(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082218
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】多孔質体及び化粧用道具
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
C08J9/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086849
(22)【出願日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022195652
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100201710
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳典
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA16
4F074AA20
4F074AB03
4F074AB05
4F074CB03
4F074CB14
4F074CB27
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA17
4F074DA24
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】低硬度の多孔質体を提供すること。
【解決手段】本技術では、アスカーF硬度が55以下であり、樹脂から気孔形成材を抽出除去してなる、多孔質体を提供する。本技術に係る多孔質体において、前記気孔形成材は、その粒度分布において、2以上のピークが観測されてもよい。前記2以上のピークは、少なくとも35μm未満の領域と、35μm以上の領域において観測されてもよい。また、本技術では、本技術に係る多孔質体を備える化粧用道具も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスカーF硬度が55以下であり、樹脂から気孔形成材を抽出除去してなる、多孔質体。
【請求項2】
前記気孔形成材は、その粒度分布において、2以上のピークが観測される、請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
前記気孔形成材は、その粒度分布において、少なくとも35μm未満の領域と、35μm以上の領域においてピークが観測される、請求項2に記載の多孔質体。
【請求項4】
前記気孔形成材は、その粒度分布において、110μm以上の領域においてピークが観測されない、請求項3に記載の多孔質体。
【請求項5】
比重が0.140g/cm3以下である、請求項1に記載の多孔質体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の多孔質体を備える、化粧用道具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、多孔質体及び化粧用道具に関する。より詳しくは、樹脂から気孔形成材を抽出除去してなる多孔質体、及び該多孔質体を備える化粧用道具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂を用いた多孔質体が製造されている。従来における多孔質体の製造方法としては、湿式法又は乾式法で、水に可溶な気孔形成材を混入・分散させた成形体を形成し、その後に気孔形成材を抽出除去することにより、多孔質体を製造するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂が熱溶融する温度で熱的に安定である水溶解性気泡形成材と、滑材として作用する水溶解性高分子化合物とを加熱状態下で混合した混合物の成形体から、前記水溶解性気泡形成材および水溶解性高分子化合物を水により抽出除去して3次元連通気泡構造としたことを特徴とするミクロ多孔体が開示されている。また、特許文献2には、オレフィン系樹脂に混練された形孔剤を溶出することによって形成される連続多孔性弾性体であり、平均気孔径が1~100μmであり、保水率が100~500%であることを特徴とする親水性連続多孔性弾性体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-302839号公報
【特許文献2】特開2005-187529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、樹脂を用いた多孔質体に関する技術が開発されてはいるものの、多孔質体に対するニーズが多様化し、低硬度の多孔質体の開発が求められているという実情がある。
【0006】
そこで、本技術では、低硬度の多孔質体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術では、まず、アスカーF硬度が55以下であり、樹脂から気孔形成材を抽出除去してなる、多孔質体を提供する。
前記気孔形成材は、その粒度分布において、2以上のピークが観測されてもよい。この場合、前記気孔形成材は、その粒度分布において、少なくとも35μm未満の領域と、35μm以上の領域においてピークが観測されてもよい。また、この場合、前記気孔形成材は、その粒度分布において、110μm以上の領域においてピークが観測されなくてもよい。
本技術に係る多孔質体は、比重が0.140g/cm3以下であってもよい。
