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特開2024-82267硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及びその製造方法、並びに化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082267
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及びその製造方法、並びに化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/18 20060101AFI20240612BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20240612BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240612BHJP
   H10K 50/844 20230101ALI20240612BHJP
   H10K 71/13 20230101ALI20240612BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20240612BHJP
   C09D 11/36 20140101ALI20240612BHJP
【FI】
C08G65/18
C08L71/02
H10K50/10
H10K50/844
H10K71/13
H10K59/00
C09D11/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205958
(22)【出願日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2022195585
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】露木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】江幡 敏
(72)【発明者】
【氏名】西川(鬼丸) 奈美
(72)【発明者】
【氏名】秋池 利之
(72)【発明者】
【氏名】高松 信博
(72)【発明者】
【氏名】中村 文弥
【テーマコード(参考)】
3K107
4J002
4J005
4J039
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC23
3K107CC45
3K107EE49
3K107FF04
3K107FF18
3K107GG08
3K107GG28
4J002CD01X
4J002CD02X
4J002CH03W
4J002CH03X
4J002EJ066
4J002FD036
4J002GH00
4J002GP00
4J002HA03
4J002HA08
4J005AA07
4J005BA00
4J039AD21
4J039AE05
4J039CA02
4J039EA06
4J039EA24
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】低誘電率であり、かつアウトガスの発生が少ない硬化膜を形成することができる硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】重合性化合物と、重合開始剤とを含有し、重合性化合物は、オキセタン環を有し、オキセタン環を除いた部分に酸素原子を有さず、かつ分子量が100以上である化合物(A1)を含む硬化性組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と、重合開始剤とを含有し、
前記重合性化合物は、オキセタン環を有し、オキセタン環を除いた部分に酸素原子を有さず、かつ分子量が100以上である化合物(A1)を含む、硬化性組成物。
【請求項2】
前記化合物(A1)は、オキセタン環を除いた部分が炭化水素構造からなる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記化合物(A1)は下記式(1)で表される、請求項1に記載の硬化性組成物。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。nは1又2である。nが2の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。)
【請求項4】
上記式(1)中のRが水素原子である、請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記化合物(A1)の含有量が、前記重合性化合物の全量に対して3質量%以上である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記重合性化合物が、オキセタン環を分子内に合計2個以上有するか又は脂環式エポキシ基を分子内に合計2個以上有し、かつ前記化合物(A1)とは異なる化合物を更に含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
更に、重合禁止剤及び酸化防止剤よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
波長395nmのUV-LEDランプを使用して、照度1000mW/cmかつ積算光量3000mJ/cmの条件で前記硬化性組成物に対し紫外線を照射することにより得られる硬化膜の周波数100kHzにおける誘電率が2.8以下である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
インクジェット塗布用である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
有機EL素子の有機発光層を封止する封止構造形成用である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性組成物を用いて形成された硬化膜。
【請求項12】
請求項11に記載の硬化膜により有機発光層が封止された有機EL素子。
【請求項13】
有機発光層が形成された基材における発光層形成面に、請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性組成物を塗布する工程と、
放射線を照射して前記硬化性組成物を硬化することにより封止構造を形成する工程と、
を含む、有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
インクジェット塗布により前記硬化性組成物を塗布する、請求項13に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
下記式(1)で表される化合物。
【化2】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。nは1又2である。nが2の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及びその製造方法、並びに化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、陽極、有機発光層及び陰極を含む積層構造を有する発光素子である。有機EL素子は、表示装置や照明装置等の各種用途において広く実用化されている。
【0003】
有機EL素子が備える有機発光層は、水分や酸素との接触により劣化しやすく、例えば長期間の駆動に伴い素子に浸入した水分によって部分的に発光しないエリア(以下「ダークスポット」ともいう)が形成されたり、水分や酸素との接触によって発光特性が低下したりすることが懸念される。そこで従来、有機EL素子に封止構造を設け、封止構造により有機発光層が水分や酸素に接触しないようにすることが行われている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。特許文献1及び特許文献2には、有機材料を含む硬化性組成物により硬化膜を形成することにより、当該硬化膜によって有機発光層を被覆する封止構造を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-26515号公報
【特許文献2】国際公開第2021/010226号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硬化性組成物により形成された封止構造を有機EL素子に設けた場合、封止構造中に残存する硬化性組成物の成分(例えば、未反応の重合性化合物や、溶剤等)やその分解物に起因して封止構造からアウトガスが発生しやすくなることがある。封止構造から発生したアウトガスは有機EL素子を劣化させるおそれがある。このため、有機EL素子では、封止構造からのアウトガスの発生を極力少なくすることが求められる。
【0006】
また、例えば、タッチパネル方式を採用した有機EL発光装置では基板上にタッチセンサが配置されるが、封止構造の誘電率が高い場合にはタッチパネルの使用時に誤動作が生じるといった不都合が生じることが懸念される。これらの観点から、有機EL素子に設けられる封止構造には、低誘電率でありながらアウトガスの発生が少ないことが求められる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、低誘電率であり、かつアウトガスの発生が少ない硬化膜を形成することができる硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の硬化性組成物、硬化膜、有機EL素子及びその製造方法、並びに化合物が提供される。
