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特開2024-82451電極、膜電極接合体、燃料電池、及び、電極の製造方法
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  • 特開-電極、膜電極接合体、燃料電池、及び、電極の製造方法 図1
  • 特開-電極、膜電極接合体、燃料電池、及び、電極の製造方法 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082451
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電極、膜電極接合体、燃料電池、及び、電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20240613BHJP
   H01M 8/1009 20160101ALI20240613BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240613BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240613BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M4/90 M
H01M8/1009
H01M4/92
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196309
(22)【出願日】2022-12-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100214639
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】金田 有義
(72)【発明者】
【氏名】藤井 はるか
(72)【発明者】
【氏名】松田 広和
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB07
5H018EE03
5H018EE05
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】ギ酸やギ酸塩を燃料として利用する燃料電池について、発電を効率的に行うための電極を提供する。
【解決手段】本発明の電極10は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池100に用いられる。電極10は、金属触媒を含む触媒層1を備える。触媒層1における金属原子の含有率が20at%以上である。本発明の膜電極接合体50は、電極10と、電解質膜20とを備える。本発明の燃料電池100は、膜電極接合体50を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極であって、
金属触媒を含む触媒層を備え、
前記触媒層における金属原子の含有率が20at%以上である、電極。
【請求項2】
前記含有率が90at%以下である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極であって、
金属触媒を含む触媒層を備え、
前記触媒層は、前記金属触媒を含む蒸着層を有する、電極。
【請求項4】
前記金属触媒が貴金属を含む、請求項1又は3に記載の電極。
【請求項5】
前記金属触媒がパラジウムを含む、請求項1又は3に記載の電極。
【請求項6】
前記触媒層は、カーボンをさらに含む、請求項1又は3に記載の電極。
【請求項7】
前記触媒層は、前記金属触媒を含む第1相と、前記カーボンを含む第2相とを有し、
前記第1相及び前記第2相が相分離構造を形成している、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記触媒層の厚さが1nm~2000nmである、請求項1又は3に記載の電極。
【請求項9】
前記触媒層の前記厚さが300nm以下である、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
拡散層をさらに備えた、請求項1又は3に記載の電極。
【請求項11】
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
請求項1又は3に記載の電極と、
電解質膜と、
を備えた、膜電極接合体。
【請求項12】
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池であって、
請求項11に記載の膜電極接合体を備えた、燃料電池。
【請求項13】
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極の製造方法であって、
蒸着法によって、金属触媒を含む触媒層を形成することを含む、製造方法。
【請求項14】
前記蒸着法が物理蒸着法である、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、膜電極接合体、燃料電池、及び、電極の製造方法に関する。本発明において、電極や膜電極接合体は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質型燃料電池(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)は、燃料電池としては低い温度での動作が可能であるとともに、出力密度が高いなどの利点を有し、将来の普及に期待が寄せられている。PEFCは、アノード電極とカソード電極との間に隔膜を備えており、当該隔膜としては、イオン伝導性を有する高分子電解質膜が用いられる。
【0003】
燃料電池の燃料として、水素やメタノールよりも取り扱いが容易で、かつエネルギー密度が比較的高いギ酸やギ酸塩を利用することが検討されている。例えば、特許文献1は、燃料としてギ酸を使用する燃料電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-195131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ギ酸やギ酸塩を燃料として利用する燃料電池について、発電を効率的に行うための電極が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ギ酸やギ酸塩を燃料として利用する燃料電池の分野では、電極の触媒層を塗布法によって作製する傾向がある(例えば、特許文献1)。塗布法では、例えば、金属触媒を含む塗布液を拡散層などに塗布し、得られた塗布膜を乾燥させることによって触媒層を作製する。しかし、本発明者らの検討によると、塗布法では、比較的多量の有機系バインダーや、金属触媒を担持させるための担持粒子(例えば、カーボンブラックなどの炭素微粒子)を塗布液に添加する必要があり、触媒層における金属原子の含有率を20at%以上に調整することが難しい。
