(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082146
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】冷却システムの制御方法及び冷却システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240612BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240612BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20240612BHJP
H01L 23/34 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H05K7/20 P
H01L23/46 Z
H01L23/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195899
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 利武
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
5H770
【Fターム(参考)】
5E322AA05
5E322AB10
5E322DA01
5E322DA04
5E322EA10
5E322FA01
5F136CB06
5F136CB13
5F136CB27
5F136DA27
5F136HA01
5H770AA21
5H770EA01
5H770HA06X
5H770PA12
5H770PA42
(57)【要約】
【課題】電動ウォーターポンプを適切に制御できる冷却装置の制御方法を提供する。
【解決手段】
電力変換装置10のスイッチング素子12を冷却する冷却水が流通する冷却水流路15と、冷却水流路15に冷却水を循環させる電動W/P47と、スイッチング素子12及び電動W/P47の動作を制御する制御部(110、200)と、を備える冷却システムの制御方法であって、スイッチング素子12を動作させて素子温度を上昇させる素子温度上昇処理を所定時間実行し、素子温度上昇処理の実行によるスイッチング素子12の温度上昇値ΔTを取得し、取得した温度上昇値ΔTに基づいて、冷却水の溶質に対する溶媒の混合比を推定し、推定された混合比に基づいて、電動W/P47の駆動力を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置のスイッチング素子を冷却する冷却水が流通する冷却水流路と、前記冷却水流路に前記冷却水を循環させる電動ウォーターポンプと、前記スイッチング素子及び前記電動ウォーターポンプの動作を制御する制御部と、を備える冷却システムの制御方法であって、
前記スイッチング素子を動作させて素子温度を上昇させる素子温度上昇処理を所定時間実行し、
前記素子温度上昇処理の実行による前記スイッチング素子の温度上昇値を取得し、
取得した前記温度上昇値に基づいて、前記冷却水の溶質に対する溶媒の混合比を推定し、
推定された前記混合比に基づいて、前記電動ウォーターポンプの駆動力を設定する、
冷却システムの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却システムの制御方法であって、
推定された前記混合比に基づいて、前記電動ウォーターポンプを駆動するためのPWM信号のデューティー比を決定する、
冷却システムの制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の冷却システムの制御方法であって、
前記素子温度上昇処理前の前記スイッチング素子の処理前温度と、前記素子温度上昇処理後の前記スイッチング素子の処理後温度とから前記温度上昇値を取得し、
取得した前記温度上昇値が大きいほど、前記冷却水の混合比が大きいと推定する、
冷却システムの制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の冷却システムの制御方法であって、
前記素子温度上昇処理前における冷却水温と前記スイッチング素子の処理前温度との差分値と、前記素子温度上昇処理後における冷却水温と前記スイッチング素子の処理後温度との差分値と、から前記温度上昇値を取得し、
取得した前記温度上昇値が大きいほど、前記冷却水の混合比が大きいと推定する、
冷却システムの制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の冷却システムの制御方法であって、
