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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082328
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】焼入れ装置及び焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/10 20060101AFI20240613BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240613BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C21D1/10 R
C21D9/00 H
H05B6/10 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196104
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】花木 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘子
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB09
3K059AB24
3K059AC37
3K059AD05
3K059CD53
3K059CD76
4K042AA14
4K042AA25
4K042BA13
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC05
4K042DF01
4K042DF02
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】本開示の焼入れ装置は、短時間で長尺のワークに均一に焼入れを行うことができる。
【解決手段】本開示に係る焼入れ装置は、少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有するワークを有し、第1領域では、誘導加熱コイルが静止状態にされたままでワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して近接した位置に配置された状態でワークを加熱し、第2領域では、ワークの半径方向において右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされた状態でワークを加熱し、第3領域では、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたままワークの半径方向において左側第1コイルがワークに対して近接した位置に配置された状態でワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加熱する焼入れ装置であって、
焼入れ装置は、ワークを加熱する誘導加熱コイルと、ワークの長手方向及びワークの半径方向に誘導加熱コイルを移動させるコイル移動装置とを有し、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、左側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、右側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、誘導加熱コイルが静止状態にされたままで、右側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされ、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、コイル移動装置により、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたまま、ワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、左側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、左側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ装置。
【請求項2】
ワークを加熱する焼入れ装置であって、
焼入れ装置は、ワークを加熱する誘導加熱コイルと、ワークの長手方向及びワークの半径方向に誘導加熱コイルを移動させるコイル移動装置とを有し、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、左側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、誘導加熱コイルが静止状態にされたままで、左側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされ、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、コイル移動装置により、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたまま、ワークの半径方向において、左側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、右側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、右側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ装置。
【請求項3】
ワークの断面の表面が円形である請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項4】
右側コイルは、ワークの移動方向に対して右側第1コイルの後ろ側に配置され、右側第1コイルに接続され右側のワークの長手方向を加熱する右側第2コイルと、右側第2コイルの後端に接続され右側第1コイルと反対の位置でワークの右側の周方向を加熱する右側第3コイルを有し、
