(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082223
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】水力発電システムの制御方法及び水力発電システム
(51)【国際特許分類】
H02P 9/04 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
H02P9/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128262
(22)【出願日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2022195542
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】増子 利健
(72)【発明者】
【氏名】水澤 眞佐男
(72)【発明者】
【氏名】上村 望
(72)【発明者】
【氏名】光田 純
【テーマコード(参考)】
5H590
【Fターム(参考)】
5H590CA11
5H590CC01
5H590CD01
5H590CD03
5H590CE01
5H590EB30
5H590GA06
5H590HA14
5H590HA22
5H590HA27
(57)【要約】
【課題】一定速制御を行う同期発電機を用いた水力発電システムにおいて、取水地点の水量が少ない時期も水力発電を行い、水力発電システムの年間発電量を増加させる。
【解決手段】ブラシレス同期発電機2から出力された発電電力を系統5に出力し、ブラシレス同期発電機2を一定速で運転する一定速制御と、ブラシレス同期発電機2から出力された発電電力を周波数変換器7を介して系統5に出力し、ブラシレス同期発電機2を可変速で運転する可変速制御と、を有する。流量または有効落差またはブラシレス同期発電機2の出力電力に基づいて、一定速制御と可変速制御を切り替える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水車に連結されたブラシレス同期発電機が出力した発電電力を系統に出力する水力発電システムの制御方法であって、
制御部は、流量または有効落差または前記ブラシレス同期発電機の出力電力に基づいて、
前記ブラシレス同期発電機から出力された発電電力を系統に出力し、前記ブラシレス同期発電機を一定速で運転する一定速制御と、
前記ブラシレス同期発電機から出力された発電電力を周波数変換器を介して系統に出力し、前記ブラシレス同期発電機を可変速で運転する可変速制御と、
を切り替えることを特徴とする水力発電システムの制御方法。
【請求項2】
前記周波数変換器の容量が前記水車の前記ブラシレス同期発電機の容量よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の水力発電システムの制御方法。
【請求項3】
前記流量が豊水量から低水量の間の所定の水量以上の場合は前記一定速制御とし、前記流量が前記所定の水量未満の場合は前記可変速制御とすることを特徴とする請求項1記載の水力発電システムの制御方法。
【請求項4】
前記流量または前記有効落差または前記ブラシレス同期発電機の出力電力の検出値に基づいて、前記一定速制御と前記可変速制御を切り替えることを特徴とする請求項1記載の水力発電システムの制御方法。
【請求項5】
前記流量または前記有効落差または前記ブラシレス同期発電機の出力電力の予測値に基づいて、前記一定速制御と前記可変速制御を切り替えることを特徴とする請求項1記載の水力発電システムの制御方法。
【請求項6】
事前に、前記一定速制御のみで運転した場合の所定年数の発電量と、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御として運転した場合の所定年数の発電量との差である発電量差異の試算を前記周波数変換器の容量毎に行い、前記発電量差異が最も大きい前記周波数変換器の容量を選定して適用し、
前記制御部は、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御とすることを特徴とする請求項1記載の水力発電システムの制御方法。
【請求項7】
