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特開2024-82506圧電FRPセンサーとこれを用いたクラック検出システムと方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082506
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】圧電FRPセンサーとこれを用いたクラック検出システムと方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/16 20060101AFI20240613BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G01L1/16 B
G01L5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196398
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勇希
(72)【発明者】
【氏名】余 瑶楠
(72)【発明者】
【氏名】栗田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】成田 史生
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA06
2F051AB08
(57)【要約】
【課題】可撓性を有し種々の形状に変形可能でありその自体を構造部材として用いることができ、かつ無給電で使用できる圧電FRPセンサーとこれを用いたクラック検出システムと方法を提供する。
【解決手段】圧電FRPセンサー10が、樹脂12が非導電性の連続繊維14aで強化されたFRPシート15と、FRPシートの両面に密着して接合された電極18とを有する。また圧電粒子16が樹脂内に分散されかつ樹脂内において分極処理されている。クラック検出システム100は、非導電性の構造物5に貼り付けられる圧電FRPセンサー10と電圧検出装置20とクラック解析装置24を備える。電圧検出装置20は、FRPシート10の両面に対向して位置する1対又は複数対の電極に無給電で発生する出力電圧Vを検出する。クラック解析装置24は、出力電圧Vの変化から構造物のクラック4を解析する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂が非導電性の連続繊維で強化されたFRPシートと、該FRPシートの両面に密着して接合された電極とを有し、圧電粒子が樹脂内に分散されかつ前記樹脂内において分極処理されている、圧電FRPセンサー。
【請求項2】
前記圧電粒子は、メディアン径が0.5μm以上0.7μm以下のKNN又はPZTのセラミック粒子であり、
前記連続繊維は、ムライト繊維、ガラス繊維、又はSiC繊維の織物又は一方向繊維である、請求項1に記載の圧電FRPセンサー。
【請求項3】
非導電性の構造物に貼り付けられる請求項1に記載の圧電FRPセンサーと、
前記FRPシートの前記両面に対向して位置する1対又は複数対の前記電極に無給電で発生する出力電圧を検出する電圧検出装置と、
前記出力電圧の変化から前記構造物のクラックを解析するクラック解析装置と、を備えたクラック検出システム。
【請求項4】
請求項1に記載の圧電FRPセンサーを非導電性の構造物に貼り付け、
前記FRPシートの前記両面に対向して位置する1対又は複数対の前記電極に無給電で発生する出力電圧を検出し、
前記出力電圧の変化から前記構造物のクラックを解析する、クラック検出方法。
【請求項5】
前記構造物が外力を受けて異なる振幅で振動する場合に、前記出力電圧の振れ幅から、前記構造物の振幅を検出する、請求項4に記載のクラック検出方法。
【請求項6】
前記構造物が同一又は異なる周波数の外力を受けて振動する場合に、前記出力電圧の振れ幅から、前記構造物のクラックの深さを検出する、請求項4に記載のクラック検出方法。
【請求項7】
前記構造物が同一又は異なる周波数の外力を受けて振動する場合に、前記出力電圧の振れ幅の変化から、前記構造物のクラック進展位置を検出する、請求項4に記載のクラック検出方法。
【請求項8】
前記構造物が荷重の負荷と除荷を繰り返し受ける場合に、前記出力電圧の変化から、荷重の負荷及び除荷を検出する、請求項4に記載のクラック検出方法。
