(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082381
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】漏電監視装置および漏洩電流検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20240613BHJP
【FI】
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196182
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596041168
【氏名又は名称】株式会社竹中電機
(71)【出願人】
【識別番号】517161142
【氏名又は名称】株式会社SoBrain
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】内藤 恒陽
(72)【発明者】
【氏名】新村 浩
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】榊原 健二
(72)【発明者】
【氏名】頭本 頼数
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA16
2G014AB24
2G014AB33
(57)【要約】
【課題】漏洩電流を監視可能な対象を広くできる漏電監視装置および漏洩電流検出方法を提供すること。
【解決手段】漏電計測器20(漏電監視装置)の2個1組の個別変流器21,22(個別計測器)は、2本1組の正極線12及び負極線13の各々を流れる電流を個別に計測する。この計測した電流の合計が個別変流器21,22の下流側で生じた漏洩電流の値を示す。特に、個別変流器21,22によれば、正極線12と負極線13とが互いに離れていても、正極線12及び負極線13を流れる電流の合計を算出可能にして漏洩電流を監視できる。その結果、漏電計測器20によって漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を監視する漏電監視装置であって、
前記計測対象物の所定範囲に生じた漏洩電流を監視可能な1つ以上の計測部を備え、
その計測部の1つには、複数本1組の前記電源線の各々を流れる電流を個別に計測する複数個1組の個別計測器によって形成されるものがあることを特徴とする漏電監視装置。
【請求項2】
1組の前記個別計測器の計測位置で1組の前記電源線の間に生じている電圧を計測する基準検出部と、
その基準検出部で計測した電圧を、その計測時の前記個別計測器で計測した電流に関連付ける基準関連付手段と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の漏電監視装置。
【請求項3】
前記負荷機器の作動状態を取得する取得手段と、
その取得手段で取得した作動状態を、その取得時の前記個別計測器で計測した電流に関連付ける状態関連付手段と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の漏電監視装置。
【請求項4】
1組の前記個別計測器で計測した電流の合計に関するデータを記憶可能な記憶部と、
その電流の合計を算出する合計算出手段と、
その合計算出手段で算出された合計に基づき、その合計に関するデータを前記記憶部に記憶するかを判断する記憶判断手段と、
その記憶判断手段でデータを記憶すると判断した場合に、そのデータを前記記憶部に記憶させる記憶実行手段と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の漏電監視装置。
【請求項5】
前記計測部は、1組の前記電源線の上流側と下流側とにそれぞれ離れて2つ以上設けられ、各々が配置された位置よりも下流側の前記計測対象物で生じた漏洩電流を監視することを特徴とする請求項1記載の漏電監視装置。
【請求項6】
前記計測部の1つには、通電によって1組の前記電源線の複数本にそれぞれ生じる磁界をまとめて計測し、その磁界に基づいてそれらの電源線を流れる電流の合計を計測する零相計測器によって形成されるものがあることを特徴とする請求項5記載の漏電監視装置。
【請求項7】
1組の前記電源線は、
上流側の1組の幹電線と、
その1組の幹電線からそれぞれ分岐する複数組の分岐電線と、を備え、
前記負荷機器は、1組の前記分岐電線ごとにそれぞれ接続されて複数設けられ、
複数組の前記分岐電線よりも上流側の1組の前記幹電線に前記計測部が配置され、それとは別の前記計測部が1組の前記分岐電線に配置されることを特徴とする請求項5又は6に記載の漏電監視装置。
【請求項8】
前記計測対象物は、前記負荷機器が収容される筐体と、その筐体を接地させる接地線と、を備え、
前記計測部は、2つ以上設けられ、
その計測部の1つには、前記接地線を流れる電流を計測する接地側計測器によって形成されるものがあることを特徴とする請求項1記載の漏電監視装置。
【請求項9】
上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を監視する漏電監視装置であって、
1本の前記電源線を流れる電流を計測する上流計測器と、
その上流計測器により電流が計測される前記電源線のうち前記上流計測器の計測位置よりも下流側において、その電源線を流れる電流を計測する下流計測器と、を備えていることを特徴とする漏電監視装置。
【請求項10】
上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法であって、
複数本1組の前記電源線の各々を流れる電流を計測器によって個別に計測する個別計測ステップと、
その個別計測ステップで個別に計測した複数の電流を合計する合計ステップと、
その合計ステップで合計した電流に基づき前記計測対象物の漏洩電流を検出する検出ステップと、
を備えていることを特徴とする漏洩電流検出方法。
【請求項11】
上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法であって、
1本の前記電源線の異なる2か所にそれぞれ流れる電流を計測器によって個別に計測する計測ステップと、
その計測ステップで計測した2か所の電流の差を算出する差分ステップと、
その差分ステップで算出した電流の差に基づき前記計測対象物の漏洩電流を検出する検出ステップと、
を備えていることを特徴とする漏洩電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の漏洩電流を監視する漏電監視装置および漏洩電流検出方法に関し、特に漏洩電流を監視可能な対象を広くできる漏電監視装置および漏洩電流検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気回路は、直流または交流の電力を複数本1組の電源線によって上流側の電源などから下流側の負荷機器へ供給し、その供給された電力で負荷機器を作動させる。この電気回路を計測対象物とし、計測対象物から地面などへ漏れる漏洩電流を監視するための漏電監視装置が知られている。
【0003】
特許文献1に開示された漏電監視装置では、1つの変流器に3本1組の電源線を一緒に貫通させ、それらの電源線を流れる電流の合計を変流器で計測している。変流器の下流側で漏洩電流が生じていない場合、基本的に、変流器を通って負荷機器へ向かう電流の全てが、再び変流器を通って負荷機器から上流側へ戻る。よってこの場合、変流器による計測結果(1組の電源線を流れる電流の合計)が基本的に略0Aとなる。これに対し変流器を迂回するように下流側で漏洩電流が生じると、その漏洩電流と逆向きで同じ大きさの電流が変流器で計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の漏電監視装置では、例えば1組の電源線の各々の位置が離れていると、1つの変流器に1組の電源線を一緒に貫通させることが不可能となる場合がある。この場合には、変流器を用いた漏電監視装置で計測対象物の漏洩電流を計測できない。即ち従来の漏電監視装置には、漏洩電流を監視可能な対象が狭いという問題点がある。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、漏洩電流を監視可能な対象を広くできる漏電監視装置および漏洩電流検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の漏電監視装置は、上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を監視するものであって、前記計測対象物の所定範囲に生じた漏洩電流を監視可能な1つ以上の計測部を備え、その計測部の1つには、複数本1組の前記電源線の各々を流れる電流を個別に計測する複数個1組の個別計測器によって形成されるものがある。
【0008】
なお、「負荷用電力」とは直流電力でも交流電力でも良く、その交流電力は単相でも三相でも良い。また、「漏洩電流を監視する」とは、計測対象物に生じた漏洩電流を漏電監視装置で算出する場合に限らず、漏洩電流の算出に必要な計測結果を漏電監視装置から外部の制御機器などへ送信して、その外部制御機器上で漏洩電流を算出可能にする場合を含む。
【0009】
また、上記目的を達成するための別の手段として本発明の漏電監視装置は、上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を監視するものであって、1本の前記電源線を流れる電流を計測する上流計測器と、その上流計測器により電流が計測される前記電源線のうち前記上流計測器の計測位置よりも下流側において、その電源線を流れる電流を計測する下流計測器と、を備えている。
【0010】
本発明の漏洩電流検出方法は、上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を検出する方法であって、複数本1組の前記電源線の各々を流れる電流を計測器によって個別に計測する個別計測ステップと、その個別計測ステップで個別に計測した複数の電流を合計する合計ステップと、その合計ステップで合計した電流に基づき前記計測対象物の漏洩電流を検出する検出ステップと、を備えている。
【0011】
本発明における別の漏洩電流検出方法は、上流から下流へ負荷用電力を供給する複数本1組の電源線と、その1組の電源線から供給された負荷用電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法であって、1本の前記電源線の異なる2か所にそれぞれ流れる電流を計測器によって個別に計測する計測ステップと、その計測ステップで計測した2か所の電流の差を算出する差分ステップと、その差分ステップで算出した電流の差に基づき前記計測対象物の漏洩電流を検出する検出ステップと、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の漏電監視装置は、複数本1組の電源線から供給された負荷用電力によって負荷機器を作動させる計測対象物に対し、1つ以上の計測部によってその計測対象物の所定範囲に生じた漏洩電流を監視するものである。計測部の1つには、複数個1組の個別計測器によって形成されるものがある。この1組の個別計測器は、計測対象物のうち複数本1組の電源線の各々を流れる電流を個別に計測する。
【0013】
例えば計測対象物に漏洩電流が生じていない場合、基本的には、負荷機器へ向かって1組の電源線の一部を通った電流の全てが、1組の電源線の他部を通って負荷機器から上流側へ戻るため、1組の個別計測器で計測した電流の合計(1組の電源線を流れる電流の合計)が略0Aとなる。なお、「1組の個別計測器で計測した電流の合計」とは、上流へ向かう電流を正の値とし、下流へ向かう電流を負の値として両者を合計したものである。
【0014】
一方、従来技術と同様で基本的には、個別計測器の計測位置(個別計測器により電流が計測される位置)よりも下流側で漏洩電流が生じると、1組の個別計測器で計測した電流の合計がその漏洩電流の値を示す。このように漏電監視装置は、1組の個別計測器(計測部)によって、その個別計測器の計測位置よりも下流で生じた漏洩電流を監視できる。
