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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082235
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】水晶振動子用の水晶ウエハ
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
H03H3/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182918
(22)【出願日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022195639
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 清治
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 肇
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108MM08
(57)【要約】
【課題】多数の水晶振動片をマトリクス状に形成するための水晶ウエハにおいて、ハンドリング及び搬送時に生じる割れを軽減することができる、新規な構造を有した水晶ウエハを提供する。
【解決手段】水晶ウエハ10は、マトリクス状に多数配置された水晶振動片11と、前記マトリクス状に配置された多数の水晶振動片の各列11aを囲っていて、かつ、各水晶振動片が連結されているフレーム10aと、を備える。フレームの、前記水晶振動片の列を囲っている輪郭10bが、各列の両端では列に沿って外側に向かって凸状の曲線10baになっており、かつ、前記両端以外では前記曲線10baに連続する直線10bbになっている。前記輪郭の前記直線になっている部分の間の寸法をHと定義したとき、凸状の曲線は、半径がH/2で与えられる曲線を含む曲線である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス状に多数配置された水晶振動片と、前記マトリクス状に配置された多数の水晶振動片の各列を囲っていて、かつ、各水晶振動片が連結されているフレームと、を備える水晶ウエハにおいて、
フレームの、前記水晶振動片の列を囲っている輪郭が、各列の両端では列に沿って外側に向かって凸状の曲線になっており、かつ、前記両端以外では前記曲線に連続する直線になっていること、を特徴とする水晶ウエハ。
【請求項2】
前記輪郭の前記直線になっている部分の間の寸法をHと定義したとき、前記凸状の曲線は、半径がH/2で与えられる曲線を含む曲線であることを特徴とする請求項1に記載の水晶ウエハ。
【請求項3】
前記輪郭の前記直線になっている部分の間の寸法をHと定義したとき、前記凸状の曲線は、半径がH/2で与えられる曲線と、それ以外の曲線条件である少なくとも1つの他の
曲線との連続曲線であることを特徴とする請求項1に記載の水晶ウエハ。
【請求項4】
前記フレームの厚さをTと定義し、各水晶振動片の厚さをtと定義したとき、前記フレームの前記凸状の曲線となっている領域に、該領域と連続しているが水晶振動片の厚さtと同じ厚さの補強領域を備えることを特徴とする請求項1に記載の水晶ウエハ。ただし、T>tである。
【請求項5】
各水晶振動片の厚さtは、当該水晶振動片に要求される周波数に対応する厚さであることを特徴とする請求項4に記載の水晶ウエハ。
【請求項6】
前記補強領域は、厚さがTの前記フレームの縁から厚さがtの前記補強領域に向かって厚さが減じている傾斜面を持つ領域を含むことを特徴とする請求項4に記載の水晶ウエハ。
【請求項7】
前記補強領域は、第1領域、第2領域、第3領域及び第4領域の4つの領域によって構成してあり、
前記第1領域は、水晶振動片の厚さtと同様な厚さを持つ平面的な領域であり、
前記第2領域及び第3領域61c各々は、厚さがTである前記フレームの縁から前記第1領域向かって厚さが減じている傾斜面を持つ領域であり、
前記第4領域は、前記フレームの縁と前記第1領域とに渡って垂直な面を持つ領域であり、
前記第2領域、前記第4領域及び前記第3領域は、この順に連続していることを特徴とする請求項6に記載の水晶ウエハ。
【請求項8】