【0007】
本発明は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極であって、
金属触媒を含む触媒層を備え、
前記触媒層における金属原子の含有率が20at%以上である、電極を提供する。
【0008】
さらに本発明は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極であって、
金属触媒を含む触媒層を備え、
前記触媒層は、前記金属触媒を含む蒸着層を有する、電極を提供する。
【0009】
さらに本発明は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
上記の電極と、
電解質膜と、
を備えた、膜電極接合体を提供する。
【0010】
さらに本発明は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池であって、
上記の膜電極接合体を備えた、燃料電池を提供する。
【0011】
さらに本発明は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極の製造方法であって、
蒸着法によって、金属触媒を含む触媒層を形成することを含む、製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ギ酸やギ酸塩を燃料として利用する燃料電池について、発電を効率的に行うための電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の電極の一例を模式的に示す断面図である。
図2A】原子数比がPd/C=100/0である触媒層の表面の走査型透過電子顕微鏡(STEM)画像である。
図2B図2Aの触媒層の表面のエネルギー分散型X線分析(EDX)画像である。
図3A】原子数比がPd/C=72/28である触媒層の表面のSTEM画像である。
図3B図3Aの触媒層の表面のEDX画像である。
図4A】原子数比がPd/C=39/61である触媒層の表面のSTEM画像である。
図4B図4Aの触媒層の表面のEDX画像である。
図5】本実施形態の膜電極接合体の一例を模式的に示す断面図である。
図6】本実施形態の燃料電池の一例を模式的に示す断面図である。
図7】本実施形態の燃料電池の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1態様にかかる電極は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極であって、
金属触媒を含む触媒層を備え、
前記触媒層における金属原子の含有率が20at%以上である。
【0015】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかる電極では、前記含有率が90at%以下である。
【0016】
本発明の第3態様にかかる電極は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極であって、
金属触媒を含む触媒層を備え、
前記触媒層は、前記金属触媒を含む蒸着層を有する。
【0017】
本発明の第4態様において、例えば、第1~第3態様のいずれか1つにかかる電極では、前記金属触媒が貴金属を含む。
【0018】
本発明の第5態様において、例えば、第1~第4態様のいずれか1つにかかる電極では、前記金属触媒がパラジウムを含む。
【0019】
本発明の第6態様において、例えば、第1~第5態様のいずれか1つにかかる電極では、前記触媒層は、カーボンをさらに含む。
【0020】
本発明の第7態様において、例えば、第6態様にかかる電極では、前記触媒層は、前記金属触媒を含む第1相と、前記カーボンを含む第2相とを有し、前記第1相及び前記第2相が相分離構造を形成している。
【0021】
本発明の第8態様において、例えば、第1~第7態様のいずれか1つにかかる電極では、前記触媒層の厚さが1nm~2000nmである。
【0022】
本発明の第9態様において、例えば、第8態様にかかる電極では、前記触媒層の前記厚さが300nm以下である。
【0023】
本発明の第10態様において、例えば、第1~第9態様のいずれか1つにかかる電極は、拡散層をさらに備える。
【0024】
本発明の第11態様にかかる膜電極接合体は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
第1~第10態様のいずれか1つにかかる電極と、
電解質膜と、
を備える。
【0025】
本発明の第12態様にかかる燃料電池は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池であって、
第11態様にかかる膜電極接合体を備える。
【0026】
本発明の第13態様にかかる電極の製造方法は、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極の製造方法であって、
蒸着法によって、金属触媒を含む触媒層を形成することを含む。
【0027】
本発明の第14態様において、例えば、第13態様にかかる製造方法では、前記蒸着法が物理蒸着法である。
【0028】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0029】
<電極の実施形態>
図1は、本実施形態の電極10の一例を模式的に示す断面図である。電極10は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用い
られる。電極10は、触媒層1を備え、例えば拡散層5をさらに備える。電極10において、触媒層1は、例えば、拡散層5と直接接している。
【0030】
