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  • 特開-複合素材および複合素材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082416
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】複合素材および複合素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 38/08 20060101AFI20240613BHJP
   B32B 5/00 20060101ALI20240613BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20240613BHJP
   B29B 15/10 20060101ALI20240613BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
B32B38/08
B32B5/00 A
B32B37/00
B29B15/10
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196246
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】飯田 薫
(72)【発明者】
【氏名】平井 啓司
(72)【発明者】
【氏名】河合 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真吾
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA04
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB27
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB33
4F072AD04
4F072AD41
4F072AD44
4F072AD46
4F072AG03
4F072AG16
4F072AG22
4F072AH06
4F072AH42
4F072AH49
4F072AJ22
4F072AL01
4F100AD11B
4F100AD11C
4F100AD11D
4F100AK01A
4F100AK01E
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100EJ17
4F100EJ25
4F100EJ42
4F100EJ82
4F100JB16A
4F100JB16E
(57)【要約】
【課題】強度に優れた複合素材の製造方法を提供すること。
【解決手段】炭素繊維シート20と、樹脂と、カーボンナノチューブと、を含む複合素材10の製造方法は、第1の樹脂シート35Aと、第1のカーボンナノチューブシート45Aと、炭素繊維シート20と、第2のカーボンナノチューブシート45Bと、第2の樹脂シート35Bと、をこの順に積層して積層体50を形成する積層体形成工程と、積層体50を積層方向に押圧しかつ積層体50を加熱して第1の樹脂シート35Aに含まれる樹脂および第2の樹脂シート35Bに含まれる樹脂を流動させて、それぞれ炭素繊維シート20まで含浸させる含浸工程と、を包含する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維シートと、樹脂と、カーボンナノチューブと、を含む複合素材の製造方法であって、
第1の樹脂シートと、第1のカーボンナノチューブシートと、前記炭素繊維シートと、第2のカーボンナノチューブシートと、第2の樹脂シートと、をこの順に積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に押圧しかつ前記積層体を加熱して前記第1の樹脂シートに含まれる樹脂および前記第2の樹脂シートに含まれる樹脂を流動させて、それぞれ前記炭素繊維シートまで含浸させる含浸工程と、
を包含する、製造方法。
【請求項2】
前記積層体形成工程は、
前記炭素繊維シートの一方の面および他方の面に、前記第1のカーボンナノチューブシートおよび前記第2のカーボンナノチューブシートをそれぞれ積層する第1積層工程と、
前記炭素繊維シートの前記一方の面に積層された前記第1のカーボンナノチューブシートおよび前記炭素繊維シートの前記他方の面に積層された前記第2のカーボンナノチューブシートに、前記第1の樹脂シートおよび前記第2の樹脂シートをそれぞれ積層する第2積層工程と、を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記含浸工程において、さらに前記積層体に超音波振動を加える、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記含浸工程において、前記積層体を前記積層方向の一方側および他方側から挟むように押圧しかつ前記第1の樹脂シートおよび前記第2の樹脂シートを加熱する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1のカーボンナノチューブシートの厚みは、前記第1の樹脂シートの厚みよりも薄く、
前記第2のカーボンナノチューブシートの厚みは、前記第2の樹脂シートの厚みよりも薄い、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
