(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082437
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】車両用電動ユニット
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20240613BHJP
H02K 16/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H02K5/16 Z
H02K16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196286
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕由
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 拓朗
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605CC02
5H605CC04
5H605CC10
5H605EB37
5H605GG04
(57)【要約】
【課題】異なる2つの部材間に軸受けされた、複数の電動機の軸を平行に配置することができる車両用電動ユニットを提供する。
【解決手段】本発明の車両用電動ユニットは、複数の電動機と、上記電動機の軸方向両端に配置された2つの支持体とを有し、上記複数の電動機が、2つの支持体間に並列配置されて成り、それぞれの電動機のロータシャフトが、軸受けを介して上記2つの支持体の両方に固定されている。
そして、上記軸受けを固定する上記支持体の嵌合部の少なくとも1つに位置調整枠を設けて上記軸受けと上記支持体との間に軸傾き調整部材に設けることとしたため、複数の電動機のロータシャフトを平行に配置することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電動機と、上記電動機の軸方向両端に配置された2つの支持体とを有し、
上記複数の電動機が、2つの支持体間に並列配置されて成る車両用電動ユニットであって、
それぞれの電動機のロータシャフトが、軸受けを介して上記2つの支持体の両方に固定され、
上記軸受けを固定する上記支持体の嵌合部の少なくとも1つに位置調整枠を設けて上記軸受けと上記支持体との間に軸傾き調整部材に設け、上記複数の電動機のロータシャフトを平行に配置したことを特徴とする車両用電動ユニット。
【請求項2】
上記軸傾き調整部材を、上記ロータシャフトの周方向に複数備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用電動ユニット。
【請求項3】
上記軸傾き調整部材が、プレート型シムスペーサであり、それぞれの厚さが異なることを特徴とする請求項2に記載の車両用電動ユニット。
【請求項4】
上記軸傾き調整部材が、O型又はC型シムスペーサであり、その外周の中心と内周の中心とがずれていることを特徴とする請求項1に記載の車両用電動ユニット。
【請求項5】
上記複数の電動機は、大きさが異なる電動機の組み合わせであり、
より大きな電動機が、上記支持体に設けられた加工基準点に近い位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用電動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電動ユニットに係り、更に詳細には、複数の電動機が並列配置された車両用電動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用電動ユニットにおいては、車両音振性能向上の観点から、電動機の軸と車軸とが平行になるように電動機の偏心を抑制することが好ましい。
【0003】
特許文献1には、ハウジング内に設けた冷媒通路に作動油を満たして圧力を発生させてハウジング内径面を内側に塑性変形させ、電動機の出力軸と減速機の出力軸とを平行に設定した減速機付電動機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動機のロータシャフトが異なる2つの部材間に軸受けされている場合は、これらの軸受けする部材間の加工公差や組み立て公差を設定する必要があり、1つの部材のみに軸受けされている場合と比較して、加工誤差や組立誤差が累積するので、軸受け位置の許容公差を大きくする必要が生じる。したがって、並列配置した複数の電動機の軸を平行に配置することが困難である。