(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082156
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】エルトロンボパグ含有フィルムコーティング錠
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4152 20060101AFI20240612BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240612BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240612BHJP
A61K 9/28 20060101ALI20240612BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240612BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240612BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61P7/06
A61P7/04
A61K9/28
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195913
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】後藤 仰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅晶
(72)【発明者】
【氏名】山田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 勝
(72)【発明者】
【氏名】辻井 賢
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC14
4C076DD29U
4C076DD38A
4C076DD41
4C076EE23
4C076EE31A
4C076EE32
4C076EE38
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086GA14
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZA53
4C086ZA55
(57)【要約】
【課題】 エルトロンボパグオラミンを有効成分とするフィルムコーティング錠において、湿度苛酷条件下における変色を改善した白色フィルムコーティング錠を提供すること。
【解決手段】 エルトロンボパグオラミンを有効成分として含む素錠部と酸化チタンとの接触により色調変色することから、酸化チタンと素錠部の接触を回避すべく、フィルムコーティングにおいて酸化チタンを含まない層と酸化チタンを含む層に分け、素錠部と接触する内側の層(内層)に酸化チタンを含まない層でサブコートした後、酸化チタンを含む層(外層)をフィルムコーティングしたエルトロンボパグオラミンを有効成分とする白色フィルムコーティング錠である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルトロンボパグオラミンを含有するフィルムコーティング錠であって、
有効成分としてエルトロンボパグオラミンを含有する素錠に対し、
内層として酸化チタンを含まない層からなるサブコート層、及び
外層として酸化チタンを含む層からなるコーティング層、
を施したことを特徴とするエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠。
【請求項2】
素錠中のエルトロンボパグオラミンの含有量が5~20質量%である請求項1記載のエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠。
【請求項3】
添加剤としてD-マンニトール及び/又は結晶セルロースを用いた請求項1記載のエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルトロンボパグを有効成分として含有し、湿度苛酷条件下における変色を改善したエルトロンボパグ含有フィルムコーティング錠に関する。
【背景技術】
【0002】
化学名:3’-[(2Z)-[1-(3,4-ジメチルフェニル)-1,5-ジヒドロ-3-メチル-5-オキソ-4H-ピラゾール-4-イリデン]ヒドラジノ]-2’-ヒドロキシ-[1,1’-ビフェニル]-3-カルボン酸であるエルトロンボパグ(INN)はそのビス-(モノエタノールアミン)付加塩としてエルトロンボパグオラミン(JAN)の名称で、経口造血刺激薬/トロンボポエチン受容体作動薬としてレボレード(登録商標)錠の名称で慢性特発性血小板減少性紫斑病/再生不良性貧血に対する治療薬として臨床的に使用されている薬物である(非特許文献1)。
【0003】
この臨床的に使用されているエルトロンボパグオラミン製剤(レボレード錠)はフィルムコーティング錠であり、当該製剤のインタビューフォーム(非特許文献2)によると、熱苛酷及び光苛酷条件下においては安定であることが知られているが、湿度苛酷条件下(25℃/RH75%)における安定性については言及がなされていない。
【0004】
また、これまでにエルトロンボパグオラミンを有効成分として含有する製剤において、望ましい薬物動態学的特性を有するフィルムコーティング錠を提供する検討がなされているが(特許文献1)、目的とするフィルムコーティング錠についての湿度苛酷条件下における色調の変色改善はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】レボレード(登録商標)錠の添付文書
【非特許文献2】医薬品インタビューフォーム「レボレード(登録商標)錠」2021年10月改訂(第11版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、このエルトロンボパグオラミンを含有する白色フィルムコーティング錠として酸化チタンを用いたフィルムコーティング錠の調製を検討している過程で、湿度苛酷条件下で安定性を確認したところ、酸化チタンの添加量が多いほど著しい変色を認めたことから、酸化チタンとエルトロンボパグオラミンを有効成分として含む素錠部の接触により変色することが判明した。
