(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082470
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】等速自在継手のボール自動組込方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/20 20060101AFI20240613BHJP
F16D 3/2245 20110101ALI20240613BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F16D3/20 H
F16D3/2245
B23P21/00 306Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196340
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】谷口 拓也
【テーマコード(参考)】
3C030
【Fターム(参考)】
3C030CA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】交差トラック溝形式の等速自在継手というトラック溝形式や、ツェッパ型等速自在継手等の内部仕様に拘わらず、ボールの自動組込を可能にする等速自在継手のボール自動組込方法を提供する。
【解決手段】等速自在継手の自動ボール組立方法。ケージ5の球状内周面に内側継手部材3の球状外周面を篏合させた内側組合せ体を外側継手部材2の球状内周面に篏合し、ケージ5、内側継手部材と外側継手部材の各軸線を略一致させた状態で、傾斜レバーにより内側継手部材を外側継手部材に対して傾斜させ、外側継手部材の開口端部に露出したケージのポケット5aにボール4を組込み、その後、ケージの他のポケットにボールを組込むため、傾斜レバー61により内側継手部材の軸線の傾斜を戻す際、ケージ押し込み機構65によりケージを押し込むことを特徴とする。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝とこれに対応する前記内側継手部材のトラック溝との間に配置されトルクを伝達する複数のボールと、このボールを収容するポケットを有し、前記外側継手部材の球状内周面と前記内側継手部材の球状外周面にそれぞれ摺接する球状外周面と球状内周面を有するケージを備えた等速自在継手の自動ボール組立方法であって、
前記ケージの球状内周面に前記内側継手部材の球状外周面を篏合させた内側組合せ体を前記外側継手部材の球状内周面に篏合し、前記ケージ、前記内側継手部材および前記外側継手部材の各軸線を略一致させた状態で配置し、
傾斜レバーにより前記内側継手部材の軸線を前記外側継手部材の軸線に対して傾斜させて、前記外側継手部材の開口端部に露出した前記ケージのポケットにボールを組込み、
その後、前記ケージの他のポケットにボールを組込むために、前記傾斜レバーにより前記内側継手部材の軸線の傾斜を戻す際、ケージ押し込み機構により前記ケージを押し込むことを特徴とする等速自在継手のボール自動組込方法。
【請求項2】
前記傾斜レバーにより前記内側継手部材の軸線を前記外側継手部材の軸線に対して傾斜させる際、ケージ起こしレバーにより前記ケージを押し込むことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手のボール自動組込方法。
【請求項3】
前記ケージ押し込み機構が前記傾斜レバーの駆動源とは別の駆動源により駆動されること特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手のボール自動組込方法。
【請求項4】
前記ケージ押し込み機構が前記傾斜レバーに付設され、前記傾斜レバーの駆動源により駆動されること特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手のボール自動組込方法。
【請求項5】
前記等速自在継手は交差トラック溝形式であって、前記外側継手部材のトラック溝は、ボール軌道中心線が継手中心(O)を曲率中心とする円弧状部分を有し、前記ボール軌道中心線と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成されており、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線と鏡像対称に形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の等速自在継手のボール自動組込方法。
【請求項6】
前記等速自在継手の外側継手部材のトラック溝は、前記奥側に位置する第1のトラック溝部(7a)と、前記開口側に位置する第2のトラック溝部(7b)とからなり、前記第1のトラック溝部(7a)は、継手中心(O)を曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線(Xa)を有し、少なくともボール軌道中心線(Xa)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記第1のトラック溝部(7a)で互いに反対方向に形成されており、前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)を前記平面(M)上に投影したとき、ボール軌道中心線(Xb)が直線状部分を有し、かつこの直線状部分は開口側に行くにつれて前記継手の軸線(N-N)に接近するように傾斜して形成されており、前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の端部(A)が前記継手中心(O)より開口側に位置し、この端部(A)に前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)が接続されたものであって、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線(X)と鏡像対称に形成されていることを特徴とする請求項1~5いずれか一項に記載の等速自在継手のボール自動組込方法。
【請求項7】
前記等速自在継手は、外側継手部材の軸方向に延びる円弧状のトラック溝の曲率中心と、内側継手部材の軸方向に延びる円弧状のトラック溝の曲率中心とが、継手の中心に対して軸方向反対側に等距離オフセットされていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の等速自在継手のボール自動組込方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、等速自在継手のボール自動組込方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明は、球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝との間に配置されトルクを伝達する複数のボールと、このボールを収容するポケットを有し、外側継手部材の球状内周面と内側継手部材の球状外周面にそれぞれ摺接する球状外周面と球状内周面を有するケージを備えた等速自在継手のボール自動組込方法に関する。