【請求項9】
前記構造物が荷重の負荷と除荷を繰り返し受ける場合に、前記出力電圧の変化から、前記構造物のクラック深さを検出する、請求項4に記載のクラック検出方法。
【請求項10】
前記構造物の負荷が増加する場合に、前記出力電圧の顕著な負の電圧値の検出により、前記構造物のクラック進展の瞬間を検出する、請求項4に記載のクラック検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無給電で電圧を出力する圧電FRPセンサーとこれを用いたクラック検出手段に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、1950年代の高度経済成長期に建造された橋梁が老朽化しており、その修繕と補強が重要となっている。そのため種々のクラック検出技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の「AEセンサ」は、可撓性の板体上にセンサ本体を搭載したものである。センサ本体は、コンポジット振動子と、コンポジット振動子が検出したAE信号を処理する電子回路と、電子回路によって処理された処理データを外部へ送信する通信回路とを有している。また、電子回路は増幅器、フィルター、ADコンバータ、カウンター、メモリを含んでいる。
【0004】
一方、繊維強化複合材は、鉄やアルミなどの金属材料よりも低密度でありながら、力学特性に優れ、比強度が高く、軽くて強い特長を有する。
そのため、近年、アルミニウム合金に代わる構造部材として、老朽化した橋梁の補強や、航空機、小型船舶、自動車、風力発電ブレード等の補強に用いられている。以下、繊維強化複合材を単に「複合材」又は「FRP」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-170397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のAEセンサは、コンポジット振動子の他に電子回路や通信回路を有するため、電源を必要とし無給電では使用できない。
また構造が複雑であり、柔軟性に乏しいので、その自体を構造部材として、橋梁の補強や、航空機、小型船舶、自動車、風力発電ブレード等の補強に用いることはできない。
【0007】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、可撓性を有し種々の形状に変形可能でありその自体を構造部材として用いることができかつ無給電で使用できる圧電FRPセンサーとこれを用いたクラック検出手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、樹脂が非導電性の連続繊維で強化されたFRPシートと、該FRPシートの両面に密着して接合された電極とを有し、圧電粒子が樹脂内に分散されかつ前記樹脂内において分極処理されている、圧電FRPセンサーが提供される。
【0009】
また本発明によれば、非導電性の構造物に貼り付けられる上記の圧電FRPセンサーと、
前記FRPシートの前記両面に対向して位置する1対又は複数対の前記電極に無給電で発生する出力電圧を検出する電圧検出装置と、
前記出力電圧の変化から前記構造物のクラックを解析するクラック解析装置と、を備えたクラック検出システムが提供される。
【0010】
さらに本発明によれば、上記の圧電FRPセンサーを非導電性の構造物に貼り付け、
前記FRPシートの前記両面に対向して位置する1対又は複数対の前記電極に無給電で発生する出力電圧を検出し、
前記出力電圧の変化から前記構造物のクラックを解析する、クラック検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電FRPセンサーが樹脂が非導電性の連続繊維で強化されたFRPシートを有するので、可撓性を有し種々の形状に変形可能でありその自体を構造部材として用いることができる。
【0012】
また、FRPシートの両面に密着して接合された電極を有し、圧電粒子が樹脂内に分散されかつ樹脂内において分極処理されている。これにより圧電FRPセンサーが貼り付けられた構造物が振動等で変位すると圧電FRPセンサーに引張力又は圧縮力が作用して無給電で電極間に出力電圧が発生する。
従って、クラック解析装置により出力電圧の変化から構造物のクラックを解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による圧電FRPセンサーの説明図である。