しかしながら、製剤の色調を白色にするフィルムコーティング錠にあっては、一般的に酸化チタンを白色顔料として用いられるのが現状である。
【0008】
したがって本発明は、エルトロンボパグオラミンを有効成分とするフィルムコーティング錠において、上記の問題を回避したエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの検討によれば、上記したように、湿度苛酷条件下における色調変化は、酸化チタンとエルトロンボパグオラミンを有効成分として含む素錠部の接触により変色することから、酸化チタンと素錠部の接触を回避すべく、フィルムコーティングにおいて酸化チタンを含まない層と酸化チタンを含む層に分け、素錠部と接触する内側の層(内層)に酸化チタンを含まない層でサブコートした後、酸化チタンを含む層(外層)をコーティングすることで、変色が改善されることを見出した。
【0010】
したがって本発明の基本的態様は、
(1)エルトロンボパグオラミンを含有するフィルムコーティング錠であって、
有効成分としてエルトロンボパグオラミンを含有する素錠に対し、
内層として酸化チタンを含まない層からなるサブコート層、及び
外層として酸化チタンを含む層からなるコーティング層、
を施したことを特徴とするエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠;
である。
【0011】
また本発明は、その具体的態様として、
(2)素錠中のエルトロンボパグオラミンの含有量が、素錠質量に対して5~20質量%である上記(1)に記載のエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠;
(3)添加剤としてD-マンニトール及び/又は結晶セルロースを用いた上記(1)に記載のエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠;
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により湿度苛酷条件下におけるフィルムコーティング錠の色調変化のない、エルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠が提供され、したがって品質の良好な医薬製剤を提供できる点で、その臨床的効果は多大なものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、前記したように、現在臨床的に使用されているエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠(レボレード錠)の湿度苛酷条件下における錠剤の色調変化を回避するものであることより、錠剤中の有効成分であるエルトロンボパグオラミンの含有量は臨床的に使用されている含有量と同一であることが望ましく、素錠の質量にもよるが、素錠質量に対して5~20質量%であるのが良い。
【0014】
なお、臨床的に使用されているエルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠(レボレード錠)にあっては、エルトロンボパグ12.5mg(エルトロンボパグオラミンとして15.9mg)或いはエルトロンボパグ25mg(エルトロンボパグオラミンとして31.9mg)製剤であることから、本発明においてもエルトロンボパグオラミンの素錠中の含有量は同一の含有量であるのが望ましく、それに対応して素錠を構成する添加剤が選択され、添加剤の配合量を定めるのがよい。
【0015】
なお素錠を構成する添加剤としては医薬品分野において汎用されている種々の添加剤を挙げることができ、例えば、賦形剤として、乳糖、ブドウ糖、果糖、白糖、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、結晶セルロース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、リン酸カルシウム、無水リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウムから選択される1種又は2種以上を挙げることできる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルファー化デンプン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、トウモロコシデンプン等が挙げられるが、必ずしも用いる必要はない。
崩壊剤としては、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、トウモロコシデンプン等を挙げることができる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、軽質無水ケイ酸、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
かかる添加剤の配合量は特別の制限はないが、素錠重量に対して70~90重量%程度とするのが好ましい。
【0016】
本発明は、エルトロンボパグオラミンを有効成分として含有する白色コーテイングフィルム錠において、湿度苛酷条件下におけるフィルムコーティング錠の色調変化が生じないよう白色顔料である酸化チタンと有効成分であるエルトロンボパグオラミンを含有する素錠部の接触を回避すべく、フィルムコーティングにおいて酸化チタンを含まない層と酸化チタンを含む層に分け、素錠部と接触する内側の層(内層)に酸化チタンを含まない層でサブコートした後、酸化チタンを含む層(外層)をコーティングすることを本質とする。
【0017】
そのための内層を構成するコーティング組成としては、ヒプロメロース、マクロゴール6000、ポリソルベート80等からなる混合物が挙げられる。