【0003】
この種の等速自在継手の一例として、外側継手部材と内側継手部材のトラック溝が、継手中心に対して軸方向にオフセットがない曲率中心をもつ円弧状のボール軌道中心線を有し、このボール軌道中心線と継手中心を含む平面を継手の軸線に対して周方向に傾斜させ、この傾斜方向を外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝とで相反させた等速自在継手がある。そして、外側継手部材のトラック溝および内側継手部材のトラック溝のそれぞれの傾斜方向を周方向に交互に反対にした等速自在継手は、トルク損失および発熱が少なく高効率を図ることができる。
【0004】
従来の組立方法として、6個のボールを用いたツェッパ型等速自在継手の自動組立方法が特許文献1に記載されている。この自動組立方法は、基準ボール挿入工程と、内側組合せ体組込工程と、ボール組込工程とを備えている。具体的には、基準ボール挿入工程において、内輪とその外側にケージを篏合した内側組合せ体に対し、内輪のトラック溝とケージのポケットを位置合わせした後、一つのポケット内に基準ボールを挿入する。次に、内側組合せ体組込工程において、一つのポケット内にある基準ボールを外輪の外側に位置させた状態で、ケージの軸心を挟む両側位置に形成したポケットを外輪のトラック溝間に形成された対向位置の突部に位置合わせし、外輪の内部に内側組合せ体を嵌挿し、互いの軸心が直交状態となるように組込む。その後、内側組合せ体を外輪の円周方向に一定角度回転させた後、内側組合せ体を外輪と同軸状態となるように外輪内に倒し、基準ボールを内輪と外輪の対となる一つのトラック溝に篏合させる。
【0005】
そして、ボール組込工程において、基準ボールをトラック溝に篏合させた状態のままで外輪に対して内側組合せ体を傾動させることにより、基準ボールに対して位相方向に120°の位置関係にあるポケットを外輪の開口端部から露出させ、露出したポケットにボールを挿入し、その後、内側組合せ体を元に戻して前記ボールを外輪の対応するトラック溝に篏合し、残りの各ポケットに対しても内側組合せ体を傾動させながらボールを挿入することを順次行うことを特徴とした自動組立方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、内側継手部材および外側継手部材のトラック溝が周方向に傾斜してなく、トラック溝のボール軌道中心線と継手中心を含む平面が継手の軸線と同一方向である6個のボールを用いたツェッパ型等速自在継手の組立を前提としている。そのため、ケージのポケットにボールを挿入した後、ケージ、内側継手部材からなる内側組合せ体を元に戻してボールを外輪の対応するトラック溝に篏合させる際、内側組合せ体は比較的に滑らかに傾動し、等速自在継手の自動組立が可能になる。
【0008】
ところが、トラック溝のボール軌道中心線と継手中心を含む平面を継手の軸線に対して周方向に傾斜させた公差トラック溝形式の等速自在継手の場合、自動ボール組込の開発過程において、次のようなボール組込不具合が発生するという問題が判明した。この問題について
図19を参照して説明する。
図19(A)、
図19(C)は平面方向から見た斜視図で、
図19(B)、
図19(D)は正面方向から見た斜視図である。
【0009】
図19(A)、
図16(B)に示すように、ケージ5のポケット5aにボール4を挿入し、ボール4の挿入後、内側継手部材3、ケージ5からなる内側組合せ体Iの傾斜を戻そ
うとした時、
図19(C)、
図19(D)に示すように、ケージ5がそのまま留まり内側継手部材3のみが傾動し、内側継手部材3のトラック溝7の肩部にボール4が押され、ボール4の位相がずれ、その結果、
図19(C)に示すように、ボール4と外側継手部材2のトラック溝7の肩部Kが干渉し、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7に入り込まず、かみ込んでしまう。そして、内側組合せ体Iが水平状態まで戻らなくなり、公差トラ
ック溝形式の等速自在継手1のボール自動組込に際しボール組込不具合が発生するという問題が判明した。
【0010】
また、図示は省略するが、ツェッパ型等速自在継手において、軽量・コンパクト化を図るために、例えば、トラックオフセットの量を小さくした内部仕様等の場合にも、同様のボール組込不具合の発生や内側組合せ体の安定した傾動が得られないという問題が判明した。
【0011】
上記のような問題に鑑み、本発明は、交差トラック溝形式の等速自在継手というトラック溝形式や、ツェッパ型等速自在継手等の内部仕様に拘わらず、ボールの自動組込を可能にする等速自在継手のボール自動組込方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、一部のボールが組み込まれた内側組合せ体の傾斜を戻す際、傾斜レバーの傾斜戻し動作と同時にケージ押し込み機構を動作させるという着想により、本発明に至った。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝とこれに対応する前記内側継手部材のトラック溝との間に配置されトルクを伝達する複数のボールと、このボールを収容するポケットを有し、前記外側継手部材の球状内周面と前記内側継手部材の球状外周面にそれぞれ摺接する球状外周面と球状内周面を有するケージを備えた等速自在継手のボール自動組込方法であって、前記ケージの球状内周面に前記内側継手部材の球状外周面を篏合させた内側組合せ体を前記外側継手部材の球状内周面に篏合し、前記ケージ、前記内側継手部材および前記外側継手部材の各軸線を略一致させた状態で配置し、傾斜レバーにより前記内側継手部材の軸線を前記外側継手部材の軸線に対して傾斜させて、前記外側継手部材の開口端部に露出した前記ケージのポケットにボールを組込み、その後、前記ケージの他のポケットにボールを組込むために、前記傾斜レバーにより前記内側継手部材の軸線の傾斜を戻す際、ケージ押し込み機構により前記ケージを押し込むことを特徴とする。上記構成により、交差トラック溝形式の等速自在継手の溝形式や、ツェッパ型等速自在継手等の内部仕様に拘わらず、ボールの自動組込を可能にする等速自在継手のボール自動組込方法を実現することができる。
【0014】
具体的には、上記の傾斜レバーにより内側継手部材の軸線を外側継手部材の軸線に対して傾斜させる際、ケージ起こしレバーによりケージを押し込むことができる。これにより、水平姿勢の内側継手部材を確実に傾斜させることができ、ボール自動組込方法を促進する。
【0015】