前記素子温度上昇処理前の冷却水温と、前記素子温度上昇処理後の処理後温度との差分値から前記温度上昇値を取得し、
取得した前記温度上昇値が大きいほど、前記冷却水の混合比が大きいと推定する、
冷却システムの制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の冷却システムの制御方法であって、
前記冷却水の溶質に対する溶媒の混合比の推定に失敗した場合は、予め設定された最大の混合比に基づいて、前記電動ウォーターポンプの駆動力を設定する、
冷却システムの制御方法。
【請求項7】
請求項1に記載の冷却システムの制御方法であって、
前記冷却システムは、車両に搭載され、
前記車両を駆動する回転電機を備え、前記スイッチング素子から供給される電力により前記回転電機が駆動されるよう構成され、
前記素子温度上昇処理は、前記回転電機に対してd軸電流のみを流し、q軸電流が流れないように制御して、前記回転電機を駆動させることなく前記スイッチング素子をスイッチングさせて、前記スイッチング素子の温度を上昇させる、
冷却システムの制御方法。
【請求項8】
電力変換装置のスイッチング素子を冷却する冷却水が流通する冷却水流路と、前記冷却水流路に前記冷却水を循環させる電動ウォーターポンプと、前記スイッチング素子の動作を制御するスイッチング素子制御部と、前記電動ウォーターポンプの駆動力を制御する電動ウォーターポンプ制御部と、を備える冷却システムであって、
前記スイッチング素子制御部は、
前記スイッチング素子を動作させて素子温度を上昇させる素子温度上昇処理を所定時間実行し、
前記素子温度上昇処理の実行による前記スイッチング素子の温度上昇値を取得し、
取得した前記温度上昇値に基づいて、前記冷却水の溶質に対する溶媒の混合比を推定し、
前記電動ウォーターポンプ制御部は、
推定された前記混合比に基づいて、前記電動ウォーターポンプを駆動するためのPWM信号のデューティー比を決定し、
決定されたデューティー比に基づいて、前記電動ウォーターポンプの駆動力を設定する、
冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却システムの制御方法及び冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子を備える電力変換装置(インバータ装置)では、スイッチング素子を冷却する冷却装置が備えられる。冷却装置は、例えば冷却水が循環する冷却水流路を備え、冷却水流路を循環する冷却水により、スイッチング素子が冷却される。
【0003】
特許文献1には、負荷(回転電機)に電力を供給するインバータ装置の冷却装置において、回転電機により消費される電力損失に応じて媒体の供給量を決定する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
水とエチレングリコールとの混合液からなる不凍液を冷却水として用いる場合、不凍液の混合比(エチレングリコールの濃度)によって、不凍液の粘度及び熱伝導率が変化する。従来、不凍液を循環させる電動ウォーターポンプの動作は、不凍液の混合比の変化を考慮することなく、使用される環境で想定される最も大きい混合比に対応する駆動力で動作させていた。このため、混合比が小さい場合は、粘度が低くなり電動ウォーターポンプが循環させる冷却水の流量が過大となるため、冷却効率を確保するための流量以上に電動ウォーターポンプが冷却水を循環させることになる。また、冷却水の熱伝達率が高くなることから、より冷却効率が大きくなる。これにより、冷却効率を確保するために必要な駆動力以上に電動ウォーターポンプを駆動することになり、その分の消費電力が無駄となっていた。
【0006】
本発明は、冷却水の溶質の混合比を推定し、推定した混合比に基づいて電動ウォーターポンプを適切に制御できる冷却システムの制御方法及び冷却システムを提供することを目的とする。
【0007】
本発明のある態様は、電力変換装置のスイッチング素子を冷却する冷却水が流通する冷却水流路と、冷却水流路に冷却水を循環させる電動ウォーターポンプと、スイッチング素子及び電動ウォーターポンプの動作を制御する制御部と、を備える冷却システムの制御方法に適用される。この制御方法では、スイッチング素子を動作させて素子温度を上昇させる素子温度上昇処理を所定時間実行し、素子温度上昇処理の実行によるスイッチング素子の温度上昇値を取得し、取得した前記温度上昇値に基づいて、冷却水の溶質に対する溶媒の混合比を推定し、推定された前記混合比に基づいて、電動ウォーターポンプの駆動力を設定する。
