(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082443
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形用基材及び繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240613BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
D06M15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196294
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】笹井 賢司
(72)【発明者】
【氏名】竹田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
【テーマコード(参考)】
4F072
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB06
4F072AC05
4F072AD23
4F072AE01
4F072AF27
4F072AH02
4F072AJ04
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL13
4L033AA08
4L033AB04
4L033AC11
4L033AC15
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】高いレベルで機械特性と工程通過性を両立することが可能な繊維強化樹脂成形用基材、及びそれを成形してなる耐疲労特性に優れた繊維強化樹脂成形体を提供する。
【解決手段】アラミド繊維からなる補強用布帛(A)と半硬化状態の熱硬化性樹脂(B)とからなる繊維強化樹脂成形用基材であって、前記アラミド繊維は、繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を有しており、前記繊維強化樹脂成形用基材を用いて成形・硬化させた繊維強化樹脂成形体は、ボイド率が5.0%以下、かつ、JIS K7017に準じた3点曲げ試験条件における曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から算出される強力保持率が96.0%以上であることを特徴とする繊維強化樹脂成形用基材、並びに、それを成形してなる繊維強化樹脂成形体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維からなる補強用布帛(A)と半硬化状態の熱硬化性樹脂(B)とからなる繊維強化樹脂成形用基材であって、
前記アラミド繊維は、繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を有しており、
前記繊維強化樹脂成形用基材を用いて成形・硬化させた繊維強化樹脂成形体は、
(1)ボイド率が5.0%以下であり、かつ
(2)JIS K7017に準じた3点曲げ試験条件における曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から算出される強力保持率が96.0%以上である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形用基材。
【請求項2】
前記硬化性エポキシ化合物が、3官能以上の硬化性エポキシ化合物であり、該エポキシ化合物の25℃における粘度が500mPa・s以下である、
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形用基材。
【請求項3】
前記アラミド繊維表面に、繊維1kg当たり20.0mmol以上の未硬化の硬化性エポキシ化合物(遊離エポキシ含有量)を有する、
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形用基材。
【請求項4】
前記アラミド繊維からなる補強用布帛(A)が、JIS L1096に記載の方法により測定される下記式(I)で定義される糸の織縮み率が2.0%以下である、
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形用基材。
織縮み率(%)=[(糸長-織物長)/織物長]×100 ・・・ (I)
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の繊維強化樹脂成形用基材を成形してなる繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維からなる補強用布帛(A)と半硬化状態の熱硬化性樹脂(B)とからなる繊維強化樹脂成形用基材、及び、前記繊維強化樹脂成形用基材を成形してなる繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維からなる布帛(以下、補強用布帛)と熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂成形体は、軽量で優れた機械特性を有することから、航空機材、車両部品、電子部品、家電製品の各種ハウジング等幅広い分野に使用され、軽量、かつ高剛性、高強度、耐摩耗性等の特性が要求される分野において有効に用いられている。
【0003】