水晶ウエハの一方の面における水晶振動片の列を囲っている輪郭と、他方の面における水晶振動片の列を囲っている輪郭とは、互いの位置及び又は形状が異なることを特徴とする請求項1に記載の水晶ウエハ。







【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子用の水晶振動片を多数備えた水晶ウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、水晶振動子に対する小型化の要求が益々高まっている。また、通信周波数の高周波化に伴い、特に厚み滑りモードで振動する水晶振動片を用いた水晶振動子では、水晶振動片自体の厚みが、益々薄くなる。従って、機械加工式の製造方法では水晶振動子の製造が困難になり、その対策として、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術による製造方法が採用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
図8は、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術による水晶振動片の製造方法の概略的な説明図である。この製造方法では、水晶ウエハ70に多数の水晶振動片71がフォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術によって、マトリクス状に形成される。水晶振動片71それぞれは、所定の外形を有し所定の電極71aを有したものとなっている。ただし、水晶振動片71それぞれは、一つの辺の側でフレーム70aと連結されている。水晶振動片71それぞれは、フレーム70aから、折り取り線73の位置で折り取られて個片化され、図示しない容器に実装されて、水晶振動子が完成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-73300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術によって水晶振動片を製造する場合、水晶ウエハのハンドリングや搬送が度々行われる。一方、水晶ウエハは、外形寸法が例えば数インチφや数インチ角程度、厚さが例えば100μm程度であり、大きくかつ薄いものである。そのため、水晶ウエハのハンドリングや搬送の際に、水晶ウエハの破損や、破損まで至らなくても一部にクラックが生じる等の不具合が生じる。破損やクラックが生じた場合、工程歩留まりの低下等を招く。
【0006】
水晶ウエハのハンドリングや搬送の際に、水晶ウエハの破損やクラックを発生させる原因の1つに、図8に示すように、水晶ウエハ70のフレーム70aの形状に起因するものがある。すなわち、フレーム70aの、水晶振動片71の列71b(図8参照)を囲う輪郭の両端に当たる付近が、直角形状70bとなっていると、直角形状70bを起点にして水晶ウエハ70にクラック75等を発生させ、水晶ウエハ70の破損等を招く。
この出願は上記の点に鑑みなされたものであり、従って、この発明の目的は、多数の水晶振動片をマトリクス状に形成するための水晶ウエハにおいて、ハンドリング及び搬送時に生じる割れを軽減することができる、新規な構造を有した水晶ウエハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明の水晶ウエハによれば、マトリクス状に多数配置された水晶振動片と、前記マトリクス状に配置された多数の水晶振動片の各列を囲っていて、かつ、各水晶振動片が連結されているフレームと、を備える水晶ウエハにおいて、
フレームの、水晶振動片の列を囲っている輪郭が、各列の両端では列に沿って外側に向かって凸状の曲線になっており、かつ、前記両端以外では前記曲線に連続する直線になっていることを特徴とする。
【0008】
