(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082441
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 11/40 20060101AFI20240613BHJP
H04N 1/60 20060101ALI20240613BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G06T11/40
H04N1/60
G06T1/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196292
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
【テーマコード(参考)】
5B057
5B080
5C079
【Fターム(参考)】
5B057CA01
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA13
5B057CA17
5B057CB01
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE17
5B057CE18
5B057DA17
5B057DB02
5B057DB06
5B057DC25
5B080AA13
5B080BA01
5B080BA03
5B080CA04
5B080FA01
5B080FA02
5B080FA14
5B080FA17
5B080GA11
5B080GA22
5B080GA23
5C079HB03
5C079KA18
5C079LA02
5C079LA31
5C079LB01
5C079MA04
5C079MA17
5C079NA03
5C079PA03
5C079PA05
(57)【要約】
【課題】印刷媒体に印刷された画像が印刷媒体上でどのように見えるかを精度良く求めて表示する。
【解決手段】画像処理装置は、印刷媒体の種類を含む印刷条件の特定と、印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データの入力とを行なう。その上で、印刷条件が特定された印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、印刷画像の形成箇所においては、印刷画像データの画素値を考慮して設定する。設定された質感パラメーターと印刷画像データとを用いたレンダリング処理を、レンダリング実行部が行ない、印刷画像が形成された印刷媒体のレンダリング画像を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体の種類を含む印刷条件を特定する印刷条件特定部と、
前記印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データを入力する画像入力部と、
前記印刷条件が特定された前記印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、前記印刷画像の形成箇所においては、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する質感設定部と、
前記印刷画像データと前記質感パラメーターとを用いたレンダリング処理により、前記印刷画像が形成された前記印刷媒体のレンダリング画像を生成するレンダリング実行部と、
を備えた画像処理装置。
【請求項2】
前記質感設定部は、
前記印刷媒体の前記印刷条件と、前記印刷画像データが取り得る画素値とに対応付けて、質感パラメーターを予め記憶しており、
前記印刷画像の形成箇所における前記質感パラメーターを、前記印刷条件と前記印刷媒体に形成される前記印刷画像の前記画素値に応じて設定する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記質感設定部は、
前記質感パラメーターを、前記印刷媒体の前記印刷条件と、前記印刷画像データが取り得る画素値とに対応付けたテーブルを記憶しており、
前記テーブルを参照することで、前記印刷画像の形成箇所における前記質感パラメーターを設定する、
請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記質感設定部は、
前記テーブルを、前記印刷条件に対応付けて記憶しており、
前記特定された印刷条件に従って、前記参照するテーブルを選択する、
請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記質感設定部は、前記印刷媒体について予め設定された質感パラメーターを前記印刷画像の形成箇所における前記印刷画像データに対応して補正することにより、前記質感パラメーターの設定を行なう、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記質感パラメーターの前記補正は、前記印刷画像データに含まれる画素値を用いて行なう、請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記印刷画像の形成箇所以外では前記補正を行なわない、請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記質感設定部は、前記印刷画像を構成する画素の輝度または明度を、前記画素値として前記補正を行なう、請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記画素値は、前記輝度または前記明度に加えて、前記画素の彩度および色相の少なくとも一方も含む、請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記質感設定部は、
前記印刷媒体の種類毎に、前記画素値に対応する補正パラメーターを記憶しており、
前記特定された印刷条件に応じて、前記画素毎に前記補正パラメーターを取得し、
前記取得した補正パラメーターを用いて前記補正を行なう、
請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記質感設定部は、前記質感パラメーターとして、前記印刷画像の形成箇所以外では、前記印刷条件が特定された前記印刷媒体に予め設定された質感パラメーターを用いる、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記質感設定部は、
前記質感パラメーターを、前記画素値により異なる値をとる第1質感パラメーターと、前記画素値による影響を受けない第2質感パラメーターとにより設定し、
前記印刷画像の形成箇所においては、前記第1質感パラメーターを、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記レンダリング画像を表示する表示部を備える、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項14】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の画像処理装置と、
前記画像処理装置が生成した前記レンダリング画像を表示する表示部と、
前記印刷画像データを前記印刷媒体に印刷する印刷装置と、
を備えた印刷システム。
【請求項15】
画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理プログラムであって、
前記印刷媒体の種類を含む印刷条件を特定する第1の機能と、
前記印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データを入力する第2の機能と、
前記印刷条件が特定された前記印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、前記印刷画像の形成箇所においては、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する第3の機能と、
前記印刷画像データと前記質感パラメーターとを用いたレンダリング処理により、前記印刷画像が形成された前記印刷媒体のレンダリング画像を生成する第4の機能と、
をコンピューターにより実現する画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像が印刷される印刷媒体がどのように見えるかを表示し得る画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から対象物に対するライティングの相違により、画像の見え方が変わるという点を表現する画像処理の技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、画像に対して仮想的なライティング効果を与える際に、照明される部分領域の属性(顔、口、歯、など)に応じて、画像の光沢感を補正する、という技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、画像中の部分領域の見え方、特に光沢感を補正しているに過ぎず、こうした画像が印刷された印刷媒体の見え方については何ら検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の態様で実現することが可能である。
(1)本開示の実施の態様の1つは、画像処理装置としての態様である。この画像処理装置は、印刷媒体の種類を含む印刷条件を特定する印刷条件特定部と、前記印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データを入力する画像入力部と、前記印刷条件が特定された前記印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、前記印刷画像の形成箇所においては、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する質感設定部と、前記印刷画像データと前記質感パラメーターとを用いたレンダリング処理により、前記印刷画像が形成された前記印刷媒体のレンダリング画像を生成するレンダリング実行部とを備える。
【0006】
(2)本開示の実施の他の態様は、画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理プログラムとしての形態である。この画像処理プログラムは、前記印刷媒体の種類を含む印刷条件を特定する第1の機能と、前記印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データを入力する第2の機能と、前記印刷条件が特定された前記印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、前記印刷画像の形成箇所においては、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する第3の機能と、前記印刷画像データと前記質感パラメーターとを用いたレンダリング処理により、前記印刷画像が形成された前記印刷媒体のレンダリング画像を生成する第4の機能とを、コンピューターにより実現する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2A】画像表示処理の概要を示すフローチャート。