【0009】
〔1〕 重合性化合物と、重合開始剤とを含有し、前記重合性化合物は、オキセタン環を有し、オキセタン環を除いた部分に酸素原子を有さず、かつ分子量が100以上である化合物(A1)を含む、硬化性組成物。
〔2〕 〔1〕に記載の硬化性組成物を用いて形成された硬化膜。
〔3〕 〔2〕に記載の硬化膜により有機発光層が封止された有機EL素子。
〔4〕 有機発光層が形成された基材における発光層形成面に、〔1〕に記載の硬化性組成物を塗布する工程と、放射線を照射して前記硬化性組成物を硬化することにより封止構造を形成する工程と、を含む、有機EL素子の製造方法。
〔5〕 下記式(1)で表される化合物。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。nは1又2である。nが2の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性組成物によれば、低誘電率でありながら、アウトガスの発生が少ない硬化膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0012】
本明細書において「炭化水素基」は、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。なお、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有する環構造は、炭化水素構造からなる置換基を有していてもよい。「環状炭化水素」は、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素を含む意味である。
【0013】
《硬化性組成物》
本開示の硬化性組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、[A]重合性化合物と、[B]重合開始剤とを含有する。以下に、本組成物に含まれる各成分、及び必要に応じて配合されるその他の成分について説明する。なお、各成分については、特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
<[A]重合性化合物>
[A]重合性化合物としては、カチオン重合性を持つ官能基(以下、「カチオン重合性基」ともいう)を1個以上有する化合物を好ましく用いることができる。カチオン重合性基としては、オキセタニル基、オキシラニル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。これらのうち、[A]重合性化合物が有するカチオン重合性基は、重合性の観点から、オキセタニル基又はオキシラニル基が好ましい。なお、本明細書では「オキシラニル基」を「エポキシ基」ともいう。
【0015】
本組成物は、[A]重合性化合物として、オキセタン環を有し、オキセタン環を除いた部分に酸素原子を有さず、かつ分子量が100以上である化合物(以下、「化合物(A1)」ともいう)を含む。
【0016】
・化合物(A1)
化合物(A1)は、分子量100以上のオキセタン化合物である。化合物(A1)の分子量が100以上であることにより、本組成物により形成される硬化膜からのアウトガスの発生を十分に少なくすることができる。アウトガスの発生がより少ない硬化膜を得る観点から、化合物(A1)の分子量は、110以上が好ましく、120以上がより好ましく、130以上が更に好ましく、150以上がより更に好ましい。また、インクジェット塗布に適した粘度に調整しやすくする観点から、化合物(A1)の分子量は500以下が好ましく、450以下がより好ましく、400以下が更に好ましい。
【0017】
化合物(A1)において、オキセタン環を除いた部分は、酸素原子を有しない構造であればよく特に限定されない。本組成物により形成される硬化膜からのアウトガスの発生を十分に抑制する観点から、化合物(A1)におけるオキセタン環を除いた部分は、炭化水素構造からなることが好ましい。化合物(A1)において、オキセタン環を除いた部分が炭化水素構造からなる場合、化合物(A1)は、オキセタン環を除いた部分にヘテロ原子を有しない。
【0018】
化合物(A1)において、オキセタン環を除いた部分が炭化水素構造からなる場合、当該炭化水素構造は、鎖状炭化水素構造であってもよく、環状炭化水素構造であってもよい。化合物(A1)が鎖状炭化水素構造を有する場合、当該鎖状炭化水素構造は、直鎖状及び分岐状のいずれであってもよく、飽和及び不飽和のいずれであってもよい。また、化合物(A1)が環状炭化水素構造を有する場合、当該環状炭化水素構造は、脂環式炭化水素構造であってもよく、芳香族炭化水素構造であってもよい。化合物(A1)のうち、オキセタン環を除いた部分が炭化水素構造からなる化合物としては、オキセタン環に対し1個以上の1価の炭化水素基が結合した構造からなる化合物、m個以上(mは2以上の整数)のオキセタン環をm価の炭化水素基で連結してなる化合物、又はこれらの構造を組み合わせた化合物等が挙げられる。
【0019】
オキセタン環に炭化水素基が結合している場合、オキセタン環に対する炭化水素基の結合位置は特に限定されない。オキセタン環の反応性が低下することを抑制する観点から、炭化水素基の結合位置は、オキセタン環の3-位が好ましい。
【0020】
化合物(A1)は、オキセタン環を1分子内に1個以上有する。化合物(A1)が有するオキセタン環は、光や熱の付与によってカチオン重合性基として作用する。化合物(A1)が有するオキセタン環の数は、本組成物の塗布性(より具体的には濡れ広がり性)をより良好にできる点や、本組成物の硬化時の反応性を調整しやすい点において、1~10個が好ましく、1~6個がより好ましく、1~4個が更に好ましく、1又は2個がより更に好ましい。
【0021】
化合物(A1)は、具体的には、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~5の1価の炭化水素基である。Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。nは1又2である。nが2の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。)
【0022】
上記式(1)において、Rで表される炭素数1~5の1価の炭化水素基は、化合物(A1)の反応性を高める観点から、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。化合物(A1)の反応性を考慮すると、Rは、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基がより好ましい。これらの中でも、反応性に優れ、かつ本組成物により得られる硬化膜のアウトガス発生をより低減できる点において、Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0023】
で表される炭素数1~20のn価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20のn価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20のn価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20のn価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0024】
上記鎖状炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のn価の飽和炭化水素基及び炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のn価の不飽和炭化水素基が挙げられる。これらのうち、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のn価の飽和炭化水素基が好ましい。
【0025】
上記脂環式炭化水素基としては、炭素数3~20の飽和脂環式炭化水素又は不飽和脂環式炭化水素(例えば、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等の単環式飽和脂環式炭化水素;シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環等の単環式不飽和脂環式炭化水素;デカヒドロナフタレン環、オクタヒドロナフタレン環、ノルボルナン環、ビシクロ[2.2.2]オクタン環、アダマンタン環、トリシクロ[5.2.1.02,5]デカン環、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカン環等の多環式飽和脂環式炭化水素;ノルボルネン環、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等の多環式不飽和脂環式炭化水素等)を含む脂環式炭化水素の環部分又は鎖状部分からn個の水素原子を除いた基が挙げられる。上記芳香族炭化水素基としては、単環又は縮合環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環)を含む芳香族炭化水素の環部分又は鎖状部分からn個の水素原子を取り除いた基が挙げられる。