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、異なる2つの部材間に軸受けされた、複数の電動機の軸を平行に配置することができる車両用電動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、軸受けと該軸受けを固定する支持体の嵌合部に位置調整枠を設けて上記軸受けと上記支持体との間に隙間を設け、この隙間に軸傾き調整部材を挿入することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の車両用電動ユニットは、複数の電動機と、上記電動機の軸方向両端に配置された2つの支持体とを有し、上記複数の電動機が、2つの支持体間に並列配置されて成り、それぞれの電動機のロータシャフトが、軸受けを介して上記2つの支持体の両方に固定されている。
そして、上記軸受けを固定する上記支持体の嵌合部の少なくとも1つに位置調整枠を設けて上記軸受けと上記支持体との間に軸傾き調整部材に設けて、上記複数の電動機のロータシャフトを平行に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸受けと支持体との間に軸傾き調整部材を設けて軸傾きを調整することとしたため、複数の電動機のロータシャフトが平行に配置された車両用電動ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の車両用電動ユニットを、ロータシャフトと平行な面で切ったときの一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の車両用電動ユニットを、支持体側からみたときの1例を示す概略図である。
【
図3】支持体の位置調整枠に軸受けを固定した状態の1例を示す要部拡大図である。
【
図4】O型シムスペーサの形状の例を示す図である。
【
図5】支持体の位置調整枠に軸受けを固定した状態の他の1例を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の車両用電動ユニットについて詳細に説明する。
本発明の車両用電動ユニットは、
図1に示すように、複数の電動機と、上記電動機の軸方向両端に配置された2つの支持体とを有し、上記複数の電動機が上記2つの支持体3、例えば、ハウジングとカバーとの間に並列配置されている。
【0012】
そして、各電動機は、そのロータシャフト1の一端が軸受け2を介して一方の支持体3aに固定されており、他端が軸受け2を介して他方の支持体3bに固定されている。すなわち、ロータシャフト1は異なる2つの支持部材3によって支持されている。
【0013】
このような、車両用電動ユニットにおいては、2つの支持部材同士を組み立て固定するため2つの支持部材間において位置ズレが不可避的に生じ、さらに、これら支持部材の嵌合部と軸受けとの間にも不可避的に位置ズレが生じるため、必要とされる許容公差が大きくなる。
【0014】
したがって、ロータシャフトの偏心を抑制し、複数の電動機のロータシャフト同士を平行に配置することは困難である。
【0015】
本発明においては、軸受けを固定する支持体3の嵌合部の少なくとも1つに、嵌合する軸受けの外径よりも大きな軸受け位置調整枠31を形成して軸受け2と支持体3との間に軸傾き調整部材4を挿入して軸受けを固定し軸位置を調整する。
【0016】
したがって、2つの支持部材同士の組付け自体に位置ズレがあり、嵌合部の位置が偏心していたとしても、上記軸傾き調整部材4によって軸の傾きを補正できるので、複数の電動機のロータシャフトを平行に配置することが可能である。
【0017】
本発明において、「平行に配置」とは、平行になるように調整されていれば足り、軸傾き調整部材による補正限界以下の僅かな位置ズレまでを排除する意味ではない。
【0018】
次に、ロータシャフトの軸傾きの調整方法について説明する。
図2に支持体側からみたときの1例を示す概略図を示す。
なお、
図2では、ステータ、ロータの位置を点線で示している。
【0019】
本発明の支持体3は、
図2に示すように、軸受け2を固定する支持体3の嵌合部に、嵌合する軸受けの外径よりも大きな軸受け位置調整枠31を有する。
【0020】
この位置調整枠31に挿入した軸受け2は、位置調整枠31の中を移動できるので、支持体3の嵌合部が偏心していても、ロータシャフト1を所望の位置に移動させて、ロータシャフトの偏心を抑制することができる。
【0021】
具体的には、レーザなどを用いて複数のロータシャフトの平行度を測定し、支持体3の位置調整枠31と軸受け2との間に位置調整枠の軸傾き調整部材4を挿入し、軸受け2を所定の位置に固定することで複数の電動機のロータシャフト同士を平行に配置する。
【0022】
