(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082361
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】制御弁
(51)【国際特許分類】
F16K 11/07 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16K11/07 E
F16K11/07 D
F16K11/07 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196155
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000227803
【氏名又は名称】NACOL株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉村 健
(72)【発明者】
【氏名】下山 弘高
【テーマコード(参考)】
3H067
【Fターム(参考)】
3H067AA17
3H067CC02
3H067CC33
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD24
3H067EA02
3H067EA14
3H067EB10
3H067EB12
3H067EB24
3H067FF11
3H067GG13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】制御弁の作動流体が水又は水に性質が近い液体(水様液)であったとしても、摺動軸部と外筒部との間の隙間寸法の許容範囲をより広くすることが可能な制御弁を提供する。
【解決手段】摺動軸部3と、複数のポート10が設けられた外筒部2と、を備える制御弁1において、摺動軸部3を、軸部本体12を有し、軸部本体12が、少なくとも周方向に間欠的に設けられた溝部16を有するものとし、外筒部2を、内部が、軸部本体12が摺動可能に貫設された複数の室6に区画されたものとし、室6を区画する隔壁8と軸部本体12との間に、略環状の封止部7を設け、各ポート10を、互いに異なる室6と接続し、封止部7を、軸部本体12を圧接可能に設けられたシールリップ部11を有するものとし、軸部本体12を摺動させ、封止部7と溝部16とを対向させることで、溝部16を介して隣接する室6間を連通可能とする。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動軸部と、複数のポートが設けられた外筒部と、を備える制御弁であって、
該摺動軸部は、軸部本体を有し、該軸部本体は、少なくとも周方向に間欠的に設けられた溝部を有し、
該外筒部は、内部が、該軸部本体が摺動可能に貫設された複数の室に区画されており、
該室を区画する隔壁と該軸部本体との間には、略環状の封止部が設けられ、
各該ポートは、互いに異なる該室と接続され、
該封止部は、該軸部本体を圧接可能に設けられたシールリップ部を有し、
該軸部本体を摺動させ、該封止部と該溝部とを対向させることで、該溝部を介して隣接する該室間を連通可能となっていることを特徴とする制御弁。
【請求項2】
前記軸部本体は、内部に流路が形成されており、該流路と前記室を連通するための出入口が設けられており、
該流路は、離間する前記室間を連通可能に設けられていることを特徴する請求項1に記載の制御弁。
【請求項3】
作動流体が、水又は水様液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御弁。
【請求項4】
前記隔壁は、前記外筒部及び前記封止部とは、別体となっていることを特徴とする請求項1又2に記載の制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁に関し、より詳細には、摺動軸部を備える制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制御弁として、作動流体を水とするスプール弁がある(非特許文献1を参照)。該スプール弁は、ランドが形成された串型のスプールをポートが形成されたシリンダ内を摺動可能に設けられている。該ランドの外径は、該シリンダの内径と略同形に形成されており、該ランドの位置によって該ポート間を開放し又は閉鎖することで、流路方向を切り替えることが可能としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】吉田大志,”水圧電磁比例制御弁の応答特性”,KYB技報,KYB株式会社,2017年,第54号,p.16-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプール弁は、シリンダ内をスプールが摺動する様になっている以上、シリンダとスプールとの間には、どうしても僅かな隙間が生まれることになる。