図2】圧電FRPセンサーの模式的斜視図である。
図3】本発明によるクラック検出システムの全体構成図である。
図4】クラック検出方法の説明図である。
図5】圧電FRPセンサーを用いた曲げ振動試験の説明図である。
図6】圧電FRPセンサーを用いたクラック深さ検出試験の説明図である。
図7】実施例2の結果に基づく仮想試験の説明図である。
図8】圧電FRPセンサーを用いた4点曲げ試験の説明図である。
図9】負荷及び除荷と圧電FRPセンサーの出力電圧との関係図である。
図10】クラック深さと出力電圧の関係を示す試験結果である。
図11図8に示した4点曲げ試験装置と用い、クラックのない試験体に下向きの荷重を負荷し、試験体にクラックが発生するまで荷重を徐々に増加させた試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明による圧電FRPセンサー10の説明図である。この図において、(A)は圧電FRPセンサー10の平面図、(B)は(A)のB-B断面図、(C)は(B)の部分拡大図、(D)は圧電FRPセンサー10の原理図である。
【0016】
図1(A)(B)(C)において、圧電FRPセンサー10は、樹脂12を強化繊維14で強化した複合材用のプリプレグシートである。以下、圧電FRPセンサー10を必要な場合に単に「センサー10」と省略する。
【0017】
樹脂12は、好ましくは、柔軟性がある熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアミド樹脂である。成形前の樹脂12、すなわち熱可塑性樹脂は、柔軟性はあるが固化している。なお、樹脂12は、硬化前の熱硬化性樹脂であってもよい。
【0018】
強化繊維14は、非導電性の連続繊維14aである。非導電性の強化繊維14は、例えば、ムライト繊維、ガラス繊維、又はSiC繊維の織物又は一方向繊維である。
「非導電性繊維」を用いるのは導電性繊維の場合、発生した電力(又は電荷)が強化繊維14を通って分散し、電極18からの取り出し効率が低下するためである。そのため電気抵抗率が低い炭素繊維(及びCFRP)は、本発明の対象外である。
「織物又は一方向繊維」を用いるのは、補強材としての機能を高めるためである。
またプリプレグに直流電圧をかけて分極処理を実施する際、プリプレグ内に導電性繊維が内在すると、電荷が選択的に導電性繊維上を移動してしまい、セラミックが分極されない。そのため、非導電性繊維とすることで分極処理の際に、電荷を選択的にセラミック粒子上で移動させる必要がある。
【0019】
図1(A)(B)(C)において、圧電粒子16が、樹脂内に分散されかつ樹脂内において分極処理されている。
圧電粒子16は、メディアン径(d50)が0.5μm以上0.7μm以下のKNN又はPZTのセラミック粒子であるのがよい。
【0020】
図1(D)において、左図は分極前、右図は分極後の圧電粒子16の分子を示している。
「分極」とは、分子中の二原子間の結合または分子全体に電荷の分布の偏りがあって、電気双極子モーメントをもっていることをいう。
分極前の分子は、プラスイオンとマイナスイオンが互いに相殺して全体として電荷の分布の偏りがない。これに対し、分極後の分子は、一部の陽イオンが変位して電荷の分布に偏りが生じている。
樹脂内の圧電粒子16は全体が同じように分極している必要がある。そのため、本発明の圧電FRPセンサー10は、プリプレグシートの形態ができた後、その両面間に直流電圧を印加することで樹脂内の圧電粒子16が分極化されている。
【0021】
図2は、圧電FRPセンサー10の模式的斜視図である。
この図において、圧電FRPセンサー10は、樹脂12が非導電性の連続繊維14aで強化されたFRPシート15と、FRPシート15の両面に密着して接合された電極18とを有する。また圧電粒子16が樹脂内に分散されかつ樹脂内において分極処理されている。なお電極18は、例えばスパッタリングで金電極をコーティングするのがよい。また、電極18として導電性テープ(例えば銅テープ)を用いてもよい。
この構成により、圧電FRPセンサー10は、樹脂12が柔軟性がある熱可塑性樹脂である場合、全体としてしなやかで賦形性を有する。なお、硬化前の熱硬化性樹脂も樹脂12として対応可能である。
【0022】
