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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082321
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】SASP因子抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/074 20060101AFI20240613BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240613BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20240613BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/346 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/68 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/734 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 36/815 20060101ALI20240613BHJP
   A61K 35/57 20150101ALI20240613BHJP
【FI】
A61K36/074
C12N5/071 ZNA
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P17/00
A61P7/00
A61P37/00
A61P31/00
A61Q19/00
A61K8/9728
A61P43/00 121
A61K36/484
A61K36/346
A61K36/9068
A61K36/54
A61K36/68
A61K36/258
A61K36/734
A61K36/752
A61K36/815
A61K35/57
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196086
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 将大
(72)【発明者】
【氏名】大形 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】眞田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB26
4B065BC11
4B065BD16
4B065CA44
4B065CA50
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA071
4C083AA072
4C083AA111
4C083AA112
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C083FF04
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB33
4C087CA03
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA05
4C087ZA02
4C087ZA51
4C087ZA89
4C087ZC75
4C088AA06
4C088AB18
4C088AB22
4C088AB30
4C088AB33
4C088AB48
4C088AB51
4C088AB60
4C088AB62
4C088AB81
4C088AC01
4C088AC04
4C088AC06
4C088AC11
4C088AC18
4C088BA04
4C088BA09
4C088CA03
4C088CA05
4C088CA10
4C088MA07
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA51
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】細胞機能を低下させる原因となる細胞老化関連分泌現象(SASP)因子の発現を抑制する新規な物質を見出し、SASP因子抑制剤として提供すること。
【解決手段】(i)マンネンタケ胞子の抽出物、又は、(ii)マンネンタケ胞子の抽出物と、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンネンタケ胞子の抽出物を有効成分として含有する、細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤。
【請求項2】
(A)マンネンタケ胞子の抽出物と、(B)マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤。
【請求項3】
前記SASP因子が、GREM2、INHBA、IL-1α、及びCX3CL1から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のSASP因子抑制剤。
【請求項4】
マンネンタケ胞子の抽出物を有効成分として含有する、細胞保護剤。
【請求項5】
(A)マンネンタケ胞子の抽出物と、(B)マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、細胞保護剤。
【請求項6】
細胞を、請求項4又は5に記載の細胞保護剤を含有する培地で培養する工程を含む、細胞保護方法。
【請求項7】
以下の(i)又は(ii)を含む、細胞保護用キット。
(i)マンネンタケ胞子の抽出物
(ii)(A)マンネンタケ胞子の抽出物と、(B)マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、大きく分けて表皮・真皮・皮下組織の3層構造をとっている。皮膚のうち、最外層に存在する表皮は、主にケラチノサイト(表皮角化細胞)により構成される。ケラチノサイトは、表皮の最下層である基底層で分裂し、成熟するにしたがって上方の層へ移行し、角化してやがて剥がれ落ちる(角質化)。したがって、表皮は成熟段階の異なるケラチノサイトからなる複数の層(基底層、有棘層、顆粒層、角質層)により構成されている。表皮幹細胞は、基底層に存在し、必要に応じて増殖と分化を繰り返し、表皮に新しい細胞を常に供給し、その結果、皮膚は絶えず再生を繰り返している(非特許文献1)。より強固な表皮バリア機能を発揮するためには、幹細胞から最外層の角質層へと分化を導くことが必要である。
【0003】
真皮層には真皮線維芽細胞が存在しており、それらから合成されるコラーゲンは、肌の弾力を保つのに重要な成分として知られている。シワやタルミの原因として、炎症や老化によりコラーゲン量が低下することが挙げられることから、真皮線維芽細胞は、シワやタルミのない若々しい皮膚を保つのに必須な細胞といえる。この真皮線維芽細胞を生み出す真皮幹細胞は真皮乳頭層直下に存在しており、必要に応じて増殖と分化を繰り返し、真皮層に新しい真皮線維芽細胞を常に供給し、その結果、皮膚は絶えず再生を繰り返している(非特許文献2)。コラーゲンやエラスチンなどの真皮成分は線維芽細胞から積極的に産生されていることから、真皮幹細胞から成熟した線維芽細胞へ分化を導くことが必要である。
【0004】
血液は血球細胞や血漿から構成されており、酸素運搬、老廃物の除去、免疫機能などの生体の恒常性維持に重要な働きを有している。ところが、高齢者では、加齢によって血液中の血球細胞の減少や機能低下が起こるため、感染症に対する免疫力が低下し、貧血、好中球低下症、血小板低下症など様々な造血系疾患に罹患しやすく、QOLの低下を招くことが報告されている(非特許文献3-6)。このような血球細胞の減少や機能低下は、それらをつくる造血幹細胞の老化が原因の一つとして考えられている(非特許文献7)。造血幹細胞は骨髄においてわずかに存在し、すべての血球細胞に分化する多分化能と自己複製能を有する細胞で、個体の一生にわたり血球細胞を供給し続ける。よって、造血幹細胞を移植することで、血球細胞が全くない状態から、全血球細胞を再構築することが可能である。そのため、血液疾患や免疫不全症等の治療手段として、自己又は同種の造血幹細胞の移植が行われている。しかしながら、造血幹細胞は加齢とともに増殖能、分化能が低下することが報告されており(非特許文献8)、造血幹細胞を移植しても血球系の再構築ができないという事態もある。
【0005】
脳の海馬領域は、記憶・学習を司っており、特に海馬歯状回における神経幹細胞からの神経新生が重要な役割を担っている。神経幹細胞からの正常な神経新生が新しいことを記憶・学習する役割を担っている。もし、この神経新生に滞りが生じた場合は、物忘れや認知症などの脳の異常を引き起こす可能性がある。実際に神経新生は加齢により低下するという報告があり(非特許文献9)、加齢に伴い記憶や学習能力が落ちたと感じる人は増えている。以上のことから記憶や学習能力を改善するためには、神経幹細胞からの神経新生が重要であると考えられ、神経新生を制御することができれば、より効果的な記憶や学習の改善効果を発揮することができると考えられる。
【0006】
このように幹細胞の機能は組織の恒常性を維持する上で非常に重要である。一方、最近の研究から、細胞老化に伴って、炎症性サイトカインや増殖因子などの様々な因子が老化細胞から分泌され、周囲の組織を傷害する「細胞老化関連分泌現象(Senescence Associated Secretory Phenomenon:SASP)」と呼ばれる現象が起こることがわかってきた(非特許文献10)。さらに、このSASPによって幹細胞の機能が低下することや、SASP因子を阻害することによって機能低下した幹細胞が回復することも報告されている。例えば、SASP因子であるCX3CL1、IL-1α、IL-1β等の炎症性サイトカインの神経幹細胞における発現を抑制することによって、神経新生の低下が回復されたことが報告されている(特許文献1)。すなわちSASP因子を抑制することは、SASPによる幹細胞の機能低下を防ぐことにつながり、医学、医薬品、医薬部外品、美容、健康分野への応用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-063229号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Laura Alonso et al., Stem cells of the skin epithelium. Proc Natl Acad Sci USA, 2003; 30;100 Suppl 1(Suppl 1):11830-5.
