(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082224
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】棒状体の塗装方法及び棒状体の塗装装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/28 20060101AFI20240612BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240612BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D7/00 K
B05D3/00 C
B05D3/00 D
B05D3/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130557
(22)【出願日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022195294
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】512266442
【氏名又は名称】株式会社アオバ
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(74)【代理人】
【識別番号】100224742
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】清水 司
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AC52
4D075AC64
4D075AC66
4D075AC71
4D075AC88
4D075AC92
4D075AE03
4D075BB26Z
4D075BB60Z
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4D075DA10
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4D075EB33
4D075EB51
4D075EC01
4D075EC22
4D075EC30
4D075EC33
(57)【要約】
【課題】重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を棒状体に効率よく形成することができる棒状体の塗装方法、及びその塗装装置を提供すること。
【解決手段】膨出した塗膜層を棒状体1の一部に形成するための棒状体の塗装方法において、撚りを有する紐状体4と塗料3とを用い、略水平に張り渡した紐状体4に塗料3を纏着させる纏着工程と、紐状体4に纏着した塗料3を棒状体1に付着させる塗装工程とを備え、塗装工程は、塗料3が転着した紐状体4上に棒状体1を配置して塗料3を付着させ転動を開始する転動開始ステップと、転動開始ステップに次いで棒状体1を転動させながら紐状体4から徐々に離間させる離間ステップと、離間ステップに次いで棒状体1の移動を停止させるとともに回転を維持することで棒状体1から垂下する塗料3を塗膜厚さ1mm以上となるように棒状体1に巻き付ける巻付けステップとを備えるようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が略球面状の膨出した塗膜層を棒状体の一部に形成するための棒状体の塗装方法において、
撚りを有する紐状体または編組による紐状体と、塗料とを用い、
略水平に張り渡した紐状体に塗料を纏着させる纏着工程と、
紐状体に纏着した塗料を棒状体に付着させる塗装工程と
を備え、
前記塗装工程は、塗料が纏着した紐状体上に棒状体を配置して塗料を付着させ転動を開始する転動開始ステップと、前記転動開始ステップに次いで棒状体を転動させながら紐状体から徐々に離間させる離間ステップと、前記離間ステップに次いで棒状体の移動を停止させるとともに回転を維持することで棒状体から垂下する塗料を塗膜厚さ1mm以上となるように棒状体に巻き付ける巻付けステップとを備えることを特徴とする、棒状体の塗装方法。
【請求項2】
前記塗料はエポキシ系塗料であり、前記エポキシ系塗料に対して、繊維状鉱物であるセピオライトを加工して得られる無機増粘剤を10重量%以上--添加することを特徴とする、請求項1に記載の棒状体の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を棒状体に形成するための、棒状体の塗装方法、及びその塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
