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特開2024-82259ガスバリアフィルム、積層体、および包装材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082259
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルム、積層体、および包装材料
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240612BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204838
(22)【出願日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2022195636
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】松久 健司
(72)【発明者】
【氏名】鍬形 友輔
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AC07
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB05
3E086BB22
3E086BB51
3E086DA06
4F100AA20B
4F100AH06C
4F100AH08C
4F100AK04A
4F100AK04E
4F100AK07A
4F100AK07E
4F100AK21C
4F100AK51C
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100CB00D
4F100CB03E
4F100EH66B
4F100GB15
4F100JB12C
4F100JD02
4F100JD02B
4F100JL12E
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】基材の表面に直接酸化珪素膜を形成した場合でも、高いバリア性を有するガスバリアフィルムを提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材の第一面に形成されたガスバリア層とを備え、前記ガスバリア層が酸化珪素膜からなり、前記酸化珪素膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定されるSi2pピークのピークトップが101.0eV以上103.5eV未満の範囲にあり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.10以上1.50以下であることを特徴とする、ガスバリアフィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の第一面に形成されたガスバリア層と
を備え、
前記ガスバリア層が酸化珪素膜からなり、
前記酸化珪素膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定されるSi2pピークのピークトップが101.0eV以上103.5eV未満の範囲にあり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.10以上1.50以下である、
ガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記ガスバリア層の厚みが1~200nmである、
請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記基材の第一面に形成された前記ガスバリア層上にさらに被覆層を備える、
請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記被覆層の厚みが0.05~1μmである、
請求項3に記載のガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記被覆層が、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子と、を含む、
請求項3に記載のガスバリアフィルム。
【請求項6】
前記被覆層が、シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物、及び、シランカップリング剤或いはシランカップリング剤の加水分解物の反応生成物の少なくとも1つを含む、
請求項3に記載のガスバリアフィルム。
【請求項7】
前記被覆層が、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と多価金属化合物との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む、
請求項3に記載のガスバリアフィルム。
【請求項8】
前記被覆層が、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン樹脂及びシラン化合物を含む被覆層形成原料の硬化物である、
請求項3に記載のガスバリアフィルム。
【請求項9】
前記基材は、ポリプロピレンまたはポリエチレンを含む、
請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムと、
前記ガスバリア層または前記被覆層上に接着剤を介して積層されたヒートシール層と、
を備える、
積層体。
【請求項11】
前記ヒートシール層はポリプロピレンまたはポリエチレンを含む、
請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記積層体に占めるポリプロピレンまたはポリエチレンの割合が90質量%以上である、
請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
請求項12に記載の積層体で形成された包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、精密電子部品等の包装に適しているガスバリアフィルム、積層体、および包装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品に用いられる包装材料において、内容物の変質を抑制し、それらの機能や性質を保持する観点から、内容物を変質させ、包装材料を透過する酸素や水蒸気、その他の気体を遮断するガスバリア性が求められることがある。また、ガスバリア性を有する包装材料として、温度、湿度などの影響が少ないアルミ等の金属箔をガスバリア層として用いたガスバリアフィルムが知られている。
【0003】
ガスバリアフィルムの他の構成として、高分子材料で形成された基材フィルム上に、酸化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を真空蒸着やスパッタ等により形成したフィルムが知られている(例えば特許文献1参照。)。これらのガスバリアフィルムは、透明性及び酸素、水蒸気等のガス遮断性を有する。また、基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のものがよく用いられている。
【0004】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、プラスチック材料の分別回収と再資源化のさらなる高効率化が求められつつある。これまで様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた包装用の積層体においても例外でなく、モノマテリアル化が求められつつある。
【0005】
積層体においてモノマテリアル化を実現するためには、各層を構成するフィルムの樹脂材料を同一系統とする必要がある。例えばヒートシール層にはポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムといったポリオレフィンフィルムが広く用いられているため、基材フィルムにおいてもポリオレフィンを使用することで、包装用の積層体のモノマテリアル化が期待されている。
【0006】
ポリオレフィンを使用したバリアフィルムのモノマテリアル化としては、例えば特許文献2では、延伸ポリプロピレンフィルムと蒸着層との密着性やガスバリア性を向上させるために、延伸ポリプロピレンフィルム表面に表面コート層を設け、表面コート層上に蒸着層を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60-49934号公報
【特許文献2】特開2022-118046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、表面コート層を設けることで製造工程が増えるために、生産性の悪化や過大な材料コストがかかるばかりでなく、表面コート層の形成に必要な材料や製造時にかかるエネルギー等の資源を多く消費するという問題がある。