繊維強化樹脂成形体は、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の強化繊維からなる布帛に、熱硬化性樹脂を含浸させ、半硬化状態としたシート状等の基材(プリプレグ)を用いて製造されている。また、繊維強化樹脂複合体を得る方法の多くは、その取扱い性及び賦形性から、半硬化状態としたシート状の基材(プリプレグ)を複数積層し、オートクレーブ等で加熱加圧することにより硬化させる方法である。
【0004】
繊維強化樹脂成形体の機械的特性等を向上させるためには、強化繊維と熱硬化性樹脂との界面の接着性を高めることが求められる。しかしながら、アラミド繊維は他の実用強化繊維である炭素繊維やガラス繊維に比して、熱硬化性樹脂との密着性が劣る傾向がある。これはアラミド繊維が不活性繊維であり、繊維表面に存在する官能基と熱硬化性樹脂との間に相互作用が生じ難いためである。
【0005】
特許文献1では、プラズマを用いた化学的気相成長(プラズマCVD)法により強化繊維とマトリックス樹脂との界面接着性を向上させている。しかし、強化繊維表面上に化学蒸着工程を施す必要があり、また熱可塑性樹脂に限定された手法である。
【0006】
特許文献2では、マトリックス樹脂との界面接着性改良のために、フェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂とアルコール成分を含む溶剤から成る表面処理剤をアラミド繊維に含浸させる製造方法が記載されている。しかし、特殊な表面処理手法が必要であり、得られるフェノール性水酸基含有アラミド繊維は、取り扱い性が悪く、毒性が高く作業環境が悪いといった問題点がある。
【0007】
特許文献3では、ウレタンアクリレート(接着剤)により界面接着性に優れたアラミド樹脂成形材料が提示されている。しかし、マトリックス樹脂側からの改質手法であり、反応を促進するためにラジカル重合性単量体を添加する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-216538号公報
【特許文献2】特開平9-124801号公報
【特許文献3】特開平4-264139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特殊な表面処理手法を施すことなく高いレベルで耐疲労特性と工程通過性を両立できる繊維強化樹脂成形用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記目的を達成すべく誠意検討した。その結果、アラミド繊維表面に存在する硬化性エポキシ化合物の未硬化物(遊離エポキシ)量を制御し、さらに補強用布帛の織縮率を低減させて成形体のボイド率を抑えることで、耐疲労特性、工程通過性にも優れた繊維強化樹脂成形用基材を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、アラミド繊維からなる補強用布帛(A)と半硬化状態の熱硬化性樹脂(B)とからなる繊維強化樹脂成形用基材であって、
前記アラミド繊維は、繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を有しており、
前記繊維強化樹脂成形用基材を用いて成形・硬化させた繊維強化樹脂成形体は、
(1)ボイド率が5.0%以下であり、かつ、
(2)JIS K7017に準じた3点曲げ試験条件における曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から算出される強力保持率が96.0%以上である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形用基材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特殊な表面処理手法を施すことなく、高いレベルで耐疲労特性と基材製造時における工程通過性を両立できる繊維強化樹脂成形用基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の繊維強化樹脂成形用基材及び繊維強化樹脂成形体の説明図。
【
図2】3点曲げ試験で得られる、曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から算出される強力保持率の散布図(実施例1、比較例1)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に係る繊維強化樹脂成形用基材は、アラミド繊維からなる補強用布帛(A)と半硬化状態の熱硬化性樹脂(B)とからなる繊維強化樹脂成形用基材であって、前記アラミド繊維は、繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を有しており、前記繊維強化樹脂成形用基材を用いて成形・硬化させた繊維強化樹脂成形体は、(1)ボイド率が5.0%以下、かつ(2)JIS K7017に準じた3点曲げ試験条件における曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から算出される強力保持率が96.0%以上である、ことを特徴とする。
【0015】
<アラミド繊維>
アラミド繊維は、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていても良い二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維、又はアラミド繊維と称されるものであって良い。「置換されていても良い二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していても良い二価の芳香族基を意味する。
アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等を挙げることができるが、機械的特性に優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。このようなアラミド繊維は市販品として入手でき、その具体例としては、パラ系アラミド繊維として、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン(株)製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができる。これらのパラ系アラミド繊維の中でも、機械的特性に優れる点より、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【0016】
その中でも、JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」に記載の方法により測定される引張強度が17cN/dtex以上で、かつ同法により測定される引張弾性率が400cN/dtex以上である、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が望ましい。前記特性を有するポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いることにより、繊維強化樹脂成形体に十分な引張強度及び弾性率を発揮させることが可能となる。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張強度は、好ましくは20cN/dtex以上、より好ましくは23cN/dtex以上である。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張弾性率は、好ましくは420cN/dtex以上、より好ましくは450cN/dtex以上である。
【0017】
本発明において、補強用布帛(A)を構成するアラミド繊維は、繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を有している。このようなアラミド繊維は、アラミド繊維の製造工程で、硬化性エポキシ化合物を付与する方法で得ることができる。あるいは、既存のアラミド繊維に硬化性エポキシ化合物を付与する方法でも得ることもできる。
【0018】
アラミド繊維の製造工程で繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を付与する方法としては、油剤付与工程で付与する方法、その後の仕上げ工程で付与する方法等が挙げられるが、アラミド繊維の表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を多く付着させることができる点で、油剤付与工程で付与する方法が好ましい。
【0019】
油剤付与工程では、油剤として、硬化性エポキシ化合物を含む油剤を用いることが好ましい。詳細には、(a)未硬化の硬化性エポキシ化合物と(b)該硬化性エポキシ化合物を溶解する相溶剤とから構成され、アミン等のエポキシ硬化剤を含まない油剤であることが好ましい。前記の(a)成分及び(b)成分は、混合物として付与されても良いし、別々に2工程で付与されていても良い。2工程で付与される場合、付与順序は問わない。生産時の取り扱い性の面からは、(a)成分と(b)成分が混合物として付与されることが、より好ましい。
【0020】
油剤を構成する(a)硬化性エポキシ化合物/(b)相溶剤の比率(質量比)としては、80/20~30/70が好ましく、より好ましくは75/25~35/65、さらに好ましくは70/30~40/60である。前記(b)成分の比率が、70を超えると、エポキシ化合物が減少することにより熱硬化性樹脂との界面接着性が阻害され、反対に、20を下回ると、アラミド繊維の収束性が低下し工程通過性が悪化する恐れがある。また、油剤中に(b)成分が過剰に存在すると、アラミド繊維の熱硬化性樹脂に対する接着性が阻害される傾向がある。
【0021】
本発明では、アラミド繊維表面に付与する硬化性エポキシ化合物が、前記アラミド繊維を半硬化状態の熱硬化性樹脂に作用させる時点で、全て硬化していないこと(すなわち、未硬化の遊離エポキシ化合物がアラミド繊維表面に存在すること)が肝要である。但し、アラミド繊維表面には、硬化したエポキシ化合物と、未硬化(遊離)の硬化性エポキシ化合物が併存していても良い。
【0022】
アラミド繊維表面における未硬化の硬化性エポキシ化合物は、アラミド繊維1kg当たり20.0mmol以上であることが好ましく、より好ましくは40.0mmol以上であり、特に好ましくは50.0mmol以上である。
【0023】
本発明においては、アラミド繊維表面に一定量以上の遊離エポキシ化合物が存在することで、エポキシ基を介してアラミド繊維と熱硬化性樹脂との界面接着性が良好になり、繊維強化樹脂成形体のボイド率が低減し、惹いては機械的特性が向上するのではないかと推察される。また、油剤に遊離エポキシ化合物が含まれていると、繊維表面に付着した遊離エポキシ化合物によって、アラミド繊維束(繊維束-繊維束間)への熱硬化性樹脂の含浸性が良好になる。同時に繊維と樹脂間の界面接着性が良好となるため、耐疲労特性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0024】