模様の入った小さなビーズ状のガラス玉は、トンボの複眼に見立てて「とんぼ玉」と呼ばれている。とんぼ玉は、根付け(留め具)やかんざし、帯留、羽織紐の飾り等を装飾するものとして古くから用いられてきた。今日においては、ガラスのみならず、樹脂を用いることもあり、その光沢感と多彩な色彩から、様々なアクセサリーの素材として用いられている。
【0003】
本件出願人は、とんぼ玉のように、光沢と色彩に富む膨出した塗膜層を形成した塗り箸の製造販売を行っている。
従来においては、このような膨出した塗膜層を塗装によって形成するには、塗料の塗布と乾燥とを複数回繰り返して重ね塗りを施すことで重厚な塗膜を形成していた。
【0004】
しかし、重ね塗りによる方法では時間と手間がかかり、生産性に劣っていた。そこで、従来においては、重厚な塗膜を形成する方法として、粘性のある塗料を剥離性の素材上に一旦塗布し、それを箸素地に転写させる方法が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、硬化剤を加えた粘性のある塗料を樹脂製のリリース板にローラや刷毛等で塗布し、塗料を塗布したリリース板上で箸素地を転動させることで、箸素地の表面に塗料をムラなく分厚く層着させて重厚な塗装装飾を施す塗り箸の化粧方法の技術が開示されている。
【0006】
特許文献1の方法は、
図8(a)に示すように、未硬化の状態の塗料81をローラ等によりリリース板82上に一様に塗布して飾り塗膜を形成し、飾り塗膜上に、箸素地83の化粧対象部位を水平に接触させて、箸素地83をリリース板82の長手方向に沿って転がす。これにより、リリース板82から飾り塗膜が剥離して箸素地83の化粧対象部位表面に巻き取りながら塗料81を転着することができる。
巻き取った後は、
図8(b)に示すように、箸素地83の基端部85を、支持具84の上面に開設した差込孔に立設する。そして、飾り塗膜の垂れ具合に応じて前記支持具84を天地交互に反転させながら、飾り塗膜を乾燥硬化させる。
【0007】
特許文献1の技術によれば、「箸素地表面に塗料を塗布する場合のような塗りムラを防止し、かつ、必要な厚みのある装飾層を形成して外観的な重厚感を表現可能である。」とされている。
【0008】
特許文献1の方法を発展させ、局所的に膨出塗膜層を設けることもできる。
特許文献2では、リリース板の幅を狭くして、巻き取りによって塗料が転着される範囲をごく一部とすることで、局所的に膨出塗膜層を設けた塗り箸とする技術が開示されている。
【0009】
一方、特許文献3のように、局所的に塗料を塗布する別の方法として、糸に塗料を塗布して、糸の上で箸を転がす方法もある。
特許文献3では、塗料を含ませた糸材を張架状態に保持し、それに箸を当接して回動させる。これにより、糸材の塗料が箸に転着されて横ライン(輪状のライン)が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-322012号公報
【特許文献2】実用新案登録第3188250号公報
【特許文献3】特開2015-202171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1及び特許文献2の技術では、リリース板の上にローラ等を用いて塗料を塗布し、それを箸素地に転着させている。リリース板は樹脂フィルムを張り渡したものであるため、塗料が剥離して箸素地に転写されやすい反面、リリース板に表面が平滑な樹脂フィルムを用いると、粘度が高い塗料であってもリリース板上で薄く濡れ広がってしまう。それ故、箸素地に転写される塗料の厚さも限定的とならざるを得ない。
【0012】
上記の問題については、リリース板上に塗料が濡れ広がらないように、塗料の粘度をさらに高くすることも考えられる。しかし、粘度が高すぎると、ローラや刷毛による塗布が困難になるうえ、硬化剤を増加させると塗料が短時間で固化してしまうため作業性が著しく阻害されるという問題がある。
【0013】
このように、特許文献1及び特許文献2の技術では、膨出した塗膜層を形成するためには少なからず重ね塗りをしなければならず、重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を効率よく形成することができないという問題があった。
【0014】
一方、特許文献3の技術については、一般的に糸は極めて細く、塗料と接触する面積が極めて小さい。特許文献3のようにライン上の線を描く目的であれば細い糸であっても十分であるが、細い糸に含ませることができる塗料の量は僅かであるため、重厚な塗装膜を形成することはできない。
