(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082395
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】梁貫通孔補強構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/08 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
E04C3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196210
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 真太朗
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴章
(72)【発明者】
【氏名】横山 眞一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亨
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FB02
2E163FB23
(57)【要約】
【課題】貫通孔の周囲に無補強部を有する梁貫通孔補強構造において、貫通孔の補強をより確実に行い、かつ、施工性を改善する。
【解決手段】ウェブ11とフランジ12、13を有する鉄骨梁10に設けられた貫通孔14の補強構造1において、貫通孔14の周縁の一部に沿った形状の円弧辺22を有する孔周補強部21と、ウェブ11との締結箇所である締結部23と、を備えた補強材20a、20bと、貫通孔14の周縁の残部に沿って設けられた無補強部30と、を設け、無補強部30とフランジ12、13との間には、孔周補強部21が存在し、締結部23を孔周補強部21に複数設けられた第一領域R
1の各々の領域内に少なくとも一つ設け、かつ、第二領域R
2の各々の領域内に少なくとも一つ設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブとフランジを有する鉄骨梁に設けられた貫通孔の補強構造であって、
前記貫通孔の周縁の一部に沿った形状の円弧辺を有する孔周補強部と、前記ウェブとの締結箇所である締結部と、を備えた補強材と、
前記貫通孔の周縁の残部に沿って設けられた無補強部と、を有し、
前記無補強部と前記フランジとの間には、前記孔周補強部が存在し、
前記締結部は、前記孔周補強部に複数設けられた下記の第一領域の各々の領域内に少なくとも一つ設けられ、かつ、下記の第二領域の各々の領域内に少なくとも一つ設けられていることを特徴とする、梁貫通孔補強構造。
・X軸方向:前記鉄骨梁の長手方向
・Y軸方向:ウェブ面に垂直な方向から見たときの前記X軸方向に垂直な方向
・αx線:前記円弧辺の端点を通る前記X軸方向に延びた直線
・円縁交点:前記αx線と前記貫通孔との交点
・αy線:前記円縁交点を通る前記Y軸方向に延びた直線
・αx´線:前記X軸方向に延びた前記貫通孔の接線
・αy´線:前記Y軸方向に延びた前記貫通孔の接線
・第一領域:前記孔周補強部における前記αx線の外側、かつ、前記αy線の外側の領域
・第二領域:前記孔周補強部における前記αx´線の外側、かつ、前記αy´線の外側の領域と、前記第一領域とが重なる領域
【請求項2】
前記補強材として、前記貫通孔の上部を補強する上部補強材と、前記貫通孔の下部を補強する下部補強材と、が設けられ、
前記上部補強材と前記下部補強材との間に前記無補強部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の梁貫通孔補強構造。
【請求項3】
前記X軸方向における前記孔周補強部の中央部の板厚が端部の板厚より厚いことを特徴とする、請求項2に記載の梁貫通孔補強構造。
【請求項4】
前記貫通孔の周囲において、前記無補強部が一箇所のみ設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の梁貫通孔補強構造。
【請求項5】
前記貫通孔の中心を通る前記Y軸方向に延びた直線と、前記貫通孔の中心と前記円縁交点とを結ぶ直線とのなす角が略45°であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の梁貫通孔補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨構造物における梁の貫通孔を補強するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨構造物の梁に形成される貫通孔の補強構造として、貫通孔の周囲に補強材を溶接してなる補強構造が知られている。しかしながら、この補強構造では、溶接による梁の変形や局所的な材質変更が生じるという問題や、施工時における溶接品質の確保または建方時には溶接施工自体が困難な場合があるといった問題が生じ得る。