【0015】
特に本発明の漏電監視装置では、1組の電源線の各々を流れる電流が個別に個別計測器で計測されるので、例えば電源線の各々が互いに離れていても、1組の電源線を流れる電流の合計を算出可能にして漏洩電流を監視できる。その結果、漏電監視装置によって漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。
【0016】
請求項2記載の漏電監視装置によれば、請求項1記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。1組の個別計測器で計測した電流の合計を漏洩電流として算出する場合、その合計は、個別計測器の計測位置で1組の電源線の間に生じている電圧に影響を受ける。そこで、この電圧を基準検出部で計測する。更に、この計測した電圧を、その計測時に個別計測器で計測した電流に基準関連付手段で関連付ける。これにより、1組の個別計測器で計測した電流の合計を電圧に基づき補正して漏洩電流の値を算出できるので、漏洩電流の検出精度を確保可能な範囲を広くできる。
【0017】
なお、「A」(例えば1組の個別計測器で計測した電流の合計)に、「B」(例えば基準検出部で計測した電圧)を関連付けるとは、例えば、「A」と「B」とを互いに関連付けた状態で同一のメモリに記憶しても良く、「A」及び「B」を別々のメモリに記憶して「A」及び「B」の計測日時に基づき両者を関連付けても良い。更に、「A」及び「B」を用いて特定の値を算出することを、「A」に「B」を関連付けるとしても良い。また、「A」自体に「B」を関連付ける場合に限らず、「A」を用いて算出した値に「B」を関連付けても良い。
【0018】
請求項3記載の漏電監視装置によれば、請求項1記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。負荷機器の作動状態(負荷機器の制御状態や時刻、外気の温度、湿度など)を取得手段で取得する。更に、この取得した作動状態を、その取得時に個別計測器で計測した電流に状態関連付手段で関連付ける。これにより、例えば、1組の個別計測器で計測した電流の合計から算出した漏洩電流の値が、特定の作動状態に限って大きくなる場合には、その特定の作動状態で電流が流れる部分に漏洩電流が発生していると推定できる。よって、漏洩電流の発生の原因を解析し易くできる。
【0019】
請求項4記載の漏電監視装置によれば、請求項1記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。合計算出手段によって、1組の個別計測器で計測した電流の合計を算出する。記憶判断手段では、合計算出手段で算出された合計に基づき、その合計に関するデータを記憶部に記憶するかを判断する。その記憶判断手段でデータを記憶すると判断した場合に、記憶実行手段では、上記合計に関するデータを記憶部に記憶させる。これにより、例えば、上記合計に関するデータのうち、漏洩電流の解析に有効なデータを選定して記憶部に記憶できるので、所定時間当たりに記憶部へ記憶されるデータ量を少なくでき、漏電監視装置を小型化およびコストダウンし易くできる。
【0020】
なお、「X」(例えば、1組の個別計測器で計測した電流の合計)に関するデータとは、「X」のデータ自体でも良く、「X」を算出するためのデータ(例えば、各々の個別計測器による電流)や、「X」を用いて算出した値のデータ(例えば、複数の合計を平均した平均値)でも良い。
【0021】
請求項5記載の漏電監視装置によれば、請求項1記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。計測部は、1組の電源線の上流側と下流側とにそれぞれ離れて2つ以上設けられ、各々が配置された位置よりも下流側の計測対象物で生じた漏洩電流を監視する。これにより、例えば上流側の計測部の計測結果と下流側の計測部の計測結果との差分から、上流側の計測部と下流側の計測部との間で生じた漏洩電流を計測できる。よって、漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0022】
請求項6記載の漏電監視装置によれば、請求項5記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。計測部の1つには、通電によって1組の電源線の複数本にそれぞれ生じる磁界をまとめて計測し、その磁界に基づいてそれらの電源線を流れる電流の合計を計測する零相計測器によって形成されるものがある。これにより、例えば1組の電源線の各々が1束にまとめられている位置であって、個別計測器による電流の計測が困難な位置であっても、零相計測器でその位置の電流の合計を計測できる。その結果、計測部の配置の自由度を向上できるので、漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0023】
請求項7記載の漏電監視装置によれば、請求項5又は6に記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。1組の電源線は、上流側の1組の幹電線と、その1組の幹電線からそれぞれ分岐する複数組の分岐電線と、を備える。複数の負荷機器が1組の分岐電線ごとにそれぞれ接続される。複数組の分岐電線よりも上流側の1組の幹電線に配置された計測部は、それら複数組の分岐電線に接続された負荷機器の漏洩電流の合計を容易に監視(計測または算出)できる。また、それとは別の計測部は、1組の分岐電線に配置されているため、その1組の分岐電線に接続された負荷機器の漏洩電流を、他の分岐電線に接続された負荷機器の漏洩電流に影響されることなく監視できる。更に、幹電線側の計測部と分岐電線側の計測部との計測結果を比較することで、漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0024】
請求項8記載の漏電監視装置によれば、請求項1記載の漏電監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。計測対象物は、負荷機器が収容される筐体と、その筐体を接地させる接地線と、を備える。2つ以上設けられる計測部のうち1つは、接地線を流れる電流を計測する接地側計測器によって形成される。この接地側計測器によって、負荷機器と筐体との間に生じた漏洩電流を計測できる。この計測結果と、1組の個別計測器による計測結果(個別計測器の計測位置よりも下流側で生じた漏洩電流)とを比較することで、漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0025】
請求項9記載の漏電監視装置は、複数本1組の電源線から供給された負荷用電力によって負荷機器を作動させる計測対象物に対し、その計測対象物の漏洩電流を監視するものである。複数本1組の電源線のうちの1本を流れる電流が上流計測器によって計測される。更に、その上流計測器により電流が計測される1本の電源線のうち上流計測器の計測位置よりも下流側において、その電源線を流れる電流が下流計測器によって計測される。これにより、上流計測器と下流計測器との計測結果に差が有った場合、それらの間で漏洩電流が生じたと判断できる。このように、漏電監視装置は、複数本1組の電源線の各々の電流を計測しなくても漏洩電流を監視できるので、漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。
【0026】
請求項10記載の漏洩電流検出方法によれば、請求項1記載の漏電監視装置の奏する効果と同様に、複数本1組の電源線を流れる電流を個別に計測することで、その電流の合計に基づいて計測対象物の漏洩電流を検出でき、漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。
【0027】
請求項11記載の漏洩電流検出方法によれば、請求項9記載の漏電監視装置の奏する効果と同様に、複数本1組の電源線の各々の電流を計測しなくても計測対象物の漏洩電流を検出でき、漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態における漏電監視装置(漏電計測器)および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【
図2】(a)は個別変流器および零相変流器で計測される電流の経時変化を示すグラフであり、(b)は漏洩電流の経時変化を示すグラフである。
【
図3】漏電計測器の電気的構成を示したブロック図である。
【
図4】漏電計測器のCPUで実行されるメイン処理のフローチャートである。
【
図6】アベレージ検出処理のフローチャートである。
【
図8】第2実施形態における漏電監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【
図10】計測対象物である車両の電気的構成を示したブロック図である。
【
図11】車両の制御装置のCPUで実行されるメイン処理のフローチャートである。
【
図12】第3実施形態における漏電監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【
図13】第4実施形態における漏電監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して第1実施形態における漏電監視装置としての漏電計測器20及び計測対象物10について説明する。
図1は、漏電計測器20及び計測対象物10の電気回路を模式的に示した回路図である。
【0030】
計測対象物10は、直流電力(負荷用電力)を出力するバッテリ11と、そのバッテリ11の正極に接続される正極線12と、バッテリ11の負極に接続される負極線13と、それら正極線12及び負極線13を介してバッテリ11から供給された直流電力により作動する負荷機器14と、を備える。この計測対象物10としては、例えば電気を駆動源とする自動車や産業車両、鉄道車両、航空機、船舶が挙げられる。他に、各家庭や施設、工場などの屋内・屋外配線または電気設備、電化製品などを計測対象物10としても良い。
【0031】
バッテリ11は、所定の電圧(例えば約800V)の直流電力を出力する直流電源である。正極線12及び負極線13は、上流のバッテリ11から下流の負荷機器14へ直流電力を供給するための2本1組の電源線であり、負荷機器14にそれぞれ接続されている。正極線12から負荷機器14へ電流が流れて、負荷機器14から負極線13へ電流が流れる。なお、本明細書では、電流の向きではなく、バッテリ11等の電力の供給側を「上流」とし、負荷機器14等の電力の消費側を「下流」とする。
【0032】
負荷機器14は、直流電力によって作動する電気回路である。負荷機器14としては、例えば直流モータやインバータ等が挙げられる。負荷機器14は、接地線18を介して接地(アース)された筐体14aに収容されている。
【0033】
なお、接地線18は、大地に埋め込まれた接地極に接続された電線である。但し、計測対象物10が車両などの場合、車両のフレームなど大きな導体に接続することを「接地」と言い、その大きな導体が大地に接続されていなくても良い。
【0034】
本実施形態では、筐体14aだけでなく負極線13も接地線18を介して接地されている。筐体14a及び負極線13に接続される接地線18は、同一の電線でも良く、大地を介して互いに接続される別々の電線でも良い。
【0035】
このような計測対象物10には、各部の絶縁抵抗の劣化などによって漏洩電流が生じることがある。なお、漏洩電流の発生の有無に関わらず、基本的にバッテリ11の正極側から出る電流と負極側から入る電流とが同一となるように電気回路が形成される。そのため、例えば負荷機器14から筐体14aへ漏洩電流が生じると、その漏洩電流は接地線18を介して負極線13からバッテリ11に戻る。
【0036】
このような漏洩電流を監視するための漏電計測器20が計測対象物10に設けられる。漏電計測器20は、正極線12が貫通する個別変流器21と、負極線13が貫通する個別変流器22と、正極線12及び負極線13が一緒に貫通する零相変流器23と、正極線12と負極線13との間の電圧(電位差)を計測する基準検出部24と、を備えている。
