(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082345
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】縦型ウェハボート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240613BHJP
H01L 21/22 20060101ALI20240613BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H01L21/22 511G
H01L21/324 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196130
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】鳥塚 祐太郎
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA02
5F131BA04
5F131BA22
5F131BA24
5F131CA09
5F131CA15
5F131CA18
5F131CA42
5F131DA33
5F131EA04
5F131EA17
5F131EB54
5F131EB55
5F131EB56
5F131EB57
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB81
5F131EC02
5F131EC08
5F131EC12
5F131EC13
5F131EC17
5F131EC18
(57)【要約】
【課題】複数のウェハ支持部を備えた縦型ウェハボートにおいて、シリコンウェハを熱処理する際に、ウェハ周縁部における擦れ傷、及びパーティクルの発生を抑制し、歩留まり低下を抑制すること。
【解決手段】天板3と、前記天板に一端が固定され、他端が底板4に固定された複数の支柱2と、前記複数の支柱から径方向内側に突出するウェハ支持部2aとを有する縦型ウェハボート1であって、前記ウェハ支持部は、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状により高低差のある少なくとも3つの領域2a1、2a2、2a3を有し、前記少なくとも3つの領域の算術平均粗さRaが互いに異なる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板と、前記天板に一端が固定され、他端が底板に固定された複数の支柱と、前記複数の支柱から径方向内側に突出するウェハ支持部とを有する縦型ウェハボートであって、
前記ウェハ支持部は、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状により高低差のある、少なくとも3つの領域を有し、前記少なくとも3つの領域の算術平均粗さRaが互いに異なることを特徴とする縦型ウェハボート。
【請求項2】
前記ウェハ支持部の先端に位置する領域の算術平均粗さRaは、他の領域よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載された縦型ウェハボート。
【請求項3】
前記ウェハ支持部の先端に位置する領域に隣接する領域の算術平均粗さRaは、他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載された縦型ウェハボート。
【請求項4】
前記ウェハ支持部の先端に位置する領域の算術平均粗さRaは、0.4μm以下であって、
前記ウェハ支持部の先端に位置する領域に隣接する領域の算術平均粗さRaは、少なくとも2μmであることを特徴とする請求項3に記載された縦型ウェハボート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型ウェハボートに関し、特に半導体デバイスの製造に使用されるシリコンウェハを熱処理工程において保持する縦型ウェハボートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、シリコンウェハ(以下、ウェハとも呼ぶ)に対し酸化や拡散、CVD等の熱処理が行われる。この熱処理時に使用されるウェハボートとしては、垂直に立設した複数(例えば4本)のボート支柱に対し、水平方向にウェハ支持部(ウェハ格納用溝)が延設された縦型ウェハボートが知られている。
そして、このウェハ支持部にウェハを搭載し、所定の熱処理を行うことで、高スループットを実現し、ウェハの量産化を図っている。
【0003】
従来の縦型ウェハボートにウェハを載置するとき、
図4に示すようにウェハは縦型ウェハボート50に立設された複数のボート支柱51~54の溝60(爪)内に置かれて保持される。この溝60はボートの支柱51~54の延在方向に対して直交方向に形成されている。
このような縦型ウェハボートに載置されたウェハは、種々の熱処理を施されるが、ウェハと支持部との接触部において、傷やスリップの発生の虞があるため、この可能性を低減するために、一般にウェハ支持部の表面粗さを小さくする加工がなされている。
【0004】
しかしながら、そのようにウェハ支持部の表面粗さを小さくする加工を行った場合、ウェハとウェハ支持部との摩擦力が小さいため、急速に加熱される熱処理初期段階において、
図5に示すようにウェハWの中央が下方に撓んでウェハ周縁部が上方に反る、或いはボートが変形することによって、ウェハボート50に対しウェハWが大きく動くことがあった。
そのようにウェハボート50に対しウェハWが大きく動くと、ウェハ周縁部に大きな擦れが生じ、ウェハWにスリップやパーティクルが発生するという課題があった。
【0005】
このような課題に対し、特許文献1には、ボートに対しウェハが動いて擦れることを防止するために、ウェハ載地面における表面粗さを大きくした構成が開示されている。詳しく説明すると、特許文献1に開示されたボートにおいては、
