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  • 特開-口腔粘膜がん画像診断装置 図1
  • 特開-口腔粘膜がん画像診断装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082401
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】口腔粘膜がん画像診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/045 20060101AFI20240613BHJP
   A61B 1/24 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A61B1/045 618
A61B1/24
A61B1/045 616
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196219
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】514216926
【氏名又は名称】有限会社ワンリッチインターナショナル
(71)【出願人】
【識別番号】517276929
【氏名又は名称】株式会社HITS PLAN
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(72)【発明者】
【氏名】市橋 裕一
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161AA08
4C161CC06
4C161NN05
4C161WW02
4C161WW13
4C161WW15
(57)【要約】
【課題】 診断対象の口腔検体画像を自由な撮像条件で撮像しても、粘膜がんの画像診断の精度を高く保持できる口腔粘膜がん画像診断装置を提供する。
【解決手段】 確定診断された複数の粘膜がん参照画像の画素値について色相に係る一又は複数の特徴量を解析した粘膜参照特徴量が格納された粘膜データベース20と、自由な撮像条件で撮像して入力される口腔検体画像の画素値について色相に係る一又は複数の粘膜検体特徴量を解析する解析部133と、解析された粘膜検体特徴量が粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値からなる粘膜検体画像を切出す切出し部134と、切出した粘膜検体画像に基づいて粘膜がんの発症部位を診断する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内粘膜がんの発症が確定診断された複数の粘膜がん参照画像と、前記粘膜がん参照画像のそれぞれの画素値について予め定めた粘膜がんに係る一又は複数の特徴量を解析してなる粘膜がん参照特徴量とが格納された粘膜がんデータベースと、診断対象の口腔検体画像に基づいて粘膜がんの発症部位を診断する粘膜がん診断部とを備えてなる口腔粘膜がん画像診断装置において、
前記粘膜がん参照画像の画素値について予め定めた色相に係る一又は複数の特徴量を解析して求めた粘膜参照特徴量が格納された粘膜データベースを備え、
前記粘膜がん診断部は、自由な撮像条件で撮像して入力される前記口腔検体画像の画素値について、前記粘膜参照特徴量に対応する予め定めた色相に係る一又は複数の粘膜検体特徴量を解析して求める粘膜検体特徴量解析部と、求めた前記粘膜検体特徴量が前記粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値からなる前記口腔検体画像の部位を粘膜検体画像として切出す画像切出し部とを備え、切出された前記粘膜検体画像に基づいて粘膜がんの発症部位を診断することを特徴とする口腔粘膜がん画像診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の口腔粘膜がん画像診断装置において、
前記粘膜がん参照画像と前記口腔検体画像は、それぞれ青色光源下で検体口腔を撮像して蛍光波長帯域の光学フィルタを介して取得した蛍光粘膜がん参照画像と蛍光口腔検体画像であり、
前記粘膜がん参照特徴量は蛍光粘膜がん参照特徴量であり、前記粘膜参照特徴量は蛍光粘膜参照特徴量であり、前記粘膜検体特徴量は蛍光粘膜検体特徴量であることを特徴とする口腔粘膜がん画像診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の口腔粘膜がん画像診断装置において、