一方、油剤にアミン等の硬化剤が含まれていると、硬化性エポキシ化合物が早期に硬化してしまい、油剤中の遊離エポキシ化合物量が低下したり、また油剤粘度も高くなるため、繊維束への熱硬化性樹脂の含浸性が低下する恐れがあり、繊維と樹脂間の界面接着性に影響を及ぼす恐れがある。
【0025】
なお、未硬化(遊離)の硬化性エポキシ化合物の量は、油剤を付与する際のアラミド繊維の水分率及び/又は油剤の種類、もしくは組成を変更することにより調整できる。
【0026】
上記の(b)成分である硬化性エポキシ化合物を溶解する相溶剤としては、繊維用油剤を用いることが好ましい。これにより、アラミド繊維の工程通過性が良好となることで生産効率が向上するだけでなく、熱硬化性樹脂含浸後の繊維強化樹脂成形体におけるアラミド繊維と熱硬化性樹脂との界面接着性を高めることができる。
【0027】
なお、油剤には、本発明による効果を阻害しない範囲で、公知の平滑剤、非イオン活性剤、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤等の界面活性剤、制電剤等が配合されていても良い。
【0028】
上記の油剤を付与するアラミド繊維としては、紡糸、中和、洗浄後の繊維を、乾燥し、水分率3~15質量%に調整したアラミド繊維が好ましく、より好ましくは水分率3.5~10質量%であり、特に好ましくは水分率3.5~8質量%である。水分率が3質量%以上であると、繊維表面上の残留水で適度に硬化性エポキシ化合物が硬化され、繊維表面に硬化膜が形成されるため、工程通過時の擦過による毛羽の発生が抑制される。また、水分率15質量%以下であると、繊維内部に油剤が取り込まれることなく、繊維表面上に一定量以上の遊離エポキシ化合物が保持されることで熱硬化性樹脂との濡れ性が向上し、繊維束への熱硬化性樹脂の含浸性が高まると共に、繊維束表面と熱硬化性樹脂との界面接着性が良好となる。さらに水分率15質量%以下であると、製糸工程でのロールへの巻付き頻度が低減し、経済性が高くなる。一方、水分率15質量%を超えると、繊維内のボイドと呼ばれる水分が保持されている隙間が大きくなることで、繊維内部に油剤が吸着し、繊維表面上の遊離エポキシ化合物の含有量が少なくなるため、アラミド繊維の熱硬化性樹脂に対する接着性が阻害される恐れがある。
【0029】
上記の中和、洗浄後、乾燥した状態のアラミド繊維表面の付着水は、中和処理で用いたアルカリ由来のアルカリイオンを含むため、アラミド繊維の水分率が高くなるほど、アラミド繊維周辺のアルカリイオン量が増加する。そのため、アラミド繊維の水分率が高くなるほど、アルカリイオンの触媒作用により硬化性エポキシ化合物が硬化し、硬化膜が形成され易くなることで、遊離エポキシ化合物が減少する傾向になる。一方、アラミド繊維の水分率が低くなるほど、アラミド繊維周辺のアルカリイオン量が減少するため、アラミド繊維表面にエポキシ化合物の硬化膜が形成され難くなる。
【0030】
本発明のアラミド繊維は、水分率3~15質量%に乾燥したアラミド繊維に、油剤を付与した後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げたアラミド繊維の水分率を3~15質量%に保持したアラミド繊維であって、硬化性エポキシ化合物が100%硬化していない(すなわち、少なくとも遊離エポキシ化合物がアラミド繊維表面に付着している)状態にあるものが好ましい。また油剤を付与した後の乾燥工程は、遊離エポキシ化合物が減少するため、不要であることが好ましい。
【0031】
アラミド繊維への硬化性エポキシ化合物を含む油剤の付着量は、アラミド繊維質量(乾燥基準)に対してエポキシ成分(未硬化及び硬化エポキシの合計量)が0.5~3.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.7~2.5質量%、特に好ましくは1.0~2.0質量%である。油剤の付着量がこの範囲にあると、水分率の影響により繊維内部に多少油剤が取り込まれても、繊維表面に遊離エポキシ化合物が存在し、熱硬化性樹脂との反応点に大きく寄与する。また紡糸工程におけるスカム発生の抑制にも繋がるため、工程通過性にも大きく関与する。
【0032】
油剤を構成する(a)硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物及び芳香環を有するエポキシ化合物から選ばれる1種、又は2種以上が用いられ、例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を2個又は3個有する多官能性エポキシ化合物が好ましい。
【0033】
これらのエポキシ化合物の中でも、工程通過性を向上させるために、25℃における粘度が500mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは300mPa・s以下、特に好ましくは200mPa・s以下である。具体的には、脂肪族エポキシ化合物が好ましく、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル等の、グリセロール系エポキシ化合物が特に好ましい。ここで、粘度とは、動的粘弾性測定装置(レオメーターRDA2:レオメトリックス社製、又は、レオメーターARES:TAインスツルメント社製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、周波数0.5Hz、Gap1mmで測定を行った複素粘性率η*のことを指す。
