(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082460
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16H61/14 601H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196321
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 良太
(72)【発明者】
【氏名】梶原 貞人
【テーマコード(参考)】
3J053
【Fターム(参考)】
3J053CA05
3J053CB12
3J053DA08
3J053EA02
(57)【要約】
【課題】初期油圧の供給条件を適切に設定する。
【解決手段】油圧制御装置100は、変速機のロックアップクラッチに油圧を供給する。油圧制御装置100は、ロックアップクラッチを非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を供給し、初期油圧の供給開始後において、エンジンENGのエンジン回転数とエンジンENGから変速機にトルクを入力するトルク入力軸MSの入力軸回転数との回転数が互いに近づいたと判定した場合に、エンジン回転数と入力軸回転数との回転比又は差回転が目標値となるように、ロックアップクラッチに油圧を供給する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機のロックアップクラッチに油圧を供給する油圧制御装置であって、
前記ロックアップクラッチを非締結状態から締結状態に移行させる際に、
初期油圧を供給し、
前記初期油圧の供給開始後において、エンジンのエンジン回転数と前記エンジンから前記変速機にトルクを入力するトルク入力軸の入力軸回転数との回転数が互いに近づいたと判定した場合に、前記エンジン回転数と前記入力軸回転数との回転比又は差回転が目標値となるように、前記ロックアップクラッチに油圧を供給する、油圧制御装置。
【請求項2】
前記初期油圧の供給開始後において、前記エンジンの前記エンジン回転数と前記エンジンから前記変速機にトルクを入力する前記トルク入力軸の前記入力軸回転数との回転比又は差回転の変化量における増減が反転した場合に、前記回転比が目標回転比となるように、又は、前記差回転が目標差回転となるように、前記ロックアップクラッチに油圧を供給する、請求項1に記載の油圧制御装置。
【請求項3】
前記回転比の変化量における増減が反転した場合とは、前記回転比が減少傾向から増加傾向に変化した場合であり、
前記差回転の変化量における増減が反転した場合とは、前記差回転が増加傾向から減少傾向に変化した場合である、請求項2に記載の油圧制御装置。
【請求項4】
前記初期油圧の供給開始後において、前記差回転の変化量における増減が反転した後、前記差回転が所定差回転以下となった場合に、前記差回転が前記目標差回転となるように前記ロックアップクラッチに油圧を供給する、請求項2に記載の油圧制御装置。
【請求項5】
前記所定差回転は、前記ロックアップクラッチがトルク伝達可能となる前記差回転である、請求項4に記載の油圧制御装置。
【請求項6】
前記初期油圧の供給開始後において、前記回転比の変化量における増減が反転した後、前記回転比が所定回転比以上となった場合に、前記回転比が前記目標回転比となるように前記ロックアップクラッチに油圧を供給する、請求項2に記載の油圧制御装置。
【請求項7】
前記所定回転比は、前記ロックアップクラッチがトルク伝達可能となる前記回転比である、請求項6に記載の油圧制御装置。
【請求項8】
前記ロックアップクラッチを非締結状態から締結状態に移行させる際に、前記初期油圧を一定の圧力で供給する、請求項1~7のいずれか一項に記載の油圧制御装置。
【請求項9】
前記初期油圧の供給開始後において、所定時間が経過した場合に、前記回転比が目標回転比となるように、又は、前記差回転が目標差回転となるように、前記ロックアップクラッチに油圧を供給する、請求項1~7のいずれか一項に記載の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機におけるロックアップクラッチの締結は、一般に、油圧制御装置により供給される油圧により制御される。ロックアップクラッチは、非締結状態ではエンジンから変速機へのトルクを伝達せず、所定の油圧が供給されて締結状態となることで当該トルクを伝達可能となる。また、ロックアップクラッチは、締結状態と非締結状態との間で連続的又は段階的に締結の程度(スリップ率)が変化する。
【0003】
このようなロックアップクラッチを備えた変速機の油圧制御装置では、ロックアップクラッチを非締結状態から締結状態に移行させる際に、特許文献1に係る装置のように複数の段階に分けて油圧を供給する場合がある。例えば、油圧制御装置は、まず初期油圧を供給して油路にオイルを充填させ(応答制御)、続いてスリップ率等に基づいてロックアップクラッチを締結させるための油圧を供給し(フィードバック制御)、その後はロックアップクラッチの締結状態を維持するための油圧を供給する制御を行う(締結維持油圧制御)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような装置では、初期油圧は、ロックアップクラッチの油路を充填するために必要な大きさ及び充填時間となるように予め設定される。しかし、このように初期油圧の供給条件を一定とすると、例えばロックアップクラッチ本体又はオイルの劣化、ばらつき、温度等の諸条件によっては、初期油圧による油路の充填状態が異なってしまう場合がある。例えば、初期油圧による油路の充填が不十分であると、フィードバック制御に移行して締結のための油圧が供給されてもロックアップクラッチの締結が速やかに完了しにくくなる場合がある。その結果、エンジン回転数が目標値よりも高くなり、ノイズ及びエンゲージショック等が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、本開示に係る油圧制御装置は、ロックアップクラッチに供給する初期油圧の供給条件を適切に設定することを目的とし、自動変速機の変速制御の最適化を図ることで、ひいては車両による交通の安全性を向上させながら、交通の円滑性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)は、変速機(TM)のロックアップクラッチ(11)に油圧を供給する油圧制御装置(100)であって、ロックアップクラッチ(11)を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を供給し、初期油圧の供給開始後において、エンジン(ENG)のエンジン回転数(Ne)とエンジン(ENG)から変速機(TM)にトルクを入力するトルク入力軸(MS)の入力軸回転数(Nm)との回転数が互いに近づいたと判定した場合に、エンジン回転数(Ne)と入力軸回転数(Nm)との回転比又は差回転が目標値となるように、ロックアップクラッチ(11)に油圧を供給する。