一方の面および他方の面を有する炭素繊維シートと、樹脂と、カーボンナノチューブと、を備えた複合素材であって、
前記炭素繊維シートの前記一方の面および前記他方の面には、それぞれ、前記カーボンナノチューブが絡み合いかつ前記樹脂によって固定されており、
前記炭素繊維シートと直交する方向の断面視において、少なくとも一部の領域に、前記樹脂の層と、前記カーボンナノチューブを含む層と、前記炭素繊維シートを含む層と、前記カーボンナノチューブを含む層と、前記樹脂の層とが、この順に積層された5層からなる積層構造を有する、複合素材。
【請求項8】
前記断面視において、前記複合素材の断面積の全体を100%としたときに、前記積層構造は、1/3以上の割合を占めている、請求項7に記載の複合素材。
【請求項9】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂である、請求項7または8に記載の複合素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合素材および複合素材の製造方法に関する。より詳細には、炭素繊維シートとカーボンナノチューブとを含む複合素材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の炭素繊維を束ねて形成された炭素繊維シートは軽量かつ高強度であり種々の分野で用いられている。また、特許文献1に示すように、炭素繊維シートの強度をより高めるために、炭素繊維で強化された炭素繊維強化層と、カーボンナノチューブ(CNT)を包含した強化層とが積層されて成形されたカーボンナノチューブ強化繊維構造体(以下複合素材とする)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-238708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、炭素繊維に樹脂を含浸させ半硬化させた繊維プリプレグシートと、カーボンナノチューブを樹脂に混合させた半硬化樹脂シ-トとを、交互に複数枚積層させて積層体を形成した後、繊維プリプレグシートと半硬化樹脂シ-トとを圧着することによって、複合素材を製造する方法が記載されている。しかしながら、かかる方法では、炭素繊維を含む炭素繊維強化層とCNTを含む強化層との間に界面が存在する。このため、例えば積層方向から強い衝撃を受けた場合等に、界面剥離を生じて、炭素繊維強化層と強化層とが分離しやすくなることがあった。したがって、複合素材全体としての一体性を向上して、強度(例えば圧縮強度)を高めることが望まれている。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、強度に優れた複合素材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る複合素材の製造方法は、炭素繊維シートと、樹脂と、カーボンナノチューブと、を含む複合素材の製造方法であって、第1の樹脂シートと、第1のカーボンナノチューブシートと、前記炭素繊維シートと、第2のカーボンナノチューブシートと、第2の樹脂シートと、をこの順に積層して積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に押圧しかつ前記積層体を加熱して前記第1の樹脂シートに含まれる樹脂および前記第2の樹脂シートに含まれる樹脂を流動させて、それぞれ前記炭素繊維シートまで含浸させる含浸工程と、を包含する。
【0007】
本発明に係る製造方法によると、積層体を積層方向に押圧しかつ加熱することにより、炭素繊維シートの一方の面では、第1の樹脂シートに含まれる樹脂が例えば軟化し、積層方向に流動して、第1のカーボンナノチューブシートの一部を突き破る。そして、当該樹脂がカーボンナノチューブを巻き込みながら積層方向にさらに流動して、炭素繊維シートに含浸される。同様に、炭素繊維シートの他方の面では、第2の樹脂シートに含まれる樹脂が例えば軟化し、積層方向に流動して、第2のカーボンナノチューブシートの一部を突き破る。そして、カーボンナノチューブを巻き込みながら積層方向にさらに流動して、炭素繊維シートに含浸される。これにより、カーボンナノチューブが炭素繊維シートによく絡まり合った状態で、樹脂によって炭素繊維シートに固定される。即ち、炭素繊維シートとカーボンナノチューブとが、樹脂の化学的な結合力のみならず、絡み合いによって強固に固定される。したがって、例えば特許文献1の製造方法に比べて相対的にカーボンナノチューブが炭素繊維から剥離しにくくなり、複合素材の強度を高めることができる。
【0008】
本発明に係る複合素材は、一方の面および他方の面を有する炭素繊維シートと、樹脂と、カーボンナノチューブと、を備えた複合素材であって、前記炭素繊維シートの前記一方の面および前記他方の面には、それぞれ、前記カーボンナノチューブが絡み合いかつ前記樹脂によって固定されており、前記炭素繊維シートと直交する方向の断面視において、少なくとも一部の領域に、前記樹脂の層と、前記カーボンナノチューブを含む層と、前記炭素繊維シートを含む層と、前記カーボンナノチューブを含む層と、前記樹脂の層とが、この順に積層された5層からなる積層構造を有する。
【0009】
