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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082161
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】把持機構及びその把持機構の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
B25J15/08 U
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195923
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】522477573
【氏名又は名称】THKプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180264
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 貴大
(72)【発明者】
【氏名】古田 淳
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS09
3C707DS01
3C707ES03
3C707ES10
3C707ET03
3C707EU11
3C707EU17
3C707HS29
3C707KS30
3C707KS34
3C707KV06
3C707KW04
3C707KX08
3C707LV10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微細な対象物であっても破損させることがなく、把持する際に対象物が移動することがない把持機構の制御方法を提供する。
【解決手段】対向する2本のアーム1a,1bの開閉動作によって対象物18を挟む把持機構20であって、それぞれのアームの先端位置に備えられている把持部14a,14bと、それぞれのアームを独立して開閉方向に動かすことができるアームを変位させる手段と、それぞれのアームについてアームの変位量を計測する手段と、それぞれの把持部が対象物に接触したときにそれぞれの把持部にかかる荷重を計測する手段と、を有する把持機構。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2本のアームの開閉動作によって対象物を挟む把持機構であって、それぞれの前記アームの先端位置に備えられている把持部と、それぞれの前記アームを独立して開閉方向に動かすことができるアームを変位させる手段と、それぞれの前記アームについてアームの変位量を計測する手段と、それぞれの前記把持部が対象物に接触したときにそれぞれの前記把持部にかかる荷重を計測する手段と、を有することを特徴とする把持機構。
【請求項2】
前記アームを変位させる手段として、前記アームの一部に圧電バイモルフを備えていることを特徴とする請求項1に記載の把持機構。
【請求項3】
前記アームの変位量を計測する手段が、前記圧電バイモルフに貼付された歪みゲージを有することを特徴とする請求項2に記載の把持機構。
【請求項4】
それぞれの前記アームの一部分が弾性体で形成されており、それぞれの前記荷重を計測する手段が、前記アームの弾性体部分に貼付された歪みゲージを有することを特徴とする請求項1に記載の把持幾構。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の把持機構を用いた把持機構の制御方法であって、
前記アームを変位させる手段によって対象物にそれぞれの前記把持部を近づける工程と、2本の前記アームのうち先に対象物に接触した前記把持部にかかる第1の接触荷重を前記荷重を計測する手段によって計測する工程と、前記第1の接触荷重が所定の値になったときに、対象物に接触している方の前記アームの位置を保持する工程と、後から対象物に接触した前記把持部にかかる第2の接触荷重を前記荷重を計測する手段によって計測する工程と、前記第2の接触荷重が所定の値になったときに、後で対象物に接触した方の前記アームの位置を保持する工程と、それぞれの前記アームを変位させる手段によって2本の前記アームを同時に変位させ、対象物を把持する把持力を前記荷重を計測する手段によって計測する工程と、前記第1の接触荷重と前記第2の接触荷重とを等しく保ちつつ、2本の前記アームを変位させて前記把持力が所定の力になるまで加重する工程と、を有することを特徴とする把持機構の制御方法。
【請求項6】
前記荷重を計測する手段と前記アームを変位させる手段とによって、前記把持部にかかる荷重をフィードバック制御することを特徴とする請求項5に記載の把持機構の制御方法。