【0008】
この油圧制御装置(100)によれば、ロックアップクラッチ(11)を非締結状態から締結状態に移行させる際には、初期油圧を供給した後(すなわち、供給開始後)、エンジン回転数(Ne)と入力軸回転数(Nm)との回転数が互いに近づいたことを契機として、ロックアップクラッチ(11)を実際に締結させるための油圧の供給を開始する。これにより、例えばロックアップクラッチ(11)本体又はオイルの劣化、ばらつき、温度等の諸条件にかかわらず、初期油圧により油路が想定どおりに充填されたタイミングでロックアップクラッチ(11)を締結させるための油圧を供給することが可能となる。その結果、エンジン回転数(Ne)が目標値よりも高くなることが抑制され、ノイズ及びエンゲージショック等が発生しにくくなる。また、エンジン回転数(Ne)を目標値に近づけることができるため、ロックアップクラッチが過熱することを避けることができ、ロックアップクラッチ(11)の発熱保護の作動等が抑制される。さらに、初期油圧により油路が想定どおりに充填されたタイミングでロックアップクラッチ(11)を締結させるための油圧を供給することができるため、油路又はオイルポンプ等の条件のばらつきにより油圧が過大になることを避けることが可能となる。したがって、初期油圧として比較的高い油圧を用いることが可能となる。その結果、ロックアップクラッチ(11)のスリップ量を低減し、ロックアップクラッチ(11)の締結に要する時間(係合時間)の短縮及び燃費の改善が可能となる。このように、油圧制御装置(100)によれば、初期油圧の供給条件を適切に設定することができる。
【0009】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)は、初期油圧の供給開始後において、エンジン(ENG)のエンジン回転数(Ne)とエンジン(ENG)から変速機(TM)にトルクを入力するトルク入力軸(MS)の入力軸回転数(Nm)との回転比又は差回転の変化量における増減が反転した場合に、回転比が目標回転比となるように、又は、差回転が目標差回転となるように、ロックアップクラッチ(11)に油圧を供給してもよい。これによれば、ロックアップクラッチ(11)を非締結状態から締結状態に移行させる際には、初期油圧を供給した後、エンジン回転数(Ne)と入力軸回転数(Nm)との回転比又は差回転の変化量における増減が反転したことを契機として、ロックアップクラッチ(11)を実際に締結させるための油圧の供給を開始する。これにより、上述した油圧制御装置(100)の作用及び効果をより好適に奏することができる。
【0010】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)では、回転比の変化量における増減が反転した場合とは、回転比が減少傾向から増加傾向に変化した場合であり、差回転の変化量における増減が反転した場合とは、差回転が増加傾向から減少傾向に変化した場合であってもよい。これによれば、上述した油圧制御装置(100)が好適な態様で実現する。
【0011】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)は、初期油圧の供給開始後において、差回転の変化量における増減が反転した後、差回転が所定差回転以下となった場合に、差回転が目標差回転となるようにロックアップクラッチ(11)に油圧を供給してもよい。これによれば、差回転を所定差回転と比較することによりロックアップクラッチ(11)がトルク伝達容量を持つことを精度良く判断可能となるため、油圧コントロールをより適切に行うことができる。
【0012】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)では、所定差回転は、ロックアップクラッチ(11)がトルク伝達可能となる差回転であってもよい。これによれば、初期油圧の供給条件をより適切に設定することができる。
【0013】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)は、初期油圧の供給開始後において、回転比の変化量における増減が反転した後、回転比が所定回転比以上となった場合に、回転比が目標回転比となるようにロックアップクラッチ(11)に油圧を供給してもよい。これによれば、回転比を所定回転比と比較することによりロックアップクラッチ(11)がトルク伝達容量を持つことを精度良く判断可能となるため、油圧コントロールをより適切に行うことができる。
【0014】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)では、所定回転比は、ロックアップクラッチ(11)がトルク伝達可能となる回転比であってもよい。これによれば、初期油圧の供給条件をより適切に設定することができる。
【0015】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)は、ロックアップクラッチ(11)を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を一定の圧力で供給してもよい。これによれば、当該油圧制御装置(100)の作用及び効果を好適に奏することができる。
【0016】