本発明に係る複合素材では、炭素繊維シートの一方の面および他方の面にカーボンナノチューブが絡み合うと共に、当該カーボンナノチューブが樹脂によって炭素繊維シートに固定されている。即ち、炭素繊維シートとカーボンナノチューブとが、樹脂の化学的な結合力のみならず、絡み合いによって固定されている。このため、樹脂の化学的な結合力のみで炭素繊維シートとカーボンナノチューブとを結合する場合に比べて、相対的に複合素材の強度を高められる。さらに、本発明に係る複合素材は、少なくとも一部が、樹脂の層で覆われている。このため、カーボンナノチューブないし炭素繊維が外表面に露出している場合に比べて、相対的に強度を高められ、例えば積層方向から強い衝撃を受けた場合等にも、界面剥離が生じにくくなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強度に優れた複合素材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、複合素材の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は、一実施形態に係る積層体を示す断面図である。
図3図3は、炭素繊維シートの上面および下面にそれぞれ第1のカーボンナノチューブシートおよび第2のカーボンナノチューブシートが積層された状態を示す断面図である。
図4図4は、複合素材の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る複合素材の実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。また、本明細書において範囲を示す「X~Y」(X,Yは任意の数値)の表記は、X以上Y以下の意と共に、「Xより大きい(Xを超える)」および「Yより小さい(Y未満)」の意を包含する。
【0013】
<複合素材10の製造方法>
まず、複合素材10の製造方法について説明する。図1は、複合素材10の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、積層体形成工程(ステップS100)と、含浸工程(ステップS200)と、を包含する。
【0014】
積層体形成工程(ステップS100)では、図2に示すように、第1の樹脂シート35Aと、第1のカーボンナノチューブシート45Aと、炭素繊維シート20と、第2のカーボンナノチューブシート45Bと、第2の樹脂シート35Bと、をこの順に積層して、積層体50を形成する。そのため、まず、炭素繊維シート20と、樹脂を含む第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bと、カーボンナノチューブを含む第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bと、を用意する。
【0015】
炭素繊維シート20は、複数の炭素繊維が配列されたシート状の部材である。炭素繊維シート20は、後述する含浸工程(ステップS200)において樹脂が含浸可能な空隙を有する多孔質な成形体でありうる。炭素繊維シート20の厚み(平均厚み。以下同じ。)は、例えば、1μm~1000μm、10μm~100μmであり、一例では100μmである。炭素繊維シート20は、従来この種の用途に用いられているものと同様でよく、特に制限はない。炭素繊維シート20の一例としては、炭素繊維の不織布や織布が挙げられる。炭素繊維シート20は、炭素繊維から構成されていることが好ましい。炭素繊維の種類としては、例えば、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維や、石油ピッチ等のピッチを原料とするピッチ系炭素繊維等が挙げられる。炭素繊維の平均直径は、概ね、数ミクロン~数十ミクロン、例えば、1μm~50μmである。
【0016】
第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bは、ここでは同様の構成である。即ち、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bは、同じ樹脂から構成され、同じ大きさおよび同じ厚みを有する。ただし、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bは、異なる構成であってもよい。例えば、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bは、樹脂の種類および性状(大きさ、厚み等)のうちの少なくとも1つが異なっていてもよい。なお、以下では、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bを総称して樹脂シート35とする。
【0017】
樹脂シート35の厚みは、カーボンナノチューブシート45の厚みより厚いことが好ましい。樹脂シート35の厚みは、典型的には、10μm~1000μmであり、例えば、10μm~200μmであり、一例では100μmである。カーボンナノチューブシート45の厚みにもよるが、樹脂シート35の厚みを上記範囲とすることで、樹脂余りを防止し、後述する含浸工程(ステップS200)において、樹脂が、カーボンナノチューブシート45を突き破りやすくなると共に、炭素繊維シート20に絡み合いやすくなる。したがって、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。樹脂シート35は、実質的に(95質量%以上、98質量%以上、好ましくは100質量%が)樹脂から構成されていることが好ましい。樹脂シート35は、結着剤を含まないことが好ましい。これにより、後述する含浸工程(ステップS200)においてカーボンナノチューブが物理的に絡み合いやすくなる。