左側コイルは,ワークの移動方向に対して左側第1コイルの後ろ側に配置され、左側第1コイルに接続され左側のワークの長手方向を加熱する左側第2コイルと、左側第2コイルの後端に接続され左側第1コイルと反対の位置でワークの左側の周方向を加熱する左側第3コイルを有する請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項5】
右側第1コイルと左側第1コイルとが、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている請求項1又は2に記載の焼入れ装置。
【請求項6】
右側第3コイルと左側第3コイルとが、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている請求項4に記載の焼入れ装置。
【請求項7】
ワークの長手方向に移動してワークを加熱する誘導加熱コイルを用いた焼入れ方法であって、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、ワークの半径方向において、左側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、右側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、誘導加熱コイルを静止状態にしたままで、右側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルをワークの中心軸に対して対称な位置にし、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、誘導加熱コイルを長手方向に移動状態を維持したまま、ワークの半径方向において、右側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、左側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、左側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ方法。
【請求項8】
ワークの長手方向に移動してワークを加熱する誘導加熱コイルを用いた焼入れ方法であって、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、ワークの半径方向において、右側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、左側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、誘導加熱コイルを静止状態にしたままで、左側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、ワークの半径方向において、左側第1コイル及び右側第1コイルをワークの中心軸に対して対称な位置にし、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、誘導加熱コイルを長手方向に移動状態を維持したまま、ワークの半径方向において、左側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、右側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、右側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ方法。
【請求項9】
ワークの断面の表面が円形である請求項7又は8に記載の焼入れ方法。
【請求項10】
右側第1コイルと左側第1コイルとが、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている請求項7又は8に記載の焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、各種機械部品・自動部品等のワークを加熱する焼入れ装置及び焼入れ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじ等の長尺のワークを高周波焼入れする際は、長尺のワークを固定した状態で、高周波の誘導加熱コイルをワークの長手方向に相対的に移動させる。そして、長尺のワークを加熱・冷却して、長尺のワークの表面に連続した硬化層を形成することが知られている(特許文献1)。
【0003】
図11は、従来技術の焼入れ装置101の概略の構成図である。
図11に示す様に、従来技術の焼入れ装置101は、高周波の誘導加熱コイル102とコイル移動装置103とを備えている。
誘導加熱コイル102は、一筆書きの鞍型のコイルで、第1リード部115、右側第1コイル111、右側第2コイル112、右側第3コイル113、左側第2コイル122、左側第1コイル121、第2リード部116の順に繋がっている。
右側第1コイル111と左側第1コイル121とは、ワークの長手方向(Y方向)に対して、同じ位置(X方向の同一平面内)に配置されている。また、右側第3コイル113もワークの長手方向(Y方向)に対して、同一平面内に配置されている。
誘導加熱コイル102は、内部が空洞の中空状で、空洞には冷却剤が流れるようになっている。
【0004】
右側第1コイル111及び左側第1コイル121と、右側第3コイル113とは,鞍型の半開放のコイルで、ワークとは非接触な状態でワークを覆っている。ワークの長手方向から見て、右側第1コイル111及び左側第1コイル121とは、ワークの中心軸に対して対称な位置にある(X方向)。
【0005】
コイル移動装置103は、ワークの長手方向(Y方向)に、誘導加熱コイル102を移動させるものである。誘導加熱コイル102が移動している間、右側第1コイル111及び左側第1コイル121は、ワークの中心軸に対して対称な位置を維持した状態である。
【0006】
図12は、従来技術の焼入れ装置101の概略の動作図である。