【請求項7】
前記アームを変位させる手段と前記アームの変位量を計測する手段とによって、前記アームの変位をフィードバック制御することを特徴とする請求項5に記載の把持機構の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体製造分野やバイオテクノロジー分野におけるプローブの接触検出、試料の把持などを行う把持機構及びその把持機構の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型圧電素子に電圧を印加して変位させ、その変位を拡大して対象物を挟持する把持機構は、一般的に用いられている(特許文献1参照)。図8は、従来の把持機構の一例である。従来の把持機構100は拡大機構になっており、一カ所の積層型圧電素子104に電圧を印加すると積層型圧電素子104には十数ミクロンの変位が生じるが、この拡大機構によりアーム105a,105bの先端にある把持部106a,106bでは支点101a,101bを中心に数百ミクロンの回転変位J,Kが得られる。拡大機構の拡大率は支点101a,101bと力点102a,102b、支点101a,101bと作用点103a,103bとの距離の比、またアーム105a,105bの長さによって決定される。そして、積層型圧電素子104に電圧を印加すると把持部106a,106bが開き、把持したい対象物18を把持部106a,106bの間に配置し、積層型圧電アクチュエータ104の印加電圧を取り除くと把持部106a,106bが閉じるため、対象物18を把持することができる。なお、把持力は、アーム105a,105bと対象物18の剛性にほぼ依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-236974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体製造やバイオテクノロジーの分野においては、ますます微細化が進んでおり、製造、修理、試験、分析等において微細な対象物を把持する要求が高まっている。
【0005】
しかし、従来の把持機構では把持力の制御が難しく、微細な対象物を破損させやすいという問題がある。また、微細な対象物は、その確認のために高倍率な顕微鏡下で作業することが多いのだが、顕微鏡の視野は狭く、把持する際に対象物が移動してしまうと、対象物が視野から外れてしまうという問題もある。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明は、対象物と把持部の接触荷重を計測し、把持力を制御できる把持機構を提供することを目的とする。そして、把持力を所定の力に設定することにより、対象物を破損せずに把持することができる。また、2本のアームを独立して制御可能なので、把持部が対象物にわずかに接触したあと、2本のアームから対象物に等しい接触荷重を与えることができるため、対象物をほとんど移動させることなく把持することを可能にする把持機構の制御方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の把持機構は、対向する2本のアームによって対象物を挟む把持機構であって、それぞれのアームの先端位置に備えられている把持部と、それぞれのアームを独立して開閉方向に動かすことができるアームを変位させる手段と、それぞれのアームについてアームの変位量を計測する手段と、それぞれの把持部が対象物に接触したときにそれぞれの把持部にかかる荷重を計測する手段と、を有することとする。
【0008】
ここで、前記アームを変位させる手段として、アームの一部に圧電バイモルフを備えていることにしたり、前記アームの変位量を計測する手段が、圧電バイモルフに貼付された歪みゲージを有することにしたりしてもよい。
【0009】
さらに、それぞれのアームの一部分が弾性体で形成されており、それぞれの前記荷重を計測する手段が、アームの弾性体部分に貼付された歪みゲージを有することにしてもよい。
【0010】
また、上記の把持機構を用いた把持機構の制御方法であって、前記アームを変位させる手段によって対象物にそれぞれの把持部を近づける工程と、2本のアームのうち先に対象物に接触した把持部にかかる第1の接触荷重を前記荷重を計測する手段によって計測する工程と、第1の接触荷重が所定の値になったときに、対象物に接触している方のアームの位置を保持する工程と、後から対象物に接触した把持部にかかる第2の接触荷重を前記荷重を計測する手段によって計測する工程と、第2の接触荷重が所定の値になったときに、後で対象物に接触した方のアームの位置を保持する工程と、それぞれの前記アームを変位させる手段によって2本のアームを同時に変位させ、対象物を把持する把持力を前記荷重を計測する手段によって計測する工程と、第1の接触荷重と第2の接触荷重とを等しく保ちつつ、2本のアームを変位させて把持力が所定の力になるまで加重する工程と、を有する把持機構の制御方法にするとよい。