前記粘膜がん診断部は、前記蛍光口腔検体画像の蛍光強度が一定で揺らぎのない画素値を有する部位を健常部位として探索する健常部位探索部と、前記健常部位の画素値を標準値とし該標準値と異なる画素値を有する部位を異常部位として判定する異常部位判定部と、前記異常部位の画素値について前記蛍光粘膜がん参照特徴量に対応する異常部位特徴量を解析して求める異常部位特徴量解析部と、解析された前記異常部位特徴量が前記蛍光粘膜がん参照特徴量に一致又は近似する度合いに応じて前記異常部位の粘膜がんの異常度合を診断する異常度合診断部を有することを特徴とする口腔粘膜がん画像診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の口腔粘膜がん画像診断装置において、
前記粘膜がん診断部は、前記異常度合が最も深刻な異常部位を最高スコアとし、前記健常部位を最低スコアとして、前記異常部位の前記異常度合に応じて前記蛍光口腔検体画像の各画素に対して予め定めた複数段階のスコアを振り当て、前記最高スコアが振り当てられた画素群の外周を識別可能な表示形態で囲んで表示する表示制御部を有することを特徴とする口腔粘膜がん画像診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の口腔粘膜がん画像診断装置において、
前記粘膜データベースには、前記蛍光画像と同一の撮像条件にて白色光源下で撮像された前記粘膜がん参照画像に対応する白色口腔検体画像の画素値について予め定めた色相に係る一又は複数の特徴量を解析して求めた白色検体粘膜参照特徴量が格納され、
前記粘膜がん診断部は、前記白色口腔検体画像の画素値について前記白色検体粘膜参照特徴量に対応する予め定めた色相に係る一又は複数の白色粘膜検体特徴量を解析して求める白色粘膜検体特徴量解析部と、求めた前記白色粘膜検体特徴量が前記白色検体粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値からなる前記白色口腔検体画像の部位を白色粘膜検体画像として切出す画像切出し部とを備え、
前記表示制御部は、前記白色粘膜検体画像に重ねて前記蛍光粘膜検体画像を表示することを特徴とする口腔粘膜がん画像診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔粘膜がん画像診断装置に係り、特に検体口腔を自由な撮像条件で撮像した口腔画像に基づいて粘膜がんを診断するのに好適な口腔粘膜がん画像診断装置に関する。ここで、本明細書において口腔内の粘膜がんというときは、口腔内の粘膜がんおよびがんに変わる可能性のある組織(異形成等)を含むものであり、特許請求の範囲の記載においても同様とする。
【背景技術】
【0002】
口腔粘膜がん画像診断は、一般に検体口腔内に青色光線を照射して、粘膜等から発する蛍光成分を蛍光波長帯域のフィルタを介して撮像した蛍光口腔粘膜検体画像(以下、単に口腔粘膜検体画像という。)に基づいて、粘膜がんの有無および程度を診断するようにしている。また、白色光線を照射して検体口腔をカラー撮像した白色口腔検体画像(以下、単に口腔検体画像という。)に、粘膜がんの診断画像を重ねて表示して粘膜がんの発症部位を形態画像上で容易に認識可能に表示することが行われている。
【0003】
一方、口腔粘膜がんの画像診断はAI(人工知能)を用いた機械学習等により、予め確定診断した複数の口腔粘膜参照画像の画素値について予め定めた粘膜がんに特有の一又は複数の特徴量を解析し、解析して得られた画素値の特徴量を粘膜がん参照特徴量として収集してデータベースを構築しておく。診断の際は、口腔粘膜検体画像の画素値について前記粘膜がん参照特徴量に対応する特徴量を解析する。次いで、解析した口腔粘膜検体画像の画素値の特徴量が粘膜がん参照特徴量に一致又は近似する度合いを求め、求めた近似度合いに応じて口腔粘膜検体画像の各画素について粘膜がんの有無および程度を診断(以下、適宜、単に粘膜がんの診断という。)する。ここで、上述した画素値の特徴量は、例えば各画素値の統計学上の標準偏差(SD)、変動係数(CV)などが知られている。しかし、これらに限られるものではなく、要は、粘膜がんに特有の画素値の一又は複数の因子、およびその因子が粘膜がんに強く関係する確からしさを示す変数などからなる特徴量であればよい。