【
図3】第1実施形態のレンダリング実行部の論理構成を質感設定部と共に示す説明図。
【
図5】印刷媒体の画像と質感パラメーターの設定の様子を示す説明図。
【
図6】画像が印刷された印刷媒体の表示例を模式的に示す説明図。
【
図7】光源や視点と3Dオブジェクトの面の角度等の関係を示す説明図。
【
図8】画像が形成される印刷媒体の面の光源に対する角度の変化により印刷媒体の表示が変化する様子を模式的に示す説明図。
【
図9】質感として画素値を考慮しない場合とする場合を対比して示す説明図。
【
図10】第1実施形態の質感設定処理の変形例を示すフローチャート。
【
図11】変形例における質感として画素値を考慮しない場合とする場合を対比して示す説明図。
【
図12】第2実施形態のレンダリング実行部の論理構成を質感設定部と共に示す説明図。
【
図13】第3実施形態のレンダリング実行部の論理構成を質感設定部と共に示す説明図。
【
図15】第4実施形態としての印刷システムの概略構成図。
【
図16】印刷結果の見え方の他の印刷媒体の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A1)ハードウェア構成:
本実施形態の画像処理装置100の概略構成を、
図1に示す。この画像処理装置100は、所定の印刷媒体に画像が印刷された様子をプレビューするための画像処理を行なう。画像処理装置100は、画像処理を行なうだけでなく、その処理結果を、プレビュー画像として表示する。画像処理装置100は、図示するように、印刷画像データの入力を行なう画像データ入力部90、色変換を行なうカラーマネージメントシステム111、印刷媒体のレンダリングを実行するレンダリング実行部121、質感設定部131、印刷条件特定部135、画像メモリー139、およびプレビュー画像を表示する画像表示部151を備える。後述する各処理を行なうプログラムは、画像処理装置100の記憶部171等に保存されており、図示しないCPUまたはGPUが、記憶部171に保存されたプログラムを実行することにより、画像処理装置100の各機能が実現される。
【0009】
カラーマネージメントシステムは、以下、簡略のためにCMSと略記することがある。CMS111は、印刷しようとする画像(以下、印刷画像という)を表わす印刷画像データORGを画像データ入力部90を介して取得可能である。画像データ入力部90は画像データORGを入力する際、画像データORGを作成した画像形成装置から有線または無線通信により受け取るものとしてもよいし、印刷画像データORGをファイルの形式で保存するメモリーカードから読み込むものとしてもよい。もとよりネットワークを介して取得するものとしてもよい。あるいは、この画像処理装置100内で画像データORGを作成するものとしてもよい。
【0010】
CMS111は、印刷プレビューの対象となる印刷画像を、印刷媒体上に表現される物体色に色変換する。変換された画像データを、マネージド画像データMGPと呼ぶ。CMS処理の詳細は後述する。マネージド画像データMGPは、3Dオブジェクトである印刷媒体のテクスチャーとして設定される。CMS111には、入力プロファイルIP、メディアプロファイルMP、共通色空間プロファイルCPなどが入力される。入力プロファイルIPは、RGBデータなど、機器に依存する入力側の表色系から、機器に依存しない表色系であるL* a* b* (以下、単にLabと略記する)などへの変換を行なうために用いられる。
【0011】
メディアプロファイルMPは、プリンターなどの特定の印刷装置で、特定の印刷媒体に、特定の印刷解像度などの印刷条件で、印刷したときの色再現性を表すプロファイルであり、機器非依存の表色系と機器依存の表色系との間で、色彩値を変換するプロファイルである。メディアプロファイルMPには、印刷媒体以外の、印刷装置の印刷設定などの情報も含んでいる。このため、印刷装置(プリンター)×印刷媒体×印刷設定のすべての組み合わせを網羅しようとすると、メディアプロファイルMPの種類が多くなってしまうため、印刷条件の依存性が小さい場合や、プロファイル数を増やしたくない場合は、メディアプロファイルMPは、印刷装置(プリンター)×印刷媒体の組み合わせとして構成する。このように、印刷媒体(メディア)上の画像の色彩には、印刷装置の特性と印刷媒体自体の特性とが関与するため、メディアプロファイルMPを、以下、印刷プロファイルMPと呼ぶことがある。画像データORGの印刷を行なうプリンターとしては、本実施形態では、インクジェットプリンターを想定して説明する。インクジェットプリンターの場合には、インクセットなど用いられるインク種によってもメディアプロファイルが異なることがある。
【0012】
本実施形態では、こうした印刷装置×印刷媒体といった組合わせの指定を、印刷条件PCCと呼ぶ。第1実施形態では、印刷条件特定部135は、ユーザーによる印刷条件PCCの入力を受けて、CMS111が画像データの変換に用いるメディアプロファイルMPの選択を行なう。後述する他の実施形態では、こうした印刷条件PCCを質感設定部131で参照することがある。このため、
図1では、印刷条件PCCに基づき、印刷条件特定部135が質感設定部131に指示を行なう関係を破線で示している。印刷条件PCCにより質感設定部131が質感設定を行なう処理については、第3実施形態で詳しく説明する。
【0013】
画像データORGに入力プロファイルIPを適用し、更にメディアプロファイルMPを適用すると、特定の印刷条件で印刷された場合の、つまり印刷装置や印刷媒体に依存した色彩値が得られる。この画像の色彩値に対して、メディアプロファイルMPを機器依存の表色系から機器非依存の表色系に変換するよう適用し、更に共通色空間プロファイルCPを適用すると、レンダリングする際に用いられる第2色空間(ここではsRGB色空間)での表現に変換される。メディアプロファイルMPを用いて、一度印刷装置や印刷媒体などの特性に依存した色彩値に変換しているので、画像データORGは、実際に印刷可能な色彩値の範囲に色変換される。共通色空間プロファイルCPは、画像データを、レンダリングの際に用いられる色空間の色彩値に変換するために用いられる。共通色空間としては、sRGB色空間が代表的であるが、AdobeRGB、Display-P3などを用いてもよい。
【0014】
CMS111は、以上説明したように、各プロファイルを利用して、機器に依存した表色系である第1色空間で表現された画像データORGを、レンダリングの際に用いられる第2色空間であるsRGB色空間で表現された画像データ(マネージド画像データ)MGPに変換する。ここで、変換後の画像データは、sRGB色空間の色彩値に限られず、レンダリング実行部121が扱える色空間で表現されたものであれば、どのような色空間で表現されたものであってもよい。例えば、レンダリング実行部121がLabやXYZ色空間の色彩値や分光反射率などによってレンダリング可能な構成を採用していれば、レンダリング実行部121内で行なうライティング処理(後述)内で、あるいはレンダリング実行部121に後置されたポスト処理部(後述)で、画像表示部151に表示する際に用いられる色彩値に変換すればよい。
【0015】
こうしたレンダリング実行部121におけるレンダリングの条件であるレンダリング条件データRCDは、レンダリング条件設定部125により設定され、レンダリング実行部121により参照される。レンダリング条件データRCDとしては、印刷媒体の3Dオブジェクト情報や印刷媒体を見ている位置などのカメラ情報、照明の位置や色合いなどの照明情報、更には印刷媒体の置かれた背景の情報を示す背景情報などが含まれる。これらのレンダリング条件データRCDの詳細と扱いについては、後で詳しく説明する。
【0016】
質感設定部131は、印刷媒体上に表示される画像の質感を設定する。質感設定部131が扱う質感についても、後で詳しく説明するが、印刷媒体の表面の滑らかさSや金属性Mなどがある。同じ画像が印刷された場合でも、その見え方は、印刷媒体表面の滑らかさや金属性などにより、変化する。
【0017】
これら印刷条件PCCやレンダリング条件データRCDは、使用頻度が所定以上の代表的なデータについては、予め印刷条件特定部135やレンダリング条件設定部125に不揮発的に記憶しておき、必要に応じて選択し、CMS111やレンダリング実行部121に参照させればよい。印刷媒体として、使用頻度が低いなど通常使用しないようなもの、例えば布生地や缶、プラスチックシートなど特殊な素材を用いる場合の質感データなどは、外部のサイトに保存しておき、必要な場合に取得するようにしてもよい。照明情報などのレンダリング条件データRCDは、レンダリングに際して利用者が個別に指定してもよいが、代表的なカメラアングルや光源について、レンダリング条件設定部125に保存しておき、利用するものとしてもよい。カメラアングルは、対象である印刷媒体を見ている位置や方向のことであり、仮想空間を見ている利用者の仮想的な視点の位置と視線の方向に相当する。このため、カメラを視点や視線の方向であるとして、「視点」あるいは「ビュー」として説明することがある。
【0018】
画像表示部151は、レンダリング実行部121によりレンダリングした印刷媒体の画像を、背景などと共に表示する。画像表示部151は、レンダリング実行部121が画像メモリー139に書き込んだ表示用の画像データを読み出して表示を行なう。本実施形態では、画像処理装置100に画像表示部151を設けたが、画像処理装置100は、画像表示部151を備えない構成としてもよい。その場合、利用者がプレビュー画像を見たい場合には、レンダリングされたデータを取得し、これを表示可能な他の装置に移して参照する。例えば、画像処理装置100と無線接続された独立したタブレットなどを表示部として用い、レンダリング結果をタブレットでプレビューすればよい。
【0019】
画像処理装置100は、専用機として実現してもよいが、コンピューターにおいてアプリケーションプログラムを実行させることで実現してもよい。もとより、コンピューターには、タブレットや携帯電話のような端末も含まれる。レンダリング実行部121の処理には、かなりのリソースと演算能力が必要になるため、レンダリング実行部121のみを高速処理可能なCPUや専用のGPUにより実行させるようにし、レンダリング実行部121をネットワーク上の別のサイトにおいて、画像処理装置100を構成してもよい。
【0020】
(A2)画像処理の概要:
画像処理装置100が実行する画像表示処理の概略について、