上記のケージ押し込み機構が傾斜レバーの駆動源とは別の駆動源により駆動されることが望ましい。これにより、ケージ押し込み機構のケージ押し込みレバーの前進端を確実に規定することができる。
【0016】
上記ケージ押し込み機構を傾斜レバーに付設し、傾斜レバーの駆動源により駆動することができる。これにより、ケージ押し込み機構を簡素化でき、低コストに構成することができる。
【0017】
上記の等速自在継手は交差トラック溝形式であって、前記外側継手部材のトラック溝は、ボール軌道中心線が継手中心(O)を曲率中心とする円弧状部分を有し、前記ボール軌道中心線と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成されており、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線と鏡像対称に形成されていることを特徴とする。これにより、高効率な交差トラック溝形式の等速自在継手のボール自動組込方法を実現することができる。
【0018】
上記の等速自在継手の外側継手部材のトラック溝は、前記奥側に位置する第1のトラック溝部(7a)と、前記開口側に位置する第2のトラック溝部(7b)とからなり、前記第1のトラック溝部(7a)は、継手中心(O)を曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線(Xa)を有し、少なくともボール軌道中心線(Xa)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記第1のトラック溝部(7a)で互いに反対方向に形成されており、前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)を前記平面(M)上に投影したとき、ボール軌道中心線(Xb)が直線状部分を有し、かつこの直線状部分は開口側に行くにつれて前記継手の軸線(N-N)に接近するように傾斜して形成されており、前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の端部(A)が前記継手中心(O)より開口側に位置し、この端部(A)に前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)が接続されたものであって、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線(X)と鏡像対称に形成されていることを特徴とする。これにより、高作動角で高効率な交差トラック溝形式の等速自在継手のボール自動組込方法を実現することができる。
【0019】
上記の等速自在継手は、外側継手部材の軸方向に延びる円弧状のトラック溝の曲率中心と、内側継手部材の軸方向に延びる円弧状のトラック溝の曲率中心とが、継手の中心に対して軸方向反対側に等距離オフセットされていることを特徴とする。これにより、軽量・コンパクトなツェッパ型等速自在継手のボール自動組込方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、交差トラック溝形式の等速自在継手というトラック溝形式や、ツェッパ型等速自在継手等の内部仕様に拘わらず、ボールの自動組込を可能にする等速自在継手のボール自動組込方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法が対象とする等速自在継手を示し、(A)図は等速自在継手の部分縦断面図で、(B)図は、(A)図の等速自在継手の右側面図である。
【
図2】
図1の等速自在継手の外側継手部材を示し、(A)図は外側継手部材の部分縦断面図で、(B)図は、(A)図の外側継手部材の右側面図である。
【
図3】
図1の等速自在継手の内側継手部材を示し、(B)図は内側継手部材の外周面を示す図で、(A)図は、内側継手部材の左側面図で、(C)図は内側継手部材の右側面図である。
【
図4】
図1(A)の外側継手部材のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図である。
【
図5】
図1(A)の内側継手部材のトラック溝の詳細を示す縦断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法を実施する装置の一例を示す装置全体の側面図である。
【
図8】
図6に示す装置のケージ押し込み機構、ケージ起こし機構を示し、
図7のA-A線で矢視した正面図である。
【
図9】傾斜レバー機構の要部拡大図で、
図10の右側面図である。
【
図10】傾斜レバー機構の要部拡大図で、
図6のB-B線で矢視した断面図である。
【
図11】
図6のチャック装置の要部を拡大した縦断面図である。
【
図13】傾斜レバーが内側継手部材のスプライン穴に挿入された状態を示す装置の要部拡大図である。
【
図14】傾斜レバーの傾斜動作が完了し、ボールを組込む状態を示す装置の要部拡大図である。
【
図15】本実施形態のボール自動組込方法と旧方法とを対比したフロー図で、(A)図は旧方法を示し、(B)図は本実施形態のボール自動組込方法を示す。
【
図16】ボールの組込み順序を示す内側組合せ体の拡大平面図である。
【
図17】ケージ押し込み機構の先端治具を示し、(A)図は平面図で、(B)図は斜視図である。
【
図18】ケージ押し込み機構の変形例を示す要部拡大図である。
【
図19】自動ボール組込の開発過程における知見を示す図で、(A)図、(C)図は平面方向から見た斜視図で、(B)図、(D)図は正面方向から見た斜視図である。
【
図20】本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法が対象とする異なる形式の等速自在継手を示し、(A)図は部分縦断面図で、(B)図は、(A)図のC-C線における横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法が対象とする等速自在継手を
図1~
図5に基づいて説明する。
<等速自在継手の構成>
図1は本発明の一実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法が対象とする等速自在継手を示し、
図1(A)は等速自在継手の部分縦断面図で、
図1(B)は、
図1(A)の等速自在継手の右側面図である。
図2は、
図1の等速自在継手の外側継手部材を示し、
図2(A)は外側継手部材の部分縦断面図で、
図2(B)は、
図2(A)の外側継手部材の右側面図である。
図3は、
図1の等速自在継手の内側継手部材を示し、
図3(B)は内側継手部材の外周面を示す図で、
図3(A)は、内側継手部材の左側面図で、
図3(C)図は内側継手部材の右側面図である。
図4は、
図1(A)の外側継手部材のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図で、
図5は、
