の含水率が高くなってしまうため好ましくない。700℃より大きい場合、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末捕集に用いるバグフィルターへの熱による負荷が大きく、破損の原因となるため好ましくない。
【0055】
第五工程の気流乾燥後の品温である乾燥品温は、設備出口にて測定している。乾燥品温は、110~140℃が好ましい。110℃未満であると乾燥物の含水率が10重量%(wt%)以上となってしまい、水分型となるため好ましくない。140℃を超えると装置に取り付けてあるバグフィルターの耐熱性能の上限に近くなり、バグフィルター破損の原因となってしまうため好ましくない。
【0056】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、1~2nmのマイクロ孔のlоg微分細孔容積が大きく、それに伴い相対湿度30%RH以下の低湿度帯において水蒸気吸着量が高くなる。また、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の製造方法では、マイクロ孔の細孔容積が大きなものを得ることができる。
【0057】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、乾燥工程において含水ケーキ中の水分を瞬間的に乾燥させることによって全細孔容積および細孔直径1~2nmの全領域におけるlog微分細孔容積が従来の非晶質アルミノケイ酸塩粒子より多く生成すると推測している。
【実施例0058】
本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
試料のNa、Si、及びAlの含有量測定に、蛍光X線分析装置RigakuRIX2100を用いた。各々、Na2O、SiO2、及びAl2O3とみなした。
【0060】
試料の細孔径(1.0nm、1.5nm、2.0nm)毎のlog微分細孔容積および全細孔容積の測定に用いた装置は全自動ガス吸着量測定装置Quantachrome.Co製AS―iQを用いた。前処理は測定サンプルセル内で真空に減圧しつつ、100℃,6h以上真空脱気をした。吸着ガスには窒素を用いている。測定温度は77.3K、測定相対圧(p/p0)は1×10―7~1である。
【0061】
試料の平均一次粒子径は透過型電子顕微鏡JEM-F200(日本電子(株)製)で測定して求めた。約50個の代表的な粒子から平均一次粒子径を見積もった。
【0062】
試料の結晶相の同定にXRD装置D8ADVANCE(BRUKER製)(管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:40mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.010°、走査速度:6°/min、発散スリット:0.2°、受光スリット:0.03mm)を使用した。
【0063】
試料の水蒸気吸着量はマイクロトラック・ベル(株)製ベルソープaqua3を用いて測定した。測定サンプルは試料フォルダーに充填後、予め真空ポンプで減圧した。同時に、該フォルダーを温度120℃で2.5時間加熱をし、フォルダー内圧が10-2kPaまで減圧したことを確認した。その後、窒素置換を行ったものを用い、相対湿度をパラメータとして、温度25℃にて水蒸気吸着量を測定した。
【0064】
試料製造時のスラリーの粘度はE型粘度計(東機産業(株)製TVE-35H)を用いて、回転数50rpmで測定した。
【0065】
電気伝導度の測定は、アズワン(株)製防水ポータブル伝導率メーターAS710を用いて行った。
【0066】
(実施例1)
内容積800Lの反応容器中に、Siとして5.0mol/Lの3号ケイ酸ナトリウム溶液120Lを投入した後、10NのNaOH溶液を25L追加して撹拌して第一工程を終了した。
【0067】
次に、400Lの供給用タンクにAlとして2.0mol/Lの塩化アルミニウム溶液295Lを準備した。該塩化アルミニウム溶液を前述の反応容器に添加しながら撹拌し、295Lすべて混合した。原料混合後のSi/Al比は1.02、Al/OHモル比は2.36であった。ここでOHは第一工程で添加したNaOHの仕込み値である。
【0068】
その後、混合溶液を50℃に昇温して、pHを測定した。pHが4.31であったので、6NのNaOH溶液をpH6.0になるまで添加して、反応を進行させた。pH値が6.0±0.1の範囲で30分安定した時点で第二工程を終了した。
【0069】
得られた混合スラリーを温度50℃でフィルターシックナーを用いて水洗した。ろ液の電気伝導度が500μS/cm以下になるまで水洗し、スラリーを530Lまで濃縮した時点で第三工程を終了した。該濃縮スラリーのpHは6.6、スラリーの固形分濃度は110g/L、粘度は17mPa・sであった。
【0070】
第三工程で得られたスラリーを容積800Lの反応槽に移送し、95℃に保持したスラリーを4時間かけて加熱処理を行った。その後、放冷して第四工程を終了した。
【0071】