図2Aを参照して説明する。画像処理装置100は、画像が印刷された印刷媒体がどのように見えるかを画像表示部151に表示するよう指示されると、図示する処理を開始し、まず画像データを取得する処理を行なう(ステップS110)。画像処理装置100は、データ入力部90を介して、印刷された状態を表示する際に印刷媒体に印刷される画像のデータである画像データORGを取得する。次に、印刷条件PCCを入力し、印刷条件を特定する処理を行なう(ステップS120)。本実施形態では、印刷条件PCCは、印刷する印刷装置や印刷に用いる印刷媒体の種類などである。上述したように、印刷装置において使用可能なインクセットが複数あれば、インクセット(インク種類)なども印刷条件PCCとして入力し、これに基づき、印刷条件を特定する。
【0021】
次に、各種プロファイルを設定する処理を行なう(ステップS130)。具体的には、取得した画像データORGの形式、つまり画像データORGを表現するのに用いられている色空間により入力プロファイルIPを設定し、あるいは印刷装置や印刷媒体の種類などの印刷条件PCCに基づいて設定された印刷条件に従い、メディアプロファイルMPを設定する。その後、CMS111により色変換処理を行なう(ステップS140)。色変換処理の一例を、
図2Bに示した。図は、印刷画像データORGを、CMS111によって、レンダリング処理を行なうための共通色空間の色彩データに変換する処理を示すフローチャートである。色変換処理が開始されると、まず印刷画像データORGと入力プロファイルIPとを入力して、機器に依存する表色系(例えばRGB表色系)で表わされた印刷画像データORG(以下、画像データORGと略記する)を、機器に依存しない表色系(例えばLabまたはXYZ表色系)の色彩データに変換する処理を行なう(ステップS141)。次に、メディアプロファイルMPが用意されているかを判断し(ステップS142)、メディアプロファイルMPがあれば、これを適用して、印刷条件として、印刷装置(プリンター)×印刷媒体の組み合わせを考慮して、印刷により表現可能な色彩の範囲への色変換を行なう(ステップS143)。メディアプロファイルMPが無ければ、ステップS143の処理は行なわない。その後、共通色空間プロファイルCPを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間である共通色空間の色彩値に変換する(ステップS144)。本実施形態では、共通色空間として、sRGBを用いている。こうして得られたマネージド画像データMGPを、3Dオブジェクトのテクスチャーであるアルベドカラーに設定し(ステップS145)、色変換処理を終了する。
【0022】
ステップS143において、メデイアプロファイルの色変換のレンダリングインテントを絶対的(Absolute)にすれば、印刷媒体そのものの色(地色)を反映できる。なお、ステップS145での色変換の対象となる画像の色彩値がsRGB色空間の色域外の場合、sRGB色空間内の値に近似してもよいが、sRGBの色域外の値を取りうるように扱ってもよい。画像データのRGB値は、一般には、各色8ビット、つまり値0~255の整数で格納するが、これに代えて、画素値を値0.0~1.0の浮動小数点として表わすものとすれば、sRGBの色域外の値を、負の値や1.0を超える値にして取り扱うことができる。
【0023】
CMS111による色変換は、
図2Bに示した構成に限らず、他の構成により行なうことも可能である。例えば、共通色空間であるsRGBに対する画像表示部151の表示色のずれを補正するための補正データDPDが用意されている場合には、
図2BにおけるメディアプロファイルMPによる色変換(ステップS143)の後に、表示装置の特性を補正するために用意された表示装置補正データを用いた色変換処理を行なう、といった構成としてもよい。
【0024】
こうした表示装置補正データと共通色空間プロファイルCPとを予め合成した合成補正データを用意しておき、共通色空間プロファイルCPによる色変換(ステップS145)に代えて、合成補正データによる色変換を行なうものとしてもよい。なお、画像表示部151の表示色のずれに対する補正は、CMS111で行なう代わりに、後述する
図3に示したレンダーバックエンド後のポスト処理部PSTで行なってもよい。
【0025】
色変換処理(ステップS140)を行なった後、次に質感パラメーターTXTを入力する処理を行ない(ステップS150)、質感パラメーターTXTや既に特定した印刷条件に従って、質感の設定を行なう質感設定処理(ステップS160)を行なう。質感設定処理は、本実施形態では、印刷媒体に印刷される画像の質感を、印刷媒体の表面の滑らかさや金属性などの質感パラメーターのみならず、印刷される画像の画素値によっても影響を受けるものとして、適正な質感に設定する処理である。その詳細は後述する。
【0026】
質感の設定を行なった後、CMS111を用いて色変換したマネージド画像データMGPと設定された質感のデータとを用いて、物理ベースのレンダリング処理を行ない(ステップS170)、レンダリングの結果を画像表示部151に表示する(ステップS180)。その後、本処理ルーチンを終了する。
【0027】
(A3)レンダリング実行部の構成とレンダリング処理:
上述したステップS170のレンダリング処理について説明する。レンダリング処理は、レンダリング実行部121により実行される。レンダリング実行部121は、CMS111が色変換して出力するマネージド画像データMGPをレンダリングすることで、画像データORGが印刷された印刷媒体が、仮想空間においてどのように見えるかを、画像表示部151に表示する。レンダリング実行部121の構成例を、
図3に示した。このレンダリング実行部121は、物理ベースのレンダリング処理を行なう代表的な構成を示しており、他の構成を採用することも可能である。本実施形態のレンダリング実行部121は、頂点パイプラインVPLとピクセルパイプラインPPLとを含むパイプライン構成を採用しており、物理ベースレンダリングを高速に実行する。頂点パイプラインVPLは、頂点シェーダーVSと、ジオメトリシェーダーGSとを含む。なお、ジオメトリシェーダーGSを用いない構成も可能である。
【0028】
頂点シェーダーVSは、3Dオブジェクトである印刷媒体の頂点の印刷媒体上の座標を、レンダリングする3次元空間の座標に変換する。座標変換は、網羅的には、レンダリング対象とのモデル(ここでは印刷媒体)の座標→ワールド座標→ビュー(カメラ)座標→クリップ座標といった座標変換を含むが、ビュー座標への変換などは、ジオメトリシェーダーGSで行なわれる。頂点シェーダーVSは、この他、陰影処理、テクスチャー座標(UV)の算出、などを行う。これらの処理に際して、頂点シェーダーVSやジオメトリシェーダーGSは、予め用意されたレンタリング条件データRCDとして、3Dオブジェクト情報TOIや、カメラ情報CMR、照明情報LGT、更には背景情報BGDなどを参照する。
【0029】
3Dオブジェクト情報TOIは、3Dオブジェクトとしての印刷媒体の形状等に関する情報である。現実の印刷媒体は、フラットな面ではないので、基本的には、微小なポリゴンの集合として扱うが、印刷媒体の表面を微小なポリゴンで表現すると、ポリゴンの数が膨大なものとなる。このため、法線マップやハイトマップといったテクスチャーにより、印刷媒体の表面を扱うことも現実的である。法線マップやハイトマップといったテクスチャーは、後述する質感パラメーターとして与えられる。カメラ情報CMRは、印刷媒体に対してどの位置や方向にカメラが設置されているかという仮想的な情報である。照明情報LGTは、印刷媒体が置かれた仮想空間における光源の位置や角度、強さ、色温度などの仮想的な情報の少なくとも1つを含む。なお、光源は複数設定することも可能であり、この場合は、複数の光源の影響を別々に演算し、3Dオブジェクト上で重ね合わせればよい。
【0030】
背景情報BGDは、無くてもよいが、仮想空間において3Dオブジェクトとしての印刷媒体が置かれた背景に関する情報である。背景情報BGDには、仮想空間に配置された壁、床や、家具などの物体の情報を含み、これらの物体は、レンダリング実行部121で印刷媒体と同様にレンダリングの対象となる。また、照明がこれらの背景物に当たって印刷媒体を照らすので、照明の情報の一部としても扱われる。こうした各種情報を用いてレンダリングを行なうことで、立体的なプレビューが可能となる。頂点シェーダーVSで計算された頂点情報はジオメトリシェーダーGSに渡される。
【0031】
ジオメトリシェーダーGSは、オブジェクト内の頂点の集合を加工するために使用される。ジオメトリシェーダーGSにより、実行時に頂点数を増減させたり、3Dオブジェクトを構成するプリミティブの種類を変更したりすることが可能となる。頂点数の増減の一例は、カリング処理である。カリング処理では、カメラの位置や方向から、カメラに映らない頂点を処理対象から除外する。ジオメトリシェーダーGSは、ポイント、ライン、トライアングルといった既存のプリミティブから新しいプリミティブを生成するといった処理も行なう。ジオメトリシェーダーGSは、頂点シェーダーVSから、プリミティブ全体または隣接したプリミティブの情報を持つプリミティブを入力する。ジオメトリシェーダーGSは、入力したプリミティブを処理し、ラスタライズされるプリミティブを出力する。
【0032】
頂点パイプラインVPLの出力、具体的にはジオメトリシェーダーGSが処理したプリミティブは、ラスタライザーRRZによりラスタライズされ、ピクセル単位のデータにされ、ピクセルパイプラインPPLに渡される。ピクセルパイプラインPPLは、本実施形態では、ピクセルシェーダーPSとレンダーバックエンドRBEとを備える。
【0033】
ピクセルシェーダーPSは、ラスタライズされたピクセルを操作するものであり、端的に言えば、ピクセル毎の色彩を算出する。頂点シェーダーVSやジオメトリシェーダーGSから入力された情報を元に、テクスチャーを合成する処理や表面色を適用する処理を行なう。ピクセルシェーダーPSは、画像データORGを各種プロファイルに基づいてCMS111で変換したマネージド画像データMGPを、3Dオブジェクトとしての印刷媒体上にマッピングする。このとき、ピクセルシェーダーPSに備えられたライティング処理機能が、物体の光の反射モデルと、上述した照明情報LGTとに基づいて、ライティング処理を行ない、マネージド画像データMGPのマッピングを行なう。3Dオブジェクトとしての印刷媒体全体を扱うので、マッピングされるマネージド画像データMGPは、印刷媒体上にインクにより形成される画像を含む、印刷媒体全体を対象とする画像である。ライティング処理に用いる反射モデルは、現実世界での照光現象をシミュレートするための数学的モデルの演算式の1つである。本実施形態で用いた反射モデルについては、後で詳しく説明する。
【0034】
(A4)質感設定処理:
本実施形態では、ピクセルシェーダーPSが処理の対象とする画像データMGPには、質感パラメーターTXTの一つである滑らかさの修正値Sが、そのアルファチャンネルα-chに書き込まれている。滑らかさの修正値Sは、質感パラメーターTXTと画像データMGPが備える画素値とに基づいて、質感設定部131により設定され、画像データMGPに書き込まれる。滑らかさの修正値Sを求める機能を、
