(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008250
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】光ファイバ用コネクタ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/26 20060101AFI20240112BHJP
G02B 6/36 20060101ALI20240112BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G02B6/26
G02B6/36
G02B6/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109962
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】522273285
【氏名又は名称】株式会社ODEC
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186288
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 英信
(72)【発明者】
【氏名】中 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸嗣
(72)【発明者】
【氏名】竹越 淳
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中原 秀起
(72)【発明者】
【氏名】湖東 雅弘
【テーマコード(参考)】
2H036
2H137
2H250
【Fターム(参考)】
2H036KA02
2H036QA02
2H036QA31
2H137AA13
2H137AB06
2H137BC01
2H137DA09
2H137DB12
2H137DB14
2H137EA01
2H137HA05
2H250AC01
2H250AC17
2H250AH27
2H250AH42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放熱性に優れ、設計自由度が高く、製造時の製造誤差が少なく、製造し易く、メンテナンス性に優れ、高品質、高耐性で今後の更なる高出力伝送にも耐えうる冷却媒体による冷却機能を有する光ファイバ用コネクタ。
【解決手段】光ファイバ用コネクタであって、光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、冷却媒体を導入する導入部と、前記冷却媒体を排出する排出部と、前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路を3Dプリンタにより一体的に造形した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用コネクタであって、
光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、
光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、
冷却媒体を導入する導入部と、
前記冷却媒体を排出する排出部と、
前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、
前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路が3Dプリンタにより一体的に造形されている、光ファイバ用コネクタ。
【請求項2】
前記挿通部、前記冷却媒体流路及び、前記コネクタ外郭の少なくとも何れかの表面が、前記3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面を有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用コネクタ。
【請求項3】
前記挿通部、前記冷却媒体流路及び、前記コネクタ外側面の少なくとも何れかの表面が、前記3Dプリンタにより形成された突起形状を有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用コネクタ。
【請求項4】
前記冷却媒体流路の表面が、算術平均粗さ(Ra)2~100μmである請求項2に記載の前記粗面を有する、及び/又は、高さ20~3000μmである請求項3に記載の前記突起形状を有する、ことを特徴とする光ファイバ用コネクタ。
【請求項5】
前記挿通部における前記コネクタ長手方向に垂直な面の内壁断面が、略円、略矩形、略多角形又は略星形、の形状であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用コネクタ。
【請求項6】
前記冷却媒体流路は光ファイバのレーザ光軸を中心とする螺旋状に形成され、前記接続部近傍に光ファイバのレーザ光軸を中心とする環状に形成された環状部を備え、前記冷却媒体流路断面形状が同一であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用コネクタ。
【請求項7】
前記コネクタの材質はステンレス、銅又はアルミの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用コネクタ。
【請求項8】
前記コネクタの材質は質量%で、Cを0.08%以下、Siを1.0%以下、Niを3.0%乃至17.0%、Crを14.5%乃至20.0%含有するSUS系高耐候性鋼であり、前記冷却媒体流路の壁が最も薄い壁厚さが0.5mm以上1.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用コネクタ。
【請求項9】
請求項1に記載の光ファイバ用コネクタが、少なくとも片端に設けられた光ファイバケーブル。
【請求項10】
前記光ファイバ心線は、スリーブチャックよりも先端側に、被膜層が除去されて光ファイバが露出した部分を有し、前記露出した光ファイバの外周面にモードストリッパが設けられた請求項9に記載の光ファイバケーブル。
【請求項11】
光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、
光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、
冷却媒体を導入する導入部と、
前記冷却媒体を排出する排出部と、
前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、
前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路を3Dプリンタにより一体的に造形する工程を有する光ファイバ用コネクタの製造方法。
【請求項12】
