IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ドリル 図1
  • 特開-ドリル 図2
  • 特開-ドリル 図3
  • 特開-ドリル 図4
  • 特開-ドリル 図5
  • 特開-ドリル 図6
  • 特開-ドリル 図7
  • 特開-ドリル 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082322
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/06 20060101AFI20240613BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B23B51/06 C
B23B51/00 S
B23B51/00 K
B23B51/00 L
B23B51/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196090
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晃
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037BB00
3C037DD01
3C037DD03
3C037DD05
3C037DD07
(57)【要約】
【課題】特にステップ送りの穴あけ加工において、切刃を効率よく冷却及び潤滑でき、切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出でき、穴あけ効率を向上でき、穴あけ精度を高めることができ、ドリルの折損を防止できるドリルを提供する。
【解決手段】ボディ3と、シャンク2と、ボディ3の先端面に開口するクーラント孔5と、を備え、ボディ3は、切屑排出溝4と、切刃7と、軸方向において切屑排出溝4とシャンク2との間に配置され、その直径寸法が切刃7の刃径寸法Dよりも小さい首部6と、を有し、切屑排出溝4の軸方向寸法L1は、刃径寸法Dの10倍よりも大きく、首部6の軸方向寸法L2は、刃径寸法Dの10倍よりも大きく、ボディ3には、軸方向においてボディ3の先端部から後端側へ向けた少なくとも刃径寸法Dの10倍までの範囲にバックテーパが付与され、首部6の直径寸法は、軸方向に沿って一定とされ、または後端側へ向かうに従い小さくなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って軸方向に延びるボディと、
前記ボディの後端部に接続されるシャンクと、
前記シャンク及び前記ボディの内部を延び、前記ボディの先端面に開口するクーラント孔と、を備え、
前記ボディは、
前記ボディの先端面及び外周面に開口し、前記先端面から後端側に延びる切屑排出溝と、
前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記先端面とが接続される稜線部に配置される切刃と、
軸方向において前記切屑排出溝と前記シャンクとの間に配置され、その直径寸法が前記切刃の刃径寸法よりも小さい首部と、を有し、
前記切屑排出溝の軸方向寸法は、前記刃径寸法の10倍よりも大きく、
前記首部の軸方向寸法は、前記刃径寸法の10倍よりも大きく、
前記ボディには、軸方向において前記ボディの先端部から後端側へ向けた少なくとも前記刃径寸法の10倍までの範囲に、バックテーパが付与されており、
前記首部の直径寸法は、軸方向に沿って一定とされ、または後端側へ向かうに従い小さくなる、
ドリル。
【請求項2】
前記ボディは、
前記ボディの外周面に配置され、前記切屑排出溝に沿って延びるマージンと、
前記ボディの外周面に配置され、前記マージンよりも径方向内側に窪み、前記切屑排出溝に沿って延びるクーラント流通溝と、を有し、
前記クーラント流通溝は、前記切屑排出溝よりも後端側へ延びている、
請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記クーラント流通溝は、前記首部の軸方向の中央部よりも後端側へ延びている、
請求項2に記載のドリル。
【請求項4】
前記クーラント流通溝は、前記首部の後端部まで延びている、
請求項2に記載のドリル。
【請求項5】
前記クーラント流通溝のドリル回転方向とは反対側の端部は、前記クーラント流通溝のドリル回転方向とは反対側に隣り合って配置される前記切屑排出溝と繋がる、
請求項2に記載のドリル。
【請求項6】
前記マージンの後端部の軸方向位置が、前記切屑排出溝の後端部の軸方向位置と同じである、
請求項2に記載のドリル。
【請求項7】
前記切屑排出溝の軸方向寸法が、前記刃径寸法の15倍以上である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項8】
前記刃径寸法は、3mm未満である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項9】
前記ボディの軸方向寸法:前記刃径寸法の比の値が、25を超え105以下である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のドリルとして、例えば、特許文献1に記載の深穴加工用小径ドリルが知られている。この深穴加工用小径ドリルは、切刃及び溝(切屑排出溝)を有するドリル部と、シャンクと、ドリル部とシャンクの間に位置する首部と、を備える。
