(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082228
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】腰痛防止椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 3/16 20060101AFI20240612BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20240612BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20240612BHJP
A47C 4/44 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A47C3/16
A47C7/02 A
A47C7/40
A47C4/44
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023136516
(22)【出願日】2023-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】523242675
【氏名又は名称】堀尾 俊彰
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 俊彰
【テーマコード(参考)】
3B084
3B091
【Fターム(参考)】
3B084EC05
3B091CA01
3B091CA05
3B091CA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、長時間の着座に伴う腰痛を低減、防止できる椅子の構造に関する。
【解決手段】本発明の椅子は、少なくとも、着座面と背凭れを構成する骨組みを形成するフレームと、フレームに周端が保持された伸縮性を有する張り材とから構成され、着座によって着座面が下方に変位するとともに、それと連動して背凭れの少なくとも一部が前方に変位する機構をさらに備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着座面と背凭れを構成する骨組みを形成するフレームと、該フレームに周端が保持された伸縮性を有する張り材とから構成された椅子であって、
着座によって前記着座面が下方に変位するとともに、それと連動して前記背凭れの少なくとも一部が前方に変位する機構をさらに備えた
椅子。
【請求項2】
前記フレームが枠状の外側フレームと該外側フレームの内側に配置される枠状の内側フレームから構成され、
前記張り材は前記外側フレームに保持され、
前記内側フレームは、前記外側フレームの前記張り材の下側に接触して配置されるとともに、前記外側フレームの張り材と結合して保持され、
着座によって前記内側フレームの前記着座面が下方に変位するとともに、それと連動して前記内側フレームの前記背凭れが前方に変位するようにされている
請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
前記外側フレームに脚部が設けられた、請求項2に記載の椅子。
【請求項4】
前記内側フレームの前記背凭れの高さが、腰部の上部かつ背部の下部の位置になるようにされ、
前記外側フレームの左右の腰部の位置にリクライニング回転軸が設けられ、これを中心にして前記外側フレームの上部が後方に傾斜可能にされている、請求項2に記載の椅子。
【請求項5】
座骨の前方への移動を防止するための、前記内側フレームの前記着座面の前側の中央部に上方向の突起部を設けた、請求項2に記載の椅子。
【請求項6】
前記フレームが、それぞれが左右の対からなる前脚フレーム、後脚フレーム、背フレーム、および座フレームの複数の部分フレームから構成され、
全ての前記部分フレームの一端が、一つの回転ヒンジにより回転可能に結合され、
さらに、左右の前記前脚フレームは前脚貫で、左右の前記後脚フレームは後脚貫で、左右の前記座フレームは座前貫で、左右の前記背フレームは背貫でそれぞれ連結されて固定され、
それぞれの前記部分フレームの前記回転ヒンジとは反対側の左右の端部は、左右に1本づつ配置された伸縮性のないロープの予め決められた位置に連結されており、
左右の前記ロープの両端にはそれぞれ一対のファスナが取り付けられ、前記一対のファスナをそれぞれ連結させれば着座可能な状態となり、前記一対のファスナを外せば折畳み可能となる
請求項1に記載の椅子。
【請求項7】
前記張り材は、接触する身体の凸部の圧力の大きさに応じた、伸縮度の大きさが異なる複数の領域を有する、請求項3~6のいずれか1項に記載の椅子。