前記工程の後、切削工程によりコネクタ長手方向の外側面が形成されることを特徴とする請求項11に記載の光ファイバ用コネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力レーザ伝送用光ファイバ用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
高出力レーザ伝送用光ファイバの損傷は、光ファイバコネクタ部分での熱によるものが最も多く、このような熱によるものに関しては、水冷構造によりこれを放熱することが行われている(特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら、このような従来の光ファイバ用コネクタは、複数の幾つかの金属部品を組み合わせることで構成されており、それらは溶接やネジの勘合により組み立てられている。そのため、コネクタ内部で発生した熱を水冷するための冷却媒体の流路構造を設計するに際して、多くの場合、流路形状に制約が生まれ、冷却効率の高い最適構造を設計することが出来なかった。また、製造工数も多くなっていた。
【0004】
また、複数の部品を溶接やネジの勘合で組み合わされた構造では、各部品の境界には必ず空気層が存在する。一般的に空気層を含む金属内では、熱が伝導する(空気を介して熱伝導する)際、空気層は熱伝導率が悪いので、空気層を迂回する経路により熱伝導する場合が多い。そのため、コネクタ内で発生した熱はこれらの空気層に熱伝導を阻害されるため、放熱性の良い優れたコネクタを作製することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6174878号
【特許文献2】国際公開第2017/197362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の問題点に鑑み提案されたものであり、その目的とするところは、放熱性に優れ、設計自由度が高く、製造時の製造誤差が少なく、製造し易く、メンテナンス性に優れ、高品質、高耐性で今後の更なる高出力伝送にも耐えうる冷却媒体による冷却機能を有するコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光ファイバ用コネクタは、光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、冷却媒体を導入する導入部と、前記冷却媒体を排出する排出部と、前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路が3Dプリンタにより一体的に造形されたものである。
【0008】
本発明の光ファイバケーブルは、光ファイバ心線を有し、本発明の光ファイバ用コネクタが少なくとも光射出端部または光入射部、或いは両端に設けられたものである。
【0009】
本発明の光ファイバ用コネクタの製造方法は、光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、冷却媒体を導入する導入部と、前記冷却媒体を排出する排出部と、前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路を3Dプリンタにより一体的に造形する工程を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
放熱性に優れ、設計自由度が高く、製造時の製造誤差が少なく、製造し易く、メンテナンス性に優れ、高品質、高耐性で今後の更なる高出力伝送にも耐えうる冷却媒体による冷却機能を有するコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係る光ファイバ用コネクタの概略断面図である。
【
図2】実施例1における光吸収面等の粗面の説明図である。
【
図3】3Dプリンタの造形条件、使用する材料の特性によって特定される粗面の違いを示す図である。
【
図4】実施例1における光吸収面等の突起形状の説明図である。
【
図5】本発明における光吸収面(挿通部の表面)の説明図である。
【
図6】本発明における冷却媒体流路の説明図である。
【
図7】実施例2に係る光ファイバ用コネクタの概略断面図である。
【
図8】実施例2において、冷却媒体が冷却媒体流路を流れる様子を示す図である。
【
図9】実施例2に係る光ファイバ用コネクタの効果説明図である。
【
図10】実施例3に係る光ファイバ用コネクタの概略断面図である。
【
図12】参考例1の冷却媒体流路を構成する冷却ハウジング101(a)、(b)と冷却カバー102(c)の断面図である。なお、断面図(a)の光ファイバの軸に沿った紙面垂直方向の断面図が(b)である。
【
図13】参考例1の冷却媒体流路を構成する冷却ハウジング101と冷却カバー102の組立後の断面図である。なお、断面図(a)(
図14のA,B,Cにおける(a)-(a)断面図参照)の光ファイバの軸に沿った紙面垂直方向の断面図が(b)(
図14のA,B,Cにおける(b)-(b)断面図参照)である。
【
図14】
図13の(a)、(b)における、A-A断面図(A)、B-B断面図(B)、C-C断面図(C)である。
【
図15】参考例1において、光コネクタ接続部近傍の温度が高くなることを示す図である。
【
図16】参考例2の冷却媒体流路を構成するチャンバー201(a)とケーシング202(b)の断面図である。
【
図17】参考例2の冷却媒体流路を構成するチャンバー201とケーシング202の組立後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施の形態等により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の第1の実施の形態による光ファイバ用コネクタは、光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、冷却媒体を導入する導入部と、前記冷却媒体を排出する排出部と、前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路が3Dプリンタにより一体的に造形されている。
本実施の形態によれば、冷却媒体流路の全体が3Dプリンタにより一体的に造形されているので、冷却媒体流路の設計自由度が拡大し、冷却効率の高い最適構造が可能となる。また、一体化構造とすることで、コネクタ内部に不要な空気層が排除され、熱伝導性に優れたコネクタが実現される。
この点、複数部品を溶接などで組み立てる従来法では、組立後に部品間に境界が形成され、空気層が生まれる。この構造に実際に冷却媒体を流した場合、構造によっては、この境界層に冷却媒体が侵入して空気層を追い出して空気層よりも熱伝導が高い場合も存在する。しかしこの境界層が無い場合、即ち一体化構造の場合には、この部分は連続的した金属の構造なので、境界層に冷却媒体が侵入したケースに比べても格段に熱伝導が高くなる。