事前に、前記一定速制御のみで運転した場合の所定年数の発電量と、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御として運転した場合の所定年数の発電量との差である発電量差異による回収金額、および、初期投資の金額の試算を前記周波数変換器の容量毎に行い、前記回収金額から前記初期投資の金額を減算した額が最も高い前記周波数変換器の容量を選定して適用し、
前記制御部は、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御とすることを特徴とする請求項1記載の水力発電システムの制御方法。
【請求項8】
水車に連結されたブラシレス同期発電機が出力した発電電力を系統に出力する水力発電システムであって、
前記ブラシレス同期発電機と系統との間に設けられた第1遮断機と、
前記第1遮断機に並列接続された第2遮断機および第3遮断機と、
前記第2遮断機と前記第3遮断機との間に接続された周波数変換器と、
前記第1遮断機、前記第2遮断機、前記第3遮断機、前記周波数変換器、を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1遮断機をON、前記第2遮断機をOFF、前記第3遮断機をOFFとし前記ブラシレス同期発電機を一定速で運転する一定速制御と、前記第1遮断機をOFF、前記第2遮断機をON、前記第3遮断機をONとし前記ブラシレス同期発電機を可変速で運転する可変速制御と、を流量または有効落差または出力電力に基づいて切り替えることを特徴とする水力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレス同期発電機を用いた水力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電は、ブラシレス同期発電機を用いた一定速制御を行うことで高効率の発電を行っている。
【0003】
ブラシレス同期発電機は、交流励磁機と、回転整流器と、主発電機と、を備える。AVR(自動電圧調整装置)で交流励磁機の界磁巻線の励磁電流を調整し、交流励磁機の電機子巻線に交流電圧・電流を発生させる。交流励磁機の電機子巻線には回転整流器が接続されており、この回転整流器で交流から直流に整流され、整流された直流電流は主発電機の界磁巻線に流れ、主発電機の電機子巻線に電圧を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】資源エネルギー庁 財団法人新エネルギー財団「ハイドロバレー計画ガイドブック」平成17年3月5-5頁
【非特許文献2】明電舎カタログBD18-3258「水力発電設備リフレッシュのおすすめ」、[online]、[令和4年11月18日検索]、インターネット〈URL:https://www.meidensha.co.jp/catalog/bd/BD18-3258.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1のグラフは発電計画の取水地点における流況曲線図を示す。1年間の日流量データを流量順に並び替えたものであり、縦軸に流量、横軸に日数を示している。
【0007】
図1では、流量Q=6.7m
3/sで、設備容量4000kVAの例を示しており、流量が低下するにしたがって発電量が低下していく。
【0008】
従来方式(ブラシレス同期発電機を用いた一定速制御)では
図1の左側の枠内のみでしか発電が行えない。従って、雨量が少ない等河川からの取水量(流量)が少なくなる時期(例えば、渇水時期)は、一定速制御の運転ができない期間となり、系統連系での運転ができなくなる。また、ダム式の発電機などでは降水量や水位計画でダムの貯水量が変化して有効落差も変化する。流量が少なくなる時期と同様に有効落差が小さくなる場合においても、一定速制御の運転ができない期間となり、系統連系での運転ができなくなる。
【0009】
また、可変速運転可能とするために系統連系のための周波数変換器(コンバータ)を用いることが考えられるが、以下の問題がある。
(1)常に周波数変換器(コンバータ)の変換効率分だけ損失が増加する。
(2)発電量の大きい容量の周波数変換器(コンバータ)が必要なため、コストがかかる。
【0010】