図6に示すようにウェハ支持部20aの上面が、非加熱処理状態のシリコンウェハWが接触する第1の領域20a1と、加熱処理状態のシリコンウェハWが接触する第2の領域20a2とを備え、前記第1の領域20a1の表面粗さが、第2の領域20a2の表面粗さよりも大きく形成されている。
【0006】
これにより、非加熱処理状態(熱処理初期段階)においては、ウェハ外周部が表面粗さの大きい第1の領域20a1に当接して、シリコンウェハWの移動が抑制される。
そして、加熱処理が進行すると、シリコンウェハWが反ってウェハ最外周部が浮き、前記表面粗さの大きい第1の領域20a1から離れる。このとき、ウェハ外周部は、平滑化された第2の領域20a2により支持されることになり、スリップ及びパーティクルの発生を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された縦型ウェハボートにあっては、加熱処理によってウェハ中央が下方に撓み、ウェハ周縁部が徐々に上方に反ると、ウェハ周縁部とウェハ支持部(平滑化された第2の領域20a2)との接触面積が減少していく。そのため、加熱処理が進むにつれ、シリコンウェハWの固定能力が徐々に低下するという課題があった。
その結果、熱処理中にシリコンウェハWがウェハ支持部20aに対して動きやすくなり、ウェハ支持部20aに対してシリコンウェハWが動いた場合に、ウェハ周縁部とウェハ支持部20aとの間で擦れ傷が生じ、シリコンウェハWにスリップが生じる、またパーティクルが発生する虞があるという技術的課題があった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、複数のウェハ支持部を備えた縦型ウェハボートにおいて、シリコンウェハを熱処理する際に、ウェハ周縁部における擦れ傷、及びパーティクルの発生を抑制し、歩留まり低下を抑制することのできる縦型ウェハボートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る縦型ウェハボートは、天板と、前記天板に一端が固定され、他端が底板に固定された複数の支柱と、前記複数の支柱から径方向内側に突出するウェハ支持部とを有する縦型ウェハボートであって、前記ウェハ支持部は、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状により高低差のある、少なくとも3つの領域を有し、前記少なくとも3つの領域の算術平均粗さRaが互いに異なることに特徴を有する。
【0011】
尚、前記ウェハ支持部の先端に位置する領域の算術平均粗さRaは、他の領域よりも小さいことが望ましい。
また、前記ウェハ支持部の先端に位置する領域に隣接する領域の算術平均粗さRaは、他の領域よりも大きいことが望ましい。
また、前記ウェハ支持部の先端に位置する領域の算術平均粗さRaは、0.4μm以下であって、前記ウェハ支持部の先端に位置する領域に隣接する領域の算術平均粗さRaは、少なくとも2μmであることが望ましい。
【0012】
このように本発明の縦型ウェハボートのウェハ支持部は、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状により高低差のある、少なくとも3つの領域を有し、それら少なくとも3つの領域の表面粗さ(算術平均粗さ)Raが互いに異なるように形成されている。
これによりシリコンウェハに熱処理を施した際に、シリコンウェハが撓んでウェハ周縁部とウェハ支持部との接触面積が減少しても、接触面積に対応してウェハ支持部の表面粗さを変化させ、ボートに対するウェハの動きを抑制することができる。その結果、ウェハ周縁部における傷やスリップの発生を防ぎ、歩留まり低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数のウェハ支持部を備えた縦型ウェハボートにおいて、シリコンウェハを熱処理する際に、ウェハ周縁部における擦れ傷、及びパーティクルの発生を抑制し、歩留まり低下を抑制することのできる縦型ウェハボートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る縦型ウェハボートの全体を示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した縦型ウェハボートが有するウェハ支持部を拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)、(b)、(c)は、
図1に示した縦型ウェハボートを用いた熱処理におけるウェハ保持状態の変化を示す側面図である。
【
図4】
図4は、従来の縦型ウェハボートの全体を模式的に示す正面図である。
【
図5】
図5は、従来の縦型ウェハボートにおけるシリコンウェハの載置例を示す側面図である。
【
図6】
図6は、従来の縦型ウェハボートのウェハ支持部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る縦型ウェハボートの実施形態について図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る縦型ウェハボートの全体を示す正面図である。
図2は、
図1に示した縦型ウェハボートが有するウェハ支持部を拡大して示す斜視図である。
【0016】
図1に示すように、ウェハボート1(縦型ウェハボート)は、ウェハ挿入方向の始端側に配された2本の支柱2と、ウェハ挿入方向の終端側に配された1本の支柱2とを具備している。前記各支柱2の下端部は、円板形状の底板4に立設(固定)され、さらに各支柱2の上端部は、円板状の天板3によって支持(固定)されている。
【0017】
図1に示すように前記各支柱2には、それぞれ多数のシリコンウェハWを支持するために複数の板状のウェハ支持部2aが形成されている。各支柱2におけるウェハ支持部2aは、縦方向に50~150個、多段に形成されている。
【0018】
図2に示すようにウェハ支持部2aは、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状を有しており、本実施の形態では、3段の階段状に形成されている。