【0018】
樹脂シート35としては、従来公知のものを特に限定なく使用できる。樹脂シート35を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂は、熱によって硬化する樹脂材料であればよく、従来公知のものを特に制限なく使用できる。一例として、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、熱可塑性の樹脂材料であればよく、従来公知のものを特に制限なく使用できる。一例として、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレンやポリプロピレン)、ポリアミド樹脂(例えばポリアミド6、ポリアミド66)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等が挙げられる。樹脂シート35を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0019】
第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bは、ここでは同様の構成である。即ち、第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bは、同じカーボンナノチューブから構成され、同じ大きさおよび同じ厚みである。ただし、第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bは、異なる構成であってもよい。例えば、第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bは、カーボンナノチューブの種類および性状(大きさ、厚み等)のうちの少なくとも1つが異なっていてもよい。なお、以下では、第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bを総称してカーボンナノチューブシート45とする。
【0020】
カーボンナノチューブシート45の厚みは、典型的には、炭素繊維シート20の厚みより薄い。カーボンナノチューブシート45の厚みは、例えば、炭素繊維シート20の厚みの1/20000倍~1/10倍、1/200倍~1/5倍であるとよい。カーボンナノチューブシート45の厚みは、樹脂シート35の厚みより薄いことが好ましい。第1のカーボンナノチューブシート45Aの厚みは、第1の樹脂シート35Aの厚みより薄いことが好ましい。第2のカーボンナノチューブシート45Bの厚みは、第2の樹脂シート35Bの厚みより薄いことが好ましい。これにより、後述する含浸工程(ステップS200)において、樹脂が、カーボンナノチューブシート45を突き破りやすくなる。カーボンナノチューブシート45の厚みは、100μm以下が好ましく、例えば、0.005μ~100μm、0.1μm~10μm、0.5μm~5μmであり、一例では2μmである。後述する含浸工程(ステップS200)での加圧条件等にもよるが、カーボンナノチューブシート45の厚みが100μmより厚い場合には、カーボンナノチューブシート45に樹脂が含浸しにくくなり、複合素材10の強度が低下する虞がある。
【0021】
カーボンナノチューブシート45としては、従来公知のものを特に限定なく使用できる。カーボンナノチューブシート45は、後述する含浸工程(ステップS200)において樹脂が含浸可能な空隙を有する多孔質な成形体でありうる。これにより、後述する含浸工程(ステップS200)において樹脂が空隙を起点としてカーボンナノチューブシート45を突き破りやすくなる。カーボンナノチューブシート45は、実質的に(95質量%以上、98質量%以上、好ましくは100質量%が)カーボンナノチューブから構成されていることが好ましい。カーボンナノチューブシート45は、結着剤を含まないことが好ましい。これにより、後述する含浸工程(ステップS200)において炭素繊維シート20と物理的に絡み合いやすくなる。本実施形態のカーボンナノチューブは、炭素六角網をなすグラフェンが筒状に丸められた構造を有する繊維状の炭素である。カーボンナノチューブは、アスペクト比が高く、機械的強度および導電性および熱伝導性等に優れた性質を有している。カーボンナノチューブの種類としては、例えば1層のグラフェンにより形成されるシングルウォールカーボンナノチューブや、2層以上のグラフェンにより形成されるマルチウォールカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0022】
カーボンナノチューブの性状は特に限定されないが、例えば平均長さは、概ね250μm以下、典型的には0.001μm~250μm、例えば0.1μm~3μm程度とすることができる。また、カーボンナノチューブの平均直径は、典型的には炭素繊維シート20に含まれる炭素繊維の平均直径よりも小さく、例えば、凡そ0.1nm~100nm、一例では10nm程度とすることができる。上記した性状のうち少なくとも1つ(好ましくは両方)を満たすことで、後述する含浸工程(ステップS200)において炭素繊維シート20に絡み合いやすくなる。