また、ガスバリアフィルムのガスバリア層として、ガスバリア性と透明性、耐湿熱性の高さから酸化珪素膜を用いたものが知られているが、発明者の検討により、延伸ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム上に単に酸化珪素膜を形成してもガスバリア性や透明性が十分ではないことが明らかとなった。
【0009】
そこで本発明では、基材の表面に直接酸化珪素膜を形成した場合でも、高いガスバリア性を有するガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、基材と、基材の第一面に形成されたガスバリア層とを備え、ガスバリア層が酸化珪素膜からなるガスバリアフィルムである。このガスバリアフィルムは、酸化珪素膜の表面をX線光電子分光法(XPS)により測定したSi2pピークのピークトップが101.0eV以上103.5eV未満の範囲にあり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.10以上1.50以下である。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係るガスバリアフィルムと、ガスバリア層または被覆層上に接着剤を介して積層されたヒートシール層とを備える積層体である。
【0012】
本発明の第三の態様は、第二の態様に係る積層体を用いて形成された包装材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリオレフィン基材の表面に直接酸化珪素膜を形成した場合でも、高いガスバリア性を有するガスバリアフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の模式断面図である。
図2】酸化珪素膜のSi2pのナロースペクトルの一例である。
図3】ガスバリアフィルムの製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る積層体2の模式断面図である。積層体2のヒートシール層50は、接着層40を介して、ガスバリアフィルム1上に形成される。ガスバリアフィルム1は、基材10と、ガスバリア層20と、被覆層30とを有する。
【0016】
ガスバリア層20は、基材10上に形成されている。被覆層30はガスバリア層20上に形成されている。
【0017】
基材10を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、炭素数2~10のオレフィンの重合体、プロピレン-エチレン共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族系ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド等の芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体等のアクリル系樹脂;セロファン;ポリカーボネート、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
基材10は、単一の樹脂で構成された単層フィルム、複数の樹脂を用いた単層又は積層フィルムのいずれでもよい。また、上述の各種樹脂が他の基材(金属、木材、紙、セラミックス等)に積層されたものであってもよい。基材10は、単層でもよく、2層以上であってもよい。
中でも、ポリオレフィン系樹脂フィルム(特に、ポリプロピレンフィルム等)、ポリエステル系樹脂フィルム(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム)、ポリアミド系樹脂フィルム(特に、ナイロンフィルム)等が基材10として好ましく、リサイクル性の観点からポリオレフィン系樹脂フィルム(特に、ポリプロピレンフィルム等)が特に好ましい。
【0019】
基材10は、未延伸フィルムであってもよく、一軸延伸又は二軸延伸等の延伸フィルムであってもよい。水蒸気バリア性に優れる観点からは、OPPフィルムまたはPEフィルムが基材10として特に好ましい。OPPフィルムは、ホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーから選ばれる少なくとも一種のポリマーがフィルム状に加工されたものであってもよい。ホモポリマーはプロピレン単体のみからなるポリプロピレンである。ランダムコポリマーは、主モノマーであるプロピレンと、プロピレンとは異なる少量のコモノマーがランダムに共重合し、均質な相をなすポリプロピレンである。ブロックコポリマーは、主モノマーであるプロピレンと上記コモノマーがブロック的に共重合したり、ゴム状に重合したりすることによって不均質な相を形成するポリプロピレンである。基材10がOPPを含む場合、OPPは1層でもよく2層以上でもよい。
【0020】
PEフィルムは、ホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーから選ばれる少なくとも一種のポリマーがフィルム状に加工されたものであってもよい。ホモポリマーはポリエチレン単体のみからなるポリエチレンである。ランダムコポリマーは、主モノマーであるエチレンと、エチレンとは異なる少量のコモノマー(例えばα―オレフィン)がランダムに共重合し、均質な相をなすポリエチレンである。ブロックコポリマーは、主モノマーであるエチレンと上記コモノマー(例えばα―オレフィン)がブロック的に共重合したり、ゴム状に重合したりすることによって不均質な相を形成するポリエチレンである。また、ポリエチレンの密度に特に制限はなく、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等の何れでもよい。基材10がポリエチレンを含む場合、ポリエチレンは1層でもよく2層以上でもよい。
【0021】
基材10において、ガスバリア層20が形成される第一面10aには、薬品処理、溶剤処理、コロナ処理、低温プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0022】
基材10は、フィラー、アンチブロッキング剤(以下、「AB剤」と称することがある。)、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
AB剤は、有機系粒子、無機系粒子等の固体粒子である。有機系粒子としては、ポリメチルメタクリレート粒子、ポリスチレン粒子、ポリアミド粒子等を例示できる。これら有機系粒子は、例えば、乳化重合や懸濁重合等により得られる。無機系粒子としては、シリカ粒子、ゼオライト、タルク、カオリナイト、長石等を例示できる。これらのAB剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
基材10がAB剤を含有する場合、第一面10aには、AB剤に由来する凹凸が生じる。すなわち、第一面10aにAB剤粒子の一部が突出することにより、基材がロール状に巻かれた際の接触面積が減少する。その結果、ブロッキングの発生が抑制され、基材10のブロッキング耐性を向上できる。
【0025】
上記の観点からは、基材10は、AB剤を含有することが好ましい。一方で、基材10の第一面10aに大きな凸部が形成されると、その上に形成されるガスバリア層20、被覆層30等にガス透過の経路となる欠陥が生じやすくなり、ガスバリアフィルム1の酸素バリア性を低下させる可能性がある。この点と、ガスバリア性フィルム1の外観、透明性、AB剤の脱落可能性、アンチブロッキング性能を考慮すると、AB剤の平均粒径は、例えば、0.1~5μmが好ましい。AB剤の平均粒径は、コールター法により測定される重量平均径である。
【0026】
基材10にAB剤を含有させる場合は、AB剤を硬化前の樹脂材料中に分散させればよい。基材10の表面付近に位置するAB剤粒子は、樹脂に覆われていてもよいし、露出していてもよい。AB剤の含有量は、基材10を構成する樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上、0.5質量部以下とできる。AB剤の含有量が0.05質量部以上であると、基材10の原料となるフィルムの加工特性を高めやすい。AB剤の含有量が0.5質量部以下であると、ガスバリア性フィルム1の酸素バリア性の低下を抑制しやすい。
【0027】
基材10の厚さには特に制限はなく、包装材料としての適性や他の皮膜の積層適性を考慮しつつ、価格や用途によって適宜決定できる。基材10の厚みは、実用的には3μm~200μmが好ましく、5μm~120μmがより好ましく、6μm~100μmがさらに好ましく、10μm~30μmが特に好ましい。
【0028】
ガスバリア層20には、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム等の無機酸化物膜が用いることができるが、生産性に優れ、かつ透明性、耐熱性に優れることから酸化アルミニウムまたは酸化珪素が好ましい。さらに、高温高湿環境下におけるバリア性の耐久性にも優れることから酸化珪素が特に好ましい。
【0029】
ガスバリア層20の化学結合状態の分析には、X線光電子分光法(以下、「XPS」と称することがある。)を用いた。XPSは、測定対象に対して軟線を照射し、測定対象の表面から放出される光電子をエネルギー分析する手法であり、測定対象の表面から数nmの深さの領域の組成や元素の化学結合状態を分析することができる。