以上示したようなことから、一定速制御を行う同期発電機を用いた水力発電システムにおいて、取水地点の水量が少ない時期、または有効落差が少ない時期にも水力発電を行い、水力発電システムの年間発電量を増加させることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、水車に連結されたブラシレス同期発電機が出力した発電電力を系統に出力する水力発電システムの制御方法であって、制御部は、流量または有効落差または前記ブラシレス同期発電機の出力電力に基づいて、前記ブラシレス同期発電機から出力された発電電力を系統に出力し、前記ブラシレス同期発電機を一定速で運転する一定速制御と、前記ブラシレス同期発電機から出力された発電電力を周波数変換器を介して系統に出力し、前記ブラシレス同期発電機を可変速で運転する可変速制御と、を切り替えることを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記周波数変換器の容量が前記水車の前記ブラシレス同期発電機の容量よりも小さいことを特徴とする。
【0013】
また、その一態様として、前記流量が豊水量から低水量の間の所定の水量以上の場合は前記一定速制御とし、前記流量が前記所定の水量未満の場合は前記可変速制御とすることを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記流量または前記有効落差または前記ブラシレス同期発電機の出力電力の検出値に基づいて、前記一定速制御と前記可変速制御を切り替えることを特徴とする。
【0015】
また、他の態様として、前記流量または前記有効落差または前記ブラシレス同期発電機の出力電力の予測値に基づいて、前記一定速制御と前記可変速制御を切り替えることを特徴とする。
【0016】
また、一態様として、事前に、前記一定速制御のみで運転した場合の所定年数の発電量と、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御として運転した場合の所定年数の発電量との差である発電量差異の試算を前記周波数変換器の容量毎に行い、前記発電量差異が最も大きい前記周波数変換器の容量を選定して適用し、前記制御部は、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御とすることを特徴とする。
【0017】
また、他の態様として、事前に、前記一定速制御のみで運転した場合の所定年数の発電量と、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし前記ブラシレス同期発電機の出力電力が前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御として運転した場合の所定年数の発電量との差である発電量差異による回収金額、および、初期投資の金額の試算を前記周波数変換器の容量毎に行い、前記回収金額から前記初期投資の金額を減算した額が最も高い前記周波数変換器の容量を選定して適用し、前記制御部は、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量以上の場合は前記一定速制御とし、前記ブラシレス同期発電機の出力電力が選定した前記周波数変換器の容量未満となった場合は前記可変速制御とすることを特徴とする。
【0018】
また、他の態様として、水車に連結されたブラシレス同期発電機が出力した発電電力を系統に出力する水力発電システムであって、前記ブラシレス同期発電機と系統との間に設けられた第1遮断機と、前記第1遮断機に並列接続された第2遮断機および第3遮断機と、前記第2遮断機と前記第3遮断機との間に接続された周波数変換器と、前記第1遮断機、前記第2遮断機、前記第3遮断機、前記周波数変換器、を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1遮断機をON、前記第2遮断機をOFF、前記第3遮断機をOFFとし前記ブラシレス同期発電機を一定速で運転する一定速制御と、前記第1遮断機をOFF、前記第2遮断機をON、前記第3遮断機をONとし前記ブラシレス同期発電機を可変速で運転する可変速制御と、を流量または有効落差または出力電力に基づいて切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一定速制御を行う同期発電機を用いた水力発電システムにおいて、取水地点の水量が少ない時期、または有効落差が低い時期にも水力発電を行い、水力発電システムの年間発電量を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】取水地点における流況曲線図(一定速制御)。
【
図2】実施形態
1における水力発電システムを示す概略図。
【
図3】一定速制御時の水力発電システムを示す概略図。
【
図4】可変速制御時の水力発電システムを示す概略図。