この発明を実施するに当たり、前記凸状の曲線の曲率等は、本発明の目的に応じた任意の設計とできる。しかし、前記輪郭の前記直線になっている部分の間の寸法をHと定義したとき、前記凸状の曲線は、半径がH/2で与えられる曲線を含む曲線であることが好ましい。前記凸状の曲線が、半径がH/2で与えられる曲線を含む曲線であると、そうで無い場合に比べて、フレームの輪郭が滑らかに変化するので、図8に示した直角形状70bが生じないので、フレームの輪郭形状に起因する水晶ウエハの破損を防止し易い。なお、半径がH/2で与えられる曲線を含むとは、凸状の曲線全部が、半径がH/2で与えられる曲線で構成されている場合、又は、凸状の曲線の一部が、半径がH/2で与えられる曲線で構成され、残りの部分が他の曲線条件(例えば曲率が異なる曲線)である少なくとも1つの曲線で構成される場合、いずれでも良い趣旨である。また、半径がH/2で与えられる曲線とは、この曲線に対しこの発明の目的の範囲で類似する曲線も含まれる。例えば半径がH/2に対し例えば±数%、例えば±0.1~5%の範囲の、この発明の目的を達成し得る半径で与えられる曲線も含む。
【0009】
この発明を実施するに当たり、前記フレームの厚さと水晶振動片の領域の厚さとは、同じでも異なっても良い。しかし、高周波化に伴い、水晶振動片の領域の厚さが、フレームの厚さより薄くなる場合も多い。すなわち、フレームの厚さをTと定義し、各水晶振動片の厚さをtと定義したとき、T>tの場合が生じる。その場合は、前記フレームの前記凸状の曲線となっている領域に、該領域と連続しているが水晶振動片の厚さtと同じ厚さの補強領域を備えるようにしても良い。補強領域を備える場合、補強領域が梁の役目を果たすと考えられるので、補強領域を備えない場合に比べ、フレームの強度を強化できるため、水晶ウエハの破損を防止し易い。なお、フレームの厚さTとは、典型的には、水晶ウエハの出発時の厚さであり、例えば数10μmから数100μmの範囲の厚さである。また、水晶振動片の厚さtとは、典型的には水晶振動片に要求される厚み滑り振動を実現できる厚さである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の水晶ウエハによれば、フレームの、水晶振動片の列を囲っている輪郭が、各列の両端では前記列に沿って外側に向かって凸状の曲線になっているため、フレームの、水晶振動片の列の両端に当たる輪郭付近に、直角形状70b(図8参照)が生じないので、水晶ウエハにクラックが発生し難くなる。従って、水晶ウエハをハンドリング及び搬送するときに生じる水晶ウエハのクラック発生や破損を軽減することができる、新規な構造を有した水晶ウエハを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態の水晶ウエハ10の説明図である。
図2】主に第1の実施形態の水晶ウエハ10の変形例の説明図である。
図3】第2の実施形態の水晶ウエハ20の説明図である。
図4】第3の実施形態の水晶ウエハ30の説明図である。
図5】第4の実施形態の水晶ウエハ40の説明図である。
図6】第5の実施形態の水晶ウエハ50の説明図である。
図7】第6の実施形態の水晶ウエハ60の説明図である。
図8】従来技術及び課題の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の水晶ウエハの実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
1. 第1の実施形態の水晶ウエハ
図1は第1の実施形態の水晶ウエハ10の説明図である。特に、図1(A)は、水晶ウエハ10の平面図、図1(B)は、図1(A)中のN部分、すなわち水晶振動片11の列11aを囲っているフレーム10aの一端付近を拡大した平面図、図1(C)は、水晶ウエハ10を図1(B)中のI-I線に沿って切った部分的断面図である。
【0014】
第1の実施形態の水晶ウエハ10は、平面形状が円形状のATカットの水晶ウエハに本発明を適用した例である。なお、図1(A)に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカットの水晶ウエハ10での水晶の結晶軸を示す。この実施形態の場合、水晶振動片11は、水晶のX軸に長尺ないわゆるXロングの水晶振動片となっていて、+X軸側の短辺部分、すなわち図1(B)に示す引出電極11cを設けた側の端部が容器(図示せず)に固定される例である。
この水晶ウエハ10は、マトリクス状に多数配置された水晶振動片11と、水晶振動片11の列11aを囲っていて、かつ、各水晶振動片が連結されているフレーム10aと、を備えている。然も、フレーム10aの、水晶振動片の列11aを囲っている輪郭10bが、水晶振動片の列11aの両端でこの列11aに沿って外側に向かって凸状の曲線10baになっており、かつ、前記両端以外では凸状の曲線10baに連続する直線10bbになっている。
【0015】
