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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082155
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】3相交流電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20240612BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195912
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 悟司
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505BB09
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ23
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】I-P制御の持つ、高い外乱抑制性能と安定性を維持しながら、PI制御と同等の高い指令追従性能を確保できるq軸電流制御器を具備した3相交流電動機の制御装置を提供する。
【解決手段】d-q軸制御によって3相交流電動機の電流を制御する制御装置1であって、位置指令値Xに基づいて算出された加速トルク指令値τを入力の一つとし、q軸電圧指令値v に加算される制御器出力電圧Δeを出力する、q軸電流制御器2を備え、前記q軸電流制御器2は、前記加速トルク指令値τに基づいて、前記加速トルク指令値τに対応する電流指令値である加速q軸電流指令値iqf を算出し、前記加速q軸電流指令値iqf に、PI制御およびI-P制御の切替比率を示すIP係数KIPと、q軸比例ゲインGqpと、を乗算した値を、前記制御器出力電圧Δeに加算する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
d-q軸制御によって3相交流電動機の電流を制御する制御装置であって、
位置指令値に基づいて算出された加速トルク指令値を入力の一つとし、q軸電圧指令値に加算される制御器出力電圧を出力する、q軸電流制御器を備え、
前記q軸電流制御器は、
前記加速トルク指令値に基づいて、前記加速トルク指令値に対応する電流指令値である加速q軸電流指令値を算出し、
前記加速q軸電流指令値に、PI制御およびI-P制御の切替比率を示すIP係数と、q軸比例ゲインと、を乗算した値を、前記制御器出力電圧に加算する、
ことを特徴とした3相交流電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3相交流電動機の制御装置であって、
前記IP係数をKIPとした場合、
前記q軸電流制御器は、さらに、
q軸電流指令値とq軸電流検出値との偏差であるq軸電流誤差を(1-KIP)倍した値を前記q軸比例ゲインで増幅し、増幅後の値を前記制御器出力電圧に加算し、
前記q軸電流検出値をKIP倍した値を前記q軸比例ゲインで増幅し、増幅後の値を前記制御器出力電圧から減算する、
ことを特徴とする3相交流電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の3相交流電動機の制御装置であって、
前記q軸電流制御器は、さらに、
q軸電流指令値とq軸電流検出値との偏差であるq軸電流誤差絶対値から前記IP係数の初期値を決定し、
前記IP係数の初期値に対して一次遅れ処理を施して、前記IP係数を出力し、
出力された前記IP係数に基づいて、前記q軸比例ゲインおよびq軸積分ゲインを出力する、
ことを特徴とする3相交流電動機の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の3相交流電動機の制御装置であって、さらに、
前記位置指令値の時間微分して得られるサブ速度指令値を入力の一つとし、トルク指令値に加算される制御器出力トルクを出力する速度制御器を備え、