【0026】
本組成物により得られる硬化膜の低誘電率化を図るとともに、本組成物の粘度を適度な範囲内にして濡れ広がり性を良好にする観点から、Rは、炭素数5~20の炭化水素基であることが好ましく、炭素数5~20の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基であることがより好ましく、炭素数5~20の直鎖状若しくは分岐状の飽和炭化水素基又は飽和脂環式炭化水素基であることが更に好ましい。また、得られる硬化膜の低誘電率化及び本組成物の粘度に加え、化合物(A1)の製造容易性の観点から、Rが鎖状炭化水素基である場合のRは、炭素数5~15の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基であることが好ましく、炭素数5~12の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基であることがより好ましい。
【0027】
nが1の場合、Rは、本組成物の粘度を適度な範囲内に調整しやすく、濡れ広がり性をより良好にできる点で、分岐状のアルキル基であることが好ましい。nが2の場合、化合物(A1)の製造容易性の点において、Rは直鎖状のアルカンジイル基であることが好ましい。
【0028】
化合物(A1)の具体例としては、上記式(1)中のnが1である化合物として、下記式(1a-1)~式(1a-21)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。また、上記式(1)中のnが2である化合物として、下記式(2a-1)~式(2a-3)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化3】
【0029】
【化4】
【0030】
化合物(A1)の合成方法は特に限定されず、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより製造することができる。例えば、本明細書の実施例に記載の方法により化合物(A1)を合成することができる。また、オキセタン環を有するアルコールをトシル化してトシレート体を得て、当該トシレート体と、別途調製したGrignard試薬とをCu化合物の共存下反応させることによって化合物(A1)を得ることもできる。
【0031】
本組成物において、化合物(A1)の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合性化合物の全量に対して、3~100質量%であることが好ましい。化合物(A1)の含有量が上記範囲である場合、本組成物を用いて得られる硬化膜の低誘電率化を図りつつ、アウトガスの発生量を十分に抑制することができる。こうした観点から、化合物(A1)の含有量は、[A]重合性化合物の全量に対して、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。また、[A]重合性化合物として化合物(A1)とは異なる化合物を配合して硬化性等を高める観点から、化合物(A1)の含有量は、[A]重合性化合物の全量に対して、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましく、85質量%以下がより更に好ましい。
【0032】
・その他の重合性化合物
本組成物は、[A]重合性化合物として化合物(A1)のみを含んでいてもよい。また、硬化性を調整する等の目的で、化合物(A1)と共に、化合物(A1)とは異なる化合物(以下、「その他の重合性化合物」ともいう)を更に含有させてもよい。その他の重合性化合物としては、多官能の重合性化合物(以下、「化合物(A2)」ともいう)を使用してもよく、単官能の重合性化合物(以下、「化合物(A3)」)を使用してもよい。その他の重合性化合物として単官能及び多官能のいずれを使用するか、あるいはこれらを組み合わせて使用するかは、使用する化合物(A1)の種類(例えば、単官能か多官能か)や、本組成物の粘度や硬化性等に応じて適宜選択することができる。
【0033】
・化合物(A2)
化合物(A2)としては、多官能エポキシ化合物、多官能オキセタン化合物、多官能ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0034】
多官能エポキシ化合物は、1分子当り2個以上のオキシラン環を有する化合物であればよい。多官能エポキシ化合物の具体例としては、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3',4'-エポキシ-6'-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン等といったエポキシ基含有低分子化合物;
商品名で「X-40-2678」、「X-40-2670」、「X-40-2720」(以上、信越化学工業社製)等といった、分子内に2個以上の脂環式エポキシ基(好ましくは、3,4-エポキシシクロヘキシル基)を有する化合物;
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールO型エポキシ樹脂、2,2'-ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アルキルポリオール型エポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、グリシジルエステル樹脂、ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂等といったエポキシ基含有樹脂;が挙げられる。
【0035】
多官能オキセタン化合物は、1分子当り2個以上のオキセタン環を有する化合物であればよい。多官能オキセタン化合物の具体例としては、3,7-ビス(3-オキセタニル)-5-オキサ-ノナン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,2-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、ビス[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、1,3-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)プロパン、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ブタン、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシメチル)ベンゼン、1,3-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシメチル)ベンゼン、1,2-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシメチル)ベンゼン、4,4'-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシメチル)ビフェニル、2,2'-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシメチル)ビフェニル、1,6-ビス((3-メチルオキセタン-3-イル)メトキシ)ヘキサン、1,6-ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)ヘキサン、3-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕プロピルトリアルコキシシランの加水分解縮合物、3-エチルオキセタン-3-イルメタノールとシランテトラオール重縮合物の縮合反応生成物等が挙げられる。
【0036】
多官能ビニルエーテル化合物は、1分子当り2個以上のビニルエーテル基を有する化合物であればよい。多官能ビニルエーテル化合物の具体例としては、アルカンジオールジビニルエーテル、シクロアルカンジオールジビニルエーテル、シクロアルカンジメタノールジビニルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル等の、ビニルエーテル基を複数有する化合物、これらのアルキレンオキシド変性又はカプロラクトン変性物等の化合物が挙げられる。
【0037】
得られる硬化膜の低誘電率化を図りつつ、優れた硬化性を示す硬化性組成物を得ることができる点において、化合物(A2)としては上記の中でも、オキセタン環を分子内に合計2個以上有するか又は脂環式エポキシ基を分子内に合計2個以上有する化合物を好ましく使用することができる。
【0038】
[A]重合性化合物として化合物(A2)を用いる場合、化合物(A2)の含有量は、[A]重合性化合物の全量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。また、化合物(A2)の含有量は、[A]重合性化合物の全量に対して、97質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましい。
【0039】
・化合物(A3)
化合物(A3)としては、単官能エポキシ化合物、単官能オキセタン化合物、単官能ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0040】