【0011】
ここで、前記荷重を計測する手段と前記アームを変位させる手段とによって、把持部にかかる荷重をフィードバック制御することにしてもよいし、前記アームを変位させる手段と前記アームの変位量を計測する手段とによって、アームの変位をフィードバック制御することにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の把持機構によれば、2本のアームの変位と把持部の接触荷重とを計測し、一方の把持部が対象物に接触した時点でそのアームの変位を保持し、さらに他方の把持部が対象物に接触した時点でそのアームの変位も保持し、その後2本のアームを同時に変位させて、それぞれの把持部と対象物との接触荷重をほぼ等しく保ちながら所定の把持力になるように加重することができるので、微細な対象物であっても破損することがなく、把持する際に対象物が移動することもない、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の把持機構の第1の実施例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図2】バイモルフの構造を説明する図である。
図3】歪みゲージにより、(a)変位センサ出力及び(b)荷重センサ出力を得る方法を説明する図である。
図4】本発明による制御系を説明する図である。
図5】(a)は従来の把持機構、(b)は本発明の把持機構の概念を説明する図である。
図6】本発明の把持機構の第2の実施例を示す図である。
図7】本発明の把持機構の第3の実施例の平面図である。
図8】従来の把持機構の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の把持機構の第1の実施例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。この把持機構20は、対向する2本のアーム1a,1bの開閉動作によって対象物18を挟む構造となっている。以下、把持機構20の詳細を説明する。
【0016】
アーム1a,1bは互いに対向するように配置され、アーム1a,1bの基端側が支持部3で固定されており、それぞれのアーム1a,1bの先端位置には、対象物18を挟み持つ把持部14a,14bが備えられている。また、それぞれのアーム1a,1bを独立して開閉方向に動かすことができるアームを変位させる手段を備えている。ここでは、アームを変位させる手段として、アーム1a,1bの一部が圧電バイモルフ2a,2bとなっている。
【0017】
図2は、バイモルフの構造を説明する図であって、圧電バイモルフ2aを抜き出したものである。なお、圧電バイモルフ2bの構造及び動作原理は圧電バイモルフ2aと同様であるので、以下、圧電バイモルフ2aを用いて説明する。圧電バイモルフ2aは、図2に示すように3枚の電極16a、16b、16cの間に2枚の圧電セラミックスの薄板15a,15bを挟んで貼り合わせた構成となっている。また、圧電セラミックスの薄板15a,15bは、それぞれ矢印A,Bのように分極処理されている。そして、圧電セラミックスの薄板15a,15bにドライバにより電圧17a,17bを印加すると、圧電セラミックスの薄板15aは矢印Cの向きに伸び、圧電セラミックスの薄板15bは矢印Dの向きに縮むため、圧電バイモルフ2aには、屈曲変位Eが生じることになる。このような圧電バイモルフ2a,2bの機能によって、アーム1a,1bは、それぞれ独立して開閉動作を行うことができる。
【0018】
また、それぞれのアームを変位させる手段(ここでは、圧電バイモルフ2a,2b)は、アームの変位量を計測する手段を備えている。ここでは、アームの変位量を計測する手段として、圧電バイモルフ2a,2bに歪みゲージ4a,5a,6a,7a,4b,5b,6b,7bを貼付して、歪みの測定からアーム1a,1bの変位量を求めることとしている。歪みゲージ4a,5a,6a,7a,4b,5b,6b,7bは、アーム1a,1bの圧電バイモルフ2a,2bの長手方向に沿って1本のアームに対して2箇所の位置にそれぞれ対向して貼付されている。
【0019】
