(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082491
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196371
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】長野 剛
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS08
5H730BB27
5H730DD04
5H730EE07
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG02
(57)【要約】
【課題】 広い電圧範囲において高効率で電力を伝送することが可能な電力変換システムを提供する。
【解決手段】 制御装置106aは、直流電圧検出部107aおよび107bが検出した1次側直流電圧および2次側直流電圧と制御変数Dとに基づき、第1ブリッジ回路111および第2ブリッジ回路112のスイッチング素子の各々に対する駆動パルスを生成する。また、制御装置106aは、駆動パルスのエッジの位相を制御することにより、絶縁トランス102の1次側および2次側の各交流電圧の双方がゼロ電圧となる期間を制御する不連続電流モードの位相制御、あるいは、駆動パルスのエッジの位相を制御することにより、絶縁トランス102の1次側および2次側の各交流電圧が逆極性となる期間δを制御する連続電流モードの位相制御を制御変数Dの大きさに応じて実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁トランスと、前記絶縁トランスの1次側および2次側それぞれに接続され、少なくとも1つのスイッチング素子を各々含む第1ブリッジ回路および第2ブリッジ回路とを備える絶縁DC/DCコンバータと、
前記第1ブリッジ回路に与えられる1次側直流電圧と前記第2ブリッジ回路に与えられる2次側直流電圧の双方を検出する直流電圧検出部と、
前記直流電圧検出部が検出した1次側直流電圧および2次側直流電圧と制御変数とに基づき、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路の前記スイッチング素子の各々に対する駆動パルスを生成する制御装置と、
前記駆動パルスに基づき、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路の前記スイッチング素子を駆動する駆動回路部と、を備え、
前記制御装置は、
前記駆動パルスのエッジの位相を制御することにより、前記絶縁トランスの1次側および2次側の各交流電圧の双方がゼロ電圧となる期間を制御する不連続電流モードの位相制御、あるいは、
前記駆動パルスのエッジの位相を制御することにより、前記絶縁トランスの1次側および2次側の各交流電圧が逆極性となる期間を制御する連続電流モードの位相制御
を前記制御変数の大きさに応じて実行することを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記不連続電流モードの位相制御および前記連続電流モードの位相制御の双方において、前記絶縁トランスに流れる電流のピーク点の前後の変曲点の電流値が一致するように前記駆動パルスのエッジの位相を制御することを特徴とする請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記不連続電流モードの位相制御および前記連続電流モードの位相制御の双方において、前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧との間に第1の差電圧が発生する期間における当該第1の差電圧の時間積分と、前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧との間に前記第1の差電圧と逆極性の第2の差電圧が発生する期間における当該第2の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように前記駆動パルスのエッジの位相を制御することを特徴とする請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記不連続電流モードの位相制御において、前記絶縁トランスの1次側または2次側のうち一方の交流電圧が第1の極性、他方の交流電圧がゼロ電圧をなる第1の期間と、前記絶縁トランスの1次側および2次側の双方の交流電圧が前記第1の極性となる第2の期間と、前記絶縁トランスの1次側および2次側の双方の交流電圧がゼロ電圧となる第3の期間とを順次発生させ、前記第3の期間を前記制御変数の大きさに応じて減少させ、
前記連続電流モードの位相制御において、前記絶縁トランスの1次側および2次側の各交流電圧が逆極性となる第4の期間と、前記絶縁トランスの1次側または2次側の一方の交流電圧が前記第1の極性、他方の交流電圧がゼロ電圧となる第5の期間と、前記絶縁トランスの1次側および2次側の双方の交流電圧が前記第1の極性となる第6の期間とを順次発生させ、前記第4の期間を前記制御変数の大きさに応じて増加させることを特徴とする請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記不連続電流モードの位相制御において、前記第1の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分と、前記第2の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように前記駆動パルスのエッジの位相を制御し、
前記連続電流モードの位相制御において、前記第5の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分と、前記第6の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように前記駆動パルスのエッジの位相を制御することを特徴とする請求項4に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁DC/DCコンバータを利用した電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図7は絶縁DC/DCコンバータ110を利用した電力変換システム100の構成例を示す回路図である。絶縁DC/DCコンバータ110は、1次側巻線と2次側巻線が電気的に絶縁された絶縁トランス102を有する。絶縁トランス102の1次側巻線には直列インダクタ104aが接続されている。この直列インダクタ104aは、絶縁トランス102の1次側巻線の漏れインダクタンスあるいはこの漏れインダクタンスに対して外付けインダクタンスを追加したものである。なお、漏れインダクタンスのみを電力伝送に利用する場合には、外付けインダクタンスは不要である。絶縁トランス102の2次側巻線にも同様な直列インダクタ104bが接続されている。