【0015】
仮に、粘度の高い塗料を糸に含ませたとしても、糸は細く、塗料との接触面積も小さいため、付着した塗料の多くが流れ落ちてしまい、糸に塗布される塗料の厚さを糸の幅よりも厚くすることはできないと考えられる。
そのため、特許文献3の技術であっても、重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を効率よく形成することはできないという問題があった。
【0016】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を棒状体に効率よく形成することができる棒状体の塗装方法、及びその塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。
本発明は、表面が略球面状の膨出した塗膜層を棒状体の一部に形成するための棒状体の塗装方法であり、撚りを有する紐状体または編組による紐状体と、塗料とを用いる。
そして、略水平に張り渡した紐状体に塗料を纏着させる纏着工程と、紐状体に纏着した塗料を棒状体に付着させる塗装工程とを備えることを基本構成としている。
【0018】
前記塗装工程においては、塗料が転着した紐状体上に棒状体を配置して塗料を付着させ転動を開始する転動開始ステップと、前記転動開始ステップに次いで棒状体を転動させながら紐状体から徐々に離間させる離間ステップと、前記離間ステップに次いで棒状体の移動を停止させるとともに回転を維持することで棒状体から垂下する塗料を棒状体に巻き付ける巻付けステップとを備える。このとき、巻き付けられた塗料の塗膜厚さは1mm以上となるようにする。
【0019】
本発明の棒状体は、長手方向を有するものであれば棒状体に含まれ、長さや幅、真っ直ぐであるか湾曲しているか等の形状は限定されず、素材も限定されない。
また、本発明の紐状体とは、物をしばったり束ねたりできる程度に太く長いものをいい、縫製に用いることができる糸よりも太いものをいう。なお、撚糸であっても、一般的に縫製に用いることができない程度に太く構成されたものは、本発明の紐状体に含まれる。
【0020】
纏着工程においては、紐状体が撚りを有することにより、隣り合う撚った繊維束の間の窪んだ部分に塗料を十分に蓄えることができる。または、編組であることにより、編み目の間の窪んだ部分に塗料を十分に蓄えることができる。
また、適度に太い紐状体であることで幅が広く、更に撚りを有することから、紐状体と纏着する塗料との接触面積を多くすることができる。そのため、紐状体に付着した塗料が流れ落ちる力よりも、紐状体表面で塗料が流れ落ちないように抗う摩擦力及び表面張力の方が勝り、塗料を長い時間厚く纏着させておくことができる。
【0021】
そして、塗装工程においては、塗料が纏着した紐状体上で棒状体を転動させることで、棒状体に塗料を移しとって付着させる。
紐状体には前述のように厚く多量の塗料が付着している。そのため、棒状体を紐状体上で転動させることで、多量の塗料を一度に棒状体に付着させることができる。
【0022】
塗装工程について詳述する。まず、転動開始ステップでは、塗料の纏着した紐状体上に棒状体を配置して塗料を付着させる。紐状体上に棒状体を配置するとは、紐状体に棒状体が接触する状態で載置する場合のほか、紐状体それ自体からは僅かに離間させて紐状体上の塗料にのみ棒状体が接触しているように棒状体を保持している場合も含まれる。
紐状体上に棒状体を配置して塗料を付着させると、棒状体の表面に所定の幅で塗料が広がって付着する。この幅が最終的に得られる膨出した塗膜層の幅に相当する。
【0023】
そして、付着した塗料が所定の幅となるように棒状体を配置したら、棒状体の転動を開始する(転動開始ステップ)。ここで、転動とは、棒状体を回転させながら紐状体の長手方向に移動させることをいう。棒状体を転動させると、回転によって所定の幅で付着した塗料が棒状体の周方向に広がって付着していくとともに、転動する方向の前方に纏着していた塗料が順次棒状体に付着していく。
移動することなく回転させるのみの場合では、紐状体上に配置したときに棒状体に付着した塗料が棒状体の周方向に広がるのみであり、周方向に付着させる塗料の量が徐々に減少することから、薄い塗膜しか形成できない。しかし、転動させることで、棒状体の前方に纏着していた塗料が順次棒状体に付着していくため、塗膜が薄くなることなく、十分な塗膜を周方向に形成することができる。
【0024】
次に、前記転動開始ステップに次いで、棒状体を転動させながら紐状体から徐々に離間させていく(離間ステップ)。