図1(A)の内側継手部材のトラック溝の詳細を示す縦断面図である。
【0023】
等速自在継手1は固定式等速自在継手であり、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4およびケージ5を主な構成とする。
図1(B)、
図2および
図3に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bの各交差部に8個のボール4が配置されている。トラック溝7、9の詳細は後述する。
【0024】
継手の縦断面を
図1(A)に示す。軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、本明細書では、ボール軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、ボール軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。したがって、トラック溝の傾斜状態は、ボール軌道中心線の傾斜状態と同じであり、また、トラック溝の円弧状、あるいは直線状の状態は、ボール軌道中心線の円弧状、あるいは直線状の状態と同じである。
【0025】
図1(A)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7はボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。なお、外側継手部材2のトラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とするボール軌道中心線Xaからなる円弧状部分のみとしてもよい。一方、内側継手部材3のトラック溝9はボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。なお、内側継手部材3のトラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とするボール軌道中心線Yaからなる円弧状部分のみとしてもよい。
【0026】
第1のトラック溝部7a、9aのボール軌道中心線Xa、Yaの各曲率中心を、継手の軸線N-N上の継手中心Oに配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができ、かつ加工を容易にすることができる。トラック溝7、9の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝7、9とボール4は、接触角(30°~45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝7、9の溝底より少し離れたトラック溝7、9の側面側で接触している。
【0027】
図2に基づき、外側継手部材2のトラック溝7が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。外側継手部材2のトラック溝7は、その傾斜方向の違いから、トラック溝7A、7Bの符号を付す。
図2(A)に示すように、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N-Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝7Aに周方向に隣り合うトラック溝7Bは、図示は省略するが、トラック溝7Bのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝7Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。トラック溝7A、7B(および後述する9A、9B)は角度γだけ傾斜しているが、概ね軸方向に延びている。本明細書および特許請求の範囲における軸方向に延びるトラック溝とは、上記のように角度γ傾斜したものも含む概念である。
【0028】
ここで、トラック溝の符号について補足する。外側継手部材2のトラック溝全体を指す場合は符号7を付し、その第1のトラック溝部に符号7a、第2のトラック溝部に符号7bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号7A、7Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号7Aa、7Ba、第2のトラック溝部に符号7Ab、7Bbを付す。後述する内側継手部材3のトラック溝についても、同様の要領で符号を付している。
【0029】
次に、
図3に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。内側継手部材3のトラック溝9は、その傾斜方向の違いから、トラック溝9A、9Bの符号を付す。
図3(B)に示すように、トラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝9Aに周方向に隣り合うトラック溝9Bは、図示は省略するが、トラック溝9Bのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝9Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。傾斜角γは、等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝の最も接近した側の球面幅Fを考慮し、4°~12°にすることが好ましい。内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対象に形成されている。
【0030】
図4に基づいて、外側継手部材2の縦断面より見たトラック溝の詳細を説明する。
図4の部分縦断面は、前述した
図2(A)のトラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。
図4には、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。
【0031】
外側継手部材2の球状内周面6にはトラック溝7Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝7Aはボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7Aaと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abとからなる。そして、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて、第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Aが第1のトラック溝部7Aaと第2のトラック溝7Abとの接続点である。端部Aは継手中心Oよりも開口側に位置するので、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて接線として接続される第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbは、開口側に行くにつれて継手の軸線N-N〔