【0030】
酸化珪素に関わる化学結合状態は、SiO(Si3+)の他にSi3+、Si2+、Siの3つのサブオキサイド成分およびSiの5つが存在することが知られている。これらはXPSでSi2pのナロースペクトルを測定した場合に、SiOが103.5~104.5eV付近に観測され、Si3+、Si2+、SiおよびSiはSiOよりも低エネルギー側にシフトした位置に、それぞれが約1eVずつ離れた位置に観測される。図2に、酸化珪素膜のSi2pのナロースペクトルの一例を示す。
【0031】
また、汎用的に用いられるX線源がMgKαまたはAlKαで、アナライザー透過エネルギーが10eV程度のXPSを用いてSi2pのナロースペクトルを測定した場合には、各結合のピークが分離されず、合成された形で観測される。このため、Si2pのナロースペクトルにおいて、SiO膜の場合には103.5~104.5eV付近にピークトップが検出されるが、SiOを主として他の複数の化学結合状態を含む酸化珪素膜の場合には、ピークトップが101~103.5eVの範囲にシフトする。また、SiO膜の場合に比べ、SiOを主として他の複数の化学結合状態を含む酸化珪素膜の場合にはSi2pピークの半値全幅(FWHM)が広がる。一方で、酸化珪素に関わる酸素については、530~534eV付近にピークトップをもつO1sピークが検出されるが、O1sピークのナロースペクトルにおいて、O1sピークの半値全幅(FWHM)は酸化珪素中のSiとの結合状態に依存しない。このため、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αは酸化珪素膜中に含まれるSi+、Si2+、SiおよびSi結合の量の指標となる。なお、本発明において半値全幅(FWHM)とはピークトップの強度の1/2の位置におけるエネルギーの間隔である。
【0032】
ガスバリア層20として形成される酸化珪素膜において、XPSにより測定されるSi2pピークのピークトップが101.0eV以上103.5eV未満の範囲にあることが好ましく、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.10以上1.50以下であることが好ましい。XPSにより測定されるSi2pピークおよびO1sピークが前記の範囲にある酸化珪素膜は複数の結合状態を含む膜であるため、網目構造が緻密となり、ガス分子の透過経路を低減することができる。また、XPSにより測定されるSi2pピークのピークトップが101.0eV未満にある酸化珪素膜はSi1+やSiが多いため、透明性が不十分となる。このため、ガスバリア層20として形成される酸化珪素膜において、XPSにより測定されるSi2pピークおよびO1sピークが前記の範囲にあれば、高いガスバリア性を得られるだけでなく、透明性、基材10との密着性も十分に得ることができる。なお、帯電によるピークシフトが発生するため、表面汚染炭化水素に由来して検出されるC1sピークを用いて補正する必要がある。本発明において、表面汚染炭化水素に由来して検出されるC1sピークは284.6eVとした。また、XPSでは深さ方向の分析のためにアルゴン(Ar)イオンによるスパッタエッチングが用いられることがあるが、アルゴン(Ar)イオンの衝突による還元やミキシング等が発生し、元の酸化珪素膜中の化学結合状態から変化してしまう可能性があるため、表面を分析することが好ましい。
上述のように、透明性、密着性の観点からは、Si2pピークのピークトップが101.0eV以上103.5eV未満の範囲にあることが好ましく、102.0以上103.2以下であることがさらに好ましく、102.5以上103.0以下であることが特に好ましい。バリア性の観点からは、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αは1.10以上1.50以下であることが好ましく、1.12以上1.40以下であることがさらに好ましく、1.15以上1.35以下であることが特に好ましい。
【0033】
ガスバリア層20の形成方法に制限はなく、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマ化学気相成長法(PECVD)等公知の成膜方法を使用できるが、生産性に優れることから真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法の材料加熱手段としては、抵抗加熱式、高周波誘導加熱式、電子線加熱式等を用いることができる。さらにプラズマアシスト法やイオンビームアシスト法などを組み合わせると、ガスバリア層20を緻密に形成してバリア性を向上できる。
【0034】
ガスバリア層20を真空蒸着法で成膜する場合、成膜時に分圧計(検出器にファラデーカップを用いた四重極質量分析計)で計測したm/z18の分圧値が0.09Pa以下となるように設定することが好ましく、0.05Pa以下とすることがより好ましい。成膜時に質量分析計で計測したm/z18の分圧が0.09Paを超えると、蒸着雰囲気中の水分子の量が多いことで、酸化珪素膜中のSiがOまたはOHと結合しやすくなり、XPSで測定したO1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.10未満となりやすい。更に、成膜時に質量分析計で計測したm/z18の分圧が0.05Pa以下であると、酸化珪素膜の形成時に雰囲気中に存在する水分子の量が一般的な蒸着プロセスに比して少なくなり、酸化珪素膜中でSiと結合できる水分子中のOHやHの量が少なくなる。このため、酸化珪素膜中のSi-OH結合やSi-H結合が少なくなり、酸化珪素膜中の分子間の隙間が少なくなる。その結果、ガスバリア層20が緻密な構造となり、発揮される水蒸気バリア性の安定性を高めることができる。
ここで、m/z(正確には斜体字)とは、イオンの質量を統一原子質量単位で割って得られた無次元量をさらにイオンの電荷数の絶対値で割って得られた無次元量と定義されている値であり、質量分析計で測定されるマススペクトルの横軸に採用されている値である。m/zは、国際純正・応用科学連合(IUPAC)により学術用語として定められている。m/z18とは、水分に係るHイオンに由来するm/zである。水分に係るイオンとしては、m/z18の他に、m/z17等のフラグメントイオンもあるが、本発明では、最も強いスペクトル強度をとるHイオンに由来するm/z18を指標とした。
成膜時のm/z18の分圧の具体的調整方法としては、成膜環境に気体を吸着する機構を設けることが典型的である。例えば、気体(水蒸気)を凝縮・吸着する装置(以下、「気体吸着装置」)を成膜装置の成膜室内に設け、さらに、巻出巻取室内の中、特には巻き出しロール近傍にも設けることで、成膜室内の水蒸気を低減する効果と、基材から放出される水分に由来する水蒸気を低減する効果の両方により、成膜時のm/z18の分圧を0.05Pa以下に抑えることができる。
気体吸着装置としては、マイスナーコイル、クライオパネル、クライオポンプ、ソープションポンプ、イオンポンプ、ゲッタポンプが好ましく用いられ、吸着面積を大きくできることから、マイスナーコイル、クライオパネルがより好ましく用いられる。例えば、マイスナーコイルやクライオパネルを用いた場合、気体を凝縮・吸着する性能を十分得る観点からは、冷却温度が-100℃以下であることが好ましく、-110℃以下であることがより好ましい。
【0035】
図3は、本発明の実施形態に係るガスバリアフィルムの製造装置の一例を示す模式図である。製造には、真空の成膜室60と巻出しロール62が配置された巻出巻取室70とを備えた成膜装置100を用いる。成膜室60と巻出巻取室70は隔壁により仕切られており、独立した排気系を有している。成膜室60には気体吸着装置68が設置されており、巻出巻取室70内の巻出しロール62付近にも気体吸着装置68と同様の機能を有する気体吸着装置69が設置されている。気体吸着装置69は、気体を凝縮・吸着するものであればよく、気体吸着装置68と同種であっても異なる物であってもよい。
基材10となるプラスチックフィルム61を巻出しロール62にセットする。巻出しロール62より引き出されたプラスチックフィルム61は、成膜室60内に露出する成膜ロール63を通過した後、巻取りロール64に巻き取られる。成膜室60内には、ガスバリア層20を成膜するための蒸着材料65がセットされ、蒸着手段としての電子ビーム銃66が設置されている。電子ビームにより加熱された蒸着材料65は、蒸気の蒸着粒子67となりプラスチックフィルムに蒸着される。これにより、ガスバリア層20がプラスチックフィルム61上に形成される。
【0036】
図2において、蒸着材料65を加熱する方法として、電子ビーム銃66を用いた電子ビーム蒸着法を示したが、抵抗加熱法または高周波誘導加熱法などを用いて加熱し、蒸着材料65を蒸発させてもよい。また抵抗加熱法は、材料を詰めた坩堝を直接抵抗加熱する方式であってもよいし、別の方式であっても問題ない。
【0037】
ガスバリア層蒸着フィルムの製造装置は、この形に制限されるわけではなく、必要に応じて、プラズマ前処理装置を巻出巻取室内に設置しても問題なく、反応ガスの導入装置を成膜室内に設置しても問題はない。ロールの配置に関しても、特に制限されるものではない。
【0038】