【0008】
本発明によれば、スイッチング素子を動作させて温度上昇させることで冷却水の水温が上昇することを利用して、取得した温度上昇値により冷却水の混合比を推定し、推定された混合比に基づいて電動ウォーターポンプの駆動力を設定するので、混合比により異なる粘度及び熱伝導率に対応するように電動ウォーターポンプを駆動させることができる。これにより、電動ウォーターポンプの駆動力を必要かつ最小限とすることができ、電動ウォーターポンプの消費電力を適切とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の冷却装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、インバータ制御装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、車両コントローラのブロック図である。
【
図4】
図4は、車両コントローラの制御のフローチャートである。
【
図5】
図5は、インバータ制御装置の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置10を備える冷却システム1の説明図である。
【0012】
冷却システム1は、インバータ装置(電力変換装置)10、車両コントローラ20、駆動モータ30及び冷却装置40を備える。
【0013】
冷却システム1は、車両に搭載され、電力変換装置10が出力する電力により駆動モータ30を駆動することで車両を走行させる際に、電力変換装置10及び駆動モータ30で発生した熱を冷却する。
【0014】
電力変換装置10は、図示しないバッテリから供給された電力を駆動モータ30の駆動に適した周波数及び電圧に変換して、駆動モータ30に供給する。電力変換装置10は、車両の減速時には、駆動モータ30の回生電力を受けてバッテリを充電する。
【0015】
電力変換装置10は、インバータ制御装置11、スイッチング素子12、回路基板13、冷却プレート14及び冷却水流路15を備える。
【0016】
インバータ制御装置11は、スイッチング素子12にゲート信号を送信することでスイッチング素子12の動作を制御して、駆動モータ30に供給する電力を制御する。インバータ制御装置11は、スイッチング素子12に内蔵されている温度センサから素子温度を取得する。また、インバータ制御装置11は、冷却水入口31Aに備えられる水温センサ16から冷却水の水温を取得する。
【0017】
電力変換装置10は、スイッチング素子12を制御して、駆動モータ30に三相交流電流を供給する。電力変換装置10は、U相、V相、W相それぞれに対応した少なくとも3つのスイッチング素子12を備えて構成される。なお、
図1では一つのスイッチング素子12のみが示されている。
【0018】
回路基板13は、表面にスイッチング素子12を実装する。回路基板13の裏面には、回路基板13及びスイッチング素子12を冷却する冷却プレート14が配置される。冷却プレート14は、冷却水が流通する冷却水流路15に面する。これら回路基板13及び冷却プレート14は、熱伝導率が高い材質、例えばアルミニウムにより構成される。
【0019】
冷却水流路15は、冷却水が流通する空間を備えたケース17により構成され、このケース17の上面が冷却プレート14により覆われることで流路として構成される。冷却水流路15に面する冷却プレート14の下面には多数の突起が形成されており、冷却プレート14と冷却水との間で熱交換が促進される。
【0020】
冷却水流路15は、冷却水入口31A及び冷却水出口31Bを備え、それぞれが配管46に接続する。冷却水入口31Aには、冷却水の水温を検出する水温センサ16が備えられる。
【0021】
車両コントローラ20は、運転者のアクセル操作及び車両の状態に基づいて、駆動モータ30の出力を決定し、決定した出力で駆動モータ30が駆動されるように、電力変換装置10に信号を送信する。また、車両コントローラ20は、後述するように、電動ウォーターポンプ47を制御して、冷却装置40の冷却水を循環させる。
【0022】
冷却装置40は、ラジエータ45、配管46及び電動ウォーターポンプ(以下、「電動W/Pとも称する」)47を備える。冷却装置40は、電動W/P47の駆動により配管46に冷却水が循環することで、配管46に接続される電力変換装置10及び駆動モータ30を冷却する。
【0023】