【0003】
第1ブリッジ回路111は、絶縁トランス102の1次側巻線に対して1次側交流電圧v1を供給する回路である。この第1ブリッジ回路111は、直列接続されたスイッチング素子101aおよび101bと、直列接続されたスイッチング素子101cおよび101dとを並列接続したフルブリッジ回路である。この例において、スイッチング素子101a~101dの各々は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;金属-酸化膜-半導体構造の電界効果トランジスタ)と、これに対して逆並列接続されたダイオードとからなる。第1ブリッジ回路111には、キャパシタ103aが並列接続される。そして、第1ブリッジ回路111には、1次側直流電圧E1が与えられる。この第1ブリッジ回路111において、スイッチング素子101aおよび101b間の中間ノードと、スイッチング素子101cおよび101d間の中間ノードとの間から、絶縁トランス102に対する1次側交流電圧v1が出力される。
【0004】
第2ブリッジ回路112は、絶縁トランス102の2次側巻線に対して2次側交流電圧v2を供給する回路である。この第2ブリッジ回路112は、第1ブリッジ回路111と同様、直列接続されたスイッチング素子101eおよび101fと、直列接続されたスイッチング素子101gおよび101hとを並列接続したブリッジ回路である。第2ブリッジ回路112には、キャパシタ103bが並列接続される。そして、第2ブリッジ回路112には、2次側直流電圧E2が与えられる。この第2ブリッジ回路112において、スイッチング素子101eおよび101f間の中間ノードと、スイッチング素子101gおよび101h間の中間ノードとの間から、絶縁トランス102に対する2次側交流電圧v2が出力される。
【0005】
直流電圧検出部107aは、第1ブリッジ回路111に与えられる1次側直流電圧E1を検出する回路である。また、直流電圧検出部107bは、第2ブリッジ回路112に与えられる2次側直流電圧E2を検出する回路である。
【0006】
制御装置106は、第1ブリッジ回路111のスイッチング素子101a~101dを各々駆動するための駆動パルスGa~Gdと、第2ブリッジ回路112のスイッチング素子101e~101hを各々駆動するための駆動パルスGe~Ghを発生する装置である。
【0007】
駆動回路部105aは、制御装置106が発生する駆動パルスGa~Gdによりスイッチング素子101a~101dを駆動し、駆動回路部105bは、制御装置106が発生する駆動パルスGe~Ghによりスイッチング素子101e~101hを駆動する。
【0008】
制御装置106は、直流電圧検出部107aにより検出される1次側直流電圧E1および直流電圧検出部107bにより検出される2次側直流電圧E2に基づき、スイッチング素子101a~101hを駆動するための駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御し、絶縁DC/DCコンバータ110の電力伝送の制御を行う。
【0009】
以下、
図8の波形図を参照し、電力変換システム100の動作例を説明する。電力変換システム100において、第1ブリッジ回路111および第2ブリッジ回路112は、同じ周期(波長)の1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2を出力する。以下の説明では、位相角あるいは位相差という用語が用いられるが、これは1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の1周期(1波長)を2πとして表現した各種の期間の相対的な長さを意味する。また、以下の説明において、2次側直流電圧E
2および2次側交流電圧v
2は1次側に換算した電圧値を意味する。すなわち、絶縁トランス102の1次側巻線の巻回数をn1、2次側巻線の巻回数をn2とした場合において、実際の2次側直流電圧に対して係数n1/n2を乗算した電圧値(1次側に換算した電圧値)が2次側直流電圧E
2である。2次側交流電圧v
2についても同様である。また、以下の説明において、低圧側および高圧側は、絶縁DC/DCコンバータ110の1次側および2次側のうち低圧が発生している側および高圧が発生している側を意味する。例えば1次側直流電圧E
1と1次側換算された2次側直流電圧E
2との間にE
1<E
2の関係があれば1次側が低圧側で2次側が高圧側であり、E
1>E
2の関係があれば1次側が高圧側で2次側が低圧側である。
【0010】
図8の動作例では、1次側直流電圧E
1と2次側直流電圧E
2との間にE
1<E
2の関係がある。従って、1次側が低圧側、2次側が高圧側である。この動作例において、制御装置106は、±E
1の振幅を有し、デューティ比50%を有する矩形波の1次側交流電圧v
1を第1ブリッジ回路111に出力させ、かつ、±E
2の振幅を有し、デューティ比50%を有し、1次側交流電圧v
1に対して位相角δだけ遅れた矩形波の2次側交流電圧v
2を第2ブリッジ回路112に出力させている。なお、ここでデューティ比は50%から多少ずらす場合もある。このように1次側交流電圧v
1に対して2次側交流電圧v
2の位相が遅れる場合、絶縁DC/DCコンバータ110では、1次側から2次側への電力伝送が行われる。以下、この電力伝送の動作を説明する。
【0011】
絶縁DC/DCコンバータ110では、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との電圧差が絶縁トランス102の漏れインダクタンスlおよび外付けのインダクタンスLauxからなるインダクタンスL=l+Lauxに印加され、次式(1.1)を満たす電流iが絶縁トランス104の1次側巻線に流れる。また、この電流iに対応した電流(絶縁トランス102の1次側および2次側の巻数比が1である場合は電流iと同じ電流)が絶縁トランス104の2次側巻線に流れる。
di/dt=(v1(t)-v2(t))/L ……(1.1)