単官能エポキシ化合物は、1分子当り1個のオキシラン環を有する化合物であればよい。単官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば、シクロヘキセンオキサイド、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0041】
単官能オキセタン化合物は、1分子当り1個のオキセタン環を有する化合物であればよい。単官能オキセタン化合物の具体例としては、例えば、3-エチル-3-((2-エチルヘキシルオキシ)メチル)オキセタン、フェノキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-((3-(トリエトキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン、3-アリルオキシオキセタン、3-エチル-3-アリルオキシオキセタン、3-エチル-3-アクリロイルオキシメチルオキセタン、3-エチル-3-メタクリロキシメチルオキセタン、2-メチル-2-アリル-4-プロピルオキセタン、3-エチル-3-(4-アクリロイルオキシブチルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(3-アクリロイルオキシ-2,2-ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-メトキシオキセタン、フェニルオキセタン、3-エチル-3-クロロメチルオキセタン、3-エチル-3-オキセタンメタノール、3-アミノ-3-ジメチルオキセタン等が挙げられる。
【0042】
単官能ビニルエーテル化合物は、1分子当り1個のビニルエーテル基を有する化合物であればよい。単官能ビニルエーテル化合物の具体例としては、単官能ビニルエーテル化合物としては、例えば、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
単官能である化合物(A3)は、一般に粘度が低く、硬化性組成物の濡れ広がり性を向上させることが可能な一方で、アウトガスの原因になりやすい傾向がある。そのため、本組成物は、化合物(A3)を含有しないか、又は含有しても少ない量とすることが好ましい。具体的には、化合物(A3)の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合性化合物の全量に対して、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0044】
<[B]重合開始剤>
[B]重合開始剤は、熱又は光に感応してプロトン酸又はルイス酸を発生する物質であればよい。このような重合開始剤としては、熱カチオン重合開始剤あるいは光カチオン重合開始剤として公知のものの中から適宜選択して使用することができる。[B]重合開始剤は、素子の劣化を抑制する観点から、これらのうち光カチオン重合開始剤であることが好ましい。光カチオン重合開始剤としては、例えば、イオン性光酸発生型又は非イオン性光酸発生型の重合開始剤が挙げられる。
【0045】
イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては、例えば、オニウム塩化合物、ハロゲン含有化合物、スルホン化合物、スルホン酸化合物、スルホンイミド化合物、及びジアゾメタン化合物が挙げられる。オニウム塩化合物として具体的には、カチオン部分が、芳香族スルホニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族ジアゾニウム、芳香族アンモニウム又は(2,4-シクロペンタジエン-1-イル)[(1-メチルエチル)ベンゼン]-Feカチオンであり、アニオン部分が、BF 、PF 、SbF 、[BX(Xは、2個以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基である。)、又は[PRf ](Rfは、フッ素化アルキル基である。)により構成されたオニウム塩が挙げられる。
【0046】
[B]重合開始剤としては、上記のうちオニウム塩化合物を好ましく使用できる。中でも、[B]重合開始剤は、[PF(C2p+16-kで表されるアニオン部(式中、kは3~5の整数であり、pは1~3の整数である。)を有するオニウムフッ素化アルキルフルオロリン酸塩を含むことが好ましい。[PF(C2p+16-kで表されるアニオン部は、(C2p+1)が1以上でありフッ化炭素鎖を有することから、相対的に強い酸として働く。そのため、カチオン重合性能が高くなり、こうしたオニウム塩を用いることにより硬化性をより優れたものにすることができると考えられる。
【0047】
オニウムフッ素化アルキルフルオロリン酸塩のカチオン部は特に限定されない。当該カチオン部の具体例としては、例えば下記式(4)で表されるスルホニウムカチオンが挙げられる。
【化5】
(式(4)中、R11~R14は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルチオ基、炭素数1~6のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1~6のアルキルカルボニルチオ基又は炭素数1~6のアルコキシカルボニルオキシ基である。rは0又は1である。)
【0048】
上記式(4)において、R11~R14は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、メトキシ基、メチルチオ基、メチルカルボニルオキシ基、メチルカルボニルチオ基又はメトキシカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子がより好ましい。
【0049】
イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては市販品を用いることができる。例えば、上記式(4)で表されるカチオン部と、[PF(C2p+16-kで表されるアニオン部とからなる光カチオン重合開始剤の市販品としては、商品名で、「CPI-210S」、「CPI-410S」(以上、サンアプロ社製)等が挙げられる。また、芳香族スルホニウム塩の市販品として、商品名で、「ES-1B」、「ES-1S」(以上、サンアプロ社製)等が挙げられる。
【0050】
非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N-ヒドロキシイミドスルホナート、オキシムエステル系カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0051】
本組成物において、[B]重合開始剤の含有量は、本組成物中に含まれる[A]重合性化合物の合計量100質量部に対して、通常、0.1~10質量部である。[B]重合開始剤の含有量は、[A]重合性化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは3質量部以下である。[B]重合開始剤の含有量を上記範囲とすることにより、本組成物の硬化性を良好にでき、また透明性の高い硬化膜を得ることができる。
【0052】
<その他の成分>
本組成物は、上述した[A]重合性化合物及び[B]重合開始剤に加え、[A]重合性化合物及び[B]重合開始剤とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を更に含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、重合禁止剤、酸化防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0053】
・重合禁止剤/酸化防止剤
本組成物は、重合禁止剤及び酸化防止剤よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「[C]化合物」ともいう)を更に含有していてもよい。本組成物が更に[C]化合物を含有することにより、本組成物の保存安定性を向上させることができる。
【0054】
重合禁止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、トルキノン、2,5-ジアセトキシ-p-ベンゾキノン、2,5-ジカプロキシ-p-ベンゾキノン、2,5-アシロキシ-p-ベンゾキノン、2,5-ジ-tert-ブチル-3-メチルフェノール、p-tert-ブチルカテコール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、p-tert-ブチルカテコール、モノ-tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン、ジ-tert-ブチル・パラクレゾールヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、アルファナフトール、アセトアミジンアセテート、アセトアミジンサルフェート、フェニルヒドラジン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムオキザレート、ジ(トリメチルベンジルアンモニウム)オキザレート、トリメチルベンジルアンモニウムマレート、トリメチルベンジルアンモニウムタータレート、トリメチルベンジルアンモニウムグリコレート、フェニル-β-ナフチルアミン、パラベンジルアミノフェノール、ジ-β-ナフチルパラフェニレンジアミン、ジニトロベンゼン、トリニトロトルエン、ピクリン酸、シクロヘキサノンオキシム、ピロガロール、タンニン酸、レゾルシン、トリエチルアミン塩酸塩、ジメチルアニリン塩酸塩およびジブチルアミン塩酸塩等が挙げられる。