前記速度制御器は、
前記サブ速度指令値に、前記IP係数と、速度比例ゲインと、を乗算した値を、前記制御器出力トルクに加算する、
ことを特徴とした3相交流電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、NC工作機械等の軸(例えば、送り軸や主軸等)、あるいは、一般産業機械における制御対象、それぞれの速度、位置、および、伝達トルクの少なくとも一つを、制御するために、3相交流電動機(例えば、同期電動機や誘導電動機等)を制御する制御装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般に、NC工作機械の軸制御に用いられる制御装置では、アクチェータとして、3相交流電動機(以降、「交流電動機」あるいは「モータ」と呼ぶ)を適用し、上位装置より出力される位置指令値に対して、位置・速度・電流の多重制御ループを構成することで、十分な制御安定性と高い位置指令追従性能を実現している。
【0003】
図9は、3相交流電動機を駆動モータとして用いた、従来の制御装置200の一例を示すブロック図である。以下、従来の制御装置200について説明する。上位装置(図示しない)より、従来の制御装置200に対して、位置指令値Xが出力される。モータ300に締結された位置検出器301より出力されるモータ300の回転角θmは、モータに接続されて駆動される負荷302(駆動テーブルなど)の位置を示す位置検出値であり、減算器50で位置指令値Xから減算され、その出力は位置偏差DIFとなる。
【0004】
位置偏差DIFは、位置偏差増幅器52で位置ループゲインKp倍に増幅される。一方で、位置指令値Xは、微分器51(sはラプラス変換の演算子に相当する)で時間微分され、サブ速度指令値ωが出力される。加算器53は、サブ速度指令値ωと位置偏差増幅器52の出力を加算して、最終的な速度指令値ω が出力される。
【0005】
微分器54は、位置検出値θmを時間微分して速度検出値ωを出力する。減算器55では、速度指令値ω から、速度検出値ωが減算される。減算器55の出力である速度偏差Δωは、速度制御器57でPI(比例積分)増幅される。一方で、サブ速度指令値ωは、微分器56で時間微分され、さらに、J倍されて、モータの加速トルク指令値τとなる。なお、Jは、総慣性モーメント、すなわちモータ慣性モーメント+負荷慣性モーメントである。加算器58は、速度制御器57の出力Δτ(以下「制御器出力トルクΔτ」と呼ぶ)と、加速トルク指令値τを加算して、最終的なモータのトルク指令値τ となる。
【0006】
d-q軸制御演算部61は、永久磁石型同期電動機(一般に、表面磁石同期電動機(SPMSM)と埋込磁石同期電動機(IPMSM)に分類される)や、リラクタンス型同期電動機(SynRM)の場合は、モータのトルク指令値τ に対して、モータのN-τ(速度-トルク)特性や、速度検出値ωなどから、q軸電流指令値i とd軸電流指令値i を演算出力する。
【0007】
一方で、誘導電動機(IM)の場合は、d-q軸制御演算部61は、当該誘導電動機の界磁弱め特性と速度検出値ωからd軸電流指令値i を、d軸電流検出値iからd軸2次磁束(φdr/M)を演算し、トルク指令値τ と、d軸2次磁束(φdr/M)から、q軸電流指令値i を演算出力する。更に、d軸電流検出値iとq軸電流指令値i から、滑り角速度ωsを演算し、後述する電気角速度ωreと加算(図示しない)して、電流角速度ωと、その時間積分である電流位相角θを演算出力する。
【0008】
尚、d-q軸制御演算部61より出力される、d軸電圧フィードフォワードVdffと、q軸電圧フィードフォワードVqffは、d軸-q軸間の非干渉化電圧補償値等で構成され(図示しない)、電流制御応答を改善するために利用される。
【0009】
位置検出値θmは、乗算器59で、モータ対極数p倍されて、電気角θreとなる。微分器60は、電気角θreを時間微分して、電気角速度ωreを出力する。(通常、同期電動機では、電気角速度ωre=電流角速度ωになる。)モータのU相電流iと、V相電流iは、U相電流検出回路70とV相電流検出回路71により検出される。