ガスバリア層20の厚さは、用いられる構成・成膜方法により異なるが、一般的には1~200nmの範囲内で適宜設定できる。ガスバリア層20の厚さが1nm未満であると、均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア層としての機能を十分に発揮しない場合がある。ガスバリア層20の厚さが200nmを越えると、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、ガスバリア層20に亀裂を生じてバリア性を失う可能性がある。
【0039】
被覆層30は、ガスバリア層20により得られるガスバリア性に加えて更に高い酸素バリア性を得られる点から、ウェットコート法により形成される酸素バリア性皮膜として公知のものであってよい。被覆層30は、ガスバリア層20上にウェットコート法によりコーティング剤からなる塗膜を形成し、この塗膜を乾燥することにより得られる。なお、本明細書において、「塗膜」は湿潤膜を、「皮膜」は乾燥膜を、それぞれ意味する。
【0040】
被覆層30としては、金属アルコキシドおよびその加水分解物、もしくはその反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子を含む皮膜(以下、「有機無機複合皮膜」と称することがある。)を含んでもよい。さらにシランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
【0041】
有機無機複合膜に含まれる金属アルコキシド及びその加水分解物としては、例えば、テトラエトキシシラン[Si(OC]及びトリイソプロポキシアルミニウム[A(OC]等の一般式M(OR)で表されるもの、並びにその加水分解物が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0042】
有機無機複合膜における、金属アルコキシドおよびその加水分解物、もしくはその反応生成物の少なくとも1つの合計含有量は、例えば、40~70質量%である。酸素透過度を一層低減する観点から、有機無機複合膜における、金属アルコキシドおよびその加水分解物、もしくはその反応生成物の少なくとも1つの合計含有量の下限は50質量%であってもよい。同様の観点から、有機無機複合膜における、金属アルコキシドおよびその加水分解物、もしくはその反応生成物の少なくとも1つの合計含有量の上限は65質量%であってもよい。
【0043】
有機無機複合膜に含まれる水溶性高分子は、特に限定されず、例えばポリビニルアルコール系の高分子、アクリルポリオール系等の高分子、デンプン・メチルセルロース・カルボキシメチルセルロース等の多糖類等を例示できる。酸素ガスバリア性を一層向上させる観点からは、ポリビニルアルコール系の高分子を含むことが好ましい。水溶性高分子の数平均分子量は、例えば、40000~180000である。
【0044】
ポリビニルアルコール系の水溶性高分子は、例えばポリ酢酸ビニルをけん化(部分けん化も含む)して得ることができる。この水溶性高分子は、酢酸基が数十%残存しているものであってもよく、酢酸基が数%しか残存していないものであってもよい。
【0045】
有機無機複合膜における、水溶性高分子の含有量は、例えば、15~50質量%である。水溶性高分子の含有量が20~45質量%であると、有機無機複合膜の酸素透過度をさらに低減でき、好ましい。
【0046】
有機無機複合膜に含まれるシランカップリング剤及びその加水分解物としては、有機官能基を有するシランカップリング剤が挙げられる。そのようなシランカップリング剤及びその加水分解物としては、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプリピルメチルジメトキシシラン、及びこれらの加水分解物が挙げられる。これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0047】
シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも一方は、有機官能基として、エポキシ基を有するものを用いることが好ましい。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、及びβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。エポキシ基を有するシランカップリング剤及びその加水分解物は、ビニル基、アミノ基、メタクリル基又はウレイル基のように、エポキシ基とは異なる有機官能基を有していてもよい。
【0048】
有機官能基を有するシランカップリング剤およびその加水分解物は、その有機官能基と水溶性高分子の水酸基との相互作用によって、被覆層30の酸素バリア性と、ガスバリア層20との接着性を一層向上することができる。特に、シランカップリング剤及びその加水分解物のエポキシ基とポリビニルアルコールの水酸基とは、相互作用によって、被覆層30のガスバリア層20との接着性を向上することができる。
【0049】
有機無機複合膜における、シランカップリング剤およびその加水分解物、もしくはその反応生成物の少なくとも1つの合計含有量は、例えば、1~15質量%である。シランカップリング剤およびその加水分解物、もしくはその反応生成物の少なくとも1つの合計含有量が2~12質量%であると、有機無機複合膜の酸素透過度をさらに低減でき、好ましい。
【0050】
有機無機複合膜は、層状構造を有する結晶性の無機層状化合物を含んでもよい。無機層状化合物としては、例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、又はマイカ族等に代表される粘土鉱物が挙げられる。これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機層状化合物の粒径は、例えば0.1~10μmである。無機層状化合物のアスペスト比は、例えば50~5000である。
【0051】
無機層状化合物としては、層状構造の層間に水溶性高分子が入り込むこと(インターカレーション)によって、優れた酸素バリア性と密着強度を有する皮膜を形成できることから、スメクタイト族の粘土鉱物が好ましい。スメクタイト族の粘土鉱物の具体例としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、及びサポナイト、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。
【0052】
また、被覆層30の別の好ましい例として、ポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基と多価金属化合物(B)との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む皮膜(ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜)が挙げられる。ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜は、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)を混合したコーティング剤を塗布、加熱乾燥することで形成されてもよいし、ポリカルボン酸系重合体(A)を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥してA皮膜を形成した上に、多価金属化合物(B)を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥してB皮膜を形成し、A/B層間で架橋反応させることにより形成されてもよい。
【0053】
[ポリカルボン酸系重合体(A)]
ポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体である。ポリカルボン酸系重合体としては、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体;エチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体;アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン等の分子内にカルボキシル基を有する酸性多糖類が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これらのポリカルボン酸系重合体は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
上記の中でも、得られるガスバリア性フィルム1のガスバリア性の観点から、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びクロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体が特に好ましい。該重合体において、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位の割合は、80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましい(ただし該重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)。該重合体は、単独重合体でも、共重合体でもよい。該重合体が、上記構成単位以外の他の構成単位を含む共重合体である場合、該他の構成単位としては、例えば前述のエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体から誘導される構成単位などが挙げられる。