【0055】
本組成物に重合禁止剤を配合する場合、重合禁止剤の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合性化合物の全量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.01~5質量部であることがより好ましく、0.01~3質量部であることが更に好ましい。上記の範囲内とすることにより、不要な熱エネルギーによる粘度上昇や、ゲル化又は硬化反応が起こることを抑制しつつ、長期間の流通又は保管後においても本組成物の粘度を適度な範囲内に保持することができ、良好な濡れ広がり性(ひいてはインクジェット塗布性)を担保することができる。
【0056】
酸化防止剤は、硬化性組成物の酸化劣化を防止することによって本組成物の保存安定性を向上させるために使用される。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0057】
これらの具体例としては、フェノール系酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-エチルフェノール及びステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール類;2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)および3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のビスフェノール類;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン及びトコフェロール等の高分子型フェノール類;が挙げられる。
【0058】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート及びジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、ジフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)ホスファイト及びビス[2-tert-ブチル-6-メチル-4-{2-(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイト等のホスファイト類;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド及び10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド等のオキサホスファフェナントレンオキサイド類;が挙げられる。
【0059】
酸化防止剤はそれぞれ単独で使用してもよいが、フェノール系/硫黄系又はフェノール系/リン系と組み合わせて使用することが特に好ましい。また、市販のフェノール系の酸化防止剤(例えば、BASF・ジャパン社製IRGANOX 1010(商品名))や市販のリン系酸化防止剤(例えば、BASF・ジャパン(株)製IRGAFOS 168(商品名))をそれぞれ単独で使用してもよいし、また、これらを混合して用いてもよい。
【0060】
本組成物に酸化防止剤を配合する場合、酸化防止剤の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合性化合物の全量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.01~5質量部であることがより好ましく、0.01~3質量部であることが更に好ましい。上記の範囲内とすることにより、不要な熱エネルギーによる粘度上昇や、ゲル化又は硬化反応が起こることを抑制しつつ、長期間の流通又は保管後においても本組成物の粘度を適度な範囲内に保持することができ、良好な濡れ広がり性(ひいてはインクジェット塗布性)を担保することができる。
【0061】
また、本組成物の保存安定性を高めるために、上述した[C]化合物の他に、特表2020-518952号公報に記載されたメチレンキノンや2-ジメチルアミノメタノール等の熱安定剤を本組成物に含有させてもよい。
【0062】
・界面活性剤
界面活性剤は、本組成物の塗布性(具体的には、濡れ広がり性や塗布ムラの低減)を更に改良するために使用することができる。界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0063】
界面活性剤の具体例としては、フッ素系界面活性剤として、以下商品名で、メガファックF-171、同F-172、同F-173、同F-251、同F-430、同F-554、同F-563(DIC社製);フロラードFC430、同FC431(住友スリーエム社製);アサヒガードAG710、サーフロンS-382、同SC-101、同SC-102、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC-106、同S-611(AGCセイミケミカル社製);ポリフローNo.75、同No.95(共栄社化学社製);FTX-218(ネオス社製);エフトップEF301、同EF303、同EF352(新秋田化成社製)等が挙げられる。
【0064】
シリコーン系界面活性剤としては、以下商品名で、SH200-100cs、SH28PA、SH30PA、SH89PA、SH190、SH8400、SH193、SZ6032、SF8428、DC57、DC190、PAINTAD19、FZ-2101、FZ-77、FZ-2118、L-7001、L-7002(東レ・ダウコーニング社製);オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業社製);BYK-300、同306、同310、同330、同335、同341、同344、同370、同340、同345(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0065】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンn-オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンn-ノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート等が挙げられる。
【0066】
本組成物中に界面活性剤を配合する場合、界面活性剤の含有量は、本組成物中に含まれる重合性化合物の合計量100質量部に対して、0.01~3質量部が好ましく、0.02~2質量部がより好ましく、0.1~1.0質量部が更に好ましい。
【0067】
その他の成分としては、上記のほか、例えば、増感剤、軟化剤、可塑剤、密着助剤、有機溶剤等が挙げられる。これらの成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各成分に応じて適宜選択される。
【0068】
本組成物に配合する各成分を溶解する等の目的で、有機溶剤を本組成物に配合してもよい。その一方で、加熱処理を行わずに硬化膜(特に、有機EL素子の有機発光層を保護する有機封止層)を形成することを可能にする観点からすると、有機溶剤の使用量を極力少なくすることが好ましい。具体的には、本組成物における有機溶剤の含有量は、0質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。ここで、本明細書において、「有機溶剤を実質的に含まない」とは、本組成物に含まれる有機溶剤の量が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることをいう。
【0069】
本組成物中に有機溶剤を配合する場合、使用される有機溶剤としては、本組成物に配合される各成分を溶解又は分散でき、かつ各成分と反応しない有機溶媒を好ましく使用できる。具体的には、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類、アミド類が挙げられる。
【0070】
これらの具体例としては、アルコール類として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチル-3-メトキシプロピオネート等が挙げられる。エーテル類としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。アミド類としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0071】
<硬化性組成物の調製>
本組成物は、[A]重合性化合物及び[B]重合開始剤、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を混合することにより調製することができる。本組成物中の[A]重合性化合物の含有量は、感度が良好な硬化性組成物とする観点や、封止効果の高い硬化膜を形成する観点から、本組成物の全量100質量部に対して、80質量部以上であることが好ましく、85質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることが更に好ましい。
【0072】
<硬化性組成物の粘度>