【0003】
この深穴加工用小径ドリルでは、被削材に対して前進と後退とを繰り返しながら段階的に加工穴を掘り進める、いわゆるステップ送りによる穴あけ加工(以下、ステップ加工と呼ぶ場合がある)が行われる。「ステップ送り(ステップ加工)」とは、ドリルで被削材に切り込む加工(送り)を、複数回に分けて行う穴あけ加工方法である。
【0004】
また、この深穴加工用小径ドリルでは、外部給油によって切刃にクーラントが供給される。具体的には、ドリルを加工穴から後退させて抜き出したときに、ドリルの外部から供給されるクーラントが切刃にかかり、冷却及び潤滑が行われる。また、このドリルでは、ドリル部(刃部)の後端に拡径部が設けられており、この拡径部によって切屑を先端側へ押し戻すようにしている。
すなわち、特許文献1では、ドリル全体を加工穴から抜き出すことで、切刃の冷却及び潤滑、ならびに切屑排出溝内の切屑除去が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4350161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種のステップ送りに用いられるドリルでは、下記のような点において改善の余地がある。すなわち、切刃を効率よく冷却及び潤滑すること、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出すること、穴あけ効率(切削効率)を向上すること、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を高めること、ドリルの折損を防止すること、などである。
【0007】
本発明は、特にステップ送りの穴あけ加工において、切刃を効率よく冷却及び潤滑することができ、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出することができ、穴あけ効率を向上でき、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を高めることができ、ドリルの折損を防止することができるドリルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
〔本発明の態様1〕
中心軸に沿って軸方向に延びるボディと、前記ボディの後端部に接続されるシャンクと、前記シャンク及び前記ボディの内部を延び、前記ボディの先端面に開口するクーラント孔と、を備え、前記ボディは、前記ボディの先端面及び外周面に開口し、前記先端面から後端側に延びる切屑排出溝と、前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記先端面とが接続される稜線部に配置される切刃と、軸方向において前記切屑排出溝と前記シャンクとの間に配置され、その直径寸法が前記切刃の刃径寸法よりも小さい首部と、を有し、前記切屑排出溝の軸方向寸法は、前記刃径寸法の10倍よりも大きく、前記首部の軸方向寸法は、前記刃径寸法の10倍よりも大きく、前記ボディには、軸方向において前記ボディの先端部から後端側へ向けた少なくとも前記刃径寸法の10倍までの範囲に、バックテーパが付与されており、前記首部の直径寸法は、軸方向に沿って一定とされ、または後端側へ向かうに従い小さくなる、ドリル。
【0010】
本発明のドリルでは、クーラント孔がボディの先端面に開口している。このため、ステップ送りによる穴あけ加工中においても、クーラント孔からクーラントを噴射し切刃に安定して供給することができる。ドリルを加工穴から抜き出すことなく、切刃を効率よく冷却及び潤滑することができる。また、加工穴内がクーラントによって湿潤状態とされるため、加工穴とドリルとの間で切屑の噛み込みが生じにくく、加工穴の加工面精度が良好に維持される。
【0011】
また、切屑排出溝の軸方向寸法が、切刃の刃径寸法(切刃の回転軌跡の直径寸法)の10倍よりも大きくされており、つまり切屑排出溝の溝長が大きく確保されている。これにより、切屑排出溝の内容積が大きくなるため、切屑排出溝に一時的に保持される切屑の保持量を増大させることができる。ステップ加工時の単位送り(送り一回)あたりの先端側への移動量(ストローク)を大きく設定することができて、穴あけ加工の効率(切削効率)が向上する。
【0012】
また、このように切屑排出溝の溝長が長くされていても、ボディの先端面から加工穴内にクーラントが供給されることで、切屑排出溝内の切屑は安定してドリル後端側へ向けて押し流される。例えば、切屑排出溝の溝長を超えるような深さの加工穴(深穴)をステップ加工する場合でも、クーラントによって切屑を切屑排出溝の後端側部分に寄せ集める作用が得られる。このため、切刃からの新たな切屑の生成が、切屑排出溝内の切屑によって阻害されるような不具合が抑えられる。したがって、ステップ回数(ドリルの軸方向への往復移動回数)を低減する効果が得られる。
【0013】
また、切屑排出溝内において後端側に押し流された切屑は、ステップ加工によりドリルが後退移動し、切屑排出溝の後端部(一部)が加工穴から外部に露出したときに、クーラント圧及び遠心力等によって、この後端部から加工穴の外部へと排出される。