【0012】
この動作例において、1次側交流電圧v
1の立ち上がりエッジから位相角δの期間および1次側交流電圧v
1の立ち下がりエッジから位相角δの期間は、1次側交流電圧v
1と2次側交流電圧V
2とが逆極性になる。従って、この期間は、他の期間よりも大きな電圧差がインダクタンスLに印加され、
図8に示すように電流iの時間勾配が大きくなる。
【0013】
従って、1次側から2次側に伝送される電力Pは、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との位相差δに依存して大きくなる。具体的には、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の基本波角周波数をωとすると、1次側から2次側への伝送電力Pは次式(1.2)に示すものとなる。
P
=(E1E2/(ωL))δ(1-(δ/π)) ……(1.2)
【0014】
そこで、制御装置106は、スイッチング素子101a~101hを駆動するための駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御することにより、絶縁トランス102の1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2が逆極性となる期間(位相角δ)を制御することで、1次側および2次側の相互間の伝送電力Pを制御する。
【0015】
ところで、この動作例において、伝送電力Pを大きくするために、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との位相差δを大きくすると、絶縁トランス104に流れる電流iのピーク値が過大になるという問題がある。そこで、特許文献1は、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の一方のパルス幅変調を行うことで電流iのピーク値を低下させる技術を提案している。
【0016】
図9は特許文献1に示された動作例を示す波形図である。この動作例において、高圧側の2次側交流電圧v
2は、低圧側の1次側交流電圧v
1の立ち上がりエッジから位相角δの期間、1次側交流電圧v
1と逆極性の電圧を維持し、その後、位相角φの期間、ゼロ電圧を維持した後、1次側交流電圧v
1と同極性の電圧に立ち上がる。すなわち、特許文献1では、位相角δだけ遅れて発生する高圧側の2次側交流電圧v
2のパルス幅を位相角φだけ短くする(ゼロ電圧にする)。
【0017】
このようにすることで、絶縁トランス104に流れる電流iは、位相角δの期間、大きな時間勾配で変化した後、位相角φの期間、前の期間よりも小さな時間勾配で変化してピーク値に達するので、ピーク値が過大になるのを回避することができる。
【0018】
この
図9の動作例においても、制御装置106は、絶縁トランス102の1次側および2次側の各交流電圧が逆極性となる期間(位相角δ)を制御することで、1次側および2次側の相互間の伝送電力Pを制御する。この伝送電力Pは次式に示すものとなる。
P
=(E
1E
2/(ωL))((π-φ)(2δ+φ)-2δ
2)/(2π)
……(1.3)
以下、便宜上、この特許文献1に示された制御を連続電流モードの位相制御と呼ぶ。なお、この連続電流モードの位相制御は特許文献2にも開示されている。
【0019】
以上説明した連続電流モードの位相制御は、ある問題を有している。すなわち、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との位相関係により定まる伝送方向に対して逆方向に伝送される逆電力が発生し、これにより無効電力が発生する問題である。
【0020】
例えば
図9の動作例では、1次側交流電圧v
1に対して2次側交流電圧v
2の位相が遅れており、電力の伝送方向は1次側から2次側へ向かう方向である。しかしながら、連続電流モードの位相制御では、1次側交流電圧v
1の立ち上がりエッジ(あるいは立ち下がりエッジ)から始まる位相角δの期間内に絶縁トランス104に流れる電流iの極性が反転する。この位相角δの期間内において、電流iの極性反転が発生するタイミング以降の期間は、1次側交流電圧v
1と2次側交流電圧v
2との位相関係により定まる伝送方向の逆方向である2次側から1次側の方向に伝送される逆電力P
bが発生する。この逆電力P
bは、位相角δの期間内において、電流iの極性反転が発生するタイミング以前に1次側から2次側に伝送された電力P
fと相殺する。
【0021】
このように連続電流モードの位相制御では、本来的な伝送方向と逆方向に伝送される逆電力Pbが発生し、その分だけ伝送効率が低下する問題が発生する。この問題は、特に1次側および2次側の直流電圧差が大きい場合や負荷が軽い場合に顕著に発生し、導通損失増加(電力伝送の効率悪化)の原因となる。
【0022】
非特許文献1は、特許文献1および2とは異なる電力伝送制御の技術を開示している。具体的には、非特許文献1では、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2の両方がゼロ電圧となる期間を発生させることで逆電力の発生を回避している。
【0023】
図10はこの非特許文献1に示された動作例を示す波形図である。この動作例では、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の両方が同時に第1極性(この例では正極性)の電圧からゼロ電圧に変化した後、位相角γの期間、両方がゼロ電圧を維持し、その後、低圧側の1次側交流電圧v
1が第1極性と反対の第2極性(この例では負極性)の電圧に変化し、その後、位相角φ-δだけ遅れて高圧側の2次側交流電圧v
2が第2極性の電圧に変化する。その後、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2は、以上と同様の波形を描いて、第2極性の電圧から第1極性の電圧に変化する。
【0024】
この動作例では、1次側交流電圧v1が第1または第2の極性の電圧であり、かつ、2次側交流電圧v2がゼロ電圧である位相角φ-γの期間に絶縁トランス102に流れる電流iが増加し、その後の1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2の両方が同極性の電圧である期間に絶縁トランス102に流れる電流iが減少してゼロになる動作が繰り返される。
【0025】