また、それぞれの把持部14a,14bが対象物18に接触したときに、それぞれの把持部14a,14bにかかる荷重を計測する手段(ここでは、荷重計測部9a,9b)が設けられている。ここでは、把持部14a,14bと圧電バイモルフ2a,2bの間に弾性体で形成された起歪部8a,8bが設けられ、この起歪部8a,8bの対向面に歪みゲージ10a,11a,12a,13a,10b,11b,12b,13bが貼付されている。なお、歪みゲージ10a,11a、10b、11bは、歪みの感度方向に、歪みゲージ12a,13a,12b,13bは感度方向に直交する方向に貼り付けられている。なお、荷重を計測する手段によって計測された荷重は、それぞれの把持部が対象物に接触したときの荷重を接触荷重とし、両方の把持部で対象物を挟んだときの荷重を把持力と呼ぶこととする。
【0020】
圧電バイモルフ2aのサイズの具体例としては、幅5mm、長さ50mm、厚み0.5mmで、150Vの電圧を印加すると把持部14aには矢印Fの方向に約400μmの屈曲変位が生じる。屈曲変位が生じると歪みゲージ4a,6aには屈曲変位に比例した正の歪み、歪みゲージ5a,7aには負の歪みが発生する。
【0021】
図3は、歪みゲージにより、(a)変位センサ出力及び(b)荷重センサ出力を得る方法を説明する図である。歪みゲージ4a,5a,6a,7aでブリッジ回路30aを組み、ブリッジアンプ32aで増幅することによって、圧電バイモルフ2aの屈曲変位の変位センサ出力31aが得られ、それと比例した把持部の変位Fを計測することができる。具体的には、歪みゲージのサイズは6mm×3mm、ゲージ率は2、ブリッジアンプの増幅率は4000倍で圧電バイモルフ2aが400μm変位したとき、約8Vの変位センサ出力31aが得られる。
【0022】
同様に圧電バイモルフ2bに150Vの電圧を印加すると把持部14bには矢印Gの方向に約400μmの屈曲変位が生じる。屈曲変位が生じると歪みゲージ4b,6bには屈曲変位に比例した正の歪み、歪みゲージ5b,7bには負の歪みが発生する。図3に示すように、歪みゲージ4b,5b,6b,7bでブリッジ回路30bを組み、ブリッジアンプ32bで増幅することによって、圧電バイモルフ2bの屈曲変位の変位センサ出力31bが得られ、それと比例した把持部の変位Gを計測することができる。
【0023】
起歪部8aには歪みゲージ10a,11a,12a,13aが貼り付けられている。把持部14aに荷重がかかると起歪部8aに荷重に比例した弾性変形が生じるため、歪みゲージ10a,11a,12a,13aには荷重に比例した歪みが測定される。図3に示すように、歪みゲージ10a,11a,12a,13aでブリッジ回路40aを組み、ブリッジアンプ42aで増幅することによって荷重センサ出力41aが得られ、把持部14aにかかった荷重を計測することができる。具体例として、歪みゲージのサイズ6×3mm、ゲージ率は2、ブリッジ回路40aの増幅率は約1000倍、把持部に1Nの荷重がかかったとき約8Vの荷重センサ出力41aが得られる。同様に起歪部8bには歪みゲージ10b,11b,12b,13bが貼り付けられている。把持部14bに荷重がかかると起歪部8bに荷重に比例した弾性変形が生じるため、歪みゲージ10b,11b,12b,13bには荷重に比例した歪みが測定される。図3に示すように、歪みゲージ10b,11b,12b,13bでブリッジ回路40bを組み、ブリッジアンプ42bで増幅することによって荷重センサ出力41bが得られ、把持部14bにかかった荷重を計測することができる。
【0024】
図4は、本発明による制御系を説明する図である。圧電バイモルフ2aはドライバ51aによって駆動され、変位センサ出力31aと圧電バイモルフ2aの間にはPID制御部52aによるクローズドフィードバック制御が行われ、荷重センサ出力41aによって把持部14aに生じる接触荷重又は把持力を計測して、アームの制御系50aに入力することで、所定の接触荷重又は把持力が得られるように、屈曲変位Fに応じた位置指令電圧53aをアームの制御系50aから出力することができる。
【0025】
同様に圧電バイモルフ2bはドライバ51bによって駆動され、変位センサ出力31bと圧電バイモルフ2bの間にはPID制御部52bによるクローズドフィードバック制御が行われ、把持部14bの屈曲変位Gに応じた位置指令電圧53bを出力することにより屈曲変位Gの位置決めが可能である。また荷重センサ出力41bによって把持部14bに生じる接触荷重又は把持力を計測することができる。
【0026】