図3では、修正値算出部132として示した。修正値算出部132を含む質感設定部131が行なう処理(
図2A、ステップS160)の詳細について、
図4を用いて説明する。
【0035】
質感設定部131が行なう質感設定処理では、まずマネージド画像データMGPを読む込む(ステップS161)。次に、質感パラメーターTXTと印刷条件PCCとを読み込む(ステップS162)。質感パラメーターTXTには、滑らかさや金属性などが含まれるが、ここでは、滑らかさに着目し、印刷条件PCCに含まれる印刷媒体の種類に基づいて、滑らかさとして、印刷媒体に設定された初期値S1を設定する(ステップS163)。一般に、印刷媒体が例えばプラスチックシートや光沢のある写真用紙であれば、滑らかさの初期値Sは高く設定され、普通紙や布地などでは低く設定される。本実施形態では、滑らかさの初期値S1は、光沢のある印刷用紙のように比較的滑らかに用紙自体の滑らかさに対応する値であり、例えば値0.95が設定される。ここでは、質感パラメーターTXTとして滑らかさを取り上げるが、他の質感パラメーターTXTであってもよく、複数のパラメーターを設定しても良い。他の質感パラメーターについては、レンダリング処理の一環として、後で詳しく説明する。
【0036】
以上の準備を行なった後、印刷媒体に対応する全画素について、ステップS164~S168の処理を繰り返す(STs~STe)。マネージド画像データMGPの全画素とは、印刷媒体全体を指す。読出の順序は、どのようなものであってもよく、例えば、印刷媒体の左上を原点として印刷媒体の幅方向(主走査方向)に沿って端まで読み出し、これを印刷媒体の長さ方向(副走査方向)に順次繰り返し、印刷媒体の右下端にまで至るようにしてもよい。
【0037】
いずれにせよ、一つの画素に着目し、その画素の画素値を読み出し(ステップS164)、読み出した画素値から、当該画素についての滑らかさの修正値Sを算出する処理を行なう(ステップS165)。マネージド画像データMGPは、CMS111により印刷装置のインクCMYKの吐出量に対応したsRGBのデータとなっているので、インク吐出量の総和が零となるsRGB値の画素は紙白であると判断できる。そこで、マネージド画像データMGPから読み出した画素が紙白、つまりインクが印刷媒体に吐出されない画素であるか、あるいはインクが吐出される画素であるかを判定し(ステップS165a)、判定結果が前者であれば、滑らかさの修正値Sに予め設定した初期値S1を設定し(ステップS165b)、判定結果が後者であれば、滑らかさの修正値Sに、予め設定した初期値S1にゲインgを乗じた値を設定する(ステップS165c)。本実施形態では、ゲインgを、値0.9など、値1未満の値としているので、インクが吐出される画素の滑らかさの修正値Sは値0.85程度とされる。これに対して、インクが吐出されない紙白の部分の画素の滑らかさは、初期値S1のまま、値0.95とされる。こうして各画素の滑らかさの修正値Sを算出した後、この値をマネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに書き込む処理を行なう(ステップS168)。以上の処理(ステップS164~S168)を、マネージド画像データMGPの全画素について繰り返す(STs~STe)。
【0038】
上述した滑らかさの修正値Sを設定する処理の一例を、
図5に示した。図の上段は、マネージド画像データMGPの一例を示す。この例では、マネージド画像データMGPは、印刷用紙の中央付近に、色彩値CK、CB、CR、CYの横縞の領域を備える。これらの各領域には、画像データORGをCMS111により色変換することで、CMYKのインクが所定の濃度で吐出される画像であるとされている。また、印刷媒体自体の滑らかさの初期値S1は、値0.95に設定されていることを示している。この例では、印刷媒体表面の滑らかさは、厳密には印刷媒体上に吐出されるインクの種類や吐出されるインク量の総和によって変化する可能性が高い。これに対して上記の処理では、画像形成のためのインクが吐出される部分か否かにより、滑らかさを変えているので、かかる処理を、滑らかさの修正と呼び、設定した値を滑らかさの修正値Sと呼んでいる。本明細書では、修正は、補正の一種として扱う。画素値から滑らかさを求める高精度の演算を行なって、滑らかさを補正し補正値を求めてもよいが、レンダリング画像における画素値の影響を示すことができる程度の修正でも足りるからである。
【0039】
図の中段は、領域毎のゲインgの値を示す。インクが吐出される領域では、ゲインgは値0.9に設定されており、それ以外ではゲインgは設定されていない。図の下段は、印刷媒体自体に設定された滑らかさの初期値S1とゲインgとから、マネージド画像データMGPを構成する画素に対応する部位について求められた滑らかさの修正値Sを示す。インクが吐出される画素に対応する部位の滑らかさの修正値Sは、S1×gを演算して、値0.85程度として求められ、インクが吐出されない紙白の部位の滑らかさの修正値Sは、元々の滑らかさの初期S1、つま0.95として求められている。なお、紙白の部分のゲインgを値1.0に設定しておき、インクが吐出される部分と同様に、S1×gを演算するようにしてもよい。
【0040】
本実施形態では、マネージド画像データMGPの各画素の滑らかさは、印刷媒体全体について定められた滑らかさの初期値S1とインクが吐出される部位に応じて用意されたゲインgを用いて演算して求めるものとしている。このうち、これらの滑らかさの初期値S1やゲインgは、印刷条件PCCの一部として用意してもよく、質感パラメーターTXTの一部として入力されるものとしてもよい。印刷媒体自体の滑らかさやインクを吐出することによる滑らかさの低下などは印刷媒体や印刷装置が用いるインクの種類によって定まるとすれば、印刷条件PCCとして扱えばよく、見え方を決めるパラメーターの一つとして利用者が設定すべきものとすれば、質感パラメーターTXTの一部として指定すればよい。また、ゲインgを用いず、単に紙白の部分の画素か否かにより、滑らかさの修正値Sの値を一意に設定するものとしてもよい。ゲインgを画素値や画素値から求められる輝度などに関係づけておき、画素毎にゲインgを求めて、その画素に対応する部位の滑らかさの修正値Sを算出するようにしてもよい。この場合の処理については、変形例として後述する。こうしたゲインgは、上述したように印刷条件PCCや質感パラメーターTXTの一部として外部から入力してもよいし、プログラム内に固定値として保持しているものとしてもよい。あるいは印刷媒体やインクの種別に応じてゲインgを定めるテーブルを用意し、これを外部から読み込んだり、プログラム内部に保持したりすることも差し支えない。
【0041】
本実施形態では、
図4のステップS165で求めた滑らかさの修正値Sは、ステップS168で、マネージド画像データMGPの一部として、つまり画素に対応するアルファチャンネルα-chに書き込まれる。その上で、全画素についての設定処理(STs~STe)が完了すると、マネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに修正値Sとして書き込まれた状態で、マネージド画像データMGPごと、ピクセルシェーダーPSに出力される(ステップS169)。なお、マネージド画像データMGPの画素の座標と対応付けられたデータ構造を有する別のファイルに書き込んで、ピクセルシェーダーPSに渡すようにしてもよい。
【0042】
(A5)レンダリング画像の表示:
レンダリング実行部121のピクセルパイプラインPPLは、修正値Sが書き込まれたマネージド画像データMGPを受け取り、ピクセルを操作する処理を行なう。この処理は、出力解像度が高い場合など、ラスタライズ後のピクセル数が多くなると、高負荷になり、処理に時間を要する。このため、頂点単位の処理と比較すると、処理に時間を要し、パイプライン処理の効率が不十分なものになる場合がある。本実施形態では、ピクセルシェーダーPSの処理プログラムを、高い並列処理性能を持つGPUでの実行に最適化することで、質感の表現を含む高度なエフェクトを短時間で実現している。
【0043】
ピクセルシェーダーPSの処理により得られたピクセル情報は、更に、レンダーバックエンドRBEにより、表示用の画像メモリー139に書き込みむか否かの判断がなされる。レンダーバックエンドRBEが、ピクセルのデータを画像メモリー139書き込んで差し支えないと判断されて始めて、ピクセルのデータは、描画されるものとして保存される。書き込みの判断に使用するテストとしては、公知の「アルファテスト」「深度テスト」「ステンシルテスト」などがある。レンダーバックエンドRBEはこうしたテストのうち、設定されたテストを実行し、ピクセルのデータを画像メモリー139に書き込む。
【0044】
以上の処理によりレンダリングのパイプライン処理は終了し、次にポスト処理部PSTによりフレームメモリーFMに保存されたデータに対して、見た目の改善を図る処理が行なわれる。こうした処理としては、例えば画像の不要なエッジを除去して滑らかにするアンチエイリアス処理などがある。他にも、アンビエントオクルージョン、スクリーンスペースリフレクション、被写界深度などの処理があり、必要なポスト処理を行なうように、ポスト処理部PSTを構成すればよい。
【0045】
レンダリング実行部121が以上の処理を行なうことにより、レンダリングが終了し、その結果は、レンダー結果RRDとして出力される。実際には、画像メモリー139に書き込まれたデータを、画像表示部151の表示サイクルに合わせて読み出すことで、レンダー結果RRDとして、表示される。レンダー結果RRDの一例を、
図6に例示した。この例では、画像表示部151には、仮想空間に置かれた3Dオブジェクトとしての印刷媒体PLbと、光源LGと、背景の1つとして存在する家具等の背景オブジェクトBobとが表示されている。
【0046】
仮想空間に置かれた印刷媒体PLbと光源LGや視点(カメラ)VPとの関係を、
図7に例示した。光源LGや視点VPと印刷媒体PLbとの関係は仮想空間VSP内において3次元だが、図は仮想空間VSPをx-z平面で示す。xは、以下に説明する各ベクトルの集まった点の座標である。レンダリングの対象である印刷媒体PLbの所定の座標xに対して、これを照明する光源LGや視点VPの位置関係を例示する。図には、座標xから光源LGに向かう光源方向ベクトルωlと座標xから視点VPに向かう視点方向ベクトルωvと両者のハーフベクトルHVが示されている。また、符号Npは、印刷媒体PLbが完全な平面PLpであると仮定した場合の法線ベクトルを、符号Nbは、完全な平面ではない実際の印刷媒体PLbの座標xでの法線ベクトルを、それぞれ示している。なお、
図6では、視点VP(カメラ)は、印刷媒体PLbのほぼ正面に存在するものとして、印刷媒体PLbのレンダリング結果が例示されている。