本開示の一態様に係る油圧制御装置(100)は、初期油圧の供給開始後において、所定時間が経過した場合に、回転比が目標回転比となるように、又は、差回転が目標差回転となるように、ロックアップクラッチ(11)に油圧を供給してもよい。これによれば、例えば初期油圧により油路が想定どおりに充填されずエンジン回転数(Ne)と入力軸回転数(Nm)との回転比又は差回転が十分に小さくならない場合であっても、ロックアップクラッチ(11)を実際に締結させるための油圧の供給を開始することができる。さらに、ロックアップクラッチ(11)を締結可能な大きさの油圧を供給してもロックアップクラッチ(11)が締結されないときに、適切に故障判定を行うことができる。より詳細には、初期油圧をフィードフォワード制御によって供給するときには油圧及びスリップ率(エンジン回転数(Ne)と入力軸回転数(Nm)との回転比又は差回転)がコントロール下にないのに対して、ロックアップクラッチ(11)を実際に締結させるための油圧をフィードバック制御によって供給するときには油圧及びスリップ率をコントロールすることができる。したがって、フィードバック制御の状態で安定した故障制御を実行可能となる。
【0017】
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本開示の一例として示したものであって、本開示を実施形態の態様に限定するものではない。
【発明の効果】
【0018】
このように、本開示に係る油圧制御装置は、初期油圧の供給条件を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る油圧制御装置により制御される油圧回路を示す図である。
【
図2】
図2は、油圧制御装置として機能する電子制御ユニット(ECU)のブロック図である。
【
図3】
図3は、油圧制御装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、ロックアップクラッチの制御領域の特性を例示するグラフである。
【
図5】
図5は、油圧制御装置により実行される締結制御の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、油圧制御装置により実行される締結制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して例示的な実施形態について説明する。なお、各図における同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る油圧制御装置100により制御される油圧回路を示す図である。油圧制御装置100は、車両に搭載され、トルクコンバータ10を具備した変速機(自動変速機)TMのロックアップクラッチ11に油圧を供給する。具体的には、油圧制御装置100は、ロックアップクラッチ11に供給する油圧の大きさ及び充填時間(供給時間)等を制御する。トルクコンバータ10は、公知の構成からなっていてよい。
【0022】
トルクコンバータ10の油圧回路は、オイルタンクからATF等のオイル(作動油)を汲み上げるオイルポンプ12と、オイルポンプ12からの作動油を所定のレギュレータ圧に調圧するメインレギュレータバルブ13と、所定のトルクコンバータ内圧に調圧するためのTCレギュレータバルブ14を含んでいる。TCレギュレータバルブ14で調圧された作動油(内圧)がトルクコンバータ10の内部に流れ込む。
【0023】
ロックアップクラッチ11はクラッチピストンを備えており、LCシフトバルブ15の切り換えによって、該クラッチピストンの移動方向が切り換えられ、ロックアップクラッチ11の締結(係合;ON)又は非締結(非係合;OFF)が制御される。つまり、クラッチピストンの動作によって、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させたり、締結状態から非締結状態に移行させたりすることが可能である。
【0024】
LC圧制御バルブ16は、ロックアップクラッチ11の係合圧を必要圧に調整するものであり、ここで調圧されたオイル(ピストン圧)がLCシフトバルブ15を介してロックアップクラッチ11のピストン室に流れる。LC圧制御バルブ16にはリニアソレノイド17によるパイロット圧がかけられており、該パイロット圧によりLC圧制御バルブ16の調圧ポイントを変えることにより、ロックアップクラッチ11の係合圧を調圧する。ロックアップクラッチ容量は、トルクコンバータ内圧とロックアップピストン圧との差圧により発生する。
【0025】
図2は、油圧制御装置100として機能する電子制御ユニット(ECU)20のブロック図である。電子制御ユニット20は、演算処理を行うための中央処理装置(CPU)21と、制御プログラムや各種テーブル等のデータを格納しているリードオンリーメモリ(ROM)22と、各検出手段の出力信号や演算結果を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)23を有している。
【0026】
車両の運転状態を判定するために、エンジン回転数検出手段31、変速機TMの入力回転数検出手段32、シフトポジション検出手段33、アクセル開度検出手段34(スロットル開度検出手段に置き換え可能)、及び車速検出手段35等が公知のように設けられており、これらの出力信号が電子制御ユニット20の入力回路24に与えられる。例えば、エンジン回転数検出手段31は、エンジンENGの回転数(エンジン回転数Ne)を検出するセンサである。変速機TMの入力回転数検出手段32は、エンジンENGから変速機TMにトルクを入力するトルク入力軸MSの回転数(入力軸回転数Nm)を検出するセンサである。トルク入力軸MSは、変速機TMのメインシャフトであってもよい。シフトポジション検出手段33は、シフトレバーの位置(シフトポジションSP)を検出するセンサである。アクセル開度検出手段34は、アクセル開度APを検出するセンサであり、スロットル開度を検出するセンサに置き換え可能である。車速検出手段35は、車両の速度(車速V)を検出するセンサ、又は車速Vをエンジン回転数Ne及びシフトポジションSP等に基づいて算出する装置である。電子制御ユニット20の出力回路25は、LCシフトバルブ15、LC圧制御バルブ16等に接続される。