対象物18を2つのアーム1a,1bのほぼ中央に配置し、圧電バイモルフ2a,2bに位置指令電圧53a,53bを徐々に大きくなるように与えると屈曲変位F,Gにより把持部14a、14bが対象物18に接触する。このとき対象物18が2つのアーム1a,1bに対して中心からずれた位置にあったとすると、2つのアーム1a、1bのうちどちらかの把持部14a,14bが先に接触する。以下、先にアーム1aの把持部14aが対象物18に接触したとして説明する。なお、先に接触する把持部14aの接触荷重を第1の接触荷重とし、後で接触する把持部14bの接触荷重を第2の接触荷重とする。具体的には、接触荷重の所定の値を20μNに設定しておき、アーム1aの屈曲変位Fにより把持部14aと対象物18が接触し、荷重センサ出力41aによって計測された第1の接触荷重が20μNに相当する値になると位置指令電圧53aをその電圧に保持する。屈曲変位Fは変位センサ出力31aによってフィードバック制御されているため、正確にその位置を保持することができる。このときアーム1bは、まだ対象物18には接触していないので、続けてアーム部1bに屈曲変位Gを与えて対象物18と把持部14bが接触するまで位置指令電圧53bによってアーム1bを変位させる。そして、把持部14bの第2の接触荷重が所定の値の20μNに達したら位置指令電庄53bをその電圧に保持する。屈曲変位Gは変位センサ出力31bによってフィードバック制御されているため、正確にその位置を保持することができる。
【0027】
こうすることによって、対象物18はアーム1a、1bによって所定の値20μNの接触荷重で挟まれた状態になっており、互いの接触荷重は小さいので、把持するまで対象物18はほとんど移動することがない。このあと、予め設定された把持力、具体的には所定の力1mNに相当する荷重センサ出力41a,41bが得られるまで、位置指令電圧53a、53bを同時に出力させ、対象物18を把持させる。対象物はアーム部1a,1bによって20μNの小さな接触荷重で接触させた後、アーム1a、1bをほぼ同時に屈曲変位させて把持するため、対象物18に把持力が1mNになるまで加重されている間にも、対象物18が移動することがない。
【0028】
もちろん荷重センサ出力41a,41bが、ほぼ等しい値を維持するように位置指令電圧53a,53bをアームの制御系50a,50bから出力させることにより、把持部14a、14bの把持力が均等に維持するように、アーム1aの変位Fとアーム1bの変位Gを制御できることは言うまでも無い。
【0029】
図5は、(a)は従来の把持機構、(b)は本発明の把持機構の概念を説明する図である。図5(a)に示す従来の把持機構では把持部19と把持部20の間に対象物18の中心をHの位置に配置して、把持部19と把持部20を対象物18に向かって変位させるのだが、対象物18が把持部19と把持部20の中央にないと、把持部20と対象物18が接したあと、対象物18が把持部20に押され、把持した時点の対象物18の中心は、把持部19と把持部20の把持前の中心Iの位置に移動してしまう。
【0030】
これに対して、図5(b)に示す本発明による把持機構では、把持部20が対象物18とわずかに接触した時点でその位置を保持し、続いて把持部19が対象物18とわずかに接触した時点でその位置を保持し、その後2つの把持部19と把持部20が同時に所定の把持力になるまで変位するので、対象物には均等に把持力が加重されるため、対象物18の中心は元の中心位置Hからほとんど移動することなく把持することができる。そうすると本発明による把持機構を用いると、高倍率な顕微鏡下で作業するときにも、対象物が移動して視野からはずれてしまうことなく把持することができる。
【0031】
図6は、本発明の把持機構の第2の実施例を示す図である。この把持機構は図1の実施例と同様の構成である。アーム1aはスイッチ55aによって変位センサ出力31aと圧電バイモルフ2aをPID制御部52aによる変位Fのフィードバック制御に切り替え、スイッチ56aによって位置指令電圧53aに応じた変位Fが得られるようにする。位置指令電圧53aにより対象物18と把持部14aが所定の接触荷重で接触し、変位Fを保持することは第1の実施例で述べたのと同様である。対象物18と把持部14aが接触した後、スイッチ55aによって荷重センサ出力41bと圧電バイモルフ2aをPID制御部52aによる荷重のフィードバック制御に切り替え、スイッチ56aによって荷重指令電圧54aに応じた把持力が得られるようにする。荷重指令電圧54aに応じた接触荷重又は把持力をPID制御52aによるフィードバック制御により維持されるため、接触荷重と把持力がより安定して維持することが可能になる。アーム1bも同様にスイッチ55bによって変位センサ出力31bと圧電バイモルフ2bをPID制御部52bによる変位Gのフィードバック制御に切り替え、スイッチ56bによって位置指令電圧53bに応じた変位Gが得られるようにする。位置指令電圧53bにより対象物18と把持部14bが所定の接触荷重で接触し、変位Gを保持することは第1の実施例で述べたのと同様である。対象物18と把持部14bが接触した後、スイッチ55bによって荷重センサ出力41bと圧電バイモルフ2bをPID制御部52bによる荷重のフィードバック制御に切り替え、スイッチ56bによって荷重指令電圧54bに応じた把持力が得られるようにする。荷重指令電圧54bに応じた接触荷重又は把持力をPID制御52bによるフィードバック制御により維持されるため、接触荷重や把持力がより安定して維持することが可能になる。