【0047】
本実施形態の画像処理装置100では、仮想空間における印刷媒体の位置や角度を自由に変更して、印刷媒体上の画像共々、その見え方を確認できる。画像処理装置100は、画像表示部151に表示された画像に対して、利用者が図示しないポインティングデバイスを操作すると、レンダリング実行部121によるレンダリング処理を改めて行ない、その処理結果を画像表示部151に表示するという一連の処理を繰り返している。ここでポインティングデバイスは、3Dマウスやトラッキングボールなどでもよいし、画像表示部151に設けられたマルチタッチパネルを指やタッチペンで操作するタイプのものであってもよい。例えば、画像表示部151の表面にマルチタッチパネルを設けた場合には、印刷媒体PLbや光源LGを指等で直接移動するようにしてもよいし、二本指を使って、印刷媒体PLbを回転したり、光源LGと印刷媒体PLbとの距離を3次元的に変更したりするようにしてもよい。
【0048】
こうした仮想空間内の印刷媒体PLbや光源LGの位置や角度などを変更すると、レンダリング実行部121がその都度レンダリング処理を行ない、そのレンダー結果RRDを画像表示部151に表示する。こうした表示の一例を、
図8に示した。図示するように、仮想空間内の印刷媒体PLbや光源LGの位置や角度などを変更すると、画像が印刷された印刷媒体はその都度、物理ベースレンダリングされて、画像が印刷された実際の印刷媒体が、実空間の中で見える状態に近い態様で示される。
【0049】
特に本実施形態では、印刷媒体上に印刷される画像の色彩をカラーマネージメントシステム(CMS)により実際に印刷される画像の色彩に変換していることに加えて、レンダリングの際のライティング処理において、
[1]画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトして扱っていること、
[2]質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮していること、
[3]更に、印刷媒体の表面の質感を考慮する際、印刷される画像データの画素値を考慮していること、
から、画像表示部151に表示された印刷媒体の再現性は極めて高い。以下、この[1][2][3]の処理について説明する。
【0050】
[1]について:
仮想空間において3Dオブジェクトがどのように見えるかは、オブジェクト各部における反射光の双方向反射率分布関数(BRDF:Bidirectional Reflectance Distribution Function)と輝度とを用いて表わすことができる。双方向反射率分布関数BRDFとは、ある特定の角度から光を入射した時の反射光の角度分布特性を示す。輝度は、オブジェクトの明るさである。両者を併せて照明モデルとも言う。本実施形態で採用した反射モデルの一例を以下に示す。BRDFは、関数f(x,ωl,ωv)として、また、輝度は関数L(x,ωv)として、以下の式(1)(2)として表わすことができる。
f(x,ωl,ωv)=kD/π+kS*(F*D*V) …(1)
L(x,ωv)=f(x,ωl,ωv)*E⊥(x)*n・ωl …(2)
x:面内の座標, ωv:視点方向ベクトル,ωl:光源方向ベクトル
kD:拡散反射能(Diffuse Albedo), kS:鏡面反射能(Specular Albedo)
F:フレネル項, D:法線分布関数, V:幾何減衰項
E⊥(x):座標xに垂直に入射する照度, n:法線ベクトル
【0051】
BRDFの第1項、kD/πは拡散反射成分であり、ランバートモデルである。第2項は、鏡面反射成分であり、Cook-Torranceモデルである。式(1)において、kd/πのことを拡散反射項、kS*(F*D*V)のことを鏡面反射項と呼ぶことがある。フレネル項F,法線分布関数D,幾何減衰項Vについては、モデルや算出方法は公知のものなので、説明は省略する。BRDFとしては、3Dオブジェクト表面の反射特性やレンダリングの目的に応じた関数を用いればよい。例えば、ディスニー原則BRDF(Disney Principled BRDF)などを用いてもよい。なお、本実施形態では、光の反射を表す関数としてBRDFが用いているが、光の反射を表す関数として双方向散乱面反射率分布関数(BSSRDF:Bidirectional Scattering Surface Reflectance Distribution Function)を用いてもよい。
【0052】
上記式(1)(2)から分かるように、上記反射モデルの計算には法線ベクトルn、光源方向ベクトルωl、視点方向ベクトルωvが必要になる。印刷媒体は、レンダリング処理の対象としては、複数の微小なポリゴンによって構成された3Dオブジェクトとして扱うが、印刷媒体表面の微小な凹凸を反映する法線ベクトルnは、ポリゴンの法線Npと後述する法線マップとから算出する。従って、頂点パイプラインVPLでは、ポリゴンの法線Npと、法線マップの参照位置を決めるUV座標とを算出し、光源方向ベクトルωlおよび視点方向ベクトルωv共々、ピクセルパイプラインPPLに入力する。ピクセルパイプラインPPLでは、ピクセルシェーダーPSが、質感パラメーターの1つとして与えられる法線マップをUV座標を用いて参照し、参照した法線マップの値とポリゴンの法線Npとから、法線ベクトルnを演算する。
【0053】
本実施形態では、上述したように、画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトとして扱い、上記式(1)(2)により物理ベースレンダリングを行なう。なお、光源方向ベクトルωl、視点方向ベクトルωvは、
図8に示したように、利用者がポインティングデバイスを用いて、仮想空間内の印刷媒体PLbや光源LGの位置や角度などを変更すると、その都度、演算される。
【0054】
[2]について:
本実施形態では、質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮している。質感パラメーターTXTとしては、以下のものがあり得るが、全てを考慮する必要はなく、以下に挙げるパラメーターのうち、少なくとも1つ、例えば滑らかさを考慮すればよい。
・滑らかさS(smoothness)または粗さR(roughness):
3Dオブジェクトの表面の滑らかさを示すパラメーターである。滑らかさSは、一般的には値0.0~1.0の範囲で指定する。滑らかさSは、上述した式(1)BRDFの法線分布関数D、幾何減衰項Vに影響を与える。この値が大きいと、鏡面反射が強くなり、光沢感を呈する。滑らかさSの代わりに粗さRを用いてもよい。両者は、S=1.0-R、として変換可能である。なお、滑らかさは平滑度と、粗さは粗度と、呼ぶことがある。
【0055】
・金属性M(metallic):
3Dオブジェクトの表面が金属的である程度を示す。表面の金属性が高い場合に金属性Mの値は大きくなる。金属性Mが大きいと、物体表面は、周囲からの光を反射しやすく、周囲の景色を写した反射となって、オブジェクト自体の色が隠されやすくなる。金属性Mは、フレネル項Fに影響を与える。
フレネル項Fは、Schlick近似を用いれば、次式(3)として表わすことができる。
F(ωl,h)=F0+(1-F0)(1-ωl・h)5 …(3)
ここで、hは視点方向ベクトルωvと光源方向ベクトルωlとのハーフベクトル、F0 は垂直入射時の鏡面反射率である。鏡面反射率F0 は、鏡面反射光の色(specularColor)として直接指定するか、金属性Mを用いて、線形補間(ここでは、lerp関数と表示する)の式(4)により与えればよい。
F0 =lerp(0.04,tC,M) …(4)
ここで、tCは、3Dオブジェクトのテクスチャーの色(albedoColor)である。なお、式(4)における値0.04は、非金属における一般的な値を示すRGBそれぞれの値を代表的に示したものである。テクスチャーの色tCも同様である。
【0056】
・法線マップ(Normal Map):
法線マップには、印刷媒体の表面の微小な凹凸面の法線ベクトルが表されている。3Dオブジェクトに法線マップを対応付ける(貼り付ける)ことにより、印刷媒体の表面の微小な凹凸面の法線ベクトルを3Dオブジェクトに付与することができる。法線マップは、BRDFのフレネル項F、法線分布関数D、幾何減衰項Vに影響を与え得る。
【0057】
・その他の質感パラメーター:
質感パラメーターとして機能し得るパラメーターには、この他、鏡面反射色(specularColor)や、印刷媒体表面のクリアコート層の有無や、その厚さ、あるいは透明度などを示すクリアコート層パラメーター、などがある。
【0058】
[3]について:
更に、本実施形態では、質感パラメーターTXTのうち、特に滑らかさSについて、印刷媒体全体に同じ値を用いるのではなく、質感設定部131により、マネージド画像データMGPのうち、画素値が零ではない画素、つまり紙白ではない画素については、インクが吐出されるものとして、質感パラメーターTXTのうち、滑らかさSを、ゲインgを用いて、紙白の部分の滑らかさの初期値S1より小さな値に修正している。このため、同じように光源LGからの光が当たっても、インクが吐出されない部位と、インクが吐出されている部位とでは、見え方が変わる。この例を、
図9に示した。図の上段は、質感(ここでは滑らかさ)として画素値を考量しておらず、印刷媒体の全域において、滑らかさが初期値S1とされている場合のレンダリング結果を示す。光源LGからの光が反射しているハイライト部分HLtは、紙白の部分CNでも、インクが吐出される部分CIでも同じ幅でレンダリングされている。なお、図において、上下段とも、ハイライト部分HLtと区別しやすいように、紙白の部分CNに僅かに陰影を施してある。
【0059】
図9の下段は、滑らかさを示すパラメーターSとして画素値を考慮している場合のレンダリング結果を示す。この場合、印刷媒体の紙白の部分の滑らかさは初期値S1とされており、インクが吐出される部分の滑らかさは初期値S1より小さく設定されている。従って、光源LGからの光が反射しているハイライト部分HLGは、インクが吐出される部分CIでは、紙白の部分CNと比べて、幅が広くレンダリングされる。これは、インクが吐出される部分では、滑らかさSが紙白の部分の滑らかさ(初期値S1)より小さく、光源LGからの光による散乱が尖鋭には生じないからである。
【0060】
以上説明したように、
[1]画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトして扱い、
[2]質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の質感を考慮し、
[3]更に、質感を考慮する際、印刷媒体上の画素値を考慮する、
ことにより、本実施形態の画像処理装置100では、画像が印刷された印刷媒体の見え方を、画像表示部151に高い自由度かつ高い再現性で表示できる。
図6に例示したように、印刷媒体に正対する方向から見たときには、印刷媒体表面の質感、印刷媒体の表面の細かな凹凸から生じるざらざら感が現れ、