図3は、本発明によるクラック検出システム100の全体構成図である。
この図において、クラック検出システム100は、圧電FRPセンサー10、電圧検出装置20、及びクラック解析装置24を備える。
圧電FRPセンサー10は、非導電性の構造物5の表面に貼り付けられる。圧電FRPセンサー10は、FRPシート15の両面に対向して位置する1対又は複数対の電極18を有する。構造物5は、例えば橋梁の橋桁である。
電圧検出装置20は、例えばデータロガーであり、1対又は複数対の電極18に無給電で発生する出力電圧Vを検出する。なお電圧検出装置20は、LEDライトなどによる検出機器でもよい。
クラック解析装置24は、例えばコンピュータ(PC)であり、出力電圧Vの変化から構造物5のクラック4(き裂)を解析する。
【0023】
本発明によるクラック検出方法は、S1~S3のステップ(工程)を有する。
ステップS1では、上述した圧電FRPセンサー10を非導電性の構造物5に貼り付ける。
ステップS2では、FRPシート15の両面に対向して位置する1対又は複数対の電極18に無給電で発生する出力電圧Vを検出する。
ステップS3では、出力電圧Vの変化から構造物5のクラック4を解析する。
【0024】
図4は、クラック検出方法の説明図である。
各図の上図において、構造物5の下面にクラック4があり、その上面に圧電FRPセンサー10が貼り付けられている。また(A)(C)では、下面に引張応力、上面に圧縮応力が作用する曲げ状態、(B)では、下面に圧縮応力、上面に圧縮応力が作用する曲げ状態を示している。
【0025】
各図の下図は、圧電FRPセンサー10に発生する出力電圧Vを示している。この図に示すように、(A)では、曲げ力が作用したときに出力電圧Vが上昇し、その上昇量はクラック4の深さによって変化する。逆に(B)では曲げ力が作用したときに出力電圧Vが下降し、その下降量はクラック4の深さによって変化する。また、(C)では、負荷の上昇時の出力電圧Vの変化は少ないが、クラック4が進展すると出力電圧Vが急減する。
従って、これらの特性から、出力電圧Vの変化から構造物5のクラック4を解析することができる。
【0026】
以下、実施例を説明する。
【実施例0027】
図5は、圧電FRPセンサー10を用いた曲げ振動試験の説明図である。
【0028】
図5(A)は試験装置の全体構成図である。この図において、30は加振装置、32はデータロガー、34は電圧記録装置、36はレーザー変位計である。
この例で試験体1は、厚さ0.2mm、幅40mm、長さ100mmのガラス繊維強化ポリマー(GFRP)である。圧電FRPセンサー10は、厚さ約0.2mm、幅40mm、長さ40mmであり、試験体1の図で左端から10~50mmの位置に貼り付けた。
【0029】
試験では、加振装置30により試験体1の左端10mmを把持し、試験体1の右端は自由端のまま、試験体1の左端に上下方向の振動を周波数50Hzで負荷し、その振幅を変化させた。試験体1の左端の変位はレーザー変位計36により計測した。
この試験により、試験体1の左端付近の圧電FRPセンサー10には、試験体1の左端が片持ちで振られるときに、引張力と圧縮力が交互に作用する。
【0030】
図5(B)は、時間と出力電圧Vの関係を示す試験結果である。この図において、横軸は時間、縦軸は圧電FRPセンサー10の出力電圧Vである。また図中の3本の曲線は振幅が0.2,0.4,0.6mmのときの出力電圧Vの変化を示している。
この図から、本発明の圧電FRPセンサー10は、ピエゾ効果(圧電効果)を利用しているので、加速度的に生じる応力や歪みの変化に対して感度が高く、振動している試験体の検出に有効であるといえる。
【0031】
図5(C)は、振幅と出力電圧Vの関係を示す試験結果である。この図において、横軸は振幅、縦軸は圧電FRPセンサー10の出力電圧Vである。また図中の黒丸は、図5(B)における出力電圧Vの振れ幅を示している。
この図から、出力電圧Vの振れ幅は振幅にほぼ比例する直線関係を有し、相関性が高いことがわかる。
【0032】
上述した実施例から、構造物5が外力を受けて異なる振幅で振動する場合に、圧電FRPセンサー10の出力電圧Vの振れ幅から、構造物5の振幅を検出することができることがわかる。
【実施例0033】
図6は、圧電FRPセンサー10を用いたクラック深さ検出試験の説明図である。
【0034】
図6(A)は試験体2の全体構成図であり、上図は上面図、下図は側面図である。