【0010】
尚、W相電流iは、i=-(i+i)で算出できる。この様に、3相電流は、i+i+i=0となるため、通常は、3相の内2相を検出して、残る1相は演算で算出することが多い。3相→d-q変換器66は、U相電流iとV相電流i及び電気角θre(IMの場合は電流位相角θ)から、座標変換によって、d軸電流検出値iと、q軸電流検出値iを演算出力する。
【0011】
減算器62は、d軸電流指令値i からd軸電流検出値iを減算して、d軸電流誤差Δiを演算する。d軸電流制御器63は、d軸電流誤差ΔiをPI(比例積分)増幅する誤差増幅器で、Δeはd軸電流制御器63の出力電圧である。
【0012】
減算器64は、q軸電流指令値i からq軸電流検出値iを減算して、q軸電流誤差Δiを演算する。q軸電流制御器65は、q軸電流誤差Δiを増幅する誤差増幅器で、Δeはq軸電流制御器65の出力電圧(以下「制御器出力電圧Δe」と呼ぶ)である。
【0013】
q軸電流制御器65の誤差増幅器としての動作は、一般的に、式(1)や式(2)で表現される。
【数1】
ここで、q軸比例ゲインGqp,q軸積分ゲインGqiである。式(1)はPI制御、式(2)はI-P制御と呼称される。
【0014】
図10は、q軸電流制御器65の他の構成例を示したものである。q軸電流誤差Δiは、増幅器80で(1-KIP)倍に増幅後、比例増幅器81で比例ゲインGqp倍に増幅される。一方で、q軸電流誤差Δiは、積分ゲインGqiの積分増幅器82で積分増幅され、加算器83で比例増幅器81の出力と加算される。q軸電流検出値iは、増幅器84でKIP倍に増幅後、比例増幅器85で比例ゲインGqp倍に増幅される。減算器86は、加算器83出力から、比例増幅器85出力を減算し、制御器出力電圧Δeを出力する。
【0015】
図10に示したq軸電流制御器65の動作は、式(3)で表現できる。
【数2】
ここで、IP係数KIPは、制御状態に応じて、0≦KIP≦1の範囲をとる変数で、KIP=0の時はPI制御、KIP=1の時はI-P制御となる。
【0016】
加算器67は、d軸電流制御器63の出力電圧Δeと、d軸電圧フィードフォワードVdffを加算し、d軸電圧指令値v を出力する。同様に、加算器68は、q軸電流制御器65の制御器出力電圧Δeと、q軸電圧フィードフォワードVqffを加算し、q軸電圧指令値v を出力する。
【0017】
d-q→3相変換器69は、d軸電圧指令値v と、q軸電圧指令値v 及び電気角θre(IMの場合は電流位相角θ)から、座標変換によって、U,V,W各相の電圧指令値に変換され、PWMインバータ(図示しない)で電力増幅されて、モータ駆動の相電圧(v,v,v)を出力する。各出力相電圧は、モータの各相に印加され、各相電流が発生する。
【0018】
以上で、従来の制御装置200の一例について、その構成を説明したが、制御対象である負荷302の位置検出値θmを、位置指令値Xに従って高精度に制御するためには、最もマイナーループである電流制御ループにおいて、特に、トルクを制御するq軸電流制御器65の制御性能を高く設定することが必要になる。
【0019】
以下、図10を用いて、q軸電制御ループの制御性能について説明する。一般的に、PI制御(KIP=0時)では、指令追従性能が高く、応答性に優れているため、サーボ用途向きである。しかしながら、制御ゲイン(GqpやGqi)をアップすると、制御振動が発生し易く、安定性が低くなる。
【0020】
一方、I-P制御(KIP=1時)では、安定性が高く、電圧外乱を抑制するために、制御ゲインをアップしても、容易には制御振動を発生しないが、指令追従性能が低く、レギュレータ用途向きである。つまり、制御装置においては、十分な指令追従性能が達成できない。
【0021】
また、レギュレータ用途では、q軸電流誤差Δiは小さく、サーボ用途では、Δiが大きくなる傾向から、q軸電流誤差Δiの大きさ|Δi|に従って、|Δi|→小(0)だとKIP→1に、|Δi|→大だとKIP→0にIP係数KIPを可変制御する場合がある。しかしながら、近年の制御装置では、|Δi|が大きくなる加減速時においても、指令追従性能のみならず、高い外乱抑制性能と安定性を合わせて求められることが増えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