【0004】
一方、粘膜がん参照特徴量の解析精度を向上させるには、予め確定診断した多数の粘膜がん参照画像の撮像条件が同一又は一定の許容範囲内にあることが好ましい。例えば、機械学習に用いる口腔粘膜検体画像に粘膜以外の画像データが含まれていると、粘膜がん参照特徴量にばらつきなどの影響が生じ、粘膜がん検体特徴量が粘膜がん参照特徴量に近似する度合いを求めるパターン認識等の解析に誤差が生ずる。したがって、粘膜がん参照特徴量を解析したときの口腔粘膜検体画像の撮像条件と、診断時の口腔粘膜検体画像の撮像条件とが同一又は一定の許容範囲内で一致していることが前提となる。これにより、画像のアーチファクトを基本的に考慮することなく、検体が異なっても粘膜がんの診断を常に同一条件で診断することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-90250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、口腔粘膜がんの画像診断を行う場合、口腔内をカメラで自由に撮像することが多いため、被写体までの距離、撮像方向、画角又は外光などの撮像条件が画像ごとに変動することになる。撮像条件が変動すると、口腔検体画像に粘膜以外の画像が含まれることがあり、粘膜がんに係る特徴量を解析する際に用いた複数の口腔粘膜参照画像と口腔粘膜検体画像の画素値の分布が大きく異なる場合がある。このように画素値の分布が異なると、パターン認識等による画像解析に誤差が生じ、画像診断の信頼性が低下する問題がある。
【0007】
しかしながら、口腔検体画像の撮像条件を一定の許容範囲内に調節する操作は煩雑であり、相当の経験が必要となるため、従来の口腔粘膜がんの画像診断の精度は、画像撮像者の技量に依存する側面が大きいという問題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、診断対象の口腔検体画像を自由な撮像条件で撮像しても、粘膜がんの画像診断の精度を高く保持できる口腔粘膜がん画像診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、自由な撮像条件で撮像した口腔検体画像には、例えば、カメラの撮像方向又は検体までの距離によって、粘膜の他に歯や口腔外の他の画像が含まれるが、その口腔検体画像から診断対象の粘膜部位の粘膜検体画像を切り出すことができれば、粘膜参照特徴量と診断対象の粘膜検体特徴量の撮像条件を共通化でき、粘膜がん画像診断の精度を高く保持できることに着目してなされたものである。
【0010】
そこで、本発明の口腔粘膜がん画像診断装置は、口腔内粘膜がんの発症が確定診断された複数の粘膜がん参照画像と、前記粘膜がん参照画像のそれぞれの画素値について予め定めた粘膜がんに係る一又は複数の特徴量を解析してなる粘膜がん参照特徴量とが格納された粘膜がんデータベースと、診断対象の口腔検体画像に基づいて粘膜がんの発症部位を診断する粘膜がん診断部とを備えてなる口腔粘膜がん画像診断装置において、前記粘膜がん参照画像の画素値について予め定めた色相に係る一又は複数の特徴量を解析して求めた粘膜参照特徴量が格納された粘膜データベースを備え、前記粘膜がん診断部は、自由な撮像条件で撮像して入力される前記口腔検体画像の画素値について、前記粘膜参照特徴量に対応する予め定めた色相に係る一又は複数の粘膜検体特徴量を解析して求める粘膜検体特徴量解析部と、求めた前記粘膜検体特徴量が前記粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値からなる前記口腔検体画像の部位を粘膜検体画像として切出す画像切出し部とを備え、切出された前記粘膜検体画像に基づいて粘膜がんの発症部位を診断することを有してなることを特徴とする。
【0011】
つまり、本発明によれば、自由な撮像条件で撮像して入力される口腔検体画像の画素値の色相に基づいて粘膜部位を識別して、粘膜部位以外の画像部位を除いていることから、粘膜がん参照画像の粘膜参照特徴量と、これに対応する口腔検体画像の粘膜検体特徴量との解析条件が整合する。その結果、撮像者に撮像条件を調節する高い技量を要求することなく、粘膜がん有無および程度の診断の精度を高く保持することができる。
【0012】
