(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082465
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 29/00 20060101AFI20240613BHJP
F04D 29/046 20060101ALI20240613BHJP
F04D 29/056 20060101ALI20240613BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240613BHJP
F16C 35/07 20060101ALI20240613BHJP
F16C 27/06 20060101ALI20240613BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F04C29/00 G
F04D29/046 D
F04D29/056 B
F16J15/10 C
F16J15/10 T
F16C35/07
F16C27/06 B
F04B39/00 103Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196326
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】城丸 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】福山 了介
(72)【発明者】
【氏名】岩田 滉平
(72)【発明者】
【氏名】柏 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将也
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
3H130
3J012
3J040
3J117
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AC04
3H003AD03
3H003CA01
3H003CA02
3H129AA06
3H129AA15
3H129AB05
3H129BB16
3H129BB44
3H129CC16
3H129CC17
3H129CC19
3H130AA03
3H130AA12
3H130AB22
3H130AB27
3H130AB60
3H130AC30
3H130BA24E
3H130BA24F
3H130BA53E
3H130BA53F
3H130DB01X
3H130DB09X
3H130DC20X
3H130EA07E
3H130EA07F
3H130EC08F
3H130EC17F
3H130ED01E
3H130ED01F
3J012AB13
3J012BB01
3J012CB03
3J012DB08
3J012DB12
3J012FB10
3J040AA17
3J040BA03
3J040FA05
3J117AA02
3J117CA06
3J117DA02
3J117DB04
3J117HA02
(57)【要約】
【課題】水によって微小な滑りによる摩耗が促進されてしまうことを抑制できる流体機械を提供すること。
【解決手段】水素循環ポンプ10において、第4軸受61の内輪62と回転軸17との間には、内輪62と回転軸17との間をシールするシールリング71が内輪62の軸線方向に離れて2つ設けられている。2つのシールリング71は、内輪62と回転軸17に対し、回転軸17の径方向へ互いに離間させる方向に付勢力を付与している。2つのシールリング71は、内輪62と回転軸17とを径方向に離間させている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに挿入され、軸受を介して前記ハウジングに回転可能に支持された回転軸と、
前記回転軸の回転によって動作するポンプ部と、を備え、
前記ハウジングには前記ポンプ部を収容し、流体を吸入する吸入孔及び流体を吐出する吐出孔を備えるポンプ室が画定されるとともに、前記軸受を支持する軸受支持部が設けられ、
前記軸受は、前記回転軸に隙間嵌めされる内輪と、前記内輪を囲むとともに前記軸受支持部に支持された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられる転動体と、を備え、
前記内輪と前記回転軸との間には、前記内輪と前記回転軸との間をシールするシール部材が前記内輪の軸線方向に離れて2つ設けられ、