また、本技術では、本技術に係る多孔質体を備える、化粧用道具も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、いずれの実施形態も組み合わせることが可能である。また、これらにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0009】
1.多孔質体
本技術に係る多孔質体は、アスカーF硬度が55以下であり、樹脂から気孔形成材を抽出除去してなる。以下、詳細に説明する。
【0010】
(1)アスカーF硬度
本技術に係る多孔質体のアスカーF硬度は、55以下であり、54以下であることが好ましく、51以下であることがより好ましく、48以下であることが更に好ましく、45以下であることが特に好ましい。アスカーF硬度を55以下とすることで、低硬度の多孔質体を提供できる。その結果、硬度は良好な触感に資する要素の一つであることから、これにより、良好な感触を有する多孔質体を提供できる。
【0011】
また、本技術に係る多孔質体のアスカーF硬度は、30以上であることが好ましく、34以上であることがより好ましく、38以上であることが更に好ましく、40以上であることが特に好ましい。アスカーF硬度を30以上とすることで、摩耗性及び耐洗濯性に優れる多孔質体を提供することができる。
【0012】
本技術において、アスカーF硬度は、例えば、JIS 6253-3に準拠し、タイプFデュロメータ(高分子計器株式会社製)で測定した値とすることができる。
【0013】
(2)樹脂
本技術に用いることができる樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることができるが、これらの中でも特に、リサイクル性の観点から、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、ポリアミド、ポリイミド、及びポリアセタール等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0014】
本技術では、これらの中でも特に、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とする樹脂である。オレフィン成分単位を主成分とする樹脂とは、すなわち、オレフィン成分単位が50質量%以上含まれる樹脂をいう。
【0015】
本技術に用いることができるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、及びオレフィン系モノマーと該オレフィン系モノマーと共重合し得るモノマーとの共重合体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0016】
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のエチレン単独重合体;エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-ブテンブロック共重合体、エチレン-ブテンランダム共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0017】
ポリプロピレン樹脂としては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、及びアタクチックポリプロピレン等のプロピレン単独重合体;プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-ブテンブロック共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン三元共重合体、プロピレン-アクリル酸共重合体、及びプロピレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0018】
本技術では、これらの中でも特に、α-オレフィン共重合体、ポリエチレン、及びエチレン-オクテン共重合体からなる群より選ばれるいずれか1種以上が好ましい。
【0019】
なお、樹脂には、原料の起源によって、石油由来の樹脂やバイオ由来の樹脂などがあることが知られているが、本技術に用いることができる樹脂は、バイオ由来の樹脂を含んでいてもよい。ここで、バイオ由来の樹脂とは、生物由来の資源であるバイオマスを材料とする樹脂である。具体的には、例えば、放射性炭素測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が40%~100%未満のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。バイオ由来の樹脂を含むことで、カーボンニュートラルへの貢献や、石油由来の樹脂の使用低減に寄与でき、また、バイオマス度を向上させ、持続可能な社会の形成に貢献することができる。
【0020】
バイオ由来の樹脂を含む場合、多孔質体に対するバイオ由来の樹脂の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。バイオ由来の樹脂を1質量%以上含むことで、カーボンニュートラルへの貢献や、石油由来の樹脂の使用低減に寄与できる。また、本技術に係る多孔質体のバイオマス度(バイオ由来成分量の比率)は、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書でいう「バイオマス度」とは、下記数式により算出された値である。
バイオマス度=(バイオ由来の樹脂の配合割合)×(バイオ由来の樹脂のバイオマス度)
【0021】