一方、スプール弁は、シリンダとスプールとの間から作動流体が漏出しないことが要求されるため、該隙間は、作動流体が漏出しない程度の隙間とする必要がある。作動流体が水である場合、隙間寸法の許容範囲が狭く、従来のスプール弁においては、シリンダとスプールに精密な加工が求められ、それ故に、コスト高となるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、制御弁の作動流体が水又は水に性質が近い液体(水様液)であったとしても、摺動軸部と外筒部との間の隙間寸法の許容範囲をより広くすることが可能な制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、摺動軸部と、複数のポートが設けられた外筒部と、を備える制御弁であって、該摺動軸部は、軸部本体を有し、該軸部本体は、少なくとも周方向に間欠的に設けられた溝部を有し、該外筒部は、内部が、該軸部本体が摺動可能に貫設された複数の室に区画されており、該室を区画する隔壁と該軸部本体との間には、略環状の封止部が設けられ、
各該ポートは、互いに異なる該室と接続され、該封止部は、該軸部本体を圧接可能に設けられたシールリップ部を有し、該軸部本体を摺動させ、該封止部と該溝部とを対向させることで、該溝部を介して隣接する該室間を連通可能となっていることを特徴とする制御弁である。
【0007】
尚、本発明は、前記軸部本体を、内部に流路が形成されており、該流路と前記室を連通するための出入口が設けられているものとし、該流路を、離間する前記室間を連通可能に設けることが可能である。又、本発明は、作動流体を水又は水様液とすることが可能である。又、本発明は、前記隔壁を、前記外筒部及び前記封止部とは、別体とすることが可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、室を区画する隔壁と摺動軸部の軸部本体との間に、略環状の封止部を設け、該封止部が、該軸部本体を圧接可能に設けられたシールリップ部を有しているため、作動流体が水又は水様液であったとしても、摺動軸部と外筒部との間の隙間寸法の許容範囲をより広くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2A】
図1のAB部拡大図であり、PA接続時の様子を示す図である。
【
図2B】
図1のAB部拡大図であり、BT接続時の様子を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態おける軸部本体を示す図であり、(a)が正面図であり、(b)は(a)のIIIb-IIIb断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を、水又は水様液を作動流体とする方向制御弁1を例として、
図1乃至
図3に基づき説明する。方向制御弁1は、制御弁の一例であり、スプール弁ともいわれ、外筒部2と、摺動軸部3と、を備えている。
【0011】
本実施形態においては、方向制御弁1は、摺動軸部3の位置を制御するための制御軸4と発条軸5とを備えており、クローズドセンタを採用している。以下、本実施形態において、制御軸4がある側の端を基端と、発条軸5がある側の端を先端として説明する。尚、方向制御弁1としては、クローズドセンタ以外のもの、例えば、中立位置でタンク側と繋ぐABT接続等、も適宜採用可能である。
【0012】
外筒部2は、内部が、隔壁によって、複数の室6に区画されている。室6には、後述する摺動軸部3の軸部本体12が、摺動可能に貫設されている。該隔壁と軸部本体12との間には、略環状の封止部7が設けられている。隣接する室6間は、封止部7によって、後述する様に摺動軸部3の溝部16を介さずして、連通しない様になっている。
【0013】
本実施形態において、外筒部2の内面には、複数の室6を区画する前記隔壁として、シールケース8が取り付けられており、シールケース8に、封止部7が取り付けられている。又、シールケース8とシールケース8との間に室6を確保するためにスペーサ9が設けられている。
【0014】
又、外筒部2には、複数のポート10、例えば、供給ポート10P、戻りポート10T並びに接続ポート10A及び接続ポート10Bを含む複数のポート、が設けられている。各ポート10は、互いに異なる室6と接続する様に設けられている。尚、ポート10の数や種類は、適宜選択可能である。
【0015】
本実施形態においては、外筒部2内は、5つの室6に区画されており、基端側より、どのポート10にも接続されていない室6N、接続ポート10Bが接続された室6B、供給ポート10Pが接続された室6P、接続ポート10Aが接続された室6A及び戻りポート10Tが接続された室6Tとなっている。尚、室6の数等は、適宜選択可能である。
【0016】