前記2つのシール部材は、前記内輪と前記回転軸に対し、前記回転軸の径方向へ互いに離間させる方向に付勢力を付与し、かつ前記内輪と前記回転軸とを前記径方向に離間させていることを特徴とする流体機械。
【請求項2】
前記シール部材は、弾性変形可能な樹脂製のシールリングであり、前記径方向に圧縮するように弾性変形している請求項1に記載の流体機械。
【請求項3】
前記2つのシール部材は、前記内輪の軸線方向の両端において前記内輪と前記回転軸との間に設けられている請求項1又は請求項2に記載の流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、回転軸としての駆動軸と、転がり軸受の内輪との間に弾性リングを設けた流体機械が開示されている。特許文献1の流体機械において、転がり軸受は、外輪と、内輪と、複数の転動体と、を備える。外輪は、ハウジングとしてのケーシングに締まり嵌めで取り付けられている。内輪は、駆動軸に隙間嵌めにより取り付けられている。複数個の転動体は、内輪と外輪との間に設けられている。弾性リングは、駆動軸と内輪に弾性的に接触している。駆動軸が回転したとき、弾性リングによって駆動軸と内輪とを一体に回転させることができる。また、弾性リングによって、駆動軸と内輪との接触が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の流体機械において、例えば、駆動軸の偏芯等によって内輪と駆動軸とが接触してしまうことを原因として、内輪と駆動軸との間で微小な滑りが生じる虞がある。また、流体機械の使用環境によっては、内輪の軸線方向の両端側から、内輪と駆動軸との間に水が浸入する虞がある。そして、内輪と駆動軸との間に水が浸入したときに、万一、内輪と駆動軸とが接触して微小な滑りが発生すると、水によって摩耗が促進されてしまう虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するための流体機械は、ハウジングと、前記ハウジングに挿入され、軸受を介して前記ハウジングに回転可能に支持された回転軸と、前記回転軸の回転によって動作するポンプ部と、を備え、前記ハウジングには前記ポンプ部を収容し、流体を吸入する吸入孔及び流体を吐出する吐出孔を備えるポンプ室が画定されるとともに、前記軸受を支持する軸受支持部が設けられ、前記軸受は、前記回転軸に隙間嵌めされる内輪と、前記内輪を囲むとともに前記軸受支持部に支持された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられる転動体と、を備え、前記内輪と前記回転軸との間には、前記内輪と前記回転軸との間をシールするシール部材が前記内輪の軸線方向に離れて2つ設けられ、前記2つのシール部材は、前記内輪と前記回転軸に対し、前記回転軸の径方向へ互いに離間させる方向に付勢力を付与し、かつ前記内輪と前記回転軸とを前記径方向に離間させていることを要旨とする。
【0006】
これによれば、2つのシール部材の付勢力によって、内輪と回転軸とを一体に回転させることができる。また、2つのシール部材によって、内輪と回転軸とを離間させることができるため、内輪と回転軸との間に微小な滑りが発生することを抑制できる。そして、2つのシール部材によって、内輪の軸線方向の両側から、内輪と回転軸との間に水が浸入することを抑制できる。このため、万一、内輪と回転軸とが接触して微小な滑りが発生してしまっても、水によって微小な滑りによる摩耗が促進されてしまうことを抑制できる。
【0007】
流体機械について、前記シール部材は、弾性変形可能な樹脂製のシールリングであり、前記径方向に圧縮するように弾性変形していてもよい。
これによれば、弾性変形したシール部材の圧縮反力により、内輪と回転軸に対して付勢力を付与できる。また、内輪及び回転軸の各々に対する摩擦によって、内輪と回転軸とを一体に回転させることができるとともに、圧縮反力によって、内輪と回転軸とを径方向に離間させることができる。したがって、シール部材を簡単な構成にしても、上記作用効果を発揮できる。
【0008】
流体機械について、前記2つのシール部材は、前記内輪の軸線方向の両端において前記内輪と前記回転軸との間に設けられていてもよい。