【0037】
個別変流器(個別計測器)21,22及び零相変流器(零相計測器)23はいずれも、計測対象となる電線が貫通する環状の変流器から構成された計測器であり、その貫通部分を流れる電流の値を計測する。より具体的に、変流器とは、通電により電線の貫通部分に生じた磁界を計測し、その磁界に基づいて電流の値を計測(算出)するものである。本実施形態における個別変流器21,22及び零相変流器23は、直流の電流値を計測可能に構成されているが、その構成は既知であるため説明を省略する。また、このように計測される電流のうち、上流から下流へ向かうものを正の値とし、下流から上流へ向かうものを負の値とする。
【0038】
個別変流器21は、正極線12の上流側が通され、その通された位置の電流A1を計測する。個別変流器22は、負極線13のうち接地線18が接続される位置よりも下流側(負荷機器14側)が通され、その通された位置の電流A2を計測する。これら個別変流器21,22を貫通する位置の正極線12と負極線13とは、1つの変流器をまとめて貫通することが困難な程度に離れている。
【0039】
零相変流器23は、正極線12及び負極線13のうち個別変流器21,22を貫通する位置よりも下流側が通され、その通された位置における正極線12の電流と負極線13の電流とを合計した合計電流A3を計測する。なお、正極線12の電流と負極線13の電流とは互いに逆方向へ流れるため、合計電流A3はそれらの電流の絶対値の差分となる。同様に、電流A1と電流A2との合計は、電流A1の絶対値と電流A2の絶対値との差分となる。また、零相変流器23を貫通する位置の正極線12と負極線13とは、互いに絶縁を維持できる程度に近接している。
【0040】
基準検出部24は、既知の電圧計であり、バッテリ11の電圧V1を計測するように正極線12及び負極線13に接続されている。正極線12及び負極線13に分岐が無いので、基本的にバッテリ11の電圧V1は、個別変流器21,22が配置された位置の正極線12と負極線13との間の電圧と略同一となる。即ち、基準検出部24は、個別変流器21,22の位置の電圧V1を計測するものである。
【0041】
このような漏電計測器20による漏洩電流の監視方法(漏洩電流検出方法)について、
図1に加え
図2を参照して説明する。
図2(a)は、個別変流器21,22及び零相変流器23でそれぞれ計測される電流A1,A2及び合計電流A3の経時変化を示すグラフである。
図2(b)は、電流A1,A2に応じて算出される漏洩電流の値L1(以下「漏電値L1」と略す)の経時変化と、合計電流A3に応じて算出される漏洩電流の値L2(以下「漏電値L2」と略す)の経時変化とをそれぞれ示すグラフである。
【0042】
図2(a)及び
図2(b)のグラフの縦軸はいずれも電流[A]の絶対値である。
図2(a)及び
図2(b)のグラフの横軸はいずれも時間[s]である。また、
図2(a)のグラフには、個別変流器21の電流A1の経時変化が実線で示され、個別変流器22の電流A2の経時変化が破線で示され、零相変流器23の合計電流A3の経時変化が二点鎖線で示されている。
図2(b)のグラフには、漏電値L1の経時変化が実線で示され、漏電値L2の経時変化が二点鎖線で示されている。更に、
図2(a)及び
図2(b)のグラフでは、実際には重なる部分の各線をグラフの見易さの観点から若干ずらして示している。
【0043】
計測対象物10に全く漏洩電流が生じていない場合には、基本的に、バッテリ11から正極線12(個別変流器21)を通って負荷機器14に向かった電流の全部が、負荷機器14から負極線13(個別変流器22)を通ってバッテリ11に戻る。そのため、漏洩電流が生じていない時間において、
図2(a)のグラフでは、個別変流器21,22の電流A1,A2の絶対値が同一となり、
図2(b)のグラフでは、漏電値L1が0Aとなる。
【0044】
一方、例えば負荷機器14から筐体14aへの漏洩電流のみが生じてその他の漏洩電流が生じていない場合には、漏洩電流が接地線18を通り、個別変流器22及び零相変流器23を迂回して負極線13からバッテリ11に戻る。即ち、個別変流器21及び零相変流器23を通り負荷機器14へ向かった電流が、個別変流器22及び零相変流器23を通る正常なルートと、それらを通らずにバッテリ11へ戻る漏洩電流のルートとに分かれる。
【0045】
これにより、負荷機器14の漏洩電流のみが生じた時間において、
図2(a)のグラフでは、個別変流器21の電流A1に対し個別変流器22の電流A2が下がる。そのため、
図2(b)のグラフでは同時間において、電流A1と電流A2との合計(絶対値の差分)に基づき、個別変流器21,22よりも下流側の計測対象物10で生じた漏電値L1が示される。同様に、漏洩電流が生じた時間に零相変流器23の合計電流A3が大きくなり、その合計電流A3に基づき、零相変流器23よりも下流側の計測対象物10で生じた漏電値L2が示される。
【0046】
図2(a)のように個別変流器21,22の電流A1,A2がそれぞれ変動すると、それらの合計も若干変動する。同様に、零相変流器23を通る正極線12及び負極線13の電流がそれぞれ変動すると、それらを合計した合計電流A3も若干変動する。これらの電流A1,A2及び合計電流A3は、主にバッテリ11の電圧V1に応じて変動する。
図2(a)には、電流A1,A2のグラフの上側にその電流A1,A2の取得時における電圧V1が示されている。なお、バッテリ11の電圧V1は、バッテリ11の残量や経年劣化などにより変化する。
【0047】
図2(b)のグラフには、その電圧V1が800Vである場合に補正(換算)した漏電値L1,L2を示している。具体的に、電圧V1が800Vである場合には、電流A1,A2の合計をそのまま補正後の漏電値L1とし、合計電流A3をそのまま補正後の漏電値L2とする。
【0048】
電圧V1が600Vである場合には、電流A1,A2の合計を約1.33(=800V/600V)倍したものを補正後の漏電値L1とし、約1.33倍した合計電流A3を補正後の漏電値L2とする。電圧V1が900Vである場合には、電流A1,A2の合計を約0.89(=800V/900V)倍したものを補正後の漏電値L1とし、約0.89倍した合計電流A3を補正後の漏電値L2とする。よって、例えば漏電値L1,L2が閾値を超えたかを判断するとき、その判断が電圧V1の変動に影響を受けることを抑制できる。即ち、このような電圧V1による補正によって漏洩電流の検出精度を確保可能な範囲を広くできる。
【0049】
また、個別変流器21,22と零相変流器23とは、上流側と下流側とで離れているので、それらの計測結果に応じた漏電値L1,L2の比較から漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0050】
具体的に、
図2(b)のグラフの最も左側のピーク(P1部分)によれば、個別変流器21,22よりも下流側の計測対象物10で生じた漏電値L1と、零相変流器23よりも下流側の計測対象物10で生じた漏電値L2とが同一である。ここから、零相変流器23よりも下流側でのみ計測対象物10に漏洩電流が生じたものと推定される。
【0051】
また、
図2(b)のグラフの左右中央のピーク(P2部分)によれば、漏電値L1のみが生じて漏電値L2が生じていない。ここから、零相変流器23よりも上流側であって個別変流器22よりも下流側の負極線13から地面などへ漏洩電流が生じたものと推定される。
【0052】
図2(b)のグラフの右側の2本のピーク(P3,P4部分)によれば、漏電値L1よりも漏電値L2が小さい。ここから、零相変流器23よりも下流側で漏電値L2が生じ、零相変流器23と個別変流器22との間の負極線13で生じた漏洩電流が、漏電値L1と漏電値L2との差分であると推定される。即ち、この場合には少なくとも2か所で漏洩電流が生じたものと推定される。
【0053】
なお、漏洩電流の生じた位置に応じて漏洩電流のルートが変化し、電流A1,A2(漏電値L1)や合計電流A3(漏電値L2)の変動の仕方も変化する。例えば、漏洩電流の発生の有無に関わらず電流A2が電圧V1に応じて変動し、漏洩電流の発生時に電流A1のみが電流A2に対して漏洩電流の分だけ上昇することが考えられる。
【0054】
また、電圧V1に応じて電流A1,A2の両方が変動すると共に、電流A1に対し電流A2が下がった場合には、漏電値L1を算出しなくても、その電流A2が下がった時点で、個別変流器21,22よりも下流側で漏洩電流が生じたと漏電計測器20の計測結果から推定できる。
【0055】
以上の通り、漏電計測器20は、個別変流器21,22による計測結果からその個別変流器21,22よりも下流で生じた漏洩電流を監視(算出)でき、零相変流器23による計測結果からその零相変流器23よりも下流で生じた漏洩電流を監視できる。即ち漏電計測器20は、個別変流器21,22の1組によって漏洩電流を監視可能な1つの計測部が構成され、1つの零相変流器23によって漏洩電流を監視可能な別の1つの計測部が構成される。
【0056】
特に個別変流器21,22による計測部によれば、各々を正極線12及び負極線13がそれぞれ個別に貫通するため、例えば正極線12と負極線13とが互いに離れていても、それらを流れる電流A1,A2の合計を算出可能にして漏洩電流を監視できる。その結果、漏電計測器20によって漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。
【0057】
また、個別変流器21,22ではなく零相変流器23を用いることで、変流器の数を削減できる。更に、例えば正極線12及び負極線13が1束にまとめられている位置であって、それらを個別に個別変流器21,22へ通せない位置であっても、零相変流器23でその位置の電流の合計を計測できる。その結果、漏洩電流を監視する計測部の配置の自由度を向上できるので、漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0058】
次に
図3~
図7を参照して、漏電計測器20の制御についてより詳しく説明する。
図3は、漏電計測器20の電気的構成を示したブロック図である。漏電計測器20は、CPU25と、フラッシュROM26と、RAM27とを有し、これらはバスライン28を介して入出力ポート29にそれぞれ接続されている。入出力ポート29には更に、通信装置30と、個別変流器21,22と、零相変流器23と、基準検出部24と、がそれぞれ接続されている。
【0059】
通信装置30は、外部制御機器40に接続され、外部制御機器40との間で情報を送受信する。外部制御機器40は、個別変流器21,22、零相変流器23及び基準検出部24の計測結果に基づき、漏洩電流が生じた原因を解析する機器である。更に外部制御機器40には負荷機器14が接続され、その負荷機器14の作動状態なども利用して漏洩電流が生じた原因を解析できるように構成されている。
【0060】
CPU25は、バスライン28により接続された各部を制御する演算装置である。フラッシュROM26は、CPU25により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え可能な不揮発性のメモリであり、監視プログラム26aと、固有番号メモリ26bと、ピーク検出メモリ26cと、短期変化検出メモリ26dと、長期変化検出メモリ26eと、サイクル収集メモリ26fと、が設けられる。なお、フラッシュROM26の代わりに、SSDやHDD等の記憶装置を用いても良い。
【0061】
CPU25により監視プログラム26aが実行されると、
図4のメイン処理が実行される。固有番号メモリ26bは、漏電計測器20の固有番号が記憶されるメモリである。この固有番号は、漏電計測器20によって漏洩電流が監視される計測対象物10を特定するための情報の一部である。外部制御機器40に接続される漏電計測器20が複数ある場合には、この固有番号が必要となる。一方で漏電計測器20が複数ではなく1つだけの場合には、固有番号で計測対象物10を特定する必要がないので、固有番号メモリ26bを省略しても良い。
【0062】