したがって本発明では、ドリル全体を加工穴から抜き出すことなく、切屑排出溝内の切屑除去が行われる。このため、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら、効率よく切屑を排出することができる。切削を伴わない空転時間を減らすことができるため、穴あけ加工のサイクルタイムを短縮できる。
【0014】
より詳しくは、本発明においては、前述したようにドリル前進時の移動量については増大させつつ、ドリル後退時の移動量については低減することができる。したがって、穴あけ加工の効率を格別顕著に高めることが可能となる。
【0015】
また、首部の軸方向寸法が、切刃の刃径寸法の10倍よりも大きくされており、つまり首部の長さ(首長)が大きく確保されている。これにより、例えば刃径の小さな小径ドリルなどであっても、ドリルの剛性を確保することが可能となり、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を向上することができる。また、ドリルの剛性が高められることで、ドリルの折損を防止でき、工具寿命が延長される。
【0016】
また、ボディには、少なくとも、ボディの先端部から後端側へ向けた切刃の刃径寸法の10倍までの範囲にバックテーパが形成されており、かつ、首部の直径寸法は刃径寸法よりも小さく、軸方向に沿って一定または後端側へ向かうに従い小さくされている。すなわち、ボディのうち切刃よりも後端側に位置する部分と、加工穴との間に、クーラントが流通可能な隙間が設けられている。このため、ドリル後端側へ向かうクーラントの流れが妨げられるようなことがなく、クーラントによる切屑排出作用が安定する。さらに、加工穴の内周面にボディが接触して加工面精度に影響するようなことも防止される。
【0017】
以上より本発明によれば、特にステップ送りの穴あけ加工において、切刃を効率よく冷却及び潤滑することができ、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出することができ、穴あけ効率を向上でき、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を高めることができ、ドリルの折損を防止することができる。
【0018】
〔本発明の態様2〕
前記ボディは、前記ボディの外周面に配置され、前記切屑排出溝に沿って延びるマージンと、前記ボディの外周面に配置され、前記マージンよりも径方向内側に窪み、前記切屑排出溝に沿って延びるクーラント流通溝と、を有し、前記クーラント流通溝は、前記切屑排出溝よりも後端側へ延びている、態様1に記載のドリル。
【0019】
上記構成では、ボディの外周面にクーラント流通溝が設けられており、ボディの先端面から噴射されたクーラントの一部は、クーラント流通溝を通してドリル後端側へ流れる。クーラント流通溝内を流れるクーラントによって、切屑排出溝内における切屑の後端側への移動を促すことができる(アシストできる)。このため、ドリル後退時に、切屑排出溝の後端部(一部)が加工穴から外部に露出したときに、切屑排出溝内の切屑を加工穴の外部へと効率よく排出させることができる。また、細かな粒子状の切粉などは、クーラント流通溝を通して、加工穴の外部へと適宜流出させることができる。
【0020】
そして、クーラント流通溝が切屑排出溝よりも後端側へ延びていると、ステップ加工時(特にドリル前進時)に、切屑排出溝全体が加工穴内に進入した状態となっても、クーラント流通溝内でクーラントの流れが妨げられるようなことが抑制される。したがって、クーラント流通溝内を流れるクーラントによって、切屑排出溝内の切屑を後端側へ押し流す作用(アシスト作用)がより安定して得られる。
【0021】
〔本発明の態様3〕
前記クーラント流通溝は、前記首部の軸方向の中央部よりも後端側へ延びている、態様2に記載のドリル。
【0022】
〔本発明の態様4〕
前記クーラント流通溝は、前記首部の後端部まで延びている、態様2に記載のドリル。
【0023】
この場合、ステップ加工によって切屑排出溝全体が加工穴内により深く進入しても、上述したクーラント流通溝による作用効果が安定して奏功される。
【0024】
〔本発明の態様5〕
前記クーラント流通溝のドリル回転方向とは反対側の端部は、前記クーラント流通溝のドリル回転方向とは反対側に隣り合って配置される前記切屑排出溝と繋がる、態様2から4のいずれか1つに記載のドリル。
【0025】
この場合、クーラント流通溝のドリル回転方向とは反対側の端部が、切屑排出溝と連通する。このため、クーラント流通溝内を流れるクーラントによって、切屑排出溝内の切屑を後端側へ押し流すという上述の作用効果が、より顕著に得られる。
【0026】
〔本発明の態様6〕
前記マージンの後端部の軸方向位置が、前記切屑排出溝の後端部の軸方向位置と同じである、態様2から5のいずれか1つに記載のドリル。
【0027】
この場合、ステップ加工時において、切屑排出溝全体が加工穴内に進入した状態となっても、切屑排出溝の後端部にまで達するマージンによって、加工穴内でのドリルの切削姿勢が安定する。このため、加工穴の穴精度が良好に維持される。
【0028】
〔本発明の態様7〕
前記切屑排出溝の軸方向寸法が、前記刃径寸法の15倍以上である、態様1から6のいずれか1つに記載のドリル。
【0029】
この場合、切屑排出溝の溝長がより大きく確保されるため、上述した本発明の作用効果がより顕著となる。
【0030】