さらには、部品点数が少なくなり、溶接や組立等の必要がないので作業効率が向上し、組立コストも削減し、強度に優れ、高品質、高耐性で長期信頼性が向上したコネクタとすることができる。
【0014】
ここで、導入部と排出部は何れも冷却媒体流路の内、接続部から最も離間した位置に設けられる構成が望ましい。
すなわち、光ファイバコネクタの接続部をレーザ光源装置の出射部等に接続し、光ファイバの端部(入射端面)にレーザ光を入射する場合、入射により発生した熱を抑えるには、導入部及び排出部は光ファイバの端部(入射端面)よりもレーザ光の射出側に位置することが好ましい。
他方、光ファイバコネクタの接続部をレーザ加工ヘッドなどに接続し、光ファイバの端部から加工対象物等にレーザ光を出射する場合、加工対象物からのレーザ光の後方反射等により発生する熱を抑えるには、導入部及び排出部は光コネクタの端部(出射端面)よりもレーザ光の入射側に位置することが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、「一体化」或は「一体的」とはコネクタの筐体が1つであり、幾つかの部品を組み合わせて構成していないこと(部品の境界が無いこと)を意味しており、光吸収面や流路部分が異なる材料であっても1つの融合された筐体であれば、本発明の「一体化」或は「一体的」に含まれ得る。即ち、前記導入部から前記接続部近傍を経由して、前記排出部に至るまでの前記冷却媒体通路は一体化されるのみではなく、その他コネクタの構成部分と境界なく、1つの筐体内に融合されていることを意味する。
また、本発明の冷却媒体として主に使用される流体は、水(蒸留水等)、CO2、窒素、空気、脱イオン水、エチレングリコールであるが、他の冷却媒体も使用し得る。
【0016】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による光ファイバ用コネクタにおいて、前記挿通部、前記冷却媒体流路及び、前記コネクタ外郭の少なくとも何れかの表面が、前記3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面を有する。なお、本発明における粗面とは算術平均粗さ(Ra)が2~100μmであり、またその表面のモフォロジーにおいて、使用材料が一部溶融して原形を残した状態で固着した状態、さらに溶融が進んで原形を留めずに塊となって固着した状態の少なくともどちらかの状態が含まれているものをいう。また、本発明における3Dプリンタの造形条件とは、レーザーパワー密度、走査速度、走査間隔、供給する材料の厚さ等であり、また使用材料の特性とは、材料の種類、性質、粒子の大きさ(直径等)等をいう。
本実施の形態によれば、さらに放熱性を高めることができる。
ここで、挿通部の表面が3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面を有する構成とする、すなわち挿通部の光吸収面の表面形状を3Dプリンタ技術により微細に制御する構成とする、ことで光の吸収効率を向上させることができる。
また、冷却媒体流路の表面が3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面を有する構成とする、すなわち冷却媒体流路の内壁面の表面形状を3Dプリンタ技術により微細に制御する構成とする、ことで、冷却媒体への熱伝導性を向上させることができる。
また、コネクタ外郭の表面が3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面を有する構成とする、すなわちコネクタ外郭の表面形状を3Dプリンタにより微細な粗面を施す構成とする、ことで、表面積が拡がり、コネクタ外郭表面からの熱放散を向上させることができる。
【0017】
すなわち、本発明では、3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面を有する構造により、コネクタ内部で生じた有害光を吸収する光吸収面、冷却水など冷却媒体と接する流路内壁面、そしてコネクタ外部の表面の各々の表面の形状を微細に制御することで、コネクタ内部の有害光を効率よく吸収し、それにより発生した熱を効率良く冷却媒体に伝えて、そしてコネクタ外部に排出することを可能としている。
【0018】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による光ファイバ用コネクタにおいて、前記挿通部、前記冷却媒体流路及び、前記コネクタ外側面の少なくとも何れかの表面が、前記3Dプリンタにより形成された突起形状を有する。なお、本発明における突起形状とは高さ10μm以上の突起状の形状であり、前記粗面とは異なり、3次元の設計データを元に3Dプリンタの造形動作で意図して形成したものをいう。本実施の形態によれば、より放熱性を高めることができる。
ここで、挿通部の表面が3Dプリンタにより形成された突起形状を有する構成とする、すなわち挿通部の光吸収面の表面形状を3Dプリンタ技術により突起形状に制御する構成とする、ことで光の吸収効率をより向上させることができる。
また、冷却媒体流路の表面が3Dプリンタにより形成された突起形状を有する構成とする、すなわち冷却媒体流路の内壁面の表面形状を3Dプリンタ技術により突起形状とする構成とする、ことで、冷却媒体への熱伝導性をより向上させることができる。
また、コネクタ外郭の表面が3Dプリンタにより形成された突起形状を有する構成とする、すなわちコネクタ外郭の表面形状を3Dプリンタにより突起形状を施す構成とする、ことで、表面積が拡がり、コネクタ外郭表面からの熱放散をより向上させることができる。
【0019】
すなわち、本発明では、3Dプリンタにより形成された突起形状を有する構造により、コネクタ内部で生じた有害光を吸収する光吸収面、冷却水など冷却媒体と接する流路内壁面、そしてコネクタ外部の表面の各々の表面を突起形状に制御することで、コネクタ内部の有害光を効率よく吸収し、それにより発生した熱を効率良く冷却媒体に伝えて、そしてコネクタ外部に排出することを可能としている。
【0020】
本発明の第4の実施の形態は、光ファイバ用コネクタにおいて、前記冷却媒体流路の表面が、算術平均粗さ(Ra)2~100μmである第2の実施の形態による粗面を有する、及び/又は、高さ20~3000μmである第3の実施の形態による突起形状を有する。本実施の形態によれば、冷却媒体流路における放熱性が高まり、また、冷却媒体の流れを阻害する恐れもないので、より効率的にコネクタを冷却することができる。特に冷却媒体が液体の場合には気体よりも比熱が十分に大きいので放熱効果が高い。
【0021】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4の何れかの実施の形態による光ファイバ用コネクタにおいて、前記挿通部における前記コネクタ長手方向に垂直な面の内壁断面が、略円、略矩形、略多角形又は略星形、の形状である。本実施の形態によれば、光ファイバを囲んで沿在する光吸収面の全体構造が円筒型である場合には構造が単純なので設計が容易であり、矩形の筒型、多角形の筒型、星形の筒型となるに従い表面積が増えて、光吸収量が増えるので冷却効率が上がり、かつ、光吸収面で吸収されなかった光が光ファイバに戻り難くなるので、戻り光に依る光ファイバの損傷が抑えられる。