更に、バイオ由来の樹脂を含む場合、多孔質体に対するバイオ由来の樹脂の含有量は、30質量%未満であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。バイオ由来の樹脂を30質量%未満含むことで、低硬度の多孔質体を提供できる。また、本技術に係る多孔質体のバイオマス度は、30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましい。
【0022】
(3)気孔形成材
本技術に用いることができる気孔形成材としては、水、アルコール、又はアルコール水溶液(好ましくは、水)に可溶性であって、且つ、前記樹脂が溶融する際にも安定な物質であることが好ましい。具体的には、例えば、NaC1、KCl、CaC1、NH4Cl、NaNO3、及びNaNO2等の無機物;TME(トリメチロールエタン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ショ糖、可溶性澱粉、ソルビトール、グリシン、及び各有機酸(例えば、リンゴ酸、クエン酸、グルタミン酸、コハク酸、コハク酸等)のナトリウム塩等の有機物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0023】
本技術では、これらの中でも特に、無機物を用いることが好ましく、無機物の中でも特に、NaC1を用いることが好ましい。
【0024】
本技術において、気孔形成材の粒度分布は、2以上のピークが観測されることが好ましい。なお、ここでいう「粒度分布」とは、1つの粒子の大きさを1つの値で表現して横軸に取り、縦軸を頻度としてヒストグラムを作ったものである。この粒度分布を示すヒストグラムのピークの値は、「モード径」と称され、対称な粒度分布である場合は、このモード径と平均粒子径が一致する。気孔形成材の粒度分布として、2以上のピークが観測されることで、良好な感触を有する多孔質体を提供できる。また、必要に応じて、3以上、4以上、或いはそれ以上のピークが観測されてよい。
【0025】
気孔形成材の粒度分布として、2以上のピークが観測される場合、前記気孔形成材は、その粒度分布において、少なくとも35μm未満の領域と、35μm以上の領域においてピークが観測されることが好ましく、少なくとも30μm以下の領域と、40μm以上の領域において、ピークが観測されることがより好ましく、少なくとも25μm以下の領域と、45μm以上の領域においてピークが観測されることが更に好ましい。前記気孔形成材を、その粒度分布において、少なくとも35μm未満の領域と、35μm以上の領域においてピークが観測されることで、より低硬度の多孔質体を得ることができる。なお、気孔形成材の粒度分布として、2以上のピークが観測される場合、例えば、2種以上の異なる単一のピークを有する気孔形成材同士を、所定の割合で混合することで、上述した粒度分布を得ることができる。
【0026】
また、気孔形成材の粒度分布として、2以上のピークが観測される場合(好ましくは、3以上のピークが観測される場合)、110μm以上の領域においてピークが観測されないことが好ましく、100μm以上の領域においてピークが観測されないことがより好ましい。110μm以上の領域においてピークが観測されないことで、硬度を下げ、良好な感触を有する多孔質体を提供できる。
【0027】
気孔形成材の平均粒子径は、10μm以上150μm以下であることが好ましく、20μm以上130μm以下であることがより好ましく、20μm以上110μm以下であることが更に好ましく、20μm以上90μm以下であることが特に好ましい。気孔形成材の平均粒子径を10μm以上とすることで、多孔質体の気孔の大きさを一定以上に制御でき、形成性、摩耗性、及び耐洗濯性に優れた多孔質体を提供できる。一方で、気孔形成材の平均粒子径を150μm以下とすることで、多孔質体の気孔の大きさを一定以下に制御できる。なお、ここでいう「気孔形成材の平均粒子径」とは、単一のピークを有する気孔形成材を2種以上混合した場合は、混合した状態における平均粒子径を指す。
【0028】
本技術において、平均粒子径とは、レーザー回折法で測定した粒径分布において、累積度数50%となる粒子径(D-50)である。
【0029】
気孔形成材の平均粒子径の好ましい組み合わせとしては、具体的には、20μmと50μm、20μmと90μm、20μmと50μmと90μmの組み合わせが好ましく、20μmと50μm、20μmと90μmの組み合わせがより好ましく、20μmと50μmの組み合わせが更に好ましい。
【0030】
(4)水溶解性高分子化合物
本技術に係る多孔質体は、その製造において、滑材として作用する水溶解性高分子化合物を用いてもよい。具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジオレエート、及びポリエチレングリコールジアセテート等のポリエチレングリコール誘導体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0031】
本技術では、これらの中でも特に、ポリエチレングリコールを用いることが好ましい。ポリエチレングリコールは、メルトフローが高く、且つ、水溶解性が高いためである。成形を押出成形方法で行う場合、ポリエチレングリコールの分子量は、2,000~30,000であることが好ましく、5,000~25,000であることがより好ましく、15,000~25,000であることが更に好ましい。
【0032】