図8に例示したように、印刷媒体を回転させて、印刷媒体を斜め方向から見たときには、印刷媒体の表面に光源LGによる照明が映り込み、その結果生じるハイライト部HLTが現れる。更に、同じ印刷媒体の表面でも、インクが吐出される部分とインクが吐出されない紙白の部分とでは、表面の滑らかさに差異が生じるため、光源LGにより照明の映り込みによるハイライト部分は異なった状態となる。通常は、インクが吐出される部分では、表面の滑らかさは低下し、ハイライト部分は拡がる。なお、照明光は、スポットライトのように、印刷媒体に直接向けられた照明によるものに限る必要はなく、太陽光や間接照明・間接光といったものも含まれる。
【0061】
(A6)変形例:
次に、第1実施形態の変形例について説明する。変形例の画像処理装置100では、
図4に示した質感設定処理のステップS165に代えて、
図10に示す処理を行なう。他の処理は、第1実施形態と同様である。この変形例では、滑らかさの修正値Sを、以下のようにして算出し、マネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに書き込む。
【0062】
マネージド画像データMGPの一つの画素から画素値を読み出した後(ステップS164)、第1実施形態のステップS165に代えて設けられたステップS166において、まず画素値から輝度値Yを求める(ステップS166a)。輝度値Yは、マネージド画像データMGPの各画素のsRGBによる色彩値から次式(5)により求めることができる。
Y=0.299×R+0.587×G+0.114×B …(5)
また、この輝度Yから、補正係数coefを演算する(ステップS166b)。補正係数coefは、次式(6)により求める。ここで、power()は、べき乗を求める周知の関数である。
coef=power(Y,0.25) …(6)
【0063】
こうして補正係数coefを求めたのち、滑らかさの修正値Sを、次式(7)により求める(ステップS166c)。
S=S1×coef …(7)
ここで、S1は、第1実施形態で説明した印刷媒体全体について設定されている滑らかさの初期値である。以上の処理により滑らかさの修正値Sを求め、その後、これをマネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに書き込む(ステップS168)。
【0064】
以上説明した第1実施形態の変形例によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する上、画素毎の滑らかさを、その画素におけるインク量に対応した輝度に応じて修正して修正値Sとして求めるので、画像の質感を更に正確に表現できる。
図11は、変形例におけるレンダリング結果の一例を示す。図の上段に示す例は、質感(滑らかさ)として画素値を考慮しない場合の見え方の一例であり、図の下段に示す例は、質感(滑らかさ)として画素値、特に輝度Yを考慮している場合の見え方の一例を示す。通常、一つの画素に吐出されるインク量が多くなれば、輝度Yは低下するので、輝度が低ければ吐出されるインク量は多く、その画素における滑らかさは低下し、ハイライト部の範囲は広くなる。図では、異なる色に塗り分けられた複数の領域CK,CB,CR,CYでは、輝度が異なる部分では、ハイライト部の範囲、特に幅が異なっていることが見て取れる。また、これら複数の領域CK,CB,CR,CYからなるインクが吐出される部分CIのハイライト部の幅は、紙白の部分のハイライト部の幅より広くなっている。このように、画素値やこれに対応した輝度値などを用いて、質感パラメーターの一つである滑らかさを修正すれば、画像が印刷された実際の印刷媒体の見え方を、一層精度よく表現できる。
【0065】
以上説明した第1実施形態では、質感パラメーターTXTとして、主に印刷範囲の滑らかさを、マネージド画像データMGPの画素値に応じて設定や修正するものとして説明した。こうした質感パラメーターTXTには、上述したように、印刷媒体の表面の滑らかや粗さのみならず、金属性、法線マップ(Normal Map)、鏡面反射色(specularColor)、印刷媒体表面のクリアコート層の有無、その厚さ、あるいは透明度などを示すクリアコート層パラメーター、など種々のものが含まれ得る。これら全てを扱ってもよいし、一部のパラメーターを扱うものとしてもよい。もとより、これらの質感パラメーターTXTのうちの一つを扱うものとしてもよい。また、質感パラメーターTXTのうちには、画像が形成されるか否かや画素値の多寡などにより有意な影響を受けるものもあれば、影響を受けにくいものや全く受けないものなどもあり得る。こうした場合には、画素値により異なる値をとるものを第1質感パラメーターとし、画素値による影響を受けない、あるいは受け難いものを第2質感パラメーターとし、第1質感パラメーターについては、画素値より補正するものとしてもよい。もとより、第2質感パラメーターについても画素値により補正演算行なうものとしても差し支えない。例えば、質感パラメーターのうち、法線マップは画素値による影響を受けないか、受け難いので、第2質感パラメーターとして扱うことなどが考えられる。なお、こうした点は、以下に説明する第2実施形態以下の各実施形態でも同様である。
【0066】
B.第2実施形態:
第2実施形態の画像処理装置100は、第1実施形態とほぼ同様のハードウェア構成を備えるが、質感の設定を行なう質感設定部131Aが、レンダリング実行部121内に設けられている点で、第1実施形態と相違する。第2実施形態の画像処理装置100は、
図12に示すように、質感設定部131AがピクセルシェーダーPS内部に設けられている。質感設定部131Aは、マネージド画像データMGPと質感パラメーターTXTを入力し、これらに基づいて、第1実施形態の
図4やその変形例において要部を示した
図10の質感設定処理を行なう。この場合、マネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに、演算した滑らかさの修正値Sを書き込む必要はなく、ピクセルシェーダーPS内での質感表現の演算処理に直接用いればよい。質感設定部131AをピクセルシェーダーPSの内部に備えるこの構成によれば、レダリングする画像の読み込みからレンダリング結果の最初の表示までの時間を短縮できる。なお、こうした第2実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
C.第3実施形態:
次に、画像処理装置100の第3実施形態について説明する。第3実施形態の画像処理装置100は、第1実施形態と同様の構成を備え、第1実施形態の質感設定部131に代えて、
図13に示す質感設定部131Bを備える。質感設定部131Bは、CMS111から取得したデバイス画像データDCDと印刷条件PCCとを入力し、質感パラメーターTXTを演算する。演算した質感パラメーターTXTは、第1実施形態と同様に、マネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに書き込んで、レンダリング実行部121のピクセルパイプラインPPLに入力してよいし、マネージド画像データMGPに対応付けられたマップ画像の形態でピクセルパイプラインPPLに入力するものしてもよい。
【0068】
質感設定部131Bは、図示するように、質感テーブル取得部133と、質感パラメーター算出部134とを備える。質感テーブル取得部133は、印刷条件PCCに従って質感テーブルを取得する。パラメーター算出部134は、質感テーブル取得部133により取得された質感テーブルTTBと、CMS111から取得したデバイス画像データDCDとから、マネージド画像データMGPの画素値に応じた質感パラメーターTXT、ここでは滑らかさの修正値Sを算出する。デバイスカラー画像データDCDとは、画像データORGを、実際に印刷を行なうデバイスである印刷装置の表色系で表わした画像データである。例えば、印刷装置の入力表色系がCMYKの場合、画像データORGを、CMS111により、印刷装置対応の出力プロファイルを用いて、CMYKの表色系に変換した画像データが、デバイスカラー画像データDCDとして、質感設定部131Bに入力される。
【0069】
滑らかさの修正値Sの算出は以下のように行なわれる。
印刷条件PCCを受け付け、印刷条件PCCに対応する質感テーブルTTBを取得する。質感、例えば表面の滑らかさや金属性などは、印刷媒体により異なり、また印刷に用いられるインクなどによっても相違する。そこで、印刷条件PCCとして、印刷装置やインクセットの情報を入力すると、質感テーブル取得部133が、予め用意された多数の質感テーブルから、対応する質感テーブルTTBを取得する。こうした質感テーブルTTBの一例を、
図14に示した。この例では、質感テーブルTTBは、インクシステム、ここではCMYKの各色彩値の濃度を入力として、その場合の質感パラメーターTXTを定義している。質感パラメーターTXTとしては、印刷媒体の表面の滑らかさS、金属性M、RGB各色の鏡面反射成分s_R,s_G,s_Bが定義されている。
【0070】
図14では、理解の便を図って、第1行に無色(CMYKいずれも0%)の場合を、第2行にイエロインクYのみ100%の場合、第3行に黒インクのみ100%の場合を、それぞれ示している。実際の質感テーブルTTBは、例えばCMYKそれぞれを10%刻みで変更した場合の質感パラメーターTXTを示す形式で保存されている。もとより、各インク量および総和には、インクデューティの制限があるので、インクデューティの制限内でのCMYKインクの組み合わせに対する質感パラメーターTXTの値を示すテーブルとして作成すればよい。各インクの割合は、更に細かい、例えば1%刻みでもよいし、もっと粗い刻みで変更してもよい。また各インクの割合を変更する刻みは、一律である必要はなく、インク毎に異なる刻みとしてもよいし、濃度に応じて、インクの割合を変更する程度を異ならせてもよい。
【0071】
図示した質感テーブルTTBでは、画素値がCMYKいずれも0(無色)であれば、紙白の部分に相当し、第1実施形態と同様に、滑らかさSは値0.95となり、金属性Mは0である。また、RGB各色の鏡面反射成分s_R,s_G,s_Bは、いずれも値1である。他方、第2行に示したように、イエロインクYのみが100%の場合は、インクが印刷媒体表面に存在することで、滑らかさSは値0.92とされ、金属性Mは値0ではなく値0.2程度とされる。これはイエロインクYにより生じることがあるブロンジング現象に対応した値である。イエロインクYが高濃度に存在すると、印刷媒体の表面は、ブロンズ色にテカって見える場合がある。RGB各色の鏡面反射成分s_R,s_G,s_Bは、図示のように、ブロンズ色に対応した値とされている。第3行に示した例は、黒色インクKが100%の場合を示す。黒インクKの場合は、表面の滑らかさSは、他のインクより低く値0.8程度とされる。また、黒色なので、ほとんどの光は吸収されるから、RGB各色の鏡面反射成分s_R,s_G,s_Bは、いずれもほぼ値0とされる。質感テーブルTTBにおける質感の値は、印刷装置やインクセットによって異なるため、印刷装置×インクセットの数だけ必要となる場合がある。また、印刷条件PCCとして、「ドラフト印刷」「高精細印刷」など、吐出するインク量が異なる印刷モードがあれば、更にその組み合わせだけ用意することが望ましい。もとより、似た質感となる組み合わせを求めて、質感テーブルTTBの種類を減らすことも差し支えない。質感テーブルTTBは、全てを131Bに予め記憶しておいてもよいが、使用頻度の低いものは、外部のサイトに保存しておき、必要が生じた場合、ネットワーク等を介して、外部のサイトから読み込むものとしてもよい。