これによれば、内輪と回転軸との間での微小な滑りの発生を抑制した箇所を広く確保できる。さらに、2つのシール部材により、内輪の軸線方向の両端から、内輪と回転軸との間に水が浸入することを抑制できる。したがって、万一、内輪と回転軸とが接触して微小な滑りが発生してしまっても、内輪の軸線方向の全体に亘って、水によって摩耗が促進されてしまうことを抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水によって微小な滑りによる摩耗が促進されてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の水素循環ポンプを示す断面図である。
【
図3】装着溝及びシールリングを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、流体機械を水素循環ポンプに具体化した一実施形態を
図1~
図4にしたがって説明する。
<水素循環ポンプ>
図1に示すように、水素循環ポンプ10は、ルーツ式ポンプである。水素循環ポンプ10は、流体としての水素を吸入及び吐出して水素を圧送するポンプである。
【0012】
水素循環ポンプ10は、ハウジング11と、ポンプ部30と、ギア部40と、電動モータ50と、を備える。また、水素循環ポンプ10は、回転軸17と、第1軸受31aと、一対の第2軸受31bと、一対の第3軸受31cと、一対の第4軸受61と、を備える。水素循環ポンプ10は、第4軸受61を含む一対の軸受装置60を備える。また、水素循環ポンプ10は、第1シール部材32aと、一対の第2シール部材32bと、一対の第3シール部材32cと、を備える。
【0013】
<ハウジング>
ハウジング11は、第1ハウジング部材12と、第2ハウジング部材13と、第3ハウジング部材14と、第4ハウジング部材15と、第5ハウジング部材16と、を備える。ハウジング11は、第1ハウジング部材12と、第2ハウジング部材13と、第3ハウジング部材14と、第4ハウジング部材15と、第5ハウジング部材16とを一体に組付けて形成されている。
【0014】
第1ハウジング部材12は、第1端壁12aと、第1端壁12aから筒状に延びる第1周壁12bと、第1端壁12aから第1ハウジング部材12内に突出する第1軸受支持部12cと、を備える。
【0015】
第2ハウジング部材13は、第2端壁13aと、第2端壁13aから筒状に延びる第2周壁13bと、第2端壁13aに設けられた一対の第2軸受支持部13cと、を備える。
第3ハウジング部材14は、第3端壁14aと、第3端壁14aから筒状に延びる第3周壁14bと、第3端壁14aに設けられた一対の第3軸受支持部14cと、を備える。
【0016】
第4ハウジング部材15は、第4端壁15aと、第4端壁15aから突出するボス15bと、ボス15bに設けられた一対の第4軸受支持部15cと、を備える。
第5ハウジング部材16は、板状である。
【0017】
ハウジング11には、モータ室12dと、ギア室13dと、ロータ室25と、一対の軸受収容室26と、が画定されている。モータ室12dは、第1端壁12aと、第1周壁12bと、第2端壁13aとによって画定されている。電動モータ50は、モータ室12dに収容されている。第1軸受支持部12cは、モータ室12dに向けて突出している。第1軸受31aは、第1軸受支持部12cの内側に取り付けられている。したがって、第1軸受31aは、第1軸受支持部12cに支持されている。
【0018】
ギア室13dは、第2端壁13aと、第2周壁13bと、第3端壁14aとによって画定されている。ギア部40は、ギア室13dに収容されている。一対の第2軸受支持部13cの各々は、ギア室13dに開口している。一対の第2軸受31bの各々は、第2軸受支持部13cの内側に取り付けられている。一対の第2軸受31bの各々は、第2軸受支持部13cに支持されている。一対の第2軸受31bの各々は、モータ室12dとギア室13dの間に位置している。
【0019】
ポンプ室としてのロータ室25は、第3端壁14aと、第3周壁14bと、第4端壁15aとによって画定されている。ポンプ部30は、ロータ室25に収容されている。一対の第3軸受支持部14cの各々は、ロータ室25及びギア室13dに開口している。一対の第3軸受支持部14cの各々は、ギア室13dとロータ室25との間に位置している。一対の第3軸受31cの各々は、第3軸受支持部14cの内側に取り付けられている。一対の第3軸受31cの各々は、第3軸受支持部14cに支持されている。
【0020】