触媒層1は、金属触媒を含み、金属触媒に由来する金属原子を含んでいる。触媒層1における金属原子(特に、金属触媒に由来する金属原子)の含有率は、20at%以上である。金属原子の含有率は、好ましくは30at%以上であり、40at%以上、50at%以上、60at%以上、さらには70at%以上である。金属原子の含有率は、場合によっては、90at%以上であってもよく、95at%以上であってもよい。触媒層1は、実質的に金属原子のみから構成されていてもよい。金属原子(特に単一種類の金属原子)のみから構成された触媒層1は、後述する蒸着法によって作製しやすい。金属原子の含有率が高い電極10によれば、燃料電池の発電を効率的に行うことができる傾向がある。詳細には、この電極10によれば、燃料電池の出力値当たりの金属原子の重量を大きく減少できる傾向がある。金属原子の含有率の上限は、例えば100at%以下であり、99at%以下、95at%以下、90at%以下、さらには80at%以下であってもよい。
【0031】
触媒層1における金属原子の含有率(at%)は、例えば、触媒層1に含まれる各成分の体積比率又は重量比率から算出することができる。金属原子の含有率は、次の方法によって特定してもよい。まず、触媒層1の表面(詳細には、拡散層5とは反対側の触媒層1の表面)に対して、X線光電子分光(XPS)分析と、イオンビームによるスパッタとを繰り返して、触媒層1の深さ方向の元素分布を測定する。XPS分析は、市販のX線光電子分光装置(例えば、アルバック・ファイ社製、Quantera SXM)を用いて、例えば、次の条件で行うことができる。
・測定条件
X線源:モノクロAl Kα
X Ray setting:100μmφ[15kV、25W]
光電子取り出し角:触媒層1の表面に対して45°
中和条件:中和銃とArイオン銃(中和モード)の併用
結合エネルギーの補正:C1sスペクトルのC-C結合由来のピークを285.0eVに補正
【0032】
次に、XPS分析の結果に基づいて、触媒層1の表面から、触媒層1の厚さの50%の深さの位置における金属原子の含有率(at%)を特定する。特定した値を触媒層1における金属原子の含有率(at%)とみなすことができる。
【0033】
[触媒層]
触媒層1は、例えば、金属触媒を含む蒸着層を有し、典型的には当該蒸着層そのものである。蒸着層によれば、触媒層1における金属原子の含有率を高い値に調整しやすい。
【0034】
本発明は、その別の側面から、
ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる電極10であって、
金属触媒を含む触媒層1を備え、
触媒層1は、金属触媒を含む蒸着層を有する、電極10を提供する。
【0035】
触媒層1において、金属触媒は、燃料電池の電気化学反応の触媒として機能する。金属触媒は、金属の単体を含んでいてもよく、合金を含んでいてもよい。金属触媒は、金属の酸化物や複酸化物を含んでいてもよい。金属触媒に含まれる金属としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)などが挙げられる。金属触媒は、貴金属を含むことが好ましく、
パラジウムを含むことが特に好ましい。金属触媒は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0036】
触媒層1における金属触媒の目付量は、特に限定されず、例えば0.001mg/cm2~15mg/cm2である。金属触媒の目付量は、1mg/cm2以下であってもよく、0.5mg/cm2以下であってもよい。
【0037】
触媒層1は、金属触媒以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、カーボン(C)、シリカなどが挙げられる。これらの成分は、バインダーとして機能しうる。触媒層1は、他の成分として、カーボンをさらに含むことが好ましい。なお、触媒層1は、アイオノマーなどの樹脂を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
【0038】
触媒層1における他の成分(特にカーボン)の含有率は、特に限定されず、例えば5at%以上であり、10at%以上、20at%以上、30at%以上、さらには40at%以上であってもよい。カーボンの含有率が高い触媒層1は、燃料電池の発電時などに電極10から脱落しにくく、触媒性能の低下を抑制することに適している。他の成分の含有率の上限は、例えば80at%以下であり、50at%以下であってもよい。
【0039】
触媒層1は、例えば、金属触媒を含む第1相を有する。図2A及び2Bに示すように、触媒層1は、第1相1Aのみから構成されていてもよい。なお、図2A及び2Bは、パラジウムのみから構成された蒸着層(触媒層1)の表面を示している。図2Bは、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって検出されたパラジウムを示している。
【0040】
図3A~4Bに示すように、触媒層1は、上記の第1相1Aとともに、カーボンを含む第2相1Bをさらに有していてもよく、第1相1A及び第2相1Bが相分離構造を形成していてもよい。相分離構造は、第1相1Aが三次元状に連続して形成されている共連続構造(図3A及び3B)であってもよく、第1相1Aが粒子状である構造(図4A及び4B)であってもよい。特に、共連続構造が形成された触媒層1では、触媒層1の表面に十分な量の金属触媒が存在するとともに、厚さ方向の導電性が高い傾向がある。この触媒層1を備えた電極10によれば、燃料電池の発電をより効率的に行うことができる。
【0041】
なお、図3A及び3Bは、原子数比がPd/C=72/28である蒸着層(触媒層1)の表面を示している。図3Bは、EDXによって検出されたパラジウムを示している。図3A及び3Bの触媒層1では、その表面において、第1相1Aが島状に存在している。図4A及び4Bは、原子数比がPd/C=39/61である蒸着層(触媒層1)の表面を示している。図4Bは、EDXによって検出されたパラジウムを示している。
【0042】
触媒層1の厚さは、特に限定されず、例えば1nm~2000nmである。触媒層1の厚さは、好ましくは1000nm以下であり、800nm以下、500nm以下、さらには300nm以下であってもよい。触媒層1の厚さは、場合によっては、100nm以下であってもよく、50nm以下、さらには25nm以下であってもよい。本実施形態では、触媒層1の厚さが小さい場合であっても、触媒層1における金属触媒の目付量を十分な値に調整しやすい。触媒層1の厚さが小さい場合、触媒層1での物質の拡散性が高く、燃料電池の発電性能が低下しにくい傾向がある。なお、従来の塗布法では、触媒層の厚さを小さく調整すると、金属触媒の目付量が大きく低下し、これにより、燃料電池の発電性能が大幅に低下する傾向がある。そのため、従来の塗布法で形成される触媒層の厚さは、金属触媒の目付量を確保する観点から、通常、10000nm以上に調整される。