第四工程で得られたスラリーをプレスフィルタにてろ過を行った。ろ液が止まるのを確認し、プレスフィルタへの導入を止め含水ケーキを取り出した。含水ケーキを110℃、16hで箱型乾燥機にて乾燥させた結果、含水率は27%WB(ウェットベース)であった。
【0072】
得られた含水ケーキをホソカワミクロン製ドライマイスタにスクリューフィーダーを用いて導入した。ドライマイスタの入口温度は400℃、乾燥品温は140℃に調整し第五工程を終了した。結果、非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末が得られた。乾燥レートは37kg/hであった。
【0073】
得られた非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の全細孔容積は、0.96ml/gであった。蛍光エックス線分析での元素含有量と強熱減量の測定値から、一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oのa、bを算出したところ、各々、0.13、1.98であった。
【0074】
得られた試料のTEM写真を
図1に示す。5nm程度の一次粒子が強く凝集体を形成していた。また、
図2に得られた試料のXRDプロファイルを示すように、Haloピークも含んでいた。従って、試料は非晶質であり、TEMの一次粒子サイズからもアロフェンとみなした。XRDプロファイルの2θとして、26°、40°付近にブロードなピークが確認できる非晶質のアルミノケイ酸塩であった。
【0075】
(実施例2~4)
第二工程における水溶性アルミニウムの種類・仕込み比、及びpH、並びに第三工程における固形分濃度・pH・粘度、第四工程における反応温度と時間、第五工程における乾燥入口温度・乾燥品温を表1記載のとおり種々変化させた以外は、実施例1と同様にして非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を得た。
【0076】
(比較例1~3)
第二工程における水溶性アルミニウムの種類・仕込み比、及びpH、並びに第三工程における固形分濃度・pH・粘度、第四工程における反応温度と時間を表1記載のとおり種々変化させた以外は、実施例1と同様にして非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末を得た。第五工程においては比較例1、2についてはスラリーのチクソトロピー性が高く、かつろ過効率が悪いためプレスフィルタでのろ過が不可能であったため、濃縮スラリーをバットに取り箱型乾燥機で温度110℃、24時間で乾燥させた。比較例3は、含水ケーキをバットに取り箱型乾燥機で温度110℃、24時間で乾燥させた。
【0077】
表2に実施例1~4と比較例1~3で得られた非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末の一般式aNa2O・bSiO2・Al2O3・nH2Oのa、b値、平均一次粒子径、log微分細孔容積、全細孔容積および水蒸気吸着量の評価結果を示す。
【0078】
log微分細孔容積は、測定ポイント間の細孔容積の増加分を取った微分細孔容積dVを、細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値で求められる数値であり、粒子が有する細孔容積の測定範囲間の変化を表す値である。本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、表2に示す通り、細孔直径1nm、1.5nm、2nmすなわち細孔直径1~2nmの全領域においてlog微分細孔容積が0.35~0.60ml/gである。よって低湿度帯における水蒸気吸着特性に優れる。
【0079】
また、全細孔容積とは粒子が有するすべての細孔の容積の合計値であり、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、表2に示す通り全細孔容積0.91~1.10ml/gである。よって、低湿度帯における水蒸気吸着特性に優れる。
【0080】
相対湿度は%RHを単位として示し、本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、10%RHの水蒸気吸着量において従来品値の13.1wt%よりも高く、30%RHにおける水蒸気吸着量も従来品値の22.7wt%よりも高かったことから、従来品よりも水蒸気吸着特性に優れていると言え、特に低湿度帯における水蒸気吸着特性に優れていると言える。
【0081】
【0082】
本発明に係る非晶質アルミノケイ酸塩粒子粉末は、低湿度帯における水蒸気吸着量に優れる。従って、リチウムイオン電池製造設備や半導体製造設備等に必要とされるドライルーム製造装置等に使用される水蒸気吸着材として好適であり、低露点空気を製造する設備等、多用途に利用できる。また、水蒸気同様、極性ガスに対しても優れた吸着材としての利用が見込まれる。
また、本発明に係る粒子の製造方法は、高効率な気流乾燥方法を用いることで生産性の向上に寄与する。