3相交流電動機の電流制御にd-q軸制御を用いた送り軸や主軸のトルク・速度・位置の制御装置において、I-P制御の持つ、高い外乱抑制性能と安定性を維持しながら、PI制御と同等の高い指令追従性能を確保できるq軸電流制御器を具備した3相交流電動機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
3相交流電動機の加速トルク指令値τより、加速q軸電流指令値iqf を算出し、比例補償分として、KIP・iqf ・Gqpを、q軸電流制御器の制御器出力電圧Δeに加算する。
【発明の効果】
【0024】
本発明による3相交流電動機の制御装置では、IP係数KIP=1の条件下において、加速q軸電流指令値iqf とq軸電流検出値iqの差分(iqf -i)を、q軸比例ゲインGqpで増幅して、q軸電流制御器の比例成分とすることで、I-P制御の持つ、高い外乱抑制性能と安定性が維持でき、且つ、q軸電流検出値iに、加速q軸電流指令値iqf に対する高い指令追従性能を与えることができる。
【0025】
更に、q軸電流指令値i に含まれる、速度検出値ωに混入した機械振動成分は、Gqpで増幅されない。このため、機械共振周波数に対するq軸電流制御器の応答ゲインは、PI制御に比較して大幅に低減でき、結果として、速度制御ループに挿入されるノッチフィルタなどの振動抑制フィルタ群を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の3相交流電動機を駆動モータに用いた制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明のq軸電流制御器の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の係数・ゲイン設定器の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明のq軸電流制御器の周波数特性を求めるためのブロック図モデルである。
図5】本発明のq軸電流制御器のKIP=0における周波数特性の一例を示すグラフである。
図6】本発明のq軸電流制御器のKIP=1における周波数特性の一例を示すグラフである。
図7】本発明の3相交流電動機を駆動モータに用いた制御装置の第2の構成例を示すブロック図である。
図8】本発明の速度制御器の構成例を示すブロック図である。
図9】従来の3相交流電動機を駆動モータに用いた制御装置の構成例を示すブロック図である。
図10】従来のq軸電流制御器の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について例(以下実施例という)を用いて説明する。図1は、本発明による3相交流電動機の制御装置1の構成概要の一例を示すブロック図である。制御装置1は、例えば、プロセッサとメモリとを有するコンピュータである。制御装置1のうち、q軸電流制御器2を除く部分は、これまでに説明した従来例と同様なため、同一の番号を付して、説明を省略する。
【0028】
q軸電流制御器2は、d-q軸制御演算部61の出力であるq軸電流指令値i と、加速トルク指令値τと、q軸電流検出値iとを入力として、制御器出力電圧Δeを出力する。図2は、本発明のq軸電流制御器2の構成例を示すブロック図である。以降、この図2を用いて本発明における、q軸電流制御器2の動作を説明する。
【0029】
q軸電流制御器2は、従来のq軸電流制御器65に比較して、τ→iqf 変換器3と、増幅器4と、加算器5と、を備える。τ→iqf 変換器3は、加速トルク指令値τを入力として、加速q軸電流指令値iqf を出力する。なお、加速トルク指令値τは、位置指令値Xを2回時間微分した値に総慣性モーメントJを乗算した値である。したがって、加速トルク指令値τは、位置検出値θmに依存しない値である。
【0030】