【0043】
[拡散層]
拡散層5は、燃料などを拡散させる層であり、導電性を有することが好ましい。拡散層
5は、触媒層1を支持する支持体としても機能する。拡散層5としては、公知のものを使用することができ、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパーなどのカーボン支持体が挙げられる。カーボン支持体は多孔質であることが好ましい。
【0044】
カーボン支持体は、親水化処理が施されていてもよい。親水化処理としては、例えば、大気雰囲気又は不活性ガス雰囲気下での焼成;親水性物質によるコーティング;親水性基の導入による表面処理;プラズマ処理、エキシマレーザー照射、コロナ放電処理などによる表面処理が挙げられる。
【0045】
親水性物質によるコーティングでは、親水性物質として低分子又は高分子を用いる。低分子を用いて重合反応を行ない、高分子化することも可能である。高分子を用いたコーティングは、例えば次の方法によって行うことができる。まず、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ヒドロキシプロピルセルロースなどのポリマーを準備する。このポリマーを溶媒に溶解させ、得られた溶液をカーボン支持体に塗布又は含浸させる。次に、溶液を乾燥させることによってコーティングを行うことができる。上記の溶液に架橋剤を添加しておき、乾燥時に、ポリマー同士や、ポリマーとカーボン支持体との架橋反応を行ってもよい。
【0046】
低分子を用いるコーティングは、例えば次の方法によって行うことができる。まず、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコール;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤;乳酸ナトリウム、グリセリンなどの低分子を準備する。この低分子を溶媒に溶解させ、得られた溶液をカーボン支持体に塗布又は含浸させる。次に、溶液を乾燥させることによってコーティングを行うことができる。
【0047】
親水性物質によるコーティングは、カーボン支持体との反応性を有する官能基を含む親水性物質を使用し、当該親水性物質とカーボン支持体とを反応させることによって行ってもよい。
【0048】
拡散層5は、カーボン支持体の上に形成された微多孔層(MPL:micro porous layer)をさらに備えていてもよい。微多孔層は、例えば、テフロンなどのバインダーと、カーボン粒子とを含む。
【0049】
[電極の製造方法]
本実施形態の電極10の製造方法は、例えば、蒸着法によって、金属触媒を含む触媒層1を形成することを含む。詳細には、電極10は、次の方法によって作製することができる。まず、拡散層5を準備する。次に、拡散層5の上に触媒層1が形成されるように蒸着法を行う。詳細には、蒸着法によって、拡散層5の上に、金属触媒を含む蒸着層を形成する。これにより、触媒層1(蒸着層)を備えた電極10を得ることができる。
【0050】
本明細書において、蒸着は、例えば、気相堆積(vapor phase deposition)を意味する。蒸着法は、典型的には、スパッタリング法などの物理蒸着法である。スパッタリング法では、例えば、金属触媒を形成するための金属を含むターゲットを用いる。本実施形態の製造方法では、金属を含むターゲットとともに、カーボンを含むターゲットを用いて、共スパッタリング法を行ってもよい。共スパッタリング法によれば、上記の第1相1A及び第2相1Bを有する触媒層1を容易に作製できる傾向がある。蒸着法の条件は、目的とする触媒層1の組成や厚さに応じて適宜設定することができる。
【0051】
本実施形態の製造方法によれば、触媒層1における金属原子の含有率を高い値に調整しやすく、上記の電極10を容易に作製できる。さらに、本実施形態の製造方法では、従来
の塗布法と異なり、有機溶剤などの溶剤を使用する必要がない。そのため、本実施形態の製造方法を採用することによって、溶剤の作製時や塗布液の乾燥時に排出される二酸化炭素を削減することができる。有機溶剤を使用しないため、有機溶剤による発火のリスクがない利点もある。蒸着法によれば、従来の塗布法と比べて、触媒層1の厚さを容易に減少できるだけでなく、厚さのばらつきを抑制できる傾向もある。蒸着法は、大きい面積で触媒層1を作製することに適しており、生産性が高いと言える。
【0052】
なお、電極10の製造方法は、上述のものに限定されない。例えば、スプレー法などによって、拡散層5の上に金属粒子(例えばパラジウムブラック)を堆積させて、触媒層1を作製してもよい。ただし、活性に寄与する表面積を十分に確保する観点から、触媒層1は、蒸着法によって作製することが好ましい。蒸着法によって作製された触媒層1は、高い導電性を有する傾向があり、燃料電池の発電性能の向上に適している。
【0053】
<膜電極接合体の実施形態>
図5は、本実施形態の膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)50の一例を模式的に示す断面図である。膜電極接合体50は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に用いられる。膜電極接合体50は、上述の電極10及び電解質膜20を備えている。
【0054】
膜電極接合体50は、2つの電極10(10A及び10B)を備えていてもよい。2つの電極10A及び10Bは、触媒層1の組成や厚さなどが互いに異なっていてもよい。膜電極接合体50において、例えば、2つの電極10A及び10Bの間に電解質膜20が配置されており、これらが互いに接合されて一体化している。なお、膜電極接合体50は、2つの電極10A及び10Bを備えていなくてもよく、1つの電極10と従来の電極とを組み合わせたものであってもよい。この場合、電極10は、アノード電極として用いられてもよく、カソード電極として用いられてもよい。
【0055】
[電解質膜]
電解質膜20は、例えば、プロトンを伝導するための電解質として機能するとともに、燃料と酸素とを直接混合させないための隔膜としても機能する。電解質膜20は、例えば、カチオン交換膜である。
【0056】
カチオン交換膜は、イオン伝導性を有し、カチオン成分(例えば、水素イオン(H+)やナトリウムイオン(Na+)など)を輸送可能であり、かつ電子伝導性を示さない材料で構成された膜であれば特に制限はなく、公知のものを使用することができる。カチオン交換膜としては、高分子で構成された膜であることが好ましく、カチオン交換樹脂から構成されていてもよい。カチオン交換樹脂によれば、燃料電池の廃棄時にカーボンリサイクルを容易に行うことができる。