具体的には、ウェハ支持部2aは、ウェハ支持部2aの先端に形成された第1の領域2a1と、前記第1の領域2a1よりも支柱2側であって、第1の領域2a1の隣に形成された第2の領域2a2と、最も支柱2側であって、第2の領域2a2の隣に形成された第3の領域2a3と、を有する。
【0019】
前記第1の領域2a1の表面の算術平均粗さRaは、他の2つの領域よりも小さく、0.1μm以上0.4μm以下に形成されていることが望ましい。0.1μm以上0.4μm以下であることにより、シリコンウェハWがボートに固着することなく、また、擦れによるシリコンウェハWへの傷やスリップの発生を抑制することができる。
【0020】
また、前記第2の領域2a2の表面の算術平均粗さRaは、他の2つの領域よりも大きく、2.0μm以上2.3μm以下に形成されていることが望ましい。2.0μm以上2.3μm以下であることにより、シリコンウェハWが動き、擦れによりシリコンウェハWに傷やスリップが発生することを抑制でき、また、シリコンウェハWの撓み動作でシリコンウェハWを傷つけることを防ぐことができる。
【0021】
さらに、前記第3の領域2a3の表面の算術平均粗さRaは、前記第1の領域2a1の算術平均粗さRaと第2の領域2a2の算術平均粗さRaとの間、1.7μm以上2.0μm以下に形成されていることが望ましい。1.7μm以上2.0μm以下であることによりシリコンウェハWが動き、擦れによりシリコンウェハWに傷やスリップが発生することを抑制でき、また、シリコンウェハWの撓み動作でシリコンウェハWを傷つけることを防ぐことができる。
【0022】
即ち、前記ウェハ支持部2aは、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状により高低差のある複数の領域(2a1、2a2、2a3)を有し、前記複数の領域の算術平均粗さRaが互いに異なるように形成されている。
また、前記ウェハ支持部2aの先端に位置する第1の領域2a1の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、他の領域2a2、2a3よりも小さく形成され、前記ウェハ支持部2aの先端に位置する第1の領域2a1に隣接する第2の領域2a2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、他の領域2a1、2a3よりも大きく形成されている。
【0023】
また、
図2に示すようにウェハ支持部2aにおいて、その下端から第1の領域2a1までの高さh1は、例えば3mmに形成されている。また、第1の領域2a1から第2の領域2a2までの高さh2は、30μm以上60μm以下に形成されている。また、第2の領域2a2から第3の領域2a3までの高さh3は、30μm以上60μm以下に形成されている。
【0024】
また、第1の領域2a1の径方向長さL1は、10mm以上20mm以下に形成され、第2の領域2a2の径方向長さL2は、10mm以上20mm以下に形成され、第3の領域2a3の径方向長さL3は、10mm以上20mm以下に形成されている。
【0025】
また、
図2に示すように上下に隣り合うウェハ支持部2aのピッチt1は、例えば4mmに形成され、各ウェハ支持部2aの厚さt2(h1+h2+h3)は、例えば3.5mmに形成されている。
また、ウェハ支持部2aの径方向長さt3(L1+L2+L3)は、例えば45mmに形成されている。ウェハ支持部2aの周方向幅(横幅)t4は、例えば15mmに形成されている。
【0026】
尚、
図2に示すように第1の領域2a1、第2の領域2a2、第3の領域2a3において、前端部及び左右両側端部は、シリコンウェハWを載置する際の接触によりウェハWへの傷つけ、パーティクルの発生等を防止するために、面取りされている。
【0027】
また、このウェハボート1は、SiC質基材により形成されるが、基材内部から外方への不純物の拡散を抑制するために、その表面にSiC膜を被覆させることが望ましい。前記SiC質基材としては、反応焼結SiCすなわちカーボン成分を含むSiC焼成体にSiを含浸し、前記カーボン成分とSiの一部とが反応し、SiC化されたSi-SiCであることが好ましい。或いは、SiCの成形体を高温で熱処理した再結晶質SiC、焼結助剤を添加し焼結した自焼結SiC等でもよい。また、前記SiC膜としては、高純度で結晶質のSiC膜を形成することのできるCVDによるSiC膜が好ましい。
【0028】
このようなウェハボート1は次のようにして製造することができる。
まず、SiC質基材を支柱2、天板3、底板4を所定の形状に機械加工して製作する。ウェハ支持部2aの形成においては、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状に加工する。具体的には、ウェハ支持部2aは、ウェハ支持部2aの先端に形成された第1の領域2a1と、前記第1の領域2a1よりも支柱2側であって、第1の領域2a1の隣に形成された第2の領域2a2と、最も支柱2側であって、第2の領域2a2の隣に形成された第3の領域2a3とを形成する。
【0029】
ここで、前記第1の領域2a1の表面の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、他の2つの領域よりも小さく、0.1μm以上0.4μm以下に形成する。また、前記第2の領域2a2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、他の2つの領域よりも大きく、2μm以上2.3μm以下に形成する。さらに、前記第3の領域2a3の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、前記第1の領域2a1の表面粗さ(算術平均粗さ)Raと第2の領域2a2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raとの間、1.7μm以上2.0μm以下に形成する。
【0030】
また、各ウェハ支持部2aの上面側の周縁部は面取り加工を施す。ここで、
図2に示したようにR面取り加工を施すことが好ましいが、単に上面縁部の鋭角部を斜めにカットするようにしてもよい(C面取り加工を施してもよい)。