紐状体と棒状体の高さ方向の位置関係を維持したまま転動する場合には、移動によって、転動する方向の前方に纏着していた塗料が順次棒状体に付着したとしても、紐状体と棒状体の間隙が一定であるため、その間隙に保持できる塗料の量は限定されてしまう。そのため、転動によって、棒状体と紐状体とが対向する部分には、間隙に応じた所定の厚みの塗膜が形成されるのみであり、新たに供給される塗料は両端に押し退けられてしまう。その結果、中央が凹んで両端が極端に膨出した塗膜層となってしまう。
【0025】
しかし、本発明では、棒状体を紐状体から徐々に離間させながら転動させることで、棒状体と紐状体の間隙が転動するにしたがって徐々に広がっていき、間隙に保持できる塗料の量が徐々に増加する。
これにより、移動によって新たに供給される塗料が押し退けられることなく、重厚な塗膜を棒状体に付着させることができる。
【0026】
そして、前記離間ステップに次いで、棒状体を紐状体から十分に離間させたところで棒状体の移動を停止させる。ただし、回転は維持させる。離間ステップを経ることで、棒状体には重厚な塗膜層が形成されているが、棒状体から垂下しようとする一部の塗料を、回転を維持することで、棒状体に巻き上げて膨出部の中央に巻き付ける。
これにより、中央が厚さ2mm以上と最も厚く、両端に向かって徐々に厚さが減少する形状の膨出部が得られる(巻付けステップ)。
【0027】
本発明では、上記のように、特に塗装工程において、転動開始ステップと、離間ステップと、巻付けステップとを備えることで、中央が最も厚く両端に向かって徐々に厚さが減少する形状の膨出した塗膜層であって、厚さが1mm以上ある重厚な塗膜層を、1回の塗装によって棒状体に形成することができる。
【0028】
本発明は、上記手段の他、以下の手段を採用することもできる。
たとえば、前記塗料にエポキシ系塗料を用い、前記エポキシ系塗料に対して、繊維状鉱物であるセピオライトを加工して得られる無機増粘剤を10重量%以上添加する手段を採用することが可能である。
【0029】
上記無機系増粘剤は、粘度を上昇させるために用いるものであるが、一般的には、季節ごとに変化する気温や湿度に応じて塗料の粘度を微調整するために用いられ、塗料に対して5重量%以下で用いることが多い。
本発明では、この無機系増粘剤を通常の使用量の範囲を大きく超える10重量%以上添加する。これにより、塗料の粘度が著しく増加するため、前記離間ステップにおいて、広がった間隙に保持される塗料の量を増加させることができる。また、前記巻付けステップにおいて、垂下しようとする塗料を膨出部の中央に重厚に巻き付けることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の棒状体の塗装方法では、撚りを有する紐状体を用いることで、略水平に張り渡した紐状体に多量の塗料を纏着させることができる。そして、転動開始ステップと離間ステップと巻付けステップを備える塗装工程を経ることで、棒状体に多量の塗料を付着させて、中央が厚さ**mm以上であり両端に向かって徐々に厚さが減少する形状の膨出した塗膜層を形成することができる。
そのため、塗料を複数回にわたって塗り重ねることなく、重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を棒状体に効率よく形成することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の棒状体の塗装方法により塗装した棒状体を表す正面図及び拡大断面図である。
【
図2】本発明の棒状体の塗装方法に用いる紐状体を表す正面図及び拡大図である。
【
図4】本発明の棒状体の塗装方法により塗装した棒状体の乾燥方法の説明図である。
【
図5】本発明の棒状体の塗装装置を表す模式図である。
【
図6】本発明の棒状体の塗装方法及び塗装装置の変形例1を表す説明図である。
【
図7】本発明の棒状体の塗装方法及び塗装装置の変形例2を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態について、
図1から
図5に基づいて以下に説明する。
なお、各図の形態は説明のために模式的に表現したものである。
【0033】
本発明の棒状体の塗装方法では、例えば、
図1に示すように、棒状体1である箸素地を塗装して塗り箸とすることができる。
図1の形態の塗り箸は、中央が最も厚く両端に向かって徐々に厚さが減少する形状の膨出した塗膜層(以下、膨出塗膜層)2が形成されている。膨出塗膜層2の幅や高さは適宜調整することができるが、本発明の棒状体の塗装方法では、最も厚い部分において1mm以上とする。例えば、幅8mm、箸素地表面に対する高さ2mmの半球状に形成することができる。