本技術に係る多孔質体の製造において、前記樹脂と、気孔形成材及び水溶解性高分子化合物と、の混合割合は、vol%で10:90~40:60であることが好ましく、12:88~30:70であることがより好ましく、15:85~20:80であることが更に好ましく、16:84~18:82であることが特に好ましい。前記樹脂が10vol%未満の場合には、水溶解性物質の抽出・除去時に成形体自体が分離してしまう。一方で、前記気孔形成材及び水溶解性高分子化合物が85vol%を超える場合には、気孔率が高すぎてシュリンクし、成形性が悪くなってしまう。
【0033】
(5)比重
また、本技術に係る多孔質体の比重は、0.140g/cm3以下であることが好ましく、0.135g/cm3以下であることがより好ましく、0.132g/cm3以下であることが更に好ましい。比重を0.140g/cm3以下とすることで、より好感触な多孔質体を提供できる。
【0034】
本技術に係る多孔質体の比重は、0.110g/cm3以上であることが好ましく、0.115g/cm3以上であることがより好ましく、0.120g/cm3以上であることが更に好ましく、0.125/cm3以上であることが特に好ましい。比重を0.110g/cm3以上とすることで、耐久性に優れた多孔質体を提供できる。
【0035】
本技術において、用いられる樹脂が1種類の場合の比重は、以下の数式(1)で算出した値とすることができる。なお、下記数式(1)において、各添加量の単位は「g」であり、各比重の単位は「g/cm3」である。
【0036】
【数1】
A:樹脂1
B:気孔形成材
C:水溶解性高分子化合物
【0037】
また、本技術において、用いられる樹脂が2種以上の場合の比重は、以下の数式(2)で算出した値とすることができる。なお、下記数式(2)において、各添加量の単位は「g」であり、各比重の単位は「g/cm3」である。また、下記数式(2)において、「・・・」の部分は、2種目の樹脂(すなわち、D:樹脂2)と同様に、3種目以降の樹脂の「添加量」、又は「添加量/比重」が必要に応じて代入されるものとする。
【0038】
【数2】
A:樹脂1
B:気孔形成材
C:水溶解性高分子化合物
D:樹脂2
【0039】
更に、本技術に係る多孔質体が後述するその他の任意成分を含む場合は、その他の任意成分の物性等に応じて、当業者により上述した数式を適宜設定して比重を算出することができる。
【0040】
(6)引張特性
本技術に係る多孔質体の引張破断強度は、0.02Mpa以上であることが好ましく、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.08Mpa以上であることが更に好ましい。また、本技術に係る多孔質体の引張破断強度は、特に限定されないが、通常は5MPa以下である。
【0041】
本技術に係る多孔質体の引張破断伸びは、150%以上であることが好ましく、170%以上であることがより好ましく、180%以上であることが更に好ましい。また、本技術に係る多孔質体の引張破断伸びは、特に限定されないが、通常は800%以下である。
【0042】
本技術において、上述した引張特性は、例えば、JIS K 6251に準拠して測定した値とすることができる。
【0043】
(7)その他
本技術に係る多孔質体は、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、充填材、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防カビ剤などの任意の成分を含んでいてもよい。
【0044】
2.多孔質体の製造方法
本技術に係る多孔質体の製造方法は、特に限定されない。例えば、樹脂と、気孔形成材と、滑材として作用する水溶解性高分子化合物と、を加熱状態下で混合した混合物の成形体から、前記気孔形成材及び前記水溶解性高分子化合物を抽出除去することにより製造できる。
【0045】
具体的には、まず、原料となる樹脂、1種又は2種以上の気孔形成材及び水溶解性高分子化合物を、所定の機器を使用し、所定の混合割合にて混合・混練し、混合物を得る。次いで、得られた混合物を、押出機等を使用して所定形状の成形体に成形する。これにより、得られた成形体を、所定温度の水等に浸漬して、前記気孔形成材及び前記水溶解性高分子化合物を抽出・除去して、微細な気泡を多数備えた多孔質体を得ることができる。
【0046】
なお、上述した樹脂、気孔形成材及び水溶解性高分子化合物の混合・混練には、ラボプラストミル、1軸式又は2軸式押出機、ニ一ダ、加圧式ニ一ダ、コニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェル型ミキサ、及びロータ型ミキサ等の混練装置を用いることができる。この混練について、特殊な装置は必要なく、混練速度等も特に限定されない。混練時の温度は、用いられる樹脂等の溶融点によって適宜設定される。混練時間は、混合物の物性により左右されるが、該混合物が充分に混合・混練されればよい。混練された原料は、押出、射出、プレス、ローラー、及びブロー等により所望形状に成形が可能である。
【0047】
所望形状に成形された成形体は、前記気孔形成材及び前記水溶解性高分子化合物を、溶媒である水等に所定時間(成形体の形状・厚さ等にもよるが、例えば、24~48時間等)浸漬させることで、抽出・除去される。この際の浸漬は、どのような方法であってもよいが、前記混合物全体を水等に接触させる浸漬による抽出・除去が好ましい。使用される水等の温度については、用いられる樹脂の融点よりも低ければ特に限定されないが、前記水溶解性物質の効率的な除去のために、15~60℃の温水等を利用してもよい。
【0048】
3.多孔質体の用途