本実施の形態によれば、光吸収面の面積を拡大することが可能となるので、光吸収量が増えて冷却効率が上がる。また光吸収面の単位面積当たりの熱負荷も軽減できるので、光吸収面の劣化を抑えることもできる。なお、本発明の略円状とは円だけでなく楕円も含まれ得る。同様に略矩形とは矩形だけでなく台形も含まれ得る。
また、本発明における内壁断面形状とは、冷却媒体流路の冷却媒体と接触する箇所を冷却媒体の進行方向に垂直な面に反映させた閉じた形状をいう。ただし、冷却媒体流路が二股に分かれる箇所は除外する。
【0022】
本実施形態による光ファイバ用コネクタにおいて、さらに前記内壁断面が略星形の形状であり、かつ、それに対応する前記冷却媒体流路における前記コネクタ長手方向に垂直な面の内壁断面形状もそれと対になる略星形の形状とすることで、光ファイバを囲んで沿在する光吸収面の全体構造が星形の筒型となり、表面積が増えて、光吸収量が増えるので冷却効率が上がり、さらに、光吸収面で吸収されなかった光が光ファイバに戻り難くなるので、戻り光に依る光ファイバの損傷が抑えられる。
また、それと対になる冷却媒体流路における内壁も表面積が増えて冷却媒体による放熱効果が向上する。
加えて星形の外側を向いた頂点とコネクタ外壁とが接続する構成とすることによって複数の流路を形成できる(
図6の(b)参照)。これにより、冷却媒体の流れを分岐させるなどコネクタ全体に冷却媒体を循環させ、放熱を制御し易くなる。
なお、複数の流路はコネクタ先端や末端で合流させて纏めても良い。
【0023】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5の実施の何れかの形態による光ファイバ用コネクタにおいて、前記冷却媒体流路は光ファイバの光軸を中心とする螺旋状に形成され、前記接続部近傍に光ファイバの光軸を中心とする環状に形成された環状部を備え、前記冷却媒体流路の断面形状が同一である。本実施の形態によれば、光ファイバの前記挿通部の内壁である光吸収面の背面に近接配置することが可能であるため、光吸収面で発生した熱を速やかに除去することができる。また、冷却媒体流路の断面形状が同一のため、流路内での冷却媒体の圧力変動が抑えられ、冷却媒体を冷却媒体流路全体に同じ流量、流速で流すことができる。これによりコネクタ本体の末端部である接続部近傍であっても、有効に冷却ができる。
【0024】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第6の何れかの実施の形態による光ファイバ用コネクタにおいて、前記コネクタの材質はステンレス、銅又はアルミの何れかである。本実施の形態によれば、金属用3Dプリンタの材料として利用することができる。さらにコネクタの材質が、ステンレス(SUS系高耐候性鋼)の場合には、耐食性、造形スピード及びコストに優れ、銅の場合には、導電率及び耐食性に優れ、アルミの場合には、導電率、造形スピード及びコストに優れている。なおコネクタ内では、光吸収面や流路部分などが異なる材料で造形されても良い。またこれらの材料組成を有する金属間化合物などを使用しても良い。金属間化合物などの中間組成を経ることで異種金属の融合も容易となる。
【0025】
本発明の第8の実施の形態は、第1から第7の何れかの実施の形態による光ファイバ用コネクタにおいて、前記コネクタの材質は質量%で、Cを0.08%以下、Siを1.0%以下、Niを3.0%乃至17.0%、Crを14.5%乃至20.0%含有するSUS系高耐候性鋼であり、前記冷却媒体流路の壁が最も薄い壁厚さが0.5mm以上1.0mm以下である。
これまでの材質及び製造方法では、個別の部材を接合(溶接)する必要があったため、冷却媒体通路の壁の厚さを1.0mm以下とすることは難しかった。
本実施の形態によれば、部材の溶接の必要性が無いため、冷却媒体流路の最も薄い壁の厚さが最小で0.5mm以上1.0mm以下とすることが可能となった。これにより使用材料を削減できるので、材料コストの高い耐食性に優れた材料を選定して使用することが可能となった。なお、冷却媒体通路の壁の厚さが0.5mm未満では強度が不足することを確認した。
なお本発明の一体化構造においては、冷却媒体流路の壁の厚さとは、挿通部内壁面である光吸収面までの距離や、冷却媒体の流れを方向付けるために設けられた流路間の仕切りの厚さや、或いは流路内壁からコネクタの外側面までの距離を示す。
特に、3Dプリンタで加工する場合にはCを0.03%以下とすることが望ましい。
また、Cを0.03%以下、Siを1.0%以下、Niを10.0%乃至13.0%、Crを16.5%乃至18.0%、Moを2.0%乃至2.5%含有するSUS系高耐候性鋼であると耐食性がさらに向上する。
また、Cを0.03%以下、Siを1.00%以下、Niを3.0%乃至5.0%、Crを15.0%乃至17.5%含有するSUS系高耐候性鋼であると造形スピードやコストがさらに優れる。
【0026】
本発明の第9の実施の形態は、第1から第8の何れかの実施の形態による光ファイバ用コネクタが、少なくとも片端に設けられた光ファイバケーブル。
本実施の形態によれば、放熱特性と長期信頼性に優れた高出力レーザ伝送用光ファイバケーブルが提供可能となる。なお、本実施の形態、光ファイバ用コネクタが設けられた光ファイバケーブル、の態様としては、特許文献1や特許文献2等に記載された周知技術を含め如何なる周知技術を採用してもよい。
【0027】
本発明の第10の実施の形態は、第9の実施の形態による光ファイバケーブルにおいて、前記光ファイバ心線は、スリーブチャックよりも先端側に、被膜層が除去されて光ファイバが露出した部分を有し、前記露出した光ファイバの外周面にモードストリッパが設けられた光ファイバケーブル。
本実施の形態によれば、放熱特性と長期信頼性に優れた高出力レーザ伝送用光ファイバケーブルが提供可能となる。なお、本実施の形態、光ファイバ心線がスリーブチャックよりも先端側に被膜層が除去されて光ファイバが露出した部分を有し前記露出した光ファイバの外周面にモードストリッパが設けられた光ファイバケーブル、の態様としては、特許文献1や特許文献2等に記載された周知技術を含め如何なる周知技術を採用してもよい。
【0028】
本発明の第11の実施の形態による光ファイバ用コネクタの製造方法は、光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、冷却媒体を導入する導入部と、前記冷却媒体を排出する排出部と、前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路を3Dプリンタにより一体的に造形する工程を有する。本実施の形態によれば、上記第1の実施の形態の効果に加え、一体的な造形による自動製造により製造工数が削減され、放熱性の優れた複雑な流路も低コストで形成することができる。