【0023】
本実施形態において、積層体形成工程(ステップS10)は、第1積層工程(ステップS110)と、第2積層工程(ステップS120)と、を含む。、第1積層工程(ステップS110)では、図3に示すように、炭素繊維シート20の上面20Aに第1のカーボンナノチューブシート45Aを重ね合わせ、かつ炭素繊維シート20の下面20Bに第2のカーボンナノチューブシート45Bを重ね合わせる。これにより、第1のカーボンナノチューブシート45Aと、炭素繊維シート20と、第2のカーボンナノチューブシート45Bとが、この順に積層された、3枚のシートが積層されたプレ積層体を形成する。なお、上面20Aは「一方の面」の一例であり、下面20Bは「他方の面」の一例である。
【0024】
次に、第2積層工程(ステップS120)では、図2に示すように、炭素繊維シート20の上面20Aに積層された第1のカーボンナノチューブシート45Aの上面45AAに、第1の樹脂シート35Aを重ね合わせ、かつ炭素繊維シート20の下面20Bに積層された第2のカーボンナノチューブシート45Bの下面45BBに、第2の樹脂シート35Bを重ね合わせる。このようにして、上側から、第1の樹脂シート35Aと、第1のカーボンナノチューブシート45Aと、炭素繊維シート20と、第2のカーボンナノチューブシート45Bと、第2の樹脂シート35Bと、がこの順に積層された積層体50を形成する。
【0025】
次に、含浸工程(ステップS200)では、積層体50を積層方向に押圧しかつ積層体50を加熱して、2枚の樹脂シート35に含まれる樹脂の一部をそれぞれ軟化・流動させ、炭素繊維シート20に含浸させる。このとき、積層体50を積層方向の一方側(ここでは上方)および他方側(ここでは下方)から挟むように押圧し、かつ第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bを加熱することが好ましい。積層体50は、例えば、加熱プレス機によって積層方向に押圧されつつ加熱される。
【0026】
加熱プレスの条件は、例えば第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bに含まれる樹脂の性状(例えば樹脂の種類)や、各シートの厚み等によって適宜調整するとよい。このため、特に限定されるものではないが、単位面積あたりのプレス圧は、例えば、0.1MPa~10MPaである。加熱時のプレス温度は、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bに含まれる樹脂が例えば熱可塑性樹脂の場合には、当該樹脂を軟化ないし溶融させられる温度であればよい。加熱時のプレス温度は、典型的には第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bに含まれる樹脂の軟化点(好ましくは融点)よりも高く、例えば、50℃~250℃である。このように、樹脂シート35が加熱されながら押圧されることで、樹脂シート35の樹脂が積層方向に流動し、この時の圧力でカーボンナノチューブシート45を突き破る。そして、流動した樹脂が、カーボンナノチューブシート45に含まれるカーボンナノチューブを巻き込みながら積層方向にさらに流動して、炭素繊維シート20に含浸される。
【0027】
本実施形態の含浸工程(ステップS200)では、さらに積層体50に超音波振動を加えることが好ましい。例えば、加熱プレス機によって積層方向に積層体50を押圧し、かつ、積層体50を加熱しているときに、積層体50にさらに超音波振動を加える。超音波周波数は、例えば、1KHz~30KHzである。積層体50に超音波振動を加えることで、カーボンナノチューブシート45に含まれるカーボンナノチューブが解れて、樹脂に分散されやすくなる。そのため、樹脂シート35の樹脂がカーボンナノチューブをよりよく巻き込んで炭素繊維シート20に含浸される。
【0028】
なお、樹脂が熱硬化性樹脂である場合、加熱プレス機によって積層体50を押圧した後(即ち樹脂がカーボンナノチューブシート45を巻き込みながら炭素繊維シート20まで移動し、炭素繊維シート20に含浸された後)に、積層体50を加熱することで樹脂を硬化させることが好ましい。一方、樹脂が熱可塑性樹脂である場合、加熱プレス機によって積層体50を押圧すると同時に積層体50を加熱することで、溶融(低粘度化を含む)した樹脂シート35がカーボンナノチューブシート45を巻き込みながら炭素繊維シート20に含浸する。その後、積層体50を冷却することで樹脂を硬化させることが好ましい。以上のようにして、複合素材10を製造することができる。このようにして得られた複合素材10では、後述する5層の積層構造が維持されうる。
【0029】
<複合素材10>
ここに開示される複合素材10は、炭素繊維シート20と、樹脂と、カーボンナノチューブと、を備えている。複合素材10は、例えばFRP(Fiber Reinforced Plastics)の製造に用いられるシート状の中間材料(プリプレグ)である。複合素材10の全体厚み(平均厚み。以下同じ。)は、概ね200μm~5000μm、例えば300μm~1000μmである。複合素材10は、例えば上記した製造方法によって好適に製造できる。炭素繊維シート20は、一方の面および他方の面を有する。
【0030】