【請求項8】
前記張り材の身体の腰部が接触する領域の伸縮度が、臀部および背部が接触する領域の伸縮度よりも小さくされている、請求項7に記載の椅子。
【請求項9】
前記張り材がホールガーメント編(登録商標)で作製された素材である、請求項8に記載の椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長時間の着座に伴う腰痛を低減、防止できる椅子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
椅子に座ると臀部や腰部には体重による圧力がかかり、デスクワーク、会議や自動車の運転等で長時間座る場合には、臀部や腰部などに痛みを感じるようになる。また、それを和らげようとして身体を傾けたり捩ったりすることによって姿勢が悪くなる結果、腰痛や疲労が発生するという問題が生じる。これを改善するため、特にソファーに広く適用されているように、ばね、ウレタンフォーム等の弾性素材を椅子の座面や背面に配置し、身体との接触面積を増加させて圧力を緩和する方法が従来から一般的に採用されている。また、ドライバー・シートにおいて、エアクッションを腰部に当てて正しい姿勢を保つ方法も提案されている(特許文献1)。
【0003】
腰痛や疲労を和らげるための別の椅子の構造として、椅子の座面や背面の形状を、大腿部、臀部のような身体の凸部の形状に合わせた曲面形状にして接触面積を大きくすることにより、圧力分散をはかる構造も提案されている(特許文献2、3)。また、身体の姿勢を強制的に正常に保つ構造の椅子の一例として、
図1に示すような、座骨を囲んで腰椎を支える形態の一体化シェル構造の脚付き椅子、あるいは座椅子が市販されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3203392号公報
【特許文献2】登録実用新案第3089959号公報
【特許文献3】登録実用新案第3176305号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】MTG: https://www.mtgec.jp/shop/e/est-all/#
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、長時間座ると腰痛が発生する理由について
図2を参照しながら説明する。骨盤の最上部の仙骨から上には複数の腰椎が並んでおり、正しい姿勢では脊椎がS字カーブをなしている。腰椎間には椎間板があり、正しい姿勢では椎間板の縦断面は三角形状をなして脊椎のS字カーブを保つようになっている(点線の人体の状態)。しかし椅子に座った瞬間に、骨盤の最下部の座骨が、上からの体重と大腿部のハムストリング筋肉の張力により後ろ向きに回転してしまい、腰椎はS字カーブを保つための湾曲した状態から直線状になる。そして三角形状の断面の椎間板は扁平な長方形状に変形して神経側に押し出され、それによって神経を圧迫するので、この状態を継続すると腰痛を感じるようになる(実線の人体の状態)。
【0007】
また、座骨が後傾することにより、S字カーブを保っている腹直筋、殿筋、腸腰筋、脊柱起立筋、ハムストリング等の筋肉のバランスが崩れ、体重を受け止めようとして筋肉が緊張状態になり、血流が悪化することでも腰痛が発生する。従って、長時間の着座によっても腰痛になり難い構造の椅子を提供するには、これらの腰痛の生理学的要因に対応した、すなわち脊椎のS字カーブを自然に維持することが可能な構造にする必要がある。
【0008】
前述のような、ばね、ウレタンフォーム等の弾性素材を用いて圧力を分散させる方法は、脊椎を理想的なS字カーブに保つものではなく、身体にとって不自然な姿勢も許容するため、長時間着座すると腰痛が発生するという問題は解決できなかった。また、ウレタンフォームの使用は、その厚みのために折畳み椅子や積み重ねが必要な椅子(スタッキングチェア)には適用し難い等、用途が限定されるという欠点もあった。腰部にのみエアクッションを当てる方法(特許文献1)は、本発明のように椅子自体が変化する構造ではなく、ただ腰椎を後方から前方に押し出すだけなので、身体全体を自然な姿勢に保つことは難しく、姿勢が不安定になる欠点がある。
【0009】
また
図1のシェル構造の場合は、座骨を掴んで腰椎を支えて脊椎のS字カーブを保つ構造ではあるが、後で詳細に説明するように、本発明のように着座により背面が前方に回転する構造ではないため、S字カーブを自然に維持することは難しい。また、シェル構造の製造には型を作製する必要があるため、座る人のサイズに完全に適応したサイズの座部を造ることは難しいという欠点もある。