本組成物は、E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定される粘度が、1.0~40.0mPa・sの範囲であることが好ましい。本組成物の粘度が40.0mPa・s以下であると、インクジェット塗布により本組成物を基材上に塗布した際に濡れ広がり性が良好であり、ハジキ等による塗布ムラを抑制することができる。また、本組成物の粘度が1.0mPa・s以上であると、本組成物を基材上に塗布した際に膜厚を十分に確保することができ、封止効果を十分に発現する有機封止層を形成することができる。本組成物は、インクジェット塗布用の硬化性組成物として好適である。
【0073】
インクジェット塗布性に優れた硬化性組成物を得る観点から、本組成物の粘度は、35.0mPa・s以下であることがより好ましく、30.0mPa・s以下であることが更に好ましく、25.0mPa・s以下であることが特に好ましい。また、安定的にインクジェットによる吐出を行い、膜厚を十分に確保する観点から、本組成物の粘度は、2.0mPa・s以上であることがより好ましく、5.0mPa・s以上であることが更に好ましい。なお、本明細書において、硬化性組成物の粘度は、JIS K2283に準拠して測定された値である。
【0074】
<硬化性組成物により得られる硬化膜の誘電率>
本組成物を硬化することにより、誘電率が十分に低い硬化膜を得ることができる。具体的には、本組成物に対し、波長395nmのUV-LEDランプを使用して、照度1000mW/cmかつ積算光量3000mJ/cmの条件で紫外線を照射することにより得られる硬化膜の周波数100kHzにおける誘電率は、好ましくは2.8以下である。当該条件により得られる硬化膜の誘電率は、より好ましくは2.7以下であり、更に好ましくは2.6以下である。なお、硬化膜の誘電率の測定方法の詳細については、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0075】
《硬化膜及び有機EL素子》
本開示の硬化膜(以下、「本硬化膜」ともいう)は、上記のように調製された硬化性組成物により形成される。本組成物によれば、アウトガスが少なく、しかも誘電率が低い硬化膜を得ることができる。このような本組成物は、例えば、有機EL素子の封止構造、マイクロレンズ、反射防止膜、AR素子の同折格子等の各種材料として用いることができる。また、本組成物は、HID(Hole In a Display area)構造等のホールの穴埋め材や平坦化膜を形成するための材料として用いることもできる。また更に、本組成物によれば、水分透過性が低く、異物の侵入を防ぐことができ、曲げ耐性にも優れた硬化膜を形成できることから、フレキシブルディスプレイの折り曲げ部分や、表示部から外部へ延びる配線が設けられた曲げしろ部において配線を保護するコーティング層を形成するための材料としても使用できる。折り曲げ部のコーティング層としては、例えば、国際公開第2016/09925号に記載されたマイクロコーティング層(MICRO-COATING LAYER)が挙げられる。マイクロコーティング層の形成は、スリット塗布によって行うことも可能であるし、インクジェット塗布によって行うことも可能である。本組成物は、これらのいずれの塗布方法にも対応可能である点で有用である。本組成物は、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に対し薄膜封止(TFE:Thin Film Encapsulation)を行い、これにより封止構造を形成する封止構造形成用組成物、すなわち有機EL素子用封止剤として特に有用である。
【0076】
本硬化膜及び本硬化膜により有機発光層が封止された有機EL素子は、本組成物を用いて、以下の工程1及び工程2を含む方法により製造することができる。
(工程1)有機発光層が形成された基材における発光層形成面に本組成物を塗布する工程
(工程2)放射線を照射して本組成物を硬化することにより封止構造を形成する工程
以下、各工程について詳細に説明する。
【0077】
[工程1:塗布工程]
本工程では、有機発光層が形成された基材における発光層形成面に対し、本組成物を塗布することにより、本組成物からなる塗布膜を発光層形成面上に形成する。本組成物を塗布する基材には、有機発光層のほか、例えば陽極層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、陰極層等の各種層を備える積層体が形成されており、この積層体により有機EL素子が構成されている。本組成物を塗布する発光層形成面は無機膜(無機封止層)により被覆されていてもよい。当該無機膜を構成する無機材料としては、例えば、窒化ケイ素(SiNx)や酸化ケイ素(SiOx)等が挙げられる。この場合、有機発光層上には、封止構造として有機封止層と無機封止層とを含む薄膜封止層が形成される。
【0078】
本組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、スリットダイ塗布法、バー塗布法、インクジェット塗布法等が挙げられる。スループットと薄膜化の点から、これらのうち、インクジェット塗布法を好ましく適用することができる。本組成物は低粘度でありながら優れた硬化性を示し、塗布ムラの発生が抑制されているため、インクジェット塗布に好適に使用することができる。
【0079】
[工程2:硬化工程]
本工程では、上記工程1で形成した塗布膜に放射線を照射して塗布膜を硬化することにより硬化膜を得る。放射線としては、例えば、紫外線、遠紫外線、可視光線、X線、電子線等の荷電粒子線が挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましく、例えば波長350~400nmの紫外線を照射光として好ましく用いることができる。放射線の露光量としては、0.05~10J/mが好ましい。これにより、本組成物からなる有機封止層によって被覆された有機EL素子を得ることができる。硬化膜の厚みは、通常、0.5~15μmである。本組成物により形成された有機封止層は、無機膜によって更に被覆されてもよい。当該無機膜を構成する無機材料としては、例えば、窒化ケイ素(SiNx)や酸化ケイ素(SiOx)等が挙げられる。
【0080】
上述した工程1及び工程2を含む方法により製造された本開示の有機EL素子は、本組成物からなる有機封止層により有機発光層が封止されている。このため、本開示の有機EL素子では、有機発光層内に水分が浸入することを十分に抑制できることから、水分に起因する不都合、具体的にはダークスポットの発生や、輝度及び発光効率等の発光特性の低下を抑制することができる。また、本開示の有機EL素子では、有機封止層からのアウトガスの発生が少なく、更に有機封止層の誘電率が十分に低い。こうした本開示の有機EL素子は、例えば、有機EL照明装置や有機EL表示装置等として有用である。
【0081】
以上詳述した本開示によれば、次の手段が提供される。
〔手段1〕 重合性化合物と、重合開始剤とを含有し、前記重合性化合物は、オキセタン環を有し、オキセタン環を除いた部分に酸素原子を有さず、かつ分子量が100以上である化合物(A1)を含む、硬化性組成物。
〔手段2〕 前記化合物(A1)は、オキセタン環を除いた部分が炭化水素構造からなる、〔手段1〕に記載の硬化性組成物。
〔手段3〕 前記化合物(A1)は上記式(1)で表される、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の硬化性組成物。
〔手段4〕 上記式(1)中のRが水素原子である、〔手段3〕に記載の硬化性組成物。
〔手段5〕 前記化合物(A1)の含有量が、前記重合性化合物の全量に対して3質量%以上である、〔手段1〕~〔手段4〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔手段6〕 前記重合性化合物は、オキセタン環を分子内に合計2個以上有するか又は脂環式エポキシ基を分子内に合計2個以上有し、かつ前記化合物(A1)とは異なる化合物を更に含む、〔手段1〕~〔手段5〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔手段7〕 更に、重合禁止剤及び酸化防止剤よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔手段8〕 波長395nmのUV-LEDランプを使用して、照度1000mW/cmかつ積算光量3000mJ/cmの条件で前記硬化性組成物に対し紫外線を照射することにより得られる硬化膜の周波数100kHzにおける誘電率が2.8以下である、〔手段1〕~〔手段7〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔手段9〕 インクジェット塗布用である、〔手段1〕~〔手段8〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔手段10〕 有機EL素子の有機発光層を封止する封止構造形成用である、〔手段1〕~〔手段9〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔手段11〕 〔手段1〕~〔手段10〕のいずれかに記載の硬化性組成物を用いて形成された硬化膜。
〔手段12〕 〔手段11〕に記載の硬化膜により有機発光層が封止された有機EL素子。