【0029】
本発明の第12の実施の形態は、第11の実施の形態による光ファイバ用コネクタの製造方法において、前記工程の後、切削工程によりコネクタ長手方向の外側面が形成される。
本実施の形態により、従来と同等の外観寸法精度や意匠性を有する光ファイバ用コネクタを製造することができる。
【0030】
以下、本発明による光ファイバ用コネクタの態様について実施例を示して詳細な説明を行うが、まず従来の態様について、参考例(
図11~18参照)を説明し、それと比較しながら、本発明の実施例を説明する。
【0031】
図11は光ファイバ用コネクタの使用状態を示す概略図である。
図11で示されるように、レーザ光源1からレーザ光は結合光学系Lにより、入射側コネクタC1に固定されている光ファイバ2の入射端面に集光される。集光により結合されたレーザ光は光ファイバ2中を伝播し、出射側コネクタC2に固定されている光ファイバの出射端面から出射される。出射されたレーザ光はレーザ加工ヘッド245の集光光学系を介して加工対象物244に照射される。なお光ファイバの端面には、石英ブロック等が接合されており、レーザ光耐性が強化されている。
光ファイバが固定されている入射、及び出射コネクタへは、コネクタ内で発生した熱を取り除くために冷却水(冷却媒体)が供給されている。
レーザ光源1やレーザ加工ヘッド245に接続される接続部から離間した位置に、冷却水の導入部108及び排出部109を設けて、光ファイバに沿って接続部から導入部108及び排出部109までの間を冷却する冷却機構が備えられている。
ここで入射側コネクタC1においては、光ファイバ入射端面へレーザ光の集光時にコアから光が漏洩する場合に光ファイバの被覆を損傷する可能性があり、また出射側コネクタC2においては加工対象物からの後方への反射光が光ファイバに再結合する場合に光ファイバの被覆を損傷する可能性がある。そのため被覆の損傷を防ぐため光ファイにはクラッドモードストリッパ構造が設けられている。
なお、本発明の光ファイバ用コネクタは、入射側コネクタとして、或いは出射側コネクタとして、何れの場合でも使用することができる。また、後述する参考例1,2及び実施例1~3についても同様である。
【0032】
以下、
図12~
図15を示して、参考例1(例えば特許文献1等)の光ファイバ用コネクタについて詳細を説明する。
図12(a)は光ファイバの周りを囲む水冷ハウジング101の断面図であり、
図12(b)は
図12(a)に対する光ファイバの軸に沿った紙面垂直方向の断面図である(
図14参照)。
また、
図12(c)は水冷ハウジング101を覆う水冷カバー102の概略を示す断面図である(
図14参照)。
参考例1では、水冷カバー102に水冷ハウジング101を挿入し、
図13で示すように配置して光ファイバ用コネクタを組み立てるが、この際に両者の配置によってできた空間131~138が冷却媒体流路となる。
ここで、両者は冷却媒体が漏れないように溶接加工部110及び溶接加工部111がそれぞれ円周状に溶接加工され構成されている。
また、水冷ハウジング101の仕切部106が水冷カバー102の内壁に接触することで、冷却媒体流路が構成される。
【0033】
このような従来構造の場合、複数の部品を溶接やネジの勘合で組み合わされた構造なので、各部品の境界には必ず空気層が存在する。例えば、溶接加工部110及び溶接加工部111で円周状に溶接加工されている水冷ハウジング101と水冷カバー102の場合、溶接部分以外には空気の境界ができる。コネクタの構造によりこれらの境界には冷却媒体が浸透する場合もあるが、コネクタ内で発生した熱はこれらの境界の存在により熱伝導を阻害されるため、放熱性が落ちる原因となっていた。
また、溶接加工部110、111は溶接加工が行われる関係上、他の箇所よりも冷却媒体流路の壁の厚みが必要となる。
コネクタ内の空間は限られているので、冷却媒体の流路に割り当てられる空間が制限され、冷却能力が落ちる場合があった。
さらに、2つの部材を均一に溶接加工するのは難しく、部材間の熱膨張差や溶接部の経年劣化等を考慮して設計、製造するのは困難であった。
また、光ファイバ用コネクタの、接続部近傍や光ファイバを囲んで沿在する光吸収面は、高温になりやすいので、迅速な冷却効果を上げるためには冷却媒体流路の壁を薄くすることが求められていた。
また、これらのコネクタの組立では、部品間の僅かな隙間(クリアランス)を微調整しながら溶接加工を行なう必要があるため、組立作業に多くの時間(工数)を要しており、複雑な部品になるほど、その設計と組立作業は難しくなった。
また溶接加工のために厚い壁の厚さが必要であることから、高価な耐食性材料を用いると材料コストがかかる課題もあった。
【0034】
ここで、参考例1の冷却媒体流路では、導入部108から導入された冷却媒体は流路131を通過した後、光ファイバのレーザ光軸に沿って流路132、流路133と接続部近傍に到達し、環状構造の反対側の流路134或は流路135を経由して流路136に回り込んだ後、流路136からは、元の方向に向かって、流路137、流路138と進行して排出部109へ排出される。
【0035】
参考例1の光ファイバコネクタにおける、冷却媒体が冷却媒体流路を流れる際の温度分布の数値解析によるシミュレーション結果を
図15に示す。
なお、本シミュレーションでは、冷却媒体を温度20℃の水、その流速を1.5L/min、外壁部の熱伝導率を2W/m
2K(外気温度20℃)とし、光ファイバからコネクタ内部への漏れ光のパワーを変えた際の各部の温度を分析した。
【0036】
本シミュレーションによると、光コネクタ接続部近傍の冷却が十分に行われず、温度が上昇(最大約400℃)することが判明した(
図15参照)。
【0037】
なお、参考例1では、光ファイバの被膜の損傷を防ぐクラッドモードストリッパ構造などによる対策が行われている。
クラッドモードストリッパ構造は、被膜の損傷の原因となる光ファイバのコアからの漏れ光(クラッドモード伝播光)を意図的に光ファイバの外部に除去する技術(構造)である。クラッドモード伝播光が発生した際、除去されたクラッドモード伝播光のパワーに伴い、光ファイバ用コネクタ内の光吸収面の温度が上昇するため、この発熱を冷却媒体により冷却している。
【0038】
以下、参考例2の光ファイバ用コネクタについて詳細を説明する。
図16(a)は光ファイバの周りを囲むチャンバー201の断面図であり、
図16(b)はチャンバー201を覆うケーシング202の断面図である。
参考例2では、ケーシング202にチャンバー201を挿入し、
図17で示すように配置して光ファイバ用コネクタを組み立てるが、この際に両者の配置によってできた空間221~230が冷却媒体流路となる。
ここで、両者は接合部210及び接合部211にてそれぞれ円周状にシール加工され、冷却媒体が漏れないように構成されている。
【0039】