図12(a)は、誘導加熱コイル102の概略の動作図で、図11の平面図である。図12(b)は、ワークの中心軸におけるX方向の断面図で、ワークの中心軸から右側(X方向)のワーク断面を表している。
図12(a)に示す様に、誘導加熱コイル102は、ワークの左端からY方向に移動する。誘導加熱コイル102の移動に伴い、ワークは、左からY方向に、第1領域、第2領域、第3領域の3つの領域を有する。
【0007】
誘導加熱コイル102の移動の間、右側第1コイル111の端部は、中心軸から右側第1コイル111の端までの距離X0で、左側第1コイル121の端部も、中心軸から左側第1コイル121の端までの距離X0である。右側第1コイル111と左側第1コイル121とは、ワークの中心軸に対して対称な位置を維持した状態で移動する。
【0008】
第1領域では、誘導加熱コイル102が停止した状態でワークの加熱が行われ、時間が経過すると硬化層が成長する(図12(b)の左側参照)。
第2領域では、第1領域でワークの硬化層が一定の厚みに成長したら、誘導加熱コイル102をワークの長手方向に移動させることが行われる。この時、硬化層が一定の厚みに形成される(図12(b)の中央参照)。
ワークの右側の第3領域では、誘導加熱コイル102を移動させながら、所定の位置で誘導加熱コイル102への電力供給を停止し、ワークへの加熱を停止することが行われる。ワークへの加熱が停止されると、硬化層が先細り、ワークの右側端部までの位置で、硬化層が止まる(図12(b)の右側参照)。
上記のようにして、従来技術の焼入れ装置101は、長尺のワークの焼入れを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-160812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した従来技術では、以下の3つの課題を有している。
(課題1)
図12(b)の左側に示す様に、第1領域では、ワークが冷えた状態から加熱されるので、硬化層の形成に時間を要する。
(課題2)
又、右側第1コイル111及び左側第1コイル121、右側第3コイル113は、ワークの半周において加熱するので、右側第2コイル112及び左側第2コイル122の加熱より強いので、第1領域において、硬化層の両端部が盛り上がり、硬化層にムラが発生する。
(課題3)
図12(b)の右側に示す様に、第3領域において、ワークへの加熱が停止されると、ワークの中央部よりワークの端部が冷えているので、硬化層が徐々に先細り、既定の厚み未満の不要な硬化層が長く形成されてしまう。
本開示の一態様の焼入れ装置及び焼入れ方法は、上記の3つの課題を解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係る焼入れ装置は、ワークを加熱する焼入れ装置であって、
焼入れ装置は、ワークを加熱する誘導加熱コイルと、ワークの長手方向及びワークの半径方向に誘導加熱コイルを移動させるコイル移動装置とを有し、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、左側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、右側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、誘導加熱コイルが静止状態にされたままで、右側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされ、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、コイル移動装置により、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたまま、ワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、左側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、左側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止するものである。
【0012】
本開示の別の態様に係る焼入れ装置は、ワークを加熱する焼入れ装置であって、
焼入れ装置は、ワークを加熱する誘導加熱コイルと、ワークの長手方向及びワークの半径方向に誘導加熱コイルを移動させるコイル移動装置とを有し、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、左側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、誘導加熱コイルが静止状態にされたままで、左側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされ、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、コイル移動装置により、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたまま、ワークの半径方向において、左側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、右側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、右側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止するものである。
【0013】