ピーク検出メモリ26c、短期変化検出メモリ26d、長期変化検出メモリ26e、サイクル収集メモリ26fはいずれも、漏電値L1,L2に関するデータを、外部制御機器40へ送信するまで記憶しておくためのメモリである。即ち、これらの各メモリ26c~26fには、外部制御機器40への送信が許可されたデータが記憶される。
【0063】
RAM27は、CPU25のプログラムの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリであり、上流リングバッファ27aと、下流リングバッファ27bと、上流平均リングバッファ27cと、下流平均リングバッファ27dと、電圧リングバッファ27eと、が設けられる。
【0064】
上流リングバッファ27aは、電流A1,A2の合計を電圧V1で補正して1m秒毎に算出された漏電値L1の過去1分間分を記憶するものであり、既知のリングバッファによって構成される。具体的に、上流リングバッファ27aは、複数の記憶領域の最新位置に最新の漏電値L1が記憶(上書き)される。この最新位置とは、1分前の漏電値L1が記憶された記憶領域であり、複数の記憶領域が順に最新位置に該当する。更に、上流リングバッファ27aは、最新位置を現在時刻として、各々の漏電値L1が記憶された時刻(漏電値L1を算出した時刻)が分かるように構成されている。
【0065】
各リングバッファ27b~27eは、記憶するデータの内容と記憶容量とが異なるだけで、上流リングバッファ27aと同一に構成されている。下流リングバッファ27bは、合計電流A3を電圧V1で補正して1m秒毎に算出された漏電値L2の過去1分間分を記憶する。上流平均リングバッファ27cは、1分の間に計測された全ての漏電値L1を平均した平均値M1を過去10分間分記憶する。下流平均リングバッファ27dは、1分の間に計測された全ての漏電値L2を平均した平均値M2を過去10分間分記憶する。電圧リングバッファ27eは基準検出部24で1m秒毎に計測した電圧V1を過去10分間分記憶する。
【0066】
次に
図4~
図7を参照して、漏電計測器20のCPU25で実行されるメイン処理を説明する。
図4は、漏電計測器20のメイン処理のフローチャートである。
図5は、ピーク検出処理S20のフローチャートである。
図6は、アベレージ検出処理S21のフローチャートである。
図7は、サイクル収集処理S22のフローチャートである。
【0067】
漏電計測器20のメイン処理は、漏電計測器20の電源が投入されている間、1m秒毎に実行される。ピーク検出処理S20、アベレージ検出処理S21及びサイクル収集処理S22は、この漏電計測器20のメイン処理中に実行される。
【0068】
図4に示すように、メイン処理はまず、個別変流器21で計測された電流A1を取得する(S11)。次いで、個別変流器22で計測された電流A2を取得する(S12)。次いで、零相変流器23で計測された合計電流A3を取得する(S13)。次いで、基準検出部24で計測された電圧V1を取得し、その電圧V1を電圧リングバッファ27eに記憶する(S14)。
【0069】
なお、これら一連のS11~S14の処理では、同一タイミングに計測した電流A1,A2、合計電流A3及び電圧V1を取得する。これは、その計測時に生じた漏電値L1,L2を正確に算出するためである。但し、S12~S14の処理で取得する電流A1,A2、合計電流A3及び電圧V1を計測するタイミングを互いに異ならせても良い。
【0070】
S14の処理後、電圧V1の基準値である基準電圧Vsを800Vに設定する(S15)。なお、基準電圧Vsは、バッテリ11の正常時の電圧に応じて設定すれば良く、例えば正常時の電圧が350~450Vであれば、S15の処理において基準電圧Vsを400Vに設定する。
【0071】
S15の処理後、これらの各値に基づき、電流A1と電流A2との合計(絶対値の差分)を基準電圧Vs時の値に補正した漏電値L1=(A1+A2)・Vs/V1を算出する(S16)。この算出した漏電値L1を上流リングバッファ27aの最新位置に一時的に記憶する(S17)。
【0072】
次いで、合計電流A3を基準電圧Vs時の値に補正した漏電値L2=A3・Vs/V1を算出する(S18)。この算出した漏電値L2を下流リングバッファ27bの最新位置に一時的に記憶する(S19)。
【0073】
その後、一時的に記憶した漏電値L1,L2に基づき、その漏電値L1,L2に関するデータを外部制御機器40へ送信可能に記憶するかを判断するピーク検出処理S20、アベレージ検出処理S21、サイクル収集処理S22を順に実行する。
【0074】
図5のピーク検出処理S20について、
図2(b)を参照しながら説明する。ピーク検出処理S20は、上流リングバッファ27aに一時的に記憶した漏電値L1が異常を疑われる値や、注意・警告を必要とする値である場合、外部制御機器40で解析するために、その漏電値L1をピーク検出メモリ26cに記憶しておくための処理である。なお基本的に、漏電値L2が漏電値L1以下となるため、ピーク検出処理S20では、漏電値L2を用いて記憶の要否を判断せず、漏電値L1をピーク検出メモリ26cに記憶する場合に、同時刻の漏電値L2を一緒にピーク検出メモリ26cに記憶する。
【0075】
ピーク検出処理S20では、まず、上流リングバッファ27aの最新位置に記憶された漏電値L1が閾値未満から閾値以上になったかを、即ち、前回位置の漏電値L1が閾値未満で最新位置の漏電値L1が閾値以上であるかを判断する(S41)。なお、この閾値としては例えば1mAが挙げられる。漏電値L1が閾値以上である場合には、漏電計測器20により監視される計測対象物10に異常な漏洩電流が発生していると疑われる。但し、異常な漏洩電流の発生を予防するために注意・警告を報知できるよう、異常と判断する値よりも小さい値を閾値として設定しても良い。また1mAよりも大きい値を閾値として設定しても良い。
【0076】
S41の処理で、最新位置の漏電値L1が閾値未満から閾値以上になった場合には(S41:Yes)、ピーク検出メモリ26cへ記憶する範囲を指定するためのスタート位置S(
図2(b)参照)が未設定かを確認する(S42)。なお、漏電値L1が閾値未満のままで15秒以上経過していれば、スタート位置Sは未設定となっている(クリアされている)。
【0077】
スタート位置Sが未設定である場合(S42:Yes)、上流リングバッファ27aの複数のメモリ位置のうち、漏電値L1が閾値以上になった最新位置から15秒前の位置をスタート位置Sに設定し(S43)、ピーク検出処理S20を終了する。
【0078】
S41の処理で、最新位置の漏電値L1が閾値未満から閾値以上になっていない場合には(S41:No)、上流リングバッファ27aの最新位置に記憶された漏電値L1が閾値以上から閾値未満になったかを判断する(S45)。漏電値L1が閾値以上から閾値未満になった場合には(S45:Yes)、既にスタート位置SがS43の処理で設定済みであるため、そのスタート位置Sに対応するエンド位置E(
図2(b)参照)を設定し(S46)、ピーク検出処理S20を終了する。
【0079】
具体的にS46の処理では、上流リングバッファ27aの複数のメモリ位置のうち、漏電値L1が閾値未満になった最新位置から15秒後の位置をエンド位置Eに設定する。上流リングバッファ27aのうちスタート位置Sからエンド位置Eまでがピーク検出メモリ26cへ記憶する範囲である。
【0080】
ピーク検出処理S20の開始時、最新位置の漏電値L1が閾値をまたがない場合(S41:No且つS45:No)、上流リングバッファ27aのエンド位置Eに新たに漏電値L1が記憶されたかを確認する(S47)。即ち、S47の処理では、漏電値L1が閾値未満になってから閾値未満のままで15秒経過したかを確認する。
【0081】
S47の処理で、エンド位置Eに新たに漏電値L1が記憶された場合には(S47:Yes)、ピーク検出メモリ26cへ記憶する範囲の漏電値L1が揃ったので、スタート位置Sからエンド位置Eまでの漏電値L1をピーク検出メモリ26cへ記憶する(S48)。更にS48の処理では、それらの漏電値L1に対応する時刻と、その時刻における漏電値L2及び電圧V1とを、漏電値L1に関連付けてピーク検出メモリ26cに記憶する。これらの漏電値L2及び電圧V1は、それぞれ上流リングバッファ27a及び電圧リングバッファ27eに記憶されているものである。
【0082】
ピーク検出メモリ26cは、図示しないが具体的に、時刻が記憶される時刻メモリと、漏電値L1が記憶されるL1メモリと、漏電値L2が記憶されるL2メモリと、電圧V1が記憶される電圧メモリと、を備えている。
【0083】
時刻メモリに記憶されている時刻は、漏電値L1を算出するための電流A1,A2を計測(取得)した時刻であり、漏電値L2を算出するための合計電流A3を計測した時刻でもあり、電圧V1を計測した時刻でもある。即ち、漏電値L1と漏電値L2と電圧V1とは、時刻によって互いに関連付けられてピーク検出メモリ26cに記憶されている。これにより、異常が疑われる程の漏電値L1(漏洩電流の値)となった原因を、漏電値L1,L2同士や電圧V1との比較から解析することができる。
【0084】
S48の処理後は、S41~S43の処理で新たなスタート位置Sを設定できるように、スタート位置S及びエンド位置Eの設定をクリアし(S49)、ピーク検出処理S20を終了する。
【0085】
ここで、S43の処理でスタート位置Sを設定し、漏電値L1が閾値未満になって(S45:Yes)、S46の処理でエンド位置Eを設定した後、エンド位置Eに漏電値L1が記憶される前に、最新位置の漏電値L1が閾値未満から閾値以上になった場合(S41:Yes)について説明する。即ち例えば
図2(b)のように、ピークP3とピークP4とが短時間に連続している場合のエンド位置の設定方法について説明する。
【0086】
この場合、S42の処理に移行したとき、スタート位置Sもエンド位置Eも既に設定されているので(S42:No)、S43の処理でスタート位置Sを再設定することなく、エンド位置Eだけを再設定可能となるようにクリアし(S44、
図2(b)一点鎖線を参照)、ピーク検出処理S20を終了する。その後、再び、最新の漏電値L1が閾値以上から閾値未満になれば(S45:Yes)、エンド位置Eが再設定され(S46)、S47,S48の処理によってスタート位置Sからエンド位置Eまでの漏電値L1をピーク検出メモリ26cに記憶できる。
【0087】
このように、漏電値L1が閾値以上になる部分が短時間に連続している場合であっても、連続した複数の閾値以上の範囲と、その範囲の前後15秒間とにおける漏電値L1をピーク検出メモリ26cに記憶できる。即ち、漏電値L1が閾値以上になった複数の範囲のうちの一部がピーク検出メモリ26cに記憶されない事態を回避できる。また、漏電値L1が閾値以上になった複数の範囲に対し、個別にスタート位置S及びエンド位置Eを設定する場合と比べ、ピーク検出処理S20を簡素化できると共に、ピーク検出メモリ26cに重複してデータが記憶されることを抑制できる。
【0088】
S47の処理で、エンド位置Eに新たに漏電値L1が記憶されなかった場合には(S47:No)、上流リングバッファ27aへ次に漏電値L1を記憶する位置がスタート位置Sであるかを確認する(S50)。次に記憶する位置がスタート位置Sではない場合(S50:No)、ピーク検出処理S20を終了する。
【0089】
一方、次に記憶する位置がスタート位置Sである場合には(S50:Yes)、次回以降の上流リングバッファ27a及び下流リングバッファ27bへの新たな漏電値L1,L2の記憶によって、ピーク検出メモリ26cに記憶すべき漏電値L1,L2が古いものから順に消えてしまう。そのため、古い漏電値L1,L2が消える直前に(S50:Yes)、上流リングバッファ27aに記憶されている全ての漏電値L1と、それらの漏電値L1に対応する時刻と、その時刻における漏電値L2及び電圧V1と、を互いに関連付けてピーク検出メモリ26cに記憶する(S51)。
【0090】