【非特許文献2】Hasebe Y. et al., Localization of collagen type 5 in the papillary dermis and its role in maintaining stem cell functions. J.Dermatol.Sci., 2018;89:205-207.
【非特許文献3】Gerald R., Disordered hematopoiesis and myelodysplasia in the elderly. J. Am. Geriatr. Soc. 2003;51(3 Suppl):S22-6.
【非特許文献4】Danielle A. et al., Immunosenescence: emerging challenges for an ageing population. Immunology. 2007;120(4):435-46.
【非特許文献5】Shegufta M. et al., Aging of the Innate Immune System: An Update. Curr Immunol. Rev. 2011;7(1):104-115.
【非特許文献6】Sasan M. et al., Unexplained anemia in the elderly. Semin Hematol. 2008;45(4):250-4.
【非特許文献7】The ageing haematopoietic stem cell compartment. Nat. Rev. Immunol. 2013;13(5):376-89.
【非特許文献8】Sudo K. et al., Age-associated characteristics of murine hematopoietic stem cells. J. Exp. Med. 2000;192(9):1273-80
【非特許文献9】Juan M. Encinas et al.,Division-Coupled Astrocytic Differentiation and Age-Related Depletion of Neural Stem Cells in the Adult Hippocampus. Cell Stem Cell. 2011;8(5):566-579
【非特許文献10】Ohtani N et al., Roles and mechanisms of cellular senescence in regulation of tissue homeostasis. Cancer sci. 2013;104(5):525-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、細胞機能を低下させる原因となるSASP因子の発現を抑制する新規な物質を見出し、SASP因子抑制剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、マンネンタケ、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、クコの実の抽出物に、細胞におけるSASP因子の発現を抑制する効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)マンネンタケ胞子の抽出物を有効成分として含有する、細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤。
(2)(A)マンネンタケ胞子の抽出物と、(B)マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤。
(3)前記SASP因子が、GREM2、INHBA、IL-1α、及びCX3CL1から選択される1種又は2種以上である、(1)又は(2)に記載のSASP因子抑制剤。
(4)マンネンタケ胞子の抽出物を有効成分として含有する、細胞保護剤。
(5)(A)マンネンタケ胞子の抽出物と、(B)マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、細胞保護剤。
(6)細胞を、(4)又は(5)に記載の細胞保護剤を含有する培地で培養する工程を含む、細胞保護方法。
(7)以下の(i)又は(ii)を含む、細胞保護用キット。
(i)マンネンタケ胞子の抽出物
(ii)(A)マンネンタケ胞子の抽出物と、(B)マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤は、加齢や酸化ストレス等によって老化細胞から分泌され、周囲の組織を傷害するSASP因子を抑制することができる。よって、本発明のSASP因子抑制剤は、SASPに起因する細胞の機能低下を防ぐことが可能であり、アンチエイジングを目的とした化粧品や美容医療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤
本発明に係る細胞老化関連分泌現象(Senescence Associated Secretory Phenomenon:SASP)因子(以下、単に「SASP因子」と記載する)抑制剤は、(i)マンネンタケ胞子の抽出物、又は、(ii)マンネンタケ胞子の抽出物と、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する。ここで、SASP因子抑制とは、SASP因子の発現又は活性の抑制をいう。また、SASP因子の発現抑制には、SASP因子のmRNA発現及びタンパク質発現の抑制を包含するものとする。
【0014】
(SASP)
SASPとは、細胞老化を起こした細胞から、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞外マトリックス分解酵素やエラスターゼなどのプロテアーゼ類、増殖因子などの様々な生理活性因子が分泌される現象をいう。本発明においてSASP因子としては、老化細胞から分泌されるSASP因子であれば特に限定はされないが、例えば、GREM2、INHBA、IL-1α、CX3CL1、IL-1β、IL-8、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、MMP-1、MMP-2、PAI-2、MIF等が挙げられる。なかでも、GREM2、INHBA、IL-1α、CX3CL1が好ましい。
【0015】
上記のSASP因子のうち、GREM2(gremlin 2)は、Danファミリーに属する分泌糖タンパク質で、骨形成タンパク質(BMP)であるBMP2、BMP4、BMP7の拮抗物質として、TGFβシグナル伝達経路に作用し、器官形成、組織分化の制御に関与すると考えられている。INHBA(inhibin subunit beta A)は、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor-β:TGF-β)ファミリーに属するタンパク質で、アクチビンAシグナル伝達経路の制御によって、細胞の増殖や分化、アポトーシス誘導、免疫応答、炎症反応など多くの生理機能を調節する作用を有する。IL-1α(interleukin 1 alpha)は、炎症性サイトカインとして知られており、主に生体内の様々な炎症反応、炎症の病態形成に関与する。CX3CL1(Fractalkine)は、細胞遊走活性と細胞接着活性の2つの機能を併せもつケモカインである。
【0016】