試験には、実施例1と同じ加振装置30、データロガー32、電圧記録装置34、及びレーザー変位計36を用いた。
この例で試験体2は、厚さ8mm、幅15mm、長さ70mmのセメント板である。圧電FRPセンサー10は、厚さ約0.2mm、幅10mm、長さ10mmであり、試験体2の図で左端から13~23mmの上面位置に貼り付けた。また、圧電FRPセンサー10に対応する試験体2の下面位置に歪みゲージ(図示せず)を貼り付けた。
【0035】
試験体2の右端は自由端のまま錘38を固定し、試験体2の右端から19mmの上面に幅全体に延びるクラック4(き裂)を設けた。試験体2はクラックなし、クラック深さ1mm、クラック深さ2mmの3種類を準備した。
加振装置30により試験体2の左端12mmを把持し、試験体2の左端を上下方向に同一の振幅で加振し、周波数を変化させた。
【0036】
図6(B)は周波数と出力電圧Vの関係を示す試験結果である。この図において、横軸は周波数、縦軸は出力電圧Vの振れ幅である。また、図中の3本の曲線は、クラックなし、クラック深さ1mm、クラック深さ2mmの場合を示している。
この結果から、クラック4が深くなると、振動時にクラック周辺では動的歪み(加速度的に変化する歪み)が大きくなり、片持ち端部(図で左端近傍)では動的歪みは小さくなる。そのため、片持ち端部(片持ち側)の近傍に圧電FRPセンサー10を貼り付けた場合、クラック4が深くなるにつれ発生する出力電圧Vの振れ幅が減する。この特性から、出力電圧Vの振れ幅によりクラック深さの検出が可能となる。
【0037】
上述した実施例から、構造物5が異なる周波数の外力を受けて振動する場合に、圧電FRPセンサー10の出力電圧Vの振れ幅から、構造物5のクラック4の深さを検出することができることがわかる。
また、同一周波数の外力を受けて振動する場合でもクラック検出は可能である。例えば図6(B)において、42Hzで振動していた場合、クラックなしのみは0.2mV、1mmクラックの場合0.1-0.15mV、2mmクラックの場合0.00-0.05mVとなり、クラックの深さが検出できる。
【0038】
図7は、実施例2の結果に基づく仮想試験の説明図である。
図7(A)において、試験体2は、実施例2と同じセメント板であり、その上面の自由端側に幅全体に延びるクラック4がある場合を想定する。
この例で片持ち側(左端)が振動端であり、圧電FRPセンサー10は、片持ち側とクラック4の位置にそれぞれ貼り付けられている。
【0039】
図7(B)はこの場合のクラック深さと検出電圧の関係図である。
振動している物体(試験体2)では、クラック箇所において歪みが大きくなり、クラック4から離れると歪みが小さくなる。また、クラック深さが大きくなるとその差は拡大すると予想される。
そのため、センサー10から離れた位置にクラック4が存在する場合(A)はクラック4が深くなると出力電圧Vの振れ幅が下降し、センサー直下にクラック4が存在する場合(B)は、クラック長さに応じて出力電圧Vの振れ幅が上昇すると考えられる。
【0040】
従って、クラック4の進展がセンサー10の周辺で生じているのか、センサー10から離れた位置で生じているのかが判別できる。すなわち、構造物5が同一又は異なる周波数の外力を受けて振動する場合に、センサー10の出力電圧Vの振れ幅の変化から、構造物5のクラック進展位置を検出できることがわかる。
【実施例0041】
図8は、圧電FRPセンサー10を用いた4点曲げ試験の説明図である。
この例で試験体3は、厚さ15mm、幅15mm、長さ100mmのセメント板である。試験体3の下面A,Bを支持し、上面C,Dに下向きの荷重Lの負荷と除荷を繰り返した。支持点A,Bの間隔は60mm、荷重点C,Dの間隔は40mmである。
試験体3の下面の支持点A,Bの中心位置に、幅全体に延びるクラック4を設けた。試験体3は、クラックなし、クラック深さ0.5mm、クラック深さ2mmの3種類を準備した。
圧電FRPセンサー10は、厚さ約0.2mm、幅10mm、長さ10mmであり、試験体2の上面の荷重点C,Dの中心位置に貼り付けた。
【0042】
図9は、負荷及び除荷と圧電FRPセンサー10の出力電圧Vとの関係図である。この図において、横軸は時間、縦軸は負荷(右縦軸)と出力電圧V(左縦軸)であり、図中の細線は負荷の変化、太線は出力電圧Vの変化を示している。