【0055】
ポリカルボン酸系重合体の数平均分子量は、2,000~10,000,000の範囲内が好ましく、5,000~1,000,000がより好ましい。数平均分子量が2,000未満では、得られるガスバリア性フィルムは充分な耐水性を達成できず、水分によってガスバリア性や透明性が悪化する場合や、白化の発生が起こる場合がある。他方、数平均分子量が10,000,000を超えると、被覆層30を形成する際のコーティング剤の粘度が高くなり、塗工性が損なわれる場合がある。なお、上記数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めた、ポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0056】
ポリカルボン酸系重合体を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥してA皮膜を形成した後にB皮膜を形成する場合には、ポリカルボン酸系重合体は、カルボキシ基の一部が予め塩基性化合物で中和されていてもよい。ポリカルボン酸系重合体の有するカルボキシ基の一部を予め中和することにより、A皮膜の耐水性や耐熱性をさらに向上させることができる。塩基性化合物としては、多価金属化合物、一価金属化合物およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物が好ましい。多価金属化合物としては、後述する多価金属化合物の説明で例示する化合物を用いることができる。一価金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0057】
ポリカルボン酸系重合体を主成分とするコーティング剤には各種添加剤を加えることができ、バリア性能を損なわない範囲で架橋剤、硬化剤、レベリング剤、消泡剤、アンチブロッキング剤、静電防止剤、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤などがあげられる。
【0058】
ポリカルボン酸系重合体を主成分とするコーティング剤に用いる溶媒は水性媒体が好ましい。水性媒体としては、水、水溶性または親水性有機溶剤、またはこれらの混合物が挙げられる。水性媒体は通常、水または水を主成分として含むものである。水性媒体中の水の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。水溶性または親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、セロソルブ類、カルビトール類、アセトニトリル類のニトリル類等が挙げられる。
【0059】
[多価金属化合物(B)]
多価金属化合物は、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基と反応してポリカルボン酸の多価金属塩を形成する化合物であれば特に限定されず、酸化亜鉛粒子、酸化マグネシウム粒子、マグネシウムメトキシド、酸化銅、炭酸カルシウム等を例示できる。これらを単独或いは複数を混合して用いてもよい。被覆層30の酸素バリア性の観点からは、酸化亜鉛が好ましい。
【0060】
酸化亜鉛は紫外線吸収能を有する無機材料である。酸化亜鉛粒子の平均粒子径は特に限定されないが、ガスバリア性、透明性、コーティング適性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。
【0061】
多価金属化合物を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥して皮膜を形成する場合は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化亜鉛粒子のほかに、各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、コーティング剤に用いる溶媒に可溶又は分散可能な樹脂、該溶媒に可溶又は分散可能な分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤等を例示できる。上記の中でも、溶媒に可溶または分散可能な樹脂を含有することが好ましい。これにより、コーティング剤の塗工性、製膜性が向上する。このような樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。
【0062】
また、溶媒に可溶又は分散可能な分散剤を含有することも好ましい。これにより、多価金属化合物の分散性が向上する。該分散剤としては、アニオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤を用いることができる。該界面活性剤としては、(ポリ)カルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルフォコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、芳香族リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、アルキルアリル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ソルビタンアルキルエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の各種界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
多価金属化合物を主成分とするコーティング剤に添加剤が含まれている場合には、多価金属化合物と添加剤との質量比(多価金属化合物:添加剤)は、30:70~99:1の範囲内であることが好ましく、50:50~98:2の範囲内であることが好ましい。
【0064】
コーティング剤の溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。また、これらの溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、塗工性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また製造性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0065】
ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)を混合したコーティング剤を塗布、乾燥してポリカルボン酸の多価金属塩皮膜を形成する場合には、ポリカルボン酸系重合体(A)と、多価金属化合物(B)と、溶媒としての水またはアルコール類と、溶媒に溶解或いは分散可能な樹脂や分散剤、および必要に応じて添加剤を混合したコーティング剤を用いることができる。このコーティング剤を公知のコーティング方法にて塗布、乾燥することで、ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜を形成することができる。
コート法としては、キャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等を例示できる。
【0066】
被覆層30は、耐屈曲性及びガスバリア性の観点から、ポリウレタン樹脂を含んでもよい。すなわち、被覆層30は、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン樹脂及びシラン化合物を含む被覆層形成原料の硬化物(ポリウレタン樹脂皮膜)であってよい。ポリウレタン樹脂としては水性ポリウレタン樹脂が挙げられる。
水性ポリウレタン樹脂は、酸基含有ポリウレタン樹脂及びポリアミン化合物を含む。水性ポリウレタン樹脂を用いることで、被覆層に柔軟性と、ガスバリア性、特に酸素バリア性を付与しやすい。水性ポリウレタン樹脂では、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基と、架橋剤としてのポリアミン化合物とを結合させることにより、ガスバリア性を発現させている。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基とポリアミン化合物との結合は、イオン結合(例えば、カルボキシル基と第3級アミノ基とのイオン結合等)であってもよく、共有結合(例えば、アミド結合等)であってもよい。
【0067】