【0003】
このため、従来は、溶接ではなく高力ボルトによって貫通孔の周囲に補強材を取り付ける補強構造が採用される。そのような補強構造として、例えば特許文献1や特許文献2に記載された補強構造がある。特許文献1には、梁ウェブの両面において、貫通孔の周囲に高力ボルトで開口補強プレートを接合した補強構造が開示されている。特許文献2には、梁ジョイント部の貫通孔をスプライスプレートにより補強する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5-057149号公報
【特許文献2】特開平5-179756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の補強構造では、梁ウェブに開口補強プレートを締結する際に多数のボルトが必要となるため、施工が煩雑となる。一方、特許文献2に記載の補強構造は、貫通孔の上下にスプライスプレートを設ける構成であり、特許文献1に記載の補強構造と比較すると施工が容易になると考えられる。しかしながら、貫通孔の上端と下端以外は補強されていない構成、すなわち貫通孔の周囲に無補強部を有する構成であるため、せん断力に対する貫通孔の補強という観点では改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、貫通孔の周囲に無補強部を有する梁貫通孔補強構造において、貫通孔の補強をより確実に行い、かつ、施工性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一態様は、ウェブとフランジを有する鉄骨梁に設けられた貫通孔の補強構造であって、前記貫通孔の周縁の一部に沿った形状の円弧辺を有する孔周補強部と、前記ウェブとの締結箇所である締結部と、を備えた補強材と、前記貫通孔の周縁の残部に沿って設けられた無補強部と、を有し、前記無補強部と前記フランジとの間には、前記孔周補強部が存在し、前記締結部は、前記孔周補強部に複数設けられた下記の第一領域の各々の領域内に少なくとも一つ設けられ、かつ、下記の第二領域の各々の領域内に少なくとも一つ設けられていることを特徴としている。
・X軸方向:前記鉄骨梁の長手方向
・Y軸方向:ウェブ面に垂直な方向から見たときの前記X軸方向に垂直な方向
・αx線:前記円弧辺の端点を通る前記X軸方向に延びた直線
・円縁交点:前記αx線と前記貫通孔との交点
・αy線:前記円縁交点を通る前記Y軸方向に延びた直線
・αx´線:前記X軸方向に延びた前記貫通孔の接線
・αy´線:前記Y軸方向に延びた前記貫通孔の接線
・第一領域:前記孔周補強部における前記αx線の外側、かつ、前記αy線の外側の領域
・第二領域:前記孔周補強部における前記αx´線の外側、かつ、前記αy´線の外側の領域と、前記第一領域とが重なる領域
【0008】
前記補強材として、前記貫通孔の上部を補強する上部補強材と、前記貫通孔の下部を補強する下部補強材と、が設けられてもよい。
【0009】
前記X軸方向における前記孔周補強部の中央部の板厚が端部の板厚より厚くてもよい。
【0010】
前記貫通孔の周囲において、前記無補強部が一箇所のみ設けられてもよい。
【0011】
前記貫通孔の中心を通る前記Y軸方向に延びた直線と、前記貫通孔の中心と前記円縁交点とを結ぶ直線とのなす角が略45°であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貫通孔の周囲に無補強部を有する梁貫通孔補強構造において、貫通孔の補強をより確実に行い、かつ、施工性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第一実施形態に係る梁貫通孔補強構造の概略構成を示す正面図および右側面図である。
【
図3】第一実施形態に係る鉄骨梁と補強材の締結領域(第二領域)を示す図である。
【
図4】締結領域(第二領域)の定義について説明するための図である。
【
図5】せん断力が作用した貫通孔の変形状態を示す図である。
【
図6】第二実施形態に係る梁貫通孔補強構造の概略構成を示す正面図および右側面図である。
【
図7】第二実施形態に係る補強材の単品図(正面図および底面図)である。
【
図8】第二実施形態に係る補強材の構成例を示す図である。
【
図9】第三実施形態に係る梁貫通孔補強構造の概略構成を示す左側面図、正面図および右側面図である。
【
図10】第三実施形態に係る補強材の単品図である。
【
図11】第三実施形態に係る鉄骨梁と補強材の締結領域(第二領域)を示す図である。
【