図1の実施形態の膨出塗膜層2は、主塗膜層21の外側にトップコート層22が形成されているが、トップコート層22を形成しない構成としたり、ベースコート層の上に主塗膜層21を形成したりしてもよい。
【0034】
棒状体1は、例えば、メープル、欅、桜、マラス、ブナ等の広葉樹や、杉、松、桧等の針葉樹の他、竹やこれらの木材を重ね合わせた複合材や集成材等の天然の木材を使用することができる。また、木材以外にも、樹脂や金属等を用いることができる。
棒状体1の横断面形状は、種々の形状を採用することができ、
図1の形態では角を丸めた四角形断面としている。四角形断面以外にも、円形や、八角形等の多角形、楕円形や非対称形等、他の断面形状であってもよい。また、棒状体1は先端部に向かって細く形成されているもの以外にも、全体が均等な太さのものであってもよい。
【0035】
次に、本発明の棒状体の塗装方法に用いる紐状体4について説明する。
図2に示す紐状体4は、綿製のいわゆるロープであり、撚りを有する綿糸41・41…を複数撚り合わせたストランド42・42…を複数撚り合わせて構成されている。
紐状体4は、
図2のように複数のストランド42・42…を撚り合わせたものであってもよいが、単一のストランド42を撚ったものであってもよい。また、撚りではなく、複数の撚糸を編込んだ編組としてもよい。
【0036】
図2の紐状体4は、横断面が円形であり、直径は約5mmとなっているが、膨出塗膜層2が所望の幅と高さとなるように断面形状や直径を適宜選択することができる。これにより、隣り合うストランド42・42…による凹凸に加え、隣り合う綿糸41・41…による細かな凹凸も生じるため、塗料3が纏着しやすくなる。
【0037】
また、
図2に示す紐状体4は、表面を火であぶって毛羽を除去している。表面が毛羽立たないように構成する他の方法としては、薄めた塗料を撚りの凹凸が埋まらない程度に薄く塗ることで毛羽を寝かせて固着させる方法や、毛羽が生じない素材を使用する方法もある。
【0038】
次に、上述の紐状体4を用いた棒状体の塗装方法について、
図3に基づいて説明する。
本発明の棒状体の塗装方法は、略水平に張り渡した紐状体4に塗料3を纏着させる纏着工程と、紐状体4に纏着した塗料3を棒状体1に付着させる塗装工程とを備える。
【0039】
まず、
図3(a)に示すように、紐状体4を略水平に張り渡す。例えば、紐状体4の両端を支持台等に固定する方法がある。このとき、紐状体4に纏着した塗料3と棒状体1との接触面積をできるだけ多くするために、紐状体4の中央を上から押さえたときに適度に撓む程度の張力で張るのが好ましい。適度に撓むことによって、紐状体4の湾曲部が棒状体1の表面に沿うようになり、紐状体4と棒状体1との対向する面積が増加する。
【0040】
次に、
図3(b)に示すように、紐状体4の下方に設置された容器32内に貯留された塗料3に、紐状体4全体を浸漬させた後、
図3(c)に示すように、紐状体4と容器32とを離間させて塗料3から取り出す。すると、粘度の高い塗料3が紐状体4の周囲に多量に纏着するとともに、余分な塗料3は紐状体4の下方に垂れ落ちる。
【0041】
膨出塗膜層2を形成するための塗料3は、硬化速度が調節しやすいことから、主材と硬化剤の2液式のエポキシ樹脂を用いるのが好ましいが、エポキシ樹脂以外にも、溶剤によって希釈する嫌気性のアクリル塗料や、その他の塗料を用いることもできる。
【0042】
また、本発明においては、
図3(b)に示すように、塗料3に増粘剤31を加えて粘度を高くしている。増粘剤31は、塗料3の粘度を増加させる効果を有するものであればその素材は問わないが、劣化が無いことから、繊維状鉱物であるセピオライトを加工して得られる無機増粘剤が好ましく、塗料に対して10重量%以上添加するのが好ましい。
増粘剤3の添加量については、気温や湿度によって塗料の粘度が変動することから、紐状体4から垂れ落ちる程度を確認しながら適宜調整する。垂れ落ちる程度としては、
図3(c)に示すように、紐状体4の長手方向全体にわたって切れ目なくカーテン状に垂れ落ちる程度に著しく高い粘度とする。
なお、
図3において、増粘剤31・31…は説明のために細かな点として記載されているが、実際には微細な粒子であり、塗料3内に均等に拡散されており、肉眼で視認することはできない。
【0043】
そして、
図3(d)に示すように、紐状体4を塗料3から取り出した後、棒状体1である箸素地を、紐状体4の上で転動させる。
まず、転動開始ステップとして、塗料3の纏着した紐状体4に対して、棒状体1を直交するように上方から下方に降下させて配置する。このとき、棒状体1は、纏着した塗料3に接触するが、紐状体4からは僅かに離間したところまで降下させる。なお、棒状体1が紐状体4に接触するように降下させることもできる。