水性ポリウレタン樹脂を構成する酸基含有ポリウレタン樹脂は、酸基を有することから、アニオン性及び自己乳化性を有しており、アニオン性自己乳化型ポリウレタン樹脂とも称される。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基は、水性ポリウレタン樹脂を構成するポリアミン化合物のアミノ基(第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等)と結合可能である。酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。酸基は、通常、中和剤(塩基)により中和可能であり、塩基と塩を形成していてもよい。酸基は、酸基含有ポリウレタン樹脂の末端に位置してもよく側鎖に位置してもよいが、少なくとも側鎖に位置していることが好ましい。
【0068】
酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、酸基含有ポリウレタン樹脂が水分散性となる範囲で選択することができるが、通常、5~100mgKOH/gであり、10~70mgKOH/gであることが好ましく、15~60mgKOH/gであることがより好ましい。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価が上記範囲の下限値未満であると、酸基含有ポリウレタン樹脂の水分散性が不充分となり、水性ポリウレタン樹脂と他の材料との均一分散性やコーティング剤の分散安定性の低下を招くおそれがある。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価が上記範囲の上限値を超えると、被覆層の耐水性やガスバリア性の低下を招くおそれがある。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価が上記範囲内であることで、それら分散安定性の低下、及び耐水性やガスバリア性の低下を回避しやすくなる。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、JIS K 0070に準じた方法により測定できる。
【0069】
酸基含有ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、適宜選択可能であるが、800~1,000,000であることが好ましく、800~200,000であることがより好ましく、800~100,000であることがさらに好ましい。酸基含有ポリウレタン樹脂の数平均分子量が上記範囲の上限値を超えると、コーティング剤の粘度が上昇し好ましくない。酸基含有ポリウレタン樹脂の数平均分子量が上記範囲の下限値未満であると、被覆層のガスバリア性が不充分になるおそれがある。酸基含有ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0070】
酸基含有ポリウレタン樹脂は、ガスバリア性を高めるため、結晶性であってもよい。酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が100℃未満であると、被覆層のガスバリア性が不充分になるおそれがある。酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、典型的には、200℃以下、さらには180℃以下、さらには150℃以下程度である。上記各項目の好ましい範囲を満たす酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が上記の上限値よりも高くなることは実質的に可能性が低い。したがって、酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、100~200℃が好ましく、110~180℃がより好ましく、120~150℃がさらに好ましい。酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0071】
水性ポリウレタン樹脂を構成するポリアミン化合物は、2以上の塩基性窒素原子を有する化合物である。塩基性窒素原子は、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基と結合し得る窒素原子であり、例えば、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等のアミノ基における窒素原子が挙げられる。ポリアミン化合物としては、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基と結合し、ガスバリア性を向上できるものであれば特に限定されるものではなく、2以上の塩基性窒素原子を有する種々の化合物を用いることができる。ポリアミン化合物としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を2以上有するポリアミン化合物が好ましい。
【0072】
ポリアミン化合物の具体例としては、例えばアルキレンジアミン類、ポリアルキレンポリアミン類、複数の塩基性窒素原子を有するケイ素化合物等が挙げられる。アルキレンジアミン類としては、例えばエチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2~10のアルキレンジアミン等が挙げられる。ポリアルキレンポリアミン類としては、例えばテトラアルキレンポリアミン等が挙げられる。複数の塩基性窒素原子(アミノ基などの窒素原子を含む)を有するケイ素化合物としては、例えば2-〔N-(2-アミノエチル)アミノ〕エチルトリメトキシシラン、3-〔N-(2-アミノエチル)アミノ〕プロピルトリエトキシシラン等の、複数の塩基性窒素原子を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0073】
水性ポリウレタン樹脂において、ポリアミン化合物の含有量は、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基と、ポリアミン化合物の塩基性窒素原子とのモル比(酸基/塩基性窒素原子)が10/1~0.1/1となる量が好ましく、5/1~0.2/1となる量がより好ましい。酸基/塩基性窒素原子が上記範囲であれば、酸基含有ポリウレタンの酸基とポリアミン化合物の架橋反応が適切に生じ、被覆層に優れた酸素バリア性が発現する。
【0074】
水性ポリウレタン樹脂は、通常、水性媒体に分散した状態(水性分散体)の形態で用いられる。水性媒体としては、水、水溶性もしくは親水性の有機溶剤、またはこれらの混合物が挙げられる。水溶性または親水性の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;セロソルブ類;カルビトール類;アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。水性媒体としては、水または水を主成分として含むものが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。水性媒体は、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基を中和する中和剤(塩基)を含んでもよく、含まなくてもよい。通常は中和剤が含まれる。
【0075】
水性ポリウレタン樹脂の水性分散体において、分散粒子(ポリウレタン樹脂粒子)の平均粒子径は、特に限定されず、好ましくは20nm~500nmであり、より好ましくは25nm~300nmであり、さらに好ましくは30nm~200nmである。分散粒子の平均粒子径が上記範囲の上限値を超えると、分散粒子と他の材料との均一分散性やコーティング剤の分散安定性が低下し、コーティング剤から形成される被覆層のガスバリア性が不充分になるおそれがある。分散粒子の平均粒子径が上記範囲の下限値未満であると、コーティング剤の分散安定性やコーティング剤から形成される被覆層のガスバリア性をさらに向上させるほどの効果は期待できない。また、かかる分散体を得るのは実質的に難しい。分散粒子の平均粒子径は、固形分濃度が0.03~0.3質量%の分散体を用いて、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子社製 FPAR-10)にて計測できる。
【0076】
水性ポリウレタン樹脂は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。市販のものとしては、三井化学株式会社製のタケラック WPB-341や、DIC株式会社製のハイドラン HW350等を例示できる。水性ポリウレタン樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、アセトン法、プレポリマー法等の、通常のポリウレタン樹脂の水性化技術が用いられる。ウレタン化反応では、必要に応じてアミン系触媒、錫系触媒、鉛系触媒等のウレタン化触媒を用いてもよい。例えば、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類等の不活性有機溶媒中において、ポリイソシアネート化合物と、ポリヒドロキシ酸と、必要に応じて、ポリオール成分及び鎖伸長剤成分のうち少なくとも1つと、を反応させることにより、酸基含有ポリウレタン樹脂を調製できる。より具体的には、不活性有機溶媒(特に、親水性または水溶性の有機溶媒)中で、ポリイソシアネート化合物と、ポリヒドロキシ酸と、ポリオール成分と、を反応させて、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを生成し、中和剤で中和して水性媒体に溶解または分散させた後、鎖伸長剤成分を添加して反応させ、有機溶媒を除去することにより、酸基含有ポリウレタン樹脂の水性分散体を調製できる。このようにして得られた酸基含有ポリウレタン樹脂の水性分散体にポリアミン化合物を添加し、必要に応じて加熱することにより、水分散体の形態の水性ポリウレタン樹脂を調製できる。加熱する場合、加熱温度は、30~60℃が好ましい。