【0032】
ここまでは、アームを変位させる手段として圧電バイモルフを使用し、アームの変位量を計測する手段として歪みゲージ、荷重を計測する手段として歪みゲージを用いたものを例示したが、本発明はこれらの手段に限定するものではなく、これら以外の手段を用いることも可能であるので、以下に説明する。
【0033】
図7は、本発明の把持機構の第3の実施例の平面図である。この把持機構20では、アーム1a,1bの長軸方向に電圧の印加により変位可能な積層型圧電アクチュエータ60a,60bをアーム1a,1bの一部に組み込むことで、アームを変位させる手段として用い、てこの原理による拡大機構61a,61bによって、アーム1a,1bの先端に設けた把持部14a,14bが開閉して対象物18を把持する機構となっている。アーム1a,1b及び拡大機構60a,60bは、それぞれが対称に配置され、支持部3に固定されている。把持部14a,14bは、剛性が十分に大きいアーム1a,1bの先端付近で二股に分かれて設けられている。
【0034】
アームの変位量を計測する手段としては、アーム1a,1bの側面に静電容量式変位センサ62a,62bを配置し、アーム1a,1bが動いたときに、アーム1a,1bの側面と静電容量式変位センサ62a,62bのプローブとのギャップが変化することで、静電容量が変化し変位を計測することができる。
【0035】
荷重を計測する手段としては、アーム1a,1bの先端付近にロードセル63a,63bを把持部14a,14bに接触するように埋め込んでいる。
【0036】
この第3の実施例は、アームを変位させる手段を積層型圧電アクチュエータ60a,60b、変位を計測する手段を静電容量式変位センサ62a,62b、荷重を計測する手段をロードセル63a,63bに置き換えただけなので、制御方法は第1の実施例と同様でよい。
【0037】
なお、アームを変位させる手段としては、アーム1a,1bの長手方向に伸縮できればよいので、超音波モータ、ステッピングモータ、リニアモータ等を用いてもよい。また、変位を計測する手段としては、渦電流式変位センサ、差動トランス式変位センサ等の変位センサであってもよい。さらに、荷重を計測する手段としては、ロードセルの替わりに静電容量式変位センサなどの非接触式の変位センサを用いて、荷重が加わったときの把持部14a,14bの弾性変位を計測し、把持部14a,14bの片持ちばねの剛性から荷重を求めることもできる。
【0038】
以上より、本発明の把持機構及びその制御方法を用いれば、微細な対象物であっても破損することがなく、また、把持する際に対象物が移動することを防止することができるので、安全かつ安定して、把持作業を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1a,1b アーム
2a,2b 圧電バイモルフ
3 支持部
4a,4b 歪みゲージ
5a,5b 歪みゲージ
6a,6b 歪みゲージ
7a,7b 歪みゲージ
8a,8b 起歪部
9a,9b 荷重計測部
10a,10b 歪みゲージ
11a,11b 歪みゲージ
12a,12b 歪みゲージ
13a,13b 歪みゲージ
14a,14b 把持部
15a,15b 圧電セラミックの薄板
16a,16b,16c 電極
17a,17b 電圧源
18 対象物
20 把持機構
30a,30b ブリッジ回路
31a,31b 変位センサ出力
32a,32b ブリッジアンプ
40a,40b ブリッジ回路
41a,41b 荷重センサ出力
42a,42b ブリッジアンプ
50a,50b アームの制御部
51a,51b ドライバ
52a,52b PID制御部
53a,53b 位置指令電圧
54a,54b 荷重指令電圧
55a,55b スイッチ
56a,56b スイッチ
60a,60b 積層型圧電アクチュエータ
61a,61b 拡大機構
62a,62b 静電容量式変位センサ
63a,63b ロードセル
100 従来の把持機構
101a,101b 支点
102a,102b 力点
103a,103b 作用点
104 積層型圧電素子
105a,105b アーム
106a,106b 把持部
A,B 圧電バイモルフの分極方向
C,D 圧電バイモルフの変位
E 圧電バイモルフの屈曲変位
F,G 把持部の変位
H 対象物の中心
I 二つの把持部の中心
J,K 回転変位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8