本開示の一態様に係る焼入れ方法は、ワークの長手方向に移動してワークを加熱する誘導加熱コイルを用いた焼入れ方法であって、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、ワークの半径方向において、左側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、右側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、誘導加熱コイルを静止状態にしたままで、右側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルをワークの中心軸に対して対称な位置にし、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、誘導加熱コイルを長手方向に移動状態を維持したまま、ワークの半径方向において、右側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、左側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、左側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止するものである。
【0014】
本開示の別の態様に係る焼入れ方法は、ワークの長手方向に移動してワークを加熱する誘導加熱コイルを用いた焼入れ方法であって、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、ワークの半径方向において、右側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、左側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、誘導加熱コイルを静止状態にしたままで、左側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、ワークの半径方向において、左側第1コイル及び右側第1コイルをワークの中心軸に対して対称な位置にし、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、誘導加熱コイルを長手方向に移動状態を維持したまま、ワークの半径方向において、左側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、右側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、右側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止するものである。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様の焼入れ装置は、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。また、第1領域の停止加熱において、ムラの少ない硬化層を形成できる。また、第3領域のワークの移動方向の先頭側の硬化層の端部において、急峻な硬化層を形成でき、不要な硬化層を少なくできる。
又、本開示の一態様の焼入れ方法は、上記焼入れ装置と同じ効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態1における焼入れ装置の概略の構成を示す斜視図である。
図2】ワークの長手方向から見た、本実施形態1における焼入れ装置の概略の動作図である。
図3】本実施形態1における焼入れ装置の概略の動作図で、(a)は、第1領域の状態を示す図であり、(b)は、第2領域の状態を示す図であり、(c)は、第3領域の状態を示す図である。
図4】本実施形態1における第3領域におけるワークの硬化層の模式図である。
図5】ワークの長手方向から見た、本実施形態2における焼入れ装置の概略の動作図である。
図6】本実施形態2における焼入れ装置の概略の動作図で、(a)は、第1領域の状態を示す図であり、(b)は、第2領域の状態を示す図であり、(c)は、第3領域の状態を示す図である。
図7】本実施形態3における焼入れ装置の概略の構成を示す斜視図である。
図8】本実施形態3における焼入れ装置の概略の動作図で、(a)は、第1領域の状態を示す図であり、(b)は、第2領域の状態を示す図であり、(c)は、第3領域の状態を示す図である。
図9】本実施形態4における焼入れ装置の概略の構成を示す斜視図である。
図10】本実施形態4における焼入れ装置の概略の動作図で、(a)は、第1領域の状態を示す図であり、(b)は、第2領域の状態を示す図であり、(c)は、第3領域の状態を示す図である。
図11】従来技術の焼入れ装置の概略の構成図である。
図12】従来技術の焼入れ装置の概略の動作図で、(a)は、誘導加熱コイルの移動状態を示す図であり、(b)は、(a)の状態におけるワークの硬化層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示により具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
(実施形態1)
(焼入れ装置全体について)
【0018】
以下、本開示の一態様を示す焼入れ装置1の概略について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態1における焼入れ装置1の概略の構成を示す斜視図である。
図1に示す様に、焼入れ装置1は、高周波の誘導加熱コイル2とコイル移動装置3とを備えている。ワークは、ボールねじなどの長尺のワークである。
【0019】
誘導加熱コイル2は、右側コイル10と左側コイル20とから構成されている。
右側コイル10は、第1リード部15、右側第1コイル11、右側第2コイル12、右側第3コイル13、右側第4コイル14の順に繋がっている。
左側コイル20は、左側第1コイル21、左側第2コイル22、左側第3コイル23、左側第4コイル24、第2リード部16の順に繋がっている。
誘導加熱コイル2は、右側第4コイル14の端部と左側第1コイル21の端部とが接合され、右側コイル10と左側コイル20とが、一筆書きの半開放の鞍型コイルを構成している。
【0020】
右側第1コイル11、右側第3コイル13、左側第1コイル21、左側第3コイル23のそれぞれは、ワークの周方向において、非接触な状態でワークを覆っており、半開放のコイルを構成している。
【0021】