〔本発明の態様8〕
前記刃径寸法は、3mm未満である、態様1から7のいずれか1つに記載のドリル。
【0031】
本発明は、切刃の刃径寸法が3mm未満とされたいわゆる小径ドリルに適用した場合において、上述した作用効果がより格別なものとなる。
【0032】
〔本発明の態様9〕
前記ボディの軸方向寸法:前記刃径寸法の比の値が、25を超え105以下である、態様1から8のいずれか1つに記載のドリル。
【0033】
本発明は、上記比の値の数値範囲とされた、いわゆる深穴加工用ドリルに適用した場合において、上述した作用効果がより格別なものとなる。
具体的には、上記比の値が25よりも大きいため、ボディ全長が十分に長く確保され、深穴加工に適したドリルとすることができる。また、上記比の値が105以下であると、ボディの剛性を確保しつつ、例えば、被削材の加工穴の深さが刃径寸法の100倍程度に達するほど深くても、安定して穴あけ加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の前記態様のドリルによれば、特にステップ送りの穴あけ加工において、切刃を効率よく冷却及び潤滑することができ、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出することができ、穴あけ効率を向上でき、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を高めることができ、ドリルの折損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本実施形態のドリルを示す側面図である。
図2図2(a)は、図1のドリルを示す正面図であり、図2(b)は、図1のドリルの一部(先端部)を示す側面図である。
図3図3は、本実施形態の第1変形例のドリルを示す側面図である。
図4図4は、本実施形態の第2変形例のドリルを示す側面図である。
図5図5は、本実施形態の第3変形例のドリルを示す側面図である。
図6図6(a)は、図5のドリルを示す正面図であり、図6(b)は、図5のドリルの一部(先端部)を示す側面図である。
図7図7(a)は、本実施形態の第4変形例のドリルを示す正面図であり、図7(b)は、本実施形態の第4変形例のドリルの一部(先端部)を示す側面図である。
図8図8は、本実施形態の第5変形例のドリルを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一実施形態のドリル1Aについて、図1及び図2を参照して説明する。本実施形態のドリル1Aは、金属製等の被削材をステップ送りによって穴あけ加工する(ステップ加工する)のに適している。特に、このドリル1Aは、内径寸法の小さな深穴の加工穴をステップ加工するのに適している。
【0037】
図1に示すように、ドリル1Aは、中心軸Cを中心とする柱状または軸状である。ドリル1Aは、シャンク2と、ボディ3と、クーラント孔5と、を備える。なお、本実施形態及び後述する各変形例で説明に用いる各図においては、クーラント孔5の一部の図示を省略している場合がある。
シャンク2及びボディ3は、中心軸Cを共通軸として、互いに同軸に配置されている。また、シャンク2とボディ3とは、中心軸Cが延びる方向において、互いに異なる位置に配置されている。
【0038】
〔方向の定義〕
本実施形態では、ドリル1Aの中心軸Cが延びる方向を軸方向と呼ぶ。軸方向のうち、シャンク2からボディ3へ向かう方向を軸方向の先端側または単に先端側と呼び、ボディ3からシャンク2へ向かう方向を軸方向の後端側または単に後端側と呼ぶ。
【0039】
中心軸Cと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
また、中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。周方向のうち、穴あけ加工時にドリル1Aが回転させられる方向をドリル回転方向T(図2(a)を参照)と呼び、これとは反対の回転方向を、ドリル回転方向Tとは反対側、または反ドリル回転方向と呼ぶ。
【0040】
〔シャンク〕
図1に示すように、シャンク2は、中心軸Cを中心として軸方向に延びる円柱状である。シャンク2は、ボディ3の後端部に接続される。シャンク2は、例えば、図示しない工作機械の主軸やボール盤のチャック等(以下、主軸等と省略する)に着脱可能に保持される。シャンク2が主軸等によってドリル回転方向Tに回転させられつつ、軸方向の先端側に送られることで、ドリル1Aは、ボディ3の後述する切刃7により被削材に切り込んで、穴あけ加工を行う。
【0041】
〔ボディ〕
図1及び図2(a)、(b)に示すように、ボディ3は、中心軸Cに沿って軸方向に延びる略円柱状である。ボディ3の直径寸法は、シャンク2の直径寸法よりも小さい。本実施形態ではボディ3の直径寸法(後述する刃径寸法Dに相当)が、例えば、3mm未満である。すなわち、ドリル1Aは、いわゆる小径ドリルである。
【0042】
ボディ3は、切屑排出溝4と、切刃7と、首部6と、マージン8と、クーラント孔5と、クーラント流通溝9と、を有する。
【0043】