【0031】
その後、支柱2、天板3、底板4を組み立てる。このとき、ウェハ支持部2aをボート中心側に向けて3本の支柱2を配置する。
上記組み立て後、ボート表面にSiC被覆膜をCVD法により形成し、本発明のウェハボート1が得られる。
【0032】
このように製造されたウェハボート1を用いて、シリコンウェハWの熱処理を行う場合、
図3(a)に示すように、支柱2の各段に形成されたウェハ支持部2aの第3の領域2a3により複数のシリコンウェハWの周縁部を保持する。
【0033】
次いで、複数のシリコンウェハWを保持したウェハボート1を炉内に配置し、所定の熱処理を開始する。
ここで、熱処理初期段階(非加熱処理状態)においては、急速な熱処理の開始によりシリコンウェハWが反ってボート1に対し移動しようとしても、ウェハ周縁部は、表面粗さ(算術平均粗さ)Raが1.7μm以上2.0μm以下と粗い第3の領域2a3により接触面積が大きい状態(摩擦力が大きい状態)で保持される。
即ち、シリコンウェハWは、表面粗さRaが粗い状態の第3の領域2a3により保持されるため、ウェハボート1に対して移動せず、ウェハ周縁部に傷が生じることがない。
【0034】
熱処理が進行すると、
図3(b)に示すように、シリコンウェハWの中央が下方に撓んで周縁部が上方に反り、ウェハ周縁部は、表面粗さ(算術平均粗さ)Raが2.0μm以上2.3μm以下と大きい(とても粗い状態の)第2の領域2a2により保持される。
ここで、熱処理が進行するにつれ、シリコンウェハWは中央が下方に撓み、ウェハ周縁部が徐々に上方に反るため、ウェハ支持部2aに対してシリコンウェハWの周縁部の接触面積が減少していく。しかしながら、ウェハ支持部2aの第2の領域2a2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raがより大きく(即ち、より粗く)形成されているため、シリコンウェハWの固定能力が低下することがない。そのため、シリコンウェハWはウェハボート1に対して動かず、ウェハ周縁部に擦れが生じることがない。
【0035】
熱処理が終了し、ウェハボート1によりシリコンウェハWを長く保持する状態になると、
図3(c)に示すように、シリコンウェハWはより中央が下方に大きく撓み、ウェハ周縁部は大きく上方に反った状態になる。このとき、シリコンウェハWは、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1により、ウェハ周縁部との接触面積が小さい状態で保持される。熱処理は終了しているため、シリコンウェハWの撓みや反りは進行せず、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、0.1以上0.4μm以下と小さく滑らかなため、シリコンウェハWは動かずにウェハ周縁部に傷が生じることがない。
【0036】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、シリコンウェハWの周縁部を複数のウェハ支持部2aで支持する構成であって、前記ウェハ支持部2aは、ウェハ径方向に沿ってボート中心に向かって階段状に突出する形状により高低差のある複数の領域2a1、2a2、2a3を有し、それら複数の領域の表面粗さ(算術平均粗さ)Raが互いに異なるように形成されている。
これによりシリコンウェハWに熱処理を施した際に、シリコンウェハWを撓んでウェハ周縁部とウェハ支持部2aとの接触面積が減少しても、接触面積に対応してウェハ支持部2aの表面粗さを変化させ、ボートに対するウェハの動きを抑制することができる。その結果、ウェハ周縁部における傷やスリップの発生を防ぎ、歩留まり低下を抑制することができる。
【0037】
尚、前記実施の形態においては、各ウェハ支持部2aを高低差の異なる3つの領域で構成したが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではなく、例えば高低差の異なる4つ以上の領域で構成してもよい。
例えば4つの領域で構成される場合、先端に位置する第1の領域の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、他の3つの領域よりも小さく形成され、前記ウェハ支持部の先端に位置する第1の領域に隣接する第2の領域の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、他の領域よりも大きく形成され、前記ウェハ支持部の第2の領域に隣接する第3の領域の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、第2領域よりも小さく、その他の領域より大きく形成される。
【0038】
また、前記実施の形態においては、3本の支柱2に形成されたウェハ支持部2aによりシリコンウェハWを支持する構成としたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではない。
例えば、4本の支柱に形成されたウェハ支持部によりシリコンウェハWを支持するようにしてもよい。
【0039】
また、前記実施の形態においては、ウェハボート1は、SiC基材の表面にSiC膜を形成したものとしたが、本発明にあっては、その構成に限定されず、例えば、SiC基材のみで形成されたものでもよい。
【実施例0040】
本発明に係る縦型ウェハボートについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に示した縦型ウェハボートを製造し、得られた縦型ウェハボートを用いてウェハの熱処理を行うことによりその性能を検証する実験を行った。
【0041】
(実験1)
実験1では、縦型ウェハボートに直径300mmの1枚のシリコンウェハを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、
図1乃至