【0034】
油剤を構成する(b)成分;硬化性エポキシ化合物を溶解する相溶剤は、特に限定されないが、繊維用油剤の中でも、上記エポキシ化合物との溶解度パラメータ(Fedors法によるSP値)差が2.0cal/cm3以下、かつ、紡糸又はプリプレグ製造工程におけるロールとの擦過が少ないものが好ましい。特に、ポリアルキレングリコールと脂肪酸のエステル化物、又は、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が好ましい。
【0035】
アラミド繊維の総繊度は特に限定されないが、通常、50~10,000dtex、好ましくは100~5,000dtex、より好ましくは200~2,500dtexのものが用いられる。布帛に対する熱硬化性樹脂の含浸が容易で、それにより布帛の布目曲りが防止される点より、比較的薄い布帛が望ましく、そのためには総繊度の小さいアラミド繊維束を用いることが望ましい。アラミド繊維の総繊度は、さらに好ましくは200~2,000dtexである。また、本発明による効果を阻害しない範囲で、アラミド繊維にタスラン加工やインターレース加工等を施したエアー交絡糸;加撚-熱固定-解撚糸(捲縮糸);仮撚加工糸;押込加工糸等の長繊維束も用いることができる。
【0036】
<アラミド繊維からなる補強用布帛(A)>
補強用布帛の形態としては、織布、編布及びNCF(ノンクリンプファブリック)からなる群から少なくとも1つの形態から選択することができる。ノンクリンプファブリックは、複数本の連続繊維が互いを交錯させない状態で経編組織を形成する補助繊維糸により一体化されたシート状の基材であり、公知の態様を採用できる。例えば、複数本の連続繊維が一方向の層状に並列した層を1層又は2層以上有する形態が挙げられる。補助繊維糸としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維糸、ポリアミド繊維糸、ポリエチレン繊維糸、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維糸等が挙げられる。
【0037】
補強用布帛は、樹脂が含浸し得る程度の隙間(孔)を有するものであれば特に限定されない。補強用布帛は、例えば、織布と織布、織布と編み布、織布とNCF、編布とNCFなど積層した布帛としてもよい。
【0038】
織物としては、アラミド繊維束を一方向に配列させたトウシートや、アラミド繊維糸条を一方向又は二方向に配列させた一方向性織物、や二方向性織物、三方向に配列させた三軸織物等が挙げられる。編物としては、丸編機等のよこ編機、トリコット編機、ラッセル編機、ミラニーズ編機等のたて編機で製編したものが挙げられる。
【0039】
補強用布帛の目付(単位面積当りの重量)は、20~1,000g/m2が好ましく、より好ましくは50~600g/m2の範囲内である。シート状基材の目付が小さすぎると任意の製品厚みを得るための積層数が多くなり作業性が悪化し、目付が大きすぎると樹脂の種類によっては樹脂との接着性に劣ることがあり、アラミド繊維がフィブリル化して成形後の外観を損ない、成形品の重量化に繋がったりする。
【0040】
補強用布帛は、下記式(I)で示す織縮み率が2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1.0%以下である。織縮み率が2.0%以下であれば、布帛の構造伸びを小さく抑えることができ、結果として、繊維強化樹脂成形体の剛性を均一に保ち、曲げ荷重にかかる応力集中を軽減させることができるため、耐疲労特性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
織縮み率=[(糸長-織物長)/織物長]×100 ・・・ (I)
【0041】
<半硬化状態の熱硬化性樹脂(B)>
本発明で用いられる、半硬化状態の熱硬化性樹脂は特に限定されないが、一例として、エポキシ樹脂、シアネート系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂が挙げられ、耐熱性、力学特性及びアラミド繊維との接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂は、繊維表面の遊離エポキシ化合物と反応し得るために半硬化状態であることが必要である。半硬化状態とは、硬化反応の中間段階の状態であり、ワニス状態であるAステージと硬化した状態のCステージの間の段階である。半硬化状態の熱硬化性樹脂は、粘着性及び体積の経時変化が小さいため、成形時の取り扱いに適切なタック性を有する効果が得られる。
【0042】
エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン誘導体などの中から1種以上を選択して用いることができる。
【0043】
<繊維強化樹脂成形用基材>
本発明の繊維強化樹脂成形用基材は、上記のアラミド繊維からなる補強用布帛に半硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸してなるものであるが、含浸させる手段は特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いて製造することができる。