さらに、この第1の実施形態の水晶ウエハ10の場合、輪郭10bの直線になっている部分10bbの輪郭間の寸法をH(図1(B)参照)と定義したとき、凸状の曲線10baは、半径がH/2(図1(B)参照)で与えられる曲線を含む曲線となっている。
従って、水晶ウエハ10は、フレーム10aの、水晶振動片11の列11aの両端に当たる輪郭付近が、直角形状70b(図8参照))にならず、滑らかな円弧形状になる。そのため、この発明の水晶ウエハは、図8に示したようなクラックの起点になる構造が無い水晶ウエハとなるので、従来に比べ水晶ウエハにクラックが生じにくく、水晶ウエハの破損も生じにくい。
【0016】
なお、水晶振動片11それぞれは、平面形状が例えば四角形状であり、表裏両面に励振用電極11bを備え、かつ、励振用電極11bから水晶振動片11の1つの辺に引き出された引出電極11cを備えるものとなっている。この例の場合、フレーム10aの厚みと水晶振動片11の厚みとは、同じ例としてある。
また、第1の実施形態の水晶ウエハ10では、フレーム10aからの水晶振動片11の折り取りを容易にするため、水晶振動片11とフレーム10aとの連結領域の一部に、水晶ウエハ10を貫通している貫通孔10cを設けてあり、この貫通孔10cによって、水晶振動片11とフレーム10aとの連結強度を弱めて、折り取りを容易にしてある。また、この貫通孔10cを介して、引出電極11cを水晶振動片11の裏面側に引き回してある。これにより引出電極11cを水晶振動片11の表裏に設けた引出電極配置が実現できるので、水晶振動片11を容器に実装する際に、水晶振動片の表裏の制約が軽減されるため好ましい。
水晶振動片11を水晶ウエハ10から折り取る場合、水晶振動片11の先端を押すことによって、図1(B)に示した折り取り線13の位置で水晶振動片11をフレーム10aから折り取ることが出来る。折り取った水晶振動片11は、図示しない容器に実装し、所定の周波数調整及び封止等を行うことで、水晶振動子が完成する。
【0017】
本発明の水晶ウエハは、以下図2を参照して説明するような種々の変形をしても良い。なお、この変形例を、第1の実施形態の水晶ウエハ10に適用した例によって説明するが、この変形例は、以下の第2~第4の実施形態に対しても勿論適用できる。
図2(A)は、第1の変形例を説明する図である。具体的には、第1の実施形態の水晶ウエハ10における水晶振動片の列を囲う輪郭10bの一端部分に着目した拡大図である。この第1の変形例は、水晶振動片の列を囲っている輪郭10bが、各列の両端では半径H/2の半円で示される半円の曲線10baになっており、かつ、これら両端以外ではこの半円の曲線10baに連続する直線10bbになっている例である。
【0018】
図2(B)は、第2の変形例の説明図であって、図2(A)と同様な要部の拡大図である。この第2の変形例は、水晶振動片の列を囲っている輪郭10bが、各列の両端の一部分では半径H/2の半円で示される半円の曲線10baになっており、両端の残りの部分は、曲線10baとは異なる曲線条件の曲線(曲率が異なる曲線)10bcとなっており、これら両端以外ではこの半円の曲線10baに連続する直線10bbになっている例である。なお、この第2の変形例において、曲線条件が異なる曲線10bcは、曲線ではなく直線とする場合があっても良い。
【0019】
図2(C)、(D)それぞれは、水晶振動片の列を囲っている輪郭10bの、水晶ウエハの表裏の関係について説明する図である。図2(A)と同様な要部の拡大図であるが、水晶ウエハの表面の当該輪郭(図中の実線)と、水晶ウエハの裏面の当該輪郭(図中の破線)とを示した図である。
水晶振動片の列を囲っている輪郭10bは、水晶ウエハの表裏において、同じ位置及び同じ形状で勿論良い。しかし、水晶はその結晶軸によってウエットエッチング液に対するエッチング速度が異なる。概略的には、Z面>+X面>-X面>Y面の順でエッチング速度が速い。このようなことから、水晶振動片の列を囲っている輪郭10bは、水晶ウエハの表裏において、形状や位置が若干異なる場合も生じる。また、上記のエッチング速度の違いを考慮し、水晶ウエハ10を製造する工程で用いる水晶ウエハ表裏に形成する耐ウエットエッチングマスクを水晶ウエハ表裏で予めずらした方が良い場合もある。本発明はこのような場合も考慮して、意図的に、水晶振動片の列を囲っている輪郭10bの位置や形状を、水晶ウエハの表裏において、異ならせても良い。