【
図5】取水地点における流況曲線図(一定速制御+可変速制御)。
【
図8】有効落差一定の場合の効率特性曲線を示す図。
【
図11】発電量と回収金額の試算結果を示す図(周波数変換器容量800kVA)。
【
図12】発電量と回収金額の試算結果を示す図(周波数変換器容量1600kVA)。
【
図13】周波数変換器の各容量における発電量差異を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願発明における水力発電システムの実施形態1~3を
図2~
図13に基づいて詳述する。
【0022】
[実施形態1]
図2はブラシレス同期発電機を用いた水力発電システムを示す概略図である。
図2で1は水車、2はブラシレス同期発電機(以下、発電機と称する)であり、水車1と発電機2は連結されている。発電機2は、第1遮断機3と保護装置・連系盤4を介して系統5に接続されている。
【0023】
また、第1遮断機3に対して、第2遮断機6、第3遮断機9が並列接続される。第2遮断機6と第3遮断機9との間には、周波数変換器7、トランス8が接続される。周波数変換器7は、第1変換器10と、平滑コンデンサ11と、第2変換器12と、を有する。
【0024】
また、
図2では省略しているが水車1の上流には入口弁が設けられており、水車1に流れる水の流量を調整する。また、図示省略の制御部において、第1遮断機3、第2遮断機6、第3遮断機9、周波数変換器7、入口弁を制御する。周波数変換器7の容量は発電機2の容量よりも小さいものとする。
図2では、例えば、水車1の容量を2MW以上とし、周波数変換器7の容量を2MW未満とする。
【0025】
発電機2のブラシレス励磁装置は、主発電機直結の交流励磁機、回転整流器、及び、別置きのAVR(自動電圧調整装置)により構成される。発電機の発生電力を電源変圧器等を介して交流励磁器の界磁巻線に励磁する。交流励磁機の界磁巻線の励磁電流をAVRで調整する。この交流励磁機の電機子巻線の出力を回転整流装置で整流して、その直流出力で主発電機の界磁巻線に励磁する。
【0026】
本実施形態1では、流量または有効落差に基づいて、一定速制御と可変速制御とを切り替える。例えば、流量または有効落差に閾値を設定し、通常は一定速制御で運転する。そして、流量または有効落差の検出値が閾値を下回った場合に一定速制御から可変速制御に切り替える。そして、再度、流量または有効落差の検出値が閾値を上回ったら可変速制御から一定速制御に切り替える。
【0027】
また、発電機2の出力電力に閾値を設定し、出力電力の検出値が閾値を下回った場合に一定速制御から可変速制御に切り替え、出力電力の検出値が閾値を上回った場合に可変速制御から一定速制御に切り替えてもよい。
【0028】
ここで、一定速制御→可変速制御、可変速制御→一定速制御への切替が頻繁に起こることを抑制するため、流量、有効落差または出力電力の閾値にヒステリシスを設定してもよい。
【0029】
また、流量、有効落差または出力電力の検出値ではなく、季節などにより流量、落差または出力電力を予測し、その流量、有効落差または出力電力の予測値に基づいて一定速制御と可変速制御を切り替えてもよい。さらに、流量、有効落差または出力電力のうち一つの値に基づいて一定速制御と可変速制御を切り替えてもよいし、流量、有効落差、出力電力の複数の値に基づいて一定速制御と可変速制御を切り替えてもよい。例えば、流量が豊水量(1年を通じて95日間をこの流量よりは下がらない流量)から低水量(1年を通じて275日間をこの流量よりは下がらない流量)の間の所定の水量以上の場合に一定速制御とし、流量が前記所定の水量未満の場合は可変速制御とする。
【0030】
図3に示すように、一定速制御可能な範囲は、発電機2を用いた一定速制御を行う。第1遮断機3をON,第2遮断機6をOFF,第3遮断機9をOFFとする。そして、発電機2から出力された発電電力を第1遮断機3、保護装置・連系盤4を介して系統5に出力する。ここで、発電機2は系統5の電圧周波数で運転し、交流励磁機の界磁巻線の励磁電流を商用運転用AVRで調整する。
【0031】
図4に示すように、一定速制御ができない低流量、低有効落差または低出力電力の範囲では可変速制御を行う。第1遮断機3をOFF,第2遮断機6をON,第3遮断機9をONとする。
【0032】