S51の処理後のピーク検出処理S20において、エンド位置Eに新たに漏電値L1が記憶された場合(S47:Yes)、S48の処理では、S51の処理の直後に上流リングバッファ27aに記憶された漏電値L1を新たなスタート位置Sとして、S51の処理後の漏電値L1等をピーク検出メモリ26cに記憶する。よって、S50,S51の処理により、上流リングバッファ27a及び下流リングバッファ27bを大容量化しなくても、閾値以上となった漏電値L1と、その前後15秒間の漏電値L1と、それらと同時刻の漏電値L2とを全てピーク検出メモリ26cに記憶できる。
【0091】
次に
図6を参照してアベレージ検出処理S21を説明する。アベレージ検出処理S21は、ノイズ等によって瞬間的に大きくなる漏電値L1,L2の影響を排除しつつ、漏電値L1,L2の短期的または長期的な増加傾向を外部制御機器40で解析するために、平均値M1(1分の間に計測された全ての漏電値L1を平均した値)と、平均値M2(1分の間に計測された全ての漏電値L2を平均した値)とを短期変化検出メモリ26dや長期変化検出メモリ26eに記憶しておくための処理である。アベレージ検出処理S21でもピーク検出処理S20と同様に、漏電値L2に基づく平均値M2を用いて記憶の要否を判断せず、平均値M1を短期変化検出メモリ26dや長期変化検出メモリ26eに記憶する場合に、同時刻の平均値M2を一緒に各メモリ26d,26eに記憶する。
【0092】
図6に示すように、アベレージ検出処理S21では、まず、前回の平均値M1,M2の算出から1分経過したか、即ち過去1分間の漏電値L1,L2をそれぞれ記憶する上流リングバッファ27a及び下流リングバッファ27bの値が全て更新されたかを確認する(S61)。なお、漏電計測器20の電源が投入された直後には、上流リングバッファ27a及び下流リングバッファ27bの各メモリに無効な値が記憶され、投入直後のS61の処理では、全ての無効な値が漏電値L1,L2で更新されたかを確認する。S61の処理で、前回の平均値M1,M2の算出または電源の投入から1分経過していない場合には(S61:No)、アベレージ検出処理S21を終了し、1分経過を待つ。
【0093】
一方、前回の平均値M1,M2の算出または電源の投入から1分経過した場合には(S61:Yes)、上流リングバッファ27a及び下流リングバッファ27bの値が全て更新されたので、上流リングバッファ27aに記憶された直近1分間の漏電値L1を平均して平均値M1を算出し、その平均値M1を上流平均リングバッファ27cに記憶する(S62)。同様に、下流リングバッファ27bに記憶された直近1分間の漏電値L2を平均して平均値M2を算出し、その平均値M2を下流平均リングバッファ27dに記憶する(S63)。
【0094】
次いで、上流平均リングバッファ27cに記憶されている2分~1分前の平均値M1(1分前のS62の処理で算出した平均値M1であって、2分~1分前に算出された複数の漏電値L1を平均した値)に対する直近1分間の平均値M1の変化率を短期変化率として算出する(S64)。具体的に、(短期変化率)=((直近1分間の平均値M1)-(2分~1分前の平均値M1))/(2分~1分前の平均値M1)で算出される。
【0095】
この算出した短期変化率が変化閾値以上であるかを確認する(S65)。なお、変化閾値は、ノイズを排除するために例えば1.1とするが、1以上の数であれば適宜変更しても良い。
【0096】
S65の処理で、短期変化率が変化閾値以上であった場合には(S65:Yes)、上流平均リングバッファ27cに記憶されている直近2分間の平均値M1(直近2分間のS62の処理でそれぞれ算出した全ての平均値M1)と、それらの平均値M1に対応する時刻と、その時刻における平均値M2及び電圧V1と、を互いに関連付けて短期変化検出メモリ26dに記憶し(S66)、S67の処理へ移行する。
【0097】
なお、直近2分間の平均値M1に対応する時刻の平均値M2とは、下流平均リングバッファ27dに記憶されている直近2分間の平均値M2(直近2分間のS63の処理でそれぞれ算出した全ての平均値M2)である。直近2分間の平均値M1に対応する時刻の電圧V1とは、電圧リングバッファ27eに記憶されている直近2分間の電圧V1である。
【0098】
また、短期変化検出メモリ26dは、図示しないが具体的に、時刻が記憶される時刻メモリと、平均値M1が記憶されるM1メモリと、平均値M2が記憶されるM2メモリと、電圧V1が記憶される電圧メモリと、を備えている。即ち、短期変化検出メモリ26dは、ピーク検出メモリ26cのL1メモリ及びL2メモリを、M1メモリ及びM2メモリに置換したものである。なお、M1メモリ及びM2メモリには、平均値M1,M2の算出に用いた最古の漏電値L1,L2を算出した時刻に対応付けるように、平均値M1,M2が記憶される。
【0099】
S65の処理で、短期変化率が変化閾値未満であった場合には(S65:No)、S66の処理をスキップして、S67の処理へ移行する。これにより、短期変化率が減少している場合や、ノイズ等により短期変化率が若干増加しているだけの場合を排除して、短期的な平均値M1の増加傾向を解析できる。
【0100】
S67の処理では、上流平均リングバッファ27cに記憶されている10分~9分前の平均値M1(9分前のS62の処理で算出した平均値M1であって、10分~9分前に算出された複数の漏電値L1を平均した値)に対する直近1分間の平均値M1の変化率を長期変化率として算出する。具体的に、(長期変化率)=((直近1分間の平均値M1)-(10分~9分前の平均値M1))/(10分~9分前の平均値M1)で算出される。
【0101】
この算出した長期変化率が変化閾値(例えば1.1)以上であるかを確認する(S68)。長期変化率が変化閾値以上であった場合には(S68:Yes)、上流平均リングバッファ27cに記憶されている直近10分間の平均値M1(直近10分間のS63の処理でそれぞれ算出した全ての平均値M1)と、それらの平均値M1に対応する時刻と、その時刻における平均値M2及び電圧V1と、を互いに関連付けて長期変化検出メモリ26eに記憶し(S69)、アベレージ検出処理S21を終了する。
【0102】
直近10分間の平均値M1に対応する時刻の平均値M2とは、下流平均リングバッファ27dに記憶されている直近10分間の平均値M2(直近10分間のS63の処理でそれぞれ算出した全ての平均値M2)である。直近10分間の平均値M1に対応する時刻の電圧V1とは、電圧リングバッファ27eに記憶されている直近10分間の電圧V1である。また、長期変化検出メモリ26eは、短期変化検出メモリ26dと同一に構成される。
【0103】
S68の処理で、長期変化率が変化閾値未満であった場合には(S68:No)、S69の処理をスキップして、アベレージ検出処理S21を終了する。これにより、長期変化率が減少している場合や、ノイズ等により長期変化率が若干増加しているだけの場合を排除して、長期的な平均値M1の増加傾向を解析できる。
【0104】
次に
図7を参照してサイクル収集処理S22を説明する。サイクル収集処理S22は、数か月や数年などの超長期的な漏電値L1,L2の変動を解析するために、異常が無くても定期的に漏電値L1,L2をサイクル収集メモリ26fに記憶しておくための処理である。
【0105】
図7に示すように、サイクル収集処理S22では、まず、定期的な収集タイミングが到来したかを確認する(S71)。定期的な収集タイミングは、本実施形態では1時間毎に設定されるが、その収集タイミングは適宜変更しても良い。
【0106】
定期的な収集タイミングが到来していない場合には(S71:No)、サイクル収集処理S22を終了し、収集タイミングの到来を待つ。一方、定期的な収集タイミングが到来した場合には(S71:Yes)、上流リングバッファ27aに記憶されている全て(直近1分間)の漏電値L1と、下流リングバッファ27bに記憶されている全て(直近1分間)の漏電値L2と、それらの漏電値L1,L2に対応する時刻と、その時刻における電圧V1と、を互いに関連付けてサイクル収集メモリ26fに記憶し(S72)、サイクル収集処理S22を終了する。なお、S72の処理において、漏電値L1,L2に対応する時刻の電圧V1とは、電圧リングバッファ27eに記憶されている直近1分間の電圧V1である。
【0107】
定期的に漏電値L1を取得することで、数か月や数年などの超長期的な漏洩電流の増加傾向を解析できる。例えば具体的に、過去の漏電値L1の実測値の経時変化を最小二乗法で近似し、今後の漏電値L1の予測値の経時変化を算出することができる。この予測値の経時変化から、漏電値L1が閾値(例えば1mA)を上回る日時の目安を解析できるので、計測対象物10のメンテナンス等のスケジュールを計画することができると共に、交換が必要な機器や部品の発注などを計画することができる。更に、漏電値L1の取得と同時に漏電値L2及び電圧V1を取得することで、これらの各値に基づいて交換が必要な機器や部品の位置を解析できる。
【0108】
図4に戻って説明する。サイクル収集処理S22の後は、ピーク検出メモリ26c、短期変化検出メモリ26d、長期変化検出メモリ26e、サイクル収集メモリ26fにそれぞれ記憶されている未送信のデータと、固有番号メモリ26bに記憶されている固有番号と、を外部制御機器40へ送信する(S23)。
【0109】
外部制御機器40では、これらの各データを受信した場合に、固有番号(計測対象物10)毎に設けたメモリに各データを記憶する。なお、この外部制御機器40のメモリは、漏電計測器20の各メモリ26c~26fと略同一である。外部制御機器40では、漏電計測器20から受信した各データを用いて漏洩電流の発生原因などの解析が実行される。この解析には、AIによるデータ解析を用いることが好ましい。
【0110】
S23の処理で送信される各メモリ26c~26fの各データは、漏電値L1,L2自体を含むデータや、漏電値L1,L2を平均した平均値M1,M2を含むデータであって、外部制御機器40への送信および記憶が許可されたデータである。よって、各メモリ26c~26fに各データを記憶するかを判断する
図5のS41~S47,S50の処理、
図6のS64,S65,S67,S68の処理、
図7のS71の処理は、各データを外部制御機器40へ送信するか(記憶させるか)を判断する処理と言える。
【0111】
特に、
図5のS41~S47,S50の処理、
図6のS64,S65,S67,S68の処理は、漏電値L1に基づき、漏電値L1,L2に関するデータを外部制御機器40へ送信するか(記憶させるか)を判断する処理と言える。また、
図5のS48,S51の処理、
図6のS66,S69の処理、
図7のS72の処理は、外部制御機器40へ送信する(記憶させる)と判断された各データを外部制御機器40へ送信可能(記憶可能)とする処理と言える。
【0112】
これにより、例えば、漏電値L1,L2に関するデータから、漏洩電流に対する解析に有効なデータを選定して外部制御機器40へ送信(記憶)できるので、漏電計測器20から外部制御機器40への送信頻度や送信量を抑制できる。更に、所定時間当たりに漏電計測器20や外部制御機器40へ記憶されるデータ量を少なくでき、漏電計測器20や外部制御機器40を小型化およびコストダウンし易くできる。
【0113】
S23の処理後、その他の処理を実行し(S24)、漏電計測器20のメイン処理を終了する。なお、S24の処理としては、基準電圧Vsを変更する処理や、ピーク検出処理S20で用いる閾値を変更する処理、外部制御機器40から受信した信号に基づく処理などが挙げられる。例えば、ピーク検出処理S20で用いる閾値を変更する操作を外部制御機器40で行い、その変更の信号を外部制御機器40から通信装置30を介して漏電計測器20が受信した場合、S24の処理では、受信した信号に応じて閾値を変更する処理を実行する。
【0114】
次に
図8~
図11を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、1つの負荷機器14を有する計測対象物10の漏洩電流を計測する漏電計測器20(漏電監視装置)について説明した。これに対し、第2実施形態では、3つの負荷機器15~17を有する計測対象物(車両19)の漏洩電流を計測する漏電監視装置について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0115】