ここで、参考例2の冷却媒体流路はらせん構造であり、導入部108から導入された冷却媒体は流路221を通過した後、光ファイバのレーザ光軸を中心としてらせん状に流路222、流路223、流路224、流路225と接続部近傍まで到達し、流路225からは、環状構造の反対側の流路226に回り込んだ後、元の方向に向かって、光ファイバのレーザ光軸を中心としてらせん状に流路227、流路228、流路229、流路230と進行して排出部109へ排出される。
【0040】
このような従来構造の場合、複数の部品を溶接やネジの勘合、さらにOリングなどの樹脂によるシールなどで組み合わされた構造なので、各部品の境界には必ず空気層が存在する。例えば、接合部210及び接合部211で円周状にシール加工されているチャンバー201とケーシング202の場合、シール部分以外には空気の境界ができる。これらの境界には冷却水が浸透する場合もあるが、コネクタ内で発生した熱はこれらの境界の存在により熱伝導を阻害されるため、放熱性が落ちる原因となっていた。
【0041】
また、接合部210、211はシール接合する必要がある関係上、光ファイバ軸線方向に余分な領域が必要となる。
コネクタ内の長さは限られているので、結果的に冷却範囲が短くなって、冷却能力が落ちる原因となっていた。
特に光ファイバの入射端面や、光ファイバからの出射光が後方反射で戻る領域では、高温になりやすいので、冷却範囲を広げることが求められていた。
また、2つの部材を均一にシール接合するのは難しく、接合部の経年劣化により漏れが生じる恐れがあった。
【0042】
また、光ファイバコネクタの組立時において、ケーシング202にチャンバー201を挿入するためには若干の空間(クリアランス)が必要となるので、チャンバー201の仕切部206が均一にケーシング202に接触させることは難しい。特にらせん構造などの複雑な流路の場合には、全ての接触箇所で均一に接触させるのは困難であり、その一部で若干の隙間が発生すると、冷却媒体の流れにムラができる恐れがあった。
【0043】
また、複数の部材を組み合わせて冷却媒体通路を形成しているので、流路断面形状において曲率を設けることが難しい(特にコーナー部分)。そのため冷却媒体の流れに澱みが生じ、また局部的な圧力の上昇により、冷却媒体が適切に流れず冷却効率が低下していた。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例1による光ファイバ用コネクタ(
図1~
図6参照)について説明する。
【0045】
実施例1は、参考例1の光ファイバ用コネクタ(完成品)を基本構成とした上で、それを3Dプリンタにより一体的に造形したものである。
すなわち、光ファイバの端部が接続する側に位置する接続部と、光ファイバの長手方向に延び光ファイバの心線が挿通される挿通部と、冷却媒体を導入する導入部と、前記冷却媒体を排出する排出部と、前記挿通部に沿うようにコネクタ内部に形成された冷却媒体流路と、を有し、前記冷却媒体流路は、前記導入部から前記接続部近傍を経由して前記排出部に至るまでの流路が3Dプリンタにより一体的に造形された光ファイバ用コネクタである。
【0046】
具体的には、
図1で示されるように、光ファイバの被膜に損傷を与える有害な光(例えば、クラッドモードストリッパから除去されたクラッドモード光やコアに入射されなかった光など)を吸収する挿通部に形成された光吸収面(
図1において挿通部5'(接続部4近傍)から挿通部5''(導入部8及び排出部9近傍) までの範囲の面)、光吸収面などで吸収された光により発生する熱を排熱するために形成された冷却媒体を流す冷却媒体流路3、光ファイバ固定部6(光ファイバを固定するための部材を固定する嵌合部分)及び光コネクタ外郭、これら全てが3Dプリンタにより一体化された構造を有する。
【0047】
(1)一体化構造
上記一体化構造により、光吸収面と冷却媒体流路は壁を介して形成され、その間に熱的に不連続な境界が存在しないので、光吸収表面の光吸収能力と冷却媒体流路表面からの放熱能力が上がり、放熱特性に優れたコネクタが提供可能となった。
【0048】
また、このように冷却媒体流路が一体的に構成されているから、従来の参考例1、2の水冷ハウジング101(チャンバー201)や水冷カバー102(ケーシング202)等のように複数の部品を組み合わせた構造ではないので、それに起因して存在する空気層などの不連続な構造により熱伝導を阻害されることがなくなった。
また、複数の部品の溶接加工が不要になることから、冷却媒体流路の壁の厚みを薄くすることが可能になり、限られたコネクタ内の空間内でも冷却媒体の流路に割り当てられる空間が確保され、十分な冷却能力を得ることができる。
また、一体的に構成されているから、流路断面形状において曲率を設けることが可能である。その結果、冷却媒体を澱みの発生を抑えて流すことができ、単位時間あたりの流量を多くすることができる。
【0049】
(2)粗面
3Dプリンタ技術によりコネクタの挿通部、冷却媒体流路及び、コネクタ外郭などの表面形状を3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面に形成することが可能であり、これによりさらに放熱特性を向上させることができる。
以下、挿通部、冷却媒体流路及び、コネクタ外郭に分けて説明する。
【0050】
<挿通部>
挿通部の光吸収面表面の粗面について説明する。
光吸収面は光コネクタに損傷を与える有害な光(例えば、クラッドモードストリッパで除去されたクラッドモード光やコアに入射されなかった光など)を吸収する面である。本発明では、この光吸収面の表面形状を3Dプリンタ技術により微細に制御することで光の吸収効率を向上させている。
具体的には、3Dプリンタの造形条件、原料である金属粒子のサイズ、材料等を選択することで、造形後の光吸収面の表面粗さ(Ra)と表面モフォロジーを制御し、光吸収特性を向上させている(
図2参照)。例えば、金属粒子の直径を10~200μmに選択し、さらに3Dプリンタの造形条件を適宜設定することで、造形後の表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)は2~100μmに制御可能となり、また形成される粗面の表面モフォロジーの構造により、通常の金属機械加工面に比べて、光吸収量が大幅に向上する。
なお、本発明における「算術平均粗さ(Ra)」とは、例えば、粗さ計で測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、その区間の凹凸状態を平均値で表したものであり、通常用いられる意味として使用している。
【0051】
上記の構造を形成する為に、光吸収面の形成材料を対象とする光に対して吸収特性の良いものを選択する。例えば、波長1μmの光に対してはステンレス系(鉄、ニッケルなど)、可視光からの近紫外の波長に対しては銅系の材料を選択すると良い。なおコネクタ全体を同じ材料(例えばステンレス)で作製することも可能であるが、光吸収面のみをこれらの材料で形成しても良い(融合させて1つの筐体とする)。
【0052】
<冷却媒体流路>
冷却媒体流路表面の粗面について説明する。