図1(A)参照〕に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0032】
図4に示すように、端部Aと継手中心Oとを結ぶ直線をLとする。トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面M〔
図2(A)参照〕上に投影された継手の軸線N'-N'は継手の軸線N-Nに対しγだけ傾斜し、軸線N'-N'の継手中心Oにおける垂線Kと直線Lとがなす角度をβ'とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面P上にある。したがって、直線Lが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ'×cosγの関係になる。
【0033】
同様に、
図5に基づいて、内側継手部材3の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。
図5の縦断面は、前述した
図3(B)のトラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、
図4と同様に、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。
図5には、内側継手部材3のトラック溝9Aが示されているが、トラック溝9Bは、傾斜方向がトラック溝9Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝9Aと同じであるので、説明は省略する。
【0034】
内側継手部材3の球状外周面8にはトラック溝9Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝9Aはボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9Aaと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9Abとからなる。そして、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて、第2のトラック溝部9Abのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Bが第1のトラック溝部9Aaと第2のトラック溝9Abとの接続点である。端部Bは継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて接線として接続される第2のトラック溝部9Abの直線状のボール軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N-N〔
図3(A)参照〕に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0035】
図5に示すように、端部Bと継手中心Oとを結ぶ直線をRとする。トラック溝9Aのボ
ール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Q〔
図3(B)参照)上に投影された継手の軸
線N'-N'は継手の軸線N-Nに対しγだけ傾斜し、軸線N'-N'の継手中心Oにおける垂線Kと直線Rとがなす角度をβ'とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面P上にある。したがって、直線Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ'×cosγの関係になる。
【0036】
次に、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βについて説明する。作動角θを取ったとき、外側継手部材2および内側継手部材3の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対して、ボール4がθ/2だけ移動する。使用頻度が多い作動角の1/2より角度βを決め、使用頻度が多い作動角の範囲においてボール4が接触するトラック溝の範囲を決める。ここで、使用頻度が多い作動角について定義する。まず、継手の常用角とは、水平で平坦な路面上で1名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロント用ドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°~15°の間で車種ごとの設計条件に応じて選択・決定される。
【0037】
そして、使用頻度の多い作動角とは、上記の自動車が、例えば、交差点の右折・左折時などに生じる高作動角ではなく、連続走行する曲線道路などで固定式等速自在継手に生じる作動角をいい、これも車種ごとの設計条件に応じて決定される。使用頻度の多い作動角は最大20°を目処とする。これにより、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βを3°~10°と設定する。ただし、角度βは3°~10°に限定されるものではなく、車種の設計条件に応じて適宜設定することができる。角度βを3°~10°に設定することで種々の車種に汎用することができる。
【0038】
上記の角度βにより、
図4において、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの端部Aは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も開口側に移動したときのボールの中心位置となる。同様に、内側継手部材3では、
図5において、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの端部Bは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も奥側に移動したときのボールの中心位置となる。このように設定されているので、使用頻度が多い作動角の範囲では、ボール4は、外側継手部材2および内側継手部材3の第1のトラック溝部7Aa、9Aaと、傾斜方向が反対の7Ba、9Ba(
図2、
図3参照)に位置するので、ケージ5の周方向に隣り合うポケット部5aにボール4から相反する方向の力が作用し、ケージ5は継手中心Oの位置で安定する〔
図1(A)参照〕。このため、ケージ5の球状外周面12と外側継手部材2の球状内周面6との接触力、およびケージ5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0039】