切屑排出溝4は、ボディ3のうち先端側部分に配置される。切屑排出溝4は、ボディ3の軸方向の先端側を向く先端面3a、及び径方向外側を向く外周面に開口し、先端面3aから後端側に延びる溝状である。詳しくは、切屑排出溝4は、先端面3aから軸方向の後端側へ向かうに従い、反ドリル回転方向に向けて捩れて延びており、中心軸Cを中心とする螺旋状をなしている。切屑排出溝4は、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では切屑排出溝4が、周方向に等ピッチで2つ設けられる。
【0044】
切刃7は、切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面4aと、先端面3aとが接続される稜線部に配置される。より詳しくは、壁面4aのうち少なくとも先端面3aに隣接する部分は、すくい面とされる。先端面3aのうち少なくとも壁面4aに隣接する部分は、逃げ面とされる。切刃7は、すくい面と逃げ面との稜線部に配置される。切刃7は、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では切刃7が、周方向に等ピッチで2つ設けられる。本実施形態のドリル1Aは、2枚刃のツイストドリルである。
【0045】
ここで、本実施形態においては、切刃7の中心軸C回りの回転軌跡の直径寸法を、切刃7の刃径寸法D、または単に刃径寸法Dと呼ぶ。本実施形態では切刃7の刃径寸法Dが、例えば3mm未満である。刃径寸法Dは、ボディ3の外径寸法の最大値でもある。
【0046】
また、切屑排出溝4の軸方向寸法L1は、刃径寸法Dの10倍よりも大きい。すなわち、L1>10Dである。本実施形態では切屑排出溝4の軸方向寸法L1が、刃径寸法Dの15倍以上であり、具体的には、例えば20倍程度とされている。
【0047】
切刃7は、シンニング切刃71と、主切刃72と、を有する。
シンニング切刃71は、切刃7のうち径方向内端部に配置される。図2(a)に示すドリル正面視において、シンニング切刃71は、中心軸C付近から径方向外側へ向けて、略径方向に沿って延びる。本実施形態ではシンニング切刃71が、略直線状に延びる。また図2(b)に示すように、シンニング切刃71は、径方向外側へ向かうに従い、軸方向の後端側に向けて延びる。
【0048】
主切刃72は、切刃7のうち径方向内端部以外の部分に配置される。主切刃72は、シンニング切刃71よりも径方向外側に配置される。図2(a)に示すように、主切刃72は、径方向外側へ向かうに従い、反ドリル回転方向に向けて延びる。本実施形態では主切刃72が、略直線状に延びる。ただしこれに限らず、例えば、主切刃72は、反ドリル回転方向に向けて窪む凹曲線状をなしていてもよい。また図2(b)に示すように、主切刃72は、径方向外側へ向かうに従い、軸方向の後端側に向けて延びる。
【0049】
また、特に図示しないが、切刃7は、主切刃72の径方向外端部に接続するコーナ刃を有していてもよい。コーナ刃は、壁面4a(すくい面)を正面に見て、凸曲線状または面取り形状等に形成される。
【0050】
図1に示すように、首部6は、ボディ3のうち後端側部分に配置される。首部6は、軸方向において切屑排出溝4とシャンク2との間に配置される。首部6は、中心軸Cを中心として軸方向に延びる円柱状である。首部6の直径寸法は、切刃7の刃径寸法Dよりも小さい。首部6の直径寸法は、軸方向に沿って一定とされ、または、軸方向の後端側へ向かうに従い小さくされている。また、首部6の軸方向寸法L2は、切刃7の刃径寸法Dの10倍よりも大きい。
【0051】
本実施形態では、切屑排出溝4の軸方向寸法L1が、首部6の軸方向寸法L2よりも大きくされている。また、ボディ3の軸方向寸法(L1+L2):切刃7の刃径寸法Dの比の値、すなわち(L1+L2)/Dは、例えば、25を超え105以下である。なお、ボディ3の軸方向寸法(L1+L2)は、切屑排出溝4の軸方向寸法L1と首部6の軸方向寸法L2との和であり、首下長寸法(L1+L2)等と言い換えてもよい。
【0052】
図1及び図2(a)、(b)に示すように、マージン8は、ボディ3の外周面に配置され、切屑排出溝4に沿って延びる。本実施形態ではマージン8が、切屑排出溝4に沿って螺旋状に延びている。マージン8は、中心軸Cと垂直な断面において、中心軸Cを中心とする円弧状をなす。
【0053】
マージン8は、ボディ3の外周面に、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。複数のマージン8は、第1マージン81と、第1マージン81からドリル回転方向Tとは反対側に離れて配置される第2マージン82と、を含む。すなわち、本実施形態のドリル1Aは、ダブルマージンタイプのドリルである。
【0054】
第1マージン81は、ボディ3の外周面のうち、切屑排出溝4のドリル回転方向Tとは反対側に隣接する部分に配置される。第1マージン81は、切屑排出溝4のドリル回転方向Tを向く壁面4aと、ボディ3の外周面とが接続される稜線部(リーディングエッジ)に隣接して配置される。本実施形態ではドリル1Aがツイストドリルであり、第1マージン81は、各切屑排出溝4の反ドリル回転方向に隣接配置されて、一対設けられる。
【0055】
第2マージン82は、ボディ3の外周面のうち、切屑排出溝4のドリル回転方向Tに隣接する部分に配置される。第2マージン82は、切屑排出溝4のドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面と、ボディ3の外周面とが接続される稜線部(ヒール)に隣接して配置される。本実施形態ではドリル1Aがツイストドリルであり、第2マージン82は、各切屑排出溝4のドリル回転方向Tに隣接配置されて、一対設けられる。