〔手段13〕 有機発光層が形成された基材における発光層形成面に、〔手段1〕~〔手段10〕のいずれかに記載の硬化性組成物を塗布する工程と、放射線を照射して前記硬化性組成物を硬化することにより封止構造を形成する工程と、を含む、有機EL素子の製造方法。
〔手段14〕 インクジェット塗布により前記硬化性組成物を塗布する、〔手段13〕に記載の有機EL素子の製造方法。
〔手段15〕 上記式(1)で表される化合物。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0083】
1.化合物の合成
[合成例1]オキセタン1の合成
撹拌子を入れ、温度計、滴下ロートとジムロート冷却管を取り付けた500mLの四ツ口フラスコに、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液113g、エタノール50.9mLを加え、内温40~50℃にて撹拌しながらマロン酸ジエチル54.6gを40分かけて滴下し、窒素雰囲気下内温50℃にて30分撹拌した。次いで、同温度にて7-(ブロモメチル)ペンタデカン101gを10分かけて滴下後、還流条件下で3時間撹拌した。室温に冷却後、セライトろ過にて不溶物をろ過し、得られた溶液をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮し、エタノールを留去した。残渣に酢酸エチル約1000mL、イオン交換水800mLを加えて分液後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮した。得られた残渣を減圧乾燥することにより、化合物(1a)の粗生成物を129g得た。
【化6】
【0084】
撹拌子を入れ、温度計、滴下ロートとジムロート冷却管を取り付けて窒素置換した2L四ツ口フラスコに、水素化リチウムアルミニウム19.1g、無水テトラヒドロフラン(THF)192mLを加え、窒素雰囲気下内温10℃以下まで冷却した。次いで、化合物(1a)の粗生成物129gを無水THF1343mLに溶解した溶液を、反応が激しくならないよう20分以上かけて添加し、その後、還流条件下で1時間撹拌した。TLCにて反応の完結を確認後、内温10℃以下まで冷却して、撹拌羽とスリーワンモーターを備え付け、飽和硫酸ナトリウム水溶液を反応混合物が灰色から白色となるまで注意深く添加して過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解し、反応を停止させた。不溶物をセライトにてろ過して得られた溶液をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮し、THFを留去した。残渣を酢酸エチルに溶解し、1M-HCl、飽和NaHCO水溶液、イオン交換水で順次洗浄後、有機層をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムにより精製して化合物(1b)を59.5g得た。
【化7】
【0085】
撹拌羽とスリーワンモーター、温度計、滴下ロートを取り付けて窒素置換した2L四ツ口フラスコに、化合物(1b)を59.5g、無水THF168mLを加え窒素雰囲気下内温10℃以下まで冷却した。次いで、1.6Mブチルリチウムヘキサン溶液136mLを内温が10℃を超えないように90分かけて滴下し、更に室温で1時間撹拌した。その後、反応混合物を内温10℃以下まで冷却してトシルクロリド37.7gを無水THF567mLに溶解した溶液を15分かけて滴下し、室温で90分撹拌した。その後、反応混合物を内温10℃以下まで冷却し、1.6Mブチルリチウムヘキサン溶液136mLを内温が10℃を超えないように15分かけて滴下し、その後室温で終夜撹拌した。続いて、内温55℃にてさらに3時間撹拌後、メタノールを加えて反応を停止した。不溶物をセライトにてろ過して得られた溶液をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮しTHF及びヘキサンを留去した。残渣を酢酸エチルに溶解してイオン交換水で洗浄後、有機層をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムにより精製して下記式で表されるオキセタン1を37.7g得た。
【化8】
【0086】
[合成例2]オキセタン2の合成
合成例1において、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを2-エチルヘキシルブロミドに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン2を27.7g得た。
【化9】
【0087】
[合成例3]オキセタン3の合成
合成例1において、マロン酸ジエチルをメチルマロン酸ジエチルに、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを2-エチルヘキシルブロミドに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン3を36.9g得た。
【化10】
【0088】
[合成例4]オキセタン4の合成
合成例1において、マロン酸ジエチルをエチルマロン酸ジエチルに、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを2-エチルヘキシルブロミドに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン4を32.4g得た。
【化11】
【0089】
[合成例5]オキセタン5の合成
合成例1において、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを1-ブロモドデカンに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン5を37.6g得た。
【化12】
【0090】
[合成例6]オキセタン6の合成
合成例1において、マロン酸ジエチルをエチルマロン酸ジエチルに、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを1-ブロモ-3-エチルヘプタンに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン6を48.2g得た。
【化13】
【0091】
[合成例7]オキセタン7の合成
合成例1において、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを1,12-ジブロモドデカンに換え、マロン酸ジエチルを1,12-ジブロモドデカンに対し2モル当量、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液を1,12-ジブロモドデカンに対し2モル当量使用したこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン7を45.9g得た。
【化14】
【0092】
[合成例8]オキセタン8の合成
合成例1において、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを1,12-ジブロモドデカンに換え、マロン酸ジエチルをエチルマロン酸ジエチルに換えると共に1,12-ジブロモドデカンに対し2モル当量使用し、20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液を1,12-ジブロモドデカンに対し2モル当量使用したこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン8を40.7g得た。
【化15】
【0093】
[合成例9]オキセタン9の合成
合成例1において、マロン酸ジエチルをエチルマロン酸ジエチルに、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを1-ブロモノナンに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン9を36.9g得た。
【化16】
【0094】
[合成例10]オキセタン10の合成
合成例1において、マロン酸ジエチルをメチルマロン酸ジエチルに、7-(ブロモメチル)ペンタデカンを1-ブロモノナンに換えたこと以外は合成例1と同様にして、下記式で表されるオキセタン10を33.7g得た。
【化17】
【0095】
[合成例11]オキセタン11の合成
撹拌羽とスリーワンモーター、温度計、滴下ロートを取り付けて窒素置換した3Lの四ツ口フラスコに、トリフェニルホスフィン154g、アセトニトリル1600mLを加え、内温40℃以下にて撹拌しながら、臭素89.6gをアセトニトリル167mLで希釈した溶液を45分かけて滴下し、窒素雰囲気下、室温にて1.5時間撹拌した。次いで、同温度にて、トリシクロ[5.2.1.02,5]デカンジメタノール50.0gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)50mLに溶解した溶液を内温40℃以下にて40分かけて滴下後、室温下で12時間撹拌した。その後、反応溶液を10℃以下に冷却して、イオン交換水300mL、パーブチルD 15.0gを順次加えた後、室温で30分撹拌した。得られた溶液をヘプタンで2回抽出して合わせた有機層に1%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加え、飽和NaHCO水溶液、メタノールと水3:1(体積比)の混合溶媒で順次洗浄後、イオン交換水で3回洗浄した。有機層をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムで精製して、化合物(2a)の粗生成物を異性体混合物として66.7g得た。