図8は、第2実施形態における漏電監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。なお、第2実施形態の漏電監視装置は、漏電計測器50と計測対象物の制御装置60(
図10参照)とによって構成される。
【0116】
第2実施形態の計測対象物は、電気を駆動源とする車両19(例えば杭打機)であり、複数の車輪19aによって車体19bが走行可能に支持されている。なお、車体19bは、大きな導体であるので、第2実施形態における「接地」とは上述した通り車体19bに電気的に接続することを言う。
【0117】
車両19は、直流電力(負荷用電力)を出力するバッテリ11と、そのバッテリ11の正極に接続される正極線12と、バッテリ11の負極に接続される負極線13と、それら正極線12及び負極線13を介してバッテリ11から供給された直流電力によりそれぞれ作動する複数の負荷機器15,16,17と、を備える。
【0118】
正極線12及び負極線13は、上流のバッテリ11から下流の負荷機器15~17へ直流電力をそれぞれ供給するための2本1組の電源線である。正極線12は、バッテリ11に接続された幹電線12aと、幹電線12aからそれぞれ分岐する複数の分岐電線12b,12c,12dと、を備える。同様に、負極線13は、バッテリ11に接続された幹電線13aと、幹電線13aからそれぞれ分岐する複数の分岐電線13b,13c,13dと、を備える。
【0119】
幹電線12a,13aは、複数の負荷機器15~17へ向かって分岐する2本1組の電源線の上流側をまとめるため、同様に2本1組で構成されている。分岐電線12b,13bは、負荷機器15にそれぞれ接続されて電源線の下流側の1組を構成している。同様に、分岐電線12c,13cは負荷機器16にそれぞれ接続されて電源線の下流側の1組を構成し、分岐電線12d,13dは負荷機器17にそれぞれ接続されて電源線の下流側の1組を構成している。このように、本実施形態の2本1組の電源線は、上流側の1組から下流側で複数組に分岐している。
【0120】
負荷機器15~17としては、インバータや制御装置60(
図10参照)、直流モータ等が挙げられる。負荷機器15~17は、接地線18を介して接地された筐体15a,16a,17aにそれぞれ収容されている。負荷機器15~17から筐体15a~17aへ漏洩電流が生じると、負極線13が接地していなくても、その漏洩電流は例えば接地線18から車体19b、バッテリ11の筐体の表面などを通ってバッテリ11の負極に戻る。
【0121】
なお、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、負極線13を接地線18で接地させても良い。この場合、漏洩電流が接地線18を通って負極線13に戻り易くなり、漏洩電流のルートが定まり易いため、漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。そこで、負極線13が接地されているか否かの情報を後述の作動状態データに含めても良い。
【0122】
漏電計測器50は、計測対象物の車両19で生じた漏洩電流を監視するための機器であって車両19に搭載される。漏電計測器50は、幹電線12aが貫通する個別変流器21と、幹電線13aが貫通する個別変流器22と、分岐電線12bが貫通する個別変流器51と、分岐電線13bが貫通する個別変流器52と、分岐電線12cが貫通する個別変流器53と、分岐電線13cが貫通する個別変流器54と、分岐電線12dが貫通する個別変流器55と、分岐電線13dが貫通する個別変流器56と、正極線12と負極線13との間の電圧を計測する基準検出部24と、を備えている。個別変流器(個別計測器)51~56はいずれも、計測対象となる電線が貫通する環状の変流器から構成された計測器であり、その貫通部分を流れる電流の値を計測する。
【0123】
個別変流器21,22による1組は、第1実施形態で説明した通り、各々の計測結果である電流A1,A2を合計することで所定範囲の漏洩電流を監視(算出)可能な1つの計測部を構成する。更に、個別変流器51,52による1組、個別変流器53,54による1組、個別変流器55,56による1組は、個別変流器21,22による1組と同様に、計測結果の電流を合計することで所定範囲の漏洩電流を監視(算出)可能な1つの計測部をそれぞれ構成する。
【0124】
個別変流器21,22による計測部によって、自身よりも下流側で生じる漏電値L1であって、負荷機器15~17にそれぞれ生じた漏電値L2~L4と、個別変流器21,22から個別変流器51~56までの間で生じた漏洩電流の値との合計を容易に算出できる。個別変流器51,52による計測部によって、自身よりも下流側で生じる漏電値L2であって負荷機器15に生じた漏電値L2を、他の負荷機器16,17の漏電値L3,L4に影響されることなく算出できる。
【0125】
同様に、個別変流器53,54による計測部によって、負荷機器16に生じた漏電値L3を漏電値L2,L4に影響されることなく算出できる。更に、個別変流器55,56による計測部によって、負荷機器17に生じた漏電値L4を漏電値L2,L3に影響されることなく算出できる。
【0126】
このように漏電計測器50は、複数か所の漏電値L1~L4を算出できるので、それらの比較から車両19に漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。この解析方法について
図9を参照しながら説明する。
【0127】
図9は、漏電値L1~L4の経時変化を示すグラフである。このグラフの縦軸および横軸は、第1実施形態で説明した
図2(b)のグラフの縦軸および横軸と同一である。
図9のグラフには、漏電値L1の経時変化が実線で、漏電値L2の経時変化が破線で、漏電値L3の経時変化が一点鎖線で、漏電値L4の経時変化が二点鎖線で示されている。更に、このグラフでは、実際には重なる部分の各線をグラフの見易さの観点から若干ずらして示している。
【0128】
図9のグラフの最も左側のピーク(P5部分)によれば、個別変流器21,22による漏電値L1と、個別変流器51,52による漏電値L2とが同一であり、個別変流器53,54による漏電値L3と、個別変流器55,56による漏電値L4とが0Aとなっている。ここから、個別変流器51,52よりも下流側(負荷機器15)でのみ車両19に漏洩電流が生じたものと推定される。
【0129】
図9のグラフの左右中央のピーク(P6部分)によれば、漏電値L2が0Aであり、漏電値L3,L4の合計が漏電値L1と同一である。ここから、個別変流器53,54よりも下流側(負荷機器16)と、個別変流器55,56よりも下流側(負荷機器17)とで車両19に漏洩電流が生じたものと推定される。
【0130】
図9のグラフの最も右側のピーク(P7部分)によれば、漏電値L1が右側へ向かうにつれて2段階に上昇している。その1段階目では、漏電値L2,L3の合計が漏電値L1と同一で漏電値L4が0Aとなっている。2段階目では、1段階目の時と漏電値L2,L3が変わらず漏電値L4が上昇している。ここから、個別変流器51,52より下流側と個別変流器53,54より下流側とで車両19に漏洩電流が生じている間に、個別変流器55,56より下流側でも更に漏洩電流が生じ始めたものと推定できる。
【0131】
また、漏電値L2,L3,L4の合計が漏電値L1と一致する場合に限らず、これらが一致しない場合には、個別変流器21,22よりも下流側であって個別変流器51~56よりも上流側で車両19に漏洩電流が生じたものと推定される。
【0132】
次に
図10を参照して、漏電監視装置の一部を構成する制御装置60についてより詳しく説明する。
図10は、制御装置60を備える計測対象物(車両19)の電気的構成を示したブロック図である。制御装置60は、CPU61と、HDD62と、RAM63とを有し、これらはバスライン64を介して、入出力ポート65にそれぞれ接続されている。入出力ポート65には更に、バッテリ11と、運転台66と、走行装置67と、位置検出装置68と、速度センサ69と、温度センサ70と、湿度センサ71と、漏電計測器50と、予報ランプ72と、警報ランプ73と、がそれぞれ接続されている。
【0133】
CPU61は、バスライン64により接続された各部を制御する演算装置である。HDD62は、CPU61により実行されるプログラムや各種データ等を格納した書き換え可能な不揮発性のメモリであり、制御プログラム62aと、漏電データメモリ62bと、作動状態メモリ62cと、が設けられる。なお、HDD62の代わりに、フラッシュROMやSSD等の記憶装置を用いても良い。
【0134】
CPU61によって制御プログラム62aが実行されると、
図11のメイン処理が実行される。漏電データメモリ62bは、漏電計測器50から受信した各データを記憶するためのメモリである。作動状態メモリ62cは、後述の作動状態データを記憶するためのメモリである。
【0135】
運転台66は、車両19を作動させるために作業者によって操作される装置であり、運転室に配置されている。走行装置67は、その運転台66の操作に基づいて車両19を走行させる装置である。これら運転台66や走行装置67は、負荷機器15~17の一部に該当する。
【0136】
位置検出装置68は、車両19の現在位置を検出する装置であり、本実施形態ではGPSを利用して車両19の現在位置を取得するGPS受信機から構成される。位置検出装置68は、GPS受信機に限定されるものではなく、他の位置検出装置を採用することは当然可能である。他の位置検出装置としては、例えば地上に設置した信号装置から発せられる信号を用いて位置検出する信号受信機などが例示される。
【0137】
速度センサ69は、車両19の走行速度を検出するためのセンサである。なお、位置検出装置68の位置情報から車両19の走行速度を算出するようにして、位置検出装置68に速度センサ69の機能を兼ねさせても良い。温度センサ70は、車両19の周囲の温度(気温)を検出するためのセンサである。湿度センサ71は、車両19の周囲の湿度を検出するためのセンサである。なお、温度センサ70や湿度センサ71を車両19に搭載しなくても良い。
【0138】
予報ランプ72は、車両19のメンテナンスを作業者へ勧めるために黄色に発光する機器である。警報ランプ73は、車両19のメンテナンスが必要であることを作業者へ通知するために赤色に発光する機器である。予報ランプ72及び警報ランプ73は、車両19の運転室に配置されている。
【0139】
第2実施形態の漏電計測器50では、第1実施形態の
図4~7の処理と略同一の処理が実行される。以下、第1実施形態と異なる漏電計測器50の処理について具体的に説明する。まず
図4のS13の処理に代えて、個別変流器51~56で計測した電流をそれぞれ取得する。S18,S19の処理に代えて、漏電値L2~L4を算出し、それらの漏電値L2~L4に対しそれぞれ個別に設けたリングバッファに、それぞれの漏電値L2~L4を記憶する。S23の処理では、外部制御機器40に代えて制御装置60に未送信のデータを送信する。
【0140】
更に、
図5のS48,S51の処理では、漏電値L1,L2及び電圧V1に加え、漏電値L3,L4もピーク検出メモリ26cに記憶する。
図6のS63の処理に代えて、直近1分間の漏電値L2~L4をそれぞれ平均して平均値M2~M4を算出し、その平均値M2~M4に対しそれぞれ個別に設けたリングバッファに、それぞれの平均値M2~M4を記憶する。S66,S69の処理では、平均値M1,M2及び電圧V1に加え、平均値M3,M4も短期変化検出メモリ26d又は長期変化検出メモリ26eに記憶する。
図7のS72の処理では、漏電値L1,L2及び電圧V1に加え、漏電値L3,L4もサイクル収集メモリ26fに記憶する。
【0141】
次に
図11を参照して、制御装置60のCPU61で実行されるメイン処理を説明する。
図11は、制御装置60のメイン処理のフローチャートである。制御装置60のメイン処理は、車両19の制御装置60の電源が投入されると実行される。
【0142】