【0057】
カチオン交換樹脂は、カチオン交換性を有するものであれば特に制限はない。カチオン交換樹脂は、高分子基材にカチオン伝導性の官能基(カチオン性基)を有する重合体が導入された、カチオン性基を有する固体高分子電解質(アイオノマー)であってもよい。カチオン交換樹脂の具体例としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社)、フレミオン(登録商標、AGC社)、Aciplex(登録商標、旭化成社)などのパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂が挙げられる。カチオン交換膜の具体例としては、ナフィオン NR-211、NR-212などが挙げられる。
【0058】
電解質膜20の厚さは、5μm~130μmであることが好ましく、10μm~70μmであることがより好ましい。厚さが5μm以上の電解質膜20は、実用上十分な膜強度を有し、破損やピンホールなどの欠陥が生じにくい。この電解質膜20によれば、カソー
ド側への燃料の透過量及び透水量の増加を抑制できる傾向がある。厚さが130μm以下の電解質膜20では、膜抵抗が大きすぎない傾向がある。この電解質膜20によれば、実用上十分な透水量を確保できるため、カソードでの反応に必要な水が不足して発電効率が低下することを抑制しやすい。
【0059】
[膜電極接合体の製造方法]
膜電極接合体50は、例えば、拡散層5の上に触媒層1を形成することによって得られた電極10を電解質膜20と接合させる方法(CCS法:Catalyst Coated on Substrate)によって作製することができる。電極10と電解質膜20の接合は、例えば、ホットプレスなどの公知の方法によって行うことができる。
【0060】
膜電極接合体50の製造方法は、上述のCCS法に限定されない。膜電極接合体50は、電解質膜20の上に触媒層1を形成してから拡散層5と接合させる方法(CCM法:Catalyst Coated on Membrane)によって作製してもよい。触媒層1が形成された電解質膜20と拡散層5の接合は、例えば、ホットプレスなどの公知の方法によって行うことができる。
【0061】
<燃料電池の実施形態>
図6は、本実施形態の燃料電池100の一例を模式的に示す断面図である。燃料電池100は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する。燃料電池100は、上述の膜電極接合体50を備えている。
【0062】
一例として、燃料電池100において、電極10Aがアノード電極として機能し、電極10Bがカソード電極として機能する。燃料電池100は、電極10Aと接するアノード側の集電体60Aと、電極10Bと接するカソード側の集電体60Bとをさらに備える。膜電極接合体50は、集電体60A及び60Bの間に位置している。燃料電池100で発生した起電力は、集電体60A及び60Bのそれぞれが備える端子から外部に取り出される。
【0063】
[集電体]
集電体60A及び60Bとしては、燃料電池用に一般的に採用される従来公知のものを使用することができる。集電体60A及び60Bは、例えば、金属などの導電性材料により構成されたものであり、金メッキを施したステンレスプレートなどが例示される。
【0064】
[その他の構成]
燃料電池100は、燃料電池を構成する部材として公知のものをさらに備えていてもよい。この部材としては、例えば、ガスケット、酸化剤供給板、燃料供給板、酸化剤流路、燃料流路、外部回路、発電状況を検知するための各種センサーなどが挙げられる。センサーとしては、温度センサー、酸素センサー、フローメーター、湿度センサーなどが挙げられる。燃料電池100は、燃料供給装置、酸化剤供給装置、加湿装置などと接続されていてもよい。
【0065】
図7は、燃料電池100のより具体的な構成を示した分解斜視図である。図7に示すように、燃料電池100は、膜電極接合体50、集電体60A及び60B以外に、燃料供給板61A、酸化剤供給板61B、並びに、ガスケット62A及び62Bをさらに備えている。燃料供給板61Aは、集電体60A及び膜電極接合体50の間に位置し、電極10Aに燃料を供給するように構成されている。酸化剤供給板61Bは、集電体60B及び膜電極接合体50の間に位置し、電極10Bに酸化剤を供給するように構成されている。ガスケット62Aは、例えば、電極10Aの外縁を取り囲み、燃料が外部に漏れないように構成されている。ガスケット62Bは、例えば、電極10Bの外縁を取り囲み、酸化剤が外
部に漏れないように構成されている。
【0066】
[燃料電池の発電方法]
燃料電池100では、アノード電極(電極10A)に燃料を供給するとともに、カソード電極(電極10B)に酸化剤を供給し、アノード電極及びカソード電極において、電気化学反応を進行させることによって発電を行うことができる。
【0067】
アノード電極に供給される燃料は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。特に、ギ酸塩は、通常、常温(25℃)で固体であり、かつ、ギ酸に比べて人体への安全性が高いため、容易に輸送や貯蔵できる利点がある。後述するとおり、ギ酸塩は、燃料電池100の発電で生じた廃液に含まれる炭酸水素塩から合成することができるため、炭素循環の実現にも適している。ギ酸塩としては、ギ酸カルシウム、ギ酸セシウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウムなどが挙げられ、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムが好ましい。
【0068】
アノード電極に供給される燃料は、例えば、ギ酸塩を含む溶液である。溶液に含まれる溶剤は、水及び/又はアルコールである。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールが挙げられる。燃料は、ギ酸塩の水溶液であることが好ましい。
【0069】
上記の溶液において、ギ酸塩の濃度は、ギ酸塩の種類によって適宜調整できる。燃料電池100の出力の観点から、溶液におけるギ酸塩の濃度は、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上であることがより好ましく、1mol/L以上であることがさらに好ましい。ギ酸塩の溶解度の観点から、ギ酸塩の濃度は、10mol/L以下であることが好ましく、9mol/L以下であることがより好ましく、8mol/L以下であることがさらに好ましい。ギ酸塩の濃度は、0.1~10mol/Lであることが好ましい。