増幅器4は、加速q軸電流指令値iqf をKIP倍に増幅する。加算器5は、増幅器80でq軸電流誤差Δiを(1-KIP)倍に増幅した出力と、増幅器4の出力値と、を加算する。加算器5の出力が、比例増幅器81で比例ゲインGqp倍に増幅される。比例増幅器81の出力は、加算器83および減算器86において、他の値が加算または減算され、制御器出力Δeとなる。したがって、図2のq軸電流制御器2では、加速q軸電流指令値iqf に、IP係数KIPと、q軸比例ゲインGqpと、を乗算した値を、制御器出力電圧Δeに加算しているといえる。
【0031】
ここで、τ→iqf 変換器3は、モータの種類によって、変換式が異なる。例えば、誘導電動機(IM)では、式(4)によって算出され、表面磁石同期電動機(SPMSM)では、式(5)によって算出される。なお、埋込磁石同期電動機(IPMSM)や、リラクタンス型同期電動機(SynRM)の場合についても、トルク発生原理から、類型の変換式が存在するが、詳細な記述は省略する。
qf =τ/{p・M0(φdr/M)} ;但し、モータ極対数p,相互インダクタンスM0 ・・・・・(4)
qf =τ/(p・Φf) ;永久磁石磁束φf ・・・・・(5)
【0032】
q軸電流制御器2の入出力関係を式表現すると式(6)となる。
【数3】
【0033】
式(6)は、簡略化して、式(7)となる。
【数4】
【0034】
q軸電流指令値i には、速度ループの速度検出値ωから混入した、共振的な機械振動成分が含まれる。そこでi を、加速q軸電流指令値iqf と、機械振動成分が含まれるq軸電流指令値分(以下「振動成分含有q軸電流指令値ivb」という)に分けて式(8)で定義する。
【数5】
【0035】
式(7)は、式(8)の定義を用いて、式(9)で表現できる。
【数6】
【0036】
本発明のq軸電流制御器2の大きな特徴は、振動成分含有q軸電流指令値ivbの(1-KIP)倍が、比例増幅(Gqp)の対象となることである。
【0037】
式(9)より、本発明のq軸電流制御器2の出力は、次の様にまとめることができる。
【数7】
【0038】
次に、図2の係数・ゲイン設定器10の構成と動作について説明する。図3は、本発明の係数・ゲイン設定器10の構成例を示すブロック図である。本例において、係数・ゲイン設定器10では、q軸電流誤差Δiが入力となる。KIP0設定器11は、q軸電流誤差Δiの絶対値|Δi|を入力として、|Δi|に応じて、IP係数初期値KIP0を出力する。
【0039】
q軸電流制御器2は、|Δi|≒0を目標に動作する。このため、KIP0設定器11では、|Δi|が小さい場合は、外乱抑制性能や安定性向上を指向して、IP係数初期値KIP0→1が出力される。逆に、|Δi|が大きい場合は、追従性の向上を指向して、|Δi|を減少化させるべく、KIP0→0が出力される。
【0040】
本例のKIP0設定器11では、|Δi|の数値変化(増加または減少)方向が急反転した時、IP係数初期値KIP0の急変を円滑化するため、横軸|Δi|上に、4個の変化点(er_minl≦er_minr≦er_maxl≦er_maxr)を設け、|Δi|の増加方向と減少方向で、ヒステリシス特性を持たせている。
【0041】
IP係数KIP0は、KIPフィルタ12によって、時定数TKIPの一次遅れ処理でフィルタリングされて、最終的なIP係数KIPを出力する。時定数TKIPは、数ms~数10ms程度にとるが、制御装置1に指令される位置指令値Xの急峻さに応じて可変してもよい。
【0042】
q軸ゲイン設定器13は、IP係数KIP(0≦KIP≦1)に応じて、q軸比例ゲインGqpとq軸積分ゲインGqiを演算出力する。本例では、q軸ゲイン設定器13に、GqpとGqiに対して、右肩上がりのKIP-ゲイン特性を与えており、KIP=0時のGqp_min,Gqi_minと、KIP=1時のGqp_max,Gqi_maxを予め設定しておく。
【0043】