そして、絶縁トランス102に流れる電流iが減少してゼロになった後の位相角γの期間、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2の両方がゼロ電圧となり、絶縁トランス102に流れる電流iの変化が停止して極性反転が生じない。このため、逆電力が生じない。
【0026】
この動作例において、1次側から2次側に伝送される電力Pは、絶縁トランス102に流れる電流iのピーク値に依存する。そして、電流iのピーク値は、位相角φ-γの期間の長さに依存する。そこで、制御装置106は、絶縁トランス102の1次側および2次側の各交流電圧の双方がゼロ電圧となる位相角γの期間を制御するとともに、位相角φおよびγを制御することにより、1次側および2次側の双方間の伝送電力Pを制御する。この伝送電力Pは次式に示すものとなる。
P
=(E1E2/(ωL))(A(1-A)(π-γ)2)/(2π)
……(1.4)
この式(1.4)において、Aは次式により与えられる。
A
=低圧側直流電圧/高圧側直流電圧<1 ……(1.5)
以下、便宜上、この非特許文献1に示された伝送電力Pの制御を不連続電流モードの位相制御と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【0028】
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】近藤,檜垣,山田,「無効電力を抑制した電気自動車充放電用双方向絶縁型DC/DCコンバータの損失低減効果実証」,電気学会論文誌D,Vol.137,No.,pp.673-680(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
上述した連続電流モードの位相制御は、広い電圧範囲において一定以上の電力を伝送することができるが、逆電力が発生する場合があり、その場合に電力の伝送効率が低下する問題がある。一方、不連続電流モードの位相制御は、逆電力の発生を回避することはできるが、1次側および2次側の電圧差が少ない場合等を含む広い電圧範囲において一定以上の電力伝送を行うことが困難であるという問題がある。
【0031】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、広い電圧範囲において高効率で電力を伝送することが可能な電力変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
この発明の一態様による電力変換システムは、絶縁トランスと、前記絶縁トランスの1次側および2次側それぞれに接続され、少なくとも1つのスイッチング素子を各々含む第1ブリッジ回路および第2ブリッジ回路とを備える絶縁DC/DCコンバータと、前記第1ブリッジ回路に与えられる1次側直流電圧と前記第2ブリッジ回路に与えられる2次側直流電圧の双方を検出する直流電圧検出部と、前記直流電圧検出部が検出した1次側直流電圧および2次側直流電圧と制御変数とに基づき、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路の前記スイッチング素子の各々に対する駆動パルスを生成する制御装置と、前記駆動パルスに基づき、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路の前記スイッチング素子を駆動する駆動回路部と、を備え、前記制御装置は、前記駆動パルスのエッジの位相を制御することにより、前記絶縁トランスの1次側および2次側の各交流電圧の双方がゼロ電圧となる期間を制御する不連続電流モードの位相制御、あるいは、前記駆動パルスのエッジの位相を制御することにより、前記絶縁トランスの1次側および2次側の各交流電圧が逆極性となる期間を制御する連続電流モードの位相制御を前記制御変数の大きさに応じて実行することを特徴とする。
【0033】
好ましい態様において、前記制御装置は、前記不連続電流モードの位相制御および前記連続電流モードの位相制御の双方において、前記絶縁トランスに流れる電流のピーク点の前後の変曲点の電流値が一致するように前記駆動パルスのエッジの位相を制御する。
【0034】
具体的には、前記制御装置は、前記不連続電流モードの位相制御および前記連続電流モードの位相制御の双方において、前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧との間に第1の差電圧が発生する期間における当該第1の差電圧の時間積分と、前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧との間に前記第1の差電圧と逆極性の第2の差電圧が発生する期間における当該第2の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように前記駆動パルスのエッジの位相を制御する。
【0035】
他の好ましい態様において、前記制御装置は、前記不連続電流モードの位相制御において、前記絶縁トランスの1次側または2次側のうち一方の交流電圧が第1の極性、他方の交流電圧がゼロ電圧をなる第1の期間と、前記絶縁トランスの1次側および2次側の双方の交流電圧が前記第1の極性となる第2の期間と、前記絶縁トランスの1次側および2次側の双方の交流電圧がゼロ電圧となる第3の期間とを順次発生させ、前記第3の期間を前記制御変数の大きさに応じて減少させ、前記連続電流モードの位相制御において、前記絶縁トランスの1次側および2次側の各交流電圧が逆極性となる第4の期間と、前記絶縁トランスの1次側または2次側の一方の交流電圧が前記第1の極性、他方の交流電圧がゼロ電圧となる第5の期間と、前記絶縁トランスの1次側および2次側の双方の交流電圧が前記第1の極性となる第6の期間とを順次発生させ、前記第4の期間を前記制御変数の大きさに応じて増加させる。
【0036】
他の好ましい態様において、前記制御装置は、前記不連続電流モードの位相制御において、前記第1の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分と、前記第2の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように前記駆動パルスのエッジの位相を制御し、前記連続電流モードの位相制御において、前記第5の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分と、前記第6の期間における前記絶縁トランスの1次側の交流電圧と2次側の交流電圧の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように前記駆動パルスのエッジの位相を制御する。