【0070】
ギ酸塩を含む溶液は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、硫酸、塩酸などの酸の水溶液(酸性水溶液)や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基の水溶液(アルカリ性水溶液)などが挙げられる。添加剤の添加量は、特に制限されず、燃料電池100の用途に応じて適宜設定される。
【0071】
カソード電極に供給される酸化剤は、液体であってもよいが、気体であることが好ましい。酸化剤としては、空気、酸素などが挙げられ、酸素であることが好ましい。酸化剤は、加湿されていることが好ましいが、加湿されていなくてもよい。酸化剤の湿度は、電解質膜20が十分に湿潤するとともに、カソード電極での酸化剤の拡散が妨げられない範囲で適宜調整することができる。
【0072】
酸化剤の湿度は、例えば、酸化剤流路中に設置された加湿チューブによって制御することができる。加湿チューブがウォーターバスに浸漬されている場合、ウォーターバスの温度を上昇させることによって、酸化剤の湿度を上昇させることができる。ウォーターバスの温度は、例えば、室温(25℃)から100℃の範囲で制御でき、好ましくは45℃~85℃である。
【0073】
燃料としてギ酸塩の水溶液を用いた場合、アノード電極での電気化学反応によれば、例えば、炭酸水素塩、水素イオン、及び電子(e-)が生成する。生成した水素イオンは、電解質膜20を介してカソード電極へ供給される。酸化剤として酸素を用いた場合、カソード電極では、アノード電極から外部回路を介して移動する電子(e-)、アノード電極から電解質膜20を介して移動する水素イオン、及び酸素が反応して、水が生成する。生
成した水は、アノード電極で再利用することができる。
【0074】
一例として、燃料としてギ酸ナトリウムの水溶液を用い、酸化剤として酸素を用いた場合、アノード電極におけるアノード反応、カソード電極におけるカソード反応、及び、全体の反応は、以下の反応式で表される。
・アノード反応
HCOONa + H2O → NaHCO3 + 2H+ + 2e-
・カソード反応
1/2O2 + 2H+ + 2e- → H2
・全体の反応
HCOONa + 1/2O2 → NaHCO3
【0075】
燃料電池100の運転条件は、特に限定されない。一例として、運転時の燃料電池100の温度は、例えば30℃以上であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上である。燃料電池100の温度は、例えば100℃以下であり、好ましくは90℃以下である。
【0076】
燃料としてギ酸塩の水溶液を用いた場合、燃料電池100が発電すると、炭酸水素塩を含む廃液が得られる。廃液に含まれる炭酸水素塩は、水素と反応させることによって、ギ酸塩を合成することができる。廃液に含まれる炭酸水素塩から合成されたギ酸塩を再度燃料として利用することによって、炭素循環を実現することができる。
【0077】
ギ酸塩は、例えば、Nature Chemistry, 2012, Vol. 4, p. 383-388に記載の方法を利用して、溶媒の存在下、触媒を用いて、炭酸水素塩と水素を反応させることによって合成することができる。ギ酸塩の合成では、炭素源として二酸化炭素をさらに供給することによって、水素との反応性を向上させてもよい。
【0078】
ギ酸塩の合成に用いられる水素としては、ガスボンベからの気体の水素、及び液体水素のいずれも利用できる。水素供給源としては、例えば、製鉄の製錬過程で発生する水素や、曹達製造過程で発生する水素等を用いることができる。また、水の電気分解から発生する水素を活用することもできる。
【0079】
ギ酸塩の合成に二酸化炭素を用いる場合、二酸化炭素は、純粋な二酸化炭素ガスであってもよく、二酸化炭素以外の他の成分と混合されていてもよい。他の成分との混合ガスは、二酸化炭素ガスと他のガスをそれぞれ導入することによって調製してもよく、導入の前に予め調製してもよい。二酸化炭素以外の成分としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス、水蒸気、排ガス等に含まれるその他の任意の成分が挙げられる。二酸化炭素としては、ガスボンベからの気体の二酸化炭素、液体二酸化炭素、超臨界二酸化炭素及びドライアイス等を用いることができる。
【0080】
水素ガスと二酸化炭素ガスは、反応系に、それぞれ単独で導入してもよく、混合ガスとして導入してもよい。ギ酸塩の合成に用いる二酸化炭素、水素、触媒、溶媒などを反応容器内へ導入する方法は、特に制限されないが、すべての原料などを一括で導入してもよく、一部又はすべての原料などを段階的に導入してもよく、一部又はすべての原料などを連続的に導入してもよい。また、これらの方法を組み合わせた導入方法でもよい。
【0081】
廃液に含まれる炭酸水素塩は、燃料として用いたギ酸塩に由来する。炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。
【0082】
[燃料電池の用途]
燃料電池100の用途としては、例えば、自動車、船舶、航空機などにおける駆動用モータの電源;工場、オフィス、家庭などにおける定置電源;携帯電話機などの通信端末や電子機器における電源などが挙げられる。
【実施例0083】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
まず、スパッタ装置のターゲット設置部に、Pdで構成されたターゲットと、カーボン(C)で構成されたターゲットとをセットした。次に、十分に研磨されたグラッシーカーボン(GC)電極(L型、GC-3L、ECフロンティア社)をスパッタ装置の試料導入部にセットした。次に、上記の2つのターゲットを用いた共スパッタリング法を行い、GC電極上に、Pd及びCのみから構成された触媒層を作製した。共スパッタリング法では、触媒層におけるPdの含有率が49at%となるように電源出力を制御した。触媒層の厚さは、触媒層におけるPdの目付量が0.015mg/cm2となるように調整した。これにより、実施例1の電極を作製した。なお、この電極では、Pdが金属触媒として機能することができる。
【0085】
(実施例2~4)