この状態では、棒状体1の表面に所定の幅で塗料4が広がって付着する。例えば、幅8mmの塗膜層としたい場合には、この転動開始ステップにおける塗料が付着している幅を8mm程度とする。
【0044】
そして、棒状体1の転動を開始する。具体的には、棒状体1を1回転させるたびに、棒状体1の円周に相当する距離を紐状体4の長手方向に移動させる。紐状体4上を転動させることで、棒状体1が進行する前方に纏着していた塗料3が順次棒状体1に付着されていく。このように、1回転あたり1周分の距離を移動させることで、紐状体4上の供給される塗料3が引っ張られたり圧縮されたりすることなく、均等な厚さで棒状体1に付着する。
【0045】
転動開始ステップの次に、離間ステップとして、棒状体1を紐状体4から徐々に離間させながら転動させる。徐々に離間させることで、棒状体1と紐状体4とが離間していく。ここで、前述のように塗料3には増粘剤31を多量に含有させているため、間隙が広がったとしても、そこに保持される塗料3は容易には垂れ落ちず、十分な量を保持させることができる。
【0046】
最後に、巻付けステップとして、棒状体1を紐状体4から十分に離間させたところで棒状体1の移動を停止させる。しかし、転動開始ステップから現在まで、回転は一定のまま維持しており、巻付けステップにおいても回転を維持しまま移動だけ停止させる。
この巻付けステップにより、最後に棒状体1から垂下しようとする一部の塗料を、回転によって棒状体1に巻き上げて膨出部の中央に巻き付ける。
【0047】
以上の工程により、例えば、中央が厚さ2mm程度と最も厚く、両端に向かって徐々に厚さが減少する形状の、幅8mmの膨出部を得ることができる。
【0048】
図3の工程により塗装した棒状体1である箸素地は、膨出塗装膜2を乾燥させて硬化させる必要がある。しかし、粘度が高いとはいえ、一定の姿勢で乾燥させると、徐々に膨出塗膜層2の塗料3が垂れ落ちてしまい、きれいな球形の膨出塗膜層2とすることができない。
そこで、
図4に示すように、箸素地の基端部を、支持具の上面に開設した差込孔に立設し、膨出塗膜層2の塗料3の垂れ具合に応じて支持具を天地交互に反転させながら、膨出塗膜層2を乾燥させる。
【0049】
天地交互に反転させる時間間隔は、塗料3の粘度や気温、湿度によって適宜調整されるが、例えば、5分に1回程度から始めて徐々に間隔を広げていく方法がある。
そして、初期硬化した後、約70度のオーブンで強制乾燥させて完全硬化させる。
【0050】
上述した本発明の棒状体の塗装方法は、
図5に示すような塗装装置100によって実施することができる。
図5の形態では、塗装装置100は、前述の紐状体4を支持するための支持台110・110と、前述の塗料3を貯留する容器32と、容器32と接続されて下方に延びる支柱120と、支柱120を上下に可動とするための足踏みリンク部130とを備える。
【0051】
足踏みリンク部130を足で押して操作することで、作業者の手による操作を要することなく容器32を上昇させて紐状体4を塗料3に浸漬させることができる。
図5の形態では、容器32が上下に移動することで紐状体4を塗料3の中に浸漬させたり取り出したりしているが、紐状体4を上下に移動させたり、容器32と紐状体4を何れも相反する方向に移動させたりすることで、紐状体4を塗料3の中に浸漬させたり取り出したりするようにしてもよい。
【0052】
図5の形態では、容器32を上昇させた状態で、足踏みリンク部130から足を離すと、容器32の重量で自動的に容器32が降下し、容器32内の塗料3から紐状体4を取り出すことができる。容器32の上下の操作に手を使用しないため、手には予め箸素地を把持しておき、紐状体4が塗料3から露出した直後に棒状体1を転動させることができる。
【0053】
図5の形態では、容器32が上昇したとき、紐状体4の両端部は支持台110・110と容器32の縁との間に挟み込まれる。すなわち、紐状体4の全体は、容器32の中に完全には埋入しない。しかし、容器32内の塗料3は極めて粘度が高くなっている。そのため、紐状体4が塗料3の中に浸漬し始めると、紐状体4により押し退けられた塗料3が紐状体4の周辺に回り込み、紐状体4の上方に覆いかぶさるように流動する。これにより、紐状体4の全体に塗料3が纏着する。
なお、紐状体4が塗料3に浸漬して塗料3が紐状体4全体に纏着するように構成されていれば他の構成であってもよく、紐状体4における棒状体1を転動させる部分が容器32の内部に深く浸漬するように構成してもよい。
【0054】
「実施例1」