【0020】
図2(C)の場合は、水晶ウエハの一方の面における水晶振動片の列を囲っている輪郭10bと、他方の面における水晶振動片の列を囲っている輪郭10xについて、互いの位置を水晶振動片の列に沿う方向、ATカット水晶片の例で言えばZ′方向に沿って(図1(A)参照)ずらしている例である。具体的には、水晶ウエハの図2(C)の表面側の輪郭10bに対し、裏側の輪郭10xを、図2(C)の右方向にずらした例である。この逆の方向にずらす場合があっても良い。なお、輪郭10bの平面形状と輪郭10x、形の平面形状が同じでも、異なっていても良い。
図2(D)の場合は、水晶ウエハの一方の面における水晶振動片の列を囲っている輪郭10bに対し、他方の面における水晶振動片の列を囲っている輪郭10yが、大きくなっている例である。もちろん、設計によって、輪郭10bの形状と輪郭10yの形状が同じ場合、異なる場合があっても良い。
このような各種の変形例の場合であっても、水晶振動片の列を囲っている輪郭が曲線と直線とを組み合わせた所定のものとなっているので、クラックが生じくく、ウエハの破損が生じにくいという本発明の効果が得られる。
【0021】
2. 第2の実施形態の水晶ウエハ
図3は第2の実施形態の水晶ウエハ20の説明図である。特に、図3(A)は、水晶ウエハ20の平面図、図3(B)は、図3(A)中のN部分、すなわち水晶振動片21の列21aを囲っているフレーム20aの一端付近を拡大した平面図、図3(C)は、水晶ウエハ20を図3(B)中のI-I線に沿って切った部分的断面図である。
【0022】
第2の実施形態の水晶ウエハ20は、フレーム20aの、水晶振動片の列21aを囲っている輪郭20bを、第1の実施形態と同様に、水晶振動片の列に沿う外側に向かった凸状の曲線20baとなった部分と、凸状の曲線20baに連続している直線20bbとで構成してある。
ただし、第2の実施形態の水晶ウエハ20の場合、フレーム20aの厚さをTと定義し、各水晶振動片21の厚さをtと定義したとき(図3(C)参照)、水晶振動片21の厚さtがフレーム20aの厚さTより薄くなっており、かつ、フレーム20aの凸状の曲線20baとなっている領域に、該領域と連続している補強領域20cであって、厚さが水晶振動片の厚さtと同じとした補強領域20cを備えている。ここで、厚さtは、典型的には、水晶振動片に要求される発振周波数に応じた厚さである。
【0023】
また、この実施形態の補強領域20cの場合、水晶振動片21の列21aの一番端の水晶振動片21x(図3(B)参照)の外形加工をウエットエッチングによって行う際の、他の位置での水晶振動片とのエッチング条件に差異が生じることを低減するために、一番端の水晶振動片21xの長辺に沿ってかつ長辺から所定距離Δx(図3(B)参照)だけ離れた位置まで補強領域20cを近接させて設けてある。この所定距離Δxとは、水晶振動片の列21aの隣り合う水晶振動片の間の距離に相当する距離である。また、補強領域20cの一番端の水晶振動片21xに隣接する部分は、補強領域20cがクラック発生の起点となることを防止するために、水晶振動片21xの基部側においてU字状の曲線をもった輪郭部20caとし、水晶振動片21xの先端側では円状の輪郭部20cbとしてある。
【0024】
なお、第2実施形態の水晶ウエハ20の場合も、水晶振動片21の折り取りを容易にするための貫通孔20dを備えている。ただし、貫通孔20dは、水晶ウエハ20の厚さtとなっている領域、すなわち水晶振動片21側の領域に設けてある。また、折り取りを容易にするために、水晶ウエハ20の折り取り起点に当たる位置に、水晶ウエハの厚さ方向にハーフエッチングした凹部20eを設けてある。また、水晶振動片21は、励振用電極21b及び引出電極21cを備えている。水晶ウエハ20からの水晶振動片21の折り取りや、水晶振動子化は、第1の実施形態と同様に行える。
この第2実施形態の水晶ウエハ20の場合、補強領域20cが梁の機能を有するため、補強領域20cを備えていない場合に比べ、フレーム20aの輪郭部を起点にするクラック発生を第1の実施形態に比べさらに抑制できる。
【0025】
3. 第3の実施形態の水晶ウエハ
図4は第3の実施形態の水晶ウエハ30の説明図である。特に、図4(A)は、水晶ウエハ30の平面図、図4(B)は、図4(A)中のN部分、すなわち水晶振動片21の列21aを囲っているフレーム30aの一端付近を拡大した平面図、図4(C)は、水晶ウエハ30を図4(B)中のI-I線に沿って切った部分的断面図である。