ここで、色相に係る特徴量としては、統計学上の特徴変数(例えば、標準偏差:SD値、変動係数:CV値)などを含む特徴量を挙げることができる。しかし、統計学上の特徴変数に限られるものではなく、粘膜に関係する画素値の一又は複数の因子、およびその因子が粘膜に関係する確からしさを示す変数などからなる特徴量であればよい。また、過去に撮像した口腔の粘膜画像の画素値に基づいて、粘膜画像とそれ以外の画像の特徴量の違いを取得しておくことにより、口腔画像の粘膜部位を特定できる。また、色相の特徴量に限られるものではなく、画素値の輝度の特徴量を加味してもよい。
【0013】
また、粘膜がんの診断は、粘膜を構成する自家蛍光物質から発生する蛍光により粘膜がんの発症を診断することが一般である。そこで、上述した本発明において、前記粘膜がん参照画像と前記口腔検体画像は、それぞれ青色光源下で検体口腔を撮像して蛍光波長帯域の光学フィルタを介して取得した蛍光粘膜がん参照画像と蛍光口腔検体画像であり、前記粘膜がん参照特徴量は蛍光粘膜がん参照特徴量であり、前記粘膜参照特徴量は蛍光粘膜参照特徴量であり、前記粘膜検体特徴量は蛍光粘膜検体特徴量とする。
【0014】
さらに、前記粘膜がん診断部は、前記蛍光口腔検体画像の蛍光強度が一定で揺らぎのない画素値を有する部位を健常部位として探索する健常部位探索部と、前記健常部位の画素値を標準値とし該標準値と異なる画素値を有する部位を異常部位として判定する異常部位判定部と、前記異常部位の画素値について前記蛍光粘膜がん参照特徴量に対応する異常部位特徴量を解析して求める異常部位特徴量解析部と、解析された前記異常部位特徴量が前記蛍光粘膜がん参照特徴量に一致又は近似する度合いに応じて前記異常部位の粘膜がんの異常度合を診断する異常度合診断部を有する構成とすることが望ましい。
【0015】
さらにまた、前記粘膜がん診断部は、前記異常度合が最も深刻な異常部位を最高スコアとし、前記健常部位を最低スコアとして、前記異常部位の前記異常度合に応じて前記蛍光口腔検体画像の各画素に対して予め定めた複数段階のスコアを振り当て、前記最高スコアが振り当てられた画素群の外周を識別可能な表示形態で囲んで表示する表示制御部を有して構成することが望ましい。
【0016】
例えば、前記異常部位の画素値の特徴量が、どれだけ粘膜がんに近いかを近似レベルにより複数段階のスコアに振り分ける。スコアを整数n段階とする場合(例えばn=1~5)は、異常の程度が深刻な場合を「n=5」とし、深刻さが遠くなるほど「n=1」、つまり健常部位のスコアに近づくように順次振り分ける。そして、スコアが「n=5」の部位を線などで囲み、粘膜がんの異常部位として検者に対して画像上で認識可能に表示する。これにより、観察者は異常の程度の深刻な部位を一目で認識することができ、診断を速やかに行うことができる。一方、粘膜検体画像の画素値の特徴量が一様であれば、スコアは「1」となり、粘膜がんの異常はないという診断になる。
【0017】
上記の本発明において、前記粘膜データベースには、前記蛍光画像と同一の撮像条件にて白色光源下で撮像された前記粘膜がん参照画像に対応する白色口腔検体画像の画素値について予め定めた色相に係る一又は複数の特徴量を解析して求めた白色粘膜参照特徴量が格納され、前記粘膜がん診断部は、前記白色口腔検体画像の画素値について前記白色粘膜参照特徴量に対応する予め定めた色相に係る一又は複数の白色粘膜検体特徴量を解析して求める白色粘膜検体特徴量解析部と、求めた前記白色粘膜検体特徴量が前記白色粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値からなる前記白色口腔検体画像の部位を白色粘膜検体画像として切出す画像切出し部とを備え、前記表示制御部は、前記白色粘膜検体画像に重ねて前記蛍光粘膜検体画像を表示する構成とすることが望ましい。これによれば、白色口腔粘膜検体画像は口腔粘膜の形状を表示するものであるから、これに重ねて粘膜がんの部位を表す蛍光粘膜検体画像を表示することにより、検者は画像上で粘膜がんの位置を容易に認識することができる。
【発明の効果】
【0018】
上述したように、本発明によれば、口腔粘膜検体画像を自由な撮像条件で撮像しても、粘膜がん画像診断の精度を高く保持できる口腔粘膜がん画像診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る口腔粘膜がん画像診断装置の一実施形態のブロック構成図を示す。