等速自在継手1の全体的な説明は以上のとおりである。次に、本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法について、当該ボール自動組込方法を実施する装置の一例を参照して説明する。当該ボール自動組込方法を実施する装置は一例であって、これに限定されるものではなく、本発明の等速自在継手のボール自動組込方法の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
<ボール自動組込方法を実施する装置の全体および主要な構成>
ボール自動組込方法を実施する装置の一例について、装置全体および主要な構成を
図6~
図12に示す。
図6は、本発明の一実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法を実施する装置の一例を示す装置全体の側面図で、
図7は装置の拡大平面図である。
図8は、装置のケージ押し込み機構、ケージ起こし機構を示し、
図7のA-A線で矢視した正面図である。
図9は傾斜レバー機構の要部拡大図で、
図10の右側面図である。
図10は、傾斜レバー機構の要部拡大図で、
図6のB-B線で矢視した断面図である。
図11は、
図6のチャック装置の要部を拡大した縦断面図で、
図12は、
図11のD-D線で矢視した横断面図である。
【0040】
図6に示すように、ボール自動組込方法を実施する装置50は、基台部51と、主フレーム部52と、内側継手部材、ケージからなる内側組合せ体Iの傾斜作動部53と、内側
組合せ体Iの傾斜作動部53を昇降させる昇降作動部54と、外側継手部材2のチャック
装置55と、ボール供給部90(
図7、
図14参照)とを主な構成とする。内側組合せ体Iの傾斜作動部53は、リニアガイド装置57、レール59によってスライド自在に設け
られている。昇降作動部54は、直動装置58(例えば、エアシリンダ)により昇降操作される。
【0041】
外側継手部材2のチャック装置55は、基台部51に設けられている。チャック装置55はボール4が組み込まれるトラック溝に対応して所定の位相角に回転方向にインデックスされる。チャック装置55の軸線は、内側組合せ体Iの傾斜作動部53の傾斜レバー機
構60の軸線と一致している。これにより、傾斜レバー機構60の傾斜レバー61が傾斜していない状態で、外側継手部材2の内部に組み込まれた内側組合せ体Iの内側継手部材
3のスプライン孔に傾斜レバー61の先端軸部61bが挿入可能となっている。
【0042】
内側組合せ体Iの傾斜作動部53は、傾斜レバー機構60、ケージ押し込み機構65お
よびケージ起こし機構70を備えている。
図6、
図7に示すように、内側組合せ体Iの傾
斜作動部53のフレーム62は、平面方向から見て略コの字状に構成され、側板部62aには、基台板62cを介してリニアガイド装置57が取り付けられ、レール59に沿ってスライド自在である。フレーム62の側板部62aには、直動装置63、64(例えば、エアシリンダ)が取り付けられ、ケージ押し込み機構65とケージ起こし機構70を作動する。ここで、特許請求の範囲におけるケージ押し込み機構が傾斜レバーの駆動源とは別の駆動源により駆動されるとは、上記の意味を含むものとする。
【0043】
フレーム62の一対の立板部62bに跨って連結板73が設けられ、この連結板73上に枢軸66が設けられている。枢軸66は、ケージ押し込み機構65のケージ押し込みレバー65aとケージ起こし機構70のケージ起こしレバー70aのそれぞれの揺動支点となっている。ケージ押し込みレバー65aとケージ起こしレバー70aのそれぞれの基端部は、リンク機構67(
図6参照)を介して直動装置63、64に連結され、直動装置63、64の引っ張り作動によりケージ押し込みレバー65aとケージ起こしレバー70aは、それぞれ、右回転(時計方向に回転)する。ケージ押し込みレバー65aとケージ起こしレバー70aのそれぞれの前進端は、ストッパ71、72により規定されている。これにより、ケージ押し込み機構65のケージ押し込みレバー65aおよびケージ起こし機構70のケージ起こしレバー70aの前進端を確実に規定することができる。
【0044】
本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法および当該組込方法を実施する装置においては、ケージ押し込み機構65とケージ起こし機構70を併設したものを例示した。ただし、ケージ押し込み機構65は必須の機構であるが、ケージ起こし機構70については、場合によっては省略してもよい。
【0045】
フレーム62の一対の立板部62bの先端側(
図7の上端側)に傾斜レバー機構60が設けられ、
図7の上端側に、傾斜レバー機構60の連結軸部80が図示されている。連結軸部80に対してボール供給部90が傾斜状態(傾斜角α=22.5°)で対向配置されている。
【0046】
ここで、ボール供給部90を傾斜状態で対向配置した理由を以下に補足する。本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法および当該組込方法を実施する装置が対象とする等速自在継手1は、前述したように、次のような構成を有する。すなわち、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bの各交差部に8個のボール4が配置される。このような8個のボール4の位相角の各交差部へのボール組込作業を考慮して、α=22.5°の傾斜状態で対向配置している。これに対して、後述するツェッパ型等速自在継手の場合は、内側継手部材および外側継手部材のトラック溝が周方向に傾斜してなく、トラック溝のボール軌道中心線と継手中心を含む平面が継手の軸線と同一方向であるので、傾斜のない対向配置とする(α=0°)。
【0047】
図7のA-A線で矢視した
図8に示すように、内側組合せ体Iの傾斜作動部53のフレ
ーム62の側板部62aに2つの直動装置63、64が設けられ、一方の直動装置63がケージ押し込みレバー65aとリンク機構67を介して連結され、他方の直動装置64がケージ起こしレバー70aとリンク機構67を介して連結されている。また、ケージ押し込みレバー65aとケージ起こしレバー70aが、傾斜レバー61の開口部61aに収容され、干渉が回避されている。
【0048】
図6のB-B線で矢視した断面図である
図10に傾斜レバー機構60の要部を拡大して示す。フレーム62の一対の立板部62bの下部に転がり軸受81を介して揺動軸82、83が回転自在に支持されている。一対の揺動軸82、83の間には
図7に示すように、連結軸部80が設けられているが、
図10では図示を省略している。揺動軸82、83には、門型の揺動フレーム84が設けられ、揺動フレーム84の上板部84aに傾斜レバー61が設けられ、傾斜レバー61には、前述した開口部61aが形成されている。