発電機2から出力された発電電力を第2遮断機6を介して、周波数変換器7に出力する。周波数変換器7では、第1変換器10で交流から直流に変換し、平滑コンデンサ11を介して第2変換器12で直流から交流に変換する。そして、トランス8、第3遮断機9、保護装置・連系盤4を介して系統5に出力する。ここで、第1変換器10で電圧制御を行い、第1変換器10の電圧制御の影響を考慮しつつ、交流励磁機の界磁巻線の励磁電流を可変速運転用AVRで調整する。
【0033】
図5は、取水地点における流況曲線図である。
図5では、流量Q=6.7m
3/sで、設備容量4000KVAの例を示しており、流量が低下するにしたがって発電量も低下していく。
【0034】
図5において、左側のハッチングが粗い領域は一定速制御で効率良く運転できる領域であり、中央の領域は一定速制御では水車効率が低下する領域であり、右側のハッチングが細かい領域は一定速制御では運転できない領域である。
【0035】
本実施形態1では、水車効率の低下、もしくは運転可能範囲を逸脱し、一定速運転を行えない領域では可変速制御で運転を行い、年間を通じた水力発電システムの発電容量を増加させる。
【0036】
例えば、一定速制御では水車効率が低下する領域でも一定速制御の方が可変速制御よりも水車効率がよい領域は一定速制御で運転を行い、可変速制御の方が一定速制御よりも水車効率が良くなる点から可変速制御に移行するようにする。なお、一定速制御と可変速制御の効率を比較する際に周波数変換器7の損失を考慮してもよい。
【0037】
【0038】
図6は等効率曲線を示し、横軸は単位回転速度n11であり、縦軸は単位流量Q11である。単位回転速度n11はn11=N×Dr/√H、単位流量Q11はQ11=Q/(Dr
2√H)である。ここで、水車1の回転速度N、代表寸法Dr、有効落差H、流量Qとする。単位回転速度n11、単位流量Q11は、√Hで除算しているため、有効落差Hが増加すると単位回転速度n11、単位流量Q11が減少する。
【0039】
図6では例として、有効落差一定の一定速制御(鎖線の矢印)と可変速制御(実線の矢印)および流量一定の一定速制御(鎖線の矢印)と可変速制御(実線の矢印)が示されている。
図6の効率の高い箇所は
図5の左側の領域に該当し、
図6の効率の低い箇所は
図5の右側の領域に該当する。この等効率曲線において、流量と有効落差に基づいて定まる単位回転速度n11、単位流量Q11の点を参照し、一定速制御の方が効率が高い場合は一定速制御で運転し、可変速制御の方が効率が高い場合は可変速制御で運転を行ってもよい。
【0040】
この
図6の等効率曲線を流量一定で切り取ったものが
図7であり、有効落差一定で切り取ったものが
図8である。
【0041】
図7は、流量一定の場合の効率特性曲線である。縦軸に発電出力、横軸に回転速度を示している。
図7では、3つの有効落差(12.68、15.94、20.83)の場合の効率特性曲線を示している。それぞれ所定の回転速度までは上昇するにつれて発電出力が上昇していくが、所定の回転速度以降は上昇するにつれて発電出力が下降していく。
【0042】
図7において、実線が一定速度で運転した場合であり、点線が最高効率で運転した場合である。有効落差が15.94の効率特性曲線では、一定速制御でほぼ最高効率となっているが、有効落差が12.68、20.83の効率特性曲線では一定速制御では最高効率の発電出力は得られない。可変速制御を行えば各有効落差で効率のよい運転(すなわち点線のような最高効率の運転)を行うことが可能となる。
【0043】
図8は、有効落差一定の場合の効率特性曲線である。縦軸に発電出力、横軸に回転速度を示している。
図8では、4つのガイドベーン開度(6、10、16、22)の場合の効率特性曲線を示している。それぞれ所定の回転速度までは上昇するにつれて発電出力が上昇していくが、所定の回転速度以降は上昇するについて発電出力が下降していく。
【0044】
図8において、実線が一定速度で運転した場合であり、点線が最高効率で運転した場合である。ガイドベーン開度が16の効率特性曲線では、一定速制御でほぼ最高効率となっているが、有効落差が6、10、22の効率特性曲線では一定速度運転では最高効率の発電出力は得られない。可変速制御を行えば各流量で効率のよい運転(すなわち点線のような最高効率の運転)が可能となる。
【0045】
次に、
図9、
図10に基づいて運転切替フローを説明する。
【0046】
図9では、一定速制御→可変速制御の無停止切替を示している。
【0047】