【0077】
ポリウレタン樹脂皮膜を形成する際、ポリウレタン樹脂皮膜形成原料におけるポリウレタン樹脂の量は、耐屈曲性及びガスバリア性の観点から、ポリビニルアルコール系樹脂1質量部に対して0.9~4.0質量部とできる。ポリウレタン樹脂の量は、1.1~3.0質量部が好ましく、1.2~2.5質量部がより好ましい。
【0078】
被覆層30の厚みは、要求される酸素バリア性に応じて設定され、例えば0.05~5μmとできる。被覆層30の厚みは、0.05~1μmが好ましく、0.1~0.5μmがより好ましい。被覆層30の厚みが0.05μm以上であれば、充分な酸素バリア性が得られやすい。被覆層30の厚みが1μm以下であれば、均一な塗工面を形成することが容易で、乾燥負荷や製造コストを抑制できる。
【0079】
被覆層30として、上述した有機無機複合皮膜、ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜、ポリウレタン樹脂皮膜等を有するガスバリアフィルムは、ボイル処理やレトルト殺菌処理を行っても優れた酸素バリア性を示す。
【0080】
以上がガスバリアフィルム1の基本的な構成である。ガスバリアフィルム1上に接着層40を介してヒートシール層50を設けると、包装材料に適用可能な積層体2となる。ヒートシール層50には基材10と同一系統のポリプロピレンまたはポリエチレンを含む樹脂成分により構成されるフィルムを用いることで、積層体2をモノマテリアル化することができる。積層体2に占めるポリプロピレンまたはポリエチレンの割合が90質量%以上であることが望ましい。
【0081】
接着層40としては、公知のドライラミネート用接着剤を使用できる。ドライラミネート用接着剤であれば特に制限なく使用できるが、具体例として、2液硬化型のエステル系接着剤やエーテル系接着剤、ウレタン系接着剤等が挙げられる。
また、硬化した層がガスバリア性を発揮するガスバリア性接着剤を用いることもできる。ガスバリア性接着を用いることで、被覆層30を形成せずに、ガスバリア層20上に直接ヒートシール層を設ける場合においても、ガスバリア層20により得られるガスバリア性に加えて更に高い酸素バリア性を得られる。ガスバリア性接着剤にはエポキシ系、ポリエステル・ポリウレタン系等がある。
【0082】
本発明のガスバリア層20は、基材10上に直接形成してもガスバリアフィルムとして十分な性能が得られるが、基材10上に下地層を更に設けても良い。基材10上に下地層を形成し、下地層上にガスバリア層20を形成した場合、更に安定性や耐久性の高いガスバリアを得ることができる。下地層の成分や形成方法に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂またはプラズマ処理などから選択できる。
【実施例0083】
本実施形態のガスバリアフィルムについて、実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明の技術的範囲は、実施例および比較例の具体的内容のみを根拠として限定されることはない。
【0084】
(実施例1)
基材10として、厚み20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用い、成膜室内および巻出巻取室内の巻出しロール付近に設置したマイスナーコイル(冷却温度:いずれも-120℃)を両方とも使用することで、成膜中に分圧計(検出部にファラデーカップを用いた四重極質量分析計)で計測した成膜室のm/z18分圧が0.02Paとなるように調整した。成膜室内においてSiOを昇華させ、基材10の第一面10a上に電子ビーム蒸着法により酸化珪素からなるガスバリア層20(膜厚40nm)を形成した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、X線源がAlKα、アナライザー透過エネルギーが5eVのX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが102.7eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.30であった。
以上により、実施例1に係るガスバリアフィルムを作製した。
【0085】
(実施例2)
成膜室内に設置したマイスナーコイルのみ使用して、成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.07Paとなるように調整した点と、酸化珪素からなるガスバリア層20の膜厚を30nmとした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが103.0eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.13であった。
【0086】
(実施例3)
実施例2のガスバリアフィルムのガスバリア層20上に、下記(1)液と(2)液とを重量比6:4で混合したコーティング剤をグラビアコート法により塗布、乾燥し、厚さ0.4μmの被覆層30を形成した。
(1)液:テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO換算)の加水分解溶液
(2)液:ポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比 90:10)
以上により、実施例3に係るガスバリアフィルムを作製した。
【0087】
(実施例4)
実施例3のガスバリアフィルムの被覆層30上に二液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、ドライラミネートにより無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ70μm)を貼り合わせてヒートシール層50を設け、実施例4に係る積層体を作製した。
【0088】
(実施例5)
ガスバリア層20を形成する前に、基材10の第一面10a上に以下の要領で下地層を形成した。
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加して、前処理層用塗工液を調製した。この前処理層用塗工液を、基材10の第一面10a上にグラビアコート法により塗布して乾燥及び硬化させ、下地層を形成した。
成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.03Paとなるように調整して、下地層を形成した基材に対し、実施例1と同様のガスバリア層20を形成して、実施例5に係る積層体を作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20について、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが102.9eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.23であった。
【0089】
(実施例6)
成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.01Paとなるように調整した成膜室内において、膜厚10nmの酸化珪素からなるガスバリア層20を形成した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例6に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20について、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが102.6eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.15であった。
【0090】
(実施例7)
膜厚50nmの酸化珪素からなるガスバリア層20を形成した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例7に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20について、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが102.5eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.28であった。
【0091】
(実施例8)