IL-1β(interleukin 1 beta)、IL-8(C-X-C motif chemokine ligand 8,interleukin 8)、IFN-γ(interferon gamma)、TNF-α(tumor necrosis factor alpha)は、炎症性サイトカインとして知られており、主に生体内の様々な炎症反応、炎症の病態形成に関与する。GM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor)も炎症性サイトカインの1種であるが、骨髄幹細胞に働き、白血球分化を促す造血性のサイトカインとして知られており、顆粒球、マクロファージの前駆細胞に作用し、その増殖と分化を促進する。MMP-1(matrix metalloproteinase 1)は、マトリックスメタロプロテアーゼの一種で、I型、II型、III型コラーゲンのへリックス部位を特異的に切断し、組織破壊や組織再構築に関与する。MMP-2(matrix metalloproteinase 2)は、MMP-1と同様に、マトリックスメタロプロテアーゼの一種で、細胞外マトリックスの構成成分であるゼラチン、IV、V、VII、X、XI型コラーゲンやフィブロネクチン、エラスチンの分解活性を有し、組織破壊や癌の浸潤、転移に関与する。PAI-2(serpin family B member 2(SERPINB2),Plasminogen activator inhibitor-2)は、主に絨毛細胞から分泌され、分泌型のPAI-2はウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ(uPA)の阻害作用を有し、その発現細胞である絨毛細胞や単球等の組織線溶と細胞浸潤等に関与していると考えられている。MIF(macrophage migration inhibitory factor)は、活性化Tリンパ球より分泌される最初のリンフォカインとして報告され、TNF-α、IL-1βなどの炎症性サイトカインの産生を促し、炎症及び免疫応答を惹起する機能を有する。
【0017】
(マンネンタケ)
マンネンタケは、マンネンタケ科(Ganodermataceae)マンネンタケ属(Ganoderma)に属する担子菌で、生薬「霊芝」に用いられる。霊芝は、中国の薬学古書である「本草綱目」や「神農本草経」によると、赤霊芝(赤芝)、黒霊芝(黒芝)、紫霊芝(紫芝)、青霊芝(青芝)、黄霊芝(黄芝)及び白霊芝(白芝)が存在すると記載されている。また、赤霊芝の一種として、鹿角霊芝も知られている。
【0018】
本発明において抽出原料として使用するマンネンタケの部位は、胞子又は子実体が好ましい。また、それらの培養物であってもよい。さらに、胞子又は子実体を乾燥や粉砕したものを用いることができ、あるいは、生のまま用いることもできる。
【0019】
本発明に用いられる「マンネンタケ胞子」は、上記マンネンタケ科マンネンタケ属の霊芝の胞子であれば特に限定はされず、例えば、赤霊芝、黒霊芝、紫霊芝、青霊芝、黄霊芝、白霊芝の胞子が挙げられるが、赤霊芝(Ganoderma lucidum)、黒霊芝(Ganoderma sinense、Ganoderma japonicum、Ganoderma atrum)の胞子がより好ましい。
【0020】
マンネンタケ胞子は、霊芝が成熟する頃に菌傘に現れる褐色の粉末状の物質である。本発明において、マンネンタケ胞子には、胞子及び複数個の胞子が内生した胞子のうを包含するものとする。マンネンタケ胞子の抽出には、回収したマンネンタケ胞子をそのまま用いてもよいが、胞子の細胞壁を物理的な力によって崩壊させるための破壁処理を行うことが好ましい。破壁の処理方法は、特に限定されないが、例えば、微粒化処理、ロールプレス処理、磨砕処理、超高圧マイクロスチーム処理、及び通常工業的に用いられるその他の機械的方法で行うことができる。破壁胞子を用いる場合は、上記のいずれかの方法で得たものでもよいし、市販品を利用することもできる。
【0021】
また、本発明に用いられる「マンネンタケ子実体」は、上記マンネンタケ科マンネンタケ属の霊芝の子実体であれば特に限定はされず、例えば、赤霊芝、黒霊芝、紫霊芝、青霊芝、黄霊芝、白霊芝の子実体が挙げられるが、赤霊芝(Ganoderma lucidum)、黒霊芝(Ganoderma sinense、Ganoderma japonicum、Ganoderma atrum)の子実体がより好ましい。
【0022】
(カンゾウ)
「カンゾウ」(和名:甘草、学名:GLYCYRRHIZAE RADIX)は、マメ科(Fabaceae)の多年草であるカンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)の根又は走出茎(ストロン)、ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)であり、生薬(日本薬局方)では主に鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)、去痰薬として用いられている。カンゾウとしては、ウラルカンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)、スペインカンゾウ(学名:Glycyrrhiza glabra)、シナカンゾウ(学名:Glycyrrhiza echinata)等が挙げられ、その同属又は近縁植物でもよい。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「カンゾウ(甘草)」として用いられる、カンゾウの根又は走出茎(ストロン)が好ましい。なお、カンゾウは生薬名(日本薬局方)であると同時に植物名である。
【0023】
(キキョウ)
「キキョウ」(和名:桔梗、学名:PLATYCODI RADIX)は、キキョウ科(Campanulaceae)の多年草であるキキョウ(学名:Platycodon grandiflorus A.De Candolle)の根であり、キキョウの乾燥したもの(生干桔梗)と、コルク皮を除き乾燥したもの(晒桔梗)がある。生薬(日本薬局方)では主に去痰薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「キキョウ(桔梗)」として用いられる、キキョウの根(生干桔梗)又はコルク皮を除いた根(晒桔梗)が好ましい。なお、キキョウは生薬名(日本薬局方)であると同時に植物名である。
【0024】
(ショウキョウ)
「ショウキョウ」(和名:生姜、学名:ZINGIBERIS RHIZOMA)は、ショウガ科(Zingiberaceae)の多年草であるショウガ(学名:Zingiber officinale Roscoe)の根茎で、ときに周皮を除いたものであり、生薬(日本薬局方)では主に健胃薬として用いられている。「ショウキョウ」はショウガの根茎を生のまま乾燥させたもの、「カンキョウ」はショウガの根茎を蒸して乾燥したものである。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「ショウキョウ(生姜)」として用いられている、ショウガの根茎が好ましい。
【0025】
(ニンジン)
「ニンジン」(和名:人参、学名:GINSENG RADIX)は、ウコギ科(Araliaceae)の多年草であるオタネニンジン(学名:Panax ginseng C.A.Meyer、別名:高麗人参、朝鮮人参、薬用人参)の細根を除いた根又はこれを軽く湯通ししたものであり、生薬(日本薬局方)では主に保健強壮薬や健胃薬に使用される。オタネニンジンは、その同属又は近縁植物でもよく、例えば、トチバニンジン(学名:Panax japonicus C.A.Mey)、サンシチニンジン(学名:Panax notoginseng)、セイヨウニンジン(学名:Panax quinquefolius)、シベリアニンジン(学名:Eleutherococcus senticosus)等が挙げられる。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「ニンジン(人参)」として用いられる、オタネニンジンの根が好ましい。