【発明の効果】
【0037】
この発明の一態様である電力変換システムによれば、不連続電流モードの位相制御、あるいは、連続電流モードの位相制御を制御変数の大きさに応じて制御装置が実行するので、絶縁DC/DCコンバータの1次側および2次側の相互間の電力伝送を広い電圧範囲において高効率で実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】この発明の一実施形態である電力変換システムの構成を示す回路図である。
【
図2】同電力変換システムにおいて実行される不連続電流モードの位相制御の動作例を示す波形図である。
【
図3】同電力変換システムにおいて実行される連続電流モードの位相制御の動作例を示す波形図である。
【
図4】同電力変換システムの全体的な動作例を示す波形図である。
【
図5】同電力変換システムにおける電力の伝送特性を例示する図である。
【
図6】同実施形態の変形例の動作を示す波形図である。
【
図7】電力変換システムの構成例を示す回路図である。
【
図8】同電力変換システムの基本的な動作波形を示す波形図である。
【
図9】同電力変換システムにおける連続電流モードの位相制御の動作例を示す波形図である。
【
図10】同電力変換システムにおける不連続電流モードの位相制御の動作例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しつつこの発明の実施形態について説明する。
図1はこの発明の一実施形態である電力変換システム100aの構成を示す回路図である。この電力変換システム100aでは、従来の電力変換システム(
図7)における制御装置106が制御装置106aに置き換えられている。
【0040】
電力変換システム100aにおける制御装置106a以外の要素は、従来の電力変換システム(
図7)と同様である。すなわち、絶縁DC/DCコンバータ110は、絶縁トランス102と、絶縁トランス102の1次側および2次側それぞれに接続され、少なくとも1つのスイッチング素子を各々含む第1ブリッジ回路111および第2ブリッジ回路112とを備える。直流電圧検出部107aは、第1ブリッジ回路111に与えられる1次側直流電圧E
1を検出し、直流電圧検出部107bは、第2ブリッジ回路112に与えられる2次側直流電圧E
2を検出する。駆動回路部105aは、制御装置106aが発生する駆動パルスGa~Gdに基づき、第1ブリッジ回路111のスイッチング素子101a~101dを駆動し、駆動回路部105bは、制御装置106aが発生する駆動パルスGe~Ghに基づき、第2ブリッジ回路112のスイッチング素子101e~101hを駆動する。
【0041】
そして、本実施形態において、制御装置106aは、直流電圧検出部107aおよび107bが検出する1次側直流電圧E1および2次側直流電圧E2と、制御変数Dとに基づき、第1ブリッジ回路111および第2ブリッジ回路112のスイッチング素子の各々を駆動するための駆動パルスGa~Ghを生成する。
【0042】
上述したように、連続電流モードの位相制御は、広い電圧範囲において一定以上の電力を伝送することができるが、逆電力が発生することにより電力の伝送効率が低下する問題がある。一方、不連続電流モードの位相制御は、逆電力の発生を回避することはできるが、1次側および2次側の電圧差が少ない場合等を含む広い電圧範囲において一定以上の電力伝送を行うことが困難である問題がある。従って、連続電流モードの位相制御または不連続電流モードの位相制御の一方のみを行ったのでは、広い電圧範囲において高効率で電力を伝送することが困難である。そこで、本実施形態では、連続電流モードの位相制御および不連続電流モードの位相制御の両方を制御装置106aに実行させる。
【0043】
また、上述したように連続電流モードの位相制御では、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2間の位相遅れの位相角δと、高圧側の交流電圧がゼロ電圧を維持する期間の位相角φが操作対象となる。一方、不連続電流モードの位相制御では、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2間の位相遅れ(位相角δ)はなく、低圧側および高圧側の交流電圧の双方がゼロ電圧を維持する期間の位相角γと、高圧側の交流電圧がゼロ電圧を維持する期間の位相角φが操作対象となる。しかも、この場合、位相角γまたはφの一方は他方に依存するので、実質的な操作対象は位相角γまたはφの一方のみである。そこで、本実施形態では、単一の制御変数Dを不連続電流モードの位相制御の操作対象に関連付けると共に、同じ制御変数Dを連続電流モードの位相制御の操作対象に関連付けることで、制御変数Dの大きさに応じて、不連続電流モードの位相制御または連続電流モードの位相制御を実行する。
【0044】
具体的には、本実施形態において制御装置106aは、駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御することにより、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2の双方がゼロ電圧となる期間を制御する不連続電流モードの位相制御、あるいは、駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御することにより、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2が逆極性となる期間を制御する連続電流モードの位相制御を制御変数Dの大きさに応じて実行することで、絶縁DC/DCコンバータ110の1次側および2次側双方間の電力Pの伝送を制御する。
【0045】
制御変数Dは、目標伝送電力に応じて決定される制御変数である。制御変数Dが大きくなる程、1次側および2次側双方間の伝送電力Pは大きくなる。好ましい態様において、制御変数Dは、電力変換システム100aを制御する上位装置から制御装置106aに与えられる。他の好ましい態様では、絶縁DC/DCコンバータ110の運転状況や負荷の状況に基づいて、制御装置106aが制御変数Dを決定する。
【0046】
制御変数Dは、0から3π/2までの間の値をとり得る。制御変数Dが0以上かつπ以下の値である場合、制御装置106aは、不連続電流モードの位相制御を実行する。また、制御変数Dがπ以上かつ3π/2以下の値である場合、制御装置106aは、連続電流モードの位相制御を実行する。