【0027】
電子制御ユニット20は、入力回路24を介して入力される各種信号と、ROM22に格納されたデータとを後述する制御プログラムに基づいてCPU21で演算処理し、最終的に出力回路25を介してLCシフトバルブ15、LC圧制御バルブ16等に供給する電流値を制御する。これにより、ロックアップクラッチ11の係合力を変化させてトルクコンバータ10の速度比を制御する。
【0028】
図3は、油圧制御装置100の機能的構成を示すブロック図である。油圧制御装置100は、機能的には、エンジン回転数取得部20a、入力軸回転数取得部20b、回転比・差回転算出部20c、移行条件設定部20d、油圧供給制御部20e、及び計時部20fを備えている。
【0029】
エンジン回転数取得部20aは、エンジンENGの回転数であるエンジン回転数Neを取得する。具体的には、エンジン回転数取得部20aは、エンジン回転数検出手段31から出力される出力信号を取得することによりエンジン回転数Neを取得する。
【0030】
入力軸回転数取得部20bは、トルク入力軸MSの回転数である入力軸回転数Nmを取得する。具体的には、入力軸回転数取得部20bは、入力回転数検出手段32から出力される出力信号を取得することにより入力軸回転数Nmを取得する。
【0031】
回転比・差回転算出部20cは、エンジン回転数取得部20aにより取得されたエンジン回転数Neと入力軸回転数取得部20bにより取得された入力軸回転数Nmとに基づいて、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比及び差回転の少なくともいずれかを算出する。エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比とは、例えば、入力軸回転数Nmをエンジン回転数Neで割った値である。以下の説明において、回転比はETR又はスリップ率Eと表示される場合がある。エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転とは、例えば、エンジン回転数Neから入力軸回転数Nmを引いた値である。
【0032】
移行条件設定部20dは、移行条件を設定する。「移行条件」とは、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧から、ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧(以下、「締結油圧」ともいう)に移行させるタイミングを規定する条件である。移行条件とは、後述するように応答制御からフィードバック制御への移行を開始する条件(又は、条件の一部)であってもよい。移行条件は、エンジンENGのエンジン回転数NeとエンジンENGから変速機TMにトルクを入力するトルク入力軸MSの入力軸回転数Nmとの各回転数により規定される条件であってもよい。移行条件は、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転数が互いに近づいたと判定されることであってもよい。
【0033】
例えば、移行条件は、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比に関する条件であってもよい。この場合、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比の変化量が条件を満たした場合に、移行条件が満たされたと判定されてもよい。具体的には、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比の変化量における増減が反転した場合に、移行条件が満たされたと判定されてもよい。特に、移行条件は、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比の変化量における増減が反転した後、回転比が所定回転比以上となることであってもよい。ここで、「回転比の変化量における増減が反転した場合」とは、回転比が減少傾向から増加傾向に変化した場合であってもよい。これは、
図5を示して後述するように、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差が拡大する傾向から縮小する傾向に変化すること(すなわち、入力軸回転数Nmとエンジン回転数Neとが互いに近づくこと)を意味している。
【0034】
あるいは、移行条件は、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転に関する条件であってもよい。この場合、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転の変化量が条件を満たした場合に、移行条件が満たされたと判定されてもよい。具体的には、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転の変化量における増減が反転した場合に、移行条件が満たされたと判定されてもよい。特に、移行条件は、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転の変化量における増減が反転した後、差回転が所定差回転以下となることであってもよい。ここで、「差回転の変化量における増減が反転した場合」とは、差回転が増加傾向から減少傾向に変化した場合であってもよい。これは、
図5を示して後述するように、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差が拡大する傾向から縮小する傾向に変化すること(すなわち、入力軸回転数Nmとエンジン回転数Neとが互いに近づくこと)を意味している。
【0035】