配管46は、電力変換装置10、駆動モータ30、ラジエータ45及び電動W/P47に接続される。ラジエータ45は、大気と冷却水との間で熱交換を行うことで、冷却水の温度を低下させる。配管46の一端は、電力変換装置10の冷却水流路15の冷却水入口31Aに接続し、他端は、電力変換装置10の冷却水流路15の冷却水出口31Bに接続する。
【0024】
電動W/P47から吐出された冷却水は、配管46を介して電力変換装置10の冷却水流路15に流入し、スイッチング素子12を冷却する。冷却水流路15から出た冷却水は、配管46を介して駆動モータ30に流入し、駆動モータ30を冷却する。駆動モータ30から出た冷却水は、ラジエータ45に流入し、その温度が低下させられる。ラジエータ45を出た冷却水は、再び電動W/P47により配管46を循環する。
【0025】
本実施形態の冷却水は、溶媒を水とし、溶質をエチレングリコールとした混合液からなる不凍液により構成される。不凍液(冷却水)の水に対するエチレングリコール(不凍性分)の割合(以下、「混合比」と呼ぶ)は、規定の混合比(例えば一般地向けが30%、寒冷地向けが50%)に設定され、そのように混合された不凍液が、工場出荷時に冷却装置40に充填される。
【0026】
次に、電力変換装置10及び車両コントローラ20の構成を説明する。
【0027】
図2は、電力変換装置10のインバータ制御装置11の構成ブロック図である。インバータ制御装置11は図示しないコントローラを備えている。コントローラは予めプログラムを記憶しており、コントローラがプログラムを実行することによって、
図2に示す各構成及び
図5に示す制御が実現される。
【0028】
インバータ制御装置11は、制御部110、通信部111、ドライバ部112、素子温度取得部113、水温取得部114及び混合比推定部115を備える。
【0029】
通信部111は、車両コントローラ20との間で情報を送受信する。ドライバ部112は、車両コントローラ20からの要求に基づいて、スイッチング素子12をスイッチングさせるためのゲート信号を生成し、生成したゲート信号をスイッチング素子12に送る。
【0030】
素子温度取得部113は、スイッチング素子12に備えられる温度センサから、スイッチング素子12の素子温度を取得する。前述のように電力変換装置10は複数のスイッチング素子12を備えるが、素子温度取得部113は、そのうちの一つのスイッチング素子12の素子温度を取得するように構成されていてもよいし、複数のスイッチング素子12の温度センサの平均値を素子温度として取得するよう構成されていてもよい。さらに、水温取得部114は、水温センサ16から冷却水の水温を取得する。
【0031】
混合比推定部115は、スイッチング素子12の素子温度の検出結果に基づいて、冷却水の混合比を推定する。推定された混合比は、通信部111を介して、車両コントローラ20に送られる。制御部110は、これら各部の動作を制御する。
【0032】
図3は、車両コントローラ20の構成ブロック図である。車両コントローラ20は図示しないコントローラを備えている。コントローラは予めプログラムを記憶しており、コントローラがプログラムを実行することによって、
図3に示す各構成及び
図4に示す制御が実現される。
【0033】
車両コントローラ20は、制御部200、通信部201、車両状態取得部202、電動W/P制御部203及びデューティー比算出部204を備えて構成される。
【0034】
通信部201は、インバータ制御装置11との間で情報を送受信する。車両状態取得部202は、運転者の操作、例えばパワースイッチのオンオフやアクセルペダル、ブレーキペダルの踏み込み量、車速等を取得する。電動W/P制御部203は、電動W/P47に供給する電力をディーティ比に応じてPWM制御する。デューティー比算出部204は、インバータ制御装置11が算出した冷却水の混合比に基づいてデューティー比を算出する。制御部200は、これら各部の動作を制御することで、電動W/P47の駆動力を制御する。
【0035】
次に、このように構成された冷却システム1において、電動W/P47の制御について説明する。
【0036】
冷却水として用いられる不凍液は、溶媒としての水と、溶質としてのエチレングリコールとの混合液である。エチレングリコールは、水と比較して粘度が大きく熱伝達率が小さいという特性がある。この特性により、不凍液は、エチレングリコールの混合比が大きいほど粘度が大きくなり、熱伝達率が小さくなる。そのため、冷却水の冷却プレート14に対する冷却効率は、混合比が大きくなるほど低くなる。
【0037】