【0049】
フレーム62の一対の立板部62bを跨って上板部62cが設けられ、上板部62cに回動装置100(例えば、エアシリンダ)が設けられている。回動装置100の出力軸101にアーム部材102が取り付けられている。揺動軸82にもアーム部材103が取り付けられている。
図9に示すように、回動装置100の出力軸101に取り付けられたアーム部材102と揺動軸82に取り付けられたアーム部材103は、連接部材104により連結されている。これにより、揺動軸82は、所定の角度(ボール組込角度θm、例えば、72°程度)で揺動し、揺動フレーム84に設けられた傾斜レバー61が、先端軸部61bの中央位置(
図10のT-T線)を中心に揺動する。先端軸部61bの中央位置は内側継手部材3の継手中心O〔
図3(B)参照〕となる軸方向位置である。これにより、後述する内側組合せ体Iのボール組込角度θmへの傾斜作動、および内側組合せ体Iの水
平姿勢への戻し作動が可能になる。
【0050】
図11、
図12に基づいて外側継手部材2のチャック装置55を説明する。
図11は、
図6のチャック装置55の要部を拡大した縦断面図で、
図12は、
図11のD-D線で矢視した横断面図である。チャック装置55は基台部51に設けられている。チャック装置55の略円筒部114の上部に設置台110が設けられている。設置台110には、外側継手部材2のステム軸部2bのガイド孔111と、外側継手部材2のバックフェイスが当接する基準面112が形成されている。設置台110の下方にチャックの把持部113が形成され、把持部113は、例えば、3つ爪チャックで構成されている。把持部113が二点鎖線の位置まで前進し、設置台110に設置された外側継手部材2のステム軸部2bを把持部113がクランプし固定する。
【0051】
略円筒部114には、主軸部115が設けられ、転がり軸受116により旋回自在に支持されている。主軸部115を適宜動力により回転駆動(例えば、タイミングベルト駆動)することにより、チャック装置55はインデックスが可能になる。これにより、外側継手部材2のトラック溝7にボール供給部90の供給口91(
図7、
図14参照)の回転位相を対応させることができる。
図6に示すように、チャック装置55の略筒状部114の上部に設けたガイド部117にカムフロワー118を当接案内させてチャック装置55の振れを抑制している。
【0052】
以上が、本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法を実施する装置の一例に関する装置全体および主要な構成である。次に、本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法のボール組込作動について、前述したボール自動組込方法を実施する装置の一例と合わせて説明する。
【0053】
<ボール自動組込方法を実施する装置のボール組込作動>
図6に示すように、内側組合せ体Iの傾斜作動部53が上昇し上側端まで後退する。こ
の状態では、傾斜レバー61は傾斜してなく、垂直姿勢である。チャック装置55に外側継手部材2がセットされ、その後、把持部113が前進し、外側継手部材2のステム軸部2bを把持部113がクランプし固定する。外側継手部材2の内周部には内側組合せ体I
が水平姿勢で組み込まれており、外側継手部材2と内側組合せ体Iの軸線は一致している
。外側継手部材2をチャック装置55にクランプ固定後、
図6に示す状態から、傾斜作動部53が下降し、傾斜レバー61の先端軸部61bが内側組合せ体Iの内側継手部材3のスプライン孔に挿入される。この状態を
図13に示す。
図13は、傾斜レバー61が内側継手部材3のスプライン穴に挿入された状態を示す装置の要部拡大図である。
【0054】
その後、傾斜レバー61が傾斜作動する。この傾斜作動と同時にケージ起こしレバー70aの先端がケージ5の端部を押圧し、内側組合せ体Iの内側継手部材3、ケージ5が傾
斜作動する。ケージ起こしレバー70aは、傾斜レバー61の初動時にケージ5の端部を押圧すれば、内側継手部材3、ケージ5の傾斜作動は円滑に行うことができる。直動装置64の引っ張り作動によるケージ起こしレバー70aの前進端は、ストッパ72により規定されている。
【0055】
図14に示すように、内側継手部材3が外側継手部材2に対してボール組込角度θmまで傾斜し、ケージ5のポケット5aが外側継手部材2の開口端部から露出する状態となり傾斜レバー61の傾斜動作が完了する。
図14は、傾斜レバー61の傾斜動作が完了し、ボールを組込む状態を示す装置の要部拡大図である。外側継手部材2の開口端部から露出したケージ5のポケット5aにボール供給部90の供給口91から1つのボール4が供給され、ボール4が組み込まれる。このボール4を1個目のボール4とする。ボール供給部90は、等速自在継手の型番に応じて最初に段取り調整し、
図14の位置に設置されている。すなわち、
図6、
図11、
図13等でもボール供給部90は設置されているが、図示を省略している。
【0056】
その後、傾斜レバー61は戻し作動する。
図14に示すように、傾斜レバー61の戻し作動と同時にケージ押し込みレバー65aの先端がケージ5の端部を押圧し、内側組合せ体Iの内側継手部材3、ケージ5が戻し作動する。ケージ押し込みレバー65aは、傾斜
レバー61の初動時にケージ5の端部を押圧すれば、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7に入り込むので、ボール4とトラック溝7とのかみ込み問題は解消する。したがって、内側継手部材3、ケージ5の戻し作動は円滑に行うことができる。直動装置63の引っ張り作動によるケージ押し込みレバー65aの前進端は、ストッパ71により規定されている。内側組合せ体Iが水平状態まで戻ると、次の順番のボール4を組込むために、チャック装置55をインデックスする。
【0057】
内側組合せ体Iへのボール4の組込順序について、
図16に基づいて具体的に説明する
。前述した1個目のボールに符号4(1)を付す。このボール4(1)の回転位相を0°とする。このボール4(1)の回転位相0°を基準にして、右回り(時計回り)に2個目のボール4(2)~8個目のボール4(8)までの回転位相は、2個目のボール4(2)は225°、3個目のボール4(3)は90°、4個目のボール4(4)は135°、5個目のボール4(5)は45°、6個目のボール4(6)は315°、7個目のボール4(7)は270°、8個目のボール4(8)は180°となる。このようなボール4の組込順序および回転位相を設定することにより、ボール4の組込が円滑になる。
【0058】
1個目のボール4(1)を組込んだ後、チャック装置55を回転位相225°にインデックスし、内側組合せ体Iの傾斜作動、ボール4(2)の組込、戻し作動を行う。そして
、内側組合せ体Iの傾斜作動、ボール4の組込、戻し作動を順次繰り返して8個目のボー