移行条件設定部20dは、移行条件に関する所定差回転及び所定差回転比を、ロックアップクラッチ11がトルク伝達可能となる値(又は、トルク伝達可能と判断可能となる値)に設定してもよい。換言すると、所定差回転は、ロックアップクラッチ11がトルク伝達可能となる差回転であってもよい。同様に、所定回転比は、ロックアップクラッチ11がトルク伝達可能となる回転比であってもよい。「トルク伝達可能」とは、伝達されるトルクが0から正数になった状態を意味してもよく、伝達されるトルクが所定値以上となった状態を意味してもよい。所定値とは、実際的な観点から無視されるような微小値であってもよい。トルク伝達可能とは、ロックアップクラッチ11が容量(ロックアップクラッチ容量)を持つことを意味してもよい。「トルク伝達可能と判断可能となる値」とは、実際にトルク伝達可能となる値とは厳密には一致しないが、例えば制御上、トルク伝達可能となる見込みと判定し得るような値等であってもよい。
【0036】
油圧供給制御部20eは、ロックアップクラッチ11に供給される油圧を制御する。具体的には、油圧供給制御部20eは、LC圧制御バルブ16を制御することにより、ロックアップクラッチ11に供給される油圧を制御する。油圧供給制御部20eは、後述するように、初期油圧の大きさ及び充填時間、ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧(締結油圧)の大きさ及び充填時間、締結したロックアップクラッチ11の締結状態を維持するための油圧(以下、「締結維持油圧」ともいう)の大きさ及び充填時間等のうちの少なくともいずれかを制御する。油圧供給制御部20eは、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を一定の圧力で供給してもよい。
【0037】
油圧供給制御部20eは、初期油圧の供給開始後において、移行条件が満たされたと判定した場合に、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が目標値(予め設定された目標回転比又は目標差回転)となるように、ロックアップクラッチ11に油圧を供給する。例えば、油圧供給制御部20eは、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転数が互いに近づいたと判定した場合に、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が目標値となるように、ロックアップクラッチ11に油圧を供給する。なお、油圧供給制御部20eは、上述した種々の移行条件の少なくともいずれかを基準としてもよく、上述した種々の移行条件とは異なる条件を基準としてもよい。
【0038】
また、油圧供給制御部20eは、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比の変化量における増減が反転した後、回転比が所定回転比以上となった場合に、回転比が目標回転比となるようにロックアップクラッチ11に油圧を供給してもよい。ここで、所定回転比は、ロックアップクラッチ11がトルク伝達容量を確実に持つ(持つと推定される)回転比に設定されていてもよい。同様に、油圧供給制御部20eは、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転の変化量における増減が反転した後、差回転が所定差回転以下となった場合に、差回転が目標差回転となるようにロックアップクラッチ11に油圧を供給してもよい。ここで、所定差回転は、ロックアップクラッチ11がトルク伝達容量を確実に持つ(持つと推定される)差回転に設定されていてもよい。
【0039】
計時部20fは、初期油圧の供給開始後に経過した時間を計測する。計時部20fは、油圧供給制御部20eにより初期油圧を供給すべき制御が開始された時点を基準として(時間計測の開始タイミングとして)、その時点からの経過時間を計測してもよい。
【0040】
[締結制御]
続いて、油圧制御装置100により実行されるロックアップクラッチ11の締結制御について説明する。
【0041】
図4は、ロックアップクラッチ11の制御領域の特性を例示するグラフである。油圧制御装置100は、車速検出手段35で検出した車速Vとアクセル開度検出手段34で検出したアクセル開度APに基づいて、例えば
図4に示されたような特性に従って、ロックアップクラッチ11の作動領域を判定する。
図4の例において、ロックアップクラッチ11の作動領域は、ロックアップクラッチ(LC)完全締結領域、ロックアップクラッチフィードバック(LC_F/B)制御領域、ロックアップクラッチオフ(LC_off)領域の3種がある。ロックアップクラッチオフ(LC_off)領域は、ロックアップクラッチ11を非締結(非係合;OFF)とする領域であり、ロックアップクラッチ完全締結領域とロックアップクラッチフィードバック制御領域は、ロックアップクラッチ11を締結(係合;ON)とする制御領域である。車両の運転状態がロックアップクラッチオフ領域からロックアップクラッチをオン(係合)とする制御領域(ロックアップクラッチ完全締結領域又はロックアップクラッチフィードバック制御領域)内に移行したとき、油圧制御装置100はロックアップクラッチ11を実際に締結させる制御を開始する。
【0042】
締結油圧(ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧)とは、具体的には、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比が所定の目標回転比となるようにロックアップクラッチ11に供給される油圧であってもよい。目標回転比は、1(すなわち、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとが等しい状態)であってもよく、1に近い値であってもよい。目標回転比は、走行状態に応じた任意の値であってもよい。あるいは、締結油圧とは、具体的には、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転が所定の目標差回転となるようにロックアップクラッチ11に供給される油圧であってもよい。目標差回転は、0(すなわち、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとが等しい状態)であってもよく、0に近い値であってもよい。
【0043】
図5は、油圧制御装置100により実行される締結制御の動作例を示すタイミングチャートである。