一対の軸受収容室26の各々は、ボス15bの内側と第5ハウジング部材16との間に画定されている。一対の第4軸受61の各々は、第4軸受支持部15cの内側に取り付けられている。一対の第4軸受61の各々は、第4軸受支持部15cに支持されている。したがって、ハウジング11には、第1~第4軸受31a~31c,61を支持する第1~第4軸受支持部12c,13c,14c,15cが設けられている。また、軸受装置60は、軸受収容室26に収容されている。軸受装置60は後に説明する。
【0021】
<回転軸>
回転軸17は、ハウジング11に挿入されている。回転軸17は、駆動軸17a及び従動軸17bである。駆動軸17aと従動軸17bは平行に配置されている。駆動軸17a及び従動軸17bの中心軸線Lの延びる方向を回転軸17の軸線方向とする。駆動軸17aは、第2端壁13a、第3端壁14a、及び第4端壁15aを貫通している。従動軸17bは、第3端壁14a、及び第4端壁15aを貫通している。駆動軸17aは、第1軸受31a、第2軸受31b、第3軸受31c、及び軸受装置60の第4軸受61を介してハウジング11に回転可能に支持されている。従動軸17bは、第2軸受31b、第3軸受31c、及び軸受装置60の第4軸受61を介してハウジング11に回転可能に支持されている。
【0022】
<シール部材>
第1シール部材32aは、第2端壁13aに設けられている。第1シール部材32aは、駆動軸17aと第2端壁13aとの間をシールする。第2シール部材32bは、第3端壁14aに設けられている。第2シール部材32bは、駆動軸17a及び従動軸17bと第3端壁14aとの間をシールする。第3シール部材32cは、第4端壁15aに設けられている。第3シール部材32cは、駆動軸17a及び従動軸17bと第4端壁15aとの間をシールする。
【0023】
<電動モータ>
電動モータ50は、駆動軸17aを回転させる。
<ギア部>
ギア部40は、駆動ギア18及び従動ギア19を備える。駆動ギア18は、駆動軸17aに固定されている。従動ギア19は、従動軸17bに固定されている。従動ギア19は、駆動ギア18と噛み合って回転する。従動ギア19は、駆動ギア18及び従動ギア19によって駆動軸17aと逆方向に回転する。
【0024】
<吸入孔及び吐出孔>
図1及び
図4に示すように、ロータ室25は、ロータ室25内に水素を吸入する吸入孔45、及びロータ室25内の水素を吐出する吐出孔46を備える。吸入孔45及び吐出孔46は、第3周壁14bに形成されている。
【0025】
<ポンプ部>
ポンプ部30は、駆動ロータ20と、従動ロータ21と、を備える。駆動ロータ20は、駆動軸17aに取り付けられている。従動ロータ21は、従動軸17bに取り付けられている。従動ロータ21は、駆動ロータ20とともに回転する。駆動ロータ20は、駆動ギア18によって回転される。従動ロータ21は、従動ギア19によって回転される。そして、水素循環ポンプ10において、駆動ロータ20と従動ロータ21が回転することでポンプ部30が動作すると、吸入孔45から吸入された水素が、ロータ室25に吸入される。ポンプ部30の動作により、ロータ室25に吸入された水素は、吐出孔46から水素循環ポンプ10の外へ吐出される。駆動ロータ20及び従動ロータ21は、回転軸17としての駆動軸17a及び従動軸17bの回転によって回転する。このため、ポンプ部30は、回転軸17の回転によって動作する。
【0026】
<軸受装置>
図2及び
図3に示すように、軸受装置60は、第4軸受61と、2つのシール部材としてのシールリング71と、を備える。軸受装置60は、駆動軸17a及び従動軸17bを回転可能に支持する。駆動軸17aを支持する軸受装置60と、従動軸17bを支持する軸受装置60とは同じ構成であるため、以下の説明では、駆動軸17aを支持する軸受装置60と、従動軸17bを支持する軸受装置60とを、回転軸17を支持する軸受装置60として説明する。
【0027】
第4軸受61は、内輪62と、外輪63と、複数個の転動体64と、を備える。第4軸受61は、封止部材65を備えていてもよい。
内輪62は、回転軸17に隙間嵌めされている。内輪62の中心軸線の延びる方向を内輪62の軸線方向とする。内輪62は、回転軸17と一体に回転する。内輪62は、軸線方向の一端面に第1端面62aを備えるとともに、軸線方向の他端面に第2端面62bを備える。第1端面62aは、第3シール部材32cに対向する。第2端面62bは、第5ハウジング部材16に対向する。
【0028】
外輪63は、内輪62を囲む。外輪63は、第4軸受支持部15cの内側に締まり嵌めによって取り付けられている。つまり、外輪63は、第4軸受支持部15cに支持されている。外輪63は、回転しない。