上記位置調整枠31を設けた軸受け2の位置補正は、すべての軸受け2の嵌合部について行ってもよいが、必ずしもすべての嵌合部について行う必要はなく、例えば、電動機が2つである場合は、一箇所の嵌合部について軸受け2の位置補正を行うことでロータシャフト1を平行に配置することができる。
【0023】
上記支持体3の位置調整枠31の形状は、用いる軸傾き調整部材4に応じて設定することができるが、対称性を有する形状であることが好ましく、正多角形や円形を挙げることができる。
【0024】
中でも、位置調整枠31が、正六角形、正八角形、正十二角形などの点対称でも線対称でもある正多角形であると、位置調整枠内で軸傾き調整部材4が動きにくく軸受け2を確実に固定することができる。
【0025】
上記軸傾き調整部材4としては、シムスペーサを使用することができ、複数のシムスペーサを位置調整枠31の内側にロータシャフトの周方向に複数配置して軸受け2を固定してもよく、1つのシムスペーサで軸受け2を固定してもよい。
【0026】
複数のシムスペーサ4で軸受け2を固定する場合は、プレート型のシムスペーサを使用することができる。
【0027】
プレート型のシムスペーサでの軸傾きの調整は、
図3に示すように、厚さが異なる複数種のプレート型のシムスペーサ4を用意し、測定によって定めた軸受けを所定の位置に固定できる厚さのプレート型のシムスペーサ4を選択し、これを位置調整枠31と軸受け2との間に圧入して軸受け2を固定することで行う。
【0028】
また、ボルトなどによってシムスペーサを軸受け側に押し付けて軸受け2を固定することもできるが、スペースや強度の観点から、上記のように厚さが異なるシムスペーサを用いることが好ましい。
【0029】
1つのシムスペーサで軸受けを固定する場合は、
図4に示すような、外周の中心と内周の中心とのずれ量が異なる複数種のO型又はC型のシムスペーサ4を用いる。
【0030】
このシムスペーサ4は、
図5に示すようにその外形が位置調整枠31の形状と同じであり、外周の中心と内周の中心とのずれ量が、シャフトの偏心量と同じであるシムスペーサを選択することで軸受けを固定できるため、部品点数を減らすことができる。
【0031】
また、外形が円形のO型やC型のシムスペーサを円形の位置調整枠31に適用すれば、電動機を回転させることで、セルフアライメントして隙間に収まるので、位置調整が容易である。
【0032】
上記電動機としては、駆動用モータや、発電機を挙げることができる。
複数の電動機が、例えば、駆動用モータと発電機との組み合わせである場合など、大きさが異なる電動機の組み合わせである場合は、上記支持体3に設けられた加工基準点32に近い位置に、より大きな電動機を配置することが好ましい。
【0033】
電動機は出力が大きくなる程、体格が大きくなり、更に加振力が大きくなる。したがって、加工基準点32に近く公差が小さな位置に、加振力が大きなより大きい電動機を配置することで、上記大きな電動機を精度良く固定することが可能であり、振動や騒音の発生を抑制できる。
【0034】
つまり、上記加工基準点32は、寸法の起点となる点であって、加工基準点から加工を開始したり、加工基準点からの長さを測定したりする、加工や検査における基準である。 支持体などに加工される穴の位置は、常に加工誤差があるので、すべての穴の位置を上記加工基準点から長さで表すなどして、公差が累積して加工誤差が大きくなることを防止する基準点である。
【0035】
このような、加工基準点32から離れた箇所の加工点に設定される許容位置公差は、一般的に、加工基準点32から遠くなれば遠くなるほど大きく設定される。
【0036】
したがって、、許容位置公差が小さい加工基準点32に近い位置により大きな電動機を配置し、許容位置公差が大きな加工基準点32に遠い位置により小さな電動機を配置して、上記遠い側の電動機について位置調整を行うことで、補正限界以下の極僅かなズレが生じた場合であっても、許容位置公差が大きい部分に配置された電動機の加振力が小さくなるので、加工誤差に起因した振動や騒音の発生を抑制できる。
【0037】
なお、組立基準点など加工基準点の他にも基準点が複数存在する場合、通し穴、所謂、バカ穴の径の大きさは、許容位置公差が大きくなる加工基準点から遠い加工点に設けられる通し穴ほど径が大きく設定されるので、どの基準点が加工基準点であるかを判別可能である。
【0038】
上記のように、本発明によれば、ロータシャフトの傾きを補正し、複数の電動機のロータシャフトを平行に配置することができるので、車両音振性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ロータシャフト
11 ロータ
12 ステータ
2 軸受け(ベアリング)
3a ハウジング(支持体)
3b ハウジング(支持体)
31 位置調整枠
32 加工基準点(ダウウェル)
4 シムスペーサ(位置調整用)
5 軸受け保持シム