【0072】
パラメーター算出部134は、CMS111から入力したデバイスカラー画像データDCDの各画素値に従って、質感テーブル取得部133により取得された質感テーブルTTBを参照し、滑らかさSや金属性Mなどの質感パラメーターTXTを取得し、これをマネージド画像データMGPと共に、ピクセルパイプラインPPLに出力する。このとき、質感パラメーターTXTは、第1実施形態と同様、マネージド画像データMGPのアルファチャンネルα-chに保存してピクセルパイプラインPPLに出力してもよいし、質感パラメーターTXTが滑らかさSや金属性Mなど複数のパラメーターを含んでいれば、マップ画像として一つのファイルに保存してピクセルパイプラインPPLに出力するようにしてもよい。
【0073】
以上説明した第3実施形態の画像処理装置100は、第1実施形態等と同様の作用効果を奏する上、質感パラメーターTXTを質感テーブルTTBを用いて求めているので、多様な印刷条件PCC下において、マネージド画像データMGPの各画素値に対して、的確な質感パラメーターTXTを用意することができる。また、印刷条件PCC毎の質感パラメーターTXTの調整も容易である。
【0074】
D.第4実施形態:
第4実施形態は、印刷システム300としての形態である。この印刷システム300は、
図15に示すように、第1~第3実施形態で示した画像処理装置100と、印刷条件特定部315を備える画像準備装置310と、印刷装置320とを備える。画像準備装置310は、本実施形態では、利用者が使用するコンピューターであり、印刷しようとする画像データORGを用意する装置である。この画像準備装置310は、画像を作成する機能を有してもよいし、単に画像データを記憶しておき、必要に応じて、画像処理装置100に提供するものであってもよい。画像準備装置310は、画像処理装置100が画像データORGを取得できるように、ネットワークNWを介して接続されているが、有線または無線で画像処理装置100に直接接続されていてもよい。
【0075】
印刷装置320は、本実施形態では、画像準備装置310にネットワークNWを介して接続されており、画像準備装置310からの指示を受け、画像準備装置310が出力する画像データORGを印刷媒体PRMに印刷する。印刷システム300の利用者は、印刷装置320による印刷に先立って、画像データORGを画像処理装置100に取得させ、第1~第3実施形態において説明した様に、印刷媒体PRMを3Dオブジェクトとして扱い、かつ質感パラメーターを用いたライティング処理を行なって、印刷媒体PRMを、その上に印刷された画像データを含めてレンダリングする。
【0076】
画像準備装置310に備えられた印刷条件特定部315は、印刷媒体に印刷される画像の印刷媒体上の見え方に影響する印刷条件を特定する。印刷条件特定部315は、画像処理装置100に設けてもよい。印刷条件特定部315は、印刷条件、例えば所定の印刷媒体が収容された用紙トレイの選択、利用するインクセットの選択、使用する印刷装置種類の選択、印刷解像度、印刷の品質などの印刷条件から色変換に必要なブロファイルを設定したり、印刷条件に基づいて参照する質感パラメーターTXTを定める。この質感パラメーターを用いて、画像処理装置100はレンダリングを行なうので、画像が印刷される印刷媒体の見え方を印刷条件の違いを反映させて容易に確認できる。印刷条件特定部315は、これらの条件の他、仮想空間における画像が印刷された印刷媒体の観察状態、仮想空間における印刷媒体に対する照明の情報である照明情報、仮想空間における3Dオブジェクトを特定するオブジェクト特定情報、仮想空間における背景を特定する背景情報などを設定するものとしてもよい。
【0077】
質感パラメーターTXTは、第1~第3実施形態のいずれの手法で設定するものとしてもよいが、
図15では、質感テーブルTTBを用いた手法、具体的には、第3実施形態として説明した手法で設定するものとして図示している。この手法では、印刷条件から質感パラメーターTXTを求める質感テーブルTTBが必要となる。図では、質感テーブルTTBは、ネットワークNWを介して接続された外部サイト200に、各種印刷装置におけるインクセットや印刷媒体に対応する質感テーブルTTBが記憶されており、画像準備装置310の印刷条件特定部315は、質感テーブルTTBを参照して質感パラメーターTXTを設定し、これを画像処理装置100の図示しないレンダリング実行部のピクセルパイプラインに出力し、レンダリング処理を行なわせる。
【0078】
利用者は、画像処理装置100によるレンダリング結果を画像表示部151上で確認し、必要があれば、視点や光源の位置、あるいは光源の強さやホワイトバランスなどを変更して、印刷媒体PRMの見え方を確認し、その後、画像データORGをネットワークNWを介して、画像準備装置310から印刷装置320に出力して、印刷媒体PRMに画像データORGを印刷する。利用者は、印刷に先立って、印刷媒体PRMにおける画像の見え方を、画像処理装置100による物理ベースのレンダリングにより確認できる。この結果、印刷媒体PRMの表面の滑らかさ(粗さ)などを含めた印刷媒体PRMの種類による質感の違いを確認してから印刷できる。画像表示部151に表示されたレンダリング結果を見て、所望の印刷結果が得られるように、画像データORGの色彩を変更したり、用いる印刷媒体PRMの種類を変えたり、印刷に利用する印刷装置320を変更したり、あるいはそのインクセットを変更したりすることも可能である。
【0079】
印刷装置320が印刷する印刷媒体は、用紙以外のものであってもよい。例えば生地に印刷する捺染プリンターや缶や瓶などの固形物に印刷する印刷装置であってもよい。また、対象物に直接印刷する構成の他、転写紙のような転写用媒体に印刷を行ない、転写用媒体上に形成されたインクを印刷媒体である生地や固形物に転写する印刷装置の構成も採用可能である。こうした転写型の印刷装置としては、昇華型の印刷装置がある。こうした転写型の構成では、印刷媒体は、転写された最終印刷物である。こうした場合には、印刷媒体である生地や金属、ガラスやプラスチックなどの表面の構造や質感に関与する質感パラメーター等を、印刷媒体の性質に合わせて用意し、画像処理装置100で物理ベースレンダリングを行なえばよい。転写型の印刷装置においても、質感パラメーターは、転写用媒体ではなく、最終印刷物の質感を表わすものを用いる。こうした生地や缶に印刷した場合の画像表示部151での表示例を、
図16に示した。図では理解の便を図って、Tシャツに印刷したオブジェクトOBJtと、缶に印刷したオブジェクトOBJcとを併せて示したが、通常は1つの印刷媒体ずつ表示される。もとよりレンダリング実行部を複数用意し、物理ベースレンダリングの結果を、複数同時に表示するようにしてもよい。
【0080】
E.他の実施形態:
(1)本開示は以下の形態でも実施可能である。その実施形態の1つは、画像処理装置としての形態である。この画像処理装置は、印刷媒体の種類を含む印刷条件を特定する印刷条件特定部と、前記印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データを入力する画像入力部と、前記印刷条件が特定された前記印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、前記印刷画像の形成箇所においては、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する質感設定部と、前記印刷画像データと前記質感パラメーターとを用いたレンダリング処理により、前記印刷画像が形成された前記印刷媒体のレンダリング画像を生成するレンダリング実行部とを備える。
【0081】
こうすれば、画像データに基づいて印刷された印刷媒体がどのように見えるかを、特に印刷媒体の質感に関し、印刷媒体に形成される画像の画素値を考量して、再現できる。この画像処理装置では、印刷媒体を、画像が印刷されるものとして、レンダリングして、印刷画像が形成された印刷媒体のレンダリング画像を生成するので、画像が印刷される印刷媒体の見え方を、高精度に再現できる。特に、画像が形成される領域と非形成領域とで異なる質感が現れる現象を、再現することができ、一層リアルなレンダリング画像を見せることができる。従って、画像内で質感が異なる部分があることを、実際に印刷することなく、利用者に見せ、確認させることができる。また、こうしたレンダリング画像の形成は、元の画像を編集するのではなく、レンダリング処理における質感パラメーターを用いて行なうので、光源や視点の影響をリアルタイムに反映、確認することも可能である。これにより色味を含めて印刷に先立って、画像が形成される印刷媒体の見え方を確認でき、印刷しようとする画像と印刷媒体とを組み合わせた際の印象に齟齬が生じることが抑制され、元の画像や印刷条件を調整してトライ&エラーを繰り返すといったことが減り、印刷を試行する費用と時間を削減することも可能となる。
【0082】
こうした画像処理装置は、上記の画像処理だけを行なう装置として構成してもよいし、印刷しようとする画像を保存する機能を含む装置として構成してもよい。あるいは、印刷しようとする画像を作成する機能を含む装置や、画像を印刷する装置として構成してもよい。画像処理装置は、GPUを備えたコンピューターにより実現してもよいし、必要な機能を複数のサイトに置き、連携可能とした分散システムとして構成してもよい。分散型のシステムとして構成した場合、端末の処理負荷が軽減されるので、タブレットなどの携帯端末でも上記の画像処理を実行しやすくなり、利用者の利便性がさらに向上する。
【0083】
画像処理装置が扱う画素値は、8ビット整数であれば、0~255までの値を取るが、8ビットに限らず、12ビットなどの表現形式であってもよい。あるいは、0~100%や0~1.0の範囲をとる値として扱うことも差し支えない。
【0084】
こうした画像処理装置におけるレンダリング実行部は、既存の各種構成が採用可能である。一般にレンダリングは、3次元のワールド座標を視点から見た座標系に変換する視点変換、3Dオブジェクトからレンダリングに不要な頂点を除くカリング、不可視の座標を除くクリッピング、ラスタライズ、といった複数の要素に分けて実施されてもよい。これらの処理は、専用のGPUでの処理に適した構成とし、3Dオブジェクトの頂点に関する処理を行なう頂点パイプラインやラスタライズされた各ピクセルについての処理を行なうピクセルパイプラインを備えたパイプライン構成により実現してもよい。