図2図1実施形態に係る口腔粘膜がん画像診断装置の処理手順のフローチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態の口腔粘膜がん画像診断装置を機能ブロックにより示した構成を図1に示す。本実施形態の画像診断装置は、カメラ11、光源・フィルタ切替器12、粘膜がん診断部13、画像記憶部14、画像表示器15、粘膜データベース20、粘膜がんデータベース30を備えて構成される。
【0021】
粘膜がん診断部13は、情報処理機能、通信機能、カメラ、画像表示器を備えた情報処理装置(典型的には、スマートフォン等)を用いて構成することが望ましい。粘膜がん診断部13は、外部の情報処理装置に形成された粘膜データベース20と粘膜がんデータベース30と通信可能に接続されている。
【0022】
粘膜データベース20は、本発明の特徴に係る部分である。粘膜参照画像記憶部21には、粘膜がんの発症を確定診断して得られた複数の蛍光粘膜参照画像(粘膜参照画像と実質同一)と、蛍光粘膜参照画像と同一時に撮像した複数の白色粘膜参照画像が記憶されている。また、粘膜データベース20には、白色粘膜参照特徴量解析部22と、白色粘膜参照特徴量記憶部23と、蛍光粘膜参照特徴量解析部24、蛍光粘膜参照特徴量記憶部25が備えられている。
【0023】
白色粘膜参照特徴量解析部22および蛍光粘膜参照特徴量解析部24は、粘膜参照画像記憶部21に記憶された白色粘膜参照画像と蛍光粘膜参照画像の粘膜部位の各画素値について、少なくとも色相に係る予め定めた一又は複数の統計学上の特徴量を解析して、白色粘膜参照特徴量と蛍光粘膜参照特徴量を求め、それぞれ白色粘膜参照特徴量記憶部23と蛍光粘膜参照特徴量記憶部25に格納するように構成されている。色相に係る特徴量としては、少なくとも画素値の統計学上の特徴変数(例えば、標準偏差:SD値、変動係数:CV値)などを含む特徴量が挙げることができる。しかし、これに限られるものではなく、粘膜の識別に有効な画素値の解析学上の特徴変数であれば適用可能である。また、一般に、画素値の統計学上の特徴量は複数提案されており、分析精度に応じて一又は複数の特徴量を求めて、過去に撮像した口腔の粘膜画像の画素値に基づいて、粘膜画像とそれ以外の画像の特徴量の違いを取得しておき、その特徴量に基づいて口腔画像の粘膜部位を特定することが可能である。色相の特徴量に限られるものではなく、画素値の輝度の特徴量を加味してもよい。
【0024】
さらに、統計学上の特徴量に限られるものではなく、粘膜に関係する画素値の一又は複数の因子、およびその因子が粘膜に関係する確からしさを示す変数などからなる特徴量を、ディープラーニングにより求める手法を採用してもよい。また、過去に撮像した口腔の粘膜画像の画素値に基づいて、粘膜画像とそれ以外の画像の特徴量の違いを取得しておくことにより、口腔画像の粘膜部位を特定できる。
【0025】
粘膜がんデータベース30は、粘膜がん参照画像記憶部31と、粘膜がん参照特徴量解析部32と、粘膜がん参照特徴量記憶部33とを備えて構成される。粘膜がん参照画像記憶部31には、粘膜がんの発症が確定診断された複数の粘膜がん参照画像が記憶される。なお、粘膜がん参照画像は上述したように通常は蛍光画像が用いられる。
【0026】
粘膜がん参照特徴量解析部32は、複数の粘膜がん参照画像の画素値について予め定めた粘膜がんに係る一又は複数の特徴量(粘膜がん参照特徴量)を解析する。粘膜がん参照特徴量解析部32は、予め確定診断をした粘膜がん参照画像の自家蛍光を発する画素の画素値について、粘膜がんに特有の予め定めた一又は複数の特徴量を解析して粘膜がん参照特徴量を求める。ここで、粘膜がん参照特徴量としては、上述した粘膜参照特徴量と同様に、粘膜がん参照画像の画素値について統計学上の特徴変数(例えば、標準偏差:SD値、変動係数:CV値)などを含む特徴量が挙げることができる。また、分析精度に応じて種々の一又は複数の特徴量からなる粘膜がん参照特徴量が提案されている。
【0027】
さらに、粘膜がん特徴量は統計学上の特徴変数等に限られるものではなく、粘膜がんの識別に有効な画素値の特徴量であれば適用可能である。例えば、粘膜がんに関係する画素値の一又は複数の因子、およびその因子が粘膜に関係する確からしさを示す変数などからなる特徴量を、ディープラーニング等により求める手法を採用してもよい。
【0028】