図11に示すように、メイン処理はまず、各種の作動状態データを取得し、それらを作動状態メモリ62cに記憶する(S81)。この作動状態データとは、負荷機器15~17(運転台66や走行装置67)の制御状態、位置検出装置68で検出した車両19の現在位置、速度センサ69で検出した車両19の走行速度、温度センサ70で検出した温度、湿度センサ71で検出した湿度、これらを検出した時刻などが挙げられる。なお、これらのデータに限らず、外部機器から取得した天候情報や作業者情報などを作動状態データとしても良い。
【0143】
S81の処理後、漏電計測器50のピーク検出メモリ26c、短期変化検出メモリ26d、長期変化検出メモリ26e、サイクル収集メモリ26fにそれぞれ記憶されている未受信のデータを漏電計測器50から取得し、それらを漏電データメモリ62bに記憶する(S82)。なお、これらの未受信のデータは、漏電計測器50における
図4のS23の処理で送信されたデータである。
【0144】
S82の処理後、予報ランプ72又は警報ランプ73の点灯が必要かを判断するために、漏電計測器50から最新の漏電値L1を取得する(S83)。次いで、その漏電値L1と比較するための判定値a,bを設定する(S84)。判定値aは、例えば0.8mAとする。判定値bは、判定値aよりも大きい値とし例えば1mAとする。なお、これらの判定値a,bを適宜変更しても良い。
【0145】
S84の処理後、漏電値L1と判定値a,bとを比較する(S85)。漏電値L1が判定値a,b未満である場合には(S85:a,b未満)、漏電値L1が十分に小さく、予報ランプ72及び警報ランプ73を点灯させる必要がないので、その他の処理を実行して(S88)、S81以下の処理を繰り返す。なお、S88の処理としては、車両19を作動させるための各種処理や、S84の処理で設定される判定値a,bを変更する処理などが挙げられる。
【0146】
S85の処理において、漏電値L1が判定値a以上で判定値b未満である場合には(S85:a以上b未満)、漏電値L1が増加傾向にあるため、予報ランプ72を点灯し(S86)、S88の処理へ移行する。予報ランプ72を点灯することによって運転室の作業者へ車両19のメンテナンスを勧める。
【0147】
S85の処理において、漏電値L1が判定値a,b以上である場合には(S85:a,b以上)、車両19に異常な漏洩電流が発生している可能性があるため、警報ランプ73を点灯し(S87)、S88の処理へ移行する。警報ランプ73を点灯することによって運転室の作業者へ車両19のメンテナンスが必要であることを通知する。
【0148】
なお、この警報ランプ73が点灯した場合、例えば車両19の一部の機能を制限したり、車両19の電源を投入不可能にしても良い。これにより、走行中や作業中の車両19が漏洩電流によって故障して動かなくなること等を抑制できる。
【0149】
以上のように、制御装置60及び漏電計測器50によって構成される漏電監視装置によれば、漏電値L1の監視により車両19のメンテナンスの時期や車両19の異常を作業者へ知らせることができ、安全に車両19を作動させることができる。なお、車両19をメンテナンスする場合には、互いに関連付けられて漏電データメモリ62bに記憶された漏電値L1~L4及び電圧V1を外部機器などで解析することによって、漏洩電流が生じた原因などを特定し易くできる。
【0150】
更に、漏電データメモリ62bに記憶された漏電値L1~L4及び電圧V1と、作動状態メモリ62cに記憶された作動状態データとは、時刻によって互いに関連付けられている。これらの各データを外部機器などで解析することで、漏洩電流が生じた原因などをより特定し易くできる。例えば、ブレーキをかけたときに限って漏電値L1が判定値a,b以上になった場合、そのブレーキ関係の電気回路に異常があると推定できる。
【0151】
また、作動状態データには、車両19の外部の温度や湿度が含まれている。この温度や湿度に応じて車両19の各部の絶縁抵抗値が変動し、その絶縁抵抗値に依存する漏電値L1~L4も温度や湿度に応じて変動する。そのため、温度や湿度と漏電値L1~L4とを比較することで、漏電値L1~L4の変動が温度や湿度に応じたものか、それ以外の変化に応じたものかを推定できる。
【0152】
次に
図12を参照して第3実施形態について説明する。第1実施形態では、直流電力によって作動する負荷機器14を備えた計測対象物10の漏洩電流を監視する漏電計測器20(漏電監視装置)について説明した。これに対し、第3実施形態では、交流電力によって作動する負荷機器85を備えた計測対象物80の漏洩電流を監視する漏電計測器90(漏電監視装置)について説明する。なお、第1,2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0153】
図12は、第3実施形態における漏電監視装置としての漏電計測器90及び計測対象物80の電気回路を模式的に示した回路図である。計測対象物80は、三相交流電力(負荷用電力)を出力する交流電源81と、その交流電源81に接続される3本1組の電源線82,83,84と、それら電源線82~84に接続される負荷機器85と、を備える。
【0154】
交流電源81は、三相4線式の発電機であり、三相交流電力を電源線82~84へ供給する。交流電源81の中性点から延びる中性線81aは接地されている。中性線81aに対し電源線82~84には、同一電圧で位相を120°ずつずらした単相交流がそれぞれ流れている。よって、計測対象物80に漏洩電流が生じていない場合、基本的には、電源線82~84の電流の合計が略0Aとなる。
【0155】
負荷機器85は、交流電源81から電源線82~84を介して供給された三相交流電力によって作動する電気回路である。負荷機器85としては、例えば三相モータやコンバータ等が挙げられる。負荷機器85は、接地線18を介して接地された筐体85aに収容されている。例えば負荷機器85と筐体85aとの間に漏洩電流が生じると、その漏洩電流は接地線18及び中性線81aを通り、漏洩電流の分だけ電源線82~84を通る電流の合計がバランスを崩す。
【0156】
漏電計測器90は、この漏洩電流を監視するための装置である。漏電計測器90は、3本1組の電源線82~84の各々が個別に貫通する3つの個別変流器91,92,93と、接地線18が貫通する接地側変流器94と、を備えている。
【0157】
個別変流器(個別計測器)91~93及び接地側変流器(接地側計測器)94はいずれも、計測対象となる電線が貫通する環状の変流器から構成された計測器であり、その貫通部分を流れる電流の値を計測する。本実施形態における個別変流器91~93及び接地側変流器94は、交流の電流値を計測可能に構成されているが、その構成は既知であるため説明を省略する。
【0158】
個別変流器91~93による1組は、第1,2実施形態と同様に、各々の計測結果である電流を合計することで、所定範囲の漏洩電流を監視(算出)可能な1つの計測部を構成する。具体的に、個別変流器91~93による計測部によって、自身よりも下流側(負荷機器85側)で生じる漏洩電流の値(漏電値L1)を算出できる。これに対し接地側変流器94は、接地線18を通る漏洩電流の値を直接監視(計測)する計測部である。
【0159】
このように漏電計測器90は、個別変流器91~93による漏洩電流の値と、接地側変流器94による漏洩電流の値とを比較することで、計測対象物80に漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。例えば、個別変流器91~93による漏洩電流の値と、接地側変流器94による漏洩電流の値とが同一であれば、負荷機器85と筐体85aとの間で主に漏洩電流が生じていると推定でき、それらの間の絶縁抵抗が劣化していると推定できる。また、個別変流器91~93による漏洩電流の値と、接地側変流器94による漏洩電流の値とが異なれば、負荷機器85と筐体85aとの間以外でも漏洩電流が生じていると推定できる。
【0160】
次に
図13を参照して第4実施形態について説明する。第1~3実施形態では、複数本1組の電源線(2本1組の正極線12及び負極線13、又は、3本1組の電源線82~84)をそれぞれ流れる電流の合計から漏洩電流を算出する漏電計測器20,50,90(漏電監視装置)について説明した。これに対し、第4実施形態では、1組の電源線82~84のうち1本の電源線82の上流側と下流側とにおける電流を比較することで漏洩電流を算出する漏電計測器100(漏電監視装置)について説明する。なお、第1~3実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0161】
図13は、第4実施形態における漏電監視装置としての漏電計測器100及び計測対象物80の電気回路を模式的に示した回路図である。漏電計測器100は、1本の電源線82が貫通する上流変流器101と、その電源線82のうち上流変流器101よりも下流側が貫通する下流変流器102と、を備えている。上流変流器(上流計測器)101及び下流変流器(下流計測器)102はいずれも、計測対象となる電線が貫通する環状の変流器から構成された計測器であり、その貫通部分を流れる電流の値を計測する。
【0162】
上流変流器101で計測した電流と、下流変流器102で計測した電流とを比較し、それらに差が無ければ、上流変流器101と下流変流器102との間で漏洩電流が生じていないと判断できる。一方、上流変流器101及び下流変流器102でそれぞれ計測した電流に差が有れば、上流変流器101と下流変流器102との間で漏洩電流が生じたと判断できる。
【0163】
このように、漏電計測器100は、3本1組の電源線82~84の各々の電流を計測しなくても漏洩電流を監視できるので、漏洩電流を監視可能な対象を広くできる。特に、漏電計測器100は、負荷機器85と筐体85aとの間で生じた漏洩電流に影響されることなく、1本の電源線82に生じた漏洩電流を監視できる。これにより、例えば漏電計測器100と第3実施形態における漏電計測器90とを組み合わせることで、それぞれの計測結果の比較から計測対象物80に漏洩電流が生じた原因を解析し易くできる。
【0164】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推測できるものである。例えば、バッテリ11や交流電源81から出力する電圧などを適宜変更しても良く、バッテリ11を直流発電機やコンバータなどの直流電源に変更したり、交流電源81をインバータや変圧器などに変更しても良い。また、本明細書における電源線または電線とは、可撓性を有する線状の導電体に限らず、ブスバー(銅バー)のような棒状や板状の導電体でも良く、これらの導電体を組み合わせたものでも良い。
【0165】
また、電流A1,A2等を取得する間隔(メイン処理を実行する間隔)や、作動状態データを取得する間隔、漏電値L1,L2の平均値M1,M2等を算出する間隔、その平均値M1,M2の算出に用いる電流A1,A2の範囲、各リングバッファ27a~27eの記憶容量、漏電値L1等が閾値を超えたときにピーク検出メモリ26cへ記憶する範囲などを適宜変更しても良い。また、
図6のアベレージ検出処理S21で短期変化率および長期変化率の算出に用いる変化前の平均値M1を適宜変更しても良い。具体的に例えば、5分~4分前の平均値M1(5分~4分前に算出された複数の漏電値L1を平均した値)に対する直近1分間の平均値M1の変化率を短期変化率や長期変化率としても良い。
【0166】
上記各実施形態の構成の一部を互いに組み合わせたり、構成の一部を省略しても良い。例えば、第1実施形態の零相変流器23による計測部を、第2実施形態の個別変流器21,22,51~56による計測部の少なくとも1つや、第3実施形態の個別変流器91~93による計測部と置き換えても良い。また、第1実施形態の個別変流器21,22による計測部を零相変流器23による計測部に置き換えたり、第1実施形態の零相変流器23による計測部を個別変流器21,22による計測部に置き換えても良い。
【0167】
更に、第3実施形態における接地側変流器94による計測部を第1,2,4実施形態の漏電計測器20,50,100に設けても良い。また、各実施形態における上記計測部のうち1つ以上を省略したり、上記計測部を更に増やしても良い。また、第3,4実施形態の1組の電源線82~84を、第2実施形態のように下流側で複数組に分岐させても良く、その分岐の上流側および下流側の少なくとも一方に上記計測部を設けても良い。