図3に示したウェハボート1(直径300mmのシリコンウェハ用)を製造した。ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.1μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.2μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは1.8μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.4μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.1μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは1.9μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0044】
(実施例3)
実施例3では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.3μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.0μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは1.8μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0045】
(実施例4)
実施例4では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.3μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.3μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは1.9μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0046】
(実施例5)
実施例5では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.3μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.2μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは1.7μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0047】
(実施例6)
実施例6では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.3μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.1μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは2.0μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0048】
(実施例7)
実施例7では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは2.0μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.3μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは1.7μmとした(先端の第1の領域2a1の算術平均粗さRaが最小ではない)。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0049】
(実施例8)
実施例8では、ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.3μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは1.7μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは2.0μmとした。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0050】
(比較例1)
比較例1では、
図1乃至
図3に示したウェハボート1(直径300mmのシリコンウェハ用)を製造した。ウェハ支持部2aの第1の領域2a1の算術平均粗さRaは0.4μm、第2の領域2a2の算術平均粗さRaは2.0μm、第3の領域2a3の算術平均粗さRaは2.0μmとした(第2、第3の領域2a2、2a3の算術平均粗さRaが同じ)。
このウェハボート1に直径300mmの1枚のシリコンウェハWを保持し、炉内温度700℃にて2時間、4回の操業を連続して実施し、ウェハ周縁部における傷の発生を観察した。
【0051】
表1に実験1の結果を示す。尚、表1において、○は傷なし、△は傷が4箇所以下、×は傷が5箇所以上を示す。
表1に示すように実施例1乃至実施例6では、4回の操業のうち、いずれもウェハ周縁部下面の傷は確認されなかった。
実施例7では、3回目、4回目の操業において、4箇所以下の傷が確認された。即ち、先端の第1の領域2a1の算術平均粗さRaが最小ではない場合、傷が生じる場合があることを確認した。
また、実施例8では、3回目、4回目の操業において、4箇所以下の傷が確認された。即ち、第1の領域2a1に隣接する領域の算術平均粗さRaが最大ではない場合、傷が生じる場合があることを確認した。
一方、第2、第3の領域2a2、2a3の算術平均粗さRaが同じである比較例1では、全ての操業において5個以上のウェハ周縁部下面の傷が確認された。
【0052】
【0053】
本実施例の結果、ウェハ支持部の3つの領域の算術平均粗さRaが互いに異なる場合に、ウェハ周縁部における傷の発生数を低減することができることを確認した。特に、ウェハ支持部の先端に位置する領域の算術平均粗さRaが他の領域よりも小さい場合や、ウェハ支持部の先端に位置する領域に隣接する領域の算術平均粗さRaが、他の領域の算術平均粗さRaよりも大きい場合に、ウェハ周縁部における傷の発生を抑制することができることを確認した。