まず、(1)では、一定速制御の運転が行われる。ここでは、閾値以上の流量、有効落差または出力電力が得られているものとする。入口弁13が「開」、第1遮断機3が「ON」、第2遮断機6が「OFF」、第3遮断機9が「OFF」となる。発電機2で発電された電力は第1遮断機3を介して系統5に出力される。ここで、発電機2は系統5の電圧周波数で運転し、交流励磁機の界磁巻線の励磁電流を商用運転用AVRで調整する。
【0048】
(2)では、自動もしくは手動で一定速制御から可変速制御に切り替え、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「ON」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。周波数変換器7(第1変換器10、第2変換器12)を起動し、周波数変換器7を無負荷運転で商用(系統5)に同期させる。発電機2で発電された電力は第1遮断機3を介して系統5に出力される。
【0049】
(3)でも、(2)と同様に、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「ON」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。(3)では、商用(系統5)に同期させた状態で周波数変換器7に負担を分担させる。発電機2で発電した電力は第1遮断機3を介して系統5に出力されるとともに、第2遮断機6、周波数変換器7、トランス8、第3遮断機9を介して系統5に出力される。
【0050】
(4)では、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「OFF」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。(4)では商用(系統5)に同期させた状態で周波数変換器7に全負担させる。すなわち、第1遮断機3をOFFとし、発電機2で発電した電力は第2遮断機6、周波数変換器7、トランス8、第3遮断機9を介して系統5に出力される。
【0051】
(5)では、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「OFF」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。(5)でも(4)と同様に発電機2で発電した電力は第2遮断機6、周波数変換器7、トランス8、第3遮断機9を介して系統5に出力される。周波数変換器7の第1変換器10、第2変換器12では、スイッチングデバイスをONOFFするためサージ電圧が発生し、絶縁にストレスが生じる。可変速制御の範囲では一定速制御の時よりも発電容量は少なくてよいため、電圧を下げることも可能である。(5)では、周波数変換器7(第1変換器10,第2変換器12)の電圧を低減してサージ電圧を低減し、発電機2のストレスを低減する。
【0052】
すなわち、(2)~(5)では、周波数変換器7を系統5に同期させて負荷移行し、周波数変換器7だけでコントロールできるようにした後で電圧を下げ、発電機2のストレスを低減させる。
【0053】
(6)では、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「OFF」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。(6)では、発電機2を周波数可変・可変速運転する。発電機2側の第1変換器10は周波数可変(可変速)とし、系統側の第2変換器12は系統周波数で連系する。第1変換器10で電圧制御を行い、交流励磁器の界磁巻線に励磁電流をAVRで調整して発電機2を可変速制御する。
【0054】
また、
図9では一定速制御から可変速制御への切替を説明したが、可変速制御から一定速制御への切替の場合は(6)→(5)→(4)→(3)→(2)→(1)の順で実施すればよい。
【0055】
図10では、一定速制御→可変速制御の停止切替を示している。
【0056】
まず、(1)では、一定速制御の運転が行われる。ここでは、閾値以上の流量、有効落差または出力電力が得られているものとする。入口弁13が「開」、第1遮断機3が「ON」、第2遮断機6が「OFF」、第3遮断機9が「OFF」となる。発電機2で発電された電力は第1遮断機3を介して系統5に出力される。ここで、発電機2は系統5の電圧周波数で運転し、交流励磁機の界磁巻線の励磁電流を商用運転用AVRで調整する。
【0057】
流量低または有効落差低となると手動で一定速制御から可変速制御に切り替え、(2)へ移行する。(2)では、入口弁13が「閉」、第1遮断機3が「OFF」、第2遮断機6が「OFF」、第3遮断機9が「OFF」となる。(2)では発電を停止する。