流路内壁面から冷却媒体に効率よく熱を伝導させるために、この表面形状を3Dプリンタ技術により微細に制御することで、熱伝導の効率を向上させている。
具体的には、3Dプリンタの造形条件、原料である金属粒子のサイズ、種類等を選択することで、造形後の流路内壁面の表面粗さ(Ra)と表面モフォロジーを制御し、熱伝導性を制御させている。例えば、金属粒子の直径を10~200μmに選択し、3Dプリンタの造形条件を適宜設定することで、造形後の表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)は2~100μmに制御可能となり、また形成される粗面の表面モフォロジーの構造により、通常の金属機械加工面に比べて、熱伝導を大幅に向上している。特に冷却媒体が液体の場合には気体よりも比熱が十分に大きいので放熱効果が高い。
上記の構造を形成する為に、冷却媒体に対して放熱性の良い材料を選択する。例えば、材料として、ステンレス系、アルミニウム系、銅系が良い。なおコネクタ全体を同じ材料(例えばステンレス)で作製することも可能であるが、流路部分のみをこれらの材料で形成しても良い(融合させて1つの筐体とする)。
【0053】
<コネクタ外郭>
光吸収面で吸収された光で発生した熱の多くは、壁を隔てて形成される流路の内壁面から冷却媒体に伝熱されて放熱されるが、この経路を経ず流路に到達しない熱や、冷却媒体で受け取られなかった熱は、コネクタ外郭の表面から放熱される。
そこでコネクタ外郭表面からの放熱を効果的に行うため、少なくともコネクタの外郭表面の一部には光吸収面や流路内壁面同様の微細な粗面を施している。これにより表面積が拡がり、コネクタ外郭表面からの熱放散を向上している。この粗面は光吸収面や流路内壁面の表面形状と同様の手法で形成でき、同様のサイズと構造で効果が得られる。
【0054】
<実験>
図3は3Dプリンタにより造形された粗面、すなわちコネクタ表面形状(表面粗さRa)を材料毎に比較したものであり、それぞれの表面粗さRa(μm)を3D測定レーザ顕微鏡(オリンパス社製「OLS5100」)により測定した。
測定サンプルは、材料の特性が異なる本発明構造の4種類(ALSi12、SUS316L、17-4PH、クロム銅)、及び従来製法である機械加工による1種類(SUS304)の合計5種類である。得られた結果を
図3に示す。また図中の各写真は各サンプルの表面モフォロジーを示している。
なお表面モフォロジーの違いが把握し易くなるように、従来製法の「SUS304」と本発明の「クロム銅」については写真を拡大している。
従来製法のコネクタの表面粗さRaは平均0.7μmであるのに対して、本願製法のコネクタの表面粗さRaは、使用材料により差はあるものの、凡そ平均10~20μm、最大25μm以上の形状が得られ、従来製法よりも15~25倍以上大きいことが判った。
従来製法である機械加工の場合、表面モフォロジーには切削刃物等で削られたスクラッチ傷が残るが、加工表面には平滑な平面が残る場合が多い。図中、機械加工SUS304では横方向にスクラッチ傷があるが、切削された加工表面は平滑面となり、白くライン状に反射していることが判る。これに対して3Dプリンタの場合(図中、機械加工以外のもの)、その表面モフォロジーにおいては、使用材料が一部溶融して原形を残した状態で固着した状態、さらに溶融が進んで原形を留めずに塊となって固着した状態の両方が含まれた状態になり、機械加工の様に平滑な平面が殆ど無いことから光の反射が生じ難く、またこのような表面モフォロジーでは、表面積が広くなることから、熱放散性に優れていることも判る。
これらの表面モフォロジーの違いにより、同じ表面粗さであっても、3Dプリンタで得られる表面は、機械加工表面よりも光吸収は強く、また表面積が広いため熱放散性に優れることが判る。
【0055】
一般的に表面粗さRaが大きくなることで、光の反射が減り、光吸収が増えることが知られており、また表面粗さRaが大きくなることで実質的な表面積が増えて熱放散性が向上することも知られている。更に3Dプリンタでは表面粗さRaを、3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって大きくすることが可能なので、光吸収と熱放散の能力を更に向上させることができる。
また3Dプリンタで造形された粗面の表面モフォロジーは、使用材料が一部溶融して原形を残した状態で固着した状態、さらに溶融が進んで原形を留めずに塊となって固着した状態の両方が含まれた状態になり、機械加工の様に平滑な平面が殆ど無く、光の反射が生じ難くまた広い表面積が得られることから、熱放散性も優れている。
本発明ではこのように表面粗さRaが大きく、光吸収面に対しては光反射が少なく、流路内壁面に対しては熱放散性が良い表面を実現できるため、コネクタの冷却特性が優れている。
なお、従来製法では、仮に3Dプリンタ同様の表面が実現できたとしても、本発明のように熱的に不連続な境界を有さない様にコネクタ全体を一体化させることが困難であることは言うまでもない。
【0056】
(3)突起形状
さらに、3Dプリンタ技術によりコネクタの挿通部、冷却媒体流路及び、コネクタ外郭などの表面形状を突起形状に形成することが可能であり、これによりさらに放熱特性を向上させることができる。
なお、本発明における突起形状とは3Dプリンタの造形条件、使用材料の特性によって特定される粗面と異なり、材料に関係なく放熱特性を向上させる目的で、コネクタの表面に敢えて形成させた突起状の形状のことをいう。
以下、挿通部、冷却媒体流路及び、コネクタ外郭に分けて説明する。
【0057】
<挿通部>
挿通部の光吸収面表面の突起形状について説明する。
前述のとおり光吸収面は光コネクタに損傷を与える有害な光(例えば、クラッドモードストリッパで除去されたクラッドモード光やコアに入射されなかった光など)を吸収する面である。本発明では、この光吸収面の表面形状を3Dプリンタ技術により突起形状に制御することで光の吸収効率を向上させている。具体的には以下の方法で行う。
光吸収面の造形の際、表面に微小な突起形状を敢えて形成する(
図4参照)ことで、光吸収量が向上する。突起形状は、円錐(
図4(a)参照)、角錐、円柱、角柱(
図4(b)参照)、台形(
図4(c)参照)、ドーム状など特に限定されない。大きさは、例えば高さ20~1000μmかつ最大幅(直径、辺の長さ又は対角線の長さ等)20~1000μmであり、形成する突起同士の中心間隔は、例えば40~2000μmである。なお、これらの突起形状の表面粗さ(Ra)は前記「(2)粗面<挿通部>」で説明した構成と同じであっても良い(
図4(c)の一部拡大図参照)。
【0058】
<冷却媒体流路>
前述のとおり流路内壁面から冷却媒体に効率よく熱を伝導させるために、この表面形状を3Dプリンタ技術により突起形状に制御することで、熱伝導の効率を向上させている。
具体的には、流路内壁面の造形の際、表面に微小な突起形状を敢えて形成することで、熱伝導能力を向上させることができる。突起形状は円錐、角錐、円柱、角柱、台形、ドーム状、フィン状など特に限定されない。大きさは、例えば高さ20~3000μm、幅(直径)20~1000μmであり、形成する突起同士の中心間隔は例えば40~2000μmである。