【0056】
クーラント流通溝9は、ボディ3の外周面に配置される。クーラント流通溝9は、マージン8よりも径方向内側に窪み、切屑排出溝4に沿って延びる。本実施形態ではクーラント流通溝9が、切屑排出溝4に沿って螺旋状に延びている。クーラント流通溝9は、ボディ3の外周面のうち、周方向において第1マージン81と第2マージン82との間に位置する部分に配置される。詳しくは、クーラント流通溝9は、第1マージン81よりも反ドリル回転方向に位置し、かつ、第2マージン82よりもドリル回転方向Tに位置する。
【0057】
本実施形態では、クーラント流通溝9の溝底が、中心軸Cと垂直な断面において、中心軸Cを中心とする円弧状をなしている(図2(a)を参照)。また、クーラント流通溝9の先端部は、先端面3aの径方向外端部と繋がっている。本実施形態ではドリル1Aがツイストドリルであり、クーラント流通溝9は、周方向に互いに間隔をあけて一対設けられる。図1に示すように、本実施形態ではクーラント流通溝9の後端部が、切屑排出溝4の後端部よりも先端側に位置している。
【0058】
また、ボディ3には、軸方向においてボディ3の先端部から後端側へ向けた少なくとも刃径寸法Dの10倍までの範囲に、バックテーパが付与されている。すなわち、ボディ3の直径寸法(外径寸法)は、その先端部から後端側へ向けた少なくとも10Dの範囲において、後端側へ向かうに従い小さくなる。
【0059】
図1及び図2(a)、(b)に示すように、クーラント孔5は、シャンク2及びボディ3の内部を延び、ボディ3の先端面3aに開口する。また、クーラント孔5の後端部は、シャンク2の後端面に開口する。本実施形態では、ドリル1Aにクーラント孔5が一対設けられている。設計上における理想としては、一対のクーラント孔5は、切屑排出溝4と等しいリードで捩れるように螺旋状に延びており、かつ、中心軸Cに関して互いに回転対称となる位置に配置されている。ただしこれに限らず、一対のクーラント孔5は、切屑排出溝4とは異なるリードで捩れるように螺旋状に延びていてもよい。また一対のクーラント孔5は、中心軸Cに関して互いに非回転対称となる位置に配置されていてもよい。各クーラント孔5は、周方向に隣り合う一対の切屑排出溝4間に位置する。
【0060】
本実施形態ではクーラント孔5が、円孔状である。すなわち、クーラント孔5の孔断面の形状は、円形状である。特に図示しないが、クーラント孔5には、工作機械の主軸等から切削油剤や圧縮空気等のクーラントが供給される。クーラント孔5は、ボディ3の先端面3aから被削材の加工穴内に向けてクーラントを噴射する。
【0061】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態のドリル1Aでは、クーラント孔5がボディ3の先端面3aに開口している。このため、ステップ送りによる穴あけ加工中においても、クーラント孔5からクーラントを噴射し切刃7に安定して供給することができる。ドリル1Aを加工穴から抜き出すことなく、切刃7を効率よく冷却及び潤滑することができる。また、加工穴内がクーラントによって湿潤状態とされるため、加工穴とドリル1Aとの間で切屑の噛み込みが生じにくく、加工穴の加工面精度が良好に維持される。
【0062】
また、切屑排出溝4の軸方向寸法L1が、切刃7の刃径寸法Dの10倍よりも大きくされており、つまり切屑排出溝4の溝長が大きく確保されている。これにより、切屑排出溝4の内容積が大きくなるため、切屑排出溝4に一時的に保持される切屑の保持量を増大させることができる。ステップ加工時の単位送り(送り一回)あたりの先端側への移動量(ストローク)を大きく設定することができて、穴あけ加工の効率(切削効率)が向上する。
【0063】
また、このように切屑排出溝4の溝長が長くされていても、ボディ3の先端面3aから加工穴内にクーラントが供給されることで、切屑排出溝4内の切屑は安定してドリル後端側へ向けて押し流される。例えば、切屑排出溝4の溝長を超えるような深さの加工穴(深穴)をステップ加工する場合でも、クーラントによって切屑を切屑排出溝4の後端側部分に寄せ集める作用が得られる。このため、切刃7からの新たな切屑の生成が、切屑排出溝4内の切屑によって阻害されるような不具合が抑えられる。したがって、ステップ回数(ドリル1Aの軸方向への往復移動回数)を低減する効果が得られる。
【0064】
また、切屑排出溝4内において後端側に押し流された切屑は、ステップ加工によりドリル1Aが後退移動し、切屑排出溝4の後端部(一部)が加工穴から外部に露出したときに、クーラント圧及び遠心力等によって、この後端部から加工穴の外部へと排出される。
したがって本実施形態では、ドリル1A全体を加工穴から抜き出すことなく、切屑排出溝4内の切屑除去が行われる。このため、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら、効率よく切屑を排出することができる。切削を伴わない空転時間を減らすことができるため、穴あけ加工のサイクルタイムを短縮できる。
【0065】
より詳しくは、本実施形態においては、前述したようにドリル前進時の移動量については増大させつつ、ドリル後退時の移動量については低減することができる。したがって、穴あけ加工の効率を格別顕著に高めることが可能となる。