右側第1コイル11と左側第1コイル21とは、ワークの長手方向(Y方向)に対して、同じ位置(同一平面内)に配置され、右側第3コイル13と左側第3コイル23もワークの長手方向(Y方向)に対して、同じ位置(X方向の同一平面内)に配置されている。また、ワークの長手方向から見て、右側第1コイル11と左側第1コイル21とは、ワークの中心軸に対して対称な位置に配置されている(X方向)。右側第3コイル13と左側第3コイル23とは、ワークの中心軸に対して対称な位置に配置されている(X方向)。
【0022】
誘導加熱コイル2は、内部が空洞の中空状で、空洞には冷却剤が流れるようになっている。第1リード部15及び第2リード部16には、図示しない高周波装置から高周波の電力が供給され、誘導加熱コイル2はワークを加熱する。
【0023】
コイル移動装置3は、例えば、XYテーブルに用いられる方法で、ワークの半径方向(X方向)及びワークの長手方向(Y方向)に、誘導加熱コイル2を移動させるものである。
制御装置4は、コイル移動装置3を用いて誘導加熱コイル2を移動させたり、誘導加熱コイル2を用いてワークを加熱させたり、図示しない冷却装置でワークに冷却剤を噴射してワークを冷却したりするなどの動作を制御するものである。
【0024】
(焼入れ動作について)
図2は、ワークの長手方向から見た、誘導加熱コイル2の概略の動作図である。
図2に示す様に、誘導加熱コイル2は、ワークを覆っており、コイル移動装置3により左側から右側に移動する。矢印の方向は、図1のX方向である。
図2の(a)は誘導加熱コイル2がワークに対して一番左側に位置している状態(実線)で、(b)は誘導加熱コイル2が真ん中に位置している状態(二点鎖線)で、(c)は誘導加熱コイル2が一番右側に位置している状態(二点鎖線)である。
【0025】
(b)のとき、ワークの中心軸に対して、右側第1コイル11(右側コイル10)と左側第1コイル21(左側コイル20)とが対称となっている。
この時、ワークの中心軸と左側第1コイル21の外側との距離1(以後、単に距離1と呼ぶ)がX0であり、ワークの中心軸と右側第1コイル11の外側との距離2(以後、単に距離2と呼ぶ)がX0で、距離1と距離2とが等しくなっている。尚、左側第1コイル21の外側と右側第1コイル11の外側との距離Lは、2X0(=X0+X0)で一定である。
【0026】
図3に示す様に、誘導加熱コイル2は、Y方向及びX方向の両方の方向に移動する。誘導加熱コイル2の移動に伴い、ワークは、左からY方向に、第1領域、第2領域、第3領域の3つの領域を有する。
図3において、誘導加熱コイル2がX方向及びY方向の両方に移動するという点は、従来技術の図10の誘導加熱コイル2がY方向にしか移動しない点と大きく異なる。
【0027】
図2、3を用いて、実施形態1の誘導加熱コイル2の動作について説明する。
図3において、一点鎖線はワークの中心軸を表している。
図3の前提条件は、以下である。
(1)誘導加熱コイル2により、ワークが加熱されている間は、図示しない回転装置でワークは回転されている。
(2)ワークが加熱されると、図示しない冷却装置から冷却剤を噴射させてワークが冷却される。
【0028】
まず、図3(a)について説明する。
図3(a)に示す様に、第1領域である停止加熱においては、右側コイル10はワークに近接した位置に配置されており、左側コイル20はワークから遠ざかった位置に配置されている。
この状態を図2で示すと、右側コイル10と左側コイル20とは(a)の実線の位置で
る。この時、距離1がXX1で距離X0より長く、距離2がX1で距離X0より短くなっている。
右側コイル10をワークに近接させることで、冷えているワークに対して硬化層を速く形成できる。
【0029】
次に、図3(b)について説明する。
第1領域でワークの硬化層が一定の厚みに成長したら、誘導加熱コイル2をワークの長手方向(Y方向)及びワークの半径方向(X方向)に移動させることが行われる。第2領域では、ワークの半径方向(X方向)において、右側コイル10と左側コイル20とがワークの中心軸に対して対称な位置になるまで、誘導加熱コイル2の移動が行われる。
図3(b)は、第2領域において、右側コイル10と左側コイル20とがワークの中心軸に対して対称な位置に配置された状態を表している。
この状態を図2で表すと、右側コイル10と左側コイル20とは、真ん中の(b)の二点鎖線の位置である。距離1はX0で、距離2もX0で、距離1と距離2とが同じである。
【0030】
最後に、図3(c)について説明する。
図3(c)に示す様に、ワークの長手方向の右端に、誘導加熱コイル2が近づいてきたら、右側コイル10をワークから遠ざかった位置に配置させ、左側コイル20をワークに近接した位置に配置させる。
この状態を図2で示すと、右側コイル10と左側コイル20とは(c)の二点鎖線の位置である。この時、距離1がXX2で距離X0より短く、距離2がX2で距離X0より長くなっている。
【0031】
図4は、第3領域におけるワークの中心軸におけるX方向の断面図で、ワークの中心軸から右側(X方向)のワーク断面を表し、第3領域におけるワークの硬化層の模式図である。
図4に示す様に、第3領域の所定の位置において、左側コイル20がワークに対して近接した状態で、誘導加熱コイル2がY方向に移動しながら、誘導加熱コイル2による加熱を停止する。
【0032】
図4において、実線は実施形態1の硬化層を表し、二点鎖線は従来技術の硬化層を表している。
実施形態1では、第3領域において左側コイル20をワークに近接させ、ワークへの加熱量を増加させることで、ワークの長手方向の右側において、従来技術の硬化層より急峻な硬化層を形成できる。その結果、実施形態1では、既定の厚み未満の不要な硬化層を短く形成できる。
(実施形態2)
【0033】
実施形態2は、実施形態1の誘導加熱コイル2の半径方向(X方向)の移動が、実施形態1と反対方向の(-X方向)に移動する点が異なる。
【0034】
図5、6を用いて、実施形態2の誘導加熱コイル2の動作について説明する。
図5は、ワークの長手方向から見た、実施形態2の誘導加熱コイル2の概略の動作図である。矢印の方向は、-X方向の方向である。
まず、図6(a)について説明する。
図6(a)に示す様に、第1領域である停止加熱においては、左側コイル20はワークに近接した位置に配置されており、右側コイル10はワークから遠ざかった位置に配置されている。