図5に示される締結制御は、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に実行される制御である。
図5においては、本実施形態に係る締結制御のタイミングチャート、及び、従来技術に係る制御のタイミングチャートが重ねて表示されている。エンジン回転数Ne、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比(スリップ率E=Nm/Ne)又は差回転、及びロックアップクラッチ11に供給される油圧の指示圧(LC指示圧)については、本実施形態に係る締結制御が実線で示され、従来技術に係る制御が破線で示されている。一方、アクセル開度AP及び入力軸回転数Nmについては、本実施形態に係る締結制御と従来技術に係る制御実線との両方が共通の実線で示されている。
【0044】
まず、
図5のうち、従来技術に係る制御のタイミングチャートについて説明する。アクセルOFFからアクセルONに切り替わったことを契機として、ロックアップクラッチ11の指示圧(LC指示圧)が変化を開始する。具体的には、油圧制御装置100は、応答制御を実行して、LC指示圧として矩形波状の初期油圧の供給を指示する(つまり、油圧制御装置100は、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を一定の圧力で供給する。)。また、これに伴い、エンジン回転数Ne及び入力軸回転数Nmが増大する。
【0045】
ロックアップクラッチ11の油路を充填するために必要な大きさ及び充填時間となるように予め設定された初期油圧の供給が完了すると、油圧制御装置100は、フィードバック制御(ロックアップクラッチフィードバック制御)に移行して、締結油圧の供給を指示する。このとき、例えばロックアップクラッチ11本体又はオイルの劣化、ばらつき、温度等の諸条件によって、初期油圧による油路の充填状態が異なってしまう場合がある。例えば、初期油圧による油路の充填が不十分であると、
図5に示されるように、フィードバック制御に移行して締結油圧が供給されてもロックアップクラッチ11の締結が速やかに完了しにくくなる場合がある。その結果、エンジン回転数Neが目標値よりも高くなり、ノイズ及びエンゲージショック等が発生するおそれがある。
【0046】
その後、油圧制御装置100は、締結維持油圧制御によってロックアップクラッチ11の締結状態を維持するための締結維持油圧を供給する。ここで、フィードバック制御から締結維持油圧制御への移行タイミングは、例えば変速段ごとに入力軸回転数Nm-アクセル開度APマップを参照して決定される。このとき、クルーズ領域と車体の騒音・振動が考慮される。
【0047】
次に、
図5のうち、本実施形態に係る締結制御のタイミングチャートについて説明する。アクセルOFFからアクセルONに切り替わったことを契機として、ロックアップクラッチ11の指示圧(LC指示圧)が変化を開始する。具体的には、油圧制御装置100は、応答制御を実行して、LC指示圧として矩形波状の初期油圧の供給を指示する。また、これに伴い、エンジン回転数Ne及び入力軸回転数Nmが増大する。
【0048】
油圧制御装置100は、エンジン回転数取得部20aによりエンジン回転数検出手段31からエンジン回転数Neを取得するとともに、入力軸回転数取得部20bにより入力回転数検出手段32から入力軸回転数Nmを取得する。そして、油圧制御装置100は、回転比・差回転算出部20cにより、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとに基づいてエンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比及び差回転の少なくともいずれかを算出する。油圧制御装置100は、回転比・差回転算出部20cにより算出されたエンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が上述した移行条件を満たしているか否かを判定する。なお、移行条件は、移行条件設定部20dにより予め設定されている。
【0049】
移行条件が満たされたと判定すると、油圧制御装置100は、フィードバック制御(ロックアップクラッチフィードバック制御)に移行して、締結油圧の供給を指示する。換言すると、油圧制御装置100は、ロックアップクラッチ11が容量(ロックアップクラッチ容量)を持つ回転比(スリップ率)Eとなったことを契機として、初期油圧を供給する応答制御から締結油圧を供給するフィードバック制御に移行する。このとき、初期油圧の終了タイミングは移行条件が満たされたことにより決定されることから、例えばロックアップクラッチ11本体又はオイルの劣化、ばらつき、温度等の諸条件にかかわらず、初期油圧による油路の充填状態を安定的に管理しやすい。
図5においては、油圧制御装置100は、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの差回転の変化量における増減が反転した後、差回転が所定差回転以下となったこと契機として、応答制御からフィードバック制御に移行している。あるいは、
図5においては、油圧制御装置100は、初期油圧の供給開始後において、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比の変化量における増減が反転した後、回転比が所定回転比以上となったこと契機として、応答制御からフィードバック制御に移行している。なお、
図5においては、本実施形態に係る締結制御における初期油圧の充填時間は、従来技術に係る制御における初期油圧の充填時間よりも長く設定されている。これにより、より確実に油路にオイルを充填させることができる。
【0050】
また、初期油圧により油路が想定どおりに充填されたタイミングで締結油圧を供給することができるため、油路又はオイルポンプ等の条件のばらつきにより油圧が過大になることを避けることが可能となり、初期油圧として比較的高い油圧を用いることが可能となる。
図5においても、本実施形態に係る締結制御における初期油圧の大きさは、従来技術に係る制御における初期油圧の大きさよりも大きく(高く)設定されている。このように、初期油圧として高い油圧を積極的に用いることが可能となるため、ロックアップクラッチ11のスリップ量を低減させることができる。