冷却装置40に充填される冷却水の混合比は、工場出荷時は規定の混合比であるが、メンテナンス等で冷却水の交換や水のつぎ足し等が行われることで、混合比が変化する場合がある。従来は、冷却水の混合比が変化しても冷却効率を損なわないように、冷却水の混合比にかかわらず、想定される最も大きな混合比(例えば50%)に対応させて電動W/P47を制御していた。このように制御した場合は、混合比が小さい場合(例えば30%)では、粘度が低くなることで必要な冷却効率を与えるための冷却水よりも多くの冷却水が循環する。また、熱伝達率が大きくなることで冷却効率がさらに大きくなる。この結果、特に混合比が低い場合に、冷却効率を確保するために必要な電動W/P47の駆動力以上に電動W/P47を駆動させることになり、その分の電動W/P47の消費電力が無駄となるという問題があった。
【0038】
そこで本発明の実施形態では、次のような構成により、冷却水の混合比を推定し、推定された混合比に基づいて電動W/P47を動作させる。
【0039】
図4は、本実施形態の車両コントローラ20が実行する処理のフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、車両コントローラ20の制御部200により実行される。
【0040】
制御部200は、車両が起動されたか否かを車両状態取得部202の取得結果に基づき判定する(ステップS110)。
【0041】
車両状態取得部202は、運転者によってパワースイッチ(又はイグニッションキー)が操作されたことを取得すると、制御部200にパワースイッチが操作されたことを示す信号を送信する。制御部200は、送信された信号によりパワースイッチが操作されたと判断すると、車両が起動されたと判定して、次のステップに進む。車両が起動されていない場合は、ステップS110の動作を繰り返し、待機する。
【0042】
次に、制御部200は、通信部201を介して、電力変換装置10のインバータ制御装置11に混合比推定動作許可信号を送信する(ステップS120)。
【0043】
混合比推定動作許可信号とは、電力変換装置10に、冷却水の混合比の推定値を算出する混合比推定動作の実行を指示する信号である。混合比推定動作については
図5で後述する。
【0044】
次に、制御部200は、混合比推定動作許可信号を送信した後、通信部201を介して、電力変換装置10から送信された推定値を受信したか否かを判定する(ステップS130)。推定値を受信した場合は次のステップに進む。推定値を受信していない場合は、ステップS130の動作を繰り返し、待機する。
【0045】
次に、制御部200は、受信した推定値に基づいて、電動W/P47を制御するためのPWM信号のデューティー比をデューティー比算出部204により決定させる(ステップS140)。デューティー比は、予めデューティー比算出部204に記憶されたマップを参照することで算出される。このマップは、混合比が小さいほど、デューティー比が小さくなるように(電動W/P47の駆動力が小さくなるように)設定されている。
【0046】
車両コントローラ20は、PWM制御のデューティー比を変更することで、電動W/P47の駆動力を変更する。前述したように、冷却水は混合比が大きくなるほど粘度が大きくなると共に熱伝達率が小さくなるので、混合比が小さい場合に、混合比が大きい場合と同じ駆動力で電動W/P47を駆動させた場合は、必要とされる冷却効率以上に電動W/P47が駆動することになり、消費電力は無駄となってしまう。
【0047】
そこで、デューティー比算出部204は、混合比が小さくなるほど、電動W/P47の駆動力が小さくくなるようにデューティー比を設定して、冷却効率が過剰となり消費電力が無駄となってしまうことを防止する。一方、混合比が大きい場合は、冷却水の粘度が大きくなり熱伝達率が小さくなるので、電動W/P47の駆動力を大きくして冷却効率を確保させる必要がある。
【0048】
制御部200は、このように設定されたデューティー比に基づいて、電動W/P制御部203に、電動W/P47を制御させるための信号を送信することで、電動W/P47の駆動力を制御する(ステップS150)。その後、本フローチャートによる処理を終了し、他の処理に戻る。
【0049】
このように、車両コントローラ20の制御部200は、混合比の推定値に基づいて電動W/P47を制御するウォーターポンプ制御部として構成される。
【0050】
図5は、本実施形態の電力変換装置10のインバータ制御装置11が実行する制御のフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、インバータ制御装置11の制御部110により実行される。