【0026】
(オオバコ)
「オオバコ」(和名:大葉子(オオバコ)、別名:車前草(シャゼンソウ)、学名:PLANTAGINIS HERBA)は、オオバコ科(Plantaginaceae)の多年草であるオオバコ(学名:Plantago asiatica Linne)の花期の全草であり、生薬(日本薬局方)では主に去痰薬として用いられている。オオバコとしては、日本在来種ではオオバコ(Plantago asiatica)、エゾオオバコ(Plantago camtschatica)、トウオオバコ(Plantago japonica)、ハラオオバコ(Plantago lanceolata)、その近縁の帰化種であるセイヨウオオバコ(Plantago major)、ツボミオオバコ(Plantago virginica)等が挙げられ、その同属又は近縁植物でもよい。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「シャゼンソウ(車前草)」として用いられる、オオバコの全草が好ましい。
【0027】
(ケイヒ)
「ケイヒ」(和名:桂皮、学名:CINNAMOMI CORTEX)は、クスノキ科(Lauraceae)のトンキンニッケイ(カシア)(学名:Cinnamomum cassia Blume)又はその他同属植物の樹皮、又は周皮の一部を除いたものであり、生薬(日本薬局方)では主に健胃薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「ケイヒ(桂皮)」として用いられる、ニッケイの樹皮が好ましい。
【0028】
(サンザシ)
「サンザシ」(和名:山査子、学名:CRATAEGI FRUCTUS)は、バラ科(Rosaceae)のサンザシ(Crataegus cuneata Siebold et Zuccarini)又はオオミサンザシ(Crataegus pinnatifida Bunge var.major N.E.Brown)の偽果をそのまま、または縦切り若しくは横切りしたものであり、生薬(日本薬局方)では主に消化吸収補助薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「サンザシ(山査子)」として用いられる、サンザシの果実(偽果)が好ましい。なお、サンザシは、生薬名(日本薬局方外生薬規定)であると同時に植物名である。
【0029】
(チンピ)
「チンピ」(和名:陳皮、学名:AURANTII NOBILIS PERICARPIUM)は、ミカン科(Rutaceae)の常緑低木であるウンシュウミカン(学名:Citrus unshiu Marcowicz又はCitrus reticulata Blanco)の成熟した果皮であり、生薬(日本薬局方)では主に健胃薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「チンピ(陳皮)」として用いられる、ウンシュウミカンの果皮が好ましい。
【0030】
(ツバメの巣)
ツバメの巣は、燕窩とも呼ばれ、アナツバメ(金絲燕)の唾液腺分泌物で作られた巣をいう。燕の巣は紀元前の古くから薬膳として用いられており、漢方では主に疲労回復、肺結核、吐血、慢性下痢に対して使用されており、機能性成分としてシアル酸や上皮細胞増殖因子(EGF)が知られている。
【0031】
(クコの実)
クコの実は、ナス科のクコ(和名:枸杞、学名:Lycium chinese)の成熟果実であり、生薬(日本薬局方)では主に滋養強壮剤として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「クコシ(枸杞子)」を用いることができる。
【0032】
(各生薬の抽出方法)
本発明において、マンネンタケ胞子の抽出方法は、水、エタノール水溶系、超臨界抽出、亜臨界抽出が好ましく、超臨界抽出、亜臨界抽出がより好ましく、超臨界抽出が最も好ましい。超臨界抽出とは、超臨界状態にある流体(超臨界流体)を接触させる方法をいい、安全かつ容易に脱溶剤することができる点で、超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)による抽出方法が好ましい。超臨界二酸化炭素とは、温度が31℃以上、圧力が7MPa以上の条件下で流体状態になった二酸化炭素をいい、本発明において、超臨界状態にはその近傍の状態も含むものとする。
【0033】
超臨界状態にある二酸化炭素による抽出条件として、温度は31~100℃が好ましく、31~80℃がより好ましく、31~60℃がさらに好ましく、また、圧力は7~100MPaが好ましく、7~50MPaが好ましく、7~30MPaがさらに好ましい。なかでも、温度が31~80℃で、かつ圧力が7~50MPaであることが特に好ましく、温度が31~60℃で、かつ圧力が7~30MPaであることが最も好ましい。抽出の際の超臨界二酸化炭素の供給量としては、例えば、マンネンタケ(乾燥物換算)1重量部に対して、5~500重量部が好ましく、10~100重量部がより好ましい。また、抽出時間としては、30分~24時間が好ましく、1~10時間がより好ましい。更に、共溶媒(エントレーナー)として有機溶媒を用いることもできる。共溶媒(エントレーナー)としては、エタノール、アセトン等が挙げられる。中でも、安全性の面からエタノールが好ましい。
【0034】
超臨界状態にある二酸化炭素による抽出は、例えば、上記抽出条件の二酸化炭素を連続的に吹き込むことにより行うことができる。次いで、マンネンタケ胞子の抽出物を含有する二酸化炭素流体を分離槽に導き、常用されている方法、例えば、圧力を下げる方法、温度を変化させる方法等で分離する。この際、分離槽には抽出された溶質を吸着できる吸着剤や、溶解や分散させることができる媒体(溶剤、基剤)等を充填しておくこともでき、抽出条件に応じた適当な分離手段を採用できる。分離された二酸化炭素は、液化槽に輸送して再利用することができる。また、マンネンタケ子実体についても、限定はされないが、超臨界状態にある流体(超臨界流体)を接触させる方法が好ましく、方法は上記の胞子の例と同様に行うことができる。
【0035】
また、本発明において、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の抽出には、上記の抽出原料をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0036】
抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であってもよいし、常温や冷温抽出方法であってもよい。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水若しくは熱水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水若しくは熱水、低級アルコール、液状多価アルコール等が好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いてもよい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0037】
抽出溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば抽出原料(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、対象生薬及び使用する溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。