封止部7は、隣接する室6間を前記作動流体が漏出しない様に封止するために設けられており、後述する摺動軸部3の軸部本体12と圧接可能に設けられたシールリップ部11を有している。隣接する室6間は、シールリップ部11が、軸部本体12を圧接することによって、封止されており、軸部本体12を摺動させ、軸部本体12の溝部16を封止部7と対向させ、溝部16をシールリップ部11に跨乗させた際に、溝部16を介して連通する様になっている。
【0017】
本実施形態において、封止部7は、断面略コ字状のシールであり、内周面側がシールリップ部11となっている。又、封止部7は、滑性のよい樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、により形成されている。シールリップ部11は、封止部7の内方に前記作動流体が入り込むことにより、その流体圧により軸部本体12をより圧接する様になっており、供給ポート10Pより室6Pに高い流体圧の該作動流体が方向制御弁1内に供給されたとしても隣接する室6A及び/又は室6Bに、該作動流体が漏出するのを防止できる様になっている。尚、封止部7の形状等は、適宜選択可能であり、例えば、U字状やY字状とすることも可能である。
【0018】
摺動軸部3は、軸部本体12を有している。本実施形態において、摺動軸部3は、軸部本体12の一端(基端)が制御軸4に連結されており、その他端(先端)に発条軸5に連結されている。制御軸4は、制御ヒンジ13を介して把持部14が取り付けられており、把持部14を操作することで、軸部本体12の位置を調整可能となっている。尚、軸部本体12の位置を調整する方法は、手動に限られるものでなく、半自動又は自動であってもよく、公知の方法から適宜選択可能である。
【0019】
発条軸5は、発条15によって付勢されている。本実施形態においては、発条軸5はスプリングセンタ型となっており、制御軸4が操作されていない時は、軸部本体12が中央に位置する様になっている。尚、発条軸5は、必ずしもスプリングセンタ形でなくともよく、ノースプリングデテント形でもスプリングオフセット形であってもよい。
【0020】
軸部本体12は、少なくとも周方向に間欠的に設けられた溝部16を有している。又、軸部本体12は、各室6を摺動可能に貫設され、封止部7のシールリップ部11によって圧接されている。本実施形態において、軸部本体12は、略円柱状に形成されており、周方向に四分円毎に設けられた4つの溝部16を1組として、基端側と先端側のそれぞれに溝部16が設けられている(以下、基端側の溝部16を溝部16Aと、先端側の溝部16を溝部16Bと表記する)。
【0021】
又、本実施形態において、軸部本体12は、中空に形成されており、その内部に流路17が設けられていると共に流路17の出入口18が設けられている。流路17は、離間している室6と室6とを連通させるために設けられており、出入口18は、そのための適宜な位置、例えば、軸部本体12の両端部、に設けられる。
【0022】
溝部16は、隣接する室6間を連通するために設けられており、軸部本体12を摺動させ、溝部16が封止部7と対向させ、溝部16をシールリップ部11に跨乗させることで、隣接する室6と室6とが、溝部16を介して連通する様になっている。
【0023】
本実施形態において、溝部16は、断面略舟形状に形成され、軸方向において、隣接する封止部7間の距離と略同等の長さで形成されると共に同距離と同程度に溝部16
Aと溝部16
Bとが離間して設けられている。尚、先端側の溝部16と基端側の溝部16と間の軸方向の距離や溝部16の軸方向の長さは、例えば、本実施形態の様にクローズドセンタを採用する場合、方向制御弁1が何れのポート10間も連通していないクローズドセンタの状態(
図1の状態)で、溝部16が封止部7に対向しない範囲で適宜設定可能である。又、溝部16の形状等は適宜選択可能であり、例えば、断面略円弧状であってもよい。
【0024】
例えば、方向制御弁1をPA接続する場合は、把持部14を操作し、軸部本体12を基端側に摺動させ、室6Pと室6A間に設けられた封止部7PAを溝部16Bと対向させて、溝部16Bを封止部7PAのシールリップ部11に跨乗させる。
【0025】
そうすると、
図2A中に薄墨で示した通り、溝部16
Bを介して室6
Pと室6
Aとが連通し、それにより、供給ポート10
Pから接続ポート10
Aとが接続され、供給ポート10
Pと接続ポート10
Aとの間に前記作動流体を流すことが可能となる。この際、室6
Bと室6
Pとの間に位置する封止部7
BPは、軸部本体12の全周に亘り圧接しているため、室6
Pと室6
Bへと該作動流体が漏れ出ることが防止される。又、同様に、室6
Aと室6
Tとの間も封止部7
ATにより該作動流体の漏出が防止される。
【0026】
又、方向制御弁1を、BT接続する場合は、同様に、把持部14を操作し、軸部本体12を基端側に摺動させ、室6Nと室6B間に設けられた封止部7NBが溝部16Aと対向させて、溝部16Aを封止部7NBのシールリップ部11に跨乗させる。そうすると、溝部16Aを介して室6Nと室6Bとが連通される。