【0029】
転動体64は、内輪62と外輪63の間に設けられる。転動体64は球状である。したがって、第4軸受61は玉軸受けである。なお、転動体64をコロとして、第4軸受61をコロ軸受としてもよい。転動体64は、内輪62と外輪63との間に画定された空間に介在する。この空間にはグリスが注入されている。グリスは、内輪62と転動体64との間、及び外輪63と転動体64との間を潤滑する。
【0030】
封止部材65は、第4軸受61の軸線方向の両端に配置されている。封止部材65は、環状である。封止部材65は、内輪62と外輪63との間の空間を、第4軸受61の軸線方向の両側から閉塞して、グリスの漏洩を抑制する。
【0031】
回転軸17において、軸受装置60によって支持されている部分を支持軸部171とする。回転軸17の周面のうち、支持軸部171での周面を、周面171aと記載する。支持軸部171には、2つの装着溝172が形成されている。2つの装着溝172の各々は、周面171aから凹む。2つの装着溝172の各々は、回転軸17の周方向の全体に延びる環状溝である。
【0032】
装着溝172は、内底面172aと、第1内周面172bと、第2内周面172cと、によって画定されている。内底面172aは、周面171aから凹んだ先に位置する環状面である。第1内周面172bは、内底面172aの一方の周縁から立設されているとともに、第2内周面172cは、内底面172aの他方の周縁から立設されている。第1内周面172b及び第2内周面172cは環状面である。第1内周面172bと第2内周面172cは、回転軸17の軸線方向に対向する。2つの装着溝172において、第1内周面172b同士は、回転軸17の軸線方向に最も離れているとともに、第2内周面172c同士は、回転軸17の軸線方向に最も近付いている。
【0033】
2つの装着溝172は、回転軸17の軸線方向に離れている。回転軸17の軸線方向への2つの装着溝172の間の距離のうち、第1内周面172b間の距離を第1距離K1とする。また、回転軸17の軸線方向への2つの装着溝172の間の距離のうち、第2内周面172c間の距離を第2距離K2とする。第1距離K1は、内輪62の軸線方向への寸法と同じ又はほぼ同じである。第2距離K2は、内輪62の軸線方向への寸法より短い。2つの装着溝172において、周面171aから内底面172aまでの距離を深さDとする。2つの装着溝172で深さDは同じである。
【0034】
以下の説明において、場合によっては、2つの装着溝172のうちの一方を第1装着溝172Aと記載するとともに、2つの装着溝172のうちの他方を第2装着溝172Bと記載する。第1装着溝172Aの第1内周面172bは、内輪62の第1端面62aと同一面上に位置しているとともに、第2装着溝172Bの第1内周面172bは、内輪62の第2端面62bと同一面上に位置している。つまり、2つの装着溝172は、内輪62の内周面62cと対向する位置に設けられている。
【0035】
シールリング71は、装着溝172に装着されている。2つのシールリング71の各々は、弾性変形可能な樹脂製である。弾性変形可能な樹脂の一例はゴムである。2つのシールリング71の各々は、ゴム製のOリングである。2つのシールリング71は、内輪62と回転軸17との間に配置されている。2つのシールリング71の各々は、内輪62と回転軸17との間をシールする。2つのシールリング71の各々は、内輪62と回転軸17との間で圧縮するように弾性変形している。
【0036】
以下の説明において、場合によっては、2つのシールリング71のうちの一方を第1シールリング711と記載するとともに、2つのシールリング71のうちの他方を第2シールリング712と記載する。第1シールリング711は、第1装着溝172Aに装着されている。第1シールリング711は、内輪62の内周面62cのうち、第1端面62a寄りの位置で内周面62cに対向する。第1シールリング711は、内輪62の第1端面62aよりも外側にはみ出していないが、僅かにはみ出していてもよい。
【0037】
第2シールリング712は、第2装着溝172Bに装着されている。第2シールリング712は、内輪62の内周面62cのうち、第2端面62b寄りの位置で内周面62cに対向している。第2シールリング712は、内輪62の第2端面62bよりも外側にはみ出していないが、僅かにはみ出していてもよい。したがって、2つのシールリング71は、内輪62の軸線方向の両端において内輪62と回転軸17との間に設けられている。つまり、2つのシールリング71は、回転軸17の軸線方向に離れている。そして、支持軸部171は、2つのシールリング71によって挟まれた部分に間隙部173を備える。