【0026】
第3の実施形態の水晶ウエハ30は、第2の実施形態の水晶ウエハ30とほぼ同じ構造であるが、フレーム30aの補強領域31の形状が、第2の実施形態の場合と多少相違する。すなわち、第3の実施形態の水晶ウエハ30では、補強領域31は、フレーム30aの水晶振動片21の列の両側における凸状の曲線20baに倣った形状に曲線状してある。従って、この実施形態の場合、補強領域31は、平面視で三日月状の形状にしてある。
この第3の実施形態の水晶ウエハ30の場合、補強領域31が平面視で三日月状の形状であるため、補強領域31がクラック発生の起点になるおそれをさらに低減できる。
【0027】
4.第4の実施形態の水晶ウエハ
図5は第4の実施形態の水晶ウエハ40の要部の説明図であり、第2の実施形態の説明で用いた図3(B)に対応する部分的拡大図である。
第2の実施形態の水晶ウエハ20では、補強領域20cは、水晶振動片21xの先端側では円状の輪郭部20cbとしていたのに対し、第4の実施形態の水晶ウエハ40では、補強領域20cの、水晶振動片21xの先端側では角R状の輪郭部20ccとしてある。この第4の実施形態の水晶ウエハ40の場合も、補強領域に直角形状70b(図8参照))が生じない構造であるため、補強領域20cに起因するクラック発生を防止できる。
【0028】
5.第5の実施形態の水晶ウエハ
図6(A),(B)は第5の実施形態の水晶ウエハ50の要部の説明図であり、第2の実施形態の説明で用いた図3(B)、(C)に対応する部分的拡大図及び部分的断面図である。
第5の実施形態の水晶ウエハ50は、第2の形態の水晶ウエハ20で設けていた補強領域20c(図3(B)、(C)参照)を無くした構造のものである。それ以外は第2の実施形態と同様の構造としてある。すなわち、補強領域は有していないが、図6(B)に示すように、水晶ウエハ50の折り取り起点に当たる位置に、水晶ウエハの厚さ方向にハーフエッチングした凹部20eを設けたものである。
【0029】
6.第6の実施形態の水晶ウエハ
図7は第6の実施形態の水晶ウエハ60を説明するための図である。特に図7(A)は、水晶ウエハ60の要部、すなわち水晶振動片11の列11aを囲っているフレーム10aの一端付近を拡大した平面図、図7(B)は、図7(A)中のM部分の電子顕微鏡(SEM)写真、図7(C)は、図7(A)中のM部分の反対側の部分の電子顕微鏡写真である。なお、図7(B)に、SEM写真とともに、フレーム10a、第1領域61a、第3領域61c及び第4領域61d付近の断面構造を説明するために、図7(B)中のS線に沿った断面図、T線に沿った断面図を併せて記載してある。
この第6の実施形態の水晶ウエハ60では、補強領域61を、図7(B)、(C)に示すように、第1領域61a、第2領域61b、第3領域61c及び第4領域61dの4つの領域によって構成してある。第1領域61aは、水晶振動片11の厚さtと同様な厚さを持ち比較的広い平面的な領域である。第2領域61b及び第3領域61c各々は、厚さがTであるフレーム10aの縁から第1領域61aに向かって厚さが減じている傾斜面を持つ領域である。第4領域61dは、フレーム10aの縁と第1領域61aとに渡って垂直な面を有した領域である。ここで、垂直な面とは第1領域に対し、真に垂直に交わる面は勿論のこと、例えば80~100度の範囲で交わるほぼ垂直な面(従ってオーバーハングする面)も含む意味である。
なお、第2領域61b及び第3領域61c各々の傾斜面は、典型的には、第1領域61aに対し、角度θ(図7(A)の部分的な断面図参照)で交わる面である。角度θは、これに限られないが、典型的には30~40度である。
【0030】
また、第2領域61b及び第3領域61c各々の平面的な幅W(図7(C)に示すW)は、第2領域61b及び第3領域61cそれぞれの中の場所によって多少変わる。それは、水晶の結晶軸にウエットエッチング異方性に起因するためである。幅Wは、これに限られないが、数μm~10数μmである。なお、この幅Wは以下の要因でも変化するものである。水晶振動片11の厚さtは、水晶振動片11に要求される振動周波数に対応する厚さであり、典型的には、水晶ウエハの出発時の厚さであるフレーム10aの厚さTから、ウエットエッチングによってエッチングして薄くされて決まるものである。従って、フレーム10aの厚さTと、水晶振動片11の厚さtとの差が大きいほど、第2領域61b及び第3領域63cの傾斜面は長くなり、上記Wは大きくなる。