【0047】
以下、本実施形態における位相制御の詳細について説明する。以下では、絶縁DC/DCコンバータ110の1次側から2次側に電力が伝送される場合について説明する。また、以下では1次側が低圧側、2次側が高圧側である場合について説明する。
【0048】
図2は不連続電流モードの位相制御の例を示す波形図である。
図2において、/Gb、/Gd、/Gfおよび/Ghは、駆動パルスGb、Gd、GfおよびGhのレベル反転波形を意味する。他の波形図(
図3、
図6)についても同様である。
図2の例において、制御装置106aは、絶縁トランス102に流れる電流iのピーク点P
1(P
2)の前後の変曲点Q
11およびQ
12(Q
21およびQ
22)の電流値が一致するように駆動パルスのエッジの位相を制御する。
【0049】
具体的には、制御装置106aは、低圧側の1次側交流電圧v
1と高圧側の2次側交流電圧v
2との間に第1の差電圧(
図2の例ではE
1-0>0)が発生する第1の期間T1(位相角φ-γ)における当該第1の差電圧の時間積分と、低圧側の1次側交流電圧v
1と高圧側の2次側交流電圧v
2との間に第1の差電圧と逆極性の第2の差電圧(
図2の例ではE
1-E
2<0)が発生する第2の期間T2(位相角π-φ)における当該第2の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御する。すなわち、
図2の例では次式(2.1)が満たされるように駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御する。
E
1(φ-γ)+(E
1-E
2)(π-φ)=0 ……(2.1)
なお、1次側直流電圧E
1および2次側直流電圧E
2は、厳密には時間変動するが、時定数が大きいので、上記式(2.1)では一定電圧とみなしている。
【0050】
このような制御により、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との差電圧により発生する絶縁トランス102の電流iが、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の両方がゼロ電圧となる第3の期間T3(位相角γの期間)の開始タイミングにおいてゼロとなり、逆電力の発生が回避される。
【0051】
以上、電流iに正のピーク点P1が発生するタイミングの前後の期間における駆動パルスGa~Ghのエッジの位相制御について説明したが、電流iに負のピーク点P2が発生するタイミングの前後の期間における駆動パルスGa~Ghのエッジの位相制御も同様である。
【0052】
本実施形態は、連続電流モードのみならず、不連続電流モードにおいても、単一の制御変数Dに基づいて駆動パルスGa~Ghの位相制御を行うことを1つの目的としている。このため、本実施形態において、不連続電流モードでは、制御変数Dに基づいて、位相角γを決定し、この位相角γに位相角φを依存させる。具体的には次の通りである。
【0053】
上記式(2.1)をφについて解くと次式(2.2)が得られる。
φ(γ)
=(1-(E1/E2))π+(E1/E2)γ
=(1-A)π+Aγ ……(2.2)
ここで、Aは前掲式(1.5)に示す通りである。
【0054】
また、不連続電流モードにおける制御変数Dは、次式のように位相角γに関係づける。
D=π-γ ……(2.3)
【0055】
そして、制御装置106aは、0≦D≦πである制御変数Dが与えられた場合、式(2.3)に従って制御変数Dから位相角γを求め、式(2.2)に従って位相角γから位相角φを求める。
【0056】
以上、不連続電流モードの位相制御を1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との差電圧の変化に着目して説明したが、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の各々の変化に着目して説明すると次のようになる。
【0057】
制御装置106aは、不連続電流モードの位相制御において、絶縁トランス102の1次側交流電圧v
1または2次側交流電圧v
2の一方(具体的には低圧側)が第1の極性(
図2の例では正極性)、他方(具体的には高圧側)がゼロ電圧をなる第1の期間T1と、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の双方が第1の極性となる第2の期間T2と、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の双方がゼロ電圧となる第3の期間T3とを順次発生させ、第3の期間T3を制御変数Dの大きさに応じて減少させる(上記式(2.3)参照)。
【0058】
また、制御装置106aは、不連続電流モードの位相制御において、第1の期間T1における1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の差電圧の時間積分と、第2の期間T2における1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御する(上記式(2.1)参照)。
【0059】
次に不連続電流モードにおける駆動パルスのエッジの位相制御の具体例を説明する。以下の説明では、特に明示しない限り、位相角は、
図2における駆動パルスGa、/Gbの立ち上がりエッジの位相(位相角θ
12=0)を基準位置(始点)とした位相角である。すなわち、位相角θ
34は、基準位置に対する駆動パルスGc、/Gdの立ち上がりエッジの位相角、位相角θ
56は、基準位置に対する駆動パルスGe、/Gfの立ち上がりエッジの位相角、位相角θ
78は、基準位置に対する駆動パルスGg、/Ghの立ち上がりエッジの位相角である。
【0060】
図2の動作例において、1次側交流電圧v
1のゼロ電圧への立ち下がりエッジ(第3の期間T3の始期)は、駆動パルスGcおよび/Gdの立ち上がりエッジにより発生する。そして、1次側交流電圧v
1のゼロ電圧への立ち下がりエッジは、位相角π-γを有する。従って、駆動パルスGcおよび/Gdの立ち上がりエッジの位相角θ
34は、次式(2.4)により算出される。
θ
34
=π-γ
=π-π+D
=D ……(2.4)
【0061】