【0038】
図3の2点鎖線に示すように、弾性変形する前のシールリング71の直径Rは、装着溝172の深さDより大きい。また、弾性変形した後のシールリング71の厚さも装着溝172の深さDより大きい。このため、弾性変形した2つのシールリング71の各々は、周面171aから突出している。したがって、2つのシールリング71の各々は、周面171aから突出する突出部71aを備える。2つの突出部71aの中心軸線は、シールリング71の中心軸線でもあるため、突出部71aの中心軸線は、回転軸17の中心軸線Lと一致する。
【0039】
突出部71aは、支持軸部171の周方向全体に亘って周面171aから突出している。回転軸17の径方向への突出部71aの寸法は、周面171aからのシールリング71の突出量である。シールリング71の突出量は、2つの突出部71aで同じである。
【0040】
2つのシールリング71の各々は、原形状への復帰力である圧縮反力によって内輪62の内周面62c、及び装着溝172の内底面172aに押し付けられている。2つのシールリング71の圧縮反力によって、各シールリング71と装着溝172の内底面172aとの間、及び各シールリング71と内輪62の内周面62cとの間には摩擦力が発生している。各シールリング71との接触箇所に発生した摩擦によって、内輪62は回転軸17と一体に回転する。
【0041】
また、2つのシールリング71の圧縮反力により、内輪62と支持軸部171とは、回転軸17の径方向へ互いに離間するように付勢されている。したがって、2つのシールリング71は、内輪62と回転軸17に対し、回転軸17の径方向へ互いに離間する方向に付勢力を付与している。
【0042】
2つのシールリング71の各々は、突出部71aによって、周面171aを内輪62の内周面62cから離間させている。このため、間隙部173での周面171aと、内輪62の内周面62cとの間には、回転軸17の径方向に僅かな空隙Sが画定されている。2つの突出部71aは、空隙Sを維持している。
【0043】
上記のように、シールリング71は径方向に圧縮されている。シールリング71が圧縮されても空隙Sが画定できるように、装着溝172の深さD、及び圧縮前のシールリング71の直径Rが設定されている。つまり、シールリング71が圧縮されても、突出部71aによって空隙Sが画定できるように深さD及び直径Rが設定されている。
【0044】
<水素循環ポンプの動作>
駆動軸17aは、電動モータ50の駆動によって回転する。すると、従動軸17bは、駆動ギア18及び従動ギア19のギア連結を介して駆動軸17aに対して逆回転する。これにより、駆動ロータ20及び従動ロータ21が互いに逆回転する。駆動ロータ20及び従動ロータ21の回転によって、水素循環ポンプ10は、吸入孔45を介したロータ室25への水素の吸入、及び吐出孔46を介したロータ室25からの水素の吐出を行う。
【0045】
<燃料電池システム>
上記水素循環ポンプ10は、燃料電池システム90に用いられる。
図4に示すように、燃料電池システム90は、水素循環ポンプ10と、燃料電池スタック91と、水素供給路92と、電磁バルブ92aと、インジェクタ92bと、水素循環路93と、気液分離器94と、水素タンク96と、を備える。
【0046】
燃料電池スタック91は、複数の燃料電池セルをスタック化したものである。燃料電池セルとは、例えば、固体高分子型燃料電池である。燃料電池スタック91は、アノード極と、カソード極と、電解質膜とを有している。燃料電池スタック91の各燃料電池セルは、アノード極に供給される燃料ガスとしての水素と、カソード極に供給される酸化剤ガスとしての酸素を含む空気との電気化学反応により発電を行う。燃料電池スタック91の各燃料電池セルでは、水素と酸素とが反応することにより水が生成される。
【0047】
水素供給路92は、燃料電池スタック91のアノード極と水素タンク96とを接続している。水素供給路92は、燃料電池スタック91に水素を供給するための経路である。水素タンク96に貯留されている水素は、水素供給路92を介して燃料電池スタック91のアノード極に供給される。水素供給路92には、電磁バルブ92aと、インジェクタ92bとが設けられている。水素タンク96から燃料電池スタック91への水素の供給方向において、電磁バルブ92aは、インジェクタ92bよりも上流に配置されている。電磁バルブ92aは、水素供給路92を開閉させる。インジェクタ92bは、水素タンク96から開状態の電磁バルブ92aを通過した水素の圧力を調整する。