この状態を図5で示すと、右側コイル10と左側コイル20とは(a)の実線の位置で
る。この時、距離1がXX1で距離X0より短く、距離2がX1で距離X0より長くなっている。
左側コイル20をワークに近接させることで、冷えているワークに対して硬化層を速く形成できる。
【0035】
次に、図6(b)について説明する。
第1領域でワークの硬化層が一定の厚みに成長したら、誘導加熱コイル2をワークの長手方向(Y方向)及びワークの半径方向(-X方向)に移動させることが行われる。第2領域では、ワークの半径方向において、右側コイル10と左側コイル20とがワークの中心軸に対して対称な位置になるまで、誘導加熱コイル2の移動が行われる。
図6(b)は、第2領域において、右側コイル10と左側コイル20とがワークの中心軸に対して対称な位置に配置された状態を表している。
この状態を図5で表すと、右側コイル10と左側コイル20とは、真ん中の(b)の二点鎖線の位置である。距離1はX0で、距離2もX0で、距離1と距離2とが同じである。
【0036】
最後に、図6(c)について説明する。
図6(c)に示す様に、ワークの長手方向の右端に、誘導加熱コイル2が近づいてきたら、左側コイル20をワークから遠ざかった位置に配置させ、右側コイル10をワークに近接した位置に配置させる。
この状態を図5で示すと、右側コイル10と左側コイル20とは(c)の二点鎖線の位置である。この時、距離1がXX2で距離X0より長く、距離2がX2で距離X0より短くなっている。
【0037】
実施形態1と同様に、実施形態2においても、図4に示す様に、第3領域の所定の位置において、右側コイル10がワークに対して近接した状態で、誘導加熱コイル2がY方向に移動しながら、誘導加熱コイル2による加熱を停止する。
【0038】
図4に示す様に、実施形態2の硬化層は、実施形態1の硬化層と同じように形成される。
実施形態2では、第3領域において右側コイル10をワークに近接させ、ワークへの加熱量を増加させることで、ワークの長手方向の右側において、従来技術の硬化層より急峻な硬化層を形成できる。その結果、実施形態2では、既定の厚み未満の不要な硬化層を短く形成できる。
(実施形態3)
【0039】
実施形態1では、右側第1コイル11及び左側第1コイル21、右側第3コイル13及び左側第3コイル23が、ワークの長手方向に対して同じ位置(同じ平面内)に配置されている。
実施形態3では、図7に示す様に、右側第1コイル11及び左側第1コイル21、右側第3コイル13及び左側第3コイル23が、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている点が、実施形態1と異なる。特に、実施形態3では、ワークの移動方向に対して、左側第1コイル21が右側第1コイル11より距離Y1だけ前に位置し、左側第3コイル23が右側第3コイル13より距離Y1だけ前に位置している。ワークの形状、誘導加熱コイル2の加熱量、加熱分布などに応じて、距離Y1は任意に設定される。
【0040】
図8は、本実施形態3における焼入れ装置の概略の動作図である。
実施形態3の誘導加熱コイル2の動作は、実施形態1の誘導加熱コイル2のほぼ動作と同じであるので、主に異なる点について説明する。
【0041】
図8(a)において、右側第1コイル11及び右側第3コイル13がワークに近接した位置に配置され、左側第1コイル21及び左側第3コイル23が遠ざかった位置で配置されている。この時、ワークの移動方向に対して、左側コイル20は、右側コイル10より距離Y1だけ前の位置にある。
【0042】
従来技術では、図12(b)に示す様に、第1領域において硬化層の両端部が盛り上がり、ムラが発生している。これは、右側第1コイル111と左側第1コイル121とが、ワークの長手方向において、同じ位置(同一平面内)に位置しているため、ワークを局所的に加熱するためである。右側第3コイル113についても上記と同様のことが発生する。
実施形態3では、ワークの移動方向に対して、左側コイル20は、右側コイル10より距離Y1だけ前の位置にずらすことで、この硬化層の両端部の盛り上がりを減少させ、ムラの少ない硬化層を形成できる。又、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。
【0043】
第2領域については、実施形態1と同様である。
【0044】
図8(c)の第3領域において、左側第1コイル21及び左側第3コイル23がワークに近接した位置に配置され、右側第1コイル11及び右側第3コイル13が遠ざかった位置で配置されている。この時、ワークの移動方向に対して、左側コイル20は、右側コイル10より距離Y1だけ前の位置にある。
【0045】
第3領域における効果を説明するために、仮に第3領域において、図8(a)のように右側第1コイル11がワークに近接しているとして説明する。この場合、ワークの移動方向に対して、右側第1コイル11は、左側第1コイル21より距離Y1だけ、後ろの位置にある。
そして、第3領域の先頭領域(右側)において、主に、加熱量が多い右側第1コイル11により硬化層が形成されるが、加熱量が少ない左側第1コイル21によっても硬化層が形成されるため、既定の厚み未満の不要な硬化層を形成してしまう。
【0046】
一方、実施形態3では、図8(c)のように、ワークに近接し、加熱量が多い左側第1コイル21が、距離Y1だけ右側第1コイル11より前に位置しているので、既定の厚み未満の不要な硬化層を減少させることができる。
(実施形態4)
【0047】
実施形態2では、右側第1コイル11及び左側第1コイル21、右側第3コイル13及び左側第3コイル23が、ワークの長手方向に対して同じ位置(同じ平面内)に配置されている。
実施形態4では、右側第1コイル11及び左側第1コイル21、右側第3コイル13及び左側第3コイル23が、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている点が、実施形態2と異なる。特に、実施形態4では、ワークの移動方向に対して、右側第1コイル11が左側第1コイル21より距離Y1だけ前に位置し、右側第3コイル13が左側第3コイル23より距離Y1だけ前に位置している。ワークの形状、誘導加熱コイル2の加熱量、加熱分布などに応じて、距離Y1は任意に設定される。