【0058】
(3)では、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「OFF」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。周波数変換器7(第1変換器10、第2変換器12)を起動し、無負荷にて系統5に同期させる。発電機2で発電した電力は第2遮断機6、周波数変換器7、トランス8、第3遮断機9を介して系統5に出力される。
【0059】
(4)では、(3)と同様に、入口弁13が「開」、第1遮断機3が「OFF」、第2遮断機6が「ON」、第3遮断機9が「ON」となる。(4)では、発電機2を可変速制御で運転する。発電機2側の第1変換器10は周波数可変(可変速)とし、系統側の第2変換器12は系統周波数で連系する。第1変換器10で電圧制御を行い、交流励磁機の界磁巻線の励磁電流をAVRで調整して発電機2を可変速制御する。
【0060】
また、
図10では一定速制御から可変速制御への停止切替を説明したが、可変速制御から一定速制御への停止切替の場合は(4)→(3)→(2)→(1)の順で実施すればよい。
【0061】
以上示したように本実施形態1では、一定速制御と可変速制御を組み合わせる。もともと一定速制御で効率のよい範囲もあり、その範囲では一定速制御で運転を行う。そして、一定速制御では運転を行えない範囲では可変速制御を行う。これにより、年間を通じた水力発電システムの発電量を増加することができる。
【0062】
また、一定速制御を行う範囲では周波数変換器7を使用しないため、周波数変換器7の変換効率分の損失を抑制できる。さらに、低流量、低有効落差または低発電出力の範囲のみ可変速制御とすることで周波数変換器7を使用する範囲は発電容量が小さいため、周波数変換器(コンバータ)の容量は小さいもので良く、制御全体を可変速制御とするものと比較し設備は安価なもので良い。
【0063】
[実施形態2]
本実施形態2も実施形態1と同様に一定速制御と可変速制御を切り替えて運転を行う。本実施形態2では、周波数変換器7の容量、および、一定速制御と可変速制御の切替閾値の選定方法の一例について説明する。
【0064】
本実施形態2は、事前に、一定速制御のみで運転した場合の所定年数の発電量と、一定速制御と可変速制御を切り替えて運転した場合の所定年数の発電量と、の差である発電量差異を周波数変換器7の容量ごとに試算する。そして、この発電量差異が最も大きい周波数変換器7の容量を選定して適用する。
【0065】
水力発電システムの導入や運用を検討する際、流量や落差等を測定することは一般的である。そのため、その測定値を用いて出力電力、一定速制御で運転した場合の発電量、一定速制御と可変速制御を切り替えて運転した場合の発電量、発電量差異を試算すればよい。
【0066】
制御部は、発電機2の出力電力が選定した周波数変換器7の容量以上の場合は一定速制御で運転を行い、発電機2の出力電力が選定した周波数変換器7の容量未満となった場合は可変速制御で運転を行う。
【0067】
【0068】
図11は、水車容量1900kW、回転数1200min-1、周波数変換器7の容量800kVAの場合の発電量を示している。
図12は、周波数変換器7の容量を1600kVAの場合の発電量を示しており、その他の条件は
図11と同様である。
【0069】
図11、
図12の下方の図は水力発電システムの効率特性を示す図である。中央のグレーの領域は効率が高く外側の白色の領域に進むに従い効率が低下し、さらに外側のグレーの領域に進むに従い効率が低下する。図のうち上下に点在するドットは一定速制御で運転した場合の効率を示しており、斜め方向に点在するドットは可変速制御で運転した場合の効率を示している。
【0070】
図11の周波数変換器7の容量800kVAの場合は効率のよい領域は一定速制御で運転を行い、効率が低下する白い領域で可変速制御に切り替わっている。
図12の周波数変換器7の容量1600kVAの場合は効率のよいグレーの領域で可変速制御に切り替わっている。
【0071】
図11、
図12の「一定速」は一定速制御のみで運転した場合の発電量を示している。「可変速」は、一定速制御と可変速制御を切り替えて運転した場合の発電量を示している。
図11の「差」は一定速制御のみで運転した場合の発電量と一定速制御と可変速制御を切り替えて運転した場合の発電量との差である発電量差異を示している。
【0072】