【0168】
上記第1,3,4実施形態では漏電計測器20,90,100が漏電監視装置であり、上記第2実施形態では漏電計測器50と制御装置60とで漏電監視装置が構成される場合を説明した。しかしこれに限らず、漏電計測器20,50,90,100の一部や全部を複数組み合わせて漏電監視装置を構成しても良く、それらに更に制御装置60や外部制御機器40等を組み合わせて漏電監視装置を構成しても良い。
【0169】
上記第3実施形態では、三相交流電力を出力する交流電源81を備えた計測対象物80の漏洩電流を漏電計測器90で監視する場合を説明したが、これに限られない。交流電源81を、単相交流電力を出力する電源に置き換えても良い。この場合、電源線84及び個別変流器93を省略し、2つの個別変流器91,92で計測した電流の合計を漏洩電流の値とすれば良い。
【0170】
更に、三相4線式において、例えば電源線82及び中性線81aから単相交流機器へ単相交流電力を供給しても良い。この場合、電源線82の個別変流器91と、中性線81aが貫通する個別変流器との電流を合計することで、漏洩電流の値を算出できる。また、中性線81aを省略して交流電源81を三相3線式の電源としても良い。この場合には、電源線82~84のいずれか1本を個別変流器91~93の上流側で接地させることが好ましい。
【0171】
上記第3,4実施形態では、漏電計測器90,100が、電圧V1を計測する基準検出部24を備えない場合について説明したが、これに限られない。例えば、三相交流が流れる電源線82~84の相間から電圧のクロスポイントを検出する基準検出部を漏電計測器90,100に設け、その基準検出部の計測結果に基づいて漏洩電流を補正しても良い。
【0172】
具体的に漏電計測器90において、個別変流器91~93による電流の合計と、基準検出部による電圧のクロスポイントとから、補正後の漏洩電流として漏洩電流Igrを算出しても良い。漏洩電流Igrの算出には、既知の方法を用いればよく、例えば特許第4945727号公報に開示されている方法を用いればよい。なお、交流が流れる計測対象物80で生じる漏洩電流には、対地静電容量に起因する漏洩電流Igcと、対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrと、が含まれている。
【0173】
第1,2実施形態における漏電計測器20,50の基準検出部24を省略し、例えば電流A1,A2の合計をそのまま漏電値L1としても良い。また、基準検出部24を設ける場合、漏電計測器20,50に内蔵される場合に限らず、バッテリ11等の電圧を計測する電圧計が計測対象物10等に搭載されていれば、その電圧計を基準検出部24として用いても良い。
【0174】
上記実施形態では、漏電計測器20,50,90において、個別変流器21,22,51~56,91~93で計測した電流A1,A2等を合計し、漏電値L1~L4を算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、漏電計測器20,50,90で漏電値L1~L4を算出せずに、外部制御機器40や制御装置60で漏電値L1~L4を算出しても良い。即ち、個別変流器21,22,51~56,91~93や零相変流器23、接地側変流器94、基準検出部24による計測結果をそのまま外部制御機器40や制御装置60へ送信するように、漏電計測器20,50,90を構成しても良い。漏電値L1~L4や電圧V1を用いた解析を、外部制御機器40等ではなく漏電計測器20,50,90で行っても良い。
【0175】
また、漏電データメモリ62bや作動状態メモリ62cを漏電計測器50に設けて、
図11に示した制御装置60のメイン処理のうちS81~S87の処理を漏電計測器50で実行しても良い。この場合、漏電データメモリ62bを省略し、ピーク検出メモリ26c、短期変化検出メモリ26d、長期変化検出メモリ26e、サイクル収集メモリ26fのデータ容量を大きくしても良い。また、これらの各メモリ26c~26fを1つのメモリにまとめても良い。
【0176】
また、計測対象物である車両19の制御装置60から車両19の外部に設けた外部制御機器へ、漏電データメモリ62bや作動状態メモリ62cの各データを送信し、S83~S87の処理を外部制御機器で実行しても良い。この場合、予報ランプ72及び警報ランプ73の点灯に代えて、外部制御機器の表示装置などに車両19のメンテナンスを実行するように表示しても良い。
【0177】
更に、第1,3,4実施形態においても、第2実施形態のような作動状態データを漏電計測器20,90,100や外部制御機器40等で取得し、その作動状態データを用いて計測対象物10,80に漏洩電流が生じた原因を解析しても良い。
【0178】
上記実施形態では、外部制御機器40への送信が許可されたデータが記憶される各メモリ26c~26fに、漏電値L1,L2(電流A1,A2の合計、合計電流A3)に関するデータとして漏電値L1,L2自体を記憶する場合や、複数の漏電値L1,L2をそれぞれ平均した平均値M1,M2を記憶する場合について説明したが、これに限られない。漏電値L1,L2に関するデータとして電流A1,A2や合計電流A3を各メモリ26c~26fに記憶し、漏電値L1,L2に基づき選定した電流A1,A2や合計電流A3を外部制御機器40へ送信しても良い。
【0179】
上記実施形態では、外部制御機器40への送信が許可されたデータを各メモリ26c~26fに一時的に記憶する場合を説明したが、これに限られない。送信が許可されたデータを、各メモリ26c~26fに記憶せず、外部制御機器40へ直接送信しても良い。これは、漏電計測器20と外部制御機器40とが通信可能である場合に行うことができ、これらの間で通信が不可能である場合には各メモリ26c~26fへの一時的な記憶が必要となる。
【0180】
上記実施形態では、漏電計測器20のCPU25において、個別変流器21,22で計測した電流A1,A2等をデジタル化して取得する場合について例示したが、これに限られない。例えば、計測した電流A1,A2をアナログ信号のまま合計し、その合計をデジタル化してCPU25に取得させても良い。個別変流器21,22,51~56,91~93や零相変流器23、接地側変流器94、基準検出部24の計測結果をそれぞれデジタル化する場合には、そのデジタル化する変換器と、入出力ポート29とを無線で通信しても良い。
【0181】
上記実施形態では、漏電計測器20でピーク検出処理S20、アベレージ検出処理S21及びサイクル収集処理S22を実行する場合について説明したが、これに限られない。例えば、ピーク検出処理S20、アベレージ検出処理S21及びサイクル収集処理S22の少なくとも1を実行し、その他の処理を実行しなくても良い。
【0182】
上記実施形態では、ピーク検出処理S20において、スタート位置Sからエンド位置Eまでの漏電値L1をピーク検出メモリ26cに記憶する場合について説明したが、これに限られない。例えば、上流リングバッファ27aの最新位置の漏電値L1が閾値未満から閾値以上になった場合に、15秒前から最新位置までの漏電値L1をピーク検出メモリ26cに記憶し、漏電値L1が閾値以上から閾値未満になってから15秒経過するまで、新たに算出された最新位置の漏電値L1を毎回のピーク検出処理S20でピーク検出メモリ26cに記憶するように制御しても良い。
【0183】
上記実施形態では、ピーク検出処理S20のS48,S51の処理において、漏電値L1と一緒に漏電値L2をピーク検出メモリ26cに記憶する場合を説明したが、これに限られない。S48,S51の処理で漏電値L2を記憶しないようにしても良い。この場合、漏電値L1に対するピーク検出処理S20とは別に、漏電値L2に対するピーク検出処理を実行する。漏電値L2に対するピーク検出処理では、S41~S51の各処理における漏電値L1を漏電値L2に、上流リングバッファ27aを下流リングバッファ27bにそれぞれ置き換えれば良い。これはアベレージ検出処理S21も同様であり、漏電値L2に対するアベレージ検出処理S21では、S64~S69の各処理における平均値M1を平均値M2にそれぞれ置き換えれば良い。
【0184】
上記第1実施形態では、個別変流器21,22により個別に電流A1,A2を計測する個別計測ステップ(S11,S12の処理)と、その個別計測ステップで計測した複数の電流A1,A2を合計する合計ステップ(S16の処理の一部)と、その合計ステップで合計した電流「A1+A2」に基づき計測対象物10の漏洩電流L1を検出する検出ステップ(例えばS16の処理の一部)と、を備える漏洩電流検出方法について説明した。この方法は、上述した通り上記第2,3実施形態でも同様である。
【0185】
なお、個別計測ステップでは、例えば個別変流器22を省略し、個別変流器21で正極線12の電流A1を計測した後、正極線12から外した個別変流器21に負極線13を貫通させ、個別変流器21で負極線13の電流A2を計測しても良い。同様に個別変流器21を省略し、個別変流器22で電流A1,A2をそれぞれ個別に計測しても良い。更に、個別変流器51~56,91~93による計測箇所をそれぞれ1つの個別変流器で順番に計測しても良い。また、検出ステップでは、例えば合計した電流「A1+A2」をそのまま漏洩電流L1として検出しても良い。
【0186】
このような第1~3実施形態の漏洩電流検出方法に対し、上記第4実施形態では、上流変流器101及び下流変流器102によって電源線82の2か所にそれぞれ流れる電流を個別に計測する計測ステップと、その計測ステップで計測した2か所の電流の差を算出する差分ステップと、その差分ステップで算出した電流の差に基づき計測対象物80の漏洩電流を検出する検出ステップと、を備える漏洩電流検出方法について説明した。
【0187】
なお、この計測ステップでは、例えば下流変流器102を省略し、上流変流器101で電源線82の上流側の電流を計測した後、移動させた上流変流器101で電源線82の下流側の電流を計測しても良い。同様に上流変流器101を省略し、下流変流器102で電源線82の2か所の電流を個別に計測しても良い。また、上記第4実施形態における検出ステップでは、差分ステップで算出した電流の差をそのまま漏洩電流として検出しているが、その電流の差を電源線82の電圧などで補正して漏電値を検出しても良い。
【0188】
上記実施形態では、個別変流器21,22,51~56,91~93、零相変流器23、接地側変流器94、上流変流器101及び下流変流器102のそれぞれは、計測対象となる電線が貫通する環状の変流器から構成されて、その貫通部分を流れる電流の値を計測する計測器である場合について説明した。しかし、これらの変流器を、計測対象の電線を流れる電流の値を計測可能な他の計測器に代えても良い。他の計測器としては、通電により電線に生じた磁界を計測し、その磁界に基づいて電流の値を計測する非環状のものが例示される。また、他の計測器としては、1本の電線の電流を個別に計測するものに限られるが、シャント抵抗を用いたものが例示される。
【符号の説明】
【0189】
10,80 計測対象物
12 正極線(電源線)
12a,13a 幹電線
12b~12d,13b~13d 分岐電線
13 負極線(電源線)
14~17,85 負荷機器
14a~17a,85a 筐体
18 接地線
19 車両(計測対象物)
20,90,100 漏電計測器(漏電監視装置)
21,22,51~56,91~93 個別変流器(計測部、個別計測器)
23 零相変流器(計測部、零相計測器)
24 基準検出部
26c ピーク検出メモリ(記憶部)
26d 短期変化検出メモリ(記憶部)
26e 長期変化検出メモリ(記憶部)
50 漏電計測器(漏電監視装置の一部)
60 制御装置(漏電監視装置の一部)
82~84 電源線
94 接地側変流器(計測部、接地側計測器)
101 上流変流器(上流計測器)
102 下流変流器(下流計測器)
S16,S18 基準関連付手段、合計算出手段
S41~S47,S50,S64,S65,S67,S68 記憶判断手段
S48,S51,S66,S69 記憶実行手段
S81 取得手段
S82 状態関連付手段