図12】第三実施形態に係る締結領域(第二領域)の定義について説明するための図である。
【
図13】ウェブの両面に対する補強材の取り付け例を示す図である。
【
図14】ウェブの両面に対する補強材の取り付け例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係る梁貫通孔補強構造の概略構成を示す正面図および右側面図である。
図2は、第一実施形態に係る補強材の単品図である。
【0016】
図1に示すように、梁貫通孔補強構造1(以下、「補強構造」という)は、鉄骨梁10と、二つの補強材20a、20bを備えている。
【0017】
鉄骨梁10は、ウェブ11と、フランジ12、13を有した梁であり、例えばH形鋼やI形鋼等の鋼材からなる。また、フランジ12、13間におけるウェブ11の中央部には、円形の貫通孔14が形成されている。
【0018】
二つの補強材20a、20bは、貫通孔14の周囲を補強する略長方形状の板材であり、貫通孔14の上部と下部に配置されている。詳述すると、上部補強材20aは、貫通孔14と上部フランジ12との間に配置され、下部補強材20bは、貫通孔14と下部フランジ13との間に配置されている。
【0019】
図2に示すように、下部補強材20bは、貫通孔14の周囲の補強を行う孔周補強部21と、孔周補強部21に形成された円弧辺22と、鉄骨梁10との締結箇所である締結部23を有している。
【0020】
孔周補強部21は、貫通孔14の周囲のウェブ面に接触する面を有している。
【0021】
円弧辺22は、孔周補強部21の内側に凸となるように湾曲した曲線部であり、孔周補強部21における二つの長辺のうちの一方の長辺の中央部に形成されている。円弧辺22の曲率半径は、貫通孔14の曲率半径と略同一であり、貫通孔14の周縁(孔周)に沿った形状となっている。円弧辺22の弧長は、貫通孔14の円周の1/2の長さよりも短い。
【0022】
締結部23は、例えばボルトなどの締結具が挿通される挿通口である。下部補強材20bの孔周補強部21には、その締結部23が二箇所に設けられている。
【0023】
上部補強材20aは、下部補強材20bと同一形状の部品であり、下部補強材20bと同様に、孔周補強部21に円弧辺22と締結部23を有している。
【0024】
なお、各補強材20a、20bは、同一形状でなくもよいが、貫通孔14の上部と下部において、せん断力に対する変形抵抗力を均一に発生させるためには、同一形状であることが好ましい。同様の理由によって、補強材20a、20bの各々は、それぞれ左右対称形状であることが好ましい。
【0025】
上部補強材20aと下部補強材20bは、貫通孔14の周囲において上下反転するようにして配置されている。詳述すると、貫通孔14の上部においては、貫通孔14の周縁の一部と上部補強材20aの円弧辺22の位置が重なるように上部補強材20aが配置され、貫通孔14の下部においては、貫通孔14の周縁の一部と下部補強材20bの円弧辺22の位置が重なるように下部補強材20bが配置されている。
【0026】
図1(b)に示すように、上部補強材20aと下部補強材20bは、ウェブ11の両面11a、11bにそれぞれ取り付けられている。詳述すると、一方のウェブ面11aに対しては、一対の上部補強材20aと下部補強材20bが取り付けられ、他方のウェブ面11bに対しては、他の一対の上部補強材20aと下部補強材20bが取り付けられている。
【0027】
上部補強材20aと下部補強材20bの各々の円弧辺22は、前述のように弧長が貫通孔14の円周の1/2の長さより短いため、各補強材20a、20bがウェブ11に固定された状態では、各補強材20a、20bの孔周補強部21の間に、間隙が形成されている。
【0028】
上記の間隙では、貫通孔14が孔周補強部21で補強されていないため、この間隙部分が無補強部30となる。無補強部30は、貫通孔14を挟んで貫通孔14の左右に存在し、無補強部30とフランジ12、13の各々との間には、孔周補強部21が存在している。
【0029】
すなわち、補強構造1においては、貫通孔14の周縁の一部が孔周補強部21によって補強され、貫通孔14の周縁の残部は、無補強部30が存在することによって補強されない構造となっている。このような補強構造1において、せん断力に対する変形抵抗力を高めるためには、後述する特定の締結領域を有すること及び、この特定の締結領域内に締結部23が位置している必要がある。なお、特定の締結領域内に締結部23が設けられた状態とは、締結部23としての挿通口の中心が特定の締結領域内に位置している状態(挿通口の中心が領域の境界線上に位置する場合を含む)を意味する。このため、挿通口の中心が特定の締結領域の外側に位置している状態は、たとえ特定の締結領域内に挿通口の一部領域が含まれていたとしても、締結部23が特定の締結領域内に設けられていない状態である。