上記形態の具体的な実施例を以下に示す。
本実施例では、棒状体として塗り箸の塗装を行った。本実施例では、断面四角形の木材を箸素地に用い、塗料にエポキシ系の塗料を用いた。増粘剤には、セピオライトを原料とした工業用無機増粘剤を塗料に対して10重量%添加して、
図3に示す塗装方法により塗装を行った。
【0055】
本実施例の塗装方法で塗装した塗り箸は、正面視で、略球形の膨出した塗膜層が形成されている。上記塗り箸を球形の中心で横断方向に切断したところ、断面形状である四角形の平らな部分の中央部が最も厚く塗装膜が形成されており、その厚さは2.1mmであった。また、四角形の角部の厚さは1.5mmであった。
【0056】
「実施例2」
また、別の実施例を以下に示す。
本実施例でも、棒状体として塗り箸の塗装を行った。本実施例では、断面円形の木材を箸素地に用い、塗料にエポキシ系の塗料を用いた。増粘剤には、セピオライトを原料とした工業用無機増粘剤を塗料に対して20重量%添加して、
図3に示す塗装方法により塗装を行った。
【0057】
本実施例の塗装方法で塗装した塗り箸は、正面視で、略球形の膨出した塗膜層が形成されている。上記塗り箸を球形の中心で横断方向に切断したところ、断面形状である円形の周全体にわたって略均等に塗装膜が形成されており、その厚さは2.8mmであった。
【0058】
「比較例1」
上記実施例との比較例を以下に示す。
本比較例では、棒状体として塗り箸の塗装を行った。本実施例では、断面四角形の木材を箸素地に用い、塗料にエポキシ系の塗料を用いた。増粘剤には、セピオライトを原料とした工業用無機増粘剤を塗料に対して10重量%添加したが、
図3に示す塗装方法に対して、離間ステップと巻付けステップを設けず、箸素地を紐状体上に配置したまま離間させることなく紐状体の長手方向に転動して塗装した。
【0059】
本比較例の塗装方法で塗装した塗り箸は、正面視で、長手方向の両端が極端に膨出し、中央部が窪んだ鼓形の膨出部が形成されている。箸素地を紐状体から離間させずに転動させたことで、移動によって箸素地に新たに供給されてくる塗料が左右に押し退けられて、両端が膨出した形状となったと考えられる。両端部では厚さ2mm程度であったのに対し、中央部では0.8mm程度の厚さであった。
【0060】
「比較例2」
別の比較例を以下に示す。
本比較例では、棒状体として塗り箸の塗装を行った。本実施例では、断面四角形の木材を箸素地に用い、塗料にエポキシ系の塗料を用いた。増粘剤は含有させず、特開2004-322012号公報に記載の塗装方法を1回だけ実施した。
【0061】
本比較例の塗装方法で塗装した塗り箸は、略全体が略均等に僅かに膨出した塗膜層が形成されている。上記塗り箸を横断面方向に切断したところ、塗膜層は略均等に形成されており、その厚さは0.3mmであった。
【0062】
「比較例3」
さらに別の比較例を以下に示す。
本比較例では、棒状体として塗り箸の塗装を行った。本実施例では、断面四角形の木材を箸素地に用い、塗料にエポキシ系の塗料を用いた。増粘剤は含有させず、間隔を設けて複数配置した細い糸に塗料を付着させ、それら糸上で箸素地を転動させて塗装した。
【0063】
本比較例の塗装方法で塗装した塗り箸は、僅かに膨出した複数の幅0.5mm程度の線状の塗膜層が形成されている。線上の塗膜層の部分で横断方向に切断したところ、塗膜層は略均等に形成されており、その厚さは0.1mmであった。
【0064】
『変形例1』
本発明は、以上の実施形態に限られず、他の形態を採用することもできる。
例えば、
図6(a)に示すように、棒状体1が、塗装後に切断することで箸置きとなるものである場合が挙げられる。この場合の塗装方法は、基本的な構成は
図1の実施形態と同様である。しかし、
図6(b)に示すように、複数の紐状体4・4…を張り渡し、複数か所に同時に膨出塗膜層2・2…を形成することができるように構成している点が異なる。
【0065】
本変形例では、複数の紐状体4・4…を同じ塗料3が貯留された容器32に浸漬させ、全て同じ色の膨出塗膜層2・2…となるように構成しているが、紐状体4・4…ごとに異なる容器32・32…に貯留された異なる色の塗料3・3…に浸漬させるようにしてもよい。
また、紐状体4・4…をそれぞれ異なる太さとしてもよい。
【0066】
『変形例2』
本発明は、更に他の形態を採用することもできる。
例えば、棒状体1が、
図7(a)に示すように、細い金属製のかんざしである場合が挙げられる。この場合には、
図7(b)に示すように、基本的な構成は図 1の実施形態と同様であるが、棒状体1の一方の端部を紐状体4の上で転動させる点が異なる。