本技術に係る多孔質体は、その品質の高さを利用して、あらゆる分野であらゆる用途に用いることができる。具体的には、例えば、フィルタ、濾過膜などの機能性分離膜、保水材、止水材、徐放材、溶剤タイプのインキを使用したスタンプ台、有機溶剤を吸収して保持する部材、滲み出しパッド材、化粧用道具、医療用道具などの用途で使用することができる。
【0049】
本技術に係る多孔質体は、好感触であることから、これらの中でも特に、化粧用道具、又は医療用道具に用いることが好ましい。また、本技術に係る多孔質体を用い、これらの道具における人肌に直接触れる部分を形成することが特に好ましい。
【実施例0050】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0051】
<実験例>
実験例では、アスカーF硬度、及び2種以上の異なる単一のピークを有する気孔形成材を選択し、混合した場合の違いが及ぼす影響について検討した。
【0052】
(1)原料
樹脂1:α-オレフィン共重合体(MFR(190℃)3.6g/min、密度:885kg/m3、融点:66℃)
樹脂2:LDPE(MFR(190℃)7.46g/min、密度:910kg/m3、融点:103.2℃)、バイオマス度:83.2%
気孔形成材:NaCl(平均粒子径:20μm、50μm、90μm、又は130μm)
※なお、実施例1~10では、上述した異なる平均粒子径を有する気孔形成材を2種以上選択し、混合して用いた。
水溶解性高分子化合物:ポリエチレングリコール(分子量:15,000~25,000)
【0053】
(2)多孔質体の製造
下記表1及び表2に示す各原料を計量後、ラボプラストミル(温度:130℃、時間:10min、回転数:50rpm)にて混錬した。混錬後の混合物を、ハンドプレス機(温度:160℃、時間:5min、圧力:40kN)にて成形した後、水冷して水に浸漬し、気孔形成材及び水溶解性高分子化合物を一晩溶出(温度:15℃程度)させ、乾燥させることにより、各多孔質体を製造した。
【0054】
(3)評価
製造した各多孔質体について、以下の方法を用いて各評価を行った。
【0055】
[アスカーF硬度]
JIS 6253-3に準拠し、タイプFデュロメータ(高分子計器株式会社製)で測定した。
【0056】
[官能評価]
滑らかさ、柔らかさ、及びしっとり感について、評価者により満点を5点とした5段階で評価した。また、下記表1及び表2では、各点数の合計点も併記した。
【0057】
[形成性]
気孔形成材及び水溶解性高分子化合物の溶出後、シュリンクしていない(厚みが変化していない)ものをA評価とし、シュリンクした(厚みが変化した)ものをB評価とした。
【0058】
[比重]
上述した数式(2)を用いて算出した。
【0059】
[引張破断強度][引張破断伸び]
引張破断強度、及び引張破断伸びは、JIS K 6251に準拠して測定した。
【0060】
[摩耗性]
JIS L 0849を元に、試験機:学振系摩耗試験機(別名:摩擦試験機II形)、移動距離:11~12cm、荷重:200g(アーム重さ含む)、相手材を医療用ガーゼとし、各多孔質体を摩擦子(アーム)にしっかりと固定し、相手材を試験台に設置した上で、摩耗試験を開始し、往復摩耗回数2回毎に摩耗面を観察した。10回往復摩耗後、摩耗面の変化がないものをA評価とし、変化があるものをB評価とした。
【0061】
[耐洗濯性]
下記の(i)~(vi)の手順に従って、各多孔質体を洗濯した。
(i)各多孔質体を軽く水で濡らした。
(ii)中性洗剤を適量含ませ、手もみを20回行った。
(iii)流水ですすぎながら、手もみを更に20回行った。
(iv)(ii)と(iii)とをもう一度繰り返した。
(v)軽く絞り水気を切った。
(vi)各多孔質体の洗濯前後での変形や破れないかを確認した。
上述した通り、各多孔質体を洗濯した後、破れや変形が無いものをA評価とし、破れや変形が僅かにあるが使用上問題がないものをB評価とし、破れや変形が顕著にあり使用上問題があるものをC評価とした。
【0062】
(4)結果
結果を下記表1及び表2に示す。なお、下記表1及び表2において、「ブレンド比」は、「気孔形成材のピーク」に記載された平均粒子径の順番で記載している。
【0063】
【0064】
【0065】
(5)考察
上記表1及び表2に示す通り、実施例1~10は、いずれもアスカーF硬度が55以下であり、低硬度であって、柔らかさに優れていた。また、特に、実施例1~4、7及び8は、滑らかさ及びしっとり感にも優れていた。更に、実施例1~10は、いずれも形成性、比重、引張破断強度、引張破断伸び、摩耗性、及び耐洗濯性といった物性の観点において、優れていた。
【0066】
一方で、アスカーF硬度が55超である比較例1は、形成性、比重、及び摩耗性の観点で、実施例1~10と比べて劣っていた。なお、比較例1では、形成不良のため、引張破断強度、引張破断伸び、及び耐洗濯性の評価ができなかった。また、アスカーF硬度が55超である比較例2は、比重及び引張破断強度の観点で、実施例1~10と比べて劣っていた。更に、アスカーF硬度が55超である比較例3は、実施例1~10と比べて柔らかさが劣っており、また、実施例1~4及び7~9と比べて滑らかさも劣っており、更に、実施例1~4、7及び8と比べてしっとり感も劣っていた。加えて、アスカーF硬度が55超である比較例4は、実施例1~10と比べてしっとり感が劣っており、また、実施例1~9と比べて滑らかさも劣っていた。
【0067】
したがって、多孔質体において、特に原料として用いる前記気孔形成材がその粒度分布において、2以上のピークを有することで、低硬度の多孔質体が得られることが判明した。また、得られた多孔質体は、特に、柔らかさに優れ、且つ、形成性、比重、摩耗性、及び耐摩耗性といった物性にも優れることが分かった。