【0030】
図3は、鉄骨梁10と補強材20a、20bの締結領域R
2を示す図である。本図に示すように、補強構造1では、締結領域R
2が四箇所設けられており、それらの締結領域R
2の各々に締結部23が位置している。
【0031】
以下、
図4を参照して締結領域R
2の定義について説明する。
【0032】
なお、以下の説明で使用される「X軸方向」は、鉄骨梁10の長手方向であり、換言すればウェブ面11aに垂直な方向から見たときのフランジ12、13に平行な方向である。「Y軸方向」は、ウェブ面11aに垂直な方向から見たときのX軸方向に垂直な方向であり、換言すればフランジ12、13に垂直な方向である。また、以下の説明では、貫通孔14の中心を通るX軸方向に延びた直線を中心線Cxと記載し、貫通孔14の中心を通るY軸方向に延びた直線を中心線Cyと記載する。
【0033】
まず、
図4(a)に示すように、円弧辺22の端点24(
図2にも示す)を通るX軸方向に延びた直線を「α
x線」と定義する。本実施形態では、上部補強材20aの円弧辺22の端点24を通る直線と、下部補強材20bの円弧辺22の端点24を通る直線が、α
x線となる。
【0034】
なお、例えば円弧辺22が左右対称形状でない場合のように、各補強材20a、20bの円弧辺22の形状によっては、円弧辺22の端点24を通る直線が一つの補強材あたりに2本存在し、計4本のαx線が存在し得る。しかし、そのような場合においては、一つの補強材が有する複数の端点24のうち、フランジにより近い位置にある端点24(換言すれば、中心線Cxからの距離が最も遠い端点)を通るX軸方向に延びた直線をαx線とする。
【0035】
次に、αx線と貫通孔14との交点Pを「円縁交点」と定義する。本実施形態では、上部補強材20aと下部補強材20bの各々が左右対称形状であって、かつ、貫通孔14の周縁に沿って各補強材20a、20bの円弧辺22が位置しているため、二つの円弧辺22の各端点24の位置がそのまま円縁交点Pの位置となる。
【0036】
次に、
図4(b)に示すように、円縁交点Pを通るY軸方向に延びた直線を「α
y線」と定義する。本実施形態では、四つの円縁交点Pが上下左右対称の位置に存在しているため、貫通孔14の中心線C
yよりも左側で上下に並ぶ円縁交点Pを通る直線と、貫通孔14の中心線C
yよりも右側で上下に並ぶ円縁交点Pを通る直線が、α
y線となる。
【0037】
なお、例えば各補強材20a、20bの円弧辺22の形状によっては、X軸方向における各円縁交点Pの位置が互いに異なることによって、4本のαy線が存在し得る。しかし、そのような場合においては、貫通孔14の中心線Cyよりも左側に存在する円縁交点Pのうち、中心線Cyからの距離が最も離れた円縁交点Pを通るY軸方向に延びた直線を1本目のαy線とする。そして、貫通孔14の中心線Cyよりも右側に存在する円縁交点Pのうち、中心線Cyからの距離が最も離れた円縁交点Pを通るY軸方向に延びた直線を2本目のαy線とする。
【0038】
次に、孔周補強部21におけるαx線の外側(貫通孔14の中心側とは反対側)、かつ、αy線の外側(貫通孔14の中心側とは反対側)の領域R1を「第一領域」と定義する。
【0039】
次に、
図4(c)に示すように、X軸方向に延びた貫通孔14の接線を「α
x´線」と定義し、Y軸方向に延びた貫通孔14の接線を「α
y´線」と定義する。
【0040】
最後に、孔周補強部21におけるαx´線の外側(貫通孔14の中心側とは反対側)、かつ、αy´線の外側(貫通孔14の中心側とは反対側)の領域と、第一領域R1とが重なる領域R2を「第二領域」と定義する。この第二領域R2が、前述した鉄骨梁10と各補強材20a、20bの締結領域R2である。
【0041】
本実施形態では、各補強材20a、20bと一対の無補強部30とで構成される四角形の四隅の各々には、前述した第一領域R1と、その第一領域R1内に位置する締結領域R2が存在し、各締結領域R2内に締結部23が位置している。そして、上部補強材20aと下部補強材20bは、各締結部23でウェブ面11aに対してボルト等で締結されている。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る補強構造1においては、円弧辺22を有した孔周補強部21と、無補強部30とが設けられ、かつ、それぞれの第一領域R1内に設けられた締結領域R2(第二領域)の各々に締結部23が位置している。本願の発明者らが実施した試験によれば、そのような補強構造1において、各締結部23で鉄骨梁10と補強材20a、20bとをボルト等で締結することによって、締結領域R2の領域外での締結が行われなくても、十分な補強性能を発揮することが確認されている。
【0043】