また、2次側交流電圧v2のゼロ電圧への立ち上がりエッジ(第3の期間T3の始期)は、駆動パルスGeおよび/Gfの立ち上がりエッジにより発生する。そして、2次側交流電圧v2のゼロ電圧への立ち下がりエッジは、位相角-γを有する。従って、駆動パルスGeおよび/Gfの立ち上がりエッジの位相角θ56は、次式(2.5)により算出される。
θ56
=-γ
=D-π ……(2.5)
【0062】
また、2次側交流電圧v2のゼロ電圧からの立ち下がりエッジ(第2の期間T2の始期)は、駆動パルスGgおよび/Ghの立ち上がりエッジにより発生する。そして、2次側交流電圧v2のゼロ電圧からの立ち下がりエッジは、位相角θ56+π+φを有する。従って、駆動パルスGgおよび/Ghの立ち上がりエッジの位相角θ78は、次式(2.6)により算出される。
θ78
=θ56+π+φ
=D-π+π+φ
=D-π+π+π-AD
=π+(1-A)D ……(2.6)
以上が本実施形態における不連続電流モードの位相制御である。
【0063】
図3は本実施形態における連続電流モードの位相制御の例を示す波形図である。本実施形態では、不連続電流モードのみならず、連続電流モードにおいても、絶縁トランス102に流れる電流iのピーク点P
1(P
2)の前後の変曲点Q
11およびQ
12(Q
21およびQ
22)の電流値が一致するように駆動パルスのエッジの位相を制御する。
【0064】
具体的には、制御装置106aは、絶縁トランス102の1次側交流電圧v
1と2次側交流電圧v
2との間に第1の差電圧(
図3の例ではE
1-0>0)が発生する第5の期間T5(位相角φ)における当該第1の差電圧の時間積分と、絶縁トランス102の1次側交流電圧v
1と2次側交流電圧v
2との間に第1の差電圧と逆極性の第2の差電圧(
図2の例ではE
1-E
2<0)が発生する第6の期間T6(位相角π-δ-φ)における当該第2の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように駆動パルスのエッジの位相を制御する。すなわち、
図3の例では次式(3.1)が満たされるように駆動パルスGa~Ghのエッジの位相を制御する。
E
1φ+(E
1-E
2)(π-δ-φ)=0 ……(3.1)
【0065】
以上、電流iに正のピーク点P1が発生するタイミングの前後の期間における駆動パルスのエッジの位相制御について説明したが、電流iに負のピーク点P2が発生するタイミングの前後の期間における駆動パルスGa~Ghのエッジの位相制御も同様である。
【0066】
既に説明したように、本実施形態は、不連続電流モードおよび連続電流モードの両方において、単一の制御変数Dに基づいて駆動パルスGa~Ghの位相制御を行うことを目的としている。このため、本実施形態において、連続電流モードでは、制御変数Dに基づいて、位相角δを決定し、この位相角δに位相角φを依存させる。具体的には次の通りである。
【0067】
上記式(3.1)をφについて解くと次式(3.2)が得られる。
φ(δ)
=(1-(E1/E2))(π-δ)
=(1-A)(π-δ) ……(3.2)
【0068】
また、連続電流モードでは、次式により制御変数Dを位相角δに関連付ける。
D=δ+π ……(3.3)
【0069】
そして、本実施形態において制御装置106aは、π≦D≦3π/2である制御変数Dが与えられた場合、式(3.3)に従って制御変数Dから位相角δを求め、式(3.2)に従って位相角δから位相角φを求める。
【0070】
このような制御を行うことにより、不連続電流モードおよび連続電流モードの相互間のモード遷移の際に絶縁トランス102に流れる電流iの波形の変化の連続性が担保される。
【0071】
以上、連続電流モードの位相制御を1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との間の差電圧の変化に着目して説明したが、1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の各々の変化に着目して説明すると次のようになる。
【0072】
制御装置106aは、連続電流モードの位相制御において、絶縁トランス102の1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2が逆極性となる第4の期間T4(位相角δ)と、1次側交流電圧v1または2次側交流電圧v2の一方(具体的には低圧側)が第1の極性、他方(具体的には高圧側)がゼロ電圧となる第5の期間T5(位相角φ)と、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2の双方が第1の極性となる第6の期間T6(位相角π-δ-φ)とを順次発生させ、第4の期間T4を制御変数Dの大きさに応じて増加させる。
【0073】
また、制御装置106aは、連続電流モードの位相制御において、第5の期間T5における1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の差電圧の時間積分と、第6の期間T6における1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2の差電圧の時間積分との総和がゼロになるように駆動パルスのエッジの位相を制御する(式(3.1)参照)。
【0074】
次に連続電流モードにおける駆動パルスGa~Ghのエッジの位相制御の具体例を説明する。
図3の動作例において、1次側交流電圧v
1の極性反転(第4の期間T4の始期)は、駆動パルスGcおよび/Gdの立ち上がりエッジにより発生する。そして、1次側交流電圧v
1の極性反転は、位相角πを有する。従って、駆動パルスGcおよび/Gdの立ち上がりエッジの位相角θ
34は、次式(3.4)により算出される。
θ
34
=π ……(3.4)
【0075】
また、2次側交流電圧v2のゼロ電圧への立ち上がり(第5の期間T5の始期)は、駆動パルスGeおよび/Gfの立ち上がりエッジにより発生する。そして、2次側交流電圧v2のゼロ電圧への立ち上がりエッジは、位相角δを有する。従って、駆動パルスGeおよび/Gfの立ち上がりエッジの位相角θ56は、次式(3.5)により算出される。
θ56
=δ
=D-π ……(3.5)
【0076】
また、2次側交流電圧v2のゼロ電圧からの立ち下がり(第6の期間T6の始期)は、駆動パルスGgおよび/Ghの立ち上がりエッジにおいて発生する。そして、2次側交流電圧v2のゼロ電圧からの立ち下がりエッジは、位相角θ56+π+φを有する。従って、駆動パルスGgおよび/Ghの立ち上がりエッジの位相角θ78は、次式(3.6)により算出される。
θ78
=θ56+π+φ
=D-π+π+φ
=D+φ