粘膜データベース20と粘膜がんデータベース30は、クラウドコンピューティングサービス(以下、単にクラウドという。)等の外部の情報処理装置を利用して構成することが好ましい。つまり、膨大なデータを解析する特徴量解析などの粘膜がん診断部13の一部の機能を、高速処理が可能な情報処理機能を備えたクラウド上に構成することが好ましい。
【0029】
粘膜がん診断部13は、口腔検体画像入力部130と、白色粘膜検体特徴量解析部131と、白色粘膜検体画像切出し部132と、蛍光粘膜検体特徴量解析部133と、蛍光粘膜検体画像切出し部134と、健常部位探索部135と、異常部位判定部136と、異常部位特徴量解析部137と、異常度合診断部138と、表示制御部139とを備えて構成される。
【0030】
以下、本実施形態の口腔粘膜がん画像診断装置の構成を、図2のフローチャートに示した処理動作を参照して詳細に説明する。
ステップS1:検体である患者の口腔内の粘膜を適切に撮像するように、カメラ11の位置、向き、画角、ピント等の撮像条件を自由に設定する。
ステップS2:光源・フィルタ切替器12で光源を白色光源に切替えて検体口腔内を撮像する。粘膜がん診断部13の口腔検体画像入力部130は、撮像された口腔検体画像の白色画像を広帯域フィルタを介して入力し、画像記憶部14の白色口腔検体画像記憶部141に記憶する。
ステップS3:白色画像と同一の撮影条件で光源・フィルタ切替器12で、青色光源・蛍光波長帯域の光学フィルタに切り替えて口腔検体画像を撮像する。口腔検体画像入力部130は撮像された口腔検体画像の蛍光画像を蛍光帯域フィルタを介して入力し、画像記憶部14の蛍光口腔検体画像記憶部142に記憶する。
【0031】
ステップS4:白色粘膜検体特徴量解析部131にて、白色口腔検体画像の画素値を予め定めた色相に係る一又は複数の統計学上の特徴量(白色粘膜検体特徴量)を解析して求める。
ステップS5:ステップS4で解析された白色粘膜検体特徴量を、粘膜データベース20の白色粘膜参照特徴量記憶部23に記憶された白色粘膜参照特徴量と画素ごとに対比する。この対比で一致又は近似する画素を白色粘膜検体画像として白色粘膜検体画像切出し部132にて切出して記憶する。
【0032】
ステップS6:蛍光粘膜検体特徴量解析部133にて、蛍光口腔検体画像の画素値を予め定めた色相に係る一又は複数の統計学上の特徴量(蛍光粘膜検体特徴量)を解析して求める。
ステップS7:ステップS6で解析された蛍光粘膜検体特徴量を、粘膜データベース20の蛍光粘膜参照特徴量記憶部25に記憶された蛍光粘膜参照特徴量と画素ごとに対比する。この対比で一致又は近似する画素を蛍光粘膜検体画像として蛍光色粘膜検体画像切出し部134にて切出して記憶する。
【0033】
ステップS8:切出した診断対象である蛍光粘膜検体画像の画素値の蛍光強度が一定で揺らぎのない健常部位を健常部位探索部135にて探索する。
ステップS9:健常部位の画素値を蛍光粘膜検体画像の画素値の標準値として設定する。
ステップS10:異常部位判定部136にて、蛍光粘膜検体画像の画素値が標準値と異なる部位を異常部位と判定する。
【0034】
ステップS11:異常部位特徴量解析部137において、異常部位の画素値について粘膜がん参照特徴量に対応する統計学上の異常部位特徴量を解析する。
ステップS12:異常度合診断部138において、異常部位の特徴量が粘膜がん参照特徴量に一致又は近似する度合いに応じて異常の程度を算出し、健常部位を基準として異常部位の異常の程度に応じて段階的に増加する複数段階のスコアを振り分ける。
ステップS13:表示制御部139は、白色粘膜検体画像に異常部位の蛍光粘膜検体画像を重ねて表示するとともに、最高スコアの異常部位の画素の周囲を線で囲んで表示する。
【0035】
つまり、本実施形態では、自由な撮像条件で撮像した検体画像の各画素値の特徴量が、予め求めておいた粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値を有する部位を切出すことによって、粘膜検体画像を生成するようにしている。そのため、自由な撮像条件で口腔検体画像を撮像しても、パターン認識により粘膜参照特徴量に基づいて粘膜部位を特定し、粘膜以外の画像部位を排除してることから、粘膜検体特徴量との整合性が満たされる。
【0036】