例えば、熱硬化性樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法、及び、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等を挙げることができる。ウェット法は、強化繊維を熱硬化性樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法である。ホットメルト法は、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂組成物を直接、強化繊維からなる繊維基材に含浸させる方法であり、熱硬化性樹脂組成物を加熱加圧することにより前記強化繊維からなる繊維基材に樹脂を含浸させる方法である。ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい。
【0044】
本発明の繊維強化樹脂成形用基材における樹脂の占める割合(RC)は、繊維強化樹脂成形用基材全体を100とした場合で10~90質量%、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%である。全体に占める割合が10質量%未満であると、成形時に十分に繊維内で含浸していない恐れがあり、90質量%を超えると繊維による補強効果が十分に得られない恐れがある。
【0045】
<繊維樹脂成形体>
本発明の繊維強化樹脂成形用基材を用いて成形した繊維強化樹脂成形体において、アラミド繊維の占める割合(Vf)は、繊維強化樹脂成形体全体を100とした場合で10~90体積%であり、好ましくは20~80体積%、より好ましくは30~70体積%である。全体に占める割合が10体積%未満であると、製品中にボイド(空隙)が生じ製品特性が悪化する恐れがあり、90%を超えると繊維による補強効果が十分に得られない恐れがある。
【0046】
本発明によれば、ボイド率が5.0%以下の繊維強化樹脂成形体が得られる。前記ボイド率は、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。ボイド率がこの範囲にあると、曲げ荷重にかかる応力集中を避けることができ、耐疲労特性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
また、本発明の繊維強化樹脂成形体における、JIS K7017に準じた3点曲げ試験条件における曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から算出される強力保持率は、96.0%以上である。従って、ボイド率が5.0%以下の繊維強化樹脂成形体でありながら、成形体の強力保持率が高い。
【0047】
本発明の繊維強化樹脂成形体を成形する方法に特に規定はなく、任意の成形方法(フィラメントワインディング、オートクレーブ、シートワインディング、プレス成形等)を取ることができる。しかし、ボイド発生を抑制するためには、真空状態で加温することが可能なオートクレーブでの成形方法がより好ましい。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「重量部」は「部」と略記する。なお、実施例中に記載した評価方法は以下の通りである。
【0049】
(1)繊維の水分率(質量%)
試料約5gの質量を測定し、105℃×4時間処理を行い、24℃、55%RHで5分間放置した後、再度質量を測定し、下記式にてドライベース水分率を求めた。
水分率=([乾燥前質量-乾燥後質量]/[乾燥後質量])×100
【0050】
(2)繊維表面に用いる硬化性エポキシ樹脂の粘度(mPa・s)
JIS K7244「プラスチック-動的機械特性の試験方法-第10部:平行平板振動レオメーターによる複素せん断粘度」に記載される方法に従った。
【0051】
(3)繊維表面の遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)
アラミド繊維約10g(実重量Ag)をビーカーに入れ、アセトンで試料表面に付着した遊離エポキシ化合物を抽出した後、アセトンを除去して、抽出物重量を測定する。前記抽出物に、塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液(15/1000(容量比))20mLとエタノール30mLを添加した後、0.5mol/LのNaOH溶液で中和滴定(滴定量:CmL)を行う。抽出物を含まない前記の塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液についてブランク滴定(滴定量:DmLを行い、アラミド繊維1kg当りに存在する遊離エポキシ基のミリモル数を算出する。
[遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)]=0.5×1000×(D-C)/A
【0052】
(4)補強用布帛の目付(g/m2)
JIS L1096:2020「織物および編物の生地試験方法」に記載される方法に従った。
【0053】
(5)補強用布帛を構成するポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の織縮み率
JIS L1096:2020「織物および編物の生地試験方法」に記載される方法に従い、下記式にて織縮み率を求めた。
織縮み率=[(糸長-織物長)/織物長]×100
【0054】
(6)繊維強化樹脂成形体の繊維体積含有率