=D+(1-A)(2π-D)
=AD+2π(1-A)
=(D-2π)A ……(3.6)
以上が本実施形態における連続電流モードの位相制御である。
【0077】
図4は電力変換システム100aの全体的な動作例を示す波形図である。また、
図5は電力変換システム100aにおける電力の伝送特性を例示する図である。これらの図を参照して本実施形態の動作を要約すると次のようになる。
【0078】
制御変数Dが0≦D≦πの範囲内である場合、本実施形態では不連続電流モードの位相制御が実行される。この不連続電流モードにおいて、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2が逆極性となる期間(位相角δ)は発生しない。また、不連続電流モードでは、制御変数Dが増加することにより、低圧側および高圧側の双方の交流電圧がゼロ電圧を維持する期間(位相角γ=π―D)が減少し、高圧側の交流電圧がゼロ電圧を維持する期間(位相角φ=π-AD)が減少する。
【0079】
この不連続電流モードでは、逆電力は発生せず、1次側および2次側の相互間で伝送される電力Pは次式に示すものとなる。
P
=((E1E2)/(ωL))A(1-A)D2/(2π) ……(4.1)
この不連続電流モードでは、逆電力が発生しないので、1次側および2次側の直流電圧差が少ない場合や軽負荷の場合に、少ない損失で電力の伝送を行うことができる。
【0080】
制御変数Dがπ≦D≦3π/2の範囲内である場合、本実施形態では連続電流モードの位相制御が実行される。この連続電流モードにおいて、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2の双方がゼロ電圧となる期間(位相角γ)は発生しない。連続電流モードにおいて、制御変数Dが増加すると、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2が逆極性となる期間(位相角δ=D-π)が増加し、高圧側の交流電圧がゼロ電圧を維持する期間(位相角φ=(1-A)(2π-D)が減少する。
【0081】
この連続電流モードでは、1次側交流電圧v1および2次側交流電圧v2が逆極性となる期間を利用して電力の伝送が行われ、1次側および2次側の相互間で伝送される電力Pは次式に示すものとなる。
P
=((E1E2)/(ωL))(a(A)D2+b(A)D+c(A))/(2π)
……(4.2)
ここで、a(A)、b(A)、c(A)は、次の通りである。
a(A)=-(1+A2) ……(4.3)
b(A)=(4A2-A+3)π ……(4.4)
c(A)=-2(2A2-A+1)π2 ……(4.5)
この連続電流モードでは、広い電圧範囲において一定以上の電力を伝送することができる。また、連続電流モードでは、負荷が大きい場合にも高い効率で電力を伝送することが可能である。
【0082】
図6に示すように、制御変数Dを0から3π/2まで変化させた場合、1次側から2次側へ伝送される電力Pは連続的に変化する。また、制御変数Dがπである場合、本実施形態の動作モードは不連続電流モードと連続電流モードのモード境界となる。このモード境界では、不連続電流モードを想定して算出される位相角δ、φおよびγと、連続電流モードを想定して算出される位相角δ、φおよびγとが一致する。従って、不連続電流モードおよび連続電流モードの相互間の遷移の際に絶縁トランスの電流波形の変化は連続的なものとなる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、1つの制御変数Dの大きさにより不連続電流モードの位相制御あるいは連続電流モードの位相制御を実行するので、広い電圧範囲において高い効率で1次側および2次側の相互間の電力伝送を行うことができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、1つの制御変数Dにより、不連続電流モードの位相制御および連続電流モードの位相制御の両方を実行するので、制御が簡単であり、安定したものになるという効果がある。
【0085】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば次の通りである。
【0086】
(1)上記実施形態において、
図2および
図3は、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の相対的な位相関係と、そのような位相関係を実現するための駆動パルスGa~Ghの波形の一例を示している。しかし、この駆動パルスGa~Ghの波形はあくまでも一例であり、駆動パルスGa~Ghの波形を変更しても、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の相対的な位相関係を
図2および
図3と同じにすることが可能である。従って、1次側交流電圧v
1および2次側交流電圧v
2の相対的な位相関係を
図2および
図3に示す通りにすることができるのであれば、駆動パルスGa~Ghの波形を変更してもよい。
図6は不連続電流モードにおける駆動パルスGa~Ghの波形の変形例を示している。この態様においても上記実施形態と同様な効果が得られる。
【0087】
(2)上記実施形態では、1次側から2次側への電力伝送の動作を説明したが、上記電力変換システム100aでは、2次側から1次側への電力伝送も勿論可能である。この場合、上記実施形態における1次側交流電圧v1と2次側交流電圧v2との位相関係が逆になるように絶縁DC/DCコンバータ110の制御を行えばよい、
【0088】
(3)上記実施形態では、1次側が低圧側、2次側が高圧側である場合の動作を説明したが、1次側が高圧側、2次側が低圧側である場合も、上記実施形態と同様な動作となる。すなわち、1次側が高圧側、2次側が低圧側である場合には、上記実施形態の説明において、高圧側を1次側交流電圧v1、低圧側を2次側交流電圧v2とすればよい。
【0089】
(4)上記実施形態では、第1ブリッジ回路111および第2ブリッジ回路112をフルブリッジ回路としたが、これらをハーフブリッジ回路としてもよい。
【符号の説明】
【0090】
100,100a……電力変換システム、106,106a……制御装置、110……絶縁DC/DCコンバータ、102……絶縁トランス、104……直列インダクタ、111……第1ブリッジ回路、112……第2ブリッジ回路、101a~101h……スイッチング素子、103a,103b……キャパシタ、105a,105b……駆動回路部、107a,107b……直流電圧検出部。