炭素繊維シート20の一方の面および他方の面において、カーボンナノチューブは、炭素繊維シート20と絡み合っている。より具体的には、カーボンナノチューブは、炭素繊維シート20の炭素繊維と絡み合っている。複数のカーボンナノチューブは、炭素繊維シート20の表面に分散して絡み合っている。なお、カーボンナノチューブが炭素繊維シート20と絡み合っていることは、例えば走査電子顕微鏡画像(SEM画像)によって確認することができる。カーボンナノチューブは、炭素繊維と絡み合って、機械的な結合力で結合していてもよいし、分子間力等の物理的な結合力によって結合していてもよい。カーボンナノチューブの少なくとも一部は、樹脂によって炭素繊維シート20に固定されている。
【0031】
樹脂の一部は、炭素繊維シート20まで含浸している。樹脂は、炭素繊維シート20とカーボンナノチューブとを化学的な結合力で一体化させる結着成分である。樹脂は、マトリックス材としての役割を果たす。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の複合素材10は、例えば上記したような製造方法に起因して、炭素繊維シート20と直交する方向(より詳細には、炭素繊維シート20の平面と直交する方向)において、樹脂からなる層30と、カーボンナノチューブを含む層40と、炭素繊維シート20と、カーボンナノチューブを含む層40と、樹脂からなる層30とが、この順に積層された5層の積層構造を有する。即ち、積層構造において、樹脂からなる層30が最も外側に位置し、かつ、炭素繊維シート20が最も内側に位置し、かつ、炭素繊維シート20と樹脂からなる層30との間にカーボンナノチューブを含む層40が位置する。積層構造において、樹脂からなる層30は、複合素材10の外表面(積層方向の一方の面および他方の面)を構成している。
【0033】
なお、本明細書において「層」とは、必ずしも明確な境界を有する必要はなく、例えば含有成分の割合が徐々に変化する濃度勾配のある層であってもよい。また、積層構造において、カーボンナノチューブを含む層40の一部と樹脂からなる層30の一部とが重なっていてもよい。ただし、その場合、カーボンナノチューブを含む層40の大部分が相対的に内側に位置し、樹脂からなる層30の大部分が相対的に外側に位置する。
【0034】
また、積層構造において、炭素繊維シート20の一部とカーボンナノチューブを含む層40の一部とが重なっていてもよい。例えば上記した製造方法では、カーボンナノチューブが樹脂と共に流動して炭素繊維シート20に絡み合うため、複合素材10におけるカーボンナノチューブを含む層40と炭素繊維シート20の厚みの合計が、積層工程におけるカーボンナノチューブシート45と炭素繊維シート20の厚みの合計よりも小さくなることが想定される。ただし、その場合、炭素繊維シート20の大部分(特には、炭素繊維の濃度が最も高い部分)が相対的に内側に位置し、カーボンナノチューブを含む層40の大部分(特には、カーボンナノチューブの濃度が最も高い部分)が相対的に外側に位置する。
【0035】
炭素繊維シート20と直交する方向の任意の断面視において、積層構造は、複合素材10を厚み方向に切断したときの断面積全体を100%としたときに、概ね1/3以上(33%以上)を占めることが好ましく、半分(50%)以上を占めることがより好ましい。積層構造の占める割合は、例えば80%以下、70%以下であってもよい。積層構造は、実質的に(95%以上、98%以上が)複合素材10の全体にわたって維持されていてもよい。
【0036】
なお、積層構造の割合は、例えば、走査電子顕微鏡画像(SEM画像)によって確認することができる。より具体的には、まず、複合素材10を例えば包埋研磨して、断面出しを行う。次に、SEMで複合素材10の断面を観察し、一視野に厚みの全体が収まるような倍率で、SEM画像を取得する。そして、市販の画像解ソフトを用いて、5層の積層構造が維持されている部分の面積を求め、複合素材10の断面積の全体を100%としたときの割合(%)を算出することで求められる。
【0037】
なお、複合素材10のうち積層構造以外の部分では、例えば、樹脂シート35(第1の樹脂シート35Aおよび/または第2の樹脂シート35B)に含まれていた樹脂が全てカーボンナノチューブシート45ないし炭素繊維シート20に含浸され、外表面が樹脂からなる層30で被覆されていなくてもよい。例えば、複合素材10の外表面が、カーボンナノチューブを含む層40で構成されていてもよい。また、複合素材10の厚み方向の内側では、積層構造の部分と同様に、炭素繊維シート20にカーボンナノチューブが絡み合い、かつ、炭素繊維シート20に含浸した樹脂によってカーボンナノチューブが炭素繊維シート20に固定されているとよい。
【0038】
以上のように、本実施形態の複合素材10によると、炭素繊維シート20の上面20Aおよび下面20Bにカーボンナノチューブが絡み合うと共に、当該カーボンナノチューブが樹脂によって炭素繊維シート20に固定されている。即ち、炭素繊維シート20とカーボンナノチューブとが、樹脂の化学的な結合力のみならず、絡み合いによって固定されている。このため、樹脂の化学的な結合力のみで炭素繊維シート20とカーボンナノチューブとを結合する場合に比べて、相対的に複合素材10の強度を高められる。。さらに、複合素材10は、少なくとも一部が、樹脂からなる層30で覆われている。このため、カーボンナノチューブないし炭素繊維が外表面に露出している場合に比べて、相対的に強度を高められ、例えば積層方向から強い衝撃を受けた場合等にも、界面剥離が生じにくくなる。