乾燥時には膨出塗膜層2を下向きにして塗料3を垂れさせ、端部が塗料3で覆われたところで、球状になるように繰り返し天地反転させて硬化させる。
【0067】
本変形例では、棒状体1の端部に球形の膨出塗膜層2が形成されるため、とんぼ玉のかんざしのような外観とすることができる。
【0068】
本発明は、上記に挙げた以外にも、フォークやスプーン等のカトラリー、鉛筆等の筆記具の装飾をするための塗装にも用いることができる。また、棒状の物に膨出した部分が形成されているものであれば、指し棒やバトン、玩具等、様々なものに利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 棒状体
2 膨出塗膜層
21 主塗膜層
22 トップコート層
3 塗料
31 増粘剤
32 容器
4 紐状体
41 綿糸
42 ストランド
100 塗装装置
110 支持台
120 支柱
130 足踏みリンク部
【手続補正書】
【提出日】2023-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
本発明の棒状体の塗装方法では、撚りを有する紐状体を用いることで、略水平に張り渡した紐状体に多量の塗料を纏着させることができる。そして、転動開始ステップと離間ステップと巻付けステップを備える塗装工程を経ることで、棒状体に多量の塗料を付着させて、中央が厚さ1mm以上であり両端に向かって徐々に厚さが減少する形状の膨出した塗膜層を形成することができる。
そのため、塗料を複数回にわたって塗り重ねることなく、重厚な塗膜によって膨出した塗膜層を棒状体に効率よく形成することができるという効果がある。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が略球面状の膨出した塗膜層を箸素地の一部に形成するための塗り箸の塗装方法において、
撚りを有する直径5mm以上の紐状体または編組による直径5mm以上の紐状体と、
繊維状鉱物であるセピオライトを加工して得られる無機増粘剤を10重量%以上--20重量%以下となるように添加した2液式のエポキシ系の塗料とを用い、
容器内に貯留された前記塗料に略水平に張り渡した前記紐状体全体を浸漬させた後、前記紐状体と前記容器とを離間させて前記塗料から取り出すことで、前記紐状体に塗料を纏着させる纏着工程と、
紐状体に纏着した塗料を箸素地に付着させる塗装工程と
を備え、
前記塗料は、前記纏着工程において紐状体を容器から離間させたときに紐状体の長手方向全体にわたって切れ目なくカーテン状に垂れ落ちるように粘度が調整され、
前記塗装工程は、塗料が纏着した紐状体上に箸素地を配置して塗料を付着させ転動を開始する転動開始ステップと、前記転動開始ステップに次いで箸素地を転動させながら紐状体から徐々に離間させる離間ステップと、前記離間ステップに次いで箸素地の移動を停止させるとともに回転を維持することで箸素地から垂下する塗料を塗膜厚さ2mm以上となるように箸素地に巻き付ける巻付けステップとを備えることを特徴とする、塗り箸の塗装方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。なお、本発明において、棒状体には塗り箸を含む。
本発明は、表面が略球面状の膨出した塗膜層を棒状体の一部に形成するための棒状体の塗装方法であり、撚りを有する直径5mm以上の紐状体または編組による直径5mm以上の紐状体と、繊維状鉱物であるセピオライトを加工して得られる無機増粘剤を10重量%以上--20重量%以下となるように添加した2液式のエポキシ系の塗料とを用いる。
そして、容器内に貯留された前記塗料に略水平に張り渡した前記紐状体全体を浸漬させた後、前記紐状体と前記容器とを離間させて前記塗料から取り出すことで、前記紐状体に塗料を纏着させる纏着工程と、紐状体に纏着した塗料を棒状体に付着させる塗装工程とを備えることを基本構成としている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
前記塗料は、前記纏着工程において紐状体を容器から離間させたときに紐状体の長手方向全体にわたって切れ目なくカーテン状に垂れ落ちるように粘度が調整されている。
前記塗装工程においては、塗料が転着した紐状体上に棒状体を配置して塗料を付着させ転動を開始する転動開始ステップと、前記転動開始ステップに次いで棒状体を転動させながら紐状体から徐々に離間させる離間ステップと、前記離間ステップに次いで棒状体の移動を停止させるとともに回転を維持することで棒状体から垂下する塗料を棒状体に巻き付ける巻付けステップとを備える。このとき、巻き付けられた塗料の塗膜厚さは2mm以上となるようにする。