【0038】
また、上記抽出処理後、必要に応じて酵素分解処理を行ってもよい。例えば、ツバメの巣の抽出物は、燕窩の水抽出物を、蛋白分解酵素、澱粉分解酵素、繊維素分解酵素、脂肪分解酵素等を用いて分解した燕窩の酵素分解物を用いることが好ましい。
【0039】
また、上記の各生薬の抽出物は、得られた溶液自体又は溶媒相自体をそのまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、得られた溶液自体又は溶媒相を、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、乾燥(濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等)等の処理、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭処理、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。
【0040】
本発明に係るSASP因子抑制剤は、上記のようにして得られたマンネンタケ胞子の抽出物を有効成分として含有してもよく、マンネンタケ胞子の抽出物と、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有してもよい。マンネンタケ胞子の抽出物と組み合わせて用いる生薬の抽出物は、マンネンタケ子実体の抽出物、カンゾウの抽出物、キキョウの抽出物、ショウキョウの抽出物、ニンジンの抽出物、オオバコの抽出物、ケイヒの抽出物、サンザシの抽出物、チンピの抽出物、ツバメの巣の抽出物、及びクコの実の抽出物のいずれか1種でもよいが、2種以上が好ましく、3種以上がより好ましく、全種が特に好ましい。2種以上を併用する場合、その組み合わせや混合比率は限定されない。
【0041】
マンネンタケ胞子の抽出物、又は、マンネンタケ胞子の抽出物とマンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実から選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物(以下、「生薬抽出物」という)は、生体レベル(生体内)でも又は培養レベル(生体外)でもSASP因子の抑制作用を有するので、ヒトを含む哺乳動物に対して投与することによって、細胞におけるSASP因子の発現を抑制するための薬剤として、またSASPによる細胞機能低下を抑制して細胞を保護するための薬剤として使用できる。ここで、細胞機能とは、細胞生存の維持に必要とされる機能をいい、細胞の増殖、分化、修復、代謝、細胞間の情報伝達等が含まれる。また、当該生薬抽出物は、培地に添加することによって、細胞機能を維持するための培地添加剤、研究用試薬、医療用試薬としても使用することができる。
【0042】
本発明におけるSASP因子の発現抑制の対象となる細胞は、SASP因子を細胞内に発現し、生体組織に存在する細胞であれば特に限定はされない。例えば骨髄、脳、頭頚部、鼻咽頭、骨、血液、皮膚、心臓、肺、乳房、食道、胃、膵臓、肝臓、結腸・直腸、小腸、脾臓、精巣、卵巣、甲状腺、膀胱、唾液腺、十二指腸、子宮内膜、胎盤、前立腺、胆のう、腎臓、リンパ節等の細胞が挙げられる。細胞の由来は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、サル等の哺乳類由来の細胞が好ましい。細胞は、生体内の細胞であっても、単離された細胞であってもよい。単離された細胞は、公知の手法によって維持及び培養をすることができる。
【0043】
本発明に係るSASP因子抑制剤は、有効成分である上記生薬抽出物が、SASP因子の抑制作用を有するので、SASPに起因する疾患又は病態を治療、改善、及び予防するのに有効である。
【0044】
かかる疾患又は病態としては、皮膚関連では、例えば、アトピー性皮膚炎、乾癬(紅斑、鱗屑、落屑を伴う)、肌荒れ、乾燥肌、敏感肌、角質肥厚、シミ、くすみ、毛穴のひらき、シワ、タルミ、ほうれい線(鼻唇溝)、マリオネットライン、ハリや弾力の低下、潤いやツヤの不足、ごわつき、くすみ、日光弾性線維症、強皮症、線維肉腫、色素性乾皮症、皮膚組織球腫、線状皮膚萎縮症(皮膚線条)、創傷、熱傷、褥瘡、瘢痕、母斑、肝斑などが挙げられる。
【0045】
神経系関連では、例えば、物忘れ、認知症、アルツハイマー病、脊髄損傷、脊髄小脳変性症、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発ニューロパチー、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、脳血管障害(脳梗塞、脳卒中、脳動脈瘤)、脳血管障害による運動障害、進行性核上性麻痺、振戦、てんかん、脳外傷、うつ病、不眠症、学習障害、不安障害(パニック障害、強迫性障害等)、統合失調症、発達障害、注意欠陥多動性障害などが挙げられる。
【0046】
造血系関連では、例えば、再生不良性貧血(汎血球減少症)、骨髄異形成症候群(MDS)、サラセミア、鉄芽球性貧血、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、赤芽球癆、先天性貧血(例えば鎌状赤血球血症)、発作性夜間色素尿症、二次性貧血(感染症、悪性腫瘍、慢性疾患、腎疾患、肝疾患、内分泌性疾患等に伴う貧血)、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患(真性多血症・本態性血小板血症・骨髄線維症等)、突発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、血小板無力症、自己免疫性溶血性貧血のほか、一般的な貧血状態(動悸、息切れ、眩暈、立ち眩み、異嗜症、易疲労感、倦怠感、食欲不振、悪心、頭痛、顔面蒼白、肌のクスミやクマ、耳鳴り、肩こり、口角炎等)、アレルギー性疾患(花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(鼻水、鼻づまり、くしゃみ)、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、食物アレルギー、蕁麻疹、膠原病、血清病、ウイルス性肝炎、接触性皮膚炎等)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病等)、自己免疫疾患(多発性硬化症、全身性エリマトーデス、慢性関節リウマチ、I型糖尿病、悪性貧血等)、感染症(インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ヘルペスウイルス、エイズウイルスによる感染症、腸管出血性大腸菌感染症等)などが挙げられる。
【0047】
本発明に係るSASP因子抑制剤における各生薬抽出物の含有量は、特に限定されないが、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、又は乾燥物)により、例えば、当該薬剤全量に対して、0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%であることがより好ましい。
【0048】
本発明のSASP因子抑制剤は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに、上記のSASPに起因する疾患又は病態の治療及び/又は予防を目的としSASP因子の抑制用の医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の各種組成物に配合して提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