成形品のサイズ、並びに積層数から強化繊維樹脂成形体中の有機長繊維の重量(W)を算出し、下記式にて繊維体積含有率(Vf)を求める。
Wf = W / WF × 100
Vf = Wf × ρc / ρf
Wf : 繊維質量含有率(%)
W : 繊維強化樹脂成形体中の有機長繊維重量(g)
WF : 繊維強化樹脂成形体の重量(g)
Vf : 繊維体積含有率(%)
ρc : 繊維強化樹脂成形体の密度(g/cm3)
ρf : 有機長繊維の密度(g/cm3)
【0055】
(7)繊維強化樹脂成形体のボイド率
成形品のサイズ、ならびに重量、比重から強化繊維樹脂成形体中のボイド(空隙)体積(Vv)を算出し、下記式にてボイド率(R)を求める。
Vv = V - WF / ρc
R = Vv / V
Vv : 繊維強化樹脂成形体中のボイド(空隙)体積(cm3)
V : 成形品サイズから求めた繊維強化樹脂成形体の体積(cm3)
WF : 繊維強化樹脂成形体の重量(g)
ρc : 繊維強化樹脂成形体の比重(g/cm3)
R : ボイド率(%)
【0056】
(8)繊維強化樹脂成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率
JIS K7074に記載される方法(3点曲げ試験)に従った。
【0057】
(9)繊維強化樹脂成形体の曲げ疲労特性(強力保持率)
JIS K7074に記載される方法(3点曲げ試験)に従い、支点間距離を40mmで固定、下記式の試験速度における曲げ歪み1.0%で100回繰り返し測定し、曲げ歪み1.0%時の曲げ荷重から強力保持率を算出する。
V = Sr × L2 / (6 × H)
V : 試験速度(mm/min)
Sr : ひずみ速度(min-1), Sr = 0.01
L : 支点間距離(mm), L = 40
H : 試験片の厚み(mm)
【0058】
(10)繊維強化樹脂成形用基材の工程通過性
工程通過性は繊維強化樹脂成形用基材のホットメルト法(ドライ法)製造工程における毛羽やスカム発生を基に以下通り評価した。
〇:毛羽やスカム発生なし
×:毛羽やスカム発生あり
【0059】
実施例で用いたアラミド繊維布帛(A-1)~(A-7)の詳細を表1に示す。
【0060】
【0061】
実施例で用いた熱硬化性樹脂(B)は、三菱ケミカル社製jER828(ビスフェノールAグリシジルエーテル;エポキシ等量189g/eq)50部及び三菱ケミカル社製jER1001(ビスフェノールAグリシジルエーテル;エポキシ当量475g/eq)50部とからなる主剤100部に対し、ジシアンジアミド5部、及び3-(3、4-ジクロロフェニル)-1、1-ジメチル尿素5部を硬化剤として加えた後に均一に混合し、一液硬化エポキシ樹脂組成物を用いた。
【0062】
[実施例1~3、比較例1~5]
表1のアラミド繊維布帛に、事前に調製したエポキシ樹脂を、ホットメルト法(ドライ法)にて含浸させ、繊維強化樹脂成形用基材を得た。得られた繊維強化樹脂複合体成形用基材を指定枚数、指定構成に積層した。
【0063】
実施例1~3、比較例1~3、比較例5に関しては、オートクレーブにて加圧・加熱(135℃×0.5MPa×2時間)、比較例4に関しては、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて加圧・加熱(120℃×10MPa×2時間)を行い、繊維強化樹脂成形体を得た。各水準について、前記した測定方法で各種評価を行った結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
表2に記載した通り、アラミド繊維表面に、未硬化の硬化性エポキシ化合物(遊離エポキシ含有量)を有しない、もしくは繊維1kg当たり20.0mmol未満の未硬化の硬化性エポキシ化合物(遊離エポキシ含有量)を有する繊維強化樹脂成形用基材を成形してなる繊維強化樹脂成形体は、ボイド率が5.0%以下であったが、曲げ歪を繰り返した後の強力保持率が低く、耐疲労性向上効果を発揮できない(比較例1、2)ことが分かる。
【0066】
一方、アラミド繊維表面に、繊維1kg当たり20.0mmol以上の未硬化の硬化性エポキシ化合物(遊離エポキシ含有量)を有する繊維強化樹脂成形用基材であっても、補強用布帛の織縮み率が2.0%を超える、あるいは、ボイド率が5.0%を超える繊維強化樹脂成形体は、耐疲労性向上効果を充分発揮できない(比較例3、4)ことが分かる。
【0067】
また該硬化性エポキシ化合物の25℃における粘度が500mPa・sを超える繊維強化樹脂成形用基材は毛羽・スカムが発生するため工程通過性が悪く、その繊維強化樹脂成形体は強力発現率が悪いため、耐疲労特性を充分発揮できない(比較例5)ことが分かる。
【0068】
これに対して、本発明の繊維強化樹脂成形用基材は、低粘度の硬化性エポキシ化合物で処理されたアラミド繊維を用い、かつ、アラミド繊維表面に付着した硬化性エポキシ化合物の未硬化物(遊離エポキシ)の含有量を制御し、さらに補強用布帛の織縮率を低減させることにより、成形体のボイド率を非常に低く抑えることが可能であることが分かる。 また、該繊維強化樹脂成形用基材を成形してなる本発明の繊維強化樹脂成形体は、耐疲労特性、工程通過性にも優れることが分かる。よって本発明は有用であることが示された。
本発明の繊維強化樹脂成形用基材ならびに繊維強化樹脂成形体は、従来のアラミド繊維補強複合材料よりも優れた耐疲労特性を有することから、航空機、宇宙用各種部品、圧力容器、産業機器部品、プリント基板、スポーツ用品など幅広く利用できる。