【0010】
本発明の目的は、上記長時間の着座による腰痛の問題を低減、回避でき、長時間座っても疲れ難く、かつ軽量で種々の用途にも適用できる構造の椅子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による椅子は、
少なくとも、着座面と背凭れを構成する骨組みを形成するフレームと、該フレームに周端が保持された伸縮性を有する張り材とから構成された椅子であって、
着座によって前記着座面が下方に変位するとともに、それと連動して前記背凭れの少なくとも一部が前方に変位する機構をさらに備えている。
【0012】
本発明による椅子の一つの態様としては、
前記フレームが枠状の外側フレームと該外側フレームの内側に配置される枠状の内側フレームから構成され、
前記張り材は前記外側フレームに保持され、
前記内側フレームは、前記外側フレームの前記張り材の下側に接触して配置されるとともに、前記外側フレームの張り材と結合して保持され、
着座によって前記内側フレームの前記着座面が下方に変位するとともに、それと連動して前記内側フレームの前記背凭れが前方に変位するようにされている。
【0013】
前記外側フレームに脚部が設けられていてもよい。
また、前記内側フレームの前記背凭れの高さが、腰部の上部かつ背部の下部の位置になるようにされ、
前記外側フレームの左右の腰部の位置にリクライニング回転軸が設けられ、これを中心にして前記外側フレームの上部が後方に傾斜可能にされていてもよい。
【0014】
さらに、座骨の前方への移動を防止するための、前記内側フレームの前記着座面の前側の中央部に上方向の突起部を設けてもよい。
【0015】
本発明による椅子の別の態様としては、
前記フレームが、それぞれが左右の対からなる前脚フレーム、後脚フレーム、背フレーム、および座フレームの複数の部分フレームから構成され、
全ての前記部分フレームの一端が、一つの回転ヒンジにより回転可能に結合され、
さらに、左右の前記前脚フレームは前脚貫で、左右の前記後脚フレームは後脚貫で、左右の前記座フレームは座前貫で、左右の前記背フレームは背貫でそれぞれ連結されて固定され、
それぞれの前記部分フレームの前記回転ヒンジとは反対側の左右の端部は、左右に1本づつ配置された伸縮性のないロープの予め決められた位置に連結されており、
左右の前記ロープの両端にはそれぞれ一対のファスナが取り付けられ、前記一対のファスナをそれぞれ連結させれば着座可能な状態となり、前記一対のファスナを外せば折畳み可能となる。
【0016】
前記張り材は、接触する身体の凸部の圧力の大きさに応じた、伸縮度の大きさが異なる複数の領域を有していてよく、特に、
前記張り材の身体の腰部が接触する領域の伸縮度が、臀部および背部(背中)が接触する領域の伸縮度よりも小さいことが好ましい。
【0017】
また、前記張り材がホールガーメント編(登録商標)で作製された素材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明による構造の椅子は、長時間の着座時に発生する腰痛、筋肉痛や疲労の問題を低減できるという大きな効果をもたらす。さらに、本発明による構造の椅子は、軽量であり、折畳み椅子や積層可能な椅子(スタッキングチェア)、座椅子等、多様な形態の椅子に適用可能であるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、市販の、座骨を囲んで腰椎を支える形態の一体化シェル構造の椅子の模式的外観図を示す。
【
図2】
図2は、椅子に着座した時の、臀部、腰部、背部の骨と筋肉の状態を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例によるスタッキングチェアの外観斜視図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施例によるスタッキングチェアの内側フレームの変位の状態を、着座していない状態(A)と着座した状態(B)のそれぞれについて模式的に示した図である。
【
図5】
図5は、本発明の別の実施例による、自動車のドライバーの座席に設置する形態のリクライニングシートの外観斜視図を示す。
【
図6】
図6は、本発明の別の実施例によるリクライニングシートの内側フレームの変位の状態を、着座していない状態(A)と着座した状態(B)のそれぞれについて示した外観図である。
【
図7】
図7は、本発明のまた別の実施例による折畳み椅子の、組立て後の外観図を示した図であり、(A)は斜視図、(B)は側面図、(C)は正面図、(D)は上面図である。