また、内層の上にコーティングする外層部には、上記の内層コーティング部を構成する混合物に顔料として酸化チタンを含有させたものを用いることができる。
【0018】
なお、本発明において、有効成分としてエルトロンボパグオラミンを含有する素錠の調製は、製剤学的に汎用されている直接打錠法、乾式造粒法、或いは湿式造粒法等により行うことができ、それぞれの製法に即した添加物が適宜選択され、素錠を調製することができる。
【実施例0019】
以下に本発明を実施例、試験例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
実施例1:
エルトロンボパグオラミン、結晶セルロース、D-マンニトール、デンプングリコール酸ナトリウムを一度混合した後、ステアリン酸マグネシウムを添加して混合した後、打錠機(株式会社畑鐵工所、HT-EX6SS-II)に投入し、直径8mmの杵を用いて錠厚4.0mmの素錠を作製した。
【0021】
その後、内層コーティング用混合物(ヒプロメロース、マクロゴール6000、ポリソルベート80)を精製水と混合し、コーティング溶液を調製した。フィルムコーティング機(株式会社パウレック、DRC-200)にて素錠にコーティング溶液を噴霧し、内層コート(サブコート)された錠剤を作製した。
【0022】
続いて、白色色素混合物(ヒプロメロース、マクロゴール6000、酸化チタン、ポリソルベート80)を精製水と混合し、外層コーティング懸濁液を調製し、サブコートされた錠剤にコーティング懸濁液を噴霧し、外層コーティングしたフィルムコーティング錠を作製した。
【0023】
比較例1:
エルトロンボパグオラミン、結晶セルロース、D-マンニトール、デンプングリコール酸ナトリウムを一度混合した後、ステアリン酸マグネシウムを添加して混合した後に打錠機(株式会社畑鐵工所、HT-EX6SS-II)に投入し、直径8mmの杵を用いて錠厚4.0mmの素錠を作製した。
【0024】
続いて、白色色素混合物(ヒプロメロース、マクロゴール6000、酸化チタン、ポリソルベート80)を精製水と混合し、コーティング懸濁液を調製し、フィルムコーティング機(株式会社パウレック、DRC-200)にて素錠にコーティング懸濁液を噴霧し、フィルムコーティング錠を作製した。
【0025】
上記の実施例1及び比較例1の組成を表として以下の表1に示した。
【0026】
【0027】
*1:エルトロンボパグとして12.5mgを含有
*2:内層コーティング用混合物/ヒプロメロース、マクロゴール6000、ポリソルベート80を含有
*3:外層コーティング用混合物/ 白色色素混合物であり、ヒプロメロース、マクロゴール6000、酸化チタン、ポリソルベート80を含有
【0028】
試験例:
上記で調製した実施例1及び試験例1のフィルムコーティング錠を用いて、湿度苛酷条件下での色調変化を検討した。
【0029】
<方法>
実施例1と比較例1の試料(錠剤)を、湿度苛酷条件下(25℃/RH75%)で1週間及び4週間保管した後、夫々の試料について色差測定(日本電色工業株式会社、ZE6000)にてL*a*b表色系で測定を行った。
【0030】
<結果>
その結果を下記表2に示した。
【0031】
【0032】
上記表2に示した結果から判明するように、比較例1(素錠に酸化チタンを含む白色色素混合物を噴霧したフィルムコーティング錠)ではΔE*abが顕著に増加し黄変を認めるが、実施例1(素錠に酸化チタンを含まない層でサブコートした後、酸化チタンを含む白色色素混合物を噴霧したフィルムコーティング錠)ではΔE*abの増加が抑制され黄変を認めないことを確認された。
【0033】
なお、上記の実施例1は、エルトロンボパグオラミンを有効成分として含む素錠の調製を直接打錠法により行ったものである。
以下の実施例2に、湿式造粒法による素錠を調製した、本発明のフィルムコーティング錠の調製例を挙げる。
【0034】
実施例2:
流動層造粒乾燥機(フロイント産業株式会社、FLO-1)にエルトロンボパグ、結晶セルロース、乳糖水和物、デンプングリコール酸ナトリウムを投入し、これにポビドンの水溶液を噴霧して造粒し、乾燥、整粒して造粒末を得た。この造粒末にステアリン酸マグネシウムを添加して混合後に打錠機(株式会社畑鐵工所、HT-EX6SS-II)に投入し、直径8mmの杵を用いて錠厚4.0mmの素錠を作製した。
【0035】
その後、サブコート用混合物(ヒプロメロース、マクロゴール6000、ポリソルベート80)を精製水と混合し、コーティング溶液を調製した。フィルムコーティング機(株式会社パウレック、DRC-200)にて素錠にコーティング溶液を噴霧し、サブコートされた錠剤を作製した。
【0036】
続いて、白色色素混合物(ヒプロメロース、マクロゴール6000、酸化チタン、ポリソルベート80)を精製水と混合し、コーティング懸濁液を調製し、サブコートされた錠剤にコーティング懸濁液を噴霧し、外層コーティングしたフィルムコーティング錠を作製した。
【0037】
かくして調製した実施例2のフィルムコーティング錠について、上記試験例と同様の湿度苛酷条件下での色調変化を検討した。
その結果、実施例1のフィルムコーティング錠と同様に、湿度苛酷条件下での色調変化は観察されなかった。
【0038】
なお、以下の表3に、実施例2の処方を示した。
【0039】
【0040】
*1:エルトロンボパグとして12.5mgを含有
*2:内層コーティング用混合物/ヒプロメロース、マクロゴール6000、ポリソルベート80を含有
*3:外層コーティング用混合物/ 白色色素混合物であり、ヒプロメロース、マクロゴール6000、酸化チタン、ポリソルベート80を含有
【0041】
以上に記載のように、エルトロンボパグオラミンを有効成分として含む素錠部に対する酸化チタンとの接触を回避すべく、フィルムコーティングにおいて酸化チタンを含まない層と酸化チタンを含む層に分け、素錠部と接触する内側の層(内層)に酸化チタンを含まない層でサブコートした後、酸化チタンを含む層(外層)をコーティングすることで、変色が改善されることが判明し、本発明の特異性が理解される。
本発明により湿度苛酷条件下におけるフィルムコーティング錠の色調変化のない、エルトロンボパグオラミン含有フィルムコーティング錠が提供され、その医療上の効果は多大なものである。