【化18】
【0096】
撹拌子を入れ、温度計とジムロート冷却管を取り付けて窒素置換した2L四ツ口フラスコに、化合物(2a)66.5g、トリフェニルホスフィン108g、DMF500mLを加え、窒素雰囲気下内温130℃で15時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却後、トルエンに滴下して析出した固体を回収して減圧乾燥し、化合物(2b)を異性体混合物として163g得た。
【化19】
【0097】
撹拌羽とスリーワンモーター、温度計を取り付けた3L四ツ口フラスコに、3-エチル-3-オキセタンメタノール118g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル1.58g、ジクロロメタン2Lを加え、内温10℃以下まで冷却した。次いで、次亜塩素酸ナトリウム5水和物200gを内温が10℃を超えないように分割添加し、更に同温度で3時間撹拌した。その後、反応混合物をイオン交換水2L中に投入して撹拌後、有機層を分離し、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、2%水酸化ナトリウム水溶液、イオン交換水で順次洗浄した。有機層をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮し、化合物(2c)の粗生成物を101g得た。
【化20】
【0098】
撹拌子を入れ、温度計、滴下ロートを取り付けて窒素置換した2L四ツ口フラスコに、化合物(2b)160g、カリウム-t-ブトキシド53.0g、脱水THF 1Lを加え、窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。次いで、反応溶液を10℃以下まで冷却し、化合物(2c)の粗生成物43.2gを脱水THF 100mLに溶解した溶液を内温が10℃を超えないように40分かけて滴下後、室温にて4時間撹拌した。その後、イオン交換水500mLを加えて不溶物をろ過し、得られた溶液をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮し、大部分のTHFを留去した。残渣をジイソプロピルエーテルで2回抽出後、イオン交換水で洗浄し、ロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムで精製して、化合物(2d)を異性体混合物として45.3g得た。
【化21】
【0099】
1Lオートクレーブに、5%のパラジウムを含有する活性炭4.50g、化合物(2d)45.0g、酢酸エチル500mLを順次加えて反応系内を水素置換した後、水素初圧を1.0MPaとして室温にて3時間激しく撹拌した。その後、反応溶液をセライトを敷いたガラスフィルターで吸引ろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターにて減圧下濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムで精製して、下記式で表されるオキセタン11を異性体混合物として44.1g得た。
【化22】
【0100】
2.硬化性組成物の調製
硬化性組成物の調製に用いた成分は以下のとおりである。
〈重合性化合物〉
・化合物(A1)
オキセタン1~オキセタン11:合成例1~11により得られたオキセタン化合物
・化合物(A2)
A2-1:OXT-221:3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン)(東亞合成社製「OXT-221」)
A2-2:脂環式エポキシ基含有シリコーンオリゴマー(信越シリコーン社製「X-40-2678」)
A2-3:韓国公開特許第2022-0160362号公報の[0106]に記載の式(5)の化合物
・化合物(A3)
A3-1:3-エチル-3-〔(2-エチルヘキシルオキシ)メチル〕オキセタン(東亞合成社製「OXT-212」、下記式(A3-1)で表される化合物)
【化23】
A3-2:3-アリルオキシメチル-3-エチルオキセタン(四日市合成社製)
A3-3:ラウリルグリシジルエーテル(四日市合成社製「エポゴーセLA(D)」)
A3-4:1,2-エポキシテトラデカン(四日市合成社製)
〈重合開始剤〉
B-1:光カチオン重合開始剤(サンアプロ社製「CPI-410S」)
〈[C]化合物〉
C-1:2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン
〈界面活性剤〉
D-1:含フッ素ノニオン系界面活性剤(DIC社製「F554」)
【0101】
[実施例1]
大気環境下で、化合物(A2-1)を45質量部、化合物(A2-2)を20質量部、オキセタン1を35質量部、重合開始剤(B-1)を1質量部、化合物(C-1)を0.1質量部、及び界面活性剤(D-1)を1質量部を混合して硬化性組成物を調製した。
[実施例2~21及び比較例1~6]
重合性化合物の種類及び量を下記表1~3に記載のとおり変更した以外は実施例1と同様にして硬化性組成物を調製した。
【0102】
3.評価
実施例1~21及び比較例1~6の硬化性組成物について、以下に説明する手法により下記項目の評価を行った。評価結果を表1~3に示す。なお、表2中、「-」は評価しなかったことを表す。
【0103】
<IJ塗布ムラの評価>
ガラス基板上にSiNxを膜厚100nmで成膜した評価基板に対して、50μm×50μmピッチで、ピエゾ方式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから硬化性組成物のインクジェット吐出を行い、10cm角の塗布膜を作製した。更に5分後に、395nmLEDランプを用いて、照度1000mW/cm、積算光量3000mJ/cmを照射し、塗布膜を硬化させた。その際、硬化膜の膜厚が8μmとなるようにインクジェットヘッドの電圧条件を変化させ、吐出されるインクドット1滴の量を調整した。得られた膜厚8μmの硬化膜について、以下の基準で評価を行った。
○ :目視にて塗布ムラが観察されない。
△ :目視にて部分的な膜厚変化による塗布ムラが観察される。
× :目視にて未塗布箇所が観察される。
【0104】
<硬化性の評価>
硬化性組成物をガラス基板上に塗布することで塗布膜を形成し、塗布膜に対し395nmLEDランプによる光照射を行い、露光量を変化させながらタックが無くなるまでの硬化性を評価した。
○:1J/mの光照射でタック無し
×:1J/mの光照射でタック有り
【0105】
<硬化膜の誘電率>
無アルカリガラス上にITOを30nmの厚みで蒸着した基板に、硬化後の厚みが8μmとなるようにスピンコーターを用いて硬化性組成物を塗布した。次に、LED UVランプを用いて395nmの紫外線を照度1000mW/cm、積算光量3000mJ/cm照射して硬化性組成物を硬化させた。LED UVランプとしては、UniJet E110Z HD(Type U395A-455,ウシオ電機社製)を用いた。その後、硬化膜の表面にアルミを50nmの厚みで蒸着し、誘電率測定用試験片を作製した。得られた試験片について、誘電率測定装置を用いて、25℃、100KHzの条件で誘電率を測定した。誘電率測定装置としては、4284A型LCRメーター(HEWLETT PACKARD社製)を用いた。
【0106】
<アウトガス>
硬化性組成物の硬化膜を加熱したときに発生するアウトガス量をヘッドスペース法によるガスクロマトグラフにより測定した。測定は以下の手順で行った。まず、硬化性組成物をスピンコーターにて8μmの厚さに塗布した。次いで、LEDランプにて波長395nmの紫外線を照度1000mW/cm、積算光量3000mJ/cmの条件で照射して硬化させた後、ヘッドスペース用バイアルに硬化膜を入れてバイアルを封止し、110℃で30分間加熱して、ヘッドスペース法により発生ガスを測定した。
◎ :発生したガスが300ppm未満
○ :発生したガスが300ppm以上500ppm未満
△ :発生したガスが500ppm以上800ppm未満
× :発生したガスが800ppm以上
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
表1~3に示すように、重合性化合物として化合物(A1)を含む実施例1~21の硬化性組成物を用いて形成された硬化膜は、アウトガスの発生量が少なく、誘電率も低かった。さらに、実施例1~21の硬化性組成物はインクジェット塗布性及び硬化性も優れていた。
【0111】
これに対し、化合物(A1)に代えて化合物(A3)を用いた比較例1~6のうち、比較例1~5の硬化性組成物を用いて形成した硬化膜は、誘電率は低かったものの、アウトガスの発生量が多かった。また、比較例2,3の硬化性組成物は、インクジェット塗布性についても実施例1~21より劣っていた。比較例6の硬化性組成物は硬化性が十分でなく、硬化膜のアウトガス及び誘電率についての評価を行うことができなかった。
【0112】
以上の結果から、オキセタン環を有し、オキセタン環を除いた部分に酸素原子を有さず、かつ分子量が100以上である化合物(A1)を含む硬化性組成物によれば、低誘電率でありながら、アウトガスの発生が少ない硬化膜を得ることができることが明らかとなった。