【0048】
水素循環路93は、燃料電池スタック91と水素供給路92とを接続している。詳細には、水素循環路93は、燃料電池スタック91のアノードオフガス排出口91aと水素供給路92とを接続している。燃料電池スタック91のアノードオフガス排出口91aからは、アノードオフガスが排出される。アノードオフガスは、燃料電池スタック91で未反応の水素と、燃料電池スタック91で生成される水とが含まれている排気である。
【0049】
水素循環路93には、気液分離器94及び水素循環ポンプ10が設けられている。燃料電池スタック91から水素供給路92へのアノードオフガスの流れ方向において、気液分離器94は、水素循環ポンプ10よりも上流に配置されている。
【0050】
気液分離器94は、燃料電池スタック91から排出されるアノードオフガスから水素と水を分離させる機能を有している。気液分離器94からは、水と分離された水素が排気として排出される。また、気液分離器94からは、アノードオフガスから水素を分離させた後の水が排出される。
【0051】
水素循環ポンプ10は、気液分離器94によって水と分離された水素を吸入し、吸入した水素を水素供給路92に向けて吐出する。つまり、水素循環ポンプ10は、気液分離器94により排気から分離された水素を水素供給路92に戻す。水素循環路93は、水素タンク96から燃料電池スタック91への水素の供給方向において、インジェクタ92bより下流で水素供給路92に接続されている。
【0052】
なお、燃料電池システム90は、図示しない酸素用アクチュエータを備えている。酸素用アクチュエータは、例えば、燃料電池スタック91に酸素を含む空気を供給するエアコンプレッサ、及びエアコンプレッサと燃料電池スタック91とを接続するカソードガス供給路を開閉するエアシャットバルブを含んでいる。
【0053】
<実施形態の作用>
水素循環ポンプ10の動作時、回転軸17は回転する。このとき、軸受装置60の2つのシールリング71によって、内輪62は、回転軸17と一体に回転する。また、2つのシールリング71は、内輪62と回転軸17とを離間させるため、内輪62と回転軸17との間に微小な滑りが発生することが抑制される。
【0054】
そして、水素循環ポンプ10はポンプ部30の動作によって、気液分離器94によって水と分離された水素を吸入し、吸入した水素を水素供給路92に向けて吐出する。吸入する水素には、気液分離器94で分離できなかった水が含まれる。このため、水素とともに、ロータ室25に水が侵入する。ロータ室25に侵入した水は、回転軸17の周面に沿って、内輪62と支持軸部171との間の空隙Sに侵入しようとする。このとき、第1シールリング711は、空隙Sへの水の侵入を抑制する。
【0055】
また、ロータ室25に吸入された水素は、ロータ室25から回転軸17の周面に沿って軸受収容室26内に侵入する。水素には、水蒸気として水が含まれている。このため、水素循環ポンプ10の使用環境によっては、水蒸気が結露して、軸受収容室26内に結露水が発生する。結露水は、回転軸17の周面に沿って、内輪62と支持軸部171との間の空隙Sに侵入しようとする。このとき、第2シールリング712は、空隙Sへの水の侵入を抑制する。
【0056】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)軸受装置60によれば、2つのシールリング71によって、内輪62と回転軸17とを離間させることができるため、内輪62と回転軸17との間に微小な滑りが発生することを抑制できる。そして、2つのシールリング71によって、内輪62の軸線方向の両側から空隙Sに水が侵入することを抑制できる。このため、万一、内輪62と回転軸17とが接触して微小な滑りが発生してしまっても、水によって微小な滑りによる摩耗が促進されてしまうことを抑制できる。よって、内輪62と回転軸17との摩擦によって摩耗粉が発生してしまうことを抑制できる。その結果、摩耗粉がロータ室25等に侵入することを抑制できる。このため、摩耗粉を原因とした駆動ロータ20及び従動ロータ21の損傷や、第3シール部材32cの損傷の発生を抑制できる。さらには、内輪62と回転軸17とのギャップの拡大を抑制できるため、駆動ロータ20と従動ロータ21との間での隙間の拡大を抑制して、ポンプ機能の低下を抑制できる。