図9(A)は、1サイクルの負荷及び除荷と出力電圧Vとの関係図であり、図9(B)は負荷及び除荷の繰り返しと出力電圧Vとの関係図である。
この図から、荷重Lの負荷により正の出力電圧Vが発生し、除荷により負の出力電圧Vが発生することがわかる。また、負荷及び除荷の繰り返しと出力電圧Vが正確に対応しており、荷重の負荷(ON)及び除荷(OFF)を圧電FRPセンサー10の出力電圧Vで検出できることがわかる。
【0043】
上述した実施例から、構造物5が荷重の負荷と除荷を繰り返し受ける場合に、圧電FRPセンサー10の出力電圧Vの変化から、荷重の負荷及び除荷を検出することができることがわかる。
【0044】
図10は、クラック深さ4と出力電圧Vの関係を示す試験結果である。
この図から、クラック4が深くなると電圧値が上昇しており、出力電圧Vの大きさからクラック深さが検出できることがわかる。
従って構造物5が荷重の負荷と除荷を繰り返し受ける場合に、圧電FRPセンサー10の出力電圧Vの変化から、構造物5のクラック4の深さを検出することができる。
【実施例0045】
図11は、図8に示した4点曲げ試験装置を用い、クラック4のない試験体3に下向きの荷重Lを負荷し、試験体3にクラック4が発生するまで荷重を徐々に増加させた試験結果である。
この図において、横軸は時間、縦軸は負荷(右縦軸)と出力電圧V(左縦軸)であり、図中の太線は負荷の変化、細線は出力電圧Vの変化を示している。
【0046】
この図において、出力電圧Vは荷重が0から約180N付近まで上昇する際はほぼ一定の出力電圧V(0mV)を示し、荷重が約180Nに達すると急激に負の出力電圧Vを発生している。
この結果から、顕著な負の電圧値の検出により、クラック進展の瞬間を検出できることがわかる。これは、クラック発生時にセンサ10の長さ方向に圧縮が負荷されたためと推察できる。
【0047】
従って構造物5の負荷が増加する場合に、圧電FRPセンサー10の出力電圧Vの顕著な負の電圧値の検出により、構造物5のクラック進展の瞬間を検出することができる。
【0048】
上述した圧電FRPセンサー10は、以下の利点を有する。
(1)高い賦形性(可撓性)
FRPシート15は、しなやかなシート状であるため、その後の成形が容易であり、様々な形状の部品や部位に使用できる。
【0049】
(2)補強材機能と電圧発生機能
圧電FRPセンサー10は、補強材機能と電圧発生機能を有する。
FRPシート15は連続性繊維を用いているため、構造物5の補強材としての機能を兼ね合わせることが可能である。つまり、補強と無給電で電極間に出力電圧Vが発生するため、ヘルスモニタリングおよびエネルギーハーベスティングに補強材の機能を併せもった材料として使用できる。使用例として、橋梁の補強材や航空機構造部材のリペア材やセンサー材料が想定される。これらの材料に対してIoTセンサーを組み合わせれば、補強材+センサー電源として機能する。また圧電FRPセンサー10を補強材+センサーとしてヘルスモニタリングが可能となる。
【0050】
上述した本発明の実施形態によれば、圧電FRPセンサー10が樹脂が非導電性の連続繊維14aで強化されたFRPシート15を有するので、可撓性を有し種々の形状に変形可能でありその自体を構造部材として用いることができる。
【0051】
また、FRPシート15の両面に密着して接合された電極18を有し、圧電粒子16が樹脂内に分散されかつ樹脂内において分極処理されている。これにより圧電FRPセンサー10が貼り付けられた構造物5が振動等で変位すると圧電FRPセンサー10に引張力又は圧縮力が作用して無給電で1対又は複数対の電極間に出力電圧Vが発生する。
従って、クラック解析装置24により出力電圧Vの変化から構造物5のクラック4を解析することができる。
【0052】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
V 出力電圧、1,2,3 試験体、4 クラック、5 構造物、
10 圧電FRPセンサー(センサー)、12 樹脂、14 強化繊維、
14a 連続繊維、15 FRPシート、16 圧電粒子、
16a KNNセラミック粒子、18 電極、20 電圧検出装置、
24 クラック解析装置、30 加振装置、32 データロガー、
34 電圧記録装置、36 レーザー変位計、38 錘、
100 クラック検出システム
図1
図2
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