【0027】
この際、軸部本体12の出入口18は、一方が室6
Nと他方が室6
Tと連通しており、この二室は、流路17を介して接続されている。従って、
図2B中に薄墨で示した様に、室6
Bと室6
Tとが、流路17を介して接続されることとなり、接続ポート10
Bと戻りポート10
Tとの間に前記作動流体を流すことが可能となる。この際、封止部7
BP及び封止部7
ATが軸部本体12に圧接されているため、室6
Aや室6
Pに該作動流体が漏出することが防止される。
【0028】
尚、把持部14を操作して、軸部本体12を先端側に移動させることにより、上記PA接続時と同様に方向制御弁1をAT接続及びPB接続させることも可能である。方向制御弁1をAT接続させる場合には、溝部16Bを封止部7ATと対向させ、溝部16Bを封止部7ATのシールリップ部11に跨乗させることで、室6Aと室6Tとが溝部16Bを介して連通させる。又、方向制御弁1をPB接続させる場合は、溝部16Aを封止部7BPと対向させ、溝部16Aを封止部7BPのシールリップ部11に跨乗させることで、室6Pと室6Bとが溝部16Aを介して連通させる。
【0029】
従って、本実施形態の方向制御弁1においては、各室6を区画する隔壁であるシールケース8と軸部本体12との間に封止部7を設け、封止部7が、軸部本体12を圧接可能に設けられたシールリップ部11を有することにより、外筒部2(シールケース8)と軸部本体12との間に多少の隙間があったとしても、該隙間が、シールリップ部11が軸部本体12を圧接可能な程度の隙間であれば、作動流体の漏出を防止可能であるため、外筒部2(シールケース8)と軸部本体12との間の隙間寸法の許容範囲をより広くすることが可能である。それによって、従来の水を作動流体とするスプール弁よりも、精密な加工が必要となくなり、コストを低減することが可能となっている。
【0030】
封止部7が、シールリップ部11を有する副次的な効果として、従来のスプール弁においては、作動流体が水である場合、水は、比較的潤滑性が小さく、シリンダとスプール間の隙間の許容範囲も狭かったため、スプールの摺動性が低いものであったが、本実施形態の方向制御弁1においては、シールリップ部11によって、外筒部2と軸部本体12との間の隙間寸法の許容範囲をより広くすることが可能であるので、軸部本体12の摺動性を従来のスプール弁より向上させることが可能となっている。更に、本実施形態においては、封止部7が、滑性のよい樹脂で形成されているため、軸部本体12の摺動性がより向上されている。
【0031】
又、本実施形態の方向制御弁1においては、溝部16が、軸部本体12の周方向に間欠的に設けられていることで、以下の様な副次的な効果を奏することが可能である。
【0032】
仮に、溝部16が、周方向全周に亘って設けられているとすると溝部16と対向している封止部7は、軸部本体と全く接していないこととなる。封止部7にシールリップ部11が設けられている場合、溝部16と対向している封止部7のシールリップ部11は、作動流体の流れる方向によっては、シールリップ部11が開く方向に力を受けることとなる。その場合、シールリップ部11が開くのを遮るものなないため、開き過ぎてしまい、破損してしまう可能性がある。
【0033】
一方、本実施形態の方向制御弁1においては、溝部16が、軸部本体12の周方向に間欠的に設けられているので、例え、溝部16と封止部7が対向していたとしても、シールリップ部11は、他の部分において、軸部本体12によって支持させていることとなる。
【0034】
そのため、シールリップ部11は、溝部16に跨乗されている部分において、両持ち梁の様な状態となっており、シールリップ部11を開こうとする力に対して、反力が働くこととなる。それによって、シールリップ部11が開き過ぎることを防止され、シールリップ部11の破損が回避されることとなる。
【0035】
以上、本発明を、上記実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【0036】
(1)上記実施形態においては、流路16を介してBT接続をしたが、流路16を設ける替わりに室6Nを戻りポート10Tと連通させることでBT接続できる様にしてもよい。
【0037】
(2)上記実施形態においては、外筒部2内を複数の室6に区画する隔壁として、シールケース8を設け、該隔壁を、外筒部2や封止部7とは、別体として設けたが、該隔壁を、外筒部2や封止部7と一体として設けることも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 方向制御弁 2 外筒部 3 摺動軸部
4 制御軸 5 発条軸 6 室
7 封止部 8 シールケース 9 スペーサ
10 ポート 11 シールリップ部 12 軸部本体
13 制御ヒンジ 14 把持部 15 発条
16 溝部 17 流路 18 出入口