触媒層におけるPdの含有率を表1に示す値に変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって実施例2~4の電極を作製した。なお、実施例4では、カーボンで構成されたターゲットを利用しなかった。
【0086】
(比較例1)
まず、PdとCの混合粉末(Pd/C、Pdの含有率40wt%、石福金属工業社)5mg、超純水695μL、2-プロパノール(IPA、富士フイルム和光純薬社)1623μL、及び、5wt%の濃度でナフィオンを含む溶液(分散溶液DE521 CSタイプ、Chemours社)510μLを混合し、超音波洗浄機(WK-113A、本多電子社)を用いて30分間よく混ぜ合わせることによって触媒インクを作製した。次に、十分に研磨されたGC電極(L型、GC-3L、ECフロンティア社)の上に触媒インク1.5μLを滴下し、60分間乾燥させることによって、比較例1の電極を作製した。
【0087】
[表面観察]
実施例3及び4の電極について、触媒層の表面を走査型透過電子顕微鏡(FE-TEM、JEM-2800、JEOL社)で観察し、さらに、エネルギー分散型X線分析(EDX)を行った。EDXでは、NORAN System7(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、Pdを検出した。なお、図2A及び2Bは、実施例4の電極について、上記の分析を行った結果を示している。図3A及び3Bは、実施例3の電極について、上記の分析を行った結果を示している。図3A及び3Bからわかるとおり、実施例3の電極において、触媒層は、Pdで構成された第1相が三次元状に連続して形成されている共連続構造を有していた。
【0088】
[CV評価]
(重量活性)
実施例及び比較例で作製した電極を用いて、次の方法によって、CV(サイクリックボルタンメトリー)測定を実施した。まず、1mol/Lの濃度でギ酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社)を含む水溶液80mLをビーカーセルに加えた。次に、作用極、対極及び参照極をビーカーセルにセットした。作用極としては、作製した上記の電極を用いた。対極としては、白金電極(CE-200、ECフロンティア社)を用いた。参照極とし
ては、銀/塩化銀電極(RE-1A、ECフロンティア社)を用いた。次に、ビーカーセル内の水溶液について、30mL/minの流速で窒素ガスを30分間バブリングしてよく脱気した。
【0089】
次に、ポテンショ/ガルバノスタット(HZ-5000、北斗電工社)を用いて、CV測定を行い、ボルタモグラムを得た。ギ酸ナトリウムの酸化に起因する電流値(mA)を特定し、Pd1mg当たりの電流値(重量活性)を算出した。
【0090】
(活性表面積)
ギ酸ナトリウムの水溶液に代えて、0.5mol/Lの濃度の硫酸水溶液(富士フイルム和光純薬社)を用いたことを除き、上記の重量活性の測定方法と同じ方法によってCV測定を行い、ボルタモグラムを得た。水素吸着による電気量QH(C)、及び、触媒層におけるPdの目付量I(mg/cm2)に基づいて、下記式により、触媒層の活性表面積(ECSA:Electrochemically active surface area)を算出した。なお、活性表面積の算出方法の詳細は、H. Khuntia et al., Colloids and Surfaces A, 2021, Vol.615, 126237.に記載されている。
活性表面積(cm2/mg-Pd)=QH(C)/(0.405×I(mg/cm2))
【0091】
(触媒性能が低下するサイクル数)
さらに、上記の重量活性の測定を繰り返し、触媒性能が低下するサイクル数を特定した。触媒性能が低下するサイクル数は、詳細には、次の方法によって特定した。まず、上記の重量活性の測定を繰り返し、CV測定のサイクル回数ごとの重量活性(mA/mg-Pd)を記録した。重量活性は、通常、CV測定のサイクル回数が増加するにつれて値が増加し、さらにサイクル回数が増加すると、値の増加が落ち着き、やがて値が減少する。重量活性の値が減少する傾向が確認できたときのCV測定の回数を「触媒性能が低下するサイクル数」とみなした。
【0092】
【表1】
【0093】
表1からわかるとおり、触媒層における金属原子(Pd)の含有率が20at%以上である実施例の電極は、比較例と比べて、重量活性や活性表面積が大きい値であった。特に、触媒層における金属原子(Pd)の含有率が60~90at%である実施例2及び3では、重量活性や活性表面積が顕著に増加した。以上の結果から、実施例の電極によれば、燃料電池の発電を効率的に実施できることがわかる。
【0094】
さらに、実施例の電極では、比較例と比べて、触媒性能が低下するサイクル数が大きい
値であり、耐久性が高い傾向があった。特に、実施例1~3の電極では、触媒層に含まれるカーボンがバインダーとして機能することによって、非常に高い耐久性を示したと推定される。実施例4の電極では、CV測定を5回繰り返した後に、触媒層について、STEMによる観察やEDX分析を行った。その結果、実施例4の電極では、触媒層の剥がれが確認された。なお、比較例1の電極では、CV測定によって、触媒層に含まれるPdの粒子が凝集することなどにより、触媒性能が比較的早くに低下したと推定される。
【0095】
(実施例5)
まず、微多孔層(MPL)が形成されたカーボンペーパー(三菱ケミカル社、MFK-A)を焼成炉で焼成した。焼成は、不活性ガス雰囲気下、500℃で3時間行った。これにより、疎水性樹脂が除去され、親水化されたカーボンペーパーを備えた基材(拡散層)を得た。この基材をスパッタ装置の試料導入部にセットした。さらに、スパッタ装置のターゲット設置部に、Pdで構成されたターゲットと、カーボン(C)で構成されたターゲットとをセットした。次に、上記の2つのターゲットを用いた共スパッタリング法を行い、基材上に、Pd及びCのみから構成された触媒層を作製した。共スパッタリング法では、触媒層におけるPdの含有率が60at%となるように電源出力を制御した。触媒層の厚さは、触媒層におけるPdの目付量が0.17mg/cm2となるように調整した。これにより、アノード電極を得た。
【0096】
次に、PdとCの混合粉末(Pd/C、Pdの含有率40wt%、石福金属工業社)88mg、超純水700μL、2-プロパノール(IPA、富士フイルム和光純薬社)7000μL、及び、5wt%の濃度でナフィオンを含む溶液(分散溶液DE521 CSタイプ、Chemours社)1.76gを混合し、超音波洗浄機(WK-113A、本多電子社)を用いて30分間よく混ぜ合わせることによって触媒インクを作製した。次に、アノード電極について上述した方法で準備した基材(拡散層)の上に触媒インクをスプレー塗工機で吹き付けることによって、カソード電極を得た。