【0066】
また、首部6の軸方向寸法L2が、切刃7の刃径寸法Dの10倍よりも大きくされており、つまり首部6の長さ(首長)が大きく確保されている。これにより、本実施形態のように刃径の小さな小径ドリルなどであっても、ドリル1Aの剛性を確保することが可能となり、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を向上することができる。また、ドリル1Aの剛性が高められることで、ドリル1Aの折損を防止でき、工具寿命が延長される。
【0067】
また、ボディ3には、少なくとも、ボディ3の先端部から後端側へ向けた切刃7の刃径寸法Dの10倍までの範囲にバックテーパが形成されており、かつ、首部6の直径寸法は刃径寸法Dよりも小さく、軸方向に沿って一定または後端側へ向かうに従い小さくされている。すなわち、ボディ3のうち切刃7よりも後端側に位置する部分と、加工穴との間に、クーラントが流通可能な隙間が設けられている。このため、ドリル後端側へ向かうクーラントの流れが妨げられるようなことがなく、クーラントによる切屑排出作用が安定する。さらに、加工穴の内周面にボディ3が接触して加工面精度に影響するようなことも防止される。
【0068】
以上より本実施形態によれば、特にステップ送りの穴あけ加工において、切刃7を効率よく冷却及び潤滑することができ、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出することができ、穴あけ効率を向上でき、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を高めることができ、ドリル1Aの折損を防止することができる。
【0069】
また本実施形態では、ボディ3の外周面にクーラント流通溝9が設けられており、ボディ3の先端面3aから噴射されたクーラントの一部は、クーラント流通溝9を通してドリル後端側へ流れる。クーラント流通溝9内を流れるクーラントによって、切屑排出溝4内における切屑の後端側への移動を促すことができる(アシストできる)。このため、ドリル後退時に、切屑排出溝4の後端部(一部)が加工穴から外部に露出したときに、切屑排出溝4内の切屑を加工穴の外部へと効率よく排出させることができる。また、細かな粒子状の切粉などは、クーラント流通溝9を通して、加工穴の外部へと適宜流出させることができる。
【0070】
また本実施形態では、切屑排出溝4の軸方向寸法L1が、切刃7の刃径寸法Dの15倍以上である。
この場合、切屑排出溝4の溝長がより大きく確保されるため、上述した本実施形態の作用効果がより顕著となる。
【0071】
また本実施形態では、切刃7の刃径寸法Dが、3mm未満である。
本実施形態は、切刃7の刃径寸法Dが3mm未満とされたいわゆる小径ドリル1Aに適用した場合において、上述した作用効果がより格別なものとなる。
【0072】
また本実施形態では、ボディ3の軸方向寸法(L1+L2):切刃7の刃径寸法Dの比の値、すなわち(L1+L2)/Dが、25を超え105以下である。
本実施形態は、上記比の値の数値範囲とされた、いわゆる深穴加工用ドリル1Aに適用した場合において、上述した作用効果がより格別なものとなる。
具体的には、上記比の値が25よりも大きいため、ボディ3全長が十分に長く確保され、深穴加工に適したドリル1Aとすることができる。また、上記比の値が105以下であると、ボディ3の剛性を確保しつつ、例えば、被削材の加工穴の深さが刃径寸法Dの100倍程度に達するほど深くても、安定して穴あけ加工を行うことができる。
【0073】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、各変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、下記では主に異なる点について説明する。
【0074】
図3は、前述の実施形態の第1変形例のドリル1Bを示す側面図である。この第1変形例のドリル1Bでは、クーラント流通溝9の後端部の軸方向位置が、切屑排出溝4の後端部の軸方向位置と同じである。すなわち、クーラント流通溝9は、ボディ3の先端部から切屑排出溝4の後端部まで延びている。
この場合、ステップ加工によってドリル1Bが切屑排出溝4の後端部付近まで加工穴内に進入しても、上述したクーラント流通溝9による作用効果が安定して得られる。
【0075】
また、この第1変形例では、マージン8の後端部の軸方向位置が、切屑排出溝4の後端部の軸方向位置と同じである。
この場合、ステップ加工時において、切屑排出溝4全体が加工穴内に進入した状態となっても、切屑排出溝4の後端部にまで達するマージン8によって、加工穴内でのドリル1Bの切削姿勢が安定する。このため、加工穴の穴精度が良好に維持される。
【0076】
図4は、前述の実施形態の第2変形例のドリル1Cを示す側面図である。この第2変形例のドリル1Cでは、クーラント流通溝9が、切屑排出溝4よりも後端側へ延びている。
このように、クーラント流通溝9が切屑排出溝4よりも後端側へ延びていると、ステップ加工時(特にドリル前進時)に、切屑排出溝4全体が加工穴内に進入した状態となっても、クーラント流通溝9内でクーラントの流れが妨げられるようなことが抑制される。したがって、クーラント流通溝9内を流れるクーラントによって、切屑排出溝4内の切屑を後端側へ押し流す作用(アシスト作用)がより安定して得られる。