【0051】
インバータ制御装置11の制御部110は、車両コントローラ20から送られた混合比推定動作許可信号を受信したか否かを、通信部111の受信結果に基づき判定する(ステップS210)。通信部111が混合比推定動作許可信号を受信したと判定した場合は次のステップに進む。混合比推定動作許可信号を受信しない場合は、ステップS210の動作を繰り返し、待機する。
【0052】
制御部110は、素子温度取得部113により、スイッチング素子12が備える温度センサに対して温度取得要求を行い、素子温度を取得する(ステップS220)。取得した素子温度は、処理前素子温度Taとして制御部110が記憶する。
【0053】
次に、制御部110は、スイッチング素子12に対して素子温度上昇処理を実行する(ステップS230)。
【0054】
素子温度上昇処理とは、ドライバ部112から出力されるゲート信号によりスイッチング素子12を制御してスイッチング動作を行い、駆動モータ30を駆動することなくスイッチング素子12の温度を上昇させる処理である。より具体的には、制御部110は、駆動モータ30に対して、d軸電流のみを流しq軸電流が流れないようにスイッチング素子12を制御するゲート信号を出力するようにドライバ部112に指示する。このような制御により、スイッチング素子12の温度を上昇させる。
【0055】
次に、制御部110は、タイマー値をカウントダウンすることで、予め設定した所定時間が満了したか否かを判定する(ステップS240)。所定時間は例えば3秒とするが、冷却水の混合比を推定するための温度上昇値を算出できるのであれば、さらに短い時間でもよい。
【0056】
所定時間が満了した場合は、制御部110は、ドライバ部112によるスイッチング素子12の制御を停止して、素子温度上昇処理を終了する(ステップS250)。
【0057】
素子温度上昇処理終了時に、制御部110は、素子温度取得部113により、スイッチング素子12が備える温度センサに対して温度取得要求を行い、素子温度を取得する(ステップS260)。取得した素子温度は、処理後素子温度Tbとして制御部110が記憶する。
【0058】
次に、制御部110は、混合比推定部115に、冷却水の混合比を推定させる(ステップS270)。具体的には、混合比推定部115は、ステップS220で記憶した処理前素子温度Taと、ステップS260で記憶した処理後素子温度Tbとの差分値(Tb-Ta)から、温度上昇値ΔTを算出する。混合比推定部115は、算出した温度上昇値ΔTから、予め記憶されているマップを参照して、冷却水の混合比を推定する。
【0059】
素子温度上昇処理によりスイッチング素子12の温度が上昇すると、スイッチング素子12の温度は回路基板13及び冷却プレート14を伝達して冷却水流路15の冷却水に伝達する。ここで、冷却水の混合比により熱伝達率が異なることを利用して、温度上昇値ΔTが大きいほど冷却水への熱の伝達が少ない、すなわち、冷却水の熱伝導率が低く冷却水の混合比が大きいと推定することができる。混合比推定部115は、スイッチング素子12の温度上昇値ΔTに対する冷却水の混合比との関係を予めマップとして記憶しておく。このマップは、温度上昇値ΔTに対して混合比がリニアに変化するように設定されていてもよいし、温度上昇値ΔTに対する混合比がステップ状に変化するように設定されていてもよい。
【0060】
次に、制御部110は、混合比推定部115が推定した推定値を、通信部111を介して車両コントローラ20へと送信する(ステップS280)。その後、本フローチャートによる処理を終了し、他の処理に戻る。
【0061】
このように、インバータ制御装置11の制御部110は、スイッチング素子12を動作させて素子温度を上昇させ、温度上昇値に基づいて混合比を推定するスイッチング素子制御部として構成される。
【0062】
さらに、
図4及び
図5の制御は、ステップS110で説明したように車両の起動時に実行される。車両が起動してから終了(パワースイッチがオフ)されるまでの間は、冷却水は交換されることはないため、冷却水の混合比は変更されない。従って、車両の起動時に混合比を一度推定しておけば、ステップS140で決定したデューティー比に基づいて、電動W/P47を制御することで、適切な制御が可能となる。なお、車両コントローラ20は、車両の走行中には、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度や車速)に対応した適切な冷却効率を得られるように、車両の運転状態に応じて電動W/P47の駆動力を変更してもよい。
【0063】