【0097】
次に、カチオン交換膜(ナフィオン NR-212、Sigma-Aldrich社)を切り出し、電解質膜とした。上記のアノード電極とカソード電極との間に電解質膜を配置し、これらを熱圧着することによって、膜電極接合体を得た。熱圧着は、熱プレス機を用いて、140℃で3分間行った。作製した膜電極接合体を燃料電池セルにセットすることによって、実施例5の燃料電池を得た。
【0098】
次に、作製した燃料電池について、次の方法によって発電性能を測定した。まず、燃料電池セルを80℃に加熱し、アノード電極に燃料を供給するとともにカソード電極に酸化剤を供給した。燃料としては、1mol/Lの濃度でギ酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社)を含む水溶液を用いて、1.0mL/minの流速で供給した。酸化剤としては、加湿された酸素ガスを用いて、100mL/minの流速で供給した。次に、ポテンショ/ガルバノスタット(HZ-5000、北斗電工社)を用いて、IV測定を行い、IV曲線を得た。さらに、IV曲線から最大出力値(W)を算出した。当該算出値に基づいて、アノード電極における触媒層の主面の面積当たりの最大出力値(最大出力密度(mW/cm2))、出力値当たりの、アノード電極の触媒層に含まれるPdの重量(出力値当たりのPd重量(g/W))を特定した。さらに、後述する比較例2での発電性能の結果に基づいて、実施例5における出力値当たりのPd重量(g/W)に対する、比較例2における出力値当たりのPd重量(g/W)の比(触媒利用効率(倍))を算出した。結果を表2に示す。
【0099】
(実施例6)
発電性能の測定において、燃料として、2mol/Lの濃度でギ酸ナトリウムを含む水溶液を用いたことを除き、実施例5と同じ方法によって、燃料電池の作製及び発電性能の
測定を行った。
【0100】
(実施例7)
カーボンペーパー(三菱ケミカル社、MFK)を焼成することにより得られた基材を用いてアノード電極及びカソード電極を作製したことを除き、実施例5と同じ方法によって、燃料電池の作製及び発電性能の測定を行った。
【0101】
(実施例8)
発電性能の測定において、燃料として、2mol/Lの濃度でギ酸ナトリウムを含む水溶液を用いたことを除き、実施例7と同じ方法によって、燃料電池の作製及び発電性能の測定を行った。
【0102】
(実施例9)
カーボンクロス(Carbon Cloth Plain(Etek Cloth A)、Fuel Cell Earth社)を焼成することにより得られた基材を用いてアノード電極及びカソード電極を作製したことを除き、実施例5と同じ方法によって、燃料電池の作製及び発電性能の測定を行った。
【0103】
(実施例10)
発電性能の測定において、燃料として、2mol/Lの濃度でギ酸ナトリウムを含む水溶液を用いたことを除き、実施例9と同じ方法によって、燃料電池の作製及び発電性能の測定を行った。
【0104】
(比較例2)
まず、PdとCの混合粉末(Pd/C、Pdの含有率40wt%、石福金属工業社)88mg、超純水700μL、2-プロパノール(IPA、富士フイルム和光純薬社)7000μL、及び、5wt%の濃度でナフィオンを含む溶液(分散溶液DE521 CSタイプ、Chemours社)0.88gを混合し、超音波洗浄機(WK-113A、本多電子社)を用いて30分間よく混ぜ合わせることによって触媒インクを作製した。
【0105】
次に、カーボンクロス(Carbon Cloth Plain(Etek Cloth A)、Fuel Cell Earth社)を焼成炉で焼成した。焼成は、不活性ガス雰囲気下、500℃で3時間行った。これにより、疎水性樹脂が除去され、親水化されたカーボンクロスからなる基材(拡散層)を得た。この基材の上に触媒インクをスプレー塗工機で吹き付けることによって、触媒層を作製した。触媒層におけるPdの含有率は、計算値で7at%未満であった。これにより、アノード電極を得た。
【0106】
次に、PdとCの混合粉末(Pd/C、Pdの含有率40wt%、石福金属工業社)88mg、超純水700μL、2-プロパノール(IPA、富士フイルム和光純薬社)7000μL、及び、5wt%の濃度でナフィオンを含む溶液(分散溶液DE521 CSタイプ、Chemours社)1.76gを混合し、超音波洗浄機(WK-113A、本多電子社)を用いて30分間よく混ぜ合わせることによって触媒インクを作製した。次に、アノード電極について上述した方法で準備した基材(拡散層)の上に触媒インクをスプレー塗工機で吹き付けることによって、カソード電極を得た。
【0107】
次に、カチオン交換膜(ナフィオン NR-212、Sigma-Aldrich社)を切り出し、電解質膜とした。上記のアノード電極とカソード電極との間に電解質膜を配置し、これらを熱圧着することによって、膜電極接合体を得た。熱圧着は、熱プレス機を用いて、140℃で3分間行った。作製した膜電極接合体を燃料電池セルにセットすることによって、比較例2の燃料電池を得た。さらに、作製した燃料電池について、実施例5と同じ方法によって発電性能の測定を行った。
【0108】
【表2】
【0109】
表2からわかるとおり、触媒層における金属原子(Pd)の含有率が20at%以上である電極をアノード電極として用いた実施例5~10の燃料電池では、出力値当たりの、アノード電極の触媒層に含まれるPdの重量(出力値当たりのPd重量)が比較例よりも小さい値であり、その比(触媒利用効率)が6倍以上であった。この結果から、実施例の
燃料電池では、発電を効率的に実施できたことがわかる。なお、比較例2の燃料電池では、アノード電極の触媒層におけるPdの目付量が大きいことに起因して、アノード電極における触媒層の主面の面積当たりの最大出力値(最大出力密度)が比較的大きい値であった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本実施形態の電極は、ギ酸及びギ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む燃料を使用する燃料電池に適している。
【符号の説明】
【0111】
1 触媒層
1A 第1相
1B 第2相
5 拡散層
10 電極
20 電解質膜
50 膜電極接合体
100 燃料電池
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7