【0049】
本発明の医薬品は、上記疾患又は病態の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患又は病態の治療及び/又は予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0050】
本発明のSASP因子抑制剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0051】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0052】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0053】
医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。また、SASPに起因する疾患又は病態で、前記皮膚関連の疾患又は症状を治療、改善、又は予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0054】
本発明のSASP因子抑制剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、本発明のSASP因子抑制剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0055】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、ボディローション等が挙げられる。
【0056】
前記抽出物を上記の医薬品、医薬部外品、化粧品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0057】
また、本発明のSASP因子抑制剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0058】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0059】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0060】
2.細胞の保護方法
本発明はまた、細胞を、上記の生薬抽出物を含有する細胞保護剤を含有する培地で培養する工程を含む、細胞保護方法に関する。保護対象となる細胞は、SASPによって機能低下を受けうる生体細胞であれば特に限定されないが、幹細胞が好ましい。幹細胞としては、体性幹細胞(間葉系幹細胞、肺幹細胞、骨髄幹細胞、上皮幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、造血幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、毛包幹細胞、色素幹細胞等)、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。
【0061】
本発明に係る方法において、例えば幹細胞を培養する培地、また同時に用いる添加剤としては、特に限定はされず、幹細胞の分化・増殖のために一般的に使用されている培地及び添加剤を用いればよい。
【0062】
具体的には、幹細胞を培養する培地には、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbecco' s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank's balanced salt solution)等が用いられる。また、上記培地には、細胞の増殖速度を増大させるために、必要に応じて、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)等の増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント等を添加してもよく、また、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン等)等を添加してもよい。培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。
【0063】
また、上記以外には、1~20%の含有率で血清(例えば、10%FBS)が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0064】
上記の本発明に係る細胞保護剤あるいは本発明に係る方法に準じて、上記の生薬抽出物を、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、細胞機能を維持するための細胞保護用試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱い説明書等を含むことができる。あるいは、上記の生薬抽出物を培地と混合し、細胞の培養(増殖・分化)用培地として提供することもできる。
【0065】
幹細胞の培養に用いる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0066】
幹細胞培養に使用される培地に対する生薬抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る細胞保護剤における生薬抽出物の含有量に準じて適宜決定することができるが、生薬抽出物の乾燥物に換算して、例えば10~10000μg/mL、好ましくは100~5000μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、これらの抽出物を定期的に培地に添加してもよい。
【0067】
幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約36~37℃である。COガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【実施例0068】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
(製造例1)マンネンタケ胞子の超臨界抽出物の製造
内容積5Lの抽出槽にマンネンタケの胞子1kgを仕込み、これに超臨界二酸化炭素(温度60℃、圧力25MPa、二酸化炭素供給量15m)を約4.5時間供給し、抽出槽に接続した分離槽(温度40℃、圧力4MPa)に導いて炭酸ガスと抽出物を分離し、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物を15.9g得た。
【0070】
(製造例2)マンネンタケ子実体の超臨界抽出物の製造
内容積5Lの抽出槽にマンネンタケ子実体の粉砕物1kgを仕込み、これに超臨界二酸化炭素(温度60℃、圧力25MPa、二酸化炭素供給量15m)を約4.5時間供給し、抽出槽に接続した分離槽(温度40℃、圧力4MPa)に導いて炭酸ガスと抽出物を分離し、マンネンタケ子実体の超臨界抽出物を10.1g得た。
【0071】
(製造例3)キキョウの熱水抽出物の製造
キキョウの根の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してキキョウの熱水抽出物を5.1g得た。
【0072】
(製造例4)カンゾウの熱水抽出物の製造