【0051】
なお、図示されていないが、初期油圧の供給開始後において、移行条件が満たされないまま所定時間が経過した場合には、油圧制御装置100は、フィードバック制御(ロックアップクラッチフィードバック制御)に移行して、締結油圧の供給を指示する。すなわち、油圧制御装置100には、応答制御からフィードバック制御に移行するタイミングに関してディレイタイマーの機能が設けられている。所定時間とは、当該時間にわたって初期油圧を供給しても移行条件が満たされない場合にエラーと判定されるべき時間であってもよい。所定時間は、予め計時部20fにおいて設定されていてもよい。
【0052】
その後、油圧制御装置100は、従来技術に係る制御と同様に、締結維持油圧制御によってロックアップクラッチ11の締結状態を維持するための締結維持油圧を供給する。ここで、フィードバック制御から締結維持油圧制御への移行タイミングは、例えば変速段ごとに入力軸回転数Nm-アクセル開度APマップを参照して決定される。このとき、クルーズ領域と車体の騒音・振動が考慮される点についても従来技術に係る制御と同様である。
【0053】
図6は、油圧制御装置100により実行される締結制御を示すフローチャートである。
図6のフローチャートは、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に実行される。例えば、
図6のフローチャートは、
図5に示されるようにアクセルOFFからアクセルONに切り替わったことを契機として開始されてもよい。
【0054】
ステップS10において、油圧制御装置100の油圧供給制御部20eは、ロックアップクラッチ11に初期油圧を供給する(初期油圧の供給を開始する)。また、油圧制御装置100の計時部20fは、初期油圧の供給開始後に経過した時間の計測を開始する。その後、締結制御はステップS12に移行する。
【0055】
ステップS12において、油圧制御装置100のエンジン回転数取得部20aは、エンジンENGの回転数であるエンジン回転数Neを取得する。具体的には、エンジン回転数取得部20aは、エンジン回転数検出手段31から出力される出力信号を取得することによりエンジン回転数Neを取得する。また、油圧制御装置100の入力軸回転数取得部20bは、トルク入力軸MSの回転数である入力軸回転数Nmを取得する。具体的には、入力軸回転数取得部20bは、入力回転数検出手段32から出力される出力信号を取得することにより入力軸回転数Nmを取得する。その後、締結制御はステップS14に移行する。
【0056】
ステップS14において、油圧制御装置100の計時部20fは、油圧供給制御部20eにより初期油圧を供給する制御が開始された時点から所定時間が経過したか否かを判定する。初期油圧の供給開始後において所定時間が経過したと計時部20fにより判定された場合には(ステップS14:YES)、締結制御はステップS18に移行する。一方、初期油圧の供給開始後において所定時間が経過していないと計時部20fにより判定された場合には(ステップS14:NO)、締結制御はステップS16に移行する。
【0057】
ステップS16において、油圧制御装置100の回転比・差回転算出部20cは、エンジン回転数取得部20aにより取得されたエンジン回転数Neと入力軸回転数取得部20bにより取得された入力軸回転数Nmとに基づいて、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比及び差回転の少なくともいずれかを算出する。ここでは、回転比・差回転算出部20cは、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転のいずれか一方を算出することとしているが、回転比及び差回転の両方を算出してもよい。回転比・差回転算出部20cは、算出した回転比又は差回転に基づいて、移行条件が満たされているか否かを判定する。ここでは、回転比・差回転算出部20cは、エンジンENGのエンジン回転数NeとエンジンENGから変速機TMにトルクを入力するトルク入力軸MSの入力軸回転数Nmとの回転数が互いに近づいたか否かを判定する。エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が移行条件を満たしていると回転比・差回転算出部20cにより判定された場合には(ステップS16:YES)、締結制御はステップS18に移行する。一方、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が移行条件を満たしていないと回転比・差回転算出部20cにより判定された場合には(ステップS16:NO)、締結制御はステップS12に戻り、初期油圧の供給を継続しつつステップS12以降の処理を再度実行する。
【0058】
ステップS18において、油圧制御装置100の油圧供給制御部20eは、応答制御からフィードバック制御に移行して、ロックアップクラッチ11に締結油圧の供給を開始する。以上により、今回の締結制御は終了する。なお、油圧供給制御部20eは、フィードバック制御の後に、締結維持油圧制御によってロックアップクラッチ11の締結状態を維持するための締結維持油圧を供給してもよい。
【0059】
[作用及び効果]
以上説明したように、油圧制御装置100は、変速機TMのロックアップクラッチ11に油圧を供給する油圧制御装置100であって、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を供給し、初期油圧の供給開始後において、エンジンENGのエンジン回転数NeとエンジンENGから変速機TMにトルクを入力するトルク入力軸MSの入力軸回転数Nmとの回転数が互いに近づいたと判定した場合に、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が目標値となるように、ロックアップクラッチ11に油圧を供給する。
【0060】