なお、ステップS270において、混合比推定部115が、冷却水の混合比に推定に失敗した場合は、ステップS280において、制御部110は、その旨を車両コントローラ20に送信する。推定に失敗した場合とは、例えば、センサのエラー等の原因でスイッチング素子12の素子温度が所定範囲外の値となった場合や、処理前素子温度Taと処理後素子温度Tbとの差分値が、混合比を推定できるほど十分な温度差を得られなかった場合などである。
【0064】
混合比に推定に失敗した場合は、車両コントローラ20において、その旨を受信した制御部200は、電動W/P47のデューティー比を、想定される最も大きな混合比(すなわち50%)に基づいて電動W/P47の駆動力を制御する。これにより、混合比が不明である場合であっても冷却水による冷却効率を十分に確保することができる。
【0065】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0066】
図5で説明したように、インバータ制御装置11は、スイッチング素子12の温度上昇値に基づいて混合比を推定する。ここで、混合比をより正確に推定するために、次のような処理を実行してもよい。
【0067】
ステップS220において、素子温度取得部113がスイッチング素子12の処理前素子温度Taを取得するとき、水温取得部114が、水温センサ16により冷却水の水温を処理前水温Twaとして取得する。また、ステップS260において、素子温度取得部113がスイッチング素子12の処理後素子温度Tbを取得するとき、水温取得部114が、水温センサ16により冷却水の水温を処理後水温Twbとして取得する。
【0068】
そして、ステップS270において、混合比推定部115は、ステップS220で取得した処理前素子温度Taと処理前水温Twaとの差分値T1(|Ta-Twa|)と、ステップS260で取得した処理後素子温度Tbと処理後水温Twbとの差分値T2(|Tb-Twb|)と、の差T0(T2-T1)を算出し、算出された差T0を、温度上昇値ΔTとして設定する。
【0069】
このように、素子温度の検出に加えて冷却水の水温を検出して、混合比の推定に用いることで、環境温度(雰囲気温度)の影響を除いた温度上昇値を取得することができ、より正確に混合比を推定することができる。
【0070】
また、別の変形例として、ステップS220において、素子温度を取得することなく、水温取得部114が水温センサ16により冷却水の水温を処理前水温Twaとして取得し、ステップS260において、素子温度取得部113がスイッチング素子12の処理後素子温度Tbを取得する。
【0071】
そして、ステップS270において、混合比推定部115は、ステップS220で取得した処理前水温Twaと、ステップS260で取得した処理後素子温度Tbとの差分値T3(Tb-Twa)を算出し、算出された差分値T3を温度上昇値ΔTとする。
【0072】
パワースイッチをオンにしたとき車両の起動時(いわゆるコールドスタート)では、スイッチング素子12の温度、回路基板13、冷却プレート14及び冷却水の水温は、同一であると見なすことができる。このことを利用して、スイッチング素子12の処理前素子温度を取得する処理を省略して、取得した水温の値を利用することで、混合比の推定に要する時間を短縮することができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態では、電力変換装置10のスイッチング素子12を冷却する冷却水が流通する冷却水流路15と、冷却水流路15に冷却水を循環させる電動W/P47と、スイッチング素子12及び電動W/P47の動作を制御する制御部(制御部110、制御部200)と、を備える冷却システム1であって、スイッチング素子12を動作させて素子温度を上昇させる素子温度上昇処理を所定時間実行し、素子温度上昇処理の実行によるスイッチング素子12の温度上昇値ΔTを取得し、取得した温度上昇値ΔTに基づいて、冷却水の溶質に対する溶媒の混合比を推定し、推定された混合比に基づいて、電動W/P47の駆動力を設定する。
【0074】
この構成では、スイッチング素子12を温度上昇させることで冷却水の水温が上昇することを利用して、取得した温度上昇値ΔTにより冷却水溶質(水)に対する溶媒(エチレングリコール)の混合比を推定し、推定した混合比に基づいて電動W/P47の駆動力を設定するので、混合比により異なる粘度及び熱伝導率に対応するように電動W/P47の駆動力を調整することができる。これにより、電動W/P47の駆動力を必要かつ最小限とすることができ、電動W/P47の消費電力を適切とすることが可能となる。