【0039】
本実施形態の複合素材10では、断面視において、複合素材10の断面積の全体を100%としたときに、積層構造は、1/3以上の割合を占めている。上記態様によれば、カーボンナノチューブによって炭素繊維シート20の強度を高めつつ、樹脂によって炭素繊維シート20およびカーボンナノチューブを含む層40をより確実に結合することができる。
【0040】
本実施形態の複合素材10では、樹脂は、熱可塑性樹脂である。上記態様によれば、複合素材10の強度をより高めることができる。
【0041】
本実施形態の製造方法では、積層体50を積層方向に押圧しかつ加熱することにより、炭素繊維シート20の上面20Aでは、第1の樹脂シート35Aに含まれる樹脂が例えば軟化し、積層方向に流動して、第1のカーボンナノチューブシート45Aの一部を突き破る。そして、当該樹脂がカーボンナノチューブを巻き込みながら積層方向にさらに流動して、炭素繊維シート20に含浸される。同様に、炭素繊維シート20の下面20Bでは、第2の樹脂シート35Bに含まれる樹脂が例えば軟化し、積層方向に流動して、第2のカーボンナノチューブシート45Bの一部を突き破る。そして、カーボンナノチューブを巻き込みながら積層方向にさらに流動して、炭素繊維シート20に含浸される。これにより、カーボンナノチューブが炭素繊維シート20によく絡まり合った状態で、樹脂によって炭素繊維シート20に固定される。即ち、炭素繊維シート20とカーボンナノチューブとが、樹脂の化学的な結合力のみならず、絡み合いによって強固に固定される。したがって、カーボンナノチューブが炭素繊維から剥離しにくくなり、複合素材10の強度を高めることができる。
【0042】
本実施形態の製造方法では、積層体形成工程(ステップS100)は、炭素繊維シート20の上面20Aおよび下面20Bに、第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bをそれぞれ積層する第1積層工程(ステップS110)と、炭素繊維シート20の上面20Aに積層された第1のカーボンナノチューブシート45Aの上面45AAおよび炭素繊維シート20の下面20Bに積層された第2のカーボンナノチューブシート45Bの下面45BBに、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bをそれぞれ積層する第2積層工程(ステップS120)と、を含む。上記態様によれば、第1の樹脂シート35A、第1のカーボンナノチューブシート45A、炭素繊維シート20、第2のカーボンナノチューブシート45Bおよび第2の樹脂シート35Bを精度よく積層することができる。また、製造装置の構成を簡素化できると共に、生産性を向上して、生産コストを低減できる。
【0043】
本実施形態の製造方法では、含浸工程(ステップS200)において、さらに積層体50に超音波振動を加える。上記態様によれば、炭素繊維シート20に第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bがより巻き込まれる得るため、複合素材10の強度がより高くなる。
【0044】
本実施形態の製造方法では、含浸工程(ステップS200)において、積層体50を積層方向の一方側および他方側から挟むように押圧しかつ第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bを加熱する。上記態様によれば、炭素繊維シート20の両面にバランスよく第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bを巻き込むことができる。
【0045】
本実施形態の製造方法では、第1のカーボンナノチューブシート45Aの厚みは、第1の樹脂シート35Aの厚みよりも薄く、第2のカーボンナノチューブシート45Bの厚みは、第2の樹脂シート35Bの厚みよりも薄い。上記態様によれば、第1のカーボンナノチューブシート45Aおよび第2のカーボンナノチューブシート45Bを、それぞれ、第1の樹脂シート35Aおよび第2の樹脂シート35Bによってより確実に突き破ることができる。
【0046】
本実施形態の製造方法では、樹脂は、熱可塑性樹脂である。上記態様によれば、炭素繊維シート20への含浸をより容易に行うことができる。また、複合素材10の強度をより高めることができる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0048】
上述した実施形態では、積層体形成工程(ステップS100)において、第1の樹脂シート35Aと、第1のカーボンナノチューブシート45Aと、炭素繊維シート20と、第2のカーボンナノチューブシート45Bと、第2の樹脂シート35Bと、をこの順に鉛直方向に積層して積層体50を形成していたが、水平方向に積層して積層体50を形成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 複合素材
20 炭素繊維シート
30 樹脂からなる層
35 樹脂シート
35A 第1の樹脂シート
35B 第2の樹脂シート
40 カーボンナノチューブを含む層
45 カーボンナノチューブシート
45A 第1のカーボンナノチューブシート
45B 第2のカーボンナノチューブシート
50 積層体
図1
図2
図3
図4