1年だけの試算だと発電量および発電量差異がばらつくため、1年だけでなく所定年数の発電量および発電量差異の試算を行う。
図11、
図12では、10年分の発電量および発電量差異の試算を行っている。
【0073】
図13に周波数変換器7の各容量における10年分の発電量差異を示す。
図13では、
図11の周波数変換器7の容量800kVA,
図12の周波数変換器7の容量1600kVAの他に、400kVA、600kVA、1200kVAの場合も示している。
【0074】
図13に示すように、周波数変換器7の容量800kVAの発電量差異が最も大きくなっている。そのため、周波数変換器7の容量は800kVAを選定して適用する。そして、制御部では、発電機2の出力電力が800kW以上の場合は一定速制御で運転を行い、発電機2の出力電力が800kW未満の場合は可変速制御に切り替えて運転を行う。
【0075】
本実施形態2のように、周波数変換器7の容量を選定し、一定速制御と可変速制御を切り替えることにより、発電効率を改善することができ、発電量差異を大きくすることができる。発電量差異が大きくなるため、それによる回収金額も上昇する。
【0076】
[実施形態3]
本実施形態3も実施形態1、2と同様に一定速制御と可変速制御を切り替えて運転を行う。本実施形態3では、周波数変換器7の容量、および、一定速制御と可変速制御の切替閾値の選定方法の他例について説明する。
【0077】
本実施形態3は、実施形態2と同様に、事前に、一定速制御のみで運転した場合の所定年数の発電量と、一定速制御と可変速制御を切り替えて運転した場合の所定年数の発電量と、の差である発電量差異を周波数変換器7の容量ごとに試算する。さらに、本実施形態3では、発電量差異による回収金額を周波数変換器7の容量ごとに試算する。
【0078】
また、本実施形態3では、一定速制御と可変速制御を切り替えて運転する場合に必要な初期投資の金額を周波数変換器7の容量ごとに試算する。一定速制御と可変速制御を切り替えて運転する場合に必要な初期投資の金額は、周波数変換器7、第2遮断機6、トランス8、第3遮断機9等の購入金額および作業工賃等である。初期投資の金額は主に周波数変換器7の容量により変動する。
【0079】
そして、回収金額から初期投資の金額を減算した額が最も大きい周波数変換器の容量を選定して適用する。
【0080】
制御部は、発電機2の出力電力が選定した周波数変換器7の容量以上の場合は一定速制御で運転を行い、発電機2の出力電力が選定した周波数変換器7の容量未満となった場合は可変速制御で運転を行う。
【0081】
【0082】
図11、
図12には、発電量の他に、「FIT(Feed-in-Tariff)金額」が示されている。「FIT金額」には各年の回収金額と、10年の合計の回収金額と、平均回収金額が示されている。
【0083】
図11の周波数変換器7の容量800kVAの場合は10年合計の回収金額は59.0であり、平均回収金額は5.9である。
図12の周波数変換器7の容量1600kVAの場合は10年合計の回収金額は27.4であり、平均回収金額は2.7である。
【0084】
そして、
図11の場合は、10年合計の回収金額59.0から初期投資の金額を減算した額を試算する。
図12の場合は、10年合計の回収金額27.4から初期投資の金額を減算した額を試算する。
図12は
図11よりも周波数変換器7の容量が大きいため、初期投資の金額も大きくなる。そのため、
図12よりも
図11の方が回収金額から初期投資の額を減算した額は大きくなる。よって、この具体例では、
図11の周波数変換器7の容量800kVAを選定して適用する。
【0085】
制御部では、発電機2の出力電力が800kW以上の場合は一定速制御で運転を行い、発電機2の出力電力が800kW未満の場合は可変速制御に切り替えて運転を行う。
【0086】
本実施形態3のように、周波数変換器7の容量を選定し、一定速制御と可変速制御を切り替えることにより、発電量差異による回収金額から初期投資の額を減算した額が最も多い額で運転することが可能となる。その結果、水力発電システムの経済性が向上する。
【0087】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0088】
1…水車
2…発電機(ブラシレス同期発電機)
3…第1遮断機
4…保護装置・連系盤
5…系統
6…第2遮断機
7…周波数変換器
8…トランス
9…第3遮断機
10…第1変換器
11…平滑コンデンサ
12…第2変換器
13…入口弁