図4は本発明のq軸電流制御器の特性を評価するためのブロック図モデルである。図4において、q軸電流制御器100は、図2におけるq軸電流制御器2に対して、τ→iqf 変換器3と、係数・ゲイン設定器10を除去したものである。q軸電流制御器100の制御器出力電圧Δeには、電圧外乱vrIPが加算器101で加わり、q軸モータ巻線を模擬した対象プラントモデル102の入力電圧となる。対象プラントモデル102の出力は、q軸電流検出値iとして、q軸電流制御器100にフィードバックしている。
【0044】
図5図6は、図4のブロック図モデルに対して、周波数特性を示したグラフである。図5は、IP係数KIPをKIP=0に固定した時の指令応答(i/i )と外乱抑制(i/vrIP)の周波数特性である。本例は、PI制御による周波数特性に等しい。
【0045】
図6は、IP係数KIPをKIP=1に固定した時の指令応答(i/i )と外乱抑制(i/vrIP)の周波数特性である。この場合、q軸電流指令値i から見れば、I-P制御になり、高い安定性が確保できるため、q軸積分ゲインGqiを大きく設定できる。具体的には、Gqi_max=4・Gqi_minと、図5のKIP=0時に対して4倍のGqiを設定している。尚、q軸比例ゲインGqpについては、Gqp_max=Gqp_minで、図5図6は同一の比例ゲインである。
【0046】
本発明では、q軸電流制御器2の比例成分に、加速q軸電流指令値iqf とq軸電流検出値iの差分(iqf -i)を、q軸比例ゲインGqpで増幅して加算することで、KIP→1になっても、iqf に対しては、PI制御同等の高い指令追従性能を有している。このため、加減速時を含めて、常時、KIP≒1で動作できる。
【0047】
本発明による制御状態である図6(KIP=1時)では、4倍のGqiを設定したことにより、外乱抑制(i/vrIP)については、図5(KIP=0時)に比較して、数十Hz以下の周波数帯で、外乱応答が、-10dB~-12dB低下、つまり、電圧外乱抑制性能が向上している。
【0048】
図1のd-q→3相変換器69に含まれるPWMインバータ(図示していない)では、DCバス間を繋ぐ、2個の電力スイッチング素子の短絡故障を回避するため、デッドタイムが設けられる。U,V,W各相の電流方向が反転する際には、デッドタイムに起因した不連続な電圧変動がモータ巻線に加わる。本発明による電圧外乱抑制性能の向上は、デッドタイム影響によるq軸電流の変動を低減できる。
【0049】
一方で、図6(KIP=1時)の指令応答(i/i )については、I-P制御であるから、4倍のGqiを設定しても、安定性が損なわれることなく、図5(KIP=0時)に比較して、500Hzで-2dB、1000Hzで-8dB、2000Hzで-14dBなど、数百Hz以上の周波数帯において、-40dB/decの急峻な垂下(遮断)特性を達成している。
【0050】
q軸電流制御ループは、トルク制御ループとしての役割をはたす。このため、本発明を適用した速度制御ループの一巡ループゲインには、本発明によるq軸電流制御の高周波領域での高い遮断特性が反映する。その結果、従来の速度制御ループに挿入されていた、多段ノッチフィルタなどの機械共振振動抑制フィルタを削減でき、簡潔な速度制御ループが構成できる。
【0051】
図7は、本発明による3相交流電動機の制御装置20の第2の構成例を示すブロック図である。速度制御器21を除く部分は、これまでに説明した図1の本発明例と同様なため、同一の番号を付して、説明を省略する。
【0052】
本発明による速度制御器21は、速度指令値ω と、サブ速度指令値ωと、速度検出値ωと、を入力として、制御器出力トルクΔτを出力する。図8は、本発明の速度制御器21の構成例を示すブロック図である。以降、この図8を用いて本発明における、速度制御器21の動作を説明する。
【0053】
本発明の速度制御器21は、図2で説明した本発明のq軸電流制御器2を、速度制御用途として、置換した構成であるが、信号名称等が異なるため、以下、ひと通り説明する。図8の本発明の速度制御器21は、サブ速度指令値ωを増幅器23でKIP倍に増幅した値と、Δωを増幅器22で(1-KIP)倍に増幅した値と、を加算器24で加算する。加算器24の出力は、比例増幅器25で速度比例ゲインGvp倍に増幅される。つまり、図8の速度制御器21は、サブ速度指令値ωに、IP係数KIPと、速度比例ゲインGvpと、を乗算した値を、制御器出力トルクΔτに加算している。