なお、これらの突起形状の表面粗さ(Ra)は前記「(2)粗面<冷却媒体流路>」で説明した構成と同じであっても良い。特に冷却媒体が液体の場合には気体よりも比熱が十分に大きいので放熱効果が高い。
本特許の3Dプリンタによる製法では、従来製法では得られない構造が実現できるため、従来製法の構造で課題であった”放熱性“と”水の抵抗“のトレードオフの制限枠を広げた構造設計が可能となる。即ち、従来製法では突起の形状を最適に形成できないので、流路内に大きなサイズの突起を形成した場合、放熱性が向上しても、水の抵抗の増加は抑えられなかった。これに対して、本特許の3Dプリンタによる製法では、1つ1つの突起形状を精密な3次元設計手法で設計して、その形状を反映して形成できるので、例えば、流路内の天井面と底面を繋ぐような高さの突起であっても、その幅を薄くして、なお且つ流れ方向に長く伸びた任意の形のフィン状の突起も作ることが可能である。
このように本願3Dプリンタによる製法は、従来製法に起因した設計の制限を広げることが可能であり、従来よりも最適な突起形状や冷却構造を設計することができる。
なお、従来製法では、冷却媒体流路内壁面に本発明のような突起状の形状を敢えて一体的に形成させることが困難であることは言うまでもない。
【0059】
<コネクタ外郭>
前述のとおり光吸収面で吸収された光で発生した熱の多くは、壁を隔てて形成される流路の内壁面から冷却媒体に伝熱されて放熱されるが、この経路を経ず流路に到達しない熱や、冷却媒体で受け取られなかった熱は、コネクタ外郭の表面から放熱される。
そこでコネクタ外郭表面からの放熱を効果的に行うため、少なくともコネクタの外郭表面の一部には光吸収面や流路内壁面同様の突起形状を施している。これにより表面積が拡がり、コネクタ外郭表面からの熱放散を向上している。この突起形状は光吸収面や流路内壁面の表面形状と同様の手法で形成でき、同様のサイズと構造で効果が得られる。
【0060】
(4)挿通部の形状
また、3Dプリンタ技術によりコネクタの挿通部の全体構造を適切な形状に形成することが可能である。コネクタの挿通部は光ファイバを囲んで沿在する光吸収面を有しており、例えば、実施例1においてここは円筒型(
図5(A)参照)であるが、本発明はこれに限られない。例えば、矩形の筒型(
図5(B)参照)、多角形の筒型(
図5(C)参照)、星形の筒型(
図5(D)参照)などでもよく、限定されるものではない。なお、何れの構造であっても、光吸収面表面の粗面及び又は突起形状は、光吸収し易くするため、光ファイバに向かう面の表面に形成することができる(なお、
図5では光吸収面の外側に位置する流路は図示していない)。
【0061】
ここで、それぞれの構造の特長として、円筒形は単純で設計が容易である。矩形から星形に行くに従い表面積が増えて、吸収量が増えるため冷却効率が上がり、且つ光吸収面で吸収されなかった光が光ファイバに戻り難くなるので、戻り光に依る光ファイバの損傷が抑えられる。
【0062】
(5)冷却媒体流路の形状
3Dプリンタによる一体化構造により流路形状の設計自由度が拡大し、冷却効率の高い構造の形成が可能となった。具体的には前記光吸収面に対して並進する構造、光吸収面の周囲を螺旋状に取り囲んで配置する構造などがある(並進と螺旋を組み合わせても良い)。
【0063】
例えば、実施例1においては、従来の参考例1と同様の冷却媒体流路の構造(円筒状の光吸収面に対して、上下に往復路の半円弧状の流路(
図6(a)断面図参照)となっていて、円筒形の吸収面は単純な構造で設計が容易)であったが、本発明の冷却媒体流路はこの構造に限られない。
すなわち、実施例1は、参考例1と同様に往復路の1系統であるが、複数の流路を並べて配置することも可能であり、複数流路とすることで冷却効果をさらに高めることができる。なお、複数の流路はコネクタ先端や末端で合流させて纏めても良い。
【0064】
また、挿通部の星形の光吸収面は吸収面積が広いので冷却効率は高く、吸収面から反射光が光ファイバに戻り難いので光ファイバに損傷を与えない等の利点がある。なお各分岐に沿う多角形の複数の流路(
図6(b)断面図参照)はコネクタ先端や末端で合流させて纏めても良い。
【0065】
特に、以下後述する実施例2及び実施例3で示すように冷却媒体流路を螺旋状にすることで放熱効果をより一層高めることが可能となる。
また、冷却媒体は導入部8からレーザ光の入射側、または出射側の接続部へと流れ、接続部近傍に到達後、元の方向(反対方向)に帰還する流路を経て、排出部9から排出される。光ファイバの周りに形成されたこれらの螺旋状流路では、隣接する流路どうしの流れは互いに逆方向になっている。
具体的には、導入部8から導入された冷却媒体は、通路31へ流入した後、通路32、通路33、通路34、通路35、通路36、通路37、通路38を経て、接続部近傍の環状部Rに到達する。さらに環状部Rの出口である通路39に流入し、元の方向に向かって帰還し、通路40、通路41、通路42、通路43、通路44、通路45、通路46へと流れ、排出部9から排出される。
このような複雑な流れを有する冷却媒体流路を、従来製法の様に複数の部品を組み合わせて実現することは困難である。例えば、従来製法では組み立て時の部品間のクリアランスは必須であるので、流路内に冷却媒体を完全に閉じ込めることは難しく、流れの異なる冷却媒体が漏れた際には、流路間の流れの干渉が起こり、流路全体の流れに澱みが生まれる危惧がある。
本発明では3Dプリンタによる一体的な構造が実現できるため、複雑な冷却媒体流路においても上記のような流路間の流れの干渉の問題は生じない。また、3Dプリンタで光ファイバ用コネクタ、冷却媒体通路などを一体的に造形することで、部品点数が削減されて、加工工数を大幅に削減することが可能となる。また、一体的な構造であることから、コネクタ全体の機械強度が向上して、経年劣化が抑えられ、より信頼性の高い製品が供給可能となる。さらに、複雑な冷却媒体流路も形成でき、流路表面を粗面や突起形状とすることが容易であり、それにより流路全体の表面積を広くして、冷却効果を高めることができる。また一方で、3Dプリンタで冷却媒体通路を含む光ファイバ用コネクタの概略全体を一体的に造形した後、他の部材や装置と接続(あるいは接合)されるコネクタ外郭を機械加工等によって再形成することで、従来製法と同等の外形寸法精度、意匠性を維持することが可能である。本発明のこれら一連のプロセスにより、従来製法よりも製造時間、製造コストを削減し、さらに信頼性を向上させた光ファイバ用コネクタの提供が可能となる。
また、挿通部5の表面についても同様に3Dプリンタによる粗面や突起形状とすることで、コネクタ表面からの冷却効果を高めることができることに加え、挿通部5、特に接続部4側の表面において、漏れたレーザ光を吸収しそれにより発生する熱を冷却媒体流路側にて放熱させることで、放熱効果をさらに高めることができる。