【0085】
レンダリング実行部が扱う質感パラメーターとしては、印刷媒体の表面の滑らかや粗さ、金属性、法線マップ(Normal Map)鏡面反射色(specularColor)、印刷媒体表面のクリアコート層の有無、その厚さ、あるいは透明度などを示すクリアコート層パラメーター、などがある。この他、印刷媒体の見え方に影響を与える要素であれば、質感パラメーターとして扱ってよい。
【0086】
こうした各種の質感パラメーターを扱う場合、印刷条件が特定された印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、印刷画像の形成箇所における印刷画像データの画素値を考慮して設定する際の考慮の態様は、画像を形成する際の記録方式や画像を形成する記録材などの違いにより、それぞれ異なる。画像の記録方式としては、インクジェットブリンターのみならず、レーザープリンター、染料昇華型のプリンター(ダイレクトタイブ、転写タイプ)、などがあり、記録材としては、溶剤と共に吐出される染料や顔料、熱溶着されるトナー、固体染料など、種々のものがある。従って、質感パラメーターを設定する際には、こうした違いに応じて画素値を考慮すればよい。
【0087】
(2)上記の構成において、前記質感設定部は、前記印刷媒体の前記印刷条件と、前記印刷画像データが取り得る画素値とに対応付けて、質感パラメーターを予め記憶しており、前記印刷画像の形成箇所における前記質感パラメーターを、前記印刷条件と前記印刷媒体に形成される前記印刷画像の前記画素値に応じて設定するものとしてよい。こうすれば、質感パラメーターを、印刷媒体の印刷条件と印刷画像データの画素値とから容易に設定できる。このため、画像の見え方に影響を与える印刷条件が異なる場合でも、容易に対応できる。こうした対応は、印刷条件毎に細かく行なってもよいし、基本的な関係を予め記憶しておき、印刷条件の細かな違いは、この基本的な関係を補正することで対応するようにしてもよい。印刷画像データの画素値による見え方の違いを確認することが重要な場合には、こうした印刷条件の細かな違いによる補正や修正を行なわないものとしてもよい。なお、本明細書における「補正」とは、パラメーターを本来の値にする処理のみならず、パラメーターを本来の値に一定程度近づける処理であるパラメーターの修正処理を含む。
【0088】
(3)上記の(1)または(2)の構成において、前記質感設定部は、前記質感パラメーターを、前記印刷媒体の前記印刷条件と、前記印刷画像データが取り得る画素値とに対応付けたテーブルを記憶しており、前記テーブルを参照することで、前記印刷画像の形成箇所における前記質感パラメーターを設定するものとしてよい。こうすれば、テーブルを記憶しておき、これを参照するだけでよいので、複雑な対応関係であって容易に対応できる。もとより、印刷条件毎に、画素値に基づいて質感パラメーターを計算するといった構成とすることも差し支えない。
【0089】
(4)上記の(1)から(3)の構成において、前記質感設定部は、前記テーブルを、前記印刷条件に対応付けて記憶しており、前記特定された印刷条件に従って、前記参照するテーブルを選択するものとしてよい。こうすれば、複数の対応関係が存在しても、テーブルを選択するだけで対応できる。基本的な関係を示すテーブルを、一つまたは複数記憶しておき、複数の印刷条件や画素値の違いを、テーブルに記憶した値から補正により求めるといった構成とすることも可能である。
【0090】
(5)上記の(1)から(4)の構成において、前記質感設定部は、前記印刷媒体について予め設定された質感パラメーターを前記印刷画像の形成箇所における前記印刷画像データに対応して補正することにより、前記質感パラメーターの設定を行なうものとしてよい。こうすれば、質感パラメーターを、印刷画像データに対応して補正でき、レンダリング画像を印刷画像データに応じた見え方で表示できる。印刷画像データに対応した補正とは、例えば印刷画像データ内の画像が形成される部分と画像が形成されない部分で補正の内容を異ならせる場合などを含む。また、画素毎の画素値に応じて補正するものに限らず、印刷画像データの画素値の平均値などを用いて、質感パラメーターを設定するといった構成を採用してもよい。
【0091】
(6)上記の(1)から(5)の構成において、前記質感パラメーターの前記補正は、前記印刷画像データに含まれる画素値を用いて行なうものとしてよい。こうすれば、レンダリング画像を画素値に応じた見え方で表示できる。画素値を用いた補正は、画素値がインク量を表わす場合には、インク量が多いほど、質感パラメーターのうちの、例えば滑らかさを小さくするといった補正となる。画素値が明度や輝度の場合には、画素値が高いほど、滑らかさを小さくする割合が小さくなるような補正となる。質感パラメーターが金属性の場合は、特定の色のインクの濃度値に応じて金属性の値を定めるといった補正となる。なお、画像がインクによって形成される場合でも、熱昇華型のインクにより画像形成する場合と染料や顔料を溶媒と共に吐出するインクジェットプリンター等の場合とでは、画素値による質感パラメーターの補正の程度などは相違する。レーザープリンターなどのように、トナーを熱溶着する場合も、画素値に対する質感パラメーターの補正の態様は異なる。それぞれの画像形成に用いる記録材の性質に合わせて、補正の態様を決定すればよい。
【0092】
(7)上記の(1)から(6)の構成において、前記印刷画像の形成箇所以外では前記補正を行なわないものとしてよい。こうすれば、補正処理を簡略化できる。
【0093】
(8)上記の(1)から(7)の構成において、前記質感設定部は、前記印刷画像を構成する画素の輝度または明度を、前記画素値として前記補正を行なうものとしてよい。こうすれば、多色の印刷装置や、単色でも複数のインクなどの記録材を用いる印刷装置で画像を形成する場合の質感パラメーターの補正の処理を簡略化できる。
【0094】
(9)上記の(1)から(8)の構成において、前記画素値は、前記輝度または前記明度に加えて、前記画素の彩度および色相の少なくとも一方も含むものとしてよい。こうすれば、単に輝度や明度による場合よりも精密な補正を行なうことができる。例えば、彩度や色相などを適宜考量することで、インクジェットプリンターなどで生じ得るブロンジング現象など、特定の色彩の範囲で生じ得る現象に起因する見え方の相違を表現できる。
【0095】
(10)上記の(1)から(9)の構成において、前記質感設定部は、前記印刷媒体の種類毎に、前記画素値に対応する補正パラメーターを記憶しており、前記特定された印刷条件に応じて、前記画素毎に前記補正パラメーターを取得し、前記取得した補正パラメーターを用いて前記補正を行なうものとしてよい。こうすれば、印刷条件から容易に質感パラメーターを補正できる。
【0096】
(11)上記の(1)から(10)の構成において、前記質感設定部は、前記質感パラメーターとして、前記印刷画像の形成箇所以外では、前記印刷条件が特定された前記印刷媒体に予め設定された質感パラメーターを用いるものとしてよい。こうすれば、処理を簡略化できる。
【0097】
(12)上記の(1)から(11)の構成において、前記質感設定部は、前記質感パラメーターを、前記画素値により異なる値をとる第1質感パラメーターと、前記画素値による影響を受けない第2質感パラメーターとにより設定し、前記印刷画像の形成箇所においては、前記第1質感パラメーターを、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定するものとしてよい。こうすれば、一部の質感パラメーターについてのみ画素値を考慮すればよく、処理を簡略化できる。
【0098】
(13)実施形態の他の1つは、印刷システムとしての形態である。この印刷システムは、上記の(1)から(12)のいずれか一項に記載の画像処理装置と、前記画像処理装置が生成した前記レンダリング画像を表示する表示部と、前記印刷画像データを前記印刷媒体に印刷する印刷装置とを備える。こうすれば、印刷装置で印刷を行なう際に印刷に先だって、画像が印刷された印刷媒体の見え方が表示部に表示されるので、これを確認してから印刷できる。したがって、印刷しようとする画像と印刷媒体の印象に齟齬が生じることが抑制され、元の画像や印刷条件を調整してトライ&エラーを繰り返すといったことが減り、印刷を試行する費用と時間を削減することも可能なる。なお、画像装置単体でも、前記レンダリング画像を表示する表示部を備えるものとしてよい。こうすれば、利用者はレンダリング結果を表示部を用いて直ぐに確認できる。またタブレットなどを表示部として用いれば、画像処理装置や印刷を行なう印刷装置から離れて作業できる。
【0099】
(14)実施形態の更に他の1つは、画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理プログラムとしての形態である。この画像処理プログラムは、前記印刷媒体の種類を含む印刷条件を特定する第1の機能と、前記印刷媒体上に形成される印刷画像の各画素の画素値を含む印刷画像データを入力する第2の機能と、前記印刷条件が特定された前記印刷媒体の質感を表わす質感パラメーターを、前記印刷画像の形成箇所においては、前記印刷画像データの前記画素値を考慮して設定する第3の機能と、前記印刷画像データと前記質感パラメーターとを用いたレンダリング処理により、前記印刷画像が形成された前記印刷媒体のレンダリング画像を生成する第4の機能とものとしてよい。こうすれば、コンピューターを備える装置において、(1)として説明した画像処理装置を容易に構成できる。
【0100】
(15)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。あるいは、ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ハードウェアによる構成として、例えばディスクリートな回路構成により実現してもよい。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピューターに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0101】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0102】
100…画像処理装置、111…カラーマネージメントシステム、121…レンダリング実行部、125…レンダリング条件設定部、131,131A,131B…質感設定部、132…修正値算出部、133…質感テーブル取得部、134…質感パラメーター算出部、135…印刷条件特定部、139…画像メモリー、151…画像表示部、171…記憶部、200…サイト、300…印刷システム、310…画像準備装置、315…印刷条件特定部、320…印刷装置