【
図8】
図8は、本発明のまた別の実施例による折畳み椅子の、折畳んだ後の外観図とその部品の拡大図である。
【
図9】
図9は、本発明のまた別の実施例による折畳み椅子の、着座していない状態(A)と着座した状態(B)のそれぞれについて、張り材の変位の状態を示した外観図である。
【
図10】
図10は、椅子に着座した時の、折畳み椅子の座面と背凭れの変位と、それに伴う身体の姿勢の変化を、本発明の機能がない場合(実線)とある場合(破線)について示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による椅子は、基本的には伸縮性のある張り材が保持された金属製パイプからなる枠状フレームと、これに任意に脚部を取り付けた構造を有する。また、この張り材の伸縮度は全面に渡って一様ではなく、人体からの圧力の大きさに応じて位置によって異なる伸縮度を有する。以下に実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0021】
本発明の実施例1による積重ね可能な椅子(スタッキングチェア)100の外観斜視図を
図3に示す。外側フレーム10とその内側の内側フレーム12を備え、外側フレーム10の内側には伸縮性のある張り材14が張られており、内側フレーム12は張り材14に接触してその下側に配置されている。外側フレーム10の張り材14は、内側フレーム12を保持する構造にされており、外側フレーム10の側部と内側フレーム12の側部の間は張り材14によって外側フレーム10に保持されている。また、外側フレーム10には4本の脚部16が固着されている。
【0022】
本発明では、張り材14は接触する身体の部位によって伸縮度を変化させるため、ホールガーメント(Wholegarment)編(登録商標)で作製したものを用いることが好ましい。この素材は通気性も良く、発汗性を妨げないで長時間の着座でも不快にならないという利点もある。なお、
図3の張り材14を表す細線の1本は1本の繊維を表しているのではなく、伸縮度の大きさを模式的に表したものであり、密度の少ない領域は伸縮度が大きく(変形し易く)、密度の多い領域は伸縮度が小さい(変形し難い)ことを表している。本実施例では、内側フレーム12の臀部と背部がそれぞれ接触する張り材14の領域、すなわちハート型の臀部領域5、および背部領域7は伸縮度が大きく造られているのに対して、腰部が接触する腰部領域6は横方向全体に渡って伸縮度が小さく造られている。これにより、前方に滑り出して後傾しやすい座骨を掴み、座骨を後傾ではなく前傾させることができる。このような張り材14の領域によって伸縮度の大きさを変えることは、椅子の用途や構造に応じて適宜適用すればよい。
【0023】
図4は、
図3のスタッキングチェア100に人が着座していない状態(A)と着座した状態(B)の、内側フレーム12内の張り材14の変位の状態をそれぞれ模式的に示した図である。着座していない状態(A)では、内側フレーム12の座面1と背面2は、張り材14に接触していることによって外側フレーム10の対応部分と同じ方向を向いている。
【0024】
これに対して、着座した状態(B)では、張り材14の臀部領域5が下方向に沈むことにより、座面1には外側フレーム10と内側フレーム12の折り曲げ部3を中心にした回転モーメントが働くため、座面1は下方向に回転する。張り材14の臀部領域5は伸縮度が大きく造られて下方向に沈み易くされているので、座骨を確実に掴むことができる。一方、背面2は座面1の回転に伴って折り曲げ部3を中心に回転して前方に傾く。この際、背部領域7は伸縮度が大きく造られ、腰部領域6は前述のように伸縮度が小さく造られているので、背面2に寄りかかった場合、腰部は背部ほど後方に傾斜しない。その結果脊椎のS字カーブは保たれ、腰痛を起こし難い姿勢に自然に保たれるようにされている。
一方、着座した状態(B)では、内側フレーム12の座面1が、体重によって外側フレーム10の折り曲げ部3を中心に回転しながら下方向に沈み込んでいる。それに伴って内側フレーム12の背面2は、折り曲げ部3を中心に回転しながら前方に傾斜して垂直方向に立ち上がり、湾曲した背貫26は外側フレーム10の背面2の張り材14に接触する状態になる。着座して背部を背面2に凭れると、リクライニング回転軸22により背部は後方に傾斜できるが、腰部領域6は上述のように伸縮度が小さく造られているので、腰部は背部ほど後方に傾斜しない。その結果、脊椎のS字カーブは保持され、正しい姿勢が自然に保たれる。従って、本実施例によれば、長時間運転しても腰痛が起こり難い椅子の構造が実現できる。