【0077】
具体的に、この第2変形例では、クーラント流通溝9が、首部6の軸方向の中央部よりも後端側へ延びている。より詳しくは、クーラント流通溝9は、首部6の後端部まで延びている。
この場合、ステップ加工によって切屑排出溝4全体が加工穴内により深く進入しても、上述したクーラント流通溝9による作用効果が安定して奏功される。
【0078】
図5は、前述の実施形態の第3変形例のドリル1Dを示す側面図である。図6(a)は、第3変形例のドリル1Dを示す正面図であり、図6(b)は、第3変形例のドリル1Dの一部(先端部)を示す側面図である。この第3変形例のドリル1Dでは、ボディ3の外周面に第2マージン82が設けられていない。すなわち、このドリル1Dは、シングルマージンタイプのドリルである。
【0079】
そして、クーラント流通溝9のドリル回転方向Tとは反対側の端部は、クーラント流通溝9のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合って配置される切屑排出溝4と繋がっている。すなわち、この第3変形例では第2マージン82が設けられないことで、クーラント流通溝9と、このクーラント流通溝9の反ドリル回転方向に隣接する切屑排出溝4とが、稜線部(ヒール)を介して互いに接続されており、加工穴内において互いに連通する。
この場合、クーラント流通溝9内を流れるクーラントによって、切屑排出溝4内の切屑を後端側へ押し流すという上述の作用効果が、より顕著に得られる。
【0080】
図7(a)は、前述の実施形態の第4変形例のドリル1Eを示す正面図であり、図7(b)は、第4変形例のドリル1Eの一部(先端部)を示す側面図である。この第4変形例のドリル1Eでは、クーラント孔5の孔断面の形状が、非円形状とされている。具体的に、図示の例では、クーラント孔5が延びる方向と垂直な断面において、クーラント孔5の形状(断面形状)が略三角形状をなしている。また、クーラント孔5の周方向寸法は、径方向外側へ向かうに従い大きくなる。
この場合、クーラント孔5を形成することによるドリル1Eの剛性の低下を抑えつつ、クーラント孔5の断面積を大きく確保して、クーラント孔5を通して切刃7に供給されるクーラント量を増大させることができる。上述したクーラント孔5による作用効果が、より顕著なものとなる。
【0081】
図8は、前述の実施形態の第5変形例のドリル1Fを示す側面図である。この第5変形例では、クーラント孔5が、第1流路部51と、第1流路部51よりも先端側に配置され、第1流路部51と接続される第2流路部52と、を有する。
【0082】
第1流路部51は、中心軸Cを中心とする円孔状であり、軸方向に沿って延びる。第1流路部51の後端部は、シャンク2の後端面に開口する。
第2流路部52は、一対設けられる。設計上における理想としては、一対の第2流路部52は、切屑排出溝4と等しいリードで捩れるように螺旋状に延びており、かつ、中心軸Cに関して互いに回転対称となる位置に配置されている。ただしこれに限らず、一対の第2流路部52は、切屑排出溝4とは異なるリードで捩れるように螺旋状に延びていてもよい。また一対の第2流路部52は、中心軸Cに関して互いに非回転対称となる位置に配置されていてもよい。各第2流路部52は、ボディ3の先端面3aに開口し、周方向に隣り合う一対の切屑排出溝4間に位置する。
また図示の例では、第1流路部51と、一対の第2流路部52との接続部分が、シャンク2の先端部に位置している。
【0083】
この場合、工作機械の主軸等から第1流路部51に流入するクーラントの圧力損失が低減される。クーラントをクーラント孔5に安定して流入させることができ、かつ、切刃7へ向けてクーラントをスムーズに流すことができる。
【0084】
また、前述の実施形態及び各変形例では、ドリル1A~1Fが、それぞれ、2枚刃のツイストドリルである例を挙げたが、これに限らない。ドリル1A~1Fは、1枚刃または3枚刃以上のドリルであってもよい。また、切刃7の刃数に対応して、切屑排出溝4、クーラント孔5、マージン8及びクーラント流通溝9等の数を適宜調整してよい。
【0085】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のドリルによれば、特にステップ送りの穴あけ加工において、切刃を効率よく冷却及び潤滑することができ、加工穴内での切屑詰まりを抑えながら効率よく切屑を排出することができ、穴あけ効率を向上でき、加工穴の曲がりを抑えて穴あけ精度を高めることができ、ドリルの折損を防止することができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0087】
1A,1B,1C,1D,1E,1F…ドリル
2…シャンク
3…ボディ
3a…先端面
4…切屑排出溝
4a…切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面
5…クーラント孔
6…首部
7…切刃
8…マージン
9…クーラント流通溝
C…中心軸
D…切刃の刃径寸法
L1…切屑排出溝の軸方向寸法
L2…首部の軸方向寸法
(L1+L2)…ボディの軸方向寸法
T…ドリル回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8