カンゾウの根とストロンの乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウの熱水抽出物を4.7g得た。
【0073】
(製造例5)ショウキョウの熱水抽出物の製造
ショウガの根茎(ショウキョウ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してショウキョウの熱水抽出物を4.3g得た。
【0074】
(製造例6)ニンジンの熱水抽出物の製造
オタネニンジンの根(ニンジン)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してニンジンの熱水抽出物を6.7g得た。
【0075】
(製造例7)サンザシの熱水抽出物の製造
サンザシの偽実の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してサンザシの熱水抽出物を2.6g得た。
【0076】
(製造例8)ケイヒの熱水抽出物の製造
ニッケイの樹皮(ケイヒ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してケイヒの熱水抽出物を2.1g得た。
【0077】
(製造例9)オオバコの熱水抽出物の製造
オオバコの全草(シャゼンソウ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してオオバコの熱水抽出物を5.5g得た。
【0078】
(製造例10)チンピの熱水抽出物の製造
ウンシュウミカンの果皮(チンピ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してチンピの熱水抽出物を6.1g得た。
【0079】
(製造例11)ツバメの巣の抽出物の製造
アナツバメの巣100gを粉砕し、加水分解した後、濾過し、そのろ液を濃縮し、澱粉分解物を加え殺菌・乾燥してツバメの巣の抽出物を4.2g得た。
【0080】
(製造例12)クコの実の熱水抽出物の製造
クコシ(クコの成熟果実)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してクコの実の熱水抽出物を5.2g得た。
【0081】
[実施例2]
(実験例1)各抽出物の皮膚細胞に対するSASP因子抑制効果の評価
(1)表皮角化細胞に対するSASP因子抑制効果の評価
表皮由来細胞として市販の正常ヒト成人表皮角化細胞(クラボウ社製)を2×10個となるように96ウェルプレート(Falcon社製)にHumedia-KG2培地(クラボウ社製)にて播種した。24時間培養した後、過酸化水素の最終濃度が200μMになるように添加し、24時間培養することで細胞老化を誘導した。また併せて実施例1で製造した抽出物(製造例1~12)、及び当該抽出物の混合物の最終濃度が100μg/mLとなるように添加し、24時間培養した。混合物の場合は各抽出物の比率が同じになるように添加し、その総和が上記の濃度となるようにした。培養終了後、細胞をPFAで固定し、0.1%Triton-X-100(wako社製)/PBSを用いて透過処理を行ったのち、GREM2抗体(Gene Tex社製)、INHBA抗体(Bioss社製)及び蛍光標識2次抗体で処理し、免疫染色を行った。また、DAPI染色により個々の細胞の核を標識した。その後、蛍光顕微鏡及び画像解析ソフトウエア(ImageJ)を用いて、細胞あたりのGREM2又はINHBAの発現量(蛍光強度/細胞数)を算出した。抽出物未添加時の発現量をコントロールとし、コントロールを100(%)とした場合の相対発現量を解析した。
【0082】
(2)線維芽細胞に対するSASP因子抑制効果の評価
真皮由来細胞として市販のヒト皮膚線維芽細胞(東洋紡株式会社製)を2×10個となるように96ウェルプレート(Falcon社製)に10%FBS含有DMEM培地(ナカライ社製)にて播種した。24時間培養した後、過酸化水素の最終濃度が100μMになるように添加し、24時間培養することで細胞老化を誘導した。また併せて実施例1で製造した抽出物(製造例1~12)、及び当該抽出物の混合物の最終濃度が100 μg/mLとなるように添加し、24時間培養した。混合物の場合は各被験物質の比率が同じになるように添加し、その総和が上記の濃度となるようにした。培養終了後、細胞をPFAで固定し、0.1%Triton-X-100(wako社製)/PBSを用いて透過処理を行ったのち、GREM2抗体(Gene Tex社製)、INHBA抗体(Bioss社製)及び蛍光標識2次抗体で処理し、免疫染色を行った。また、DAPI染色により個々の細胞の核を標識した。その後、蛍光顕微鏡及び画像解析ソフトウエア(ImageJ)を用いて、細胞あたりのGREM2又はINHBAの発現量(蛍光強度/細胞数)を算出した。抽出物未添加時の発現量をコントロールとし、コントロールを100(%)とした場合の、相対発現量を解析した。
【0083】
上記(1)(2)の試験結果を以下の表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、マンネンタケ胞子、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の各抽出物に、いずれも皮膚細胞(表皮細胞、線維芽細胞)におけるSASP因子(GREM2又はINHBA)の発現抑制効果が認められた(製造例1~12)。また、マンネンタケ胞子の抽出物と他の生薬(マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、又はクコの実)の各抽出物との併用では、SASP因子(GREM2又はINHBA)の発現抑制効果について顕著な相乗効果が認められた。特に、マンネンタケ胞子の抽出物と、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の全種の生薬の抽出物との混合物のSASP因子の発現抑制効果は極めて顕著であった。なお、SASP因子として、IL-1α、CX3CL1、IL-1β、IL-8、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、MMP-1、MMP-2、PAI-2、及びMIFについても同様の結果が得られた。
【0086】
(実験例2)各抽出物の骨髄細胞に対するSASP因子抑制効果の評価
ヒト骨髄由来細胞(UE7T)を5×10個となるように24ウェルプレート(Falcon社製)に10%FBS含有DMEM培地(ナカライ社製)にて播種した。24時間培養した後、過酸化水素の最終濃度が500μMになるように添加し、72時間培養することで細胞老化を誘導した。また併せて実施例1で製造した抽出物(製造例1~12)、及び当該抽出物の混合物の最終濃度が100μg/mLになるように添加し、72時間培養した。混合物の場合は各抽出物の比率が同じになるように添加し、その総和が上記の濃度となるようにした。培養終了後、RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてRNAを単離抽出した。このRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、IL-1α及びINHBAの遺伝子発現量を解析した。なお、PCRは、95℃、2分の初期変性を行った後、下記のプライマーセットを用いて95℃、15秒、60℃、60秒を1サイクルとして40サイクル行った。その他の操作は、定められた方法にて実施した。
【0087】
(IL-1α用プライマーセット)
5'-ATTGTATGTGACTGCCCAAGATGA-3'(配列番号1)
5'-TGGGTATCTCAGGCATCTCCTT-3'(配列番号2)