すなわち、補強構造1は、無補強部30を有する構造であるにも関わらず、例えば特許文献2のような従前の構造よりも貫通孔の補強性能が向上する。また、補強構造1によれば、従前のような補強プレートの各辺に沿って多数のボルトを等間隔で締結する構造と比較し、締結箇所を減少させることができるため、締結作業の負荷が軽減し、施工性が改善する。加えて、補強構造1によれば、無補強部30が存在することによる材料使用量の減少や、ボルト本数の削減によって、施工コストの低減や鉄骨構造物の軽量化といった効果も享受できる。
【0044】
なお、本実施形態では、一箇所の締結領域R2あたりに一つの締結部23が設けられているが、補強性能を高める観点では、一箇所の締結領域R2あたりに二以上の締結部23が設けられてもよい。換言すると、締結部23は、複数の締結領域R2(第二領域)の各々に少なくとも一つ設けられていればよい。また、第二領域R2に締結部23が設けられ、その第二領域R2の外側かつ第一領域R1内に他の締結部(図示せず)が設けられてもよい。すなわち、締結部23は、第一領域R1の各々の領域内に少なくとも一つ、かつ、第二領域R2の各々の領域内に少なくとも一つ設けられていればよい。なお、第二領域R2は、第一領域R1内に存在する領域であるため、例えば第二領域R2に締結部23が一つ設けられている場合、その締結部23は、第二領域R2内に設けられた締結部の一つとしてカウントされるが、第一領域R1内に設けられた締結部の一つとしてもカウントされる。すなわち、第二領域R2に締結部23が一つ設けられている場合には、第一領域R1内にも締結部23が一つ設けられているといえる。
【0045】
また、本願の発明者らが実施した試験によれば、貫通孔14に対し、
図5の黒矢印で示すようなせん断力が作用した際に、貫通孔14が略45°方向に変形することが確認されている。したがって、貫通孔14の補強を効果的に行うためには、
図3に示した貫通孔14の中心線C
yと、貫通孔14の中心と円縁交点Pとを結ぶ直線とのなす角θは、略45°(40~50°)であることが好ましい。
【0046】
<第二実施形態>
図6は、第二実施形態に係る梁貫通孔補強構造1の概略構成を示す正面図および右側面図である。
図7は、第二実施形態に係る補強材20bの単品図(正面図および底面図)である。
【0047】
第二実施形態においては、孔周補強部21の形状のみが第一実施形態と相違している。第二実施形態に係る補強構造1は、孔周補強部21と、鉄骨梁10のフランジ12、13との距離が短い場合に有用である。以下、第二実施形態に係る孔周補強部21の形状について説明するが、第一実施形態と同様の内容となる説明は省略することがある。
【0048】
図6に示すように、本実施形態においても、上部補強材20aと下部補強材20bは、貫通孔14の上部と下部において上下反転して配置されており、単品の部品形状としては同一形状となっている。
【0049】
図7に示すように、本実施形態に係る孔周補強部21は、締結部23の周辺は平板状となっているが、円弧辺22が形成された範囲の部位においては、X軸方向における孔周補強部21の中央部に向かって、孔周補強部21の板厚が漸増している。換言すると、孔周補強部21のY軸方向に垂直な断面においては、孔周補強部21の中央部に向かって山形に形成された部分が存在する。
【0050】
本実施形態で例示したように、X軸方向における孔周補強部21の中央部の板厚が端部の板厚よりも厚い場合には、孔周補強部21のせん断力に対する剛性が高まり、補強性能が向上する。このため、例えば
図7(a)に示す孔周補強部21のY軸方向における幅Wを、第一実施形態で例示した平板状の孔周補強部21よりも短くしても、その平板状の孔周補強部21と同等の補強性能を得ることも可能である。
【0051】
また、以上の説明では、円弧辺22が形成された範囲の部位において、X軸方向における孔周補強部21の中央部に向かって孔周補強部21の板厚が漸増する例について記載したが、
図8(a)~(c)で例示するように、孔周補強部21に別途板材25を重ね合わせるように接合してもよい。このような場合であっても、X軸方向における孔周補強部21の中央部の板厚が端部の板厚よりも厚いため、上述した補強性能を得ることができる。
【0052】
本実施形態に係る補強構造1によれば、貫通孔14の補強性能を確保しつつ、補強材20a、20bの小型化を図ることができる。これによって、例えばフランジ12、13間の間隔が狭い鉄骨梁10に対しても補強構造1を適用することができる。
【0053】
<第三実施形態>
図9は、第三実施形態に係る梁貫通孔補強構造1の概略構成を示す左側面図、正面図および右側面図である。
図10は、第三実施形態に係る補強材20の単品図である。
【0054】