【0048】
図9、10は、本実施形態4における焼入れ装置1の概略の動作図である。
実施形態4の誘導加熱コイル2の動作は、実施形態2の誘導加熱コイル2の動作ほぼと同じであるので、主に異なる点について説明する。
【0049】
図10(a)において、左側第1コイル21及び左側第3コイル23がワークに近接した位置に配置され、右側第1コイル11及び右側第3コイル13が遠ざかった位置で配置されている。この時、ワークの移動方向に対して、右側コイル10は、左側コイル20より距離Y1だけ前の位置にある。
【0050】
実施形態3に記載したように、従来技術では、図12(b)に示す様に、第1領域において硬化層の両端部が盛り上がり、ムラが発生している。これは、右側第1コイル111と左側第1コイル121とが、ワークの長手方向において、同じ位置(同一平面内)に位置しているため、ワークを局所的に加熱するためである。右側第3コイル113についても上記と同様のことが発生する。
実施形態4では、ワークの移動方向に対して、右側コイル10は、左側コイル20より距離Y1だけ前の位置にずらすことで、この硬化層の両端部の盛り上がりを減少させ、ムラの少ない硬化層を形成できる。又、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。
【0051】
第2領域については、実施形態2と同様である。
【0052】
図10(c)の第3領域において、右側第1コイル11及び右側第3コイル13がワークに近接した位置に配置され、左側第1コイル21及び左側第3コイル23が遠ざかった位置で配置されている。この時、ワークの移動方向に対して、右側コイル10は、左側コイル20より距離Y1だけ前の位置にある。
【0053】
第3領域における効果を説明するために、仮に第3領域において、図10(a)のように左側第1コイル21がワークに近接しているとして説明する。この場合、ワークの移動方向に対して、左側第1コイル21は、右側第1コイル11より距離Y1だけ、後ろの位置にある。
この場合、第3領域の先頭領域(右側)において、主に、加熱量が多い左側第1コイル21により硬化層が形成されるが、加熱量が少ない右側第1コイル11によっても硬化層が形成されるため、既定の厚み未満の不要な硬化層を形成してしまう。
【0054】
一方、実施形態4では、図10(c)のように、ワークに近接し、加熱量が多い右側第1コイル11が、距離Y1だけ左側第1コイル21より前に位置しているので、既定の厚み未満の不要な硬化層を減少させることができる。
【0055】
尚、本実施形態1~4において、誘導加熱コイル2を例えば図1のように、右側第3コイル13と左側第3コイル23とを分離した一筆書きの半開放の鞍型コイルを用いたが、従来技術の図11のように1つの右側第3コイル113とした一筆書きの半開放の鞍型コイルを用いてもよい。
【0056】
尚、本実施形態1~4に係る発明は、矛盾が生じない限り、置き換えたり、組合せたりすることができる。
【0057】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の焼入れ装置及び焼入れ方法を含む。
【0058】
〔項目1〕
ワークを加熱する焼入れ装置であって、
焼入れ装置は、ワークを加熱する誘導加熱コイルと、ワークの長手方向及びワークの半径方向に誘導加熱コイルを移動させるコイル移動装置とを有し、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、左側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、右側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、誘導加熱コイルが静止状態にされたままで、右側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされ、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、コイル移動装置により、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたまま、ワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、左側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、左側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ装置。
上記態様よれば、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。また、第3領域のワークの移動方向の先頭側の硬化層の端部において、急峻な硬化層を形成でき、不要な硬化層を少なくできる。
【0059】
〔項目2〕
ワークを加熱する焼入れ装置であって、
焼入れ装置は、ワークを加熱する誘導加熱コイルと、ワークの長手方向及びワークの半径方向に誘導加熱コイルを移動させるコイル移動装置とを有し、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、左側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、誘導加熱コイルが静止状態にされたままで、左側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、コイル移動装置により、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークの中心軸に対して対称な位置にされ、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、コイル移動装置により、誘導加熱コイルが長手方向に移動状態を維持されたまま、ワークの半径方向において、左側第1コイルがワークに対して遠ざかった位置にされると共に、右側第1コイルがワークに対して近接した位置にされ、右側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ装置。