【0075】
また、本実施形態では、推定された混合比に基づいて、電動W/P47を駆動するためのPWM信号のデューティー比を決定するので、電動W/P47を適切に動作させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、素子温度上昇処理前のスイッチング素子12の処理前温度と、素子温度上昇処理後のスイッチング素子12の処理後温度とから温度上昇値を取得し、取得した温度上昇値ΔTが大きいほど、冷却水の混合比が大きいと推定する。
【0077】
この構成では、スイッチング素子12を温度上昇させることで冷却水の水温が上昇することを利用して、温度上昇値により冷却水の混合比を推定することができる。
【0078】
また、本実施形態では、素子温度上昇処理前における処理前水温Twaとスイッチング素子12の処理前素子温度Taとの差分値T1に対する、素子温度上昇処理後における処理後水温Twbと処理後素子温度Tbとの差分値T2との差T0から温度上昇値ΔTを取得し、取得した温度上昇値ΔTが大きいほど、冷却水の混合比が大きいと推定する。
【0079】
この構成では、水温を用いることで、雰囲気温度の影響を除いた温度上昇値ΔTを取得することができ、より正確に混合比を推定することができる。
【0080】
また、本実施形態では、素子温度上昇処理前の処理前水温Twaと、素子温度上昇処理後の処理後素子温度Tbとの差分値T3から温度上昇値ΔTを取得し、取得した温度上昇値ΔTが大きいほど、冷却水の混合比が大きいと推定する。
【0081】
この構成では、素子温度上昇処理前の処理前水温Twaをスイッチング素子12の処理前素子温度Taと見なすことで、スイッチング素子12の素子温度を取得する処理を省略することができ、混合比の推定に要する時間を短縮することができる。
【0082】
また、本実施形態では、冷却水の溶質に対する溶媒の混合比の推定に失敗した場合は、予め設定された最大の混合比に基づいて電動W/P47の駆動力を制御するので、混合比が不明である場合には、安全を考慮して、想定される最も大きな混合比に基づいて電動W/P47を制御するので、冷却水による冷却効率を十分に確保することができる。
【0083】
また、本実施形態では、車両を駆動する回転電機としての駆動モータ30を備え、スイッチング素子12から供給される電力により駆動モータ30が駆動されるよう構成され、素子温度上昇処理は、駆動モータ30に対してd軸電流のみを流しq軸電流が流れないように制御して、駆動モータ30を駆動させることなくスイッチング素子12をスイッチングさせて、スイッチング素子12の温度を上昇させる。
【0084】
この構成では、スイッチング素子12の出力が駆動モータ30を駆動させる構成であっても、素子温度のみを上昇させることができるので、温度上昇値に基づいて混合比を推定することができる。
【0085】
以上本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0086】
前述の
図4において、車両コントローラ20の制御部200は、車両が起動したときに混合比推定動作許可信号を送信するとしたが、これに限られない。例えば、車両が停止しており、かつ冷却水の水温がコールドスタート時とみなされるような所定温度よりも低い場合に、
図4のステップS120以降の処理を実行するように制御してもよい。素子温度上昇処理ではスイッチング素子12の温度を上昇させて水温を上昇させる処理であるので、水温が十分に低ければ、混合比の推定のために適切な温度上昇値ΔTを算出することができる。
【0087】
また、本実施形態では、インバータ制御装置11と車両コントローラ20とは、異なる構成であるとしたが、これらが同一のコントローラにより動作する構成であってもよく、制御部110と制御部200とが、一つ制御部として構成されて、この制御部が
図4及び
図5に示す制御を実行するスイッチング素子制御部及び電動ウォーターポンプ制御部として構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1:冷却システム、10:電力変換装置、11:インバータ制御装置、12:スイッチング素子、16:水温センサ、20:車両コントローラ、30:駆動モータ、40:冷却装置、47:電動ウォーターポンプ、110:制御部(スイッチング素子制御部)、113:素子温度取得部、114:水温取得部、115:混合比推定部、200:制御部(電動ウォーターポンプ制御部)、203:電動W/P制御部、204:デューティー比算出部