【0057】
(2)第1シールリング711は、内輪62の第1端面62a寄りで内輪62の内周面62cに押し付けられている。第2シールリング712は、内輪62の第2端面62b寄りで内輪62の内周面62cに押し付けられている。つまり、2つのシールリング71は、内輪62の軸線方向の両端に設けられている。このため、間隙部173を、回転軸17の軸線方向に広く確保できる。よって、微小な滑りの発生を抑制した箇所を広く確保できる。さらに、2つのシールリング71により、内輪62の軸線方向の両端からの水の侵入を抑制できる。このため、万一、内輪62と回転軸17とが接触して微小な滑りが発生してしまっても、内輪62の軸線方向の全体に亘って、水によって微小な滑りによる摩耗が促進されてしまうことを抑制できる。
【0058】
(3)シールリング71は、ゴム製である。このため、弾性変形したシールリング71の圧縮反力により、内輪62の内周面62c及び装着溝172の内底面172aに対してシールリング71を押し付けることができる。そして、この押し付けによって発生する摩擦によって、内輪62と回転軸17とを一体に回転させることができる。さらに、シールリング71の圧縮反力によって、内輪62と回転軸17とを径方向に離間させることができる。したがって、ゴム製のシールリング71といった簡単な構成であっても、内輪62の軸線方向の全体に亘って、水によって微小な滑りによる摩耗が促進されてしまうことを抑制できる。
【0059】
(4)支持軸部171は、2つのシールリング71によって内輪62の内周面62cから離れている。このため、回転軸17に傾きが発生しても、2つのシールリング71によって、支持軸部171が内輪62に接触することを抑制できる。
【0060】
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○シールリング71は、ゴム以外の弾性変形可能な樹脂に変更してもよい。
【0061】
○シール部材は、装着溝172に装着された圧縮バネと、その圧縮バネに支持された環状部材と、から構成されていてもよい。環状部材は、シール性を発揮するゴムが好ましいが、ゴム以外でもよい。この場合、ゴム以外の樹脂は、弾性変形しない材質でもよい。また、環状部材は、装着溝172の第1内周面172b及び第2内周面172cに密接するとともに、回転軸17の周面に密接することにより、内輪62と回転軸17との間をシールする。そして、このように構成しても、圧縮バネによって、環状部材を付勢できる。
【0062】
○支持軸部171での2つの装着溝172の位置は、2つの装着溝172が回転軸17の軸線方向に離れていれば適宜変更してもよい。そして、装着溝172の位置に応じてシールリング71の位置が変更される。
【0063】
○ポンプ部30は、スクリュー式や、ギア式など、ルーツ式以外でもよい。
○流体機械の用途は、流体を圧送できれば、水素循環ポンプ10以外の用途でもよい。例えば、流体機械は、ウォータポンプでもよい。
【0064】
○第3軸受31cにおいて、その内輪62と回転軸17との間にシールリング71を設けて軸受装置60としてもよい。
○内輪62の内周面62cに装着溝172を設けるとともに、内輪62にシールリング71を装着してもよい。
【0065】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記付勢部材はゴム製である流体機械。
(ロ)燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに水素を供給する経路である水素供給路と、前記燃料電池スタックと前記水素供給路とに接続される水素循環路と、前記水素循環路に設けられるとともに前記燃料電池スタックから排出される水及び水素を含む排気から水素を分離させる気液分離器と、前記水素循環路に設けられるとともに前記気液分離器により排気から分離された水素を前記水素供給路に戻す水素循環ポンプと、を備え、前記水素循環ポンプは、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の水素循環ポンプであることを特徴とする燃料電池システム。
【符号の説明】
【0066】
11…ハウジング、17…回転軸、25…ポンプ室としてのロータ室、30…ポンプ部、45…吸入孔、46…吐出孔、15c…軸受支持部としての第4軸受支持部、61…軸受としての第4軸受、62…内輪、63…外輪、64…転動体、71…シール部材としてのシールリング。