上記態様よれば、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。また、第3領域のワークの移動方向の先頭側の硬化層の端部において、急峻な硬化層を形成でき、不要な硬化層を少なくできる。
【0060】
〔項目3〕
ワークの断面の表面が円形である項目1又は2に記載の焼入れ装置。
上記態様よれば、ワークの表面に均一に硬化層形成できる。
【0061】
〔項目4〕
右側コイルは、ワークの移動方向に対して右側第1コイルの後ろ側に配置され、右側第1コイルに接続され右側のワークの長手方向を加熱する右側第2コイルと、右側第2コイルの後端に接続され右側第1コイルと反対の位置でワークの右側の周方向を加熱する右側第3コイルを有し、
左側コイルは,ワークの移動方向に対して左側第1コイルの後ろ側に配置され、左側第1コイルに接続され左側のワークの長手方向を加熱する左側第2コイルと、左側第2コイルの後端に接続され左側第1コイルと反対の位置でワークの左側の周方向を加熱する左側第3コイルを有する項目1乃至3のいずれかに記載の焼入れ装置。
上記態様よれば、立体的な鞍型コイルを用いることで、ワークを速く加熱することができる。
【0062】
〔項目5〕
右側第1コイルと左側第1コイルとが、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている項目1乃至4のいずれかに記載の焼入れ装置。
上記態様よれば、第1領域において、ムラの少ない硬化層を形成できる。
【0063】
〔項目6〕
右側第3コイルと左側第3コイルとが、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている項目4に記載の焼入れ装置。
上記態様よれば、第1領域において、ムラの少ない硬化層を形成できる。
【0064】
〔項目7〕
ワークの長手方向に移動してワークを加熱する誘導加熱コイルを用いた焼入れ方法であって、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、ワークの半径方向において、左側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、右側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、誘導加熱コイルを静止状態にしたままで、右側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、ワークの半径方向において、右側第1コイル及び左側第1コイルをワークの中心軸に対して対称な位置にし、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、誘導加熱コイルを長手方向に移動状態を維持したまま、ワークの半径方向において、右側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、左側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、左側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ方法。
上記態様よれば、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。また、第3領域のワークの移動方向の先頭側の硬化層の端部において、急峻な硬化層を形成でき、不要な硬化層を少なくできる。
【0065】
〔項目8〕
ワークの長手方向に移動してワークを加熱する誘導加熱コイルを用いた焼入れ方法であって、
誘導加熱コイルは、ワークの右側面を加熱する右側コイル及びワークの左側面を加熱する左側コイルを有し、
右側コイルは、ワークの右側の周方向を加熱する右側第1コイルを有し、
左側コイルは、ワークの左側の周方向を加熱する左側第1コイルを有し、
ワークは、ワークの長手方向に少なくとも第1領域と、第2領域と、第3領域とを有し、
第1領域では、ワークの半径方向において、右側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、左側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、誘導加熱コイルを静止状態にしたままで、左側第1コイルがワークを加熱し、
第2領域では、ワークの半径方向において、左側第1コイル及び右側第1コイルをワークの中心軸に対して対称な位置にし、右側第1コイル及び左側第1コイルがワークを加熱し、
第3領域では、誘導加熱コイルを長手方向に移動状態を維持したまま、ワークの半径方向において、左側第1コイルをワークに対して遠ざかった位置にすると共に、右側第1コイルをワークに対して近接した位置にし、右側第1コイルがワークを加熱した後、誘導加熱コイルの加熱を停止する焼入れ方法。
上記態様よれば、第1領域の停止加熱において、短時間で硬化層を形成できる。また、第3領域のワークの移動方向の先頭側の硬化層の端部において、急峻な硬化層を形成でき、不要な硬化層を少なくできる。
【0066】
〔項目9〕
ワークの断面の表面が円形である項目7又は8に記載の焼入れ方法。
上記態様よれば、ワークの表面に均一に硬化層形成できる。
【0067】
〔項目10〕
右側第1コイルと左側第1コイルとが、ワークの長手方向に対して異なる位置に配置されている項目7乃至9のいずれかに記載の焼入れ方法。
上記態様よれば、第1領域において、ムラの少ない硬化層を形成できる。
【符号の説明】
【0068】
1 焼入れ装置
2 誘導加熱コイル
3 コイル移動装置
4 制御装置
10 右側コイル
11 右側第1コイル
12 右側第2コイル
13 右側第3コイル
20 左側コイル
21 左側第1コイル
22 左側第2コイル
23 左側第3コイル
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12