【0054】
一方で、速度誤差Δωは、速度積分ゲインGviの積分増幅器26で積分増幅され、加算器27で比例増幅器25の出力と加算される。速度検出値ωは、増幅器28でKIP倍に増幅後、比例増幅器29で比例ゲインGvp倍に増幅される。減算器30は、加算器27出力から、比例増幅器29出力を減算し、制御器出力トルクΔτを出力する。
【0055】
速度制御器21の入出力関係を式表現すると式(11)となる。
【数8】
【0056】
式(11)より、本発明の速度制御器21の出力は、次の様にまとめることができる。
【数9】
【0057】
次に、図8の係数・ゲイン設定器31の構成と動作について説明する。係数・ゲイン設定器31の構成は、図3で示した係数・ゲイン設定器10の構成を速度制御用途として、そのまま置換したもので、入力である速度誤差Δωの絶対値|Δω|に応じて、IP係数初期値KIP0を設定するKIP0設定器と、KIPフィルタと、KIPに応じて、速度制御器の比例ゲインGvp及び積分ゲインGviが右肩上りに設定された速度ゲイン設定器が直列に結合した構成(図示しない)になる。
【0058】
速度制御器21は、|Δω|≒0を目標に動作する。このため、速度制御器21の動作の一例として、本発明のq軸電流制御器2と同様に、|Δω|が小さい場合は、外乱抑制性能や安定性向上を指向して、IP係数KIP→1方向に動作し、積分ゲインGviが高くなる。逆に、|Δω|が大きい場合は、追従性の向上を指向して、|Δω|を減少化させる様に、KIP→0方向に動作し、積分ゲインGviが低くなる。
【0059】
本発明の第2構成例では、速度制御器21の比例成分に、速度指令値ωと速度検出値ωの差分(ω-ω)を、比例ゲインGvpで増幅して加算することで、KIP→1になっても、ωに対しては、PI制御同等の高い指令追従性能を有している。このため、加減速時を含めて、常時、KIP≒1で動作でき、外乱抑制性能を向上できる。
【0060】
速度制御器における外乱はトルク外乱になるから、外乱抑制性能の向上は、負荷トルクによる速度インパクトドロップの軽減や、スカイビング加工等で求められる速度レギュレータ性能の向上を達成することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 制御装置(発明例1)、2 q軸電流制御器(発明例1)、3 τf→iqf 変換器(発明例1)、4 増幅器(発明例1)、5 加算器(発明例1)、10 係数・ゲイン設定器(発明例1)、11 KIP0設定器(発明例1)、12 KIPフィルタ(発明例1)、13 q軸ゲイン設定器(発明例1)、20 制御装置(発明例2)、21 速度制御器(発明例2)、22 増幅器(発明例2)、23 増幅器(発明例2)、24 加算器(発明例2)、25 比例増幅器(発明例2)、26 積分増幅器(発明例2)、27 加算器(発明例2)、28 増幅器(発明例2)、29 比例増幅器(発明例2)、30 減算器(発明例2)、31 係数・ゲイン設定器(発明例2)、50 減算器、51 微分器、52 位置偏差増幅器、53 加算器、54 微分器、55 減算器、56 微分器、57 速度制御器(従来)、58 加算器、59 乗算器、60 微分器,61 d-q軸制御演算部、62 減算器、63 d軸電流制御器、64 減算器、65 q軸電流制御器(従来)、66 3相→d-q変換器、67 加算器、68 加算器、69 d-q→3相変換器、70 U相電流検出回路、71 V相電流検出回路、80 増幅器、81 比例増幅器、82 積分増幅器、83 加算器、84 増幅器、85 比例増幅器、86 減算器、100 q軸電流制御器(ブロック図モデル)、101 加算器(ブロック図モデル)、102 対象プラントモデル(ブロック図モデル)、200 位置制御装置(従来)、300 モータ、301 位置検出器、302 負荷
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