【0031】
また、水晶振動片11の列11aを囲っているフレーム10aの列方向両端にある凸状の輪郭を、ほぼ半円の輪郭と見ると、この半円に対し、第2領域61b、第3領域61c及び第4領域61dは、以下のように配置してある。
第2領域61bは、上記の半円の輪郭を凡そ3つに区分けした場合の下側に位置する3分の1の領域に沿って設けてあり、第3領域61cは、上記の半円の輪郭を凡そ3つに区分けした場合の上側に位置する3分の1の領域に沿って設けてあり、第4領域61dは、上記の半円の輪郭を凡そ3つに区分けした場合の中央に位置する3分の1の領域に沿って設けてある。従って、この例の場合、第2領域61b、第4領域61d及び第3領域61cは、この順で連続している。
【0032】
この第6の実施形態の水晶ウエハ60の場合、フレーム10aの直線部分から凸状になる部分との間に、傾斜面を持つ第2領域61b及び第3領域61cを設けてあるので、フレーム10aの直線部分から凸状になる部分に対する応力緩和が、傾斜面を持たない場合に比べて起きやすいいので、水晶ウエハの破損の危険性をより低減できる。また、第4領域は垂壁に近い面を持つので、凸状の輪郭の凸部先端の剛性を高めることに寄与できる。
【0033】
また、この第6の実施形態の水晶ウエハ60では、図7(B)及び(C)に示すように、水晶振動片11の列11aを囲っているフレーム10aの列方向両端の輪郭形状を、水晶ウエハの表裏で違えてある。具体的には、図7(B)に示した表面側の補強領域61の第4領域61dは、凡そ、第1輪郭部61da、第2輪郭部61db及び第3輪郭部61dcの3つの異なる輪郭で与えられる形状となっているのに対し、図7(C)に示した裏面側の補強領域61の第4領域61dは、凡そ、1つの輪郭で与えられる形状になっている。第1輪郭部61da、第2輪郭部61db及び第3輪郭部61dc各々は、緩い曲率の3つの曲率を持つ輪郭線が連なる構成としてある。
図7(B)、(C)を用いて説明したように、フレーム10aの両端に当たる輪郭形状を、水晶ウエハの表裏で違えると、この出願に係る発明者の実験によれば、水晶ウエハの破損率を低下できることが分かった。その理由は明確ではないが、こうすると水晶ウエハ60に及ぶ応力等をより低減できるためと考える。
なお、図3を用いて説明した第2の実施形態の水晶ウエハ20や、上記した第6の実施形態の水晶ウエハ60は、上記の第2領域や第3領域に相当する傾斜面を持つ領域を、フレーム10aの輪郭の直線状の部分にも備えている。フレーム10aの輪郭の直線状の部分に、傾斜面を有する領域を備えると、これによっても水晶ウエハの破損の低減が図れると考える。
7.他の実施形態
上述した実施形態では水晶ウエハの平面形状を円形状としたが、水晶ウエハの平面形状は四角形状等の他の形状でも良い。また、水晶ウエハはATカットのものに限られず、Zカットのもの、SCカット等に代表される2回回転カットのもの等、他のカットのものでも良い。
【符号の説明】
【0034】
10:第1の実施形態の水晶ウエハ 10a:フレーム
10b:水晶振動片の列を囲う輪郭 10ba:凸状の曲線
10bb:凸状の曲線に連続する直線
10x、10y:水晶振動片の列を囲う輪郭であって水晶ウエハ表裏の輪郭
11:水晶振動片 11a:水晶振動片の列
H:輪郭の直線になっている部分の間の寸法
20:第2の実施形態の水晶ウエハ 20a:フレーム
20b:水晶振動片の列を囲う輪郭 20ba:凸状の曲線
20bb:凸状の曲線に連続する直線 20c:補強領域
21:水晶振動片 21a:水晶振動片の列
21x:水晶振動片の列の端の水晶振動片
30:第3の実施形態の水晶ウエハ 30a:フレーム
30b:水晶振動片の列を囲う輪郭 31:補強領域
40:第4の実施形態の水晶ウエハ 40a:フレーム
50:第5の実施形態の水晶ウエハ 50a:フレーム
50b:水晶振動片の列を囲う輪郭
60:第6の実施形態の水晶ウエハ 61:補強領域
61a:第1領域 61b:第2領域(傾斜面を持つ領域)
61c:第3領域(傾斜面を持つ領域) 61d:第4領域
61da:第1輪郭部 61db:第2輪郭部
61dc:第3輪郭部
図1
図2
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図8