この油圧制御装置100によれば、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際には、初期油圧を供給した後(すなわち、供給開始後)、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転数が互いに近づいたことを契機として、ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧の供給を開始する。これにより、例えばロックアップクラッチ11本体又はオイルの劣化、ばらつき、温度等の諸条件にかかわらず、初期油圧により油路が想定どおりに充填されたタイミングでロックアップクラッチ11を締結させるための油圧を供給することが可能となる。その結果、エンジン回転数Neが目標値よりも高くなることが抑制され、ノイズ及びエンゲージショック等が発生しにくくなる。また、エンジン回転数Neを目標値に近づけることができるため、ロックアップクラッチが過熱することを避けることができ、ロックアップクラッチ11の発熱保護の作動等が抑制される。さらに、初期油圧により油路が想定どおりに充填されたタイミングでロックアップクラッチ11を締結させるための油圧を供給することができるため、油路又はオイルポンプ等の条件のばらつきにより油圧が過大になることを避けることが可能となる。したがって、初期油圧として比較的高い油圧を用いることが可能となる。その結果、ロックアップクラッチ11のスリップ量を低減し、ロックアップクラッチ11の締結に要する時間(係合時間)の短縮及び燃費の改善が可能となる。このように、油圧制御装置100によれば、初期油圧の供給条件を適切に設定することができる。
【0061】
油圧制御装置100は、初期油圧の供給開始後において、エンジンENGのエンジン回転数NeとエンジンENGから変速機TMにトルクを入力するトルク入力軸MSの入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転の変化量における増減が反転した場合に、回転比が目標回転比となるように、又は、差回転が目標差回転となるように、ロックアップクラッチ11に油圧を供給する。これによれば、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際には、初期油圧を供給した後、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転の変化量における増減が反転したことを契機として、ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧の供給を開始する。これにより、上述した油圧制御装置100の作用及び効果をより好適に奏することができる。
【0062】
油圧制御装置100では、回転比の変化量における増減が反転した場合とは、回転比が減少傾向から増加傾向に変化した場合であり、差回転の変化量における増減が反転した場合とは、差回転が増加傾向から減少傾向に変化した場合である。これによれば、上述した油圧制御装置100が好適な態様で実現する。
【0063】
油圧制御装置100は、初期油圧の供給開始後において、差回転の変化量における増減が反転した後、差回転が所定差回転以下となった場合に、差回転が目標差回転となるようにロックアップクラッチ11に油圧を供給する。これによれば、差回転を所定差回転と比較することによりロックアップクラッチ11がトルク伝達容量を持つことを精度良く判断可能となるため、油圧コントロールをより適切に行うことができる。
【0064】
油圧制御装置100では、所定差回転は、ロックアップクラッチ11がトルク伝達可能となる差回転である。これによれば、初期油圧の供給条件をより適切に設定することができる。
【0065】
油圧制御装置100は、初期油圧の供給開始後において、回転比の変化量における増減が反転した後、回転比が所定回転比以上となった場合に、回転比が目標回転比となるようにロックアップクラッチ11に油圧を供給する。これによれば、回転比を所定回転比と比較することによりロックアップクラッチ11がトルク伝達容量を持つことを精度良く判断可能となるため、油圧コントロールをより適切に行うことができる。
【0066】
油圧制御装置100では、所定回転比は、ロックアップクラッチ11がトルク伝達可能となる回転比である。これによれば、初期油圧の供給条件をより適切に設定することができる。
【0067】
油圧制御装置100は、ロックアップクラッチ11を非締結状態から締結状態に移行させる際に、初期油圧を一定の圧力で供給する。これによれば、当該油圧制御装置100の作用及び効果を好適に奏することができる。
【0068】
油圧制御装置100は、初期油圧の供給開始後において、所定時間が経過した場合に、回転比が目標回転比となるように、又は、差回転が目標差回転となるように、ロックアップクラッチ11に油圧を供給する。これによれば、例えば初期油圧により油路が想定どおりに充填されずエンジン回転数Neと入力軸回転数Nmとの回転比又は差回転が十分に小さくならない場合であっても、ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧の供給を開始することができる。さらに、ロックアップクラッチ11を締結可能な大きさの油圧を供給してもロックアップクラッチ11が締結されないときに、適切に故障判定を行うことができる。より詳細には、初期油圧をフィードフォワード制御によって供給するときには油圧及びスリップ率(エンジン回転数Neと入力軸回転数Nm)との回転比又は差回転がコントロール下にないのに対して、ロックアップクラッチ11を実際に締結させるための油圧をフィードバック制御によって供給するときには油圧及びスリップ率をコントロールすることができる。したがって、フィードバック制御の状態で安定した故障制御を実行可能となる。
【0069】
[変形形態]
上述した実施形態は、当業者の知識に基づいて変更又は改良が施された様々な形態により実施可能である。例えば、各図に示される構成及びタイミングチャート等は一例であり、本開示はこれらの構成及びタイミングチャートに限定されない。
【符号の説明】
【0070】
10 トルクコンバータ
11 ロックアップクラッチ
20 電子制御ユニット(ECU)
100 油圧制御装置
ENG エンジン
MS トルク入力軸
TM 変速機