膜厚80nmの酸化珪素からなるガスバリア層20を形成した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例8に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが102.7eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.35であった。
【0092】
(実施例9)
成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.06Paとなるように調整した成膜室内において、膜厚120nmの酸化珪素からなるガスバリア層20を形成した点を除き、実施例2と同様の手順で実施例7に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが103.2eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.12であった。
【0093】
(実施例10)
基材10として、厚み30μmの無延伸高密度ポリエチレンフィルムを用いた点、および成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.02Paとなるように調整した点を除き、実施例5と同様の手順で実施例10に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが102.5eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.28であった。
【0094】
(実施例11)
実施例10のガスバリアフィルムのガスバリア層20上に、下記組成のガスバリア性接着剤Aを用いて、ドライラミネートにより無延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ60μm)を貼り合わせてヒートシール層50を設け、実施例11に係る積層体を作製した。
<ガスバリア性接着剤A>
・酢酸エチルとメタノールとを質量比1:1で混合した溶媒 23質量部
・三菱ガス化学社製 マクシーブC93T 16質量部
・三菱ガス化学社製 マクシーブM-100 5質量部
【0095】
(比較例1)
基材10として、厚み20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用い、成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.03Paとなるように調整した成膜室内において、SiO2を蒸発させ、基材10の第一面10a上に電子ビーム蒸着法により酸化珪素からなるガスバリア層20(膜厚40nm)を形成した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1に係るガスバリアフィルムを作製した。酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが103.0eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.09であった。
【0096】
(比較例2)
基材10として、厚み50μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、真空装置内にモノシラン(SiH)、亜酸化窒素(NO)を導入し、プラズマCVD法により酸化珪素からなるガスバリア層20(膜厚30nm)を形成し、比較例2に係るガスバリアフィルムを作製した。酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが103.1eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.06であった。
比較例2は真空蒸着を用いていないため、m/z18分圧を測定していない。
【0097】
(比較例3)
成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.02Paとなるように調整した成膜室内に酸素を供給し、成膜室の圧力(全圧)が10-2Pa台となるように流量を調整した酸素雰囲気中でSiを蒸発させ、酸化珪素からなるガスバリア層20(膜厚30nm)を形成した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが100.8eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.28であった。
【0098】
(比較例4)
成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.02Paとなるように調整した成膜室内において、SiO2を蒸発させ、酸化珪素からなるガスバリア層20(膜厚30nm)を形成した点を除き、実施例5と同様の手順で比較例4に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが103.4eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.05であった。
【0099】
(比較例5)
成膜中に分圧計で計測した成膜室のm/z18分圧が0.02Paとなるように調整した成膜室内において、SiO2を蒸発させ、酸化珪素からなるガスバリア層20(膜厚30nm)を形成した点を除き、実施例10と同様の手順で比較例5に係るガスバリアフィルムを作製した。
酸化珪素からなるガスバリア層20は、実施例1に記載のX線光電子分光法(XPS)にて測定した結果、Si2pピークのピークトップが103.5eVであり、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.07であった。
【0100】
実施例および比較例に係る積層体に対して、以下の分析、評価を行った。
(ガスバリア層のXPS分析)
実施例1から実施例11、および比較例1から比較例5で作製したガスバリアフィルム及び積層体について、ガスバリア層を日本電子製のX線光電子分光装置(JPS-9010MX)を用いて測定した。X線源はAlKαを使用し、アナライザー透過エネルギーを5eVに設定した。Si2pのナロースペクトルは95~106eVの範囲にて、O1sのナロースペクトルは525~538eVの範囲を、C1sのナロースペクトルは278~290eVの範囲にてそれぞれ測定した。また、ノイズの影響を避けるため、各ナロースペクトルは30回以上の繰り返しスキャンと積算を実施した。その際、アルゴン(Ar)イオンの衝突による還元やミキシング等により酸化珪素膜中の化学結合状態が変化してしまうことを避けるため、最表面の組成を測定した。また、帯電によるピークシフトが発生するため、表面汚染炭化水素に由来して検出されるC1sピークが284.6eVとなるように補正を行った。
【0101】
(ガスバリア性能評価)
実施例1から実施例11、および比較例1から比較例5で作製したガスバリアフィルム及び積層体について、モコン社製の水蒸気透過率測定装置(製品名:PERMATRAN3/34G、測定条件:40℃-90%RH、単位:g/(m・day))を用いて、水蒸気透過度(WVTR)を評価した。WVTRは各例について3か所で測定し、標準偏差も算出した。各例の評価結果について、表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
いずれの実施例も、酸化珪素からなるガスバリア層20のXPSによる分析結果が所定の範囲内であった。
一方、比較例1、2、4、および5に係るガスバリアフィルムの酸化珪素からなるガスバリア層20のXPSによる分析結果は、Si2pピークのピークトップは所定の範囲内であるが、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αが1.10未満であった。
また、比較例3に係るガスバリアフィルムの酸化珪素からなるガスバリア層20のXPSによる分析結果は、O1sピークの半値全幅(FWHM)αとSi2pピークの半値全幅(FWHM)βの比β/αは所定の範囲内であるが、Si2pピークのピークトップが101.0eV未満であった。
いずれの実施例に係るガスバリアフィルムも、すべての測定箇所でWVTRが2.0g/(m・day)未満であり、比較例1から比較例5に係るガスバリアフィルムに比べ、良好な水蒸気バリア性を示した。
また、被覆層やヒートシール層を設けていない構成のガスバリアフィルムである実施例1から実施例2および実施例5から実施例10のうち、成膜中に計測した成膜室のm/z18分圧が0.05Pa以下となるように調整した実施例1、実施例5から実施例8、および実施例10は、β/αの値が1.15以上であり、水蒸気バリア性が良好かつ安定していた。
【符号の説明】
【0104】
1 ガスバリアフィルム
2 積層体
10 基材
10a 第一面
20 ガスバリア層
30 被覆層
40 接着層
50 ヒートシール層
60 成膜室
61 プラスチックフィルム
62 巻出しロール
63 成膜ロール
64 巻取りロール
65 蒸着材料
66 電子ビーム銃
67 蒸着粒子
68、69 気体吸着装置
70 巻出巻取室
100 成膜装置
図1
図2
図3