このことから、本実施形態によれば、例えばカメラの向きによって粘膜画像の他に歯や口腔外の他の画像が含まれて撮像された検体の口腔検体画像であっても、歯などの粘膜以外の画素が自動的に排除された粘膜検体画像を切出すことができる。つまり、本実施形態によれば、自由な撮像条件で撮像して入力される口腔検体画像の画素値の色相に基づいて粘膜部位を識別して粘膜部位以外の画像部位を除いていることから、粘膜がん参照画像の粘膜参照特徴量と、これに対応する口腔検体画像の粘膜検体特徴量との解析条件が整合する。その結果、画像の撮像者に撮像条件を調節する高い技量を要求することなく、粘膜がんの有無および程度の診断の精度や信頼性を高く保持することができる。
【0037】
ところで、粘膜がんの診断は、粘膜を構成する自家蛍光物質から発生する蛍光により粘膜がんの発症を診断することが一般である。この点、本実施形態においては、粘膜がん参照画像と口腔検体画像は、それぞれ青色光源下で検体口腔を撮像して蛍光波長帯域の光学フィルタを介して取得した蛍光粘膜がん参照画像と蛍光口腔検体画像を採用している。
【0038】
また、本実施形態において、異常度合診断部138においては、異常部位の画素値の特徴量が、どれだけ粘膜がんに近いかを近似レベルにより複数段階(整数n段階)のスコアに振り分ける。例えば、n=1~5としてスコアを振り分ける場合は、異常の程度が深刻な場合を「n=5」とし、深刻さが遠くなるほど「n=1」、つまり健常部位のスコアに近づくように順次振り分ける。そして、最高スコアが「n=5」の画素群の外周を識別可能な表示形態(例えば、色付き曲線)で囲み、粘膜がんの異常部位として検者に対して画像上で認識可能に表示する。さらに、表示制御部139は、画像表示器15にカラー画像表示される白色粘膜検体画像に重ねて、異常部位画像を表示することが望ましい。これにより、観察者は異常の程度の深刻な部位を一目で認識することができ、診断を速やかに行うことができる。一方、粘膜検体画像の画素値の特徴量が一様であれば、スコアは「1」となり、粘膜がんの異常はないという診断になる。
【0039】
本実施形態において、粘膜データベース20には、蛍光粘膜参照画像と同一の撮像条件にて白色光源下で撮像された白色口腔検体画像の画素値について予め定めた色相に係る一又は複数の特徴量を解析して求めた白色粘膜参照特徴量が格納され、粘膜がん診断部13は、白色口腔検体画像の画素値について白色粘膜参照特徴量に対応する予め定めた色相に係る一又は複数の白色粘膜検体特徴量を解析して求める白色粘膜検体特徴量解析部131と、求めた白色粘膜検体特徴量が白色粘膜参照特徴量に一致又は近似する画素値からなる白色口腔検体画像の部位を白色粘膜検体画像として切出す画像切出し部132とを備え、表示制御部139は、白色粘膜検体画像に重ねて蛍光粘膜検体画像を表示する構成とすることが望ましい。これによれば、白色粘膜検体画像は口腔粘膜の形状を表示するから、これに重ねて粘膜がんの部位を表す蛍光粘膜検体画像を表示することにより、検者は画像上で粘膜がんの位置を容易に認識することができる。
【0040】
しかし、本発明はこれに限られるものではなく、白色粘膜検体画像の抽出を必須事項とするものではない。この場合は、粘膜がん診断部13の機能から、白色粘膜検体特徴量解析部131、白色粘膜検体画像切出し部132を省略することが可能である。この場合、表示制御部139は、白色口腔検体画像に重ねて蛍光粘膜検体画像を表示する構成とする。
【0041】
また、上記の実施形態の光源・フィルタ切替器12のフィルタは、一定のバンド幅を有する光学的なバンドパスフィルタを適用する例を示したが、本発明は、これに限らず入力される口腔検体画像の画素信号を一定のバンド幅を有するディジタルフィルタを用いて処理してもよいことは言うまでもない。
【0042】
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、種々の変形が可能であることは明らかであり、それらの変形は本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
11 カメラ
12 光源・フィルタ切替器
13 粘膜がん診断部
14 画像記憶部
15 画像表示器
20 粘膜データベース
30 粘膜がんデータベース
130 口腔検体画像入力部
131 白色粘膜検体特徴量解析部
132 白色粘膜検体画像切出し部
133 蛍光粘膜検体特徴量解析部
134 蛍光粘膜検体画像切出し部
135 健常部位探索部
136 異常部位判定部
137 異常部位特徴量解析部
138 異常度合診断部
139 表示制御部
図1
図2