ル4(8)まで組込む。これにより、ボール自動組込工程が完了する。
【0059】
上述したボール4の組込順序は一例であって、ボール4の組込順序および回転位相は適宜変更することができる。また、ケージ5のポケット5aとボール4とのポケットすきまをわずかな締め代設定として、内側組合せ体Iに予め1個の基準ボールを組込んだ状態で、外側継手部材2の内周に組込んで、以降、残りのボールを順次組込んでもよい。
【0060】
本実施形態に係るボール自動組込方法と旧方法とを対比した工程フローを
図15に要約して示す。
図15(A)は旧方法を示し、
図15(B)は本実施形態のボール自動組込方法を示す。本実施形態のボール自動組込方法では、傾斜レバーの戻し作動と同時にケージ押し込みレバーがケージの端部を押圧し、内側組合せ体の内側継手部材、ケージが戻し作動する。ボールが外側継手部材のトラック溝に入り込むので、ボールとトラック溝とのかみ込み問題は解消する。したがって、内側継手部材、ケージの戻し作動は円滑に行うことができる。
【0061】
図17にケージ押し込み機構65の先端治具65bを示す。
図17(A)は平面図で、
図17(B)は斜視図である。ケージ押し込み機構65の先端治具65bのケージ5との接触面65cは、曲率半径Rを有する滑らかな円弧形状に形成されている。曲率半径Rは20mm~50mm程度で適宜設定される。また、接触面65cは高周波焼入れ等で表面硬化されている。このため、ケージ5の端面の傷等の発生が抑制され、耐摩耗性も良好である。
【0062】
<ケージ押し込み機構の変形例>
図18にケージ押し込み機構65の変形例を示す。
図18は本変形例の要部拡大図で、傾斜レバー61にケージ押し込み機構65を付設したものである。傾斜レバー61に緩衝装置68を取り付けてケージ押し込み機構65を追加したものである。前述した本実施形態の傾斜レバー61では、別に設けた直動装置によって駆動したが、本変形例では駆動装置は別に設けていない。したがって、ケージ押し込み機構を簡素化でき、低コストに構成することができる。傾斜レバー61、ケージ押し込み機構65のその他の構成や作用については、前述した本実施形態の傾斜レバー機構65、ケージ押し込み機構65と同様である。同一の機能を有する部位には同一の符号を付して要点のみ説明する。
【0063】
本変形例のケージ押し込み機構65は、傾斜レバー61に設けられている。ケージ押し込み機構65は、緩衝装置68とケージ押し込みレバー65aとからなる。緩衝装置68が傾斜レバー61に取り付けられ、ケージ押し込みレバー65aがケージ5の端部に当接している。ケージ押し込みレバー65aは、緩衝装置68を介して傾斜レバー61と一体に作動する。ここで、特許請求の範囲におけるケージ押し込み機構が傾斜レバーに付設され、傾斜レバーの駆動源により駆動されるとは、上記の意味を含むものとする。
【0064】
<ボール自動組込方法が対象とする異なる形式の等速自在継手の構成>
本実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法が対象とする異なる形式の等速自在継手を
図20に基づいて説明する。
図20(A)は部分縦断面図で、
図20(B)は、(A)図のC-C線における横断面図である。
【0065】
図20(A)、
図20(B)に示すように、ツェッパ型等速自在継手201は、外側継手部材202、内側継手部材203、ボール204およびケージ205を主な構成とする。外側継手部材202の球状内周面206には軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝207が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する。内側継手部材203の球状外周面208には軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝209が形成されている。外側継手部材202のトラック溝207とこれに対応する内側継手部材203のトラック溝209との間にトルクを伝達する8個のボール204が1個ずつ組み込まれている。ケージ205は、このボール204を収容するポケット205aを有し、外側継手部材202の球状内周面206と内側継手部材203の球状外周面208にそれぞれ摺接する球状外周面212と球状内周面213を有する。
【0066】
外側継手部材202の球状内周面206と内側継手部材203の球状外周面208の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材202のトラック溝207の曲率中心Ooと、内側継手部材203のトラック溝209の曲率中心Oiは、継手の中心Oに対して軸方向反対側に等距離f1オフセットされている。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材202と内側継手部材203の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール204が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達される。
【0067】
上述したツェッパ型等速自在継手201は、軽量・コンパクト化を図るために、例えば、トラックオフセットの量f1を小さくした内部仕様となっているが、傾斜レバーにより内側継手部材の軸線の傾斜を戻す際、ケージ押し込み機構により同時にケージを押し込むことにより、ボールの自動組込が可能となる。前述した一実施形態に係る等速自在継手のボール自動組込方法、該組込方法を実施する装置の一例に関する装置全体および主要な構成、ボール組込作動、内側組合せ体Iへのボールの組込順序などについての前述した内容は、ツェッパ型等速自在継手201においても同様であるので、準用する。
【0068】
以上説明した実施形態では、等速自在継手のボールの個数が8個のものを例示したが、ボールの個数は6個~10個あるいは、それ以上の個数も適宜実施することができる。
【0069】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0070】
1、201 等速自在継手
2、202 外側継手部材
3、203 内側継手部材
4、204 ボール
5、205 ケージ
5a、205a ポケット
6、206 球状内周面
7、207 トラック溝
7a 第1のトラック溝部
7b 第2のトラック溝部
8、208 球状外周面
9、209 トラック溝
9a 第1のトラック溝部
9b 第2のトラック溝部
12、212 球状外周面
13、213 球状内周面
M ボール軌道中心線を含む平面
N 継手の軸線
O 継手中心
Oo 曲率中心
Oi 曲率中心
P 平面
X ボール軌道中心線
Xa ボール軌道中心線
Xb ボール軌道中心線
Y ボール軌道中心線
Ya ボール軌道中心線
Yb ボール軌道中心線