(INHBAプライマーセット)
5'-AGGAGGGCAGAAATGTGAATGAAC-3'(配列番号3)
5'-GGGACTTTTAGGAAGAGCCAGAC-3'(配列番号4)
(GAPDH(内部標準)用プライマーセット)
5'-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3'(配列番号5)
5'-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3'(配列番号6)
【0088】
骨髄細胞に対するSASP因子抑制効果は、抽出物を添加していない細胞におけるIL-1α、INHBAのmRNAの発現量を、内部標準であるGAPDH遺伝子の発現量に対する割合として算出したIL-1α、INHBA遺伝子相対発現量(IL-1α、INHBA遺伝子発現量/GAPDH遺伝子の発現量)の値を100(コントロール)とし、これに対し、抽出物を添加して培養した細胞におけるIL-1α、INHBA遺伝子相対発現量を算出し、評価した。これらの試験結果を下記表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2に示すように、マンネンタケ胞子、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の各抽出物に、いずれも骨髄細胞におけるSASP因子(IL-1α及びINHBA)の発現抑制効果が認められた(製造例1~12)。また、マンネンタケ胞子の抽出物と他の生薬(マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、又はクコの実)の各抽出物との併用では、骨髄細胞におけるSASP因子(IL-1α及びINHBA)の発現抑制効果について顕著な相乗効果が認められた。特に、マンネンタケ胞子の抽出物と、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の全種の生薬の抽出物との混合物のSASP因子の発現抑制効果は極めて顕著であった。なお、SASP因子として、GREM2、CX3CL1、IL-1β、IL-8、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、MMP-1、MMP-2、PAI-2、及びMIFについても同様の結果が得られた。
【0091】
(実験例3)各抽出物の神経細胞に対するSASP因子抑制効果の評価
神経幹細胞としてStemProTM Neural Stem Cells(Thermo社製)を継代培養し、一定のスフェア(細胞塊)の大きさになるまで維持培養した後、poly-L-lysine(Trevigen社製)をコートしたディッシュ上に播種して神経新生の誘導を行った。継代培養と維持培養には、KnockOut D-MEM/F12(Thermo社製)に2%StemProTM Neural Supplement(Thermo社製)、1nM Biotin(SIGMA社製)、20ng/mL Human EGF(PEPRO TECH社製)、20ng/mL Human FGF(PEPRO TECH社製)、1%GlutaMAX-I(Thermo社製)、Heparin、アスコルビン酸を添加した培地を使用した。神経新生誘導には、Neurobasal Medium (Thermo社製)に2%B-27 Supplement(Thermo社製)、1%GlutaMAX-Iを添加した培地を使用した。この神経新生誘導培地にて培養を3日間行った後、過酸化水素の最終濃度が100μMになるように添加し、24時間培養することで細胞老化を誘導した。また併せて実施例1で製造した抽出物(製造例1~12)、及び当該抽出物の混合物の最終濃度が100μg/mLとなるように添加し、24時間培養した。混合物の場合は各被験物質の比率が同じになるように添加し、その総和が上記の濃度となるようにした。培養終了後、RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてRNAを単離抽出した。このRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、CX3CL1及びINHBAの遺伝子発現量を解析した。なお、PCRは、95℃、2分の初期変性を行った後、下記のプライマーセットを用いて95℃、15秒、60℃、60秒を1サイクルとして40サイクル行った。その他の操作は、定められた方法にて実施した。
【0092】
(CX3CL1用プライマーセット)
5'-GCATCATGCGGCCAAACG-3’(配列番号7)
5'-CGGGTCGGCACAGAACAG-3’(配列番号8)
(INHBAプライマーセット)
5'-AGGAGGGCAGAAATGTGAATGAAC-3'(配列番号3)
5'-GGGACTTTTAGGAAGAGCCAGAC-3'(配列番号4)
(GAPDH(内部標準)用プライマーセット)
5'-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3'(配列番号5)
5'-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3'(配列番号6)
【0093】
神経細胞に対するSASP因子抑制効果は、抽出物を添加していない細胞におけるCX3CL1、INHBAのmRNAの発現量を、内部標準であるGAPDH遺伝子の発現量に対する割合として算出したCX3CL1、INHBA遺伝子相対発現量(CX3CL1、INHBA遺伝子発現量/GAPDH遺伝子の発現量)の値を100(コントロール)とし、これに対し、抽出物を添加して培養した細胞におけるCX3CL1、INHBA遺伝子相対発現量を算出し、評価した。これらの試験結果を下記表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3に示すように、マンネンタケ胞子、マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の各抽出物に、いずれも神経細胞におけるSASP因子(CX3CL1、INHBA)の発現抑制効果が認められた(製造例1~12)。また、マンネンタケ胞子の抽出物と他の生薬(マンネンタケ子実体、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、又はクコの実)の各抽出物との併用では、神経細胞におけるSASP因子(CX3CL1、INHBA)の発現抑制効果について顕著な相乗効果が認められた。特に、マンネンタケ胞子の抽出物と、カンゾウ、キキョウ、ショウキョウ、ニンジン、オオバコ、ケイヒ、サンザシ、チンピ、ツバメの巣、及びクコの実の全種の生薬の抽出物との混合物のSASP因子の発現抑制効果は極めて顕著であった。なお、SASP因子として、GREM2、IL-1α、IL-1β、IL-8、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、MMP-1、MMP-2、PAI-2、及びMIFについても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の細胞老化関連分泌現象(SASP)因子抑制剤は、生体内で又は生体外で、老化細胞から分泌され、周囲の組織を傷害するSASP因子を抑制することができる。よって、本発明のSASP因子抑制剤は、SASPに起因する疾患や病態の治療、改善、及び予防するための化粧品や医薬品などの製造分野において利用できる。
【配列表】
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