第三実施形態においては、上部補強材20aと下部補強材20bに代えて一つの補強材20が使用されている点、および、無補強部30が一つのみ設けられている点が、第一実施形態と相違している。以下、第三実施形態の説明を行うが、第一実施形態と同様の内容となる説明は省略することがある。
【0055】
図9及び
図10に示すように、本実施形態に係る補強材20は、外形が四角形の平板であって、四角形の一辺に形成された矩形状の切欠きが、平板中央部に形成された円形の開口に繋がった略U字状の形状を有している。この補強材20においては、中央部の円形の開口と矩形状の切欠きを除く部分が孔周補強部21であり、切欠き部分が無補強部30である。
【0056】
孔周補強部21は、貫通孔14の周縁に沿って形成された円弧辺22を有しており、
図10に示すように、円弧辺22には、二つの端点24が存在する。
【0057】
図11に示すように、本実施形態においても貫通孔14の周縁と円弧辺22の位置が一致するように補強材20が配置され、締結領域R
2内に位置した締結部23において、鉄骨梁10と補強材20がボルト等で締結される。
【0058】
図12は、本実施形態に係る締結領域R
2(第二領域)の定義について説明するための図であるが、締結領域R
2の定義方法は、第一実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0059】
ただし、本実施形態では、第一実施形態と異なり、無補強部30が一つのみであるため、
図12(a)に示すように、貫通孔14の中心線C
yの左側には、円弧辺22の端点24は存在しない。しかし、円弧辺22の端点24を通るX軸方向に延びた直線(α
x線)と、貫通孔14の交点が円縁交点Pであるため、第一実施形態と同様に四つの円縁交点Pが存在する。
【0060】
本実施形態に係る補強構造1は、以上のように構成されている。この補強構造1によれば、第一実施形態に係る補強構造1に対して無補強部30の数が少ないため、貫通孔14の補強性能が向上する。このため、要求される補強性能が高い場合には、本実施形態に係る補強構造1が有用である。また、この補強構造1においても、ボルト等の締結箇所が従前構造よりも少なくできるため、施工性の改善効果を得ることは可能である。
【0061】
また、鉄骨梁10に補強材20を取り付ける際には、鉄骨梁10の長手方向に無補強部30が位置することはもちろん、無補強部30の位置が、ウェブ面11aとウェブ面11bとで一致しないように取り付けることが好ましい。例えば、ウェブ面11aに取り付けた補強材20の無補強部30が
図12における右側(X軸方向正側)に位置し、ウェブ面11bに取り付けた補強材20の無補強部30が
図12における左側(X軸方向負側)に位置するように各補強材20を取り付けることで、鉄骨梁10全体として見れば、貫通孔14の全周に亘って無補強部30がなくなるような状態(すなわち貫通孔14の周縁が全周に亘って補強されるような状態)となるため、補強性能を向上させることができる。
【0062】
以上で説明した第1~第3実施形態に係る補強構造1においては、ウェブ11の両面(オモテ面、ウラ面)の各々に本願で開示した補強材20を取り付けていたが、一方のウェブ面11aと、他方のウェブ面11bで異なる形状の補強材20を取り付けてもよい。
【0063】
例えば
図13に示すように、一方のウェブ面11aに第一実施形態で説明した一対の補強材20a、20bを取り付け、他方のウェブ面11bに従前の補強材80を取り付けてもよい。この場合であっても、一方のウェブ面11a側においては、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。
【0064】
同様の理由によって、
図14に示すように、一方のウェブ面11aに第三実施形態で説明した補強材20を取り付け、他方のウェブ面11bに従前の補強材80を取り付けてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
例えば、上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0067】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、鉄骨構造物における梁の貫通孔の補強に適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 梁貫通孔補強構造
10 鉄骨梁
11 ウェブ
11a ウェブ面
11b ウェブ面
12 上部フランジ
13 下部フランジ
14 貫通孔
20 補強材
20a 上部補強材
20b 下部補強材
21 孔周補強部
22 円弧辺
23 締結部
24 円弧辺の端点
25 板材
30 無補強部
P 円縁交点
R1 第一領域
R2 締結領域(第二領域)